(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044851
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】エンジン及びエンジンのカバー構造
(51)【国際特許分類】
F02M 35/10 20060101AFI20240326BHJP
F02B 29/04 20060101ALI20240326BHJP
F02F 7/00 20060101ALI20240326BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F02M35/10 311C
F02M35/10 101D
F02B29/04 Z
F02F7/00 K
F02B67/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150627
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向来 翔太
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA73
3G024DA20
3G024DA25
(57)【要約】
【課題】インタークーラ及びターボチャージャがそれぞれエンジン本体の上部及び下部に配置され、ターボチャージャによる過給後吸気をインタークーラへ導く吸気通路がエンジン本体の車両前後方向の前側に配置される構成のエンジンの出力性能の低下を抑制する。
【解決手段】エンジン本体の車両前後方向の前側に配置されたタイミングチェーン又はタイミングベルトと、タイミングチェーン又はタイミングベルトを被覆し、エンジン本体の車両前後方向の前側に取り付けられたカバーとを備えたエンジンは、ターボチャージャによる過給後の吸気をインタークーラへ導く吸気通路の一部を、カバーに形成した孔又は溝を利用してカバーと一体化して構成され、カバーと一体化した吸気通路に近接して配設され、冷媒を流通させる冷媒循環通路を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン本体の上部に配置されたインタークーラと、
前記エンジン本体の下部に配置されたターボチャージャと、
前記エンジン本体の車両前後方向の前側に配置されたタイミングチェーン又はタイミングベルトと、
前記タイミングチェーン又は前記タイミングベルトを被覆し、前記エンジン本体の前記車両前後方向の前側に取り付けられたカバーと、
を備えたエンジンであって、
前記ターボチャージャによる過給後の吸気を前記インタークーラへ導く吸気通路の一部を、前記カバーに形成した孔又は溝を利用して前記カバーと一体化して構成し、
前記カバーと一体化した前記吸気通路に近接して配設され、冷媒を流通させる冷媒循環通路を備える、
エンジン。
【請求項2】
前記冷媒循環通路への前記冷媒の流通及び停止を切り替える切替手段を備える、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記ターボチャージャは、前記過給後吸気を排出する第1配管を有し、
前記インタークーラは、前記過給後吸気を導入する第2配管を有し、
前記第1配管及び前記第2配管が、前記カバーと一体化した前記吸気通路の両端の開口にそれぞれ接続される、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項4】
エンジン本体の下部に配置されたターボチャージャと、前記エンジン本体の上部に配置されたインタークーラと、前記エンジン本体の車両前後方向の前側に配置されたタイミングチェーン又はタイミングベルトと、を備えたエンジンの前記タイミングチェーン又は前記タイミングベルトを被覆し、前記エンジン本体の前記車両前後方向の前側に取り付けられるエンジンのカバー構造であって、
前記ターボチャージャによる過給後吸気を前記インタークーラへ導く吸気通路の一部を、前記カバーに形成した孔又は溝を利用して前記カバーと一体化して構成し、
前記カバーと一体化した前記吸気通路に近接して配設され、冷媒を流通させる冷媒循環通路を備える、
