(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004475
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】流体カートリッジのためのプライミング装置とプライミング方法、と流体分注装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20240109BHJP
B01J 4/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01N35/10 A
B01J4/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101236
(22)【出願日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】17/809,312
(32)【優先日】2022-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】723005698
【氏名又は名称】船井電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148460
【弁理士】
【氏名又は名称】小俣 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100168125
【弁理士】
【氏名又は名称】三藤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】キャリザーズ・アダム ディー.
(72)【発明者】
【氏名】デボード・ブルース エー.
(72)【発明者】
【氏名】フォルトゥナ セカンド・レイモンド ジョーセフ
(72)【発明者】
【氏名】ギブソン・ブルース ディー.
(72)【発明者】
【氏名】マーラ サード・マイケル エー.
(72)【発明者】
【氏名】ミルゲイト サード・ロバート ダブリュー.
【テーマコード(参考)】
2G058
4G068
【Fターム(参考)】
2G058BB02
2G058BB08
2G058EB11
2G058FA03
2G058FB05
4G068AA01
4G068AB01
4G068AB11
4G068AC17
4G068AD23
(57)【要約】
【課題】流体カートリッジのためのプライミング装置、流体カートリッジをプライミングするよう構成された流体分注装置、及び流体カートリッジをプライミングするための方法を提供する。
【解決手段】プライミング装置は流体カートリッジのための衝撃機構を含み、流体カートリッジは背圧装置を備えず、流体リザーバと、流体リザーバと流体連通している吐出ヘッドチップとを備える。プライミング機構は、特に、流体カートリッジが最少量の流体で充填されるとき、精巧な真空装置又は吸引装置を用いることなく、吐出ヘッドチップをプライミングする効果的且つ効率的な手段を提供する。上記の装置及び方法は、頂部開放型カートリッジ及び/又は背圧装置を備えないカートリッジの使用を可能とし、これにより、充填済み流体カートリッジの使用ではなく、ユーザにより選択される流体の使用を可能とする。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体カートリッジのための衝撃機構を含む、前記流体カートリッジのためのプライミング装置であって、
前記流体カートリッジは背圧装置を備えず、流体リザーバと、前記流体リザーバと流体連通している吐出ヘッドチップとを備える
プライミング装置。
【請求項2】
前記流体カートリッジは頂部開放型流体カートリッジである、
請求項1に記載のプライミング装置。
【請求項3】
前記衝撃機構は手動衝撃機構である、
請求項1に記載のプライミング装置。
【請求項4】
前記衝撃機構は手動衝撃機構である、
請求項1に記載のプライミング装置。
【請求項5】
前記衝撃機構はリニアソレノイドの衝撃ロッドを含む、
請求項4に記載のプライミング装置。
【請求項6】
前記衝撃機構は、流体分注装置のフレーム部材に取り付けられた衝撃ヘッドを含む、
請求項1に記載のプライミング装置。
【請求項7】
前記衝撃機構は、流体カートリッジホルダに取り付けられたバネ付勢式プランジャーを含む、
請求項1に記載のプライミング装置。
【請求項8】
吐出ヘッドチップヒータを更に含む、
請求項1に記載のプライミング装置。
【請求項9】
前記吐出ヘッドチップヒータは前記吐出ヘッドチップ上に設けられる、
請求項8に記載のプライミング装置。
【請求項10】
流体分注装置であって、
流体リザーバと、前記流体リザーバと流体連通している吐出ヘッドチップとを備え、背圧装置を備えない流体カートリッジと、
