(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044628
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】銀焼結接合のためのめっき方法、銀焼結接合のためのめっき皮膜、パワーモジュール用基板、半導体素子及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
C23C 18/52 20060101AFI20240326BHJP
C23C 18/42 20060101ALI20240326BHJP
C23C 18/32 20060101ALI20240326BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C23C18/52 B
C23C18/42
C23C18/32
H01L23/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150271
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大久保 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】小田 幸典
(72)【発明者】
【氏名】村山 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅亮
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA42
4K022BA01
4K022BA14
4K022BA36
4K022DA01
4K022DA03
4K022DB02
4K022DB04
4K022DB08
4K022EA04
(57)【要約】
【課題】ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有する、銀焼結接合のためのめっき方法、銀焼結接合のためのめっき皮膜、該めっき皮膜を備えたパワーモジュール用基板、該めっき皮膜を備えた半導体素子及び該パワーモジュール用基板を備えた半導体装置を提供する。
【解決手段】被めっき面の上側に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成するバリア層形成工程と、
無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、被めっき面の最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて、無電解銀めっき皮膜を形成する最表層形成工程と
を含む銀焼結接合のためのめっき方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき面の上側に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成するバリア層形成工程と、
無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、被めっき面の最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて、無電解銀めっき皮膜を形成する最表層形成工程と
を含む銀焼結接合のためのめっき方法。
【請求項2】
前記置換型無電解銀めっき浴が、アミド化合物、イミド化合物、及び含硫黄有機化合物からなる群より選択される少なくとも1種の錯化剤を含む請求項1記載のめっき方法。
【請求項3】
前記置換型無電解銀めっき浴が、ホスフィン酸化合物、及び含窒素複素環化合物からなる群より選択される少なくとも1種の調整剤を含む請求項1又は2記載のめっき方法。
【請求項4】
前記置換型無電解銀めっき浴が、キレート剤を含む請求項1~3のいずれかに記載のめっき方法。
【請求項5】
前記無電解銀めっき皮膜の膜厚が0.01~1.0μmである請求項1~4のいずれかに記載のめっき方法。
【請求項6】
無電解ニッケルめっき皮膜と、
無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜と
を有する銀焼結接合のためのめっき皮膜。
【請求項7】
前記置換型無電解銀めっき浴が、アミド化合物、イミド化合物、及び含硫黄有機化合物からなる群より選択される少なくとも1種の錯化剤を含む請求項6記載のめっき皮膜。
【請求項8】
前記置換型無電解銀めっき浴が、ホスフィン酸化合物、及び含窒素複素環化合物からなる群より選択される少なくとも1種の調整剤を含む請求項6又は7記載のめっき皮膜。
【請求項9】
前記置換型無電解銀めっき浴が、キレート剤を含む請求項6~8のいずれかに記載のめっき皮膜。
【請求項10】
前記無電解銀めっき皮膜の膜厚が0.01~1.0μmである請求項6~9のいずれかに記載のめっき皮膜。
【請求項11】
基材と、
前記基材上に形成された回路と、
前記回路表面に形成されためっき皮膜とを備えたパワーモジュール用基板であって、
前記めっき皮膜が、請求項6~10のいずれかに記載のめっき皮膜であるパワーモジュール用基板。
【請求項12】
前記回路が銅及び/又はアルミニウムからなる回路である請求項11記載のパワーモジュール用基板。
【請求項13】
前記めっき皮膜の表面が、銀焼結接合面である請求項11又は12記載のパワーモジュール用基板。
【請求項14】
請求項6~10のいずれかに記載のめっき皮膜を表面に有する半導体素子。
【請求項15】
請求項11~13のいずれかに記載のパワーモジュール用基板、及び/又は、請求項14に記載の半導体素子を備える半導体装置。
【請求項16】
請求項11~13のいずれかに記載のパワーモジュール用基板、及び/又は、請求項14に記載の半導体素子が有する前記めっき皮膜の表面が、銀焼結接合面である請求項15記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀焼結接合のためのめっき方法、銀焼結接合のためのめっき皮膜、パワーモジュール用基板、半導体素子、及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体として従来からSi(シリコン)半導体が使用されている。そして、近年、Si半導体に比べてより高温での動作が可能なSiC(シリコンカーバイド)半導体やGaN(ガリウムナイトライド)半導体の使用が進んできている。そのため、半導体の動作温度は200℃以上に高温化する見込みで、半導体素子を基板に接合するダイボンド部の耐熱性も必要となりつつある。そこで注目されている接合技術の一つに銀焼結接合がある。一方、銀焼結接合を行うためには、基板など接合を行う部材の表面処理が必要となり、その表面処理により形成される皮膜にも同様に耐熱性が必要となってくる。
【0003】
例えば、特許文献1には、下地層であるニッケルめっき皮膜と、ニッケルめっき皮膜の上に形成された特定の合金めっき皮膜とからなる皮膜により、半導体素子と支持体との接合部であるダイアタッチ部における耐熱信頼性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板には、基材上に銅やアルミニウムにより形成された回路が設けられている。そして、回路への半導体素子の接合に、銀焼結接合を用いる場合、良好な接合強度を確保するために、銀焼結層と接することとなる回路の最表層に、銀めっき皮膜が用いられることがある。銀めっき皮膜により良好な初期接合強度が得られるものの、銀めっき皮膜は酸素を通しやすく、特に高温条件下では、銅やアルミニウムのような下地金属の酸化を招き、接合強度を低下させるおそれがあり、耐熱性に劣る傾向がある。この問題を解決するためには、下地金属の酸化バリア層を更に設ける必要がある。
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、下地金属の酸化を防ぐために、ニッケルめっき皮膜をバリア層として用いることが可能であるが、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性が十分に確保できないことが新たに判明した。
更に、本発明者らが鋭意検討した結果、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜間の密着層として、パラジウム(Pd)めっき皮膜や白金(Pt)めっき皮膜等を用いることにより、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を確保できることを見出したが、パラジウムや白金は高価であるため、コストの問題があることも判明した。
【0007】
本発明は、本発明者らが新たに見出した前記課題を解決し、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有する、銀焼結接合のためのめっき方法、銀焼結接合のためのめっき皮膜、該めっき皮膜を備えたパワーモジュール用基板、該めっき皮膜を備えた半導体素子及び該パワーモジュール用基板を備えた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、銀めっき皮膜として、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を用いることにより、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性も得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、被めっき面の上側に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成するバリア層形成工程と、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、被めっき面の最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて、無電解銀めっき皮膜を形成する最表層形成工程と
