(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044768
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレースとその製作方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
E04B1/58 D
E04B1/58 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150509
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 健
(72)【発明者】
【氏名】中谷 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】高倉 恵
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB12
2E125AC14
(57)【要約】
【課題】長手方向の端部領域における十分な剛性が担保された座屈拘束ブレースと、溶接性に優れ、溶接品質を担保できる座屈拘束ブレースの製作方法を提供すること。
【解決手段】座屈拘束ブレース100は、鋼製の芯材10と、2つの広幅面10aに対向するように配設されている一対の拘束材30と、広幅部12の端部12aに溶接接合されるエンドプレート14と、一対の拘束材30の両側面31に溶接接合されている一対の補剛材50と、少なくとも広幅部12を包囲する端部補強材15とを有し、端部補強材15は、広幅部12に直交する2つの接合板17と、これらを繋ぐ2つの補強板16とを備え、隣接する接合板17と補強板16が溶接接合されることにより端部補強材15が形成され、広幅部12の端部12bに接合板17が溶接接合され、接合板17の端部17bがエンドプレート14に溶接接合されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の板材からなり、長手方向の両端側にあって広幅面の幅が相対的に広い広幅部と、中央側にあって広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部とを備えている、芯材と、
2つの前記広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる、一対の拘束材と、
前記広幅部における前記長手方向の端部に溶接接合され、該長手方向に直交する方向に広がる、エンドプレートと、
前記芯材の側方において、前記一対の拘束材の両側面に溶接接合されている、一対の補剛材と、
前記芯材の少なくとも前記広幅部を包囲する、端部補強材とを有し、
前記端部補強材は、前記広幅部に直交する2つの接合板と、該2つの接合板を繋ぐ2つの補強板とを備え、隣接する該接合板と該補強板が溶接接合されることにより、前記端部補強材が形成され、
前記広幅部における前記長手方向に沿う端部が前記接合板に溶接接合され、該接合板における前記長手方向の端部が前記エンドプレートに溶接接合されていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記接合板に設けられているスリットを介して、前記広幅部の前記長手方向の端部が側方に張り出して張り出し部を形成し、該張り出し部と該接合板の外側面が溶接接合されていることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
鋼製の板材からなり、長手方向の両端側にあって広幅面の幅が相対的に広い広幅部と、中央側にあって広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部とを備えている、芯材の前記長手方向の端部に、該長手方向に直交する方向に広がるエンドプレートを溶接接合する、A工程と、
前記芯材の有する2つの前記広幅面に対向するように、角形鋼管からなる一対の拘束材を配設し、該芯材の側方において、該一対の拘束材の両側面に対して一対の補剛材を溶接接合する、B工程と、
前記広幅部に直交する2つの接合板と、該2つの接合板を繋ぐ2つの補強板とを備えている、端部補強材を、前記芯材の少なくとも前記広幅部を包囲するように配設し、隣接する該接合板と該補強板を溶接接合することにより、前記端部補強材を形成し、前記広幅部における前記長手方向に沿う端部を前記接合板に溶接接合し、該接合板における前記長手方向の端部を前記エンドプレートに溶接接合する、C工程を有することを特徴とする、座屈拘束ブレースの製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースとその製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ここで、特許文献1には、芯材が一対の角形鋼管により形成される拘束材にて拘束された座屈拘束ブレースに関し、芯材から押圧力を受けた拘束材に局部破壊を生じさせない座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、板状部の両端に他部材との接合のための接合部を有した芯材と、板状部の弱軸方向に直交する各面に対向して配置された拘束材とを備える座屈拘束ブレースである。
【0004】
