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特開2024-44876バルブプレート及び塗膜付きバルブプレート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044876
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】バルブプレート及び塗膜付きバルブプレート
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240326BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240326BHJP
   C21D 8/00 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/60
C21D8/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150666
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】菅江 清信
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA09
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA37
4K032AA40
4K032BA00
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC03
4K032CC04
4K032CD05
(57)【要約】
【課題】耐食性に優れ、かつ、鋳造性に優れるバルブプレートを提供する。
【解決手段】本実施形態のバルブプレートは、化学組成が、質量%で、C:0.01~0.20%、Si:0.01~1.00%、Mn:0.01~2.00%、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cr:0.20%以下、Ni:0.010~0.350%、Cu:0.010~0.350%、Sn:0.01~0.20%、Mo:0.01~0.20%、sol.Al:0.001~0.040%、Nb:0.001~0.010%、N:0.012%以下、Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上の合計:0.0050~0.0120%、及び、残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)を満たす。
0.13<Ni/(3Cu+Sn+10(Sb+Ge))<0.70 (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.01~0.20%、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.01~2.00%、
P:0.035%以下、
S:0.035%以下、
Cr:0.20%以下、
Ni:0.010~0.350%、
Cu:0.010~0.350%、
Sn:0.01~0.20%、
Mo:0.01~0.20%、
sol.Al:0.001~0.040%、
Nb:0.001~0.010%、
N:0.012%以下、
Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上:合計で0.0050~0.0120%、
B:0~0.0050%、
Ti:0~0.100%、
W:0~0.50%、
希土類元素(REM):0~0.0200%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなり、
式(1)を満たす、
バルブプレート。
0.13<Ni/(3Cu+Sn+10(Sb+Ge))<0.70 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【請求項2】
請求項1に記載のバルブプレートであって、
前記化学組成は、
B:0.0001~0.0050%、
Ti:0.001~0.100%、
W:0.01~0.50%、及び、
希土類元素(REM):0.0001~0.0200%、
からなる群から選択される1元素以上を含有する、
バルブプレート。
【請求項3】
表面のISO8501-1における除錆度がSa2・1/2以上である、請求項1に記載のバルブプレートと、
前記バルブプレートの前記表面に形成された下塗り塗膜と、
前記下塗り塗膜上に形成されており、膜厚が20~50μmの中塗り塗膜と、
前記中塗り塗膜上に形成されており、フッ素樹脂及び/又はウレタン樹脂からなり、膜厚が20~50μmの上塗り塗膜とを備え、
前記下塗り塗膜は、
無機ジンクリッチペイント及び/又は有機ジンクリッチペイントからなり、膜厚が30~100μmの第1層と、
前記第1層上に形成され、膜厚が100~200μmのエポキシ樹脂からなる第2層とを含む、
塗膜付きバルブプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バルブプレート、及び、表面に塗膜が形成されている、塗膜付きバルブプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
バルブプレートは、橋梁の補強に用いられる。橋梁は、海浜地域に建てられる場合がある。海浜地域は塩化物イオンの多い腐食環境である。そのため、バルブプレートには、耐食性が求められる。
【0003】
橋梁に用いられる厚鋼板において、耐食性を高める技術が、国際公開第2011/102259号(特許文献1)に提案されている。
【0004】
特許文献1に開示されている厚鋼板は、質量%で、C:0.0005~0.02%未満、Si:0.01~0.7%、Mn:0.1~5.0%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Cu:0.2%未満、Nb:0.02~0.3%、Al:0.003~0.1%、N:0.01%以下、B:0.0005~0.004%及びSn:0.03~0.50%を含み、残部Fe及び不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有する。特許文献1では、厚鋼板中のSn含有量とCu含有量とを調整することにより、耐食性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/102259号
【0006】
