(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044675
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/822 20060101AFI20240326BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01L27/04 L
H01L21/88 Z
H01L21/88 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150352
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 孝行
(72)【発明者】
【氏名】笠岡 竜雄
(72)【発明者】
【氏名】中柴 康隆
【テーマコード(参考)】
5F033
5F038
【Fターム(参考)】
5F033HH08
5F033HH11
5F033HH19
5F033JJ01
5F033JJ08
5F033JJ11
5F033JJ19
5F033KK01
5F033KK08
5F033KK11
5F033KK19
5F033NN34
5F033PP06
5F033PP15
5F033QQ48
5F033RR04
5F033RR06
5F033RR22
5F033SS11
5F033TT04
5F033UU04
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5F033VV07
5F033VV08
5F033WW02
5F033XX00
5F033XX19
5F033XX33
5F038AZ04
5F038BE07
5F038BH10
5F038CA05
5F038CA10
5F038CA13
5F038CA18
5F038CD12
5F038EZ07
5F038EZ19
(57)【要約】
【課題】半導体装置の信頼性を向上する。
【解決手段】半導体チップCHP3は、下層配線層と、下層配線層上に形成された多層配線層と、多層配線層上に形成された上層配線層と、を備える。ここで、下層配線層に設けられた配線の厚さは、多層配線層に設けられた複数の配線のそれぞれの厚さよりも厚く、上層配線層に設けられた配線の厚さは、多層配線層に設けられた複数の配線のそれぞれの厚さよりも厚い。そして、下層配線層には、トランスフォーマの構成要素である下層インダクタ300が設けられ、上層配線層には、トランスフォーマの構成要素である上層インダクタ100が設けられている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層配線層と、
前記下層配線層上に形成された多層配線層と、
前記多層配線層上に形成された上層配線層と、
を備え、
前記下層配線層には、第1配線が設けられ、
前記多層配線層には、第2配線が設けられ、
前記上層配線層には、第3配線が設けられ、
前記第1配線の厚さは、前記第2配線の厚さよりも厚く、
前記第3配線の厚さは、前記第2配線の厚さよりも厚く、
前記下層配線層には、トランスフォーマの構成要素である下層インダクタが設けられ、
前記上層配線層には、前記トランスフォーマの構成要素である上層インダクタが設けられている、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1配線、前記第2配線および前記第3配線は、互いに電気的に接続されている、半導体装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記上層配線層には、前記第3配線とは異なる第4配線が設けられ、
前記第4配線の厚さは、前記第2配線の厚さよりも厚く、
前記下層インダクタは、前記第1配線からなり、
前記上層インダクタは、前記第4配線からなる、半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記第3配線は、第1電位が印加されるように構成された第1ボンディングワイヤと接続され、
前記第4配線は、前記第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成された第2ボンディングワイヤと接続される、半導体装置。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1配線の抵抗値は、前記第2配線の抵抗値よりも低く、
前記第3配線の抵抗値は、前記第2配線の抵抗値よりも低い、半導体装置。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第2配線の膜応力は、前記第1配線の膜応力よりも大きく、
前記第2配線の膜応力は、前記第3配線の膜応力よりも大きく、
前記第2配線の膜応力は、層間絶縁膜の膜応力とは逆特性を有する、半導体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置において、
断面視において、前記第1配線の幅は、前記第2配線の幅よりも大きく、
断面視において、前記第3配線の幅は、前記第2配線の幅よりも大きい、半導体装置。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体装置において、
断面視において、前記第1配線の幅は、前記第2配線の幅よりも大きく、
断面視において、前記第3配線の幅は、前記第2配線の幅よりも小さい、半導体装置。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1配線は、アルミニウム配線であり、
前記第2配線は、タングステン配線であり、
前記第3配線は、アルミニウム配線である、半導体装置。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第2配線は、前記上層配線層の1層下層に設けられた配線であり、
前記第2配線は、前記第3配線と接触している、半導体装置。
【請求項11】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第2配線は、前記上層配線層の1層下層に設けられた配線であり、
前記第2配線と前記第3配線とは、タングステンで形成されたビアを介して接続されている、半導体装置。
【請求項12】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記多層配線層は、
前記上層配線層から3層以上下層に設けられた第1層と、
前記第1層の1層上層に形成された第2層と、
を含み、
前記第1層に設けられた配線は、タングステンで形成された第1ビアを介して前記第2層に設けられた配線と接続され、
前記第2配線は、前記上層配線層の1層下層に設けられた配線であり、
前記第2配線は、アルミニウムで形成された第2ビアを介して前記第3配線と接続され、
断面視において、前記第2ビアの幅は、前記第1ビアの幅よりも大きい、半導体装置。
【請求項13】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記多層配線層は、
第1層と、
前記第1層の1層上層に形成された第2層と、
前記第2層の1層上層に形成された第3層と、
を含み、
前記半導体装置は、
前記第1層に設けられた第4配線と、
前記第2層に設けられた第5配線と、
前記第3層に設けられた第6配線と、
を有し、
前記第4配線は、第1ビアを介して前記第5配線と接続され、
前記第5配線は、第2ビアを介して前記第6配線と接続され、
平面視において、前記第1ビアと前記第2ビアは重なる、半導体装置。
【請求項14】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記多層配線層は、
第1層と、
前記第1層の1層上層に形成された第2層と、
前記第2層の1層上層に形成された第3層と、
を含み、
前記半導体装置は、
前記第1層に設けられた第4配線と、
前記第2層に設けられた第5配線と、
前記第3層に設けられた第6配線と、
を有し、
前記第4配線は、第1ビアを介して前記第5配線と接続され、
前記第5配線は、第2ビアを介して前記第6配線と接続され、
断面視において、前記第1ビアの位置と前記第2ビアの位置は、互いにずれている、半導体装置。
【請求項15】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1配線は、アルミニウム配線であり、
前記第2配線は、アルミニウム配線であり、
前記第3配線は、アルミニウム配線である、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、例えば、誘導結合した一対のインダクタを利用して、異なる電位の間での信号伝送を可能とする半導体装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2011-82212号公報(特許文献1)には、トランスフォーマを構成するコイルの寄生抵抗成分の大部分を占める直列抵抗を低減するために、微細化を妨げることなく、コイル断面積を大きくすることが可能な技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、誘導結合した一対のインダクタを利用して非接触の信号伝送を可能とするトランスフォーマ(デジタルアイソレータ)がある。このトランスフォーマによれば、非接触の状態での信号伝送が可能となるため、一方の回路からの電気的ノイズが他方の回路に悪影響を及ぼすことを抑制できる利点が得られる。そして、このように構成されているトランスフォーマでは、互いに大きく電位の異なる回路間での非接触の信号伝送も可能となるように、絶縁耐圧の向上が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施の形態における半導体装置は、下層配線層と、下層配線層上に形成された多層配線層と、多層配線層上に形成された上層配線層と、を備える。ここで、下層配線層には、第1配線が設けられ、多層配線層には、第2配線が設けられ、上層配線層には、第3配線が設けられている。このとき、第1配線の厚さは、第2配線の厚さよりも厚く、第3配線の厚さは、第2配線の厚さよりも厚い。そして、下層配線層には、トランスフォーマの構成要素である下層インダクタが設けられ、上層配線層には、トランスフォーマの構成要素である上層インダクタが設けられている。
