(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044791
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】腸内細菌培養組培地、及び腸内細菌培養方法。
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
C12N1/20 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150537
(22)【出願日】2022-09-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(72)【発明者】
【氏名】栗原 新
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BB25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】腸内細菌のより多くの種を培養可能な培養培地、及び培養方法を提供する。
【解決手段】本培養培地を用いてヒトの腸内細菌の本培養を行う前の前培養に使用可能な腸内細菌前培養培地であって、GAM系培地に哺乳動物の血液を添加してなる腸内細菌前培養培地とする。前記哺乳動物の血液は、ヒト、ウマ、及びヒツジからなる群より選ばれる少なくとも1種の哺乳動物の血液であってよい。前記哺乳動物の血液の体積濃度は2.0%以上、6.0%(v/v)以下であってよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本培養培地を用いてヒトの腸内細菌の本培養を行う前の前培養に使用可能な腸内細菌前培養培地であって、
GAM系培地に哺乳動物の血液を添加してなる腸内細菌前培養培地。
【請求項2】
前記哺乳動物の血液が、ヒト、ウマ、及びヒツジからなる群より選ばれる少なくとも1種の哺乳動物の血液である請求項1に記載の腸内細菌前培養培地。
【請求項3】
前記哺乳動物の血液がウマの血液である請求項1に記載の腸内細菌前培養培地。
【請求項4】
GAM系培地とウマの血液を含むEG培地を混合することによりGAM系培地にウマの血液を添加したことを特徴とする請求項1に記載の腸内細菌前培養培地。
【請求項5】
前記哺乳動物の血液の体積濃度が2.0%以上、6.0%(v/v)以下である請求項1に記載の腸内細菌前培養培地。
【請求項6】
請求項1に記載の腸内細菌前培養培地と、
GAM系培地、EG培地から馬無菌脱繊血を除去したEGMB培地、又はGAM系培地とEGMB培地を混合した培地からなる腸内細菌本培養培地と
を備える腸内細菌培養組培地。
【請求項7】
哺乳動物の血液を添加したGAM系培地を用いて腸内細菌の前培養を行う前培養工程と、本培養培地を用いて前培養工程で培養した腸内細菌の培養を行う本培養工程と
を備えることを特徴とする腸内細菌培養方法。
【請求項8】
前培養工程において、前培養時間の異なる腸内細菌を、本培養工程が開始する時刻からそれぞれの培養時間だけ前にマルチウェルに植菌するようにして、培養時間の長い腸内細菌から順に前記マルチウェルに植菌する請求項7に記載の腸内細菌培養方法。
【請求項9】
前培養工程で用いた前記マルチウェルから別のマルチウェルプレートに菌を一斉に移植したのち、当該マルチウェルに移植された細菌を同じ培養時間で本培養する請求項8に記載の腸内細菌培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多種の腸内細菌の培養に共通して使用可能な培養技術に関し、特に前培養に用いる培地に工夫を加えることで、多種の腸内細菌を同時に培養可能とする培養技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腸内細菌がヒトの健康状態に大きな影響を与えることが明らかになり、その機能を解明するために糞便中の腸内細菌のDNAを直接解読する菌叢解析(培養を介さない解析)が盛んに行われている。しかし、菌叢解析によって得られるDNAの塩基配列の半分が機能未知であるため、菌叢によってすべての腸内細菌の機能を解明することは困難であり、腸内細菌を培養して直接その機能を研究・解明することが求められている。
【0003】
多くの腸内細菌について、等しい条件で表現型を比較するためには、一度に多種の細菌を培養できる培地が必要である。ところが、欧米人の腸内常在菌叢最優勢種56種(表1参照)のうち、現在までにヒトによる培養に成功し、菌株を保存・配布している機関から入手可能な45種、同様に、日本人の腸内常在菌叢最優勢種50種(表2参照)のうち入手可能な41種については、配布機関が種ごとに指定する培養液(表1、表2参照)が推奨されるという問題がある。
【0004】
【0005】
【0006】
