(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044817
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】特異的結合物質固定化担体粒子の沈降抑制方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/531 20060101AFI20240326BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20240326BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240326BHJP
G01N 33/546 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G01N33/531 B
G01N33/536 F
G01N33/53 D
G01N33/546
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150575
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000131474
【氏名又は名称】株式会社シノテスト
(72)【発明者】
【氏名】小野 幸恵
(57)【要約】
【課題】測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子を緩衝液中で保存した際の、該担体粒子の沈降を抑制できる方法を提供する。
【解決手段】本発明の担体粒子の沈降抑制方法は、測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子を、グッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する緩衝液中で保存するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子を、グッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する緩衝液中で保存することを特徴とする、担体粒子の沈降抑制方法。
【請求項2】
測定対象物質に特異的に結合する物質が抗HMGB1抗体である、請求項1に記載の担体粒子の沈降抑制方法。
【請求項3】
担体粒子がラテックス粒子である、請求項1又は2に記載の担体粒子の沈降抑制方法。
【請求項4】
アルカリ金属ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、又は臭化ナトリウムである、請求項1又は2に記載の担体粒子の沈降抑制方法。
【請求項5】
アルカリ金属ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、又は臭化ナトリウムである、請求項3に記載の担体粒子の沈降抑制方法。
【請求項6】
グッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する緩衝液中で保存された、抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子を用いることを特徴とする、試料中のHMGB1の測定方法。
【請求項7】
担体粒子がラテックス粒子である、請求項6に記載の試料中のHMGB1の測定方法。
【請求項8】
アルカリ金属ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、又は臭化ナトリウムである、請求項6又は7に記載の試料中のHMGB1の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物質を測定する際に用いる、測定対象物質に対して特異的に結合する物質を固定化した担体粒子の沈降抑制方法に関するものである。
本発明は、特に、化学、生命科学、分析化学及び臨床検査等の分野において有用なものである。
【背景技術】
【0002】
抗原と抗体、糖とレクチン、ヌクレオチド鎖とそれに相補的なヌクレオチド鎖、リガンドとレセプター等の特異的な親和性を有する物質間の反応を利用した試料中に含まれる測定対象物質の測定試薬及び測定方法は種々のものが知られている。
【0003】
これは、試料中に含まれる測定対象物質と、この測定対象物質に対して特異的に結合する物質(測定対象物質に対する特異的結合物質)との結合の有無、又は結合の量を測ることにより、試料中に含まれる測定対象物質の有無の測定〔定性測定〕、又はその含有量(濃度)の測定〔定量測定〕を行うものである。
【0004】
特に、測定対象物質に対する特異的結合物質を担体に固定化したものを使用して測定を行う方法、又は測定試薬が繁用されている。
【0005】
例えば、抗原と抗体の間の抗原抗体反応(免疫反応、免疫学的反応)を利用した免疫学的測定試薬(免疫学的測定方法)においては、ラテックス粒子を担体として使用するラテックス免疫比濁法;ラテックス粒子、有機高分子粒子、無機粒子、金属粒子、若しくは赤血球などを担体として使用する間接凝集反応測定法;マイクロタイタープレート、ビーズ、粒子、試験管、若しくは容器などを担体として使用する酵素免疫測定法、発光免疫測定法などの標識免疫測定法;又は、セルロース、若しくは不織布などを担体として使用するイムノクロマトグラフィー法等が繁用されている。
【0006】
これらの中でも、ラテックス粒子を担体として使用するラテックス免疫比濁法は、操作が簡便であり測定時間も短いため、病院や診療所等の医療機関の臨床検査室等で繁用されている。
【0007】
しかしながら、このラテックス免疫比濁法は、担体として使用するラテックス粒子が、その保存中に沈降を生じやすいため、ラテックス粒子が沈降した場合には、測定時に転倒混和等によって、ラテックス粒子を均一にする必要があり、操作が煩雑となり、試料中の測定対象物質の測定に誤差が生じ易いという問題点がある。
【0008】
