(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044694
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】荷重伝達構造および荷重伝達構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/26 20060101AFI20240326BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
E04B1/26 F
E04B1/26 G
E04B1/58 508L
E04B1/58 507L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150387
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】久田 昌典
(72)【発明者】
【氏名】高谷 真次
(72)【発明者】
【氏名】久保田 淳
(72)【発明者】
【氏名】日向 大樹
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB12
2E125AC07
2E125AC23
2E125AC24
2E125AG03
2E125AG04
2E125AG12
2E125AG13
2E125AG31
2E125BB08
2E125BE07
2E125BF01
2E125CA81
(57)【要約】
【課題】木質材のめり込みを防止できる荷重伝達構造等を提供する。
【解決手段】荷重伝達構造は、木梁1と木壁2の間で荷重を伝達させるものである。木梁1と木壁2は、繊維方向が互いに直交し、木壁2の繊維方向の隣に木梁1が位置するように配置される。荷重伝達構造では、木梁1と木壁2の間に鋼板3が配置され、木梁1には、木梁1の繊維直交方向に延びる孔11が形成される。当該孔11内に、鋼板3に接するめり込み防止鉄筋4が配置され、接着材12が充填される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の木質材と第2の木質材の荷重伝達構造であって、
繊維方向が互いに直交する第1の木質材と第2の木質材が、前記第2の木質材の繊維方向の隣に前記第1の木質材が位置するように配置され、
前記第1の木質材と前記第2の木質材との間に、めり込み防止板材が配置され、
前記第1の木質材には、前記第1の木質材の繊維直交方向の孔が形成され、当該孔内に、前記めり込み防止板材に接するめり込み防止鉄筋が配置されて接着材が充填されたことを特徴とする荷重伝達構造。
【請求項2】
補強鉄筋が、前記第1の木質材と前記第2の木質材とに跨るように配置され、
前記補強鉄筋は、前記第1の木質材、前記第2の木質材、および前記めり込み防止板材の孔内に配置され、当該孔内に接着材が充填されたことを特徴とする請求項1記載の荷重伝達構造。
【請求項3】
前記第1の木質材は木梁であり、前記第2の木質材は、前記木梁の上または下に配置され、
前記めり込み防止板材は、前記第2の木質材に、前記第1、第2の木質材を含む面内の曲げモーメントが加わるとした場合の、圧縮縁から中立軸までの範囲内に設置されることを特徴とする請求項1記載の荷重伝達構造。
【請求項4】
前記めりこみ防止板材の平面の中心よりも前記圧縮縁側に位置するめり込み防止鉄筋の本数が、当該中心よりも前記中立軸側に位置するめり込み防止鉄筋の本数と同じかまたは当該本数よりも多いことを特徴とする請求項3記載の荷重伝達構造。
【請求項5】
請求項1記載の荷重伝達構造の構築方法であって、
前記第1の木質材、および前記第2の木質材の設置を行う工程を有し、
前記第1の木質材を、前記めり込み防止板材および前記めり込み防止鉄筋を取り付けた状態で移動させ設置することを特徴とする構築方法。
【請求項6】
請求項2記載の荷重伝達構造の構築方法であって、
