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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004469
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】カチオン染料可染性繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 14/04 20060101AFI20240109BHJP
   D06M 14/22 20060101ALI20240109BHJP
   D06P 5/22 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
D06M14/04
D06M14/22
D06P5/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098691
(22)【出願日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022103643
(32)【優先日】2022-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】廣垣 和正
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】有馬 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】大島 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】小島 丈典
【テーマコード(参考)】
4H157
4L033
【Fターム(参考)】
4H157AA02
4H157CB08
4H157DA01
4H157DA24
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA19
4L033BA21
4L033BA32
4L033BA43
4L033BA76
(57)【要約】
【課題】 少ないエネルギー量で且つ連続処理で酸性基を導入できる、カチオン染料可染性繊維の製造方法を提供する。また、本発明は、一態様において、当該カチオン染料可染性繊維を含む混紡品、及び当該カチオン染料可染性繊維を含む被染色品の染色方法を提供する。
【解決手段】 本発明のカチオン染料可染性繊維の製造方法は、繊維に、酸性基とエチレン性不飽和二重結合とを含む化合物Aを接触させ、前記化合物Aと前記繊維との接触の前又は同時に前記繊維に放射線を照射して前記繊維に前記化合物Aをグラフト重合させる工程を含む。前記繊維は、好ましくはセルロース繊維である。前記放射線が照射される前記繊維の状態は、好ましくは、綿状、スライバー状、糸状、織物状、編物状及び不織布状から選ばれる少なくとも一つの状態である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン染料可染性繊維の製造方法であって、
酸性基とエチレン性不飽和二重結合とを含む化合物Aを繊維に接触させ、前記化合物Aと前記繊維との接触の前又は同時に前記繊維に放射線を照射して、前記繊維に前記化合物Aをグラフト重合させる工程を含む、カチオン染料可染性繊維の製造方法。
【請求項2】
前記繊維は、セルロース繊維である、請求項1に記載のカチオン染料可染性繊維の製造方法。
【請求項3】
前記放射線が照射される前記繊維の状態は、綿状、スライバー状、糸状、織物状、編物状及び不織布状から選ばれる少なくとも一つの状態である、請求項1に記載のカチオン染料可染性繊維の製造方法。
【請求項4】
前記化合物Aのグラフト率が、0.1~50.0wt%である、請求項1に記載のカチオン染料可染性繊維の製造方法。
【請求項5】
前記酸性基は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基及びこれらの金属塩から選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載のカチオン染料可染性繊維の製造方法。
【請求項6】
前記化合物Aは、アクリル酸、メタクリル酸、2-メタクリロイルオキシエチルリン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、および2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸から選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載のカチオン染料可染性繊維の製造方法。
【請求項7】
前記化合物Aに加えて、疎水性基とエチレン性不飽和二重結合とを含む化合物Bを前記繊維に接触させ、前記化合物Aおよび前記化合物Bと前記繊維との前記接触の前又は同時に前記繊維に放射線を照射して、前記繊維に前記化合物Aおよび前記化合物Bをグラフト重合させる、請求項1に記載のカチオン染料可染性繊維の製造方法。