【発明の効果】
【0006】
一実施の形態によれば、半導体装置の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】負荷回路を駆動する駆動制御部の構成例を示す図である。
【
図5】半導体チップの平面レイアウト構成を示す平面図である。
【
図7】実施の形態における半導体チップの断面構造を示す図である。
【
図8】トランスフォーマ形成領域に形成されている配線引き出し構造を拡大して示す図である。
【
図9】半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図10】
図9に続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図11】
図10に続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図12】
図11に続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図13】
図12に続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図14】
図13に続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図15】
図14に続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図16】
図15に続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図17】変形例1における半導体チップの模式的な断面図である。
【
図18】変形例2における配線引き出し構造を示す断面図である。
【
図19】変形例3における半導体チップの模式的な断面図である。
【
図20】変形例4における半導体チップの模式的な断面図である。
【
図21】変形例5における半導体チップの模式的な断面図である。
【
図22】(a)および(b)は、インダクタの形状例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0009】
<回路構成>
図1は、モータなどの負荷回路を駆動する駆動制御部の構成例を示す図である。
【0010】
図1に示すように、駆動制御部は、制御回路CCと、トランスフォーマTR1と、トランスフォーマTR2と、駆動回路DRと、インバータINVとを有し、負荷回路LODと電気的に接続されている。
【0011】
送信回路TX1および受信回路RX1は、制御回路CCから出力される制御信号を駆動回路DRに伝達するための回路である。一方、送信回路TX2および受信回路RX2は、駆動回路DRから出力される信号を制御回路CCに伝達するための回路である。制御回路CCは、駆動回路DRを制御する機能を有する回路である。駆動回路DRは、制御回路CCからの制御に基づいて、負荷回路LODを制御するインバータINVを動作させる回路である。
【0012】
制御回路CCには、電源電位VCC1が供給され、制御回路CCは接地電位GND1により接地される。一方、インバータINVには、電源電位VCC2が供給され、インバータINVは接地電位GND2により接地される。このとき、例えば、電源電位VCC1は、インバータINVに供給される電源電位VCC2よりも小さい。言い換えれば、インバータINVに供給される電源電位VCC2は、電源電位VCC1よりも大きい。
【0013】
送信回路TX1と受信回路RX1との間には、誘導結合(磁気結合)したコイル(インダクタ)CL1aとコイルCL1bからなるトランスフォーマTR1が介在している。これにより、送信回路TX1から受信回路RX1に、トランスフォーマTR1を介して信号を伝達することができる。この結果、駆動回路DRは、トランスフォーマTR1を介して、制御回路CCから出力された制御信号を受信することができる。
【0014】
このように、誘導結合を利用して電気的に絶縁したトランスフォーマTR1によって、制御回路CCから駆動回路DRへの電気的ノイズの伝達を抑制しながら、制御回路CCから駆動回路DRに制御信号を伝達することができる。このことから、制御信号への電気的ノイズの重畳に起因する駆動回路DRの誤動作を抑制することができ、これによって、半導体装置の動作信頼性を向上することができる。
【0015】
トランスフォーマTR1を構成するコイルCL1aおよびコイルCL1bは、それぞれインダクタとして機能する。トランスフォーマTR1は、誘導結合したコイルCL1aとコイルCL1bからなる磁気結合素子として機能することになる。
【0016】
同様に、送信回路TX2および受信回路RX2の間には、誘導結合したコイルCL2bとコイルCL2aとからなるトランスフォーマTR2が介在している。これにより、送信回路TX2から受信回路RX2に、トランスフォーマTR2を介して信号を伝達することができる。この結果、制御回路CCは、トランスフォーマTR2を介して、駆動回路DRから出力された信号を受信することができる。
【0017】
このように、誘導結合を利用して電気的に絶縁したトランスフォーマTR2によって、駆動回路DRから制御回路CCへの電気的ノイズの伝達を抑制しながら、駆動回路DRから制御回路CCに信号を伝達することができる。このことから、信号への電気的ノイズの重畳に起因する制御回路CCの誤動作を抑制することができ、これによって、半導体装置の動作信頼性を向上することができる。
【0018】
トランスフォーマTR1は、コイルCL1aとコイルCL1bとにより構成されており、コイルCL1aとコイルCL1bとは、導体によっては繋がっておらず、磁気的に結合している。このことから、コイルCL1aに電流が流れると、その電流の変化に応じてコイルCL1bに誘導起電力が発生して誘導電流が流れるようになっている。このとき、コイルCL1aが一次コイルであり、コイルCL1bが二次コイルである。このように、トランスフォーマTR1は、コイルCL1aとコイルCL1bとの間に生じる電磁誘導現象を利用している。すなわち、送信回路TX1からトランスフォーマTR1のコイルCL1aに信号を送って電流を流した結果、トランスフォーマTR1のコイルCL1bに生じた誘導電流を受信回路RX1で検知することにより、受信回路RX1は送信回路TX1から出力された制御信号に対応した信号を受信できる。
【0019】
同様に、トランスフォーマTR2は、コイルCL2aとコイルCL2bとにより構成されており、コイルCL2aとコイルCL2bとは、導体によっては繋がっておらず、磁気的に結合している。このことから、コイルCL2bに電流が流れると、その電流の変化に応じてコイルCL2aに誘導起電力が発生して誘導電流が流れるようになっている。このように、送信回路TX2からトランスフォーマTR2のコイルCL2bに信号を送って電流を流した結果、トランスフォーマTR2のコイルCL2aに生じた誘導電流を受信回路RX2で検知することにより、受信回路RX2は送信回路TX2から出力された制御信号に対応した信号を受信することができる。
【0020】
送信回路TX1からトランスフォーマTR1を経由して受信回路RX1に至る経路と、送信回路TX2からトランスフォーマTR2を経由して受信回路RX2に至る経路とにより、制御回路CCと駆動回路DRとの間の信号の送受信が行なわれる。すなわち、送信回路TX1が送信した信号を受信回路RX1が受信し、送信回路TX2が送信した信号を受信回路RX2が受信することにより、制御回路CCと駆動回路DRとの間で信号の送受信を行うことができる。上述のように、送信回路TX1から受信回路RX1への信号の伝達には、トランスフォーマTR1が介在する一方、送信回路TX2から受信回路RX2への信号の伝達には、トランスフォーマTR2が介在する。これにより、駆動回路DRは、制御回路CCから送信された信号に応じて、負荷回路LODを動作させるためのインバータINVを駆動することができる。
【0021】
制御回路CCと駆動回路DRとは、基準電位の電圧レベルが異なっている。すなわち、制御回路CCでは、基準電位が接地電位GND1に固定されている一方、
図1に示すように、駆動回路DRは、インバータINVと電気的に接続されている。インバータINVは、例えば、ハイサイド用IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor)とローサイド用IGBTとを有している。そして、インバータINVでは、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御と、ローサイド用IGBTのオン/オフ制御を駆動回路DRで行なうことにより、インバータINVによる負荷回路LODの制御が実現される。具体的に、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御は、駆動回路DRによって、ハイサイド用IGBTのゲート電極に印加する電位を制御することによって行なわれる。同様に、ローサイド用IGBTのオン/オフ制御は、駆動回路DRによって、ローサイド用IGBTのゲート電極に印加する電位を制御することによって行なわれる。
【0022】
ここで、例えば、ローサイド用IGBTのオン制御は、接地電位GND2と接続されているローサイド用IGBTのエミッタ電位(0V)を基準として、「エミッタ電位(0V)+しきい値電圧(15V)」をゲート電極に印加することにより実現される。一方、例えば、ローサイド用IGBTのオフ制御は、接地電位GND2と接続されているローサイド用IGBTのエミッタ電位(0V)を基準として、「エミッタ電位(0V)」をゲート電極に印加することにより実現される。
