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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044892
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20240326BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20240326BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240326BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08L1/02
C08J3/20 Z CEP
C08J3/20 CEQ
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150703
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隼人
(72)【発明者】
【氏名】山田 喜威
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA05
4F070AB11
4F070AC72
4F070AD02
4F070FA05
4F070FB06
4F070FC03
4J002AB012
4J002AC011
4J002AC021
4J002FD012
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は良好な強度を示し、成形前の分散状態において静置安定性に優れるゴム組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、セルロースI型の結晶化度が80%以上であり、水分散体(固形分1%(w/v))の波長660nmの光透過率が70%以上である、セルロース解繊物を含む、ゴム組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースI型の結晶化度が80%以上であり、水分散体(固形分1%(w/v))の波長660nmの光透過率が70%以上である、セルロース解繊物を含む、ゴム組成物。
【請求項2】
セルロース解繊物がセルロースナノクリスタルである、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
セルロース解繊物の固形分4%(w/v)水分散体におけるB型粘度(60rpm、20℃)Va1が500mPa・s~2000mPa・sである、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
セルロース解繊物の固形分4%(w/v)水分散体におけるB型粘度Vb1(6rpm、20℃)の、前記水分散体におけるB型粘度Va1(60rpm、20℃)に対する比率(Vb1/Va1)であるTi値が、7以上である、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項5】
セルロース解繊物の含有量が、ゴム成分100質量部に対し、0.5質量部以上である、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項6】
セルロース解繊物及びゴム成分の固形分2.4~2.5%(w/v)水分散体におけるB型粘度Vb2(6rpm、20℃)の、前記水分散体におけるB型粘度Va2(60rpm、20℃)に対する比率(Vb2/Va2)であるTi値が、5以上である、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項7】
セルロースI型の結晶化度が80%以上であり、水分散体(固形分1%(w/v))の波長660nmの光透過率が70%以上である、セルロース解繊物とゴム成分とを混合および混練し、ゴム組成物を得ることを含む、請求項1または2に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
混練後の混合物を加硫する工程をさらに含む、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム成分とセルロース系繊維とを含むゴム組成物は、優れた機械強度を有することが知られている。例えば、特許文献1には、平均繊維径が2~50nm、平均繊維長が500nm以下、結晶化度が70%以上のセルロースナノクリスタルをゴムとともに含む複合材料において、分散性が良好であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-001292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セルロースナノクリスタル等のセルロース系繊維を含むゴム組成物は、様々な分野での応用が期待されており、更なる強度の向上が求められている。また、製造時の作業性等の観点から、セルロース系繊維とゴム成分との分散液において、静置させた際の安定性(静置安定性)に劣り、良好なゴム物性が発揮されにくいという問題がある。
【0005】
そこで本発明では、上記の課題を解決すべく、良好な強度を示し、成形前の分散状態において静置安定性に優れるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、特定のセルロース解繊物を用いることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の[1]~[8]である。
