(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044883
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20240326BHJP
H01M 8/04223 20160101ALI20240326BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20240326BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20240326BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20240326BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240326BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/04223
H01M8/04746
H01M8/04858
H01M8/0247
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150676
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】河内 達磨
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA02
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD03
5H126EE03
5H127AA06
5H127AA09
5H127AC05
5H127AC07
5H127AC15
5H127BA01
5H127BA03
5H127BA21
5H127BA57
5H127BB02
5H127BB10
5H127BB12
5H127BB37
5H127DA20
5H127DC02
5H127DC42
(57)【要約】
【課題】発電効率の低下防止と構成の簡素化との両立が図られた燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システム1における燃料電池10は、電解質膜11、アノード触媒層12、アノード側拡散層21、カソード触媒層13、カソード側拡散層22を備え、電解質膜11の面方向が鉛直方向Yに平行となるように配置される。通常運転時にはアノード側拡散層21に液体燃料が供給され且つカソード側拡散層22に酸化剤が供給されて電力を出力し、リフレッシュ運転時には液体燃料の供給を停止してアノード側拡散層21に水又は水溶液が供給されない状態を維持して放電を行う。アノード側拡散層21には、一方の端部41がリフレッシュ運転時に生じるガスが鉛直方向上方Y1に残存してなる気体領域211に位置し、他方の端部42が鉛直方向下方Y2に液体が残存してなる液体領域212に位置するように配置されたマイクロチューブ40が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料と酸化剤とを反応させることによって電極反応により電力を出力可能に構成された燃料電池と、
上記燃料電池への液体燃料の供給と供給停止とを切り替え可能に構成された制御装置と、
を備える燃料電池システムであって、
上記燃料電池は、電解質膜と、上記電解質膜の一方の面に順次積層されたアノード触媒層及びアノード側拡散層と、上記電解質膜の他方の面に順次積層されたカソード触媒層及びカソード側拡散層とを備え、上記電解質膜の面方向が鉛直方向に平行となるように配置され、
上記制御装置は、
通常運転時には、上記アノード側拡散層に上記液体燃料が供給され且つ上記カソード側拡散層に上記酸化剤が供給されて生じる電極反応により電力を出力するように構成されており、
出力回復のためのリフレッシュ運転時には、上記液体燃料の供給を停止して上記アノード側拡散層に水又は水溶液が供給されない状態を維持して放電を行うように構成されており、
上記アノード側拡散層には、一方の端部が上記リフレッシュ運転時に電極反応により生じるガスが鉛直方向上方に残存してなる気体領域に位置するとともに、他方の端部が鉛直方向下方に液体が残存してなる液体領域に位置するように配置されたマイクロチューブが設けられている、燃料電池システム。
【請求項2】
上記マイクロチューブは鉛直方向に平行に延在している、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
上記アノード側拡散層は、水平断面において、上記マイクロチューブが配置された第1領域と上記マイクロチューブが配置されていない第2領域とを備える、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
上記アノード側拡散層の上記アノード触媒層と反対側には、上記液体燃料を上記アノード側拡散層に供給する流路を有するアノード側セパレータが積層されており、
