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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044770
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150511
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 健
(72)【発明者】
【氏名】西 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AC14
2E125AC16
(57)【要約】
【課題】芯材に設けられているスリットにスペーサーが内挿される従来構造による芯材の軸力調整と強軸方向の強度低下抑制といった同様の効果を享受しながら、芯材の変形の際の部材の抜け落ちや補剛不能領域の発生を防止できる、座屈拘束ブレースを提供すること。
【解決手段】芯材10と、角形鋼管からなる一対の拘束材30とを有する座屈拘束ブレース100であり、芯材10は、両端側にある広幅部12と中央側にある狭幅部11と、広幅部12と狭幅部11を繋いで幅が狭幅部11に向かって徐々に狭くなり、狭幅部11との境界では狭幅部11と幅が同じである遷移部13とを有し、狭幅部11の中央側には、幅が他の領域に比べて狭く、芯材10の圧縮変形の際の縮み代となる縮み代部18が設けられ、縮み代部18の左右端を起点として狭幅部11の長手方向に延びる2つの切り込み16が設けられ、切り込み16の端部が遷移部13との境界に位置している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製でプレート状の芯材と、該芯材の有する2つの広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材とを有する、座屈拘束ブレースであって、
前記芯材は、両端側にあって広幅面の幅が相対的に広い広幅部と、中央側にあって広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部と、該広幅部と該狭幅部を繋いで広幅面の幅が該狭幅部に向かって徐々に狭くなり、該狭幅部との境界では該狭幅部と広幅面の幅が同じである遷移部とを有し、
前記狭幅部の中央側には、広幅面の幅が他の領域に比べて狭く、前記芯材の圧縮変形の際の縮み代となる縮み代部が設けられ、該縮み代部の左右端を起点として該狭幅部の長手方向に延びる2つの切り込みが設けられ、該2つの切り込みの端部がそれぞれ、左右の前記遷移部との境界に位置していることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記2つの切り込みはそれぞれ、前記縮み代部の左右端から左右の前記境界までの間で連続していることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記2つの切り込みはそれぞれ、前記縮み代部の左右端から左右の前記境界までの間で間欠的に設けられ、隣接する該切り込みの間には、切り込みでない残し代が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記芯材の両端には、前記広幅面に直交して他部材に接合される、一対の接合板が固定され、
前記一対の接合板に対して補強板が固定され、前記広幅面と該一対の接合板と該補強板により形成される空間に前記拘束材の端部が収容されており、
前記芯材の側方において、前記一対の拘束材の両側を一対の補剛材が繋いでおり、
前記芯材が、前記一対の拘束材と前記一対の補剛材とにより包囲されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ここで、特許文献1には、芯材が一対の角形鋼管により形成される拘束材にて拘束された座屈拘束ブレースに関し、芯材から押圧力を受けた拘束材に局部破壊を生じさせない座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、板状部の両端に他部材との接合のための接合部を有した芯材と、板状部の弱軸方向に直交する各面に対向して配置された拘束材とを備える座屈拘束ブレースである。
【0004】
この座屈拘束ブレースにおいて、芯材の広幅面にはスリットが設けられ、このスリットにより芯材に作用する軸力調整(もしくは耐力調整)がなされるようになっている。このスリットにより、芯材が軸力(圧縮力)を受けた際に、芯材の弱軸方向に高次モードの座屈が有効に生じることになるが、広幅面にスリットを設けたことにより、芯材の強軸方向の強度が低下し、強軸方向に高次モードの座屈が生じるといったトレードオフの関係があり、この強軸方向の強度低下を抑制するべく、スリットに対してスリットよりも長さの短いスペーサーが内挿されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6445862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースによれば、芯材の広幅面にスリットを設けつつ、スリットにスペーサーを内挿することにより、芯材の軸力調整を図りながら、強軸方向への強度低下を抑制することができる。
【0007】
