IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-光ケーブル 図1
  • 特開-光ケーブル 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044833
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】光ケーブル
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/44 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
G02B6/44 381
G02B6/44 366
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150602
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】梁川 奈侑
(72)【発明者】
【氏名】福本 遼太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文昭
(72)【発明者】
【氏名】木村 豊明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
【テーマコード(参考)】
2H201
【Fターム(参考)】
2H201AX03
2H201AX07
2H201BB05
2H201BB06
2H201BB07
2H201BB08
2H201BB22
2H201BB24
2H201BB25
2H201BB60
2H201BB67
2H201BB75
2H201BB76
2H201DD13
2H201KK06
2H201KK08
2H201KK17
2H201KK33C
2H201KK39C
2H201KK45C
2H201KK47C
2H201KK48C
2H201KK72
2H201KK76
(57)【要約】
【課題】難燃性が高く、マイクロダクトへの空気圧送性能に優れる光ケーブルを提供する。
【解決手段】本開示の一態様に係る光ケーブルは、マイクロダクトに敷設するための光ケーブルであって、1又は複数の光ファイバー心線と、上記1又は複数の光ファイバー心線の外周側を被覆するシース層とを備えており、上記シース層の密度が2.0g/cm以下であり、上記シース層が、オレフィン系樹脂と、シリコーンと、ノンハロゲン難燃剤とを含有し、上記オレフィン系樹脂に対する上記ノンハロゲン難燃剤の質量比が0.90以上2.00以下であり、上記オレフィン系樹脂に対する上記シリコーンの質量比が0.005以上0.100以下であり、上記オレフィン系樹脂がポリエチレンと、エチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体とを含み、上記シリコーンの重量平均分子量が5万以上100万以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロダクトに敷設するための光ケーブルであって、
1又は複数の光ファイバー心線と、
上記1又は複数の光ファイバー心線の外周側を被覆するシース層と
を備えており、
上記シース層の密度が2.0g/cm以下であり、
上記シース層が、オレフィン系樹脂と、シリコーンと、ノンハロゲン難燃剤とを含有し、
上記オレフィン系樹脂に対する上記ノンハロゲン難燃剤の質量比が0.90以上2.00以下であり、
上記オレフィン系樹脂に対する上記シリコーンの質量比が0.005以上0.100以下であり、
上記オレフィン系樹脂がポリエチレンと、エチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体とを含み、
上記シリコーンの重量平均分子量が5万以上100万以下である光ケーブル。
【請求項2】
上記オレフィン系樹脂における上記ポリエチレンの含有割合が30質量%以上60質量%以下であり、
上記オレフィン系樹脂におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体の含有割合が30質量%以上60質量%以下であり、
上記ポリエチレンの密度が0.92g/cm以上である請求項1に記載の光ケーブル。
【請求項3】
上記シース層の25℃における弾性率が250MPa以上2000MPa以下である請求項1又は請求項2に記載の光ケーブル。
【請求項4】
上記シース層の70℃における弾性率が30MPa以上である請求項1又は請求項2に記載の光ケーブル。
【請求項5】
上記ポリエチレンが高密度ポリエチレンである請求項1又は請求項2に記載の光ケーブル。
【請求項6】
上記オレフィン系樹脂が酸変性ポリエチレンをさらに含み、