【0023】
したがって、ローサイド用IGBTのオン/オフ制御は、0Vを基準電位として、ゲート電極にしきい値電圧(15V)を印加するか否かによって行なわれる。
【0024】
一方、例えば、ハイサイド用IGBTのオン制御も、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を基準電位として、この基準電位に対して、ゲート電極に「基準電位+しきい値電圧(15V)」を印加するか否かによって行なわれる。
【0025】
ところが、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、ローサイド用IGBTのエミッタ電位のように接地電位GND2に固定されているわけではない。すなわち、インバータINVにおいては、電源電位VCC2と接地電位GND2との間に、ハイサイド用IGBTとローサイド用IGBTとが直列接続されている。そして、インバータINVでは、ハイサイド用IGBTがオンする際には、ローサイド用IGBTをオフする一方、ハイサイド用IGBTがオフする際には、ローサイド用IGBTをオンする制御が行なわれる。したがって、ハイサイド用IGBTがオフしている際には、ローサイド用IGBTがオンしていることから、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、オンしているローサイド用IGBTによって、接地電位GND2となる。
【0026】
一方、ハイサイド用IGBTがオンしている際には、ローサイド用IGBTがオフしていることから、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、IGBTバス電圧となる。このとき、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御は、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を基準電位として、ゲート電極に「基準電位+しきい値電圧(15V)」を印加するか否かによって行なわれる。
【0027】
上述したように、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、ハイサイド用IGBTがオンしている場合とオフしている場合で変動する。すなわち、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、接地電位GND2(0V)から電源電位VCC2(例えば、800V)まで変動する。したがって、ハイサイド用IGBTをオンするためには、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を基準電位として、ゲート電極に「IGBTバス電圧(800V)+しきい値電圧(15V)」を印加する必要がある。このことから、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御を行なう駆動回路DRにおいては、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を把握する必要がある。このため、駆動回路DRは、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を入力するように構成されている。この結果、駆動回路DRには、800Vの基準電位が入力され、駆動回路DRは、この800Vの基準電位に対して、15Vのしきい値電圧(15V)をハイサイド用IGBTのゲート電極に印加することによって、ハイサイド用IGBTをオンするように制御する。したがって、駆動回路DRには、800V程度の高電位が印加される。
【0028】
このように、駆動制御部は、低電位(数十V)を取り扱う制御回路CCを有するとともに、高電位(数百V)を取り扱う駆動回路DRを有している。このことから、制御回路CCと駆動回路DRとの間での信号の伝達は、異電位回路間での信号の伝達を行なうことが必要とされる。
【0029】
この点に関し、制御回路CCと駆動回路DRとの間での信号の伝達は、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2を介在して行なわれるため、異電位回路間での信号の伝達が可能である。
【0030】
上述したように、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2とにおいては、一次コイルと二次コイルとの間に、大きな電位差が発生する場合がある。逆に言えば、大きな電位差が発生する場合があるため、導体では繋がずに磁気結合させた一次コイルと二次コイルを信号の伝達に用いている。したがって、トランスフォーマTR1を形成するにあたって、半導体装置の動作信頼性を向上する観点から、コイルCL1aとコイルCL1bとの間の絶縁耐圧をできるだけ高くすることが重要である。同様に、トランスフォーマTR2を形成するにあたって、半導体装置の動作信頼性を向上する観点から、コイルCL2bとコイルCL2aとの間の絶縁耐圧をできるだけ高くすることが重要である。
【0031】
<信号の伝送例>
図2は、信号の伝送例を示す説明図である。
【0032】
図2において、送信回路TX1は、送信回路TX1に入力された方形波の信号SG1のエッジ部分を取り出して一定パルス幅の信号SG2を生成し、トランスフォーマTR1のコイルCL1a(一次コイル)に信号SG2を送る。この信号SG2による電流がトランスフォーマTR1のコイルCL1a(一次コイル)に流れると、それに応じた信号SG3が誘導起電力によりトランスフォーマTR1のコイルCL1b(二次コイル)に流れる。この信号SG3を受信回路RX1で増幅し、更に方形波に変調することで、方形波の信号SG4が受信回路RX1から出力される。これにより、送信回路TX1に入力された信号SG1に対応した信号SG4を受信回路RX1から出力することができる。このようにして、送信回路TX1から受信回路RX1に信号を伝達することができる。送信回路TX2から受信回路RX2への信号の伝達も同様に行なうことができる。
【0033】
<2チップ構成>
上述した駆動制御部のうちの送受信回路部は、例えば、2つの半導体チップに分けて形成される。具体的に、
図3は、2チップ構成を示す図である。
図3において、半導体チップCHP1には、送信回路TX1とトランスフォーマTR1と受信回路RX2とが形成されている。一方、半導体チップCHP2には、受信回路RX1と駆動回路DRと送信回路TX2とトランスフォーマTR2とが形成されている。このような2チップ構成では、例えば、トランスフォーマTR1が送信回路TX1と受信回路RX2と同一の半導体チップCHP1に形成される。したがって、トランスフォーマTR1と送信回路TX1と受信回路RX2の集積化が可能となる。同様に、トランスフォーマTR2が駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2と同一の半導体チップCHP2に形成される。このため、トランスフォーマTR2と駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2の集積化が可能となる。
【0034】
ただし、2チップ構成では、例えば、トランスフォーマTR1と送信回路TX1と受信回路RX2とを1つの半導体チップに形成することが必要なため、半導体チップCHP1の製造プロセスが複雑化する。同様に、2チップ構成では、例えば、トランスフォーマTR2と駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2とを1つの半導体チップに形成することが必要なため、半導体チップCHP2の製造プロセスが複雑化する。この結果、半導体チップCHP1および半導体チップCHP2の製造コストが上昇してしまう。
【0035】
<3チップ構成>
そこで、上述した送受信回路部を2チップ構成ではなく、3チップ構成で実現することが検討されている。以下では、新規な3チップ構成について説明する。
【0036】
図4は、3チップ構成を示す図である。
図4において、半導体チップCHP1には、送信回路TX1と受信回路RX2とが形成されている。また、半導体チップCHP2には、駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2とが形成されている。一方、半導体チップCHP3には、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2とが形成されている。
【0037】
これにより、3チップ構成では、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2だけが形成された半導体チップCHP3を有している。すなわち、3チップ構成では、半導体チップCHP1および半導体チップCHP2の構成に関わらず、半導体チップCHP3を使用することができる。このことから、3チップ構成によれば、使用可能な半導体チップCHP1および半導体チップCHP2のバリエーションを増加させることができる利点が得られる。言い換えれば、トランスフォーマTR1およびトランスフォーマTR2が形成された半導体チップCHP3の汎用性を高めることができる。さらに、トランスフォーマTR1およびトランスフォーマTR2が形成された半導体チップCHP3は、トランジスタを含んでいないため、配線工程だけで形成することができる結果、製造プロセスの簡素化を図ることができる。したがって、3チップ構成によれば、製造コストの削減が可能となり、これによって、競争力の高い製品を製造できる。
【0038】
<半導体チップの平面レイアウト構成>
続いて、半導体チップCHP3の平面レイアウト構成について説明する。
【0039】
図5は、半導体チップCHP3の平面レイアウト構成を示す平面図である。