前記第1の木質材は木梁であり、
前記第2の木質材は、板面に溝を有する2枚の木質板の前記板面同士を重ね合わせた木壁であり、前記木梁の上または下に配置され、
前記木梁および前記木壁の設置を行う工程を有し、
前記木梁を、前記めり込み防止板材および前記めり込み防止鉄筋を取り付けた状態で移動させ設置した後、前記補強鉄筋が前記めり込み防止板材から突出した状態から、2枚の前記木質板の前記板面同士を前記溝によって前記補強鉄筋の突出部分を挟むように重ね合わせ、2枚の前記木質板の前記溝により形成される前記孔内に前記接着材を充填することで、前記木壁の設置が行われることを特徴とする構築方法。
【請求項7】
請求項2記載の荷重伝達構造の構築方法であって、
前記第1の木質材は木柱であり、
前記第2の木質材は木梁であり、前記木柱の側方に配置され、
前記木柱および前記木梁の設置を行う工程を有し、
前記木柱を、前記めり込み防止板材および前記めり込み防止鉄筋を取り付けた状態で移動させ設置した後、前記補強鉄筋が前記めり込み防止板材から突出した状態から、前記木梁の材軸方向の前記孔内に前記補強鉄筋の突出部分を挿入するように前記木梁を横移動させ、前記孔内に前記接着材を充填することで、前記木梁の設置が行われることを特徴とする構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷重伝達構造およびその構築方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、繊維方向と繊維直交方向とで強度や剛性が大きく異なる異方性材料であり、繊維方向の強度や剛性は、繊維直交方向のそれと比べてかなり大きい。そのため、柱や梁に用いる集成材などの木質材では、繊維方向を材軸方向とした使用が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、木質材同士の接合箇所において、繊維方向が互いに直交する木質材同士が当接し、一方の木質材の繊維方向の隣に他方の木質材が位置するような関係となると、一方の木質材に曲げモーメントが作用した際に、一方の木質材が、他方の木質材に対し、一方の木質材の繊維方向すなわち他方の木質材の繊維直交方向にめり込みやすく、当該一方の木質材の強度、剛性を十分に発揮できないという課題がある。
【0005】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、木質材のめり込みを防止できる荷重伝達構造等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するための第1の発明は、第1の木質材と第2の木質材の荷重伝達構造であって、繊維方向が互いに直交する第1の木質材と第2の木質材が、前記第2の木質材の繊維方向の隣に前記第1の木質材が位置するように配置され、前記第1の木質材と前記第2の木質材との間に、めり込み防止板材が配置され、前記第1の木質材には、前記第1の木質材の繊維直交方向の孔が形成され、当該孔内に、前記めり込み防止板材に接するめり込み防止鉄筋が配置されて接着材が充填されたことを特徴とする荷重伝達構造である。
【0007】
本発明の荷重伝達構造によれば、第2の木質材からの圧縮荷重が、めり込み防止板材を介してめり込み防止鉄筋に伝達され、めり込み防止鉄筋から接着材を介して第1の木質材の内部に付着力として伝達される。第1、第2の木質材を単に当接させる構造では、第2の木質材からの圧縮荷重が、第1の木質材において、第2の木質材との境界部付近の狭い範囲で支持されるので、当該範囲に圧縮が生じて第2の木質材がめり込みやすいが、本発明では、上記の付着力が、めり込み防止鉄筋や第1の木質材の孔の長さに対応する第1の木質材の深い位置まで分布することから、第2の木質材からの圧縮荷重を、第1の木質材の広い範囲で分散して支持させることができる。結果、第1の木質材の圧縮を抑制して第2の木質材のめり込みを防止でき、第2の木質材の曲げ耐力や剛性を確保できる。
