IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鹿島建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-補強構造 図1
  • 特開-補強構造 図2
  • 特開-補強構造 図3
  • 特開-補強構造 図4
  • 特開-補強構造 図5
  • 特開-補強構造 図6
  • 特開-補強構造 図7
  • 特開-補強構造 図8
  • 特開-補強構造 図9
  • 特開-補強構造 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044692
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150385
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 新一
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA04
2E176AA07
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】既存設備や配管等との干渉を回避しながら、合理的な耐震補強を行うことのできる補強構造等を提供する。
【解決手段】補強構造1は、既存柱2と既存梁3、4による既存のフレームの補強を行うものである。補強構造1は、水平部分Hと鉛直部分Vを有し、鉛直部分Vの上端部が、水平部分Hの中央部に剛接合され、鉛直部分Vの下端部が、既存梁4にピン接合され、水平部分Hの両端部が、既存柱2にピン接合される。鉛直部分VはH形鋼により形成され、水平部分Hから所定長さの領域において、H形鋼のフランジが、H形鋼の断面係数が水平部分Hから離れるにつれ漸減するようにテーパ状に切り欠かれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存のフレームの補強構造であって、
水平部分と鉛直部分を有し、水平部分と鉛直部分のうち一方の部分の一方の端部が、水平部分と鉛直部分のうち他方の部分の両端部を除く部分に剛接合され、
前記一方の部分の他方の端部が、既存のフレームに接合され、
前記他方の部分の両端部が、既存のフレームに接合されたことを特徴とする補強構造。
【請求項2】
前記一方の部分はH形鋼により形成され、前記他方の部分から所定長さの領域において、前記一方の部分のフランジが、前記一方の部分の断面係数が前記他方の部分から離れるにつれ漸減するようにテーパ状に切り欠かれることを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項3】
前記一方の部分の他方の端部が、既存のフレームにピン接合され、
前記他方の部分の両端部が、既存のフレームにピン接合されたことを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項4】
前記一方の部分が鉛直部分であり、前記補強構造はT字状であることを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【請求項5】
前記一方の部分が水平部分であり、前記補強構造はト字状であることを特徴とする請求項1記載の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨柱と鉄骨梁で構成された既存の鉄骨構造に対する補強構造としては、X形あるいはK形のブレース、方杖等を、地震水平力に抵抗する耐震要素として鉄骨柱と鉄骨梁による既存のフレーム内に設けることが知られている。
【0003】
また特許文献1には、既存のフレーム内に門形の補強ラーメンフレームを設けることが記載されている。特許文献1では、補強ラーメンフレームの鉛直部分を、既存のフレームの左右の柱に沿って取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-32040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生産プラントや製造工場等の耐震補強工事では、既存設備や配管との干渉により、前述の各種補強構造を適切な位置に設けることが困難な場合がある。