【請求項8】
前記化合物Aと前記化合物Bのグラフト率が、1.0~50.0wt%である、請求項7に記載のカチオン染料可染性繊維の製造方法。
【請求項9】
前記化合物Bは、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、およびメタクリル酸ブチルから選ばれる少なくとも1つである、請求項7に記載のカチオン染料可染性繊維の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの項に記載のカチオン染料可染性繊維の製造方法により製造されたカチオン染料可染性繊維(A)と他の繊維とを含む、混紡品。
【請求項11】
前記他の繊維は、カチオン染料可染性繊維(B)である、請求項10に記載の混紡品。
【請求項12】
請求項1から9のいずれかの項に記載のカチオン染料可染性繊維の製造方法により製造されたカチオン染料可染性繊維の染色方法であって、
カチオン染料を含む染液を、前記カチオン染料可染性繊維に接触させる工程を含む、染色方法。
【請求項13】
請求項10に記載の混紡品の染色方法であって、カチオン染料を含む染液を、前記混紡品に接触させる工程を含む、染色方法。
【請求項14】
前記混紡品に含まれる前記他の繊維がカチオン染料可染性繊維(B)であり、
前記混紡品に含まれる前記カチオン染料可染性繊維(A)および前記カチオン染料可染性繊維(B)を一浴で染色する、請求項13に記載の染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン染料可染性繊維の製造方法、前記カチオン染料可染性繊維を含む混紡品、及び前記カチオン染料可染性繊維または前記混紡品の染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維は、木綿(コットン)、麻などの天然セルロース繊維と、レーヨンなどの再生繊維がある。従来からセルロース繊維は、直接染料、反応染料、硫化染料、ナフトール染料、スレン染料(建染染料、バット染料)などによって染色されている。ところが、このような染料を用いた染色方法では、濃色で鮮明な色調を出すことは困難であった。一方、鮮明な色調を出せる染料としてカチオン染料が知られている。カチオン染料はイオン結合により化学的に染色されるため発色性がよいが、この染料はアクリル系繊維、カチオン可染型ポリエステル繊維などに適用されている(非特許文献1)。非改質のセルロース繊維は、そのままでは染着座席はなく、カチオン染料には染まらない。
【0003】
特許文献1には、スルホン基、カルボキシル基、リン酸基などの酸性基をケミカルグラフト法によりセルロース繊維に導入することによりカチオン染料に対する染着性を改善し、さらにアセチル化することで洗濯堅牢度を向上させる染色性の改善方法が開示されている。特許文献2には、アルカリ剤と特定の化合物とを含む水溶液にセルロース繊維を浸漬させることでセルロース繊維に酸性基を導入し、酸性基導入セルロース繊維またはその繊維構造物を、カチオン染料にて染色した後、洗浄、タンニン酸処理、吐酒石酸処理、洗浄、乾燥を行う、酸性基導入セルロース繊維またはその繊維構造物の染色方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭40-13025号公報
【特許文献2】特開昭64-85380号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】本宮達也ら編「繊維の百科事典」,405頁,690-691頁,2002年3月25日,丸善
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記従来技術では、酸性基の導入がケミカルグラフト法によるため、連続式で行うことが困難である。また、酸性基の導入に際し、所定時間加熱を行うので、エネルギー使用量が多いという問題がある。
【0007】
本発明は、一態様において、少ないエネルギー量で且つ連続処理で酸性基を導入できる、カチオン染料可染性繊維の製造方法を提供する。また、本発明は、一態様において、当該カチオン染料可染性繊維を含む混紡品、及び当該カチオン染料可染性繊維を含む染色対象の染色方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一態様において、カチオン染料可染性繊維の製造方法であって、酸性基とエチレン性不飽和二重結合とを含む化合物Aを繊維に接触させ、前記化合物Aと前記繊維との接触の前又は同時に前記繊維に放射線を照射して、前記繊維に前記化合物Aをグラフト重合させる工程を含む、カチオン染料可染性繊維の製造方法に関する。
【0009】
本発明は、一態様において、前記カチオン染料可染性繊維の製造方法により製造されたカチオン染料可染性繊維と他の繊維とを含む混紡品に関する。
【0010】
本発明は、一態様において、前記カチオン染料可染性繊維の製造方法により製造されたカチオン染料可染性繊維又は前記混紡品の染色方法であって、