上記アノード側セパレータは、上記アノード側拡散層に対向する面に上記流路を区画するリブを有しており、
上記アノード側拡散層の厚さ方向から見て、上記第1領域は上記リブと重なる位置に位置しており、上記第2領域は隣り合う上記リブ同士の間の上記流路と重なる位置に位置している、請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
上記第1領域と上記第2領域とは、上記アノード側拡散層の厚さ方向に垂直な方向に交互に並んでいる、請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
上記マイクロチューブは、上記アノード側拡散層の厚さ方向に中央位置よりも上記アノード触媒層と反対側の領域に設けられている、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
上記マイクロチューブは導電性を有する、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
上記マイクロチューブの他方の端部は、上記リフレッシュ運転の間、継続して上記液体領域に位置している、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
上記マイクロチューブの他方の端部は、鉛直方向において異なる位置に位置している、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体燃料を用いた固体高分子型の燃料電池は、一般に、電解質膜の一方の面にアノード触媒層及びアノード側拡散層が積層され、他方の面にカソード触媒層及びカソード側拡散層が積層されており、アノード側拡散層を介してアノード触媒層に液体燃料が直接供給され且つカソード側拡散層を介してカソード触媒層に酸化剤が外部から供給されることにより電極反応が生じて発電される。このような固体高分子型の燃料電池では、電極反応によりガスと水とが発生することとなる。
【0003】
このような固体高分子型の燃料電池の例として特許文献1に開示された構成では、アノード側拡散層のアノード触媒層側の面に導電性多孔質層を設けて、アノード触媒層において上記ガスの拡散性と水の排出性を向上して発電効率の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような固体高分子型の燃料電池においては、通常運転を連続して行うことで徐々に出力電力が低下する現象が生じる場合がある。このような出力電力の低下を抑制して出力電力を維持するためには、定期的に燃料電池への液体燃料の供給を停止した状態でアノード・カソード間をショートさせて強制放電を行うリフレッシュ運転を実行する必要がある。リフレッシュ運転終了後はアノード・カソード間のショートを解除し、燃料電池への液体燃料の供給を開始することで、出力電力が回復した状態で再度運転を行うことができる。
【0006】
リフレッシュ運転中は液体燃料が供給されないため、リフレッシュ運転開始時に既にアノード側拡散層内に存在していたガスや、リフレッシュ運転中の強制放電により、リフレッシュ運転開始時にアノード側拡散層に残存する液体燃料が消費されて発生したガスがアノード側拡散層の上方領域に残留することとなる。そして、リフレッシュ運転が長期間実施されたり、リフレッシュ運転後の再運転までに長期間が経過したりした場合には、アノード側拡散層の上方領域に残留したガスによりアノード触媒層及び電解質膜が乾燥して非可逆的な変化を起こし、当該燃料電池の内部抵抗の急激な上昇を招いて発電効率が低下することとなる。
【0007】
一方、リフレッシュ運転中にアノード側拡散層に液体燃料に替えて水等を供給することで、液体燃料の供給を停止しつつアノード側拡散層への水分の供給を継続することで、リフレッシュ運転中においてもガスを系外に排出して、アノード触媒層及び電解質膜の乾燥を防止することができる。しかしながら、この場合には、アノード側拡散層に当該水等を供給するための構成が必要となることから装置が複雑化することとなる。
【0008】
本発明は、発電効率の低下防止と構成の簡素化との両立が図られた燃料電池システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、液体燃料と酸化剤とを反応させることによって電極反応により電力を出力可能に構成された燃料電池と、
上記燃料電池への液体燃料の供給と供給停止とを切り替え可能に構成された制御装置と、
を備える燃料電池システムであって、
上記燃料電池は、電解質膜と、上記電解質膜の一方の面に順次積層されたアノード触媒層及びアノード側拡散層と、上記電解質膜の他方の面に順次積層されたカソード触媒層及びカソード側拡散層とを備え、上記電解質膜の面方向が鉛直方向に平行となるように配置され、
上記制御装置は、
通常運転時には、上記アノード側拡散層に上記液体燃料が供給され且つ上記カソード側拡散層に上記酸化剤が供給されて生じる電極反応により電力を出力するように構成されており、
出力回復のためのリフレッシュ運転時には、上記液体燃料の供給を停止して上記アノード側拡散層に水又は水溶液が供給されない状態を維持して放電を行うように構成されており、