【0008】
補強鉄筋が、前記第1の木質材と前記第2の木質材とに跨るように配置され、前記補強鉄筋は、前記第1の木質材、前記第2の木質材、および前記めり込み防止板材の孔内に配置され、当該孔内に接着材が充填されることが望ましい。
上記の補強鉄筋により、第1、第2の木質材の接合箇所を補強して第2の木質材の曲げ耐力を確保することができる。
【0009】
前記第1の木質材は木梁であり、前記第2の木質材は、前記木梁の上または下に配置され、前記めり込み防止板材は、前記第2の木質材に、前記第1、第2の木質材を含む面内の曲げモーメントが加わるとした場合の、圧縮縁から中立軸までの範囲内に設置されることも望ましい。また、前記めりこみ防止板材の平面の中心よりも前記圧縮縁側に位置するめり込み防止鉄筋の本数が、当該中心よりも前記中立軸側に位置するめり込み防止鉄筋の本数と同じかまたは当該本数よりも多いことも望ましい。
これにより、めり込み防止板材やめり込み防止鉄筋の配置を最適化でき、第2の木質材からの圧縮荷重を第1の木質材に効率良く伝達することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明の荷重伝達構造の構築方法であって、前記第1の木質材、および前記第2の木質材の設置を行う工程を有し、前記第1の木質材を、前記めり込み防止板材および前記めり込み防止鉄筋を取り付けた状態で移動させ設置することを特徴とする構築方法である。
本発明では、工場等でめり込み防止板材やめり込み防止鉄筋を予め取り付けた木質材を施工箇所まで移動させて設置することで、現場における施工を簡略化できる。
【0011】
第3の発明は、第1の発明の荷重伝達構造の構築方法であって、前記第1の木質材は木梁であり、前記第2の木質材は、板面に溝を有する2枚の木質板の前記板面同士を重ね合わせた木壁であり、前記木梁の上または下に配置され、前記木梁および前記木壁の設置を行う工程を有し、前記木梁を、前記めり込み防止板材および前記めり込み防止鉄筋を取り付けた状態で移動させ設置した後、前記補強鉄筋が前記めり込み防止板材から突出した状態から、2枚の前記木質板の前記板面同士を前記溝によって前記補強鉄筋の突出部分を挟むように重ね合わせ、2枚の前記木質板の前記溝により形成される前記孔内に前記接着材を充填することで、前記木壁の設置が行われることを特徴とする構築方法である。
この場合、木質板を前後から重ね合わせることで、第2の木質材である木壁を容易に設置することができ、木壁等の設置工事の自由度も大きくなる。
【0012】
第4の発明は、第1の発明の荷重伝達構造の構築方法であって、前記第1の木質材は木柱であり、前記第2の木質材は木梁であり、前記木柱の側方に配置され、前記木柱および前記木梁の設置を行う工程を有し、前記木柱を、前記めり込み防止板材および前記めり込み防止鉄筋を取り付けた状態で移動させ設置した後、前記補強鉄筋が前記めり込み防止板材から突出した状態から、前記木梁の材軸方向の前記孔内に前記補強鉄筋の突出部分を挿入するように前記木梁を横移動させ、前記孔内に前記接着材を充填することで、前記木梁の設置が行われることを特徴とする構築方法である。
本発明は木柱とその側方の木梁との接合箇所に適用することもでき、この場合、木柱から突出する補強鉄筋を木梁の孔に挿入するために、木梁を横移動させて設置すればよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、木質材のめり込みを防止できる荷重伝達構造等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図5】荷重伝達構造10の構築方法について説明する図。
【
図6】木梁1の圧縮力が伝達される範囲Cを示す図。
【
図13】荷重伝達構造10の構築方法について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
