(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044873
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】スペーサ、シリンダブロックの冷却構造、成形型及び複合成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
F02F 1/14 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
F02F1/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150663
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA21
3G024CA05
3G024CA08
(57)【要約】
【課題】冷却水流路やスペーサの寸法ばらつきを吸収して冷却水流路内への組付け性を向上させて水流れ制御性能を向上させるとともに、輸送・保管時の容積を減少させることのできるスペーサを提供する。
【解決手段】内燃機関Aのシリンダブロック1にシリンダボア2を取り囲む状態で設けられた冷却水流路3内に配置され、冷却水の流れを規制するスペーサ10であって、前記冷却水流路の形状に沿うように形成されたスペーサ本体11と、前記スペーサ本体に一体成形された可撓性のシート体13とを備え、前記シート体は、前記スペーサ本体に固着されている固着部分14と、前記スペーサ本体に固着されていない非固着部分15とを有し、前記固着部分は、一方の面が前記スペーサ本体に固着されており、前記非固着部分は、その両面15a,15bが前記スペーサ本体に固着されていない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲む状態で設けられた冷却水流路内に配置され、冷却水の流れを規制するスペーサであって、
前記冷却水流路の形状に沿うように形成されたスペーサ本体と、
前記スペーサ本体に一体成形された可撓性のシート体とを備え、
前記シート体は、前記スペーサ本体に固着されている固着部分と、前記スペーサ本体に固着されていない非固着部分とを有し、
前記固着部分は、一方の面が前記スペーサ本体に固着されており、
前記非固着部分は、その両面が前記スペーサ本体に固着されていないことを特徴とするスペーサ。
【請求項2】
請求項1において、
前記非固着部分は、前記スペーサ本体の一端部から突出して延出していることを特徴とするスペーサ。
【請求項3】
請求項2において、
前記スペーサ本体は複数の分割体から構成され、
前記複数の分割体は、前記シート体で連結されており、前記非固着部分は前記複数の分割体の対向する一端部間に設けられていることを特徴とするスペーサ。
【請求項4】
請求項3において、
前記複数の分割体は、隣接するいずれか一方の分割体の前記一端部に近接して前記複数のシリンダボア同士の間に配置される凸形状部を構成し、
前記非固着部分は、前記凸形状部に重なり部分を有して折り曲げられていることを特徴とするスペーサ。
【請求項5】
請求項1において、
前記スペーサ本体は、厚さ方向に貫通して形成された窓部が設けられており、
前記シート体が前記窓部を覆った状態で、前記スペーサ本体に前記シート体の縁部が固着されており、
前記固着部分は、前記シート体の前記縁部であり、
前記非固着部分は、前記窓部を覆っている部分であることを特徴とするスペーサ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、
前記シート体は、所定の外的要因によって、圧縮状態から厚さ方向に膨大化する特性を有する多孔質体のシートであり、復元前の圧縮状態のものが用いられていることを特徴とするスペーサ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のスペーサが、前記冷却水流路内に該冷却水流路の流れ方向に沿って複数配置されたシリンダブロックの冷却構造であって、
複数の前記スペーサは、前記シート体の前記非固着部分が他方の前記スペーサの前記スペーサ本体または前記シート体の前記非固着部分に重なった状態で前記冷却水流路内に配置されていることを特徴とするシリンダブロックの冷却構造。
【請求項8】
請求項6に記載のスペーサが、前記冷却水流路内に該冷却水流路の流れ方向に沿って複数配置されたシリンダブロックの冷却構造であって、
複数の前記スペーサは、前記シート体の前記非固着部分が他方の前記スペーサの前記スペーサ本体または前記シート体の前記非固着部分に重なった状態で前記冷却水流路内に配置されていることを特徴とするシリンダブロックの冷却構造。
【請求項9】
樹脂からなる成形体と、該成形体に一体に成形され、前記成形体の端部から延出して前記成形体に固着されない非固着部分を有するシート体とを備える複合成形品をインサート成形する際に用いられる成形型であって、
溶融樹脂を射出する樹脂供給口を有し、該樹脂供給口から射出される前記溶融樹脂が充填されるキャビティが形成される第1型及び第2型を備え、
前記第1型及び第2型は、前記キャビティを形成する際に前記シート体の前記非固着部分となる部分の両面を挟み込む挟持部を有することを特徴とする成形型。
【請求項10】
請求項9に記載の成形型を用いて前記成形体と前記非固着部分を有する前記シート体とを備える複合成形品の製造方法であって、
前記挟持部に一部が重なるように前記シート体を配置するシート体配置工程と、
前記シート体の一部の両面を前記挟持部で挟み込んで前記キャビティを形成するキャビティ形成工程と、
前記キャビティ内に前記樹脂供給口から前記溶融樹脂を射出し、前記成形体を成形する成形工程とを備えることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲む状態で設けられた冷却水流路内に配置され、冷却水の流れを規制するスペーサ、シリンダブロックの冷却構造、成形型及び複合成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲む状態で設けられた冷却水流路内には、流通する冷却水の流量や流速等を規制するためのスペーサが冷却水流路の上部の開口から挿入されて配置される。
【0003】
シリンダブロック内の端に設けられたシリンダボアの略全周を囲む形状のスペーサ(100)を成形する場合、
図15(a)に示すよう複雑な形状の成形型(200)が用いられる。
図15(a)の成形型(200)は、スペーサ(100)の外周面(100a)の形状に沿って形成された第1型(201)及び第2型(202)と、スペーサ(100)の内周面(100b)の形状に沿って形成された第3型(203)及び第4型(204)とを有する。成形型(200)内に樹脂材料を充填させてスペーサ(100)を成形した後に型開きする際には、
図15(b)に示すように、まずスペーサ(100)の内周面(100b)に隣接している第4型(204)をスペーサ(100)から離すように移動させる。第4型(204)が移動することで第3型(203)が
図16に示すように移動可能となる。このとき、
図16に示すようにスペーサ(100)の外周面(100a)に隣接している第2型(202)をスペーサ(100)から離れるように移動させてもよい。これにより、成形型(200)からスペーサ(100)を離すことができるようになる。このように、シリンダブロック内の端に設けられたシリンダボアの略全周を囲む形状のスペーサ(100)を成形した後に離型させるには、多数の型開きの工程と、複雑な成形型が必要となる。また、
図15(b)に示すように、第4型(204)等を動かす範囲が広いため、広いスペースが必要となる。下記特許文献1,2では、複数の単純な形状のスペーサを用いることで、複雑な形状のスペーサを用いることなくシリンダボアの略全周を囲むことが可能となっている。
【0004】
特許文献1では、複数のシリンダボア壁(7)の形状に沿って形成されたウォータージャケット(10)内に配置され、ウォータージャケット(10)の流れ方向の略半分の大きさの形状に形成された第一容器(4)及び第二容器(5)をスプリング(6)によって連結された蓄熱装置(1)が開示されている。特許文献1では、スプリング(6)によって第一容器(4)及び第二容器(5)とシリンダボア壁(7)との間の間隔を調整可能となっており、シリンダボア壁(7)の略全周を囲むことが可能となっている。
【0005】
また、特許文献2では、冷却水流路内の任意の位置に取り付けることができるスペーサが開示されている。特許文献2では、板部の下端部に形成された切欠き部の内部でスポンジを折り曲げ、板部に形成された爪によってスポンジが固定されている。特許文献2の