流体カートリッジを第1の方向に基板を横切って移動させるための流体カートリッジ並進機構と、
流体カートリッジをプライミングするよう構成された、前記流体分注装置のフレーム部材に取り付けられた衝撃ヘッドと
を含む、
流体分注装置。
【請求項11】
前記衝撃ヘッドはリニアソレノイドの衝撃ロッドを含む、
請求項10に記載の流体分注装置。
【請求項12】
前記衝撃機構はバネ付勢式プランジャーを含む、
請求項10に記載の流体分注装置。
【請求項13】
流体リザーバと、前記流体リザーバと流体連通している吐出ヘッドチップとを備え、背圧装置を備えない流体カートリッジを提供することと、
衝撃機構を前記流体カートリッジの側壁に衝突させることと
を含む、
前記流体カートリッジをプライミングするための方法。
【請求項14】
吐出ヘッドチップを加熱することを更に含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記衝撃機構は、前記流体カートリッジを収容する流体分注装置のフレームに取り付けられる、
請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記衝撃機構は、前記流体カートリッジの前記側壁に衝突させるためのバネ付勢式プランジャーを備えるカートリッジホルダを含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記衝撃機構はリニアソレノイドと衝撃ロッドとを含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項18】
流体リザーバと、前記流体リザーバと流体連通している吐出ヘッドチップとを備え、背圧装置を備えない流体カートリッジを提供することと、
前記流体カートリッジを前記吐出ヘッドチップのノズルプレートにより定義される面と垂直の方向に急加速させることと
を含む、
前記流体カートリッジをプライミングするための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体吐出装置に関するものであり、特に、流体吐出装置のための吐出ヘッドチップをプライミングするための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において特に、分析のための自動化された試料調製の必要性がある。分析は、比色分析、又は顕微鏡下で試料をより好ましく観察するため、試料の着色を要する可能性がある。そのような分析には、薬剤試料分析、血液試料分析等を含む。例えば、血液の分析において、血液は個人の健康を判定するために用いられるいくつかの異なる要因を提供するため分析される。血液試料分析を要する多くの患者がいる場合、分析のため試料を調製する手順は非常に時間がかかるものとなる。薬物スクリーニングといったアッセイ解析には、試料に対する効果及び性能を評価するため、微量の標的試薬を堆積させることが望ましい。従来、手動又は電気機械的に作動するピペットが、これらアッセイ試薬中に微量物質を堆積させるために用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
分析速度を上げて、より大量の試料を扱うために、自動流体分注システムが開発されている。自動化システムでは度々、流体噴射ヘッドチップを用いることにより少量の複数流体を分注することを要する。このため、分析すべき大量の試料を迅速に処理することのできる流体分注システムは、非常に精巧で高価である。
【0004】
流体分注システムのコストを下げるため、ガラススライド上又はマイクロウェルプレート14のウェル12(
図2)内の試料を処理するために従来のインクジェット印刷装置の構成を用いることのできる流体吐出装置10(
図1)が開発されている。装置10は、流体吐出カートリッジと、スライド又はマイクロウェルプレートを収容するトレイ18を移動させるための機構とを収容する筐体16を含む。流体吐出装置10において用いられる流体吐出カートリッジは、カートリッジの流体リザーバ内の流体22と流路で繋がれた吐出器アレイ20を備える。
【0005】
従来のインクジェットプリンタカートリッジは、カートリッジに取り付けられた吐出ヘッドチップ40から流体22が垂れたり漏れたりすることなくカートリッジ内に多量の噴射流体を格納することを可能とする、ブラダ又はフォームやフェルトといった吸収材である背圧装置を含む。背圧装置の特性により、吐出器アレイ20上のノズル24内の流体22は、