[1] セルロースI型の結晶化度が80%以上であり、水分散体(固形分1%(w/v))の波長660nmの光透過率が70%以上である、セルロース解繊物を含む、ゴム組成物。
[2] セルロース解繊物がセルロースナノクリスタルである、[1]に記載のゴム組成物。
[3] セルロース解繊物の固形分4%(w/v)水分散体におけるB型粘度(60rpm、20℃)Va1が500mPa・s~2000mPa・sである、[1]または[2]に記載のゴム組成物。
[4] セルロース解繊物の固形分4%(w/v)水分散体におけるB型粘度Vb1(6rpm、20℃)の、前記水分散体におけるB型粘度Va1(60rpm、20℃)に対する比率(Vb1/Va1)であるTi値が、7以上である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のゴム組成物。
[5] セルロース解繊物の含有量が、ゴム成分100質量部に対し、0.5質量部以上である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のゴム組成物。
[6] セルロース解繊物及びゴム成分の固形分2.4~2.5%(w/v)水分散体におけるB型粘度Vb2(6rpm、20℃)の、前記水分散体におけるB型粘度Va2(60rpm、20℃)に対する比率(Vb2/Va2)であるTi値が、5以上である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のゴム組成物。
[7] セルロースI型の結晶化度が80%以上であり、水分散体(固形分1%(w/v))の波長660nmの光透過率が70%以上である、セルロース解繊物とゴム成分とを混合および混練し、ゴム組成物を得ることを含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
[8] 混練後の混合物を加硫する工程をさらに含む、[7]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定のセルロース解繊物を用いることで、良好な強度を示し、分散状態における静置安定性に優れるゴム組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態及び例示物を示して、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に挙げる実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実行しうる。
【0010】
<1.ゴム組成物>
ゴム組成物は、セルロース解繊物を含む。
【0011】
<1.1 セルロース解繊物>
セルロース解繊物は、セルロース原料を解繊処理して得られる材料である。解繊処理は、セルロース繊維をほぐす処理であり、後段で説明する。
【0012】
上記セルロース解繊物としては、例えば、セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースマイクロフィブリル、セルロースナノクリスタル(CNC)などの微細セルロース繊維が挙げられ、好ましくはセルロースナノクリスタル(CNC)である。
【0013】
(セルロース解繊物の物性)
セルロース解繊物は、以下の物性を有することが好ましい。
【0014】
-結晶化度-
セルロース解繊物のセルロースI型の結晶化度は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。これにより、非晶領域が少なく、均一に解繊され、適度にナノ化された構造を有し得る。上限は100%以下であればよく、特に限定されない。
【0015】
セルロース解繊物のセルロースI型の結晶化度は、広角X線回折法によりX線回折測定装置(例えば、LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて得られるグラフより算出できる。セルロース解繊物がセルロース結晶II型を含有する場合、上記グラフにおけるI型及びII型結晶化度のピーク面積比より、I型結晶化度を得ることができる。なお、セルロース解繊物は、II型結晶を実質的に含まないことが好ましく、II型結晶を含まない(I型結晶のみである)ことがより好ましい。
【0016】
-光透過率-
セルロース解繊物は、固形分濃度1%(w/v)の水分散体の光透過率(波長660nm)が70%以上であることが好ましい。これにより、均一にナノ化され、ゴム組成物は、分散状態(成形前のセルロース系繊維とゴム成分との分散液)において良好な静置安定性を示すことができる。また、成形後のゴム組成物は機械的特性を良好に発揮できる。光透過率の上限は特になく、100%でもよいが、通常は95%以下、好ましくは90%以下である。光透過率は、分光光度計を用いて測定することができる。
【0017】
-B型粘度-
セルロース解繊物の固形分4%(w/v)の水分散体におけるB型粘度(60rpm、20℃)Va1は、通常500mPa・s以上、好ましくは600mPa・s以上、より好ましくは650mPa・s以上である。上限は、通常2000mPa・s以下、好ましくは1500mPa・s以下、より好ましくは1000mPa・s以下である。
【0018】
セルロース解繊物の固形分4%(w/v)の水分散体におけるB型粘度(6rpm、20℃)Vb1は、通常7000mPa・s以上、好ましくは8000mPa・s以上、より好ましくは9000mPa・s以上である。上限は、通常30000mPa・s以下、好ましくは20000mPa・s以下、より好ましくは15000mPa・s以下である。
【0019】
