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  • 特開-継目無鋼管 図1
  • 特開-継目無鋼管 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044890
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】継目無鋼管
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240326BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20240326BHJP
   C21D 8/10 20060101ALN20240326BHJP
   C21D 9/08 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/54
C21D8/10 A
C21D9/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150700
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】三木 健史
(72)【発明者】
【氏名】土居 明
(72)【発明者】
【氏名】長山 展公
(72)【発明者】
【氏名】長濱 和
(72)【発明者】
【氏名】小澤 和樹
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA36
4K032AA40
4K032BA03
4K032CA03
4K032CB00
4K032CB01
4K032CB02
4K032CC04
4K032CD05
4K032CD06
4K032CF03
4K042AA06
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA14
4K042CA02
4K042CA03
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042CA14
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC03
4K042DE02
4K042DE03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軽量化と溶接部強度の確保とを両立可能な継目無鋼管を提供する。
【解決手段】化学組成が、質量%で、C:0.10~0.20%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~1.20%、P≦0.025%、S≦0.005%、Cu≦0.20%、N≦0.007%、Ni:0.20~0.50%、Cr:0.30%以上0.50%未満、Mo:0.30~0.50%、Nb:0.01~0.05%、Al:0.001~0.100%、B:0.0005~0.0020%、Ti:0.003~0.050%、V:0.01~0.20%、Ca、MgおよびREMのいずれか1種以上の合計:0~0.0250%、残部:Feおよび不純物であり、Pcm(=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B)≦0.30であり、引張強度≧980MPaである継目無鋼管。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延び、一対の管端を有する継目無鋼管であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.10~0.20%、
Si:0.05~1.00%、
Mn:0.05~1.20%、
P:0.025%以下、
S:0.005%以下、
Cu:0.20%以下、
N:0.007%以下、
Ni:0.20~0.50%、
Cr:0.30%以上0.50%未満、
Mo:0.30~0.50%、
Nb:0.01~0.05%、
Al:0.001~0.100%、
B:0.0005~0.0020%、
Ti:0.003~0.050%、
V:0.01~0.20%、
Ca、MgおよびREMのいずれか1種以上の合計:0~0.0250%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記[A]式で表わされるPcmの値が0.30以下であり、
引張強さが980MPa以上であり、
前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における肉厚Tが10mm以下であり、
前記一対の管端の少なくとも一端側に厚肉部を有し、
前記一端側の厚肉部の肉厚TE1が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における肉厚Tとの関係において、下記(i)式を満足し、かつ、
前記一端側の厚肉部の前記長手方向における長さLE1が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における外径ODとの関係において、下記(ii)式を満足する、
継目無鋼管。
Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B ・・・[A]
但し、[A]式中の元素記号は、各元素の鋼中含有量(質量%)を意味し、含有されない場合はゼロとする。
1.20×T≦TE1 ・・・(i)
1.50×OD≦LE1 ・・・(ii)
【請求項2】
前記一端側の厚肉部の外径ODE1が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における外径ODとの関係において、下記(iii)式を満足する、
請求項1に記載の継目無鋼管。
0.99×OD≦ODE1≦1.01×OD ・・・(iii)
【請求項3】
前記一対の管端の他端側に厚肉部を有し、
前記他端側の厚肉部の肉厚TE2が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における肉厚Tとの関係において、下記(iv)式を満足し、かつ、
前記他端側の厚肉部の前記長手方向における長さLE2が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における外径ODとの関係において、下記(v)式を満足する、
請求項1または請求項2に記載の継目無鋼管。
1.20×T≦TE2 ・・・(iv)
1.50×OD≦LE2 ・・・(v)
【請求項4】
前記他端側の厚肉部の外径ODE2が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における外径ODとの関係において、下記(vi)式を満足する、
請求項3に記載の継目無鋼管。
0.99×OD≦ODE2≦1.01×OD ・・・(vi)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造部材のうちで円筒形のものには、従来、棒鋼に鍛造または延伸圧延を施して、あるいはさらに切削加工を施して所望の形状とした後に、熱処理が施され、機械構造部材に必要な機械的性質が付与されることが多かった。
【0003】
しかしながら、近年、構造物の大型化および高耐力化の傾向を受けて、円筒形の構造部材を中空の継目無鋼管に置き換えることで軽量化が計られてきた。特に、クレーンのブーム材等、円筒形の構造部材としての鋼管は、クレーンの大型化、高層建築の作業等に鑑みて、高強度化が求められてきた。最近では、ブーム用の継目無鋼管には、980MPa以上の引張強さを有することが要求されるようになってきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、引張強さが980MPa以上の高強度を有するとともに低温靱性にも優れ、かつPcmが0.30以下と小さく溶接性に優れる継目無鋼管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/025778号
【特許文献2】特開2016-68088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、クレーンのブーム材またはジブ材等の用途では、継目無鋼管は、管端を溶接によって接合して使用される。その際、溶接部の強度が母材強度と同等またはそれ以上でないと構造物として強度が十分でないといえる。しかし、特許文献1では、溶接部の強度については何ら言及されていない。そのため、溶接部における強度が母材強度と同等またはそれ以上である鋼管の開発が必要であった。
【0007】
本発明は、軽量化と溶接部強度の確保とを両立することが可能な継目無鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記に示す継目無鋼管を要旨とする。
【0009】
(1)長手方向に延び、一対の管端を有する継目無鋼管であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.10~0.20%、
Si:0.05~1.00%、
Mn:0.05~1.20%、
P:0.025%以下、
S:0.005%以下、
Cu:0.20%以下、
N:0.007%以下、
Ni:0.20~0.50%、
Cr:0.30%以上0.50%未満、
Mo:0.30~0.50%、
Nb:0.01~0.05%、
Al:0.001~0.100%、
B:0.0005~0.0020%、
Ti:0.003~0.050%、
V:0.01~0.20%、
Ca、MgおよびREMのいずれか1種以上の合計:0~0.0250%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記[A]式で表わされるPcmの値が0.30以下であり、
引張強さが980MPa以上であり、
前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における肉厚Tが10mm以下であり、
前記一対の管端の少なくとも一端側に厚肉部を有し、
前記一端側の厚肉部の肉厚TE1が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における肉厚Tとの関係において、下記(i)式を満足し、かつ、
前記一端側の厚肉部の前記長手方向における長さLE1が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における外径ODとの関係において、下記(ii)式を満足する、