上記アノード側拡散層には、一方の端部が上記リフレッシュ運転時に電極反応により生じるガスが鉛直方向上方に残存してなる気体領域に位置するとともに、他方の端部が鉛直方向下方に液体が残存してなる液体領域に位置するように配置されたマイクロチューブが設けられている、燃料電池システムにある。
【発明の効果】
【0010】
上記態様の燃料電池システムによれば、リフレッシュ運転時において、マイクロチューブを介した毛細管現象により、アノード側拡散層の鉛直方向下方領域に液体が残存してなる液体領域から吸い上げられて、アノード側拡散層の鉛直方向上方にガスが残存してなる気体領域に供給されることとなる。その結果、気体領域においてアノード触媒層及びアノード側拡散層が乾燥することが抑制されるため、リフレッシュ運転が長期間実施されたり、リフレッシュ運転後の通常運転再開までに長期間が経過したりした場合でも燃料電池の内部抵抗の上昇が抑制されて、発電効率の低下が防止されるとともに、当該燃料電池の耐久性向上を図ることができる。また、リフレッシュ運転時に外部からアノード側拡散層に水等を供給するための構成を要しないため、装置構成の簡素化を図ることができる。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、発電効率の低下防止と構成の簡素化との両立が図られた燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1における、燃料電池システムの構成を示す概念図。
【
図2】実施形態1における、燃料電池の構成を示す概念断面図。
【
図3】
図2における、III-III線位置矢視断面図。
【
図4】実施形態1における、マイクロチューブの断面図。
【
図6】変形形態1における、
図2のV-V線位置での矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
1.燃料電池システム1の構成
実施形態1では、
図1に示すように燃料電池システム1は、燃料電池10と制御装置105とを備える。そして、燃料電池10は、単体セルUとして複数積層されて燃料電池スタック100を形成している。燃料電池スタック100において積層された複数の単体セルUはホルダH及びボルトBによって保持される。燃料電池スタック100には、燃料タンク101に貯留された液体燃料であるギ酸を加圧して供給する第1ポンプ102が配管を介して接続部K1に接続される。また、燃料電池スタック100には、ガスタンク103に貯留された酸化剤(酸化剤ガス)として酸素ガスを加圧して供給する第2ポンプ104が配管を介して接続部K2に接続される。第1ポンプ102及び第2ポンプ104の動作は、制御装置105により制御される。
【0014】
2.燃料電池10の構成
図2に示すように、燃料電池10は、電解質膜11、アノード触媒層12、カソード触媒層13を備える。電解質膜11の一方の面にアノード触媒層12が積層され、他方の面にカソード触媒層13が積層されて、電極構造体であるMEA(Membrane-Electrode-Assembly:膜―電極接合体)を形成している。アノード触媒層12及びカソード触媒層13は、例えば、電解質膜11のそれぞれの面に、白金(Pt)やパラジウム(Pd)等の金属触媒及びこれら金属触媒が付加されたカーボン及び電解質がコーティングされて形成される。なお、燃料電池10は、電解質膜11の面方向が鉛直方向Yに平行となるように配置されている。
【0015】
アノード触媒層12にはアノード側拡散層21が積層されており、カソード触媒層13にはカソード側拡散層22が積層されている。アノード側拡散層21及びカソード側拡散層22はそれぞれ多孔質材料からなる。
【0016】
アノード側拡散層21のアノード触媒層12と反対側にはアノード側セパレータ31が積層されている。アノード側セパレータ31は例えば、樹脂材料により形成することができる。アノード側セパレータ31のアノード触媒層12に対向する面には複数のリブ33が設けられており、複数のリブ33の間に形成された溝により液体燃料の流路34が形成されている。流路34には、第1ポンプ102を介して加圧された液体燃料が供給されるように構成されている。カソード側拡散層22のカソード触媒層13と反対側にはカソード側セパレータ32が積層されている。カソード側セパレータ32もアノード側セパレータ31と同様の構成とすることができる。なお、カソード側拡散層22には第2ポンプ104を介して加圧された酸化剤が供給される。
【0017】
当該燃料電池10のアノード側拡散層21及びアノード触媒層12に対して供給される燃料としては、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)等の液体燃料を例示することができ、本実施形態1では、燃料電池10が液体燃料としてギ酸を直接用いる直接ギ酸型燃料電池(DFAFC)である場合を例示する。また、燃料電池10のカソード側拡散層22及びカソード触媒層13に対して供給される酸化剤(酸化剤ガス)としては、酸素(O2)ガス、空気等を例示することができ、本実施形態1では、酸素ガスを用いる場合を例示する。
