(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044619
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】電源回路
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20240326BHJP
H02M 9/04 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H02M3/155 Y
H02M9/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150256
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角谷 龍河
(72)【発明者】
【氏名】服部 文哉
(72)【発明者】
【氏名】河野 真吾
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730ZZ04
5H730ZZ11
5H730ZZ13
(57)【要約】
【課題】高電圧が印加される高電位部位とグランド電位の部材との間でのコロナ放電を抑制すること。
【解決手段】実施形態にかかる電源回路は、電源回路は、基準電位の導電部材と、導電部材の表面に配置される第1の絶縁部材と、第1の絶縁部材の導電部材とは反対側の表面側に配置され、本体部、及び本体部から延びる端子部をそれぞれ有する複数のスイッチング素子と、複数のスイッチング素子と第1の絶縁部材との間にそれぞれ介在され、熱軟化性を有するシート状の第2の絶縁部材と、複数のスイッチング素子から見て、導電部材から遠ざかる方向に離れた位置に配置され、複数のスイッチング素子の端子部が接続されることにより、複数のスイッチング素子が直列接続されるように実装された回路基板と、回路基板と非接触に、複数のスイッチング素子の本体部および第2の絶縁部材を覆う第3の絶縁部材と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準電位の導電部材と、
前記導電部材の表面に配置される第1の絶縁部材と、
前記第1の絶縁部材の前記導電部材とは反対側の表面側に配置され、本体部、及び前記本体部から延びる端子部をそれぞれ有する複数のスイッチング素子と、
前記複数のスイッチング素子と前記第1の絶縁部材との間にそれぞれ介在され、熱軟化性を有するシート状の第2の絶縁部材と、
前記複数のスイッチング素子から見て、前記導電部材から遠ざかる方向に離れた位置に配置され、前記複数のスイッチング素子の前記端子部が接続されることにより、前記複数のスイッチング素子が直列接続されるように実装された回路基板と、
前記回路基板と非接触に、前記複数のスイッチング素子の前記本体部および前記第2の絶縁部材を覆う第3の絶縁部材と、を備える、
電源回路。
【請求項2】
前記複数のスイッチング素子のそれぞれのスイッチング素子が有する前記端子部は、
前記回路基板に接続され、前前記回路基板から第1の電位の電圧が印加される第1の端子と、
前記回路基板に接続され、前記スイッチング素子がオンしたときに前記第1の端子と電気的に接続される第2の端子と、
前記回路基板に接続され、前前記回路基板から前記スイッチング素子のオン/オフを制御する電圧信号が入力される第3の端子と、を有し、
前記回路基板の導電部と前記第3の絶縁部材の上面との距離は、前記回路基板の前記導電部と第3の絶縁部材との間で放電が生じないように設定された距離である、
請求項1に記載の電源回路。
【請求項3】
前記基準電位は接地電位であり、
前記第1の電位の電圧は、電位の絶対値が10kV以上である、
請求項2に記載の電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置、または液晶基板等を製造する工程で用いられるプラズマ処理装置には、例えばパルス状の電圧であるパルス電圧を発生させるパルス電源装置のように、高電圧を発生させる電源装置が設けられることがある(特許文献1)。
【0003】
パルス電源装置は、例えば直流電力をインバータ回路で交流電力に変換した後、変圧器により異なる電圧値の交流電力に変換し、整流平滑回路で整流・平滑し、さらにスイッチング回路等によりパルス電圧を発生させるよう構成される。
【0004】
上記のようなパルス電源装置では、例えば絶対値が10kV程度の高電圧の電位を有するパルス電圧を出力する。その都合上、整流平滑回路およびスイッチング回路においては、高電圧印加回路によって、絶対値が10kV程度の高電圧が印加される高電位部位が生じる。周知のように、印加される電圧が高いほどコロナ放電が発生し易くなるので、このような高電位部位のコロナ放電を抑制する必要がある。
【0005】
例えば高電圧印加回路が有するグランド電位の部材周辺の空隙において、コロナ放電の発生を抑制する技術がある(特許文献2)。具体的には、高電圧印加回路に用いるネジが取り付けられたネジ穴の一部と、高電位部位との間にグランド電位の導体を挿入して、ネジ穴への電界集中を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-125729号公報
【特許文献2】特開2018-067644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2における印加電圧は、3.3kV程度と比較的低い電圧である。このため、特許文献2の開示内容は、ネジの周囲の空隙に対するコロナ放電対策に留まっている。
【0008】
