(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044609
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】非水二次電池及び非水二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240326BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20240326BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240326BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0587
H01M4/139
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150237
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】若松 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】高田 祥希
(72)【発明者】
【氏名】丸山 舜也
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ07
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029HJ01
5H029HJ07
5H029HJ08
5H029HJ12
5H029HJ15
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050FA05
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA09
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA12
5H050HA15
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】電極体が備える湾曲部において、外周側に位置する合剤層と内周側に位置する合剤層との間の抵抗差を低減可能とした非水二次電池及び非水二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】正極板と負極板24とがセパレータを介して積層された状態で捲回された電極体を備え、負極板24は、負極基材25と、負極基材25に対して外周側に位置する第1負極合剤層26Aと、負極基材25に対して内周側に位置する第2負極合剤層26Bとを備え、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積は、第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26CのBET比表面積よりも大きい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板とがセパレータを介して積層された状態で捲回された電極体を備え、
前記正極板及び前記負極板の少なくとも一方は、基材と、前記基材に対して外周側に位置する第1合剤層と、前記基材に対して内周側に位置する第2合剤層とを備え、
前記第2合剤層に含まれる活物質のBET比表面積は、前記第1合剤層に含まれる活物質のBET比表面積よりも大きい
非水二次電池。
【請求項2】
前記電極体は、前記電極体を構成する各層が湾曲した湾曲部を備え、
前記湾曲部において、前記第2合剤層の密度は、前記第1合剤層の密度よりも高い
請求項1に記載の非水二次電池。
【請求項3】
正極板を製造する工程と、負極板を製造する工程と、前記正極板と前記負極板とをセパレータを介して積層した状態で捲回して電極体を製造する工程と、を含み、
前記正極板を製造する工程及び前記負極板を製造する工程の少なくとも一方は、
基材の第1面に第1合剤層を形成する工程と、
前記基材の前記第1面と反対の第2面に第2合剤層を形成する工程と、を含み、
前記第2合剤層を形成する工程において、前記第2合剤層に含まれる活物質のBET比表面積が、前記第1合剤層に含まれる活物質のBET比表面積よりも大きくなるように、前記第2面に前記第2合剤層を形成し、
前記電極体を製造する工程において、前記第1合剤層が前記基材に対して外周側に位置し、かつ、前記第2合剤層が前記基材に対して内周側に位置するように、前記基材を捲回する
非水二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記第1合剤層を形成する工程は、前記第1面に第1合剤ペーストを塗工する工程と、前記第1合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、
前記第2合剤層を形成する工程は、前記第2面に第2合剤ペーストを塗工する工程と、前記第2合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、
前記第2合剤ペーストが乾燥する速度は、前記第1合剤ペーストが乾燥する速度よりも遅い
請求項3に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記第2合剤層を形成する工程は、前記第1合剤層を形成する工程の後に行われる
請求項4に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記第2合剤層の原材料として、前記第1合剤層の原材料として用いられる活物質よりもBET比表面積が大きい活物質を用いる
請求項3ないし5のうち何れか一項に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記第1合剤層を形成する工程は、前記第1合剤層の原材料を含む第1合剤ペーストを固練りする工程と、固練りした前記第1合剤ペーストを希釈する工程と、を含み、
前記第2合剤層を形成する工程は、前記第2合剤層の原材料を含む第2合剤ペーストを固練りする工程と、固練りした前記第2合剤ペーストを希釈する工程と、を含み、
前記第2合剤ペーストを固練りする工程における前記第2合剤ペーストの固形分率は、前記第1合剤ペーストを固練りする工程における前記第1合剤ペーストの固形分率よりも低い
請求項3ないし5のうち何れか一項に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記第1合剤層を形成する工程は、前記第1合剤層を押圧して前記第1合剤層の厚さを調整する工程を含み、
前記第2合剤層を形成する工程は、前記第2合剤層を押圧して前記第2合剤層の厚さを調整する工程を含み、
前記第2合剤層に対する押圧量は、前記第1合剤層に対する押圧量よりも大きい
請求項3ないし5のうち何れか一項に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記第1合剤層を形成する工程は、前記第1合剤層の原材料を含む第1合剤ペーストを前記第1面に塗工する工程と、前記第1合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、
前記第2合剤層を形成する工程は、前記第2合剤層の原材料を含む第2合剤ペーストを前記第2面に塗工する工程と、前記第2合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、
前記第2合剤ペーストを塗工する工程では、前記第2合剤ペーストの目付量が、前記第1合剤ペーストの目付量よりも大きくなるように、前記第2合剤ペーストを塗工する
請求項8に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記第1合剤層を形成する工程は、前記第1合剤層の原材料を含む第1合剤ペーストを固練りする工程と、固練りした前記第1合剤ペーストを希釈する工程と、希釈した前記第1合剤ペーストを前記第1面に塗工する工程と、前記第1合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、
前記第2合剤層を形成する工程は、前記第2合剤層の原材料を含む第2合剤ペーストを固練りする工程と、固練りした前記第2合剤ペーストを希釈する工程と、希釈した前記第2合剤ペーストを前記第2面に塗工する工程と、前記第2合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、
前記第2合剤ペーストを希釈する工程では、前記第2合剤ペーストの固形分率が、前記第1合剤ペーストが希釈された後の固形分率よりも高くなるように、前記第2合剤ペーストを希釈する
請求項8に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項11】
前記第2合剤層の原材料として、前記第1合剤層の原材料として用いられる活物質よりもタップ密度が低い活物質を用いる
