(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044727
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240326BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C23C14/06 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150441
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】518019651
【氏名又は名称】株式会社表面・界面工房
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】多賀 康訓
【テーマコード(参考)】
4F100
4K029
【Fターム(参考)】
4F100AA17C
4F100AA17D
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4K029DC03
4K029DC05
4K029DC09
4K029DC39
(57)【要約】
【課題】近赤外線の入射、及び、放射による熱の流出を抑制することができる積層体を提供すること。
【解決手段】積層体は、透明基板と、第1膜と、前記透明基板と前記第1膜との間に設けられた第2膜と、を備える積層体である。前記第1膜は、金属酸化物を含む膜、若しくは、前記金属酸化物及びフッ素樹脂を含む膜である。前記第2膜は、金属又はITOを含む膜である。前記第2膜における前記金属は、例えば、Ag、Pd、Au、Al、Bi、Cr、W、Ni、Ti、Fe、及びZnから成る群から選択される1種以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
第1膜と、
前記透明基板と前記第1膜との間に設けられた第2膜と、
を備える積層体であって、
前記第1膜は、金属酸化物を含む膜、若しくは、前記金属酸化物及びフッ素樹脂を含む膜であり、
前記第2膜は、金属又はITOを含む膜である、
積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の積層体であって、
前記第2膜における前記金属は、Ag、Pd、Au、Al、Bi、Cr、W、Ni、Ti、Fe、及びZnから成る群から選択される1種以上である、
積層体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層体であって、
前記第1膜における前記金属酸化物は、CeO2、ZrO2、Nb2O5、SiO2、Al2O3、SiON、TiO2、Ce2O3、Ta2O5、ITO、及びWO3から成る群から選択される1種以上である、
積層体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の積層体であって、
前記第1膜はCeO2を含む膜であり、
前記第2膜はAgを含む膜である、
積層体。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の積層体であって、
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体及びポリフッ化ビニリデンから成る群から選択される1種以上である、
積層体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の積層体であって、
前記透明基板と前記第2膜との間に第3膜をさらに備え、
前記第3膜は、金属酸化物を含む膜、若しくは、前記金属酸化物及びフッ素樹脂を含む膜である、
積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の積層体であって、
前記第3膜における前記金属酸化物は、CeO2、ZrO2、Nb2O5、SiO2、Al2O3、SiON、TiO2、Ce2O3、Ta2O5、ITO、及びWO3から成る群から選択される1種以上である、
積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光に含まれる近赤外線は、窓ガラスを通して室内に入射し、室内の温度を上昇させる。近赤外線の入射量が多いと、室内を冷房するために多くのエネルギーを要する。また、室内を暖房しているとき、室内の熱が、放射により、窓ガラスを通して室外に流れる。室外に流れる熱量が多いと、室内を暖房するために多くのエネルギーを要する。
【0003】
近赤外線の入射、又は、放射による熱の流出を防止するために、窓ガラス等に機能性の膜を設ける技術が知られている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-246831号公報
【特許文献2】特許第5846203号公報
【特許文献3】特表2017-530074号公報
