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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044711
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】プラズマ源
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20240326BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H05H1/46 L
H05H1/46 R
H01L21/302 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150418
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】納富 隼人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊
(72)【発明者】
【氏名】吉迫 裕司
(72)【発明者】
【氏名】天立 茂樹
【テーマコード(参考)】
2G084
5F004
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084BB33
2G084CC04
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD03
2G084DD13
2G084EE10
2G084EE11
2G084EE12
2G084EE15
2G084FF02
2G084FF32
2G084HH21
2G084HH27
2G084HH28
2G084HH32
2G084HH43
5F004BA20
5F004CB05
(57)【要約】
【課題】断続的に誘導結合プラズマ(ICP)が発生する条件であっても、電源素子が破損しない範囲で電源出力を継続して、プロセスを遂行することが可能なプラズマ源を提供する。
【解決手段】プラズマ源は、直流電圧を無線周波数帯域の周波数を有する高周波電圧に変換するインバータ回路と、インバータ回路の出力信号で動作する共振回路と、共振回路の出力を受ける導電体のアンテナに取り囲まれた放電管を有して、アンテナで発生する高周波磁界が、アンテナの内側で作用することによって、放電管の内部にICPを発生させる放電部と、放電管の内部にICPが発生しているかを検出する検出部と、所定の時間間隔に対するICPが消弧している時間の比率が閾値未満である場合には、インバータ回路から共振回路への出力信号の供給を継続して、比率が閾値以上である場合には、インバータ回路から共振回路への出力信号の供給を停止する電源制御部と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導結合プラズマを発生させるプラズマ源であって、
直流電圧を無線周波数帯域の周波数を有する高周波電圧に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路の出力信号によって動作する共振回路と、
前記共振回路の出力を受ける導電体のアンテナに取り囲まれた放電管を有して、前記アンテナにより発生する高周波磁界が、当該アンテナの内側で作用することによって、前記放電管の内部に誘導結合プラズマを発生させる放電部と、
前記放電管の内部に誘導結合プラズマが発生しているかを検出する検出部と、
所定の時間間隔毎に、当該時間間隔に対する前記誘導結合プラズマが消弧している時間の比率が閾値以上であるかを判定して、前記比率が前記閾値以上である場合には、前記インバータ回路から前記共振回路への出力信号の供給を停止して、前記比率が前記閾値未満である場合には、前記インバータ回路から前記共振回路への出力信号の供給を継続する電源制御部と、
を備えるプラズマ源。
【請求項2】
前記検出部は、前記電源制御部から前記インバータ回路へ送信するドライブ信号と、前記アンテナに流れる高周波電流との位相差に基づいて、誘導結合プラズマが発生しているかを検出する、
請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項3】
前記検出部は、
前記所定の時間間隔のうち、前記共振回路に前記インバータ回路の出力信号の供給を開始した時刻を含む時間間隔において、前記閾値を、他の時間間隔における前記閾値に対して低く設定する、
