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特開2024-44644塗料用水系導電材分散体、および塗工物
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  • 特開-塗料用水系導電材分散体、および塗工物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044644
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】塗料用水系導電材分散体、および塗工物
(51)【国際特許分類】
   C09D 5/24 20060101AFI20240326BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240326BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240326BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20240326BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20240326BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C09D5/24
C09D7/61
C09D201/00
H01B1/24 A
H01B1/00 L
H01B5/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150300
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】露木 拓海
(72)【発明者】
【氏名】村上 卓也
【テーマコード(参考)】
4J038
5G301
5G307
【Fターム(参考)】
4J038DD001
4J038DJ012
4J038MA08
4J038NA21
4J038PB09
4J038PC08
5G301DA18
5G301DA20
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
5G307GA01
5G307GB01
5G307GC01
5G307GC02
(57)【要約】
【課題】塗料に要求される貯蔵安定性、分散性、透明性、導電性に優れた水系導電材分散体を提供すること。
【解決手段】炭素系導電材、樹脂(B)および水系媒体(C)を含有する塗料用水系導電材分散体であって、動的粘弾性測定による25℃、1Hzでの複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上10,000以下であり、前記炭素系導電材は、分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)を含む、塗料用水系導電材分散体により解決される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系導電材、樹脂(B)および水系媒体(C)を含有する塗料用水系導電材分散体であって、
動的粘弾性測定による25℃、1Hzでの複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上10,000以下であり、
前記炭素系導電材は、分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)を含む、
塗料用水系導電材分散体。
【請求項2】
動的粘弾性測定による25℃、1Hzでの複素弾性率が10Pa以上500Pa以下である、請求項1記載の塗料用水系導電材分散体。
【請求項3】
動的粘弾性測定による25℃、1Hzでの位相角が3°以上45°以下である、請求項1記載の塗料用水系導電材分散体。
【請求項4】
分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)の含有率は、塗料用水系導電材分散体全量に対し、0.01質量%以上15質量%以下である、請求項1記載の塗料用水系導電材分散体。
【請求項5】
前記炭素系導電材はさらに、分岐構造を有さないカーボンナノチューブ(A2)、およびカーボンナノチューブ以外のその他炭素系導電材(A’)の少なくともいずれかを含む、請求項1記載の塗料用水系導電材分散体。
【請求項6】
基材に、請求項1~5いずれか1項記載の塗料用水系導電材分散体を塗工してなる塗工膜を備えた、塗工物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用水系導電材分散体および塗工物に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性の塗膜を形成するための塗料として、導電材を水系媒体に分散した水系導電材分散体が用いられることがある。とくに近年、色相に影響にしない透明導電塗料の開発が盛んに行われており、帯電防止用や透明導電膜などの用途で広く使用されている。例えば、ディスプレイや太陽電池における電極、あるいは電磁波シールド材に用いられており、高い透明性および導電性が要求されている。
【0003】
透明導電塗料の作製方法については、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)のような導電性高分子やITO(酸化インジウムスズ)などの導電性無機粒子を含む液体を、各種塗料に混合し、透明導電塗料を作製する方法がある。
【0004】
これまで、導電性の塗料、塗膜として、例えば、特許文献1では導電材として導電高分子を導入した塗料用導電分散体に関する技術が開示されている。しかし、所望の導電性を付与するために導電材の添加量が多くなり、塗膜の耐水性や耐光性が悪化し、耐性に問題がある。また、酸性度の高い導電材が多く、使用できる塗料が限定的である。また、特許文献2、3では導電材として導電性無機粒子を用いた塗料用導電分散体に関する技術が開示されている。しかし、導電性無機粒子を用いた塗膜は透明性が高い一方で、導電性が充分ではないという問題がある。
【0005】
そこで、上記の短所を補うために耐性や導電性に優れる炭素系導電材を用いた分散体が検討されている。例えば、特許文献4では、カーボンブラックを用いた導電分散液が検討されている。しかし、導電性が良好な一方で着色力によって透明性が低下してしまう問題があった。また、特許文献5では、カーボンナノチューブを用いた導電分散液が検討されているが、導電性が良好な一方で、塗料用としては透明性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-032382号公報
【特許文献2】特開平8-176794号公報
【特許文献3】特開2003-249132号公報
【特許文献4】特開2013-216854号公報
【特許文献5】特開2019-192537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、導電性高分子や導電性無機粒子を用いた導電材分散体を用いた従来の塗料では、透明性と導電性を両立することは困難である。
また、カーボンブラックやカーボンナノチューブなどの炭素系導電材料を用いた塗料についても、着色力による透明性の低下やその強い凝集力から分散性や貯蔵安定性に課題がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、このような従来技術の欠点を改良し、塗料に要求される貯蔵安定性、分散性、透明性、導電性に優れた水系導電材分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、以下の実施形態を含む。本発明の実施形態は以下に限定されない。
〔1〕炭素系導電材、樹脂(B)および水系媒体(C)を含有する塗料用水系導電材分散体であって、
動的粘弾性測定による25℃、1Hzでの複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上10,000以下であり、