それに対して、例えば絶対値にして10kV以上の高電圧が印加されると、より一層コロナ放電が発生し易くなるので、回路基板の導電領域、スイッチング素子等の高電位部位と、グランド電位の部材との間のコロナ放電対策を一層強化する必要がある。特に、スイッチング素子等の端子および角張った箇所からはコロナ放電が発生し易く、それらの箇所について、コロナ放電を抑制する対策が必要となる。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、高電圧が印加される高電位部位とグランド電位の部材との間でのコロナ放電を抑制することができる電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態にかかる電源回路は、基準電位の導電部材と、前記導電部材の表面に配置される第1の絶縁部材と、前記第1の絶縁部材の前記導電部材とは反対側の表面側に配置され、本体部、及び前記本体部から延びる端子部をそれぞれ有する複数のスイッチング素子と、前記複数のスイッチング素子と前記第1の絶縁部材との間にそれぞれ介在され、熱軟化性を有するシート状の第2の絶縁部材と、前記複数のスイッチング素子から見て、前記導電部材から遠ざかる方向に離れた位置に配置され、前記複数のスイッチング素子の前記端子部が接続されることにより、前記複数のスイッチング素子が直列接続されるように実装された回路基板と、前記回路基板と非接触に、前記複数のスイッチング素子の前記本体部および前記第2の絶縁部材を覆う第3の絶縁部材と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、高電圧が印加される高電位部位とグランド電位の部材との間でのコロナ放電を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる電源回路の構成の一例を示す回路図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかるスイッチング部の構成の一例を示す回路図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかるスイッチング部の物理構成の一例を示す模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態にかかるモールド樹脂の高さモデルについて説明する図である。
【
図5】
図5は、実施形態にかかる絶縁部材とスイッチング素子との間に絶縁シートが設けられる様子を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる電源回路の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態により本願発明が限定されるものではない。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は、同様であるものとして、重複する説明は適宜省略する。
【0014】
(電源回路の構成例)
図1は、実施形態にかかる電源回路100の構成の一例を示す回路図である。
図1に示すように、電源回路100は、スイッチング部10,20、出力端子30、及び出力ノード40を有する。
【0015】
スイッチング部10,20は出力ノード40を介して互いに接続されている。これらのスイッチング部10,20は、出力ノード40を介して出力端子30からパルス電圧を出力する。このようなパルス電圧を発生させるため、電源回路100には、直流電圧を供給する直流電源DC(DCpまたはDCn)が接続されている。
【0016】
直流電源DCから直流電圧が印加されると、スイッチング部10,20は互い違いにオン/オフを繰り返す。すなわち、スイッチング部10がオンのときはスイッチング部20がオフし、スイッチング部10がオフのときはスイッチング部20がオンする。これにより、出力端子30からはパルス電圧が出力される。
【0017】
このとき、パルス状の電圧波形の周波数は数百kHz程度である。しかし、用途によっては、例えば数十kHz程度または1MHz程度等、様々な周波数が用いられる。なお、これらのスイッチング部10,20のオン/オフの切り替えには若干の遅延が生じるため、パルスの切り替え時に、両方のスイッチング部10,20がオフとなるデッドタイムが生じうる。
【0018】
図1(a)に示す例では、電源回路100には、例えば12kV等の正電圧が印加される。すなわち、直流電源DCpの高電位側端子の電位と低電位側端子の電位との電位差が例えば12kVであり、直流電源DCpの低電位側端子が例えば0kV等のグランド電位に接続されている。このため、高電位側端子の電位が12kVとなり、よって、直流電源DCpの出力電圧は+12kVとなる。以上により、出力端子30からは、12kVと0kVとのパルス状の電圧が交互に出力される。
【0019】
図1(b)に示す例のように、電源回路100には、例えば-12kV等の負電圧が印加されてもよい。すなわち、直流電源DCnの高電位側端子を例えば0kV等のグランド電位に接続し、低電位側端子の電位を-12kVとして、直流電源DCnの出力電圧を-12kVとしてもよい。この場合、出力端子30からは、-12kVと0kVとのパルス状の電圧が交互に出力される。
【0020】
なお、電源回路100に印加される12kVまたは-12kV等の直流電圧はあくまで一例である、実施形態の電源回路100は、例えば絶対値で10kV以上の電圧が印加されることを想定している。ただし、実施形態の電源回路100に、絶対値で10kV未満の電圧が印加されてもよい。
【0021】
以上のようにパルス電圧を発生させる