カチオン染料を含む染液を、前記カチオン染料可染性繊維又は前記混紡品に接触させる工程を含む、染色方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、少ないエネルギー量で且つ連続処理で酸性基を繊維に導入できるカチオン染料可染性繊維の製造方法、当該カチオン染料可染性繊維を含む混紡品、および染色品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
本発明のカチオン染料可染性繊維の製造方法は、一態様において、以下の工程を含む。
(1)グラフト重合工程
一分子中に酸性基とエチレン性不飽和二重結合とを含む化合物A(以下「化合物A」と略称する場合もある。)を繊維に接触させ、前記接触の前又は同時に前記繊維に放射線を照射してラジカルを発生させ、前記繊維に前記化合物Aをグラフト重合させる工程。
(2)洗浄工程
(3)乾燥工程
【0013】
[グラフト重合工程]
本発明において、繊維には、カチオン染料に対して染着座席を持たない、セルロース繊維、ポリエステル繊維などの非イオン性繊維(疎水性合成繊維)、ナイロン、ポリ乳酸繊維、アセテート繊維及びエチレンビニルアルコール繊維などが含まれる。セルロース繊維には、木綿(コットン)、麻などの天然セルロース繊維と、レーヨンなどの再生繊維が含まれる。セルロース繊維は、非改質では、カチオン染料で染めることはできない。本発明では、前記繊維に放射線を照射してラジカルを発生させ、前記化合物Aを繊維にグラフト重合させる。これにより、セルロース繊維などの繊維は、カチオン染料で染色可能となる。カチオン染料で染色された染色物は、濃色で鮮明な色調であることは、アクリル系繊維、カチオン可染型ポリエステル繊維で実証されている。放射線は、単位時間当たりの放射線強度(線量率)が高い電子線が好ましい。
【0014】
前記放射線が照射される前記繊維の状態は、綿(わた)状、スライバー状、糸状、織物状、編物状及び不織布状から選ばれる少なくとも一つの状態が好ましい。以下、前記状態をまとめて繊維基材と総称する。これらの中でも、グラフト重合の対象とされる繊維基材の状態は、好ましくは、グラフト重合する際の連続処理が可能なスライバー状、糸状、織物状、編物状又は不織布状であり、より好ましくは、スライバー状である。スライバー状の繊維にグラフト重合すると、他の繊維のスライバーと練条工程でスライバー混紡が行える。
【0015】
本態様において、前記化合物Aのグラフト率は、強度保持と濃色染色との両立の観点から、好ましくは0.1~50.0wt%、より好ましくは1.0~45.0wt%、さらに好ましくは5.0~40.0wt%であり、さらにより好ましくは12.0~36.0wt%である。前記繊維との接触に使用される前記化合物Aの使用量は、グラフト率が上記範囲内の値となるような量であると好ましい。
なお、グラフト率は、グラフト加工前後の重量差より算出する重量の増加率(wt%)であり、その計算式は下記式(1)の通りである。下記式(1)中、W0はグラフト加工前の繊維の重量、Wgはグラフト加工後の繊維の重量である。重量測定される繊維の状態は、綿(わた)状、スライバー状、糸状、織物状、編物状及び不織布状のいずれであってもよい。
グラフト率(wt%)=(Wg-W0)/W0×100 (1)
【0016】
前記酸性基はアニオン基とも言い、前記化合物Aがグラフト結合された前記繊維において、カチオン染料の染着座席となる。前記酸性基は、好ましくはカルボキシル基(-COOH)、リン酸基(-PO(OH)2)またはスルホン酸基(-SO3H)であり、より好ましくは弱酸性であるカルボキシル基である。また、前記酸性基は、金属塩などの塩の形態であってもよい。前記酸性基の塩としては、-COO-Na+基、-PO3 2-2Na+基又は-SO3 -Na+基などの、アルカリ金属塩、好ましくは、酸性基のナトリウム塩が挙げられる。前記酸性基は、化合物Aにおいて、エチレン性不飽和二重結合に直接結合していてもよいが、分子鎖を介してエチレン性不飽和二重結合に結合していてもよい。前記化合物Aは、具体的には、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、2-メタクリロイルオキシエチルリン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム(Sスルホン酸Na)、および2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)から選ばれる少なくとも一つであり、より好ましくは、弱酸性である、アクリル酸、メタクリル酸、およびSスルホン酸Naから選ばれる少なくとも一つであり、更に好ましくは、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも一つである。前記化合物Aの酸性基は、前記繊維との接触前に前記塩の形態としてもよいし、前記繊維との接触後、或いはグラフト重合後に、前記塩の形態となることもある。このようにして、前記化合物Aがグラフト結合された繊維は、カチオン染料可染性繊維となる。
