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特開2024-44671アンカー部材及びアンカー部材の設置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044671
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】アンカー部材及びアンカー部材の設置方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20240326BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
E01D19/04 101
E04B1/41 502A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150344
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000112196
【氏名又は名称】株式会社ピーエス三菱
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(72)【発明者】
【氏名】花房 禎三郎
(72)【発明者】
【氏名】桐川 潔
【テーマコード(参考)】
2D059
2E125
【Fターム(参考)】
2D059AA01
2D059GG30
2D059GG56
2E125AA76
2E125AF01
2E125AG03
2E125AG16
2E125AG41
2E125AG60
2E125BA22
2E125BB08
2E125BB30
2E125BC04
2E125BD01
2E125BE07
2E125BE08
2E125BF01
2E125CA04
2E125CA82
2E125CA83
2E125EA05
(57)【要約】
【課題】鉄筋等の埋設物が密に配置されているコンクリート構造体の表面より先端側のネジ部を垂直に突出させた状態で設置可能なアンカー部材及びその設置方法の提供。
【解決手段】このアンカー部材1は、変形可能なアンカー本体2と、アンカー本体2の先端側に嵌合された管状のネジ部用管材3とを備え、コンクリート構造体4内に埋設される埋設物11,12を露出させた状態でアンカー本体2を変形させて埋設物11,12を回避するようにアンカー部材1を配置し、
設置区域13に充填材14を打設してアンカー部材1をコンクリート構造体4に固定するようにしている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体の表面より先端側のネジ部を突出させた状態で前記コンクリート構造体に埋設されるアンカー部材において、
変形可能なアンカー本体と、該アンカー本体の先端側に嵌合された管状のネジ部用管材とを備えていることを特徴とするアンカー部材。
【請求項2】
前記アンカー本体は、複数の鋼線が撚り合わされてなる鋼撚り線で構成されている請求項1に記載のアンカー部材。
【請求項3】
前記アンカー本体の基端側を構成する前記鋼撚り線が解されて各鋼線に分岐されている請求項2に記載のアンカー部材。
【請求項4】
コンクリート構造体の表面より先端側のネジ部を突出させた状態にアンカー部材を前記コンクリート構造体に埋め込むアンカー部材の設置方法において、
前記アンカー部材は、変形可能なアンカー本体と、該アンカー本体の先端側に嵌合された管状のネジ部用管材とを備え、
前記コンクリート構造体内に埋設される埋設物を露出させた状態で前記アンカー本体を変形させて前記埋設物を回避するように前記アンカー部材を配置し、
しかる後、設置区域にコンクリート又は充填材を打設して前記アンカー部材を前記コンクリート構造体に固定することを特徴とするアンカー部材の設置方法。
【請求項5】
前記アンカー本体を複数の鋼線が撚り合わされてなる鋼撚り線で構成する請求項4に記載のアンカー部材の設置方法。
【請求項6】
前記アンカー本体の基端側を構成する前記鋼撚り線を解して各鋼線に分岐させる請求項5に記載のアンカー部材の設置方法。
【請求項7】
前記設置区域は、前記コンクリート構造体の既設コンクリートを斫り取って形成する請求項4に記載のアンカー部材の設置方法。
【請求項8】
前記既設コンクリートに掘削用流体を噴射して前記既設コンクリートを斫り取る請求項7に記載のアンカー部材の設置方法。
【請求項9】
新たにコンクリート構造体を構築する際に使用する前記埋設物が配置された型枠内を前記設置区域とする請求項4に記載のアンカー部材の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体の表面部に装置や構造材等を固定する際に使用するアンカー部材及びアンカー部材の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁等においては、地震動によって橋桁が橋台や橋脚に対しずれたり落下したりすることを防止するため、変位制限装置や落橋防止装置(以下、変位制限装置等と総称する)が用いられている。