【特許文献4】特表2009-538815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、近赤外線の入射、及び、放射による熱の流出を十分に抑制することは困難であった。本開示の1つの局面では、近赤外線の入射、及び、放射による熱の流出を抑制することができる積層体を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、透明基板と、第1膜と、前記透明基板と前記第1膜との間に設けられた第2膜と、を備える積層体である。前記第1膜は、金属酸化物を含む膜、若しくは、前記金属酸化物及びフッ素樹脂を含む膜である。前記第2膜は、金属又はITOを含む膜である。
【0007】
本開示の1つの局面である積層体は、近赤外線の入射、及び、放射による熱の流出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の積層体の構成を表す断面図である。
【
図2】第2実施形態の積層体の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
1.積層体1の構成
積層体1は、例えば、
図1に示すように、透明基板3と、第1膜5と、第2膜7と、を備える。
【0010】
(1-1)透明基板3
透明基板3は、例えば、透明な樹脂から成るシートである。透明基板3として、例えば、二軸延伸ポリエステルフィルム等が挙げられる。二軸延伸ポリエステルフィルムの市販品として、例えば、東レフィルム加工株式会社製のルミラー(登録商標)等が挙げられる。
【0011】
透明基板3として、例えば、PC(Poly Carbonate)フィルム、PMMA(Poly Methyl Meth Acrylate)フィルム、EP(Epoxy resin)フィルム等が挙げられる。透明基板3の膜厚は特に限定されないが、10μm以上300μm以下であることが好ましく、20μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。透明基板3の膜厚が10μm以上300μm以下である場合、ロール/ロールスパッタ法により第1膜5及び第2膜7を成膜することが容易になる。
【0012】
本明細書において、膜厚の測定方法は、キーエンス社の形状解析レーザー顕微鏡(VK-X1100)を用いる測定方法である。
透明基板3の可視光透過率VIS-Tは、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。可視光透過率VIS-Tとは、波長550nmにおける分光透過率である。可視光透過率VIS-Tの単位は%である。可視光透過率VIS-Tの測定方法は、日立製作所製の自記分光光度計U-4100を用いる方法である。
【0013】
(1-2)第1膜5
第1膜5は、透明基板3の上に形成された複数の膜のうちの一部である。第1膜5は、金属酸化物を含む膜、若しくは、金属酸化物及びフッ素樹脂を含む膜である。第1膜5は、積層体1の可視光透過率VIS-Tを向上させる効果を奏する。積層体1の可視光透過率VIS-Tは、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。第1膜5は、例えば、誘電体膜である。第1膜5は、例えば、第2膜7よりも屈折率が大きい膜である。
【0014】
第1膜5における金属酸化物は、CeO2、ZrO2、Nb2O5、SiO2、Al2O3、SiON、TiO2、Ce2O3、Ta2O5、ITO、及びWO3から成る群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0015】
第1膜5における金属酸化物が上記のものである場合、積層体1の可視光透過率VIS-Tを向上させる効果が一層高い。第1膜5における金属酸化物として、CeO2が特に好ましい。金属酸化物がCeO2である場合、積層体1の可視光透過率VIS-Tを向上させる効果が特に高い。
【0016】
第1膜5におけるフッ素樹脂は、第1膜5をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリングターゲットの機械的強度を向上させる効果を奏する。
第1膜5におけるフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体及びポリフッ化ビニリデンから成る群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0017】
フッ素樹脂が上記のものである場合、スパッタリングターゲットの機械的強度を向上させる効果が一層高い。第1膜5におけるフッ素樹脂として、PTFEが特に好ましい。フッ素樹脂がPTFEである場合、スパッタリングターゲットの機械的強度を向上させる効果が特に高い。
【0018】