【0040】
図5において、半導体チップCHP3の平面形状は、矩形形状をしており、半導体チップCHP3の周縁部にシールリングSRが設けられている。そして、平面視において、シールリングSRに囲まれるように、上層インダクタ100および上層インダクタ200が設けられている。ここで、上層インダクタ100は、タップパッド1aと、タップパッド1aと接続された渦巻配線1bと、渦巻配線1bと接続されたトランスパッド1cを有する。同様に、上層インダクタ200は、タップパッド2aと、タップパッド2aと接続された渦巻配線2bと、渦巻配線2bと接続されたトランスパッド2cを有する。
【0041】
また、平面視において、シールリングSRに囲まれるように、タップパッド3aおよびトランスパッド3cと、タップパッド4aおよびトランスパッド4cが設けられている。
タップパッド3aおよびトランスパッド3cは、上層インダクタ100の下方に形成されている下層インダクタ(図示せず)のタップパッドおよびトランスパッドである。すなわち、上層インダクタ100と対になる下層インダクタが、上層インダクタ100の下方に形成されており、この下層インダクタから配線を介して引き出されたタップパッド3aおよびトランスパッド3cが上層インダクタ100と同層に形成されている。
【0042】
同様に、タップパッド4aおよびトランスパッド4cは、上層インダクタ200の下方に形成されている下層インダクタ(図示せず)のタップパッドおよびトランスパッドである。すなわち、上層インダクタ200と対になる下層インダクタが、上層インダクタ200の下方に形成されており、この下層インダクタから配線を介して引き出されたタップパッド4aおよびトランスパッド4cが上層インダクタ200と同層に形成されている。
【0043】
ここで、例えば、上層インダクタ100および上層インダクタ200には、約800V程度のハイサイド側の基準電位が印加される。これに対し、下層インダクタ(タップパッド3aおよびトランスパッド3c)と下層インダクタ(タップパッド4aおよびトランスパッド4c)には、0V程度のローサイド側の基準電位が印加される。つまり、上層インダクタ100と対になる下層インダクタには、上層インダクタ100に印加される基準電位とは異なる基準電位が印加される。同様に、上層インダクタ200と対になる下層インダクタには、上層インダクタ200に印加されるハイサイド側の基準電位とは異なるローサイド側の基準電位が印加される。
【0044】
<半導体チップの断面構造>
次に、半導体チップCHP3の断面構造について説明する。
【0045】
【0046】
図6において、例えば、p型半導体基板SUBの表面には、p型半導体基板SUBよりも高い不純物濃度を有するp型半導体領域PRが形成されており、このp型半導体領域PR上に複数層からなる配線層が形成されている。そして、複数層からなる配線層には、シールリングSRが形成されている。また、複数層からなる配線層内には、渦巻配線3bを有する下層インダクタ300が形成されている。この下層インダクタ300(渦巻配線3b)からは、複数層からなる配線層内に形成された配線が引き出されており、渦巻配線3bは、複数層からなる配線層の最上層に形成されたトランスパッド3cと電気的に接続されている。すなわち、下層インダクタ300は、複数層からなる配線層内に形成された配線を介して、トランスパッド3cおよびタップパッド(図示しない)と電気的に接続されている。さらに、複数層からなる配線層上には、上層インダクタ100が形成されている。すなわち、下層インダクタ300と重なるように上層インダクタ100が形成されており、この上層インダクタ100は、渦巻配線1bとトランスパッド1cとを有している。
【0047】
そして、上層インダクタ100を覆うように表面保護膜PASとポリイミド樹脂膜PIが形成されている。表面保護膜PASおよびポリイミド樹脂膜PIには開口部が設けられており、トランスパッド3cの表面の一部およびトランスパッド1cの表面の一部が露出している。なお、表面保護膜PASは、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜から構成されている。以上のようにして、半導体チップCHP3が構成されている。
【0048】
<改善の検討>
例えば、トランスフォーマでは、互いに大きく電位の異なる回路間での非接触の信号伝送も可能となるように、絶縁耐圧(ガルバニック耐圧)の向上が望まれている。
【0049】
この点に関し、これまでの技術では、2チップ構成のように、1つの半導体チップにトランスフォーマとトランジスタとが形成されていることから、トランジスタに関する標準CMOS技術を使用してトランスフォーマが形成されている。
【0050】
具体的に、標準CMOS技術では、半導体基板にトランジスタが形成され、このトランジスタの上方に複数層からなる配線層が形成される。ここで、標準CMOS技術では、下層配線層に設けられる下層配線は、近接したトランジスタ間を接続する配線であり、接続長が短い。このことから、下層配線においては、寄生抵抗はそれほど考慮しなくてもよいため、細い配線幅および薄い配線厚を有するローカル配線から構成される。
【0051】
一方、標準CMOS技術では、上層配線層に設けられる上層配線は、互いに距離の離れた回路間を接続する配線であり、その接続長が長くなる。この結果、上層配線においては、寄生抵抗を考慮する必要があり、太い配線幅および厚い配線厚を有するグローバル配線から構成される。このように標準CMOS技術における複数層からなる配線層において、下層配線層に微細なローカル配線が形成され、上層配線層になるにつれて、配線幅と配線厚が大きい配線が形成される。すなわち、標準CMOS技術において、複数層からなる配線層に設けられる配線は、下層配線層に設けられたローカル配線と、中層配線層に設けられたセミグローバル配線と、上層配線層に設けられたグローバル配線層から構成される。
【0052】
そして、このような標準CMOS技術を前提として、トランスフォーマを形成する場合、トランスフォーマの構成要素である下層インダクタは、下層配線層に設けられたローカル配線を利用して形成される。一方、トランスフォーマの構成要素である上層インダクタは、上層配線層に設けられたグローバル配線を利用して形成される。これにより、下層インダクタと上層インダクタとの間の距離(半導体チップの厚さ方向の距離)を確保することができることから、トランスフォーマの絶縁耐圧を確保することができる。ただし、近年では、さらなるトランスフォーマの絶縁耐圧を向上することが望まれており、トランスフォーマの絶縁耐圧を向上するための工夫が求められている。
【0053】
この点に関し、複数層からなる配線層の層間には、層間絶縁膜が形成されており、下層に設けられる層間絶縁膜の厚さは、ローカル配線に対応して薄い。一方、上層に設けられる層間絶縁膜の厚さは、グローバル配線に対応して厚い。
【0054】
ここで、例えば、トランスフォーマの絶縁耐圧を向上するために、下層インダクタと上層インダクタとの間の距離を増大させることが考えられる。例えば、下層インダクタと上層インダクタとの間の距離を増大させるためには、層間絶縁膜の厚さを厚くすることが考えられる。このとき、標準CMOS技術における配線層の設計変更を最小限にしながら、層間絶縁膜の厚さを厚くすることを考えると、最上層の層間絶縁膜の厚さを厚くすることが自然である。なぜなら、最上層よりも下層の層間絶縁膜の厚さを変更すると、その層間絶縁膜よりも上方に配置されている配線層のすべてにおいて配線層の位置が変更される結果、標準CMOS技術における配線層の大幅な変更を伴うことになるだけでなく、下層から上層に向かうにつれて層間絶縁膜の厚さが厚くなるという標準CMOS技術の構造が崩れることにもなりかねないからである。
【0055】
したがって、標準CMOS技術を前提として、標準CMOS技術で形成された配線構造の設計変更を最小限にしながら、下層インダクタと上層インダクタとの間の距離を増大させるためには、最上層の層間絶縁膜の厚さを厚くすることで対応する必要がある。
【0056】
ところが、最上層の層間絶縁膜の厚さは、元々、グローバル配線に対応して厚い。このため、トランスフォーマの絶縁耐圧のさらなる向上を図るため、最上層の層間絶縁膜の厚さをさらに厚くすると、最上層の層間絶縁層の厚さが大幅に厚くなる。このことは、層間絶縁膜に起因する膜応力が大きくなって、半導体ウェハに発生する「反り」が大きくなることを意味する。そして、半導体ウェハに発生する「反り」が大きくなると、半導体ウェハの搬送時の取り扱いが困難となる。このことから、最上層の層間絶縁膜の厚さをさらに厚くして、トランスフォーマの絶縁耐圧を向上するという対策は、半導体ウェハの「反り」の増大を招くことを考慮すると、採用することは困難である。
【0057】
このように、標準CMOS技術を使用してトランスフォーマを形成する技術では、半導体ウェハの「反り」を抑制しながら、トランスフォーマの絶縁耐圧を向上することが困難である。言い換えれば、標準CMOS技術を前提とするトランスフォーマの製造技術では、トランスフォーマの絶縁耐圧のさらなる向上を図ろうとすると、半導体ウェハの「反り」が増大する現象が顕在化する。したがって、半導体ウェハの「反り」を抑制しながら、トランスフォーマの絶縁耐圧を向上することができる技術的思想が望まれている。
【0058】
さらに、標準CMOS技術を使用してトランスフォーマを形成する技術では、以下に示す改善の余地も顕在化するので、この点について説明する。
【0059】
例えば、標準CMOS技術では、下層配線をローカル配線から構成する一方、上層配線をグローバル配線から構成している。このような標準CMOS技術の設計思想は、下層配線は、近接したトランジスタ間を接続する配線であり、配線の寄生抵抗はそれほど考慮しなくてもよい一方、上層配線は、互いに距離の離れた回路間を接続する配線であり、配線の寄生抵抗を考慮する必要があるという事情に基づいている。
【0060】
