(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044615
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ステータコイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/04 20060101AFI20240326BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H02K3/04 J
H02K15/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150246
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 遼太
【テーマコード(参考)】
5H603
5H615
【Fターム(参考)】
5H603AA09
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB04
5H603CB18
5H603CE05
5H603EE01
5H615AA01
5H615PP01
5H615PP15
5H615QQ03
5H615SS10
5H615SS17
(57)【要約】
【課題】異なる剛性導体を確実に、安定した状態で溶接することが可能なステータコアの製造方法を提供する。
【解決手段】絶縁被膜から露出した、いずれも斜め上方に延びる、ともに矩形断面を有する平角線(第1の剛性導体)の先端部と、第1の剛性導体に隣接する平角線(第2の剛性導体)の先端部とを、第1の剛性導体の先端部の側面と第2の剛性導体の先端部の側面とが面接触した状態で交差する交差部を形成して、第1の剛性導体の先端部において矩形断面を形成する上縁(上方側の辺縁)と、第2の剛性導体の先端部において矩形断面を形成する上縁(上方側の辺縁)とを、同一直線上に並ぶように配置して、同一直線を含む領域に上方からレーザを照射することによってレーザ溶接して、第1の剛性導体の先端部と第2の剛性導体の先端部とを溶接することによってステータコイルを製造する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被膜から露出した、いずれも斜め上方に延びる、ともに矩形断面を有する第1の剛性導体の先端部と、当該第1の剛性導体に隣接する第2の剛性導体の先端部とをレーザ溶接することによって、複数の剛性導体が連結したステータコイルを製造するステータコイルの製造方法であって、
前記第1の剛性導体の先端部の側面と前記第2の剛性導体の先端部の側面とが面接触した状態で交差する交差部を形成する工程と、
前記第1の剛性導体の先端部において矩形断面を形成する上方側の辺縁と、前記第2の剛性導体の先端部において矩形断面を形成する上方側の辺縁とを、同一直線上に並ぶように配置する工程と、
前記同一直線を含む領域に、上方からレーザを照射することによってレーザ溶接して、前記第1の剛性導体の先端部と前記第2の剛性導体の先端部とを溶接する工程と、を含む
ステータコイルの製造方法。
【請求項2】
前記交差部を形成する工程において、前記第1の剛性導体の絶縁被膜と、当該第1の剛性導体に隣接する前記第2の剛性導体の絶縁被膜とは、接触しないように配置される、
請求項1に記載のステータコイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンとモータとを駆動源とするHEV車や、モータを駆動源とするEV車等の電動車両に適用されるモータは、ステータコイルを備えている。ステータコイルは、電流を流すことによって回転磁界を発生させる。この回転磁界によって、ステータコイルの内側に設置された、永久磁石で構成されたロータが回転して、回転駆動力を発生する。このようなステータコイルは、複数の剛性導体の先端部同士を互いに溶接することによって製造される。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の剛性導体の先端部を突き合せた状態でレーザ溶接するコイルの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたコイルの製造方法では、互いに異なる剛性導体を接触させて、各剛性導体の突端部をそれぞれレーザ溶接している。このため、レーザ溶接によって溶融した溶接玉の形状が不安定になりやすかった。また、キーホールを形成しない程度の溶接のために必要とされる導通断面積を確保することが困難である。これにより、高い溶接品質を安定して実現する点が課題であった。