請求項1または請求項2に記載のプラズマ源。
【請求項4】
前記閾値は、前記共振回路に前記インバータ回路の出力信号を供給し続けた場合に、当該インバータ回路を構成する回路素子が破損しない値に設定される、
請求項1または請求項2に記載のプラズマ源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ源に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいて、プラズマを用いた半導体ウェハの成膜処理、エッチング処理等が行われている。特許文献1には、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)型のプラズマ源としてのプラズマ発生装置が開示されている。プラズマ発生装置は、筒状の真空容器(放電管)に巻回されたアンテナコイルと、アンテナコイルに対して高周波電力を供給する高周波電源とを備える。
【0003】
ICPを発生させるプラズマ源としては、アンテナコイルに高周波電力を供給して容量結合プラズマ(CCP:Capacitively Coupled Plasma)を発生させた後、高周波電力を増加させることによって、容量結合プラズマ(以下CCPと呼ぶ)を誘導結合プラズマ(以下ICPと呼ぶ)に変化させるプラズマ源が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-157916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなプラズマ源にあっては、CCPが発生している状態、もしくはプラズマが無い状態で電源が出力をし続けると、スイッチ素子(FETなど)の損失が増大して素子の破壊につながるため、電源の出力を停止するのが望ましい。
【0006】
しかしながら、連続的にICP放電をしていない場合であっても、電源素子が破損しない限りにおいて、断続的にICP放電をさせることがプロセス上有意な場合もある。つまり、電源出力を停止してしまう必要が無いケースでも出力を停止してしまうと、プロセスを遂行可能な範囲を狭めてしまっていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、断続的にICPが発生する条件であっても、電源素子が破損しない範囲で電源出力を継続して、プロセスを遂行することが可能なプラズマ源を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係るプラズマ源は、誘導結合プラズマを発生させるものであり、インバータ回路と、共振回路と、放電部と、検出部と、電源制御部とを備える。インバータ回路は、直流電圧を無線周波数帯域の周波数を有する高周波電圧に変換する。共振回路は、インバータ回路の出力信号によって動作する。放電部は、共振回路の出力を受ける導電体のアンテナに取り囲まれた放電管を有して、アンテナにより発生する高周波磁界が、当該アンテナの内側で作用することによって、放電管の内部に誘導結合プラズマを発生させる。検出部は、放電管の内部に誘導結合プラズマが発生しているかを検出する。電源制御部は、所定の時間間隔毎に、当該時間間隔に対する誘導結合プラズマが消弧している時間の比率が閾値以上であるかを判定して、比率が閾値以上である場合には、インバータ回路から共振回路への出力信号の供給を停止して、比率が閾値未満である場合には、インバータ回路から共振回路への出力信号の供給を継続する。
【0009】
実施形態に係るプラズマ源において、検出部は、電源制御部からインバータ回路へ送信するドライブ信号と、アンテナに流れる高周波電流との位相差に基づいて、誘導結合プラズマが発生しているかを検出する。
【0010】
実施形態に係るプラズマ源において、検出部は、所定の時間間隔のうち、共振回路にインバータ回路の出力信号の供給を開始した時刻を含む時間間隔において、閾値を、他の時間間隔における閾値に対して低く設定する。
【0011】
実施形態に係るプラズマ源において、閾値は、共振回路にインバータ回路の出力信号を供給し続けた場合に、インバータ回路を構成する回路素子が破損しない値に設定される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、断続的にICP放電が発生する条件であっても、電源素子が破損しない範囲で電源出力を継続して、プロセスを遂行することが可能なプラズマ源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係るプラズマ源の構成例を示す図である。