を含む銀焼結接合のためのめっき方法に関する。
【0009】
前記置換型無電解銀めっき浴が、アミド化合物、イミド化合物、及び含硫黄有機化合物からなる群より選択される少なくとも1種の錯化剤を含むことが好ましい。
【0010】
前記置換型無電解銀めっき浴が、ホスフィン酸化合物、及び含窒素複素環化合物からなる群より選択される少なくとも1種の調整剤を含むことが好ましい。
【0011】
前記置換型無電解銀めっき浴が、キレート剤を含むことが好ましい。
【0012】
前記無電解銀めっき皮膜の膜厚が0.01~1.0μmであることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、無電解ニッケルめっき皮膜と、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜とを有する銀焼結接合のためのめっき皮膜(めっき皮膜積層体)に関する。
【0014】
前記置換型無電解銀めっき浴が、アミド化合物、イミド化合物、及び含硫黄有機化合物からなる群より選択される少なくとも1種の錯化剤を含むことが好ましい。
【0015】
前記置換型無電解銀めっき浴が、ホスフィン酸化合物、及び含窒素複素環化合物からなる群より選択される少なくとも1種の調整剤を含むことが好ましい。
【0016】
前記置換型無電解銀めっき浴が、キレート剤を含むことが好ましい。
【0017】
前記無電解銀めっき皮膜の膜厚が0.01~1.0μmであることが好ましい。
【0018】
本発明はまた、基材と、前記基材上に形成された回路と、前記回路表面に形成された前記めっき皮膜とを備えたパワーモジュール用基板に関する。
【0019】
前記回路が銅及び/又はアルミニウムからなる回路であることが好ましい。
【0020】
前記めっき皮膜の表面が、銀焼結接合面であることが好ましい。
【0021】
本発明はまた、前記めっき皮膜を表面に有する半導体素子に関する。
【0022】
本発明はまた、前記パワーモジュール用基板、及び/又は、前記めっき皮膜を表面に有する半導体素子を備える半導体装置に関する。
【0023】
前記半導体装置は、前記パワーモジュール用基板、及び/又は、前記めっき皮膜を表面に有する半導体素子が有する前記めっき皮膜の表面が、銀焼結接合面であることが好ましい。
【0024】
前記半導体装置はまた、前記パワーモジュール用基板と、半導体素子を備え、前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、前記半導体素子が、銀焼結接合されていることが好ましい。
該半導体装置において、前記半導体素子が、前記めっき皮膜を表面に有する半導体素子であることが好ましい。
【0025】
前記半導体装置はまた、パワーモジュール用基板と、前記めっき皮膜を表面に有する半導体素子を備え、
前記半導体素子の前記めっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板が、銀焼結接合されている半導体装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、被めっき面の上側に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成するバリア層形成工程と、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、被めっき面の最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて、無電解銀めっき皮膜を形成する最表層形成工程とを含む銀焼結接合のためのめっき方法であるので、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有する。
【0027】
また、本発明によれば、無電解ニッケルめっき皮膜と、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜とを有する銀焼結接合のためのめっき皮膜(めっき皮膜積層体)であるので、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有する。
【0028】
また、本発明によれば、基材と、前記基材上に形成された回路と、前記回路表面に形成された、特定のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)とを備えたパワーモジュール用基板であるので、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有する。
【0029】
また、本発明によれば、特定のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)を表面に有する半導体素子であるので、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有しており、信頼性の高い半導体素子である。
【0030】
また、本発明によれば、特定のパワーモジュール用基板、及び/又は、特定の半導体素子を備える半導体装置であるので、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有しており、信頼性の高い半導体装置である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態に係るめっき皮膜の概略を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るパワーモジュール用基板の概略を示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る半導体素子の概略を示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るパワーモジュール用基板と、半導体素子の接合の概略を示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るパワーモジュール用基板と、半導体素子の接合の概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の銀焼結接合のためのめっき方法は、被めっき面の上側に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成するバリア層形成工程と、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、被めっき面の最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて、無電解銀めっき皮膜を形成する最表層形成工程とを含む。
本発明の銀焼結接合のためのめっき皮膜(めっき皮膜積層体)は、無電解ニッケルめっき皮膜と、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜とを有する。
これにより、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有する。
【0033】
前記めっき方法、前記めっき皮膜(めっき皮膜積層体)で前述の効果が得られる理由は、以下のように推察される。
前記の通り、無電解ニッケルめっき皮膜は、酸素に対するバリア層として十分に機能するため、良好な耐熱性が得られる。
更に、最表層に置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を設けることにより、銀焼結材料との初期接合強度も十分に得られる。ここで、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜は、膜厚分布が良好であるため、安定した銀焼結材料との初期接合強度が得られる。更に、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜は、ニッケルめっき皮膜との密着性が良好であるため、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保できる。
以上の通り、ニッケルめっき皮膜(好ましくは無電解ニッケルめっき皮膜)と、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜の相乗作用により、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有する。
よって、前記めっき方法、前記めっき皮膜積層体は、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、最表層として置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を有するため、良好な初期接合強度を有しつつ、更に、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有するため、銀焼結接合に好適に適用可能である。
【0034】
<めっき方法>
本発明の銀焼結接合のためのめっき方法は、
被めっき面の上側に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成するバリア層形成工程と、
無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、被めっき面の最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて、無電解銀めっき皮膜を形成する最表層形成工程と
