(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044895
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】機械学習によるスキンケア製剤の性状分類技術
(51)【国際特許分類】
G01N 19/02 20060101AFI20240326BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G01N19/02 A
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150706
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】592042750
【氏名又は名称】株式会社アルビオン
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】清水 らな
(57)【要約】
【課題】多種多様なスキンケア製剤がどのような官能を有するのかを短時間で分類する。
【解決手段】スキンケア製剤の性状を分類するための学習済みモデルの生成方法であって、スキンケア製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力から求められる複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより一又は複数の主成分を求める工程と、主成分、試料の粘度、及びスキンケア製剤の性状の分類を含む複数のデータセットを教師データとして機械学習を行うことにより学習済みモデルを生成する工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキンケア製剤の性状を分類するための学習済みモデルの生成方法であって、
スキンケア製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力から求められる複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより、一又は複数の主成分を求める工程と、
前記主成分、前記試料の粘度、及びスキンケア製剤の性状の分類を含む複数のデータセットを教師データとして機械学習を行うことにより、学習済みモデルを生成する工程とを含む
学習済みモデルの生成方法。
【請求項2】
前記2つの接触子の摩擦力は、前記試料が塗布された範囲で前記2つの接触子の少なくともいずれか一方を繰り返し摺動運動させることにより測定されたものであり、
前記摩擦特性値は、静止摩擦係数、動摩擦係数、及び動摩擦力の発生時点から所定時点までの前記摺動運動の期間における前記動摩擦係数の変動値を含む
請求項1に記載の学習済みモデルの生成方法。
【請求項3】
前記摩擦特性値は、静止摩擦係数と動摩擦係数の差分値をさらに含む
請求項2に記載の学習済みモデルの生成方法。
【請求項4】
前記摺動運動は、往復運動であり、
前記摩擦特性値は、往路過程又は復路過程を複数の区間に分割した場合に、各区間における前記動摩擦係数の平均値又はその変動値をさらに含む
請求項2に記載の学習済みモデルの生成方法。
【請求項5】
前記摩擦特性値は、前後の前記区間における前記動摩擦力の平均値の変化量をさらに含む
請求項4に記載の学習済みモデルの生成方法。
【請求項6】
スキンケア製剤の性状を分類するためのモデルの訓練を行う学習装置であって、
スキンケア製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力から求められる複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより、一又は複数の主成分を求める主成分分析部と、
前記主成分、前記試料の粘度、及びスキンケア製剤の性状の分類を含む複数のデータセットを教師データとして機械学習を行うことにより前記モデルを訓練する学習部とを備える
学習装置。
【請求項7】
コンピュータを請求項6に記載の学習装置として機能させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項1に記載の方法により得られた前記学習済みモデルを用いてスキンケア製剤を分類する分類方法であって、
スキンケア製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力から求められる複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより、一又は複数の主成分を求める工程と、
前記主成分及び前記試料の粘度を前記学習済みモデルに入力し、前記試料の分類に関する情報を得る推論工程とを含む