ところで、Sn及びCuを含有する溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片を製造する場合、凝固途中の鋳片が脆くなる。そのため、凝固途中の鋳片の中から溶鋼が漏出してしまう場合がある。連続鋳造法による鋳片の製造において、このような凝固途中の鋳片の中から溶鋼が漏出する現象をブレークアウトという。ブレークアウトが生じれば、生産効率が低下する。そのため、鋳造中の鋳片の脆化が抑制できる方が好ましい。鋳造工程において、ブレークアウトが抑制されることを、本明細書では鋳造性に優れる、と表現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、耐食性に優れ、かつ、鋳造性に優れる、バルブプレート、及び、塗膜付きバルブプレートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示によるバルブプレートは、次の構成を有する。
【0009】
化学組成が、質量%で、
C:0.01~0.20%、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.01~2.00%、
P:0.035%以下、
S:0.035%以下、
Cr:0.20%以下、
Ni:0.010~0.350%、
Cu:0.010~0.350%、
Sn:0.01~0.20%、
Mo:0.01~0.20%、
sol.Al:0.001~0.040%、
Nb:0.001~0.010%、
N:0.012%以下、
Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上:合計で0.0050~0.0120%、
B:0~0.0050%、
Ti:0~0.100%、
W:0~0.50%、
希土類元素(REM):0~0.0200%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなり、
式(1)を満たす、
バルブプレート。
0.13<Ni/(3Cu+Sn+10(Sb+Ge))<0.70 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0010】
本開示による塗膜付きバルブプレートは、次の構成を有する。
【0011】
表面のISO8501-1における除錆度がSa2・1/2以上である、上述のバルブプレートと、
前記バルブプレートの前記表面に形成された下塗り塗膜と、
前記下塗り塗膜上に形成されており、膜厚が20~50μmの中塗り塗膜と、
前記中塗り塗膜上に形成されており、フッ素樹脂及び/又はウレタン樹脂からなり、膜厚が20~50μmの上塗り塗膜とを備え、
前記下塗り塗膜は、
無機ジンクリッチペイント及び/又は有機ジンクリッチペイントからなり、膜厚が30~100μmの第1層と、
前記第1層上に形成され、膜厚が100~200μmのエポキシ樹脂からなる第2層とを含む、
塗膜付きバルブプレート。
【発明の効果】
【0012】
本開示のバルブプレートは、耐食性に優れ、かつ、鋳造性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
初めに、本発明者は、耐食性に優れるバルブプレートについて、化学組成の観点から検討を行った。その結果、本発明者は、質量%で、C:0.01~0.20%、Si:0.01~1.00%、Mn:0.01~2.00%、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cr:0.20%以下、Ni:0.010~0.350%、Cu:0.010~0.350%、Sn:0.01~0.20%、Mo:0.01~0.20%、sol.Al:0.001~0.040%、Nb:0.001~0.010%、N:0.012%以下、B:0~0.0050%、Ti:0~0.100%、W:0~0.50%、希土類元素(REM):0~0.0200%、及び、残部:Fe及び不純物、からなる化学組成であれば、十分な耐食性が得られると考えた。
【0014】
しかしながら、上述の化学組成を有するバルブプレートでは、十分な耐食性が得られなかった。そこで、本発明者らは、さらなる検討を行った。その結果、上述の化学組成に加え、さらに、Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上を、合計で0.0050~0.0120%含有することにより、耐食性が顕著に高まることを見出した。
【0015】
以上の知見に基づいて、本発明者は、バルブプレートが次の特徴1を満たすことにより、十分な耐食性が得られると考えた。
(特徴1)
化学組成が、質量%で、C:0.01~0.20%、Si:0.01~1.00%、Mn:0.01~2.00%、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cr:0.20%以下、Ni:0.010~0.350%、Cu:0.010~0.350%、Sn:0.01~0.20%、Mo:0.01~0.20%、sol.Al:0.001~0.040%、Nb:0.001~0.010%、N:0.012%以下、Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上:合計で0.0050~0.0120%、B:0~0.0050%、Ti:0~0.100%、W:0~0.50%、希土類元素(REM):0~0.0200%、及び、残部:Fe及び不純物、からなる。
【0016】
続いて、本発明者は、特徴1を満たすバルブプレートにおいて、鋳造性に関する検討を行った。その結果、特徴1を満たすバルブプレートであっても、十分な鋳造性が得られない場合があることが判明した。そこで、本発明者はさらに、特徴1を満たすバルブプレートにおいて、鋳造性を高める手段について検討を行った。その結果、本発明者は次の知見を得た。
【0017】
特徴1の化学組成中の元素のうち、Ni、Cu、Sn、Sb及びGeは、鋳造時の鋳片の脆化に影響を与える元素である。そのため、特徴1を満たすバルブプレートにおいて、Ni含有量、Cu含有量、Sn含有量、Sb含有量及びGe含有量の関係を調整することにより、鋳造性を高めることができる。
【0018】
上記知見に基づいて、本発明者はさらに検討を行った。その結果、特徴1を満たすバルブプレートがさらに、次の特徴2を満たすことにより、優れた耐食性及び優れた鋳造性が得られることが判明した。
【0019】
(特徴2)
特徴1の化学組成がさらに、式(1)を満たす。
0.13<Ni/(3Cu+Sn+10(Sb+Ge))<0.70 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0020】
本実施形態のバルブプレート、及び塗膜付きバルブプレートは、以上の技術思想に基づいて完成したものであって、次の構成を有する。
【0021】
[1]
化学組成が、質量%で、
C:0.01~0.20%、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.01~2.00%、
P:0.035%以下、
S:0.035%以下、
Cr:0.20%以下、
Ni:0.010~0.350%、
Cu:0.010~0.350%、
Sn:0.01~0.20%、
Mo:0.01~0.20%、