第1膜5は、金属酸化物、フッ素樹脂、並びに、In、Sn、及びBiから成る群から選択される1種以上の金属を含む膜であってもよい。この場合、スパッタリングターゲットの機械的強度が一層向上する。
【0019】
第1膜5における金属酸化物以外の成分の重量比は、20wt%以下が好ましく、15wt%以下であることが一層好ましい。金属酸化物以外の成分は、例えば、フッ素樹脂である。あるいは、金属酸化物以外の成分は、フッ素樹脂と、In、Sn、及びBiから成る群から選択される1種以上の金属とである。
【0020】
第1膜5の膜厚は、5nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることがさらに好ましい。第1膜5の膜厚の測定方法は、キーエンス社の形状解析レーザー顕微鏡(VK-X1100)を用いる測定方法である。第1膜5の膜厚が5nm以上100nm以下である場合、積層体1の可視光透過率VIS-Tを向上させる効果が一層高い。
【0021】
(1-3)第2膜7
第2膜7は、透明基板3の上に形成された複数の膜のうちの一部である。第2膜7は、透明基板3と第1膜5との間に設けられた膜である。第1実施形態では、第2膜7は透明基板3と接するとともに、第1膜5とも接している。
【0022】
第2膜7は、金属又はITOを含む膜である。第2膜7は、近赤外線を遮蔽する効果と、熱の放射を抑制する効果とを奏する。
第2膜7における金属は、Ag、Pd、Au、Al、Bi、Cr、W、Ni、Ti、Fe、及びZnから成る群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0023】
第2膜7における金属が上記のものである場合、近赤外線を遮蔽する効果と、熱の放射を抑制する効果とが一層高い。第2膜7における金属として、Ag、又は、Agを主成分とする合金が特に好ましい。第2膜7における金属がAg、又は、Agを主成分とする合金である場合、近赤外線を遮蔽する効果と、熱の放射を抑制する効果とが特に高い。Agを主成分とする合金として、例えば、AgとPdとの合金が挙げられる。合金におけるAg以外の金属の重量比は、例えば、0wt%を超え、10wt%以下である。
【0024】
第2膜7の膜厚は、5nm以上50nm以下であることが好ましく、5nm以上30nm以下であることがさらに好ましい。第2膜7の膜厚の測定方法は、キーエンス社の形状解析レーザー顕微鏡(VK-X1100)を用いる測定方法である。第2膜7の膜厚が5nm以上である場合、近赤外線を遮蔽する効果と、熱の放射を抑制する効果とが一層高い。第2膜7の膜厚が50nm以下である場合、積層体1の可視光透過率VIS-Tが低下し難い。
【0025】
2.積層体1の製造方法
透明基板3の上に、第2膜7及び第1膜5を順次成膜することで、積層体1を製造することができる。第2膜7及び第1膜5を成膜する方法として、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。積層体1の生産性、及び均一性を確保するためには、スパッタリング法が好ましい。
【0026】
スパッタリング法として、例えば、第2膜7のスパッタリングターゲットと、第1膜5のスパッタリングターゲットとが設置された装置内で、透明基板3を搬送させながらスパッタリングを行う方法がある。装置内には、成膜を行う真空チャンバーがある。真空チャンバー内にはスパッタリング時に用いる雰囲気ガスが導入されている。スパッタリングターゲットに負の電位を印加することにより装置内にプラズマを発生させてスパッタリングを行う。
【0027】
スパッタリング法の場合、第2膜7及び第1膜5の膜厚を調整する方法は特に限定されない。第2膜7及び第1膜5の膜厚を調整する方法として、例えば、ターゲットへの投入電力や雰囲気ガスの条件を調整し、成膜速度を変化させることで膜厚を調整する方法や、透明基板3の搬送速度を調整することで膜厚を調整する方法等、公知の方法が挙げられる。
【0028】
スパッタリングターゲットは、セラミックターゲットであってもよいし、金属ターゲットであってもよい。雰囲気ガスの条件は特に限定されない。雰囲気ガスとして、例えば、Arガス、O2ガス、及びN2ガス等から、目的とする膜に応じて、ガス種、混合比を適宜選択することができる。また、真空チャンバーに導入するガスは、Arガス、O2ガス、及びN2ガスの他に任意の成分を含んでいてもよい。
【0029】
3.積層体1が奏する効果
(3-1)積層体1は、第2膜7を備えることにより、近赤外線を遮蔽する効果と、熱の放射を抑制する効果とを奏する。
【0030】
例えば、積層体1を住宅、ビル、移動体等の窓ガラスに適用した場合、太陽光に含まれる近赤外線が室内に入射することを抑制できる。また、暖房により室内の温度が高い場合、室内の熱が放射により室外に流れることを抑制できる。
【0031】
(3-2)積層体1は、第1膜5を備えることにより、可視光透過率VIS-Tが高い。そのため、例えば、住宅、ビル、移動体等の窓ガラス等に適用することができる。
4.積層体1の使用態様