図1の電源回路100は、例えば半導体製造工程等でプラズマ処理を行う際に用いるパルス電源装置に適用することができる。
【0022】
図2は、実施形態にかかるスイッチング部10の構成の一例を示す回路図である。
【0023】
図2に示すように、スイッチング部10は、スイッチング素子111、ゲート駆動回路121、及び絶縁型DC-DCコンバータ122を1組として、複数組のスイッチング素子111、ゲート駆動回路121、及び絶縁型DC-DCコンバータ122を備える。
【0024】
図2の例では、スイッチング部10は、6組のスイッチング素子111、ゲート駆動回路121、及び絶縁型DC-DCコンバータ122を備えるが、これらの構成の数は6組に限定されず任意である。また、後述するように、スイッチング素子111、ゲート駆動回路121、及び絶縁型DC-DCコンバータ122の各組には、それぞれコンデンサ123が含まれていてもよい。
【0025】
個々のスイッチング素子111は、例えば電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)等として構成されている。ただし、スイッチング素子111が、例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)、その他の半導体スイッチ等の、電界効果トランジスタ以外の素子であってもよい。
【0026】
これらのスイッチング素子111は、互いに直列接続されて、例えばプリント配線基板等の回路基板110に実装されている。これらのスイッチング素子111が実装された回路基板110は、印加電圧のスイッチングを行うFET基板として機能する。なお、全てのスイッチング素子111が1つの回路基板110に実装されていてもよく、スイッチング素子111の個数が多い場合等には、複数の回路基板110に分割して実装されていてもよい。
【0027】
直列接続された一端側のスイッチング素子111には、上述の直流電源DCpから例えば12kVの電圧が印加される。直列接続された他端側のスイッチング素子111は、上述の出力ノード40に接続されている。
【0028】
個々のスイッチング素子111には、それぞれゲート駆動回路121が接続されている。ゲート駆動回路121は、これらのスイッチング素子111が同時にオンまたはオフするように、そのゲート駆動回路121に対応するスイッチング素子111をそれぞれ制御する。スイッチング素子111をオンさせるため、ゲート駆動回路121は、スイッチング素子111のゲート-ソース間に、電位差が例えば24V等となるよう電圧を供給する。
【0029】
個々のゲート駆動回路121には、図示しない制御回路から制御信号が送信される。ゲート駆動回路121は、受信した制御信号にしたがって、スイッチング素子111のゲート電圧を制御する。
【0030】
ゲート駆動回路121がスイッチング素子111のゲート-ソース間に供給する電圧は、個々のゲート駆動回路121にそれぞれ接続される絶縁型DC-DCコンバータ122から供給される。複数の絶縁型DC-DCコンバータ122には、例えば24Vの直流電源DCdが接続されている。直流電源DCdは、これらの絶縁型DC-DCコンバータ122に共有される。
【0031】
より具体的には、直流電源DCdの高電位側端子の電位と低電位側端子の電位との電位差が例えば24Vであり、直流電源DCdの低電位側端子が例えば0kV等のグランド電位に接続されている。このため、高電位側端子の電位が24Vとなり、よって、直流電源DCdの出力電圧は24Vとなる。これにより、直流電源DCdから絶縁型DC-DCコンバータ122に、例えば24Vの電圧が供給される。
【0032】
また、個々の絶縁型DC-DCコンバータ122は、図示しないトランスを内蔵しており、このトランスによって一次側(入力側)と二次側(出力側)とを絶縁する。
【0033】
ゲート駆動回路121で消費する電力が大きい場合、ゲート駆動回路121と絶縁型DC-DCコンバータ122との間には、コンデンサ123が挿入されることがある。
【0034】
これらのゲート駆動回路121、絶縁型DC-DCコンバータ122、及びコンデンサ123は、プリント配線基板等の回路基板120に実装されている。ゲート駆動回路121、絶縁型DC-DCコンバータ122、及びコンデンサ123が実装された回路基板120は、例えばスイッチング素子111を駆動させるドライバ基板として機能する。
【0035】
このとき、全てのゲート駆動回路121、絶縁型DC-DCコンバータ122、及びコンデンサ123が1つの回路基板120に実装されていてもよく、例えば複数のスイッチング素子111が複数の回路基板110に分割して実装されている場合等には、ゲート駆動回路121、絶縁型DC-DCコンバータ122、及びコンデンサ123が、これらの回路基板110に対応する複数の回路基板120に分割して実装されていてもよい。
【0036】
なお、上述の
図1に示すスイッチング部20も、スイッチング部10の
図2に示す構成と同様の回路構成を有する。ただし、スイッチング部20に与えられる電位はスイッチング部10とは異なっている。
【0037】
ここで、個々のスイッチング素子111がオンされると、これらのスイッチング素子111のドレイン-ソース間が電気的に接続される。このため、出力ノード40には、直列接続されたスイッチング素子111を介して12kVの高電圧が印加される。
【0038】
また、個々のスイッチング素子111がオフのときは、スイッチング部20の個々のスイッチング素子がオンされて、0kV等のグランド電位に接続される。したがって、個々のスイッチング素子のドレイン-ソース間の電位が0kVとなって、出力ノード40もまた0kVとなる。