【0006】
例えば柱と梁の接合部や柱脚部付近に操作機器や電源・配管が設置されている場合には、X形やK形ブレース、門形の補強ラーメンフレームを設置することが困難になる。また複数の大口径の配管が柱と梁の接合部付近にある場合、方杖による補強を行うことが不可能になる。
【0007】
このように、柱と梁で構成された既存のフレーム内に、既存設備や配管との干渉を回避しながら、いかにして合理的な耐震補強を行うかが、生産プラントや製造工場等の耐震補強工事において解決すべき課題となっていた。
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、既存設備や配管等との干渉を回避しながら、合理的な耐震補強を行うことのできる補強構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するための本発明は、既存のフレームの補強構造であって、水平部分と鉛直部分を有し、水平部分と鉛直部分のうち一方の部分の一方の端部が、水平部分と鉛直部分のうち他方の部分の両端部を除く部分に剛接合され、前記一方の部分の他方の端部が、既存のフレームに接合され、前記他方の部分の両端部が、既存のフレームに接合されたことを特徴とする補強構造である。
【0010】
本発明では、補強構造をT字状やト字状等の架構とし、補強構造の水平部分や鉛直部分の端部と既存のフレームとを小範囲で接合する。またブレースや方杖等の斜材が特に必要で無くなるので、柱と梁の接合部や柱脚部付近に操作機器や電源・配管が設置されている場合や、複数の大口径の配管が柱と梁の接合部付近にある場合にも、これら既存設備や配管等との干渉を回避しながら、合理的な補強を行うことができる。
【0011】
前記一方の部分はH形鋼により形成され、前記他方の部分から所定長さの領域において、前記一方の部分のフランジが、前記一方の部分の断面係数が前記他方の部分から離れるにつれ漸減するようにテーパ状に切り欠かれることが望ましい。
これにより、地震時等に上記一方の部材のフランジを所定長の領域内の全長に亘って一様に降伏させることで局所的に塑性歪が増大して破断することを防止し、地震時等の繰り返し加力における累積吸収エネルギーの効率的な増大が期待できる。これにより、補強構造を、エネルギー吸収性能を高めた高靭性な機構とすることができる。H形鋼としては、例えば、ロール成形されたH形鋼や組立て成形されたBH形鋼を用いることができる。
【0012】
また本発明では、前記一方の部分の他方の端部が、既存のフレームにピン接合され、前記他方の部分の両端部が、既存のフレームにピン接合される。
これにより、補強構造と既存のフレームとの接合を簡易なものとでき、施工が容易になる。
【0013】
前記一方の部分は、例えば鉛直部分であり、補強構造はT字状である。
この場合、鉛直部分と水平部分の剛接合部が1箇所のみとなり、より少ない部材数で簡易な構成の補強構造を形成できる。
【0014】
また、前記一方の部分が水平部分であり、補強構造がト字状であってもよい。
この場合も、鉛直部分と水平部分の剛接合部が1箇所のみとなり、より少ない部材数で簡易な構成の補強構造を形成できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、既存設備や配管等との干渉を回避しながら、合理的な耐震補強を行うことのできる補強構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】補強構造1を示す図。
図2】補強構造1の左半部を示す図。
図3】切欠き113について説明する図。
図4】補強構造1の構築方法について説明する図。
図5】既存柱2aをRC造とする例および複数の鉛直部分Vを設ける例。
図6】補強構造1aを示す図。
図7】切欠き123について説明する図。
図8】補強構造1aの構築方法について説明する図。
図9】補強構造1aの構築方法について説明する図。
図10】既存柱2と既存梁3を鉄骨造とする例。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