前記炭素系導電材は、分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)を含む、
塗料用水系導電材分散体。
〔2〕動的粘弾性測定による25℃、1Hzでの複素弾性率が10Pa以上500Pa以下である、〔1〕記載の塗料用水系導電材分散体。
〔3〕動的粘弾性測定による25℃、1Hzでの位相角が3°以上45°以下である、〔1〕または〔2〕記載の塗料用水系導電材分散体。
〔4〕分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)の含有率は、塗料用水系導電材分散体全量に対し、0.01質量%以上15質量%以下である、〔1〕~〔3〕いずれか記載の塗料用水系導電材分散体。
〔5〕前記炭素系導電材はさらに、分岐構造を有さないカーボンナノチューブ(A2)、およびカーボンナノチューブ以外のその他炭素系導電材(A’)の少なくともいずれかを含む、〔1〕~〔4〕いずれか記載の塗料用水系導電材分散体。
〔6〕基材に、〔1〕~〔5〕いずれか記載の塗料用水系導電材分散体を塗工してなる塗工膜を備えた、塗工物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、貯蔵安定性、分散性、透明性、導電性に優れた塗料用水系導電材分散体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】分岐構造の存在を示す、カーボンナノチューブのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
尚、本明細書では、「分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)」、「分岐構造を有さないカーボンナノチューブ(A2)」、「カーボンナノチューブ以外のその他炭素系導電材(A’)」を、それぞれ「カーボンナノチューブ(A1)」、「カーボンナノチューブ(A2)」、「炭素系導電材(A’)」と称することがある。
また、本明細書では、「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイルオキシ」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリルまたはメタクリル」、「アクリロイルまたはメタクリロイル」、「アクリル酸またはメタクリル酸」、「アクリレートまたはメタクリレート」、「アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシ」を表すものとする。
また、本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を混合して用いてもよい。
なお、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。
【0013】
≪塗料用水系導電材分散体≫
本発明の塗料用水系導電材分散体は、炭素系導電材、樹脂(B)および水系媒体(C)を含有し、動的粘弾性測定による25℃、1Hzでの複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上10,000以下である。
また、前記炭素系導電材は、分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)を含む。
【0014】
これにより、本発明の塗料用水系導電材分散体は、貯蔵安定性、分散性、透明性、導電性に優れたものとすることができる。この理由については定かではないが、本発明者は以下のように推測する。
導電性を向上させるためにはカーボンナノチューブの繊維を極力破壊することなく、分散させる必要があると考えられる。ここで本発明者は、複素弾性率(X)と位相角(Y)に着目した。
複素弾性率(X)は、水系導電材分散体の硬さを表すパラメータであり、低粘度であるほど小さくなる傾向にある。カーボンナノチューブの繊維を破壊せずに分散を進めることができると、複素弾性率(X)の値は大きくなることを見出した。
位相角(Y)は、水系導電材分散体に与えるひずみを正弦波とした場合の応力波の位相ズレを意味している。純弾性体であれば、与えたひずみと同位相の正弦波となるため、位相角0°となる。一方で、純粘性体であれば90°進んだ応力波となる。一般的な粘弾性測定用試料では、位相角が0°より大きく90°より小さい正弦波となる。カーボンナノチューブの繊維を破壊せずに分散を進めることができると、カーボンナノチューブの繊維に由来した構造粘性を発現し、純弾性体に近づくため、位相角が0°に近づくことを見出した。
カーボンナノチューブの繊維を全く破壊せずに分散を進めてしまうと、構造粘性により水系導電材分散体が硬くなってしまい、実用的ではない分散体となってしまう。またカーボンナノチューブの繊維を破壊しすぎてしまうと、構造粘性が小さくなるため取り扱いは容易になるものの、導電ネットワークが形成しづらくなり、要求される導電性が発現しない。
複素弾性率(X)と位相角(Y)の積が、所定の範囲内となることで、分散性と導電性を両立した水系導電材分散体を得ることができる。
さらに、カーボンナノチューブが、分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)であることにより、繊維長方向だけでなく、繊維に垂直な方向に存在するカーボンナノチューブとも導電ネットワークを形成することができ、これにより従来以上に分散性と導電性を高めた水系導電材分散体が得られるものと推測する。
【0015】
本発明の水系導電材分散体は、カーボンナノチューブが三次元導電ネットワークを形成するため、繊維構造が破壊されすぎずに分散されることが好ましい。本発明者が検討した結果、分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)を含む場合、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が、100以上10,000以下であることで、導電性と分散性が良好となることを見出した。また、200以上7,500以下が好ましく、250以上5,000以下がより好ましく、300以上3,000以下がさらに好ましい。
【0016】
複素弾性率(X)は、10Pa以上500Pa以下が好ましく50Pa以上500Pa以下がより好ましく、100Pa以上500Pa以下がさらに好ましい。
また、位相角(Y)は、3°以上45°以下が好ましく、3°以上20°以下がより好ましく、3°以上10°以下がさらに好ましい。複素弾性率(X)及び位相角(Y)を上記の範囲にすることでカーボンナノチューブを過度に破壊することなく、より均一かつ安定にほぐれた状態の水系導電材分散体を得られる。
【0017】
<炭素系導電材>
炭素系導電材としては、カーボンナノチューブと、カーボンブラック、グラフェン、多層グラフェン、グラファイト等のカーボンナノチューブ以外のその他炭素系導電材(A’)とが挙げられる。
カーボンナノチューブは、分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)と、分岐構造を有さないカーボンナノチューブ(A2)に分類することができる。分岐構造を有さないカーボンナノチューブ(A2)としては、例えば、単層カーボンナノチューブや多層カーボンナノチューブなどがある。
これらのうち、本発明の炭素系導電材は、分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)を含むことを特徴とする。さらに、分岐構造を有しないカーボンナノチューブ(A2)またはその他炭素系導電材(A’)を含んでもよい。
導電材の含有比率としては、分岐構造を有するカーボンナノチューブ(A1)が導電パスを形成する上で主材料になることが望ましい。分岐構造を有しないカーボンナノチューブ(A2)またはその他炭素系導電材(A’)を含む場合、これらの好ましい添加量は、炭素系導電材(A1)100質量部に対し、1~100質量部が好ましい。
また、カーボンナノチューブの合計含有率は、水系導電材分散体全量に対し、0.01~15質量%が好ましい。炭素系導電材(A)の合計含有率を前記範囲内とすることで、沈降やゲル化の発生を抑制し、分散状態がより均一かつ良好となる。
