(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000448
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理システム、信号処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/08 20060101AFI20231225BHJP
G01S 3/46 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
H04B7/08 422
H04B7/08 802
G01S3/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099226
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】平原 大地
(57)【要約】
【課題】多数の信号を検出することができる信号処理システム、信号処理装置、信号処理システム、信号処理方法、及びプログラムを提供することを目的の一つとする。
【解決手段】実施形態に係る信号処理装置は、処理部を備える。処理部は、アレーアンテナに含まれる複数のアンテナ素子の其々によって受信された信号に基づくサンプリングデータを取得し、前記取得したサンプリングデータに基づいて、拡張アレイ処理によって前記信号の到来方向をアレー自由度を超えて推定し、前記到来方向に対する前記サンプリングデータの受信電力に基づいて前記到来方向ごとにデジタルビームフォーミングを行い、前記到来方向ごとに前記アレーアンテナによる受信ビームを算出し、前記受信ビームを用いた場合に、前記サンプリングデータをノイズ又は信号衝突からアレー自由度を超えて分離できるか否かを干渉キャンセラ処理の能力を基に判定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレーアンテナに含まれる複数のアンテナ素子の其々によって受信された信号に基づくサンプリングデータを取得し、
前記取得したサンプリングデータに基づいて、拡張アレイ処理によって前記信号の到来方向をアレー自由度を超えて推定し、
前記到来方向ごとにデジタルビームフォーミングを行い、前記到来方向ごとに前記アレーアンテナによる受信ビームを算出し、
前記受信ビームを用いた場合に、前記サンプリングデータをノイズ又は信号衝突からアレー自由度を超えて分離ができるか否かを干渉キャンセラ処理の能力を基に判定する、
処理部を備える信号処理装置。
【請求項2】
前記アレーアンテナは、スパースアレーアンテナであり、
前記スパースアレーアンテナの開口長又はスパース性は、混信が信号発信源の間で同期が取れなくなる信号発信源間の見通し距離を超えるような位置関係で生じる場合に、前記信号発信源の見通し距離と同じビーム幅になるように調整される、
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記アレーアンテナは、スパースアレーアンテナであり、
前記スパースアレーアンテナの開口長又はスパース性は、前記干渉キャンセラ処理が成功する信号発信源間の距離、到来方向、又は角度差に資するように、メインローブ方向、ビーム幅、及びグレーティングローブが生じる角度で調整される、
請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記アレーアンテナは、スパースアレーアンテナであり、
前記スパースアレーアンテナのスパース性は、前記干渉キャンセラ処理が成功する信号の混信数になるように、アンテナアレイのスパース性が、必要なヌルの増加数になるように調整される、
請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記処理部は、
前記サンプリングデータをノイズや信号衝突から分離できないと判定した場合、各信号に対する前記デジタルビームフォーミングを繰り返し、ノイズ又は信号衝突の軽減状態を変化させながら分離可否を判定し直す、
請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記処理部は、
前記到来方向が推定できないと判定した場合、または事前に困難と判断できた場合に、必要なサンプリングレートと到来方向指定処理のスナップショット数を、切り替えられるように複数のモードを有する、
請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記干渉キャンセラ処理の能力は、実績又はシミュレーションにより信号数、各受信電力、各周波数遷移、及び各信号遅延量からデータベース化される、
請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記処理部は、
検出に成功した信号情報から受信波形を模擬し、各アンテナで受信されサンプリングされた各サンプリングデータ、あるいは、生成された受信ビームごとのデジタル信号に対して、逐次的に差し引くことで、ノイズや信号衝突を部分的に削減した条件で再処理する、
請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項9】
前記処理部は、
前記サンプリングデータをノイズ又は信号衝突から分離できると判定した場合、前記サンプリングデータの処理条件を記憶部に記憶させ、
前記アレーアンテナによって新たな信号が受信された場合、前記新たな信号に基づく新たなサンプリングデータを取得し、
前記新たなサンプリングデータと、前記記憶部に記憶させた前記処理条件とに基づいて、前記新たなサンプリングデータに適用する処理を決定する、
請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項10】
前記処理条件には、前記到来方向ごとの受信ビーム条件、前記到来方向に対する前記サンプリングデータの受信電力、周波数遷移、受信信号数、観測時の地理的条件、時間、季節、及び経年変化のうち一部又は全部が含まれる、
請求項9に記載の信号処理装置。
【請求項11】
請求項1に記載の信号処理装置の一部は人工衛星に搭載され、処理負荷が高い処理を地上側に構築することで、処理負荷の高い処理が有効な観測データ範囲のみのサンプリングデータでダウンリンクし小型軽量低消費電力化を可能とする、
信号処理システム。
【請求項12】