継目無鋼管。
Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B ・・・[A]
但し、[A]式中の元素記号は、各元素の鋼中含有量(質量%)を意味し、含有されない場合はゼロとする。
1.20×T≦TE1 ・・・(i)
1.50×OD≦LE1 ・・・(ii)
【0010】
(2)前記一端側の厚肉部の外径ODE1が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における外径ODとの関係において、下記(iii)式を満足する、
上記(1)に記載の継目無鋼管。
0.99×OD≦ODE1≦1.01×OD ・・・(iii)
【0011】
(3)前記一対の管端の他端側に厚肉部を有し、
前記他端側の厚肉部の肉厚TE2が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における肉厚Tとの関係において、下記(iv)式を満足し、かつ、
前記他端側の厚肉部の前記長手方向における長さLE2が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における外径ODとの関係において、下記(v)式を満足する、
上記(1)または(2)に記載の継目無鋼管。
1.20×T≦TE2 ・・・(iv)
1.50×OD≦LE2 ・・・(v)
【0012】
(4)前記他端側の厚肉部の外径ODE2が、前記継目無鋼管の前記長手方向の中央位置における外径ODとの関係において、下記(vi)式を満足する、
上記(3)に記載の継目無鋼管。
0.99×OD≦ODE2≦1.01×OD ・・・(vi)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軽量化と溶接部強度の確保とを両立することが可能な継目無鋼管を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る継目無鋼管の形状を説明するための図である。
図2】y形溶接割れ試験方法に用いられる試験板の形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、継目無鋼管を溶接接合した際の、溶接部における強度を確保するための方法について鋭意研究を重ねた。その結果、下記の知見を得た。
【0016】
(a)溶接部の強度を確保するための方法として、溶接後の冷却速度を増加させることが考えられる。溶接後の冷却速度が速ければ、溶接熱影響部における軟化を抑制することができるためである。
【0017】
(b)継目無鋼管の肉厚が大きいほど、抜熱が促進されるため、溶接後の冷却速度は速くなる。しかし、肉厚の増加は、継目無鋼管の重量の増加を招くため、軽量化およびコスト低減の観点から、好ましくない。
【0018】
(c)継目無鋼管全体としては薄肉を維持しつつ、溶接接合される管端付近のみを厚肉化することによって、溶接後の冷却速度を増加させ、軽量化と溶接部の強度の確保とを両立することが可能となる。
【0019】
(d)継目無鋼管に対して、例えば、特許文献2に記載されるようなアップセット加工を施すことにより、管端付近のみの厚肉化が可能となる。この際、溶接後の抜熱の効果を十分に得るためには、厚肉化した部分の寸法の管理が極めて重要となる。
【0020】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0021】
(A)化学組成
本発明の一実施形態に係る継目無鋼管の化学組成の限定理由は次のとおりである。以下の説明において各元素の含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0022】
C:0.10~0.20%
Cは、強度を高めるために不可欠な元素である。C含有量が0.10%未満の場合、他の元素との関連で引張強度が980MPa以上という高強度を得難い場合がある。一方、C含有量が0.20%を超えると、溶接性が著しく低下する。したがって、C含有量は0.10~0.20%とする。C含有量は0.12%以上であるのが好ましく、0.18%以下であるのが好ましい。
【0023】
Si:0.05~1.00%
Siは、脱酸作用を有し、強度および焼入れ性の向上作用もある。これらの効果を得るには、Si含有量は0.05%以上とする必要がある。しかし、Si含有量が1.00%を超えると、靱性および溶接性が低下する。したがって、Si含有量は0.05~1.00%とする。Si含有量は0.10%以上であるのが好ましく、0.60%以下であるのが好ましい。
【0024】
Mn:0.05~1.20%
Mnは、脱酸作用を有し、強度および焼入れ性の向上作用もある。これらの効果を得るためには、Mnを0.05%以上含有させる必要がある。しかし、Mn含有量が1.20%を超えると、靱性が低下する。したがって、Mn含有量は0.05~1.20%とする。Mn含有量は0.30%以上であるのが好ましく、1.10%以下であるのが好ましい。
【0025】
P:0.025%以下
P含有量が0.025%を超えると、靱性の低下が著しくなって所定のシャルピー衝撃値を確保することが難しくなる。このため、不純物としてのP含有量を0.025%以下とする。P含有量は0.020%以下であることが好ましい。