(1.補強構造1)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る補強構造1を示す図である。補強構造1は、左右の既存柱2と上下の既存梁3、4により構成された既存のフレーム内に設けられる。なお図1では、既存のフレームに対応する部分(既存柱2および既存梁3、4)を、補強構造1と区別するためグレーで図示している。これは、以降の図においても同様である。
【0019】
既存柱2は、RC造(鉄筋コンクリート造)による下側の既存梁4の上に立設される。本実施形態では既存柱2と既存梁3を鉄骨造とし、H形鋼が用いられるが、これに限ることはない。一方、既存梁4は鉄骨造であってもよく、また既存梁4の代わりに床が設けられていてもよい。なお下側の既存梁4から上側の既存梁3までの高さと既存柱2間のスパンの比は1:2程度であるが、これに限ることもない。
【0020】
補強構造1は、補強柱11と補強梁12から構成されるT字状の架構である。補強柱11と補強梁12はH形鋼を用いて形成される。H形鋼としては、例えば、ロール成形されたH形鋼や組立て成形されたBH形鋼を用いることができる。
【0021】
図2は補強構造1の左半部を示す図である。本実施形態の補強柱11は、柱本体111の上に柱頭部112を設けたものである。
【0022】
柱本体111は、H形鋼を鉛直方向に配置したものであり、T字の鉛直部分V(一方の部分;図1参照)を構成する。柱頭部112はH形鋼を水平方向に配置したものである。
【0023】
柱本体111の上端部と柱頭部112は予め溶接等により剛接合され、これらの部材が、曲げ応力等を伝達可能に一体化される。また柱本体111と柱頭部112の剛接合部の近傍では、柱本体111のフランジに後述する切欠きが設けられる。
【0024】
柱本体111の下端部は、既存梁4とピン接合される。すなわち、既存梁4には、H形鋼による接合部材13が予め固定され、柱本体111のウェブと接合部材13のウェブとに跨るように、添接板Pがこれらのウェブの表裏に配置される。表裏の添接板Pを、柱本体111と接合部材13のウェブを挟んでボルト等の締結具Fにより締結することで、柱本体111の下端部と既存梁4の接合部材13とがピン接合される。これらの部材の間では、曲げ応力は伝達されない。
【0025】
一方、補強梁12の既存柱2側の端部は、既存柱2とピン接合される。すなわち、既存柱2には、H形鋼による接合部材16が予め固定され、前記と同様、補強梁12のウェブと接合部材16のウェブとに跨るように、添接板Pがこれらのウェブの表裏に配置される。表裏の添接板Pを、補強梁12と接合部材16のウェブを挟んでボルト等の締結具Fにより締結することで、補強梁12の既存柱2側の端部と既存柱2の接合部材16とがピン接合される。
【0026】
なお、前記の接合部材13はベースプレート14に溶接等で固定され、このベースプレート14が、アンカーボルト15によって既存梁4の上面に固定される。一方、接合部材16もベースプレート17に溶接等で固定され、そのベースプレート17が、既存柱2の側面に溶接あるいはボルト等の固定手段で固定される。工場等で機器を稼働させながら補強工事を行う場合は、火災発生リスク防止の観点から、溶接でなくボルト等で接合することが望ましい。
【0027】
補強梁12の既存柱2と反対側の端部は、補強柱11の柱頭部112と剛接合される。すなわち、補強梁12のウェブと柱頭部112のウェブとが、前記と同様に添接板Pと締結具Fを用いて締結されるとともに、補強梁12の上下のフランジと柱頭部112の上下のフランジも、同じく添接板Pと締結具Fを用いて締結される。これにより、補強梁12と柱頭部112とが剛接合され、これらの部材の間で曲げ応力等が伝達可能となる。
【0028】
フランジ同士の締結も、ウェブ同士の締結と同様に行われる。すなわち、補強梁12のフランジと柱頭部112のフランジとに跨るように、添接板Pがこれらのフランジの表裏に配置され、表裏の添接板Pが、補強梁12と柱頭部112のフランジを挟んでボルト等の締結具Fにより締結される。
【0029】
図2は補強柱11の左側の補強梁12について示したものであるが、右側の補強梁12についても、上記と同様に、既存柱2とのピン接合および柱頭部112との剛接合が行われる。
【0030】