前記信号処理装置は、
前記人工衛星の内部ではサンプリングデータのアナログまたはデジタルによるビームフォーミングと復調処理のみとし、検出した信号情報のみの軽量なデータ量をダウンリンクし、
拡張アレイ処理によるアレー自由度を超える到来方向推定が有効と判断された、限定的な観測期間においてのみサンプリングデータもダウンリンクし、地上でアレー自由度を超える到来方向推定処理を実施することで性能も確保する、さらに小型軽量低消費電力化を可能とし、性能向上能力を具備した、
請求項11に記載の信号処理システム。
【請求項13】
前記信号処理装置は、
人工衛星内部ではサンプリングデータのアナログまたはデジタルによるビームフォーミングと復調処理のみとし、検出した信号情報のみの軽量なデータ量をダウンリンクし、
前記干渉キャンセラ処理によるアレー自由度を超えるノイズや信号衝突の分離が有効と判断された、限定的な観測期間においてのみサンプリングデータもダウンリンクし、地上で干渉キャンセラ処理を実施することで性能も確保する、さらに小型軽量低消費電力化を可能とし、さらに性能向上能力を具備した、
請求項11又は12に記載の信号処理システム。
【請求項14】
コンピュータを用いた信号処理方法であって、
アレーアンテナに含まれる複数のアンテナ素子の其々によって受信された信号に基づくサンプリングデータを取得すること、
前記取得したサンプリングデータに基づいて、拡張アレイ処理によって前記信号の到来方向をアレー自由度を超えて推定すること、
前記到来方向に対する前記サンプリングデータの受信電力に基づいて前記到来方向ごとにデジタルビームフォーミングを行い、前記到来方向ごとに前記アレーアンテナによる受信ビームを算出すること、
前記受信ビームを用いた場合に、前記サンプリングデータをノイズ又は信号衝突からアレー自由度を超えて分離できるか否かを干渉キャンセラ処理の能力を基に判定すること、
を含む信号処理方法。
【請求項15】
コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
アレーアンテナに含まれる複数のアンテナ素子の其々によって受信された信号に基づくサンプリングデータを取得すること、
前記取得したサンプリングデータに基づいて、拡張アレイ処理によって前記信号の到来方向をアレー自由度を超えて推定すること、
前記到来方向に対する前記サンプリングデータの受信電力に基づいて前記到来方向ごとにデジタルビームフォーミングを行い、前記到来方向ごとに前記アレーアンテナによる受信ビームを算出すること、
前記受信ビームを用いた場合に、前記サンプリングデータをノイズ又は信号衝突からアレー自由度を超えて分離できるか否かを干渉キャンセラ処理の能力を基に判定すること、
を含むプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、信号処理システム、信号処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
変調信号が多数混信している状況において、限られたアンテナアレイシステムでの受信では素子数を上回る信号数や密集した信号源に対して検出能力が低下する。信号の到来方向を把握するだけであれば電力積算等による到来方向推定処理各種が性能を補うことができるが、信号復調を必要とする場合には本来のアレー自由度で対処することとなる。
【0003】
その様な状況が発生する場合として、例えば海洋における船舶の位置情報等の収集を行う自動船舶識別システム(Automatic Identification System、以下「AIS」という)の衛星受信がある(例えば、特許文献1と非特許文献1参照)。海洋上の船舶からAISを利用して送信される信号(以下、「AIS信号」という)を人工衛星に設けられたAISアンテナで受信することで、直径約5000[km]という広範囲での受信が可能である。一方で、船舶が過密した領域ではAIS信号がアンテナのアレー自由度を大きく超えて混信してしまう課題がある。
【0004】
このような課題に対して、データベース化された干渉情報や推定された干渉情報を用いて信号分離を試みる方式(例えば特許文献2参照)が知られている。更に、スパースアンテナアレイとKR積拡張処理によりアンテナ数を節約したうえで、AIS信号の到来方向を推定し、その到来方向の推定結果を用いることで、空間分離が可能な条件をアレー自由度に応じて探索する手法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-197779号公報
【特許文献2】特開2020-174278号公報
【特許文献3】特開2021-050929号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“衛星搭載船舶自動識別システム(AIS)実験「SPAISE」”,[online],[2022年6月20日検索],インターネット<URL:https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/spaise/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、混信状況を推定しアレー自由度を超える混信状況で信号復調を可能とする条件を抽出するには各処理過程で効率的な判断基準が求められる。また、スパースアンテナアレイとKR積拡張処理による到来方向推定能力の向上に対して、本来のアレー自由度で構築されるデジタルビームフォーミング(以下、DBF)の性能が劣化するため、スパースアンテナアレイをバランスよく設計することが求められる。
【0008】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、多数の信号を検出することができる信号処理装置、信号処理システム、信号処理方法、及びプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、アレーアンテナに含まれる複数のアンテナ素子の其々によって受信された信号に基づくサンプリングデータを取得し、前記取得したサンプリングデータに基づいて、拡張アレイ処理によって前記信号の到来方向をアレー自由度を超えて推定し、前記到来方向に対する前記サンプリングデータの受信電力に基づいて前記到来方向ごとにデジタルビームフォーミングを行い、前記到来方向ごとに前記アレーアンテナによる受信ビームを算出し、前記受信ビームを用いた場合に、前記サンプリングデータをノイズ又は信号衝突からアレー自由度を超えて分離できるか否かを干渉キャンセラ処理の能力を基に判定する処理部を備える信号処理装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、多数の信号を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る信号処理システム1の概念図である。