(1.荷重伝達構造10)
図1、2は、本発明の実施形態に係る荷重伝達構造10を適用した木梁1と木壁2の接合箇所を示す図である。
図1は木梁1と木壁2の接合箇所の斜視図であり、
図2(a)は接合箇所の立面図である。
図2(b)は、
図2(a)の線A-Aによる水平断面を示す図である。
【0017】
木梁1は貫通梁であり、材軸方向(
図1、
図2(a)(b)の左右方向に対応する)を繊維方向とした木質材(第1の木質材)である。木梁1には、曲げモーメントにより大きな軸力(圧縮力、引張力)が生じるので、材軸方向のみに強い集成材を用いることで非常に効率よく力を負担でき、コスト面でも優れる。ただし、その他の木質材、例えば製材、BP材、CLT(Cross Laminated Timber)等を用いてもよい。
【0018】
木壁2は、木梁1と上下に並べて配置され、木梁1と接合される。上下方向は、木梁1の繊維直交方向に対応する。木壁2は、水平方向の地震力と鉛直方向の軸力の両荷重を負担するため、異方性の少ないCLTが適しているが、LVL(Laminated Veneer Lumber)、BP材等を用いてもよい。
【0019】
木壁2の繊維方向は、木梁1の繊維方向と直交し、木梁1は、木壁2(第2の木質材)の繊維方向の隣(木壁2の上または下)に位置する関係となる。なお、CLTは、複数層のラミナ(ひき板)を積層したものであり、ラミナの繊維方向は隣接する層の間で直交する。例えば5層のラミナを積層したCLTにおいて、1層目のラミナの繊維方向を鉛直方向とすると、2、4層目のラミナの繊維方向は水平方向であり、3、5層目のラミナの繊維方向は鉛直方向となる。CLT全体の繊維方向、すなわち木壁2にCLTを用いたときの木壁2の繊維方向は、複数層のラミナの繊維方向のうち、多い方の繊維方向を指すものとする。例えば上記の例では鉛直方向となる。これは、最外層(上記の例では1層目と5層目)のラミナの繊維方向でもある。
【0020】
木梁1の上面と上段の木壁2との間、木梁1の下面と下段の木壁2との間には、めり込み防止板材として鋼板3が配置される。鋼板3は、木壁2の幅方向の両端部に対応する位置に2枚設置されることが望ましく、2枚の鋼板3の間にはモルタル等の充填材6が充填される。木壁2の幅方向は、木梁1の材軸方向(繊維方向)に対応する。鋼板3と木梁1とは、図示しない接着材で接着され、鋼板3のずれや落下が防止される。
【0021】
鋼板3の設置範囲は、木壁2の厚さ方向の中心で
図2(a)に示す面(木梁1と木壁2を含む面)内の曲げモーメントMが加わるとした場合の、木壁2の圧縮縁から中立軸(曲げモーメントMによる圧縮が発生しない位置)までの範囲内に定められる。本実施形態では、鋼板3の一辺が、木壁2の圧縮縁である木壁2の幅方向の端部に合わせて配置され、鋼板3の反対側の一辺は、曲げモーメントMの発生時の中立軸22に合わせて配置される。鋼板3の平面は矩形状であり、その幅t(
図1参照)は、木壁2の厚みと同じである。
図2(b)では、鋼板3の設置範囲を破線で図示している。
【0022】
図3(a)、(b)はそれぞれ、
図2(b)の線B1-B1、B2-B2による鉛直断面を示したものである。木梁1には、めり込み防止鉄筋4と補強鉄筋5が埋設される。めり込み防止鉄筋4と補強鉄筋5は、鋼板3の法線方向すなわち木梁1の繊維直交方向に配置される。
【0023】
図3(a)に示すように、めり込み防止鉄筋4は木梁1に形成された孔11に通され、孔11には接着材12が充填される。木梁1の孔11は、木梁1の繊維直交方向に延びるように設けられる。木梁1とめり込み防止鉄筋4とは、接着材12によって一体化される。めり込み防止鉄筋4の下端は、木梁1の下面の鋼板3に当接して固定され、めり込み防止鉄筋4の上端は、木梁1の上面の鋼板3に固定された鞘管31に挿入されて当該鋼板3に当接する。
【0024】