図4に示すように、スペーサを複数用いることで、シリンダボアの略全周を囲むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4345754号公報
【特許文献2】特開2007-247590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スペーサが備えるスペーサ本体は樹脂材料等の剛性の高い材料で形成されているため、スペーサの保管や運搬の際にスペーサ本体を折り曲げることができずに嵩張ってしまう。また、シリンダブロックの冷却水流路やスペーサの加工時において製品寸法にばらつきが生じる場合がある。その場合、特許文献1のような複数のシリンダボアの形状に沿って剛性の高いスペーサ本体が冷却水流路内に配置された場合は、冷却水流路やスペーサの寸法ばらつきを吸収できないために適切な位置にスペーサを配置できないことがある。これにより、スペーサが冷却水の流量や流速等を規制できず、設計された冷却性能を十分に発揮できないおそれがある。
【0008】
特許文献2のようなスペーサを複数用いれば、冷却水流路やスペーサに寸法ばらつきが生じていても、間隔をあけて各スペーサを配置することによって寸法ばらつきを吸収できる可能性がある。しかしながら、流れ方向に沿って複数のスペーサを隙間なく連続して配置する場合、各シリンダボア部の冷却水流路の形状に沿った種々の形状のスペーサが必要となる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、冷却水流路やスペーサの寸法ばらつきを吸収して冷却水流路内への組付け性を向上させて水流れ制御性能を向上させるとともに、輸送・保管時の容積を減少させることのできるスペーサ、シリンダブロックの冷却構造、成形型及び複合成形品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のスペーサは、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲む状態で設けられた冷却水流路内に配置され、冷却水の流れを規制するスペーサであって、前記冷却水流路の形状に沿うように形成されたスペーサ本体と、前記スペーサ本体に一体成形された可撓性のシート体とを備え、前記シート体は、前記スペーサ本体に固着されている固着部分と、前記スペーサ本体に固着されていない非固着部分とを有し、前記固着部分は、一方の面が前記スペーサ本体に固着されており、前記非固着部分は、その両面が前記スペーサ本体に固着されていないことを特徴とする。
【0011】
上記スペーサにおいて、前記非固着部分は、前記スペーサ本体の一端部から突出して延出してもよい。
【0012】
また、上記スペーサにおいて、前記スペーサ本体は複数の分割体から構成され、前記複数の分割体は、前記シート体で連結されており、前記非固着部分は前記複数の分割体の対向する一端部間に設けられてもよい。
【0013】
また、上記スペーサにおいて、前記複数の分割体は、隣接するいずれか一方の分割体の前記一端部に近接して前記複数のシリンダボア同士の間に配置される凸形状部を構成し、前記非固着部分は、前記凸形状部に重なり部分を有して折り曲げられてもよい。
【0014】
また、上記スペーサにおいて、前記スペーサ本体は、厚さ方向に貫通して形成された窓部が設けられており、前記シート体が前記窓部を覆った状態で、前記スペーサ本体に前記シート体の縁部が固着されており、前記固着部分は、前記シート体の前記縁部であり、前記非固着部分は、前記窓部を覆っている部分であってもよい。
【0015】
また、上記スペーサにおいて、前記シート体は、所定の外的要因によって、圧縮状態から厚さ方向に膨大化する特性を有する多孔質体のシートであり、復元前の圧縮状態のものが用いられてもよい。
【0016】
また、上記目的を達成するために、本発明のシリンダブロックの冷却構造は、上記のスペーサが、前記冷却水流路内に該冷却水流路の流れ方向に沿って複数配置されたシリンダブロックの冷却構造であって、複数の前記スペーサは、前記シート体の前記非固着部分が他方の前記スペーサの前記スペーサ本体または前記シート体の前記非固着部分に重なった状態で前記冷却水流路内に配置されていることを特徴とする。
【0017】
また、上記目的を達成するために、本発明の成形型は、樹脂からなる成形体と、該成形体に一体に成形され、前記成形体の端部から延出して前記成形体に固着されない非固着部分を有するシート体とを備える複合成形品をインサート成形する際に用いられる成形型であって、溶融樹脂を射出する樹脂供給口を有し、該樹脂供給口から射出される前記溶融樹脂が充填されるキャビティが形成される第1型及び第2型を備え、前記第1型及び第2型は、前記キャビティを形成する際に前記シート体の前記非固着部分となる部分の両面を挟み込む挟持部を有することを特徴とする。
【0018】
また、上記目的を達成するために、本発明の複合成形品の製造方法は、上記成形型を用いて前記成形体と前記非固着部分を有する前記シート体とを備える複合成形品の製造方法であって、前記挟持部に一部が重なるように前記シート体を配置するシート体配置工程と、前記シート体の一部の両面を前記挟持部で挟み込んで前記キャビティを形成するキャビティ形成工程と、前記キャビティ内に前記樹脂供給口から前記溶融樹脂を射出し、前記成形体を成形する成形工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスペーサ、シリンダブロックの冷却構造、成形型及び複合成形品の製造方法は上述した構成とされるため、冷却水流路やスペーサの寸法ばらつきを吸収して冷却水流路内への組付け性を向上させて水流れ制御性能を向上させるとともに、輸送・保管時の容積を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路内に第1実施形態に係るスペーサを配置した状態を模式的に示す概略的横断平面図である。
【
図2】(a)(b)は、スペーサ本体間の位置調整を説明するための図であり、(a)はスペーサ本体の位置調整前、(b)はシート体が復元し、スペーサ本体が位置調整された状態を示す説明図である。また、(c)(d)は、
図1のX-X’線矢視断面図における縦断面図を模式的に示した図であり、(c)はシート体が圧縮した状態、(d)はシート体が復元した状態を示している。
【
図3】(a)は同スペーサ(複合成形品)をインサート成形する際に用いられる成形型を説明するための説明図、(b)は(a)の成形型による同スペーサの製造工程のうちのシート体配置工程を示す図である。
【
図4】成形型による同スペーサの成形工程を時系列に沿って示す説明図であり、(a)はキャビティ形成工程、(b)は成形工程を示す図である。
【
図5】成形型による同スペーサの成形工程を時系列に沿って示す説明図であり、(a)は型開き工程、(b)は離型工程を示す図である。
【
図6】(a)は第1実施形態のスペーサを保管した状態を模式的に示す説明図、(b)は従来のスペーサを保管した状態を模式的に示す説明図である。
【
図7】(a)は内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路内に第1実施形態の第1変形例に係るスペーサを配置した状態を模式的に示す概略的横断平面図、(b)は(a)のシート体が復元した状態を模式的に示す要部拡大図である。
【
図8】(a)~(c)は第1実施形態の第2変形例に係るスペーサを示す図である。(a)は同スペーサの模式縦断面図、(b)(c)は同スペーサを冷却水流路内に配置した状態を示す図であり、(b)はシート体が圧縮した状態、(c)はシート体が復元した状態を示す図である。また、(d)~(f)は、第1実施形態の第3変形例を示す図である。(d)は同スペーサの模式縦断面図、(e)(f)は同スペーサを冷却水流路内に配置した状態を示す図であり、(e)はシート体が圧縮した状態、(f)はシート体が復元した状態を示す図である。
【
図9】(a)は第1実施形態の変形例に係るスペーサの一部分の模式的横断面図、(b)は同スペーサを冷却水流路内に配置した状態を示す模式的横断面図である。
【
図10】(a)は第2実施形態に係るスペーサを模式的に示す概略的横断面図、(b)は内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路内に同スペーサが複数配置されたシリンダブロックの冷却構造の実施形態を模式的に示す概略的横断平面図である。
【
図11】シリンダブロックの冷却構造の変形例を模式的に示す概略的横断面図である。
【
図12】
図11のシート体が復元した状態を模式的に示す要部拡大図である。
【