請求項8に記載の非水二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池及び非水二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車は、その電源として非水二次電池を備える。非水二次電池の一例であるリチウムイオン二次電池は、正極板と、負極板と、セパレータとが積層された状態で捲回された電極体を備える(例えば、特許文献1)。
【0003】
図13に示すように、電極体50は、正極板51と負極板54とがセパレータ57を介して積層された状態で捲回された捲回体である。電極体50は、電極体50を構成する各層が湾曲された湾曲部50Aを備える。正極板51は、正極基材52と、正極基材52の両面に塗工された正極合剤層53A,53Bとを備える。負極板54は、負極基材55と、負極基材55の両面に塗工された負極合剤層56A,56Bとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図14に示すように、湾曲部50Aにおいて、負極板54が備える負極合剤層56A,56Bでは、内周側に位置する負極合剤層56Bが、外周側に位置する負極合剤層56Aよりも密度が高くなる。この場合、負極合剤層56Bでは、負極合剤層56Aと比較して、負極活物質56Cの間に非水電解液が浸透しづらくなるため、負極合剤層56Aと比較して抵抗が大きくなりやすい。結果として、負極合剤層56Bでは、負極合剤層56Aと比較して、リチウム析出耐性が悪化した(リチウムが析出しやすい)状態となる。なお、上述した外周側に位置する負極合剤層56Aと内周側に位置する負極合剤層56Bとの間の密度差に伴う抵抗差の問題は、外周側に位置する正極合剤層53Aと内周側に位置する正極合剤層53Bとの間にも生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための非水二次電池は、正極板と負極板とがセパレータを介して積層された状態で捲回された電極体を備え、前記正極板及び前記負極板の少なくとも一方は、基材と、前記基材に対して外周側に位置する第1合剤層と、前記基材に対して内周側に位置する第2合剤層とを備え、前記第2合剤層に含まれる活物質のBET比表面積は、前記第1合剤層に含まれる活物質のBET比表面積よりも大きい。
【0007】
上記非水二次電池において、前記電極体は、前記電極体を構成する各層が湾曲した湾曲部を備え、前記湾曲部において、前記第2合剤層の密度は、前記第1合剤層の密度よりも高いことが好ましい。
【0008】
上記課題を解決するための非水二次電池の製造方法は、正極板を製造する工程と、負極板を製造する工程と、前記正極板と前記負極板とをセパレータを介して積層した状態で捲回して電極体を製造する工程と、を含み、前記正極板を製造する工程及び前記負極板を製造する工程の少なくとも一方は、基材の第1面に第1合剤層を形成する工程と、前記基材の前記第1面と反対の第2面に第2合剤層を形成する工程と、を含み、前記第2合剤層を形成する工程において、前記第2合剤層に含まれる活物質のBET比表面積が、前記第1合剤層に含まれる活物質のBET比表面積よりも大きくなるように、前記第2面に前記第2合剤層を形成し、前記電極体を製造する工程において、前記第1合剤層が前記基材に対して外周側に位置し、かつ、前記第2合剤層が前記基材に対して内周側に位置するように、前記基材を捲回する。
【0009】
上記構成または製造方法によれば、密度差の観点では、湾曲部に位置する第2合剤層は、湾曲部に位置する第1合剤層よりも非水電解液の保持量が少なくなることで抵抗が高くなりやすい。一方、活物質のBET比表面積の観点では、湾曲部に位置する第2合剤層は、湾曲部に位置する第1合剤層よりも充放電に寄与する反応面積が大きいため抵抗が低くなりやすい。したがって、第2合剤層に含まれる活物質のBET比表面積を、第1合剤層に含まれる活物質のBET比表面積よりも大きくすることで、湾曲部に位置する第1合剤層の抵抗と湾曲部に位置する第2合剤層の抵抗との差を低減できる。
【0010】
上記非水二次電池の製造方法において、前記第1合剤層を形成する工程は、前記第1面に第1合剤ペーストを塗工する工程と、前記第1合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、前記第2合剤層を形成する工程は、前記第2面に第2合剤ペーストを塗工する工程と、前記第2合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、前記第2合剤ペーストが乾燥する速度は、前記第1合剤ペーストが乾燥する速度よりも遅くてもよい。合剤ペーストが乾燥される際には、合剤ペーストに含まれる結着剤が、熱に伴うマイグレーションによって合剤ペーストの表面に偏在した状態となる。合剤層の表面側では、合剤層の内部(基材側)と比較して電池の充放電反応が起こりやすい部分であるため、結着剤のマイグレーションが進むほど、合剤層に含まれる活物質のBET比表面積が小さくなる。また、結着剤のマイグレーションの進行速度は、合剤ペーストの乾燥速度に対して正の相関を有する。したがって、第2合剤ペーストが乾燥する速度を、第1合剤ペーストが乾燥する速度よりも遅くすることで、第2合剤層では、第1合剤層と比較して、結着剤のマイグレーションが抑制された状態となる。結果として、第2合剤層に含まれる活物質のBET比表面積を、第1合剤層に含まれる活物質のBET比表面積よりも大きくすることができる。
【0011】
上記非水二次電池の製造方法において、前記第2合剤層を形成する工程は、前記第1合剤層を形成する工程の後に行われてもよい。第1合剤層を形成する工程の後に第2合剤層を形成する工程を行うことで、第2合剤層を形成する際には、既に形成された第1合剤層の分だけ熱容量が大きくなる。これにより、第2合剤ペーストの乾燥速度を第1合剤ペーストの乾燥速度よりも遅くすることができる。
【0012】
上記非水二次電池の製造方法において、前記第2合剤層の原材料として、前記第1合剤層の原材料として用いられる活物質よりもBET比表面積が大きい活物質を用いてもよい。第1合剤層と第2合剤層とで原材料として用いる活物質の比表面積を変えることによっても、第2合剤層に含まれる活物質のBET比表面積を第1合剤層に含まれる活物質のBET比表面積よりも大きくすることができる。
【0013】
上記非水二次電池の製造方法において、前記第1合剤層を形成する工程は、前記第1合剤層の原材料を含む第1合剤ペーストを固練りする工程と、固練りした前記第1合剤ペーストを希釈する工程と、を含み、前記第2合剤層を形成する工程は、前記第2合剤層の原材料を含む第2合剤ペーストを固練りする工程と、固練りした前記第2合剤ペーストを希釈する工程と、を含み、前記第2合剤ペーストを固練りする工程における前記第2合剤ペーストの固形分率は、前記第1合剤ペーストを固練りする工程における前記第1合剤ペーストの固形分率よりも低くしてもよい。合剤ペーストを固練りする際の固形分率が高いほど、原材料同士を均一に混ぜ合わせることができる一方で、原材料である活物質が結着剤に被覆されることによって、活物質の実効的な比表面積が減少する。そのため、第2合剤ペーストを固練りする際の固形分率を、第1合剤ペーストを固練りする際の固形分率よりも低くすることで、第2合剤層に含まれる活物質のBET比表面積を、第1合剤層に含まれる活物質のBET比表面積よりも大きくすることができる。
【0014】
上記非水二次電池の製造方法において、前記第1合剤層を形成する工程は、前記第1合剤層を押圧して前記第1合剤層の厚さを調整する工程を含み、前記第2合剤層を形成する工程は、前記第2合剤層を押圧して前記第2合剤層の厚さを調整する工程を含み、前記第2合剤層に対する押圧量は、前記第1合剤層に対する押圧量よりも大きくしてもよい。合剤層に対する押圧量を大きくするほど、活物質が割れるなどして新たな表面が形成されることで、合剤層に含まれる活物質のBET比表面積が大きくなる。したがって、第2合剤層に対する押圧量を第1合剤層に対する押圧量よりも大きくすることで、第2合剤層に含まれる活物質のBET比表面積を、第1合剤層に含まれる活物質のBET比表面積よりも大きくすることができる。
【0015】
上記非水二次電池の製造方法において、前記第1合剤層を形成する工程は、前記第1合剤層の原材料を含む第1合剤ペーストを前記第1面に塗工する工程と、前記第1合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、前記第2合剤層を形成する工程は、前記第2合剤層の原材料を含む第2合剤ペーストを前記第2面に塗工する工程と、前記第2合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、前記第2合剤ペーストを塗工する工程では、前記第2合剤ペーストの目付量が、前記第1合剤ペーストの目付量よりも大きくなるように、前記第2合剤ペーストを塗工してもよい。第2合剤ペーストの目付量を第1合剤ペーストの目付量よりも大きくすることで、第2合剤層に対する押圧量を第1合剤層に対する押圧量よりも大きくすることができる。
【0016】