【0018】
「カーボンナノチューブ」
カーボンナノチューブは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状であり、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブを含むものである。単層カーボンナノチューブは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層カーボンナノチューブは、二または三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、カーボンナノチューブの側壁はグラファイト構造でなくともよい。また、例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるカーボンナノチューブも本明細書ではカーボンナノチューブである。
また、カーボンナノチューブの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)及びコイル状を含む様々な形状が挙げられる。中でも、カーボンナノチューブの形状は、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。カーボンナノチューブは、単独の形状、または2種以上の形状の組合せであってもよい。
さらに、カーボンナノチューブの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバー等が挙げられる。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は2種以上を組み合わせた形態を有していてもよい。
【0019】
[カーボンナノチューブ(A1)]
カーボンナノチューブ(A1)は、分岐構造を有するカーボンナノチューブである。
カーボンナノチューブが分岐構造を有することにより、繊維長方向だけでなく、繊維長の垂直方向に存在するカーボンナノチューブとも接触する確率が高まり、導電ネットワークを形成しやすくなる。これにより分岐構造を有さないカーボンナノチューブ(A2)のみを使用した分散体と比較し、炭素系導電材の合計の使用量が少なくても高い導電性を発現することが可能となる。
分岐構造を有するカーボンナノチューブとして、カーボンナノストラクチャーが挙げられる。
カーボンナノチューブ(A1)は、相互に入り込む、分岐している、架橋している、絡んでいる、および/またはお互いに共通の壁を共有することによるポリマー構造において架橋されている、複数のカーボンナノチューブを指す。
【0020】
このようなカーボンナノチューブ(A1)としては、例えば、キャボット社製ATHLOS、キャボット社製PEG Encapsulated CNS pellets GPX802などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
カーボンナノチューブ(A1)が分岐構造を有するかどうかの判定方法は、透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡などにより観察し、図1のような分岐の有無を確認することで判断できる。
カーボンナノチューブ(A1)の分岐構造によって導電ネットワークを形成しやすくなるため、含有される分岐構造比率は多い方が望ましい。
【0022】
本実施形態のカーボンナノチューブ(A1)の外径は、1~50nmが好ましく、5~30nmがより好ましく、10~20nmがさらに好ましい。
【0023】
なお、カーボンナノチューブの平均外径は、まず透過型電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブを観測するとともに撮像し、観測写真において、任意の300個のカーボンナノチューブを選び、それぞれの外径を計測することで算出できる。
【0024】
カーボンナノチューブの比表面積は、100~800m/gが好ましく、150~400m/gがより好ましく、200~300m/gがさらに好ましい。カーボンナノチューブの比表面積は窒素吸着測定によるBET法で算出する。カーボンナノチューブの外径、比表面積が上記範囲内であると分散性を保持しながらも導電性を発揮できるために好ましい。
【0025】
カーボンナノチューブ(A1)の含有率は、水系導電材分散体全量に対し、0.01~15質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、0.2~1質量%がさらに好ましい。カーボンナノチューブ(A1)の含有率を前記範囲内とすることで、沈降やゲル化の発生を抑制し、分散状態が均一かつ良好となるために好ましい。
【0026】
[カーボンナノチューブ(A2)]
カーボンナノチューブ(A2)は、分岐構造を有さないカーボンナノチューブである。
本発明の水系導電材分散体は、炭素系導電材として、さらにカーボンナノチューブ(A2)を含んでもよい。
【0027】
カーボンナノチューブ(A2)は、特に限定されるものではないが、例えば、単層カーボンナノチューブ、薄層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0028】
市販品としては、単層カーボンナノチューブとして、日本ゼオン社製ZEONANO SG101(外径:3~5nm)、OCSiAl社製 TUBALL(外径:約2nm)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、多層カーボンナノチューブとしては、ARKEMA社製 Graphistrength(外径:10~15nm)、SUSUN Sinotech New Materials社製 HCNTs10(外径:10~20nm)、HCNTs40(外径:30~50nm)、Nanocyl社製 NC7000(外径:10nm)、NX7100(外径:10nm)、JEIO社製 JENOTUBE8A(外径:6~9nm)、JENOTUBE10A(外径:7~20nm)、JENOTUBE10B(外径:7~10nm)、Cnano社製 FloTube9100(外径:10~15nm)、FloTube9110(外径:10~15nm)、FloTube7010(外径:7~11nm)、Kumho Petrochemical社製 K-Nanos100P(外径:10~15nm)、K-Nanos100T(外径:10~15nm)、K-Nanos200P(外径:5~15nm)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
カーボンナノチューブの平均外径は、まず透過型電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブを観測するとともに撮像し、観測写真において、任意の300個のカーボンナノチューブを選び、それぞれの外径を計測することで算出できる。
【0030】
カーボンナノチューブ(A2)を含む場合、好ましい添加量は、カーボンナノチューブ(A1)100質量部に対し、1~100質量部が好ましく、5~50質量部がより好ましく、7~40質量部がさらに好ましい。カーボンナノチューブ(A1)100質量部に対し、カーボンナノチューブ(A2)の添加量が100質量部以下であると、導電性が良好なまま、安定性の低下を抑制できるために好ましい。
また、カーボンナノチューブ(A2)の含有率は、水系導電材分散体全量に対し、7.5質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。
上記の添加量や比率であれば、カーボンナノチューブ(A1)の分岐構造に由来する導電ネットワークを阻害することなく、安定性と導電性を両立できるために好ましい。
【0031】
「炭素系導電材(A’)」
炭素系導電材(A’)は、カーボンナノチューブ以外のその他炭素系導電材である。
本発明の水系導電材分散体は、炭素系導電材として、さらに炭素系導電材(A’)を含んでもよい。