【
図2】実施形態に係るセンサ装置100の構成図である。
【
図3】実施形態に係る信号処理装置200の構成図である。
【
図4】実施形態に係る信号処理装置200の処理部230による各処理を模式的に表した図である。
【
図5】実施形態に係る信号処理装置200による一連の処理の流れを表すフローチャートである。
【
図6】各サンプリングデータの到来方向を表す図である。
【
図7】ある到来方向に応じた受信ビームのパターンを表す図である。
【
図8】各到来方向のサンプリングデータの受信電力の結果(
図6の結果)に対して、受信ビームBaのゲインを乗算した結果を表す図である。
【
図9】各到来方向のサンプリングデータの受信電力の結果(
図6の結果)に対して、受信ビームBbのゲインを乗算した結果を表す図である。
【
図10】受信ビームBa及び受信ビームBbを用いた観測時における信号分離の可否の判定方法を説明するための図である。
【
図11】効果的でない受信ビームを用いた観測時における信号分離の可否の判定方法を説明するための図である。
【
図12】その他の実施形態に係る信号処理装置200の処理部230による各処理を模式的に表した図である。
【
図13】その他の実施形態に係る信号処理装置200の処理部230による各処理を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の信号処理装置、信号処理システム、信号処理方法、及びプログラムの実施形態について説明する。
【0013】
[信号処理システム]
図1は、実施形態に係る信号処理システム1の概念図である。図示のように、信号処理システム1には、例えば、少なくとも一つの移動体Mと、一つ又は複数の地上局Gが含まれる。移動体Mは、プラットホームの一種であり、典型的には、人工衛星である。この人工衛星は、衛星メガコンステレーションやクラスター衛星群といったクラスターを形成するものであってもよい。人工衛星のような移動体Mに自律機能があり、他観測システム等の制御機能を有する場合は、必ずしも地上局Gを必須としない。
【0014】
移動体Mは、人工衛星に限られず、宇宙探査機であってもよいし、航空機やドローンといった地上上空を航行する飛行体であってもよい。また、移動体Mは、例えば車両等の陸上を移動するものであってもよい。以下、一例として、移動体Mは「人工衛星」であるものとして説明する。移動体Mが人工衛星である場合、信号処理システム1は、地球及び宇宙空間に存在する変調信号源を検出するために利用される。
【0015】
人工衛星Mは、予め決められた軌道を航行しながら地上(海洋も含む)を観測し、その観測結果を表す信号(以下、観測信号という)を地上局Gに送信する。軌道は、例えば、地球周回軌道である。
【0016】
例えば、人工衛星Mは、軌道に沿って航行しながら、ターゲットTから発信された信号を受信する。ターゲットTは、例えば、海洋上の船舶であってよい。この場合、人工衛星Mは、船舶から発信されたAIS信号を受信する。人工衛星Mは、信号を受信すると、当該信号を地上局Gに送信する。
【0017】
地上局Gは、地上に設置された無線局である。地上局Gは、人工衛星Mから信号を受信したり、人工衛星Mに観測に関する指示(例えば観測すべきタイミングや観測すべき地点等)を送信したりする。
【0018】
[センサ装置]
図2は、実施形態に係るセンサ装置100の構成図である。センサ装置100は、人工衛星Mに搭載される。例えば、センサ装置100は、アンテナ110と、送受信器120と、処理部130と、記憶部140とを備える。送受信器120はパッシブセンサであれば受信器のみでも良い(送信器は省略されてもよい)。
【0019】
アンテナ110は、複数のアンテナ素子が配列されたフェーズドアレーアンテナである。フェーズドアレーアンテナはスパース性を有するアンテナ、つまりスパースアレイアンテナであってよい。アンテナ110に含まれる複数のアンテナ素子の其々が、ターゲットTから信号を受信する。
【0020】
送受信器120は、ターゲットTから発信された信号を、アンテナ110に含まれる複数のアンテナ素子の其々を介して受信する。また、送受信器120は、特定周波数のパルス信号をアンテナ110に供給し、アンテナ110を介してパルス状のマイクロ波を海上に向けて照射してもよい。更に、送受信器120は、アンテナ110を介して、照射したマイクロ波の反射波(つまり観測信号)を受信してよい。
【0021】
処理部130は、ターゲットTの信号を受信するように送受信器120を制御したり、マイクロ波を送受信させるように送受信器120を制御したりする。つまり、処理部130は、アンテナ110をパッシブレーダとして機能させるように送受信器120を制御したり、アンテナ110をアクティブレーダとして機能させるように送受信器120を制御したりする。また処理部130は、上記のいずれか一部の機能に限定されてもよい。
【0022】
また、処理部130は、アンテナ110によって受信された信号を変調(エンコード)し、その変調信号を地上局Gに送信するよう送受信器120を制御してよい。地上局Gは、人工衛星Mから変調信号を受信した場合、当該変調信号を復調(デコード)してよい。
【0023】
処理部130は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサが記憶部140に格納されたプログラムやAPI(Application Programming Interface)等を実行することにより実現される。また、処理部130は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェア(回路)により実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。また、プロセッサにより参照されるプログラムは、予め記憶部140に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、その記憶媒体から記憶部140へとインストールされてもよい。センサ装置100の各機能部は、人工衛星Mに設けられるのに限られず、地上局Gや、地上局Gと異なるその他の地上設備(例えばサーバが集約されたデータセンタ等)に設けられてもよい。