図2図2は、本実施形態に係るプラズマ源が備えるプラズマ発生部の要部構成の一例を示す図である。
図3図3は、一般的なプラズマ源におけるプラズマ発生状態の時間推移の様子の一例を示すグラフである。
図4図4は、本実施形態に係るプラズマ源が、ICP着火区間を判定する方法を説明する図である。
図5図5は、実施形態に係るプラズマ源が備える制御部の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
図6図6は、本実施形態に係るプラズマ源が備える制御部が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
(実施の形態)
図1を用いて、本実施形態のプラズマ源1の構成を説明する。図1は、本実施形態に係るプラズマ源の構成例を示す図である。
【0016】
(プラズマ源の構成)
プラズマ源1は、半導体製造プロセスにおけるエッチング等のプラズマ処理を行うプラズマ処理装置の一部として用いられる。
【0017】
プラズマ源1は、誘導結合プラズマ(ICP)を発生させるプラズマ発生装置である。プラズマ源1は、高周波電源部10とプラズマ発生部8とを含む。高周波電源部10は、整流・平滑回路2と、昇降圧チョッパ3(電圧変換回路の一例)と、インバータ回路4と、共振回路5と、制御部7とを含む。また、高周波電源部10は、直流電圧センサ61と、直流電流センサ62と、高周波電流センサ63とを含む。
【0018】
整流・平滑回路2は、商用交流電源9(主電源)の交流電力を直流電力に変換するための回路である。整流・平滑回路2は、例えば複数個の半導体素子をブリッジ接続してなる整流回路と、整流された電流(脈流)を平滑化する回路とを含む。
【0019】
昇降圧チョッパ3は、直流の入力電圧を昇圧又は降圧して、直流電圧Vdcを出力する回路である。昇降圧チョッパ3は、例えば、内部にスイッチング素子を備えて、制御部7(電源制御部72)からの指令信号に基づいてスイッチング素子のスイッチングが制御されて、出力する直流電圧Vdcを昇圧又は降圧させる。
【0020】
昇降圧チョッパ3の出力端には、図1に示す直流電圧センサ61と直流電流センサ62とが設けられている。直流電圧センサ61は、昇降圧チョッパ3が出力する直流電圧Vdcを検出し、直流電圧Vdcの検出信号を制御部7に送る。直流電流センサ62は、昇降圧チョッパ3の出力端に流れる直流電流Idcを検出し、直流電流Idcの検出信号を制御部7に送る。なお、図1では直流電圧センサ61が直流電流センサ62よりも昇降圧チョッパ3側に設置されているが、直流電流センサ62を直流電圧センサ61よりも昇降圧チョッパ3側に設置してもよい。
【0021】
インバータ回路4は、昇降圧チョッパ3から出力される直流電圧Vdcを無線周波数(Radio Frequency)帯域の周波数を有する高周波電圧Vrfに変換して出力する。高周波帯域の周波数は、例えば2MHzである。もちろん、他の周波数でも適用可能である。また、例えば2MHzに対して周波数を増減させることもできる。インバータ回路4はスイッチング素子が備えており、そのスイッチングが制御部7によって制御される。
【0022】
共振回路5は、インバータ回路4とプラズマ発生部8の一端部P1との間に直列接続されたインダクタ51及びコンデンサ52と、インバータ回路4とプラズマ発生部8の他端部P2との間に直列接続されたインダクタ53及びコンデンサ54とを備える。また、共振回路5は、一端部P1と他端部P2との間にコンデンサ55をさらに備える。
【0023】
コンデンサ52とコンデンサ54とは略同一の容量(キャパシタンス)を有し、インダクタ51とインダクタ53とは、略同一のインダクタンスを有するのが好ましい。このようにすれば、プラズマ発生部8の一端部P1とインバータ回路4との間の共振回路5の回路構成と、プラズマ発生部8の他端部P2とインバータ回路4との間の共振回路5の回路構成とが同じ回路構成になるので、一端部P1の最大電圧値と他端部P2の最大電圧値とが同程度になる。後述する放電管80内で発生するプラズマは、基準電位に対する電位差が大きい程、放電管80の内壁部分に引き寄せられる傾向にあるので、上記のように両端部における最大電圧値を均一化することで、放電管80の摩耗の偏りを低減させ、ひいては放電管80の寿命を延ばすことが可能となる。
【0024】