図13】(a)は第3実施形態に係るスペーサの模式的説明図、(b)は(a)の断面を示す模式的斜視図、(c)は(b)のシート体が膨張した状態を示す模式的斜視図である。
【
図14】(a)(b)は、スペーサ以外の複合成形品の例を示す説明図である。
【
図15】(a)(b)は、従来のスペーサの製造方法を模式的に示す説明図である。
【
図16】従来のスペーサの製造方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態に係るスペーサについて説明する。なお、一部の図には他図に付している詳細な符号の一部を省略している。また、本明細書では、スペーサ10が冷却水流路3内に配置された状態を基準として、各部材の方向等を規定している。冷却水流路3における深さ方向において、開口部3e側を上側、その反対方向を下側として説明する。また、スペーサ10は、冷却水流路3における流れ方向において、第1気筒側を一方側、その反対方向を他方側として説明する。また、シート体13の固着部分14は、シリンダボア2側を向く側の面を一方面14a、その反対方向を他方面14bとして説明する。そして、シート体13の非固着部分15は、固着部分14の一方面14aと連なる面を一方面15a、固着部分14の他方面14bと連なる面を他方面15bとする。固着部分14の一方面14a及び非固着部分15の一方面15aを合わせた面が、シート体13全体の一方面13aとする。また、固着部分14の他方面14b及び非固着部分15の他方面15bを合わせた面が、シート体13全体の他方面13bとする。
【0022】
<第1実施形態>
本実施形態に係るスペーサ10は、内燃機関Aのシリンダブロック1にシリンダボア2を取り囲む状態で設けられた冷却水流路3内に配置され、冷却水の流れを規制する。スペーサ10は、冷却水流路3の形状に沿うように形成されたスペーサ本体11と、スペーサ本体11に一体成形された可撓性のシート体13とを備える。シート体13は、スペーサ本体11に固着されている固着部分14と、スペーサ本体11に固着されていない非固着部分15とを有する。固着部分14は、一方の面がスペーサ本体11に固着されており、非固着部分15は、その両面15a,15bがスペーサ本体11に固着されていない。以下、詳しく説明する。
【0023】
<内燃機関>
図1を参照しながら、第1実施形態に係るスペーサ10について説明する。
図1に示すように、内燃機関Aはシリンダブロック1を含んで構成される。内燃機関Aに組付けられるスペーサ10は、シリンダブロック1の冷却水流路(ウォータジャケット)3内に配置される。シリンダブロック1の上面にはシリンダヘッド30が、シリンダブロック1の下面にはオイルパン(不図示)がそれぞれ配され、シリンダヘッド30は、冷却水流路3の開口部3eが閉塞されるようにシリンダブロック1に一体に締結される。シリンダブロック1は、複数の気筒を有する内燃機関Aを構成するものであり、複数のシリンダボア(気筒)2が隣接した状態で直列に連なるように設けられている。以下では、複数のシリンダボア(気筒)2…のうち、
図1における下方側から順にシリンダボア2の1気筒目、2気筒目、3気筒目として説明する。シリンダブロック1の適所には、シリンダヘッド30とヘッドガスケットを介して締結させるためのボルト用挿通孔1aが複数設けられている。複数のシリンダボア2の周囲には、オープンデッキタイプの溝状の冷却水流路3が一連に形成されている。またシリンダブロック1の適所には、この冷却水流路3に通じる冷却水導入口3gと冷却水排出口3hとが設けられている。冷却水排出口3hは、不図示のラジエータに配管接続され、ラジエータのアウトレット側は、ウォータポンプ(不図示)を介して冷却水導入口3gに配管接続される。これにより、冷却水流路3とラジエータとの間で冷却水(不凍液も含む)が循環するように構成される。
【0024】
シリンダボア2と冷却水流路3との間には、シリンダボア壁20が形成され、冷却水流路3を挟んで向かい合う両壁面は、シリンダボア2側の内側壁3cと、シリンダボア2とは反対側の外側壁3dとにより構成される。冷却水流路3は、シリンダボア壁20を効率よく冷却できるように形成されている。冷却水流路3は、シリンダボア壁20を介してシリンダボア2を取り囲むよう形成された複数の円弧状部3aと、隣接するシリンダボア2,2間部分に互いに接近して対をなすよう形成された複数のくびれ形状部3bとを有している。くびれ形状部3bの溝幅は、冷却水流路3の他の円弧状部3aの溝幅より大きく形成されている。
【0025】
<スペーサ>
図1に示すように、スペーサ10は、冷却水流路3内に配置される。スペーサ10は、樹脂材料からなるスペーサ本体11と、スペーサ本体11に固着された多孔質体からなるシート体13とを備える。スペーサ10は、冷却水流路3の開口部3eから挿入して冷却水流路3内に組付けられて、冷却水の流れを規制する。
【0026】
スペーサ本体11は、樹脂材料からなり、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の種々の合成樹脂からなる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ABS、アクリル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。また、樹脂材料としては、種々の添加剤が添加されたものでもよく、また、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む樹脂複合材でもよい。
【0027】
スペーサ本体11は、複数の分割体12から構成される。本実施形態では、各分割体12は、各シリンダボア2の略半周を囲む平面視において円弧状に形成されている。本実施形態では、3気筒のシリンダボア2に対応するため、
図1の紙面上における第1気筒、第2気筒、第3気筒の左側の冷却水流路3内に、それぞれ第1分割体12A、第2分割体12B、第3分割体12Cが配置される。さらに本実施形態では、
図1の紙面上において、第3気筒の右側の冷却水流路3内に第4分割体12Dが配置される。スペーサ10は、第1分割体12A、第2分割体12Bによって、シリンダボア壁20を介して第1気筒、第2気筒のシリンダボア2の略半周を囲むように配置される。また、スペーサ10は、第3分割体12C及び第4分割体12Dによって、シリンダボア壁20を介して第3気筒のシリンダボア2の略全周を囲むように配置される。
【0028】
分割体12は、冷却水流路3におけるシリンダボア2とは反対側の外側壁3dと対向する反シリンダボア側の面12bが、シート体13の復元時に冷却水流路3の外側壁3dと接触する。そのため、分割体12の反シリンダボア側の面12bは、冷却水流路3の外側壁3dの形状に沿うように形成されている。そして、複数の分割体12における冷却水流路3の内側壁3cと対向するシリンダボア側の面12aには、可撓性のシート体13が固着されている。
【0029】
シート体13は1枚の長方形状の多孔質体のシートからなり、可撓性を有している。また、シート体13は、その上下寸法は分割体12の上下寸法よりも小さく形成されている(
図2(c)参照)。シート体13は、第1気筒側に配される第1分割体12Aから第2気筒側に配される第2分割体12B、第3気筒側に配される第3分割体12C及び第4分割体12Dにかけて固着されている。つまり第1分割体12A、第2分割体12B、第3分割体12C、第4分割体12Dは、1枚のシート体13によって連結されている。そして、各分割体12は、隣接する他の分割体12とは離隔した状態でシート体13によって連結されている。また、シート体13の長手方向の一方側の端部13eは第1分割体12Aに固着され、シート体13の長手方向の他方側の端部13fは第4分割体12Dに固着されている。
【0030】
シート体13は、スペーサ本体11に固着されている固着部分14と、スペーサ本体11に固着されていない非固着部分15とを有する。固着部分14は、他方面14b、上端部14c、下端部14dが各分割体12のシリンダボア側の面12aに設けられた凹部12aa内に固着され、一方面14aがシリンダボア側の面12aと略面一になっている(
図2(c)参照)。非固着部分15は、その両面15a,15bが各分割体12に固着されていないため屈曲性を有し、フレキシブルに折り曲げることができる。非固着部分15は、各分割体12の流れ方向の端部から突出して延出しており、隣接する分割体12,12同士の対向する流れ方向の端部間に設けられている。本実施形態では、第1分割体12A、第2分割体12B、第3分割体12C間では、それぞれ隣接する分割体12と対向する流れ方向の他方側の端部12f及び流れ方向の一方側の端部12e間に非固着部分15が設けられている。さらに本実施形態では、第3分割体12Cの流れ方向の他方側の端部12fと第4分割体12Dの流れ方向の他方側の端部12fとの間に非固着部分15が設けられている。