を含む。
【0035】
本明細書において、被めっき面とは、めっき皮膜が形成される面を意味し、例えば、基材上に形成された回路にめっき皮膜を形成する場合、被めっき面は、回路表面である。
【0036】
本明細書において、被めっき面の上側とは、被めっき面の上側に位置すれば特に限定されず、被めっき面の表面、すなわち、めっき皮膜の最下層であってもよく、めっき皮膜の最下層以外の層であってもよい。
よって、本明細書において、被めっき面の上側に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成するとは、被めっき面の上側に無電解ニッケルめっき皮膜を形成する限り特に限定されず(ただし、めっき皮膜の最表層は除く)、被めっき面の表面、すなわち、めっき皮膜の最下層として、無電解ニッケルめっき皮膜を形成する態様だけではなく、めっき皮膜の最下層以外の層(ただし、めっき皮膜の最表層は除く)として、例えば、被めっき面の表面に、1以上のめっき皮膜を形成した後に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成する態様も含まれる。
また、本明細書において、他の同様の表現、例えば、無電解ニッケルめっき皮膜の上側も同様の意味である。
また、本明細書において、被めっき面の表面とは、被めっき面上を意味し、他の同様の表現、例えば、無電解ニッケルめっき皮膜の表面も同様の意味で、無電解ニッケルめっき皮膜上を意味する。
【0037】
本明細書において、被めっき面の最表層に、無電解銀めっき皮膜を形成するとは、被めっき面に設けられるめっき皮膜(めっき皮膜積層体)の最表層として、無電解銀めっき皮膜を形成することを意味する。
【0038】
<<バリア層形成工程>>
バリア層形成工程では、被めっき面の上側に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成する。これにより、酸素に対するバリア層として十分に機能する無電解ニッケルめっき皮膜を形成でき、良好な耐熱性が得られる。
【0039】
バリア層形成工程としては、被めっき面の表面に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成する工程であることが好ましい。これにより、より良好な耐熱性が得られると共に、コスト面でも有利である。
【0040】
バリア層として、無電解ニッケルめっき皮膜を形成することが重要であり、めっき皮膜の形成方法は特に限定されない。めっき皮膜の形成方法としては、特に限定されず、例えば、無電解めっき、電気めっき、溶融めっき、真空めっき(PVD)、気相めっき(CVD)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、低コスト、設備の簡易さ、生産性という理由から、無電解めっき、電気めっきが好ましく、無電解めっきがより好ましい。
【0041】
無電解めっきの方法としては、特に限定されず、還元剤によってめっき浴中の金属を析出させればよく、当業者であれば、公知の方法に従って適宜実施できる。
【0042】
還元剤としては、めっき浴中の水溶性金属化合物を金属に還元する能力を有するものであって水溶性の化合物であれば特に限定されないが、例えばヒドラジン誘導体、ホルムアルデヒド化合物、ヒドロキシルアミン類、糖類、亜リン酸、ギ酸、水素化ホウ素化合物、次亜リン酸塩、ジメチルアミンボラン、アスコルビン酸等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
バリア層形成工程により形成される、無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚は、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは7μm以下であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0044】
バリア層形成工程により形成される、無電解ニッケルめっき皮膜は、他の金属を含む合金皮膜であってもよい。
【0045】
他の金属としては、特に限定されず、例えば、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル、バナジウム等の周期表第5族又は第6族遷移金属元素等が挙げられる。また、他の金属として、還元剤由来のリン、ホウ素、添加剤由来の、炭素、窒素、酸素、硫黄等が含まれていてもよい。他の金属は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、より良好な耐熱性が得られるという理由から、リン、ホウ素が好ましい。
【0046】
無電解ニッケルめっき皮膜中の他の金属(好ましくはリン、ホウ素)の含有率は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、更に好ましくは11質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
ここで、複数種の他の金属を含有する場合は、前記含有率は合計含有率を意味する。
【0047】
無電解ニッケルめっき皮膜中のニッケルの含有率は、好ましくは85質量%以上、より好ましくは87質量%以上、更に好ましくは89質量%以上であり、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0048】
本明細書において、めっき皮膜中の各金属の含有率は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置により測定され、具体的には、実施例に記載の方法により測定される。
【0049】
<<<最表層形成工程>>>
最表層形成工程では、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、被めっき面の最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて、無電解銀めっき皮膜を形成する。すなわち、最表層形成工程では、被めっき面に設けられるめっき皮膜(めっき皮膜積層体)の最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を形成する。これにより、めっき皮膜積層体の上側の最表層に銀めっき皮膜を形成でき、銀焼結材料との初期接合強度が十分に得られる。ここで、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜は、膜厚分布が良好であるため、安定した銀焼結材料との初期接合強度が得られる。更に、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜は、ニッケルめっき皮膜との密着性が良好であるため、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保できる。
【0050】
最表層形成工程としては、無電解ニッケルめっき皮膜の表面に、被めっき面の最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて、無電解銀めっき皮膜を形成する工程であることが好ましい。これにより、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜とのより良好な密着性が得られると共に、コスト面でも有利である傾向がある。
【0051】
前記無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を形成することが重要であり、置換型無電解銀めっき浴を用いる点以外は、めっき皮膜の形成方法は特に限定されない。めっき皮膜の形成方法としては、置換型無電解銀めっき浴を用いる点以外は、バリア層形成工程と同様である。なかでも、無電解ニッケルめっき皮膜の表面へ好適に置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を形成できるという理由から、pHが6.0~12.0の置換型無電解銀めっき浴を用いることが好ましい。
【0052】
置換型無電解銀めっき浴は、銀化合物を含む。
銀化合物は、水溶性の銀化合物であれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、塩化銀、硝酸銀、酸化銀、硫酸銀、亜硫酸銀、炭酸銀、酢酸銀、乳酸銀、スルホコハク酸銀、スルファミン酸銀、スルファジアジン銀、シュウ酸銀、シアン化銀、エタンスルホン酸銀、フェノールスルホン酸銀、塩化銀、メタンスルホン酸銀等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、硝酸銀、酸化銀が好ましく、硝酸銀がより好ましい。
【0053】
置換型無電解銀めっき浴は銀化合物を銀(金属銀(Ag))濃度として0.1~3.0g/L含むことが好ましく、0.5~1.5g/L含むことがより好ましい。0.1g/L未満では、外観ムラ、膜厚分布の悪化を引き起こすおそれがあり、充分な密着性が確保できない傾向がある。3.0g/L超では、外観ムラ、膜厚分布の悪化を引き起こすおそれがあり、充分な密着性が確保できない傾向がある。
なお、本明細書において、めっき浴中の、銀(金属銀(Ag))などの金属濃度は、ICP(堀場製作所社製)により測定される。
【0054】
置換型無電解銀めっき浴は、錯化剤を含むことが好ましい。これにより、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜は、ニッケルめっき皮膜との密着性がより良好となる傾向がある。