つまり、マルチウェルプレート等で多種の腸内細菌を同時に培養する場合、菌ごとに異なる推奨培地を用いるとすると、ウェルごとに異なる培地を用意する必要があり、これに多大な時間、労力、費用がかかるという問題が生じる。また、ウェルごとに培地が異なると、沈殿物の有無などにより、各ウェルの培養液が不均一になり、すべてのウェルで同時に菌の増殖を測定し、比較することができなくなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明者らは、沈殿物を生成せず、かつ多数の腸内細菌種を培養できる培地の開発に着手し、前培養と本培養の両方を岐阜大学処方嫌気性培地(以下、「GAM培地」という。)で培養する方法で、欧米人腸内常在細菌叢最優勢56種のうち入手可能な45種を培養し、その32種について培養に成功している。(非特許文献1参照)。
【0008】
また、非特許文献2では、GAM培地に改良を加え、色が薄く透明度の高いmGAM培地を用いて欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種を培養し、34種(76%)が増殖したことが報告されている。
【0009】
また、化学的に定義されたGMMなる培地により、非特許文献3では、糞便サンプルから検出される属の70%が、非特許文献4では、その科の71%が分離培養可能であると報告されており、また、非特許文献2では、同培地により、欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種のうち33種(73%)が培養可能であるという報告がなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Gotoh A, Nara M, Sugiyama Y, Sakanaka M, Yachi H, Kitakata A, et al. Use of Gifu Anaerobic Medium for culturing 32 dominant species of human gut microbes and its evaluation based on short-chain fatty acids fermentation profiles. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry (2017) 81:2009-17. doi: 10.1080/09168451.2017.1359486
【非特許文献2】Tramontano M, Andrejev S, Pruteanu M, Klunemann M, Kuhn M, Galardini M, et al. Nutritional preferences of human gut bacteria reveal their metabolic idiosyncrasies. Nature Microbiology (2018) 3:514-22. doi: 10.1038/s41564-018-0123-9
【非特許文献3】Goodman AL, Kallstrom G, Faith JJ, Reyes A, Moore A, Dantas G, et al. Extensive personal human gut microbiota culture collections characterized and manipulated in gnotobiotic mice. Proceedings of the National Academy of Sciences (2011) 108:6252-7. doi: doi:10.1073/pnas.1102938108
【非特許文献4】Rettedal EA, Gumpert H, Sommer MOA. Cultivation-based multiplex phenotyping of human gut microbiota allows targeted recovery of previously uncultured bacteria. Nature Communications (2014) 5:4714. doi: 10.1038/ncomms5714
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、非特許文献1、乃至非特許文献4で開示された培養方法では、未だ十分な種の腸内細菌を共通して培養することができないという問題がある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、腸内細菌のより多くの種を培養可能な培養培地、及び培養方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた発明は、本培養培地を用いてヒトの腸内細菌の本培養を行う前の前培養に使用可能な腸内細菌前培養培地であって、GAM系培地に哺乳動物の血液を添加したことを特徴とする。
【0013】