【0031】
シート体13は、所定の外的要因が付加されたことを契機として、圧縮された状態から厚み方向に膨大化する特性を有する多孔質体からなり、本実施形態では、セルロース系スポンジからなるものを用いている。セルロース系スポンジは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維(例えば、綿等)とからなる天然素材からなり、連続気泡型で優れた吸水性を有する。ここでセルロースは、親水基(OH)を有しており、化学的に水分になじみ易い性質であることが知られている。よって、セルロース系スポンジは、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有する。そのため、セルロース系スポンジは、スペーサ10に用いられるシート体13として、好適である。シート体13は、冷却水流路3内に配置される前は圧縮した状態である。
図2(a)(c)のシート体13は、冷却水流路3内に配置後の冷却水に接触する前の圧縮した状態を示し、
図1及び
図2(b)(d)のシート体13は、冷却水に接触して膨大化した状態を示している。
【0032】
シート体13は、スペーサ本体11に固着されている固着部分14と、スペーサ本体11に固着されていない非固着部分15とを有する。非固着部分15はスペーサ本体11に固定されておらず、非固着部分15が分割体12の端部から突出して延出する構成である。そのため、スペーサ10を冷却水流路3内に挿入する際には、屈曲性を有する非固着部分15をスペーサ10が挿入しやすいように曲げることができるので挿入性が向上する。また、非固着部分15を曲げることで冷却水流路3の形状に沿って分割体12同士の位置関係を調整することができるので、スペーサ本体11の位置調整や配置をしやすくなる。また、冷却水流路3やスペーサ本体11に寸法ばらつきがあっても、非固着部分15を曲げたりすることで、複数の分割体12の位置を調整し寸法ばらつきを吸収してスペーサ本体11を冷却水流路3内に配置することができ、組付け性が向上する。さらにシート体13は冷却水に接触して膨大化する特性を有する。そのため、例えば
図2(a)に示すように、第2分割体12Bはくびれ形状部3b側に寄っており冷却水流路3の外側壁3dに沿って配置されていないが、
図2(b)に示すようにシート体13が膨大化し、その反力で第2分割体12Bは冷却水流路3の外側壁3d側に移動する。そして第2分割体12Bが冷却水流路3の壁面に沿った適切な位置に移動しやすくなる。このように、挿入時には各分割体12の位置がずれていても、シート体13が膨大化することで分割体12が適切な位置に収まる。
【0033】
そして、上述のようにして構成されたスペーサ10は、冷却水流路3内に配置される際には、シート体13は膨大化前の薄い圧縮した状態である。そのため、冷却水流路3の内側壁3c、外側壁3dへの接触を抑制してスムーズに冷却水流路3内にスペーサ10を配置しやすくなる(
図2(a)(c)参照)。そして、シート体13は、冷却水に接触すると水を含んで膨らみ、厚さ方向の厚みが増して膨大化する特性を有する。そのため、冷却水流路3に冷却水が供給されれば、シート体13は膨大化して冷却水流路3の内側壁3cに接触してその反力でスペーサ本体11を冷却水流路3の外側壁3dに押圧して、冷却水の流れを規制することができる(
図1、
図2(b)(d)参照)。また、非固着部分15はスペーサ本体11に固定されていない構成になっているため、非固着部分15はスペーサ本体11に干渉されずに復元され、冷却水流路3を流れる冷却水に対する規制効果が高まり、水流れ制御性能が向上する。本実施形態では、シート体13の膨大化時に、冷却水流路3の内側壁3cに対向するシート体13の一方面13aは冷却水流路3の内側壁3cに接触する。一方、冷却水流路3の外側壁3dに対向する非固着部分15の他方面15bは、冷却水流路3の外側壁3dに接触しない構成になっている。
【0034】
また、スペーサ本体11は複数の分割体12で構成され、複数の分割体12はシート体13で連結されているので、スペーサ10の保管、運搬の際に嵩を減らすことができる。
【0035】
<成形型>
次に、
図3(a)を参照しながら、複合成形品を製造するための成形型について説明する。
本実施形態の成形型4は、複合成形品をインサート成形する際に用いられるものである。複合成形品は、樹脂からなる成形体と、成形体に一体に成形され、成形体の端部から延出して成形体に固着されない非固着部分15を有するシート体13とを備える。成形型4は、溶融樹脂rを射出する樹脂供給口51を有し、樹脂供給口51から射出される溶融樹脂rが充填されるキャビティSが形成される第1型5及び第2型6を備える。第1型5及び第2型6は、キャビティSを形成する際にシート体13の非固着部分15となる部分の両面15a,15bを挟み込む挟持部52,62を有する。
以下、詳しく説明する。なお、本実施形態の成形型4は、
図1等に示す第1実施形態のスペーサ10の製造に用いられるものであり、本実施形態の成形型4によって製造される複合成形品は、
図1等に示す第1実施形態のスペーサ10と同一である。よって、以下の説明では、上述した複合成形品をスペーサ10、成形体をスペーサ本体11として説明する。
【0036】
図3(a)に示すように、成形型4は、第1型5及び第2型6を備える。本実施形態の成形型4によって製造される複合成形品は、上述したように
図1等に示す第1実施形態のスペーサ10と同一であり、成形体は4つの分割体12によって構成されるスペーサ本体11である。スペーサ10は、複数の分割体12同士が互いに間隔をあけて1枚のシート体13に固着されて連結される。
【0037】
第1型5は、4つの第1キャビティ面5aが形成されている。各第1キャビティ面5aは、対応する分割体12の
図1における反シリンダボア側の面12bに沿った形状に形成されている。隣接する第1キャビティ面5a,5a間には、挟持部52が形成されている。本実施形態の第1型5には、3つの挟持部52が形成されている。そして、各第1キャビティ面5aには、それぞれ樹脂供給口51が開口して設けられている。
【0038】
第2型6は、第1型5に対して接近及び離隔する方向に移動可能に構成されており、シート体13が載置される載置面61が形成されている。載置面61には、複合成形品の製造時に第1キャビティ面5aと対向する部分に、第2キャビティ面6aが形成されている。各第2キャビティ面6aは、対応する分割体12のシリンダボア側の面12aに沿った形状に形成されている。また、複合成形品の製造時に第1型5の挟持部52と対向する部分が、第2型6の挟持部62となる。本実施形態の第2型6は、第1型5と同様に、隣接する第2キャビティ面6a,6a間に挟持部62が形成されており、第1型5の3つの挟持部52に対応した3つの挟持部62を備えている。
【0039】
成形型4によって成形される複合成形品であるスペーサ10は、成形体であるスペーサ本体11を構成する複数の分割体12がそれぞれの流れ方向の端部が離隔した状態でシート体13によって連結されている。スペーサ10の非固着部分15は屈曲性があるため、スペーサ10は、冷却水流路3内に配置される形状で製造される必要がない。そのため、成形型4は、複合成形品であるスペーサ10が展開した状態(
図5(b)に示すように複数の分割体12が一方向に並んだ状態)で成形する構造となっている。成形型4は、複数のキャビティSが一方向に並んで形成される構造となっており、キャビティSの一方の面である第1キャビティ面5aを備える第1型5及びキャビティSの他方の面である第2キャビティ面6aを備える第2型6の2つの型によって構成されている。
図15、
図16に示す成形型(200)では、シリンダボアの略全周を囲むスペーサ(100)を製造するために3以上の型による複雑な構造となっている。一方、本実施形態の成形型4は、第1型5及び第2型6の2つの型によって、シリンダボア2の略全周を囲む部位(
図1における第3分割体12C及び第4分割体12D)を成形可能である。また、成形型4は、第2型6が第1型5に対して離隔する方向に移動するだけで型開け工程が行える構造にすることができる。そのため、成形型4は、
図15、
図16に示す成形型(200)のように複数の動作によって型開けする必要がなく、また、動かす範囲が小さいため成形型4を載せる成形機の大きさも抑えることができる。
【0040】