エンジンのカバー構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジン及びエンジンのカバー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンは、吸排気弁を開閉するためのカムシャフトに、クランクシャフトの回転を同期させるための動力伝達部材としてタイミングチェーン又はタイミングベルトを備える。動力伝達部材としてタイミングチェーンを用いる場合、タイミングチェーンと、クランクシャフト及びカムシャフトとの噛み合わせ部分に潤滑油を供給する必要があるため、エンジンブロックの外面に対してタイミングチェーンを被覆して内部を液密に密封するカバーが取り付けられる(例えば特許文献1を参照)。また、動力伝達部材としてタイミングベルトを用いる場合であっても、安全面や同期させる機構を保護する等の目的でエンジンブロックの外面に対してカバーが取り付けられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、エンジンの構造として、複数の気筒に吸気を導入するための吸気管がエンジン上部に配置され、複数の気筒から排気を排出するための排気管がエンジン下部に配置される場合がある。また、このようなエンジンの構造の場合、吸気を冷却するインタークーラがエンジン本体の上部に配置され、排気の流れを利用して吸気を圧縮するターボチャージャがエンジン本体の下部に配置される場合がある。
【0005】
このようなエンジンの構造の場合、エンジン房内のレイアウトの関係上、ターボチャージャによる過給後の吸気をインタークーラへ導く吸気通路が、エンジン本体の車両前後方向の前側に設けられる。このため、車両の前面からの衝突時の衝撃エネルギを吸収するためのクラッシュストロークを確保する必要があり、吸気通路の形状や配置位置に制約を受けて、吸気通路の容量が制限されるおそれがある。エンジンのクランクシャフト及び吸排気弁のカムシャフトが、軸方向を車両前後方向に合わせて配置される場合、上記のカバーはエンジン本体の車両前後方向の前側に取り付けられる。そうすると、カバー及び吸気通路がいずれもエンジン本体の車両前後方向の前側に設けられることとなって、吸気通路の形状の自由度がより低くなる。また、インタークーラがエンジン本体の上部に配置される場合、エンジン房内での搭載スペースが限定され、インタークーラの容量が制約を受けて、吸気の冷却性能が低下するおそれがある。
【0006】
このように、インタークーラ及びターボチャージャがそれぞれエンジン本体の上部及び下部に配置され、ターボチャージャによる過給後吸気をインタークーラへ導く吸気通路がエンジン本体の車両前後方向の前側に配置される構成では、上記の制約を受けてエンジンの出力性能が低下するおそれがある。
【0007】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、エンジンの出力性能の低下を抑制可能なエンジン及びエンジンのカバー構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、エンジン本体の上部に配置されたインタークーラと、
前記エンジン本体の下部に配置されたターボチャージャと、
前記エンジン本体の車両前後方向の前側に配置されたタイミングチェーン又はタイミングベルトと、
前記タイミングチェーン又は前記タイミングベルトを被覆し、前記エンジン本体の前記車両前後方向の前側に取り付けられたカバーと、
を備えたエンジンであって、
前記ターボチャージャによる過給後の吸気を前記インタークーラへ導く吸気通路の一部を、前記カバーに形成した孔又は溝を利用して前記カバーと一体化して構成し、
前記カバーと一体化した前記吸気通路に近接して配設され、冷媒を流通させる冷媒循環通路を備えるエンジンが提供される。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本開示の別の観点によれば、エンジン本体の下部に配置されたターボチャージャと、前記エンジン本体の上部に配置されたインタークーラと、前記エンジン本体の車両前後方向の前側に配置されたタイミングチェーン又はタイミングベルトと、を備えたエンジンの前記タイミングチェーン又は前記タイミングベルトを被覆し、前記エンジン本体の前記車両前後方向の前側に取り付けられるエンジンのカバー構造であって、