本発明の腸内細菌前培養培地は、このようにGAM系培地に哺乳動物の血液を添加したので、多くの種類の腸内細菌を同時に培養することができる。
【0014】
前記哺乳動物の血液は、ヒト、ウマ、及びヒツジからなる群より選ばれる少なくとも1種の哺乳動物の血液であることが好ましい。こうすることで、より多くの種の腸内細菌を培養できる。
【0015】
前記哺乳動物の血液は、ウマの血液であることが好ましい。こうすることで、より一層多くの種の腸内細菌を培養できる。
【0016】
本発明は、GAM系培地とウマの血液を含むEG培地を混合することによりGAM系培地にウマの血液を添加してなるものでもよい。こうすることで、GAM系培地にウマの血液を添加した培地と同様に多くの種の腸内細菌を培養できる。
【0017】
前記哺乳動物の血液の体積濃度は、2.0%以上、6.0%(v/v)以下であることが好ましい。こうすることでさらに多くの種類の腸内細菌を培養できる。
【0018】
本発明は、腸内細菌の前培養を行う前培養培地と、当該前培養培地で培養した腸内細菌の本培養を行う本培養培地とからなる腸内細菌培養組培地であって、GAM系培地に哺乳動物の血液を添加してなる前培養培地と、GAM系培地、EG培地から馬無菌脱繊血を除去したEGMB培地、又はGAM系培地とEGMB培地を混合した培地からなる本培養培地とを備える腸内細菌培養組培地を含む。
【0019】
本発明は、哺乳動物の血液を添加したGAM系培地を用いて腸内細菌の前培養を行う前培養工程と、本培養培地を用いて前培養工程で培養した腸内細菌の培養を行う本培養工程とを備えることを特徴とする腸内細菌培養方法を含む。
【0020】
本発明の腸内細菌培養方法は、前培養工程において、前培養時間の異なる腸内細菌を、本培養工程が開始する時刻からそれぞれの培養時間だけ前にマルチウェルに植菌するようにして、培養時間の長い腸内細菌から順に前記マルチウェルに植菌することが好ましい。
こうすることで、培養時間の異なる腸内細菌を培養する際に前培養時間を節約できる。
尚、ここで「マルチウェル」とは、1枚のプレートに多数のウェルを設けたマルチウェルプレートに限らず、バイアル瓶をマルチウェルプレート状に多数並べたものを含むものとする。
【0021】
また、これに続く本培養工程では、前培養工程で用いた前記マルチウェルから別のマルチウェルに菌を一斉に移植したのち、当該マルチウェルに移植された細菌を同じ培養時間で本培養することが好ましい。こうすることで、多数の腸内細菌をさらに効率よく培養できる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明の腸内細菌前培養培地、腸内細菌培養組培地、及び腸内細菌培養方法によれば、多くの種の腸内細菌を同時に培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種を、GAM培地により本培養を行った実施例1、実施例2、及び比較例1の培養試験について、(A)は、試験手順を示すフロー図、(B)乃至(D)は、前培養にそれぞれGAM培地(比較例1)、GE培地(実施例1)、ウマの血を添加したGB培地(実施例2)を用いた場合の各細菌の生育度を示すグラフである。
【
図2-1】欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種を、GB培地を前培養に用い、GAM培地を用いて本培養を行った実施例3の培養試験における各細菌の生育度の経時変化を示すグラフの一部である。
【
図3】日本人腸内常在細菌叢最優勢41種から、欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種と共通する26種を除いた11種を、GB培地を前培養に用いGAM培地により本培養を行った実施例5の、(A)は、試験手順のフロー図、(B)は、各細菌の生育度を示すグラフである。
【
図4】前培養にGB培地、本培養にGAM培地を用い、培養時間を3種に変えながら重要腸内細菌25種の培養を行った実施例5の培養試験について、培養時間の違いによる生育度の違いを示すグラフである。
【
図5】ウマの血液を添加したGB培地で増殖した51種の腸内常在菌について、ヒツジの血を添加したGB培地を前培養に用い、GAM培地により本培養を行った実施例6培養試験について、(A)は、試験手順を示すフロー図、(B)は、各細菌の生育度を示すグラフである。
【
図6】ウマの血液を添加したGB培地で増殖した51種の腸内常在菌について、ヒトの血を添加したGB培地を前培養に用い、GAM培地により本培養を行った実施例7の培養試験について、(A)は、試験手順を示すフロー図、(B)は、各細菌の生育度を示すグラフである。
【