そこで、ラテックス粒子等の沈降を抑制するため、ラテックス粒子等の分散液中に、ポリアニオンおよびその塩、デキストラン、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を共
存させる方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されているが、必ずしも完全とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子を緩衝液中で保存した際の、該担体粒子の沈降を抑制できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題の解決を目指して鋭意検討を行った結果、測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子を緩衝液中で保存する際に、緩衝液にグッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有させることにより、担体粒子の沈降を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
(1) 測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子を、グッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する緩衝液中で保存することを特徴とする、担体粒子の沈降抑制方法。
(2) 測定対象物質に特異的に結合する物質が抗HMGB1抗体である、前記(1)に記載の担体粒子の沈降抑制方法。
(3) 担体粒子がラテックス粒子である、前記(1)又は(2)に記載の担体粒子の沈降抑制方法。
(4) アルカリ金属ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、又は臭化ナトリウムである、前記(1)又は(2)に記載の担体粒子の沈降抑制方法。
(5) アルカリ金属ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、又は臭化ナトリウムである、前記(3)に記載の担体粒子の沈降抑制方法。
(6) グッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する緩衝液中で保存された、抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子を用いることを特徴とする、試料中のHMGB1の測定方法。
(7) 担体粒子がラテックス粒子である、前記(6)に記載の試料中のHMGB1の測定方法。
(8) アルカリ金属ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、又は臭化ナトリウムである、前記(6)又は(7)に記載の試料中のHMGB1の測定方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子の沈降を抑制することができるものである。
そして、これにより、担体粒子が沈降することなく、長期間保存することができるため、例えば、本発明により沈降が抑制された担体粒子をラテックス比濁法等の測定に用いることにより、誤差を含まない、安定した性能が得られる測定を行うことができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0015】
1.測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子の沈降抑制方法
本発明の担体粒子の沈降抑制方法は、測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子を、グッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する緩衝液中で保存するものである。
【0016】
(1)測定対象物質に特異的に結合する物質
本発明において、測定対象物質に特異的に結合する物質とは、測定対象物質に特異的に結合することができる物質であれば特に限定はない。
【0017】
この測定対象物質に特異的に結合する物質としては、例えば、測定対象物質に結合することができる抗体(抗測定対象物質抗体)、アプタマー(核酸アプタマー若しくはペプチドアプタマー)、アフィボディー、糖若しくはレクチン、ヌクレオチド鎖、又はレセプター等を挙げることができる。
【0018】
なお、測定対象物質に結合することができる抗体(抗測定対象物質抗体)としては、例えば、測定対象物質に結合することができるモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗血清、抗体の断片〔Fab及びF(ab’)2など〕、又は一本鎖抗体(scFv)等を挙げることができる。
【0019】
また、本発明においては、測定対象物質に特異的に結合する物質が、特に抗HMGB1抗体であることが好ましい。
【0020】
(2)担体粒子
本発明において、担体粒子は、前記の測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化することができるものであれば特に限定されない。
【0021】
この担体粒子の材質は、特に限定はなく、例えば、ポリスチレン、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体、ポリアクロレイン、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-グリシジル(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、ゼラチン、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、金属化合物、金属、セラミックス又は磁性体等を挙げることができる。
【0022】
そして、この担体粒子としては、例えば、ラテックス粒子、金属コロイド粒子、リポソーム、マイクロカプセル、又は赤血球等の粒子等を挙げることができる。