例えば、積層体1を、住宅、ビル、移動体等の窓ガラスの表面に貼り付けることができる。移動体として、例えば、車両、船舶、航空機等が挙げられる。
【0032】
<第2実施形態>
1.第1実施形態との相違点
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0033】
前述した第1実施形態では、
図1に示すように、第2膜7は透明基板3と接していた。これに対し、第2実施形態では、
図2に示すように、透明基板3と第2膜7との間に第3膜9をさらに備える積層体101である点で、第1実施形態と相違する。
【0034】
第3膜9は、透明基板3の上に形成された複数の膜のうちの一部である。第3膜9は、金属酸化物を含む膜、若しくは、金属酸化物及びフッ素樹脂を含む膜である。第3膜9は、透明基板3に含まれる水や溶剤等が第2膜7に侵入することを抑制する効果(以下ではバリア効果とする)を奏する。第3膜9がバリア効果を奏することにより、第2膜7の密着性が向上する。
【0035】
第3膜9における金属酸化物は、CeO2、ZrO2、Nb2O5、SiO2、Al2O3、SiON、TiO2、Ce2O3、Ta2O5、ITO、及びWO3から成る群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0036】
第3膜9における金属酸化物が上記のものである場合、第3膜9のバリア効果が一層高い。第3膜9におけるフッ素樹脂は、第3膜9をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリングターゲットの機械的強度を向上させる効果を奏する。
【0037】
第3膜9におけるフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体及びポリフッ化ビニリデンから成る群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0038】
フッ素樹脂が上記のものである場合、スパッタリングターゲットの機械的強度を向上させる効果が一層高い。第3膜9におけるフッ素樹脂として、PTFEが特に好ましい。フッ素樹脂がPTFEである場合、スパッタリングターゲットの機械的強度を向上させる効果が特に高い。
【0039】
第3膜9は、金属酸化物、フッ素樹脂、並びに、In、Sn、及びBiから成る群から選択される1種以上の金属を含む膜であってもよい。この場合、スパッタリングターゲットの機械的強度が一層向上する。
【0040】
第3膜9の膜厚は、1nm以上1000nm以下であることが好ましく、30nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。第3膜9の膜厚の測定方法は、キーエンス社の形状解析レーザー顕微鏡(VK-X1100)を用いる測定方法である。第3膜9の膜厚が1nm以上である場合、バリア効果が一層高い。第3膜9の膜厚が1000nm以下である場合、積層体1の可視光透過率VIS-Tが低下し難い。
【0041】
2.積層体101の製造方法
透明基板3の上に、第3膜9、第2膜7及び第1膜5を順次成膜することで、積層体101を製造することができる。第3膜9、第2膜7及び第1膜5を成膜する方法として、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。積層体101の生産性、及び均一性を確保するためには、スパッタリング法が好ましい。
【0042】
スパッタリング法として、例えば、第3膜9のスパッタリングターゲットと、第2膜7のスパッタリングターゲットと、第1膜5のスパッタリングターゲットとが設置された装置内で、透明基板3を搬送させながらスパッタリングを行う方法がある。装置内には、成膜を行う真空チャンバーがある。真空チャンバー内にはスパッタリング時に用いる雰囲気ガスが導入されている。スパッタリングターゲットに負の電位を印加することにより装置内にプラズマを発生させてスパッタリングを行う。
【0043】
スパッタリング法の場合、第3膜9、第2膜7及び第1膜5の膜厚を調整する方法は特に限定されない。第3膜9、第2膜7及び第1膜5の膜厚を調整する方法として、例えば、ターゲットへの投入電力や雰囲気ガスの条件を調整し、成膜速度を変化させることで膜厚を調整する方法や、透明基板3の搬送速度を調整することで膜厚を調整する方法等、公知の方法が挙げられる。
【0044】
スパッタリングターゲットは、セラミックターゲットであってもよいし、金属ターゲットであってもよい。雰囲気ガスの条件は特に限定されない。雰囲気ガスとして、例えば、Arガス、O2ガス、及びN2ガス等から、目的とする膜に応じて、ガス種、混合比を適宜選択することができる。また、真空チャンバーに導入するガスは、Arガス、O2ガス、及びN2ガスの他に任意の成分を含んでいてもよい。
【0045】
3.積層体101が奏する効果