炭素系導電材(A’)としては、例えば、カーボンブラック、フラーレン、グラフェン、多層グラフェン、グラファイト等の炭素材料等が挙げられる。カーボンナノチューブ以外の導電材を用いる場合、分散剤の吸着性能の観点から、カーボンブラックが好ましく、例えばアセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックが挙げられる。これらのカーボンブラックは、中性、酸性、塩基性のいずれでもよく、酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラックを使用してもよい。
【0032】
炭素系導電材(A’)を含む場合、好ましい添加量は、カーボンナノチューブ(A1)100質量部に対し、1~100質量部が好ましく、3~40質量部がより好ましく、5~25質量部がさらに好ましい。カーボンナノチューブ(A1)100質量部に対し、炭素系導電材(A’)の添加量が100質量部以下であれば、導電性が良好なまま、透明性の低下を抑制できるために好ましい。
また、炭素系導電材(A’)の含有率は、水系導電材分散体全量に対し、7.5質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましく、0.25質量%以下がさらに好ましい。
上記の添加量や比率であれば、カーボンナノチューブ(A1)の分岐構造に由来する導電ネットワークを阻害することなく、透明性と導電性を両立できるために好ましい。
【0033】
<樹脂(B)>
本実施形態の塗料用水系導電材分散体は、樹脂(B)を含む。
樹脂(B)は、炭素系導電材を分散する機能を有し、分散安定化に寄与する分散剤として機能する。樹脂(B)の重量平均分子量は、10万未満であることが好ましい。適度な重量平均分子量を有することで、炭素系導電材への吸着性が向上し、塗料用水系導電材分散体の安定性がより向上する。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量であり、[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
【0034】
樹脂(B)は、酸価またはアミン価を有することが好ましい。なかでも、固形分酸価とアミン価の合計が10~250mgKOH/gであることがより好ましく、70~200mg KOH/gであることがさらに好ましい。酸価とアミン価の合計が上記範囲となることで、分散効果、凝集防止効果、さらに炭素系導電材との吸着安定効果が得られるために好ましい。
【0035】
樹脂(B)の固形分アミン価は、ASTM D 2074の方法に準拠し、測定した全アミン価(mgKOH/g)を固形分換算した値である。
【0036】
樹脂(B)の固形分酸価は、電位差自動滴定装置を用いて等電点における滴定量から共重合体の酸価(mgKOH/g)を求めたものであり、[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
【0037】
樹脂(B)が酸価および/またはアミン価を有する樹脂とするためには、酸基または塩基を有するモノマーを共重合することが好ましい。
酸基としては、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等が挙げられる。
塩基としては、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、第四級アンモニウム基等が挙げられる。
【0038】
上記した官能基を有するモノマーとしては、例えば、
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和脂肪酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタレート、エチレンオキサイド変性コハク酸(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート;等のカルボキシ基を有するモノマー、
スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリル酸、スルホプロピル(メタ)アクリル酸、スルホエチル(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシメタン-1-スルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシプロパン-1-スルホン酸、エチレンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸;等のスルホ基を有するモノマー、
リン酸ビニル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートアシッドホスフェート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、;等のリン酸基を有するモノマー、
アミノメチル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、アリルアミン塩酸塩、二水素アリルアミンリン酸塩、2-イソプロペニルアニリン;等の第一級アミノ基を有するモノマー、
t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート;等の第二級アミノ基を有するモノマー、
N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)ピペリジン、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)ピロリジン、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)モルホリン、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル(メタ)アクリレート、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、1-ビニルイミダゾール;等の第三級アミノ基を有するモノマー、
トリメチル-2-メタクロイルオキシエチルアンモニウムクロリド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド;等の第四級アンモニウム基を有するモノマー、
等が挙げられる。
【0039】
樹脂(B)は、芳香族基、複素環基、またはアクリロニトリル基を有することが好ましい。樹脂(B)が芳香族基、複素環基、またはアクリロニトリル基を有することで、炭素系導電材への吸着が強固となり、分散安定性がより向上できる。
【0040】
芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基などが挙げられる。
複素環基としては、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリタジル基などが挙げられる。
【0041】
これらの中でも、分散安定性の観点から、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、またはアクリロニトリル基がより好ましく、アクリロニトリル基がさらに好ましい。
【0042】
芳香族基、複素環基、またはアクリロニトリル基を有するモノマーとしては、例えば、
スチレン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート;等のフェニル基を有するモノマー、
1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、(メタ)アクリル酸1-ナフチル、(メタ)アクリル酸2-ナフチル、3-(1-ナフチル)アクリル酸、;等のナフチル基を有するモノマー、
1-ビニルアントラセン、2-ビニルアントラセン、9-ビニルアントラセン、(メタ)アクリル酸9-アントリル;等のアントラセニル基を有するモノマー、
3-ビニルフェナントレン、6-ビニルフェナントレン、9-ビニルフェナントレン、(メタ)アクリル酸(9-フェナントリル)メチル;等のフェナントレニル基を有するモノマー、
2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ピリジン(メタ)アクリレート;等のピリジル基を有するモノマー、