上記セルロース解繊物は、固形分濃度4質量%の水分散体のB型粘度Va1(60rpm、20℃)に対するVb1(6rpm、20℃)の比率(Vb1/Va1)で表されるTi値(チキソトロピックインデックス)が、7以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、9以上であることがさらに好ましい。Ti値が上記範囲であることで、セルロース解繊物が適度にナノ化されていることの指標となることができ、本発明の効果を良好に得ることができるため好ましい。上限は特に制限されないが、前述する効果を適切に発揮するために50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましく、20以下、15以下がさらにより好ましい。
【0020】
-平均繊維径、平均繊維長-
平均繊維径は、通常、4nm以上50nm以下、好ましくは10nm以上30nm以下、より好ましくは10nm以上15nm以下の範囲である。また、平均繊維長は、通常、200nm以上1000nm以下、好ましくは300nm以上800nm以下、より好ましくは350nm以上600nm以下の範囲である。
【0021】
平均繊維径及び平均繊維長の測定は、原子間力顕微鏡(AFM)にて計測することができる。
【0022】
(セルロース解繊物の製造方法)
セルロース解繊物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、セルロース原料の解繊処理を含む方法が挙げられる。セルロース原料の酸加水分解処理及び解繊処理する方法が好ましい。
【0023】
-セルロース原料-
微細セルロース繊維の原料(セルロース原料)は、特に限定されないが、例えば、植物、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物に由来するものが挙げられる。植物由来のセルロース原料としては、例えば、木材、綿花(例、リンター)、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプが挙げられる。パルプとしては、例えば、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、針葉樹溶解パルプ、広葉樹溶解パルプ等の木質系パルプ;綿花系パルプ(例、リンターパルプ)、ケナフパルプ、麻パルプ、バガスパルプ等の非木材パルプ、再生パルプ、古紙が挙げられる。また、上述のセルロース繊維原料を粉砕処理したセルロースパウダーを使用してもよい。セルロース原料は、これらのいずれかまたは2以上の組合せであってもよいが、好ましくは植物または微生物由来のセルロース原料であり、より好ましくは植物由来のセルロース原料であり、さらに好ましくは木質系パルプ又は綿花系パルプである。
【0024】
パルプの調製方法としては、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の蒸解を行う化学的方法(ケミカルパルプ)、リファイナー、グラインダー等の機器を用いる機械的方法(メカニカルパルプ);薬品による前処理の後機械力によってパルプ化する方法(セミケミカルパルプ)等の製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が挙げられる。さらに、漂白、叩解等の処理を行ってもよく、少なくとも漂白処理を行うことが好ましい。漂白処理方法としては、例えば、塩素処理(C)、二酸化塩素漂白(D)、アルカリ抽出(E)、次亜塩素酸塩漂白(H)、過酸化水素漂白(P)、アルカリ性過酸化水素処理段(Ep)、アルカリ性過酸化水素・酸素処理段(Eop)、オゾン処理(Z)、キレート処理(Q)、及びこれらの2以上の処理の組み合わせを施す方法が挙げられる。2以上の処理の組み合わせ(シーケンス)としては、例えば、D-E/P-D、C/D-E-H-D、Z-E-D-PZ/D-Ep-D、Z/D-Ep-D-P、D-Ep-D、D-Ep-D-P、D-Ep-P-D、Z-Eop-D-D、Z/D-Eop-D、Z/D-Eop-D-E-D(シーケンス中の「/」は、「/」の前後の処理を洗浄なしで連続して行なうことを意味する)が挙げられる。漂白処理は、上記の例に限定されることなく、一般的に使用される方法でもよい。漂白処理を経たパルプは、通常は流動状態(流動パルプ)である。漂白処理を行うことにより、パルプの白色度を高めることができる。パルプの白色度は、ISO 2470に基づいて、80%以上が好ましい。
【0025】
-解繊-
解繊は、セルロース原料中のセルロース繊維を解きほぐす処理であり、解繊装置を用いて行うことができる。解繊装置としては、特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、セルロース原料中の繊維に強力なせん断力及び/又は圧力(50MPa以上が好ましく、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上)を付与できる装置が好ましい。具体的には、高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーがより好ましい。これにより、解繊を効率的に行うことができる。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、3回以上が好ましい。上限としては特にないが、20回以下が好ましく、15回以下がより好ましく、12回以下がさらに好ましい。
【0026】
解繊の前後に(好ましくは解繊前に)、通常、分散処理を行う。分散処理は、溶媒に試料を分散(スラリー化)し、分散体を得る処理である。溶媒は、セルロース繊維を分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。セルロース繊維が親水性であることから、溶媒は水であることが好ましい。
【0027】
