(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044843
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】水易解体性接着剤及びそれを用いた仮接着方法
(51)【国際特許分類】
C09J 185/02 20060101AFI20240326BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20240326BHJP
B29B 17/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C09J185/02
C09J5/00
B29B17/00 ZAB
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150614
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅原 密太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 伊弦
(72)【発明者】
【氏名】森部 真也
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 彰敏
【テーマコード(参考)】
4F401
4J040
【Fターム(参考)】
4F401AA40
4F401CA05
4J040AA011
4J040GA13
4J040GA26
4J040HA131
4J040HA281
4J040HC23
4J040HD41
4J040JB01
4J040KA03
4J040KA30
4J040LA02
4J040MA02
4J040PA20
4J040PA30
4J040PA32
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】比較的高い接合強度を有し、かつ、常温の水により容易に解体できる接着剤層を形成することが可能な接着剤を提供すること。
【解決手段】遷移金属とアゾール類とリン酸とを含み、融点が80~700℃である配位性高分子からなることを特徴とする水易解体性接着剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属とアゾール類とリン酸とを含み、融点が80~700℃である配位性高分子からなることを特徴とする水易解体性接着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の水易解体性接着剤を前記配位性高分子の融点以上分解点未満の温度で加熱して溶融させる工程と、
被着材の間に溶融状態の前記水易解体性接着剤からなる接着剤層を形成する工程と、
溶融状態の前記接着剤層を前記配位性高分子の融点未満に降温して硬化させる工程と、
硬化した前記接着剤層を水に接触させて解体する工程と
を含むことを特徴とする仮接着方法。
【請求項3】
硬化した前記接着剤層を解体する工程において、前記接着剤層に超音波処理を施すことを特徴とする請求項2に記載の仮接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水で容易に解体することが可能な接着剤及びそれを用いた仮接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の接着剤は、その接着強度を向上させるという観点から、有機高分子同士を共有結合により架橋させるため、被着材の仮接着という点では、接着剤層を容易に除去できないという問題があった。また、有機高分子同士のファンデルワールス力を利用した接着剤は、仮接着という用途であっても、その接着強度が十分ではないという問題があった。
【0003】
そこで、比較的高い接着強度を有し、かつ、水により容易に剥離又は除去することが可能な接着剤として、2-シアノアクリレート化合物と水溶性化合物とを含有する水易解体性接着剤組成物(特開2019-137858号公報(特許文献1))や、3個~6個の1,2-アルキレンオキシ構造を有する2-シアノアクリレート化合物を含む仮固定用接着剤組成物(特開2021-25014号公報(特許文献2))が提案されている。しかしながら、これらの接着剤組成物においては、水による接着剤層の解体性が十分ではなかった。
【0004】
また、Yanyi Zhaoら、ACS Nano、2017年、第11巻、3662~3670頁(非特許文献1)においては、ホフマン型シアノブリッジ配位高分子であるNi(H2O)2[Ni(CN)4]・4H2Oを用いた接着について検討されており、前記Ni(H2O)2[Ni(CN)4]・4H2Oの板状結晶のナノフレークをペースト化して用いることによって、ガラスやプラスチック、金属等の被着材を接合できることが開示されている。しかしながら、固体粉末を含有するペースト状の接着剤は、乾燥等により溶媒を除去した後、接着剤層に空隙が形成されやすいため、接合強度が十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-137858号公報