【0006】
本発明の目的は、異なる剛性導体を、確実に安定した状態で溶接することが可能なステータコイルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明のステータコイルの製造方法は、絶縁被膜から露出した、いずれも斜め上方に延びる、ともに矩形断面を有する第1の剛性導体の先端部と、当該第1の剛性導体に隣接する第2の剛性導体の先端部とをレーザ溶接することによって、複数の剛性導体が連結されたステータコイルを製造するステータコイルの製造方法であって、第1の剛性導体の先端部の側面と第2の剛性導体の先端部の側面とが面接触した状態で交差する交差部を形成する工程と、第1の剛性導体の先端部において矩形断面を形成する上側の辺縁と、第2の剛性導体の先端部において矩形断面を形成する上側の辺縁とを、側面視で同一直線上に並ぶように配置する工程と、同一直線を含む領域を、上方からレーザ溶接することによって、第1の剛性導体の先端部と第2の剛性導体の先端部とを溶接する工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、異なる剛性導体を、確実に安定した状態で溶接することができる。
【0009】
また、本発明に係るステータコイルの製造方法において、第1の剛性導体の絶縁被膜と、第1の剛性導体に隣接する第2の剛性導体の絶縁被膜とは、接触しないように配置される。
【0010】
この構成によれば、隣接する剛性導体の間のギャップを埋めることができるため、剛性導体同士を接合しやすくすることができる。また、ステータコイルの巻線密度を増加させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異なる剛性導体を確実に、安定した状態で溶接することが可能なステータコイルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ステータコイルの巻線を構成する平角線の一例を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、ステータコアに複数の平角線を配置した状態の一例を示す上面図である。
【
図3A】
図3Aは、ステータコアの内側に配置した平角線の先端部の向きを変更した状態の一例を示す側面図および上面図である。
【
図3B】
図3Bは、ステータコアの内側に配置された複数の平角線を、隣接する平角線の先端部同士が接触する状態とした一例を示す上面図である。
【
図4】
図4は、隣接する平角線の先端部の導体同士が重なることによって形成される交差部について説明する側面図と上面図である。
【
図5B】
図5Bは、隣接する平角線の先端部がレーザ溶接された状態の一例を示す側面図と上面図である。
【
図6A】
図6Aは、交差部の別の形態の一例を示す第1の側面図である。
【
図6B】
図6Bは、交差部の別の形態の一例を示す第2の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
(平角線の構造)
図1を用いて、本発明の実施形態のステータコイルの製造方法を説明する。
図1は、ステータコイルの巻線を構成する平角線の一例を示す外観斜視図である。
【0015】
ステータコイルは、複数の平角線10i(i=a,b,c,…)の端部を互いに溶接によって連結することで製造される。平角線10iは、
図1に示すように、絶縁被膜14を被覆された導体をU字形状に折り曲げたものである。平角線10iの断面は矩形をなしている。平角線10iの両端は、絶縁被膜14が剥離されて導体が露出した先端部12a,12bを有している。なお、平角線10iは、本開示における剛性導体の一例である。
【0016】
先端部12a,12bの導体は、例えば銅等の導電材料で形成されており、絶縁被膜14はエナメル等の絶縁材料で形成されている。
【0017】
(平角線の配列方法)
図2、
図3A、
図3Bを用いて、ステータコイルを製造する際に、複数の平角線を配列する方法を説明する。
図2は、ステータコアに複数の平角線を配置した状態の一例を示す上面図である。
図3Aは、ステータコアの内側に配置した平角線の先端部の向きを変更した状態の一例を示す側面図および上面図である。
図3Bは、ステータコアの内側に配置された複数の平角線を、隣接する平角線の先端部同士が接触する状態とした一例を示す上面図である。
【0018】