ところで、芯材の広幅面にスリットを設け、ここに別途製作された相対的に長さの短いスペーサーを内挿する形態では、スペーサーよりもスリットの長手方向の長さを長くしておくことで、地震時に作用する軸力(圧縮力)による芯材の長手方向への所定の圧縮ひずみがスペーサーにより阻害されることを防止している。しかしながら、このようにスリットが長手方向に圧縮されつつ高次モードの座屈が生じた際には、スペーサーが自重でスリットから抜け落ちる恐れがある。また、芯材の強軸方向への高次モードの座屈の際に、スペーサーがスリットの一方端側に偏ってしまい、スリットの他方側の隙間が大きくなって、スペーサーにより補剛されない領域が生じるといった課題もある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、芯材に設けられているスリットにスペーサーが内挿される従来構造による、芯材の軸力調整と強軸方向の強度低下抑制といった同様の効果を享受しながら、芯材の変形の際の部材の抜け落ちや補剛不能領域の発生を防止できる、座屈拘束ブレースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
鋼製でプレート状の芯材と、該芯材の有する2つの広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材とを有する、座屈拘束ブレースであって、
前記芯材は、両端側にあって広幅面の幅が相対的に広い広幅部と、中央側にあって広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部と、該広幅部と該狭幅部を繋いで広幅面の幅が該狭幅部に向かって徐々に狭くなり、該狭幅部との境界では該狭幅部と広幅面の幅が同じである遷移部とを有し、
前記狭幅部の中央側には、広幅面の幅が他の領域に比べて狭く、前記芯材の圧縮変形の際の縮み代となる縮み代部が設けられ、該縮み代部の左右端を起点として該狭幅部の長手方向に延びる2つの切り込みが設けられ、該2つの切り込みの端部がそれぞれ、左右の前記遷移部との境界に位置していることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、鋼製でプレート状の芯材の2つの広幅面が角形鋼管からなる一対の拘束材により拘束され、芯材が両端側にある広幅部と中央側にある狭幅部とそれらを繋ぐ遷移部とを備えている座屈拘束ブレースに関し、狭幅部の中央側において広幅面の幅が他の領域に比べて狭く、芯材の圧縮変形の際の縮み代となる縮み代部が設けられ、縮み代部の左右端を起点として狭幅部の長手方向に延びる2つの切り込みが設けられ、2つの切り込みの端部がそれぞれ左右の遷移部との境界に位置していることにより、2つの切り込みよりも狭幅部の端辺側の領域がスペーサーとなる。このスペーサーは芯材そのものであってスリットに挿通されているものでなく、芯材の一部に圧縮変形の際の縮み代が確保されていることから、芯材の軸力調整と芯材の強軸方向の強度低下抑制の双方を図りながら、スペーサーの脱落やスペーサーの移動による補剛不能領域の発生といった課題を解消することができる。
【0011】
このように、芯材の狭幅部には、切り込みによって仮想のスリットが形成され、この仮想のスリットの外側(狭幅部の広幅面の一対の端辺側)には、従来のように別途製作されるスペーサーでなく、芯材自身により形成される仮想のスペーサーが配設されることになる。ここで、「2つの切り込みの端部がそれぞれ、左右の遷移部との境界に位置している」とは、切り込みの端部が、狭幅部と遷移部との境界位置に厳密に位置していることの他に、狭幅部側や遷移部側へ若干偏位した位置に切り込みの端部が位置していることも含んでいる。
【0012】
また、芯材の狭幅部の広幅面にスリットを加工し、スペーサーを別途製作し、スリットに対してスペーサーを内挿する一連の製作方法と比べて、芯材の狭幅部の広幅面に例えばレーザー加工やプラズマ加工等によって切り込みを加工するのみでよいことから、製作効率は格段に向上する。
【0013】
芯材の狭幅部の広幅面のうち、端辺側の領域にスペーサーが設けられることから、「外スペーサー」と称することができ、狭幅部の内側にスペーサーが設けられる場合の「内スペーサー」と異なる形態のスペーサーとなる。
【0014】
芯材の狭幅部の2つの端辺側の領域にそれぞれ切り込みを設けることにより、2つの端辺側の切り込みの間の幅が狭幅部における有効幅となる。芯材がその長手方向の中央側において広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有していることにより、中央側の狭幅部を塑性化し易い領域とすることができ、例えばその全域おいて狭幅部の弱軸方向に高次モードの座屈を有効に生じさせ、地震エネルギーを効果的に吸収することが可能になる。
【0015】
ここで、遷移部の平面視形状は、広幅部の端部から狭幅部の端部に向かって湾曲状に広幅面の幅が狭くなる形状や、テーパー状に広幅面の幅が狭くなる形状等を挙げることができる。
【0016】