【0017】
前記グラフト重合では、繊維への電子線(Electron Beam)照射によりラジカルを発生させ、当該繊維と前記化合物Aとの接触により、前記繊維に前記化合物Aをグラフト重合させるのが好ましい。電子線照射は、易取扱い性、安全性、ラジカルを有効に発生させることができるなどの観点から、前記化合物Aの前記繊維へのグラフト重合に好適である。また、電子線グラフト重合法などの放射線グラフト重合法によれば、連続加工が可能であり、エネルギーの使用量も少なく、薬剤を用いるケミカル法よりも工程数も少なく、廃液処理の問題、水使用量の増大を伴わないので、好ましい。
【0018】
照射される電子線の線量は、通常、1~200kGyであり、好ましくは5~100kGy、より好ましくは10~50kGyである。電子線の照射は、空気中でもよいが、窒素雰囲気下で照射を行うと好ましい。また、電子線の浸透力(透過能力)は、その加速電圧によって決まり、前記繊維基材の片側から照射するだけで、反対側に達するまで、電子線を浸透させることができる。電子線照射装置としては市販のものが使用可能であり、例えば、エレクトロカーテン型電子線照射装置としてEC250/15/180L(岩崎電気(株)製)、EC300/165/800(岩崎電気(株)製)、EPS300((株)NHVコーポレーション製)などが使用できる。繊維と前記化合物Aとの接触は、例えば、前記繊維基材を前記化合物Aの水溶液に所定の浴比で浸漬させるか、又は前記水溶液を滴下することで行える。接触時間(反応時間)は、使用される化合物Aの種類や接触方法などに応じて異なるが、通常、好ましくは10~60分、より好ましくは10~30分である。前記水溶液には、さらに浸透剤などが含まれていてもよい。
【0019】
[洗浄工程]
前記洗浄工程では、グラフト反応終了後、水洗により未反応成分を除去する。未反応成分を除去することにより染めむらの発生を抑制できる。水洗は、好ましくは流水中で行い、水の温度は15~60℃であると好ましい。
【0020】
[乾燥工程]
前記乾燥工程は、前記化合物Aがグラフト重合された繊維基材を、例えば、乾燥温度100℃、乾燥時間5分程度で行う。なお、20~90℃で0.5~24時間乾燥してもよく、風乾してもよい。
【0021】
本発明のカチオン染料可染性繊維の製造方法により得られたカチオン染料可染性繊維は、放射線が照射される繊維の状態に応じて、綿(わた)状、スライバー状、糸状、織物状、編物状及び不織布状から選ばれる少なくとも一つの状態である。
【0022】
(実施形態2)
本発明のカチオン染料可染性繊維の製造方法は、別の一態様において、以下の工程を含む。
(1)グラフト重合工程
前記化合物Aを繊維に接触させ、前記化合物Aと前記繊維との接触の前又は接触と同時に前記繊維に放射線を照射してラジカルを発生させ、前記繊維に前記化合物Aをグラフト重合させ、下記化合物Bを繊維に接触させ、前記化合物Bと前記繊維との接触の前又は接触と同時に前記繊維に放射線を照射してラジカルを発生させ、前記繊維に前記化合物Bをグラフト重合させる工程。
(2)洗浄工程
(3)乾燥工程
【0023】
化合物Bは、一分子中に疎水性基とエチレン性不飽和二重結合を含む化合物であり、極性が小さい分子構造を有する。
【0024】
[グラフト重合工程]
本態様におけるグラフト重合工程は、繊維に対して、化合物Aに加えて化合物Bもグラフト結合させること以外は、(実施形態1)における[グラフト重合工程]と同じである。化合物Bのグラフト結合には、化合物Bが直接繊維に結合する場合、化合物Bが繊維にグラフト結合した化合物Aに結合する場合、のいずれか一方または双方が含まれる。
木綿に代表されるセルロース繊維は、親水基である水酸基を分子内に多数有しているため、カチオン染料の疎水部分との相互作用が少ない。しかし、本態様では、疎水性基を有する化合物Bが、グラフト結合により繊維表面に導入されているので、当該疎水性基とカチオン染料の疎水部分との強い疎水性相互作用によって、カチオン染料が繊維表面または繊維表面近傍に強く引き寄せられる。そのため、グラフト結合されている化合物Aの酸性基(染着座席)へのカチオン染料の染着が効果的に行われることとなり、カチオン染料の繊維に対する染着率が向上し、その結果、繊維をより濃色に染色することが可能となる。
【0025】
化合物Bは、染着性の向上の観点から、例えば、化合物Aが、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも一つである場合、好ましくは、アクリル酸系エステルおよびメタクリル酸系エステルから選ばれる少なくとも一つである。疎水性基としては、例えば、アルキル基、またはアリール基等の炭化水素基が挙げられるが、カチオン染料の酸性基への染着の立体障害となりにくいという理由から、直鎖状または分岐状の炭化水素基が好ましく、直鎖状または分岐状のアルキル基がより好ましく、直鎖状のアルキル基がさらに好ましい。疎水性基の炭素鎖が長いほど、分子の極性が小さくなりカチオン染料の染着に有利であるが、炭素鎖が長いほど、グラフト加工用の水溶液の調整の際の水への化合物Bの分散が難しくなる。したがって、カチオン染料の染着性の向上とグラフト加工用の水溶液の調整の容易性の両立の観点から、前記炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上18以下であり、より好ましくは1以上12以下であり、さらに好ましくは1以上4以下である。なお、前記グラフト加工用の水溶液の調整の際に化合物Bを水に分散させるために、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等の界面活性剤を併用してもよく、炭化水素基の炭素鎖が長い場合は、界面活性剤で化合物Bを積極的に分散させてもよい。