【0003】
近年では、コンクリート構造体の老朽化や耐震基準の見直しにより、コンクリート構造体の延命化対策が実施され、耐震基準の見直しにより基準を満たさなくなる場合も多くなっており、その対策として変位制限装置等の新設や既存の変位制限装置等の交換・増設が行われている。
【0004】
この種の変位制限装置等は、コンクリート橋本体及び下部工にアンカー部材を用いて鋼製ブラケットを設置し、この鋼製ブラケットに装置を構成する構成物が取り付けられるようになっている。
【0005】
アンカー部材は、鋼製の棒状に形成され、先端側に雄ネジ部が形成され、先端側をコンクリート構造体の表面より突出させた状態で基端側をコンクリート構造体内に埋設するようになっている。
【0006】
また、アンカー部材は、支持する構造体、例えば、上述の鋼製ブラケットやブラケットに支持される装置の荷重を負担できるように、十分なコンクリート構造体に対する付着面積を確保する必要がある。
【0007】
このアンカー部材の設置方法は、既設コンクリート構造体にコンクリートドリルやコア削孔機等によってアンカー孔を削孔し、その削孔した孔にアンカー部材を挿入し、充填材を注入してアンカー部材を既設コンクリートに定着させる所謂「後施工アンカー工法」が一般的である(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
アンカー孔の削孔は、内部鉄筋が密に配置されているコンクリート構造体の場合、鉄筋探査機により、コンクリート表面から鉄筋の位置を測定し、アンカー孔を削孔する位置を決定する。
【0009】
また、下部工の場合では、鉄筋(主筋)がコンクリート表面に対し内外2段配置となっている場合も多く、コンクリート内部側の鉄筋についてはコンクリート表面からの距離があるため、正確な位置を測定することが難しく、ある程度2段目の鉄筋位置を推測して削孔し、削孔中に2段目の鉄筋と干渉した場合は、削孔を止め、近傍の別の位置を削孔するといった方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017-166267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の如き従来の技術では、鉄筋量が多く、鉄筋配置間隔が1段目と2段目とで異なり且つ鉄筋配置間隔が小さい場合、鉄筋等の埋設物と干渉せずに十分な付着長を確保することが難しく、コンクリート表面と垂直に削孔できず、コンクリート表面に対しアンカー部材を垂直に設置することが難しいという問題があった。
【0012】
特に、プレストレストコンクリート橋等のPC構造物では、鉄筋に加えPC鋼材が配置されており、かつ支承周辺に補強鉄筋等も配置されており、鉄筋を含む埋設物が密に配置されていることから、コンクリート構造体の表面に対し垂直にアンカー孔を削孔することが困難であった。
【0013】
また、橋梁の下部工は、橋梁上部工の重量を受けもつため、耐震設計上、配筋量が多く、主鉄筋も2段配置となっている場合があり、主鉄筋に加え、主鉄筋と直交する配力鉄筋や組み立て鉄筋も配置されており、鉄筋配置が非常に密となっていることから、コンクリート構造体の表面に対し垂直にアンカー孔を削孔することが困難であった。
【0014】
さらに、従来の技術では、確実に鉄筋等の埋設物の配置を把握することが難しいことから、アンカー孔を削孔する際にコンクリートドリルややコア削孔機等によって誤って鉄筋等の埋設物を破損させてしまうおそれもあった。
【0015】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、鉄筋等の埋設物が密に配置されているコンクリート構造体の表面より先端側のネジ部を垂直に突出させた状態で設置可能なアンカー部材及びその設置方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、コンクリート構造体の表面より先端側のネジ部を突出させた状態で前記コンクリート構造体に埋設されるアンカー部材において、変形可能なアンカー本体と、該アンカー本体の先端側に嵌合された管状のネジ部用管材とを備えていることにある。
【0017】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記アンカー本体は、複数の鋼線が撚り合わされてなる鋼撚り線で構成されていることにある。
【0018】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項2の構成に加え、前記アンカー本体の基端側を構成する前記鋼撚り線が解されて各鋼線に分岐されていることにある。
【0019】
請求項4に記載の発明の特徴は、コンクリート構造体の表面より先端側のネジ部を突出させた状態にアンカー部材を前記コンクリート構造体に埋め込むアンカー部材の設置方法において、前記アンカー部材は、変形可能なアンカー本体と、該アンカー本体の先端側に嵌合された管状のネジ部用管材とを備え、前記コンクリート構造体内に埋設される埋設物を露出させた状態で前記アンカー本体を変形させて前記埋設物を回避するように前記アンカー部材を配置し、しかる後、設置区域にコンクリート又は充填材を打設して前記アンカー部材を前記コンクリート構造体に固定することにある。