sol.Al:0.001~0.040%、
Nb:0.001~0.010%、
N:0.012%以下、
Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上:合計で0.0050~0.0120%、
B:0~0.0050%、
Ti:0~0.100%、
W:0~0.50%、
希土類元素(REM):0~0.0200%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなり、
式(1)を満たす、
バルブプレート。
0.13<Ni/(3Cu+Sn+10(Sb+Ge))<0.70 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0022】
[2]
[1]に記載のバルブプレートであって、
前記化学組成は、
B:0.0001~0.0050%、
Ti:0.001~0.100%、
W:0.01~0.50%、及び、
希土類元素(REM):0.0001~0.0200%、
からなる群から選択される1元素以上を含有する、
バルブプレート。
【0023】
[3]
表面のISO8501-1における除錆度がSa2・1/2以上である、[1]に記載のバルブプレートと、
前記バルブプレートの前記表面に形成された下塗り塗膜と、
前記下塗り塗膜上に形成されており、膜厚が20~50μmの中塗り塗膜と、
前記中塗り塗膜上に形成されており、フッ素樹脂及び/又はウレタン樹脂からなり、膜厚が20~50μmの上塗り塗膜とを備え、
前記下塗り塗膜は、
無機ジンクリッチペイント及び/又は有機ジンクリッチペイントからなり、膜厚が30~100μmの第1層と、
前記第1層上に形成され、膜厚が100~200μmのエポキシ樹脂からなる第2層とを含む、
塗膜付きバルブプレート。
【0024】
以下、本実施形態によるバルブプレートについて詳述する。なお、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0025】
[バルブプレートの構成]
本実施形態のバルブプレートは、ウェブ部と、球部とを備える。ウェブ部は板状の部分である。バルブプレートの長手方向に垂直な断面において、球部は、ウェブ部の端部に配置されており、かつ、バルブプレートの長手方向に垂直な方向に突き出ている。バルブプレートの形状(ウェブ部及び球部)は周知である。
【0026】
[本実施形態のバルブプレートの特徴]
本実施形態のバルブプレートは、特徴1及び特徴2を満たす。
(特徴1)
化学組成が、質量%で、C:0.01~0.20%、Si:0.01~1.00%、Mn:0.01~2.00%、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Cr:0.20%以下、Ni:0.010~0.350%、Cu:0.010~0.350%、Sn:0.01~0.20%、Mo:0.01~0.20%、sol.Al:0.001~0.040%、Nb:0.001~0.010%、N:0.012%以下、Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上:合計で0.0050~0.0120%、B:0~0.0050%、Ti:0~0.100%、W:0~0.50%、希土類元素(REM):0~0.0200%、及び、残部:Fe及び不純物、からなる。
(特徴2)
特徴1の化学組成がさらに、式(1)を満たす。
0.13<Ni/(3Cu+Sn+10(Sb+Ge))<0.70 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
以下、特徴1及び特徴2について説明する。
【0027】
[(特徴1)化学組成中の各元素の含有量について]
本実施形態による鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
【0028】
C:0.01~0.20%
炭素(C)は、鋼材の焼入れ性を高めて、バルブプレートの強度を高める。C含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、C含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の加工性が低下する。C含有量が0.20%を超えればさらに、バルブプレートの耐食性が低下する場合がある。
したがって、C含有量は0.01~0.20%である。
C含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。
C含有量の好ましい上限は0.19%であり、さらに好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.17%であり、さらに好ましくは0.16%である。
【0029】
Si:0.01~1.00%
シリコン(Si)は、固溶強化により、バルブプレートの強度を高める。Si含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の加工性が低下する。
したがって、Si含有量は0.01~1.00%である。
Si含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Si含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0030】
Mn:0.01~2.00%
マンガン(Mn)は、鋼材の焼入れ性を高めて、バルブプレートの強度を高める。Mn含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mn含有量が2.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、Mn含有量は0.01~2.00%である。
Mn含有量の好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%である。
Mn含有量の好ましい上限は1.80%であり、さらに好ましくは1.60%であり、さらに好ましくは1.50%である。
【0031】
P:0.035%以下
燐(P)は不純物である。つまり、P含有量の下限は0%超である。
P含有量が0.035%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Pが粒界に偏析する。その結果、バルブプレートの耐食性が低下する。
したがって、P含有量は0.035%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
P含有量の好ましい上限は0.034%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.025%である。
【0032】
S:0.035%以下
硫黄(S)は不純物である。つまり、S含有量の下限は0%超である。