【0026】
化合物Bは、より具体的には、染着性の向上の観点から、好ましくはアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、およびメタクリル酸ステアリルから選ばれる少なくとも1種のモノマーであり、より好ましくはアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、およびメタクリル酸ブチルから選ばれる少なくとも1種のモノマーである。
【0027】
また、化合物Bは、ビニル基を有する芳香族化合物であってもよい。具体的には、芳香族化合物の置換基にビニル基が含まれる化合物が挙げられ、より具体的には、スチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。化合物Bが、疎水性基として芳香族炭化水素を含む場合、当該疎水性基とカチオン染料分子との疎水性相互作用により、染料分子が繊維表面または繊維表面近傍に引き寄せられ、カチオン染料の染着が効果的に行われる。
【0028】
このように2種のモノマーを繊維にグラフト結合させる方法として、好ましくは、2種のモノマーを同時に繊維に接触させる共グラフト重合法、または、一方のモノマーをグラフト結合させた後に他方のモノマーをグラフト結合させる二段グラフト重合法が挙げられるが、放射線の照射による繊維の劣化および生産効率の観点から、より好ましくは、共グラフト重合法が好ましい。
すなわち、本開示のカチオン染料可染性繊維の製造方法は、一態様において、より好ましくは、前記化合物Aに加えて、疎水性基とエチレン性不飽和二重結合とを含む化合物Bを前記繊維に接触させ、前記化合物Aおよび前記化合物Bと前記繊維との前記接触の前又は同時に前記繊維に放射線を照射して、前記繊維に前記化合物Aおよび前記化合物Bをグラフト重合させることを含む。
【0029】
共グラフト重合法において、化合物Aおよび化合物Bと繊維との接触は、例えば、化合物A(酸性基含有モノマー)と化合物B(疎水性モノマー)を各々所定の濃度で含むグラフト加工用の水溶液に、繊維を浸漬させることで行える。当該水溶液には、化合物Bの疎水性基(炭化水素基)の炭素数に応じて、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等の界面活性剤が含まれていてもよい。
【0030】
本態様において、前記化合物Aと前記化合物Bのグラフト率は、強度保持と濃色染色との両立の観点から、好ましくは1.0~50.0wt%、より好ましくは2.0~45.0wt%、さらに好ましくは3.0~40.0wt%である。前記繊維との接触に使用される前記化合物Aと前記化合物Bの使用量の合計は、グラフト率が上記範囲内の値となるような量であると好ましい。
【0031】
前記繊維との接触に使用される化合物Aと化合物Bの量比は、染着率の向上の観点から、化合物Aが有する酸性基に対する化合物Bが有する疎水性基のモル比(疎水性基/酸性基)が下記となるような量比であると好ましく、前記モル比(疎水性基/酸性基)は、好ましくは1.0~40.0、より好ましくは1.5~15.0、さらに好ましくは2.0~10.0である。
【0032】
本態様において、好ましい放射線の種類、線量、照射雰囲気、浴比、化合物と繊維の接触時間等は、(実施形態1)におけるそれと同じでよい。
【0033】
本態様において、[洗浄工程]および[乾燥工程]についても(実施形態1)におけるそれと同じでよい。
【0034】
[カチオン染料可染性繊維を含む繊維構造物]
前記カチオン染料可染性繊維を含む繊維構造物は、本発明の製造方法により製造されたカチオン染料可染性繊維(A)100%使いでもよいし、他の繊維(B)と混紡されてもよい。また、前記繊維構造物は、本発明の製造方法により製造されたカチオン染料可染性セルロース繊維100%使いでもよいし、当該カチオン染料可染性セルロース繊維と他の繊維(B)との混紡品であってもよい。前記カチオン染料可染性繊維(A)が他の繊維(B)と混紡されることにより、繊維構造物の色調、風合い、物理的特性などを制御できる。前記他の繊維としては、天然繊維、再生繊維、合成繊維など任意の繊維を採用できる。前記他の繊維としては、例えば、本発明の製造方法により製造された前記カチオン染料可染性セルロース繊維以外のセルロース繊維(コットン、麻、レーヨン、アセテート、キュプラなど)、ウール、シルク、ポリエステル、ナイロン、アクリル系などの繊維を使用できる。