錯化剤は、銀イオンを安定して溶解させることが可能な化合物であれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、アミド化合物、イミド化合物、含硫黄有機化合物、含窒素化合物(アミド化合物、イミド化合物以外の含窒素化合物)等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、アミド化合物、イミド化合物、含硫黄有機化合物が好ましく、アミド化合物、イミド化合物がより好ましい。
【0055】
アミド化合物としては、特に限定されず、例えば、ベンズアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ビニルピロリドン、ピロリドン、N-ブチルピロリドン、5-メチルピロリドン、N-メチルピペリジノン、N-エチルピペリジノン、N-ブチルピペリジノン、N-ベンゾイルグリシン、サリチルアミド、ニコチンアミド等の環状アミド化合物;アセトアミド、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-N-フェニルホルムアミド、N,N-ジフェニルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-N-フェニルアセトアミド、N,N-ジフェニルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-エチル-N-フェニルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-エチル-N-フェニルアセトアミド、オキサミン酸、アクリルアミド等の鎖状アミド化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
イミド化合物としては、特に限定されず、例えば、ヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、1-メチルヒダントイン、1,3-ジメチルヒダントイン、5,5'-ジフェニルヒダントイン、グルタルイミド、スクシンイミド、バルビツール酸、フタルイミド、マレイミド等の環状イミド化合物;ビス(フルオロスルホニル)イミド塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド塩、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド塩、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミド塩、(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド塩等の鎖状イミド化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
含硫黄有機化合物としては、特に限定されず、例えば、メタンチオール、エタンチオール、チオフェノール、システイン、グルタチオン、4-メルカプト安息香酸、チオグリコール酸等のチオール系含硫黄有機化合物;ジメチルスルフィド、メチオニン、アセチルメチオニン、3,6-ジチアオクタンジオール、チオジグリコール酸等のスルフィド系含硫黄有機化合物;チオ尿素、1,3-ジエチル-2-チオ尿素、テトラメチルチオ尿素、アリルチオ尿素等のチオ尿素系含硫黄有機化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
置換型無電解銀めっき浴は錯化剤を1~50g/L含むことが好ましく、5~45g/L含むことがより好ましく、10~40g/L含むことが更に好ましく、20~40g/L含むことが特に好ましい。1g/L未満では、充分な密着性が確保できず、また、Ag濁りが発生する傾向がある。50g/L超では、充分な密着性が確保できず、また、溶解しにくく、コスト面でも不利となる傾向がある。
ここで、複数種の錯化剤を含有する場合は、前記濃度は合計濃度を意味し、他の成分についての濃度も同様である。
【0059】
置換型無電解銀めっき浴は、キレート剤を含むことが好ましい。
キレート剤は、置換反応の進行によってめっき浴中に溶解する下地金属(例えば、ニッケル)が増加するが、この下地金属(例えば、ニッケル)と錯体を形成し、下地金属イオン(例えば、ニッケルイオン)を安定して溶解させることが可能な化合物であれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ3酢酸(NTA)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、メチルエチレンジアミン四酢酸(PDTA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(DHEG)、エチドロン酸(HEDP)、
エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(HDTMP)等の含窒素、リン系キレート剤;クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、酢酸、コハク酸、シュウ酸、グリコール酸、ギ酸等の有機酸系キレート剤;グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、イミノジ酢酸、ロイシン、イソロイシン、リジン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、セリン、チロシン等のアミノ酸系キレート剤等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
置換型無電解銀めっき浴はキレート剤を1~50g/L含むことが好ましく、3~40g/L含むことがより好ましく、5~20g/L含むことが更に好ましく、5~15g/L含むことが特に好ましい。1g/L未満では、充分な密着性(特に、老化時(Ni溶解時))が確保できない傾向がある。50g/L超では、充分な密着性が確保できず、また、溶解しにくく、コスト面でも不利となる傾向がある。
【0061】
置換型無電解銀めっき浴は、調整剤(緩衝剤)を含むことが好ましい。調整剤は、pH緩衝性を高め、置換反応の促進効果を有し、密着性をより改善できる。
調整剤は、pH緩衝性を有し、置換反応の促進効果を有する化合物であれば特に限定されない。その具体例としては、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、次亜リン酸、亜リン酸、メタリン酸、ジメチルアリル二リン酸、アデノシン酸リン酸、ピロリン酸テトラエチル、チアミンピロリン酸、クレアチンリン酸等のホスフィン酸化合物(ホスフィン酸系調整剤);イミダゾール、イミダゾリン、チアゾール、チアゾリン、ピロール、ピラゾリン、ピリジン、キノリン、トリアゾール、テトラゾール、インドール、インドリジン、ピラジン等の含窒素複素環化合物(含窒素複素環化合物系調整剤)等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
置換型無電解銀めっき浴は調整剤を0.1~50g/L含むことが好ましく、3~40g/L含むことがより好ましく、5~20g/L含むことが更に好ましく、5~15g/L含むことが特に好ましい。0.1g/L未満では、pHの変動が大きく、外観、密着性にばらつきが出やすい傾向がある。50g/L超では、溶解しにくく、充分な密着性が確保できず、また、コスト面でも不利となる傾向がある。
【0063】
置換型無電解銀めっき浴のpHは、好ましくは1.0~12.0、より好ましくは2.0~12.0、更に好ましくは3.0~12.0であり、下限は、特に好ましくは4.0以上、最も好ましくは5.0以上、より最も好ましくは6.0以上である。1.0未満では、充分な密着性が確保できない傾向がある。12.0超では、充分な密着性が確保できない傾向がある。
なお、本明細書において、めっき浴のpHは、25℃において測定される値である。
【0064】
置換型無電解銀めっき浴のpHの調整は、配合する各種成分の種類の選択により行なうこともできる。また必要に応じて、アルカリ成分、酸成分を添加してもよい。
アルカリ成分は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニウム等が挙げられる。酸成分は、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸、リン酸等が挙げられる。これらアルカリ成分、酸成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
置換型無電解銀めっき浴は、前記成分と共に、めっき浴に汎用されている成分、例えば、界面活性剤、光沢剤等を含有してもよい。また、上記以外の金属、例えば、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、パラジウム、鉛、ビスマス、タリウム等の金属の水溶性塩類を含有してもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
置換型無電解銀めっき浴は、無電解ニッケルめっき皮膜の表面に、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を形成するための金属置換処理液として好適に使用可能である。
【0067】
最表層形成工程では、例えば、無電解ニッケルめっき皮膜の表面を、置換型無電解銀めっき浴に接触させ、無電解ニッケルめっき皮膜の表面に、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を形成する。
【0068】