S含有量が0.035%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Sが粒界に偏析する。その結果、バルブプレートの耐食性が低下する。
したがって、S含有量は0.035%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
S含有量の好ましい上限は0.030%であり、さらに好ましくは0.025%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%である。
【0033】
Cr:0.20%以下
本実施形態の鋼材において、Crは不可避の不純物である。つまり、Cr含有量は0%超である。Crは、バルブプレートの耐食性を低下する。Cr含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、耐食性が顕著に低下する。
したがって、Cr含有量は0.20%以下である。
Cr含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、Cr含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、Cr含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Cr含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.16%であり、さらに好ましくは0.14%である。
【0034】
Ni:0.010~0.350%
ニッケル(Ni)は、バルブプレートの製造工程中の鋳造工程において、鋳造性を高める。Niはさらに、鋼材の焼入れ性を高め、バルブプレートの強度を高める。Niはさらに、バルブプレートの耐食性を高める。Ni含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ni含有量が0.350%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、バルブプレートの耐食性がかえって低下する。
したがって、Ni含有量は0.010~0.350%である。
Ni含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.050%である。
Ni含有量の好ましい上限は0.300%であり、さらに好ましくは0.250%であり、さらに好ましくは0.150%であり、さらに好ましくは0.120%である。
【0035】
Cu:0.010~0.350%
銅(Cu)は、バルブプレートの耐食性を高める。Cu含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Cu含有量が0.350%を超えれば、バルブプレートの製造工程中の鋳造工程において、鋳造性が低下する。
したがって、Cu含有量は、0.010~0.350%である。
Cu含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.040%である。
Cu含有量の好ましい上限は0.300%であり、さらに好ましくは0.250%であり、さらに好ましくは0.200%であり、さらに好ましくは0.180%である。
【0036】
Sn:0.01~0.20%
スズ(Sn)は、バルブプレートの耐食性を高める。Sn含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Sn含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、バルブプレートの耐食性がかえって低下する。
したがって、Sn含有量は0.01~0.20%である。
Sn含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.12%であり、さらに好ましくは0.10%である。
【0037】
Mo:0.01~0.20%
モリブデン(Mo)は、鋼材の焼入れ性を高め、バルブプレートの強度を高める。Moはさらに、バルブプレートの耐食性を高める。Mo含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mo含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、バルブプレートの耐食性が低下する。
したがって、Mo含有量は0.01~0.20%である。
Mo含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.04%であり、さらに好ましくは0.06%である。
Mo含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.16%であり、さらに好ましくは0.14%であり、さらに好ましくは0.12%である。
【0038】
sol.Al:0.001~0.040%
アルミニウム(Al)は不可避に含有される。つまり、Al含有量は0%超である。
Alは鋼を脱酸する。Al含有量が0.001%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
しかしながら、Al含有量が0.040%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なAl窒化物が生成する。粗大なAl窒化物は破壊の起点になる。そのため、鋼材の加工性が低下する。
したがって、Al含有量は0.001~0.040%である。
Al含有量の好ましい下限は0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。
Al含有量の好ましい上限は0.030%であり、さらに好ましくは0.020%である。
本実施形態の鋼材の化学組成において、Al含有量は、酸可溶Al(sol.Al)の含有量を意味する。
【0039】
Nb:0.001~0.010%
ニオブ(Nb)は、炭化物、炭窒化物等のNb析出物を形成する。Nb析出物はバルブプレートの強度を高める。Nb含有量が0.001%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Nb含有量が0.010%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Nb析出物が多く生成する。この場合、バルブプレートの耐食性が低下する。
したがって、Nb含有量は0.001~0.010%である。
Nb含有量の好ましい下限は0.002%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.009%であり、さらに好ましくは0.008%である。
【0040】
N:0.012%以下
窒素(N)は、不可避に含有される。つまり、N含有量は0%超である。