上記非水二次電池の製造方法において、前記第1合剤層を形成する工程は、前記第1合剤層の原材料を含む第1合剤ペーストを固練りする工程と、固練りした前記第1合剤ペーストを希釈する工程と、希釈した前記第1合剤ペーストを前記第1面に塗工する工程と、前記第1合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、前記第2合剤層を形成する工程は、前記第2合剤層の原材料を含む第2合剤ペーストを固練りする工程と、固練りした前記第2合剤ペーストを希釈する工程と、希釈した前記第2合剤ペーストを前記第2面に塗工する工程と、前記第2合剤ペーストを乾燥させる工程と、を含み、前記第2合剤ペーストを希釈する工程では、前記第2合剤ペーストの固形分率が、前記第1合剤ペーストが希釈された後の固形分率よりも高くなるように、前記第2合剤ペーストを希釈してもよい。第1合剤ペーストと第2合剤ペーストとの目付量が同じである場合、希釈後の第2合剤ペーストの固形分率が高い第2合剤層の方が、押圧される前の状態の厚さが大きくなりやすい。したがって、第2合剤層に対する押圧量を第1合剤層に対する押圧量よりも大きくすることができる。
【0017】
上記非水二次電池の製造方法において、前記第2合剤層の原材料として、前記第1合剤層の原材料として用いられる活物質よりもタップ密度が低い活物質を用いてもよい。第1合剤層と第2合剤層との目付量が同じである場合、原材料として使用した活物質のタップ密度が低い第2合剤層の方が、押圧される前の状態の厚さが大きくなりやすい。したがって、第2合剤層に対する押圧量を第1合剤層に対する押圧量よりも大きくすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電極体が備える湾曲部において、外周側に位置する合剤層と内周側に位置する合剤層との間の抵抗差を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、リチウムイオン二次電池の斜視図である。
【
図2】
図2は、電極体を展開した状態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線から見た断面図である。
【
図4】
図4は、電極体の湾曲部を拡大して示す断面図である。
【
図5】
図5は、電極体の湾曲部に位置する負極板を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図6は、所定のBET比表面積を有する負極合剤層において、負極合剤層の密度とリチウム析出が生じる臨界電流値との関係を模式的に表すグラフである。
【
図7】
図7は、負極合剤ペーストの製造工程を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、負極板の製造工程を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、リチウムイオン二次電池の組立工程を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、リチウムイオン二次電池の製造工程における負極板のBET比表面積の変化を示すグラフである。
【
図11】
図11は、第1負極合剤層と第2負極合剤層とで乾燥条件を変えた場合の負極活物質及び負極結着剤の状態を模式的に示す断面図である。
【
図13】
図13は、従来のリチウムイオン二次電池における電極体の湾曲部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について
図1~
図12を参照して説明する。
[リチウムイオン二次電池]
図1に示すように、非水二次電池の一例であるリチウムイオン二次電池10は、ケース11と電極体20とを備える。ケース11は、収容部11Aと蓋体12とを備える。収容部11Aは、上側に開口を有した偏平な有底角型の外形を有する。収容部11Aは、電極体20と非水電解液とを収容する。蓋体12は、収容部11Aの開口を閉塞する。ケース11は、収容部11Aに蓋体12を取り付けることで直方体形状の密閉された電槽を構成する。ケース11は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金等の金属で構成される。
【0021】
蓋体12には、正極の外部端子13Aと、負極の外部端子13Bとが設けられる。外部端子13A,13Bは、電力の充放電に用いられる。電極体20における正極側の端部である正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極の外部端子13Aに電気的に接続される。電極体20における負極側の端部である負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極の外部端子13Bに電気的に接続される。また、蓋体12は、非水電解液を注入するための注入口15を備える。なお、外部端子13A,13Bの形状は、
図1に示す形状に限定されず、任意の形状であってよい。
【0022】
[電極体]
図2に示すように、電極体20は、長尺の正極板21と負極板24とがセパレータ27を介して積層した積層体を捲回した偏平な捲回体である。正極板21、負極板24、及びセパレータ27は、それぞれの長手となる方向が長手方向D1と一致するように積層される。捲回前の積層体は、正極板21、セパレータ27、負極板24、セパレータ27の順に、積層方向D3(
図3参照)に積層される。電極体20は、セパレータ27を挟んで積層された正極板21と負極板24とが、その帯形状の幅方向D2に沿って延びる捲回軸L1の周りに捲回された構造を有している。
【0023】
電極体20は、偏平部31と、上湾曲部32と、下湾曲部33とを備える。偏平部31は、相反する方向に面する一対の平面31Sを備える。上湾曲部32は、偏平部31の上部に位置する。上湾曲部32は、偏平部31の上端から上側に膨らむ形状を有する。下湾曲部33は、偏平部31の下部に位置する。下湾曲部33は、偏平部31の下端から下側に膨らむ形状を有する。電極体20は、下湾曲部33が収容部11Aの底面側に位置し、かつ、上湾曲部32が蓋体12側に位置するように、捲回軸L1が収容部11Aの底面に平行に延在する状態でケース11内に収容される。上湾曲部32及び下湾曲部33は、それぞれ電極体20が備える湾曲部の一例である。
【0024】
[正極板]
図3に示すように、正極板21は、正極基材22と、正極合剤層23とを備える正極側の極板である。正極基材22は、長尺状に形成された箔状の部材である。正極合剤層23は、正極基材22の相反する方向に面する2つの面の各々に設けられる。正極基材22は、幅方向D2の一端に、正極合剤層23が形成されずに正極基材22が露出した正極側未塗工部22Aを備える。
【0025】
正極基材22は、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。正極基材22が備える正極側未塗工部22Aは、捲回体の状態において、向かい合う部分が互いに圧接されて正極側集電部20Aを構成する。
【0026】
正極合剤層23は、液状体の正極合剤ペーストの硬化体である。正極合剤ペーストは、正極活物質、正極溶媒、正極導電剤、及び正極結着剤を含む。正極合剤層23は、正極合剤ペーストが乾燥されて正極溶媒が気化することで形成される。したがって、正極合剤層23は、正極活物質、正極導電剤、及び正極結着剤を含む。
【0027】
正極活物質は、リチウムイオン二次電池10における電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なリチウム含有複合金属酸化物が用いられる。リチウム含有複合酸化物は、リチウムと、リチウム以外の他の金属元素とを含む酸化物である。リチウム以外の他の金属元素は、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム、マグネシウム、モリブデン、ニオブ、チタン、タングステン、アルミニウム、リチウム含有複合酸化物にリン酸鉄として含有される鉄からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0028】
例えば、リチウム含有複合酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する三元系リチウム含有複合酸化物(NCM)であって、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO2)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)である。
【0029】
正極溶媒は、有機溶媒の一例であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液が用いられる。正極導電剤としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ等の炭素繊維、黒鉛が用いられる。正極結着剤は、正極合剤ペーストに含まれる樹脂成分の一例である。正極結着剤は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びスチレンブタジエンラバー(SBR)からなる群から選択される少なくとも一種である。正極結着剤の質量比は、例えば、正極合剤層23の質量に対して0.1質量%以上20質量%以下である。