図3(b)に示すように、補強鉄筋5は、上段の木壁2、木梁1、および下段の木壁2に跨るように配置される。補強鉄筋5は、木梁1の孔13、鋼板3の孔32、および上下の木壁2の孔21内に配置される。これらの孔13、32、21は木梁1の繊維直交方向に連続するように設けられ、各孔内には接着材14が充填される。補強鉄筋5は、接着材14によって木梁1および木壁2と一体化される。木壁2には接着材14を充填するための注入孔(不図示)も設けられる。
【0025】
補強鉄筋5の本数や配置は、木壁2の曲げ耐力を確保できるように決定される。本実施形態では、
図2(b)に示すように鋼板3の平面の中央部に1本の補強鉄筋5が配置されるが、これに限らず、配置される補強鉄筋5が複数本であってもよい。一方、前記のめり込み防止鉄筋4は、鋼板3の平面の中心から見て圧縮縁側と中立軸22側に同じ本数(
図2(b)の例では2本)ずつ配置される。
【0026】
(2.木梁1と木壁2の接合方法)
木梁1と木壁2とを接合するには、まず
図4に示すように、鋼板3およびめり込み防止鉄筋4が予め取り付けられた木梁1を、工場や現場内のヤード等で製作する。
【0027】
鋼板3およびめり込み防止鉄筋4は、例えば、下側の鋼板3に固定されためり込み防止鉄筋4を木梁1の孔11に挿入し、孔11に接着材12を充填した後、上側の鋼板3に固定された鞘管31をめり込み防止鉄筋4の上端に被せて配置することにより、木梁1に取り付けることができる。
【0028】
木梁1の材軸方向の端部には、木梁1をS柱(鉄骨柱)、CFT柱(コンクリート充填鋼管柱)、木柱等の柱(不図示)に接合するためのスリット15と孔16が設けられる。本実施形態では、柱に設けた孔あき鋼板(不図示)をスリット15に通し、木梁1の孔16およびこれに連通する孔あき鋼板の孔にボルトやドリフトピンを通すことで、木梁1の端部を柱に接合できる。ただし、木梁1の端部の構成はこれに限らず、接合対象の柱等に応じて異なる。例えば木梁1をRC柱(鉄筋コンクリート柱)やSRC柱(鉄骨鉄筋コンクリート柱)に接合する場合は、木梁1の端部から突出し、柱のコンクリートに埋設する定着筋を木梁1に固定しておくとよい。
【0029】
木梁1を施工箇所まで移動させ、その両端部を図示しない柱に仮留めした後、鋼板3の孔32と木梁1の孔13に補強鉄筋5を配置してこれらの孔32、13に接着材14を充填することで、
図5(a)に示すように補強鉄筋5と木梁1を一体化する。補強鉄筋5は、木梁1の上下の鋼板3から上下に突出する。
【0030】
その後、木梁1の上下の木壁2の設置を行う。木壁2は、
図5(b)に示す2枚の木質板20から構成され、両木質板20の対向する板面同士を
図5(c)に示すように重ね合わせることで設置される。また木梁1と木壁2との間には、前記した充填材6も充填される。
【0031】
図5(b)に示すように、両木質板20の上記板面には、補強鉄筋5の突出部分に対応する位置で溝23が形成される。両木質板20は、
図5(b)の矢印で示すように、木梁1の前後から木梁1側に向かって移動させ、両木質板20の板面同士を、溝23によって補強鉄筋5の突出部分を挟むように重ね合わせる。そして、これらの木質板20同士を釘等の接合材(不図示)で接合する。この時、両木質板20の溝23によって前記の孔21が形成されるので、当該孔21に接着材14を充填する。
【0032】
図5(b)、(c)は木梁1の下段の木壁2を設置する手順であるが、木梁1の上段の木壁2も同様の手順で設置され、これにより、木梁1と木壁2の荷重伝達構造10が構築される。
【0033】
本実施形態の荷重伝達構造10では、地震などによって発生する曲げモーメントM等に起因する木壁2からの圧縮荷重が、鋼板3を介してめり込み防止鉄筋4に伝達され、めり込み防止鉄筋4から接着材12を介して木梁1の内部に付着力として伝達される。