補強柱11の両側の補強梁12と補強柱11の柱頭部112は、T字状の補強構造1の水平部分H(他方の部分;図1参照)を構成する。水平部分Hの両端部すなわち各補強梁12の既存柱2側の端部は、前記したように左右の既存柱2とピン接合される。
【0031】
補強柱11の柱本体111による鉛直部分Vは、水平部分Hの両端部には無く、水平部分Hの水平方向の中央部に位置する。これは、柱本体111の位置が中央部からずれると柱本体111の左右の梁端部における曲げ応力に差が生じることから、左右の補強梁12の梁せいを変えることが必要になり、鉄骨製作加工に余計な手間がかかるなど不経済となるためである。そのため、なるべく補強柱11はスパン中央部に配置することが望ましい。水平部分Hの水平方向の中点と柱本体111の間のずれは、水平部分Hの長さをLとしたときに、L/2の10%以内に収まるようにする。
【0032】
(2.切欠き113)
図3(a)は、補強柱11の柱本体111のフランジ面を示す図である。図3(a)に示すように、本実施形態では、柱本体111と柱頭部112の剛接合部近傍の、柱頭部112から所定長さの領域Dにおいて、柱本体111のフランジの両側部に切欠き113が設けられ、フランジの幅が、柱頭部112から離れるにつれテーパ状に小さくなる。結果、柱本体111(鉛直部分V)の断面係数が、柱頭部112(水平部分H)から離れるにつれ漸減する。
【0033】
これにより、本実施形態では、地震時等で柱本体111が局所的に降伏・塑性変形するのを防止し、柱本体111の降伏・塑性変形箇所を、長さを持った領域Dとすることで、エネルギー吸収性能を高め、高靭性な架構とすることができる。
【0034】
すなわち、図3(b)に示すように、柱本体111を、柱頭部112から延びる片持ち材と捉え、当該片持ち材の先端(柱本体111の下端)に、漸増するせん断力Wが作用した場合の曲げモーメントMを考える。この場合、曲げモーメントMによる応力の最大値は柱本体111(片持ち材)の固定端に生じ、せん断力Wの漸増により柱本体111の固定端の曲げモーメントMによる応力も矢印aに示すように漸増する。
【0035】
当該曲げモーメントMによる応力がフランジ縁端で降伏応力(降伏曲げモーメントMy)に到達した後、さらにせん断力Wを増加させると、この時の曲げモーメントによってフランジだけでなくウェブも降伏応力に達し、全断面が降伏する全塑性モーメントMpの状態となる。この状態が最大応力となり、これ以上は一定の荷重が作用したまま変形だけが増加するような塑性変形の状態が進んでいく。
【0036】
仮に柱本体111のフランジが等幅であると、上記の曲げモーメントにより柱本体111の固定端のみで全塑性モーメントMpとなり、塑性変形が増大していく時に、固定端から微小な長さの領域のみで塑性歪の進展が見られ、歪みの増大により早期に破断しエネルギー吸収効果を大きく期待できない。
【0037】
一方、本実施形態では、図3(a)に示すように、柱本体111の固定端近傍の所定長の領域Dにおいて、降伏・塑性歪が領域内で一定になるように次の考え方で切欠き113の具体的形状を決定する。
【0038】
すなわち、せん断力Wの作用点からの高さ(長さ)yと、当該高さyでの柱本体111の塑性断面係数Zp(y)との比Zp(y)/yが、固定端の作用点からの高さ(長さ)Loと固定端での柱本体111の塑性断面係数Zp(Lo)との比Zp(Lo)/Loに等しくなるという条件で下記の式(1)を解く。
Zp(y)/y=Zp(Lo)/Lo…(1)
図3(c)は、柱本体111の固定端近傍におけるフランジ面を拡大して示す図である。また図3(d)は柱本体111の断面図であり、図3(c)の線A-Aによる断面を示したものである。式(1)の塑性断面係数Zpは、Hoを柱本体111(H形鋼)のせい、Boを固定端での柱本体111のフランジ幅すなわちH形鋼の切欠き加工前のフランジ幅、B(y)をせん断力Wの作用点からの高さyでの柱本体111のフランジ幅(図3(a)参照)、tfを柱本体111のフランジ厚さ、twを柱本体111のウェブ厚さとして、下式(2)、(3)により求められる。
Zp(y)=B(y)・tw・(Ho-tf)+1/4・tw・(Ho-2・tf)^2…(2)
Zp(Lo)=Bo・tw・(Ho-tf)+1/4・tw・(Ho-2・tf)^2…(3)
【0039】