【0018】
3.マイクロチューブ40の構成及び配置
アノード側拡散層21には、マイクロチューブ40が設けられている。マイクロチューブ40はμmオーダーの直径を有する環状部材である。マイクロチューブ40の直径は限定されないが、例えば、
図3に示すアノード側拡散層21の厚さD1の2分の1であるD2以下とすることができる。例えば、アノード側拡散層21の厚さD1は200~250μmとすることができ、マイクロチューブ40の直径の上限は100~125μmとすることができる。マイクロチューブ40の断面形状は限定されないが、本実施形態1では断面形状は円環状となっている。なお、本実施形態1では、アノード側拡散層21は平面視で50mm×50mmの大きさとしている。
【0019】
図2に示すように、マイクロチューブ40の一方の端部41は、後述するアノード側拡散層21における上方領域である気体領域211に位置しており、マイクロチューブ40の他方の端部42は後述するアノード側拡散層21における下方領域である液体領域212に位置している。
【0020】
マイクロチューブ40の一方の端部41は、アノード側拡散層21の上端位置と実質的に同じ位置にあることが好ましい。これにより、後述するようにマイクロチューブ40の一方の端部41から染み出た液体を気体領域211の広い範囲に行き渡らせやすくなる。
【0021】
また、マイクロチューブ40の他方の端部42は、液体領域212において気体領域211との境界位置213に近い位置にあることが好ましい。これにより、マイクロチューブ40において後述する毛細管現象によるマイクロチューブ40を介した液体の移動量を小さくできる。一方、マイクロチューブ40の他方の端部42は、リフレッシュ運転の間継続して液体領域212内に位置していることが好ましい。これにより、リフレッシュ運転の間中、後述する気体領域211への液体の移動を行うことができる。
【0022】
本実施形態1では、マイクロチューブ40は鉛直方向Yに平行に延在しており、棒状をなしている。なお、マイクロチューブ40は鉛直方向Yに対して傾斜した方向に延在していてもよく、マイクロチューブ40の形状は棒状に限定されず、一部が湾曲した形状であってもよい。
【0023】
マイクロチューブ40の数は限定されず、本実施形態1では複数のマイクロチューブ40を設けている。そして、
図3に示すように、アノード側拡散層21は水平断面において、マイクロチューブ40が配置された第1領域21aと、マイクロチューブ40が配置されていない第2領域21bとを有する。すなわち、アノード側拡散層21は水平断面の全域にマイクロチューブ40が配置された状態にはなっていない。そして、本実施形態1では、第1領域21aと第2領域21bとはアノード側拡散層21の厚さ方向Zに垂直な方向である幅方向Xに平行に交互に並んでいる。
【0024】
そして、本実施形態1では、マイクロチューブ40が配置された第1領域21aはアノード側拡散層21の厚さ方向Zから見てリブ33と重なる位置に配置されており、マイクロチューブ40が配置されていない第2領域21bは隣り合うリブ33同士の間の流路34に対向する位置に位置している。さらに、本実施形態1では、マイクロチューブ40が配置された第1領域21aはアノード側拡散層21のアノード側セパレータ31側の表面に露出して、マイクロチューブ40がリブ33に接するように設けられている。なお、マイクロチューブ40はアノード側セパレータ31側の表面に露出せずに、アノード側拡散層21の厚さ方向Zから見たときにリブ33と重なる位置であってアノード側拡散層21の内部の位置に位置していてもよい。
【0025】
なお、すべてのリブ33に対向する位置にマイクロチューブ40を設けてリブ33毎に第1領域21aを形成してもよいし、特定のリブ33に対向する位置にのみマイクロチューブ40を設けて第1領域21aを形成してもよい。また、各第1領域21aを形成するマイクロチューブ40の数は限定されず、複数のマイクロチューブ40を配置して一つの第1領域21aを形成することができる。
【0026】
マイクロチューブ40の形成材料は限定されないが、成型性を考慮して樹脂製とすることができる。また、マイクロチューブ40の形成材料は、高い親水性を有することが好ましい。この場合は、マイクロチューブ40において後述する毛細管現象によるマイクロチューブ40を介した水分の移動量及び移動速度を大きくすることができる。親水性は接触角に基づいて評価することができ、高い親水性を有するには接触角が小さい方が好ましい。なお、マイクロチューブ40に要求される親水性は、液体燃料の供給管の径、マイクロチューブ40における液体燃料との接触面の形状などにより変動しうる。
【0027】
マイクロチューブ40は導電性を有することが好ましい。例えば、マイクロチューブ40に金属メッキを施して、マイクロチューブ40の表面に金属製被膜を形成することによりマイクロチューブ40に高い導電性を付与することができる。本実施形態1では、