ビニルピリタジン、ピリタジン(メタ)アクリレート;等のピリダジン基を有するモノマー、
ビニルピリミジン、ピリミジン(メタ)アクリレート;等のピリミジニル基を有するモノマー、
ビニルピラジン、ピラジン(メタ)アクリレート;等のピラジニル基を有するモノマー、
(メタ)アクリロニトリル;等のアクリロニトリル基を有するモノマー、
等が挙げられる。
【0043】
樹脂(B)は、前記したモノマー以外に、従来公知の種々のモノマーを共重合することができる。
【0044】
樹脂(B)の合成に使用するモノマーとしては、水酸基、メルカプト基、ビニルエーテル基、脂肪酸ビニル基、N-置換マレイミド基、等が挙げられる。これらモノマーは、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0045】
これらのモノマーとしては、例えば、
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート;等の水酸基含有モノマー、
アクリル酸2-(メルカプトアセトキシ)エチル、アリルメルカプタン;等のメルカプト基含有モノマー、
エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル;等のビニルエーテル基を有するモノマー、
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル;等の脂肪酸ビニル基を有するモノマー、
N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド;等のN-置換マレイミド基を有するモノマー、
等が挙げられる。
【0046】
共重合体の製造方法は、特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法、沈殿重合等が挙げられるところ、溶液重合または沈殿重合法が好ましい。重合反応系は、例えば、イオン重合、フリーラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合等が挙げられるところ、フリーラジカル重合またはリビングラジカル重合が好ましい。また、ラジカル重合開始剤は、例えば、過酸化物、アゾ系開始剤等が挙げられる。分散剤の重合に際して、連鎖移動剤等の分子量調整剤が使用できる。
【0047】
連鎖移動剤は、例えば、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等のアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸ノニル、チオグリコール酸-2-エチルヘキシル等のチオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン等が挙げられる。特に、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、チオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン等が、得られる重合体が低臭気となる点で好ましい。
【0048】
連鎖移動剤の使用量は、全モノマーの合計100質量部に対して、0.01~4質量部が好ましく、0.1~2質量部がより好ましい。連鎖移動剤を上記範囲内とすることで本発明の分散剤の分子量を好適な分子量範囲に調整することができる。
【0049】
樹脂(B)としては、前記した共重合体以外にも、アラビアゴム、天然ロジンなどの天然高分子化合物、水添ロジン、重合ロジンなどの変性ロジン化合物、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース系化合物等も用いることができる。
【0050】
市販の樹脂(B)としては、ビックケミー社製のDisperbyk-180、183、184、187、190、191、192、193、194、2010、2013、2015、2090、2091、2095、2096等;日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE-20000、27000、41000、41090、43000、44000、46000、47000、53095、54000等;BASFジャパン社製のDispex AA4030、AA4040、AA4140、CX4230、CX4231、CX4234、CX4240、CX4320、Dispex Ultra FA4404、FA4416、FA4425、FA4431、FA4437、FA4480、FA4480、FA4483、PA4550、PA4560、PA4575、PA4585等;Joncryl HPD-196、HPD-96J、PDX-6137A、63J、60J、70J、JDX-6639、JDX-6500、PDX-6102B等;味の素ファインテクノ社製のアジスパーPA111、PB711、PB821、PB822、PB824等が挙げられる。
【0051】
<水系媒体(C)>
水系媒体(C)は、少なくとも水を含有し、任意で水と混和する媒体を含んでもよい。水系媒体(C)全量に対し、水の含有割合は50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0052】
水と混和する媒体としては、アルコール系(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ベンジルアルコールなど)、多価アルコール系(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコールなど)、多価アルコールエーテル系(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなど)、アミン系(エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミンなど)、アミド系(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタムなど)、複素環系(シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホランなど)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトンなど)、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリルなどを使用することができる。
【0053】
<その他添加剤>
水系導電材分散体は、色素誘導体、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、レベリング剤などのその他添加剤を含んでもよい。
【0054】
[色素誘導体]
色素誘導体は、有機色素残基に酸性基、塩基性基、中性基などを有する化合物である。色素誘導体は、例えば、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基などの酸性置換基を有する化合物及びこれらのアミン塩や、スルホンアミド基や末端に3級アミノ基などの塩基性置換基を有する化合物、フェニル基やフタルイミドアルキル基などの中性置換基を有する化合物が挙げられる。
有機色素は、例えばジケトピロロピロール系顔料、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、チアジンインジゴ系顔料、トリアジン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ベンゾイソインドール等のインドール系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、ナフトール系顔料、スレン系顔料、金属錯体系顔料、アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系顔料、等が挙げられる。
【0055】
[界面活性剤]
界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、両イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤は、単独または2種以上を併用できる。