分類方法。
【請求項9】
スキンケア製剤を分類する分類装置であって、
スキンケア製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力から求められる複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより、一又は複数の主成分を求める主成分分析部と、
前記主成分及び前記試料の粘度を入力とし、前記試料の分類に関する情報を出力する、請求項1に記載の方法により得られた前記学習済みモデルとを備える
分類装置。
【請求項10】
コンピュータを請求項9に記載の分類装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械学習によるスキンケア製剤の性状分類技術に関する。より具体的には、本発明は、スキンケア製剤の剤型を分類するための学習済みモデルの生成方法、当該学習済みモデルを生成するための学習装置、学習プログラム、当該学習済みモデルを用いた分類方法、分類装置、及び分類プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スキンケア製剤にとって、使用時における触感は製品特性に直結する重要な要素である。スキンケア製剤(以下単に「製剤」ともいう。)は、通常、皮膚に適量を付着させた後に手指で擦るようにして対象部位全体に塗り広げられるが、その際の指の滑り具合や、指先で感じるベタつき、とろみなどの触感が消費者の嗜好性に大きく影響する。
【0003】
このような製剤の触感は、一般的にヒト(専門パネル)による官能評価によって評価される。官能評価では実際の状況に鑑みた製剤の触感が明確になるものの、定量的な評価が困難であるという短所がある。このような官能評価を克服するための定量的な評価手法として、特定の官能(具体的には触感)と製剤の物理特性との関係解析が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ヒトが皮膚に製剤を塗り広げる際の感触を定量的に評価することを目的とした感触特性評価方法が開示されている。特許文献1に記載された方法では、ヒトの前腕又は手指に装着された距離計と振動センサにより、その手指で製剤を塗り広げる際に生じる摩擦振動を手指の位置ごとに計測し、その摩擦振動に基づいて製剤の感触特性を評価又は分類する。このように、特許文献1では製剤の感触と摩擦振動(摩擦力)との関係性に着目して、官能評価に代わる客観的な方法で製剤の物理特性を解析することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の評価方法では、製剤の物理特性として手指で製剤を塗り広げる際に生じる位置ごとの摩擦振動に着目しているが、スキンケア製剤には乳液、美容液、化粧水などの多種が存在し、またその性状(剤型)も液状、糊状、ゲル状といったように多様であることから、製剤の摩擦振動とその位置の情報だけでは製剤の官能を正確に分類することが困難である。一方で、性状を分類するために分析に用いる製剤の物理特性の種類を増やすと、製剤のどの特性値がどの程度官能に影響を与えているのかを特定することが困難になるという問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、多種多様なスキンケア製剤がその物理特性ごとにどのような官能を有するのかを短時間で分類できる技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、従来技術が抱える課題の解決手段について鋭意検討した結果、スキンケア製剤の試料が塗布された2つの接触子の摩擦力から複数の摩擦特性値を求め、複数の摩擦特性値を主成分分析にかけることにより得られた主成分を含むデータを教師データとして機械学習を行うことにより、多種多様なスキンケア製剤の性状を短時間で予測できるようになるという知見を得た。そして、本発明者は、上記知見に基づけば、従来技術の課題を解決できることに想到し、本発明を完成させた。具体的に説明すると、本発明は以下の構成又は工程を有する。
【0009】
本発明の第1の側面は、スキンケア製剤の性状を分類するための学習済みモデルの生成方法に関する。本願明細書において、「スキンケア製剤」には、乳液、美容液、化粧水、洗顔料、又はクレンジングオイル等の基礎化粧品に加えて、日焼け止めが含まれる。また、スキンケア製剤の「性状」とは、液状、糊状、ゲル状、クリーム状、ペースト状など、主にヒトの官能評価により分類されるスキンケア製剤の物理的状態を意味する。
【0010】