第1型5及び第2型6は、シート体13の非固着部分15となる部分15’の両面を挟み込む挟持部52,62を有する。そのため、成形型4は、シート体13の非固着部分15を有するスペーサ10を製造する際に、挟持部52,62で挟み込まれた部分に溶融樹脂rが回り込まなくなる。また、シート体13を挟持部52,62で挟み込むので、溶融樹脂rの樹脂流れによってシート体13の位置がずれにくくなる。よって、成形型4は、成形性のよいものとなる。また挟持部52,62によってシート体13が位置決めされれば、成形型4にシート体13の位置決め凹部に係合(嵌合)する位置決め突部、シート体13に位置決め突部と係合する位置決め凹部を設けなくてもよい。よって、成形型4の構造を簡素化することができる。
【0041】
<複合成形品の製造方法>
次に、複合成形品であるスペーサ10を上述した
図3(a)の成形型4を用いて製造する方法について、
図3(b)~
図5(b)を参照しながら説明する。
本実施形態の複合成形品の製造方法は、上述した成形型4を用いて成形体と非固着部分15を有するシート体13とを備える複合成形品を製造する際に用いられる。本実施形態の複合成形品の製造方法は、シート体配置工程と、キャビティ形成工程と、成形工程とを備える。シート体配置工程では、挟持部52,62に一部が重なるようにシート体13を配置する。キャビティ形成工程では、シート体13の一部の両面15a,15bを挟持部52,62で挟み込んでキャビティSを形成する。成形工程では、キャビティS内に樹脂供給口51から溶融樹脂rを射出し、成形体を成形する。
以下、詳しく説明する。なお、本実施形態の複合成形品の製造方法では、第1実施形態のスペーサ10の製造に用いる成形型4が用いられる。そのため、以下の説明では、上述した複合成形品をスペーサ10、成形体をスペーサ本体11(複数の分割体12)として説明する。
【0042】
成形型4は、上述した第1型5と、第1型5の第1キャビティ面5aに対向して配置され、第1型5に接近又は離隔する方向に移動可能な第2型6とを備えている。本実施形態において、成形型4によって複合成形品を製造する際には、(1)シート体配置工程、(2)キャビティ形成工程、(3)成形工程(射出工程及び固化工程)、(4)型開き工程、(5)離型工程の順に各工程が行われる。
【0043】
まず、
図3(b)に示すように、第2型6の載置面61に沿ってシート体13を配置する(シート体配置工程)。シート体配置工程では、シート体13の一方面13aが載置面61に当接するとともに、スペーサ10における非固着部分15となる部分15’が挟持部62に重なるようにシート体13を配置する。
【0044】
図3(b)に示すシート体配置工程が行われた後には、
図4(a)に示すキャビティ形成工程が行われる。キャビティ形成工程では、第2型6が第1型5に接近して型閉めされることにより、溶融樹脂rが充填される空間であるキャビティSが形成される。本実施形態では、4つのキャビティSが形成される。また、第2型6に載置されたシート体13が挟持部52,62に挟持されることで、隣接するキャビティS,S間同士を接続する空間S1が塞がれて、成形工程(射出工程)の際に溶融樹脂rがキャビティS,S間の空間S1を通過することが抑制される。
【0045】
図4(a)に示すキャビティ形成工程が行われた後には、
図4(b)に示す成形工程が行われる。成形工程では、キャビティS内に樹脂供給口51から溶融樹脂rを射出する射出工程と、固化工程とを行って成形体(スペーサ本体11)を成形する。
【0046】
射出工程では、シート体13に向けて樹脂供給口51から溶融樹脂rを射出する。キャビティS内に射出される溶融樹脂rは、スペーサ本体11を構成する樹脂材料が溶融した状態のものである。シート体13は、非固着部分15になる部分15’が挟持部52,62によって挟持されている。そのため、溶融樹脂rの射出圧によってシート体13の端部の浮き上がりやシート体13の位置ずれ、シート体13の一方面13a側に溶融樹脂rの回り込みを抑制することができる。さらに、挟持部52,62によって、非固着部分15となる部分15’の両面及びその端面に樹脂供給口51から射出された溶融樹脂rが回り込まない構成になっている。また、成形型4は挟持部52,62によって各キャビティSが区画されている。そのため、キャビティS,S間の空間S1を溶融樹脂rが通過することなく、隣接するキャビティSに溶融樹脂rが至らない構成になっている。
【0047】
射出工程によるキャビティSに溶融樹脂rが充填された後、保圧状態で冷却し溶融樹脂rを固化させる固化工程を行う。固化工程によって溶融樹脂rが固化することによって、シート体13の他方面13bに固着されたスペーサ本体11が成形される。さらに、シート体13では、スペーサ本体11に固着された固着部分14と、その両面15a,15bがスペーサ本体11に固着されていない非固着部分15とが構成される。射出工程、固化工程が完了すれば成形工程は完了する。
【0048】
図4(b)に示す成形工程が行われた後には、
図5(a)に示すように型開きを行う(型開き工程)。そして、
図5(b)に示すようにスペーサ本体11を成形型4から離型して(離型工程)、樹脂供給口51内で固化した部分をカット(ゲートカット)すれば、複合成形品であるスペーサ10を得ることができる。
【0049】
図3(b)~
図5(b)に示すように、本実施形態の複合成形品の製造方法では、成形型4を用いて複合成形品を製造することができるので、冷却水流路3内にスペーサ10を配置した状態に対して第3気筒の他方側の端部となる非固着部分15が曲がった状態となり、成形型4の構造や第2型6の載置面61へのシート体13の配置等が簡素化され生産性が向上する。また、
図3(a)に示す成形型4を用いて製造された複合成形品であるスペーサ10は、非固着部分15が屈曲性を有するのでフレキシブルに曲がり、各分割体12同士の位置関係を調整することができる。そのため、輸送・保管の際には、非固着部分15を曲げることで、スペーサ10の嵩を減らすことが可能となり、輸送・保管時の容積を減少させることができる。
図6(a)に示すような一定の大きさの収容空間Yに複数のスペーサ10を収容する際には、非固着部分15を曲げて各スペーサ10の嵩を減らした状態で収容することができる。
【0050】
一方、
図15、
図16に示す成形型(200)によって製造された従来のスペーサ(100)は、スペーサ(100)全体が剛性を有している。そのため、
図6(b)に示すような一定の大きさの収容空間Y内に収容する際には、従来のスペーサ(100)では曲げて嵩を減らすことができないので、本実施形態のスペーサ10と比べて収容空間Y内に収容できる個数が減少する。
【0051】
<スペーサの変形例>
次に
図7~
図9を参照しながら、第1実施形態の各変形例について説明する。なお、上述した第1実施形態と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
【0052】
図7(a)に示す第1実施形態の第1変形例のスペーサ10では、スペーサ本体11は、3つの分割体12によって構成されており、第1気筒から第3気筒の各シリンダボア2の略半周を囲む構成となっている。シート体13は第1実施形態と同様に冷却水と接触することによって膨大化する特性を有しており、
図7(a)では、シート体13が膨大化する前の圧縮した状態を示している。本変形例におけるスペーサ10では、複数の分割体12は、流れ方向の一方側の端部12eが隣接するいずれか一方の分割体12の流れ方向の他方側の端部12fに近接して複数のシリンダボア2同士の間のくびれ形状部3bに配置される凸形状部121を構成する。そして、シート体13の非固着部分15は、凸形状部121に重なり部分151を有して折り曲げられている。重なり部分151は、凸形状部121とスペーサ本体11の厚さ方向において重なるように、平面視において略D字状に折り曲げて構成されている。
【0053】
シート体13の非固着部分15を折り曲げて構成された重なり部分151は、スペーサ本体11と厚さ方向に重なった部分を有する。重なり部分151は、冷却水流路3内において溝幅が円弧状部3aよりも大きくなっているくびれ形状部3bに配置されることで、シリンダボア2,2間の隙間が埋まりやすくなる。
図7(b)では
図7(a)の重なり部分151が復元して膨大化した状態を示す要部拡大図である。
図7(b)に示すように本変形例では、シート体13が膨大化することによって、重なり部分151がより冷却水流路3のくびれ形状部3bに隣接する部分の内側壁3cに接触しやすくなり、冷却水の流れを規制してシリンダボア2の過冷却を抑制することができる。
【0054】
次に説明する