この座屈拘束ブレースにおいて、芯材の端部には、板状部の幅方向の両端に対して一対のフランジが溶接接合され、一対のフランジの両端部に対して一対の補強板が溶接接合され、板状部と一対のフランジと補強板とにより包囲された2つの空間にそれぞれ、拘束材の端部を配置し、一対の拘束材の側面に対して、一対の補剛材が溶接接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースによれば、既製の角形鋼管などの部材を拘束材として用いることが容易になり、高コスト化を招来することなく、芯材から押圧力を受けた拘束材の局部破壊を抑制することが可能になる。
【0007】
ところで、特許文献1に記載される座屈拘束ブレースが建物架構に組み込まれる際は、建物架構を構成する一対の柱の内側の側面に取り付けられている2つのブラケット等に対して、座屈拘束ブレースの長手方向の端部がボルト接合される。特許文献1には、芯材の長手方向の端部に設けられるエンドプレートの記載はないが、このように2つのブラケットに対して座屈拘束ブレースの端部がボルト接合される場合は、芯材の長手方向の端部に対してボルト孔を備えたエンドプレートが溶接接合され、エンドプレートとブラケットがボルト接合されることになる。尚、芯材は、長手方向の両端側にあって広幅面の幅が相対的に広い広幅部と、中央側にあって広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部とを備えており、この広幅部の長手方向の端部に上記エンドプレートが溶接接合される。
【0008】
特許文献1には、座屈拘束ブレースの端部における各構成要素同士の溶接接合の順序に関する明確な記載はないが、仮に、芯材の広幅部の長手方向の端部に対して、長手方向に直交する方向に広がるエンドプレートを溶接接合し、広幅部における長手方向に沿う一対の端部に対してそれぞれ上記するフランジを溶接接合し、一対のフランジに対して一対の補強板を溶接接合して上記する2つの空間を形成した後、芯材の2つの広幅面に対して角形鋼管により形成される一対の拘束材をその端部を2つの空間に収容するようにして配設し、一対の拘束材の側面に対して一対の補剛材を溶接接合する製作方法を適用した場合に、既に取り付けられているフランジが補剛材の溶接接合の障害(邪魔)となり、補剛材のうち、空間に収容されている端部領域と拘束材の側面との十分な溶接ができなくなって、溶接性が低下し、このことに起因して座屈拘束ブレースの生産性が低下し、溶接品質が担保されないといった恐れがある。
【0009】
従って、座屈拘束ブレースの長手方向の端部領域を構成する複数の部材同士の溶接接合において、溶接性に優れ、このことによって溶接品質を担保でき、生産性を向上させることのできる、座屈拘束ブレースの製作方法が望まれる。
【0010】
また、上記するように、座屈拘束ブレースの長手方向の端部領域における部材同士の優れた溶接性の下で、芯材の端部領域にある、広幅部と、広幅部の2つの広幅面に配設されている一対の拘束材を高い剛性にて補強することのできる、座屈拘束ブレースが望まれる。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、座屈拘束ブレースの長手方向の端部領域における十分な剛性が担保された座屈拘束ブレースと、当該端部領域における複数の部材同士の溶接性に優れ、溶接品質を担保でき、生産性を向上させることのできる座屈拘束ブレースの製作方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
鋼製の板材からなり、長手方向の両端側にあって広幅面の幅が相対的に広い広幅部と、中央側にあって広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部とを備えている、芯材と、
2つの前記広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる、一対の拘束材と、
前記広幅部における前記長手方向の端部に溶接接合され、該長手方向に直交する方向に広がる、エンドプレートと、
前記芯材の側方において、前記一対の拘束材の両側面に溶接接合されている、一対の補剛材と、
前記芯材の少なくとも前記広幅部を包囲する、端部補強材とを有し、
前記端部補強材は、前記広幅部に直交する2つの接合板と、該2つの接合板を繋ぐ2つの補強板とを備え、隣接する該接合板と該補強板が溶接接合されることにより、前記端部補強材が形成され、
前記広幅部における前記長手方向に沿う端部が前記接合板に溶接接合され、該接合板における前記長手方向の端部が前記エンドプレートに溶接接合されていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、芯材の長手方向の端部領域にある少なくとも広幅部を包囲する端部補強材が、広幅部に直交する2つの接合板と、2つの接合板を繋ぐ2つの補強板とを備え、隣接する接合板と補強板が溶接接合されることによって端部補強材が形成され、芯材の広幅部における長手方向に沿う端部に対して接合板が溶接接合され、接合板における長手方向の端部がエンドプレートに溶接接合されていることにより、芯材の長手方向の端部領域にある、広幅部と、広幅部の2つの広幅面に配設されている一対の拘束材を、これらに溶接接合されて相互に一体化されている端部補強材とエンドプレートにて高い剛性で補強することができる。
【0014】