【0056】
例えば、陽イオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0057】
両イオン界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミノオキサイド系界面活性剤が挙げられる。
【0058】
陰イオン界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤及びカルボン酸系界面活性剤などが挙げられる。
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン、ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤が挙げられる。上記においては、アルキルとは炭素数が1―20から選択されるアルキルであってよい。界面活性剤は、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、非イオン性界面活性剤が好ましく、特に芳香族系非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0059】
中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香族を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシフェニルエーテルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
【0060】
[pH調整剤]
pH調整剤としては、塩基性化合物、酸性化合物が挙げられる。
pH調整剤は、単独または2種以上を併用できる。
【0061】
塩基性化合物としては特に限定されないが、無機塩基としては、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を有する化合物であることが好ましく、詳しくは、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、ならびにホウ酸塩等が挙げられる。また、これらの中でも容易にカチオンを供給できる面でアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物、水酸化物、炭酸塩が好ましい。アルカリ金属の水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属の炭酸塩は、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。また、金属を含まない塩基としてアンモニアが挙げられる。これらの中でも水酸化リチウム、水酸化ナトリウムがより好ましい。なお、本発明の無機塩基および無機金属塩が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0062】
有機塩基としては、炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級、3級または4級アルキルアミンが挙げられる。
【0063】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する1級アルキルアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、2ーエチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、2-アミノエタノール、3-アミノプロパノール、3-エトキシプロピルアミン等が挙げられる。
【0064】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する2級アルキルアミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、2-メチルアミノエタノール等が挙げられる。
【0065】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する3級アルキルアミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
【0066】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する4級アルキルアミンとしては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0067】
この内、炭素数1~10の置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級、3級または4級アルキルアミンが好ましく、炭素数1~5の置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級、3級または4級アルキルアミンがさらに好ましい。
また、置換されていてもよいアルキル基とは、水素原子が置換されていてもよいことを意味し、置換基としては、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0068】
有機塩基としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、モノエタノールアミン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール等の塩基性窒素原子を含有する化合物類を用いてもよい。
【0069】
酸性化合物としては特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸などの無機酸や、カルボン酸類、燐酸類、スルホン酸類のような有機酸等を使用することができる。
【0070】
[消泡剤]
消泡剤は、従来公知のいずれの消泡剤も使用できる。市販の消泡剤、湿潤剤、親水性有機溶剤水溶性有機溶剤等、消泡効果を有するものであれば任意に用いることができ、1種類でも、複数を組み合わせて用いてもよい。
消泡剤は、単独または2種以上を併用できる。
【0071】
例えば、アルコール系;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、プロピレングリコール、その他グリコール類等、
脂肪酸エステル系;ジエチレングリコールラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等、
アミド系;ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等、
リン酸エステル系;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等、
金属セッケン系;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等、
油脂系;動植物油、胡麻油、ひまし油等、
鉱油系:灯油、パラフィン等、
シリコーン系;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、 有機変性ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等が挙げられる。
【0072】
その他添加剤は、炭素系導電材、樹脂(B)、水系媒体(C)と共に混合し、分散して水系導電材分散体としても良いし、炭素系導電材、樹脂(B)、水系媒体(C)を分散した水系導電材分散体に後添加しても良い。添加方法は、その他添加剤を別々に添加しても良いし、あらかじめ混合して添加しても良い。その他添加剤を添加する際は、一括添加しても良いし、分割添加しても良いし、滴下など断続的に添加してもよい。
【0073】
<水系導電材分散体の作製>