【特許文献2】特開2021-25014号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yanyi Zhaoら、ACS Nano、2017年、第11巻、3662~3670頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、比較的高い接合強度を有し、かつ、常温の水により容易に解体できる接着剤層を形成することが可能な接着剤及びそれを用いた仮接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、遷移金属とアゾール類とリン酸とを含み、融点が特定の範囲内にある金属有機構造体(MOF)等の配位性高分子(CP)を接着剤として用いることによって、比較的高い接合強度を有し、かつ、常温の水により容易に解体することが可能な接着剤層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0010】
[1]遷移金属とアゾール類とリン酸とを含み、融点が80~700℃である配位性高分子からなる、水易解体性接着剤。
【0011】
[2][1]に記載の水易解体性接着剤を前記配位性高分子の融点以上分解点未満の温度で加熱して溶融させる工程と、被着材の間に溶融状態の前記水易解体性接着剤からなる接着剤層を形成する工程と、溶融状態の前記接着剤層を前記配位性高分子の融点未満に降温して硬化させる工程と、硬化した前記接着剤層を水に接触させて解体する工程とを含む、仮接着方法。
【0012】
[3]硬化した前記接着剤層を解体する工程において、前記接着剤層に超音波処理を施す、[2]に記載の仮接着方法。
【0013】
なお、本発明における「水易解体性」とは、水に接触した場合に容易に解体される性質を意味する。
【0014】
また、本発明の水易解体性接着剤を用いることによって、比較的高い接合強度を有し、かつ、常温の水により容易に解体することが可能な接着剤層を形成できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の水易解体性接着剤は配位性高分子を含有するものである。この配位性高分子は、配位性高分子バルク体を構成する結合が、ファンデルワールス力よりも強い配位結合により結合しているため、比較的高い接合強度を有する接着剤層を形成することが可能となると推察される。また、前記配位性高分子は水と接触すると、配位性高分子内の金属ノードと有機リンカとの結合が金属ノードと水との結合に置き換えられるため、前記配位性高分子によって形成された接着剤層は、常温の水により容易に解体することが可能となると推察される。なお、「配位性高分子(CP)」とは多座配位子と金属イオンとからなる連続構造を有する錯体であり、「金属有機構造体(MOF)」とは、前記配位性高分子(CP)のうち、細孔を有するものである。また、「金属ノード」とは金属または金属を含むクラスタからなる被配位体であり、「有機リンカ」とは有機化合物を含む配位子のことである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、比較的高い接合強度を有し、かつ、常温の水により容易に解体できる接着剤層を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1で作製した仮接着体を示す概略縦断面図である。
【
図2A】実施例2~3で作製した仮接着体を示す概略斜視図である。
【
図2B】実施例2~3で実施した圧縮試験の概略を示す模式図である。
【
図3】実施例2~3で作製した仮接着体の各処理による接合強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
〔水易解体性接着剤〕
先ず、本発明の水易解体性接着剤について説明する。本発明の水易解体性接着剤は、遷移金属とアゾール類とリン酸とを含み、融点が80~700℃である配位性高分子(CP:Coordination Polymer)からなるものである。このような配位性高分子においては、遷移金属にアゾール類等の有機配位子が配位した構造を有しており、ファンデルワールス力と配位結合によって高分子構造が形成される。前記配位結合は水によって容易に乖離されるため、本発明の水易解体性接着剤からなる接着材層は常温の水により容易に解体することができる。
【0019】