【0024】
記憶部140は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などによって実現される。記憶部140には、例えば、プロセッサによって実行されるプログラムなどが格納される。
【0025】
[信号処理装置]
図3は、実施形態に係る信号処理装置200の構成図である。信号処理装置200は、地上局Gやデータセンタといった任意の地上設備に設置されてよい。例えば、信号処理装置200は、アンテナ202と、送受信器204と、通信インタフェース206と、入力インタフェース208と、出力インタフェース210と、処理部230と、記憶部240とを備える。
【0026】
アンテナ202は、例えば、パラボラアンテナやフェーズドアレーアンテナである。
【0027】
送受信器204は、アンテナ202を介してマイクロ波を人工衛星Mに向けて照射する。更に、送受信器120は、アンテナ110を介して、人工衛星Mから信号を受信する。人工衛星Mから受信する信号には、AIS信号や、船舶が存在する海域の画像データなどが含まれてよい。これら信号は変調されていてよい。信号処理装置200がデータセンタに設置された場合、アンテナ202や送受信器204は省略されてよい。
【0028】
通信インタフェース206は、信号処理装置200が地上局Gに設置された場合、地上通信ネットワークを介して各地のデータセンタと通信する。通信インタフェース206は、信号処理装置200がデータセンタに設置された場合、地上通信ネットワークを介して地上局Gと通信する。地上通信ネットワークは、例えば、WAN(Wide Area Network)やLAN(Local Area Network)などである。通信インタフェース206は、例えば、NIC(Network Interface Card)等を含む。
【0029】
入力インタフェース208は、ユーザからの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理部230に出力する。例えば、入力インタフェース208は、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパネル等を含む。
【0030】
出力インタフェース210は、例えば、ディスプレイやスピーカなどを備える。ディスプレイは、処理部230によって生成された画像や、操作者からの各種の入力操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)等を表示する。例えば、ディスプレイは、LCD(Liquid Crystal Display)や、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等である。スピーカは、処理部230から入力された情報を音声として出力する。
【0031】
処理部230は、人工衛星Mからアンテナ202を介して受信された信号に対して、デジタルビームフォーミング、信号復調、拡張アレイ処理、到来方向推定、信号ノイズの解析、逐次干渉キャンセラ処理、といった様々な処理を行う。
【0032】
処理部230は、例えば、CPUやGPUなどのプロセッサが記憶部240に格納されたプログラムを実行することにより実現される。また、処理部230は、LSI、ASIC、またはFPGAなどのハードウェア(回路)により実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。また、プロセッサにより参照されるプログラムは、予め記憶部240に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、その記憶媒体から記憶部240へとインストールされてもよい。
【0033】
記憶部240は、例えば、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM、ROM、RAMなどによって実現される。記憶部240には、例えば、プログラムなどが格納される。更に記憶部240には、処理部230の処理結果として、後述の受信ビームのパターンなどが随時蓄積される。
【0034】
[信号処理装置の処理]
図4は、実施形態に係る信号処理装置200の処理部230による各処理を模式的に表した図である。
図5は、実施形態に係る信号処理装置200による一連の処理の流れを表すフローチャートである。
【0035】
まず、処理部230は、信号処理装置200が地上局Gに設置された場合、アンテナ202及び送受信器204を介して人工衛星Mから変調信号を取得し、その変調信号を任意のサンプリングレートでサンプリングすることで、変調信号をデジタル信号に変換する(ステップS100)。以下、サンプリングされてデジタル信号に変換された変調信号のことを、「サンプリングデータ」と称して説明する。
【0036】
例えば、送受信器204は、切り替え可能な複数のサンプリングモードを有しており、各サンプリングモードに応じたサンプリングレートで変調信号をサンプリングしてよい。これによって各サンプリングレートのサンプリングデータが取得される。また、処理部230は、S100の処理として、サンプリング後にデシメーションにより所望のサンプリング周波数に変換しても良い。言い換えれば、信号処理装置200は、互いに異なる複数のサンプリングレートの中からいずれか一つのサンプリングレートを選択し、その選択したサンプリングレートで変調信号をサンプリングすることでサンプリングデータを取得してよい。
【0037】
さらに、信号処理装置200は、切り替え可能なサンプリングモードに応じて、到来方向指定処理の実行時にスナップショット数を切替ても良い(ステップS151)。
【0038】