式(1)~(3)より、高さyにおける柱本体111のフランジ幅B(y)について、下記の式(4)が得られ、式(4)より、せん断力Wの作用点からフランジ幅B(y)が0となるフランジ消失点pまでの高さ(長さ)yo(図3(a)参照)が、式(5)で求められる。切欠き113のテーパ形状は、フランジの幅方向の中心のフランジ消失点pと、固定端におけるフランジの幅方向の端部とを結んだ傾斜線d、d図3(a)参照)に沿って定められる。
B(y)=[{Bo・tf・(Ho-tf)+(1/4)・tw・(Ho-2・tf)^2}/{Lo・tf・(Ho-tf)}]・y-{(1/4)・tw・(Ho-2・tf)^2}/{tw・(Ho-tf)}…(4)
yo=Lo・{(1/4)・tw・(Ho-2・tf)^2}/{Bo・tf・(Ho-tf)+(1/4)・tw・(Ho-2・tf)^2}…(5)
【0040】
これにより、領域D内の全長において同時に同じ塑性歪を発生させることができ、局所的に塑性化する前記のケースよりも、吸収できるエネルギーが大きくなり、靭性の高い架構とすることができる。また本実施形態では、塑性歪が生じる領域Dが拡大しているため、単位長さあたりの塑性歪の量は低く抑えられ、持続的なエネルギー吸収が可能になり、累積塑性エネルギーの増大が可能となる。
【0041】
なお、図3(a)に示すように、切欠き113の成す傾斜線d1、d2は、柱本体111の下端でなく、柱本体111の下端より上方のフランジ消失点pで交差する。これは、断面係数の漸減状態をフランジの切欠き113のみにより実現しており、ウェブには手を加えていないことによる。
【0042】
領域Dの鉛直方向の長さは、理論的には柱本体111の固定端から上記のフランジ消失点pまでの距離としうるが、フランジ消失点pではフランジ幅が0になり横座屈耐力が著しく低下するため、現実にはここまで加工することはできない。本実施形態では、その長さLpを、柱本体111(鉛直部分V)の長さLoと係数αを用いてLp=α・Loにより定める。係数αは0.05以上0.5以下の範囲とする。これは、αが大きくなればなるほど領域Dの塑性歪が小さくなるので、地震時の累積塑性エネルギーを増大させることができる一方、αが0.5を超えて1.0に近づくほど、補強柱11の柱本体111のフランジ幅が小さくなり、横座屈耐力が減少して全塑性モーメントの効果を発揮できないためである。領域Dの長さLpを上記のようにα・Loと定めることで、靭性向上効果が最大化できる。係数αの値は0.05以上0.5以下に限らず、耐震補強設計で要求されるエネルギー吸収量に応じて決定される。
【0043】
既存柱2と既存梁3による既存のフレーム内に補強構造1を構築する際は、まず、図4(a)に示すように、接合部材13を既存梁4に固定するとともに、接合部材16を両側の既存柱2のそれぞれに固定する。次に、図4(b)に示すように、接合部材13と補強柱11を前記したように添接板Pと締結具Fを用いてピン接合し、補強柱11の建て方を行う。
【0044】
その後、図2に示すように、補強柱11の柱頭部112の両側に、補強梁12を前記したように添接板Pと締結具Fを用いて剛接合するとともに、補強梁12の既存柱2側の端部を接合部材16に添接板Pと締結具Fを用いてピン接合する。
【0045】
以上の各締結具Fはそれぞれ仮締めが行われた状態であるが、最後に本締めを行い、錆止め塗装等の必要な処理を行うことで、補強構造1が構築される。
【0046】
なお、補強柱11と補強梁12を予め一体化した架構を既存柱2と既存梁3による既存のフレーム内に搬入して施工することも考えられるが、搬入・移動・揚重・建方等の作業性を考慮すると、上記したように補強柱11と補強梁12を個々に搬入、設置することが合理的である。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の補強構造1はT字状の架構であり、水平部分Hや鉛直部分Vの端部と既存のフレームとが小範囲で接合され、スチフナーやダイヤフラム等、パネルゾーンの補強も必要なく、従来技術の補強構造のようなブレースや方杖等の斜材も特に必要でない。そのため、既存柱2と既存梁3の接合部や柱脚部付近に操作機器や電源・配管が設置されている場合や、複数の大口径の配管が既存柱2と既存梁3の接合部付近にある場合にも、これら既存設備や配管との干渉を回避しながら、合理的な補強を行うことができる。そのため、既存柱2付近に設備や配管が設置されることが多い工場、プラント施設においても問題無く施工でき、生産ラインにおける人の動線確保も容易になり、工場、プラント施設等の耐震補強設計や補強工事が容易となる。