図4に示すマイクロチューブ40の断面拡大図のように、マイクロチューブ40の外周面43に金メッキによりAu被膜44を形成して、高い導電性を付与している。
【0028】
4.燃料電池システム1の運転態様
燃料電池システム1では、通常運転とリフレッシュ運転との運転モードの切り替えが行われる。通常運転は、燃料電池システム1を電源とする外部負荷Cに出力電力を供給する運転モードである。リフレッシュ運転は、通常運転が長時間継続した連続運転により出力が低下したときに出力回復を行うための運転モードである。
【0029】
そして、運転モードの切り替えは、制御装置105により行われる。
図1に示すように制御装置105は、切替部106を備える。切替部106は、電力線を介して燃料電池スタック100の出力端子Tに接続されている。通常運転時には、切替部106は燃料電池システム1を電源とする外部負荷Cと通電する状態とするとともに、第1ポンプ102及び第2ポンプ104を駆動して燃料電池10に液体燃料を供給する状態に切り替えて、当該外部負荷Cに燃料電池10の出力電力を供給する。
【0030】
一方、リフレッシュ運転時には、切替部106は第1ポンプ102及び第2ポンプ104を停止してアノード側拡散層21への液体燃料の供給を停止してアノード側拡散層21に水及び水溶液が供給されない状態を維持するとともに、燃料電池10の電力をグランドに出力するように切り替えて、燃料電池10の出力が実質的に0Wになるまで強制的に放電する。
【0031】
5.リフレッシュ運転時のアノード側拡散層21の状態
リフレッシュ運転時には、アノード側拡散層21への液体燃料の供給が停止されるため、これに伴ってアノード側拡散層21で電極反応により生じたガスが系外に排出されることも停止される。これにより、リフレッシュ運転開始時にアノード側拡散層21に存在していたガスやリフレッシュ運転開始後の強制放電により発生したガスは、アノード側拡散層21に残存することとなる。そして、当該ガスはアノード側拡散層21内を鉛直方向上方Y1に移動して、
図5に示すように、アノード側拡散層21の上方に気体領域211を形成する。一方、アノード側拡散層21の下方には、アノード側拡散層21内に残存した液体が液体領域212を形成する。上方の気体領域211及び下方の液体領域212の境界位置213は、通常運転時の運転条件や液体燃料の濃度などに基づいて算出することができる。なお、液体燃料としてギ酸を用いる本実施形態1では、気体領域211を形成するガスはCO
2ガスであり、液体領域212を形成する液体は水又はギ酸水溶液である。
【0032】
6.リフレッシュ運転時の液体移動
図5に示すように、リフレッシュ運転中では、アノード側拡散層21において上方に気体領域211が形成され、下方に液体領域212が形成される。そして、マイクロチューブ40における毛細管現象により、矢印A1で示すように液体領域212の液体の一部が液体領域212に位置するマイクロチューブ40の下端42から流入し、矢印A2で示すようにマイクロチューブ40によって吸い上げられて、延在方向である鉛直方向上方Y1に向かって移動する。そして、吸い上げられた液体は、矢印A3で示すように気体領域211に位置するマイクロチューブ40の上端41から気体領域211に染み出る。これにより、当該染み出た液体により気体領域211が湿潤され、アノード側拡散層21の気体領域211及びアノード触媒層12の気体領域211と接する領域の乾燥が防止される。
【0033】
マイクロチューブ40における毛細管現象による液体の移動量hは、下記の式(1)の計算式により算出することができる。
h=(2T・cosθ)/(ρ・g・r) ・・・・(1)
ただし、T:表面張力
θ:接触角
ρ:液体の密度
g:重力加速度
r:マイクロチューブ40の内径(半径)
【0034】
例えば、本実施形態1のように、マイクロチューブ40の直径を100μm、接触角を20degとした場合には、マイクロチューブ40における毛細管現象による液体の移動量hは上記式(1)から約140mmと算出され、本実施形態1におけるアノード側拡散層21の大きさ(50mm×50mm)に対して十分な移動量が確保されていることが確認できる。
【0035】
7.作用効果
次に、本実施形態の燃料電池システム1における作用効果について、詳述する。燃料電池システム1によれば、リフレッシュ運転時において、マイクロチューブ40を介した毛細管現象により、アノード側拡散層21の鉛直方向下方領域に液体が残存してなる液体領域212から吸い上げられて、アノード側拡散層21の鉛直方向上方Y1にガスが残存してなる気体領域211に供給されることとなる。その結果、気体領域211においてアノード触媒層12及びアノード側拡散層21が乾燥することが抑制されるため、リフレッシュ運転が長期間実施されたり、リフレッシュ運転後の通常運転再開までに長期間が経過したりした場合でも燃料電池10の内部抵抗の上昇が抑制されて、発電効率の低下が防止されるとともに、燃料電池10の耐久性向上を図ることができる。また、リフレッシュ運転時に外部からアノード側拡散層21に水等を供給するための構成を要しないため、装置構成の簡素化を図ることができる。