上記酸変性ポリエチレンの含有割合が5質量%以上20質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の光ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット等の情報通信の普及による通信の高速化や情報量の増大に加え、双方向通信と大容量通信に対応するために、光ネットワークの構築が進展している。この光ネットワークでは、通信事業者と各家庭とを光ファイバーで直接結び、高速通信サービスを提供するFTTH(Fiber To The Home)が開始されており、その通信量は、年々増加している。それに応じ、光ケーブルの小径化、高密度化が求められている。例えば従来技術においては、スロットレス型の光ケーブルの構造が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-8923号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る光ケーブルは、マイクロダクトに敷設するための光ケーブルであって、1又は複数の光ファイバー心線と、上記1又は複数の光ファイバー心線の外周側を被覆するシース層とを備えており、上記シース層の密度が2.0g/cm以下であり、上記シース層が、オレフィン系樹脂と、シリコーンと、ノンハロゲン難燃剤とを含有し、上記オレフィン系樹脂に対する上記ノンハロゲン難燃剤の質量比が0.90以上2.00以下であり、上記オレフィン系樹脂に対する上記シリコーンの質量比が0.005以上0.100以下であり、上記オレフィン系樹脂がポリエチレンと、エチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体とを含み、上記シリコーンの重量平均分子量が5万以上100万以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る光ケーブルの模式的断面図である。
図2図2は、マイクロダクト圧送試験に用いる圧送装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
細径の管状ダクトであるマイクロダクトにケーブルを空気圧送により送り込む工法は、マイクロダクトシステム工法と称されている。マイクロダクトシステム工法は、上記のように光ネットワークの拡大にあわせて必要な光ファイバーをすばやく増設することが可能でFTTHの実現に極めて有効な手段なので、特にアクセス/ドロップエリアにおいてこのマイクロダクトシステム工法を適用するのに好適な光ケーブルが求められる。
【0007】
上記スロットレス型の光ケーブルは軽量化しやすいため、空気圧送用の光ケーブル(マイクロダクトケーブルともいう。)に適している。このような空気圧送用の光ケーブルは、所定圧の空気をダクト内に供給し、ケーブルを押し込みながら細径のダクト内に通線するので、ダクト内を通りやすくすることが望ましい。特に、圧送距離が長いほど、敷設コストを低減できるため、長距離での空気圧送性が求められている。一方、屋内で光ケーブルを敷設する場合においては、シース層のより高い難燃化が求められる。
【0008】
本開示は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、難燃性が高く、マイクロダクトへの空気圧送性能に優れる光ケーブルを提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の光ケーブルは、難燃性が高く、マイクロダクトへの空気圧送性能に優れる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0011】
本開示の一態様に係る光ケーブルは、マイクロダクトに敷設するための光ケーブルであって、1又は複数の光ファイバー心線と、上記1又は複数の光ファイバー心線の外周側を被覆するシース層とを備えており、上記シース層の密度が2.0g/cm以下であり、上記シース層が、オレフィン系樹脂と、シリコーンと、ノンハロゲン難燃剤とを含有し、上記オレフィン系樹脂に対する上記ノンハロゲン難燃剤の質量比が0.90以上2.00以下であり、上記オレフィン系樹脂に対する上記シリコーンの質量比が0.005以上0.100以下であり、上記オレフィン系樹脂がポリエチレンと、エチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体とを含み、上記シリコーンの重量平均分子量が5万以上100万以下である。
【0012】
当該光ケーブルは、マイクロダクトへの敷設に用いられる当該光ケーブルのシース層の密度が2.0g/cm以下であることで、軽量化を図ることができる。オレフィン系樹脂に対する上記ノンハロゲン難燃剤の質量比が0.90以上2.00以下であることで、難燃性が良好であるとともに、オレフィン系樹脂との相溶性を良好にできる。さらに、上記オレフィン系樹脂に対するシリコーンの質量比が0.005以上0.100以下であることで、シース層の表面の滑り性が良好となるために空気圧送時の圧送性が向上するとともに、オレフィン系樹脂との相溶性を良好にできる。