プラズマ発生部8は、放電コイル81を有する。放電コイル81は、後述する放電管80(図2参照)の外周側であって、当該放電管80の流入口側から流出口側に亘って巻回されたものである。なお、放電コイル81は、共振回路5の一部として機能する。放電管80は、例えば石英、アルミナ等の非導電性材料で形成される。放電コイル81は、例えば、銅等の導電性材料からなるコイルである。また、図示しないが、放電コイル81内に冷却水を流すことで、放電管80の温度上昇を低減させる。なお、プラズマ発生部8は、本開示における放電部の一例である。また、放電コイル81は、本開示におけるアンテナの一例である。
【0025】
インバータ回路4から出力された高周波電圧Vrfが共振回路5を介してプラズマ発生部8に供給されることによって、放電コイル81には高周波電流Irfが流れる。プラズマ発生部8でプラズマを発生させる場合、放電管80の内部に反応ガスが供給される。その結果、放電コイル81に流れる高周波電流による誘導結合によって反応ガスがプラズマ化し、プラズマが発生する。即ち、放電管80は、導電体の放電コイル81に取り囲まれて、放電コイル81により発生する高周波磁界が、放電コイル81の内側で作用することによって、放電管80の内部に誘導結合プラズマを発生させる。このようにして発生したプラズマを利用して、プラズマ処理部(図示省略)において各種の処理(エッチング等)が行われる。
【0026】
高周波電流センサ63は、共振回路5の出力端に流れる高周波電流Irf(放電コイル81に流れる交流電流)を検出し、高周波電流Irfの検出信号を制御部7に送る。高周波電流センサ63は、無線周波数帯域用のセンサである。
【0027】
なお、図1では、高周波電流センサ63がプラズマ発生部8の他端部P2側に設けられているが、高周波電流センサ63はプラズマ発生部8の一端部P1側に設けてもよい。また、高周波電流センサ63から制御部7に送付される高周波電流Irfの検出信号は、アナログ信号でも良いし、デジタル信号でもよい。アナログ信号の場合、高周波電流Irfの検出信号は、通常、制御部7においてAD変換される。
【0028】
制御部7は、種々の制御処理・演算処理を実行する装置である。制御部7は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の記憶部(図示せず)を備えたMPU(Micro-processing unit)、システムLSI(Large-Scale Integration)又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)を含み、記憶部に記憶してあるプログラム及びデータを読み出して実行することにより、種々の制御処理及び演算処理等を行う。
【0029】
制御部7は、ICP着火検出部71と、電源制御部72とを備える。
【0030】
ICP着火検出部71は、放電管80の内部に誘導結合プラズマ(ICP)が発生しているかを検出する。なお、ICP着火検出部71は、本開示における検出部の一例である。具体的には、ICP着火検出部71は、電源制御部72からインバータ回路4へ送信するドライブ信号(インバータ回路4から出力する出力電圧の位相情報に相当する信号)と、放電コイル81(アンテナ)に流れる高周波電流Irfとの位相差に基づいて、誘導結合プラズマが発生しているかを検出する。詳しくは後述する(図4参照)。
【0031】
電源制御部72は、直流電圧Vdcの検出信号と直流電流Idcの検出信号とに基づいて、プラズマ発生部8に供給される電力の電力値を算出し、その電力値が目標値になるように昇降圧チョッパ3の出力を制御する。
【0032】
また、電源制御部72は、所定の時間間隔毎に、当該時間間隔に対する誘導結合プラズマが発生している時間の比率が閾値以上であるかを判定して、比率が閾値以上である場合には、インバータ回路4から共振回路5への出力信号の供給を継続して、比率が閾値未満である場合には、インバータ回路4から前記共振回路5への出力信号の供給を停止する。
【0033】
なお、閾値は、共振回路5にインバータ回路4の出力信号を供給し続けた場合に、インバータ回路4を構成する回路素子が破損しない値に設定される。
【0034】
また、電源制御部72は、商用交流電源9の投入状態を監視する。
【0035】
(プラズマ発生部の構成)
図2を用いて、プラズマ発生部8の要部構成を説明する。図2は、本実施形態に係るプラズマ源が備えるプラズマ発生部の要部構成の一例を示す図である。なお、図2は、プラズマ発生部8の主要部の断面斜視図である。
【0036】