本発明に係る学習済みモデルの生成方法は、主成分分析工程と学習工程を含む。主成分分析は、スキンケア製剤の試料に関する複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより、一又は複数の主成分を求める。この摩擦特性値は、スキンケア製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力から求められる値である。摩擦特性値にはこの2つの接触子の摩擦力自体は含まれない。なお、スキンケア製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力又はそれから求められる摩擦特性値を、本願明細書では簡略化してスキンケア製剤の摩擦力又は摩擦特性値ともいう。学習工程は、この主成分分析により求められた主成分と、試料の粘度と、スキンケア製剤の性状の分類に関する正解ラベルとを含む複数のデータセットを教師データとして機械学習を行うことにより、学習済みモデルを生成する工程である。本発明において、「機械学習」は、深層学習モデルのように教師あり学習を行うものであれば公知の手法を採用することができ、その構造や学習手法は特に制限されない。また、「学習済みモデル」とは、大量のデータセットをモデルに読み込ませることにより、特徴量やパラメータ(重み付け)が最適に調整されたモデルである。
【0011】
製剤の摩擦力と粘度が製剤の官能(特に触感)に関連していることは経験的にも明らかであり、またこれまでの研究でも両者の間にある程度の関連性があることが認められている。ただし、製剤の性状は多様であり、またヒトは製剤の感触の違いを繊細に感じ取ることができるため、単純に製剤の摩擦力と粘度のみでは、ヒトが違いを認識できる程度の細かさで製剤の性状を分類することが難しかった。これに対して、本発明は、スキンケア製剤の複数の摩擦特性値を主成分分析にかけ、そこで得られた主成分と粘度と正解ラベルの組み合わせを教師データとして機械学習を実施することとしている。スキンケア製剤の摩擦特性値については詳しくは後述するが、静止摩擦係数及び動摩擦係数などといったように、製剤の使用時にヒトの官能に影響を及ぼし得る様々な物理特性を用いることができる。また、摩擦特性値の主成分は、累積寄与率を調整する(例えば80%以上又は90%以上とする)ことで摩擦特性値の大部分を説明することができる。このような複数の摩擦特性値の主成分を機械学習の教師データとして用いることで、多種多様なスキンケア製剤をヒトが違いを認識できる程度の細かさに分類可能な学習済みモデルを得ることが理論上可能となる。そして、このような学習済みモデルを推論に用いることで、スキンケア製剤の性状を短時間で分類することが可能となる。
【0012】
本発明に係る学習済みモデルの生成方法において、2つの接触子の摩擦力は、試料が塗布された範囲で2つの接触子の少なくともいずれか一方を繰り返し摺動運動させることにより測定されたものであることが好ましい。この場合に、製剤の摩擦特性値は、静止摩擦係数(最大)、動摩擦係数(平均)、及び動摩擦力の発生時点から所定時点までの摺動運動の期間における動摩擦係数の変動値を含むことが好ましい。ここにいう「所定時点」の例は、接触子の摺動運動が減速過程に入る前までの時点であるがこれに限定されない。すなわち、往復運動する接触子の往路又は復路のどちらか一方において、動摩擦力の発生した時点から接触子の摺動運動が減速過程に入る直前の時点までの期間内の動摩擦係数の変動値を測定すればよい。また、「動摩擦係数の変動値」とは、所定の摺動運動の期間において測定された動摩擦係数の最大値から最小値を引いた値である。多様な製剤を幅広く分類対象として各製剤を性状ごとに分類するという本発明の目的を達成するためには、特に静止摩擦係数、動摩擦係数、及び動摩擦係数の変動値を主成分分析の変数とすることが有効であると考えられる。また、その他には、以下の値を摩擦特性値として主成分分析の変数として用いることができる。
【0013】
本発明に係る学習済みモデルの生成方法において、摩擦特性値は、静止摩擦係数と動摩擦係数の差分値をさらに含むことしてもよい。ここにいう差分値は、例えば静止摩擦係数から動摩擦係数を差し引いた値とすればよい。ただし、動摩擦係数から静止摩擦係数を差し引いた値とすることも可能である。静止摩擦係数は、最大静止摩擦力を接触面に作用する垂直抗力で割った値であることから一意に定まる。一方、動摩擦係数は計測中に変化する可能性がある。その場合、所定期間における動摩擦係数の平均値と静止摩擦係数との差分値を求めればよい。一般的な摩擦理論として、静止摩擦力は動摩擦力よりも大きいといわれている(アモントン・クーロンの法則)。しかしながら、この法則は物体間に潤滑材などの流体が介在する場合は成立しない。本発明はスキンケア製剤の摩擦力を特性値として用いるため、静止摩擦力>動摩擦力になるとは限らない。このため、上記した動摩擦係数と静止摩擦係数の差分値のように、摩擦特性値の中に静止摩擦力と動摩擦力の関係性を数値化した値をいれる意味がある。