図8(a)~(c)に示す第2変形例のスペーサ10では、分割体12のシリンダボア2側の面12aに形成された凹部12aaが下方に開放されて形成されている。さらに、本変形例では、シート体13の下端部13dが分割体12の下端部12dから突出して下方に延出する構成となっている。分割体12の下端部12dから下方に突出して延出している部分が、シート体13の非固着部分15となる。この非固着部分15は、自由端15gを有する構成となり、フレキシブルに折り曲げることができる。
図8(a)(b)に示すように、このスペーサ10を冷却水流路3内に配置する際には、分割体12の下端部12dに非固着部分15の他方面15bが当接するように折り曲げることができる。これにより、冷却水流路3内に冷却水が流れた際には、非固着部分が膨大化して冷却水流路3の底面3fに接触するので、スペーサ10と冷却水流路3との間の上下寸法の隙間が小さくなり冷却水流れの規制効果が大きくなる。また、非固着部分15は冷却水に接触してから上下方向に膨大化するので、冷却水が流れる前のシリンダヘッド30の組付け時にはスペーサ10の上端部がシリンダヘッド30に接触して干渉するようなことはなく、組付け性の良いスペーサ10となる。そのため、スペーサ10は、シート体13が冷却水に接触した際には、分割体12の上端部12cが冷却水流路3の開口部3eに近傍する構成にすることもできる。また、自由端15gを有する非固着部分15は、スペーサ本体11に重なるように折り曲げられることで、スペーサ10の水流れ制御の性能が向上する。
【0055】
次に説明する
図8(d)~(f)に示す第3変形例のスペーサ10は、第2変形例と同様に、分割体12のシリンダボア2側の面12aに形成された凹部12aaが下方に開放されて形成されている。また、シート体13の下端部13dが分割体12の下端部12dから突出して下方に延出している構成、分割体12の下端部12dから突出して下方に延出している部分が、自由端15gを有する非固着部分15となる構成も第2変形例と同様である。
図8(d)に示すように、本変形例では、非固着部分15が第2変形例のスペーサ10の非固着部分15の上下寸法よりも大きい上下寸法を有している。非固着部分15は、他方面15bが分割体12の下端部12d及び分割体12の反シリンダボア側の面12bに当接するように折り曲げることができる上下寸法を有している。
【0056】
図8(e)に示すように、スペーサ10は、非固着部分15が分割体12の反シリンダボア側の面12bの少なくとも一部を覆うように折り曲げられてから冷却水流路3内に配置される。本変形例では、非固着部分15は、自由端15gが分割体12の厚さ方向においてシート体13の上端部13c(固着部分14の上端部14c)と重なる位置まで反シリンダボア側の面12bを覆うように折り曲げられている。この状態でシート体13が冷却水に接触すると、
図8(f)に示すようにシート体13が膨大化して、固着部分14の一方面14aが冷却水流路3の内側壁3cに接触し、非固着部分15の一方面15aが冷却水流路3の底面3f及び外側壁3dに接触する。冷却水流路3の内側壁3c、外側壁3d、底面3fにシート体13が接触するので、冷却水流路3に寸法ばらつきがあっても、膨大化したシート体13が冷却水流路3の寸法ばらつきを吸収して冷却水流路3との隙間を埋めて冷却水の流れを規制することができる。
【0057】
次に説明する
図9(a)(b)に示す第4変形例のスペーサ10は、第1実施形態のスペーサ10と比べて、第3気筒に対応して配置される第3分割体12Cの流れ方向の他方側の端部12fから突出して延出される非固着部分15の構成が異なっている。さらに、本変形例のスペーサ10は、第1実施形態のスペーサ10における第4分割体12Dを有さない構成になっている。本変形例のスペーサ10では、第3分割体12Cの流れ方向の他方側の端部12fから突出して延出された非固着部分15がシート体13の長手方向の他方側の端部13fを含んでいる。シート体13の長手方向の他方側の端部13fが、非固着部分15の自由端15gとなる。自由端15gを有する非固着部分15を折り曲げることで、他方面15bが第3分割体12Cの流れ方向の他方側の端部12fに当接した状態とすることができる。そのため、
図9(a)に示すように、本変形例のスペーサ10を冷却水流路3に配置する前に、第3分割体12Cの長手方向の他方側の端部12fにシート体13の長手方向の他方側の端部13fが重なるように非固着部分15を折り曲げ、冷却水流路3にスペーサ10を挿入することができる。この非固着部分15は、冷却水に接触すると後述するスペーサ10’に接触するように膨大化する。
【0058】
図9(b)に示すように、第4変形例のスペーサ10を冷却水流路3内に配置する際には、このスペーサ10とともに別体のスペーサ10’が配置されてもよい。スペーサ10’は、スペーサ10の第3分割体12Cの流れ方向の他方側の端部12fと流れ方向に離隔するとともに、第3気筒のシリンダボア2を介して第3分割体12Cと対向した位置に配置されている。スペーサ10’は、スペーサ本体11が第1実施形態とは異なり複数の分割体12を備えない構成となっている。スペーサ10の第3分割体12C及びスペーサ10’によって、第3気筒のシリンダボア2の略全周が囲まれる構成になっている。このスペーサ10’は、
図8(a)~(c)に示す第2変形例のスペーサ10と同様に、スペーサ本体11の下端部から下方に突出して延出して非固着部分(不図示)が設けられてもよく、その非固着部分がスペーサ本体11の下端部と上下方向に重なるように折り曲げられてもよい。このように、一つの冷却水流路3に複数のスペーサ10、10’が設けられてもよい。スペーサ10の第3分割体12Cの流れ方向の他方側の端部12fに設けられた非固着部分15が膨大化して隣接するスペーサ10’に接触することで、複数のスペーサ10,10’間で流れ方向の隙間が埋まりやすくなり、冷却水の流れを規制することができる。
【0059】
<第2実施形態に係るスペーサ>
次に、
図10(a)を参照しながら第2実施形態に係るスペーサ10Aについて説明する。なお、第1実施形態のスペーサ10と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
【0060】
図10(a)に示すように、スペーサ10Aは、スペーサ本体11とスペーサ本体11に固着されたシート体13とを備えている。このスペーサ本体11は、第1実施形態のスペーサ10とは異なり、複数の分割体12を備えない構成になっている。本実施形態のスペーサ本体11は、平面視において円弧状に形成されて、シリンダボア2の略半周を囲む形状となっている。ようするに、本実施形態では、
図1等の実施形態における1つの分割体12のみでスペーサ本体11が構成されている。
【0061】
シート体13は、スペーサ本体11に他方面13bが固着している固着部分14と、長手方向の両端部13e,13fがスペーサ本体11の流れ方向の両端部11e,11fからそれぞれ流れ方向に突出して延出している非固着部分15,15とを有する。非固着部分15,15は、長手方向の両端部13e,13fが自由端15g,15gとなる。
【0062】
本実施形態のスペーサ10Aは、円弧状のスペーサ本体11と、スペーサ本体11の流れ方向の両端部11e,11fから突出して延出した非固着部分15,15を備えるシート体13とを有する。そのため、スペーサ10Aは、冷却水流路3において冷却水の流れを規制したい所望の位置に配置することができる。その際に、非固着部分15を曲げて冷却水流路3内に挿入することができるので挿入性が向上する。そして、シート体13が冷却水に接触して膨大化すると、シート体13の一方面13aが冷却水流路3のシリンダボア側の内側壁3cに接触し、スペーサ本体11の反シリンダボア側の面11bが冷却水流路3の外側壁3dに接触する。また、次に説明するシリンダブロック1の冷却構造16のように、冷却水流路3内に複数のスペーサ10Aを配置することもできる。
【0063】
<シリンダブロックの冷却構造>
次に、
図10(b)を参照しながら、第2実施形態のスペーサ10Aを備えるシリンダブロック1の冷却構造16について説明する。
図10(b)に示すシリンダブロック1の冷却構造16は、第2実施形態のスペーサ10Aが、冷却水流路3内に冷却水流路3の流れ方向に沿って複数配置されている。複数のスペーサ10Aは、シート体13の非固着部分15が他方のスペーサ10Aのシート体13の非固着部分15に重なった状態で冷却水流路内に配置されている。
以下、詳しく説明する。なお、シリンダブロック1は、
図1のものと略同じ構成であり、その説明は省略する。
【0064】
本実施形態におけるシリンダブロック1は、
図1のものと同様に3気筒のシリンダボア2を備えるものである。冷却水流路3の略半分の領域(