最表層形成工程において、置換型無電解銀めっき浴の温度(浴温)は特に限定されないが、好ましくは25~80℃、より好ましくは30~70℃、更に好ましくは40~60℃である。置換型無電解銀めっき浴により処理する時間も特に限定されないが、好ましくは1分~60分、より好ましくは5分~30分である。
【0069】
無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、最表層形成工程により形成される、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜の膜厚は、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.7μm以下、更に好ましくは0.5μm以下であり、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.1μm以上である。前記範囲内であると、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜とのより良好な密着性が得られる傾向がある。
【0070】
最表層形成工程により形成される、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜は、他の金属を含む合金皮膜であってもよい。他の金属としては、好ましい態様も含めて、バリア層形成工程により形成される、無電解ニッケルめっき皮膜と同様である。
【0071】
置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜中の銀の含有率は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0072】
<<他の工程>>
本発明の銀焼結接合のためのめっき方法は、前記バリア層形成工程と、前記最表層形成工程とを含む限り、他の工程を含んでもよい。
【0073】
他の工程としては、ニッケルめっき皮膜を形成する工程などの他のめっき皮膜を形成する工程の他、必要に応じて、クリーナー工程、エッチング工程、酸洗工程、アクチベーター工程、ポストディップ工程、ジスマット工程、ジンケート工程等を行ってもよい。クリーナー工程、 エッチング工程、酸洗工程、アクチベーター工程、ポストディップ工程、ジスマット工程、ジンケート工程で使用される薬液は公知のものから適宜選択できる。
【0074】
本発明の銀焼結接合のためのめっき方法は、被めっき面の表面に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成するバリア層形成工程と、無電解ニッケルめっき皮膜の表面に、被めっき面の最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて、無電解銀めっき皮膜を形成する最表層形成工程とを含むことが好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0075】
本発明のめっき方法により形成される、めっき皮膜(めっき皮膜積層体)の総膜厚は、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは7μm以下であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0076】
本明細書において、めっき皮膜の膜厚、総膜厚は、蛍光X線分光分析装置により測定される5箇所の測定値の平均値であり、具体的には、実施例に記載の方法により測定される。
【0077】
被めっき面の素材としては、特に限定されず、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル等が挙げられる。被めっき面の素材は、これらの合金であってもよい。なかでも、銅、アルミニウム、Fe-Ni合金、真鍮等の銅合金が好ましく、銅、アルミニウムがより好ましい。
【0078】
本発明の銀焼結接合のためのめっき方法は、銀焼結接合を行う部材であれば特に限定なく適用できる。銀焼結接合を行う部材としては、特に限定されず、例えば、セラミック基板、プリント基板等の基板;半導体素子、放熱板、ヒートシンク、チップ、リードフレーム、銅板等が挙げられる。なかでも、下地金属の酸化を防ぎ、耐熱性がより改善できるという理由から、下地金属を有する部材である、基板(特に、セラミック基板)、放熱板、ヒートシンク、チップが好ましく、基板(特に、セラミック基板)がより好ましい。
【0079】
<めっき皮膜(めっき皮膜積層体)>
本発明の銀焼結接合のためのめっき皮膜(めっき皮膜積層体)は、
無電解ニッケルめっき皮膜と、
無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜と
を有する。
本発明のめっき皮膜は、例えば、前記本発明のめっき方法により形成される被めっき面に設けられるめっき皮膜である。そのため、本発明のめっき皮膜が有する各皮膜は、前記本発明のめっき方法において説明した各皮膜と好ましい態様等も含めて同様である。また、その他の説明についても好ましい態様等も含めて同様である。
【0080】
本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)は、無電解ニッケルめっき皮膜と、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜とを有すればよく、無電解ニッケルめっき皮膜、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜以外の皮膜を有してもよい。
【0081】
<<バリア層>>
本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)は、被めっき面の上側に、バリア層として、無電解ニッケルめっき皮膜を有する。バリア層は、被めっき面の上側に位置すればよいが、被めっき面の表面に形成されていることが好ましい。
無電解ニッケルめっき皮膜は、酸素に対するバリア層として十分に機能するため、良好な耐熱性が得られる。
【0082】
無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚は、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは7μm以下であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0083】
無電解ニッケルめっき皮膜は、他の金属を含む合金皮膜であってもよい。他の金属としては、好ましい態様も含めて、バリア層形成工程により形成される、無電解ニッケルめっき皮膜と同様である。また、無電解ニッケルめっき皮膜中の他の金属の含有率もバリア層形成工程により形成される、無電解ニッケルめっき皮膜と同様である。更に、無電解ニッケルめっき皮膜中のニッケルの含有率もバリア層形成工程により形成される、無電解ニッケルめっき皮膜と同様である。
【0084】
<<最表層>>
本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)は、被めっき面に設けられるめっき皮膜の最表層として、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を有する。これにより、銀焼結材料との初期接合強度が十分に得られる。ここで、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜は、膜厚分布が良好であるため、安定した銀焼結材料との初期接合強度が得られる。更に、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜は、ニッケルめっき皮膜との密着性が良好であるため、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保できる。
【0085】
本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)は、無電解ニッケルめっき皮膜の表面に、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を有することが好ましい。これにより、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜とのより良好な密着性が得られると共に、コスト面でも有利である傾向がある。
【0086】
置換型無電解銀めっき浴は、好ましい態様も含めて、最表層形成工程において説明した置換型無電解銀めっき浴と同様である。
【0087】
置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜の膜厚は、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.7μm以下、更に好ましくは0.5μm以下であり、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.1μm以上である。前記範囲内であると、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜とのより良好な密着性が得られる傾向がある。
【0088】
置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜は、他の金属を含む合金皮膜であってもよい。他の金属としては、前記と同様の金属が挙げられ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜中の銀の含有率も最表層形成工程により形成される置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜と同様である。
【0089】
<<他の層>>