また、芯材と拘束材の間には、アンボンド材が介在する形態と、アンボンド材が介在しない、アンボンド材レスの形態がある。アンボンド材が介在する形態において、アンボンド材は、ブチルゴム等の変形性能を有する弾性材により形成される。このアンボンド材が芯材の広幅面と拘束材の間に介在することで、アンボンド材の厚みをクリアランスとして、芯材が圧縮力を受けた際にこのクリアランス内で高次モードの座屈を生じさせることが可能になる。一方、アンボンド材レスの形態では、芯材と拘束材の間に空隙を設け、空隙にて芯材の高次モードの座屈を吸収することが可能になる。尚、座屈拘束ブレースがアンボンド材を有する場合に、アンボンド材と拘束材の間に、内挿板が介在している形態であってもよい。この形態によれば、アンボンド材と拘束材の間に例えば鋼製の内挿板が介在していることにより、芯材の弱軸方向への高次モードの座屈による押圧力が拘束材に直接作用して、拘束材が局部破壊することを効果的に抑制することができる。
【0017】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記2つの切り込みはそれぞれ、前記縮み代部の左右端から左右の前記境界までの間で連続していることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、2つの切り込みが縮み代部の左右端から左右の境界までの間で連続していることにより、製作効率がより一層向上する。
【0019】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記2つの切り込みはそれぞれ、前記縮み代部の左右端から左右の前記境界までの間で間欠的に設けられ、隣接する該切り込みの間には、切り込みでない残し代が設けられていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、2つの切り込みがそれぞれ、縮み代部の左右端から左右の境界までの間で間欠的に設けられ、隣接する切り込みの間に残し代が設けられていることにより、切り込みの長さが長い場合に、レーザー加工等の加工性が低下し、切り込みの加工精度が低下し得ることに対して、良好な加工性と切り込みの加工精度の確保を図ることができる。
【0021】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記芯材の両端には、前記広幅面に直交して他部材に接合される、一対の接合板が固定され、
前記一対の接合板に対して補強板が固定され、前記広幅面と該一対の接合板と該補強板により形成される空間に前記拘束材の端部が収容されており、
前記芯材の側方において、前記一対の拘束材の両側を一対の補剛材が繋いでおり、
前記芯材が、前記一対の拘束材と前記一対の補剛材とにより包囲されていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、芯材の両端において広幅面に直交する一対の接合板が固定され、一対の接合板に対して補強板が固定され、広幅面と一対の接合板と補強板により形成される空間に拘束材の端部が収容されていることにより、高強度な端部構造を備えた座屈拘束ブレースとなる。ここで、接合板が接合される他部材とは、建物架構の隅角部等から構面内に張り出すブラケットやガセットプレート等の接続治具が一例として挙げられる。また、芯材の端部をウェブとした場合は、このウェブに直交する一対の接合板は一対のフランジとなる。
【0023】
また、芯材の側方において一対の拘束材の両側を一対の補剛材が繋いでいることにより、芯材の幅方向(強軸方向)の変形を補剛材により拘束することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースによれば、芯材に設けられているスリットにスペーサーが内挿される従来構造による、芯材の軸力調整と強軸方向の強度低下抑制といった同様の効果を享受しながら、芯材の変形の際の部材の抜け落ちや補剛不能領域の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の分解斜視図である。
図2】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
図3】実施形態に係る座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面図である。
図4】芯材の一例の平面図である。
図5】芯材の他の例の平面図である。
図6A】芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の押圧力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面模式図である。
図6B】芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の押圧力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸方向の縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態に係る座屈拘束ブレースについて、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0027】
[実施形態に係る座屈拘束ブレース]
図1乃至図6を参照して、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の分解斜視図であり、図2は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、図3は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面図である。また、図4図5はともに、芯材の一例の平面図である。