【0039】
このとき、スイッチング部10には12kVの電位差が生じ、この電位差がスイッチング部10の個々のスイッチング素子111で分担して負担され、個々のスイッチング素子111のドレイン-ソース間に電位差が生じる。
【0040】
図2の例のように、スイッチング部10が、例えば6つのスイッチング素子111を有する場合、個々のスイッチング素子111のソースの電位は、紙面上端のスイッチング素子111から順に、例えば10kV、8kV、6kV、4kV、2kV、0kVとなる。
【0041】
同様に、個々のスイッチング素子111がオンしているときは、スイッチング部20の個々のスイッチング素子がオフされて、スイッチング部20には12kVの電位差が生じる。したがって、この電位差がスイッチング部20の個々のスイッチング素子で分担して負担され、個々のスイッチング素子のドレイン-ソース間に電位差が生じる。
【0042】
スイッチング部20もまた、例えば6つのスイッチング素子を有する場合、個々のスイッチング素子のソースの電位は、出力ノード40に接続される側のスイッチング素子から順に、例えば10kV、8kV、6kV、4kV、2kV、0kVとなる。
【0043】
なお、上述の
図1(b)のように、電源回路100に-12kV等の負電圧が印加される場合も同様である。
【0044】
すなわち、スイッチング部10の個々のスイッチング素子111がオンし、スイッチング部20の個々のスイッチング素子がオフしているときには、スイッチング部20には-12kVの電位差が生じる。よって、個々のスイッチング素子のソースの電位は、出力ノード40に接続される側のスイッチング素子から順に、例えば-2kV、-4kV、-6kV、-8kV、-10kV、-12kVとなる。
【0045】
また、スイッチング部10の個々のスイッチング素子111がオフし、スイッチング部20の個々のスイッチング素子がオンしているときには、スイッチング部10には-12kVの電位差が生じる。よって、個々のスイッチング素子111のソースの電位は、紙面上端のスイッチング素子111から順に、例えば-2kV、-4kV、-6kV、-8kV、-10kV、-12kVとなる。
【0046】
このように、例えば絶対値で10kV以上の高電圧が印加されるスイッチング部10において、複数のスイッチング素子111によって電位差を分担させることで、個々のスイッチング素子111の絶縁破壊等を抑制することができる。
【0047】
換言すれば、スイッチング部10に生じる電位差の大きさ、及び個々のスイッチング素子111の耐圧特性等に基づいて、スイッチング部10に含めるスイッチング素子111の個数、並びにこれらのスイッチング素子111に付随するゲート駆動回路121及び絶縁型DC-DCコンバータ122等の個数を決定することができる。スイッチング部20のスイッチング素子、並びにゲート駆動回路および絶縁型DC-DCコンバータ等の個数についても同様である。
【0048】
(スイッチング素子の構成例)
次に、
図3~
図5を用いて、実施形態の電源回路100が備えるスイッチング素子111の構成例について説明する。
【0049】
図3は、実施形態にかかるスイッチング素子111の物理構成の一例を示す模式的な断面図である。
図3に示すように、複数のスイッチング素子111は、回路基板110から離れた位置で、絶縁部材113が上面に設けられた導電部材114上に絶縁シート112を介して配置され、全体がモールド樹脂115により封止されている。
【0050】
スイッチング素子111は、上述のように、高電圧が印加されること、また、例えば数百kHzものスイッチング回数を実現するため高速で動作すること等から発熱しやすい。このため、上記のように、スイッチング素子111を直接、回路基板110上に実装せず、回路基板110から離れた位置で、例えば熱伝導率の高い導電部材114上に配置して、スイッチング素子111の放熱を図っている。
【0051】
導電部材114は、図示しない冷却液の流路が内蔵された水冷銅板等の導電性の板状部材であり、絶縁部材113を介して上面に配置される複数のスイッチング素子111を冷却する。また、導電部材114は、接地されることによって0V等のグランド電位を有している。導電部材114が有する電位を基準電位とも呼ぶ。
【0052】
第1の絶縁部材としての絶縁部材113は、例えばアルミナ、窒化ケイ素、または窒化アルミニウム等の絶縁性のセラミックスから構成される板状部材であり、複数のスイッチング素子111と導電部材114との間を絶縁する。板状の絶縁部材113の厚さを例えば10mmなどとすることができる。
【0053】
また、上記のように、導電部材114及び絶縁部材113を平板状とし、これらの接触面が平面であることで、導電部材114及び絶縁部材113の接触面積を最大化することができ、これらの部材による放熱効果を高めることができる。
【0054】
第2の絶縁部材としての絶縁シート112は、複数のスイッチング素子111のそれぞれと、絶縁部材113との間に配置されている。絶縁シート112は、熱軟化性を有するシート状の樹脂等であり、個々のスイッチング素子111が発する熱を導電部材114側へと放熱する。絶縁シート112は、熱軟化性を有する放熱シート等であってよい。
【0055】
具体的には、絶縁シート112としては、良好な熱伝導率に加えて、ある程度の絶縁性を有することが望ましい。また、複数のスイッチング素子111をモールド樹脂115で封止する際には熱が加わる。絶縁シート112は、このときの熱によって変質したり分解したりしない材料から構成されていることが望ましい。
【0056】
