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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044861
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/06 20060101AFI20240326BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01M10/06 L
H01M4/14 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150648
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】322013937
【氏名又は名称】エナジーウィズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】関戸 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】瀬和 格
(72)【発明者】
【氏名】小林 真輔
【テーマコード(参考)】
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H028AA06
5H028HH01
5H028HH05
5H050AA07
5H050BA09
5H050CA06
5H050CB15
5H050DA02
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】自動車の駐車中の補機用電池の使われ方を想定した寿命試験において、優れた寿命性能を示す鉛蓄電池を提供すること。
【解決手段】複数のセル室を有する電槽と、複数のセル室のそれぞれに収容された電極群及び電解液と、を備える鉛蓄電池であって、電極群は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、を有し、複数のセル室の一つに収容された電極群のセル体積V(単位:cm)に対する、電極群に含まれる正極活物質の質量Mp(単位:g)の比Mp/Vが、1.13以上であり、正極活物質の全細孔容積が0.100g/ml以下である、鉛蓄電池。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセル室を有する電槽と、
前記複数のセル室のそれぞれに収容された電極群及び電解液と、
を備える鉛蓄電池であって、
前記電極群は、
正極活物質を含む正極と、
負極活物質を含む負極と、
を有し、
前記複数のセル室の一つに収容された前記電極群のセル体積V(単位:cm)に対する、前記電極群に含まれる前記正極活物質の質量Mp(単位:g)の比Mp/Vが、1.13以上であり、
前記正極活物質の全細孔容積が0.100g/ml以下である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記正極活物質の多孔度が45.0体積%以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記比Mp/Vが1.25以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記正極活物質の密度が4.0g/cm以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
内燃機関を備えない自動車の駐車中に必要となる電力の供給に用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
内燃機関と、前記内燃機関を始動するための電力を供給する蓄電池と、駐車中に必要となる電力を供給する鉛蓄電池と、を備える自動車の、前記鉛蓄電池に用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン(内燃機関)始動用のバッテリーとして鉛蓄電池が使用されている。これまで、エンジン始動用の鉛蓄電池の寿命性能を向上させるために様々な取り組みが行われている。例えば特許文献1には、負極材にケッチェンブラックを含有させ、負極材の密度を3g/cm以上とすることでエンジン始動用の鉛蓄電池の寿命性能を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-50229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、ハイブリッド車、電気自動車等の電動車(xEV)が普及してきていること、及び、ドアを自動で開閉する機能、カーナビ電源を自動で起動する機能等、様々な機能が付与された自動車が増えてきていることに伴って、駐車中の機器への電力供給量が増えてきており、上記電力供給を担う補機用電池の重要性が高まっている。
【0005】
現状では、補機用電池としてエンジン始動用の鉛蓄電池が転用されているが、エンジン始動用の鉛蓄電池は、駐車中の電池の使われ方を想定した寿命試験において必ずしも充分な寿命性能を示さない。
【0006】
そこで、本発明の一側面は、自動車の駐車中の補機用電池の使われ方を想定した寿命試験において、優れた寿命性能を示す鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のいくつかの側面は、下記[1]~[6]を提供する。
【0008】
[1]
複数のセル室を有する電槽と、
前記複数のセル室のそれぞれに収容された電極群及び電解液と、
を備える鉛蓄電池であって、
前記電極群は、
正極活物質を含む正極と、
負極活物質を含む負極と、
を有し、