図3に示すような吐出器アレイ20の外面28に対して凹メニスカス26を維持する。従って、流体中の気泡を除去するため、及び、流体を吐出ヘッドチップ中の流体経路を通じて引き出すため、背圧を用いることにより吐出器アレイ20をプライミングすることが一般的な慣習である。また、吐出ヘッドチップに衝撃を与えると背圧装置を収容する流体カートリッジ内に気泡を取り込んでしまうことから、輸送及び取り扱い中における突然の衝撃からインクジェットプリンタカートリッジを保護することも一般的な慣習である。
【0006】
しかし、試料分析のための装置10では、カートリッジ本体32に取り付けられる流体吐出ヘッドチップ40中の流体吐出器アレイ20a、20bのための流体リザーバを提供するため、背圧装置を備えない1つ以上の空チャンバ34a、34bを備えるカートリッジ本体32を有してエンドユーザにて充填可能な流体カートリッジ30が用いられる(
図4~
図5)。エンドユーザにて充填可能な流体カートリッジ30は、分析目的の様々な少量の流体でこのエンドユーザにて充填可能な流体カートリッジ30の空チャンバ34a、34bを充填することを可能とする。その結果、真空源が利用可能でないため、又は、噴射流体の相互汚染を引き起こす可能性があるため、吐出器アレイ20a、20bをプライミングするために背圧を加えることは非実用的であり望ましくない。このため、
図6に示すように、分析目的といった噴射流体の非常に正確な用量又は液滴37を分注するためには、吐出器アレイ20が確実にプライミングされることを保証する必要がある。そのような流体吐出装置10で用いられるエンドユーザにより充填可能な流体カートリッジ30のための、流体特性、吐出器アレイ20の自然発生的なプライミングに対する流体の抵抗、及びカートリッジ30内の低ボリュームの流体に応じた、信頼できるプライミング機構が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記を鑑み、本発明の実施形態は、流体カートリッジのためのプライミング装置、流体カートリッジをプライミングするよう構成された流体分注装置、及び流体カートリッジをプライミングするための方法を提供する。1つの実施形態において、プライミング装置は、流体カートリッジのための衝撃機構を含み、流体カートリッジは背圧装置を備えず、流体リザーバと、流体リザーバと流体連通している吐出ヘッドチップとを備える。
【0008】
いくつかの実施形態において、流体カートリッジは頂部開放型流体カートリッジである。
【0009】
いくつかの実施形態において、衝撃機構は手動衝撃機構である。他の実施形態において、衝撃機構は自動衝撃機構である。更に他の実施形態において、衝撃機構は電気機械式アクチュエータの衝撃ロッドである。他の実施形態において、衝撃機構は流体分注装置のフレーム部材に取り付けられた衝撃ヘッドである。他の実施形態において、衝撃機構は流体カートリッジホルダに取り付けられたバネ付勢式プランジャーである。
【0010】
いくつかの実施形態において、プライミング装置は吐出ヘッドチップヒータを含む。他の実施形態において、吐出ヘッドチップヒータは吐出ヘッドチップ上に設けられる。
【0011】
いくつかの実施形態において、背圧装置を備えない流体カートリッジを含む流体分注装置を提供する。流体カートリッジは、流体リザーバと、流体リザーバと流体連通している吐出ヘッドチップとを備える。流体カートリッジを基板を横切って第1の方向に移動させるため、流体カートリッジ並進機構が提供される。流体分注装置のフレーム部材には衝撃ヘッドが取り付けられ、流体カートリッジをプライミングするよう構成される。
【0012】
いくつかの実施形態において、流体カートリッジをプライミングするための方法を提供する。該方法は、背圧装置を備えない流体カートリッジを提供することを含み、流体カートリッジは、1つ以上の流体リザーバと、それぞれの流体リザーバと流体連通している1つ以上の吐出ヘッドチップとを備える。流体カートリッジの側壁は、衝撃機構で衝突される。
【0013】
いくつかの実施形態において、流体カートリッジをプライミングするための方法を提供する。該方法は、背圧装置を備えない流体カートリッジを提供することを含み、流体カートリッジは、1つ以上の流体リザーバと、それぞれの流体リザーバと流体連通している1つ以上の吐出ヘッドチップとを備える。流体カートリッジは、吐出ヘッドチップのノズルプレートにより定義される面に垂直な方向に急加速される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態の利点は、ここで説明されるプライミング機構は、特に、流体カートリッジが最少量の流体で充填されるとき、精巧な真空装置又は吸引装置を用いることなく、吐出ヘッドチップをプライミングする効果的且つ効率的な手段を提供する。上記の装置及び方法は、頂部開放型カートリッジ及び/又は背圧装置を備えないカートリッジの使用を可能とし、これにより、充填済み流体カートリッジの使用ではなく、ユーザにより選択される流体の使用を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に基づき説明されるプライミング機構を伴って用いられる流体分注装置の斜視図である。