【0048】
また本実施形態では、柱本体111と柱頭部112との剛接合部近傍の領域Dにおいて、柱本体111の断面係数を、柱頭部112から離れるにつれ漸減させることで、地震時等に柱本体111のフランジを所定長の領域D内の全長に亘って一様に降伏させることで局所的に塑性歪が増大して破断することを防止し、単位長あたりの歪の量を小さくすることで、地震時等の繰り返し加力における累積吸収エネルギーの効率的な増大が期待でき、降伏後の塑性化領域の拡大を円滑に進めることができる。これにより、補強構造1を、エネルギー吸収性能を高めた高靭性な機構とすることができる。
【0049】
また本実施形態では、補強梁12と既存柱2がピン接合され、補強柱11の柱本体111が既存梁4にピン接合されるので、補強構造1と既存のフレームとの接合を簡易なものとでき、施工が容易になる。また本実施形態の補強構造1はT字状の架構を有するので、鉛直部分Vと水平部分Hの剛接合部が1箇所のみとなり、より少ない部材数で簡易な構成でありながら、高靭性の補強構造1を形成できる。また既存設備等との干渉可能性の大きい鉛直部分Vを1本のみとすることで、設置の自由度が高まるという効果もある。
【0050】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば既存柱2は鉄骨造に限らず、RC造としてもよい。この場合、図5(a)に示すように、既存柱2aには前記した接合部材13をアンカーボルト15等で固定し、この接合部材13と補強梁12をピン接合する。
【0051】
また図5(b)に示すように、水平部分Hに対し複数(図5(b)の例では2つ)の鉛直部分Vを剛接合した構成としてもよい。その他、T字状の補強構造の水平部分H同士をピン接合あるいは剛接合し、補強構造を水平方向に複数並べた構成としてもよい。これにより、補強せん断力を2倍、3倍、…と増加させることが出来る。
【0052】
また補強構造1を、上下反転したT字状の架構とし、柱本体111の上端部を、既存梁3に予め固定した接合部材16にピン接合する構成とすることも可能である。
【0053】
[第2の実施形態]
図6は、本発明の第2の実施形態に係る補強構造1aを示す図である。補強構造1aは、補強柱11aと補強梁12aによるト字状の架構である点で、第1の実施形態の補強構造1と異なる。なお、補強柱11aは既存柱2a間のスパンの中央部に設けられるが、これに限ることはない。
【0054】
補強柱11aと補強梁12aはH形鋼を用いて形成される。H形鋼としては、例えば、ロール成形されたH形鋼や組立て成形されたBH形鋼を用いることができる。
【0055】
補強梁12aは、梁本体121と梁端部122を有する。梁本体121は、H形鋼を水平方向に配置したものであり、ト字の水平部分H(一方の部分)を構成する。梁端部122はH形鋼を鉛直方向に配置したものであり、梁本体121の既存柱2aと反対側の端部に設けられる。梁本体121と梁端部122とは予め溶接等により剛接合され、これらの部材が、曲げ応力等を伝達可能に一体化される。また梁本体121と梁端部122の剛接合部の近傍では、梁本体121のフランジに後述する切欠きが設けられる。
【0056】
また本実施形態では既存柱2aがRC造であり、梁本体121の既存柱2a側の端部は、図5(a)の例と同様、既存柱2aに予め固定した接合部材13とピン接合される。
【0057】
補強柱11aは、H形鋼を鉛直方向に配置したものである。補強柱11aは補強梁12aの梁端部122の上下に設置され、梁端部122の上下に剛接合される。すなわち、上下の補強柱11aと梁端部122のフランジ同士、ウェブ同士がそれぞれ第1の実施形態と同様に添接板Pと締結具Fを用いて締結される。
【0058】