前記複数のセル室の一つに収容された前記電極群のセル体積V(単位:cm)に対する、前記電極群に含まれる前記正極活物質の質量Mp(単位:g)の比Mp/Vが、1.13以上であり、
前記正極活物質の全細孔容積が0.100g/ml以下である、鉛蓄電池。
【0009】
[2]
前記正極活物質の多孔度が45.0体積%以下である、[1]に記載の鉛蓄電池。
【0010】
[3]
前記比Mp/Vが1.25以上である、[1]又は[2]に記載の鉛蓄電池。
【0011】
[4]
前記正極活物質の密度が4.0g/cm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【0012】
[5]
内燃機関を備えない自動車の駐車中に必要となる電力の供給に用いられる、[1]~[4]のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【0013】
[6]
内燃機関と、前記内燃機関を始動するための電力を供給する蓄電池と、駐車中に必要となる電力を供給する鉛蓄電池と、を備える自動車の、前記鉛蓄電池に用いられる、[1]~[4]のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一側面によれば、自動車の駐車中の補機用電池の使われ方を想定した寿命試験において、優れた寿命性能を示す鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。
図2図1に示した鉛蓄電池の電槽を示す斜視図である。
図3図1に示した鉛蓄電池の電極群を説明するための分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例(実験例)に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0017】
以下、図面を適宜参照しながら、一実施形態の鉛蓄電池について詳細に説明する。
【0018】
図1は、一実施形態の鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。図1に示すように、一実施形態に係る鉛蓄電池1は、上面が開口している電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3と、電槽2に収容された電極群4及び電解液(図示せず)と、を備える液式鉛蓄電池である。
【0019】
蓋3は、正極端子5と、負極端子6と、蓋3に設けられた複数の注液口をそれぞれ閉塞する複数の液口栓7とを備えている。蓋3は、例えばポリプロピレンで形成されている。正極端子5は、蓋3から電槽2内に延びる正極柱18の一端に接続されている。同様に、負極端子6は、蓋3から電槽2内に延びる負極柱(図示せず)の一端に接続されている。電解液は、例えば希硫酸である。電解液は、硫酸に加えて、0.01~0.1mol/L程度のイオン(例えばナトリウムイオン)を含むことがある。
【0020】
図2は、図1に示した鉛蓄電池1の電槽2を示す斜視図である。図2に示すように、電槽2は、中空の略直方体状を呈しており、上面に開口を有している。すなわち、電槽2は、長方形の平面形状を有する底壁と、底壁の短辺部に立設された一対の側壁(第1の側壁)21と、底壁の長辺部に立設された一対の側壁(第2の側壁)22とから構成されている。電槽2は、例えばポリプロピレンで形成されている。
【0021】
電槽2の内部は、第1の側壁21と略平行に設けられた5枚の隔壁23を備えている。5枚の隔壁23が所定の間隔で配置されていることによって、電槽2の内部には、第1~第6の6個のセル室24a~24f(以下、これらをまとめて「セル室24」ともいう)がこの順で第2の側壁22に沿って形成されている。セル室24のそれぞれには、電極群4が収容されている。電極群4は、単セルとも呼ばれており、例えば2Vの起電力を有する。
【0022】
第1の側壁21の内面21a及び隔壁23の両面23a(以下、これらをまとめて「内壁面21a,23a」ともいう)には、底壁(電槽2の開口面)に垂直な方向に延びる複数のリブ25が設けられている。リブ25は、各セル室24に収容された電極群4を適切に加圧(圧縮)する機能を有する。他の一実施形態では、内壁面21a,23aには、リブが設けられていなくてもよい。
【0023】
図3は、図1に示した鉛蓄電池の電極群を説明するための分解斜視図である。図3に示すように、セル室24のうちの一つのセル室24aに収容された電極群4は、複数の正極8、負極9及びセパレータ10が、電槽2の第1の側壁21と略垂直な方向に積層されてなる。電極群4において、正極8及び負極9は、セパレータ10を介して交互に積層されている。正極8は、板状の正極(正極板)であってよい。負極9は、板状の負極(負極板)であってよい。
【0024】
正極8は、正極集電体11と、正極集電体11に充填された正極活物質12とを備えている。正極集電体11は、その一端から電槽2の開口側に向けて突出した正極耳部11aを有している。負極9は、負極集電体13と、負極集電体13に充填された負極活物質14とを備えている。負極集電体13は、その一端から電槽2の開口側に向けて突出した負極耳部13aを有している。本明細書では、「正極活物質」は正極から正極集電体を除いたものを意味し、「負極活物質」は負極から負極集電体を除いたものを意味する。
【0025】
正極集電体11及び負極集電体13は、それぞれ、例えば、鉛-カルシウム-錫合金、鉛-カルシウム合金、鉛-アンチモン合金等で形成されている。これらの鉛合金を重力鋳造法、エキスパンド法、打ち抜き法等で格子状に形成することにより、正極耳部11aを有する正極集電体11及び負極耳部13aを有する負極集電体13がそれぞれ得られる。
【0026】