図10(b)の紙面上の左側)には、水流れを制御するために複数のスペーサ10Aが冷却水流路3の流れ方向に沿って配置されている。各スペーサ10Aは、それぞれ各シリンダボア2の略半周を囲むように配置されている。本実施形態のシリンダブロック1は3気筒なので、3つのスペーサ10Aが冷却水流路3内の流れ方向に沿って隣接して配置されている。
【0065】
複数のスペーサ10Aの非固着部分15は、隣接するスペーサ10Aが備える非固着部分15とシート体13の厚さ方向に重なるように配置されている。第1気筒側のスペーサ10Aでは、シート体13の長手方向の一方側の端部13eを備える非固着部分15は、隣接する他のスペーサ10Aがないため、他の非固着部分15と重ならず、冷却水流路3の流れ方向に沿って配置されている。第3気筒側のスペーサ10Aでも、シート体13の長手方向の他方側の端部13fを非固着部分15は、隣接する他のスペーサ10Aがないため、他の非固着部分15と重ならず、冷却水流路3の流れ方向に沿って配置されている。
【0066】
本実施形態のシリンダブロック1の冷却構造16は、複数のスペーサ10Aで構成されているため、各スペーサ10Aや冷却水流路3の加工精度が低く寸法ばらつきが生じたものであっても、各スペーサ10Aの冷却水流路3内への挿入性がよく、気筒ごとの位置ずれを緩和することができる。さらに、複数のスペーサ10Aは、シート体13の非固着部分15が他方のスペーサ10Aのシート体13の非固着部分15に厚さ方向に重なった状態で配置される。そのため、非固着部分15同士が重なった部分は、シート体13が復元することにより、冷却水流路3を塞ぐ効果が高く水流れ制御効果が大きくなる。なお、非固着部分15同士は、
図10(b)に示すように厚さ方向に隙間が空いた状態で重なって配置されてもよく、非固着部分15同士の一方面15a及び他方面15bが当接した状態で重なって配置されてもよい。
【0067】
<シリンダブロックの冷却構造の変形例>
図10(b)ではシリンダブロック1に複数のスペーサ10Aによって構成された冷却構造16が一つ構成されている。次に
図11を参照しながら、シリンダブロック1内に複数のスペーサからなる冷却構造が複数配されている例について説明する。
【0068】
図11に示すシリンダブロック1の冷却水流路3内には、スペーサ10B、スペーサ10C、スペーサ10Dを備える冷却構造16Aと、スペーサ10E、スペーサ10Fを備える冷却構造16Bとが設けられている。冷却水流路3の略半分の一方の領域(
図11の紙面上の左側)には、第1気筒側からスペーサ10B、スペーサ10C、スペーサ10Dが配置されている。そして、冷却水流路3の略半分の他方の領域(
図11の紙面上の右側)には、第1気筒に対応する第1分割体12A及び第2気筒に対応する第2分割体12Bを有するスペーサ10E、第3気筒に対応するスペーサ10Fが配置されている。スペーサ10Bとスペーサ10Eの第1分割体12Aとは、第1気筒目のシリンダボア2を介して互いに対向して配置されている。また、スペーサ10Cとスペーサ10Eの第2分割体12Bとは、第2気筒目のシリンダボア2を介して互いに対向して配置されている。そして、スペーサ10Dとスペーサ10Fとは、第3気筒目のシリンダボア2を介して互いに対向して配置されている。次に、各スペーサ10B~10Fについて説明する。
【0069】
第1気筒の一方側に配されるスペーサ10Bは、円弧状のスペーサ本体11と、長手方向の他方側の端部13fが非固着部分15となっているシート体13とを備える。非固着部分15は、シート体13の長手方向の他方側の端部13fが非固着部分15の自由端15gとなっている。また、シート体13は、長手方向の一方側の端部13eがスペーサ本体11に固着されている固着部分14となっている。
【0070】
第2気筒の一方側に配されるスペーサ10Cは、スペーサ本体11が円弧状に形成されており、その流れ方向の一端部11eには、シリンダボア2,2間に配置される湾曲した延出部111が形成されている。延出部111には、シリンダボア2側と対向する面の一部が凹状に凹んだ凹部111aが形成されている。凹部111aは、復元前のシート体13の厚さ寸法と略同じ厚さ寸法で凹んでおり、流れ方向の一方側が開放されている。また、スペーサ10Cは、シート体13の長手方向の他方側の端部13fが自由端15gとなっている非固着部分15と、長手方向の一方側の端部13eがスペーサ本体11に固着されている固着部分14とを備える。
【0071】
第3気筒の一方側に配されるスペーサ10Dは、円弧状のスペーサ本体11と、長手方向の一方側の端部13eが非固着部分15となっているシート体13とを備える。非固着部分15は、シート体13の長手方向の一方側の端部13eが非固着部分15の自由端15gとなっている。シート体13は、長手方向の他方側の端部13fがスペーサ本体11に固着されている固着部分14となっている。
【0072】
第1気筒及び第2気筒の他方側に配されるスペーサ10Eは、第1分割体12A及び第2分割体12Bから構成されるスペーサ本体11と、第1分割体12A及び第2分割体12Bを連結させるシート体13とを備えている。第1分割体12Aは、第1気筒のシリンダボア2にシリンダボア壁20を介して対向して配置され、第2分割体12Bは、第2気筒のシリンダボア2にシリンダボア壁20を介して対向して配置される。第1分割体12Aの流れ方向の他方側の端部12fと、第2分割体12Bの流れ方向の一方側の端部12eとが近接して、隣接するシリンダボア2,2同士の間のくびれ形状部3bに配置される凸形状部121を構成する。また、第2分割体12Bの流れ方向の他方側の端部12fには、シリンダボア2,2間に配置される湾曲した延出部122が設けられている。
【0073】
スペーサ10Eのシート体13の非固着部分15は、凸形状部121に重なり部分151を有して折り曲げられている。重なり部分151は、凸形状部121とスペーサ本体11の厚さ方向において重なるように、平面視において略D字状に折り曲げて構成されている。シート体13の長手方向の一方側の端部13eは第1分割体12Aに固着され、シート体13の長手方向の他方側の端部13fは第2分割体12Bに固着されて、固着部分14を構成する。
【0074】
第3気筒の他方側に配されるスペーサ10Fは、第3気筒の一方側に配されるスペーサ10Dと相似しており、円弧状のスペーサ本体11と、長手方向の一方側の端部13eが非固着部分15となっているシート体13とを備える。非固着部分15は、シート体13の長手方向の一方側の端部13eが非固着部分15の自由端15gとなっている。シート体13は、長手方向の他方側の端部13fがスペーサ本体11に固着されている固着部分14となっている。
【0075】
図11のシリンダブロック1では、スペーサ10Bの非固着部分15が、スペーサ10Cの延出部111の凹部111aと厚さ方向に重なり、スペーサ10Cの非固着部分15及びスペーサ10Dの非固着部分15が厚さ方向に重なっている。これにより、シリンダブロック1の冷却構造16Aが構成される。さらに
図11のシリンダブロック1では、スペーサ10Fの非固着部分15がスペーサ10Eの第2分割体12Bの流れ方向の他方側の端部12fに設けられた延出部122と厚さ方向に重なっている。これにより、シリンダブロック1の冷却構造16Bが構成される。冷却構造16A、冷却構造16Bは、互いに流れ方向の隙間が形成された状態でシリンダブロック1の冷却水流路3内に配置されている。
【0076】
図11のシリンダブロック1の冷却構造16A、冷却構造16Bでは、シート体13の非固着部分15が他方のスペーサ10のスペーサ本体11またはシート体13の非固着部分15に重なった状態で配置される。このとき、シート体13の非固着部分15は、
図11に示すように他方のスペーサ10のスペーサ本体11またはシート体13の非固着部分15と厚さ方向に隙間が空いた状態で重なって配置されてもよい。また、シート体13の非固着部分15が、他方のスペーサ10のスペーサ本体11またはシート体13の非固着部分15と当接した状態で重なって配置されてもよい。また、スペーサ10Bは、非固着部分15の自由端15gがスペーサ10Cの凹部111a内に収まって配置されてもよい。各スペーサ10や冷却水流路3の加工精度が低く寸法ばらつきが生じたものであっても、冷却水流路3内への挿入性がよく、冷却水流路3内に配置したときの位置ずれをシート体13で緩和することができる。また、非固着部分15と他方の部材とが重なった部分は、
図12に示すようにシート体13が復元することによって冷却水流路3の溝幅方向の隙間を埋めることができるので、冷却水流路3を塞ぐ効果が高く水流れ制御効果が大きい。また、
図11に示すように、異なる構成のスペーサ10同士を一つの冷却水流路3内に配置してシリンダブロック1の冷却構造16A、冷却構造16Bを構成することができる。