【0030】
なお、正極板21は、正極側未塗工部22Aと正極合剤層23との境界に、絶縁層を備えてもよい。絶縁層は、絶縁性を有した無機成分と、結着材として機能する樹脂成分とを含む。無機成分は、粉末状のベーマイト、チタニア、及びアルミナからなる群から選択される少なくとも1つである。樹脂成分は、PVDF、PVA、アクリルからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0031】
[負極板]
負極板24は、負極基材25と、負極合剤層26とを備える負極側の極板である。負極基材25は、長尺状に形成された箔状の部材である。負極合剤層26は、負極基材25の相反する方向に面する2つの面の各々に設けられる。負極基材25は、幅方向D2の一端であって、正極側未塗工部22Aと反対に位置する端部において、負極合剤層26が形成されずに負極基材25が露出した負極側未塗工部25Aを備える。
【0032】
負極基材25は、銅または銅を主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。負極側未塗工部25Aは、捲回体の状態において、向かい合う部分が互いに圧接されて負極側集電部20Bを構成する。
【0033】
負極合剤層26は、液状体の負極合剤ペーストの硬化体である。負極合剤ペーストは、負極活物質26C(
図5参照)、負極溶媒、負極導電剤、負極増粘剤、及び負極結着剤26D(
図11参照)を含む。負極合剤層26は、負極合剤ペーストが乾燥されて負極溶媒が気化することで形成される。したがって、負極合剤層26は、負極活物質26C、負極導電剤、負極増粘剤、及び負極結着剤26Dを含む。
【0034】
負極活物質26Cは、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料である。負極活物質26Cは、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料等が用いられる。負極活物質26Cは、黒鉛粒子を非晶質炭素層で被覆した複合化粒子であってもよい。
【0035】
負極溶媒は、一例として、水である。負極導電剤は、例えば、正極導電剤と同様のものを用いることができる。負極増粘剤は、一例として、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができる。負極増粘剤の質量比は、例えば、負極合剤層26の質量に対して0.1質量%以上20質量%以下である。負極結着剤26Dは、PVDF、PVA、及びSBRからなる群から選択される少なくとも一種である。負極結着剤26Dの質量比は、例えば、負極合剤層26の質量に対して0.1質量%以上20質量%以下である。
【0036】
[セパレータ]
セパレータ27は、正極板21と負極板24との接触を防ぐとともに、正極板21及び負極板24の間で非水電解液を保持する。非水電解液に電極体20を浸漬させると、セパレータ27の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0037】
セパレータ27は、ポリプロピレン製等の不織布である。セパレータ27としては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、及びイオン導電性ポリマー電解質膜等を用いることができる。
【0038】
[非水電解液]
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートからなる群から選択された一種または二種以上の材料である。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)である。
【0039】
本実施形態では、非水溶媒としてエチレンカーボネートを採用している。非水電解液には、添加剤としてのリチウム塩としてのリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)が添加される。例えば、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.001以上0.1以下[mol/L]となるように、非水電解液にLiBOBを添加する。
【0040】
[湾曲部の構成]
図4に示すように、電極体20の上湾曲部32は、電極体20を構成する各層が湾曲した構造を有する。なお、下湾曲部33は、上湾曲部32に対して上下を反転させた構造を有する。
【0041】
正極基材22は、第1面22Bと第2面22Cとを備える。第1面22B及び第2面22Cは、互いに相反する方向に面する2つの面であって、正極合剤層23が設けられる面である。第1面22Bは、電極体20が捲回される方向の外周側に面する。第2面22Cは、電極体20が捲回される方向の内周側に面する。
【0042】
第1面22B及び第2面22Cのそれぞれに設けられる正極合剤層23のうち、第1面22Bに設けられる正極合剤層23が第1正極合剤層23Aである。第2面22Cに設けられる正極合剤層23が第2正極合剤層23Bである。なお、以下では、第1正極合剤層23Aと第2正極合剤層23Bとを区別しない場合には、単に正極合剤層23とする。
【0043】
負極基材25は、第1面25Bと第2面25Cとを備える。第1面25B及び第2面25Cは、互いに相反する方向に面する2つの面であって、負極合剤層26が設けられる面である。第1面25Bは、電極体20が捲回される方向の外周側に面する。第2面25Cは、電極体20が捲回される方向の内周側に面する。
【0044】
第1面25B及び第2面25Cのそれぞれに設けられる負極合剤層26のうち、第1面25Bに設けられる負極合剤層26が第1負極合剤層26Aである。第2面25Cに設けられる負極合剤層26が第2負極合剤層26Bである。なお、以下では、第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとを区別しない場合には、単に負極合剤層26とする。
【0045】
第1正極合剤層23Aは、正極基材22に対して外周側に位置する第1合剤層の一例である。第1負極合剤層26Aは、負極基材25に対して外周側に位置する第1合剤層の一例である。第2正極合剤層23Bは、正極基材22に対して内周側に位置する第2合剤層の一例である。第2負極合剤層26Bは、負極基材25に対して内周側に位置する第2合剤層の一例である。
【0046】
図5に示すように、電極体20の上湾曲部32において、第2負極合剤層26Bでは、第1負極合剤層26Aと比較して湾曲形状の中心からの距離が小さい。そのため、第2負極合剤層26Bでは、電極体20が捲回される際に第1負極合剤層26Aよりも強く圧縮されることで、第1負極合剤層26Aと比較して密度が高くなる。したがって、第2負極合剤層26Bでは、第1負極合剤層26Aと比較して、非水電解液が浸透しづらくなることで、抵抗が高く、かつ、充電時にリチウムイオンを受け入れる速度が小さくなる。
【0047】
リチウムイオンを受け入れる速度が過剰に小さくなると、正極合剤層23から放出されたリチウムイオンが負極合剤層26の表面に金属リチウムとして析出するおそれがある。金属リチウムが析出すると、充放電反応に寄与するリチウムイオンの量が減少することから、電池性能の低下につながる。
【0048】
なお、第1負極合剤層26Aの密度は、一例として、1.00g/cm3以上1.40g/cm3以下である。第2負極合剤層26Bの密度は、一例として、1.01g/cm3以上1.43g/cm3以下である。第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとの密度差は、一例として、0.01g/cm3以上0.03g/cm3以下である。第2負極合剤層26Bの密度は、一例として、第1負極合剤層26Aの密度に対して、1.01倍以上1.02倍以下である。
【0049】
また、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26Cは、第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26Cよりも、BET比表面積が大きい。BET比表面積は、負極合剤層26の一部を切り出した試料に対して、BET(Brunauer,Emmett,Teller)法によって測定される値である。BET比表面積の測定で用いられる吸着ガスは、一例として窒素ガスである。BET比表面積は、単位重量あたりの実効的な比表面積の大きさを表す。ここでの「実効的な比表面積」とは、負極活物質26Cにおいて、充放電反応に寄与する反応面の比表面積を指す。例えば、負極活物質26Cの表面のうち、表面が負極結着剤26Dに覆われているなどの理由で充放電反応に寄与しない部分の面積は、BET比表面積には含まれない。
【0050】