図6(a)に示すように、木梁1と木壁2を単に当接させる構造では、木壁2からの圧縮荷重が、木梁1において、木壁2との境界部付近の狭い範囲Cで支持されるので、当該範囲Cに圧縮が生じて木壁2がめり込みやすいが、本実施形態では、上記の付着力が、めり込み防止鉄筋4や孔11の長さに対応する木梁1の深い位置まで分布することから、
図6(b)に示すように、木壁2からの圧縮力を、木梁1の広い範囲Cで分散して支持させることができる。結果、木梁1の圧縮を抑制して木壁2のめり込みを防止でき、木壁2の曲げ耐力や剛性を確保できる。
【0034】
また本実施形態では、前記の補強鉄筋5により、木梁1と木壁2の接合箇所を補強して木壁2の曲げ耐力を確保することができる。
【0035】
また本実施形態では、鋼板3の配置を
図2(a)等で説明したように曲げモーメントMに応じて定めることで、鋼板3の配置を最適化でき、木壁2からの圧縮荷重を木梁1に効率良く伝達できる。
【0036】
また本実施形態では、工場等で鋼板3やめり込み防止鉄筋4を予め取り付けた木梁1を施工箇所まで移動させて設置することで、現場における施工を簡略化できる。また木壁2は、木質板20を前後から重ね合わせることで容易に設置することができる。
【0037】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限らない。例えば、鋼板3は、前記の圧縮縁から中立軸22までの範囲内に配置されていればよく、寸法は上記したものに限らない。例えば鋼板3の一辺は圧縮縁に合わせて配置されるが、反対側の一辺は中立軸22よりも圧縮縁側に位置して良い。また鋼板3の幅tも、木壁2の厚み以下であってよい。
【0038】
また、めり込み防止鉄筋4の本数や配置も
図2(b)の例に限らない。
図7は、めり込み防止鉄筋4の他の配置例を
図2(b)と同様に示したものである。
【0039】
図7(a)~(c)に示す例では、鋼板3の平面の中心よりも圧縮縁側に位置するめり込み防止鉄筋4の本数と、当該中心よりも中立軸22側に位置するめり込み防止鉄筋4の本数とが同じであり、鋼板3の平面内でめり込み防止鉄筋4がバランスよく配置される。また、これらのめり込み防止鉄筋4は、上記中心を通る木梁1の幅方向の基準線bに関し線対称に配置される。一方、
図7(d)~(f)の例では、圧縮荷重の大きい、圧縮縁側のめり込み防止鉄筋4の本数が、中立軸22側のめり込み防止鉄筋4の本数より多い。なお
図7(b)、(e)の例では、めり込み防止鉄筋4が、基準線b上の補強鉄筋5の前後の位置にも配置される。このように、めり込み防止鉄筋4の配置を最適化することでも、木壁2からの圧縮荷重を木梁1に効率良く伝達することができる。
【0040】
なお、木壁2からの圧縮荷重はめり込み防止鉄筋4によっても支持されるので、めり込み防止鉄筋4は、鉄筋自体の強度と、めり込み防止鉄筋4と木梁1との接着強度によって圧縮荷重を支持できるように、本数、径、鉄筋強度、長さの4つの要素を考慮して設計される。
【0041】
また、めり込み防止鉄筋4は、
図8(a)に示すように、木梁1の孔11に上下から挿入されてもよい。各めり込み防止鉄筋4は、一端が木梁1の上下の鋼板3に当接して固定される。各めり込み防止鉄筋4の他端は孔11内で向かい合って配置され、当該他端の間の隙間には接着材12が充填される。この場合、木梁1の孔11の上下から、鋼板3と一体化しためり込み防止鉄筋4を挿入できるため、鋼板3およびめり込み防止鉄筋4の木梁1への取付けが容易となる。
【0042】
さらに、
図8(b)に示すように、木梁1の上面と下面の異なる平面位置に、木梁1を上下に貫通しない孔11を形成し、木梁1の上面の孔11に、木梁1の上側の鋼板3に一端が固定されためり込み防止鉄筋4を挿入し、木梁1の下面の孔11に、木梁1の下側の鋼板3に一端が固定されためり込み防止鉄筋4を挿入してもよい。この場合も、鋼板3およびめり込み防止鉄筋4の木梁1への取付けが容易となり、また木梁1の上または下のみに木壁2を設けることも可能である。
【0043】
ただし、