【
図2】
図1の流体分注装置にて用いられるトレイ内のマイクロウェルプレートの斜視図である。
【
図3】背圧装置を収容する流体カートリッジのためのプライミングされた吐出器アレイの一部の、縮尺通りでない、断面図である。
【
図4】
図1の流体分注装置と共に用いられる頂部開放型流体カートリッジの斜視図である。
【
図5】
図4の頂部開放型流体カートリッジの平面図である。
【
図6】流体を吐出する処理における、プライミング後の流体を含む流体吐出ヘッドチップの一部の、縮尺通りでない、断面図である。
【
図7】流体流路を示した流体を流体吐出ヘッドチップの一部の、縮尺通りでない、断面図である。
【
図8】
図7の流体吐出ヘッドチップの一部の、縮尺通りでない、平面図である。
【
図9】背圧装置を備えない流体カートリッジのための流体を含む流体吐出ヘッドチップの一部の、縮尺通りでない、断面図である。
【
図10】流体カートリッジをプライミングするための衝撃の方向を示した
図4の頂部開放型流体カートリッジの平面図である。
【
図11】本発明の第1の実施形態による独立プライミング装置の斜視図である。
【
図12】本発明の第2の実施形態によるカートリッジキャリッジ及びプライミング装置を含む流体分注装置フレームの立面正面図である。
【
図13】
図12のカートリッジキャリッジ及び流体分注装置のフレーム上のプライミング装置の斜視図である。
【
図14】本発明の第3の実施形態による、カートリッジキャリッジ及びプライミング装置を含む流体分注装置フレームの立面正面図である。
【
図15】
図14のカートリッジキャリッジ及び流体分注装置のフレーム上のプライミング装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図4~
図5を参照し、カートリッジ本体32と1つ以上の空チャンバ34a、34bとを備えるエンドユーザにより充填可能な流体カートリッジ30を表す。チャンバ34a、34bは、分離壁36により互いに分離される。チャンバ34aと34bのそれぞれは背圧装置を備えない。チャンバ34aと34bから吐出器アレイ20aと20bへの流体の流れを提供するため、チャンバ34aと34bのそれぞれに流体スロット38aと38bが提供され、吐出器アレイ20aと20bは流体スロット38aと38bに隣接して取り付けられる。吐出器アレイ20aと20bは、接着剤及びフレキシブル回路テープ42によりカートリッジ本体32に取り付けられた流体吐出ヘッドチップ40に含まれる。
【0017】
図7と
図8は、流体吐出器アレイ20の詳細を提供する。ノズル孔24と流体吐出チャンバ46とを含むノズルプレート44が、流体吐出器52を備える半導体基板50に取り付けられる。簡略化のため、単一の流体吐出器52とそれに対応する吐出ノズル孔24とを表した吐出器アレイの一部を示している。ただし、単一の流体吐出ヘッドチップ40は1つ以上の吐出器アレイ20を含んでよい。同様に、1つ以上の流体吐出ヘッドチップ40がカートリッジ本体32に取り付けられてよい。吐出器アレイ20は典型的に、1つ以上の流体吐出器52と、それに対応する吐出ノズル24とを含む。流体は、半導体基板50を貫通するようエッチングされた流体供給ビア54を通じて、流体カートリッジ30のチャンバ34aと34b内の流体スロット38aと38bから吐出器アレイ20aと20bのそれぞれに提供される。
図8に示すように、流体供給ビア54は1つ以上の流体吐出器アレイ56Aと56Bへ流体を供給してよい。
【0018】
本発明の目的において、「開放」は標準的な流体カートリッジに見られる背圧装置を備えないことを主に指しており、必ずしも流体カートリッジ上にカバー又は蓋を欠く必要はない。ただし、流体カートリッジ30は、流体吐出ヘッドチップ40に流体を提供するため使用者により充填される1つ以上のチャンバ34を備える。流体を有する流体吐出ヘッドチップ40をプライミングするため、機械的衝撃、熱、及び/又は流体カートリッジ30の急加速が流体を攪乱するために提供され、これにより流体チャンバ46からノズルプレート44のノズル24への流体の毛細管現象を促進し、これにより吐出ヘッドチップ40及びカートリッジ本体32内の流体との流体接続を確立する。ここで用いられる用語「衝撃」は、短時間にカートリッジ本体32に加えられる大きな力又はショックを指す。
【0019】