【0026】
S:0.005%以下
S含有量が0.005%を超えると、靱性の低下が著しくなって所定のシャルピー衝撃値を確保することが難しくなる。このため、不純物としてのS含有量を0.005%以下とする。S含有量は0.003%以下であることが好ましい。
【0027】
Cu:0.20%以下
Cu含有量が0.20%を超えると、熱間加工性の低下を招くことがある。このため、不純物としてのCu含有量を0.20%以下とする。Cu含有量は0.05%以下であることが好ましい。
【0028】
N:0.007%以下
N含有量が0.007%を超えると、粗大な窒化物が形成されたり、固溶Bの確保が困難になり、特に、厚肉の継目無鋼管において、Bの焼入れ性向上効果が不十分となって十分な焼入れ組織が得られなかったりして、靱性の低下が著しくなるので、所定のシャルピー衝撃値を確保することが難しくなる。このため、不純物としてのN含有量を0.007%以下とする。N含有量は0.006%以下であることが好ましい。
【0029】
Ni:0.20~0.50%
Niは、焼入れ性、強度および靱性を向上させる作用がある。これらの効果を得るためには、Niを0.20%以上含有させる必要がある。一方、Niを0.50%を超えて含有させると、合金コストが嵩む。したがって、Ni含有量は0.20~0.50%とする。Ni含有量は0.30%以上であるのが好ましく、0.40%以下であるのが好ましい。
【0030】
Cr:0.30%以上0.50%未満
Crは、焼入れ性および強度を向上させる作用がある。これらの効果を得るためには、Crを0.30%以上含有させる必要がある。一方、良好な焼入れ性を確保するために、後述する0.0005~0.0020%のBとともに、CrおよびMoを複合して含有する低合金鋼の場合、Cr含有量が0.50%以上となると、焼戻し時に粗大な硼炭化物が形成されて靱性の低下を招くことがある。また、Pcm(溶接割れ感受性組成)が高くなり溶接割れが発生しやすくなる。したがって、Cr含有量は0.30%以上0.50%未満とする。Cr含有量は0.40%以上であるのが好ましい。また、Cr含有量は0.47%以下であるのが好ましく、0.45%以下であるのが好ましい。
【0031】
Mo:0.30~0.50%
Moは、焼入れ性および強度を向上させる作用がある。これらの効果を得るためには、Moを0.30%以上含有させる必要がある。一方、良好な焼入れ性を確保するために、後述する0.0005~0.0020%のBとともに、MoおよびCrを複合して含有する低合金鋼の場合、Mo含有量が0.50%を超えると、焼戻し時に粗大な硼炭化物が形成されて靱性の低下を招くことがある。また、Pcm(溶接割れ感受性組成)が高くなり溶接割れが発生しやすくなる。したがって、Mo含有量は0.30~0.50%とする。Mo含有量は0.40%以上であるのが好ましく、0.47%以下であるのが好ましい。
【0032】
Nb:0.01~0.05%
Nbは、Cまたは/およびNと結合して微細な析出物を形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制して、靱性を向上させる作用を有する。上記の効果を安定して確保するためには、Nbを0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、0.05%を超える量のNbを含有させると、析出物の量が増大し、却って靱性を劣化させる場合がある。したがって、Nb含有量は0.01~0.05%とする。Nb含有量は0.02%以上であるのが好ましく、0.04%以下であるのが好ましい。
【0033】
Al:0.001~0.100%
Alは、脱酸作用を有する元素である。この効果を確保するためには、Alを0.001%以上含有させる必要がある。一方、Alを0.100%を超えて含有させても上記の効果が飽和するうえに、地疵の発生も多くなる。したがって、Al含有量は0.001~0.100%とする。Al含有量は0.025%以上であるのが好ましく、0.055%以下であるのが好ましい。なお、本発明のAl含有量とは酸可溶Al(いわゆる「sol.Al」)での含有量を指す。
【0034】
B:0.0005~0.0020%
Bは、溶接性の点からPcmを0.30以下の低い値に抑制した継目無鋼管に、十分な焼入れ組織を具備させるのに極めて重要な元素であって、0.0005%以上含有させる必要がある。しかしながら、B含有量が0.0020%を超えると、CrおよびMoの含有量上限がいずれも0.50%であっても、それらを複合して含む場合には、焼戻し時に粗大な硼炭化物が形成されて、靱性の低下を招く場合がある。したがって、B含有量は0.0005~0.0020%とする。B含有量は0.0008%以上であるのが好ましく、0.0017%以下であるのが好ましい。
【0035】
Ti:0.003~0.050%
Tiは、焼戻しの際にTi炭化物として析出し、強度を向上させる作用を有する。Tiには、Nを固定して、Bの焼入れ性向上効果を発揮させるのに有効な固溶Bを確保する作用もある。これらの効果は、Ti含有量が0.003%以上で得られる。しかし、Tiの含有量が0.050%を超えると、凝固中など高温域で粗大なTi炭窒化物が形成し、また焼戻し時のTi炭化物の析出量が過剰となるため、靱性が低下する。したがって、Ti含有量は0.003~0.050%とする。Ti含有量は0.005%以上であるのが好ましく、0.015%以下であるのが好ましい。