前記ターボチャージャによる過給後吸気を前記インタークーラへ導く吸気通路の一部を、前記カバーに形成した孔又は溝を利用して前記カバーと一体化して構成し、
前記カバーと一体化した前記吸気通路に近接して配設され、冷媒を流通させる冷媒循環通路を備えるエンジンのカバー構造が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本開示によれば、インタークーラ及びターボチャージャがそれぞれエンジン本体の上部及び下部に配置され、ターボチャージャによる過給後吸気をインタークーラへ導く吸気通路がエンジン本体の車両前後方向の前側に配置される構成のエンジンの出力性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係るエンジンを車両前後方向の前側から見た模式図である。
【
図2】同実施形態に係るエンジンを車幅方向の右側から見た模式図である。
【
図3】同実施形態に係るエンジンの構造を模式的に示した説明図である。
【
図4】比較例のエンジンを車両前後方向の前側から見た模式図である。
【
図5】比較例のエンジンを車幅方向の右側から見た模式図である。
【
図7】本実施形態に係るエンジンの冷却水回路の構成例を示す説明図である。
【
図8】制御装置による切替手段の開閉処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
はじめに、本開示の実施の形態に係るエンジンの基本構成について説明する。
【0014】
図1~
図3は、エンジンを示す説明図である。
図1は、エンジン1を車両前後方向の前側から見た模式図であり、
図2は、
図1のエンジン1を車幅方向の右側から見た模式図である。また、
図3は、エンジンの構造を模式的に示した説明図である。各図中の上下左右前後の表記は、車両の上下左右前後を示す。また、以下の説明中の上下左右前後は、各図に示した上下左右前後に対応する。
【0015】
本開示の技術の前提となるエンジン1は、エンジンブロック及びシリンダヘッドを筐体とするエンジン本体3と、エンジン本体3の上部に配置されたインタークーラ5と、エンジン本体3の下部に配置されたターボチャージャ7と、エンジン本体3の前側に取り付けられるチェーンカバー25とを備えている。エンジン1は、それぞれ水平方向に沿った軸方向を有する複数の気筒がクランクシャフト13の左右両側に設けられた、いわゆる水平対向型のエンジンとして構成されている。ただし、エンジンは他の形式のエンジンであってもよい。
【0016】
図3に示すように、エンジン本体3は、左側のシリンダバンクを構成するシリンダブロック11Lと、右側のシリンダバンクを構成するシリンダブロック11Rと、一対のシリンダブロック11L,11Rに支持されるクランクシャフト13とを有している。また、シリンダブロック11L,11Rには、吸気カムシャフト15L,15R及び排気カムシャフト17L,17R及び吸気弁19及び排気弁21等からなる動弁機構23L,23Rを備えたシリンダヘッド12L,12Rが設けられている。
【0017】
このように、エンジン本体3はシリンダブロック11L,11R及びシリンダヘッド12L,12Rによって構成され、エンジン本体3にはクランクシャフト13、吸気カムシャフト15L,15R及び排気カムシャフト17L,17Rが設けられている。クランクシャフト13、吸気カムシャフト15L,15R及び排気カムシャフト17L,17Rは、軸方向を車両前後方向に沿って設けられている。クランクシャフト13、吸気カムシャフト15L,15R及び排気カムシャフト17L,17Rの前端は、それぞれエンジン本体3の前側に突き出している。
【0018】
クランクシャフト13を中心に複数の気筒14がそれぞれ左右両側に延びて設けられている。四気筒エンジンの場合、左右のシリンダバンクそれぞれにおいて二つの気筒が車両前後方向に配列している。また、六気筒エンジンの場合、左右のシリンダバンクそれぞれにおいて三つの気筒が車両前後方向に配列している。
【0019】
図1及び
図2に示すように、吸気カムシャフト15L,15R及び排気カムシャフト17L,17Rは、それぞれタイミングチェーン27L,27Rによりクランクシャフト13の回転と同期される。具体的に、左側の吸気カムシャフト15L及び排気カムシャフト17Lとクランクシャフト13とに亘って第1のタイミングチェーン27Lが巻回されている。また、右側の吸気カムシャフト15R及び排気カムシャフト17Rとクランクシャフト13とに亘って第2のタイミングチェーン27Rが巻回されている。