上記要件を満たす絶縁シート112の材料として、信越シリコーン製の相交換物質(PCM:Phase Change Material)が一例として挙げられる。PCM素材のうち、例えばPCS-CR-10は、熱伝導率が2.0W/m・K、絶縁破壊電圧が8.0kV/mmという特性を有する。
【0057】
例えば絶縁性の劣る空気の熱伝導率が0.0241W/m・Kであるから、絶縁シート112としては例えば1.0W/m・K以上の熱伝導率を有していればよく、PCS-CR-10は充分な熱伝導率を有していると言える。また、絶縁部材113の候補材料の1つである窒化アルミニウムの絶縁破壊電圧が15kV/mmであるので、PCS-CR-10の上記の絶縁破壊電圧であれば、複数のスイッチング素子111の下部構成として充分な絶縁耐性が得られる。また、PCS-CR-10は、熱軟化性を有するため、熱耐性についても要件を満たすと考えられる。
【0058】
個々のスイッチング素子111は、絶縁シート112上に配置される本体部11と、本体部11の上面から上方へと延びる端子部としての複数の端子12d,12g,12sを有する。本体部11はFET等の半導体素子が搭載されたシリコンチップ等である。複数の端子12d,12g,12sは、スイッチング素子111を封止するモールド樹脂115を貫通し、回路基板110に接続されている。これにより、個々のスイッチング素子111が互いに直列接続されるように回路基板110に実装される。
【0059】
スイッチング素子111が有する端子12d,12g,12sのうち、第1の端子としての端子12dはFETのドレインに接続されるドレイン端子であり、回路基板110から高電圧が印加される。第1の電位の電圧である印加電圧は、例えば上述の
図1の直流電源DCp,DCnから供給される電圧であって、絶対値にして例えば10kV以上の電圧である。
【0060】
また、第2の端子としての端子12sは、FETのソースに接続されるソース端子であり、スイッチング素子111がオンしたときに、端子12dと電気的に接続される。また、第3の端子としての端子12gは、FETのゲートに接続されるゲート端子であり、スイッチング素子111のオン/オフを制御する電圧信号を回路基板110から受信する。
【0061】
なお、これらの端子12d,12g,12sの並び順は
図3の例に限られない。
【0062】
回路基板110は、例えば絶縁部材113の上面に設けられた支柱116等によって、複数のスイッチング素子111から離れてこれらの上方に支持されている。回路基板110は、プリント配線基板等であって、スイッチング素子111側を向いた下面に、複数の電極13d,13g,13sを備えている。
【0063】
これらの電極13d,13g,13sのうち、電極13dは、スイッチング素子111の端子12dに接続され、回路基板110からの印加電圧を端子12dに出力する。また、電極13gは、スイッチング素子111の端子12gに接続され、回路基板110からの電圧信号を端子12gに出力する。電極13sは、スイッチング素子111の端子12sに接続され、端子12sを介してスイッチング素子111のソースにドレインとの電位差を生じさせる。
【0064】
第3の絶縁部材としてのモールド樹脂115は、回路基板110とは非接触に、複数のスイッチング素子111の本体部11を覆っている。これにより、モールド樹脂115は、複数のスイッチング素子111を絶縁部材113上に封止する。したがって、モールド樹脂115内には、個々のスイッチング素子111と絶縁部材113との間に介在される絶縁シート112も封入されている。
【0065】
なお、
図3の例では、2つのスイッチング素子111が同じモールド樹脂115内に封止されているが、1つのモールド樹脂115により封止されるスイッチング素子111の個数はこれに限られない。スイッチング素子111は1つずつが、それぞれ個別にモールド樹脂115に封止されていてもよく、
図3の例のように2つ、または3つ以上のスイッチング素子111が、1つのモールド樹脂115にまとめて封止されていてもよい。
【0066】
モールド樹脂115は、例えばシリコーン樹脂等の絶縁性の樹脂である。具体的には、モールド樹脂115としては、良好な絶縁性および良好な熱伝導率を有することが望ましい。
【0067】
例えば空気の絶縁破壊電圧が3.0kV/mmであるから、モールド樹脂115は、3.0kV/mmを超える絶縁破壊電圧であることが好ましい。一般的なシリコーン樹脂の絶縁破壊電圧が20kV/mm~30kV/mm程度であるので、上述のように、モールド樹脂115に例えばシリコーン樹脂を用いることで、充分な絶縁耐性が得られる。
【0068】
また、上述のように、空気の熱伝導率が0.0241W/m・Kであるから、モールド樹脂115は、例えば1.0W/m・K以上の熱伝導率を有していることが好ましい。一般的なシリコーン樹脂の熱伝導率が0.1W/m・K~5.1W/m・K程度であるので、種々のシリコーン樹脂の中から、上記要件を満たすものを選定することができる。
【0069】
上記要件を満たすモールド樹脂115の材料の一例として、例えば信越シリコーン製のシリコーン樹脂であるKE-1897を挙げることができる。KE-1897は、熱伝導率が1.6W/m・K、絶縁破壊電圧が25kV/mmという特性を有する。
【0070】
また、KE-1897は、粘度が高く、例えばスイッチング素子111を封止するモールド樹脂115として用いた場合に、スイッチング素子111、及び土台となる絶縁部材113に対して高い密着性を有することが推測される。よって、モールド樹脂115の膜剥がれ等が抑制され易いと考えられる。
【0071】