例えば、人工衛星Mのアンテナ110に4つのアンテナ素子が含まれている場合、4つのアンテナ素子a,b,c,dの其々がターゲットTの信号を受信し得る。この場合、人工衛星Mから地上の信号処理装置200には、アンテナ素子aによって受信された信号が変調された変調信号と、アンテナ素子bによって受信された信号が変調された変調信号と、アンテナ素子cによって受信された信号が変調された変調信号と、アンテナ素子dによって受信された信号が変調された変調信号とが送信される。これを受けて、信号処理装置200の処理部230は、アンテナ素子aの変調信号をサンプリングすることで1つ目のサンプリングデータを取得し、アンテナ素子bの変調信号をサンプリングすることで2つ目のサンプリングデータを取得し、アンテナ素子cの変調信号をサンプリングすることで3つ目のサンプリングデータを取得し、アンテナ素子dの変調信号をサンプリングすることで4つ目のサンプリングデータを取得する。
【0039】
処理部230は、取得した複数のサンプリングデータを、後述するデジタルビームフォーミングと、拡張アレイ処理と、到来方向推定処理とに利用する。この際、処理部230は、予め記憶部240に格納された人工衛星Mの運用情報を参照して、取得した複数のサンプリングデータを拡張アレイ処理に利用するのか否かを決定したり、又は取得した複数のサンプリングデータを到来方向推定処理に利用するのか否かを決定したりしてよい。
【0040】
処理部230は、複数のサンプリングデータを到来方向推定処理に利用する場合、到来方向推定が必要か否かを判定する(ステップS151)。例えば、処理部230は、混信する信号の数や位置関係から、デジタルビームフォーミング処理のみでは信号分離が困難と判断される場合に対して、到来方向推定が必要であると判定し、非混信状態またはデジタルビームフォーミング処理のみで信号分離が可能である場合には、到来方向推定が必要でないと判定する。判定は実績やシミュレーションから求まる観測条件で判定しても良いし、サンプリングデータの波形変動から推測しても良い。
【0041】
処理部230は、到来方向推定が必要であると判定した場合、更に、拡張アレイ処理が必要か否かを判定する(ステップS153)。例えば、処理部230は、混信する信号の数がアンテナのアレー自由度以上となる場合、あるいは混信する信号間の位置関係が到来方向推定の分離角以下の場合、拡張アレイ処理が必要であると判定し、アンテナのアレー自由度のみで到来方向推定が可能である場合には、拡張アレイ処理が必要でないと判定する。判定は実績やシミュレーションから求まる観測条件で判定しても良いし、サンプリングデータの波形変動から推測しても良い。
【0042】
処理部230は、到来方向推定が必要であり、かつ拡張アレイ処理が必要であると判定した場合、各アンテナ素子によって受信された信号由来のサンプリングデータ(言い換えれば実サンプリングデータ)に基づいて、アンテナ素子の拡張処理を行う(ステップS102)。処理部230は、到来方向推定が必要であり、かつ拡張アレイ処理が必要でないと判定した場合、S102の処理(拡張アレイ処理)を省略してよい。
【0043】
例えば、処理部230は、カトリ・ラオ積拡張(KR積拡張)を行ってアレー自由度を拡張してよい。例えば、アンテナ素子数Nの一次元等間隔アレイである場合、拡張処理後のアンテナ素子数Mは2×N-1まで拡張可能である。つまり、アンテナ素子数N=4である場合、1次元リニアアレーにおいて最大2×N-1=7に拡張可能となる。言い換えれば、独立した到来方向情報を持つサンプリングデータが最大7つに拡張される。以下、拡張されたサンプリングデータのことを「拡張サンプリングデータ」と称して説明する。スナップショット数は、サンプリングモードに従って任意に切り替えてよい。または、サンプリングモードを複数用意し必要なスナップショット数に従って任意に切り替えてもよい。
【0044】
処理部230は、予め記憶部240に格納された人工衛星Mの運用情報を参照して、アンテナ素子の拡張処理を行うのか省略するのかを決定してよい。
【0045】
処理部230は、(i)到来方向推定が必要であり、かつ拡張アレイ処理が必要でないと判定した場合、又は(ii)拡張アレイ処理を行った場合、拡張サンプリングデータに基づいて、アンテナ110の各アンテナ素子によって受信された信号の到来方向(DOA:Direction of Arrival)を推定する(ステップS104)。言い換えれば、処理部230は、実サンプリングデータと拡張サンプリングデータとに基づいて、各アンテナ素子によって受信された信号の到来方向を推定する。
【0046】
例えば、実サンプリングデータの自由度が4、拡張サンプリングデータの自由度が7である場合、処理部230は、最大7つの信号の到来方向を推定する。
【0047】
到来方向の推定には、ビームフォーマ法やCapon法、線形予測法、最小ノルム法(Min-Norm)、MUSIC(Multiple Signal Classification)、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、MODE(Method of Direction Estimation)のような既知の手法が用いられてよい。
【0048】
更に、処理部230は、各サンプリングデータの到来方向を推定すると、相関行列などを用いて各到来方向に対するサンプリングデータの受信電力を算出する。
【0049】
図6は、各サンプリングデータの到来方向を表す図である。図中の横軸は到来方向(方位角)[degree]を表しており、縦軸はサンプリングデータの受信電力[dB]を表している。図示の例では、S
1からS
7までの合計7つのサンプリングデータの到来方向が示されている。例えば、サンプリングデータS
1の到来方向はθ
1、S
2の到来方向はθ
2、S
3の到来方向はθ
3、S
4の到来方向はθ
4、S
5の到来方向はθ
5、S
6の到来方向はθ
6、S
7の到来方向はθ
7であることを表している。
【0050】
図4及び
図5の説明に戻る。次に、処理部230は、(i)S151の処理において到来方向推定が必要でないと判定した場合、又は(ii)到来方向推定処理を行った場合、各到来方向に対するサンプリングデータの受信電力に基づいて、到来方向ごとにデジタルビームフォーミングを行い、到来方向ごとにアンテナ110による受信ビームを算出する(ステップS106)。
【0051】
例えば、処理部230は、相関行列などを用いて各到来方向に対するサンプリングデータの受信電力を算出する。そして、処理部230は、到来方向が多数であることから、適応処理によりマルチビームフォーミングを行う。変調信号が定包絡線特性を有し、サンプリングデータもまたその定包絡線特性を引き継いでいる場合、処理部230は、適応処理として、定包絡線アルゴリズム(CMA)を用いてよい。このようなビームフォーミングによって、着目するあるサンプリングデータに対してメインローブが形成された受信ビームが算出される。