【0028】
座屈拘束ブレース100は、芯材10と、芯材10の有する2つの広幅面10aに対向するように配設されている一対の拘束材30と、芯材10と拘束材30の間に介在するアンボンド材20とを有する。ここで、図示例の他に、アンボンド材20と拘束材30の間に、鋼板により形成される内挿板が介在する形態であってもよい。また、アンボンド材20を備えていないアンボンド材レスの形態であってもよく、この形態では、芯材10と拘束材30の間に、アンボンド材20の厚みと同程度の空隙が設けられる。
【0029】
芯材10は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、これらの材料からなる芯材10を適用することにより、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0030】
芯材10は、細長の鋼板により形成され、その長手方向の中央側において広幅面10aの幅t2(図4参照)が相対的に狭い狭幅部11を有し、その長手方向の端部側において広幅面10aの幅t1が相対的に広い広幅部12を有する。芯材10はさらに、広幅部12と狭幅部11を繋いで広幅面10aの幅が狭幅部11に向かって徐々に狭くなり、狭幅部11との境界では狭幅部11と広幅面10aの幅が同じである遷移部13とを有する。
【0031】
芯材10がその長手方向の中央側に狭幅部11を有し、長手方向の端部側に広幅部12を有することにより、中央側の狭幅部11を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部11に限定させることができる。
【0032】
図示例の遷移部13は、広幅部12から狭幅部11にかけて幅が徐々に湾曲状に狭まるような形状を有しており、幅が急激に変化することによる局所的な応力集中域の発生を防止している。ここで、遷移部13は、図示例の湾曲状の形状の他にも、テーパー状に幅が徐々に狭くなるような形状であってもよい。
【0033】
芯材10の狭幅部11の中央位置において、狭幅部11の2つの広幅面10aには、鋼製で円柱状の突起15が張り出している。突起15は、狭幅部11の広幅面10aに対して溶接等により接合されている。
【0034】
また、芯材10の狭幅部11の中央側には、広幅面10aの幅が他の領域に比べて狭く、芯材10の圧縮変形の際の縮み代となる縮み代部18が一対の端辺11a側の双方に設けられ、縮み代部18と左右の遷移部13との間には、狭幅部11の長手方向に延びる一対の切り込み16Aや一対の切り込み16Bが設けられ、各切り込み16A,16Bの端部側(外側)には、スペーサーSが形成されている。これら切り込み16A,16Bや縮み代部18、スペーサーS等に関しては、以下で詳説する。
【0035】
芯材の両端にある広幅部12には、その広幅面10aに直交して他部材に接合される、一対の鋼板からなる接合板14Aが溶接等により接合されている。
【0036】
広幅部12と接合板14Aにはそれぞれボルト孔12a,14aが設けられており、不図示の建物架構の隅角部等から構面内に張り出すブラケットやガセットプレート等の接続治具(他部材)のボルト孔と位置合わせされ、ボルト接合されるようになっている。
【0037】
一対の接合板14Aに対して鋼板からなる補強板14Bが溶接等により接合され、芯材10の広幅部12と一対の接合板14Aと補強板14Bとにより形成される空間に、拘束材30の端部が収容されるようになっている。補強板14Bにより、拘束材30の芯材10の端部の弱軸方向への開きが抑制され、座屈拘束ブレース100の端部の強度低下や損傷が抑制される。
【0038】
アンボンド材20は、芯材10の狭幅部11と拘束材30の間に介挿され、アンボンド材20の厚みをクリアランスとして、建物架構の変形の際に芯材10に圧縮力が作用して狭幅部11に面外方向(弱軸方向)の高次モードの座屈(波状の変形)が生じるようになっている。
【0039】
アンボンド材20としては、例えばブチルゴム等の弾性材が適用される。また、アンボンド材20の長手方向の中央位置には、芯材10の突起15が嵌まり込む突起孔20aが設けられている。
【0040】
拘束材30は、断面視矩形の角形鋼管により形成されており、矩形の長辺に対応する側面がアンボンド材20に当接している。拘束材30のうち、アンボンド材20に当接する側面にも、芯材10の突起15が嵌まり込む突起孔30aが設けられている。尚、図示例の角形鋼管30の各隅角部は、直角でなく、曲面(R部)を成しているが、各隅角部が直角であってもよい。
【0041】
芯材10の側方において、一対の拘束材30の両側(矩形の短辺に対応する側面)を一対の鋼板からなる補剛材50が溶接等によって繋いでおり、芯材10は、一対の拘束材30と一対の補剛材50とにより包囲されている。
【0042】
次に、図4図5を参照して、芯材の具体的な構成について説明する。ここで、図4図5はいずれも、芯材の一例の平面図である。
【0043】
図4に示す芯材10は、両端側にあって広幅面10aの幅t1が相対的に広い広幅部12と、中央側にあって広幅面10aの幅t2が相対的に狭い狭幅部11と、広幅部12と狭幅部11を繋いで広幅面10aaの幅t3が狭幅部11に向かって徐々に狭くなり、狭幅部11との境界P2では狭幅部11と広幅面10aの幅t2が同じ遷移部13とを有している。
【0044】