補強梁12aの梁端部122およびその上下の補強柱11aは、補強構造1aの鉛直部分V(他方の部分)を構成し、下側の補強柱11aの下端部は、第1の実施形態と同様、既存梁4に固定した接合部材13とピン接合される。また本実施形態では、上側の既存梁3aがRC造のものであり、既存梁4と同様に接合部材13が予め固定されている。上側の補強柱11aの上端部は、この接合部材13に、添接板Pと締結具Fを用いて上記と同様にピン接合される。補強梁12aの高さは、鉛直部分Vの鉛直方向の中央部としているが、鉛直方向の両端部以外であれば特に限定されない。
【0059】
図7は、補強梁12aの梁本体121のフランジ面を上から見た図である。本実施形態では、補強梁12aの梁本体121を梁端部122に対する片持ち材と捉え、その梁端部122側の固定端近傍の領域Dにおいて、梁本体121のフランジに前記と同様の切欠き123が設けられる。梁本体121の切欠き123は、梁端部122から離れるにつれフランジの幅が狭くなるようにテーパ状に形成される。結果、梁本体121(水平部分H)の断面係数が、梁端部122(鉛直部分V)から離れるにつれ漸減する。切欠き123のテーパ形状は、第1の実施形態と同様に定めることができる。
【0060】
領域Dの水平方向の長さLpは、梁本体121(水平部分H)の長さをLoとし、第1の実施形態と同様、係数αを用いてLp=α・Loと定める。これにより、本実施形態でも、梁本体121の既存柱2a側の端部のせん断力Wによる曲げモーメントMの勾配に合わせた断面係数の変化を実現し、領域D内の全長を同時に塑性化させることで、高靭性な架構を実現できる。
【0061】
既存柱2aと既存梁3aによる既存のフレーム内に補強構造1aを設置する際は、まず図8(a)に示すように、接合部材13を既存柱2aおよび既存梁3a、4に固定する。次に、図8(b)に示すように、下段の補強柱11aの下端部と既存梁4の接合部材13とを前記したように添接板Pと締結具Fを用いてピン接合し、下段の補強柱11aの建て方を行う。
【0062】
その後、図9に示すように、下段の補強柱11aの上端部と、補強梁12aの梁端部122とを前記したように添接板Pと締結具Fを用いて剛接合するとともに、補強梁12aの梁本体121の既存柱2a側の端部を、既存柱2aの接合部材13に添接板Pと締結具Fを用いてピン接合する。この後、図6に示すように上段の補強柱11aの上端部と既存梁3aの接合部材13とを添接板Pと締結具Fを用いてピン接合するとともに、上段の補強柱11aの下端部と補強梁12aの梁端部122とを添接板Pと締結具Fを用いて剛接合することで、上段の補強柱11aの建て方を行う。
【0063】
第1の実施形態と同様、以上の各締結具Fはそれぞれ仮締めが行われた状態であるが、最後に本締めを行い、錆止め塗装等の必要な処理を行うことで、補強構造1aが構築される。
【0064】
これにより、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また補強構造1aはト字状であり、鉛直部分Vと水平部分Hの剛接合部が1箇所のみとなることから、より少ない部材数で簡易な構成の補強構造1aを形成できる。
【0065】
なお、本実施形態では既存柱2aと既存梁3aがRC造であるが、図10の補強構造1a’に示すように既存柱2と既存梁3を鉄骨造としてもよく、この場合は、上段の補強柱11aの上端部および補強梁12aの梁本体121の既存柱2側の端部を、それぞれ既存梁3、既存柱2に予め固定した接合部材16に添接板Pと締結具Fを用いて第1の実施形態と同様にピン接合すればよい。
【0066】
また、既存柱2aと既存梁3aによる既存のフレーム内に、2つの補強構造1aを背中合わせに設置してもよい。この場合、各補強構造1aの補強梁12aの梁本体121を、両側の既存柱2aのそれぞれにピン接合する。これにより、補強せん断力を2倍とすることができる。
【0067】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0068】
1、1a、1a’:補強構造
2、2a:既存柱
3、3a、4:既存梁
11、11a:補強柱
12、12a:補強梁
13、16:接合部材
111:柱本体
112:柱頭部
113:切欠き
121:梁本体
122:梁端部
H:水平部分
V:鉛直部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10