本発明の水系導電材分散体は、樹脂(B)を分散剤として、カーボンナノチューブ(A1)を含む炭素系導電材を、水系媒体(C)中に分散したものである。この場合、樹脂(B)と炭素系導電材を同時、または順次添加し、混合することで、樹脂(B)を炭素系導電材に作用(吸着)させつつ分散する。水系導電材分散体の製造をより容易に行うため、樹脂(B)を水中に溶解、膨潤、または分散させ、その後、液中に炭素系導電材を添加し、混合することで樹脂(B)を炭素系導電材に作用(吸着)させることが、より好ましい。
【0074】
分散装置としては、従来公知のいずれの分散機も使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
上記樹脂(B)のうち、塗料の高い全光線透過率、および導電性を示すという理由から、重量平均分子量10万未満が好ましい。また、酸価とアミン価の合計が、10~250mgKOH/gが好ましい。また、芳香族基、複素環基、またはアクリロニトリル基を有することが好ましい。これらの樹脂(B)の中でも、(メタ)アクリル-(メタ)アクリロニトリル樹脂が好ましい。樹脂(B)は、炭素系導電材(A)の炭素成分100質量部に対して100質量部以上1500質量以下使用し、さらには150質量部以上1000質量部以下が好ましい。上記の範囲にすることで貯蔵安定性や導電性が良好となる。
【0076】
水系導電材分散体は、必要に応じ、さらに重量平均分子量10万以上のバインダー樹脂、クリアー塗料、有機溶媒、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、酸化防止剤、紫外線吸収剤、表面調整剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合し、水系導電塗料として用いることができる。
上記した材料は、従来公知のいずれの材料も使用することができる。
【0077】
≪塗工物≫
塗工物は、基材に、塗料用水系導電材分散体を塗工してなる塗工膜を備える。
【0078】
<基材>
水系導電材分散体は、従来公知の種々の基材に塗工できる、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム等及びその表面処理物等の金属基材;セメント類、石灰類、石膏類等のセメント系基材;ポリ塩化ビニル類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、アクリル類等のプラスチック系基材等を挙げることができる。基材の形状は、平面でもよいし、曲面でもよい。基材の表面は、平滑でもよいし、凹凸を有してもよい。
【0079】
水系導電材分散体の塗工方法としては、特に限定されず、従来公知の種々の塗工方法を採用できる。例えば、刷毛塗り、ローラー塗装、スプレー塗装等を挙げることができる。塗装後、通常、常温乾燥又は加熱乾燥させることにより塗膜を得ることができる。
【実施例0080】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は質量部を、%は質量%をそれぞれ表す。また、カーボンナノチューブを「CNT」と称する場合がある。
【0081】
本実施例及び比較例において、水系導電材分散体および水系導電塗料の製造にあたって、下記材料を使用した。
<炭素系導電材>
[カーボンナノチューブ(A1)]
・ATHLOS:キャボット社製カーボンナノストラクチャー、外径:10~15nm、比表面積200~250m/g
[カーボンナノチューブ(A2)]
・TUBALL(80%):OCSIAL社製、シングルウォールカーボンナノチューブ、平均外径:1.5nm、炭素成分80%、比表面積490m/g
・6A:JENOTUBE6A(JEIO社製、マルチウォールカーボンナノチューブ、平均外径:5~7nm、比表面積700m/g)
・100T:K-Nanos 100T(Kumho Petrochemical製、マルチウォールカーボンナノチューブ、外径:10~15nm、比表面積240m/g )
[炭素系導電材(A’)]
・EC600JD:ケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ製、1次粒子径34nm、比表面積1270m/g)
【0082】
<樹脂(B)>
・BYK-190:ビックケミー社製、スチレン系高分子ブロック共重合体、固形分酸価10mgKOH/g、不揮発分40%
・EFKA4701:BASFジャパン社製、アクリル系ブロック共重合体、固形分アミン価40mgKOH/g、不揮発分100%
・Sol sperse 27000:ルーブリゾール社製、不揮発分100%
・Joncryl 63J:BASFジャパン社製、スチレン-アクリル酸系、固形分酸価213mg KOH/g、不揮発分30%
【0083】
尚、共重合体(B-1)は下記の製造例に沿って作製を行った。
(共重合体(B-1)の製造)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メチルエチルケトン100部、アクリロニトリル78.0部、アクリル酸22.0部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール0.5部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱してメチルエチルケトン10部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬製:V-65)0.4部からなる混合物を6時間かけて反応容器内に滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、70℃で1時間反応させた後、V-65を0.1部添加し、さらに70℃で1時間反応を続け目的物を沈殿物として得た。その後、不揮発分測定にて転化率が98%を超えたことを確認した。生成物を減圧濾過によって濾別し、酢酸エチル100部にて洗浄を行い、減圧乾燥によって溶媒を完全に除去して共重合体(B-1)を得た。共重合体(B-1)の重量平均分子量(Mw)は25000であった。また、酸価は175mgKOH/gであった。
【0084】
(B-2~B-4の合成)
使用するモノマーを表1に従って変更した以外は、B-1と同様にして、それぞれ共重合体を作製した。各共重合体の重量平均分子量(Mw)及び酸価(mg/KOH)は表1に示す通りであった。
【0085】
【表1】
【0086】
(共重合体の酸価の測定方法)
共重合体の酸価は、共重合体/NMP溶液の滴定から算出した。共重合体1gをビーカー(100ml)に採取し、NMPを30ml加えてスターラーで撹拌して溶解させた。さらにイオン交換水20mlで希釈して被滴定液とした。被滴定液を別途電位差自動滴定装置(AT-710S、京都電子工業製)を用いて0.1mol/lのKOH/エタノール溶液にて滴定し、等電点における滴定量から共重合体の酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0087】
(重量平均分子量(Mw)の測定方法)
合成した共重合体の重量平均分子量(Mw)は、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。
装置は、HLC-8320GPC(東ソー製)を用い、分離カラムを3本直列に繋ぎ、充填剤には順に東ソー製「TSK-GELSUPER AW-4000」、「AW-300
0」、及び「AW-2500」を用い、オーブン温度40℃、溶離液として30mMトリエチルアミン及び10mM LiBrのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を用い、流速
0.6ml/minで測定した。サンプルは上記溶離液からなる溶剤に1wt%の濃度で
調製し、20マイクロリットル注入した。分子量はポリスチレン換算値である。
【0088】
<クリアー塗料>
・水系ニゴリクリアー:ロックペイント社製 ネオウォーターベース ニゴリクリヤー、不揮発分20%
・サイメル325:三井サイテック社製メラミン樹脂、不揮発分100%
【0089】
<水系導電材分散体の製造>
[実施例1]