前記遷移金属としては、アゾール類等の有機配位子が配位し、所定の融点を有する配位性高分子を形成できるものであれば特に制限はないが、対環境性や希少性という観点から、Cr等の第6族元素、Mn等の第7族元素、Feなどの第8族元素、Co等の第9族元素、Niなどの第10族元素、Cu等の第11族元素、Zn、Cd等の第12族元素が好ましく、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cdがより好ましく、Zn、Co、Mn、Ni、Cuが更に好ましい。
【0020】
前記アゾール類としては、前記遷移金属に配位し、所定の融点を有する配位性高分子を形成できるものであれば特に制限はなく、例えば、ピロール類、ジアゾール類(例えば、イミダゾール類、ピラゾール類)、トリアゾール類、テトラゾール類が挙げられる。これらのアゾール類のうち、配位という観点から、イミダゾール類、ピラゾール類、トリアゾール類が好ましく、イミダゾール類、トリアゾール類がより好ましい。また、前記イミダゾール類としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0021】
また、前記配位性高分子には、リン酸が含まれている。リン酸を含む配位性高分子を接着剤として用いることによって、配位性高分子を溶融させる際の加熱温度を低下させることが可能となる。
【0022】
前記配位性高分子は、80~700℃の融点を有するものである。このような範囲内の融点を有する配位性高分子を接着剤として用いることによって、加熱によって前記配位性高分子を溶融することができるため、溶融状態の接着剤層を形成することができ、この溶融状態の接着剤層を冷却して硬化させることによって被着材を接合することが可能となる。また、溶媒を用いずに接着剤層を形成できるため、溶媒除去に起因する空隙(ボイド)の生成を防ぐことができ、比較的高い接合強度で被着材を接合することが可能となる。一方、加熱しても溶融しない配位性高分子は、加熱により有機成分が分解するため、溶融状態の接着剤層を形成することが困難である。他方、前記配位性高分子の融点が前記下限未満になると、実用上の室温でも融解し、接合強度の維持が困難となる。また、前記配位性高分子の融点としては、接合形成の容易さと被着材の熱からの保護という観点から、80~300℃がより好ましい。
【0023】
このような遷移金属とアゾール類とリン酸とを含み、前記範囲内の融点を有する配位性高分子として、具体的には、表1に示すものが挙げられる。
【0024】
【0025】
これらの配位性高分子のうち、原料の毒性の低さや合成の容易さという観点から、リン酸アゾール構造体(例えば、[Zn(HPO4)(H2PO4)2](ImH2)2、[Zn3(H2PO4)6(H2O)3](BImH)、[Zn3(H2PO4)6(H2O)3](2-MeBImH)、[Zn2(HPO4)2(H2PO4)(5-ClBImH)2](H2PO4)(MeOH))が好ましい。
【0026】
本発明の水易解体性接着剤の製造方法としては、前記配位性高分子を形成できる方法であれば特に制限はなく、例えば、前記遷移金属を含有する化合物と前記アゾール類とリン酸とを物理的に混合する方法(メカノケミカル法)が挙げられる。前記遷移金属を含有する化合物と前記アゾール類とリン酸との混合比率は、得られる前記配位性高分子の各成分の量論比に応じて適宜設定することができる。
【0027】
また、このようにして得られた前記配位性高分子には真空乾燥を施すことが好ましい。これにより、合成時に吸着した大気中のガスや溶媒等を脱離できる。真空乾燥時の加熱温度としては特に制限はないが、大気中のガス(水など)や合成に用いた溶媒の沸点より高い温度が好ましい。
【0028】
〔仮接着方法〕
本発明の仮接着方法は、固体状(好ましくはシート状若しくは粉末状)の前記本発明の水易解体性接着剤を前記配位性高分子の融点以上分解点未満の温度で加熱して溶融させる工程(溶融工程)と、
被着材の間に溶融状態の前記水易解体性接着剤からなる接着剤層を形成する工程(接着剤層形成工程)と、
溶融状態の前記接着剤層を前記配位性高分子の融点未満に降温して硬化させる工程(硬化工程)と、
硬化した前記接着剤層を水に接触させて解体する工程(解体工程)と
を含む方法である。
【0029】
(溶融工程)
前記溶融工程は、固体状(好ましくは粉末状)の前記水易解体性接着剤を前記配位性高分子の融点以上分解点未満の温度で加熱する工程である。これにより、溶融状態の前記水易解体性接着剤(前記配位性高分子)が得られる。なお、前記配位性高分子の分解点は、熱重量測定(TGA)等の熱分析により測定することができる。また、加熱時間としては特に制限はなく、前記水易解体性接着剤が十分に溶融されるように、適宜設定することができる。加熱雰囲気としては特に制限はないが、被着材の熱的安定性を考慮して、不活性ガスを用いてもよい。
【0030】