【0014】
本発明に係る学習済みモデルの生成方法において、接触子の摺動運動は、往復運動であり、摩擦特性値は、往路過程又は復路過程を複数の区間に分割した場合に、各区間における動摩擦係数の平均値及び/又はその変動値をさらに含むこととしてもよい。各区間における動摩擦係数の平均値としては、例えば接触子の往路過程を前半と後半の2つの区間に分割した場合に、それぞれの区間に含まれる多数のプロットで測定された動摩擦係数の平均値を求めればよい。また、例えば接触子の往路過程を前半と後半の2つの区間に分割した場合に、ある往路過程における前半区間の動摩擦係数の変動値とは、(ある往路過程における前半区間の動摩擦係数のnプロットの最大値)-(同じ往路過程における前半区間の動摩擦係数のnプロットの最小値)とすればよい。同様に、ある往路過程における後半区間の動摩擦係数の変動値も求めることができる。なお、「プロット」とは、データを記録した点を意味し、「n」とはこのプロットの数を表す2以上の自然数である。例えば、2ms(2ミリ秒)ごとに摩擦特性値のデータを記録することとし、往路過程全体が1s(1秒)である場合、往路全体としては500プロットでデータ測定が行われる。この往路過程を前半と後半の2つの区間に分けると、各区間はそれぞれ0.5秒で250プロット分のデータが得られることとなる。各区間においては、この総プロットからnプロット分(例えば100プロット)の動摩擦係数のデータを抽出してその平均値を求めることとしてもよい。
【0015】
本発明に係る学習モデルの生成方法において、摩擦特性値は、前後の区間における動摩擦力の平均値の変化量をさらに含むこととしてもよい。例えば、接触子の往路過程を前半と後半の2つの区間に分割した場合に、前後の区間における動摩擦係数の平均値の変化量とは、(前半区間の動摩擦係数のnプロットの平均値)-(後半区間の動摩擦係数のnプロットの平均値)とすればよい。
【0016】
本発明の第2の側面は、スキンケア製剤の性状を分類するためのモデルの訓練を行う学習装置に関する。第2の側面に係る学習装置は、基本的に前述した第1の側面に係る学習モデルの生成方法を実行するためのコンピュータ装置である。学習装置は、主成分分析部と学習部を備える。主成分分析部は、スキンケア製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力から求められる複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより、一又は複数の主成分を求める。学習部は、摩擦特性値の主成分、試料の粘度、及びスキンケア製剤の性状の分類に関する正解ラベルを含む複数のデータセットを教師データとして機械学習を行うことによりモデルを訓練する。
【0017】
本発明の第3の側面は、コンピュータを上記第2の側面に係る学習装置として機能させるためのプログラムである。このプログラムは、コンピュータにプリインストールされたものであってもよいし、インターネットを通じてダウンロード可能なものであってもよいし、CD-ROM等の記憶媒体に記憶されたものであってもよい。
【0018】
本発明の第4の側面は、スキンケア製剤の分類方法に関する。第4の側面に係る分類方法は、基本的に前述した第1の側面に係る学習モデルの生成方法により生成された学習済みモデルを用いてスキンケア製剤を分類する。スキンケア製剤の分類方法は、主成分分析工程と推論工程を含む。主成分分析工程は、スキンケア製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力から求められる複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより、一又は複数の主成分を求める。推論工程は、摩擦特性値の主成分及び試料の粘度を学習済みモデルに入力し、試料の分類に関する情報(推定ラベル)を得る。
【0019】
本発明の第5の側面は、スキンケア製剤を分類する分類装置に関する。第4の側面に係る分類装置は、基本的に前述した第4の側面に係る分類方法を実行するためのコンピュータ装置である。第5の側面に係る分類装置は、主成分分析部と学習済みモデルを備える。主成分分析部は、スキンケア製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力から求められる複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより、一又は複数の主成分を求める。学習済みモデルは、前述した第1の側面に係る学習モデルの生成方法により生成されたものである。この学習済みモデルは、摩擦特性値の主成分及び試料の粘度を入力すると、試料の分類に関する情報(推定ラベル)を出力する。