また、当該光ケーブルにおいては、上記オレフィン系樹脂がポリエチレンを含むことで、良好な硬さが得られる。これにより、マイクロダクトへの空気圧送時に当該光ケーブルを送り込みやすくなる。上記オレフィン系樹脂がエチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体を含むことで、ノンハロゲン難燃剤との相溶性が向上し、シース層の引張伸びを向上することができる。さらに、シリコーンの重量平均分子量が5万以上100万以下であることで、シース層の表面の滑り性及び空気圧送時の圧送性が向上する。
従って、当該光ケーブルは高い難燃性を有するとともに、シース層の硬さ、表面の滑り性及び軽量化の向上を図りながら、マイクロダクトへの良好な空気圧送性能を実現することができる。
【0013】
上記「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定される標準ポリスチレン換算の値である。具体的には、平均分子量は、下記の条件にて、溶剤としてテトラヒドロフランを用い、GPCシステム(東ソー社製SC-8010)を使用し、市販の標準ポリスチレンで検量線を作成して求められる。
流速:1.0ml/min
設定温度:40℃
カラム構成:東ソー社製「TSK guardcolumn MP(×L)」6.0mmID×4.0cm1本、及び東ソー社製「TSK-GELMULTIPOREHXL-M」7.8mmID×30.0cm(理論段数16,000段)2本、計3本(全体として理論段数32,000段)
サンプル注入量:100μl(試料液濃度1mg/ml)
送液圧力:39kg/cm
検出器:RI検出器
【0014】
上記オレフィン系樹脂における上記ポリエチレンの含有割合が30質量%以上60質量%以下であり、上記オレフィン系樹脂におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体の含有割合が30質量%以上60質量%以下であり、上記ポリエチレンの密度が0.92g/cm以上であることが好ましい。上記オレフィン系樹脂における上記ポリエチレンの含有割合が30質量%以上60質量%以下であり、上記オレフィン系樹脂におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体の含有割合が30質量%以上60質量%以下であり、上記ポリエチレンの密度が0.92g/cm以上であることで、より良好な硬さが得られる。これにより、マイクロダクトへの空気圧送時に当該光ケーブルをより送り込みやすくなる。
【0015】
上記シース層の25℃における弾性率が250MPa以上2000MPa以下であることが好ましい。上記シース層の25℃における弾性率が250MPa以上2000MPa以下であることでシース層の硬さをより良好な範囲にできるので、当該光ケーブルにおけるマイクロダクトへの空気圧送性能をより向上できる。「弾性率」とは、JIS-K7244-4(1999)に記載の動的機械特性の試験方法に準拠して測定される値であり、粘弾性測定装置(例えばアイティー計測制御社製「DVA-220」)を用いて、引張モード、-60℃から80℃の温度範囲で、昇温速度5℃/分、周波数10Hz、歪0.05%の条件で測定した貯蔵弾性率の値である。
【0016】
上記シース層の70℃における弾性率が30MPa以上であることが好ましい。上記シース層の70℃における弾性率が30MPa以上であることで、夏場の倉庫のような高温下での保管時に、ケーブルの変形を防ぐことができる。
【0017】
上記ポリエチレンが高密度ポリエチレンであることが好ましい。上記ポリエチレンが高密度ポリエチレンであることで、シース層の硬さをより高めることができるので、当該光ケーブルにおけるマイクロダクトへの空気圧送性能をより向上できる。
【0018】
上記オレフィン系樹脂が酸変性ポリエチレンをさらに含み、上記酸変性ポリエチレンの含有割合が5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。上記オレフィン系樹脂が酸変性ポリエチレンをさらに含み、上記酸変性ポリエチレンの含有割合が5質量%以上20質量%以下であることで、オレフィン系樹脂とノンハロゲン難燃剤との相溶性をより向上できる。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態に係る光ケーブルについて図面を参照しつつ詳説する。
【0020】
<光ケーブル>