この点に関し、標準CMOS技術を使用してトランスフォーマを形成する技術では、下層配線層に下層インダクタを形成している。ところが、下層インダクタには、大きな電流を流すことから、寄生抵抗の影響が大きい。具体的には、下層配線層に下層インダクタを形成すると、下層インダクタが高抵抗となる結果、高抵抗な寄生抵抗によって、下層インダクタを伝達する信号の信号振幅が劣化する。すなわち、標準CMOS技術を使用してトランスフォーマを形成する技術では、下層インダクタを伝達する信号品質を向上する観点から改善の余地が存在する。
【0061】
これは、下層配線は寄生抵抗をそれほど考慮しなくてもよいという標準CMOS技術の設計思想に基づいて設計されているのに対して、下層インダクタの設計に要求される信号品質の向上のための低抵抗化は、下層配線に対する標準CMOS技術の設計思想では考慮されていないことに起因する。つまり、下層インダクタの設計思想は、標準CMOS技術における下層配線の設計思想と異なるにも関わらず、下層インダクタを下層配線層に設けていることに起因して、下層インダクタを伝達する信号の信号振幅が劣化するという改善の余地が顕在化する。
【0062】
以上のことから、標準CMOS技術を使用してトランスフォーマを製造する技術では、半導体ウェハの「反り」を抑制しながら、トランスフォーマの絶縁耐圧を向上することが困難であるとともに、下層インダクタを伝達する信号の信号振幅が劣化する。すなわち、標準CMOS技術を使用してトランスフォーマを製造する技術では、半導体ウェハの「反り」の抑制とトランスフォーマのさらなる絶縁耐圧の向上との両立を図る観点、および、下層インダクタを伝達する信号品質を向上する観点から改善の余地が存在する。
【0063】
そこで、本実施の形態では、上述した改善の余地を克服するための工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0064】
<実施の形態における基本コンセプト>
上述した改善の余地は、標準CMOS技術を使用してトランスフォーマを形成することに本質的な要因があると考えられる。この点に関し、2チップ構成では、トランスフォーマとともにトランジスタを形成することから、標準CMOS技術を使用してトランスフォーマを形成する必然性は存在する。これに対し、3チップ構成では、トランジスタは形成せずに、トランスフォーマだけを形成する。このことから、トランスフォーマを形成するにあたって、標準CMOS技術を使用する必然性は存在しない。
【0065】
そこで、本実施の形態では、標準CMOS技術の設計思想に拘泥せずに、自由な設計思想に基づいて、半導体ウェハの「反り」の抑制とトランスフォーマのさらなる絶縁耐圧の向上との両立を図るための工夫と、下層インダクタを伝達する信号品質を向上するための工夫を施している。すなわち、本実施の形態における基本コンセプトは、標準CMOS技術を使用してトランスフォーマを形成することに上述した改善の余地の本質的な要因があるとして、標準CMOS技術の設計思想から離れて、斬新で自由な設計思想を採用するものである。この基本コンセプトによれば、半導体ウェハの「反り」の抑制とトランスフォーマの絶縁耐圧の向上との両立を図ることができるとともに、トランスフォーマを伝達する信号品質を向上することができる。以下に、具体的に説明する。
【0066】
<実施の形態における半導体チップの断面構造>
図7は、本実施の形態における半導体チップCHP3の断面構造を示す図である。特に、
図7は、
図5のA-A線で切断した拡大断面図である。
【0067】
図7において、半導体チップCHP3は、トランスフォーマ形成領域AR1と、シールリング形成領域AR2と、中間領域AR3を有している。トランスフォーマ形成領域AR1には、トランスフォーマが形成されている。一方、シールリング形成領域AR2には、シールリングSR(ガードリングともいう)が形成されている。そして、中間領域AR3は、トランスフォーマ形成領域AR1とシールリング形成領域AR2に挟まれた領域であり、例えば、ダミー配線DMYが形成されている。なお、
図7において、層間絶縁膜は図示されていない。
【0068】
半導体チップCHP3は、p型半導体基板SUBを有している。p型半導体基板SUBの表面には、p型半導体基板SUBよりも高い不純物濃度を有するp型半導体領域PRが形成されており、p型半導体領域PR上に複数層からなる配線層が形成されている。
【0069】
複数層からなる配線層は、例えば、p型半導体基板SUBに近い順に、第1配線層と、第2配線層と、第3配線層と、第4配線層と、第5配線層と、第6配線層と、第7配線層と、第8配線層から構成されている。本明細書において、第1配線層を「下層配線層」と呼び、第2配線層と第3配線層と第4配線層と第5配線層と第6配線層と第7配線層を合わせて「多層配線層」と呼ぶ。また、第8配線層を「上層配線層」と呼ぶ。
【0070】
以下、複数層からなる配線層が8層である場合について説明するが、複数層からなる配線層は8層に限定されない。例えば、複数層からなる配線層が6層の場合、第1配線層を「下層配線層」と呼び、第2配線層から第5配線層を「多層配線層」と呼び、第6配線層を「上層配線層」と呼ぶ。また、インダクタ間の絶縁耐圧が確保されていれば、下層インダクタが設けられている「下層配線層」は、第1配線層に限定されず、例えば第2配線層であっても良い。
【0071】
図7において、トランスフォーマ形成領域AR1には、トランスフォーマの構成要素である上層インダクタ100と下層インダクタ300とが形成されている。このとき、上層インダクタ100は、「上層配線層」に設けられている一方、下層インダクタ300は、「下層配線層」に設けられている。また、
図7に示すように、トランスフォーマ形成領域AR1には、下層インダクタ300からの配線引き出し構造BRが設けられている。
【0072】
配線引き出し構造BRは、「下層配線層」に設けられた第1層配線M1と、第2配線層に設けられた第2層配線M2と、第3配線層に設けられた第3層配線M3と、第4配線層に設けられた第4層配線M4と、第5配線層に設けられた第5層配線M5と、第6配線層に設けられた第6層配線M6と、第7配線層に設けられた第7層配線M7と、「上層配線層」に設けられた第8層配線M8とを有している。
【0073】
ここで、第1層配線M1は、コンタクトビアCNTを介して、p型半導体基板SUBと接続されているとともに、ビアV1を介して、第2層配線M2と電気的に接続されている。第2層配線M2は、ビアV2を介して、第3層配線M3と電気的に接続されている。第3層配線M3は、ビアV3を介して、第4層配線M4と電気的に接続されている。第4層配線M4は、ビアV4を介して、第5層配線M5と電気的に接続されている。第5層配線M5は、ビアV5を介して、第6層配線M6と電気的に接続されている。第6層配線M6は、ビアV6を介して、第7層配線M7と電気的に接続されている。第7層配線M7は、第8層配線M8と接触している。すなわち、第7層配線M7は、「上層配線層」の1層下層の第7配線層に設けられた配線であり、第7層配線M7と第8層配線M8とは、互いに接触するように設けられている。
【0074】
このように、「下層配線層」に設けられた第1層配線M1、「多層配線層」に設けられた第2層配線M2~第7層配線M7および「上層配線層」に設けられた第8層配線M8は、互いに電気的に接続されている。そして、例えば、「上層配線層」には、第8層配線M8とは異なる配線が設けられており、この配線から上層インダクタ100が構成されている。一方、下層インダクタ300は、第1層配線M1と電気的に接続されている。これにより、上層インダクタ100と下層インダクタ300とは、電気的に接続されていない。下層インダクタ300は、「下層配線層」に設けられた第1層配線M1、「多層配線層」に設けられた第2層配線M2~第7層配線M7および「上層配線層」に設けられた第8層配線M8と電気的に接続されており、第8層配線M8は、例えば、第1電位が印加されるように構成された第1ボンディングワイヤと接続される。これに対し、上層インダクタ100を構成する配線は、例えば、第1電位とは異なる第2電位が印加されるように構成された第2ボンディングワイヤと接続される。
【0075】
図8は、トランスフォーマ形成領域AR1に形成されている配線引き出し構造BRを拡大して示す図である。
図8において、p型半導体基板SUBと第1層配線M1との間に第1層間絶縁膜IL1が設けられている。また、第1層配線M1と第2層配線M2との間に第2層間絶縁膜IL2が設けられており、この第2層間絶縁膜IL2には、第2層絶縁膜IL2を貫通して、第1層配線M1と第2層配線M2とを電気的に接続するビアV1が形成されている。そして、第2層配線M2と第3層配線M3との間に第3層間絶縁膜IL3が設けられており、この第3層間絶縁膜IL3には、第3層絶縁膜IL3を貫通して、第2層配線M2と第3層配線M3とを電気的に接続するビアV2が形成されている。同様に、第3層配線M3と第4層配線M4との間に第4層間絶縁膜IL4が設けられており、この第4層間絶縁膜IL4には、第4層絶縁膜IL4を貫通して、第3層配線M3と第4層配線M4とを電気的に接続するビアV3が形成されている。
【0076】
第4層配線M4と第5層配線M5との間に第5層間絶縁膜IL5が設けられており、この第5層間絶縁膜IL5には、第5層絶縁膜IL5を貫通して、第4層配線M4と第5層配線M5とを電気的に接続するビアV4が形成されている。そして、第5層配線M5と第6層配線M6との間に第6層間絶縁膜IL6が設けられており、この第6層間絶縁膜IL6には、第6層絶縁膜IL6を貫通して、第5層配線M5と第6層配線M6とを電気的に接続するビアV5が形成されている。同様に、第6層配線M6と第7層配線M7との間に第7層間絶縁膜IL7が設けられており、この第7層間絶縁膜IL7には、第7層絶縁膜IL7を貫通して、第6層配線M6と第7層配線M7とを電気的に接続するビアV6が形成されている。そして、第7層配線M7上には、第8層配線M8および絶縁膜IFが形成されており、この第8層配線M8上および絶縁膜IF上に保護膜PFが形成されている。この保護膜PFには、開口部が設けられており、開口部から第8層配線M8の一部分が露出している。保護膜PFは、例えば、表面保護膜とポリイミド樹脂膜との積層膜から構成されている。表面保護膜は、例えば、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜から構成されている。