したがって、第2負極合剤層26Bでは、第1負極合剤層26Aと比較して、負極活物質26CのBET比表面積が大きいことから、抵抗が低く、かつ、充電時にリチウムイオンを受け入れる速度が大きくなる。
【0051】
なお、第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26CのBET比表面積は、一例として、3.8cm2/g以上4.2cm2/g以下である。第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積は、一例として、4.3cm2/g以上4.7cm2/g以下である。第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとの間における負極活物質26CのBET比表面積の差は、一例として、0.3cm2/g以上0.7cm2/g以下である。第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積は、一例として、第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26CのBET比表面積に対して、1.02倍以上1.24倍以下である。
【0052】
以上より、密度差の観点では、上湾曲部32において、第2負極合剤層26Bは、第1負極合剤層26Aと比較して、非水電解液の保持量が少なくなることで抵抗が高くなりやすい。一方、BET比表面積の観点では、上湾曲部32において、第2負極合剤層26Bは、第1負極合剤層26Aと比較して、負極活物質26CのBET比表面積が大きいため抵抗が低くなりやすい。したがって、第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26Cと比較して、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積を大きくすることで、上湾曲部32における第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとの抵抗差を低減できる。すなわち、上湾曲部32に位置する第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとの間において、リチウムイオンを受け入れる速度の差が低減されることで、リチウム析出耐性を均一化できる。また、下湾曲部33においても、上湾曲部32と同様に、第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとの間における抵抗の差及びリチウムイオンを受け入れる速度の差が低減される。
【0053】
なお、第1負極合剤層26A及び第2負極合剤層26Bと同様に、第2正極合剤層23Bに含まれる正極活物質を、第1正極合剤層23Aに含まれる正極活物質よりもBET比表面積が大きくなるような構成としてもよい。上湾曲部32に位置する第2正極合剤層23Bは、第1正極合剤層23Aと比較して密度が高くなることで非水電解液が浸透しづらくなる。したがって、第2正極合剤層23Bでは、第1正極合剤層23Aと比較して、抵抗が高く、かつ、充電時にリチウムイオンを放出する速度が小さくなる。
【0054】
そのため、第1正極合剤層23Aに含まれる正極活物質と比較して、第2正極合剤層23Bに含まれる正極活物質のBET比表面積を大きくすることで、上湾曲部32における第1正極合剤層23Aと第2正極合剤層23Bとの抵抗差を低減できる。すなわち、上湾曲部32に位置する第1正極合剤層23Aと第2正極合剤層23Bとの間において、リチウムイオンを放出する速度の差が低減される。これにより、第1正極合剤層23Aと対向する第2負極合剤層26Bにおけるリチウム析出耐性と、第2正極合剤層23Bと対向する第1負極合剤層26Aにおけるリチウム析出耐性とをより均一化できる。
【0055】
また、第1負極合剤層26A及び第2負極合剤層26Bは、負極活物質26CのBET比表面積を異ならせるために、第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとで原材料が互いに異なっていてもよいし、製造条件が互いに異なっていてもよい。同様に、第1正極合剤層23A及び第2正極合剤層23Bは、正極活物質のBET比表面積を異ならせるために、第1正極合剤層23Aと第2正極合剤層23Bとで原材料が互いに異なっていてもよいし、製造条件が互いに異なっていてもよい。
【0056】
[リチウム析出耐性]
以下、
図6を参照して、負極合剤層26の密度及び負極活物質26CのBET比表面積とリチウム析出耐性との関係を説明する。
【0057】
図6に示すグラフ40は、横軸が負極合剤層26の密度を表し、縦軸が充電時に金属リチウムが析出する臨界電流値を表す。なお、臨界電流値が高いほどリチウム析出耐性が高く、臨界電流値が低いほどリチウム析出耐性が低いことを意味する。グラフ40中の直線41は、負極活物質26CのBET比表面積が第1比表面積である場合の負極合剤層26の密度に対する臨界電流値の関係を表す。グラフ40中の直線42は、負極活物質26CのBET比表面積が、第1比表面積よりも大きい第2比表面積である場合の負極合剤層26の密度に対する臨界電流値の関係を表す。
【0058】
直線41,42のそれぞれが示すように、負極活物質26CのBET比表面積が同じである場合、負極合剤層26の密度が高いほど、臨界電流値が低い状態、すなわち、リチウム析出耐性が低い状態となる。また、負極合剤層26の密度が同じである場合、負極活物質26CのBET比表面積が小さいほど、臨界電流値が低い状態、すなわち、リチウム析出耐性が低い状態となる。
【0059】
例えば、上湾曲部32において、外周側に位置する第1負極合剤層26Aの密度を第1密度ρ1とし、かつ、内周側に位置する第2負極合剤層26Bの密度を第2密度ρ2とする(ρ2>ρ1)。仮に、第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26CのBET比表面積が第1比表面積である場合、第1負極合剤層26Aにおける臨界電流値は、第1電流値I1となる。なお、グラフ40中の点43は、直線41上の点であって、負極合剤層26の密度が第1密度ρ1であるときの臨界電流値を示す。
【0060】
このとき、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積が、第1負極合剤層26Aと同じく第1比表面積である場合、第2負極合剤層26Bにおける臨界電流値は、第1電流値I1よりも小さい第2電流値I2となる。すなわち、第2負極合剤層26Bでは、第1負極合剤層26Aと比較してリチウム析出耐性が低い状態である。なお、グラフ40中に破線で示す点44は、直線41上の点であって、負極合剤層26の密度が第2密度ρ2であるときの臨界電流値を示す。
【0061】
そのため、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積を、第1比表面積よりも大きくすることで、第2負極合剤層26Bにおける臨界電流値を第1負極合剤層26Aにおける臨界電流値に近づけることができる。したがって、第2負極合剤層26Bの密度が第2密度ρ2であるときに、第2負極合剤層26Bにおける臨界電流値が第1電流値I1に近づくように、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積を決定すればよい。
【0062】
なお、
図6では、第2負極合剤層26Bの密度が第2密度ρ2であり、かつ、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積が第2比表面積である場合に臨界電流値が第1電流値I1となる場合を例示している。また、グラフ40中に示す点45は、直線42上の点であって、負極合剤層26の密度が第2密度ρ2であるときの臨界電流値を示す。
【0063】
また、参考例として、グラフ40において、第1密度ρ1を1.174g/cm3、第2密度ρ2を1.189g/cm3、第1比表面積を4.00cm2/gとした場合、第1電流値I1と第2電流値I2との差は、11.3A程度となる。このとき、第1電流値I1と第2電流値I2との差を低減するための狙い値となる第2比表面積は、4.33cm2/gである。
【0064】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
リチウムイオン二次電池10の製造方法は、
図7に示すステップS1-1~S1-3と、
図8に示すステップS2-1~S2-7と、
図9に示すステップS3-1~S3-4とを含む。
【0065】
図7に示すステップS1-1~S1-3は、負極板24を製造する工程の一部であって、負極合剤ペーストを製造する工程である。なお、正極板21を製造する工程は、正極合剤ペーストを製造する工程を含む。正極合剤ペーストを製造する工程は、負極合剤ペーストを製造する工程と比較して、原材料や製造条件等が異なるものの、基本的な工程の流れが同一であるため、その詳細な説明を省略する。
【0066】