また、本発明においては、担体粒子が、特にラテックス粒子であることが好ましい。
【0023】
本発明において、測定対象物質に特異的に結合する物質を担体粒子に固定化することは、物理的吸着法、化学的結合法又はこれらの併用等の公知の方法により行うことができる。
物理的吸着法による場合は、公知の方法に従い、測定対象物質に特異的に結合する物質と、担体粒子とを、緩衝液等の溶液中で混合し接触させたり、或いは緩衝液等に溶解した測定対象物質に特異的に結合する物質を、担体粒子に接触させること等により行うことができる。
【0024】
また、化学的結合法により行う場合は、日本臨床病理学会編「臨床病理臨時増刊特集第53号 臨床検査のためのイムノアッセイ-技術と応用-」,臨床病理刊行会,1983年発行;日本生化学会編「新生化学実験講座1 タンパク質IV」,東京化学同人,1991年発行等に記載の公知の方法に従い、測定対象物質に特異的に結合する物質と、担体粒子とを、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、イミドエステル又はマレイミド等の二価性の架橋試薬と混合、接触させ、測定対象物質に特異的に結合する物質と、担体粒子の、それぞれのアミノ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド基又は水酸基等と前記の二価性の架橋試薬とを反応させること等により行うことができる。
【0025】
更に、測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子の非特異的反応等を抑制するために処理を行う必要があれば、測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子の表面に、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ゼラチン、卵白アルブミン若しくはその塩などのタンパク質、界面活性剤又は脱脂粉乳等を接触させ被覆させること等の公知の方法により処理して、担体粒子のブロッキング処理(マスキング処理)を行ってもよい。
【0026】
(3)グッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物
本発明において、グッド緩衝剤については、担体粒子を緩衝液中で保存した際の、該担体粒子の沈降を抑制させる作用を有するものであれば特に限定されないが、例えば、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸(ADA)、N,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)‐2‐アミノエタンスルホン酸(BES)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、2,2-ビス(ヒドロキシエチル)-(イミノトリス)-(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、1,3-ビストリスヒドロキシメチルメチルアミノプロパン(Bis-Trisプロパン)、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-3-アミノエタンスルホン酸(CAPS)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、3-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、2-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]-プロパンスルホン酸モノハイドレート(HEPPSO)、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPSO)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)デハイドレート(POPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、若しくはN-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)、又はこれらの塩等を挙げることができる。
【0027】
また、本発明において、アルカリ金属ハロゲン化物については、担体粒子を緩衝液中で保存した際の、該担体粒子の沈降を抑制させる作用を有するものであれば特に限定されないが、特に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、又は臭化ナトリウムを使用することが好ましい。
【0028】
なお、このグッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物は、1種類のものだけを用いてもよいし、又は複数種類のものを同時に用いてもよい。
【0029】
また、緩衝液に含有させるグッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物の濃度については、担体粒子を緩衝液中で保存した際の、該担体粒子の沈降を抑制させる作用を発揮する濃度であれば特に限定されず、その種類に応じて適宜設定される。
【0030】
例えば、グッド緩衝剤を使用する場合には、0.25mol/L以上であればよく、0.25~1mol/Lの範囲にあれば好ましく、0.5~1mol/Lの範囲であることがより好ましく、0.75~1mol/Lの範囲が特に好ましい。
また、アルカリ金属ハロゲン化物を使用する場合には、0.5mol/L以上であればよく、0.5~3mol/Lの範囲にあれば好ましく、0.75~2mol/Lの範囲であることがより好ましく、1~2mol/Lの範囲が特に好ましい。
【0031】
なお、本発明において、担体粒子を保存するための緩衝液は、特に限定されないが、例えば、水、生理食塩水又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液〔Tris緩衝液〕、リン酸緩衝液若しくはリン酸緩衝生理食塩水などの各種緩衝液等の水系溶媒を用いることができる。