吐出ヘッドチップ40は、チップ40の裏側58からチップ40の表側までの1つ以上の流体経路と、チップの外面28から基板上に流体を吐出するために作動される吐出器52の1つ以上のアレイ20とを含む、微小電気機械システムである。吐出ヘッドチップ40の裏側58は、カートリッジ本体32の底壁に対して封止され、カートリッジ本体32のチャンバ34の流体と流体連通している。
【0020】
上記に
図3を参照して説明したように、標準的な流体カートリッジ内の背圧装置は、流体/空気界面で流体のメニスカス26に僅かな凹状をもたらす。メニスカス26が凹状であるため、流体カートリッジに加えられる衝撃はメニスカス26を崩し、吐出器アレイ20内に空気を取り込む。そのような気泡は、吐出器アレイ20からの信頼性の高い流体の吐出に重大な問題を引き起こす。しかし、背圧装置を備えない頂部開放型流体カートリッジ30では、
図9に示すように、流体/空気界面での流体22のメニスカス56は凸状である。凸状であるメニスカス56は、流体吐出ヘッドチップ40の任意のアレイをプライミングする際に流体カートリッジ32への衝撃が加えられたとき、空気の取り込みを防ぐ助けとなる。
【0021】
吐出ヘッドチップ40の自然発生的なプライミングが理想的であるとはいえ、多くの流体の表面張力は、吐出器アレイ20の裏側58から吐出器アレイ20の外面28の表側への毛細管移動の開始を可能とするには大きすぎる可能性がある。従って、矢印60(
図10)に示すようなカートリッジ本体32への衝撃、又は、吐出器アレイ20の外面28により定義される面に垂直な方向における流体カートリッジの急加速は、流体の圧力水頭を増加させる必要なく流体22を流体経路の次の部分に移行させるのに必要な攪乱を提供することができ、これにより少量の流体の確実なプライミングを可能にする。吐出器アレイ20を通じた流体の毛細管現象に影響する他の流体特性には、粘度、極性、又は密度を含むが、これに限定されない。衝撃の大きさと頻度は、様々な流体に合わせて調整する必要があり得る。
【0022】
図11は、単一のチャンバ74を含む頂部開放型流体カートリッジ72に衝撃を提供するために用いられる手動プライミング装置70を表す。装置70は、カートリッジ搭載領域76と、バネ付勢されるプランジャー78と、プランジャーノブ80とを含む。流体カートリッジがカートリッジ搭載領域78に配置されると、使用者はカートリッジ本体82に鋭い衝撃を提供するため、プランジャーノブ80を引いてから離す。カートリッジ本体82に取り付けられた流体吐出ヘッドチップを適切にプライミングするためには、プランジャー78によるカートリッジ本体82への1回以上の衝撃が必要とされる可能性がある。
図11には機械式プランジャー78を図示しているが、空気圧式、油圧式、又は電気機械式アクチュエータも使用されてよいことを理解されたい。同様に、プランジャーノブ80は、カートリッジ本体82へのバネ式回転衝撃を提供するために回転されてよい。
【0023】
いくつかの実施形態において、機械式又はそれ以外で作動されるプランジャー78は、流体吐出装置10に組み込まれてよい。
図12~
図14は、流体吐出装置のフレーム86に搭載されたリニアソレノイド作動プランジャー84の使用を表す。流体カートリッジから流体を分注しつつ、流体カートリッジ及び吐出ヘッドチップ40を基板の上方でx方向に前後に移動させるため、流体カートリッジはキャリッジ88内に搭載される。流体カートリッジを充填した後、流体カートリッジをプライミングするためキャリッジ88の側面に衝撃を与えるプランジャー90を作動させるため、キャリッジ88はリニア作動ソレノイドに隣接して配置される。
図12は、フレーム86、キャリッジ88、及びリニアソレノイドプランジャー84の、正面の立面図である。
図13は、リニアソレノイドプランジャー84、フレーム86、及びキャリッジ88の上面斜視図である。
【0024】
本発明のもう1つの実施形態を
図14~
図15に表す。本実施形態において、専用のインパクタ84を使用するのではなく、流体吐出装置のフレーム92は、キャリッジ88がフレーム92の一方側(
図14)からフレーム92の他方側(
図15)へと移動する際にカートリッジ30の側面に衝撃を与えるための1つ以上の固定衝撃装置94Aと94Bを含む。本実施形態によると、装置10のキャリッジ88は、衝撃装置94A又は94B上にて指定された速度でカートリッジ30に衝撃を与えるためにキャリッジ88を指定された位置へ移動させるようプログラム可能なモータにより駆動される。従って、カートリッジ30の衝撃位置は、キャリッジ88をフレーム92上の固定衝撃装置94Aと94Bと衝突させるキャリッジ88の典型的な動作範囲の僅かに外側である。キャリッジ88の衝撃装置94A及び94Bとの衝突は、吐出ヘッドチップ40のプライミングを開始させるのに十分なエネルギーを提供する。キャリッジ88の動作はプログラム可能であることから、吐出ヘッドチップ40のプライミングを確実にするため、速度及び位置の任意のシーケンスが用いられてよい。