当該光ケーブルは、ダクトに敷設するための光ケーブルであって、一般に、搭載する光ファイバー心線が1000心以下の光ケーブルである。当該光ケーブルは、マイクロダクトと呼ばれる地下配管内を主として空気圧送にて敷設される。当該光ケーブルは、1又は複数の光ファイバー心線と、上記1又は複数の光ファイバー心線の外周側を被覆するシース層とを備えている。
【0021】
図1は、本開示の一実施形態の光ケーブルの模式的断面図である。図1に示すように、光ケーブル10はスロットレス型であり、例えば断面視で円形状の集合コア11と、この集合コア11を被覆するシース層13と、シース層13に埋設されるテンションメンバ16及び引き裂き紐17とを備える。
【0022】
光ケーブル10の集合コア11は、吸水テープ12により断面視で円形状にまとめられている複数のテープ心線3が収容されている。テープ心線3は、例えば12心の光ファイバー心線2を有する。なお、集合コア11は、テープ心線3の他に単心の光ファイバー心線2を複数本束ねた状態で収容することも可能である。
【0023】
吸水テープ12の外面は、シース層13で覆われている。シース層13には、長手方向の強度を保持するための例えば2本のテンションメンバ(抗張力体ともいう)16や、シース層13をケーブル長手方向に引き裂くための例えば2本の引き裂き紐17が、シース層13の押出成形時に縦添えされて埋設されている。
【0024】
[テープ心線]
テープ心線3は、例えば複数本の光ファイバー心線2をポリエステル等からなるテープ1で被覆して束ねたものである。光ファイバー心線2としては、公知の光ファイバーを用いることができる。なお、複数のテープ心線3をさらに撚り合せた状態で収容させることもできる。集合コア11内にテープ心線3を高密度実装するために、テープ心線3は、例えば、間欠連結型のテープ心線であってもよい。なお、集合された状態の複数のテープ心線3は、バンドル材等で束ねられていてもよく、あるいは、上記ユニット毎にバンドル材等で束ねられていてもよい。また、本実施形態においては、集合コア11内にテープ心線3を収容しているが、テープ心線3の形態とはせずに単心の光ファイバー心線2のまま集合コア11内に収容するようにしてもよい。
【0025】
[吸水テープ]
吸水テープ12は、複数のテープ心線3全体の周囲に、例えば、縦添えまたは横巻で巻回されている。吸水テープ12は、例えば、ポリエステル等からなる基布に吸水性のパウダーを付着させることによって吸水加工を施したものである。
【0026】
[テンションメンバ]
当該光ケーブル10には、敷設時の自重による引き伸びを防ぐためにテンションを負担するテンションメンバ16が配置される。各テンションメンバ16は、光ケーブル10の長手方向に沿って、光ケーブル10の中心に対して対称となるようにシース層13内に設けられている。テンションメンバ16には、引張り及び圧縮に対する耐力を有する線材、例えば、鋼線や繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)などが用いられている。テンションメンバ16は、断面視が円形状に形成されている。
【0027】
[引き裂き紐]
引き裂き紐17は、シース層13を引き裂くための紐であり、シース層13内に光ケーブル10の長手方向に沿って埋設されている。本例の場合、引き裂き紐17は2本設けられている。2本の引き裂き紐17は、隣り合うテンションメンバ16のほぼ中間位置で、互いに対向するようにシース層13内に設けられている。引き裂き紐17を引き出すことによってシース層13を長手方向に引き裂き、テープ心線3を取り出すことができる。引き裂き紐17は、例えば、ナイロン、ポリエステルなどの引っ張りに強いプラスチック材料で形成されている。
【0028】
[シース層]
シース層13は、光ファイバー心線2の外周側を被覆する樹脂層である。シース層13は、オレフィン系樹脂と、シリコーンと、ノンハロゲン難燃剤とを含有する。ここで、「外周側を被覆」とは、光ファイバー心線2の外周面に対して直接被覆してもよいし、間接的に被覆してもよいことを意味する。
【0029】
上記シース層13の密度の上限としては、2.0g/cmであり、1.8g/cmであってもよい。上記シース層13の密度が2.0g/cm以下であることで、軽量化を図ることができるので、マイクロダクト内で圧送距離を大きくすることができる。
【0030】
シース層13の25℃での弾性率の下限としては、250MPaが好ましく、300MPaであってもよい。一方、シース層13の25℃での弾性率の上限としては、2000MPaが好ましく、1500MPaであってもよい。シース層13の25℃での弾性率が250MPa以上であることで、シース層13の十分な硬さを得ることができ、マイクロダクトへの空気圧送性能を向上できる。一方、シース層13の25℃での弾性率が2000MPa以下であることで、常温での柔軟性を良好にし、敷設時に外被が割れることを抑制できる。