【0032】
2.試料中のHMGB1の測定方法
本発明の試料中のHMGB1の測定方法は、「試料中のHMGB1」と「抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子」とを接触させ、HMGB1を介して結合した「抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子」の凝集物を測定することにより、試料中のHMGB1の濃度を測定するものである。
【0033】
すなわち、「試料中のHMGB1」と「抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子」とを接触させ、HMGB1を介して結合した「抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子」の免疫複合体凝集物の生成を、その透過光や散乱光を光学的方法により測るか、又は目視的に測るものである。つまり、「抗原抗体反応による複合体」の凝集物の生成を測るものである(凝集反応法)。
【0034】
なお、本発明は、「試料中のHMGB1」を「グッド緩衝剤及びアルカリ金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する緩衝液中で保存された、抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子」と接触させることを特徴とするものである。
【0035】
この抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子の凝集物の測定方法としては、例えば、ラテックス比濁法、ラテックス凝集反応法又は粒子凝集反応法等を挙げることができる。
【0036】
抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子の凝集物の測定を、ラテックス比濁法、ラテックス凝集反応法又は粒子凝集反応法等の免疫複合体凝集物の生成を、その透過光や散乱光を光学的方法により測るか、又は目視的に測る測定法により実施する場合には、溶媒としてリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液又はグッド緩衝液等を用いることができる。
【0037】
なお、ラテックス比濁法を測定原理とする場合、担体として用いるラテックス粒子の粒径については、特に制限はないものの、ラテックス粒子が測定対象物質(HMGB1)を介して結合し、凝集物を生成する程度、及びこの生成した凝集物の測定の容易さ等の理由より、ラテックス粒子の粒径は、その平均粒径が、0.04~1μmであることが好ましい。
【0038】
また、ラテックス比濁法を測定原理とする場合、抗HMGB1抗体を固定化したラテックス粒子を含ませる濃度については、試料中のHMGB1の濃度、本発明における抗体のラテックス粒子表面上での分布密度、ラテックス粒子の粒径、試料と測定試薬の混合比率等の各種条件により最適な濃度は異なるので一概にいうことはできない。
【0039】
しかし、通常は、試料と測定試薬が混合され、ラテックス粒子に固定化された「抗HMGB1抗体」と試料中に含まれていた「HMGB1」との抗原抗体反応が行われる測定反応時に、「抗HMGB1抗体を固定化したラテックス粒子」の濃度が、「試料中のHMGB1」と「抗HMGB1抗体を固定化したラテックス粒子」との接触時において0.005~1%(w/v)となるようにするのが一般的であり、この場合、「試料中のHMGB1」と「抗HMGB1抗体を固定化したラテックス粒子」との接触時においてこのような濃度になるような濃度の「抗HMGB1抗体を固定化したラテックス粒子」を試料中のHMGB1の測定試薬に含ませる。
【0040】
また、ラテックス凝集反応法又は粒子凝集反応法等の間接凝集反応法を測定原理とする場合、担体として用いる粒子の粒径については、特に制限はないものの、その平均粒子径が0.01~100μmの範囲内にあることが好ましく、0.3~10μmの範囲内にあることがより好ましい。そして、これらの粒子の比重は、1~10の範囲内にあることが好ましく、1~2の範囲内にあることがより好ましい。
【0041】
なお、ラテックス凝集反応法又は粒子凝集反応法等の間接凝集反応法を測定原理とする場合の測定に使用する容器としては、例えば、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル又はポリメタクリレートなどからなる、試験管、マイクロプレート(マイクロタイタープレート)又はトレイ等を挙げることができる。これらの容器の溶液収容部分(マイクロプレートのウェル等)の底面は、U型、V型又はUV型等の底面中央から周辺にかけて傾斜を持つ形状であることが好ましい。
【0042】
測定の操作法は公知の方法等により行うことができるが、例えば、光学的方法により測定する場合には、試料と「抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子」を反応させ、エンドポイント法又はレート法により、透過光や散乱光を測定する。
また、目視的に測定する場合には、プレートやマイクロプレート等の前記容器中で、試料と「抗HMGB1抗体を固定化した担体粒子」を反応させ、凝集の状態を目視的に判定する。なお、この目視的に測定する代わりにマイクロプレートリーダー等の機器を用いて測定を行ってもよい。
【0043】
なお、本発明の試料中のHMGB1の測定方法における試料としては、血液、血清、血漿、尿、髄液、唾液、汗、涙、腹水もしくは羊水などの体液;大便;血管もしくは肝臓などの臓器;組織;細胞;又は大便、臓器、組織もしくは細胞などの抽出液等、HMGB1が含まれる可能性のある生体試料であれば対象となる。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕(抗HMGB1抗体(2H6)の調製)