負極合剤ペーストを製造する工程では、まず、ステップS1-1において、負極合剤層26の原材料を混合する。次いで、ステップS1-2において、最終的な負極合剤ペーストの固形分率よりも固形分率が高い状態で原材料同士を混ぜ合わせる固練りを行うことで負極合剤ペーストを製造する。最後に、ステップS1-3において、固練りした負極合剤ペーストを負極溶媒で希釈することで負極合剤ペーストの固形分率を調整する。以上の工程によって、負極合剤ペーストが製造される。
【0067】
なお、第1負極合剤層26Aの原材料を含む第1負極合剤ペーストと、第2負極合剤層26Bの原材料を含む第2負極合剤ペーストとで、原材料もしくは製造条件が異なる場合、第1負極合剤ペーストと第2負極合剤ペーストとが各別に製造される。同様に、第1正極合剤層23Aの原材料を含む第1正極合剤ペーストと、第2正極合剤層23Bの原材料を含む第2正極合剤ペーストとで、原材料もしくは製造条件が異なる場合、第1正極合剤ペーストと第2正極合剤ペーストとが各別に製造される。第1正極合剤ペースト及び第1負極合剤ペーストは、それぞれ第1合剤ペーストの一例である。第2正極合剤ペースト及び第2負極合剤ペーストは、それぞれ第2合剤ペーストの一例である。
【0068】
図8に示すステップS2-1~S2-7は、負極板24を製造する工程の一部であって、負極合剤ペーストを用いて負極基材25に負極合剤層26を形成する工程である。なお、正極板21を製造する工程は、正極基材22に正極合剤層23を形成する工程を含む。正極基材22に正極合剤層23を形成する工程は、負極基材25に負極合剤層26を形成する工程と比較して、原材料や製造条件等が異なるものの、基本的な工程の流れが同一であるため、その詳細な説明を省略する。
【0069】
負極基材25に負極合剤層26を形成する工程では、まず、ステップS2-1において、負極基材25の第1面25Bに対して、幅方向D2の両端に負極側未塗工部25Aを構成するように第1負極合剤ペーストを塗工する。次いで、ステップS2-2において、第1負極合剤ペーストを乾燥して負極溶媒を気化させることで、第1負極合剤層26Aが形成される。このとき、例えば、第1負極合剤ペーストに対して負極基材25と反対側から乾燥風が当たるように、第1負極合剤ペーストを乾燥させる。そして、ステップS2-3において、第1負極合剤層26Aをプレスロールによって押圧することで、第1負極合剤層26Aの厚さを調整する。
【0070】
続いて、ステップS2-4において、負極基材25の第2面25Cに対して、幅方向D2の両端に負極側未塗工部25Aを構成するように第2負極合剤ペーストを塗工する。次いで、ステップS2-5において、第2負極合剤ペーストを乾燥して負極溶媒を気化させることで、第2負極合剤層26Bが形成される。このとき、例えば、第2負極合剤ペーストに対して負極基材25と反対側から乾燥風が当たるように、第2負極合剤ペーストを乾燥させる。そして、ステップS2-6において、第2負極合剤層26Bをプレスロールによって押圧することで、第2負極合剤層26Bの厚さを調整する。最後に、ステップS2-7において、負極基材25を幅方向D2の中央で切断する。以上の工程によって、一度に2条の負極板24が製造される。
【0071】
図9に示すステップS3-1~S3-4は、正極板21と負極板24とセパレータ27とを用いて電極体20を製造する工程、及び、電極体20をケース11の内部に収容する工程である。電極体20を製造する工程では、まず、ステップS3-1において、正極板21と負極板24とをセパレータ27を介して積層した後、捲回し、さらに、偏平に押圧する。このとき、第1正極合剤層23Aが正極基材22に対して外周側に位置し、かつ、第2正極合剤層23Bが正極基材22に対して内周側に位置するように、正極基材22を捲回する。同様に、第1負極合剤層26Aが負極基材25に対して外周側に位置し、かつ、第2負極合剤層26Bが負極基材25に対して内周側に位置するように、負極基材25を捲回する。
【0072】
次いで、ステップS3-2において、正極側未塗工部22Aを圧接して正極側集電部20Aを形成する。同様に、負極側未塗工部25Aを圧接して負極側集電部20Bを形成する。以上の手順により、電極体20が製造される。
【0073】
続いて、ステップS3-3において、では、電極体20をケース11内に収容する封缶を行う。このとき、正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極の外部端子13Aと電気的に接続される。負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極の外部端子13Bと電気的に接続される。収容部11Aの上部は、蓋体12によって塞がれる。
【0074】
次いで、ステップS3-4において、加熱処理によって電極体20の水分を除去した後、ケース11内に非水電解液を注入する。以上の手順により、リチウムイオン二次電池10が製造される。
【0075】
[BET比表面積の制御方法]
以下、
図10~
図12を参照して、負極合剤層26に含まれる負極活物質26CのBET比表面積の制御方法について説明する。なお、正極合剤層23に含まれる正極活物質のBET比表面積については、負極合剤層26に含まれる負極活物質26CのBET比表面積と同様に制御することができる。負極合剤層26に含まれる負極活物質26CのBET比表面積は、原材料の状態から製造工程を経ることによって変化する。
【0076】
[原材料の状態でのBET比表面積]
図10に示す点P1は、原材料の状態における負極活物質26CのBET比表面積を表す。原材料の状態における負極活物質26CのBET比表面積は、負極合剤層26に含まれる負極活物質26CのBET比表面積に対して正の相関を有する。
【0077】
したがって、例えば、第2負極合剤層26Bの原材料として、第1負極合剤層26Aの原材料として用いられる負極活物質26CよりもBET比表面積が大きい負極活物質26Cを用いてもよい。これにより、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積を第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26CのBET比表面積よりも大きくすることができる。
【0078】
[固練り時の固形分率]
図10に示す点P2は、ステップS1-2において、原材料が固練りされた後の負極合剤ペーストの状態における負極活物質26CのBET比表面積を表す。負極活物質26Cは、ステップS1-2において原材料同士が固練りされると、負極活物質26Cの表面が負極増粘剤(CMC)や負極結着剤26Dによって覆われることで、BET比表面積が減少する。
【0079】
ステップS1-2において、原材料同士を固練りする際の負極合剤ペーストの固形分率が高いほど原材料同士が強く擦り付けられるため、負極活物質26Cの表面に付着する負極増粘剤や負極結着剤26Dが多くなる。すなわち、原材料同士を固練りする際の負極合剤ペーストの固形分率が高いほど固練りに伴う負極活物質26CのBET比表面積の減少量が大きくなる。
【0080】
したがって、例えば、第2負極合剤ペーストを固練りする際の固形分率を、第1負極合剤ペーストを固練りする際の固形分率よりも低くしてもよい。これにより、第2負極合剤層26Bにおいて、負極活物質26Cの表面のうち負極結着剤26Dに覆われる面積を小さくすることができる。そのため、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積を第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26CのBET比表面積よりも大きくすることができる。
【0081】
[乾燥条件]
図10に示す点P3は、ステップS2-2もしくはステップS2-5を経た後であって、負極合剤ペーストが乾燥された後の状態における負極活物質26CのBET比表面積を表す。負極合剤ペーストが乾燥する際には、負極合剤ペーストに含まれる負極結着剤26Dが、熱に伴うマイグレーションによって負極合剤ペーストの表面(負極基材25とは反対側)に偏在した状態となる。負極結着剤26Dのマイグレーションの進行速度は、負極合剤ペーストの乾燥速度に対して正の相関を有する。
【0082】
負極合剤層26の表面側では、負極合剤層26の内部(負極基材25側)と比較して電池の充放電反応が起こりやすい部分である。そのため、負極結着剤26Dのマイグレーションが進むほど、負極合剤層26に含まれる負極活物質26CのBET比表面積が小さくなる。
【0083】
したがって、
図11に示すように、例えば、第2負極合剤ペーストが乾燥する速度を、第1負極合剤ペーストが乾燥する速度よりも低くすることで、第2負極合剤層26Bにおける負極結着剤26Dのマイグレーションが相対的に抑制される。これにより、第2負極合剤層26Bにおいて、負極結着剤26Dのマイグレーションに伴う負極活物質26CのBET比表面積の減少量を小さくすることができる。そのため、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積を第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26CのBET比表面積よりも大きくすることができる。