【0036】
V:0.01~0.20%
Vは、焼戻しの際にV炭化物として析出し、強度を向上させる作用を有する。この効果は、V含有量が0.01%以上で得られる。しかし、V含有量が0.20%を超えると、焼戻し時のV炭化物の析出量が過剰となるため、靱性が低下する。また、Pcmが高くなり、溶接割れが発生しやすくなる。したがって、V含有量は0.01~0.20%とする。なお、V含有量は0.04%以上であるのが好ましく、0.15%以下であるのが好ましい。
【0037】
Ca、MgおよびREMのいずれか1種以上の合計:0~0.0250%
Ca、MgおよびREMは、いずれもSと反応して硫化物を形成することにより介在物の形態を改善し、靱性を向上させる作用を有する。このため、必要に応じてCa、MgおよびREMのいずれか1種以上を含有させてもよい。この効果を安定して得るためには、これら成分の含有量は、合計で0.0005%以上であることが好ましい。一方、これら成分の合計の含有量が0.0250%を超えると、介在物量が増大して鋼の清浄性が低下するので、却って靱性が低下する。したがって、これらの元素の合計含有量の上限を0.0250%とする。合計含有量は0.0100%以下であることが好ましく、0.0050%以下であることがより好ましい。
【0038】
本発明において「REM」とは、Sc、Y、およびランタノイドの合計17元素を指し、「REMの含有量」とは、REMが1種の場合はその含有量、2種以上の場合はそれらの合計含有量を指す。また、REMは一般的には複数種のREMの合金であるミッシュメタルとしても供給されている。このため、個別の元素を1種または2種以上添加して含有させてもよいし、例えば、ミッシュメタルの形で添加してもよい。
【0039】
本実施形態に係る継目無鋼管は、上述の各元素と、残部がFeおよび不純物とからなる。ここで「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0040】
Pcm:0.30以下
本実施形態に係る継目無鋼管および鋼片は、下記[A]式で表されるPcmが0.30以下である。Pcmを0.30以下に制限することで、溶接部における低温割れの発生を抑制することが可能となる。
Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B ・・・[A]
但し、[A]式中の元素記号は、各元素の鋼中含有量(質量%)を意味し、含有されない場合はゼロとする。
【0041】
なお、Pcmの右辺の各元素は、それぞれ鋼管の強度を向上させる効果があるので、Pcmがあまりに小さい場合には、必要な強度が得られない可能性がある。引張強度で980MPa以上という高強度を安定して得るための実際的なPcmの下限は、0.22である。
【0042】
(B)特性
本発明の一実施形態に係る継目無鋼管の引張強さ(以下、「TS」という。)は980MPa以上である。TSが980MPa以上であれば、安定的に軽量化が行えるので、クレーンの大型化に対応可能なクレーンジブへの用途として、十分安定して用いることができる。該継目無鋼管のTSの好ましい下限は1000MPaである。また、該継目無鋼管のTSの好ましい上限は1100MPaである。なお、本実施形態に係る継目無鋼管の降伏応力(以下、「YS」という。)は890MPa以上であることが好ましく、900MPa以上であることがより好ましい。
【0043】
(C)形状および寸法
図1は、本発明の一実施形態に係る継目無鋼管の形状を説明するための図である。図1に示すように、継目無鋼管10は、長手方向に延び、一対の管端1a,1bを有する。そして、少なくとも管端を除く部分は直管形状を呈している。以下の説明において、管端を除く直管形状の部分を直管部1cともいい、直管部1cの肉厚および外径は、継目無鋼管10の長手方向の中央位置における肉厚および外径で代表することとする。
【0044】
継目無鋼管10は、クレーンジブとして用いられる場合、軽量化の観点から、直管部1cは薄肉であることが望まれる。そのため、直管部1cの肉厚、すなわち、継目無鋼管10の長手方向の中央位置における肉厚Tは10mm以下とする。継目無鋼管10の外径および長手方向における長さについては特に制限する必要はない。しかし、クレーンジブとしての使用を想定すると、長手方向の中央位置における外径ODは150mm以下、長さLは1~10mであることが好ましい。なお、以降の説明において、「長さ」とは、「継目無鋼管の長手方向における長さ」を意味することとする。
【0045】
また、図1に示すように、継目無鋼管10は、一対の管端1a,1bの一端側および他端側に厚肉部2a,2bを有する。図1に示す例では、継目無鋼管10は両端に厚肉部2a,2bを有しているが、少なくとも一端側に有していればよい。上述のように、直管部1cを薄肉としつつ、厚肉部2a,2bを有することによって、軽量化と溶接部強度の確保とを両立することが可能となる。
【0046】