図2に示すように、複数の平角線10i(i=a,b,c,…)は、互いに隣接した状態で、モータ30が備えるドーナツ状のステータコア20の半径方向に沿って整列される。より具体的には、平角線10i(i=a,b,c,…)は、Z軸の負側から、ステータコア20を跨ぐ状態で挿入されて、ステータコア20の半径方向に沿って配置される。このとき、複数の平角線10i(i=a,b,c,…)は、いずれも先端部12a,12bが、Z軸の正側に向くように配置される。
【0019】
ステータコア20を跨いで配置された平角線10aは、
図3Aに示すように、その先端部12a,12bのY軸方向の位置が近づくように曲げられる。また、先端部12a,12bは、平角線10aの底辺15aに対して、X軸方向に互いに逆向きに捻じられた状態とされる。
【0020】
このような状態で配置された複数の平角線10i(i=a,b,c,…)は、
図3Bに示すように、隣接する平角線の先端部同士が互いに面接触する状態とされる。具体的には、例えば、平角線10aの先端部12aと、隣接する平角線10bの先端部12bとが面接触した状態とされる。更に、平角線10aの先端部12aの上方側(Z軸正側)の辺縁である上縁13aと、隣接する平角線10bの先端部12bの上方側(Z軸正側)の辺縁である上縁13bとは、同一直線上に並ぶように配置される。詳しくは後述する(
図4参照)。なお、以下の説明において、互いに隣接する平角線の一方を第1の剛性導体と呼び、他方を第2の剛性導体と呼ぶ場合がある。例えば、平角線10aは第1の剛性導体の一例であり、平角線10bは第2の剛性導体の一例である。また、平角線10bを第1の剛性導体と見ると、それに隣接する平角線10aまたは平角線10cが第2の剛性導体である。
【0021】
図3Bの状態で配置された複数の平角線10i(i=a,b,c,…)の先端部同士は、後述するレーザ溶接で溶接されることによって、1本のステータコイル24が形成される。
【0022】
なお、
図3Bに示すように、隣接する平角線の絶縁被膜14同士は接触しないように配置される。
【0023】
(平角線の先端部の接触形態)
図4を用いて、隣接する平角線の先端部、即ち第1の剛性導体の先端部と、第2の剛性導体の先端部とが重なることによって形成される交差部について説明する。
図4は、隣接する平角線の先端部の導体同士が重なることによって形成される交差部について説明する側面図と上面図である。
【0024】
図4は、一例として、平角線10a(第1の剛性導体)の先端部12aと、平角線10b(第2の剛性導体)の先端部12bとを接触させた様子を示している。
【0025】
図4に示すように、平角線10aの先端部12aと、平角線10bの先端部12bとは、交差角θが90°で交差する。そして、平角線10aの先端部12aのX軸正側の側面と、平角線10bの先端部12bのX軸負側の側面とが面接触して、交差部16aを形成する。即ち、
図4の側面図にハッチングを付した領域が、交差部16aを形成する。
【0026】
このとき、平角線10aの先端部12aの上方側(Z軸正側)の辺縁である上縁13aと、平角線10bの先端部12bの上方側(Z軸正側)の辺縁である上縁13bとは同一直線上に並ぶように配置される。
【0027】
なお、図示はしないが、
図3Bに示す、その他の平角線の先端部同士も同様に接触して交差部16aを形成する。
【0028】
(レーザ溶接の方法)
図5A、
図5Bを用いて、レーザ溶接の方法を説明する。
図5Aは、レーザ溶接する位置を説明する図である。
図5Bは、隣接する平角線の先端部がレーザ溶接された状態の一例を示す側面図と上面図である。
【0029】
図5Aに示すように、同一直線上に並んだ、先端部12aの上縁13aと先端部12bの上縁13bの部分に、上方(Z軸正側)からレーザを照射して、レーザ溶接を行う。レーザ溶接は、レーザの照射位置と焦点位置とを高精度に設定できるため、レーザの照射位置を上縁13a,13bの位置に設定して、レーザの焦点位置を上縁13a,13bからやや下方の交差部16a(
図4参照)の中央付近に設定することによって、個々の平角線の先端形状のばらつきや位置決め精度不良があった場合であっても、平角線10aの先端部12aと、平角線10bの先端部12bとを安定して溶融させることができる。
【0030】
このようなレーザ溶接を行うことによって、
図5Bに示すように、レーザが照射された上縁13a,13bを含む領域には、溶接部18が形成される。レーザ溶接によって溶融した上方(Z軸正側)の銅は、2つの先端部12a,12bが交差する下方(Z軸負側)の交線を下端とするV字形状の溝部に保持されて硬化するため、溶接部18に形成される溶接玉の形状は安定したものになる。これによって、導通断面積を安定させることができると共に、形状のばらつきが小さくなるため、溶接状態の品質を検査する際に行う画像判定を容易に行うことができるようになる。