【0020】
本発明の第6の側面は、コンピュータを上記第5の側面に係る分類装置として機能させるためのプログラムである。このプログラムは、コンピュータにプリインストールされたものであってもよいし、インターネットを通じてダウンロード可能なものであってもよいし、CD-ROM等の記憶媒体に記憶されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、多種多様なスキンケア製剤がその物理特性ごとにどのような官能を有するのかを短時間で分類することができる。具体的には、スキンケア製剤を物理特性ごとに分類することで、その物理特性に紐づいた官能を有することを予測したり、あるいは別のどのような製剤と近しい性状を有するのかを予測することができる。また、一旦学習済みモデルを生成してしまえば、その後は製剤のサンプル数に関係なく短時間で分類することができる。例えば、製剤の研究開発において、現行品とリニューアル品の官能の差異を可視化したり、あるいは試作品と目標品との官能の差異や、自社製品と他社製品との官能の差異を可視化したりすることが求められるときに、本発明を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る学習装置と分類装置の機能構成を示したブロック図である。
【
図2】
図2は、スキンケア製剤の試料の摩擦特性を測定するための測定装置の例を模式的に示している。
【
図3】
図3は、本発明の学習装置及び分類装置として機能するコンピュータのハードウェア構成の一例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されるものではなく、以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る学習装置10と分類装置20の機能構成を示している。
図1に示されるように、学習装置10は、正解ラベルを含む教師データを利用して機械学習を実行することにより学習済みモデル21を生成する。分類装置20は、学習装置10により生成された学習済みモデル21を備える。分類装置20は、この学習済みモデル21に入力データ23を入力すると、正解ラベルに対応する出力データ24を出力する。これにより入力データ23を分類することができる。以下、各装置10,20の機能について具体的に説明する。
【0025】
[1.学習装置]
本実施形態において、学習装置10は、データセット11、主成分分析部12、及び機械学習部13を備える。学習装置10は、汎用的なコンピュータにより構成される。データセット11は、コンピュータが備えるメモリやストレージといった記憶装置に保存されている。主成分分析部12と機械学習部13は、コンピュータが備えるCUPやGPUといったプロセッサ(演算装置)が所定のプログラムを実行することにより実現される。
【0026】
データセット11は、スキンケア製剤の試料ごとに、複数の摩擦特性値と、レオロジー特性値(粘度)と、製剤の性状の分類に対応する正解ラベルとを関連付けたデータを大量に含む。製剤の摩擦特性値は、製剤の試料が接触界面に塗布された2つの接触子の摩擦力から求められる値である。摩擦力の測定方法や摩擦特性値の詳細については後述する。レオロジー特性値は、基本的に製剤の粘度である。この製剤の粘度は、「JIS Z 8803液体の粘度-測定方法」等の公的な規格に従って測定した値とすればよい。正解ラベルは、例えば液状、糊状、ゲル状、クリーム状、ペースト状など、ヒトの官能評価により分類可能な程度の細かさで製剤の触感を分類したラベルとすればよい。製剤の分類はここに挙げた例に限られず、さらに細かく分類することも可能である。例えば、「なじむ(浸透する)」、「なめらかである」、「密着する」、「みずみずしい」、「肌あたりがやさしい」、「コクがある」、「ふんわり柔らかい」、「伸び広がりがよい」、「重すぎない」、「途中で軽くなる」、「しっとりしている」といったように、ヒトの感覚語彙に応じたラベルを付与することもできる。正解ラベルの数は、少なくとも2パターン以上であることが好ましく、5パターン以上や、7パターン以上、10パターン以上とすることもできる。
【0027】