【0025】
前記実施形態は装置10のフレーム86と92に対するキャリッジ88の固定衝撃点を表しているが、キャリッジ88が衝撃を与えられる位置を調整するため、調整可能な衝撃装置が用いられてよい。衝撃装置はキャリッジ88の側面により定義される面と平行なy方向に調整可能であるが、衝撃装置はキャリッジ88の側面により定義される面に垂直なx方向に沿ったキャリッジ88の動作の方向において調整可能であってもよい。
【0026】
他の実施形態において、衝撃装置は、固定搭載される衝撃装置ではなく、振り子として機能するために軸から吊り下げられてよく、振り子の全エネルギーが消散するまで繰り返し揺れてキャリッジ88の側面を打つ。キャリッジ88への衝撃のエネルギーを変更するため、カウンターウェイト又は制振材が用いられてよい。
【0027】
更にもう1つの実施形態において、空チャンバ34が充填されて、カートリッジ30が吐出器アレイ20の外面28(
図6)により定義される面に垂直な方向に急加速されてよい。理論的考察に縛られることを望まずとも、流体の慣性は運動の変化に抵抗し、流体供給ビア54を通じて及び流体供給チャネル48と流体吐出チャンバ46内に流体の毛細管ウィッキング現象を開始させるよう、吐出器アレイ20の裏側58(
図7)に十分な圧力を与えると考えられる。同様の方法にて、流体を含むカートリッジ30は吐出器アレイ20を径方向外側に向けて遠心式装置に配置されてよい。よって、遠心型装置からの遠心力と組み合わされた流体の慣性抵抗は、吐出器アレイ20をプライミングするのに十分であり得る。またもう1つの実施形態において、吐出器アレイ20のプライミングを誘導して流体吐出チャンバ46への流体フローを促進するため、超音波振動が用いられてよい。
【0028】
いくつかの実施形態において、プライミングはカートリッジ30を振動させることにより達成されてよい。頂部開放型カートリッジ30(
図4~
図5)がピペットで充填されるときにはよく、流体によっては空チャンバ34aと34bの壁に粘着して、吐出器アレイ20による吐出のために回復させることができないことがある。カートリッジ30を高い周波数及び小さな振幅でx方向において前後に急激に移動させることは、チャンバ34aと34bの側壁から流体を移動させる助けとなり、流体をチャンバ34aと34b内に流れさせ、次いで流体は吐出器アレイ20に流れる。上述したような一連の振動及びその後の衝撃は、カートリッジ30のチャンバ34aと34bが少量の流体で充填されるときの吐出器アレイ20のプライミングを確実にするための最適な状態を提供することができる。
【0029】
加えて、吐出器アレイ20は典型的にチャンバ34aと34bに対して中央に配置されていないことから、衝撃の方向はプライミングプロセスに影響を及ぼし得る。例えば、吐出器アレイ20に供給する流体スロット38aがチャンバ34aの右側にオフセットされ、カートリッジ本体32(
図10)の右側壁98を打つことはプライミングプロセスを向上させることができる。
【0030】
以下の非限定的な実施例は、吐出器アレイ20をプライミングするための衝撃プロセスを表す。
【0031】
(実施例1)
頂部開放型4チャンバカートリッジの使用は、吐出器アレイ20の全ノズル24の自然発生的なプライミングを起こすために約28.5ミリメートルの流体圧力水頭を要した。同一の流体を用い、
図11の衝撃装置を用いることで、僅かに0.5ミリメートルの流体圧力水頭が全ノズル24を一貫してプライミングした。デスクトッププリンタを使用し、一連のキャリッジ動作オーバードライブコマンドにて、流体カートリッジ内に2.5ミリメートルの流体圧力水頭に相当する50マイクロリットルのインク試料を有する吐出器アレイ20を確実にプライミングすることができた。
【0032】
(実施例2)
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は生化学アッセイで使用される一般的な試薬である。ソルビタンモノラウレート非イオン性界面活性剤を含むものと含まないものという2つの溶剤で試験を行った。いずれかの溶剤での吐出ヘッドチップの自然発生的なプライミングは判定不能であって、どちらも最大試験流体高さ43ミリメートルを超える流体圧力水頭を要した。
図11の衝撃装置を用いて、界面活性剤なしのPBSは2.3ミリメートルの流体圧力水頭で吐出ヘッドチップを確実にプライミングすることができ、0.04%の界面活性剤を加えたPBSは2.0ミリメートルの流体圧力水頭で吐出ヘッドチップを確実にプライミングすることができた。カートリッジ衝撃シーケンスは、3.4ミリメートルの流体圧力水頭でPBS及び界面活性剤を有する吐出ヘッドチップを確実にプライミングすることができると判断された。