溶接後の抜熱を十分に促進し、溶接部における強度低下を抑制するためには、厚肉部2a,2bの寸法を管理する必要がある。具体的には、一端側の厚肉部2aの肉厚をTE1、長さをLE1とした場合に、下記(i)式および(ii)式を満足する必要がある。
1.20×T≦TE1 ・・・(i)
1.50×OD≦LE1 ・・・(ii)
【0047】
なお、本発明における厚肉部とは、継目無鋼管10の長手方向の中央位置における肉厚Tの1.20倍以上の肉厚を有する部分を指す。すなわち、図1に示すように、厚肉部の長さとは、肉厚が1.20×T以上である領域の長さを意味する。また、厚肉部の肉厚とは、管端における肉厚を意味する。
【0048】
厚肉部2aの肉厚TE1および長さLE1に上限を設ける必要はないが、過剰であると継目無鋼管10の軽量化が困難になる。そのため、肉厚TE1は2.50×T以下とすることが好ましい。また、LE1は4.50×OD以下とすることが好ましい。
【0049】
なお、上述した特許文献2に記載されるように、油井管等のねじ部の形成を目的としたアップセット加工を行う場合には、内径を一定に保つ観点から、外径が増加するよう増肉するのが一般的である。しかしながら、本発明においては構造部材として使用されるため、外径は実質的に一定であることが好ましい。ここで、「実質的に一定」とは、厚肉部2aの外径ODE1が、下記(iii)式を満足することを意味する。(iii)式が不等式で表現されているのは、本実施形態における継目無鋼管では、「外径」に±1%の公差が許容されることを意味している。
0.99×OD≦ODE1≦1.01×OD ・・・(iii)
【0050】
また、継目無鋼管10が他端側の厚肉部2bを有する場合には、厚肉部2bの肉厚をTE2、長さをLE2とした場合に、下記(iv)式および(v)式を満足することが好ましい。
1.20×T≦TE2 ・・・(iv)
1.50×OD≦LE2 ・・・(v)
【0051】
厚肉部2bを有する場合も、上記と同様に、外径は実質的に一定であることが好ましく、厚肉部2bの外径ODE2が、下記(vi)式を満足することが好ましい。ここで、(vi)式が不等式で表現されているのは、本発明実施形態における継目無鋼管では、「外径」には±1%の公差が許容されることを意味している。
0.99×OD≦ODE2≦1.01×OD ・・・(vi)
【0052】
なお、一端側の厚肉部2aおよび他端側の厚肉部2bの形状は異なっていてもよい。しかしながら、厚肉部を形成する際に同一の金型を使用してアップセット加工するのが通常であるため、実質的に同一形状とする方が製造効率の観点から好ましい。ここで、「実質的に同一形状」とは、厚肉部2aの肉厚TE1および長さLE1、ならびに厚肉部2bの肉厚TE2および長さLE2が、下記(vii)式および(viii)式を満足することを意味する。(vii)式および(viii)式が不等式で表現されているのは、本実施形態における継目無鋼管では、「肉厚」および「長さ」には、それぞれ±15%、±2%の公差が許容されることを意味している。
0.85×TE1≦TE2≦1.15×TE1 ・・・(vii)
0.98×LE1≦LE2≦1.02×LE1 ・・・(viii)
【0053】
(D)製造方法
本発明の一実施形態に係る継目無鋼管は、以下の方法によって製造することができる。
【0054】
前記(A)項で述べた化学組成を有する鋼を、一般的な低合金鋼と同様の方法で溶製した後、鋳造によりインゴットまたは鋳片とする。なお、いわゆる「ラウンドCC」法によって、断面が円形の鋳片、すなわちビレットとしてもよい。
【0055】
次の工程として、鋳造されたインゴットまたは鋳片に、分塊圧延または熱間鍛造を施す。該工程は、最終的な熱間製管(例えば、熱間での穿孔、圧延および延伸工程による製管、または熱間押し出しプレスによる製管)に用いる素材を得る工程である。なお、上記「ラウンドCC」法によって鋳造したビレットは、直接それを用いて継目無鋼管に仕上げることができるので、必ずしも分塊圧延または熱間鍛造を施す必要はない。
【0056】
上記の分塊圧延または熱間鍛造で製造した、最終的な熱間製管に用いる素材およびビレット形状とした鋳片(以下、「鋼片」という。)に、以下に示す[i]から[v]までの工程を順に施して、本発明の継目無鋼管が製造される。
【0057】
[i]:鋼片を1200~1300℃に加熱した後、断面減少率で40~99%の加工を行って素管を製造する、熱間製管工程
上述した鋼片を1200~1300℃に加熱した後、断面減少率で40~99%の加工を行って所定の形状を有する素管を製造する。鋼片の加熱温度が1200℃を下回ると、次の断面減少率が40~99%で加工する際の変形抵抗が大きくなって製管設備が受ける負荷が大きくなるし、疵または割れ等の加工不良を生じることがある。一方、鋼片の加熱温度が1300℃を上回ると、高温粒界割れまたは延性低下をきたすことがある。したがって、熱間製管工程は、先ず、鋼片の加熱温度を1200~1300℃とする。
【0058】
鋼片の加熱温度が上記の範囲であっても、加熱後の熱間製管における断面減少率が40%を下回ると、後述する[ii]の冷却工程を経ても、[iv]の焼入れ工程で微細な焼入れ組織にならず、継目無鋼管に所望の機械的特性を具備させることができない場合がある。一方、断面減少率で99%を上回る製管工程には、製管設備の増設等が必要になる場合がある。したがって、熱間製管工程は、断面減少率で40~99%の加工を行うこととする。