固体状の前記水易解体性接着剤を加熱して溶融する際、被着材の上に予め配置した固体状の前記水易解体性接着剤を加熱して溶融してもよいし(溶融方法1)、被着材の間に予め配置(挟持)した固体状の前記水易解体性接着剤を加熱して溶融してもよいし(溶融方法2)、固体状の前記水易解体性接着剤を別個独立に(被着材の上に配置したり、被着材の間に配置(挟持)したりせずに)加熱して溶融してもよい(溶融方法3)。
【0031】
(接着剤層形成工程)
前記接着剤層形成工程は、被着材の間に溶融状態の前記水易解体性接着剤からなる接着剤層を形成する工程である。具体的には、前記溶融工程において、前記溶融方法1により前記水易解体性接着剤を溶融した場合には、溶融状態の前記水易解体性接着剤の上に他の被着材を配置することにより、被着材の間に溶融状態の前記接着剤層を形成することができる。また、前記溶融方法2により前記水易解体性接着剤を溶融した場合には、溶融完了により、被着材の間に溶融状態の前記接着剤層が形成される。さらに、前記溶融方法3により前記水易解体性接着剤を溶融した場合には、溶融状態の前記水易解体性接着剤を被着材上に塗布し、その上に他の被着材を配置することによって、被着材の間に溶融状態の前記接着剤層を形成することができる。
【0032】
(硬化工程)
前記硬化工程は、溶融状態の前記接着剤層を前記配位性高分子の融点未満(好ましくは、融点より30℃以上低い温度)に降温する工程である。これにより、前記接着剤層が硬化し、硬化した前記接着剤層により前記被着材が仮接着される。溶融状態の前記接着剤層を降温する際、前記接着剤層を加圧することが好ましい。これにより、前記接着剤層に空隙(ボイド)が生成しにくくなり、接合強度が向上する。また、降温時間としては特に制限はなく、前記接着剤層が十分に硬化するように、適宜設定することができる。
【0033】
(解体工程)
前記解体工程は、硬化した前記接着剤層に水を接触させる工程である。これにより、前記接着剤層が容易に解体される。硬化した前記接着剤層に水を接触させる方法としては特に制限はなく、例えば、前記硬化工程で得られる仮接着体を、水、水溶液又は水含有組成物に浸漬する方法、水蒸気または水蒸気を含むガスにより燻蒸する方法等が挙げられる。本発明の仮接着方法において、前記の水等は加熱する必要はなく、常温の水等を使用することができる。また、水との接触時間としては特に制限はなく、前記接着剤層が十分に解体されるように、適宜設定することができる。
【0034】
また、この解体工程においては、硬化した前記接着剤層に水を接触させる際又は接触させた後に、前記接着剤層に超音波処理を施すことが好ましい。これにより、前記接着剤層が更に解体されやすくなる。超音波処理の条件としては特に制限はないが、例えば、出力としては100~2000Wが好ましく、処理時間としては5~300秒間が好ましい。
【実施例0035】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
酸化亜鉛(ZnO)とイミダゾール(ImH)とリン酸(H3PO4)とをモル比で1:2:3となるように秤量し、これらを乳鉢で15分間混合し、得られた混合物を100℃で600分間真空乾燥して、[Zn(HPO4)(H2PO4)2](ImH2)2(融点:160℃。以下「ZnPaIm」と略す。)からなる白色粉末を得た。また、熱重量測定(TGA)により求めたZnPaImの分解点は200℃であった。
【0037】
この白色粉末を用いて2枚のアルミニウム板を
図1に示すように仮接着した。具体的には、アルミニウムA1050板(被着材A、長さ45mm×幅17mm×厚さ1.5mm)上の端部(縦10mm×横17mm)に前記白色粉末を載せ、160℃で加熱して前記白色粉末を溶融させ、溶融状態の接着剤層を形成した。次に、この溶融状態の接着剤層の上に、アルミニウムA1050板(被着材B、長さ45mm×幅17mm×厚さ1.5mm)の端部(縦10mm×横17mm)を載せ、その上に500gの重りを載せて加圧しながら25℃まで降温して前記接着剤層を硬化させ、2枚のアルミニウムA1050板(被着材A及びB)を仮接着した。この仮接着体を2個作製した。
【0038】
得られた仮接着体の1つについて、引張試験機(インストロン・ジャパン・カンパニィ・リミテッド製「5566型万能試験機」)を用いて引張速度1mm/minで、
図1に示すように引張試験を行い、引張せん断強度を測定した。前記仮接着体の引張せん断強度は2.7MPaであり、これを接合強度とした。
【0039】
次に、もう1つの仮接着体の一方の端部(被着材A又はBの前記接着剤層が形成されていない端部)に500gの重りを取り付け、この重りを垂下させた状態で前記仮接着体を20℃の水に浸漬した。その結果、浸漬開始から1秒以下で前記接着剤層が解体された。
【0040】