Nは、Al又はTiと結合して窒化物又は炭窒化物を形成する。N含有量が0.012%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な窒化物が生成する。粗大な窒化物は破壊の起点になり、バルブプレートの耐食性が低下する。
したがって、N含有量は0.012%以下である。
N含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
N含有量の好ましい上限は0.011%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0041】
Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上:合計で0.0050~0.0120%
アンチモン(Sb)、コバルト(Co)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)はいずれも、酸性環境下において、鋼材中のFeが溶解するのを抑制する。より具体的には、これらの元素は酸性環境下において、Feよりも優先して溶解する。溶解したこれらの元素は、酸化物、又は、金属として、鋼材表面に付着する。そのため、鋼材中のFeの溶解が抑制される。その結果、バルブプレートの耐食性が高まる。Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上の合計が0.0050%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上が合計で0.0120%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、バルブプレートの耐食性がかえって低下する。
したがって、Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上の合計含有量は、0.0050~0.0120%である。
Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上の合計含有量の好ましい下限は、0.0060%であり、さらに好ましくは0.0065%であり、さらに好ましくは0.0070%である。
Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上の合計含有量の好ましい上限は0.0117%であり、さらに好ましくは0.0115%であり、さらに好ましくは0.0110%であり、さらに好ましくは0.0105%である
【0042】
本実施形態によるバルブプレートの化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、バルブプレートを工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態による鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0043】
[任意元素(Optional Elements)]
本実施形態の鋼材はさらに、Feの一部に代えて、次の元素群から選択された1元素以上を含有してもよい。
B:0~0.0050%、
Ti:0~0.100%、
W:0~0.50%、及び、
希土類元素(REM):0~0.0200%
以下、各元素について説明する。
【0044】
[第1群:B及びTi]
B及びTiはいずれも、バルブプレートの強度を高める。以下、B及びTiについて説明する。
【0045】
B:0~0.0050%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。
含有される場合、Bは、鋼材の焼入れ性を高め、バルブプレートの強度を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なB窒化物が生成する。粗大なB窒化物は破壊の起点になる。その結果、バルブプレートの冷間鍛造性が低下する。
したがって、B含有量は0~0.0050%である。
B含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0007%である。
B含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
【0046】
Ti:0~0.100%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。
含有される場合、Tiは、Nと結合してTi窒化物を形成し、バルブプレートの強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ti含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、炭化物、炭窒化物等のTi析出物が過剰に多く生成する。この場合、バルブプレートの耐食性が低下する。
したがって、Ti含有量は0~0.100%である。
Ti含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.018%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
【0047】
[第2群:W及び希土類元素]
W及び希土類元素(REM)はいずれも、バルブプレートの耐水素脆性を高める。以下、W及び希土類元素(REM)について説明する。
【0048】
W:0~0.50%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、Wは、酸性環境下において、鋼材中のFeが溶解するのを抑制する。これにより、バルブプレートの耐食性が高まる。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、W含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、バルブプレートの耐食性がかえって低下する。
したがって、W含有量は0~0.50%である。
W含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
W含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.25%である。
【0049】
希土類元素(REM):0~0.0200%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。REMが含有される場合、つまり、REMが0%超である場合、REMはMnSを微細化する。そのため、バルブプレートの耐食性が高まる。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、REM含有量が0.0200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物が生成する。この場合、バルブプレートの耐食性が低下する。