【0059】
この[i]の工程での加熱温度は、鋼片の表面における温度を指す。上記温度域での保持時間は、鋼片のサイズおよび形状にもよるが60~300分とすることが好ましい。また、熱間製管での素管仕上げ温度は850~950℃とすることが好ましい。上述の素管仕上げ温度は、素管の外表面における温度を指す。[i]の工程において、加熱温度の好ましい下限は1230℃、また、好ましい上限は1280℃である。さらに、断面減少率の好ましい下限は50%、また、好ましい上限は90%である。
【0060】
[ii]:前記素管をAc点未満の温度まで冷却する、冷却工程
所定の形状に仕上げられた素管は、[iv]の焼入れ工程で微細な焼入れ組織を得るためにAc点未満の温度まで冷却される。この際の冷却速度については、特に制限がない。なお、熱間製管後の素管には、一旦室温まで冷却した後で、管端部を再加熱して次の[iii]の工程を施してもよいし、熱間製管後に、Ac点未満の適宜の温度まで冷却した後、該温度から直接に管端部を加熱して次の[iii]の工程を施してもよい。この[ii]の工程での冷却温度は、素管の外表面における温度を指す。
【0061】
[iii]:冷却した素管の管端部を1100~1250℃に加熱した後、アップセット加工を施す、アップセット加工工程
前記[ii]の工程で冷却した素管に対して、厚肉部を形成するためのアップセット加工が施される。まず、厚肉部を形成する管端部を1100~1250℃に加熱する。加熱後、マンドレルバーおよびダイスを用いて、アップセット加工を施し、厚肉部を形成する。マンドレルバーおよびダイスの形状は、形成する厚肉部の形状・寸法に応じて適宜選択すればよい。なお、アップセット加工は複数回施してもよい。その場合は、再度、管端部を1100~1250℃に加熱してからアップセット加工を施す。
【0062】
[iv]:厚肉部を形成した素管をAc点~950℃に加熱した後、急冷する、焼入れ工程
前記[iii]の工程で厚肉部を形成した素管には、次に、Ac点~950℃の温度に加熱した後で急冷する焼入れ処理が施される。加熱温度がAc点未満であると、オーステナイト化が完了しないので、継目無鋼管に所定の機械的特性を具備させることができない場合がある。一方、加熱温度が950℃を超えると、1回の焼入れ処理では、微細なオーステナイト粒が得られず、継目無鋼管に所定の機械的特性を具備させることができない場合がある。したがって、焼入れ処理の際の加熱温度はAc点~950℃とする。
【0063】
上記加熱温度での保持時間は、素管のサイズにもよるが5~30分とすることが好ましい。ほぼ均一な加熱が可能であれば、誘導加熱を用いた短時間の急速加熱処理であっても構わない。この[iv]の工程での加熱温度は、素管の外表面における温度を指す。急冷には、十分な焼入れ組織が得られるのであれば、水冷または油冷など適宜の方法を用いればよい。[iv]の工程において、加熱温度の好ましい下限は880℃、また、好ましい上限は920℃である。
【0064】
[v]:焼入れした素管を500~600℃に加熱した後、室温まで冷却する、焼戻し工程
前記[iv]の工程で焼入れした素管には、継目無鋼管としての所定の機械的特性を具備させるために、500~600℃に加熱した後、室温まで冷却する、焼戻し処理が施される。前記(A)項で述べた化学組成の場合には、焼戻しの加熱温度が500℃を下回ると、所定の強度(TS)は確保できても低温靱性が低下することがある。一方、焼戻しの加熱温度が600℃を上回ると、所定の低温靱性は得られても強度が低下して、TSが980MPa以上という高強度を確保できないことがある。したがって、焼戻し処理の際の加熱温度は500~600℃とする。
【0065】
上記加熱温度での保持時間は、素管のサイズにもよるが30~60分とすることが好ましい。この[v]の工程での加熱温度は、素管の外表面における温度を指す。焼戻しの際の冷却速度については、特に制限がない。このため、大気中での放冷、矯正風冷、ミスト冷却、油冷、水冷等、設備に応じた冷却を行えばよい。[v]の工程において、加熱温度の好ましい下限は525℃、また、好ましい上限は575℃である。
【0066】
以下、実施例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0067】
表1に示す化学組成を有する鋼A~Gを溶製し、連続鋳造プロセスにより、断面が矩形のブルームを鋳造した。ブルームを、さらに熱間鍛造によりビレットに成形し、室温まで冷却した。
【0068】
表1中の鋼A~Dは、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼であり、一方、鋼E~Gは、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼である。なお、表1には、下記の[B]式および[C]式から求めたAc点およびAc点を併せて示した。
Ac点(℃)=723+29.1×Si-10.7×Mn-16.9×Ni+16.9×Cr ・・・[B]
Ac点(℃)=910-203×C0.5+44.7×Si-15.2×Ni+31.5×Mo+104×V-(30×Mn+11×Cr+20×Cu-700×P-400×Al-400×Ti) ・・・[C]