正極活物質12は、Pb成分としてPbOを含み、必要に応じて、PbO以外のPb成分(例えばPbSO)及び添加剤を更に含んでよい。添加剤としては、例えば、炭素材料(炭素繊維を除く)及び繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等)が挙げられる。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。正極活物質12におけるPb成分の含有量は、正極活物質12の全質量を基準として、90質量%以上又は95質量%以上であってよく、99.9質量%以下又は98質量%以下であってもよい。
【0027】
本実施形態の鉛蓄電池1では、正極活物質12の全細孔容積が0.100g/ml以下である。正極活物質12の全細孔容積が小さいことは、正極活物質が細孔の少ない緻密な構造を有することを意味する。後述する実験例で示されるとおり、正極活物質12の全細孔容積が例えば0.106g/ml以下であれば、正極活物質12の全細孔容積をより小さくしたとしても、エンジンを始動するために用いられる場合の鉛蓄電池の寿命は向上しない。これに対し、本発明者らは、自動車の駐車中に必要となる電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命が、正極活物質12の全細孔容積に影響を受けること、及び、正極活物質12の全細孔容積が0.100g/ml以下であると当該寿命に優れた鉛蓄電池が得られることを見出した。
【0028】
ところで、最近では、OTA(Over The Air)と呼ばれる無線通信によるデータの送受信技術により車載OS(Operating System)のソフトウェアを自動でアップデートする機能を備える自動車が増えてきている。OTAを利用する車載機器への電力供給時には、一時的に大きな電力が消費されることがあるため、鉛蓄電池には、このような電力供給に適した性能を有していることが求められることもある。本発明者らの検討結果によれば、上記OTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命も正極活物質12の全細孔容積に影響を受ける。また、正極活物質12の全細孔容積が0.100g/ml以下であると当該寿命に優れた鉛蓄電池が得られる傾向がある。
【0029】
正極活物質12の全細孔容積は、自動車の駐車中に必要となる電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命及び車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命が更に優れる観点から、0.098g/ml以下又は0.096g/ml以下であってもよい。正極活物質12の全細孔容積は、容量性能により優れる観点、並びに、自動車の駐車中に必要となる電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命及び車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命が更に優れる観点から、0.090g/ml以上であってよく、0.092g/ml以上又は0.094g/ml以上であってもよい。これらの観点から、正極活物質12の全細孔容積は、例えば、0.090~0.100g/ml、0.092~0.098g/ml又は0.094~0.096g/mlであってよい。なお、正極活物質の全細孔容積は、化成後の全細孔容積であり、水銀ポロシメーターの測定結果から得られる値である。正極活物質の全細孔容積は、正極活物質ペーストを作製する際に加える希硫酸量、化成温度等によって調整することができる。例えば、正極活物質ペーストを作製する際に加える希硫酸量が多く、化成温度が高いほど、正極活物質の全細孔容積の値が大きくなる傾向がある。
【0030】
正極活物質12の多孔度は、自動車の駐車中に必要となる電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命及び車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命が更に優れる観点から、好ましくは45.0体積%以下であり、44.5体積%以下又は44.0体積%以下であってもよい。正極活物質12の多孔度は、容量性能により優れる観点、並びに、自動車の駐車中に必要となる電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命及び車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命が更に優れる観点から、42.5体積%以上であってよく、43.0体積%以上又は43.5体積%以上であってもよい。これらの観点から、正極活物質12の多孔度は、例えば、42.5~45.0体積%、43.0~44.5体積%又は43.5~44.0体積%であってよい。正極活物質の多孔度は、化成後の多孔度であり、水銀ポロシメーター測定から得られる値(体積基準の割合)である。正極活物質の多孔度は、正極活物質ペーストを作製する際に加える希硫酸量、化成温度等によって調整することができる。例えば、正極活物質ペーストを作製する際に加える希硫酸量が多く、化成温度が高いほど、正極活物質の多孔度が大きくなる傾向がある。
【0031】