【0077】
ここで、
図8において、「下層配線層」に設けられている第1層配線M1の厚さ(Z方向の厚さ)は、「多層配線層」のそれぞれに設けられている配線(第2層配線M2~第7層配線M7)の厚さよりも厚い。同様に、「上層配線層」に設けられている第8層配線M8の厚さ(Z方向の厚さ)は、「多層配線層」のそれぞれに設けられている配線の厚さよりも厚い。
【0078】
この結果、第1層配線M1の抵抗値は、第2層配線M2~第7層配線M7のそれぞれの抵抗値よりも低くなる。同様に、第8層配線M8の抵抗値は、第2層配線M2~第7層配線M7のそれぞれの抵抗値よりも低くなる。
【0079】
また、「多層配線層」のそれぞれに設けられている配線(第2層配線M2~第7層配線M7)の膜応力(圧縮応力や引張応力)は、第1層配線M1の膜応力や第8層配線M8の膜応力よりも大きい。そして、第2層配線M2~第7層配線M7の膜応力は、層間絶縁膜(第1層間絶縁膜IL1~第7層間絶縁膜IL7)の膜応力とは逆特性である。具体的に、例えば、第1層間絶縁膜IL1~第7層間絶縁膜IL7の膜応力が「圧縮応力」の場合、第2層配線M2~第7層配線M7の膜応力は「引張応力」である。逆に、第1層間絶縁膜IL1~第7層間絶縁膜IL7の膜応力が「引張応力」の場合、第2層配線M2~第7層配線M7の膜応力は「圧縮応力」である。
【0080】
なお、「多層配線層」は、例えば、第2配線層と、第2配線層の1層上層に形成された第3配線層と、第3配線層の1層上層に形成された第4配線層と、を含む。半導体チップCHP3は、第2配線層に設けられた第2層配線M2と、第3配線層に設けられた第3層配線M3と、第4配線層に設けられた第4層配線M4と、を有する。このとき、第2層配線M2は、ビアV2を介して第3層配線M3と接続され、第3層配線M3は、ビアV3を介して第4層配線M4配線と接続されている。そして、平面視において、ビアV2とビアV3は重なるように配置されている。
【0081】
続いて、
図7において、シールリング形成領域AR2には、シールリングSRが形成されている。このとき、シールリングSRは、「下層配線層」に設けられた第1層配線M1と、第2配線層に設けられた第2層配線M2と、第3配線層に設けられた第3層配線M3と、第4配線層に設けられた第4層配線M4と、第5配線層に設けられた第5層配線M5と、第6配線層に設けられた第6層配線M6と、第7配線層に設けられた第7層配線M7と、「上層配線層」に設けられた第8層配線M8とを有している。
【0082】
ここで、第1層配線M1は、コンタクトビアCNTを介して、p型半導体領域PRと接続されているとともに、ビアV1を介して、第2層配線M2と電気的に接続されている。また、第2層配線M2は、ビアV2を介して、第3層配線M3と電気的に接続されており、第3層配線M3は、ビアV3を介して、第4層配線M4と電気的に接続されている。そして、第4層配線M4は、ビアV4を介して、第5層配線M5と電気的に接続されており、第5層配線M5は、ビアV5を介して、第6層配線M6と電気的に接続されている。さらに、第6層配線M6は、ビアV6を介して、第7層配線M7と電気的に接続されており、第7層配線M7は、第8層配線M8と接触している。すなわち、第7層配線M7は、「上層配線層」の1層下層の第7配線層に設けられた配線であり、第7層配線M7と第8層配線M8とは、互いに接触するように設けられている。
【0083】
次に、
図7において、中間領域AR3には、ダミー配線DMYが設けられている。このダミー配線DMYは、「下層配線層」と「多層配線層」のそれぞれの層に設けられている。
【0084】
ここで、
図7において、コンタクトプラグCNTは、アルミニウムから形成されている。また、「下層配線層」に設けられている第1層配線M1および下層インダクタ300は、アルミニウムから構成されている。同様に、「上層配線層」に設けられている第8層配線M8および上層インダクタ100も、アルミニウムから構成されている。
【0085】
一方、「多層配線層」に設けられている第2層配線M2~第7層配線M7のそれぞれおよびダミー配線DMYは、タングステンから形成されている。同様に、ビアV1~ビアV6のそれぞれも、タングステンから構成されている。
【0086】
また、
図8において、第1層間絶縁膜IL1~第7層間絶縁膜IL7のそれぞれは、例えば、酸化シリコン膜から形成されている。
【0087】
以上のようにして、半導体チップCHP3が構成されている。
【0088】
<実施の形態における構造上の特徴>
続いて、本実施の形態における構造上の特徴点について説明する。
【0089】
本実施の形態における構造上の第1特徴点は、「下層配線層」に設けられた配線の厚さおよび「上層配線層」に設けられた配線の厚さが、「多層配線層」に設けられたそれぞれの配線の厚さよりも厚い(大きい)点にある。
【0090】
具体的に、第1特徴点は、例えば、
図7に示すように、「下層配線層」に設けられた第1層配線M1の厚さ(Z方向の厚さ)および「上層配線層」に設けられた第8層配線M8の厚さ(Z方向の厚さ)が、「多層配線層」に設けられた第2層配線M2~第7層配線M7のそれぞれの厚さ(Z方向の厚さ)よりも厚い点にある。
【0091】
これにより、
図7に示すように、「下層配線層」に設けられた下層インダクタ300の厚さ(Z方向の厚さ)も第1層配線M1の厚さと同等に厚くなる。同様に、「上層配線層」に設けられた上層インダクタ100の厚さ(Z方向の厚さ)も第8層配線M8と同等に厚くなる。この結果、上層インダクタ100および下層インダクタ300の両方において、寄生抵抗を低減することができる。したがって、第1特徴点によれば、上層インダクタ100を伝達する信号の信号振幅の劣化を抑制することができるとともに、下層インダクタ300を伝達する信号の信号振幅の劣化を抑制することができる。
【0092】
このように本実施の形態では、「下層配線層」に低抵抗な下層インダクタ300を配置する構成を実現するにあたって、「下層配線層」に寄生抵抗の大きなローカル配線を設けるという標準CMOS技術の設計思想とは異なり、「下層配線層」に寄生抵抗の小さい配線を配置するという斬新な設計思想を採用している。そして、本実施の形態では、「下層配線層」に設けられた配線の厚さを「下層配線層」よりも上層の「多層配線層」に設けられたそれぞれの配線の厚さよりも厚くするという標準CMOS技術では考えられない構成によって具現化している。これにより、本実施の形態によれば、「下層配線層」に下層インダクタ300を設けると、下層インダクタ300の厚さを厚くすることができる結果、下層インダクタ300の寄生抵抗を低減することができる。
【0093】
一方、「上層配線層」に低抵抗な上層インダクタ100を配置する構成を実現するにあたっては、「上層配線層」に寄生抵抗の小さなグローバル配線を設けるという標準CMOS技術の設計思想を踏襲して、「上層配線層」に設けられた配線の厚さを「上層配線層」よりも下層の「多層配線層」に設けられたそれぞれの配線の厚さよりも厚くしている。これにより、本実施の形態によれば、「上層配線層」に上層インダクタ100を設けると、上層インダクタ100の厚さを厚くすることができる結果、上層インダクタ100の寄生抵抗を低減することができる。
【0094】
このことから、本実施の形態における設計思想は、「下層配線層」と「上層配線層」の両方に厚さの厚い配線を設ける一方、「下層配線層」と「上層配線層」の間に位置する「多層配線層」には厚さの薄い配線を設けるという斬新な設計思想であり、半導体チップにトランジスタを形成しない「3チップ構成」だからこそ実現できる設計思想である。そして、この設計思想を具現化した第1特徴点によれば、下層インダクタ300の寄生抵抗に起因する信号振幅の減衰と、上層インダクタ100の寄生抵抗に起因する信号振幅の減衰の両方を抑制できることから、トランスフォーマの性能を向上することができる。
【0095】
次に、本実施の形態における構造上の第2特徴点は、「下層配線層」に設けられた配線と「上層配線層」に設けられた配線との間に介在する複数の層間絶縁膜の厚さが概ね均一である点にある。具体的に、第2特徴点は、例えば、
図8に示すように、「下層配線層」に設けられた第1層配線M1と「上層配線層」に設けられた第8層配線M8との間に介在する第2層間絶縁膜IL2~第7層間絶縁膜IL7のそれぞれの厚さが概ね等しい点にある。なお、多層配線層に設けられた配線の厚さが互いに等しいとは、厚さの設計値(設定値)が互いに同じであって、製造ばらつきによって互いの厚さが若干異なっている場合を含む。
【0096】
ここで、「下層配線層」に下層インダクタ300を設け、かつ、「上層配線層」に上層インダクタ100を設けると、下層インダクタ300と上層インダクタ100との間に第2層間絶縁膜IL2~第7層間絶縁膜IL7が介在する。そして、トランスフォーマの絶縁耐圧を向上させるために、下層インダクタ300と上層インダクタ100との間の距離を増大させる場合、本実施の形態における第2特徴点によれば、下層インダクタ300と上層インダクタ100との間の距離の増大が、第2層間絶縁膜IL2~第7層間絶縁膜IL7のそれぞれの厚さの均一な増大によって実現される。すなわち、第2特徴点によれば、下層インダクタ300と上層インダクタ100との間の距離の増大が、第2層間絶縁膜IL2~第7層間絶縁膜IL7のそれぞれの厚さの均一な増大に分散される。この結果、第2層間絶縁膜IL2~第7層間絶縁膜IL7のそれぞれの厚さが過度に厚くならないことから、過度に厚さの厚い層間絶縁膜の膜応力に起因する半導体ウェハの「反り」を抑制することができる。つまり、第2特徴点によれば、半導体ウェハの「反り」の抑制とトランスフォーマのさらなる絶縁耐圧の向上との両立を図ることができる。言い換えれば、第2特徴点によれば、半導体ウェハの「反り」を抑制しながら、トランスフォーマのさらなる絶縁耐圧の向上を図ることができる。