したがって、REM含有量は0~0.0200%である。
REM含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
REM含有量の好ましい上限は0.0150%であり、さらに好ましくは0.0100%である。
【0050】
本明細書におけるREMとは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)、及び、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)からなる群から選択される1元素以上の元素である。本明細書におけるREM含有量とは、これらの元素の合計含有量である。
【0051】
[化学組成の測定方法]
本実施形態のバルブプレートの化学組成は、JIS G0321:2017に準拠した周知の成分分析法で測定できる。具体的には、ドリルを用いて、バルブプレートの表面から1mm深さ以上の内部から、切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施する。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により求める。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求める。
【0052】
なお、各元素含有量は、本実施形態で規定された有効数字に基づいて、測定された数値の端数を四捨五入して、本実施形態で規定された各元素含有量の最小桁までの数値とする。例えば、本実施形態の鋼材のC含有量は小数第二位までの数値で規定される。したがって、C含有量は、測定された数値の小数第三位を四捨五入して得られた小数第二位までの数値とする。
【0053】
本実施形態の鋼材のC含有量以外の他の元素含有量も同様に、測定された値に対して、本実施形態で規定された最小桁までの数値の端数を四捨五入して得られた値を、当該元素含有量とする。
【0054】
なお、四捨五入とは、端数が5未満であれば切り捨て、端数が5以上であれば切り上げることを意味する。
【0055】
[(特徴2)式(1)について]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、さらに、式(1)を満たす。
0.13<Ni/(3Cu+Sn+10(Sb+Ge))<0.70 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0056】
F1=Ni/(3Cu+Sn+10(Sb+Ge))と定義する。F1は、バルブプレートの製造工程中の鋳造工程における、鋼材の鋳造性の指標である。F1が0.13以下であれば、Ni含有量に対して、Cu、Sn、Sb及びGeの含有量が多すぎる。この場合、鋳造工程の鋼材の鋳造性が低下する。
【0057】
一方、F1が0.70以上であれば、Ni含有量に対して、Cu、Sn、Sb及びGeの含有量が少なすぎる。この場合も、鋳造工程の鋼材の鋳造性が低下する。
F1が0.13よりも高く、0.70未満であれば、バルブプレートが特徴1を満たすことを前提として、鋳造工程において十分な鋳造性が得られ、かつ、バルブプレートにおいて十分な耐食性が得られる。
【0058】
F1の好ましい下限は0.14であり、さらに好ましくは0.15であり、さらに好ましくは0.16である。
F1の好ましい上限は0.65であり、さらに好ましくは0.60であり、さらに好ましくは0.55である。
【0059】
[ミクロ組織(Microstructure)について]
本実施形態のバルブプレートにおいて、耐食性は、上述のとおり化学組成に大きく依存し、ミクロ組織は実質影響しない。そのため、本実施形態のバルブプレートのミクロ組織は特に限定されない。
【0060】
[本実施形態のバルブプレートの効果]
本実施形態のバルブプレートは上述の特徴1及び特徴2を満たす。そのため、本実施形態のバルブプレートでは、十分な耐食性と、十分な鋳造性とが得られる。
【0061】
[耐食性について]
本実施形態のバルブプレートでは、十分な耐食性が得られる。ここで、十分な耐食性が得られるとは、具体的には、米国規格SAE J2334に準拠した耐食性評価試験を80サイクル実施した後の腐食量が0.4mm以下であることを意味する。
【0062】
[耐食性評価試験]
耐食性評価試験は、次の方法で実施する。
バルブプレートから、100mm×60mm×厚さ3mmの板状試験片を採取する。採取した板状試験片の表面に対してショットブラストを実施して、板状試験片の表面において、JIS B0601:2001に準拠した十点平均粗さRzjisが75μmとなるように調整する。
【0063】
ショットブラスト後の板状試験片を用いて、塩水浸漬が可能な乾湿繰り返し試験機により、米国規格SAE J2334に準拠した腐食試験を実施する。具体的には、次の3つのステップ(合計24時間)を1サイクルとする試験を実施する。
(ステップ1:湿潤工程)
板状試験片を50℃、相対湿度100%RHの環境で、6時間保持する。
(ステップ2:塩水浸漬工程)
ステップ1後の板状試験片を、0.5%NaCl、0.1%CaCl及び0.075%NaHCOを含有する、pH8の水溶液中に15分間浸漬する。
(ステップ3:乾燥工程)
ステップ2後の板状試験片を、60℃、50%RHの環境で、17.75時間保持する。保持後の板状試験片を乾燥する。
【0064】
上記ステップ1~ステップ3を1サイクルとして、80サイクル実施する。
【0065】
80サイクル実施後の板状試験片の表面に付着した腐食生成物をハンマー等で物理的に除去する。腐食生成物が除去された板状試験片の質量を測定する。腐食試験後の板状試験片の質量と、腐食試験前の板状試験片の質量との差分値を、試験片の表面積で除した値を、腐食量(mm)とする。
得られた腐食量が0.4mm以下であれば、十分な耐食性が得られたと判断する。
【0066】
[鋳造性について]
本実施形態のバルブプレートでは、十分な鋳造性が得られる。ここで、十分な鋳造性が得られるとは、次の鋳造性評価試験において、ブレークアウトが生じないことを意味する。
【0067】
[鋳造性評価試験]
バルブプレートの化学組成を有する溶鋼を準備する。溶鋼を用いて、全湾曲型連続鋳造機により、鋳片を製造する。鋳片の長手方向に垂直な断面のサイズを200mm×400mmとする。湾曲部の曲率半径を12500mmとする。鋳込み速度を0.9m/分とする。
【0068】
以上の構成を有する小型連続鋳造機を用いて、200tの溶鋼を鋳造する。鋳造中にブレークアウトが発生した場合、十分な鋳造性が得られなかったと判断する。鋳造中にブレークアウトが発生しなかった場合、十分な鋳造性が得られたと判断する。
【0069】
[バルブプレートの用途]
本実施形態のバルブプレートは、耐食性が求められる橋梁用途の部材として、広く適用可能である。特に、橋梁の鋼床版の縦リブ又は横リブとしての利用に適する。