積層体101は、第1実施形態の積層体1が奏する効果を奏し、さらに、以下の効果を奏する。積層体101は、第3膜9を備える。第3膜9はバリア効果を奏する。そのため、第2膜7の密着性が高い。
【0046】
4.積層体101の使用態様
例えば、積層体101を、住宅、ビル、移動体等の窓ガラスの表面に貼り付けることができる。移動体として、例えば、車両、船舶、航空機等が挙げられる。
【0047】
<実施例>
1.実施例1の積層体1の製造
透明基板3として、東レフィルム加工株式会社製のルミラーを用意した。ルミラーは、二軸延伸ポリエステルフィルムである。透明基板3の膜厚は100μmであった。透明基板3の上に、スパッタリング法により、第2膜7及び第1膜5を順次成膜することで、
図1に示す形態の積層体1を製造した。スパッタリング法は、RFマグネトロンスパッタ法であった。スパッタリングの条件は以下のとおりであった。
【0048】
スパッタガス圧:1Pa
スパッタガス:Ar(アルゴン)
スパッタ電力:4.4W/cm2
ターゲット基板間距離:8cm
第2膜7の成膜に使用したスパッタリングターゲットは、表1に示すように、Agから成るものであった。表1における「Ag」は、スパッタリングターゲットにおけるAgの重量比が100wt%であることを意味する。そのため、第2膜7は、Agから成る膜であった。なお、後述する表2~5においても、「組成」の列に単一の元素が記載されている場合、スパッタリングターゲットにおけるその単一の元素の重量比が100wt%であることを意味する。
【0049】
【0050】
第1膜5の成膜に使用したスパッタリングターゲットは、表1に示すように、CeO2から成るものであった。すなわち、スパッタリングターゲットにおけるCeO2の重量比は100wt%であった。そのため、第1膜5は、CeO2から成る膜であった。
CeO2から成るスパッタリングターゲットは、以下のように製造した。CeO2粉末(ニッキ株式会社製 平均粒径5μm)を用意した。CeO2粉末を成形圧1トン/cm2で加圧し、直径3インチ、厚さ5mmに成形し、成形加工物を得た。成形加工物を、常圧、200℃の加熱条件で3時間焼結し、焼結体であるスパッタリングターゲットを得た。第2膜7の膜厚は10nmであった。第1膜5の膜厚は30nmであった。
【0051】
2.実施例2~30の積層体1の製造
基本的には実施例1と同様にして、実施例2~30の積層体1を製造した。ただし、第2膜7の成膜に使用したスパッタリングターゲットは、表1~表4における「第2膜7」の列のうち、「組成」の列に記載した組成を有するものであった。第2膜7は、その成膜に用いたスパッタリングターゲットと同様の組成を有する。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
また、第2膜7の膜厚は、表1~表4における「第2膜7」の列のうち、「膜厚」の列に記載した膜厚であった。また、第1膜5の成膜に使用したスパッタリングターゲットは、表1~表4における「第1膜5」の列のうち、「組成」の列に記載した組成を有するものであった。第1膜5は、その成膜に用いたスパッタリングターゲットと同様の組成を有する。
【0056】
また、第1膜5の膜厚は、表1~表4における「第1膜5」の列のうち、「膜厚」の列に記載した膜厚であった。表1における「Ag-5wt%Pd」は、Pdの重量比が5wt%であり、残部がAgである組成を意味する。
【0057】
表1~表4における「X-12.3wt%PTFE-1.3wt%In」は、PTFEの重量比が12.3wt%であり、Inの重量比が1.3wt%であり、残部がXである組成を意味する。Xは、CeO2、ZrO2、Nb2O5、SiO2、Al2O3、TiO2、Cr2O3、Ta2O5、又はWO3である。
【0058】
表3における「InO2-5wt%SnO2-12.3wt%PTFE-1.3wt%In」は、SnO2の重量比が5wt%であり、PTFEの重量比が12.3wt%であり、Inの重量比が1.3wt%であり、残部がInO2である組成を意味する。
【0059】
「X-12.3wt%PTFE-1.3wt%In」の組成を有するスパッタリングターゲットは、以下のように製造した。
Xの粉末とPTFEの粉末とを、重量比率7:1で混合し、さらにInを混合した。Inの重量は、X、PTFE、及びInの総量重を100wt%としたときに、Inが1wt%となる重量であった。Xの粉末の平均粒子径は5μmであった。PTFEの粉末の平均粒子径は3μmであった。その後、混合物を成形圧1トン/cm2で加圧し、直径3インチ、厚さ5mmに成形し、成形加工物を得た。成形加工物を、常圧、200℃の加熱条件で3時間焼結し、焼結体であるスパッタリングターゲットを得た。
【0060】
「InO2-5wt%SnO2-12.3wt%PTFE-1.3wt%In」の組成を有するスパッタリングターゲットは、以下のように製造した。