【0031】
シース層13の70℃での弾性率の下限としては、30MPaが好ましく、50MPaであってもよい。シース層13の70℃での弾性率が30MPa以上でありことで、夏場のような高温環境下における光ケーブルの変形を抑制できる。
【0032】
(オレフィン系樹脂)
上記オレフィン系樹脂は、ポリエチレンと、エチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体とを含む。
【0033】
上記オレフィン系樹脂はポリエチレンを含むことで、良好な硬さが得られる。これにより、マイクロダクトへの空気圧送時に当該光ケーブルを送り込みやすくなる。ポリエチレンとしては、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が挙げられる。上記ポリエチレンが高密度ポリエチレンであることが好ましい。上記ポリエチレンが高密度ポリエチレンであることで、シース層13の硬さをより高めることができるので、マイクロダクトダクト内を通りやすくなる。
【0034】
上記ポリエチレンの密度の下限としては、0.92g/cmが好ましく、0.93g/cmであってもよい。上記ポリエチレンの密度の上限としては、0.96g/cmが好ましく、0.95g/cmであってもよい。シース層13の密度が0.92g/cm以上であることで、シース層13の十分な硬さが得られ、マイクロダクトへの空気圧送性能を向上できる。一方、シース層13の密度が0.96g/cm以下であることで、シース層13の軽量化が図れ、マイクロダクトへの空気圧送性能を向上できる。なお、低密度ポリエチレンの密度としては0.942g/cm未満であり、高密度ポリエチレンの密度としては0.942g/cm以上である。
【0035】
上記オレフィン系樹脂における上記ポリエチレンの含有割合の下限としては、30質量%が好ましく、35質量%であってもよい。一方、上記オレフィン系樹脂における上記ポリエチレンの含有割合の上限としては、60質量%が好ましい。上記ポリエチレンの含有割合が30質量%以上であることで、シース層13の十分な硬さが得られ、マイクロダクトへの空気圧送性能を向上できる。一方、上記ポリエチレンの含有割合が60質量%以下であることで、弾性率を高めることができ、マイクロダクトへの空気圧送性能を向上できる。
【0036】
上記オレフィン系樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体を含むことで、ノンハロゲン難燃剤との相溶性が向上し、シース層13の引張伸びを向上することができる。
【0037】
上記オレフィン系樹脂におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)の含有割合としては、30質量%以上60質量%以下が好ましく、40質量%以上60質量%以下であってもよい。上記エチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体の含有割合が30質量%以上であることで、オレフィン系樹脂とノンハロゲン難燃剤との相溶性を良好にできる。一方、上記エチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体の含有割合が60質量%以下であることで、シース層13の70℃における弾性率の低下を抑制し、夏場の倉庫のような高温下での保管時における光ケーブルの変形を抑制できる。
【0038】
上記オレフィン系樹脂は酸変性ポリエチレンをさらに含んでいてもよい。酸変性ポリエチレンとは、酸性官能基を側鎖に有するポリエチレン、主鎖中に酸性官能基が組み込まれたポリエチレン又は酸性官能基を側鎖に有するとともに、主鎖中に酸性官能基が組み込まれポリエチレンをいう。
【0039】
上記酸変性ポリエチレンとしては、例えば酸変性低密度ポリエチレン、酸変性超低密度ポリエチレンが挙げられる。
【0040】
酸変性に用いる酸としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、例えば、不飽和カルボン酸又はその誘導体が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えばマレイン酸モノエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、無水フマル酸が挙げられる。これらの中でも、オレフィン系樹脂とノンハロゲン難燃剤との相溶性をより向上できる観点から不飽和カルボン酸の誘導体が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0041】