【0070】
[塗膜付きバルブプレートについて]
本実施形態の塗膜付きバルブプレートは、特徴1及び特徴2を満たすバルブプレートと、下塗り塗膜と、中塗り塗膜と、上塗り塗膜とを備える。以下、バルブプレート、下塗り塗膜、中塗り塗膜、上塗り塗膜について説明する。
【0071】
[塗膜付きバルブプレートに用いるバルブプレートについて]
塗膜付きバルブプレートには、上述の本実施形態のバルブプレートを用いる。塗膜付きバルブプレートにおいて、バルブプレートの表面のISO8501-1における除錆度がSa2・1/2以上である。この場合、下塗り塗膜のバルブプレートに対する密着性が高まる。例えば、バルブプレートの表面に周知のショットブラストを実施して、バルブプレートの表面の除錆度をSa2・1/2以上にする。
【0072】
[下塗り塗膜について]
下塗り塗膜は、第1層と第2層とを含む。第1層は、ISO8501-1における除錆度がSa2・1/2以上のバルブプレートの表面に形成されている。第1層は、周知の無機ジンクリッチペイント及び/又は周知の有機ジンクリッチペイントからなる。第1層の膜厚は30~100μmである。膜厚は例えば、電磁膜厚計を用いて測定できる。
【0073】
第2層は、第1層上に形成されている。第2層は、周知のエポキシ樹脂からなる。第2層の膜厚は100~200μmである。エポキシ樹脂からなる第2層は、第1層への密着性に優れ、防食性にも優れる。
【0074】
塗膜付きバルブプレートでは、バルブプレートの表面に下塗り塗膜が形成されている。そのため、下塗り塗膜が形成されていないバルブプレートと比較して、耐食性がさらに高まる。
【0075】
好ましくは、塗膜付きバルブプレートはさらに、中塗り塗膜及び上塗り塗膜を備える。
【0076】
[中塗り塗膜について]
中塗り塗膜は、下塗り塗膜上に形成されている。中塗り塗膜の膜厚は20~50μmである。中塗り塗膜の組成は、上塗り塗膜の組成に従う。例えば、上塗り塗膜がフッ素樹脂からなる場合、中塗り塗膜もフッ素樹脂からなる。上塗り塗膜がウレタン樹脂からなる場合、中塗り塗膜もウレタン樹脂からなる。
【0077】
[上塗り塗膜について]
上塗り塗膜は、中塗り塗膜上に形成されている。上塗り塗膜は、フッ素樹脂及び/又はウレタン樹脂からなる。上塗り塗膜の膜厚は20~50μmである。
【0078】
塗膜付きバルブプレートが中塗り塗膜及び上塗り塗膜を備える場合はさらに、耐食性が高まる。
【0079】
[バルブプレートの製造方法]
本実施形態のバルブプレートの製造方法の一例を説明する。上述の構成を有するバルブプレートは、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態のバルブプレートの製造方法の好ましい一例である。
【0080】
本実施形態の鋼材の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)溶鋼準備工程
(工程2)鋳造工程
(工程3)熱間加工工程
以下、各工程について説明する。
【0081】
[(工程1)溶鋼準備工程]
溶鋼準備工程では、本実施形態のバルブプレートの化学組成を有する溶鋼を準備する。具体的には、特徴1及び特徴2を満たす化学組成の溶鋼を準備する。精錬方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。例えば、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、周知の二次精錬を実施する。二次精錬において、溶鋼中の合金元素の含有量を調整して、溶鋼を製造する。
【0082】
[(工程2)鋳造工程]
鋳造工程では、準備した溶鋼を用いて、連続鋳造法により、鋳片を製造する。具体的には、連続鋳造機を用いて、鋳片を製造する。このとき、連続鋳造での鋳込み速度を0.9m/分以下にする。溶鋼が特徴1及び特徴2を満たし、かつ、鋳込み速度が0.9m/分以下であれば、鋳造時のブレークアウトの発生が抑制され、十分な鋳造性が得られる。
【0083】
[(工程3)熱間加工工程]
熱間加工工程では、鋳片を熱間圧延して、バルブプレートを製造する。具体的には、鋳片を加熱炉で周知の加熱温度で加熱する。加熱温度は例えば、1100~1300℃である。加熱後の鋳片に対して1又は複数の圧延機を用いて熱間圧延を実施して、球部を備えるバルブプレートを製造する。仕上げ圧延温度は例えば、750℃以上である。熱間圧延後のバルブプレートを放冷する。
【0084】
放冷後のバルブプレートに対して、必要に応じて、矯正を実施する。矯正は300℃以下の温度域で実施する。以上の製造方法により、本実施形態のバルブプレートを製造することができる。
【実施例0085】
実施例により本実施形態のバルブプレートの効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態のバルブプレートの実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態のバルブプレートはこの一条件例に限定されない。
【0086】
表1-1及び表1-2に示す化学組成の溶鋼を準備した。
【0087】
【表1-1】
【0088】
【表1-2】
【0089】
表1-2中の「Tx」は、Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上の合計含有量(質量%)が記載されている。
【0090】
溶鋼を用いて、連続鋳造によりスラブを製造した。具体的には、上述の[鋳造性評価試験]に記載の方法に基づいて、連続鋳造を実施した。
【0091】
製造したスラブに対して、熱間加工工程を実施した。具体的には、スラブを1190℃~1260℃に加熱した。加熱後のスラブに対して熱間圧延を実施して、球部を備えるバルブプレートを製造した。仕上げ圧延温度は750℃以上であった。仕上げ圧延後、放冷を実施した。放冷後、300℃以下の温度で矯正加工を実施して、曲がりを矯正した。以上の製造工程により、各試験番号のバルブプレートを製造した。
【0092】
[評価試験]
製造されたバルブプレート、及び、製造中の鋼材に対して、次の試験を実施した。
(試験1)化学組成分析試験
(試験2)鋳造性評価試験
(試験3)耐食性評価試験
(試験4)塗膜付きバルブプレートの端部発錆試験
以下、各試験について説明する。
【0093】
[(試験1)化学組成分析試験]
上述の[化学組成の測定方法]に記載の方法に基づいて、各試験番号のバルブプレートの化学組成を分析した。その結果、各試験番号のバルブプレートの化学組成は、表1-1及び表1-2に記載のとおりであった。
【0094】
[(試験2)鋳造性評価試験]
上述のとおり、鋳造工程において、鋳造性評価試験を実施した。得られた結果を表2に示す。表2の「鋳造性」欄の「E(Excellent)」は、連続鋳造時にブレークアウトが発生しなかったことを示す。「NA(Not Accepted)」は、連続鋳造中にブレークアウトが発生し、鋳造性が低かったことを示す。なお、鋳造性が低かった場合、試験3及び試験4を実施しなかった。