【0052】
処理部230は、デジタルビームフォーミングを行う際に、アンテナ110にスパース性を持たせてアンテナ開口長を拡大することで、相互干渉によりグレーティングローブが発生するのに併せてヌルも発生する場合、グレーティングローブの発生を許容するのと引き換えにヌルを用いてデジタルビームフォーミングを行ってもよい。
【0053】
また、処理部230は、グレーティングローブの発生を許容できる範囲でアンテナアレイのスパース性を高くしても良い。例えば、混信が信号発信源の間で同期が取れなくなる信号発信源間の見通し距離を超えるような位置関係で生じる場合は、アンテナアレイの開口長やアンテナアレイのスパース性は、信号発信源の見通し距離程度のビーム幅になるように調整されて良い。好ましくは、アンテナアレイの開口長やアンテナアレイのスパース性は、信号発信源の見通し距離と同じビーム幅になるように調整される。
【0054】
更に処理部230は、予め記憶部240に格納された人工衛星Mの運用情報を参照して、到来方向を推定するのか否かを決定してよい。
【0055】
図7は、ある到来方向に応じた受信ビームのパターンを表す図である。図中の横軸は到来方向(方位角)[degree]を表しており、縦軸はサンプリングデータの受信電力に乗算されるゲイン[dB]を表している。図中の受信ビームBaは、サンプリングデータS
6が最も抽出されやすいように算出された受信ビームの一例であり、到来方向θ
6にメインローブが形成された受信ビームである。一方、受信ビームBbは、サンプリングデータS
4が最も抽出されやすいように算出された受信ビームの一例であり、到来方向θ
4にメインローブが形成された受信ビームである。
【0056】
サンプリングデータを精度よく復調するためには、所望のサンプリングデータだけを抽出し、その他のサンプリングデータを抽出しないような受信ビームが望まれる。例えば、サンプリングデータS4、S5、S6のように到来方向が互いに近い位置関係にある場合、受信ビームBaには、到来方向θ6のみに利得が高いことが望まれ、受信ビームBbには、到来方向θ4のみに利得が高いことが望まれる。しかしながら、図示のように、実際には、受信ビームBaは、到来方向θ6だけでなくθ5にも利得が高く、受信ビームBbは、到来方向θ4だけでなくθ5にも利得が高くなる場合がある。
【0057】
そこで処理部230は、まず逐次干渉キャンセラ処理が必要か否かを判定し(ステップS155)、逐次干渉キャンセラ処理が必要であると判定した場合に、更に、信号対干渉ノイズ比(SINR)という観点から、各受信ビームを解析し評価する(ステップS108)。
【0058】
次に、処理部230は、ビームフォーミングでは解消しきれない信号の混信が残る場合に、例えば2波推定問題(あるいは処理規模から現実的には最大3波推定問題)として、各信号が推定可能である場合には、逐次干渉キャンセラ処理を必要であると判定し、各信号が推定不可能である場合には、逐次干渉キャンセラ処理が必要でないと判定する(ステップS157)。
【0059】
図8は、各到来方向のサンプリングデータの受信電力の結果(
図7の結果)に対して、受信ビームBaのゲインを乗算した結果を表す図である。
図9は、各到来方向のサンプリングデータの受信電力の結果(
図7の結果)に対して、受信ビームBbのゲインを乗算した結果を表す図である。
【0060】
例えば、処理部230は、S108の処理として、各到来方向のサンプリングデータの受信電力に、マルチビームフォーミングにより算出された受信ビームのゲインを掛け合わせた結果に基づいて、各受信ビームにおけるSINRを算出する。そして、処理部230は、S157の処理として、復調処理に資する十分なSINRが得られないサンプリングデータに対して逐次干渉キャンセラ処理を行った場合に、信号をノイズから分離できるか否かを判定する。
【0061】
また、処理部230は、S157の処理として、以下の条件に基づいて、逐次干渉キャンセラ処理により信号をノイズから分離することが可能か否かを判定してもよい。
【0062】
・判定対象とするビームフォーミング(受信ビーム)を適用した場合、除去しきれない信号数が所定数(例えば2、3)以上であるかどうか。
・各信号成分が十分な信号対雑音比(例えばCNR(Carrier-to-Noise ratio)、SNR(Signal-to-Noise ratio)、Eb/N0(Energy per bit to Noise density ratio))を有しているかどうか。
・干渉する信号間の所望信号電力と干渉信号電力の比(DUR)。
・到来方向から算出される信号遅延量や周波数偏移の差。
【0063】
処理部230は、十分なSINRが得られないサンプリングデータに対し、逐次干渉キャンセル処理により他サンプリングデータの信号を削減することで、再度デジタルビームフォーミングを行ってよい。再度デジタルビームフォーミングを行うことで、SINRが改善できる受信ビームを算出し直すことが期待できる。
【0064】
処理部230は、信号分離が可能か否かを判定するにあたり、逐次干渉キャンセラ処理を行い(ステップS110)、その逐次干渉キャンセラ処理の結果に応じて更に復調処理を行う(ステップS112)。
【0065】
例えば、処理部230は、複数のサンプリングデータの中からSINRが高いものから順番にチャネルを推定し、そのチャネルを推定したサンプリングデータを復調する。続いて、処理部230は、推定された変調信号をサンプリングデータから減算することで残りのサンプリングデータに対してチャネルを推定し、そのチャネルを推定したサンプリングデータを復調する。
【0066】
図10は、受信ビームBa及び受信ビームBbを用いた観測時における信号分離の可否の判定方法を説明するための図である。図中の横軸は、CNRの平均[dB]を表し、縦軸は、ビットエラーレートの平均と表している。曲線は、受信時の信号衝突により混信している信号数、各周波数遷移、受信電力、受信タイミングからなる干渉条件に基づいて算出される計算結果や実績値からなり、ビームフォーミングにかかわらず各信号波形を推定して実施される干渉キャンセラアルゴリズムによって求まる。
【0067】
図の例では、2波干渉が残る場合の2ケース(太線、細線)を示している。各ケースではより強い信号の方はより低いBERとなり、2番目に強い信号は高いBERとなる。