【0077】
<第3実施形態のスペーサ>
次に、
図13(a)~(c)を参照しながら、第3実施形態に係るスペーサ10Gについて説明する。なお、第1実施形態のスペーサ10と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
【0078】
図13(a)に示すスペーサ10Gは、スペーサ本体11とスペーサ本体11に固着されたシート体13とを備えている。このスペーサ本体11は、第2実施形態に係るスペーサ10Aと同様に、複数の分割体12を備えない構成になっている。本実施形態のスペーサ本体11は、シリンダボア2の形状に対応した円弧状に形成されている。
【0079】
図13(b)に示すように、スペーサ本体11は、厚さ方向に貫通して形成された窓部112が設けられており、シート体13が窓部112を覆った状態で、スペーサ本体11にシート体13の縁部が固着されている。窓部112は厚さ方向に貫通して形成された矩形状の孔であり、この窓部112の周囲においてスペーサ本体11のシリンダボア2側の面11aには、厚さ方向に凹んだ凹部11aaが設けられている。この凹部11aaにシート体13の縁部が固着される。そして、凹部11aaに固着されているシート体13の縁部が、シート体13の固着部分14であり、非固着部分15は、窓部112を覆っている部分である。
図13(c)に示すように、シート体13の非固着部分15は、スペーサ本体11に固着されていないので、シート体13が冷却水に接触した際に、スペーサ本体11に拘束されずに復元する。この際、非固着部分15は、窓部112側に食込むようにして復元する。
【0080】
本実施形態のスペーサ10Gでは、シート体13の四周を囲むように形成されたスペーサ本体11に窓部112が形成されることで、スペーサ本体11を形成するのに使用する樹脂材料の使用量を窓部112の容積分だけ削減することができる。また、スペーサ10Gは、非固着部分15の四周に設けられた固着部分14により、冷却水を堰き止めることができるので、窓部112において水流れ制御性能が低下しにくい。このように、本実施形態のスペーサ10Gは、製造の際の樹脂材料の使用量を削減しつつ、水流れ制御性能が低下しにくいものにすることができる。
【0081】
<スペーサ以外の複合成形品の例>
上述の成形型4の説明やこの成形型4を用いた複合成形品の製造方法の説明では、複合成形品として、シリンダブロック1に組付けられるスペーサを説明しているが、複合成形品はスペーサに限定されることはない。例えば、
図14(a)(b)に示すようなスペーサ以外のものでもよい。
図14(a)では、携帯端末であるスマートフォンが装着される、一般的に手帳型と称されるスマートフォンケース10Hを示している。
図14(b)では、物品を収納する箱状の収納箱10Iを示している。
【0082】
図14(a)のスマートフォンケース10Hでは、スマートフォンが収容されて装着される装着部11Aと、不使用時にスマートフォンの画面を保護する覆い部11Bとが、樹脂材料によって形成される成形体(分割体)である。装着部11A及び覆い部11Bは、離隔した状態でシート体13によって連結されている。装着部11Aの一方面11Aa及び覆い部11Bの一方面11Baにシート体13が固着されて固着部分14を構成している。また、装着部11A及び覆い部11Bの間には、シート体13が装着部11A及び覆い部11Bに固着されていない非固着部分15が設けられている。非固着部分15がフレキシブルに折り曲がるので、スマートフォンの使用時には覆い部11Bをスマートフォンの画面から外し、スマートフォンの不使用時には覆い部11Bがスマートフォンの画面を覆うことができる。
【0083】
また、
図14(b)の収納箱10Iでは、物品を収納する収納部11Cと、保管時に収納部の開口を塞ぐ蓋部11Dとが、樹脂材料によって形成される成形体(分割体)である。収納部11C及び蓋部11Dは、離隔した状態でシート体13によって連結されている。収納部11Cの外面11Ca及び蓋部11Dの外面11Daにシート体13が固着されて固着部分14を構成している。また、収納部11C及び蓋部11Dの間には、収納部11C及び蓋部11Dに固着されていない非固着部分15が設けられている。非固着部分15はフレキシブルに折り曲げることができるので、収納部11Cへの物品の収納又は物品を取り出すときには収納部11Cから蓋部11Dを外し、収納箱10Iの保管時には蓋部11Dが収納部11Cの開口を塞ぐことができる。
【0084】
図14(a)(b)の複合成形品はスペーサ10ではないので、シート体13はスペーサ10に用いられた所定の外的要因によって膨大化する多孔質体とは異なる材質のものが用いられる。シート体13としては、コルクシートや木目シート、レザーシート等の良好な触感や意匠性を有するシート、抗菌性シートや電磁波の干渉を抑制する電磁波干渉防止シート等の機能性を有するシート等、種々のシートが用いられる。
【0085】
以上、各実施形態のスペーサ10,10A~10Gは、上述の構成や図示した形状に限定されることはなく、他の実施形態が備えている構成や部材を備えるものであってもよい。スペーサ本体11や複数の分割体12は非固着部分15を挟んで上下方向に配置してもよい。また、非固着部分15は、
図1等に示す複数の分割体12の端部間に設けられることで分割体12同士の位置調整できるものや、
図8等に示す自由端15gを備えることでスペーサ本体11に重ねられるものが種々組み合わされてもよい。例えば、
図1,7,9,10に示すような流れ方向に突出して延出した非固着部分15と、
図8に示すような下方向に突出して延出した非固着部分15の両方を備えるスペーサであってもよい。また、スペーサ本体11が冷却水流路3の内側壁3c側、シート体13が外側壁3d側であってもよい。また、
図8の非固着部分15の自由端15gが冷却水流路3の上側にあってもよい。また、各実施形態のスペーサ本体11(分割体12)は、
図13のスペーサ10Gが備えるような窓部112が形成されてもよい。また、窓部112の構成は
図13に示すものに限定されることはなく、複数の窓部112を有していてもよく、窓部112のシート体13に貫通孔等があってもよい。また、スペーサに用いられる上述したシート体13は所定の外的要因である水との接触によって膨大化する特性を有しているがこれに限定されることはなく、例えば所定の外的要因としては一定以上の温度(熱)であってもよい。また、
図7等に示す非固着部分15の重なり部分151は、図示した形状に折り曲げて構成されることに限定されることはなく、種々の形状に折り曲げられて構成されてよい。また、
図10(b)の第1気筒側のスペーサ10Aが備える流れ方向の一方側の非固着部分15及び第3気筒側のスペーサ10Aが備える流れ方向の他方側の非固着部分15は、スペーサ本体11の反シリンダボア側の面に当接するように折り返されてもよい。
【0086】
また、シリンダブロック1の冷却構造16,16A,16Bも、上述した構成や図示した形状に限定されることはなく、種々の構成のスペーサが用いられてもよい。また、
図11に示すシリンダブロック1の冷却構造16A,16Bのうちの一方だけがシリンダブロック1に組付けられる構成であってもよい。
【0087】
また、成形型4も上述の構成や図示した形状に限定されることはなく、製造する複合成形品の形状に沿って構成されればよい。また、成形型4を用いた上述した複合成形品の製造方法も上述した方法に限定されることはない。また、スペーサ以外の複合成形品は、上述したものや図示したものに限定されることはなく、手帳やブックカバー、カードケース、名刺入れ等、成形体やシート体13を備えていればよい。特に複合成形品は、複数の成形体(分割体)をシート体13で連結して、非固着部分15をフレキシブルに折り曲げることで、成形体同士の位置関係を調整できるものに好適である。
【符号の説明】
【0088】
A 内燃機関
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 冷却水流路
3c 内側壁
3d 外側壁
4 成形型
5 第1型
5a 第1キャビティ面
51 樹脂供給口
52 挟持部
6 第2型
6a 第2キャビティ面
61 載置面
62 挟持部
S キャビティ
10,10A~10G スペーサ(複合成形品)
10H,10I 複合成形品
11 スペーサ本体(成形体)
12,12A~12D 分割体
13 シート体
13a 一方面
13b 他方面
13c 上端部
13d 下端部
13e 長手方向の一方側の端部
13f 長手方向の他方側の端部
14 固着部分
14a 一方面
14b 他方面
15 非固着部分
15a 一方面
15b 他方面
16,16A,16B 冷却構造