図7】前培養にGAM培地とEG培地を1:1で混合したGE培地を用い、本培養にEG培地から馬無菌脱繊血を除去したEGMB培地を用いた実施例8、及び本培養にEG培地とEGMB培地を混合した(EG+EGMB)培地を用いた実施例9について、欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種の生育度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一の実施形態について詳述する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限られるものではない。
【0025】
(腸内細菌前培養培地)
本実施形態に係る腸内細菌前培養培地(以下、単に「前培養培地」ともいう。)は、ヒトの腸内細菌を培養する際の本培養に先がけて実施される前培養に用いるもので、GAM系培地に哺乳動物の血液を添加して形成される。
【0026】
(GAM系培地)
前培養培地の形成に用いるGAM系培地としては、GAMブイヨン、又は変法GAMブイヨンから形成したGAM液体培地の他、GAM寒天培地、変法GAM寒天培地、GAM半流動高層培地(いずれも日水製薬株式会社製を用いることができる。)を適宜に用いることができる。GAM系培地としては、GAMブイヨン、又は変法GAMブイヨンから形成したGAM液体培地がマルチウェルプレート上で操作しやすい点で好ましく、GAMブイヨンから形成したGAM液体培地が、多くの腸内細菌の培養を可能とする点で、特に好ましい。
【0027】
(混合培地)
GAM系培地に哺乳動物の血液を添加する方法として、哺乳類の血液を含む培地をGAM系培地に混合する方法がある。GAM系培地に混合することにより哺乳動物の血液を添加することとなる培地としては、EG培地、馬血液寒天培地(日水製薬株式会社製を用いることができる)、馬脱繊維血液添加Brucella agar平板培地(ベクトン・ディッキンソン アンド カンパニー社製を用いることができる)が挙げられ、EG培地が、ウマの血液を含みGAM系培地に対するウマの血液の添加を容易にする点で好ましく、かつGAM系培地と混合することで多種の腸内細菌を培養可能な点で好ましい。GAM系培地と、EG培地の体積混合比(GAM系培地/EG培地)は、0.5以上2.0以下が好ましく、0.9以上1.1以下が特に好ましい。以下、GAM培地とEG培地の混合培地をGE培地という。「GAM系培地」と「EG培地」の混合培地は、「GE系培地」と称するものとする。
【0028】
(哺乳動物の血液)
GAM系培地に添加する哺乳動物の血液としては、特に限定されず、ヒト、ウマ、ヒツジ、ウシ、ウサギ、ヤギ、ロバ、イヌ、ネコ等公知の哺乳動物の血液を適宜に用いることができ、ヒト、ウマ、ヒツジが、多くのヒトの腸内常在細菌を培養できる点で好ましく、ウマの血液が、より多くの腸内常在細菌を培養できる点で、特に好ましい。以下、GAM培地にウマ血液を添加した培地をGB培地といい、ヒツジの血液を添加した培地をGB(sheep)培地といい、ヒトの血液を添加した培地をGB(human)培地という。
【0029】
(腸内細菌本培養培地(以下、単に「本培養培地」といいう。))
本培地用培地として用いる培地は、特に限定されないが、GAM系培地、EG培地から馬無菌脱繊血を除去したEGMB培地、又はGAM系培地とEGMB培地を混合した培地を用いることができ、GAM系培地、EG培地から馬無菌脱繊血を除去したEGMB培地、又はGAM系培地とEGMB培地を混合した培地が、より多種の腸内細菌を共通して培養できる点で好ましい。
また、作製が容易で、かつ透明度が高く吸光度(OD600)が測定しやすい点で、本培養にGAM液体培地を用いることが好ましい。
【0030】
(組培地)
組培地は、前培養培地と本培養培地とからなる。上述した前培養培地と本培養培地を適宜に組み合わせて組培地とすることができるが、前培養培地と本培養培地の組合せが、GE培地とGAM系培地、GB培地とGAM系培地、GE培地とEGMB培地、GE培地と(GAM系培地+EGMB培地)のいずれかの組合せが好ましく、GB培地とGAM系培地の組合せが特に好ましい。
【0031】
(腸内細菌培養方法)
本実施形態に係る腸内細菌培養方法は、前培養工程S1と、本培養工程S2とを備えている。本実施形態では、多種の腸内細菌について同時に培養を行う。
【0032】
(前培養工程S1)
前培養工程S1は、腸内細菌を培養するにあたり、本培養工程S2に先がけて行われる培養工程である。前培養工程S1では、前培養培地として哺乳動物の血液を添加したGAM系培地が用いられる。
【0033】
前培養工程S1では、まず培養対象の腸内細菌を、これを保管したグリセロールストックから滅菌済みつまようじ等適宜の方法により、予め前培養培地が分注されたバイアル瓶やマルチウェルプレートに、嫌気状態で移植する。前培養培地は、前培養工程S1の開始前に作製され、嫌気状態に形成しておく。
【0034】