【0068】
一番上の曲線は、受信信号S
6が抽出されやすい受信ビームBaをサンプリングデータに適用したとき(
図8)に混信として残る信号S
5のBER特性である。その時のCNRがCNR
Pa5であれば許容可能なBER閾値を上回るため復調は成功しないと判断される。対となる上から三番目の線は、同じく信号S
6が抽出されやすい受信ビームBaをサンプリングデータに適用したときのターゲットとなる信号S
6のBER特性である。その時のCNRがCNR
Pa6であれば許容可能なBERの閾値を十分満たすため復調は成功すると判断される。
【0069】
上から二番目の曲線は、受信信号S
4が抽出されやすい受信ビームBbをサンプリングデータに適用したとき(
図9)に混信として残る信号S
5のBER特性である。その時のCNRがCNR
Pb5であれば許容可能なBERの閾値を下回るため混信側である信号S
5も干渉キャンセル処理で復調可能と判断される。対となる一番下の線は、同じく信号S
4が抽出されやすい受信ビームBbをサンプリングデータに適用したときのターゲットとなる信号S
4のBER特性である。その時のCNRがCNR
Pb4であれば許容可能なBERの閾値を十分満たすため復調は成功すると判断される。
【0070】
言い換えると、受信時の信号衝突により混信している信号数、各周波数遷移、受信電力、受信タイミングからなる干渉条件に基づいて干渉キャンセラアルゴリズムの性能が定まるため、それらの要因となる信号発生源の位置関係を考慮して、干渉キャンセラが成功するビーム幅やグレーティングローブになるようなアンテナアレイやアンテナアレイのスパース性を調整することができる。また、アンテナアレイのスパース化によって増加するビームパターンのヌル数を、混信する信号数以上になるようにアンテナアレイやアンテナアレイのスパース性を調整することができる。
【0071】
これら関係はいずれもCNRが向上すれば(図中右側にいくほど)、ビットエラーレートが低下する(図中下側にいく)ことを表している。つまりノイズが減ればビットエラーも減ることを意味している。
【0072】
まず、同じ受信ビームBaを適用している一番上の曲線と上から三番目の曲線に着目する。受信ビームBaを使うと、到来方向が互いに隣り合う信号S5と信号S6のうち、一方のS6はCNRに依存せずにビットエラーレートが閾値以下となり復調できる。一方、他方のS5は、CNRが低下し始めると、ビットエラーレートが閾値を越えるため復調できない。つまり、受信ビームBaは、少なくともサンプリングデータS6のみノイズから分離することができる。実際のCNRがそれぞれ、CNRPa5、CNRPa6であった場合は、信号S5は復調失敗し、S6は復調成功すると判断される。
【0073】
次に、同じ受信ビームBbを適用している上から二番目の曲線と最も一番下にある曲線に着目する。受信ビームBbを使うと、到来方向が互いに隣り合う信号S4と信号S5ともに、CNRに依存せずにビットエラーレートが閾値以下となり復調できる。つまり、受信ビームBbは、サンプリングデータS4だけでなくサンプリングデータS5もノイズから分離することができる。従って、両隣りに干渉信号がある信号5に着目すると、本来検出困難であった対象だが、受信ビームBbによる検出の可能性があると評価できる。
【0074】
図11は、効果的でない受信ビームを用いた観測時における信号分離の可否の判定方法を説明するための図である。図中の横軸は、CNRの平均[dB]を表し、縦軸は、ビットエラーレートの平均と表している。例として、信号S
2と信号S
3の2波干渉が残る場合の2ケース(太線、細線)示している。各ケースでは、より強い信号の方はより低いBERとなり、2番目に強い信号は高いBERとなる。
【0075】
図中の最も一番上にある曲線は、信号S3が抽出されやすい受信ビームBcをサンプリングデータに適用したときのビットエラーレート対CNRの関係例を表している。この場合、全体にわたって許容BERを上回るため混信として残る信号S2の検出は絶望的でありCNRがCNRPc2の場合も当然検出が困難となる。対となる上から3番目の曲線は、同じく信号S3が抽出されやすい受信ビームBaをサンプリングデータに適用したときのターゲットとなる信号S3のBER特性である。CNRがCNRPa3の番はBERが閾値を上回るため検出が困難となるが、よりCNRが高ければ徐々に検出可能となっていくと判断できる。
上から二番目の曲線は、信号S3がより抽出されやすい受信ビームBeをサンプリングデータに適用したときに混信として残る信号S2のBER特性である。その時のCNRがCNRPe2であればBERの閾値をやはり下回るため検出困難となる。対となる一番下の線は、同じく信号S3がより抽出されやすい受信ビームBeをサンプリングデータに適用したときの信号S3のBER特性である。その時のCNRがCNRPe3であれば許容可能なBERの閾値を下回るため復調は成功すると判断される。
【0076】
まず、同じ受信ビームBcを適用している一番上の曲線と上から三番目の曲線に着目する。受信ビームBcを使うと、到来方向が互いに隣り合うサンプリングデータS2とS3のCNRがCNRPc2、CNRPc3と対応するBERが閾値をともに超えるため復調できない。つまり、受信ビームBcは、サンプリングデータから信号S2及び信号S3をDBFで分離しきれず、干渉キャンセラ処理を用いて解消されない。
【0077】
次に、同じ受信ビームBeを適用している上から二番目の曲線と上から最も一番下にある曲線に着目する。受信ビームBeを使うと、到来方向が互いに隣り合う信号S2と信号S3のうち、一方の信号S3はCNRがCNRPe3と低い領域でも対応するBERが閾値以下となり復調できる。一方、他方の信号S2は、CNRがCNRPe2と低い領域で対応するBERが閾値を越えるため復調できない。つまり、受信ビームBeは、少なくとも信号S3は干渉キャンセラ処理も用いることで検出することができる。従って、受信ビームBcよりもより多くの信号をノイズから分離できる受信ビームBeの方が優れていると評価できる。
【0078】
処理部230は、到来方向ごとの受信ビームの全て又は一部に対して、上記のような評価(信号分離の可否判定)を行うことで、最も多くの信号をノイズから分離できる受信ビームを選択する。ノイズから分離された信号は復調することができるため、結果、多数の信号を検出することができる。
【0079】