以上の結果から、本発明の水易解体性接着剤からなる接着剤層は、比較的高い接合強度を有し、かつ、常温の水により容易に解体されるものであることが確認された。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様にして調製したZnPaIm(融点:160℃、分解点:200℃)からなる白色粉末を用いて2枚の銅円板を
図2Aに示すように仮接着した。具体的には、銅C1020円板(被着材A、直径10mm、厚さ5mm)上の中心部(直径5mm)に前記白色粉末を載せ、160℃で加熱して前記白色粉末を溶融させ、溶融状態の接着剤層を形成した。次に、この溶融状態の接着剤層の上に、銅C1020円板(被着材B、直径5mm、厚さ2mm)を載せ、被着材Bの自重により加圧しながら25℃まで降温して前記接着剤層を硬化させ、2枚の銅C1020円板(被着材A及びB)を仮接着した。この仮接着体を複数個作製した。
【0042】
得られた仮接着体の1つについて、圧縮試験機(株式会社イマダ製「デジタルフォースゲージ」を用いて自作したもの)を用いて、大気中、荷重速度1mm/minで、
図2Bに示すように圧縮試験を行い、圧縮せん断強度を測定し、これを初期の接合強度とした。初期の接合強度は4.65MPaであった。
【0043】
次に、残りの仮接着体のうちの1つを20℃の水道水に30分間浸漬した。水浸漬後の仮接着体について、上記と同様にして圧縮試験を行い、圧縮せん断強度を測定し、これを水浸漬後の接合強度とした。表2及び
図3には、初期の接合強度に対する水浸漬後の接合強度の割合を示す。
【0044】
また、残りの仮接着体のうちの1つを上記と同様に水に浸漬した後、超音波洗浄器(アズワン株式会社製「MCD-6」)を用いて、20℃のイオン交換水中、出力:150Wで15秒間の超音波処理を行った。水浸漬+超音波処理後の仮接着体について、上記と同様にして圧縮試験を行い、圧縮せん断強度を測定し、これを水浸漬+超音波処理後の接合強度とした。表2及び
図3には、初期の接合強度に対する水浸漬+超音波処理後の接合強度の割合を示す。
【0045】
(実施例3)
酸化亜鉛(ZnO)と1,2,4-トリアゾール(1,2,4-Tz)とリン酸(H3PO4)とをモル比で1:2:2となるように秤量し、これらを乳鉢で15分間混合し、得られた混合物を100℃で600分間真空乾燥して、[Zn(H2PO4)2(1,2,4-Tz)2](融点:184℃。以下「ZnPaTz」と略す。)からなる白色粉末を得た。また、熱重量測定(TGA)により求めたZnPaTzの分解点は189℃であった。
【0046】
このZnPaTzからなる白色粉末を用い、溶融時の加熱温度を185℃に変更した以外は実施例2と同様にして、複数個の仮接着体を作製した。得られた仮接着体の1つについて、実施例2と同様に測定した初期の接合強度は4.31MPaであった。また、実施例2と同様にして、水浸漬後及び水浸漬+超音波処理後の接合強度を測定した。表2及び
図3には、初期の接合強度に対する水浸漬後及び水浸漬+超音波処理後の接合強度の割合を示す。
【0047】
(比較例1)
ZnPaImの代わりに、溶融しないMOFである亜鉛2-メチルイミダゾール(ZIF-8、シグマ・アルドリッチ社製。以下「ZIF-8」と略す。)を用いた以外は実施例2と同様にして、仮接着体の作製を試みたが、ZIF-8は加熱すると分解したため、仮接着体を作製することは困難であった。
【0048】
(比較例2)
亜鉛2-メチルイミダゾール(ZIF-8、シグマ・アルドリッチ社製)と水とを混合してペースト状の接着剤の調製を試みたが、ZIF-8は水に分散させることができなかったため、ペースト状の接着剤を調製することは困難であった。
【0049】
【0050】
表2及び
図3に示したように、本発明の水易解体性接着剤からなる接着剤層は、水浸漬後の接合強度が、初期(水浸漬前)に比べて低下したことから、比較的高い接合強度を有し、かつ、常温の水により容易に解体されるものであることが確認された。また、水浸漬後の接着剤層に超音波処理を施すと、接合強度が更に低下したことから、本発明の水易解体性接着剤からなる接着剤層は、水浸漬と超音波処理とを併用することによって、更に容易に解体できることがわかった。
以上説明したように、本発明によれば、比較的高い接合強度を有し、かつ、常温の水により容易に解体できる接着剤層を形成することが可能となる。したがって、本発明の水易解体性接着剤を用いる仮接着方法は、接着剤層の解体が容易であるため、精密部品の仮固定、シリコンインゴットの切断、ウエハ研磨、回路形成過程の仮固定、基板上の素子リサイクルのための接合材料、日用品複合体リサイクルのための接合材料、建材・車ボデー等の構造材リサイクルのための接合材料、生体試料用の仮固定等の、製造や検査過程の仮固定、およびリサイクル過程の接着方法として有用である。