本発明のめっき皮膜は、無電解ニッケルめっき皮膜、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を有すればよく、他の層を有してもよい。
【0090】
他の層としては、特に限定されず、例えば、白金めっき皮膜、パラジウムめっき皮膜、金めっき皮膜、コバルトめっき皮膜等が挙げられる。
【0091】
本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)は、被めっき面の表面に形成された、無電解ニッケルめっき皮膜と、被めっき面の最表層として、無電解ニッケルめっき皮膜の表面に形成された、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜とを有することが好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0092】
本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)の総膜厚は、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは7μm以下であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0093】
本発明の一実施形態に係るめっき皮膜1は、
図1に示すように、被めっき面6の表面上に形成された、無電解ニッケルめっき皮膜2と、被めっき面6の最表層として、無電解ニッケルめっき皮膜2の表面に形成された、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜3とを有する。
【0094】
本発明の銀焼結接合のためのめっき皮膜(めっき皮膜積層体)は、銀焼結接合を行う部材であれば特に限定なく適用できる。銀焼結接合を行う部材としては、前記本発明のめっき方法において説明した部材と好ましい態様等も含めて同様である。また、被めっき面の素材についても、前記本発明のめっき方法において説明した素材と好ましい態様等も含めて同様である。
【0095】
<パワーモジュール用基板>
前記の通り、本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)は、基板に好適に適用可能であり、以下において、本発明のめっき皮膜を用いた基板の一例として、パワーモジュール用基板について説明する。
本発明のパワーモジュール用基板は、
基材と、
前記基材上に形成された回路と、
前記回路表面に形成されためっき皮膜とを備え、
前記めっき皮膜が、前記本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)である。
なお、本明細書において、パワーモジュール用基板とは、パワーモジュールに用いられる基板を意味し、具体的には、下記において例示する基板である。なお、本明細書において、パワーモジュール用基板は、パワー半導体に用いられるリードフレームやスペーサーをも含む概念である。
【0096】
基材と、前記基材上に形成された回路とを備える基板としては、特に限定されず、例えば、DBC基板、DBA基板、AMB基板等が挙げられる。ここで、DBCはDirect Bonded Copper、DBAはDirect Bonded Aluminum、AMBはActive Metal Brazingの略である。
【0097】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る耐熱パワーモジュール用基板について説明する。
本発明の一実施形態に係るパワーモジュール用基板100は、高熱を発するパワー半導体を搭載するための基板である。そして、
図2に示すように、発明の一実施形態に係るパワーモジュール用基板100は、基材10と、前記基材上に、直接又はろう材を介して形成された、回路20と、前記回路表面に形成されためっき皮膜(めっき皮膜積層体)1とを備える。
【0098】
本発明の一実施形態に係るパワーモジュール用基板100に用いられる基材10は、特に限定されず、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、コストや放熱性、強度などに優れているという理由から、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素が好ましい。
【0099】
図2に示すように基材10上に回路20が形成されている。このとき、基材10上に直接法で回路20が形成されていてもよく、ろう材(不図示)を介して回路20が形成されていてもよい。回路20は、通常、銅及び/又はアルミニウムからなる。ここで、銅、アルミニウムは合金であってもよい。
【0100】
回路20の形成方法は、公知の方法を用いればよく、特に限定はされないが、直接法では回路部材である銅の板の片面を酸化処理し、基材10と接合させ、回路以外の不要な部分をエッチングしてもよい。アルミニウムは展延性に優れ、銅は放熱性に優れている。またコストの点でもこれら金属は他の金属に比べて優れているためパワーモジュール基板に用いられている。
【0101】
前記回路20表面に形成されためっき皮膜1は、前記本発明のめっき皮膜である。そして、めっき皮膜の表面と、例えば、半導体素子が、銀焼結接合されることにより、めっき皮膜の表面が、銀焼結接合面を形成することとなり、良好なニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性、初期接合強度、耐熱性を有する。
図4では、前記回路20表面に形成されためっき皮膜1の表面と、半導体素子30が、銀焼結接合されている。すなわち、銀焼結体層40を介して、めっき皮膜1の表面と、半導体素子30が接合されている。
【0102】
本発明において、銀焼結接合の方法は特に限定されず、当業者であれば、公知の方法に従って適宜実施できる。例えば、銀粒子を有機溶剤に分散させたペーストを銀焼結材料として用いて、加熱等により有機溶剤を揮発させて銀粒子同士を接触させ、焼結により接合層を形成すればよい。
【0103】
<半導体素子>
本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)は、半導体素子に好適に適用可能であり、以下において、本発明のめっき皮膜を用いた半導体素子の一例について説明する。
本発明の半導体素子は、
めっき皮膜を表面に有し、
前記めっき皮膜が、前記本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)である。
本発明の半導体素子は、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性、耐熱性に優れるため、パワーモジュール用半導体素子として好適に使用できる。
【0104】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体素子について説明する。
本発明の一実施形態に係る半導体素子30は、パワーモジュール用基板に使用される半導体素子である。そして、
図3に示すように、発明の一実施形態に係る半導体素子30は、半導体素子30上に、半導体素子30表面に形成されためっき皮膜(めっき皮膜積層体)1を備える。
【0105】
半導体素子としては、特に限定されず、例えば、Si(シリコン)半導体素子、SiC(シリコンカーバイド)半導体素子、GaN(ガリウムナイトライド)半導体素子等のパワー半導体素子等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐熱性が特に要求されるという理由から、パワー半導体素子が好ましく、SiC半導体素子、GaN半導体素子がより好ましい。
【0106】
前記半導体素子30表面に形成されためっき皮膜1は、前記本発明のめっき皮膜である。そして、めっき皮膜の表面と、例えば、基板が、銀焼結接合されることにより、めっき皮膜の表面が、銀焼結接合面を形成することとなり、良好なニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性、初期接合強度、耐熱性を有する。
図5では、前記半導体素子30表面に形成されためっき皮膜1の表面と、前記回路20表面に形成されためっき皮膜1の表面が、銀焼結接合されている。すなわち、銀焼結体層40を介して、前記回路20と、半導体素子30が接合されている。
【0107】
本発明において、銀焼結接合の方法は特に限定されず、当業者であれば、公知の方法に従って適宜実施できる。例えば、銀粒子を有機溶剤に分散させたペーストを銀焼結材料として用いて、加熱等により有機溶剤を揮発させて銀粒子同士を接触させ、焼結により接合層を形成すればよい。
【0108】
<半導体装置>
本発明のパワーモジュール用基板、本発明の半導体素子は、半導体装置に好適に適用可能である。よって、本発明の半導体装置は、本発明のパワーモジュール用基板、及び/又は、本発明の半導体素子を備える半導体装置であり、好ましくは、本発明のパワーモジュール用基板、及び/又は、本発明の半導体素子が有する本発明のめっき皮膜の表面が、銀焼結接合面である。このような本願発明の半導体装置は、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有しており、信頼性の高い半導体装置である。
【0109】
以下において、本発明のパワーモジュール用基板を用いた半導体装置の一例について説明する。
本発明の半導体装置は、
本発明のパワーモジュール用基板と、半導体素子を備え、