【0035】
前記カチオン染料可染性繊維(A)と他の繊維(B)との好ましい混紡割合(A:B)は、強度の観点から、質量割合で、好ましくは10:90~90:10であり、より好ましくは20:80~80:20であり、更に好ましくは30:70~70:30である。
【0036】
前記他の繊維(B)は、カチオン染料可染性合成繊維であるのが好ましく、例えば、アクリル繊維、カチオン染料可染型ポリエステル繊維などが挙げられる。本発明のカチオン染料可染性繊維と前記他の繊維(B)として本発明のカチオン染料可染性繊維以外のカチオン染料可染性合成繊維とを混紡すると、一浴染めができ、その結果、水の使用量および電力使用量を大幅に低減できる。
【0037】
また、本発明は、一態様において、カチオン染料可染性繊維(A)と他の繊維(B)とを含む混紡品の製造方法に関する。当該混紡品の製造方法は、前記化合物Aをスライバー状の繊維に接触させ、前記化合物Aと前記繊維との接触の前又は同時に前記繊維に放射線を照射して、前記繊維に前記化合物Aをグラフト重合させること、グラフト反応終了後に前記繊維を洗浄し次いで乾燥してカチオン染料可染性繊維(A)を得ること、前記カチオン染料可染性繊維(A)とスライバー状の他の繊維(B)とを混紡すること、を含む。
また、本発明は、別の一態様において、前記化合物Aおよび前記化合物Bをスライバー状の繊維に接触させ、前記化合物Aおよび前記化合物Bと前記繊維との接触の前又は同時に前記繊維に放射線を照射して、前記繊維に前記化合物Aおよび前記化合物Bをグラフト重合させること、グラフト反応終了後に前記繊維を洗浄し次いで乾燥してカチオン染料可染性繊維(A)を得ること、前記カチオン染料可染性繊維(A)とスライバー状の他の繊維(B)とを混紡すること、を含む、カチオン染料可染性繊維(A)と他の繊維(B)とを含む混紡品の製造方法に関する。
【0038】
[染色方法]
本発明の製造方法により製造されたカチオン染料可染性繊維又は前記混紡品(以下、これらをまとめて「染色対象」と呼ぶ場合がある。)の染色方法は、一態様において、カチオン染料を含む染液を、(a)浸漬法、(b)パッド法又は(c)インクジェット法などにより、前記カチオン染料可染性繊維又は前記混紡品に接触させ、加熱により染色固定させ、その後、洗浄および乾燥するのが好ましい。本発明の染色方法による染色は、染色対象の態様に応じて、先染め、後染めのいずれであってもよい。本発明の染色方法によれば、染料としてカチオン染料を用いるので、濃色で鮮明な色調の染色品を得ることができる。混紡品の態様は、織物状、編物状または不織布状等の生地または糸である。染色対象の態様は、織物状、編物状または不織布状等の生地、綿(わた)、スライバー、または糸が挙げられる。
【0039】
(A)浸漬法
浸漬法は、カチオン染料を含む染液浴に染色対象を浸漬し、染液の温度を徐々に上げ、一例として、90~110℃で15~60分間加熱して、染料を繊維に固定させる。次いで、染液の温度を徐々に下げ、繊維表面に残留した余分な染料を湯洗により洗い落とし、その後乾燥する。染液には、カチオン染料の他に、助剤として、酢酸、濃染剤が含まれていてもよい。先染めの場合、例えば、チーズ染色、綛染め染色、パッケージ型染色等の染色方法が挙げられる。チーズ染色では、穴の開いた染色専用のボビンに巻かれた糸を染色釜(染色浴)に入れ、加圧しながら均一に染まるようにポンプで染液を循環させる。綛染め染色では、糸をかせの状態で吊り下げながら染色する。パッケージ型染色では、孔を開けた容器に繊維や糸を詰め込み、そこへ染料を含む染色液を循環させて染色する。後染め(生地染め)の場合、ウインス染色、液流染色、ジッガー染色、ビーム染色などの染色方法が挙げられる。ウインス染色では、一定の長さの織物の反末同士を縫い合わせループ状とし、これを染料液の中に繰り返し通しながら染色する。液流染色では、生地をロープ状につなげて染液の水流に乗せて、染液が入った管内を循環させながら高温高圧下で染色する。ビーム染色では、パンチング孔のあるビーム管に生地を巻きつけ、生地を固定し、それを高温高圧下で染料液に浸すことで染める。ジッガー染色では、大きな2本のロールに生地を巻き付け、生地をロール間で行ったり来たりさせながら染液に浸して染色する。
【0040】
(B)パッド法
パッド法は、繊維基材(染色対象)にカチオン染料を含む染液をパッドにより付着させ、その後90~110℃で20~40分間スチームの熱などにより加熱して、染料を繊維に固定させる。次いで、湯水洗し、その後乾燥する。
【0041】
(C)インクジェット法
インクジェット法は、インクジェットにより、繊維基材(染色対象)にカチオン染料を含む染液を印刷し、その後100~130℃で10~30分間スチーム加熱し、湯洗し、その後乾燥する。
【0042】