【0020】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項4の構成に加え、前記アンカー本体を複数の鋼線が撚り合わされてなる鋼撚り線で構成することにある。
【0021】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項5の構成に加え、前記アンカー本体の基端側を構成する前記鋼撚り線を解して各鋼線に分岐させることにある。
【0022】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項4の構成に加え、前記設置区域は、前記コンクリート構造体の既設コンクリートを斫り取って形成することにある。
【0023】
請求項8に記載の発明の特徴は、請求項7の構成に加え、前記既設コンクリートに掘削用流体を噴射して前記既設コンクリートを斫り取ることにある。
【0024】
請求項9に記載の発明の特徴は、請求項4の構成に加え、新たにコンクリート構造体を構築する際に使用する前記埋設物が配置された型枠内を前記設置区域とすることにある。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るアンカー部材は、請求項1に記載の構成を具備することによって、鉄筋等の埋設物が密に配置されているコンクリート構造体に対し、当該埋設物に合わせてアンカー部材本体を変形させることによって、先端のネジ部をコンクリート構造体表面から垂直に突出させた状態で埋設物を回避しつつ荷重負担に十分な付着長を確保することができる。
【0026】
また、本発明において、請求項2に記載の構成を具備することによって、アンカー本体を好適に変形させることができる。
【0027】
さらに、本発明において、請求項3に記載の構成を具備することによって、鉄筋等の埋設物の配置に合わせ、分岐した鋼線を自由に配置することができるとともに、より大きな付着面積を確保することができる。
【0028】
本発明に係るアンカー部材の設置方法は、請求項4に記載の構成を具備することによって、鉄筋等の埋設物の配置を把握した上でアンカー本体を変形させることで、当該埋設物に合わせてアンカー部材本体を変形させることによって、先端のネジ部をコンクリート構造体表面から垂直に突出させた状態で埋設物を回避しつつ荷重負担に十分な付着長を確保することができる。
【0029】
また、本発明において、請求項5に記載の構成を具備することによって、アンカー本体を好適に湾曲させることができる。
【0030】
さらに、本発明において、請求項6に記載の構成を具備することによって、鉄筋等の埋設物の配置に合わせ、分岐した鋼線を自由に配置することができるとともに、より大きな付着面積を確保することができる。
【0031】
また、本発明において、請求項7に記載の構成を具備することによって、鉄筋等の埋設物が密に配置された既設構造物にアンカー部材を好適に設置することができる。
【0032】
さらに、本発明において、請求項8に記載の構成を具備することによって、鉄筋等の埋設物を傷つけることなく既設構造物に設置区域を確保することができる。
【0033】
また、本発明において、請求項9に記載の構成を具備することによって、鉄筋等の埋設物を配置する自由度が大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】(a)本発明に係るアンカー部材の一例を示す側面図、(b)は同A-A線矢視断面図、(c)は他の態様のA-A線矢視断面図、(d)は同アンカー本体を示す斜視図である。
図2】本発明に係るアンカー部材の設置方法の手順を説明するための図であって、(a)は既設コンクリート構造体の施工前の状態の縦断面図、(b)は同表面側から見た正面図である。
図3】(a)は同上の既設コンクリート構造体に設置区域を成すアンカー設置孔を削孔した状態の縦断面図、(b)は同表面側から見た正面図である。
図4】同上の設置区域にアンカー部材を挿入した状態を示す縦断面図である。
図5】同上のアンカー部材の先端側をコンクリート構造体の表面に対し垂直に向けた状態を示す縦断面図である。
図6】(a)は同上の既設コンクリート構造体にアンカー部材が固定された状態の縦断面図、(b)は同表面側から見た正面図である。
図7】本発明に係るアンカー部材の設置方法の他の実施態様を説明するための縦断面図である。
図8】同上のさらに他の実施態様を説明するための縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明に係るアンカー部材の実施態様を図1に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1はアンカー部材である。
【0036】