【0033】
(実施例3)
プライミングシーケンスは、頂部開放型流体カートリッジ30にて30マイクロリットルのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を確実にプライミングすることができると判断された。この試験において、30マイクロリットルの流体は約2.6ミリメートルの流体圧力水頭を提供した。流体は、吐出器アレイ20上の吐出ヘッドチップヒータを用いて20秒間45℃まで加熱し、次いでキャリッジ88を装置10のフレーム92に対して2回、約毎秒51cmで打ちつけた。温度、時間長、及び衝撃パラメータは流体に依存する。流体の加熱又はフレームへの打ちつけは吐出ヘッドチップの大部分のノズルをプライミングするのに十分であることが分かった。流体の加熱とフレームへの打ちつけの両方では、吐出ヘッドチップの全てのノズルが一貫してプライミングされ、より成功率が高いことが分かった。予熱温度が低いと、所与の流体のためのより長い加熱時間を要した。
【0034】
本発明の実施形態によると、プライミングシーケンスは、特定の流体を収容するカートリッジが吐出器アレイ20の全てのノズルを通じて分注する準備ができていることを確実にする一連のステップとして定義される。カートリッジが装置のキャリッジに配置されると、プライミングシーケンスは下記ステップのうちの1つ以上を含んでよい。
(1)吐出ヘッドチップに衝撃を与えるため、カートリッジを装置のフレームに打ちつける。
(2)間隔を空けて、又は間隔を空けずに、ステップ(1)を複数回繰り返す。
(3)キャリッジを様々な速度で流体吐出装置のフレームに衝突させる。
(4)吐出ヘッドチップ上の吐出ヘッドチップヒータを用いて流体を温める。
(5)特定の流体又は応用のために加熱の温度及び時間を変化させる。
(6)吐出ヘッドチップから流体を吐出する。
【0035】
従って、特定の流体のためのプライミングシーケンスは、上記ステップのうちの1つ以上を任意のシーケンスで含んでよい。場合によっては、ステップのうちのいくつかは不要であると判断されてよい。流体をプライミングするのが難しい場合、これらステップのうちのいくつかを2回以上繰り返す必要があると判断されてよい。
【0036】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的のため、特に明記しない限り、明細書及び特許請求の範囲で使用される量、百分率又は比率を表す全ての数値及び他の数値は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。従って、そうでないと示されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明により得ることが求められる所望の特性に応じて変わり得る近似値である。少なくとも、そして特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも述べられた有効数字の数を考慮し、そして通常の丸め手法を適用することにより、解釈されるべきである。
【0037】
特定の実施形態について説明したが、出願人又は他の当業者には、現在予測していない、又は予測できない、代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物が生じうる。従って、提出された添付の特許請求の範囲及び補正された特許請求の範囲は、そのようなすべての代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物を包含することを意図している。
【符号の説明】
【0038】
10:流体吐出装置
12:ウェル
14:マイクロウェルプレート
16:筐体
18:トレイ
20、20a、20b:吐出器アレイ
22:流体
24:ノズル
26:凹メニスカス
28:外面
30:流体カートリッジ
32:カートリッジ本体
34a、34b:チャンバ
36:分離壁
37:液滴
38a、38b:流体スロット
40:吐出ヘッドチップ
42:フレキシブル回路テープ
44:ノズルプレート
46:流体吐出チャンバ
48:流体供給チャネル
50:半導体基板
52:流体吐出器
54:流体供給ビア
56:メニスカス
56A、56B:吐出器アレイ
58:裏側
70:手動プライミング装置
72:頂部開放型流体カートリッジ
74:チャンバ
76:カートリッジ搭載領域
78:プランジャー
80:プランジャーノブ
82:カートリッジ本体
84:リニアソレノイドプランジャー
86:フレーム
88:キャリッジ
90:プランジャー
92:フレーム
94A、94B:固定衝撃装置
98:右側壁