このように、シリコーン樹脂等の絶縁破壊電圧が高い材料から構成されるモールド樹脂115で、複数のスイッチング素子111を封止することで、回路基板110またはスイッチング素子111の端子12d,12g,12sと、これらの下部構造である導電部材114等との間でコロナ放電が発生することが抑制される。
【0072】
また、チップ状に構成されたスイッチング素子111の角部等の尖った部分では、電界強度が大きくなる傾向にあり、コロナ放電が発生しやすい。モールド樹脂115で、チップ形状の角部が覆われるので、この点においても、コロナ放電の発生を抑制することができる。
【0073】
また例えば、
図3に示す例とは異なり、端子12d,12g,12sが折れ曲がった形状を有する場合等にも、この部分がコロナ放電を引き起こし得る。この場合にも、端子12d,12g,12sの屈曲部分をもモールド樹脂115で覆うようにすることで、コロナ放電が抑制される。
【0074】
ここで、回路基板110は、所定の距離Dsを隔てて絶縁部材113上に配置されている。また、モールド樹脂115の高さは、回路基板110と絶縁部材113との間の距離Ds未満の範囲内であって、絶縁部材113の上面からモールド樹脂115の上面までが所定の距離Dmとなるよう設定されている。
【0075】
スイッチング素子111の端子12d,12g,12sの長さには所定の上限があり、また、スイッチング部10を含む電源回路100の大型化を抑制するため、回路基板110及び絶縁部材113間の距離Dsには制限がある。したがって、モールド樹脂115の高さである距離Dmはいっそう小さな値となる。
【0076】
一方、例えば絶対値で10kV以上の高電圧となる、電極13d,13g,13s等の回路基板110の導電部付近では電界強度が大きく、コロナ放電が発生しやすい状態となる。このようなコロナ放電を抑制するための、適正なモールド樹脂115の高さについて以下に考察する。
【0077】
図4は、実施形態にかかるモールド樹脂115の高さモデルについて説明する図である。
【0078】
図4に示すように、接地されている導電部材114は0kVの電位を有する。
【0079】
また、例えば上述の
図1(a)で示した12kV等の高電圧がスイッチング素子111の端子12dに印加されている場合、スイッチング素子111がオンすると、端子12sも高電位となる。また、スイッチング素子111の端子12gには、例えば上述の
図2の例のように24V等の、端子12sに対して所定の電位差だけ異なる電圧が印加される。したがって、スイッチング素子111がオンすると、端子12gもまた高電位となる。
【0080】
このため、電極13d,13g,13s等の回路基板110の導電部全体が、12kV等の高電位を有することとなる。コロナ放電は、高電位部分と低電位部分との間に存在する部材に、これらの部材の絶縁耐圧以上の電圧が印加された場合に発生する。
【0081】
図4の例において、0kVの電位を有する導電部材114と、12kVの電位を有する回路基板110との間に存在するのは、窒化アルミニウム等の絶縁部材113、モールド樹脂115、及びモールド樹脂115の上面と回路基板110の下面との間隙に存在する空気層である。なお、絶縁シート112は、例えばこれらの部材に比べて十数μm程度の極めて薄い部材であるので、ここでは考慮に入れないものとする。
【0082】
ここで、絶縁部材113、モールド樹脂115、及び空気層に印加される電圧をそれぞれVc,Vb,Vaとし、これらの寄生容量をCc,Cb,Caとすると、これらの電圧および寄生容量は以下の関係を有する。
【0083】
Va:Vb:Vc=1/Ca:1/Cb:1/Cc
【0084】
また、上記の関係式より、空気層に印加される電圧Vaは以下のように求められる。
【0085】
Va=12kV×(1/Ca)/(1/Ca)+(1/Cb)+(1/Cc)
=3.59kV
【0086】
なお、寄生容量は、その部材の誘電率ε、厚さd、及び面積Sより、以下のように求められる値である。
【0087】
C=ε・S/d
【0088】
ここで、絶縁部材113、モールド樹脂115、及び空気層の誘電率εは、絶縁部材113を窒化アルミニウム、モールド樹脂115をシリコーン樹脂として、それぞれ8.5、6、1である。また、絶縁部材113、モールド樹脂115、及び空気層の厚さdを、それぞれ10mm、7mm、1mmと仮定した。また、絶縁部材113、モールド樹脂115、及び空気層の面積Sは上記式の計算過程で互いに消去されるので考慮していない。
【0089】
このような場合、上記のように、空気層に印加される電圧Vaは3,59kVであり、このときの1mm厚の空気層の絶縁耐圧は3kVであるので、モールド樹脂115と回路基板110との間の空気層の厚さdが1mmであると、絶縁耐圧が不足してコロナ放電が発生しうる。
【0090】
以上を踏まえて、より実際に即した構成について考える。実施形態のスイッチング部10においては、上述の
図3に示す回路基板110及び絶縁部材113間の距離Dsは、一例として12mmでありうる。
【0091】
これを前提として、空気層に印加される電圧Vaよりも空気層の絶縁耐圧を高めるには、空気層の厚さdを例えば1mm超であって、例えば3mm以上とすることが好ましい。例えば3mm厚の空気層には5.82kVの電圧Vaが印加されることとなり、また、3mm厚の空気層の絶縁耐圧は9kVである。よって、3mm厚の空気層は、印加される電圧Vaに対して充分な絶縁耐圧を有し、理論上、コロナ放電は発生しない。
【0092】
上述の
図3によれば、モールド樹脂115の上面と回路基板110の下面との間隙に存在する空気層の厚さは、距離(Ds-Dm)であるから、モールド樹脂115の高さである距離Dmを11mm未満に抑えることが好ましく、9mm以下に抑えることがより好ましい。これにより、1mm超であって、例えば3mm以上に空気層の厚さdを確保することができる。