前培養時間は、腸内細菌の種類によって異なり、培養する腸内細菌は、例えば、24時間、48時間、又は96時間前培養するグループに分類され、96時間培養するものは、本培養開始96時間前に前培養を開始し、48時間前培養するもの、24時間培養するものは、それぞれ本培養を開始する48時間、24時間前に培養を開始する。各腸内細菌は、予め分譲機関が推奨する培地や前培養に用いる培地を、寒天培地にしたもの等の増殖が視認しやすい培地により培養を行い、一定時間ごとに増殖の度合いを目視で観察して、培養時間を決定する。培養時間は24時間ごとに限らず、適宜の時間ごとに分けることができ、3つのグループに限らず、2以下、又は4以上のグループに分けてもよい。
【0035】
ここで、培養時間の異なる腸内細菌を同じマルチウェルプレート上に順に移植することが好ましい。あるいは、バイアル瓶等で前培養した前培養時間の腸内細菌を、1枚のマルチウェルプレート上に分注してもよい。こうすることで、前培養時間の異なる腸内細菌を前培養後、コピープレートで一度に本培養用のマルチウェルプレートに移植できる。
【0036】
(本培養工程S2)
本培養工程S2は、前培養工程S1で培養した腸内細菌を、本培養培地で培養を行う工程である。予め嫌気条件で保管した培地をマルチウェルプレート等に分注し、これに、前培養工程S1で培養した腸内細菌を移植して培養を行う。
【0037】
腸内細菌の生育度は、例えば、Multiskan(登録商標)GOマイクロプレートスペクトロフォトメータ(Thermo Fisher Scintific;製品番号51119350)等の吸光度計によりOD600を測定することにより求められる。
また、培養対象の腸内細菌が正しく培養されているかは、16SrDNAのシーケンス解析を公知の方法により行うことにより確認できる。
【実施例0038】
次に、本発明の実施例に係る培地を用いた試験を通じて本発明をさらに詳述する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
前培養培地としてGAM液体培地とEG培地を体積比で1:1に混合したGE培地を用い、本培養培地としてGAM液体培地を用い、入手可能な欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種(表1参照)を培養した。
前培養に用いるGE培地を形成するGAM液体培地、及び本培養に用いるGAM液体培地は、共に日水製薬株式会社製のGAMブイヨンを用いて指示書に従い調整した。
EG培地は、JCM(Japan Collection of Microorganisms)の指示書に従い作製した。EG培地のpHは、NaOHによりpH7.6から7.8の間に調整した。EG培地の組成を表3に示す。
GE培地は、嫌気チャンバー内でGAM液体培地とEG培地を100mLずつ混合して形成し、三菱ガス化学株式会社製アネロパックと共に密閉容器に入れ、4℃で保管した。
【0040】
【0041】
欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種の菌株は、表1に示した分譲機関から購入した。尚、表1の「占有順位」は欧米人人の腸内における占有順位である。
【0042】
(前培養工程S1)
腸内細菌によって前培養に必要な時間が異なるため、予めEG寒天培地に欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種の各腸内細菌を培養し、24時間ごとに生育度を観察して、各腸内細菌の前培養時間を求めた(表4参照)。これに基づき、腸内細菌ごとに本培養開始の24時間前、48時間前、96時間前に前培養を開始した。
まず、-80℃で保管された96時間で生育する細菌のグリセロールストックを、本培養開始時刻の96時間前に嫌気チャンバー内に移し、滅菌済みつまようじで当該グリセロースストックをかきとり、4mLバイアル瓶に予め分注しておいたGE培地3.5 mLに植菌した。
バイアル瓶中のGE培地と加えた菌体のグリセロールストックを、バイアル瓶を転倒することで混和し、アネロパックと共に密閉容器に入れ37℃で96時間培養した。
本培養開始48時間前と24時間前にも同様に細菌を植菌して培養した。
【0043】
【0044】
(本培養工程の準備)
嫌気条件下で保存した本培養のGAM培地を500μLずつ96穴ディープウェルプレート(丸穴丸底, 1.0mL; WATSON; 製品番号376-96R-10)のウェルにマルチチャンネルピペットマンを用いてリバースピペッティングで分注した。同時に1×PBS(-)を96穴ディープウェルプレート1枚に分注し、コピープレート96(株式会社トッケン; 製品番号TK-CPST)のピン先洗浄用プレートとした。これらの操作は嫌気チャンバー内で行った。
【0045】
(本培養工程S2)