正極活物質12の密度は、自動車の駐車中に必要となる電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命及び車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命が更に優れる観点から、好ましくは4.0g/cm以上であり、4.2g/cm以上又は4.4g/cm以上であってもよい。正極活物質12の密度は、容量性能により優れる観点、並びに、自動車の駐車中に必要となる電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命及び車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命が更に優れる観点から、4.9g/cm以下であってよく、4.7g/cm以下又は4.5g/cm以下であってもよい。これらの観点から、正極活物質12の密度は、例えば、4.0~4.9g/cm、4.2~4.7g/cm又は4.4~4.5g/cmであってよい。正極活物質の密度は、化成後の密度であり、水銀ポロシメーター測定から得られる値である。正極活物質の密度は、正極活物質ペーストを作製する際に加える希硫酸量、化成温度等によって調整することができる。例えば、正極活物質ペーストを作製する際に加える希硫酸量が多く、化成温度が高いほど、正極活物質の密度が小さくなる傾向がある。
【0032】
負極活物質14は、Pb成分としてPb単体を含み、必要に応じてPb単体以外のPb成分(例えばPbSO)及び添加剤を更に含んでよい。添加剤としては、例えば、スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂、硫酸バリウム、炭素材料(炭素繊維を除く)及び繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等)が挙げられる。スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂は、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩、及び、フェノール類とアミノアリールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(例えば、ビスフェノールとアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。負極活物質14におけるPb成分の含有量は、負極活物質14の全質量を基準として、90質量%以上又は95質量%以上であってよく、99質量%以下又は98質量%以下であってよい。
【0033】
セパレータ10は、袋状に形成されており、負極9を収容している。セパレータ10は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等で形成されている。セパレータ10は、これらの材料で形成された織布、不織布、多孔質膜等にSiO、Al等の無機系粒子を付着させたものであってよい。セパレータ10の厚さ(シート状に展開して測定される厚さ)は、例えば、0.1~1.5mmである。なお、セパレータ10は袋状以外の形状(例えば、シート状)であってもよい。
【0034】
図3では図示を省略しているが、図1に示すように、正極耳部11a同士は正極ストラップ15で集合溶接されており、負極耳部13a同士は負極ストラップ16で集合溶接されている。第1のセル室24aに収容された電極群4における正極ストラップ15は、接続部材17を介して、正極端子5から電槽2内に延びる正極柱18と接続されている。接続部材17及び正極柱18は、それぞれ鉛又は鉛合金で形成されている。
【0035】
一実施形態において、電極群4では、電槽2の第1の側壁21の内面21aに近い側から、正極8と、袋状のセパレータ10に収容された負極9とがこの順で交互に配置されており、正極8の枚数及び負極9の枚数がいずれも8枚であってよい。
【0036】
本実施形態では、セル室24に収容された電極群4のセル体積V(単位:cm)に対する、電極群4に含まれる正極活物質12の質量Mp(単位:g)の比Mp/Vが、1.13以上となっている。
【0037】
ここで、セル体積Vは、電極群4を構成する単セルの体積を意味し、正極8(正極集電体11)及び負極9(負極集電体13)のそれぞれにおいて、正極活物質12及び負極活物質14が充填された部分(活物質充填部)の面積(隔壁23に平行な二つの面のうちの一面側の面積)S(単位:cm)に電極群4の厚み(隔壁23に垂直な方向の長さ)を乗じることにより求められる。ここで、セル室24に収容されている状態での電極群4の厚みは、セル室24の厚みと同じであるとみなすことができる(内壁面21a,23a等にリブ25が設けられているか否かに依らない)。したがって、セル体積Vを求める際には、セル室24の厚みZ(単位:cm)を用いる。すなわち、セル体積V(単位:cm)は、活物質充填部の面積S(単位:cm)×セル室24の厚みZ(単位:cm)により求められる。
【0038】
活物質充填部の面積Sは、電極群4に含まれる各正極8及び各負極9における活物質充填部の面積をそれぞれ求めた後、それらすべての面積の平均値として算出される。例えば、活物質充填部の平面形状が略長方形である場合、各正極8及び各負極9における活物質充填部の面積は、活物質充填部の縦X(単位:cm)×活物質充填部の横Y(単位:cm)により求められる。各正極8及び各負極9における活物質充填部の面積は、隔壁23に平行な二つの面それぞれについて面積を求めた後、これらの面積の平均値として算出される。
【0039】
セル室24の厚みZ(単位:cm)は、セル室24の底壁における第1の側壁21の内面21aと隔壁23の内面23aとの間の距離(両端に位置するセル室24a,24fの場合)、又は、セル室24の底壁における一方の隔壁23の内面23aと他方の隔壁23の内面23aとの間の距離(両端に位置するセル室24a,24f以外のセル室24b,24c,24d,24eの場合)として定義される。
【0040】