【0093】
【0094】
まず、水冷銅板等の導電部材114の上面に窒化アルミニウム等の絶縁部材113を設ける。また、絶縁部材113上に、複数のスイッチング素子111を配置する。このとき、断熱性を有する空気層が侵入しないよう、絶縁部材113とスイッチング素子111との間に絶縁シート112を介在させる。その様子を
図5に示す。
【0095】
図5は、実施形態にかかる絶縁部材113とスイッチング素子111との間に絶縁シート112が設けられる様子を示す拡大断面図である。
【0096】
図5(a)に示すように、絶縁部材113上に、絶縁シート112をそれぞれ介して、複数のスイッチング素子111を配置する。絶縁部材113とスイッチング素子111とは、表面に微細な凹凸を有している。このため、この時点では、絶縁部材113と絶縁シート112との間、及び絶縁シート112とスイッチング素子111との間には微細な隙間が存在する。
【0097】
図5(b)に示すように、絶縁シート112を所定温度に加熱すると、絶縁シート112が熱により軟化して、絶縁部材113と複数のスイッチング素子111とが接着される。このとき、絶縁シート112が軟化することで、絶縁部材113とスイッチング素子111とが表面に有する微細な凹凸に絶縁シート112が入り込む。よって、空気層の侵入が抑制されて、絶縁部材113と複数のスイッチング素子111とが密着される。
【0098】
これにより、複数のスイッチング素子111が、絶縁シート112により絶縁部材113上に接着され、また、絶縁部材113を介して導電部材114に熱的に接続されることとなるので、スイッチング素子111を効率よく冷却することが可能な構成が得られる。
【0099】
この後、端子12d,12g,12sを上面から突出させつつ、スイッチング素子111をモールド樹脂115により封止する。モールド樹脂115によるスイッチング素子111の封止は、例えば金型を用いた成形方法等を用いて行うことができる。
【0100】
すなわち、導電部材114上面に設けられた絶縁部材113上に、絶縁シート112により接着された複数のスイッチング素子111を金型に配置し、金型内に加熱溶融されたシリコーン樹脂等を注入する。この後、熱可塑性を有するシリコーン樹脂が冷却され固化することでモールド樹脂115が形成される。なお、上述のように、絶縁シート112は熱軟化性を有するため、モールド樹脂115形成時の熱によって変質または分解することが抑制される。
【0101】
次に、モールド樹脂115で封止された複数のスイッチング素子111の上方に、回路基板110を支持する。また、複数のスイッチング素子111を封止するモールド樹脂115の上面から突出するそれぞれの端子12d,12g,12sを、回路基板110の電極13d,13g,13sにそれぞれ接続することで、複数のスイッチング素子111が互いに直列接続されるよう回路基板110に実装される。
【0102】
【0103】
以上、
図3~
図5を用いて、スイッチング部10のスイッチング素子111を主体とする構成について説明したが、上述のスイッチング部20についても、上記に説明した各種構成を適用することができる。
【0104】
(概括)
半導体製造工程等の一環として行われるプラズマ処理工程において、高電圧パルス電源等の電源回路が用いられる場合がある。このような電源回路には、パルス電圧を出力させるためスイッチング素子が使用されている。高電圧下で動作するスイッチング素子には、絶縁対策が採られている。
【0105】
しかしながら、出力電圧が例えば絶対値で10kV以上ともなると、スイッチング素子の高電圧となる部品付近の電界強度が大きくなってコロナ放電が発生しやすくなる。また、高電圧下で高速動作を行うスイッチング素子は発熱しやすく、発熱による破損を抑制するため、窒化アルミニウムのセラミックス板を設けた水冷銅板等の冷却機構が用いられる。
【0106】
上記の冷却機構において、例えば水冷銅板とスイッチング素子との間に挿入されるセラミックス板を厚くすれば、高電位の回路基板と基準電位の水冷銅板との距離を長くとることができ、コロナ放電を発生し難くすることができる。しかしながら、セラミックス板を厚くすることで、水冷銅板からスイッチング素子が遠ざかることとなり冷却効率が低下してしまう。
【0107】
また、上述したように、これらの部材間の距離には制約があり、このような装置構成上、スイッチング素子と、セラミックス板および水冷銅板等との電位差のある部材間で充分な絶縁距離を確保することが困難である。したがって、コロナ放電によるスイッチング素子の破損を防ぐため、更なる対策が求められている。
【0108】
実施形態の電源回路100によれば、回路基板110と非接触に、複数のスイッチング素子111の本体部11及び絶縁シート112を覆うモールド樹脂115を備える。これにより、高電圧が印加される高電位部位とグランド電位の部材との間でのコロナ放電を抑制することができる。
【0109】
実施形態の電源回路100によれば、複数のスイッチング素子111と絶縁部材113との間にそれぞれ介在され、熱軟化性を有する絶縁シート112を備える。これにより、スイッチング素子111と絶縁部材113との密着性が向上し、コロナ放電をいっそう抑制することが可能となる。
【0110】
また、これまでの技術では、スイッチング素子をセラミックス板上に配置する際、スイッチング素子とセラミックス板との間に空気層が侵入して断熱されないよう、例えばサーマルグリース等をセラミックス板に塗布したうえで、スイッチング素子を配置していた。
【0111】