分散体中のセルロース繊維の固形分濃度は、分散体全量に対し、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。これにより、微細セルロース繊維の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常15質量%以下、10質量%以下、又は8質量%以下、好ましくは6質量%以下である。これにより流動性を保持することができる。解繊前に、後述する酸加水分解処理を行う場合、酸化水分解処理時に調整した分散体をそのまま解繊に用いてもよい。その際、分散体中の固形分濃度を上記濃度に調整することが好ましい。
【0028】
解繊処理と分散処理の組み合わせは、少なくとも1回行えばよく、2回以上繰り返してもよい。
【0029】
-酸加水分解-
セルロース解繊物は、酸加水分解処理を経ていることが好ましい。これにより、セルロース解繊物の非晶化領域を減少させ、結晶化度を制御できる。酸加水分解処理は、解繊前又は後に行うことができ、解繊前に行うことが好ましい。
【0030】
酸加水分解処理は、酸を用いて加水分解する処理であればよい。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸が挙げられ、硫酸が好ましい。硫酸を用いることで、セルロース解繊物に硫酸に由来する置換基(例えば、スルホ基)を導入でき、セルロース解繊物を樹脂に添加した際に架橋を形成でき、ゴム組成物の強度を向上できる。
【0031】
酸濃度は、非晶質領域が十分に減少する条件であれば特に限定されないが、通常2.5N以上、好ましくは4.0N以上、より好ましくは4.5N以上である。これにより、非晶領域を適度に除去でき、結晶性を向上できる。上限は、通常、15N以下、好ましくは10.0N以下、より好ましくは8.0N以下である。これにより、セルロース繊維の結晶領域への酸の侵食を抑制でき、解繊処理における過度の短繊維化を抑制できる。したがって、通常、2.5N~15N、好ましくは4.0~10.0N、より好ましくは4.5N~8.0Nの範囲である。
【0032】
酸加水分解処理の反応条件は、非晶質領域が除去され結晶性が高まる条件となれば特に限定されないが、一例を挙げると以下のとおりである。反応温度は、通常50~100℃、好ましくは80~100℃、より好ましくは85~100℃である。反応時間は、通常30分~180分の範囲、好ましくは60~180分の範囲、より好ましくは90~150分の範囲である。加水分解後には、必要に応じて試料を濃縮(例えば、ろ過等の脱液処理)してもよい。
【0033】
酸加水分解処理に先立ち、前処理を行ってもよい。例えば、分散処理(スラリー化:セルロース原料の分散体の調製)、濃度調整処理、解砕処理が挙げられる。分散処理は、得られる分散体の固形分濃度は、通常、分散液に対し3~10質量%であるほかは、上段の分散処理において説明したのと同様である。濃度調整処理は、セルロース原料の濃度を調整(通常は濃縮)する処理であり、セルロース原料が漂白処理を経た流動パルプの場合に処理を行うことが好ましい。濃度調製処理は、スクリュープレス、ベルトフィルター等の脱水機を用いて行ってもよい。
【0034】
解砕処理は、セルロース原料を解砕処理する処理であり、セルロース原料がシート(例えば、ドライシート)である場合に行うことが好ましい。解砕処理は、ロールクラッシャー等の解砕機を用いて行うことができる。
【0035】
-中和・洗浄-
加水分解処理後、通常、中和、洗浄処理を行う。洗浄処理は複数回行うことが好ましく、中和処理の前、及び/又は、中和処理の後に行うことが好ましい。中和処理前に洗浄することにより、処理物に付着した強酸を除去できる。中和処理は、アルカリ剤(例えば、水酸化ナトリウム)を用いて行うことができる。例えば、洗浄後、濾過などで脱液し集めた試料を、水で希釈分散した分散液にアルカリ剤を添加して行う。中和後の処理物は、再度ろ過などで脱液して回収できる。中和、洗浄処理の順序としては、例えば、洗浄、中和、洗浄が挙げられる。
【0036】
さらに処理物は、必要に応じて乾燥(例えば、脱水)処理を経てもよい。これにより、固形分濃度を調整でき、セルロースの物性値の制御が容易にできる。調整後の固形分濃度は、通常、15%以上、好ましくは20%以上である。
【0037】
そのようにして得られるセルロース解繊物は、加熱乾燥や凍結乾燥、噴霧式乾燥などで乾燥粉末化しても良いし、前述する分散処理を行った分散体をそのまま水分散体組成物として使用しても良く、再分散性の容易さから水分散体組成物として使用することが好ましい。
【0038】
上記セルロース解繊物は、実質的に非置換のセルロース解繊物であることが好ましい。本明細書において、実質的に非置換であるとは、意図的な変性処理(例えば、カルボキシル化等のアニオン変性処理)が施されていないことを意味し、セルロース解繊物及び後述するゴム組成物の製造工程において、不可避的に生じ得る意図しない酸化反応などの変性による微量のカルボキシ基を含む場合を排除するものではない。実質的に非置換のセルロース解繊物は、電荷反発を起こす官能基(置換基)の含有量が抑制されるため、高いB粘度(6rpm)、Ti値を示し、低せん断での絡み合い解消の発生が抑制されるため、ゴム組成物の分散状態における静置安定性を向上させることができる。セルロース解繊物は、実質的にカルボキシル基を含まないことが好ましく、カルボキシル基量がセルロース解繊物の重量あたり通常0.25mmol/g以下、好ましくは0.1mmol/g以下、より好ましくは0.05mmоl/g以下であることが好ましい。セルロース解繊物のカルボキシル基量は、電気伝導度の変化から測定することができる。
【0039】
<1.2 ゴム成分>
ゴム組成物は、セルロース解繊物とともにゴム成分を含む。
【0040】