電極群4に含まれる正極活物質12の質量Mp(単位:g)は、セル室24に収容された電極群4を取り出して、正極8を水洗し、充分に乾燥させた後に測定した正極8の質量と、正極8から正極活物質12を除いた後の正極集電体11の質量との差から算出することができる。正極8の乾燥は、例えば、50℃で24時間行う。
【0041】
セル体積V(単位:cm)に対する正極活物質12の質量Mp(単位:g)の比Mp/Vは、セル室24のそれぞれに収容された電極群4ごとに、セル体積V(単位:cm)及び正極活物質12の質量Mp(単位:g)を以上のとおり求めた上で比Mp/Vを算出し、すべての電極群4の比Mp/Vの平均値として求められる。
【0042】
本実施形態の鉛蓄電池1では、上記の比Mp/Vが1.13以上であるが、これは、電極群4(単セル)を構成する部分において、比較的多くの正極活物質12を充填することを意味する。後述する実験例で示されるとおり、比Mp/Vが例えば1.11以上であれば、正極活物質12を多く充填したとしても、エンジンを始動するために用いられる場合の鉛蓄電池の寿命は向上しない。これに対し、本発明者らは、自動車の駐車中に必要となる電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命及び車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命が、比Mp/Vに影響を受けること、及び、比Mp/Vが1.13以上であると当該寿命に優れた鉛蓄電池が得られることを見出した。
【0043】
上記の比Mp/Vは、例えば、1.13~1.80であってよい。比Mp/Vは、自動車の駐車中に必要となる電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命及び車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合の鉛蓄電池の寿命が更に優れる観点から、1.15以上、1.20以上、1.25以上、1.30以上、1.35以上、又は1.40以上であってもよい。上記の比Mp/Vは、1.70以下、1.60以下、又は1.50以下であってもよい。上記の比Mp/Vの値は、例えば、電極群4に含まれる正極8の枚数を多くすること、正極8に含まれる正極活物質12の密度又は厚み(電極群4の厚み方向の長さ)を大きくすること等により、大きくすることができる。
【0044】
電極群の体積Vは、電池サイズに応じて変更可能であるが、例えば、220~390cmであってよく、320~570cm又は370~670cmであってもよい。
【0045】
以上説明した鉛蓄電池1は、比Mp/Vが1.13以上であり、正極活物質12の全細孔容積が0.100g/ml以下であることから、自動車の駐車中の補機用電池の使われ方(例えば、ドアを自動で開閉する機能、カーナビ電源を自動で起動する機能等を動作させるために必要となる電力の供給)を想定した寿命試験において、上記構成を備えない鉛蓄電池(例えばエンジン始動用の鉛蓄電池)よりも優れた寿命性能を示す。そのため、上記鉛蓄電池は、自動車の駐車中に必要となる電力の供給(特に補機への電力の供給)に好適に用いられる。ここで、自動車の駐車中の補機用電池の使われ方を想定した寿命試験とは、25℃の温度環境下で、下記(I)を繰り返し行い、放電時の末期電圧が7.2Vとなるまでの総放電量Xで寿命性能を相対評価する寿命試験(以下、「寿命試験A」という。)である。
(I):下記条件(1)で放電を行った後、下記条件(2)で充電を行う。
条件(1):放電電流=25A、放電時間=240秒間
条件(2):充電電圧=14.8V、充電時間=600秒間
【0046】
また、上記鉛蓄電池は、無線通信によりデータの送受信を行う車載機器への電力供給を想定した寿命試験においても、上記構成を備えない鉛蓄電池(例えばエンジン始動用の鉛蓄電池)よりも優れた寿命性能を示す傾向がある。そのため、上記鉛蓄電池は、無線通信によりデータの送受信を行う車載機器への電力供給に好適に用いられる。ここで、無線通信によりデータの送受信を行う車載機器への電力供給を想定した寿命試験とは、25℃の温度環境下で、下記(II)を繰り返し行い、下記条件(3)での放電時の末期電圧が7.2Vとなるまでの総放電量Yで寿命性能を相対評価する寿命試験(以下、「寿命試験B」という。)である。
(II):上記条件(1)での放電と上記条件(2)での充電とをこの順でそれぞれ3回繰り返した後、下記条件(3)での放電と下記条件(4)での充電とをこの順で行う。
条件(3):放電電流=25A、放電時間=600秒間
条件(4):充電電圧=14.8V、充電時間=1500秒間
【0047】
上記鉛蓄電池1が使用される上記自動車としては、内燃機関を備えない自動車の他、内燃機関と、内燃機関を始動するための電力を供給する蓄電池と、駐車中に必要となる電力を供給する鉛蓄電池とを備える自動車等が挙げられる。このような自動車としては、例えば、ハイブリッド車、電気自動車等の電動自動車が挙げられる。すなわち、上記鉛蓄電池は、電動自動車(特にハイブリッド車及び電気自動車)の補機用電池として好適に用いられる。
【0048】
鉛蓄電池1の上記寿命試験A及びBにおける総放電量(総放電量X及びY)は、エンジン始動用の鉛蓄電池の寿命性能を評価するための寿命試験(以下、「寿命試験C」という。)における総放電量Zよりも高い傾向がある。例えば、寿命試験Cにおいて寿命に達するまでの総放電量Zに対する、寿命試験Aにおいて寿命に達するまで(放電時の末期電圧が7.2Vとなるまで)の総放電量Xの比(X/Z)は、1.3以上(例えば、1.3~4.1)となり得る。また、例えば、寿命試験Cにおいて寿命に達するまでの総放電量Zに対する、寿命試験Bにおいて寿命に達するまで(条件(3)での放電時の末期電圧が7.2Vとなるまで)の総放電量Yの比(Y/Z)は、1.2以上(例えば、1.2~3.7)となり得る。上記実施形態では、正極活物質の全細孔容積、多孔度及び密度等を調整することにより、X/Z及びY/Zをより大きな値(例えば2.0以上又は3.0以上)とすることもできる。ここで、寿命試験Cは、JIS D 5301:2019 10.5に準拠する寿命試験であり、40℃の温度環境下で、下記(III)を繰り返し行い、定格コールドクランキング電流での連続放電時の末期電圧が7.2Vとなるまでの総放電量Zで寿命性能を相対評価する寿命試験である。