図8(a)の例では、孔11内の上下のめり込み防止鉄筋4の間の力の伝達が、前記した隙間に充填された接着材12を介して行われ、また
図8(b)の例では、一方の鋼板3にめり込み防止鉄筋4を固定した平面位置では他方の鋼板3にめり込み防止鉄筋4を固定できないので、めり込み防止鉄筋4の配置に制限が生じる。結果、いずれの例でも、
図3(a)の構成と比較してめり込み防止能力が若干低下する恐れはある。
【0044】
また本実施形態では、木梁1の材軸方向の中間部に1枚の木壁2が設けられるが、木梁1の材軸方向の端部に木壁2が設けられる場合もあり、複数の木壁2が、木梁1の材軸方向に隣り合って連結される場合もある。このように、木壁2の位置や枚数は特に限定されない。
【0045】
また本実施形態では、2枚の木質板20を重ねて木壁2を形成するが、
図9(a)に示すように、木壁2を一枚構成のものとしてもよい。この場合も、木壁2を穿孔することで孔21を形成できるが、
図5(a)のように先行設置した補強鉄筋5が存在する状態で、前あるいは後から木壁2を建て込むといったことは難しい。従って、
図9(a)に示すように木壁2を設置した後、その上に
図9(b)に示すように木梁1を設置し、
図9(c)に示すように補強鉄筋5の配置を行う、といった施工順となる。前記のように木質板20を前後に重ね合わせて木壁2を形成することには、上記のような施工順の制限が無くなり、木梁1や木壁2の設置工事の自由度が大きくなるという利点もある。
【0046】
また本実施形態では、木梁1の上下に鋼板3を設けたが、めり込み防止板材は鋼板3に限らない。例えば
図10の荷重伝達構造10aに示すように、木梁1の上面と上段の木壁2との間にコンクリートスラブ3aが配置される場合も多く、この場合はコンクリートスラブ3aがめり込み防止板材として機能する。めり込み防止鉄筋4の上端は、コンクリートスラブ3aに当接していれば十分であるが、コンクリートスラブ3a内に埋設されてもよい。
【0047】
また木壁2に代えて、繊維方向を材軸方向とした木柱(第2の木質材)を木梁1の上下に配置することも可能である。
【0048】
さらに、荷重伝達構造10の適用対象が、木梁1と木壁2あるいは木柱との接合箇所に限ることもない。以下、荷重伝達構造10の適用対象が異なる本発明の別の例について、第2の実施形態として説明する。第2の実施形態は第1の実施形態と異なる点について説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。
【0049】
[第2の実施形態]
(1.荷重伝達構造10)
図11、12は、本発明の実施形態に係る荷重伝達構造10を適用した木柱7と木梁9の接合箇所を示す図である。
図11は木柱7と木梁9の接合箇所の斜視図であり、
図12は接合箇所の立面図である。第2の実施形態は、木柱7と木梁9の接合箇所に荷重伝達構造10を適用する点で第1の実施形態と主に異なる。この接合箇所は、木柱7と木梁9からなるラーメン架構において、木柱7とその左右の木梁9とを剛接合した箇所である。
【0050】
木柱7は通し柱であり、材軸方向(
図11、12の上下方向に対応する)を繊維方向とした木質材(第1の木質材)である。木柱7は、材軸方向のみに強い集成材を用いることが望ましいが、製材、BP材等を用いてもよい。
【0051】
木梁9は、前記の木梁1と同様の木質材(第2の木質材)であるが、通し梁ではなく、木柱7と横方向に並べて配置され、木柱7とその側方の木梁9とが接合される。横方向は、木梁9の繊維方向および木柱7の繊維直交方向に対応し、木柱7は、木梁9の繊維方向の隣(木梁9の左または右)に位置する関係となる。
【0052】
木柱7の左右の側面と、左右の木梁9との間には、それぞれ、めり込み防止板材として鋼板3が配置される。鋼板3は、木梁9の上下方向の端部に対応する位置に2枚設置されることが望ましく、2枚の鋼板3の間にはモルタル等の充填材6が充填される。上下方向は、木柱7の材軸方向に対応する。鋼板3と木柱7は図示しない接着材で接着される。