【0069】
【表1】
【0070】
上記のビレットを、1240℃で加熱し、マンネスマン-マンドレル方式によって、仕上げ温度が850~950℃の範囲になるように、表2に示す外径および肉厚を有し、長さが6mの継目無鋼管を2つずつ作製し、室温まで冷却した。得られた各継目無鋼管を1150℃で加熱した後、アップセット加工を施し、一方の管端に表2に示す形状の厚肉部を形成した。なお、表2において、厚肉部の長さが0mmであるのは、アップセット加工を施さなかったことを意味する。
【0071】
続いて、表2に示す条件で焼入れおよび焼戻しを施して、鋼管母材を製造した。なお、焼入れは全て水焼入れによって実施した。焼戻しの際の冷却は全て大気中での放冷とした。その後、厚肉部を形成した側とは逆側の管端を切断し、鋼管母材の長さを5mとした。
【0072】
【表2】
【0073】
得られた鋼管母材の重量を測定し、肉厚が8.6mmでアップセット加工を施していない鋼管母材の重量に対して、120%以下であれば、軽量化を達成できた(EX)と判断し、120%を超えた場合に、軽量化できなかった(NA)と判断した。
【0074】
続いて、得られた2つの鋼管母材の厚肉部に、開先角度が60°となるように開先を加工した後、厚肉部同士を突き合わせた状態で、入熱量が1.0kJ/mmとなる条件でガスシールドアーク溶接による円周溶接を行い、鋼管溶接継手(試験番号1~19)を製造した。円周溶接を行うに際しては、日鉄溶接工業株式会社製高張力鋼用ソリッドワイヤ(YM-100A)を溶接材料として使用し、シールドガスとしてAr-20%COを用いた。また、裏当て材を使用し、開先同士の間隔は0mmとした。
【0075】
次に、各鋼管溶接継手の母材部から、JIS Z 2241:2011の附属書Eに記載された12B号試験片(幅25mmの円弧状試験片)を切り出した。JIS Z 2241:2011に準拠して、室温大気中で引張試験を実施し、YSおよびTSを求めた。
【0076】
また、各鋼管溶接継手の長手方向と長さ方向が一致し、平行部の中央に円周溶接部が位置するよう採取されたJIS Z 3121:2013に準拠した3号試験片(平行部の幅:20mm)を用いて、円周溶接部の継手引張試験を実施し、YSおよびTSを求めた。本実施例では、継手引張試験でのTSが980MPa以上である場合に、溶接部の強度に優れると判断することとした。
【0077】
そして、y形溶接割れ試験方法により低温割れの有無を評価した。試験方法について、以下により詳しく説明する。
【0078】
まず、上記溶製した鋼A~Gからスラブを作製し、1250℃で60分加熱した後、1000~1250℃の温度範囲で熱間圧延を施し、肉厚が8.6mmの鋼板を作製した。続いて、表2に示す条件で焼入れおよび焼戻しを施し、各試験番号に対応する鋼板を得た。
【0079】
得られた鋼板から150mm×200mmの鋼板を切り出し、直径8mmの孔を4か所に形成してから、2か所ずつの孔を繋ぐように、幅5mmの溝を2本形成した。その後、2本の溝の間に放電加工により開先を形成し、図2に示す形状の試験板を作製した。そして、試験板の形状以外については、JIS Z 3158:2016に準拠して、y形溶接割れ試験を実施した。この際、溶接条件は、上述した鋼管溶接継手の溶接条件と同一とした。その後、JIS Z 3158:2016に記載の方法で割れの有無を調査した。なお、割れの調査は、形成した溶接ビードを4等分した5断面について行った。そして、全ての断面で割れが観察されなかった場合に、低温割れ無しと評価し、1つの断面でも割れが観察された場合に、低温割れ有りと評価することとした。
【0080】
表2に、上記の各調査結果をまとめて示す。
【0081】
表2に示されるように、本発明の規定を全て満足する試験番号1~3、7、8、13および15では、軽量化と高い溶接部強度とを両立し、かつ耐低温割れ性に優れる結果となった。これらに対して、本発明の規定を満足しない比較例である試験番号4~6、9~12、14および16~19では、軽量化、溶接部強度および耐低温割れ性の少なくともいずれかが劣化する結果となった。
【0082】
具体的には、試験番号4~6、9~11、14および16では、アップセット加工を施さなかったか、施したとしても、厚肉部の形状が本発明の規定を満足しなかったため、溶接後の冷却速度が不十分となり、溶接部の強度が劣化した。また、試験番号12では、鋼管全体の肉厚を増加させたため、冷却速度が高くなり、溶接部の強度は良好であったものの、重量が著しく増加し、軽量化が困難となった。
【0083】
さらに、試験番号17および19では、Pcmの値が規定範囲を超えたため、低温割れが発生する結果となった。そして、試験番号18では、C含有量が低く、またNiを含有しないため、母材部および溶接部の強度がいずれも不十分となった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、軽量化と溶接部強度の確保とを両立することが可能な継目無鋼管を得ることが可能である。そのため、本発明に係る継目無鋼管は、機械構造部材用、なかでもクレーンジブ用として好適である。
【符号の説明】
【0085】
1a,1b 管端
1c 直管部
2a,2b 厚肉部
10 継目無鋼管

図1
図2