前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、前記半導体素子が、銀焼結接合されていることが好ましい。特定のパワーモジュール用基板と、半導体素子を備え、前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、前記半導体素子が、銀焼結接合されている半導体装置であるので、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有しており、信頼性の高い半導体装置である。
【0110】
本明細書において、前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、前記半導体素子が、銀焼結接合されているとは、前記めっき皮膜の表面の全面において、前記半導体素子と銀焼結接合されていてもよく、前記めっき皮膜の表面の一部において、前記半導体素子と銀焼結接合されていてもよい。例えば、基板の表面と裏面に前記めっき皮膜が形成されている場合、どちらか一方の面に形成されている前記めっき皮膜の表面においてのみ前記半導体素子と銀焼結接合されていてもよい。この場合、前記半導体素子と銀焼結接合されている前記表面が、めっき皮膜の表面の全面であっても、表面のうち一部の面のみでもあってもよい。すなわち、一方の面に形成されている前記めっき皮膜の表面のうち一部の面のみにおいてのみ前記半導体素子と銀焼結接合されていてもよい。
また、本明細書において、基板が備える半導体素子のうち、少なくとも1つの半導体素子が、前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、銀焼結接合されていればよく、全ての半導体素子が、前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、銀焼結接合されていてもよい。
また、本明細書において、前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、前記半導体素子が、銀焼結接合されているとは、前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、前記半導体素子表面が、銀焼結接合されていてもよく、前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、前記半導体素子表面に施されためっき皮膜の表面が、銀焼結接合されていてもよい。
【0111】
本発明の半導体装置は、本発明のめっき皮膜の表面と、半導体素子が、銀焼結接合されているため、めっき皮膜の表面が、銀焼結接合面を形成することとなり、良好なニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性、初期接合強度、耐熱性を有しており、信頼性の高い半導体装置である。
【0112】
半導体素子としては、特に限定されず、例えば、Si(シリコン)半導体素子、SiC(シリコンカーバイド)半導体素子、GaN(ガリウムナイトライド)半導体素子等のパワー半導体素子等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐熱性が特に要求されるという理由から、パワー半導体素子が好ましく、SiC半導体素子、GaN半導体素子がより好ましい。
【0113】
半導体素子は、めっき皮膜を表面に有し、前記めっき皮膜が、前記本発明のめっき皮膜(めっき皮膜積層体)であることが好ましい。これにより、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜とのより良好な密着性を安価に確保でき、より良好な初期接合強度、耐熱性を有しており、より信頼性の高い半導体素子、半導体装置となる。
【0114】
以下において、本発明の半導体素子を用いた半導体装置の一例について説明する。
本発明の半導体装置は、
パワーモジュール用基板と、本発明の半導体素子を備え、
前記半導体素子の前記めっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板が、銀焼結接合されていることが好ましい。パワーモジュール用基板と、特定の半導体素子を備え、前記半導体素子の前記めっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板が、銀焼結接合されている半導体装置であるので、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有しており、信頼性の高い半導体装置である。
【0115】
本明細書において、前記半導体素子の前記めっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板が、銀焼結接合されているとは、前記めっき皮膜の表面の全面において、前記パワーモジュール用基板と銀焼結接合されていてもよく、前記めっき皮膜の表面の一部において、前記パワーモジュール用基板と銀焼結接合されていてもよい。例えば、半導体素子の表面と裏面に前記めっき皮膜が形成されている場合、どちらか一方の面に形成されている前記めっき皮膜の表面においてのみ前記パワーモジュール用基板と銀焼結接合されていてもよい。この場合、前記パワーモジュール用基板と銀焼結接合されている前記表面が、めっき皮膜の表面の全面であっても、表面のうち一部の面のみでもあってもよい。すなわち、一方の面に形成されている前記めっき皮膜の表面のうち一部の面のみにおいてのみ前記パワーモジュール用基板と銀焼結接合されていてもよい。
また、本明細書において、基板が備える半導体素子のうち、少なくとも1つの半導体素子の本発明のめっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板が、銀焼結接合されていればよく、全ての半導体素子の本発明のめっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板が、銀焼結接合されていてもよい。
また、本明細書において、前記半導体素子の前記めっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板が、銀焼結接合されているとは、前記半導体素子の前記めっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板表面が、銀焼結接合されていてもよく、前記半導体素子の前記めっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板表面に施されためっき皮膜の表面が、銀焼結接合されていてもよい。
【0116】
本発明の半導体装置は、本発明のめっき皮膜の表面と、パワーモジュール用基板が、銀焼結接合されているため、めっき皮膜の表面が、銀焼結接合面を形成することとなり、良好なニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性、初期接合強度、耐熱性を有しており、信頼性の高い半導体装置である。
【0117】
パワーモジュール用基板としては、特に限定されず、例えば、DBC基板、DBA基板、AMB基板等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0118】
パワーモジュール用基板は、前記本発明のパワーモジュール用基板であることが好ましい。これにより、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜とのより良好な密着性を安価に確保でき、より良好な初期接合強度、耐熱性を有しており、より信頼性の高い半導体装置となる。
【0119】
前記の通り、
図4では、前記回路20表面に形成されためっき皮膜1の表面と、半導体素子30が、銀焼結接合されている。すなわち、銀焼結体層40を介して、めっき皮膜1の表面と、半導体素子30の表面が接合されている。同様に、
図5では、前記半導体素子30表面に形成されためっき皮膜1の表面と、前記回路20表面に形成されためっき皮膜1の表面が、銀焼結接合されている。
【0120】
ここで、前記の通り、本発明では、
図4のように、前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、前記半導体素子表面(めっき皮膜なし)が、銀焼結接合されていてもよく、
図5のように、前記パワーモジュール用基板の前記めっき皮膜の表面と、前記半導体素子表面に施されためっき皮膜の表面が、銀焼結接合されていてもよい。ここで、半導体素子表面に施されるめっき皮膜としては、特に限定されないが、例えば、本発明のめっき皮膜(
図5のめっき皮膜1)以外にも、スパッタAg(Ti/Ag、Ta/Ag、TaN/Ag、Ni/Au、Ni/Ag等)皮膜や電気めっき及び/又は無電解めっきによるNi/Au、Ni/Pd/Au皮膜等が挙げられる。なかでも、本発明のめっき皮膜が好ましい。なお、めっき皮膜なしの半導体素子表面の素材は、例えば、チタン、タンタル、窒化タンタル等である。
【0121】
また、前記の通り、本発明では、図示しないが、前記半導体素子の前記めっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板表面(めっき皮膜なし)が、銀焼結接合されていてもよく、
図5のように、前記半導体素子の前記めっき皮膜の表面と、前記パワーモジュール用基板表面に施されためっき皮膜の表面が、銀焼結接合されていてもよい。ここで、前記パワーモジュール用基板表面に施されるめっき皮膜としては、特に限定されないが、例えば、本発明のめっき皮膜(
図5のめっき皮膜1)以外にも、電気めっき及び/又は無電解めっきによるNi/Au、Ni/Pd/Au皮膜等が挙げられる。なかでも、本発明のめっき皮膜が好ましい。なお、めっき皮膜なしのパワーモジュール用基板表面の素材は、例えば、銅、アルミニウム等である。
【0122】