【0020】
第1のタイミングチェーン27L及び第2のタイミングチェーン27Rは、吸気カムシャフト15L,15R及び排気カムシャフト17L,17R及びクランクシャフト13に設けられた図示しないスプロケットと噛み合っている。これにより、クランクシャフト13の回転に伴って吸気カムシャフト15L,15R及び排気カムシャフト17L,17Rも回転し、吸気弁19及び排気弁21が進退動する。
【0021】
エンジン本体3の車両前後方向の前側には、第1のタイミングチェーン27L及び第2のタイミングチェーン27Rを被覆するチェーンカバー25が取り付けられている。チェーンカバー25は、エンジン本体3に対してガスケット等のシール部材を介して取り付けられ、チェーンカバー25によってチェーン室が区画されている。チェーン室は、シリンダブロック11L,11R内のクランク室29に連通する空間となっており、エンジン1の外部に対して液密に密封されている。チェーン室には潤滑油が供給され、第1のタイミングチェーン27L及び第2のタイミングチェーン27Rと吸気カムシャフト15L,15R及び排気カムシャフト17L,17Rのスプロケットとの噛み合い部分が潤滑される。
【0022】
図3に示すように、シリンダヘッド12L,12Rには吸気ポート31が形成されている。吸気ポート31には吸気系40が接続されている。吸気系40は、エアクリーナボックス41、吸気ダクト43、コンプレッサハウジング69、吸気ダクト47、インタークーラ5、スロットルバルブ51及び吸気マニホールド53等によって構成されている。
図3に矢印a1で示すように、エアクリーナボックス41を通過した吸気は、吸気ダクト43、コンプレッサハウジング69、吸気ダクト47、インタークーラ5、スロットルバルブ51及び吸気マニホールド53を経て、シリンダヘッド12L,12Rの吸気ポート31に供給される。
【0023】
また、シリンダヘッド12L,12Rには排気ポート33が形成されており、この排気ポート33には排気系60が接続されている。排気系60は、排気マニホールド61、タービンハウジング67及び排気管65等によって構成されている。
図3に矢印a2で示すように、排気ポート33から排出される排気は、排気マニホールド61、タービンハウジング67及び排気管65を経て、外部に排出される。なお、排気管65には図示しない触媒コンバータや消音器が接続されており、排気は触媒コンバータや消音器を経て外部に排出される。
【0024】
エンジン本体3の下部に配置されたターボチャージャ7は、排気の流れによってタービン63を回転させ、この回転力によりコンプレッサ45を駆動し、エンジン1が吸入する空気を圧縮する。ターボチャージャ7は、タービン63を収容するタービンハウジング67と、コンプレッサ45を収容するコンプレッサハウジング69と、これらハウジング67,69の間に配置されるベアリングハウジング71とを有している。ベアリングハウジング71には、ベアリング73を介してシャフト75が回転自在に支持されている。排気ポート33から排出される排気の流れによりタービン63が回転すると、シャフト75を介して連結されたコンプレッサ45が回転駆動され、吸気ダクト43を介して吸入される空気が圧縮されてインタークーラ5へ送られる。
【0025】
エンジン本体3の上部に配置されたインタークーラ5は、ターボチャージャ7による圧縮により温度が上昇した空気を冷却する。インタークーラ5は、例えば空冷式のインタークーラであり、図示しないボンネットに設けられたダクトを介して冷却用の空気がインタークーラに導入される。なお、インタークーラ5は水冷式のインタークーラであってもよい。このように構成されたエンジン1では、ターボチャージャ7による過給後の吸気をインタークーラ5に導く吸気ダクト47が、エンジン本体3の下部側から上部側へと配置される。
【0026】
ここで、ターボチャージャ7による過給後の吸気をインタークーラ5に導く吸気ダクト47が、レイアウトの都合などによりエンジン本体3の車両前後方向の前側に配置される場合がある。つまり、