前培養工程により培養された腸内細菌を含む前培養液500μLを一旦96穴ディープウェルプレートに移した。96ウェルプレートに入った前培養液をマルチチャンネルピペットマンで10回ピペッティングすることで懸濁し、コピープレート96を前培養液のプレートに3秒押しこみ、これを本培養用プレートに3秒押しこんで接種した。コピープレート96をピン先洗浄用プレートで洗浄しながら、前培養液を3枚の本培養用の96ウェルプレートに接種した。接種済みの96ウェルプレートにGas Permeable Moisture Barrier Seal(4titude; 製品番号,4ti-0516/96)を貼付し、アネロパックと共に密閉容器に入れ、37℃で96時間培養した。
【0046】
(生育度の測定)
本培養工程の完了後、各腸内細菌の生育度は、OD
600を指標に解析した。
図1にその結果を示す。図中、生育度は3枚の96ウェルプレートから得られた平均値を示し、エラーバーは標準誤差を示す。
尚、生育度(OD
600)は、光路長が10mmのキュベットを用いて測定した600 nmにおける吸光の測定値であるところ、本実施例では、96ウェルプレートを使用して培養液の600nmにおける吸光の測定値を測定しており、この96ウェルプレートの光路長は10mmとは異なるため、培養液をキュベット(ザルスタッド株式会社; 製品番号, 67.742J)に入れて吸光度を測定し、キュベットの吸光度 の値/プレートの吸光度の値(以下、「ファクタ」と呼ぶ。)を腸内細菌ごとに算出し、培養液をプレートで測定した際に出た値をファクタとかけることで、プレートで測定した値をキュベットで測定した値に換算した。
【0047】
(実施例2)
前培養培地としてGAM培地にウマの血液を混合したGB培地を用いた他は、実施例1と同様に、欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種を培養し、培養した腸内細胞の生育度(OD
600)を測定した。その結果を
図1に示す。
GB培地に用いるGAM液体培地は、500mL容メディウム瓶に、GAMブイヨン11.8gとElix水を入れて190mLとし、スターラーバーとともに攪拌して完全に溶解させたのち、オートクレーブ(115℃、15分)して作製し、オートクレーブ内の温度が97℃まで下がるとすぐにアネロパック(三菱ガス化学株式会社;製品番号A-03)と共に密封容器に入れ、脱気処理しつつ常温で保存した。馬脱繊維血液(ジャパンバイオシーラム)は、予めファルコンチューブ(CORNNG; 製品番号430791)に分注し、アネロパックと共に密封容器に入れ、1日以上嫌気処理しておいた。嫌気処理後のウマの血液を嫌気チャンバー内でGAM培地に混合してGB培地を完成し、これをアネロパックと共に密封容器に入れて、使用直前まで4℃で保存した。表5にGB培地の組成を示す。
【0048】
【0049】
また、実施例2においては、前培養液から得られた菌体からgDNAを抽出し、16SrDNAのシーケンス解析を行い、結果をBLAST解析した。その結果、それぞれデータベース上の目的の細菌の16SrDNA配列と一致したことから、これらの生育がコンタミネーションの結果ではないことが確認できた。
【0050】
(比較例1)
前培養培地、本培養培地ともにGAM液体培地を用いた他は、実施例1と同様に、欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種を培養し、培養した腸内細胞の生育度(OD
600)を測定した。その結果を
図1に示す。
【0051】
(実施例3)
実施例2と同様に、前培養にGB培地、本培養にGAM液体培地を用いて欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種の培養を行い、本培養開始後24時間ごとに生育度(OD
600)を測定し、本培養工程における生育度の経時変化を調べた。その結果を
図2-1、
図2-2に示す。(1図にまとめると各グラフが小さくなるため、2図に分割して表示した。)
また、前培養完了時に得られた前培養液を用いて、16SrDNA解析を行った。
【0052】
(実施例4)
実施例2同様、前培養にGB培地を用い、本培養にGAM液体培地を用いて、入手可能な日本人腸内常在細菌叢最優勢15種(表6参照)を培養した。当該15種は、腸内常在細菌叢最優勢41種のうち、入手可能な欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種と重複する26種を除いたものである。各腸内細菌の前培養時間は、予めGB平板培地に各細菌を植菌して、24時間ごとに形成されるコロニーを視認することで決定した(表6参照)。
本培養時間は、実施例2では96時間であったが、本実施例ではEggerthella lentaを除き、48時間とし、Eggerthella lentaは、96時間とした。培養した各腸内細菌の生育度(OD
600)を測定し、16SrDNA解析を行った。その結果を
図3に示す。
【表6】
【0053】
(実施例5)
実施例2と同様に、前培養にGB培地を用い、本培養にGAM液体培地を用いて、表7に示した重要腸内細菌(プロバイオティクス細菌、酪酸酸性菌、悪玉菌が含まれる。)を培養した。培養時間は、以下の3通りとした。