酸変性ポリオレフィンとしては、無水マレイン酸変性超低密度ポリエチレン及び無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。これらの中でも、樹脂の柔軟性の観点から無水マレイン酸変性超低密度ポリエチレンがより好ましい。
【0042】
上記オレフィン系樹脂における上記酸変性ポリエチレンの含有割合の下限としては、5質量%が好ましく、8質量%であってもよい。一方、上記オレフィン系樹脂における上記酸変性ポリエチレンの含有割合の上限としては、20質量%が好ましく、15質量%であってもよい。上記酸変性ポリエチレンの含有割合が5質量%以上であることで、オレフィン系樹脂とノンハロゲン難燃剤との相溶性を向上して十分な引張伸びが得られるので、マイクロダクトへ敷設時における外被の割れの抑制効果を高めることができる。一方、上記酸変性ポリエチレンの含有割合が20質量%以下であることで、十分な弾性率が得られ、マイクロダクトへの空気圧送性能を向上できる。
【0043】
(シリコーン)
上記シース層13は、滑剤としてシリコーンを含有する。上記シース層13がシリコーンを含有することで、上記シース層13の動摩擦係数を低くし、滑り性を向上できる。これにより、当該光ケーブル10をマイクロダクト内で空気圧送する際に、上記シース層13とマイクロダクトとの摩擦が低減されて、圧送距離を伸ばすことができる。
【0044】
上記シリコーンの重量平均分子量の下限としては、5万であり、10万であってもよい。一方、上記シリコーンの重量平均分子量の上限としては、100万であり、95万であってもよいが。上記シリコーンの重量平均分子量が5万より小さい場合、シース層13の材料(シース層形成用樹脂組成物)の押出性が低下するおそれがある。一方、上記シリコーンの重量平均分子量が100万を超える場合、オレフィン系樹脂との相溶性が低下するおそれがある。
【0045】
上記オレフィン系樹脂に対するシリコーンの質量比の下限としては、0.005であり、0.008であってもよい。一方、上記オレフィン系樹脂に対するシリコーンの質量比の上限としては、0.100であり、0.080であってもよい。上記オレフィン系樹脂に対するシリコーンの質量比が0.005より小さい場合、シース層13の表面の十分な滑り性が得られず、マイクロダクトへの空気圧送性能が低下するおそれがある。一方、上記オレフィン系樹脂に対するシリコーンの質量比が0.100を超える場合、シース層13の材料(シース層形成用樹脂組成物)の押出性が低下するおそれがある。
【0046】
(ノンハロゲン難燃剤)
上記シース層13は、ノンハロゲン難燃剤を含有する。ノンハロゲン難燃剤とは、その化学構造中に臭素や塩素などのハロゲン元素を持たない化合物である。ノンハロゲン難燃剤としては、例えば、無機系難燃剤、窒素系難燃剤、有機リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤が挙げられる。これらの難燃剤は単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0047】
無機系難燃剤としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カリウム、水酸化ジルコニウム、ハンタイト、ハイドロマグネサイト、三酸化アンチモン、リン酸カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ホウ砂、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、無水アルミナ、二硫化モリブデン、粘土、赤リン、ケイソウ土、カオリナイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、タルク、シリカ、ホワイトカーボン、ゼオライト、アスベスト、リトポンが挙げられる。
【0048】
窒素系難燃剤としては、例えばメラミン誘導体が挙げられ、メラミンシアヌレート、メラミン、サクシノグアナミン、エチレンジメラミン、トリグアナミン、アセトグアナミン、硫酸グアニルメラミン、硫酸メレム、硫酸メラム等が挙げられる。
【0049】
有機リン系難燃剤としては、例えばトリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(モノクロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリアリルフォスフェート、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド、グリシジル-α-メチル-β-ジ(ブトキシホスフィニルプロピオネート、ジブチルヒドロキシメチルホスフォネート、(ブトキシ)ホスフィニルプロピルアミド、ジメチルホスフォネート、アンモニウムポリホスフェート、エチレンジアミンホスフェート等のアミンホスフェート、アミンホスフォネートが挙げられる。
【0050】