【0097】
例えば、標準CMOS技術では、「下層配線層」に設けられた配線と「上層配線層」に設けられた配線との間に介在する複数の層間絶縁膜の厚さが異なる。そして、トランスフォーマの絶縁耐圧を向上させるために、下層インダクタ300と上層インダクタ100との間の距離を増大させる場合、標準CMOS技術の設計思想を維持することを考慮すると、最も厚い層間絶縁膜の厚さをさらに厚くすることによって、下層インダクタ300と上層インダクタ100との間の距離を増大させることになる。この場合、最も厚い層間絶縁膜の膜応力が大きくなる結果、半導体ウェハに「反り」が発生する。
【0098】
これに対し、本実施の形態では、標準CMOS技術の設計思想を採用することなく、「下層配線層」に設けられた配線と「上層配線層」に設けられた配線との間に介在する複数の層間絶縁膜の厚さが概ね均一となるように層間絶縁膜を形成する設計思想が採用されている。これにより、本実施の形態によれば、トランスフォーマの絶縁耐圧を向上させるために、下層インダクタ300と上層インダクタ100との間の距離を増大させる場合であっても、特定の層間絶縁膜の厚さが過度に厚くなるということを抑制できる。このことは、過度に厚い層間絶縁膜の膜応力に起因する半導体ウェハの「反り」を抑制できることを意味する。したがって、第2特徴点によれば、トランスフォーマの絶縁耐圧を向上させるために、下層インダクタ300と上層インダクタ100との間の距離を増大させる場合であっても、半導体ウェハの「反り」が抑制される。つまり、第2特徴点によれば、半導体ウェハの「反り」を抑制しながら、トランスフォーマの絶縁耐圧の向上を図ることができる。
【0099】
さらに、本実施の形態では、「多層配線層」に設けられた第2層配線M2~第7層配線M7のそれぞれは、タングステンから構成されている一方、「下層配線層」に設けられた第1層配線M1および「上層配線層」に設けられた第8層配線M8は、アルミニウムから構成されている。ここで、タングステンから構成される膜(配線)の膜応力が、アルミニウムから構成される膜(配線)の膜応力よりも大きいことを考慮すると、「多層配線層」に設けられた第2層配線M2~第7層配線M7のそれぞれの膜応力は、「下層配線層」に設けられた第1層配線M1および「上層配線層」に設けられた第8層配線M8の膜応力よりも大きくなる。そして、一般的に、金属から構成される配線の膜応力は、酸化シリコンから構成される層間絶縁膜の膜応力とは逆特性であることを考慮すると、「多層配線層」に設けられた第2層配線M2~第7層配線M7のそれぞれの膜応力は、第2層間絶縁膜IL2~第7層間絶縁膜IL7のそれぞれの膜応力とは逆特性となる。
【0100】
これにより、本実施の形態によれば、例えば、
図8において、第2層間絶縁膜IL2~第7層間絶縁膜IL7に起因する膜応力と、第2層配線M2~第7層配線M7に起因する膜応力とを合わせたトータルの膜応力が小さくなる。
【0101】
したがって、本実施の形態によれば、(1)複数の層間絶縁膜の厚さが概ね均一であるという第2特徴点と、(2)「多層配線層」に設けられた配線の膜応力が、「下層配線層」に設けられた配線および「上層配線層」に設けられた配線の膜応力よりも大きい点と、(3)「多層配線層」に設けられた配線の膜応力が、層間絶縁膜の膜応力とは逆特性である点との相乗要因によって、半導体ウェハの「反り」が抑制される。このことから、本実施の形態によれば、半導体ウェハの「反り」の抑制とトランスフォーマのさらなる絶縁耐圧の向上との両立を図ることができる。
【0102】
なお、
図7に示す配線引き出し構造BRは、配線引き出し構造の寄生抵抗に起因する信号振幅の減衰を抑制する観点から有効な構造である。なぜなら、
図7に示す配線引き出し構造BRでは、ビアV1~ビアV6が直接縦積みされておらず、第2層配線M2~第7層配線M7が介在していることから、ビアV1~ビアV6の縦積みでの位置ずれに起因する高抵抗化が抑制されるからである。つまり、
図7に示す配線引き出し構造BRは、Z方向に電流を流す際の寄生抵抗を低減できる結果、寄生抵抗に起因する信号振幅の減衰を抑制することができる点で有効である。特に、ビアV1~ビアV6の個数を多数個(数千個)にすることにより、Z方向に電流を流す際の寄生抵抗を大幅に低減することができる。
【0103】
以上のことから、本実施の形態における技術的思想は、(1)下層インダクタ300の寄生抵抗に起因する信号振幅の減衰の抑制と、(2)上層インダクタ100の寄生抵抗に起因する信号振幅の減衰の抑制と、(3)配線引き出し構造BRの寄生抵抗に起因する信号振幅の減衰の抑制をすべて実現できる。したがって、トランスフォーマの性能を向上する観点から非常に優れた技術的思想であるということができる。
【0104】
<半導体チップの製造方法>
次に、本実施の形態における半導体チップの製造方法について説明する。
【0105】
まず、
図9に示すように、p型半導体基板SUB(半導体ウェハ)の表面に第1層間絶縁膜IL1を形成する。第1層間絶縁膜IL1は、例えば、酸化シリコン膜から形成されており、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を使用することにより形成することができる。
【0106】
続いて、第1層間絶縁膜IL1上に、例えば、アルミニウムからなる第1層配線M1を形成するとともに、
図9では示されない下層インダクタを第1層配線M1と同層に形成する。次に、第1層配線M1上に、例えば、酸化シリコン膜からなる第2層間絶縁膜IL2を形成する。そして、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法を使用することにより、第2層間絶縁膜IL2の表面を平坦化する。
【0107】
次に、
図10に示すように、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、第2層間絶縁膜IL2にビアホールVH1を形成する。ここで、ビアホールVH1は、第2層間絶縁膜IL2を貫通して第1層配線M1に達するように形成される。
【0108】
その後、
図11に示すように、ビアホールVH1を形成した第2層間絶縁膜IL2上に、タングステン膜WFを形成する。このとき、ビアホールVH1にタングステン膜WFが埋め込まれてビアV1が形成されるとともに、第2層間絶縁膜IL2の表面を覆うようにタングステン膜WFが形成される。タングステン膜WFは、例えば、CVD法を使用することにより形成される。
【0109】
続いて、
図12に示すように、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、タングステン膜WFをパターニングする。これにより、パターニングされたタングステン膜WFからなる第2層配線M2を形成することができる。
【0110】
その後、
図9~
図12に示されるように、層間絶縁膜形成工程、ビアホール形成工程、タングステン膜形成工程およびパターニング工程を繰り返して実施することにより、
図13に示すような第3層配線M3~第7層配線M7、ビアV2~ビアV6および第3層間絶縁膜IL3~第7層間絶縁膜IL7を形成する。
【0111】
次に、
図14に示すように、第7層配線M7を覆うように、第7層間絶縁膜IL7上に絶縁膜IFを形成する。この絶縁膜IFは、例えばCVD法によって形成される。その後、この絶縁膜IFに研磨処理を施すことによって、第7層配線M7が絶縁膜から露出する。これにより、第7層間絶縁膜IL7上の第7層配線M7が形成されていない領域に、絶縁膜IFが残される。その後、第7層配線M7上に、アルミニウム膜AFを形成する。アルミニウム膜AFは、例えば、スパッタリング法を使用することにより形成することができる。その後、
図15に示すように、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、アルミニウム膜AFをパターニングする。これにより、パターニングされたアルミニウム膜AFからなる第8層配線M8を形成することができるとともに、
図15では示されない上層インダクタを第8層配線M8と同層に形成することができる。
【0112】
その後、
図16に示すように、第8層配線M8を覆うように第8層配線M8上および絶縁膜IF上に保護膜PFを形成する。保護膜PFは、例えば、表面保護膜とポリイミド樹脂膜との積層膜から構成されており、表面保護膜は、例えば、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜から構成されている。そして、
図8に示すように、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、保護膜PFに開口部を形成する。次に、このような構造体を形成した半導体基板SUB(半導体ウェハ)を隣り合うチップ領域の間に設けられたスクライブ領域に沿ってダイシングすることにより、半導体チップを取得することができる。以上のようにして、本実施の形態における半導体チップを製造できる。
【0113】
<実施の形態における製法上の特徴>
続いて、本実施の形態における製法上の特徴点について説明する。
【0114】
本実施の形態では、例えば、
図8に示すように、第2層配線M2~第7層配線M7のそれぞれのZ方向の厚さは、第1層配線M1のZ方向の厚さおよび第8層配線M8のZ方向の厚さよりも薄くなっている。このため、例えば、
図11に示す工程において、第2層間絶縁膜IL2上に形成されるタングステン膜WFの膜厚(Z方向)は薄くなる。このため、タングステン膜WFの表面は、CMP法で研磨しなくても平坦性を確保できる。すなわち、本実施の形態では、CMP法を使用しなくても平坦性を確保できる程度に、タングステン膜WFの膜厚が薄いことから、