カーボンナノチューブ(A1)としてATHLOS 0.15部、樹脂(B)として共重合体(B-1) 0.75部、pH調整剤としてKOH 0.26部、消泡剤としてサーフィノール104E 0.15部、精製水 98.69部をヘラで予備分散をした後に直径0.5mmのジルコニアビーズ200gを分散メディアとして仕込み、ペイントシェーカーにて、8時間分散処理し、水系導電材分散体(F-1)を得た。
【0090】
[実施例2-31]
表2に示す炭素系導電材、樹脂(B)及び添加剤の種類と量、分散処理時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、水系導電材分散体F-2~F-31を得た。
【0091】
[比較例1]
カーボンナノチューブ(A1)としてATHLOS 0.4部、樹脂(B)として共重合体(B-1) 0.4部、塩基としてKOH 0.14部、消泡剤としてサーフィノール104E 0.15部、精製水 98.91部をヘラで予備分散をした後に直径0.5mmのジルコニアビーズ200gを分散メディアとして仕込み、ペイントシェーカーにて、8時間分散処理し、水系導電材分散体(F-32)を得た。
【0092】
[比較例2-14]
表3に示す炭素系導電材、樹脂(B)及び添加剤の種類と量、分散処理時間に変更した以外は、比較例1と同様にして、水系導電材分散体F-33~F-45を得た。
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
<水系導電材分散体の評価>
得られた水系導電材分散体について、以下の評価を行った。その結果を表4、5に示した。
(粘度)
粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、水系導電材分散体の温度25℃、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて、水系導電材分散体をヘラで充分に撹拌した後、直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が0.1Pa・s未満の場合はNo.1を、0.1Pa・s以上0.5Pa・s未満の場合はNo.2を、0.5Pa・s以上2.0Pa・s未満の場合はNo.3を、2.0Pa・s以上10Pa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。
分散直後から5時間以内に測定した粘度を、初期粘度とした。
【0096】
(貯蔵安定性)
貯蔵安定性の評価は、水系導電材分散体を60℃にて、10日間静置して保存した後の、粘度値の変化から評価した。変化率は式(1)によって算出され、算出された結果に基づき下記基準にて評価を行った。尚、◎(最良)、〇(良好)、△(普通)、×(不良)の4段階で評価した。
変化率(%)=(60℃10日後粘度)/(初期粘度)×100・・・・・・式(1)
[評価基準]
◎:変化率が85%以上115%未満
○:変化率が75%以上85%未満または115%以上125%未満
△:変化率が50%以上75%未満または125%以上150%未満
×:変化率が50%未満または150%以上
【0097】
(導電性)
導電性については、PETフィルムに塗工した試験塗膜を、三菱化学社製:ロレスターGP(MCP-T610)を用いて表面抵抗率(Ω/□)を測定した。下記基準にて評価を行った。尚、◎(最良)、〇(良好)、△(普通)、×(不良)の4段階で評価した。
[評価基準]
◎:1.0×10未満
〇:1.0×10以上1.0×10未満
△:1.0×10以上1.0×10未満
×:1.0×10以上
【0098】
(分散性)
分散粒度は、溝の最大深さ300μmのグラインドゲージを用いて目視により観察し、粗粒の有無を確認し、下記基準にて評価を行った。
[評価基準]
○:粗粒無し
△:100μm未満の粗粒がある
×:100μm以上の粗粒がある
【0099】
(水系導電材分散体の複素弾性率及び位相角)
複素弾性率及び位相角は、直径60mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製HAAKE MARSIII)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率が0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施し、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)を求めた。
なお、複素弾性率及び位相角の値によって分散体の分散性の指標とすることができる。
複素弾性率Xは、水系導電材分散体の硬さを表すパラメータであり、複素弾性率Xが小さいと、低粘度である傾向にある。複素弾性率Xの値が大きいと、カーボンナノチューブの繊維を破壊せずに分散を進めることができているといえる。
位相角Yは、水系導電材分散体に与えるひずみを正弦波とした場合の応力波の位相ズレを意味している。位相角が0°に近づくほど、カーボンナノチューブの繊維を破壊せずに分散を進めることができると、カーボンナノチューブの繊維に由来した構造粘性を発現し、純弾性体に近づいているといえる。
複素弾性率Xは、10Pa以上500Pa以下が好ましく、50Pa以上500Pa以下がより好ましく、100Pa以上500Pa以下がさらに好ましい。
また、位相角Yは、3°以上45°以下が好ましく、3°以上20°以下がより好ましく、3°以上10°以下がさらに好ましい。
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
<水系導電塗料、塗工物の製造>
[実施例32]
実施例1で得られた水系導電材分散体F-1、クリアー塗料、及び精製水を、下記組成にあるように配合し、水系導電塗料を得た。
水系導電材分散体F-1 :4.67部
クリアー塗料(G)=(ニゴリクリアー/サイメル325=75%/25%):10.0部
精製水 :0.17部
続いて、得られた水系導電塗料を、コロナ放電処理PETフィルムに膜厚が20±2μmになるようにアプリケーターで塗工し、30分間セッティング後、60℃にて30分間乾燥させた後、140℃にて20分間焼き付けを行って、水系導電塗膜P-1を得た。
【0103】
[実施例33-60]
表6に示す水系導電材分散体(F)に変更した以外は、実施例32と同様にして、水系導電塗膜P-2~P-60を得た。
【0104】
[比較例15]
比較例1で得られた水系導電材分散体F-32、クリアー塗料、及び精製水を、下記組成にあるように配合し、水系導電塗料を得た。
水系導電材分散体F-32 :1.75部
クリアー塗料(G):10.0部
精製水 :2.91部
続いて、得られた水系導電塗料を、コロナ放電処理PETフィルムに膜厚が20±2μmになるようにアプリケーターで塗工し、30分間セッティング後、60℃にて30分間乾燥させた後、140℃にて20分間焼き付けを行って、水系導電塗膜P-32を得た。
【0105】
[比較例16-28]
表7に示す水系導電材分散体(F)に変更した以外は、比較例15と同様にして、水系導電塗膜P-33~P-45を得た。
【0106】
<水系導電塗膜評価>
水系導電塗膜P-1~P-45について以下の評価を行った。その結果を表6、7に示した。
【0107】
(透明性)
透明性については、PETフィルムに塗工した試験塗膜を、日本電色工業社製:NDH8000で全光線透過率(TT)を測定した。下記基準にて評価を行った。尚、◎(最良)、〇(良好)、△(普通)、×(不良)の4段階で評価した。
[評価基準]
◎:40以上
〇:35以上40未満
△:30以上35未満
×:30未満
【0108】
(導電性)
導電性については、PETフィルムに塗工した試験塗膜を、三菱化学社製:ハイレスターUX(MCP-HT800)を用いて表面抵抗率(Ω/□)を測定した。下記基準にて評価を行った。尚、◎(最良)、〇(良好)、△(普通)、×(不良)の4段階で評価した。
[評価基準]
◎:1.0×10未満
〇:1.0×10以上1.0×10未満
△:1.0×10以上1.0×1010未満
×:1.0×1010以上
【0109】
【表6】
【0110】
【表7】
【0111】
表4、5の結果から、本発明の水系導電材分散体は貯蔵安定性、分散性、導電性に優れていることが示された。さらに、表6、7に示した結果から、本発明の水系導電塗膜は、透明性、導電性に優れていることが示された。
図1