プラズマ発生部8は、円筒状の放電管80と、導電体の放電コイル81と、蓋部82とを備える。放電管80の筐体は、石英、アルミナ等の絶縁体で構成される。そして、放電管80の内部には、プラズマの材料となる反応ガスが、中心軸に沿って通過する。
【0037】
放電コイル81は、線状の導電体であって、放電管80の外周に、放電管80の中心軸を中心に所定のピッチで、所定の周回数分巻かれる。放電コイル81には、共振回路5から高周波電力が供給される。
【0038】
蓋部82は、アルミニウム等の金属で構成されており、放電管80の一方の開口を塞ぐ。さらに、蓋部82には、例えば、放電管80の中心軸に対応する位置に、外部から放電管80の内部へと反応ガスを導入するためのガス導入孔83が開口されている。
【0039】
放電管80の内部は高真空状態に保たれて、ガス導入孔83から反応ガスが内部に導入される。そして、プラズマ発生部8は、放電コイル81に印加された高周波電圧により、真空状態とされた放電管80の内部で反応ガスを電離させて容量性結合プラズマ(CCP)を発生させる。そして、プラズマ発生部8は、放電コイル81に流れる電流が増加すると、誘導磁界を発生させて、誘導性結合プラズマ(ICP)を発生させる。発生したプラズマは、放電管80における、ガス導入孔83とは反対側の開口から、プラズマ処理室等へと送出される。
【0040】
容量性結合プラズマは、一般に、プラズマ密度が低くエネルギーが小さいため、プラズマを用いた材料の処理プロセスには、より高密度でエネルギーが大きい誘導性結合プラズマが利用される。本実施形態に係るプラズマ発生部8は、誘導性結合プラズマ(ICP)を安定的に発生し、発生を維持するものである。
【0041】
(プラズマ源におけるプラズマ発生状態の推移)
図3を用いて、一般のプラズマ源におけるプラズマ発生状態の推移を説明する。図3は、一般的なプラズマ源におけるプラズマ発生状態の時間推移の様子の一例を示すグラフである。
【0042】
図3の縦軸は、図1で示すプラズマ源1において、放電コイル81(アンテナ)に流れる高周波電流Irfと、制御部7からインバータ回路4へ送信するドライブ信号との位相差θを表す。
【0043】
図3の横軸は、電源投入直後の時刻tを表す。なお、図3の時刻tは、1ポイント当たり500μsecの時刻を示している。
【0044】
プラズマ源1にあっては、プラズマの発生状態に応じて、電源側から見たインピーダンスが変化する。したがって、プラズマの発生状態に応じて、前記した位相差θが変化する。例えば、図3において、電源投入直後の時刻taから時刻tbにかけては、位相差θが110°未満を推移している。これは、まだICPの発生に至っておらず、プラズマが発生していないか、またはCCPが発生している状態を示している。その後、位相差θは140°付近へと遷移するが、この時にICP放電へ移行したと判定できる。即ち、ICP着火していることは、位相差θが、所定の判定閾値θthを超えているかによって判定することができる。
【0045】
ICP着火した後、位相差θはすぐに110°未満へ移り、判定閾値θthを大きく下回る。これは、ICP放電後に消孤した、即ちICPが消失したことを示している。従来は、この時点で消孤したと判定して、プラズマ源1の出力を停止していた。
【0046】
このように、プラズマ源1は、断続的にICP着火と消孤を繰り返すが、大部分の区間においてはICP放電を行っている(つまり、位相差θが判定閾値θthを上回っている)ため、プラズマ源1の出力を維持して、発生したプラズマを後段の処理プロセスに利用し続けることが可能である。なお、前記した具体的な位相差θの値は一例であって、プラズマ源1が備える回路素子の値に応じて、位相差θの値は変動する。
【0047】
本実施形態のプラズマ源1は、ICP放電を行っている区間長に着目して、プラズマ源1がICP着火しているかを判定する。詳しくは後述する(図4参照)。
【0048】
(本実施形態のプラズマ源におけるプラズマ発生状態の検出)
図4を用いて、本実施形態のプラズマ源1がICP着火区間を判定する方法を説明する。図4は、本実施形態に係るプラズマ源が、ICP着火区間を判定する方法を説明する図である。
【0049】
本実施形態のプラズマ源1の制御部7は、図4に示すように、ICP着火しているかを判定する判定区間L1,L2,…を設ける。そして、当該判定区間L1,L2,…の間に、位相差θが判定閾値θthを下回った時間を積算して、その積算時間が閾値Lth未満である場合に、制御部7は、プラズマ源1がICP着火していると判定する。或いは、積算時間が閾値Lth以上である場合に、制御部7は、ICPが消弧していると判定する。