(1)GB培地を用いた前培養24時間→GAM培地を用いた本培養24時間
(2)GB培地を用いた前培養24時間→GAM培地を用いた本培養48時間
(3)GB培地を用いた前培養48時間→GAM培地を用いた本培養24時間
【表7】
【表8】
【0054】
(実施例9)
本培養培地として、GAM液体培地とEGMB培地を混合した(GAM+EGMB)培地を用いた他は、実施例8と同様にして欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種の培養を行って生育度を測定した。
(GAM+EGMB)培地は、GAM培地(実施例1参照)と、EGMB培地(実施例8参照)を100mLずつ嫌気チャンバー内で混合し、アネロパックと共に密閉容器に入れ常温で保存した。
【0055】
(結果)
(実施例1、実施例2、比較例1の結果)
図1に示すように、前培養、本培養ともにGAM培地を用いた比較例1では、欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種のうち36種(
図1中の符号Bを付した白丸参照)のみが生育したのに対し、前培養にEG培地を用いた実施例1は、当該45種中40種、前培養にGB培地を用いた実施例2の場合は、当該45種中39種が十分に生育することが分かった(
図1中の符号C、Dを付した灰色、及び黒丸参照)。
【0056】
(実施例3の結果)
実施例2同様、前培養培地にGB培地を用い、本培養培地にGAM液体培地を用いて、本培養時の菌の生育度を24時間ごとに測定したところ、
図2-1、
図2-2に示すように、入手可能な欧米人常在腸内細菌45種のうち、実施例2で飼育した菌のうち2種が生育しなかった一方で、実施例2で生育しなかった1種について安定した増殖が確認され、都合39菌種が継続的増殖を示すことが分かった。培養した菌の16SrDNA解析により、増殖した39種すべての菌について、確実に増殖していることが確認できた。
【0057】
(実施例4の結果)
前培養培地にGB培地を用い、本培養培地にGAM液体培地を用いて、入手可能な日本人腸内常在細菌叢最優勢15種について培養を行ったところ、
図3に示すように、14種について十分な生育度(OD
600が0.15以上)が得られたが、このうち2種は、16SrDNA解析により正しい菌が培養されたことが確認できなかった。従って、当該15種のうち、12種が培養可能であることが分かった。
【0058】
(実施例5の結果)
前培養にGB培地を用い、本培養にGAM液体培地を用いて、表9に示した重要腸内細菌25種について培養を行ったところ25種すべてについて、十分な生育度が得られ(OD
600が0.15以上)培養に成功した。前培養をGAM培地で行った場合と比較して培養可能な菌種数に変化はなかったが、3菌種について前培養時間が48時間から24時間に短縮された(表9参照)。
【表9】
【0059】
(実施例6の結果)
前培養培地として、ヒツジの血液を5%(v/v)添加したGB(sheep)培地を用い、本培養培地としてGAM培地を用い、実施例3で培養可能であった入手可能な欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種のうちの39種と、実施例4で培養可能であった入手可能な日本人腸内常在細菌のうちの12種を合わせた51種について培養試験を行ったところ、
図5に示すように、48種について十分な生育度(OD
600が0.15以上)が得られた。
【0060】
(実施例7の結果)
前培養培地として、ヒトの血液を5%(v/v)添加したGB(human)培地を用いた他は実施例6と同様にして字四位例6と同じ51種の腸内細菌について培養試験を行ったところ、
図6に示すように、45種について十分な生育度(OD
600が0.15以上)が得られた。
【0061】
(実施例8、実施例9の結果)
前培養にEG培地を用い、本培養にEGMBを用いて、欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種の培養を行ったところ、
図6に示すように39種について、十分な生育度(OD
600が0.15以上)が得られ、前培養にEG培地を用い、本培養に(EGMB+GAM)培地を用いて、欧米人腸内常在細菌叢最優勢45種の培養を行ったところ、
図6に示すように40種について、十分な生育度(OD
600が0.15以上)が得られた。
【0062】
以上、本発明の培地は、上記の実施形態に限られず、例えば、本培養培地は、GAM培地、EGMB培地、又はGAM培地とEGMB培地を混合した培地以外の培地を用いてもよい。GAM培地に加える哺乳動物の血液としては、ウマ、ヒツジ、ヒトに限らず公知の哺乳動物の血液を適宜に用いることができる。また、複数種の哺乳動物の血液を同時に添加してもよい。哺乳動物の血液をGAM培地に加える体積濃度は、2.0%(v/v)未満であってもよいし6.0%(v/v)を超えてもよい。