ゴム成分とは、ゴムの原料であり、架橋してゴムとなるものをいう。ゴム成分としては、天然ゴム用のゴム成分と合成ゴム用のゴム成分が存在する。天然ゴム用のゴム成分としては、例えば、化学修飾を施さない狭義の天然ゴム(NR);塩素化天然ゴム、クロロスルホン化天然ゴム、エポキシ化天然ゴム等の化学修飾した天然ゴム;水素化天然ゴム;脱タンパク天然ゴムが挙げられる。合成ゴム用のゴム成分としては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等のジエン系ゴム;ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPDM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)等の非ジエン系ゴムが挙げられる。これらの中で、天然ゴムおよびジエン系のゴムが好ましく、ジエン系の天然ゴム(化学修飾を施さない狭義の天然ゴム(NR))がより好ましい。ゴム成分は、1種類であってもよいし、互いに異なる2種類以上の組み合わせでもよい。
【0041】
<1.3 含有量>
ゴム組成物におけるセルロース解繊物及びゴム成分の各含有量は特に限定されないが、セルロース解繊物の含有量は、ゴム成分100質量部に対し0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。これにより引張強度の向上効果が十分に発現し得る。上限は、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。これにより、製造工程における加工性を保持できる。
【0042】
<1.4 任意成分>
ゴム組成物は、ゴム組成物の用途等の要望に応じて1種または2種以上の任意成分をさらに含んでもよい。任意成分としては、例えば、補強剤(例えば、カーボンブラック、シリカ)、シランカップリング剤、架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤(例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸)、オイル、硬化レジン、ワックス、老化防止剤、着色剤等、ゴム工業で使用され得る配合剤が挙げられる。このうち加硫促進剤、加硫促進助剤が好ましい。任意成分の含有量は、任意成分の種類等の条件に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。
【0043】
ゴム組成物が未加硫ゴム組成物または最終製品である場合、任意成分として少なくとも架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤としては、例えば、硫黄、ハロゲン化硫黄、有機過酸化物、キノンジオキシム類、有機多価アミン化合物、メチロール基を有するアルキルフェノール樹脂が挙げられる。これらの中でも硫黄が好ましい。架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、1.7質量部以上がさらに好ましい。上限は、10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0044】
加硫促進剤としては、例えば、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが挙げられる。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.4質量部以上がさらに好ましい。上限は、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、2質量部以下がさらに好ましい。
【0045】
<2.ゴム組成物の製造方法>
ゴム組成物は、セルロース解繊物とゴム成分を混合及び混練し、ゴム組成物を得る方法であればよい。セルロース解繊物とゴム成分を混練する際、同時、途中又は混練後に必要に応じて任意成分を添加してもよい。セルロース解繊物、ゴム成分および任意成分の具体例、使用量は、既述のとおりである。
【0046】
混合に供されるゴム成分の形態は、特に限定されない。例えば、ゴム成分の固形物、ゴム成分を分散媒に分散させた分散体(ラテックス)および溶媒に溶解した溶液が挙げられる。分散媒および溶媒(以下、まとめて「液体」ともいう)としては、例えば、水、有機溶媒が挙げられる。液体の量は、ゴム成分(2以上のゴム成分を使用する場合、その合計量)100質量部に対し、10~1000質量部が好ましい。
【0047】
混合は、ホモミキサー、ホモジナイザー、プロペラ攪拌機等の公知の装置を用いて実施できる。混合する温度は限定されないが、室温(20~30℃)が好ましい。混合時間も適宜調整してよい。
【0048】
混合に供されるセルロース解繊物の形態は、特に限定されない。例えば、セルロース解繊物の水分散体、当該水分散体の乾燥固形物、当該水分散体の湿潤固形物が挙げられる。水分散体におけるセルロース解繊物の濃度は、分散媒が水である場合、0.1~5%(w/v)であってもよく、分散媒が水とアルコール等の有機溶媒とを含む場合、0.1~20%(w/v)であってもよい。本明細書において、湿潤固形物とは、前記水分散体と乾燥固形物との中間の態様の固形物である。前記水分散体を通常の方法で脱水して得た湿潤固形物中の分散媒の量はセルロース解繊物に対し5~15質量%が好ましい。液体の追加またはさらなる乾燥により、湿潤固形物中の分散媒の量は適宜調整し得る。
【0049】
ゴム組成物に含まれるセルロース解繊物に関して、セルロース解繊物は、1種類であってもよいし、互いに異なる2種類以上の組み合わせでもよい。
【0050】
-混合物のB型粘度-