【0050】
例えば、判定区間L1,L2,…を5000msecとし、ICP放電が停止している、即ち消孤していると判定する積算時間の閾値Lthを500msecとする。ここで、プラズマ源1が、10msecの消孤、40msecのICP放電を繰り返しているとする。その場合、判定区間内で100回の消孤とICP放電を繰り返すことになる。この場合、消孤の積算時間は10msec×100回=1000msecとなるため、閾値Lth以上である。したがって、制御部7は、プラズマ源1が消孤したと判定して、インバータ回路4から共振回路5への信号の出力を停止する。
【0051】
一方、10msecの消孤、190msecのICP放電を繰り返す場合には、判定区間内でおおよそ25回の消孤とICP放電を繰り返す。その場合、消孤の積算時間は10msec×25回=250msecとなり、閾値Lth(例えば500msec)未満である。したがって、制御部7は、プラズマ源1がICP放電をしていると判定して、インバータ回路4から共振回路5への信号の出力を継続する。また、判定区間が終了して、次の判定区間が開始されるときには、この積算時間はリセットされる。
【0052】
なお、積算時間の閾値Lthは、インバータ回路4の回路素子の損失の許容範囲内で決定する。これは、前記した通り、ICPが発生していない状態、またはCCPが発生している状態においては、インバータ回路4の回路素子の損失が増大するため、消孤期間が長くなるほど、回路素子の損失が増えるためである。
【0053】
なお、図4に示す判定区間L1にあっては、電源投入直後であるため、ICPの発生に先立ってCCPが発生する可能性がある。したがって、判定区間L2以降と比較すると、ICPが消弧していると判定される時間が長くなる可能性がある。そのため、プラズマ源1の制御部7は、判定区間L1における積算時間の閾値Lthを、他の判定区間における積算時間の閾値Lthよりも低く設定してもよい。これによって、電源投入直後であっても、ICPが断続的に発生しているかを確実に検出することができる。
【0054】
(プラズマ源の機能構成)
図5を用いて、プラズマ源1が備える制御部7の機能構成を説明する。図5は、実施形態に係るプラズマ源が備える制御部の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0055】
プラズマ源1の制御部7は、ICP着火検出部71と、電源制御部72とを備える。
【0056】
ICP着火検出部71は、放電管80の内部に誘導結合プラズマ(ICP)が発生しているかを検出する。なお、ICP着火検出部71は、本開示における検出部の一例である。ICP着火検出部71は、更に、計時処理部711と、位相差算出部712と、位相差比較部713と、消弧時間比率算出部714とを備える。
【0057】
計時処理部711は、ICP着火判定に係る時刻の計測を行う。
【0058】
位相差算出部712は、電源制御部72からインバータ回路4へ送信するドライブ信号、即ちインバータ回路4から出力する出力電圧の位相情報に相当する信号と、放電コイル81(アンテナ)に流れる高周波電流Irfとの位相差θを算出する。
【0059】
位相差比較部713は、位相差θと判定閾値θthとの大小関係を比較する。
【0060】
消弧時間比率算出部714は、判定区間L1,L2,…のそれぞれにおいて、判定区間の時間長さに対する、ICPが消弧している時間の比率を算出する。
【0061】
電源制御部72は、消弧時間比率算出部714が算出した時間の比率が閾値以上である場合に、インバータ回路4から共振回路5への出力信号の供給を停止する。また、電源制御部72は、消弧時間比率算出部714が算出した時間の比率が閾値未満である場合に、インバータ回路4から共振回路5への出力信号の供給を継続する。電源制御部72は、更に、主電源状態監視部721と、高周波電源供給制御部722と、昇降圧チョッパ出力制御部723とを備える。
【0062】
主電源状態監視部721は、商用交流電源9の状態を監視する。
【0063】
高周波電源供給制御部722は、インバータ回路4から共振回路5への高周波信号の供給状態を制御する。
【0064】
昇降圧チョッパ出力制御部723は、昇降圧チョッパ3からインバータ回路4への電力の供給状態を制御する。
【0065】