アンカー部材1は、図1(a)~図1(c)に示すように、変形可能なアンカー本体2と、アンカー本体2の先端側に嵌合された管状のネジ部用管材3とを備え、ネジ部用管材3からなる先端側のネジ部をコンクリート構造体4の表面4aより突出した状態でコンクリート構造体4内に埋設されるようになっている。
【0037】
アンカー本体2は、図1(d)に示すように、複数の鋼線が撚り合わされて1本の綱状を成した鋼撚り線によって構成され、全体が変形可能、より具体的には屈曲や湾曲が可能になっている。
【0038】
鋼撚り線は、1本の芯線5の外周に6本の側線6,6…を螺旋状に巻きつけて撚り合わせた7本の鋼線(単素線)によって構成され、外周部の各側線6,6間に凹部7,7…が螺旋状に連続して形成されている。
【0039】
この鋼撚り線は、ネジ部用管材3が嵌合される部分の長さに加え、基端側にコンクリート又は無収縮モルタル等の充填材14に対する必要な付着長が確保できる部分の長さを備えた全長を有している。
【0040】
尚、上述の実施例では、7本撚りの鋼撚り線の場合について説明したが、鋼撚り線の態様はこれに限定されず、例えば、19本撚りの鋼撚り線であってもよい。
【0041】
また、アンカー本体2は、アンカー本体2の基端側を構成する鋼撚り線が解されて各鋼線5、6…に分岐された状態でも使用することができる。
【0042】
さらに、上述の実施例では、アンカー本体2を鋼撚り線で構成する場合について説明したが、アンカー本体2は鋼撚り線に限定されず、他の変形可能なもの、例えば、可撓性を有する材質からなる棒材等によって構成してもよい。
【0043】
ネジ部用管材3は、内径が略アンカー本体2の直径(芯線5の直径と2本の側線6,6の直径とを足した距離)と同じ径の円筒状に形成され、内部に挿入されたアンカー本体2の先端部と嵌合され、加締めることによってアンカー本体2に固定され一体化されている。
【0044】
このネジ部用管材3には、外周部に雄ネジ部8が形成され、雄ネジ部8は、ネジ部用管材3が加締めによってアンカー本体2と一体化された後、ネジ加工を施すことにより形成されるようになっている。
【0045】
また、ネジ部用管材3は、図1(c)に示すように、内径がアンカー本体2の直径(芯線5の直径と2本の側線6,6の直径とを足した距離)より大きい径の円筒状に形成され、外周部に雄ネジ部8を具備しているものであってもよい。
【0046】
この場合、アンカー本体2がネジ部用管材3内の中心に配置されるようネジ部用管材3に挿入され、アンカー本体2の外周とネジ部用管材3の内周面との間の空間に膨張性を有するセメント系材料等からなる充填材9を充填することにより、ネジ部用管材3をアンカー本体2に固定し、アンカー本体2とネジ部用管材3とが一体化される。
【0047】
雄ネジ部8は、図1(a)に示すように、ネジ部用管材3の先端から管軸方向の所定の範囲に設けられてもよく、全長に亘って設けられていてもよい。
【0048】
次に、上述したアンカー部材1の設置方法について、図2図6に示す実施例を基に説明する。
【0049】
本実施例では、既設のコンクリート構造体4にアンカー部材1を設置する場合について説明し、図中符号4は既設コンクリート構造体である。
【0050】
コンクリート構造体4は、図2に示すように、表面4aから所定の距離(かぶり分)をおいた位置に上下方向に向けた複数の鉄筋10a,10a…が水平方向に間隔をおいて配置され、鉄筋10aの内側に鉄筋10aと交差する複数の水平方向に向けた複数の鉄筋11,11…が上下方向に間隔をおいて配置されている。
【0051】
さらに、このコンクリート構造体4には、鉄筋10a,10a…より内側に鉄筋10a,10a…と同様に上下方向に向けた複数の鉄筋10b,10b…が水平方向に間隔をおいて配置され、鉄筋10bの内側に水平方向に向けた複数の鉄筋12,12…が上下方向に間隔をおいて、各鉄筋12,12…がそれぞれ外側(表面4a側)の鉄筋11,11間に位置する高さとなるよう配置されている。
【0052】
即ち、このコンクリート構造体4では、外側(表面4a側)の複数の鉄筋11,11…と内側の複数の鉄筋12,12…とが段違いの内外2段配置に埋設され、外側鉄筋11,11と内側鉄筋12,12との上下方向間隔が狭く、密に配置されている。
【0053】
尚、コンクリート構造体4は、特に限定されないが、橋梁のコンクリート橋本体、下部工、橋脚、橋台、その他のコンクリート構造体4であってもよい。
【0054】
このコンクリート構造体4にアンカー部材1を設置するには、先ず、図3に示すように、コンクリート構造体4の表面4aよりアンカー部材1の設置位置に合わせて既設コンクリートを斫り取り、アンカー部材1の設置区域13(アンカー設置孔)を形成する。
【0055】
設置区域13は、コンクリート構造体4の設計図(配筋図)や、鉄筋探査機を用いてコンクリート表面4aから鉄筋10a,10b,11,12の位置を測定した結果等に基づき、埋設物である鉄筋10a,10b,11,12の位置を予想し、アンカー部材1が挿入し易いように、アンカー部材1の直径よりも十分に大きな径で削孔し、且つ、埋設物である各鉄筋10a,10b,11,12が内部に露出するように設ける。