InO2の粉末と、SnO2の粉末と、PTFEの粉末とを混合し、さらにInを混合した。混合比は、SnO2の重量比が5wt%であり、PTFEの重量比が12.3wt%であり、Inの重量比が1.3wt%であり、残部がInO2となる混合比であった。その後、混合物を成形圧1トン/cm2で加圧し、直径3インチ、厚さ5mmに成形し、成形加工物を得た。成形加工物を、常圧、200℃の加熱条件で3時間焼結し、焼結体であるスパッタリングターゲットを得た。
【0061】
3.実施例31の積層体101の製造
基本的には実施例1と同様にして、実施例31の積層体101を製造した。ただし、実施例31では、透明基板3の上に、スパッタリング法により、第3膜9、第2膜7及び第1膜5を順次成膜した。実施例31の積層体101は、
図2に示す形態を有する。
【0062】
第3膜9の成膜に使用したスパッタリングターゲットは、表5に示すように、「SiO2-PTFE」の組成を有するものであった。
【0063】
【0064】
「SiO2-PTFE」は、SiO2とPTFEとから成り、SiO2とPTFEとの重量比が7:1である組成を意味する。第3膜9は、「SiO2-PTFE」のスパッタリングターゲットと同様の組成を有する。
「SiO2-PTFE」のスパッタリングターゲットは、以下のように製造した。SiO2の粉末と、PTFEの粉末とを混合した。混合比は、SiO2とPTFEとの重量比が7:1となる混合比であった。その後、混合物を成形圧1トン/cm2で加圧し、直径3インチ、厚さ5mmに成形し、成形加工物を得た。成形加工物を、常圧、200℃の加熱条件で3時間焼結し、焼結体であるスパッタリングターゲットを得た。
【0065】
第2膜7の成膜に使用したスパッタリングターゲットは、表5に示すように、Agから成るものであった。そのため、第2膜7は、Agから成る膜であった。
第1膜5の成膜に使用したスパッタリングターゲットは、表5に示すように、「CeO2-12.3wt%PTFE-1.3wt%In」の組成を有するものであった。そのため、第1膜5は、「CeO2-12.3wt%PTFE-1.3wt%In」のスパッタリングターゲットと同様の組成を有する。
【0066】
第3膜9の膜厚は30nmであった。第2膜7の膜厚は10nmであった。第1膜5の膜厚は10nmであった。
【0067】
4.実施例32~38の積層体101の製造
基本的には実施例31と同様にして、実施例32~38の積層体101を製造した。ただし、第3膜9の成膜に使用したスパッタリングターゲットは、表5における「第3膜9」の列のうち、「組成」の列に記載した組成を有するものであった。第3膜9は、その成膜に用いたスパッタリングターゲットと同様の組成を有する。
【0068】
表5における「X-PTFE」は、XとPTFEとから成り、XとPTFEとの重量比が7:1である組成を意味する。Xは、SiO2、CeO2、Al2O3、又はCeO2である。「X-PTFE」のスパッタリングターゲットは、「SiO2-PTFE」のスパッタリングターゲットと同様の方法で製造した。
【0069】
表5における「SiON-PTFE」の場合、スパッタリングターゲットはSi3N4とPTFEとから成るものである。スパッタガスはO2を含んでいた。「SiON-PTFE」の場合、第3膜9は、SiONとPTFEとを含んでいた。SiONにおけるOとNとのモル比は、1:1には限定されない。
実施例32~38において、第3膜9の膜厚は、「第3膜9」の列のうち、「膜厚」の列に記載された膜厚であった。
【0070】
5.比較例1~4の積層体の製造
基本的には実施例1と同様にして、比較例1、3の積層体を製造した。ただし、比較例1では、第1膜5を成膜しなかった。また、比較例3では、第2膜7を成膜しなかった。
【0071】
基本的には実施例2と同様にして、比較例2、4の積層体を製造した。ただし、比較例2では、第1膜5を成膜しなかった。また、比較例4では、第2膜7を成膜しなかった。
【0072】
6.積層体の評価
各実施例及び各比較例の積層体について、上述した可視光透過率VIS-Tと、近赤外光遮蔽率IR-Sと、表面温度TSとを測定した。また、実施例31~38について、JIS Z 0208に基づく透湿試験法(カップ法)により、WVP(Water Vapor Permeability、水蒸気透湿性)を測定した。WVPの単位はg/m2/dayである。
【0073】
近赤外光遮蔽率IR-Sは、波長1000nmの近赤外光の遮蔽率である。近赤外光遮蔽率IR-Sの測定方法は、日立製作所製の自記分光光度計U-4100を用いる方法である。
【0074】
表面温度TSは、以下のように測定される値である。Al製ヒートシンクの温度を50℃に保つ。ヒートシンクのサイズは、4cm×4cm×1cmである。ヒートシンクの上に積層体を隙間なく貼り合せる。積層体の向きは、透明基板3がヒートシンクに接する向きである。積層体のうち、第1膜5の側の表面温度をTS(℃)とする。表面温度TSは、HORIBA製の放射温度計IT 550Lで測定する。表面温度TSは、積層体の保熱特性の指標である。表面温度TSが低いほど、保熱特性が優れている。積層体が熱を放射し難いほど、保熱特性が優れ、表面温度TSが低い。