本発明のカチオン染料可染性繊維又は混紡品の染色方法で用いられるカチオン染料としては、アクリル繊維の染色に使用されている従来から公知のカチオン染料が使用でき、例えば、アントラキノン系、アザメチン系、アゾ系、ポリメチン系などが挙げられる。市販品としては、例えば、Kayacryl(日本化薬(株)製)などが挙げられる。上記染色方法では、カチオン染料を用いて染色対象を染色するので、他の種属の染料では得られない鮮明色の染色品を得ることができる。前記染液には、常法に従い、カチオン染料以外に、染色助剤として、均染剤、緩染剤、分散剤、浸透剤、pH調整剤などが含まれていてもよい。
【実施例0043】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1~4)
<使用生地>
木綿100%晒上がりの織物(平織物、経糸(紡績糸)及び緯糸(紡績糸)はともに40番手(綿番手)単糸、単位面積当たりの質量(目付)122.5g/m2
【0045】
[グラフト重合]
(1)化合物A
・アクリル酸
・メタクリル酸
・スチレンスルホン酸ナトリウム:Sスルホン酸Na
・2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸:AMPS
【0046】
(2)グラフト重合条件
上記使用生地からサンプルとしてタテ70mm×ヨコ280mmの生地(約2.3g)を採取した。これに、エレクトロカーテン型電子線照射装置(岩崎電気(株)製、EC250/30/90L)を使用して、窒素ガス雰囲気下で、加速電圧200kV、照射線量40kGyの条件で電子線を照射した。その後、容器に入れ、上記化合物Aを含む水溶液に浴比1:20で20分間浸漬して反応させた後、容器から生地を取り出して水洗し、風乾させた。
【0047】
【表1】
【0048】
[染色処理]
(1)染液調製
下記<染色レサイプ>にしたがって染液を調製した。
<染色レサイプ>
・カチオン染料、日本化薬(株)製、Kayacryl Yellow 3RL:0.124%owf(owfはon the weight of fiber)
・カチオン染料、日本化薬(株)製、Kayacryl Red GRL:0.045%owf
・カチオン染料、日本化薬(株)製、Kayacryl Blue GRL:0.028%owf
・pH調整剤(染液をpH(25℃)=4程度に調整用)
・残部は水
【0049】
(2)染色方法
浴比1:20でサンプルを染液に浸漬し、100℃で45分間染色処理した。次いで、染液を廃棄した後に、染色されたサンプルを50℃程度の湯で洗浄し、風乾して、染色品を得た。
【0050】
(比較例1)
電子線照射およびグラフト重合しない以外は実施例1と同様に染色処理した。
【0051】
[測色評価]
(1)測色試験
JIS Z 8730:2009に準じて、国際照明委員会の規定するCIE色差式を用いて、L*値、a*値、及びb*値を求めた。なお、L*値は、色の明度を0~100の値で表し、0に近いほど暗く、100に近いほど明るいことを示している。a*値は、色の赤緑位置を表し、正の数値は赤寄りの色を、負の数値は緑寄りの色を示している。b*値は、色の黄青位置を表し、正の数値は黄寄りの色を、負の数値は青寄りの色を示している。
また、測定基準白布(未加工未染色生地)との差ΔL*値、Δa*値、及びΔb*値を求めた。下記表2中、D65はCIE標準光源のことである。ΔE*ab値は測定基準白布との色差のことである。
【0052】
(2)測定機器
***の測定にはコニカミノルタ(株)製、分光測色計、CM-600dを用いた。測定数は3とし、その平均値を下記表2に示した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2から明らかなとおり、実施例1~4の染色品は、比較例1よりもΔL*値が低く、カチオン染料により濃色に染色されていた。とくに実施例1~3の染色品は濃色であった。また目視観察では、実施例1~4の染色品は鮮明に染色されていた。
【0055】
(実施例5)
<スライバーの処理>
コットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))に対し、エレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気(株)製)により、窒素雰囲気下で、電子線を、加速電圧200kV、照射線量40kGyで照射した。電子線が照射されたスライバーをその直後に0.5質量%の浸透剤CT-24T(京浜化成(株)製)を含有するアクリル酸(ナカライテスク(株)製)の5質量%水溶液に浸漬し(浴比1:8)、室温で20分間反応させ、マングルでスライバー重量に対して約100質量%のピックアップ率となるように絞った。次に、連続して未反応のアクリル酸を水洗して除去し、乾燥し、グラフト率17.0%のアクリル酸グラフトコットンを得た。
【0056】
<紡績糸の製造>
前記アクリル酸グラフトコットンと未処理コットンとを混打綿工程で混紡し、綿番手40番の糸を紡績した。混紡糸中のアクリル酸グラフトコットンの割合は25質量%となるようにした。
【0057】
<編地の作製>
前記混紡糸を用い筒編み機で編地を編成し、アクリル酸グラフトコットン含有生地を得た。
【0058】
<晒>