図3では、便宜上吸気ダクト47がエンジン本体3の側方に位置するように示されているが、この吸気ダクト47を、チェーンカバー25が取り付けられているエンジン本体3の前側に配置せざるを得ない場合がある。
【0027】
図4及び
図5は、比較例のエンジン90の構成を示す模式図である。吸気ダクト99をエンジン本体93の前側に配置する場合、車両の前方からの衝突時の衝撃エネルギを吸収するためのクラッシュストロークを確保するために、車両のフロント部分から所定距離以上離れるように吸気ダクト99を配置することが望ましい。そうすると、
図5に示すように、エンジン本体93の前側において、吸気ダクト99は、クラッシュストロークを考慮した位置Dよりも後方に配置されるように制約が課される。このため、当該位置Dとエンジン90との間に吸気ダクト99を配置する必要があり、吸気ダクト99の形状の自由度が低くなるとともに、吸気ダクト99の容量あるいは通路面積が制限される。
【0028】
図4及び
図5に示した比較例のエンジン90の構成では、チェーンカバー25に凹み97を設け、当該凹み97に吸気ダクト99の一部が入り込むように吸気ダクト99が配置されている。しかしながら、比較例の構成であっても、吸気ダクト99の周壁の厚さや、チェーンカバー25の凹み97の底部と吸気ダクト99との間の隙間の分、吸気ダクト99の形状や容量、通路面積が制限される。
【0029】
特に、インタークーラ95がエンジン本体93の上部に配置される構成の場合、インタークーラ95の上にはボンネットが存在することから、エンジン房内でのインタークーラ95の搭載スペースが限定される。このため、インタークーラ95の容量が制限され、吸気の冷却性能が低下する。以上のことから、比較例のエンジン90の構成では、エンジン90の出力性能が低下するおそれがある。
【0030】
これに対して、
図1及び
図2に示した本実施形態に係るエンジン1では、ターボチャージャ7による過給後の吸気をインタークーラ5へ導く吸気通路44の一部が、チェーンカバー25に形成した孔(貫通孔80)を利用してチェーンカバー25と一体化して構成されている。
【0031】
図6は、
図1中のI-I断面の矢視図を示す。
図6に示した例では、チェーンカバー25には、貫通孔80と、貫通孔80の左右両側に位置する冷媒循環通路81とが設けられている。冷媒循環通路81は吸気通路44の一部としての孔に近接して配置され、冷媒循環通路81には冷媒が流通する。この冷媒循環通路81に冷媒を循環させることにより、貫通孔80を通過する過給後の吸気が冷却される。ただし、貫通孔80及び冷媒循環通路81の断面形状や、冷媒循環通路81の配置位置は、
図6に示した例に限定されるものではない。
【0032】
具体的に、チェーンカバー25には、両端がチェーンカバー25の上部及び下部に開口する貫通孔80が設けられている。貫通孔80の上部開口80uには、インタークーラ5に接続された上部吸気ダクト(第2配管)47uが接続されている。また、貫通孔80の下部開口80lは、ターボチャージャ7のコンプレッサ45に接続された下部吸気ダクト(第1配管)47lが接続されている。したがって、ターボチャージャ7による過給後の吸気は、下部吸気ダクト47l、貫通孔80及び上部吸気ダクト47uを経てインタークーラ5に導かれる。
【0033】
貫通孔80は、例えば
図4及び
図5に示した比較例のチェーンカバー25の凹み97に代えて設けられてよい。このため、チェーンカバー25の凹みに吸気ダクトを配置する構成に比べて、凹みと吸気ダクトとの間の隙間や、吸気ダクトの周壁の厚さ分、クラッシュストロークを確保することができる。あるいは、凹みと吸気ダクトとの間の隙間や、吸気ダクトの周壁の厚さ分、吸気通路を大径化することができる。
【0034】
また、チェーンカバー25には、貫通孔80に近接して冷媒循環通路81が設けられている。冷媒循環通路81は、冷媒が導入される図示しない導入口及び冷媒が排出される図示しない排出口が設けられている。冷媒循環通路81には、専用の配管系が設けられて独立的に冷媒が循環するように構成されていてもよいが、エンジン1の冷却水回路から分岐してエンジン冷却水が冷媒として供給されてもよい。チェーンカバー25は、例えばアルミニウムを型成形することにより製造されたものであってよい。冷媒循環通路81を流れる冷媒により、過給後の吸気がインタークーラ5に到達する前に吸気を冷却することができる。
【0035】