【0084】
図12に示すように、
図11に示す負極板24を捲回した電極体20の上湾曲部32において、上述したように第2負極合剤層26Bの密度が第1負極合剤層26Aの密度よりも高くなる。一方で、第2負極合剤層26Bの方が第1負極合剤層26Aよりも負極活物質26CのBET比表面積が大きいため、上湾曲部32において、第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとのリチウム析出耐性を均一化できる。
【0085】
なお、ステップS2-5では、負極基材25上に第1負極合剤ペーストのみが塗工された状態のステップS2-2と比較して、負極基材25上に既に形成された第1負極合剤層26Aの熱容量の分だけ、第2負極合剤ペーストが乾燥する速度が遅くなる。言い換えれば、第2負極合剤層26Bを形成する工程を、第1負極合剤層26Aを形成する工程の後に行うという簡便な方法によって、第2負極合剤ペーストが乾燥する速度を遅くすることができる。
【0086】
[押圧条件]
図10に戻り、
図10に示す点P4は、ステップS2-3もしくはステップS2-6を経た後であって、負極合剤層26が押圧された後の状態における負極活物質26CのBET比表面積を表す。負極活物質26Cは、ステップS2-3もしくはステップS2-6において負極合剤層26が押圧されると、負極活物質26Cの表面が割れるなどして新たな表面が形成されることでBET比表面積が増加する。このとき、負極合剤層26に対する押圧量を大きくするほど、負極活物質26CのBET比表面積の増加量が大きくなる。
【0087】
したがって、例えば、第2負極合剤層26Bを押圧する際の押圧量を、第1負極合剤層26Aを押圧する際の押圧量よりも大きくしてもよい。これにより、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積を第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26CのBET比表面積よりも大きくすることができる。
【0088】
例えば、第2負極合剤ペーストの目付量が第1負極合剤ペーストの目付量よりも大きくなるように第2負極合剤ペーストを塗工してもよい。これにより、例えば、第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとで厚さの要求値が等しい場合には、第2負極合剤ペーストと第1負極合剤ペーストとの目付量の差の分だけ第2負極合剤層26Bの押圧量が第1負極合剤層26Aの押圧量よりも大きくなる。
【0089】
例えば、ステップS1-3で希釈された後の固形分率が、第1負極合剤ペーストよりも第2負極合剤ペーストの方が高くなるように第2負極合剤ペーストを希釈してもよい。第1負極合剤ペーストと第2負極合剤ペーストとの目付量が同じである場合、希釈後の第2負極合剤ペーストの固形分率が高い第2負極合剤層26Bの方が、押圧される前の状態の厚さが大きくなりやすい。これにより、例えば、第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとで厚さの要求値が等しい場合には、第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとの押圧前の厚さの差の分だけ第2負極合剤層26Bの押圧量が第1負極合剤層26Aの押圧量よりも大きくなる。
【0090】
例えば、第2負極合剤層26Bの原材料として、第1負極合剤層26Aの原材料となる負極活物質26Cよりもタップ密度が低い負極活物質26Cを用いてもよい。第1負極合剤ペーストと第2負極合剤ペーストとの目付量が同じである場合、タップ密度が低い負極活物質26Cを含む第2負極合剤層26Bの方が、押圧される前の状態の厚さが大きくなりやすい。これにより、例えば、第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとで厚さの要求値が等しい場合には、第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとの押圧前の厚さの差の分だけ第2負極合剤層26Bの方が第1負極合剤層26Aよりも押圧量が大きくなる。
【0091】
なお、上記した負極活物質26CのBET比表面積の制御方法は、1つの方法のみを用いてもよいし、複数の方法を組み合わせてもよい。また、負極活物質26CのBET比表面積の制御方法として、第2負極合剤層26Bの押圧量を第1負極合剤層26Aの押圧量よりも大きくする場合、上記した押圧量の制御方法のうち、1つの方法のみを用いてもよいし、複数の方法を組み合わせてもよい。
【0092】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積は、第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26CのBET比表面積よりも大きくなるように構成されている。これにより、上湾曲部32及び下湾曲部33において、第1負極合剤層26Aと第2負極合剤層26Bとの密度差に伴う抵抗差を低減できる。したがって、充電時に第1負極合剤層26Aがリチウムイオンを受け入れる速度と、第2負極合剤層26Bがリチウムイオンを受け入れる速度とを均一にすることで、第1負極合剤層26A及び第2負極合剤層26Bのリチウム析出耐性を均一化できる。
【0093】
同様に、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積が大きくなるように構成すれば、上湾曲部32及び下湾曲部33において、第1正極合剤層23Aと第2正極合剤層23Bとの密度差に伴う抵抗差を低減できる。したがって、充電時に第1正極合剤層23Aがリチウムイオンを放出する速度と、第2正極合剤層23Bがリチウムイオンを放出する速度とを均一にすることができる。これにより、第1正極合剤層23Aと対向する第2負極合剤層26B、及び、第2正極合剤層23Bと対向する第1負極合剤層26Aのリチウム析出耐性を均一化できる。
【0094】
(2)第2負極合剤ペーストが乾燥する速度を、第1負極合剤ペーストが乾燥する速度よりも遅くすることで、第2負極合剤層26Bでは、第1負極合剤層26Aと比較して、負極結着剤26Dのマイグレーションが抑制された状態となる。結果として、第2負極合剤層26Bに含まれる負極活物質26CのBET比表面積を、第1負極合剤層26Aに含まれる負極活物質26CのBET比表面積よりも大きくすることができる。この場合、第1負極合剤ペースト及び第2負極合剤ペーストとして、同一の負極合剤ペーストを用いることができるため、製造コストの削減が可能となる。同様に、第2正極合剤ペーストが乾燥する速度を、第1正極合剤ペーストが乾燥する速度よりも遅くすることで、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積が大きくすることができる。
【0095】
(3)第1負極合剤層26Aを形成する工程の後に第2負極合剤層26Bを形成する工程を行うことで、第2負極合剤層26Bを形成する際には、既に形成された第1負極合剤層26Aの分だけ熱容量が大きくなる。このような簡便な方法によっても、第2負極合剤ペーストの乾燥速度を第1負極合剤ペーストの乾燥速度よりも遅くすることができる。同様に、第1正極合剤層23Aを形成する工程の後に第2正極合剤層23Bを形成する工程を行うことで、第2正極合剤ペーストの乾燥速度を第1正極合剤ペーストの乾燥速度よりも遅くすることができる。
【0096】
(4)第2負極合剤層26Bの原材料として第1負極合剤層26Aの原材料よりもBET比表面積が大きい負極活物質26Cを用いることで、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積を大きくできる。同様に、第2正極合剤層23Bの原材料として第1正極合剤層23Aの原材料よりもBET比表面積が大きい正極活物質を用いることで、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積を大きくできる。
【0097】
(5)第2負極合剤ペーストを固練りする際の固形分率を、第1負極合剤ペーストを固練りする際の固形分率よりも低くすることで、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積を大きくできる。同様に、第2正極合剤ペーストを固練りする際の固形分率を、第1正極合剤ペーストを固練りする際の固形分率よりも低くすることで、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積を大きくできる。
【0098】
(6)第2負極合剤層26Bに対する押圧量を第1負極合剤層26Aに対する押圧量よりも大きくすることで、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積を大きくできる。同様に、第2正極合剤層23Bに対する押圧量を第1正極合剤層23Aに対する押圧量よりも大きくすることで、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積を大きくできる。