狭幅部11の中央側には、広幅面10aの幅t3が他の領域に比べて狭く、芯材10に対して軸力として圧縮力Nが作用し、圧縮変形した際の芯材10の縮み代となる長さt4の縮み代部18が設けられている。
【0045】
また、狭幅部11の一対の端辺11a側の領域において、縮み代部18の左右端を起点P1として、狭幅部11の長手方向に延びる一対の切り込み16Aと一対の切り込み16Bがそれぞれ設けられ、各切り込み16A,16Bの端部がそれぞれ、左右の遷移部13との境界P2に位置しており、その側方には、切り込みでない残し代17が設けられている。
【0046】
いずれの切り込み16A,16Bともに、狭幅部11の中央にある縮み代部18の起点P1から遷移部13との境界P2までの間で連続している切り込み形態である。
【0047】
各切り込み16A、16Bよりも狭幅部11の端辺11a側の領域は、スペーサーSを形成する。このスペーサーSは、芯材10そのものであり、芯材に開設されるスリットに別部材として挿通されているものでなく、さらに芯材10の一部に圧縮変形の際の縮み代18が確保されていることや、残し代17を介してスペーサーSが他の領域と繋がっていることと相俟って、芯材10の軸力調整と強軸方向の強度低下抑制の双方を図りながら、スペーサーの脱落や移動による補剛不能領域の発生といった課題は生じない。このように、芯材10の狭幅部11には、切り込み16によって仮想のスリットSが形成され、この仮想のスリットSの外側(狭幅部11の広幅面10aの一対の端辺11a側)には、従来のように別途製作されるスペーサーでなく、芯材10自身により形成される仮想のスペーサーSが配設されることになる。
【0048】
また、芯材10の狭幅部11の広幅面10aにスリットを加工し、別途製作したスペーサーをスリットに内挿する一連の製作方法と比べて、芯材10の狭幅部11の広幅面10aに対して、レーザー加工やプラズマ加工等によって切り込み16を加工するのみでよいことから、芯材10の製作効率は格段に向上する。
【0049】
尚、芯材10の狭幅部11の2つの端辺11a側の領域にそれぞれ切り込み16A,16Bを設けることにより、切り込み16A,16Bの間の幅t3が狭幅部11における有効幅となり、この有効幅の狭幅部11の強軸方向への高次モードの座屈をその外側にあるスペーサーSが抑制することになる。
【0050】
一方、図5に示す芯材10Aは、各切り込み16C,16Dが、縮み代部18の左右端の起点P1から左右の境界P2までの間で間欠的に設けられ、隣接する切り込み16C,16Cの間や切り込み16D,16Dの間には、切り込みでない別途の残し代17aが設けられている点において、芯材10と相違する。
【0051】
芯材10Aによれば、連続した切り込みとした際にその長さが長くなる場合に、レーザー加工等の加工性が低下し、切り込みの加工精度が低下し得ることに対して、各切り込み16C,16Dが間欠的に設けられていることから、良好な加工性と切り込みの加工精度の確保を図ることが可能になる。
【0052】
次に、図6A図6Bを参照して、芯材10の弱軸方向に生じる高次モードの座屈について説明する。ここで、図6A図6Bはそれぞれ、芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の押圧力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面模式図と軸方向の縦断面模式図である。
【0053】
座屈拘束ブレース100は、その両端部が建物架構の隅角部等に設けられている接続治具に対してボルト接合等されることにより、建物架構に組み込まれる。そして、建物架構が地震時に変形した際には、地震時の水平力等の外力が接続治具を介して座屈拘束ブレース100の端部に入り、芯材10の端部からその全域に外力が圧縮力Nとして伝達されることにより、芯材10の全域が塑性変形することで地震時のエネルギー吸収性能が発揮されることになる。言い換えると、芯材10に圧縮力Nが作用した際に芯材10の狭幅部11の全域でその弱軸方向に高次モードの座屈(波状の変形)が生じることにより、芯材10の狭幅部11の全体を可及的均等に座屈させることで座屈拘束ブレース100の全体の塑性変形性能を発揮することができる。
【0054】
図6A図6Bに示すように、芯材10に作用する圧縮力Nによって高次モードの座屈が生じ、座屈による波状の変形の山が拘束材30に当接し、拘束材30に対して押圧力Qを付与することになる。そのため、拘束材30は、局所的に作用する押圧力Qに対して局部破壊を生じないように、その局部降伏耐力が設定される。
【0055】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0056】
10,10A:芯材
10a:広幅面
11:狭幅部
12:広幅部
12a:ボルト孔
13:遷移部(縮み代)
14A:接合板
14a:ボルト孔
14B:補強板
15:突起
16,16A,16B,16C,16D:切り込み
17:残し代
17a:別途の残し代
18:縮み代部(縮み代)
20:アンボンド材
20a:突起孔
30:拘束材(角形鋼管)
30a:突起孔
50:補剛材
100:座屈拘束ブレース
S:スペーサー(仮想スペーサー)
N:軸力(圧縮力)
Q:押圧力
P1:起点
P2:境界
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B