しかしながら、このような構成に対して例えばモールド樹脂による封止を行うと、モールド樹脂成型時の熱で、サーマルグリースが揮発して気泡が生じたり、サーマルグリースの油分が分離して、その周辺でモールド樹脂が充分に固化せずに、気泡が含まれてしまったりする懸念がある。
【0112】
上記のように、例えばサーマルグリースに替えて、熱軟化性を有する絶縁シート112を用いることで、モールド樹脂115成型時の熱による絶縁シート112の変質および分解等を抑制し、モールド樹脂115内に気泡が混入してしまうのを抑制することができる。
【0113】
このように、モールド樹脂115でスイッチング素子111を封止することでコロナ放電の発生を抑え、一方で、絶縁シート112を用いて放熱効果を高めることができる。
【0114】
実施形態の電源回路100によれば、回路基板110の電極13d,13g,13s等とモールド樹脂115の上面との距離は、回路基板110の電極13d,13g,13s等とモールド樹脂115との間で放電が生じないように設定された距離である。
【0115】
上述したように、回路基板110とモールド樹脂115との距離(Ds-Dm)を充分に確保しないと、これらの部材間の空気層においてコロナ放電が発生しうる。上記のように距離(Ds-Dm)を設定することで、このようなコロナ放電をいっそう抑制することができる。
【0116】
また、高電位の回路基板110から基準電位の導電部材114を遠ざける等の対策を採らずともコロナ放電が抑制される。したがって、例えば絶縁部材113を厚くする必要もないので、良好な冷却効率を維持することが可能である。また、電源回路100の小型化を図ることが容易となる。
【0117】
実施形態の電源回路100によれば、スイッチング素子111の端子12dに印加される所定電位の電圧は、電位の絶対値が10kV以上である。このように、例えば絶対値で10kV以上の印加電圧を取り扱う場合にも、上記に述べた構成により、コロナ放電の発生を抑制しつつ、実施形態の電源回路100を適用することができる。
【0118】
なお、本発明者らによる実験では、絶対値で12kV程度までの印加電圧を取り扱う場合でも、コロナ放電の発生を抑制できることが確認されている。これまでの電源回路では、絶対値が10kV程度でコロナ放電していたことに鑑みると、実施形態の上記構成を採用することで、コロナ放電に対し充分な対策がなされたと言える。
【0119】
なお、上述の実施形態では、スイッチング素子111と絶縁部材113との間に絶縁シート112を介在させることとした。しかし、これらの部材間に、例えばモールド樹脂115と同様の材料を介在させてもよい。
【0120】
例えばモールド樹脂115の材料となりうるシリコーン樹脂は、充分な粘着性を有する。このため、シリコーン樹脂等のモールド樹脂を用いた場合にも、スイッチング素子111と絶縁部材113との密着性を高めることができる。また、シリコーン樹脂等のモールド樹脂もまた、良好な熱伝導率を有している。よって、モールド樹脂によってもスイッチング素子111の放熱性を充分に高めることができる。
【0121】
また、上述の実施形態では、スイッチング素子111を対象としてコロナ放電対策を行うこととした。しかし、上述の実施形態の構成は、スイッチング素子111に限らず高電圧の制御に用いられる各種デバイスに適用可能である。
【0122】
(付記)
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0123】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
基準電位の導電部材と、
前記導電部材の表面に配置される第1の絶縁部材と、
前記第1の絶縁部材の前記導電部材とは反対側の表面側に配置され、本体部、及び前記本体部から延びる端子部をそれぞれ有する複数のスイッチング素子と、
前記複数のスイッチング素子と前記第1の絶縁部材との間にそれぞれ介在され、熱軟化性を有するシート状の第2の絶縁部材と、
前記複数のスイッチング素子から見て、前記導電部材から遠ざかる方向に離れた位置に配置され、前記複数のスイッチング素子の前記端子部が接続されることにより、前記複数のスイッチング素子が直列接続されるように実装された回路基板と、
前記回路基板と非接触に、前記複数のスイッチング素子の前記本体部および前記第2の絶縁部材を覆う第3の絶縁部材と、を備える、
電源回路が提供される。
【0124】
これにより、高電圧が印加される高電位部位とグランド電位の部材との間でのコロナ放電を抑制することができる。
【0125】
(付記2)
上記の付記1の電源回路において、
前記導電部材と前記第1の絶縁部材との接触面は平面である。
【0126】
これらの部材の接触面が平面であると、これらの部材の接触面積を最大化できるので、放熱効果を高めることができる。
【0127】
(付記3)
上記の付記1の電源回路において、
前記端子部は、前記本体部を覆う前記第3の絶縁部材の内部において端子形状が前記回路基板側を向くように変形されている。
【0128】
このように端子形状が変形され、尖った部分を有する場合でも、第3の絶縁部材でこの部分を覆うことでコロナ放電の発生を抑制することができる。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0130】
10,20…スイッチング部、11…本体部、12d,12g,12s…端子、13d,13g,13s…電極、30…出力端子、40…出力ノード、100…電源回路、110,120…回路基板、111…スイッチング素子、112…絶縁シート、113…絶縁部材、114…導電部材、115…モールド樹脂。