【0075】
可視光透過率VIS-Tと、近赤外光遮蔽率IR-Sと、表面温度TSとの測定結果を表1~表5に示す。各実施例の積層体では、可視光透過率VIS-Tが高く、近赤外光遮蔽率IR-Sが高く、表面温度TSが低かった。
【0076】
実施例1は、比較例1に比べて、可視光透過率VIS-Tが高く、表面温度TSが低かった。また、実施例2は、比較例2に比べて、可視光透過率VIS-Tが高く、表面温度TSが低かった。このことは、第1膜5が、可視光透過率VIS-Tを向上させ、表面温度TSを低下させることを示している。
【0077】
実施例1は、比較例3に比べて、近赤外光遮蔽率IR-Sが高く、表面温度TSが低かった。また、実施例2は、比較例4に比べて、近赤外光遮蔽率IR-Sが高く、表面温度TSが低かった。このことは、第2膜7が、近赤外光遮蔽率IR-Sを向上させ、表面温度TSを低下させることを示している。
【0078】
実施例2、12~20は、第1膜5における金属酸化物の種類のみにおいて相違し、他の点では一致する。実施例2は、実施例12~20に比べて、可視光透過率VIS-Tが一層高かった。この結果は、第1膜5における金属酸化物がCeO2である場合、可視光透過率VIS-Tが一層高いことを示す。
【0079】
実施例2、21~30は、第2膜7における金属の種類のみにおいて相違し、他の点では一致する。実施例2は、実施例21~30に比べて、可視光透過率VIS-Tが一層高く、表面温度TSが一層低かった。この結果は、第2膜7における金属がAgである場合、可視光透過率VIS-Tが一層高く、表面温度TSが一層低いことを示す。
【0080】
WVPの測定結果を表5に示す。実施例31~38のWVPは小さかった。その理由は、第3膜9のバリア効果が高いためであると推測される。なお、透明基板3のみで測定したWVPは2~3g/m2/dayであった。
【0081】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0082】
(1)第1実施形態において、透明基板3と第2膜7との間に他の膜が存在してもよい。第1、第2実施形態において、第2膜7と第1膜5との間に他の膜が存在してもよい。第2実施形態において、第3膜9と第2膜7との間に他の膜が存在してもよい。第2実施形態において、透明基板3と第3膜9との間に他の膜が存在してもよい。
【0083】
(2)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0084】
(3)上述した積層体1、101の他、当該積層体1、101を構成要素とするシステム、積層体1、101の製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
[本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
透明基板と、
第1膜と、
前記透明基板と前記第1膜との間に設けられた第2膜と、
を備える積層体であって、
前記第1膜は、金属酸化物を含む膜、若しくは、前記金属酸化物及びフッ素樹脂を含む膜であり、
前記第2膜は、金属又はITOを含む膜である、
積層体。
[項目2]
項目1に記載の積層体であって、
前記第2膜における前記金属は、Ag、Pd、Au、Al、Bi、Cr、W、Ni、Ti、Fe、及びZnから成る群から選択される1種以上である、
積層体。
[項目3]
項目1又は2に記載の積層体であって、
前記第1膜における前記金属酸化物は、CeO2、ZrO2、Nb2O5、SiO2、Al2O3、SiON、TiO2、Ce2O3、Ta2O5、ITO、及びWO3から成る群から選択される1種以上である、
積層体。
[項目4]
項目1~3のいずれか1つの項目に記載の積層体であって、
前記第1膜はCeO2を含む膜であり、
前記第2膜はAgを含む膜である、
積層体。
[項目5]
項目1~4のいずれか1つの項目に記載の積層体であって、
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体及びポリフッ化ビニリデンから成る群から選択される1種以上である、
積層体。
[項目6]
項目1~5のいずれか1つの項目に記載の積層体であって、
前記透明基板と前記第2膜との間に第3膜をさらに備え、
前記第3膜は、金属酸化物を含む膜、若しくは、前記金属酸化物及びフッ素樹脂を含む膜である、
積層体。
【0085】
[項目7]
項目6に記載の積層体であって、
前記第3膜における前記金属酸化物は、CeO2、ZrO2、Nb2O5、SiO2、Al2O3、SiON、TiO2、Ce2O3、Ta2O5、ITO、及びWO3から成る群から選択される1種以上である、
積層体。
【符号の説明】
【0086】
1、101…積層体、3…透明基板、5…第1膜、7…第2膜、9…第3膜