セルロース解繊物とゴム成分の混合物のB型粘度は、ゴム成分の種類にもよるので一義的に特定することは難しいが、一例をあげると以下のとおりである。固形分4%(w/v)の水分散体におけるB型粘度(60rpm、20℃)Va2は、通常、20~1000mPa・sである。ゴム成分100重量部に対するセルロース解繊物の量が1重量部の場合のVa2は、通常20~90mPa・sである。ゴム成分100重量部に対するセルロース解繊物の量が3重量部の場合のVa2は、通常50~400mPa・s以下である。ゴム成分100重量部に対するセルロース解繊物の量が5重量部の場合のVa2は、通常、200~800mPa・s以下である。
【0051】
セルロース解繊物とゴム成分の混合物の固形分4%(w/v)の水分散体におけるB型粘度(6rpm、20℃)Vb2は、通常200~30000mPa・s以下である。
【0052】
セルロース解繊物とゴム成分の混合物は、固形分濃度4質量%の水分散体のB型粘度Va2(60rpm、20℃)に対するVb2(6rpm、20℃)の比率(Vb2/Va2)で表されるTi値は、通常、5~50である。
【0053】
本明細書において、セルロース解繊物とゴム成分の混合物の水分散液の固形分は、セルロース解繊物とゴム成分の固形分の含有量を意味する。
【0054】
セルロース解繊物とゴム成分の混合物は、混練に供される前に、必要に応じて乾燥されてもよい。乾燥の方法は特に限定されず、加熱法、凝固法、それらの併用のいずれでもよいが、加熱処理が好ましい。加熱処理の条件は、特に限定されないが、一例を挙げると以下のとおりである。加熱温度は、40℃以上100℃未満が好ましい。処理時間は、1時間~24時間が好ましい。加熱温度または加熱時間を上記条件とすることにより、ゴム成分に対するダメージが抑えられ得る。乾燥後の混合物は絶乾状態でも、溶媒が残存していてもよい。また、乾燥の方法は上記の方法には限定されず、溶媒を除去する従来公知の方法を適宜選択すればよい。
【0055】
混合物の混練は、通常、公知の方法に従い混練機を用いて行えばよい。混練機としては、例えば、2本ロール、3本ロール等の開放式混練機、噛合式バンバリーミキサー、接線式バンバリーミキサー、加圧ニーダー等の密閉式混練機が挙げられる。混練は、多段階処理でもよい。例えば、第一段階で密閉式混練機による混練およびその後の開放式混練機で再混練の組み合わせが挙げられる。
【0056】
混練の際には、充填剤、加硫剤、界面活性剤等の任意の添加剤(配合剤)を添加してもよい。添加の時点は特に限定されず、例えば、混練開始時、混練中のいずれか、および両方が挙げられ、混合物を先に混練機に投入した後に添加剤を投入して混練してもよく、反対に、添加剤を先に投入した後、混合物を投入して混練してもよい。界面活性剤とは、通常、分子の中に少なくとも1つの親水性基と少なくとも1つの疎水性基とを有し得る物質、およびその前駆体(例えば、金属塩の存在下で上記両基を有し得る物質)である。例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の添加方法は、特に限定されず、例えば、所定量の一括添加、および逐次添加が挙げられる。混合物に対し界面活性剤が均一に混練されるのであれば、いずれの方法でもよく特に限定されない。加硫剤を添加する場合は、加硫剤の添加は混練の最終段に行うことが好ましい。
【0057】
混練時間は、通常3~20分程度であり、均一に混練される時間を適宜選択できる。混練温度は、常温程度(例えば、15~30℃程度)でよいが、ある程度高温に加熱してもよい。例えば、温度の上限は、通常150℃以下であり、好ましくは140℃以下であり、より好ましくは130℃以下である。温度の下限は15℃以上であり、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは30℃以上である。
【0058】
得られた混練物は、そのままマスターバッチとして利用されることが好ましい。一方、得られた混練物が最終製品として利用されてもよい。最終製品として利用される場合、混練物に対し、ゴム成分、加硫剤等の任意の添加剤が追加添加され、再度混練されることが好ましい。
【0059】
混練終了後に、必要に応じて成形を行ってもよい。成形としては、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形が挙げられ、最終製品の形状、用途、成形方法に応じて装置を適宜選択すればよい。
【0060】
混練終了後、好ましくは成形後、さらに加熱することが好ましい。ゴム組成物が架橋剤を(好ましくは架橋剤と加硫促進剤を)含む場合、加熱により架橋(加硫)処理がなされる。また、ゴム組成物が架橋剤および加硫促進剤を含まない場合も、加熱前に添加しておけば同様の効果が得られる。加熱温度は、150℃以上が好ましく、上限は200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。従って、150~200℃程度が好ましく、150~180℃程度がより好ましい。加熱装置としては例えば、型加硫、缶加硫、連続加硫等の加硫装置が挙げられる。
【0061】
混練物を最終製品とする前に、必要に応じ仕上げ処理を行ってもよい。仕上げ処理としては例えば、研磨、表面処理、リップ仕上げ、リップ裁断、塩素処理が挙げられ、これらの処理のうち1つのみを行ってもよいし、2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0062】
<3.ゴム組成物の用途>