(III):上記条件(1)での放電と上記条件(2)での充電とをこの順でそれぞれ480回繰り返した後、56時間放置してから、定格コールドクランキング電流(370A)で30秒間連続放電を行う。
【0049】
鉛蓄電池1は、例えば、電極(負極及び正極)を得る電極製造工程と、電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池1を得る組立工程とを備える製造方法により製造される。鉛蓄電池1の製造方法は、未化成の負極及び正極を化成する工程(化成工程)を備える。化成工程は、上記電極製造工程で実施されてよく、組立工程で実施されてもよい。以下、電極製造工程及び組立工程について説明する。
【0050】
電極製造工程は、負極製造工程と、正極製造工程と、を備える。
【0051】
負極製造工程では、例えば、負極集電体にペースト状の負極活物質(負極活物質ペースト)を保持させた後に、熟成及び乾燥することにより未化成の負極を得る。負極活物質ペーストは、例えば、鉛粉、添加剤及び硫酸(例えば希硫酸)を含んでいる。負極活物質ペーストは、例えば、鉛粉と添加剤とを混合することにより混合物を得た後に、この混合物に溶媒及び硫酸を加えて混練することにより得られる。負極活物質ペースト中の水分量は、例えば、5質量%以上、10質量%以上又は15質量%以上であってよく、30質量%以下、25質量%以下又は20質量%以下であってよい。
【0052】
正極製造工程では、例えば、正極集電体にペースト状の正極活物質(正極活物質ペースト)を保持させた後に、熟成及び乾燥することにより未化成の正極を得る。正極活物質ペーストは、例えば、鉛粉、添加剤及び硫酸(例えば希硫酸)を含んでいる。正極活物質ペーストは、例えば、鉛粉と添加剤とを混合することにより混合物を得た後に、この混合物に溶媒及び硫酸を加えて混練することにより得られる。正極活物質ペースト中の水分量は、例えば、5質量%以上、10質量%以上又は15質量%以上であってよく、30質量%以下、25質量%以下又は20質量%以下であってよい。
【0053】
組立工程では、例えば、得られた未化成の正極及び負極を、セパレータを介して積層し、同極性の電極の集電部をストラップで溶接させて未化成の電極群を得る。この電極群を電槽内の各セルに収容して、隣り合うセル室内の電極群の負極ストラップと正極ストラップとをセル室間を隔てている隔壁を貫通したセル間接続部により接続した後、蓋を電槽の上端に取り付けることで未化成の鉛蓄電池を作製する。次に、未化成の鉛蓄電池に希硫酸を入れて、直流電流を通電して電槽化成する。続いて、化成後の硫酸の比重(20℃)を適切な電解液の比重に調整することで、鉛蓄電池1が得られる。
【0054】
化成に用いる硫酸の比重(20℃)は、1.15~1.25であってよい。化成後の硫酸の比重(20℃)は、好ましくは1.25~1.33、より好ましくは1.26~1.30である。化成条件及び硫酸の比重は、電極のサイズに応じて調整することができる。化成処理は、組立工程において実施されてもよく、電極製造工程において実施されてもよい(タンク化成)。
【0055】
以上、一実施形態の鉛蓄電池及びその製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0056】
例えば、1つの電極群を構成する負極及び正極の数は特に限定されず、負極6つに対して正極5つであってもよく、負極7つに対して正極6つであってもよい。また、正極の数が負極の数と同じであってもよいし、正極の数が負極の数より多くてもよい。例えば、負極5つに対して正極5つであってもよく、負極6つに対して正極6つであってもよく、負極7つに対して正極7つであってもよく、負極8つに対して正極8つであってもよい。
【0057】
また、例えば、セパレータが織布又は多孔質膜である場合、負極と正極との間にはセパレータに加えて不織布が設けられていてよい。不織布は、負極とセパレータとの間に設けられていてよく、正極とセパレータとの間に設けられていてもよい。電極群が不織布を備える場合、上記寿命試験A及びBにおいてより良好な寿命性能が得られやすい。不織布は、シート状であっても袋状であってもよい。不織布がシート状である場合、不織布は、負極及び/又は正極の表面を覆うように(例えば、負極及び/又は正極に巻きつけられるように)設けられていてよい。不織布が袋状である場合、袋状の不織布内に負極又は正極が収容されてよい。
【0058】
不織布は、有機繊維で構成されていてもよいし、無機繊維で構成されていてもよい。不織布の構成材料として、無機繊維及びパルプを含む混合繊維を用いてもよく、有機繊維及び無機繊維を含む有機無機混合繊維を用いてもよい。有機繊維としては、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、ポリエチレンテレフタレート繊維などが挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維(チョップドストランド、ミルドファイバー等)などが挙げられる。不織布は、好ましくは、ガラス繊維を含む。ガラス繊維を含む不織布としては、例えば、ガラス繊維をフェルト状に加工することにより形成されるガラスマットが挙げられる。ガラスマットはガラス繊維のみからなっていてよく、ガラス繊維以外の他の材料(例えば上述の有機繊維等)を含んでいてもよい。不織布中のガラス繊維の含有量は、例えば、90質量%以上であってよい。