図7は、本実施形態に係るエンジン1の冷却水回路の構成例を示す説明図である。
冷却水回路100は、冷却水ポンプ101及びラジエータ103を備えている。冷却水ポンプ101により吐出される冷却水は、左側のシリンダブロック11L及び右側のシリンダブロック11Rをそれぞれ流れ、熱交換によりエンジン1を冷却した後に集合管105で合流する。また、集合管105を通過した冷却水は、ラジエータ103を通過して冷却された後、再び冷却水ポンプ101により吐出される。
図7に示した例では、冷却水ポンプ101により吐出された冷却水の一部が、チェーンカバー25に設けられた冷媒循環通路81を通過して集合管105で合流するように構成されている。
【0036】
また、冷却水ポンプ101と冷媒循環通路81との間には、冷媒循環通路81への冷却水の流通及び停止を切り替える切替手段107が設けられている。切替手段107は、例えば通電のオンオフにより冷却水の通路を開閉する電制式の開閉弁であってよい。切替手段107の開閉の駆動は、プロセッサを備えて構成される制御装置109により制御される。冷却水回路100が切替手段107を備えることにより、冷却水の温度が過給後の吸気の温度よりも高い場合には冷媒循環通路81への冷却水の流通を停止させ、過給後の吸気が暖められることを防ぐことができる。
【0037】
図8は、制御装置109による切替手段107の開閉処理の例を示すフローチャートである。
制御装置109は、冷却水ポンプ101により吐出される冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ111のセンサ信号を取得可能に構成されている。また、制御装置109は、ターボチャージャ7による過給後の吸気の温度を検出する吸気温度センサ113のセンサ信号を取得可能に構成されている。冷却水温度センサ111及び吸気温度センサ113は、それぞれ所望の冷却水の温度及び過給後の吸気の温度を検出可能な任意の位置に設けられている。
【0038】
制御装置109は、エンジン1の始動を検知すると(ステップS11)、冷却水の温度及び過給後の吸気の温度の情報を取得する(ステップS13)。次いで、制御装置109は、冷却水の温度が過給後の吸気の温度よりも低いか否かを判定する(ステップS15)。制御装置109は、冷却水の温度が過給後の吸気の温度よりも所定の差分以上低いか否かを判定してもよい。
【0039】
冷却水の温度が過給後の吸気の温度よりも低いと判定した場合(S15/Yes)、制御装置109は、切替手段107を駆動し、冷媒循環通路81に冷却水が流れるようにする(ステップS17)。一方、冷却水の温度が過給後の吸気の温度よりも低いと判定されない場合(S15/No)、制御装置109は、切替手段107を駆動し、冷媒循環通路81に冷却水が流れないようにする(ステップS19)。
【0040】
次いで、制御装置109は、エンジン1が停止したか否かを判定し(ステップS21)、エンジン1が停止していない場合(S21/No)、ステップS13~ステップS21の処理を繰り返す。一方、制御装置109は、エンジン1が停止した場合(S21/Yes)、切替手段107の開閉処理を終了する。
【0041】
これにより、冷却水の温度がターボチャージャ7による過給後の吸気の温度よりも低い場合にのみ当該過給後の吸気を冷却し、インタークーラ5へ供給することができる。また、過給後の吸気がインタークーラ5へ到達する前に吸気を冷却することができることから、インタークーラ5の容量が小さい場合であってもエンジン1の各気筒14へ導入する吸気の温度を低下させることができ、エンジン1の出力性能の低下を抑制することができる。
【0042】
このように本実施形態に係るエンジンによれば、ターボチャージャによる過給後の吸気をインタークーラへ導く吸気通路の一部が、チェーンカバーに形成した貫通孔を利用してチェーンカバーと一体化して構成される。このため、エンジン本体の前側に吸気通路が配置される場合に省スペース化を図ることができ、車両の前方からの衝突時のクラッシュストロークを確保することができる。また、吸気通路の配置を省スペース化できることから、例えば吸気通路を複数並列に設けることも可能になり、通路面積をより大きくすることもできる。
【0043】