なお、消弧時間比率算出部714の代わりに、判定区間L1,L2,…のそれぞれにおいて、判定区間の時間長さに対する、ICPが着火している時間の比率を算出する着火時間比率算出部を設けてもよい。そして、電源制御部72は、着火時間比率算出部が算出した時間の比率が閾値未満である場合に、インバータ回路4から共振回路5への出力信号の供給を停止してもよい。また、電源制御部72は、着火時間比率算出部が算出した時間の比率が閾値以上である場合に、インバータ回路4から共振回路5への出力信号の供給を継続してもよい。
【0066】
(制御部が行う処理の流れ)
図6を用いて、プラズマ源1が備える制御部7が行う処理の流れを説明する。図6は、本実施形態に係るプラズマ源が備える制御部が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0067】
主電源状態監視部721は、商用交流電源9(主電源)が投入されているかを判定する(ステップS11)。商用交流電源9が投入されていると判定される(ステップS11:Yes)とステップS12に進む。一方、商用交流電源9が投入されていると判定されない(ステップS11:No)とステップS11の判定を繰り返す。
【0068】
ステップS11において、商用交流電源9が投入されていると判定されると、高周波電源供給制御部722は、共振回路5に対して高周波電源が投入されたかを判定する(ステップS12)。共振回路5に対して高周波電源が投入されたと判定される(ステップS12:Yes)とステップS13に進む。一方、共振回路5に対して高周波電源が投入されたと判定されない(ステップS12:No)とステップS12の判定を繰り返す。
【0069】
ステップS12において、共振回路5に対して高周波電源が投入されたと判定されると、計時処理部711は、ICP消弧時間をリセットする(ステップS13)。
【0070】
続いて、計時処理部711は、判定時間をリセットする(ステップS14)。なお、判定時間は、前記した判定区間の経過を判断するためのパラメータである。
【0071】
計時処理部711は、判定時間を積算する(ステップS15)。
【0072】
位相差算出部712は、電源制御部72からインバータ回路4へ送信するドライブ信号と、放電コイル81(アンテナ)に流れる高周波電流Irfとの位相差θを算出する(ステップS16)。
【0073】
位相差比較部713は、位相差θが判定閾値θth未満であるかを判定する(ステップS17)。位相差θが判定閾値θth未満であると判定される(ステップS17:Yes)とステップS18に進む。一方、位相差θが判定閾値θth未満であると判定されない(ステップS17:No)とステップS19に進む。
【0074】
ステップS17において、位相差θが判定閾値θth未満であると判定されると、消弧時間比率算出部714は、ICP消弧時間を積算する(ステップS18)。
【0075】
計時処理部711は、判定時間が所定値、即ち判定区間に到達したかを判定する(ステップS19)。判定時間が判定区間に到達したと判定される(ステップS19:Yes)とステップS20に進む。一方、判定時間が判定区間に到達したと判定されない(ステップS19:No)とステップS15に戻る。
【0076】
ステップS19において、判定時間が判定区間に到達したと判定されると、消弧時間比率算出部714は、ICP消弧時間の積算値が閾値Lth以上であるかを判定する(ステップS20)。ICP消弧時間の積算値が閾値Lth以上であると判定される(ステップS20:Yes)とステップS21に進む。一方、ICP消弧時間の積算値が閾値Lth以上であると判定されない(ステップS20:No)とステップS22に進む。
【0077】
ステップS20において、ICP消弧時間の積算値が閾値Lth以上であると判定されると、昇降圧チョッパ出力制御部723は、昇降圧チョッパ3からインバータ回路4への高周波電源の供給を停止する(ステップS21)。
【0078】
その後、主電源状態監視部721は、商用交流電源9がOFFであるかを判定する(ステップS23)。商用交流電源9がOFFであると判定される(ステップS23:Yes)と、制御部7は、図6の処理を終了する。一方、商用交流電源9がOFFであると判定されない(ステップS23:No)とステップS12に戻って、前記した処理を繰り返す。なお、図6のフローチャートには記載しないが、このとき、高周波電源供給制御部722は、ステップS21における高周波電源の供給停止から所定時間が経過するのを待って、共振回路5に対して高周波電源を再投入するものとする。
【0079】