【0056】
具体的には、ウォータージェット工法によりコンクリート構造体4に向けて高圧で水等の掘削用流体を噴射させ、埋設物である鉄筋10a,10b,11,12が露出するように既設コンクリートを鉄筋10a,10b,11,12の配置間隔より大きな範囲で斫り取り、且つ、十分な付着長を確保できる深さとなるように設置区域13を形成する。
【0057】
その際、高圧噴射された掘削用流体で既設コンクリートを斫り取ることによって、鉄筋等の埋設物を傷つけることがなく、おおよその鉄筋配置が把握できていれば、好適に埋設物である鉄筋10a,10b,11,12を設置区域13内に露出させることができる。
【0058】
尚、内外側の鉄筋11,12の上下方向間隔は、アンカー部材1をコンクリート構造体4表面4aと垂直に挿し込むことが困難な程度に狭くなっている。
【0059】
次に、設置区域13が形成されたら、図4に示すように、アンカー部材1の先端側を所定の長さ分だけコンクリート構造体4の表面4aから突出させた状態に設置区域13(アンカー設置孔)内にアンカー部材1を挿入する。
【0060】
その際、鉄筋10a,10b,11,12が設置区域13内に露出した状態にあり、且つ、設置区域13がアンカー部材1の直径よりも十分に大きく形成されているので、邪魔となる鉄筋10a,10b,11,12の位置を容易に把握しつつ、容易にアンカー部材1を挿入することができる。
【0061】
そして、図5に示すように、アンカー部材1の先端側、即ち、ネジ部用管材3が嵌合された部分をコンクリート構造体4の表面4aに対し垂直となるように移動させ、その状態で固定具(図示せず)によって鉄筋又はコンクリート構造体4の表面4aに固定する。
【0062】
その際、内外側の鉄筋の上下方向間隔は、アンカー部材1をコンクリート構造体4表面4aと垂直に挿し込むことが困難な程度に狭くなっているため、ネジ部用管材3が嵌合された部分をコンクリート構造体4の表面4aに対し垂直となるように移動させることに伴って、設置区域13の形状及び内外側それぞれの鉄筋11,12の配置に合わせてアンカー本体2が変形し、アンカー部材1の先端側、即ち、ネジ部用管材3が嵌合された部分がコンクリート構造体4の表面4aと垂直に向けられる。
【0063】
そして、図6に示すように、設置区域13内に無収縮モルタル等の充填材14を打設・充填し、充填材14を養生固化させることによってアンカー部材1をコンクリート構造体4に固定する。
【0064】
このように構成されたアンカー部材1及びその設置方法では、アンカー本体2が変形可能なことによって、鉄筋10a,10b,11,12等の埋設物が密に配置されているコンクリート構造体4に対し、先端のネジ部をコンクリート構造体4の表面4aから垂直に突出させた状態で鉄筋10a,10b,11,12等の埋設物を回避しつつ荷重負担に十分な付着長を確保することができる。
【0065】
また、設置に際しては、設置区域13内に鉄筋10a,10b,11,12等の埋設物を露出させることによって、回避すべき対象を的確に把握でき、効率的に設置作業を行うことができる。
【0066】
尚、上述の実施例では、本発明を既設のコンクリート構造体4の適用する場合について説明したが、新たにコンクリート構造体4を構築する際にも適用することができ、その場合、図7に示すように、鉄筋10a,10b,11,12が配筋された状態のコンクリート構造体構築用の型枠15内を設置区域16とし、鉄筋10a,10b,11,12の配置に合わせてアンカー本体2を変形させた状態でアンカー部材1を設置し、しかる後、設置区域16内にコンクリートを打設するようにしてもよい。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0067】
また、アンカー本体2については、図8に示すように、アンカー本体2を構成する鋼撚り線を解して各鋼線5,6に分岐させることによって対応してもよい。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0068】
その際、設置区域13を成すアンカー設置孔は、大きめに形成しておき、分岐した各鋼線5、6…をアンカー部材1径方向に互いに離間して配置させるようにすることが好ましい。
【0069】
そして、このように各鋼線5,6…を解して分岐させることによって、各鋼線5,6…が波形状に湾曲した状態になっているのでコンクリート構造体4に対する抜き方向の抵抗が増大するとともに、各鋼線5,6…がそれぞれ独立してコンクリートと付着するのでアンカー本体2全体としての付着面積が増加する。
【符号の説明】
【0070】
1 アンカー部材
2 アンカー本体
3 ネジ部用管材
4 コンクリート構造体
5 芯線(鋼線)
6 側線(鋼線)
7 凹部
8 雄ネジ部
9 充填材
10a,10b 鉄筋
11 鉄筋
12 鉄筋
13 設置区域
14 充填材
15 型枠
16 設置区域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8