さらに、一度復調まで成功した信号に対しては波形の再現が可能となるため、元のサンプリングデータから差し引いてから全体処理や一部の処理を再処理することができ、それによりノイズや信号衝突が一部削減された条件でさらなる信号を逐次的に検出することができる。例えば、処理部230は、S110の処理の後にS106の処理に移行する際に、各アンテナのサンプリングデータから差し引いても良い。また、処理部230は、S110の処理の後にS155の処理に移行する際に、ビームフォーミング後のサンプリングデータから差し引いても良い。
【0080】
以上説明した実施形態によれば、信号処理装置200は、人工衛星Mのアンテナ110に含まれる複数のアンテナ素子の其々によって受信された信号をサンプリングすることで、各アンテナにおける当該信号が混信した状態のデジタル信号であるサンプリングデータを取得する。信号処理装置200は、サンプリングデータに基づいて、各アンテナ素子によって受信されたサンプリングデータを用いて信号群の各到来方向を推定する。信号処理装置200は、到来方向に対する信号毎の受信電力を算出し、得られた受信電力に基づいて到来方向ごとにデジタルビームフォーミングを行い、到来方向ごとにアンテナ110による受信ビームを算出する。信号処理装置200は、受信ビームを用いた場合に、各信号を分離できるか否かを判定する。判定方法は干渉キャンセラ処理を用いた際の信号分離能力情報に従い、各信号を分離できると判定した受信ビームを次回以降の処理に利用する。これによって、多数の信号を検出することができる。
【0081】
(その他の実施形態)
以下のその他の実施形態について説明する。上述した実施形態において、処理部230のいくつか処理は省略されてよい。
【0082】
図12は、その他の実施形態に係る信号処理装置200の処理部230による各処理を模式的に表した図である。受信ビームなどの処理結果が記憶部240に十分に蓄積された場合、図示のように、拡張アレイ処理や到来方向推定、SNIR解析処理を省略し、デジタルビームフォーミングをパターン化してよい。蓄積される情報は全てが実績でなく、観測条件で整理された統計的に一般化されたものでもよい。
【0083】
また、一部の観測条件に従って省略する処理範囲をデータベース化し、
図4に示す処理部230の構成とを任意に切り替えても良い。それらが観測時の地理的条件、時間、季節、及び経年変化のうち一部又は全部と対応付けられてもよい。信号形式からタイムスロット毎に定めても良い。
【0084】
具体的には、処理部230は、サンプリングデータをノイズから分離できると判定した場合、当該サンプリングデータの処理条件を記憶部240に記憶させる。処理条件は、到来方向ごとの受信ビーム(
図7)と、到来方向に対するサンプリングデータの受信電力(
図6)とが対応付けられたものであってよい。例えば、処理部230は、上述した
図5に示す一連の処理を何度も繰り返し、到来方向ごとの受信ビーム(
図7)と到来方向に対するサンプリングデータの受信電力(
図6)との関係をデータベース化する。到来方向ごとの受信ビーム(
図7)と到来方向に対するサンプリングデータの受信電力(
図6)との関係が観測時の地理的条件、時間、季節、及び経年変化のうち一部又は全部と対応付けられてもよい。
【0085】
処理部230は、アンテナ110によって新たな信号が受信された場合、その新たな信号をサンプリングすることで、新たなサンプリングデータを取得する。そして、処理部230は、データベース上の複数の処理条件の中から、新たなサンプリングデータに適した処理条件を選択する。つまり処理部230は、データベースを参照して、新たなサンプリングデータを信号分離しやすい受信ビームを決定する。このように、到来方向ごとの受信ビーム(
図7)と到来方向に対するサンプリングデータの受信電力(
図6)との関係がデータベース化されている場合、より簡素な構成で、多数の信号を検出することができる。
【0086】
図13は、その他の実施形態に係る信号処理装置200の処理部230による各処理を模式的に表した図である。図示のように、デジタルビームフォーミングの代わりにアナログビームフォーミングを用いてよい。例えば、人工衛星Mに搭載されたセンサ装置100の処理部130は、予め決められた到来方向のゲインが高い受信ビームを用いて、アナログビームフォーミングを行ってよい(ステップS200)。処理部130は、アナログビームフォーミングによって受信した信号をサンプリングすることで、サンプリングデータを取得し(ステップS202)、そのサンプリングデータを復調したり(ステップS204)、或いは信号処理装置200の処理部230に送信したりする。その際、処理部130のみで信号復調処理(ステップS204)までして結果を送信する場合と、干渉キャンセラ処理も用いることでさらなる信号分離が見込める場合に復調処理まではせずにサンプリングデータを信号処理装置200に送信する場合とを判定しても良い。判定は記憶部140のデータベースを参照して決定する。
【0087】
さらに、アナログビームフォーミングが位相器等を用いて可変である場合には、信号が到来しやすい方向にゲインが高く設定された受信ビーム条件を、予め記憶部140に記憶させ参照させても良い。
【0088】
この場合、センサ装置100の処理部130と信号処理装置200の処理部230は同じ場所でなくてもよく、例えば処理部130は人工衛星Mの内部、処理部230は地上設備に構成されても良い。これにより、衛星システムは緩和されつつ、限定的なサンプリングデータのみをダウンリンクして地上処理で性能重視の処理が可能となる。
【0089】
信号処理装置200の処理部230は、人工衛星Mからサンプリングデータを受信すると、そのサンプリングデータに対して逐次干渉キャンセラ処理を行い(ステップS206)、その逐次干渉キャンセラ処理の結果に応じて更に復調処理を行う(ステップS208)。このような処理によっても、多数の信号を検出することができる。
【0090】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0091】
1…信号処理システム、M…人工衛星、G…地上局、100…センサ装置、110…アンテナ、120…送受信器、130…処理部、140…記憶部、200…信号処理装置、202…アンテナ、204…送受信器、206…通信インタフェース、208…入力インタフェース、210…出力インタフェース、230…処理部、240…記憶部