また、芯材が、その長手方向の中央側において広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有していることにより、中央側の狭幅部を塑性化し易い領域とすることができ、例えばその全域おいて狭幅部の弱軸方向に高次モードの座屈を有効に生じさせ、地震エネルギーを効果的に吸収することが可能になる。
【0015】
また、芯材と拘束材の間には、アンボンド材が介在する形態と、アンボンド材が介在しない、アンボンド材レスの形態がある。アンボンド材が介在する形態において、アンボンド材は、ブチルゴム等の変形性能を有する弾性材により形成される。このアンボンド材が芯材の広幅面と拘束材の間に介在することで、アンボンド材の厚みをクリアランスとして、芯材が圧縮力を受けた際にこのクリアランス内で高次モードの座屈を生じさせることが可能になる。一方、アンボンド材レスの形態では、芯材と拘束材の間に空隙を設け、空隙にて芯材の高次モードの座屈を吸収することが可能になる。
【0016】
ここで、座屈拘束ブレースがアンボンド材を有する場合に、アンボンド材と拘束材の間に、内挿板が介在している形態であってもよい。この形態によれば、アンボンド材と拘束材の間に例えば鋼製の内挿板が介在していることにより、芯材の弱軸方向への高次モードの座屈による押圧力が拘束材に直接作用して、拘束材が局部破壊することを効果的に抑制することができる。
【0017】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記接合板に設けられているスリットを介して、前記広幅部の前記長手方向に沿う端部が側方に張り出して張り出し部を形成し、該張り出し部と該接合板の外側面が溶接接合されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、接合板に設けられているスリットを介して広幅部の長手方向に沿う端部が側方に張り出して張り出し部を形成し、張り出し部と接合板の外側面が溶接接合されていることにより、芯材の広幅部と接合板との溶接性が良好になる。すなわち、接合板がスリットを備えず、接合板の内面と広幅部の端部を溶接接合する形態であってもよいが、この場合は広幅部の端部が接合板の内面の内側に位置することから、双方の溶接が難しくなるが、本態様では双方の溶接性が良好になり、座屈拘束ブレースの生産性の向上に繋がる。
【0019】
また、本発明による座屈拘束ブレースの製作方法の一態様は、
鋼製の板材からなり、長手方向の両端側にあって広幅面の幅が相対的に広い広幅部と、中央側にあって広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部とを備えている、芯材の前記長手方向の端部に、該長手方向に直交する方向に広がるエンドプレートを溶接接合する、A工程と、
前記芯材の有する2つの前記広幅面に対向するように、角形鋼管からなる一対の拘束材を配設し、該芯材の側方において、該一対の拘束材の両側面に対して一対の補剛材を溶接接合する、B工程と、
前記広幅部に直交する2つの接合板と、該2つの接合板を繋ぐ2つの補強板とを備えている、端部補強材を、前記芯材の少なくとも前記広幅部を包囲するように配設し、隣接する該接合板と該補強板を溶接接合することにより、前記端部補強材を形成し、前記広幅部における前記長手方向に沿う端部を前記接合板に溶接接合し、該接合板における前記長手方向の端部を前記エンドプレートに溶接接合する、C工程を有することを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、芯材の長手方向の端部領域に端部補強材を配設して溶接接合する、C工程の前に、芯材の有する2つの広幅面に対向するように一対の拘束材を配設し、芯材の側方において一対の拘束材の両側面に対して一対の補剛材を溶接接合する、B工程を実施することにより、端部補強材が補剛材の溶接接合の際の障害になることが無く、同様に部材同士の溶接接合に際して他の部材が障害になることが無いことによって、座屈拘束ブレースの端部領域における複数の部材同士の溶接性が向上し、このことにより溶接品質を担保でき、座屈拘束ブレースの生産性を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースとその製作方法によれば、座屈拘束ブレースの長手方向の端部領域における十分な剛性が担保された座屈拘束ブレースを提供でき、当該端部領域における複数の部材同士の溶接性に優れ、溶接品質を担保でき、生産性を向上させることのできる座屈拘束ブレースの製作方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例の斜視図である。
【
図2】実施形態に係る座屈拘束ブレースの製作方法の一例の工程図である。
【
図3】
図2に続いて、実施形態に係る座屈拘束ブレースの製作方法の一例の工程図である。
【
図4】
図3に続いて、実施形態に係る座屈拘束ブレースの製作方法の一例の工程図である。
【
図5】
図4に続いて、実施形態に係る座屈拘束ブレースの製作方法の一例の工程図であって、端部補強材の一例を形成する2つの第1分割端部補強材をともに示す図である。
【
図6】
図5に続いて、実施形態に係る座屈拘束ブレースの製作方法の一例の工程図であって、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例をともに示す図である。
【