得られたアクリル酸グラフトコットン含有生地を常法で晒処理した。
【0059】
<染色>
上記(実施例1~4)の[染色処理]と同様の方法で染色処理を行い、染色されたアクリル酸グラフトコットン含有生地(染色品)を得た。ただし、染料はKayacryl Blue GRLのみを使用し、owfは、2.0%owfとした。
【0060】
実施例5の染色品について、測色評価を実施例1~4と同様に行い、結果を表3に示した。
【0061】
【表3】
【0062】
表3から明らかなとおり、実施例5の染色品も、ΔL*値が低く、カチオン染料により濃色に染色されていた。また目視観察でも、実施例5の染色品は鮮明に染色されていた。
【0063】
(実施例6~16)
<使用生地>
木綿100%晒上がりの織物(平織物、経糸(紡績糸)及び緯糸(紡績糸)はともに40番手(綿番手)単糸、単位面積当たりの質量(目付)122.5g/m2
【0064】
[グラフト重合]
(1)化合物
化合物A:アクリル酸
化合物B:アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル
化合物Aと化合物Bを各々所定の濃度で含む水溶液(グラフト加工用の水溶液)を調製した。当該水溶液における化合物Aおよび化合物Bの各濃度、組み合わせは下記表4に記載した通りである。
【0065】
【表4】
【0066】
(2)グラフト重合条件
上記使用生地からサンプルとしてタテ70mm×ヨコ280mmの生地(約2.3g)を採取した。これに、エレクトロカーテン型電子線照射装置(岩崎電気(株)製、EC250/30/90L)を使用して、窒素ガス雰囲気下で、加速電圧200kV、照射線量40kGyの条件で電子線を照射した。その後、容器に入れ、グラフト加工用の水溶液に浴比1:20で20分間浸漬して反応させた後、容器から生地を取り出して水洗し、風乾させた。
【0067】
[染色処理]
(1)染液調製
下記<染色レサイプ>にしたがって染液を調製した。
<染色レサイプ>
・カチオン染料、日本化薬(株)製、Kayacryl Blue GRL : 1.0%owf
・pH調整剤(染液をpH(25℃)=4程度に調整用)
・残部は水
【0068】
(2)染色方法
浴比1:20でサンプルを染液に浸漬し、100℃で45分間染色処理した。次いで、染液を廃棄した後に、染色されたサンプルを50℃程度の湯で洗浄し、風乾して、染色品を得た。
【0069】
実施例1~4と同様にして、実施例6~16のグラフト率を算出しその結果を上記表4に示した。
【0070】
[染着率]
下記式より、実施例6~16の染色品について、下記式(2)を用いて染着率を算出しその結果を上記表4に示した。下記式(2)中、C0は初期染液の染料濃度、Caは染色後染液の染料濃度、CW1は1回目の水洗に使用した当該水中の染料濃度、CW2は2回目の水洗に使用した当該水中の染料濃度、CW3は3回目の水洗に使用した当該水中の染料濃度である。1~3回目の水洗は、各々90℃のイオン交換水に、浴比1:20で浸漬し、10分間容器を攪拌することにより行った。
染着率=(C0-Ca-CW1-CW2-CW3)/C0×100 (2)
【0071】
0、Ca、CW1、CW2、CW3の染料濃度の算出は、各々、既知の染料濃度C(wt%)の吸光度(A)をあらかじめ測定して染料濃度Cと吸光度(A)の関係式を作成しておき、これを利用した。染料濃度を知りたい液体の吸光度(A')を染料濃度Cと吸光度(A)の関係式にあてはめ、逆算することで、当該液体における染料濃度(C’wt%)を算出した。
より具体的には、カチオン染料の濃度を0.0005wt%から0.01wt%まで段階的にイオン交換水で希釈し、紫外可視近赤外分光光度計UH5700((株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて吸光度を測定した結果をもとに染料濃度Cと吸光度(A)の関係式を作成した。
【0072】
表4中の実施例6と実施例7との比較から、化合物Aの単独使用よりも、化合物Aと化合物Bとを共グラフト結合させた方が、染着率が顕著に向上することが確認できた。
【0073】
3回水洗後の実施例6~16の染色品について、実施例1~4と同様にして、上記[測色評価]に記載の方法に従って、L*値、a*値、b*値、測定基準白布(未加工未染色生地)との差ΔL*値、Δa*値、Δb*値、およびΔE*ab値を求めた。測定数は3とし、その平均値を下記表5に示した。
【0074】
【表5】
【0075】
表5中の実施例6と実施例7との比較から、化合物Aの単独使用よりも、化合物Aと化合物Bとを共グラフト結合させた方が、ΔL*値が低く、より濃色に染色されていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のカチオン染料可染性繊維を含む布帛は、下着、中着、外着、上衣、下衣、靴下、手袋、マフラー、スカーフ、帽子などの衣類、シーツ、布団カバー、枕カバー、テーブルクロス、カーペットなどの様々な分野に有用である。特に、本発明のカチオン染料可染性セルロース繊維を含む布帛、上記衣類の材料として好適である。