図11に示す工程の後に、CMP法による研磨工程が不要となる。同様に、第3層配線M3~第7層配線M7を形成する工程においても、CMP法による研磨工程が不要となる。この結果、本実施の形態によれば、第2層配線M2~第7層配線M7を形成するそれぞれの工程において、CMP法による研磨工程が不要となることから、大幅な工程数削減を図ることができる。したがって、本実施の形態によれば、TAT(Turn Around Time)の短縮および製造コストの削減を図ることができる。
【0115】
さらに、この製法上の特徴点によれば、以下に示す利点を得ることができる。
【0116】
例えば、
図11に示す工程の後、CMP法を使用してタングステン膜WFを研磨することにより、ビアV1に埋め込まれたタングステン膜WFだけを残存させることが考えられる。この場合、
図7に示す配線引き出し構造BRにおいて、第2層配線M2~第7層配線M7が削除されて、ビアV1~ビアV6が直接縦積みされた縦積構造から配線引き出し構造が構成されることになる。そして、この縦積構造では、ビアの位置ずれが少しでも生じると、Z方向における寄生抵抗が大きくなってしまう。このことは、配線引き出し構造をビアの縦積構造から構成すると、縦積構造のZ方向に電流を流す際の寄生抵抗の増大が生じやすくなる結果、寄生抵抗に起因する信号振幅の減衰が顕在化することを意味する。
【0117】
これに対し、例えば、
図11に示す工程の後に、CMP法による研磨工程を実施しない場合、
図7に示す配線引き出し構造BRが実現される。この
図7に示す配線引き出し構造BRでは、ビアV1~ビアV6が直接縦積みされておらず、第2層配線M2~第7層配線M7が介在していることから、ビアV1~ビアV6の縦積みでの位置ずれに起因する高抵抗化が抑制される。すなわち、ビアの位置がずれたとしても、ビアと配線の接触面積は変わらないため寄生抵抗は大きくならない。第2層配線M2~第7層配線M7の介在によって吸収される。この結果、
図7に示す配線引き出し構造BRでは、Z方向に電流を流す際の寄生抵抗を低減できる結果、寄生抵抗に起因する信号振幅の減衰を抑制することができる。このように、「多層配線層」に設けられた配線(例えば、第2層配線M2~第7層配線M7)を形成する工程において、CMP法による研磨工程を不要とする程度に、「多層配線層」に設けられた配線の厚さを薄くすることによって、(1)大幅な工程数削減によるTATの短縮および製造コストの削減、(2)配線引き出し構造における高抵抗化の抑制を実現できる。すなわち、本実施の形態における製法上の特徴点は、トランスフォーマを形成した半導体装置の製造コストの削減およびトランスフォーマの性能向上に寄与する点で非常に有用な技術的意義を有している。
【0118】
<変形例1>
図17は、本変形例1における半導体チップCHP3Aの模式的な断面図である。
【0119】
図17において、半導体チップCHP3Aでは、「上層配線層」に設けられた第8層配線M8は、複数のビアV6と直接接触している。すなわち、
図17に示す本変形例2における半導体チップCHP3Aでは、第6層配線M6は、「上層配線層」の1層下層に設けられた配線であり、第6層配線M6と第8層配線M8とは、タングステンで形成されたビアV6を介して電気的に接続されている。このように、「上層配線層」に設けられた第8層配線M8は、複数のビアV6と直接接触するように構成されていてもよい。
【0120】
<変形例2>
図18は、本変形例2における配線引き出し構造を示す断面図である。
【0121】
図18において、「下層配線層」には、第1層配線M1が設けられている。一方、「下層配線層」の上層にある「多層配線層」には、第2層配線M2~第6層配線M6が設けられている。そして、「多層配線層」の上層にある「上層配線層」には、第8層配線M8が設けられている。このとき、
図18に示すように、断面視において、第1層配線M1のX方向の幅は、第2層配線M2~第6層配線M6のそれぞれのX方向の幅よりも大きく、第8層配線M8のX方向の幅は、第2層配線M2~第6層配線M6のそれぞれのX方向の幅よりも小さくなっている。このように、第8層配線M8のX方向の幅は、第2層配線M2~第6層配線M6のそれぞれのX方向の幅よりも小さくなっていてもよい。
【0122】
<変形例3>
図19は、本変形例3における半導体チップCHP3Bの模式的な断面図である。
【0123】
図19において、「多層配線層」は、例えば、「上層配線層」から3層以上下層に設けられた第4配線層と、第4配線層の1層上層に形成された第5配線層と、を含む。そして、第4配線層に設けられた第4層配線M4は、タングステンで形成されたビアV4を介して第5配線層に設けられた第5層配線M5と接続されている。一方、「多層配線層」のうちの第6配線層に設けられた第6層配線M6は、「上層配線層」の1層下層に設けられた配線である。このとき、「上層配線層」に設けられた第8層配線M8は、アルミニウムで形成されたビアV6Aを介して第6層配線M6と接続され、断面視において、ビア6AのX方向の幅は、ビアV4のX方向の幅よりも大きい。このように、第8層配線M8は、アルミニウムで形成されたビアV6Aを介して第6層配線M6と接続されていてもよく、ビアV6AのX方向の幅は、タングステンで形成されたビアV1~ビアV5のそれぞれのX方向の幅よりも大きく構成されていてもよい。
【0124】
<変形例4>
図20は、本変形例4における半導体チップCHP3Cの模式的な断面図である。
【0125】
図20において、「多層配線層」は、例えば、第2配線層と、第2配線層の1層上層に形成された第3配線層と、第3配線層の1層上層に形成された第4配線層と、を含む。ここで、半導体チップCHP3Cには、第2配線層に設けられた第2層配線M2と、第3配線層に設けられた第3層配線M3と、第4配線層に設けられた第4層配線M4とが設けられている。このとき、第2層配線M2は、ビアV2を介して第3層配線M3と接続され、第3層配線M3は、ビアV3を介して第4層配線M4と接続されている。
【0126】
そして、断面視において、ビアV2とビアV3は、位置がずれている。このように、ビアV1とビアV2との位置関係、ビアV2とビアV3の位置関係、ビアV3とビアV4の位置関係およびビアV4とビアV5の位置関係のそれぞれにおいて、断面的に互いに重ならないように配置されていてもよい。すなわち、ビアV1~ビアV5は、位置がずれたスタック構造から構成されていてもよい。
【0127】
<変形例5>
図21は、本変形例5における半導体チップCHP3Dの模式的な断面図である。
【0128】
図21において、「下層配線層」に設けられた第1層配線M1と、「上層配線層」に設けられた第8層配線M8だけでなく、「多層配線層」に設けられた第2層配線M2~第6層配線M6のそれぞれも、アルミニウムから構成されていてもよい。すなわち、ビアV1~ビアV5がタングステンから構成されている一方、第2層配線M2~第6層配線M6のそれぞれが、タングステンではなくアルミニウムから構成されていてもよい。
【0129】
なお、「下層配線層」に設けられた第1層配線M1、「多層配線層」に設けられた第2層配線M2~第6層配線M6および「上層配線層」に設けられた第8層配線M8のそれぞれを構成する材料は、層間絶縁膜の膜応力と逆特性になる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウムやタングステンの他に銅を使用することもできる。
【0130】
<変形例6>
インダクタは、差動制御に対応する形状であってもよい。具体的に、インダクタの平面形状は、例えば、
図22(a)や
図22(b)に示す平面形状であってもよい。具体的には、
図22(a)や
図22(b)に示すように、インダクタは、一対の差動配線に対応して、センタータップパッド5aと、渦巻配線5bと、トランスパッド5cと、渦巻配線5dと、トランスパッド5eを備えるように構成されていてもよい。
【0131】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0132】
1a タップパッド
1b 渦巻配線
1c トランスパッド
2a タップパッド
2b 渦巻配線
2c トランスパッド
3a タップパッド
3b 渦巻配線
3c トランスパッド
4a タップパッド
4c トランスパッド
5a センタータップパッド
5b 渦巻配線
5c トランスパッド
5d 渦巻配線
5e トランスパッド
100 上層インダクタ
200 上層インダクタ
300 下層インダクタ
AF アルミニウム膜
AR1 トランスフォーマ形成領域
AR2 シールリング形成領域
AR3 中間領域
BR 配線引き出し構造
CC 制御回路
CHP1 半導体チップ
CHP2 半導体チップ
CHP3 半導体チップ
CHP3A 半導体チップ
CHP3B 半導体チップ
CHP3C 半導体チップ
CHP3D 半導体チップ
CL1a コイル
CL1b コイル
CL2a コイル
CL2b コイル
CNT コンタクトビア
DMY ダミー配線
DR 駆動回路
GND1 接地電位
GND2 接地電位
IF 絶縁膜
IL1 第1層間絶縁膜
IL2 第2層間絶縁膜
IL3 第3層間絶縁膜
IL4 第4層間絶縁膜
IL5 第5層間絶縁膜
IL6 第6層間絶縁膜
IL7 第7層間絶縁膜
INV インバータ
LOD 負荷回路
M1 第1層配線
M2 第2層配線
M3 第3層配線
M4 第4層配線
M5 第5層配線
M6 第6層配線
M7 第7層配線
M8 第8層配線
PAS 表面保護膜
PF 保護膜
PI ポリイミド樹脂膜
PR p型半導体領域
RX1 受信回路
RX2 受信回路
SG1 信号
SG2 信号
SG3 信号
SG4 信号
SR シールリング
SUB p型半導体基板
TR1 トランスフォーマ
TR2 トランスフォーマ
TX1 送信回路
TX2 送信回路
VCC1 電源電位
VCC2 電源電位
VH1 ビアホール
V1 ビア
V2 ビア
V3 ビア
V4 ビア
V5 ビア
V6 ビア
V6A ビア
WF タングステン膜