ゴム組成物の用途は、特に制限されず、最終製品としてゴムを得るための組成物であればよい。すなわち、ゴム製造用の中間体(マスターバッチ)でもよいし、加硫剤を含む未加硫のゴム組成物でもよいし、最終製品としてのゴムでもよい。最終製品の用途は特に限定されず、例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品;携帯電話等の移動通信機器;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品;建築材;文具等の事務機器;容器;コンテナーが挙げられる。これら以外であっても、ゴムや柔軟なプラスチックが用いられている部材への適用が可能であり、タイヤへの適用が好適である。タイヤとしては例えば、乗用車用、トラック用、バス用、重車両用等の空気入りタイヤが挙げられる。
【実施例0063】
以下、本発明を実施例及び比較例をあげてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。また、物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。また、下記の説明において、温度条件は、特に温度の指定が無い場合、常温(25℃)下であり、圧力条件は、特に圧力の指定が無い場合、常圧(1atm)下である。
【0064】
[セルロースI型結晶化度]
試料を、ガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定した。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出した。
=(I002c-I)/I002c×100
=セルロースのI型の結晶化度(%)
002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度。
【0065】
試料がII型結晶構造を含む場合、上述の手順で算出された結晶化度に占めるI型及びII型結晶化度の割合を下記方法で算出し、I型結晶化度を算出した。上述の方法で得られたグラフを、グラフ解析ソフトPeakFit(登録商標)(Hulinks社製)によりピーク分離し、下記の回折角2θを基準としてI型結晶とII型結晶、非結晶成分を判別してピーク分離し、それぞれの面積比からI型及びII型結晶化度の比率を算出した。
I型結晶:2θ=14.7°、16.5°、22.5°
II型結晶:2θ=12.3°、20.2°、21.9°
非晶成分:2θ=18°
下記式により試料がII型結晶構造を含む場合のセルロースのI型の結晶化度(%)を算出した。
D=試料がII型結晶構造を含む場合のセルロースのI型の結晶化度(%)
I型結晶の結晶化度の比率=Ri(%)
D=(X/100)×(Ri/100)×100
【0066】
[光透過率]
試料の水分散体(固形分1%(w/v))の波長660nmの光透過率を、UV-VIS分光光度計UV-265FS(島津製作所社製)を用いて測定した。
【0067】
[B型粘度]
試料を、ポリプロピレン製容器に秤取り、イオン交換水160mlに分散し、固形分4%(w/v)となるように水分散体を調製した。この水分散体を20℃に調整した。その後、JIS-Z-8803の方法に準じて、B型粘度計(東機産業社製)を用いて、60rpm及び6rpmで粘度測定を開始し、3分後の粘度の値(V、V)を記録した。試料がセルロース解繊物の場合のV、V(それぞれVa1、Vb1)から、Vb1/Va1)で表されるTi値を算出した。試料がセルロース解繊物とゴム成分の混合物の場合のV、V(それぞれVa2、Vb2)から、Vb2/Va2)で表されるTi値を算出した。
【0068】
[長さ平均繊維径、長さ平均繊維長]
試料を、固形分0.001%(w/v)となるように水分散体を調製した。この水分散体をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作成した。この観察用資料に対し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測することにより、長さ平均繊維径あるいは繊維長として算出した。
【0069】
[静置安定性の評価]
各実施例において調整したNR/CNC1又はNR/CNF混合液をガラス容器に収容し、終夜静置後の外観を目視で観察し、以下の基準により静置安定性を評価した。
○:均一に分散している(静置前と同じ)
×:分離している
【0070】
[引張試験]
JIS K6251:2017に従い、試料の引張強度、伸び、50%引張応力(M50)、300%引張応力(M300)を測定した。
【0071】
[硬度測定]
JIS K6253-3:2012に従い、試料のデュロメータ硬さ(硬度)を測定した。
【0072】
(製造例1:セルロースナノクリスタル1の製造方法)
リンターパルプ(銀鷹社製)85g(乾燥重量)を裁断したのち、6N硫酸1500mlを入れた三口セパラブルフラスコ(3L)に添加した。三口セパラブルフラスコの下部がオイルに漬かるようにオイルバスに設置し、攪拌しながら昇温させ、95℃で120分間保持した。その後、三口セパラブルフラスコをオイルバスから取り出し、内容物をブフナー漏斗で濾過し、濾過残渣を純水1000mlで洗浄した。
【0073】
洗浄後の濾過残渣をビーカーに入れた純水2.5Lに添加し、攪拌しながらpH6.5となるように水酸化ナトリウム水溶液で中和し、ブフナー漏斗で濾過したのち、中和後の濾過残渣を回収し、セルロースナノクリスタル1(CNC1)を得た。
【0074】
得られたCNC1にイオン交換水を加え、固形分が4%(w/v)となるように調整し、高圧ホモジナイザーを用いて、解繊処理を140MPaで5回実施して、CNC1の水分散液を得た。また、CNC1の平均繊維径は14.1nm、平均繊維長は528nmであった。赤外線スペクトル測定(IR)を行ったところ、加水分解の際に用いた硫酸由来の置換基のピークは認められなかった。また、原料パルプが有するカルボキシル基量は、0.04mmol/gであったことから、CNC1のカルボキシル基含量も同値であるものと推測される。
【0075】
(製造例2:TEMPO酸化CNFの製造方法)