【0059】
不織布の厚さは、上記寿命試験A及びBにおいてより良好な寿命性能が得られやすい観点では、0.1mm以上、0.3mm以上又は0.4mm以上であってよく、内部抵抗の増加が抑制されより高い性能が得られやすくなる観点では、1.0mm以下、0.7mm以下又は0.5mm以下であってよい。これらの観点から、不織布の厚さは、例えば、0.1~1.0mm、0.3~0.5mm又は0.4~0.7mmであってよい。
【0060】
不織布の厚さとセパレータの厚さの合計は、上記寿命試験A及びBにおいてより良好な寿命性能が得られやすい観点では、0.5mm以上、0.8mm以上又は1.2mm以上であってよく、内部抵抗の増加が抑制されより高い性能が得られやすくなる観点では、2.0mm以下、1.7mm以下又は1.4mm以下であってよい。これらの観点から、不織布の厚さとセパレータの厚さの合計は、例えば、0.5~2.0mm、0.8~1.7mm又は1.2~1.4mmであってよい。なお、不織布の厚さとセパレータの厚さの合計は、電極間距離(負極と正極との間の距離)に等しくてよい。
【実施例0061】
以下、実験例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実験例に限定されるものではない。
【0062】
実験例で作製した評価用鉛蓄電池の比Mp/Vは、評価用鉛蓄電池を解体して電極群のセル体積V(単位:cm)及び電極群に含まれる正極活物質の質量Mp(単位:g)を求めることで算出した。比Mp/Vは、すべての電極群(6つの電極群)それぞれについて求めた比Mp/Vの平均値とした。なお、各電極群における正極活物質の質量Mpは、1つの電極群に含まれる正極活物質の総量(正極ごとに求めた1枚あたりの正極活物質量の総和)である。
【0063】
実験例で作製した評価用鉛蓄電池における、正極活物質の全細孔容積、多孔度及び密度は、以下の手順で測定した。まず、評価用鉛蓄電池を解体して正極板を取り出して水洗をした後、50℃で24時間乾燥した。次に、乾燥後の正極板の中央部から活物質の塊を3g採取した。この塊を、最大径が5mm程度の小片に砕き、この小片の合計3gを測定セルに入れた。そして、下記の条件に基づき、水銀ポロシメーターを用いて化成後の正極活物質の全細孔容積、多孔度及び密度を測定した。正極活物質の全細孔容積、多孔度及び密度は、それぞれ、6つの電極群の内、任意の3つの電極群を選択し、選択した電極群に含まれる任意の3枚の正極板それぞれについて求めた正極活物質の全細孔容積の平均値、多孔度の平均値及び密度の平均値とした。
・装置:オートポアIV9520(株式会社島津製作所製)
・水銀圧入圧:0~354kPa(低圧)、大気圧~414MPa(高圧)
・各測定圧力での圧力保持時間:900秒(低圧)、1200秒(高圧)
・試料と水銀との接触角:130°
・水銀の表面張力:480~490mN/m
・水銀の密度:13.5335g/mL
【0064】
<実験例1>
以下の手順で実験例1の評価用鉛蓄電池を作製した。なお、正極活物質ペーストを調製する際の硫酸投入量及び添加材(補強用短繊維)の配合量は、正極活物質の全細孔容積、多孔度及び密度が表1に示す値となるように調整した。また、負極板及び正極板の枚数はそれぞれ6枚とし、正極板及び負極板のサイズ(幅、高さ、厚さ)は、評価用鉛蓄電池における電極群の体積Vが395cmとなるように調整した。
【0065】
(未化成の負極板の作製)
Pb成分として鉛粉を用意した。Pb成分(鉛粉)100質量部に対して、ビスパーズP215(ビスフェノールとアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、商品名、日本製紙株式会社製)0.2質量部(樹脂固形分)、アクリル繊維0.1質量部、硫酸バリウム1.0質量部、及びファーネスブラック0.2質量部の混合物を添加し、乾式混合した。次に、この混合物に水を加えて混練した後、比重1.280の希硫酸を少量ずつ添加しながら更に混練して、負極活物質ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式負極集電体に、この負極活物質ペーストを充填した。次いで、負極活物質ペーストを温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した後、温度50℃で16時間乾燥して、未化成の負極板を得た。
【0066】
(未化成の正極板の作製)
Pb成分として鉛粉及び鉛丹(Pb)を用意した(鉛粉:鉛丹=96:4(質量比))。上記Pb成分と、Pb成分の全質量を基準として0.07質量%の補強用短繊維(アクリル繊維)と、水とを混合して混練した。続いて、希硫酸(比重1.280)を少量ずつ添加しながら混練して、正極活物質ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式正極集電体にこの正極活物質ペーストを充填した。次いで、正極活物質ペーストを温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した後、温度60℃で24時間以上乾燥して、未化成の正極板を得た。
【0067】
(評価用鉛蓄電池の組み立て)