【0036】
また、本実施形態1では、マイクロチューブ40は鉛直方向Yに平行に延在している。これにより、マイクロチューブ40を介した毛細管現象による液体の移動距離を最小とすることができ、気体領域211における乾燥の防止を一層図ることができる。
【0037】
また、本実施形態1では、アノード側拡散層21は、水平断面において、マイクロチューブ40が配置された第1領域21aとマイクロチューブ40が配置されていない第2領域21bとを備える。これにより、アノード側拡散層21においてマイクロチューブ40が配置されていない第2領域21bが確保されることから、アノード側拡散層21におけるガス拡散効果の低下を抑制して発電効率の維持を図ることができる。
【0038】
また、本実施形態1では、アノード側拡散層21のアノード触媒層12と反対側には、液体燃料をアノード側拡散層21に供給する流路34を有するアノード側セパレータ31が積層されている。そして、アノード側セパレータ31は、アノード側拡散層21に対向する面に流路34を区画するリブ33を有しており、アノード側拡散層の厚さ方向Zから見て、マイクロチューブ40が配置された第1領域21aはリブ33と重なる位置に位置しており、マイクロチューブ40が配置されていない第2領域21bは隣り合うリブ33同士の間の流路34と重なる位置に位置している。これにより、流路34を介して供給された液体燃料のアノード側拡散層21への移動がマイクロチューブ40よって阻害されることを抑制することができ、発電効率の維持を図ることができる。
【0039】
また、本実施形態1では、第1領域21aと第2領域21bとがアノード側拡散層21の厚さ方向Zに垂直な方向Xに交互に並んでいる。これにより、アノード側拡散層21において、第1領域21aと第2領域21bとがバランスよく配置されることから、マイクロチューブ40による気体領域211での乾燥防止の効果と、アノード側拡散層21におけるガス拡散効果とをバランスよく発揮することができ、発電効率の維持・向上を図ることができる。
【0040】
また、本実施形態1では、マイクロチューブ40は、アノード側拡散層21の厚さ方向Zに中央位置よりもアノード触媒層12と反対側の領域に設けられている。これにより、マイクロチューブ40がアノード触媒層12と離間した位置に配置されることとなるため、マイクロチューブ40によってアノード触媒層12における電極反応が阻害されることを防止することができ、発電効率の維持を図ることができる。
【0041】
また、本実施形態1では、マイクロチューブ40の下端42は、リフレッシュ運転の間、継続して液体領域212に位置するように構成されている。これにより、リフレッシュ運転の間中、マイクロチューブ40による気体領域211への液体の移動を行うことができるため、リフレッシュ運転の間中、気体領域211の乾燥を防止して発電効率の維持を一層図ることができる。
【0042】
また、本実施形態1では、マイクロチューブ40は導電性を有する。これにより、アノード触媒層12における電極反応により生じる電荷の移動を促進することができ、発電効率の維持・向上を図ることができる。
【0043】
本実施形態1では、
図5に示すように、同一長さを有する複数のマイクロチューブ40を用いて、マイクロチューブ40の下端42が同一高さに位置するように構成したが、これに替えて、
図6に示す変形形態1のように、複数のマイクロチューブ40が互いに長さの異なるマイクロチューブ40a、40bを含んでおり、それぞれの下端42は鉛直方向Yにおいて互いに異なる高さに位置するように構成してもよい。
【0044】
当該変形形態1では、長さの短いマイクロチューブ40aでは液体の移動距離も短くなるため移動時間は短くて済む。そのため、液面(気体領域211と液体領域212との境界位置213)が高い位置にある場合には、長さの短いマイクロチューブ40aに早期に液体を気体領域211に移動することにより気体領域211における乾燥を早期に防止できるとともに、液面が低い位置にある場合には、長さの長いマイクロチューブ40bによって液体を気体領域211に移送することにより気体領域211における乾燥を防止することができる。なお、複数のマイクロチューブ40は、さらに長さの異なるマイクロチューブを含んでいてもよい。
【0045】
以上のごとく、上記本実施態様1及び変形形態1によれば、発電効率の低下防止と構成の簡素化との両立が図られた燃料電池システム1を提供することができる。
【0046】
本発明は上記実施形態1及び変形形態1に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1:燃料電池システム、10:燃料電池、11:電解質膜、12:アノード触媒層、13:カソード触媒層、21:アノード側拡散層、21a:第1領域、21b:第2領域、22:カソード側拡散層、31:アノード側セパレータ、32:カソード側セパレータ、33:リブ、34:流路、40・40a・40b:マイクロチューブ、105:制御装置、211:気体領域、212:液体領域、213:境界位置(液面)