漂白済み針葉樹由来溶解クラフトパルプ(バッカイ社製DKP)5g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム755mg(7.4mmol)とを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に2M次亜塩素酸ナトリウム水溶液16mlを添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した(酸化処理)。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応させた後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することでカルボキシル化セルロースを得た。これを水で5.0%(w/v)としたカルボキシル化セルロースのスラリーを調製し、ここに過酸化水素をカルボキシル化セルロースに対して2%(w/w)添加し、3M水酸化ナトリウムでpHを11.3に調整した。このスラリーを80℃の温度下に2時間おき、加水分解を行った。これを水で4.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、140MPa)で3回処理し、TEMPO酸化CNFを得た。得られたTEMPO酸化CNFのカルボキシル基量は1.7mmol/g、平均繊維径は5.7nm、平均繊維長は230nmであった。
【0076】
製造例1で得られたCNC1、製造例2で得られたTEMPO酸化CNFのB型粘度(Va1、Vb1)、光透過率、結晶化度を上述の方法で測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0077】
表1より、製造例1のCNC1は、製造例2のTEMPO酸化CNFと比較して、高いTi値を有する。
【0078】
(実施例1:ゴム組成物1の製造)
NRラテックス(「HA-NR LATEX」(株式会社レヂテックス製)、固形分率61.5%)の固形分100部に対し、CNC1の水分散液を、固形分が1部となるように添加して、密閉式二軸混練機を用いて3000rpmで10分間混合した。この混合溶液を終夜(12時間)静置し、静置安定性評価を行った。
【0079】
上記混合溶液を、弱撹拌(500rpmで10分間)した後、B型粘度を測定した。
【0080】
上記混合溶液を、70℃の加熱オーブン中で16時間キャスト乾燥して混合物(マスターバッチ)を得た。得られた混合物に対し、酸化亜鉛(富士フイルム和光純薬株式会社製)6部、ステアリン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.5部、硫黄(富士フイルム和光純薬株式会社製)3.5部、加硫促進剤(N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(「ノクセラ-MSA-G」大内新興化学工業株式会社製))0.7部を加え、オープンロール(関西ロール社製)を用いて40℃で10分間混練して、未加硫ゴム組成物のシートを得た。このシートを金型にはさみ、150℃で10分間プレス架橋することにより、厚さ約2mmのゴム組成物1のシートを得た。上記ゴム組成物シートを引張試験に供し、硬度測定をした。
【0081】
(実施例2:ゴム組成物2の製造)
実施例1において、CNC1の添加量(固形分の量)を1部から3部に変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、ゴム組成物2を得た。
【0082】
(実施例3:ゴム組成物3の製造)
実施例1において、CNC1の添加量(固形分の量)を1部から5部に変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、ゴム組成物3を得た。
【0083】
(比較例1:ゴム組成物4の製造)
実施例1において、CNC1の水分散液を、製造例2のTEMPO酸化CNFの水分散液(固形分率2.4%、透過率96.6%)に代え、NRラテックスの固形分100部に対しTEMPO酸化CNFの固形分が1部となるように混合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ゴム組成物4を得た。
【0084】
(比較例2:ゴム組成物5の製造)
比較例1において、TEMPO酸化CNFの固形分の量を1部から3部に変更したこと以外は、比較例1と同様に行い、ゴム組成物5を得た。
【0085】
(比較例3:ゴム組成物6の製造)
比較例1において、TEMPO酸化CNFの固形分の量を1部から5部に変更したこと以外は、比較例1と同様に行い、ゴム組成物6を得た。
【0086】
(比較例4:ゴム組成物7の製造)
実施例1において、CNC1を加えなかったこと以外は、実施例1と同様に行い、ゴム組成物7を得た。
【0087】
上記実施例1~3及び比較例1~4の結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2より、CNC1を用いる実施例1~3は、天然ゴム単体である比較例4と比較して高いゴム強度を示し、TEMPO酸化CNFを用いる比較例1~3と比較して応力及び硬度が改善されており、強度のバランスが良好であった。さらに、実施例のCNC1の水分散液は、比較例のTEMPO酸化CNFの水分散液よりも静置安定性に優れ、製造時の作業性が良好であることが期待できるものであった。また、成形前の分散状態において静置安定性に優れることから、成形後も、ゴム組成物中においてセルロース解繊物がより均一に分散し、ゴム強度が高くなると考えられる。これらの結果は、本発明のゴム組成物が、良好な強度及び分散状態における良好な静置安定性を有し得ることを示している。