抗HMGB1抗体(2H6)として、受託番号NITE P-02843として寄託されたハイブリドーマにより産生されたモノクローナル抗体を用いた。
なお、受託番号NITE P-02843で特定されるハイブリドーマは、2018年12月20日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター[NPMD](日本国千葉県木更津市かずさ鎌足二丁目5番8号)に寄託されている。
【0046】
〔実施例2〕(抗HMGB1抗体(2D4)の調製)
抗HMGB1抗体(2D4)として、受託番号NITE P-02842として寄託されたハイブリドーマにより産生されたモノクローナル抗体を用いた。
なお、受託番号NITE P-02842で特定されるハイブリドーマは、2018年12月20日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター[NPMD](日本国千葉県木更津市かずさ鎌足二丁目5番8号)に寄託されている。
【0047】
〔実施例3〕(抗HMGB1,2モノクローナル抗体の調製)
HMGB1及びHMGB2に結合するモノクローナル抗体(抗HMGB1,2モノクローナル抗体)として、受託番号NITE P-02844として寄託されたハイブリドーマにより産生されたモノクローナル抗体を用いた。
なお、受託番号NITE P-02844で特定されるハイブリドーマは、2018年12月20日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター[NPMD](日本国千葉県木更津市かずさ鎌足二丁目5番8号)に寄託されている。
【0048】
〔実施例4〕(グッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物の効果の確認)
グッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物を緩衝液に含有させた場合の担体粒子の沈降抑制効果を確認した。
【0049】
〔1〕試料中のHMGB1の測定試薬
1.第1試薬
200mMの緩衝液を含む溶液(pH8.0)を第1試薬とした。
【0050】
2.第2試薬
(1)前記実施例1で調製した抗体(2H6)と前記実施例2で調製した抗体(2D4)を等量混合して、抗HMGB1モノクローナル抗体の混合物を調製した。これを、「抗HMGB1モノクローナル抗体混合物」と名付けた。
【0051】
(2)前記(1)の抗HMGB1モノクローナル抗体混合物を、緩衝液で1~2mg/mLになるよう希釈し、この抗体液1mLとラテックス粒子(藤倉化成社[日本国])1mLを混合して接触させ、2~8℃で16時間静置し、抗HMGB1モノクローナル抗体混合物をラテックス粒子に固定化した。
【0052】
(3) 抗HMGB1モノクローナル抗体混合物を固定化したラテックス粒子に、5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むトリス緩衝液(pH7.4)の6.0mLを添加混合し、ブロッキング処理を行い、ブロッキング処理を行った抗HMGB1モノクローナル抗体混合物を固定化したラテックス粒子を得た。
【0053】
(4)前記実施例3で調製した抗HMGB1,2モノクローナル抗体を、緩衝液で1~2mg/mLになるよう希釈し、この抗体液1mLとラテックス粒子(藤倉化成社[日本国])1mLを混合して接触させ、2~8℃で16時間静置し、抗HMGB1,2モノクローナル抗体をラテックス粒子に固定化した。
【0054】
(5)抗HMGB1,2モノクローナル抗体を固定化したラテックス粒子に、5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むトリス緩衝液(pH7.4)の6.0mLを添加混合し、ブロッキング処理を行い、ブロッキング処理を行った抗HMGB1,2モノクローナル抗体を固定化したラテックス粒子を得た。
【0055】
(6)前記(3)で調製したブロッキング処理を行った抗HMGB1モノクローナル抗体混合物を固定化したラテックス粒子と、前記(4)で調製したブロッキング処理を行った抗HMGB1,2モノクローナル抗体を固定化したラテックス粒子とを、それぞれ等量混合して、抗HMGB1モノクローナル抗体を固定化したラテックス粒子の混合物を調製した。これを、「抗HMGB1モノクローナル抗体固定化ラテックス粒子混合物」と名付けた。
【0056】
(7)前記(6)の「抗HMGB1モノクローナル抗体固定化ラテックス粒子混合物」に、表1に記載したグッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物をそれぞれ表1に記載した濃度になるように添加して、グッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物をそれぞれ含有する(又は含有しない)10種類の第2試薬を調製した。
【0057】
〔2〕試料
生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水溶液)を試料として用いた。
【0058】
〔3〕第2試薬の保存
前記〔1〕の2で調製した10種類の第2試薬を試験管に5mLずつ分注し、冷蔵(2~8℃)で13カ月保存した。
【0059】
〔4〕試料の測定
試料中のHMGB1測定試薬の第1試薬として前記〔1〕の1の第1試薬を使用し、第2試薬として前記〔3〕の第2試薬を使用して、前記〔2〕の試料の測定を行った。
【0060】
測定は、日立7180形自動分析装置(日立ハイテク社[日本国])を使用して行った。
前記〔2〕の試料に前記〔1〕の1の第1試薬を添加混合し、その5分後に前記〔3〕の第2試薬を添加混合した。
具体的には、前記〔2〕の試料の24μLを使用し、第1試薬として前記〔1〕の1の第1試薬の120μLを使用し、第2試薬として前記〔3〕の第2試薬の40μLを使用して測定を行った。
【0061】