図7A】芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の押圧力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面模式図である。
【
図7B】芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の押圧力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸方向の縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態に係る座屈拘束ブレースとその製作方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0024】
[実施形態に係る座屈拘束ブレースとその製作方法の一例]
図1乃至
図6を参照して、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例の斜視図である。また、
図2乃至
図6は順に、実施形態に係る座屈拘束ブレースの製作方法の一例の工程図であり、
図6はさらに、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例をともに示す図である。
【0025】
図1に示すように、座屈拘束ブレースの備える芯材10は、細長で鋼製の板材により形成され、その長手方向の中央側において広幅面10aの幅t2が相対的に狭い狭幅部11を有し、その長手方向の端部側において広幅面10aの幅t1が相対的に広い広幅部12を有している。
【0026】
より具体的には、広幅部12と狭幅部11は、狭幅部11に向かって幅が湾曲状に徐々に狭くなる遷移部13を介して連続していることにより、幅が急激に変化することによる局所的な応力集中域の発生を防止している。ここで、遷移部13は、図示例の湾曲状の形状の他にも、テーパー状に幅が徐々に狭くなるような形状であってもよい。
【0027】
芯材10は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、これらの材料からなる芯材10を適用することにより、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0028】
芯材10がその長手方向の中央側に狭幅部11を有し、長手方向の端部側に広幅部12を有することにより、中央側の狭幅部11を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部11に限定させることができる。
【0029】
広幅部12のうち、長手方向の端部12aには、
図2で示すようにエンドプレート14が溶接接合されるようになっている。一方、広幅部12のうち、長手方向に沿う端部12bは、
図6に示すように接合板17のスリット17dから張り出す張り出し部を形成し、接合板17と溶接接合されるようになっている。ここで、本明細書における「溶接」には、開先溶接(完全溶け込み溶接、部分溶け込み溶接)や隅肉溶接、レーザー溶接など、接合部に要求される強度や接合態様に応じて適宜の溶接が選択される。
【0030】
芯材10の狭幅部11の中央位置において、狭幅部11の二つの広幅面10aには、鋼製で円柱状の突起11aが張り出している。突起11aは、狭幅部11の広幅面10aに対して溶接等により接合されている。
【0031】
図2に示すように、座屈拘束ブレースの製作に際して、芯材10の長手方向の端部12aに対して、長手方向に直交する方向に広がる鋼製のエンドプレート14を溶接接合する。エンドプレート14は、座屈拘束ブレースが不図示の建物架構に組み込まれた際に、建物架構を形成する柱の側面に取り付けられている不図示のブラケット等に対してボルト接合される際にボルトが挿通される、複数(図示例は2つ)のボルト孔14aを備えている(以上、製作方法のA工程)。
【0032】
次に、
図3に示すように、芯材10の有する2つの広幅面10aに対してそれぞれ不図示のアンボンド材を配設し、さらに、各広幅面10aとアンボンド材に対向するように、角形鋼管からなる一対の拘束材30を配設する。
【0033】
ここで、不図示のアンボンド材は、その厚みをクリアランスとして、建物架構の変形の際に芯材10に圧縮力が作用して狭幅部11に面外方向(弱軸方向)の高次モードの座屈(波状の変形)が生じるようになっている。
【0034】
アンボンド材としては、例えばブチルゴム等の弾性材が適用される。また、アンボンド材の長手方向の中央位置には、芯材10の突起11aが嵌まり込む突起孔が設けられている。
【0035】
一方、拘束材30は、断面視矩形の角形鋼管により形成されており、矩形の長辺に対応する側面がアンボンド材に当接している。拘束材30のうち、アンボンド材に当接する側面にも、芯材10の突起11aが嵌まり込む不図示の突起孔が設けられている。ここで、アンボンド材と拘束材30の間に、内挿板が介在する形態であってもよい。
【0036】
次に、
図4に示すように、芯材10の側方において、一対の拘束材30の両側面31に対して、一対の補剛材50を溶接接合することにより、一対の拘束材30が一対の補剛材50にて一体とされ、芯材10の周囲が包囲される。
【0037】
補剛材50の長手方向の端部には、芯材10の広幅部12及び遷移部13との干渉を防止するためのスリット52が設けられている。ここで、図示例の補剛材50は、芯材10の両端側にある広幅部12に亘って延びる1枚の鋼板により形成されているが、芯材10の長手方向の長さが長くなる場合は、2つの補剛材が適用され、芯材の長手方向の中央位置の左右に各補剛材が配設されてもよい(以上、製作方法のB工程)。