【0095】
【表2】
【0096】
[(試験3)耐食性評価試験]
上述の[耐食性評価試験]に記載の方法に基づいて、各試験番号のバルブプレートの腐食量(mm)を求めた。得られた腐食量を表2中の「腐食量(mm)」欄に示す。腐食量が0.4mm以下である場合、十分な耐食性が得られたと判断した。一方、腐食量が0.4mmを超えた場合、十分な耐食性が得られなかったと判断した。
【0097】
[(試験4)塗膜付きバルブプレートの端部発錆試験]
各試験番号のバルブプレートの全表面に対して、ショットブラストを実施して、当該表面のISO8501-1における除錆度をSa2・1/2とした。
【0098】
除錆度が調整された全表面に対して、表3に示す仕様A、仕様B、仕様Cのいずれかの塗膜を形成して、塗膜付きバルブプレートを製造した。第1層のジンクリッチペイントは神東塗料(株)製の商品名:シントージンク#5000を用いた。第2層のエポキシ樹脂塗料は、神東塗料(株)製の商品名:ネオゴーセー#2300PSを用いた。中塗り塗膜は神東塗料(株)製の商品名:シントーフロン#100中塗りを用いた。外塗り塗膜は神東塗料(株)製の商品名:シントーフロン#100を用いた。仕様A~仕様Cは、下塗り塗膜の第1層の膜厚、下塗り塗膜の第2層の膜厚、中塗り塗膜の膜厚、上塗り塗膜の膜厚の少なくとも1種以上が異なる値であった。各試験番号の塗膜付きバルブプレートに形成した塗膜の仕様を、表2中の「仕様」欄に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
各試験片の塗膜付きバルブプレートに対して、以下に示す端部発錆試験を実施した。具体的には、試験槽内に塗膜付きバルブプレートを吊るした。その後、次のステップ0を実施した。
(ステップ0:塩水噴霧工程)
試験槽内に、35℃の0.5%NaClを1時間噴霧する。
ステップ0を実施した後、次の2つのステップを1週間繰り返した。
(ステップ1:湿潤工程)
試験槽内を40℃、相対湿度98%RHの環境で6時間保持する。
(ステップ2:乾燥工程)
ステップ1後の試験槽内を40℃、相対湿度40%RHの環境で6時間保持する。
【0101】
ステップ0を実施した後、ステップ1及びステップ2を1週間繰り返す処理を基本パターンとした。ステップ1及びステップ2の合計実施時間が12週となるように、基本パターン(ステップ0~ステップ2)を繰り返した。
【0102】
試験終了後の塗膜付きバルブプレートの球部の発錆度を目視で観察した。球部を含む表面を平面視した場合に、球部に錆が観察されなかった場合、評価Aとした(表2中の「球部発錆度」欄で「A」で表記)。球部に錆が観察されたものの、平面視したときの球部における錆が発生した領域が、平面視での球部の50%未満である場合、評価Bとした(表2中の「球部発錆度」欄で「B」で表記)。球部に錆が観察されたものの、平面視したときの球部における錆が発生した領域が、平面視での球部の50%以上である場合、評価Cとした(表2中の「球部発錆度」欄で「C」で表記)。評価B又は評価Cの場合、塗膜付きバルブプレートにおいて、十分な耐食性が得られなかったと判断した。
【0103】
[評価結果]
表1-1、表1-2、表2及び表3を参照して、試験番号1~27では、バルブプレートが特徴1及び特徴2を満たした。そのため、鋳造性評価試験においてブレークアウトが発生せず、十分な鋳造性が得られた。さらに、耐食性評価試験において、腐食量は0.4mm以下であり、十分な耐食性が得られた。
【0104】
さらに、試験番号1~27に形成された塗膜では、下塗り塗膜の第1層の膜厚が30~100μmであり、下塗り塗膜の第2層の膜厚が100~200μmであり、中塗り塗膜の膜厚が20~50μmであり、上塗り塗膜の膜厚が20~50μmであった。そのため、端部発錆試験において、球部の耐食性に優れた。
【0105】
一方、試験番号28では、Cu含有量が低すぎた。そのため、耐食性評価試験において腐食量が0.4mmを超え、十分な耐食性が得られなかった。さらに、端部発錆試験において、球部の耐食性が低かった。
【0106】
試験番号29では、Cu含有量が高すぎた。そのため、十分な鋳造性が得られなかった。
【0107】
試験番号30では、Ni含有量が低すぎた。そのため、十分な鋳造性が得られなかった。
【0108】
試験番号31では、Ni含有量が高すぎた。そのため、耐食性評価試験において腐食量が0.4mmを超え、十分な耐食性が得られなかった。さらに、端部発錆試験において、球部の耐食性が低かった。
【0109】
試験番号32では、Sn含有量が低すぎた。そのため、耐食性評価試験において、腐食量が0.4mmを超え、十分な耐食性が得られなかった。さらに、端部発錆試験において、球部の耐食性が低かった。
【0110】
試験番号33では、Sn含有量が高すぎた。そのため、耐食性評価試験において腐食量が0.4mmを超え、十分な耐食性が得られなかった。さらに、端部発錆試験において、球部の耐食性が低かった。
【0111】
試験番号34では、Mo含有量が低すぎた。その結果、端部発錆試験において、球部の耐食性が低かった。
【0112】
試験番号35では、Mo含有量が高すぎた。そのため、耐食性評価試験において腐食量が0.4mmを超え、十分な耐食性が得られなかった。さらに、端部発錆試験において、球部の耐食性が低かった。
【0113】
試験番号36及び41では、Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上の合計含有量Txが高すぎた。そのため、耐食性評価試験において腐食量が0.4mmを超え、十分な耐食性が得られなかった。さらに、端部発錆試験において、球部の耐食性が低かった。
【0114】
試験番号37及び39では、Cr含有量が高すぎた。そのため、耐食性評価試験において腐食量が0.4mmを超え、十分な耐食性が得られなかった。さらに、端部発錆試験において、球部の耐食性が低かった。
【0115】
試験番号40及び42では、Sb、Co、Ge、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上の合計含有量Txが低すぎた。そのため、耐食性評価試験において腐食量が0.4mmを超え、十分な耐食性が得られなかった。さらに、端部発錆試験において、球部の耐食性が低かった。
【0116】
試験番号43及び44では、F1が低すぎた。そのため、十分な鋳造性が得られなかった。
【0117】
試験番号45及び46では、F1が高すぎた。そのため、十分な鋳造性が得られなかった。
【0118】
なお、試験番号38のバルブプレートは特徴1及び特徴2を満たした。しかしながら、塗膜仕様がCであった。そのため、端部発錆試験において、球部の耐食性が低かった。
【0119】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。