なお、反応温度は37℃、測定波長800nmにおいて、測定タイムコースの16ポイント目と17ポイント目(第2試薬添加直後)の吸光度を測定し、その差(吸光度差)を求め、これをラテックス濃度とした。なお、当該吸光度差(ラテックス濃度)は、前記〔3〕の第2試薬を添加混合する際に、転倒混和しなかった場合(転倒混和なし)と、測定直前に転倒混和した場合(転倒混和あり)のそれぞれについて求めた。
【0062】
〔5〕測定結果
試料の測定結果を表1に示した。また、表1に示した値は、試料を5回測定した際の吸光度差(ラテックス濃度)の平均値を示している。なお、表1に示した沈降抑制率は、転倒混和なしの吸光度差(単位:Abs.)を転倒混和ありの吸光度差(単位:Abs.)で除した値(単位:%)を示している。
【0063】
【0064】
表1から明らかなように、第2試薬にグッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物を含有させていない場合(無添加)は、転倒混和なしの場合の吸光度が極めて低く、沈降抑制率も5%となっている。これは、第2試薬の保存中に試薬中の抗体固定化ラテックス粒子が沈降してしまい、第1試薬に添加混合される抗体固定化ラテックス粒子の量が減少することで、吸光度が低くなったことに起因するものと推察される。
これに対して、第2試薬にグッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物を含有させた場合は、いずれの場合も、無添加の場合に比べて、転倒混和なしと転倒混和ありの吸光度差にほとんど変化がなく、沈降抑制率が改善されていることが分かる。
【0065】
このように、抗体固定化ラテックス粒子を緩衝液中で保存する際に、緩衝液にグッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物を含有させることによって、抗体固定化ラテックス粒子の沈降を長期間にわたって抑制できることが確認された。したがって、測定時に転倒混和等によって、ラテックス粒子を均一にする必要がなく、誤差を含まない、安定した性能が得られる測定を行えることが確かめられた。
【0066】
〔実施例5〕(グッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物の効果の確認)
グッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物を緩衝液に含有させた場合の担体粒子の沈降抑制効果を確認した。
【0067】
〔1〕試料中のHMGB1の測定試薬
1.第1試薬
200mMの緩衝液を含む溶液(pH8.0)を第1試薬とした。
【0068】
2.第2試薬
前記実施例4の〔1〕の(1)~(6)の記載の通りに操作を行い、抗HMGB1モノクローナル抗体を固定化したラテックス粒子の混合物を調製した。これを、「抗HMGB1モノクローナル抗体固定化ラテックス粒子混合物」と名付けた。
この「抗HMGB1モノクローナル抗体固定化ラテックス粒子混合物」に、表2に記載したグッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物をそれぞれ表2に記載した濃度になるように添加して、グッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物をそれぞれ含有する(又は含有しない)23種類の第2試薬を調製した。
【0069】
〔2〕試料
生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水溶液)を試料として用いた。
【0070】
〔3〕第2試薬の保存
前記〔1〕の2で調製した23種類の第2試薬を試験管に5mLずつ分注し、冷蔵(2~8℃)で1カ月保存した。
【0071】
〔4〕試料の測定
試料中のHMGB1測定試薬の第1試薬として前記〔1〕の1の第1試薬を使用し、第2試薬として前記〔3〕の第2試薬を使用して、前記実施例4の〔4〕と同様にして前記〔2〕の試料の測定を行った。
【0072】
〔5〕測定結果
試料の測定結果を表2に示した。また、表2に示した値は、試料を5回測定した際の吸光度差(ラテックス濃度)の平均値を示している。なお、表2に示した沈降抑制率は、転倒混和なしの吸光度差(単位:Abs.)を転倒混和ありの吸光度差(単位:Abs.)で除した値(単位:%)を示している。
【0073】
【0074】
表2から明らかなように、第2試薬にグッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物を含有させていない場合(無添加)は、転倒混和なしの場合の吸光度が極めて低く、沈降抑制率も18%となっている。これは、第2試薬の保存中に試薬中の抗体固定化ラテックス粒子が沈降してしまい、第1試薬に添加混合される抗体固定化ラテックス粒子の量が減少することで、吸光度が低くなったことに起因するものと推察される。
これに対して、第2試薬にグッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物を含有させた場合は、グッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物の濃度がいずれの場合も、無添加の場合に比べて、転倒混和なしと転倒混和ありの吸光度差の変化が少なく、沈降抑制率が改善されていることが分かる。
【0075】
このように、抗体固定化ラテックス粒子を緩衝液中で保存する際に、緩衝液にグッド緩衝剤又はアルカリ金属ハロゲン化物を含有させることによって、抗体固定化ラテックス粒子の沈降を長期間にわたって抑制できることが確認された。したがって、測定時に転倒混和等によって、ラテックス粒子を均一にする必要がなく、誤差を含まない、安定した性能が得られる測定を行えることが確かめられた。
【0076】
これらのことより、本発明の測定対象物質に特異的に結合する物質を固定化した担体粒子の沈降抑制方法では、担体粒子が沈降することなく、長期間保存することができるため、本発明により沈降が抑制された担体粒子を測定に用いることにより、誤差を含まない、安定した性能が得られる測定を行えることが確かめられた。