【0053】
めり込み防止鉄筋4および補強鉄筋5の構成は、第1の実施形態のめり込み防止鉄筋4および補強鉄筋5の構成を鉛直面内で90°回転させたものとなる。例えばめり込み防止鉄筋4と補強鉄筋5は、鋼板3の法線方向すなわち木柱7の繊維直交方向に配置され、木柱7、木梁9、および鋼板3には、めり込み防止鉄筋4あるいは補強鉄筋5を配置するための孔が、木柱7の繊維直交方向に形成される。この孔には、接着材(不図示)が充填される。
【0054】
(2.木柱7と木梁9の接合方法)
木柱7と木梁9とを接合するには、
図13(a)に示すように木梁9を設置した後、その右側で、予め鋼板3とめり込み防止鉄筋4を取り付けた木柱7を
図13(b)の矢印に示すように移動させ、木柱7の設置を行う。
【0055】
なお、木梁9の木柱7と反対側の端部は、図示しない柱に接合される。その接合方法は当該柱の構成によって異なるが、例えば当該柱が木柱の場合、当該木柱から突出する鉄筋を、木梁9の孔(不図示)に挿入して孔内に充填材を充填することが可能である。
【0056】
また木柱7の下端部は、図示しない柱の上端部に接合される。その接合方法も当該柱の構成によって異なり、例えば当該柱が木柱の場合であれば、上記と同様、当該木柱から上方に突出する鉄筋を、木柱7の下端部の孔(不図示)に挿入して孔内に充填材を充填することが可能である。この場合、木柱7は
図13(b)の矢印に示すように鉛直下方に落とし込んで設置する必要があるが、別の接合方法であれば、例えば木柱7を横方向に移動させ、木梁9の側方に配置することもできる。
【0057】
こうして
図13(c)に示すように木梁9の右側に木柱7を設置した後、補強鉄筋5の配置、補強鉄筋5を挿入した木柱7や木梁9等の孔内への接着材の充填、および充填材6の充填を行う。その後、
図13(d)に示すように木柱7の右側の木梁9を水平方向に横移動させ、木柱7の右側の鋼板3から突出する補強鉄筋5の突出部分を木梁9の材軸方向の孔91に挿入し、
図13(e)に示すように木柱7の右側に木梁9を設置する。この後、孔91内への接着材の充填や充填材6の充填を行うことで、木柱7と木梁9が接合される。孔91内への接着材の充填は、例えば木梁9に設けた注入孔(不図示)を介して行うことができる。以下
図13(a)~(e)の工程を繰り返すことで、木柱7と木梁9が右側に向かって順に施工されてゆく。
【0058】
第2の実施形態においても、木柱7と木梁9の接合箇所に、鋼板3やめり込み防止鉄筋4を有する荷重伝達構造10を適用することで、長期荷重による木梁9のたわみ等に起因する木梁9の木柱7へのめり込みを抑制でき、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また施工時には、木柱7から突出する補強鉄筋5の突出部分を木梁9の孔91に挿入するために、木梁9を横移動させて設置すればよい。なお、
図13と同様の方法で、木柱7と木梁9を左側に向かって順に施工することも可能である。
【0059】
第2の実施形態では木柱7の左右にのみ木梁9が接合されるが、これに加え、木柱7の前後にも、同様の荷重伝達構造10を適用して木梁9を接合することが可能である。この場合、前後の木梁9の接合に用いるめり込み防止鉄筋4や補強鉄筋5は、左右の木梁9の接合に用いるめり込み防止鉄筋4および補強鉄筋5と高さを変えて配置される。また、木梁9に代えて、繊維方向を水平方向としたCLTを用いた木壁2を、上記の荷重伝達構造10を介して前記の木柱7と接合することも可能である。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0061】
1、9:木梁
2:木壁
3:鋼板
3a:コンクリートスラブ
4:めり込み防止鉄筋
5:補強鉄筋
6:充填材
7:木柱
10、10a:荷重伝達構造
11、13、21、32、91:孔
12、14:接着材
20:木質板
22:中立軸
23:溝