【0031】
なお、レーザ溶接を行う際には、接触させた平角線10aと平角線10bとがずれないように、冷やし金を兼ねたクランパーで、平角線10aの先端部12aと、平角線10bの先端部12bとを把持しておくのが望ましい。
【0032】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るステータコイル24の製造方法は、絶縁被膜14から露出した、いずれも斜め上方に延びる、ともに矩形断面を有する平角線10a(第1の剛性導体)の先端部12aと、平角線10aに隣接する平角線10b(第2の剛性導体)の先端部12bとをレーザ溶接することによって、複数の平角線が連結したステータコイル24を製造するステータコイル24の製造方法であって、平角線10aの先端部12aの側面と平角線10bの先端部12bの側面とが面接触した状態で交差する交差部16aを形成する工程と、平角線10aの先端部12aにおいて矩形断面を形成する上縁13a(上側の辺縁)と、平角線10bの先端部12bにおいて矩形断面を形成する上縁13b(上側の辺縁)とを、同一直線上に並ぶように配置する工程と、同一直線を含む領域に、上方からレーザを照射することによってレーザ溶接して、平角線10aの先端部12aと平角線10bの先端部12bとを溶接する工程と、を含む。したがって、異なる平角線の先端部を、確実に安定した状態で溶接することが可能なステータコイルの製造方法を提供することができる。また、溶接玉の形状が安定するため、溶接品質が向上する。これによって、溶接品質の検査判定が容易になる。更に、レーザ溶接によって安定した溶接が可能になるため、溶接前の平角線の形状精度や位置精度を緩和することができる。
【0033】
また、本実施の形態に係るステータコイル24の製造方法において、平角線10a(第1の剛性導体)の絶縁被膜14と、平角線10aに隣接する平角線10b(第2の剛性導体)の絶縁被膜14とは、接触しないように配置される。したがって、隣接する平角線の間のギャップを埋めることができるため、平角線同士を接合しやすくすることができる。また、ステータコイル24の巻線密度を増加させることができる。
【0034】
(実施形態の変形例)
図6A、
図6Bを用いて、前記した実施形態の変形例を説明する。
図6Aは、交差部の別の形態の一例を示す第1の側面図である。
図6Bは、交差部の別の形態の一例を示す第2の側面図である。
【0035】
平角線10aの先端部12aと、平角線10bの先端部12bとを接触させる際の交差角θは、90°に限定されるものではない。
【0036】
図6Aは、90°よりも小さい交差角θで、平角線10aの先端部12aと、平角線10bの先端部12bとを接触させた状態の一例を示す。この場合、
図6Aに示す交差部16bが形成される。そして、この場合、平角線10aの先端部12aの上縁13aと、平角線10bの先端部12bの上縁13bとは同一直線上に並ぶように配置される。
【0037】
そして、上縁13aと上縁13bとが同一直線上に整列した位置にレーザが照射されて、レーザ溶接が行われる。
【0038】
図6Bは、90°よりも大きい交差角θで、平角線10aの先端部12aと、平角線10bの先端部12bとを接触させた状態の一例を示す。この場合、
図6Bに示す交差部16cが形成される。そして、この場合、平角線10aの先端部12aの上縁13aと、平角線10bの先端部12bの上縁13bとは同一直線上に並ぶように配置される。
【0039】
そして、上縁13aと上縁13bとが同一直線上に整列した位置にレーザが照射されて、レーザ溶接が行われる。
【0040】
このように、本実施形態に係るステータコイル24の製造方法にあっては、平角線10aの先端部12aの上縁13aと、平角線10bの先端部12bの上縁13bとが同一直線上に並ぶように配置しさえすれば、交差角θの大きさは問わない。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上述した実施の形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、この実施の形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10i(i=a,b,c,…) 平角線(剛性導体、第1の剛性導体、第2の剛性導体)
12a,12b 先端部
13a,13b 上縁
14 絶縁被膜
16a,16b,16c 交差部
18 溶接部
20 ステータコア
24 ステータコイル
30 モータ
θ 交差角