シリコーン系難燃剤としては、例えばシリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコンパウダーが挙げられる。
【0051】
上記オレフィン系樹脂に対するノンハロゲン難燃剤の質量比の下限としては、0.90であり、1.00であってもよい。一方、上記オレフィン系樹脂に対するノンハロゲン難燃剤の質量比の上限としては、2.00であり、1.80であってもよい。上記オレフィン系樹脂に対するノンハロゲン難燃剤の質量比が0.90より小さい場合、シース層13の十分な難燃性が得られないおそれがある。一方、上記オレフィン系樹脂に対するノンハロゲン難燃剤の質量比が2.00を超える場合、オレフィン系樹脂との相溶性が低下して引張伸びが低下するとともに、シース層13の軽量化が図りにくくなるおそれがある。
【0052】
[光ケーブルの製造方法]
次に当該光ケーブルの製造方法の一例について説明する。当該光ケーブルの製造方法は、例えばテープ心線を作製する工程、及びテープ心線の外周側にシース層を被覆する工程を備える。
【0053】
テープ心線を作製する工程(テープ心線作製工程)では、複数の光ファイバー心線をテープで押さえ巻きすることで光ファイバー心線を集合させる。
【0054】
シース層を被覆する工程は、上記テープ心線作製工程により得た1のテープ心線又は複数のテープ心線の集合体の外周側をシース層で被覆する。この被覆方法としては、例えば1のテープ心線又は複数のテープ心線の集合体の外周側にシース層形成用樹脂組成物を押し出す押出成形が用いられる。
【0055】
当該光ケーブルによれば、難燃性が高い。また、当該光ケーブルは、シース層の軽量化を図り、硬さ及び表面の滑り性を良好な範囲に調整されているため、マイクロダクトへの空気圧送性能に優れる。
【0056】
[他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【実施例0057】
以下、実施例によって本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
<光ケーブルNo.1~No.25>
(1)シース層の作製
表1及び表2に示す配合でシース層形成用樹脂組成物を調製し、シース層形成用樹脂組成物を押出して平均外径12mm、平均厚さが1.2mmであるチューブ状のNo.1~No.25のシース層を形成した。シース層形成用樹脂組成物の組成及び密度を表1及び表2に示す。「-」は該当する成分を用いていないことを示す。
【0059】
(オレフィン系樹脂)
表1及び表2中、使用したオレフィン系樹脂は以下の通りである。なお、以下EAはアクリル酸エチルを示し、VAは酢酸ビニルを示す。
(1)EEA(エチレン-アクリル酸エチル共重合体)
ENEOS NUC社製「NUC-6520」
EA(アクリル酸エチル)単位の含有量18質量%、密度0.94g/cm
(2)EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)
東ソー社製「ウルトラセン634」
VA(酢酸ビニル)単位の含有量35質量%、密度0.949g/cm
(3)HDPE(高密度ポリエチレン)
東ソー社製「ニポロンハード6530」
密度0.95g/cm
(4)LDPE(低密度ポリエチレン)
ENEOS NUC社製「NUC8010」
密度0.93g/cm
(6)酸変性PE(酸変性ポリエチレン)
三井化学社製「アドマーLB548」
無水マレイン酸変性低密度ポリエチレン
密度0.912g/cm
【0060】
(ノンハロゲン難燃剤)
(1)表面処理水酸化マグネシウム:協和化学工業社製「キスマ5L」
(2)水酸化アルミニウム:昭和電工社製「ハイジライトH42M」
(3)メラミンシアヌレート:日産化学株式会社製「MC-4000」
【0061】
(滑剤)
(1)低分子量シリコーン1:重量平均分子量4万
(2)低分子量シリコーン2:重量平均分子量7万
(3)高分子量シリコーン:重量平均分子量65万
【0062】
[評価]
No.1~No.25のシース層及び光ケーブルについて、下記の項目を評価した。
【0063】
(シース層の密度)
シース層の密度の値に基づいてA及びBの2段階で判定した。
A:シース層の密度が2.0g/cm以下である。
B:シース層の密度が2.0g/cm以下超である。
【0064】
(弾性率)
No.1~No.25の光ケーブルのシース層について、JIS-K7244-4(1999)に記載の動的機械特性の試験方法に準拠し、粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製「DVA-220」)を用いて、引張モード、-60℃から80℃の温度範囲で、昇温速度5℃/分、周波数10Hz、歪0.05%の条件で測定した貯蔵弾性率から、25℃における弾性率E1及び70℃における弾性率E2を求めた。25℃における弾性率E1としては、250MPa以上であれば良好である。70℃における弾性率E2としては、30MPa以上であれば、高温下での保管時にもケーブルが変形し難く良好である。