【0038】
次に、
図5に示すように、芯材10の広幅部12に直交する2つの鋼製の接合板17と、2つの接合板17を繋ぐ2つの鋼製の補強板16とを備えている、端部補強材を、芯材10の少なくとも広幅部12を包囲するように配設する。
【0039】
補強板16のうち、2つの接合板17と対向する端部16aは、対応する接合板17の広幅面と溶接接合されるようになっている。また、接合板17には、芯材10の広幅部12の端部との干渉を防止するためのスリット17aが設けられている。さらに、接合板17のうち、エンドプレート14に対向する端部17bは、エンドプレート14の広幅面と溶接接合されるようになっている。
【0040】
図6に示すように、2つの接合板17に対して、2つの補強板16の端部16aを溶接接合することにより、端部補強材15が形成される。
【0041】
接合板17における長手方向の端部17bをエンドプレート14の広幅面に溶接接合する。さらに、接合板17に設けられているスリット17aを介して、芯材10の広幅部12が側方に張り出している張り出し部12bと、接合板17の外側面とを溶接接合することにより、芯材10と一対の拘束材30の長手方向の端部領域が端部補強材15にて補強された、座屈拘束ブレース100が製作される。
【0042】
ここで、接合板17に設けられているスリット17aを介して広幅部12の張り出し部12bと接合板17の外側面とを溶接接合することにより、芯材10の広幅部12と接合板17との溶接性が良好になる。例えば、接合板がスリットを備えず、接合板の内面と広幅部12の端部を溶接接合する場合は、広幅部の端部が接合板の内面の内側に位置することから、双方の溶接が難しくなるが、図示例の形態では双方の溶接性が良好になる(以上、製作方法のC工程)。
【0043】
図示する座屈拘束ブレースの製作方法によれば、芯材10の長手方向の端部領域に端部補強材15を配設して溶接接合する、C工程の前に、芯材10の有する2つの広幅面10aに対向するように一対の拘束材30を配設し、芯材10の側方において一対の拘束材30の両側面31に対して一対の補剛材50を溶接接合する、B工程を実施することにより、端部補強材15が補剛材50の溶接接合の際の障害になることが無く、同様に部材同士の溶接接合に際して他の部材が障害になることが無いことによって、座屈拘束ブレース100の端部領域における複数の部材同士の溶接性が向上し、このことにより溶接品質を担保でき、座屈拘束ブレース100の生産性を向上させることができる。
【0044】
さらに、この製作方法にて製作された座屈拘束ブレース100は、その長手方向の端部領域における部材同士の優れた溶接性の下で、芯材10の端部領域にある、広幅部12と、広幅部12の2つの広幅面10aに配設されている一対の拘束材30を、端部補強材15により高い剛性にて補強することができる。
【0045】
次に、
図7Aと
図7Bを参照して、芯材10の弱軸方向に生じる高次モードの座屈について説明する。ここで、
図7Aと
図7Bはそれぞれ、芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の押圧力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面模式図と軸方向の縦断面模式図である。
【0046】
図7Aには、芯材10と拘束材30との間に介在する、アンボンド材20を図示している。座屈拘束ブレース100は、その両端部が建物架構の隅角部等に設けられているブラケット等の接続治具に対してボルト接合等されることにより、建物架構に組み込まれる。そして、建物架構が地震時に変形した際には、地震時の水平力等の外力が接続治具を介して座屈拘束ブレース100の端部に入り、芯材10の端部からその全域に外力が圧縮力Nとして伝達されることにより、芯材10の全域が塑性変形することで地震時のエネルギー吸収性能が発揮されることになる。言い換えると、芯材10に圧縮力Nが作用した際に芯材10の狭幅部11の全域でその弱軸方向に高次モードの座屈(波状の変形)が生じることにより、芯材10の狭幅部11の全体を可及的均等に座屈させることで座屈拘束ブレース100の全体の塑性変形性能を発揮することができる。
【0047】
図7Aと
図7Bに示すように、芯材10に作用する圧縮力Nによって高次モードの座屈が生じ、座屈による波状の変形の山が拘束材30に当接し、拘束材30に対して押圧力Qを付与することになる。そのため、拘束材30は、局所的に作用する押圧力Qに対して局部破壊を生じないように、その局部降伏耐力が設定される。
【0048】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0049】
10:芯材
10a:広幅面
11:狭幅部
11a:突起
12:広幅部
12a:端部(長手方向の端部)
12b:端部(長手方向に沿う端部、張り出し部)
13:遷移部
14:エンドプレート
14a:ボルト孔
15:端部補強材
15A:第1分割端部補強材
16:補強板
16a:端部
17:接合板
17a:スリット
17b:端部
20:アンボンド材
30:拘束材(角形鋼管)
31:側面
50:補剛材
52:スリット
100,100A:座屈拘束ブレース
N:軸力(圧縮力)
Q:押圧力