袋状に加工したポリエチレン製のセパレータ(厚さ:0.75mm)に、未化成の負極板を挿入した。次に、未化成の正極板6枚と、袋状のセパレータに挿入された未化成の負極板6枚とを交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で、同極性の電極板の耳部同士を溶接して電極群を作製した。この電極群を6つ用意し、6つのセル室を有する電槽にそれぞれ挿入した。次いで電極群の負極ストラップと正極ストラップをセル間接続した後、蓋を電槽の上部に熱溶着することで、EN規格のLN1サイズに相当する12V電池を組み立てた。その後、希硫酸に硫酸ナトリウム水溶液を加えることで調製した電解液(ナトリウムイオン濃度:0.05mol/L)を上記電池の各セルに注入し、40℃の水槽に入れて1時間静置した。その後、17Aにて18時間の定電流で化成を行い、評価用鉛蓄電池を得た。この際、化成後の電解液(硫酸溶液)の比重を1.28(20℃)に調整した。
【0068】
<実験例2~14>
実験例1と同様にして評価用鉛蓄電池(12V電池)を作製した。ただし、実験例2、3、5~14では、正極活物質の全細孔容積、多孔度及び密度が表1に示す値となるように、正極活物質ペーストを調製する際の硫酸投入量及び添加材(補強用短繊維)の配合量を変更した。
【0069】
また、実験例2、6、8、10では、正極板及び負極板のサイズを変更し、電極群1つあたりの正極板及び負極板(及び袋状セパレータ)の枚数を変更することにより、電極群の体積Vが376cmとなるように調整し、JIS D 5301規定のB24サイズに相当するサイズの12V電池を組み立てた。
【0070】
また、実験例3、4、12、13では、正極板及び負極板のサイズを変更し、電極群1つあたりの正極板及び負極板(及び袋状セパレータ)の枚数を変更し、負極板と袋状のセパレータとの間に不織布(日本板硝子株式会社製、商品名:FM111、厚さ:0.3mm、繊維種:ガラス繊維)を挿入することにより、電極群の体積Vが376cmとなるように調整し、JIS D 5301規定のB24サイズに相当するサイズの12V電池を組み立てた。
【0071】
また、実験例5、7では、正極板及び負極板のサイズを変更し、電極群1つあたりの正極板及び負極板(及び袋状セパレータ)の枚数を変更し、正極板と袋状のセパレータとの間に不織布(日本板硝子株式会社製、商品名:SSG-MSL、厚さ:0.4mm、繊維種:ガラス繊維)を挿入することにより、電極群の体積Vが376cmとなるように調整し、JIS D 5301規定のB24サイズに相当するサイズの12V電池を組み立てた。
【0072】
また、実験例9では、正極板及び負極板のサイズを変更し、正極板と袋状のセパレータとの間に不織布(日本板硝子株式会社製、商品名:SSG-MSL、厚さ:0.4mm、繊維種:ガラス繊維)を挿入することにより、電極群の体積Vが395cmとなるように調整し、EN規格のLN1サイズに相当する12V電池を組み立てた。
【0073】
また、実験例11では、正極板及び負極板のサイズを変更し、電極群1つあたりの正極板及び負極板(及び袋状セパレータ)の枚数を変更することにより、電極群の体積Vが395cmとなるように調整し、EN規格のLN1サイズに相当する12V電池を組み立てた。
【0074】
また、実験例14では、正極板及び負極板のサイズを変更し、負極板と袋状のセパレータとの間に不織布(日本板硝子株式会社製、商品名:FM111、厚さ:0.3mm、繊維種:ガラス繊維)を挿入することにより、電極群の体積Vが395cmとなるように調整し、EN規格のLN1サイズに相当する12V電池を組み立てた。
【0075】
【表1】
【0076】
<評価>
(寿命試験A)
各実験例の評価用鉛蓄電池について、25℃の温度環境下で、下記(I)を繰り返し行い、放電時の末期電圧が7.2Vとなるまでの総放電量Xを比較することにより、寿命性能を評価した。評価は、実験例3の評価用鉛蓄電池の上記総放電量Xを100とする相対評価とした。結果を表2に示す。
(I):下記条件(1)で放電を行った後、下記条件(2)で充電を行う。
条件(1):放電電流=25A、放電時間=240秒間
条件(2):充電電圧=14.8V、充電時間=600秒間
【0077】
(寿命試験B)
各実験例の評価用鉛蓄電池について、25℃の温度環境下で、下記(II)を繰り返し行い、下記条件(3)での放電時の末期電圧が7.2Vとなるまでの総放電量Yを比較することにより、寿命性能を評価した。評価は、実験例3の評価用鉛蓄電池の上記総放電量Yを100とする相対評価とした。結果を表2に示す。
(II):上記条件(1)での放電と上記条件(2)での充電とをこの順でそれぞれ3回繰り返した後、下記条件(3)での放電と下記条件(4)での充電とをこの順で行う。
条件(3):放電電流=25A、放電時間=600秒間
条件(4):充電電圧=14.8V、充電時間=1500秒間
【0078】
(寿命試験C)
各実験例(ただし実験例14及び15は除く)の評価用鉛蓄電池について、40℃の温度環境下で、下記(III)を繰り返し行い、定格コールドクランキング電流での連続放電時の末期電圧が7.2Vとなるまでの総放電量Zを比較することにより、寿命性能を評価した。評価は、実験例3の評価用鉛蓄電池の上記総放電量Zを100とする相対評価とした。結果を表2に示す。
(III):上記条件(1)での放電と上記条件(2)での充電とをこの順でそれぞれ480回繰り返した後、56時間放置してから、定格コールドクランキング電流(370A)で30秒間連続放電を行う。
【0079】
(総放電量の比較)
上記寿命試験Aにおいて寿命に達するまでの総放電量Xと、上記寿命試験Bにおいて寿命に達するまでの総放電量Yと、上記寿命試験Cにおいて寿命に達するまでの総放電量Zとから、総放電量の比(X/Z)、及び、比(Y/Z)を求めた。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【符号の説明】
【0081】
1…鉛蓄電池、2…電槽、4…電極群、8…正極、9…負極、12…正極活物質、14…負極活物質、24…セル室。


図1
図2
図3