【0099】
(7)第2負極合剤ペーストの目付量が第1負極合剤ペーストの目付量よりも大きくなるように第2負極合剤ペーストを塗工することで、第2負極合剤層26Bに対する押圧量を第1負極合剤層26Aに対する押圧量よりも大きくすることができる。この場合、第1負極合剤ペースト及び第2負極合剤ペーストとして、同一の負極合剤ペーストを用いることができるため、製造コストの削減が可能となる。同様に、第2正極合剤ペーストの目付量が第1正極合剤ペーストの目付量よりも大きくなるように第2正極合剤ペーストを塗工することで、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bに対する押圧量を大きくすることができる。
【0100】
(8)第2負極合剤ペーストの固形分率が、第1負極合剤ペーストが希釈された後の固形分率よりも高くなるように第2負極合剤ペーストを希釈することで、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bに対する押圧量を大きくすることができる。同様に、第2正極合剤ペーストの固形分率が、第1正極合剤ペーストが希釈された後の固形分率よりも高くなるように第2正極合剤ペーストを希釈することで、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bに対する押圧量を大きくすることができる。
【0101】
(9)第2負極合剤層26Bの原材料として、第1負極合剤層26Aの原材料よりもタップ密度が低い負極活物質26Cを用いることで、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bに対する押圧量を大きくすることができる。同様に、第2正極合剤層23Bの原材料として、第1正極合剤層23Aの原材料よりもタップ密度が低い正極活物質を用いることで、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bに対する押圧量を大きくすることができる。
【0102】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、以下に示す変更例は、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0103】
・第2負極合剤層26Bの原材料として用いる負極活物質26Cのタップ密度は、第1負極合剤層26Aの原材料として用いる負極活物質26Cのタップ密度よりも高くてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。同様に、第2正極合剤層23Bの原材料として用いる正極活物質のタップ密度は、第1正極合剤層23Aの原材料として用いる正極活物質のタップ密度よりも高くてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。
【0104】
・第2負極合剤ペーストが希釈された後の固形分率は、第1負極合剤ペーストが希釈された後の固形分率よりも低くてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。同様に、第2正極合剤ペーストが希釈された後の固形分率は、第1正極合剤ペーストが希釈された後の固形分率よりも低くてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。
【0105】
・第2負極合剤ペーストの目付量は、第1負極合剤ペーストの目付量よりも小さくてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。同様に、第2正極合剤ペーストの目付量は、第1正極合剤ペーストの目付量よりも小さくてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。
【0106】
・第2負極合剤層26Bに対する押圧量は、第1負極合剤層26Aに対する押圧量よりも小さくてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。同様に、第2正極合剤層23Bに対する押圧量は、第1正極合剤層23Aに対する押圧量よりも小さくてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。
【0107】
・第2負極合剤ペーストを固練りする際の固形分率は、第1負極合剤ペーストを固練りする際の固形分率よりも高くてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。同様に、第2正極合剤ペーストを固練りする際の固形分率は、第1正極合剤ペーストを固練りする際の固形分率よりも高くてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。
【0108】
・第2負極合剤層26Bの原材料として用いられる負極活物質26CのBET比表面積は、第1負極合剤層26Aの原材料として用いられる負極活物質26CのBET比表面積よりも小さくてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。同様に、第2正極合剤層23Bの原材料として用いられる正極活物質のBET比表面積は、第1正極合剤層23Aの原材料として用いられる正極活物質のBET比表面積よりも小さくてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。
【0109】
・第2負極合剤層26Bを形成する工程の後に第1負極合剤層26Aを形成する工程を行ってもよい。例えば、風量や温度といった乾燥条件を変えることで、第2負極合剤ペーストの乾燥速度を第1負極合剤ペーストの乾燥速度よりも遅くしてもよい。同様に、第2正極合剤層23Bを形成する工程の後に第1正極合剤層23Aを形成する工程を行ってもよい。例えば、風量や温度といった乾燥条件を変えることで、第2正極合剤ペーストの乾燥速度を第1正極合剤ペーストの乾燥速度よりも遅くしてもよい。
【0110】
・第2負極合剤ペーストが乾燥する速度は、第1負極合剤ペーストが乾燥する速度よりも速くてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。同様に、第2正極合剤ペーストが乾燥する速度は、第1正極合剤ペーストが乾燥する速度よりも速くてもよいし、同じであってもよい。この場合、他の方法によって、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積を大きくなるように構成すればよい。
【0111】
・第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積が大きいのであれば、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積が小さくてもよいし、同じであってもよい。反対に、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積が大きいのであれば、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積が小さくてもよいし、同じであってもよい。なお、第1正極合剤層23Aと比較して第2正極合剤層23Bの方が正極活物質のBET比表面積が大きく、かつ、第1負極合剤層26Aと比較して第2負極合剤層26Bの方が負極活物質26CのBET比表面積が大きくてもよい。この場合、充電時における第1負極合剤層26A及び第2負極合剤層26Bがリチウムイオンを受け入れる速度の均一化と、第1正極合剤層23A及び第2正極合剤層23Bがリチウムイオンを放出する速度の均一化とを両立できる。したがって、負極合剤層26のリチウム析出耐性をより均一化できる。
【0112】
・リチウムイオン二次電池10は、他の非水二次電池であってもよく、例えば、ニッケル水素蓄電池であってもよい。
・リチウムイオン二次電池10は、自動搬送機や荷役用の特殊自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車等の他、コンピュータ、その他の電子機器に搭載されるものであってもよく、これ以外のシステムを構成するものであってもよい。例えば、船舶、航空機等の移動体に設けられるものであってもよく、発電所から変電所等を介して二次電池が設置されたビルや家庭等に電力を供給する電力供給システムであってもよい。
【符号の説明】
【0113】
10…リチウムイオン二次電池
20…電極体
21…正極板
22…正極基材
22B…第1面
22C…第2面
23…正極合剤層
24…負極板
25…負極基材
25B…第1面
25C…第2面
26…負極合剤層
26A…第1負極合剤層
26B…第2負極合剤層
26C…負極活物質
26D…負極結着剤
27…セパレータ
32…上湾曲部
33…下湾曲部