本発明の半導体装置は、様々な電子部品に用いることが可能である。電子部品としては、例えば、家電機器、車載機器、送電システム、輸送機器、通信機器等に用いられる電子部品が挙げられ、具体的には、エアコン、エレベーター、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車、発電装置用のパワーコントロールユニット等のパワーモジュール、一般家電、パソコン等が挙げられる。なかでも、耐熱性が特に要求されるという理由から、パワーモジュールが好ましい。
【実施例0123】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0124】
表1~8に示す条件に従い、基板に各めっきを施してめっき皮膜積層体を形成した。ここで、被めっき物であるベース基板として、Cuバルク材(25×60×3mm)を用いた。得られためっき皮膜積層体、めっき皮膜積層体が設けられた基板について、下記の方法で評価した。評価結果を表1~7に示す。
なお、表2~7において、銀塩の濃度は、銀元素換算濃度(g/L)である。
また、表1において、上村工業株式会社製アルジェントRSD-4は、銀濃度1.0g/L、pH8.5、還元剤(ヒドラジン誘導体、ヒドロキシルアミン類、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素化合物)の濃度1.0g/Lの還元型無電解銀めっき浴である。
【0125】
<めっき皮膜の膜厚の測定>
めっき皮膜の膜厚は、蛍光X線分光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、商品名:SFT-9550)により、5箇所の測定値の平均値として算出した。
【0126】
<めっき皮膜の組成の分析>
めっき皮膜形成後に組成を分析した。具体的には、めっき皮膜を硝酸に溶解させ、この溶解液を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(HORIBA社製、商品名:Ultima Expert)を用いて各元素の定量分析を行い、溶解しためっき皮膜の質量から、皮膜中の各成分の含有率を算出した。
【0127】
<密着性評価(クロスカット試験)>
めっき皮膜に垂直に刃を当てて平行に6本の切り込みを入れた。次に、切り込みを入れた6本に直行する6本の切り込みを入れた。セロハンテープを格子状に入れた切り込み部分に貼り、指でしっかりと擦り付けた。テープを勢いよく剥がしめっき皮膜の剥がれを確認し、以下の基準により、密着性(ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性)について評価した。
〇:剥がれなし
△:一部剥がれ
×:全面剥がれ
【0128】
<耐熱性評価>
(評価用サンプルの調製)
被めっき物としてベース基板(Cuバルク材;25×60×3mm)および模擬チップ(チップサイズに加工したCuバルク材;5×5×1mm)に対し、表1~8に示す条件に従い、各めっきを施したのち、該ベース基板と模擬チップ(いずれも同じ皮膜積層体を形成)とを銀焼結材料(MAX102:ニホンハンダ社製)を使用して互いに接続させ大気下250℃無加圧で10分の熱処理を行い、銀焼結接合させ、更に、熱劣化させるために300℃で500時間熱処理を行い、評価用サンプルを調製した。
(接合強度の測定)
評価用サンプルについて、銀焼結接合したチップを横からシェアして、破断した時の強度をボンドテスター(Nordson DAGE社製、商品名:4000Plus)により測定し、接合強度(熱処理後の接合強度)とした。そして、熱処理後の接合強度に基づいて、以下の基準により、耐熱性について評価した。
〇:問題なし(熱処理後の接合強度:30Mpa以上)
△:熱処理により強度少し低下(熱処理後の接合強度:20-30MPa未満)
×:熱処理で強度低下(熱処理後の接合強度:20MPa未満)
【0129】
<コスト>
Pd:平均小売価格 ¥8218/g (2021/10平均)
Pt:平均小売価格 ¥4142/g (2021/10平均)
Ag:平均小売価格 ¥ 98/g (2021/10平均)
Ni:平均小売価格 ¥ 2.2/g (2021/10平均)
上記小売価格を参考に各皮膜構成の金属としての価格を計算(各金属は100%として)
Ni/Pd/Ag (4.5/0.1/0.5 μm):¥104/dm2
Ni/Pt/Ag (4.5/0.1/0.5 μm):¥ 95/dm2
Ni/St/Ag/Ag (4.5/0.05/0.5 μm):¥ 5.5/dm2
以下の基準により、コストについて評価した。
高:Ni/Pd/Ag, Ni/Pt/Ag
低:Ni/Ag
【0130】
<Ag外観>
被めっき物としてベース基板(Cuバルク材;25×60×3mm)に対し、表1~8に示す条件に従い、各めっきを施し目視でAg被膜外観を確認した。
以下の基準により、Ag外観について評価した。
〇:外観ムラなし
△:一部外観ムラあり
×:全体的に外観ムラ
【0131】
以下において、各実施例、比較例におけるめっき皮膜積層体、めっき皮膜積層体が設けられた基板の作成方法を詳細に説明する。
【0132】
(比較例1)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製アルジェントRSD-4を用いて、無電解Agめっき皮膜を形成した。
【0133】
(比較例2)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製ニムデンKSL-2を用いて、無電解NiPめっき皮膜を、その表面に、上村工業株式会社製アルジェントRSD-4を用いて、無電解Agめっき皮膜を形成した。
【0134】
(比較例3)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製ニムデンNPR-4を用いて、無電解NiPめっき皮膜を、その表面に、上村工業株式会社製アルジェントRSD-4を用いて、無電解Agめっき皮膜を形成した。
【0135】
(比較例4)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製ニムデンDXを用いて、無電解NiPめっき皮膜を、その表面に、上村工業株式会社製アルジェントRSD-4を用いて、無電解Agめっき皮膜を形成した。
【0136】
(比較例5)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製ニムデンBEL-18を用いて、無電解NiBめっき皮膜を、その表面に、上村工業株式会社製アルジェントRSD-4を用いて、無電解Agめっき皮膜を形成した。
【0137】
(比較例6)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製ニムデンNPR-4を用いて、無電解NiPめっき皮膜を、その表面に、上村工業株式会社製アルタレアTPD-30を用いて、無電解Pdめっき皮膜を、更にその表面に、上村工業株式会社製アルジェントRSD-4を用いて、無電解Agめっき皮膜を形成した。
【0138】
(比較例7)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製ニムデンNPR-4を用いて、無電解NiPめっき皮膜を、その表面に、上村工業株式会社製アルタレアTGM-21を用いて、無電解Ptめっき皮膜を、更にその表面に、上村工業株式会社製アルジェントRSD-4を用いて、無電解Agめっき皮膜を形成した。
【0139】
(実施例1)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製ニムデンKSL-2を用いて、無電解NiPめっき皮膜を、その表面に、表1、5に示す組成、条件の置換型無電解銀めっき浴を用いて、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を形成した。
【0140】
(実施例2)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製ニムデンNPR-4を用いて、無電解NiPめっき皮膜を、その表面に、表1、5に示す組成、条件の置換型無電解銀めっき浴を用いて、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を形成した。
【0141】
(実施例3)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製ニムデンDXを用いて、無電解NiPめっき皮膜を、その表面に、表1、6に示す組成、条件の置換型無電解銀めっき浴を用いて、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を形成した。
【0142】
(実施例4)
被めっき面であるCuバルク材表面に、上村工業株式会社製ニムデンBEL-18を用いて、無電解NiBめっき皮膜を、その表面に、表1、7に示す組成、条件の置換型無電解銀めっき浴を用いて、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜を形成した。
【0143】
(実施例5~69)
表2~7に示す組成、条件の置換型無電解銀めっき浴を用いた点以外は、実施例2と同様にめっき皮膜を形成した。
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
表1~7より、無電解ニッケルめっき皮膜と、無電解ニッケルめっき皮膜の上側に、最表層として、置換型無電解銀めっき浴を用いて形成された無電解銀めっき皮膜とを有する実施例では、ニッケルめっき皮膜と銀めっき皮膜との密着性を安価に確保でき、良好な耐熱性を有することが分かった。よって、本発明のめっき方法、本発明のめっき皮膜は、銀焼結接合に好適に適用可能である。なお、表1~7は、被めっき物であるベース基板として、Cuバルク材を用いた場合の結果であるが、被めっき物であるベース基板として、Alバルク材を用いた場合も同様の結果であった。