【0065】
(難燃性)
シース層の材料のみでシートサンプルを作製し、JIS-K7201-2(2007)に基づいて酸素指数を評価した。酸素指数に基づいてA及びBの2段階で判定した。難燃性の評価基準は以下の通りとした。Aの場合、合格と判断できる。
A:酸素指数が36以上である。
B:酸素指数が36未満である。
【0066】
(押出性)
シース層形成用樹脂組成物の押出性を押出時のシース層形成用樹脂組成物の状態に基づいてA及びBの2段階で判定した。押出性の評価基準は以下の通りとした。Aの場合、合格と判断できる。
A:押出時において、ダイス近傍でシース層形成用樹脂組成物から分離したシリコーンが堆積しない。
B:押出時において、ダイス近傍でシース層形成用樹脂組成物から分離したシリコーンが被覆材に付着し、外観不良となる。
【0067】
(引張伸び)
JIS-C3005:2014の4.16に基づいて、シース層の引張伸び[%]を測定した。引張伸びが150%以上の場合は、マイクロダクトへ敷設時の外被の割れに対する抑制効果が高く、合格と判断できる。
【0068】
(動摩擦係数による滑り性)
No.1~No.25のシース層形成用樹脂組成物のみを用いて押出加工によりシートサンプルを作製した。次に、JIS-K7125:1999に基づいて、シートサンプルの動摩擦係数を測定した。動摩擦係数の評価基準は以下の通りとした。シートサンプルの動摩擦係数が0.70以下の場合、合格と判断できる。
【0069】
(光ケーブルの圧送距離)
No.1~No.25の光ケーブルの圧送距離は、図2に示す圧送装置20を用いて、IEC(International Electrotechnical Commission)規格に準拠したマイクロダクト圧送試験を行った。パイプ25の全長は1000mであり、100m毎に折り返されている。パイプ25の折り返しにおける湾曲部の曲率半径R(Pを中心とする曲率円の半径)はパイプ25の外径の40倍であり、パイプ25の内径は14mmである。空気及び各光ケーブルをパイプ25の送入口21から送入し、送出口22から送出した。空気の圧力は1.3MPa~1.5MPaとした。光ケーブルの空気圧送性は、光ケーブルの圧送距離が300m以上の場合、合格と判断できる。
【0070】
上記評価結果を表1及び表2に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
表1及び表2に示すように、上記シース層の密度が2.0g/cm以下であり、上記シース層が、オレフィン系樹脂と、シリコーンと、ノンハロゲン難燃剤とを含有し、上記オレフィン系樹脂に対する上記ノンハロゲン難燃剤の質量比が0.90以上2.00以下であり、上記オレフィン系樹脂に対する上記シリコーンの質量比が0.005以上0.100以下であり、上記オレフィン系樹脂がポリエチレンと、エチレン-酢酸ビニル共重合体又はエチレン-アクリル酸エチル共重合体とを含み、上記シリコーンの重量平均分子量が5万以上100万以下であるNo.1~No.20は、シース層における-25℃での弾性率及び70℃での弾性率が良好な範囲であるとともに、難燃性、押出性、引張伸び、動摩擦係数及び光ケーブルの圧送距離の全てにおいて、良好な結果が得られた。
【0074】
一方、上記オレフィン系樹脂に対する上記ノンハロゲン難燃剤の質量比が0.90未満であるNo.21は、難燃性が劣っていた。
上記オレフィン系樹脂に対する上記ノンハロゲン難燃剤の質量比が2.00を超えるNo.22は、シース層の密度が大きく、引張伸び及び光ケーブルの圧送距離が劣っていた。
シリコーンの重量平均分子量が5万未満であるNo.23及び上記オレフィン系樹脂に対する上記シリコーンの質量比が0.100を超えるNo.25は、押出性が劣っていた。
上記オレフィン系樹脂に対する上記シリコーンの質量比が0.005未満であるNo.24は、滑り性及び光ケーブルの圧送距離が劣っていた。
【0075】
以上の結果、当該光ケーブルは、高い難燃性を有し、シース層の硬さ、表面の滑り性及び軽量化の向上が図られることで、マイクロダクトへの良好な空気圧送性能を有することが示された。当該光ケーブルは、情報の伝送量が多いデータセンタ間やデータセンタのフロア間のマイクロダクト用光ケーブルなどに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 テープ
2 光ファイバー心線
3 テープ心線
10 光ケーブル
11 集合コア
12 吸水テープ
13 シース層
16 テンションメンバ
17 引き裂き紐
20 圧送装置
21 送入口
22 送出口
25 パイプ
図1
図2