一方、ステップS20において、ICP消弧時間の積算値が閾値Lth以上であると判定されないと、昇降圧チョッパ出力制御部723は、昇降圧チョッパ3からインバータ回路4への高周波電源の供給を継続する(ステップS22)。
【0080】
その後、主電源状態監視部721は、商用交流電源9がOFFであるかを判定する(ステップS24)。商用交流電源9がOFFであると判定される(ステップS24:Yes)と、制御部7は、図6の処理を終了する。一方、商用交流電源9がOFFであると判定されない(ステップS24:No)とステップS13に戻って、前記した処理を繰り返す。
【0081】
なお、図6において、電源投入直後の判定区間においては、前記したように、他の判定区間に対して閾値Lthを小さく設定することによって、CCPの発生状態を考慮した上で、ICPの発生状態を検出するようにしてもよい。
【0082】
(実施の形態の作用効果)
以上説明したように、実施形態のプラズマ源1は、誘導結合プラズマ(ICP)を発生させるプラズマ源であって、直流電圧を無線周波数帯域の周波数を有する高周波電圧に変換するインバータ回路4と、インバータ回路4の出力信号によって動作する共振回路5と、共振回路5の出力を受ける導電体の放電コイル81(アンテナ)に取り囲まれた放電管80を有して、放電コイル81により発生する高周波磁界が、当該放電コイル81の内側で作用することによって、放電管80の内部に誘導結合プラズマを発生させるプラズマ発生部8(放電部)と、放電管80の内部に誘導結合プラズマが発生しているかを検出するICP着火検出部71(検出部)と、所定の時間間隔(判定区間)毎に、当該時間間隔に対する誘導結合プラズマが消弧している時間の比率(積算値)が閾値以上であるかを判定して、比率(積算値)が閾値Lth以上である場合には、インバータ回路4から共振回路5への出力信号の供給を停止して、比率(積算値)が閾値Lth未満である場合には、インバータ回路4から共振回路5への出力信号の供給を継続する電源制御部72と、を備える。したがって、断続的にICP放電が発生する条件であっても、電源素子が破損しない範囲で電源出力を継続して、プロセスを遂行することができる。
【0083】
また、実施形態のプラズマ源1において、ICP着火検出部71(検出部)は、電源制御部72からインバータ回路4へ送信するドライブ信号(インバータ回路4から出力する出力電圧の位相情報に相当する信号)と、放電コイル81(アンテナ)に流れる高周波電流Irfとの位相差θに基づいて、誘導結合プラズマ(ICP)が発生しているかを検出する。したがって、ICPが発生しているかを容易かつ確実に検出することができる。
【0084】
また、実施形態のプラズマ源1において、ICP着火検出部71(検出部)は、判定区間L1,L2,…のうち、共振回路5にインバータ回路4の出力信号の供給を開始した時刻を含む判定区間において、閾値Lthを、他の時間間隔における閾値Lthに対して低く設定する。したがって、電源投入直後であっても、ICPが断続的に発生しているかを確実に検出することができる。
【0085】
また、実施形態のプラズマ源1において、閾値Lthは、共振回路5にインバータ回路4の出力信号を供給し続けた場合に、インバータ回路4を構成する回路素子が破損しない値に設定される。したがって、断続的にICPが発生する条件であっても、電源の供給を継続させて、回路素子が破損しない範囲でICPの発生を継続させることができる。
【0086】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上述した実施の形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、この実施の形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1 プラズマ源
2 整流・平滑回路
3 昇降圧チョッパ
4 インバータ回路
5 共振回路
7 制御部
71 ICP着火検出部(検出部)
711 計時処理部
712 位相差算出部
713 位相差比較部
714 消弧時間比率算出部
72 電源制御部
721 主電源状態監視部
722 高周波電源供給制御部
723 昇降圧チョッパ出力制御部
8 プラズマ発生部(放電部)
80 放電管(放電部)
81 放電コイル(アンテナ)
9 商用交流電源(主電源)
L1,L2 判定区間
Lth 閾値
θ 位相差
θth 判定閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6