また、本実施形態に係るエンジンによれば、チェーンカバーに形成された貫通孔に近接して冷媒循環通路が配設されている。このため、ターボチャージャ7による過給後の吸気がインタークーラ5に到達する前に当該吸気を冷却することができる。したがって、インタークーラ5の容量が小さい場合であっても、エンジンの各気筒に供給される吸気の冷却性能を担保することができる。
【0044】
このようにして、本実施形態に係るエンジンは、インタークーラがエンジン本体の上部に配置され、ターボチャージャがエンジン本体の下部に配置され、ターボチャージャによる過給後の吸気をインタークーラに導く吸気通路がエンジンの前側に配置される場合であっても、エンジンの出力性能の低下を抑制することができる。
【0045】
また、上記実施形態に係るエンジンでは、チェーンカバーに形成された貫通孔の上部開口及び下部開口が、それぞれインタークーラに接続された吸気ダクト及びターボチャージャに接続された吸気ダクトに接続されている。このため、吸気通路を構成する部品点数を減らすことができるとともに、吸気通路の長さが短くなることで吸気効率及び冷却性能を向上させることができる。
【0046】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0047】
例えば、上記実施形態では、クランクシャフト13の回転を吸気カムシャフト15L,15R及び排気カムシャフト17L,17Rに同期させる動力伝達手段としてタイミングチェーンが用いられていたが、動力伝達手段はタイミングベルトであってもよい。この場合、タイミングベルトを被覆して取り付けられるベルトカバーに貫通孔及び冷媒循環通路を設けることにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
また、上記実施形態では、チェーンカバー25に設けられる貫通孔80が吸気通路の一部として構成されていたが、貫通孔の代わりに、チェーンカバー25に設けられた凹溝と、当該凹溝を被覆して気密に取り付けられる通路カバーとにより形成される空間を吸気通路の一部として構成してもよい。このような構成によっても、チェーンカバー25に設けられた凹みに、別部材としての吸気ダクトを配置する場合に比べて、エンジン1の前方のクラッシュストロークを確保することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、制御装置が、冷却水温度センサ及び吸気温度センサのセンサ信号を取得し、冷却水の温度が過給後の吸気の温度よりも低い場合に、冷媒循環通路81に冷媒を流通させるように構成されていたが、本開示の技術はかかる例に限定されない。例えば制御装置は、ターボチャージャ7による過給後の吸気の圧力(過給圧)の情報を取得し、当該過給圧からと過給後の吸気の温度を推定してもよい。これにより、吸気温度センサを追加することなく、切替手段107の駆動を制御することができる。
【0050】
また、上記実施形態では、冷媒としてエンジンの冷却水を冷媒循環通路81へ流通させていたが、本開示の技術はかかる例に限定されない。例えばチェーン室に供給される潤滑油の一部を冷媒循環通路81へ流通可能に構成してもよい。この場合においても、潤滑油の温度が過給後の吸気の温度よりも低い場合にのみ潤滑油を冷媒循環通路へ流通させることが望ましい。
【符号の説明】
【0051】
1:エンジン、3:エンジン本体、5:インタークーラ、7:ターボチャージャ、11L・11R:シリンダブロック、12L・12R:シリンダヘッド、13:クランクシャフト、14:気筒、15L・15R:吸気カムシャフト、17L・17R:排気カムシャフト、19:吸気弁、21:排気弁、25:チェーンカバー、27L:第1のタイミングチェーン、27R:第2のタイミングチェーン、43:吸気ダクト、44:吸気通路、45:コンプレッサ、47:吸気ダクト、47l:下部吸気ダクト、47u:上部吸気ダクト、53:吸気マニホールド、61:排気マニホールド、63:タービン、65:排気管、67:タービンハウジング、69:コンプレッサハウジング、71:ベアリングハウジング、75:シャフト、80:貫通孔、80l:下部開口、80u:上部開口、81:冷媒循環通路、100:冷却水回路、101:冷却水ポンプ、103:ラジエータ、105:集合管、107:切替手段、109:制御装置、111:冷却水温度センサ、113:吸気温度センサ