主成分分析部12は、データセット11に含まれる複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより、これらを要約した一又は複数の主成分を求める。主成分分析とは、多くの説明変数により記述された多次元の量的データを、できるだけ少ない情報の損失でより低次元の無相関な合成変数(主成分)に縮約する統計学上のデータ解析手法のひとつである。詳しくは後述するが、本実施形態では、製剤の摩擦特性値として、静止摩擦係数や、動摩擦係数、動摩擦係数の変動値、静止摩擦係数と動摩擦係数の差分値などを含む多数の値を用いる。これらの多数の摩擦特性値をそのまま機械学習の教師データとして用いるとモデル構造が複雑化し、得られる推論結果の精度が低下したり推論結果を出力するまでに長時間かかることになると懸念される。このため、本発明では、複数の摩擦特性値(説明変数)を主成分分析にかけてより少ない主成分(合成変数)を求め、その主成分を機械学習の教師データとして用いることとしている。教師データとして用いる主成分の数は、特に制限されないが、累積寄与率が80%以上、好ましくは90%以上となるように、寄与率の高い順に主成分を選択すればよい。あるいは、1以上の固有値を持つ主成分をすべて機械学習の教師データとして用いることとしてもよい。なお、「固有値」とは、各主成分が含む情報の大きさを表す指標であり、1以上の固有値を持つ主成分は元データとの関連が深いとされる。また、「寄与率」とは、ある主成分の固有値が表す情報が元データのすべての情報の中でどの位の割合を占めるかを表す指標であり、「累積寄与率」とは、各主成分の寄与率を大きい順に足しあげていったもので、そこまでの主成分でデータの持っていた情報量がどの程度説明しているかを示している。
【0028】
学習部13は、データセット11に含まれる粘度及び正解ラベルに、主成分分析により得られた主成分を加えた教師データを利用して機械学習を実行し、学習モデルを訓練する。機械学習の手法としては、分類問題を解くのに用いられる公知の教師あり学習を採用すればよい。例えば、SVM(Support Vector Machine)や、ロジティクス回帰、k近傍法、決定木、ニューラルネットワークといった公知の手法を用いることができる。これらの手法の中でも、SVMは、線形、非線形の識別関数があり、現在知られている多くの機械学習の中では最も優れた識別・分類能力があるとされていることから、本発明ではこのSVMを採用することが好ましい。SVMは、主に2値分類を解くための学習モデルであり、線形しきい素子を用いて分類器が構成されている。SVMでは、教師データにおける各データ点と距離が最大になるマージン最大化という基準で線形しきい素子のパラメータを学習させる。
【0029】
学習部13によって学習モデルを訓練することにより、学習済みモデル21が生成される。この学習済みモデル21は、スキンケア製剤の摩擦特性値の主成分と粘度とに基づいて製剤の性状を分類するのに最適化されている。この学習済みモデル21は、主に分類装置20に組み込まれて使用される。
【0030】
[2.摩擦特性値]
続いて、主成分分析にかけられるスキンケア製剤の摩擦特性値(説明変数)について詳しく説明する。
【0031】
まず、
図2を参照して、スキンケア製剤の摩擦力を測定する方法について説明する。
図2は、摩擦測定装置30の一例を示している。
図2に示されるように、摩擦測定装置30は、人工皮膚基板31(第1の接触子)、指紋模倣接触子32(第2の接触子)、ロードセル33、錘34、及び加温プレート35に加えて、人工皮膚基板31及び加温プレート35を左右に繰り返しスライドさせるための往復運動機構(不図示)を備えている。人工皮膚基板31は、ヒトの皮膚の表面形状を模したものであり、加温プレート35の上に固定されている。特に、この基板31はヒトの皮膚の濡れ特性を模倣した構造となっている。指紋模倣接触子32は、ヒトの指先の指紋形状を模したものであり、所定の荷重がかかった状態でその先端が基板31に常時接触するように配置されている。この状態でスライド機構を駆動して基板31及び加温プレート35をスライドさせることで、基板31と接触子32が擦り合わされる。ロードセル33は、荷重(軸方向の力)の変化を電気信号に変換する変換器であり、接触子32に取り付けられている。この接触子32には荷重を加えるための錘34も取り付けられており、ロードセル33は基板31と接触子32が擦り合わされたときの力の変化を検出する。ロードセル33の測定値は、コンピュータ等の演算装置(不図示)に入力される。演算装置は、ロードセル33の計測値から摩擦力を算出する。加温プレート35は、摩擦力の測定中、人工皮膚基板31を加温して、この基板31の温度をヒトの体温程度(例えば30~40度の範囲)に維持している。これにより、実際にヒトの皮膚にスキンケア製剤を塗布して手指で塗り広げるときの状態を人工的に再現することができる。
【0032】
また、
図2に示されるように、人工皮膚基板31と指紋模倣接触子32の接触界面には、スキンケア製剤の試料Sが塗布される。試料Sは、少なくとも接触子32が基板31上を摺動する範囲(矢印で示した範囲)に全体に亘ってあらかじめ塗布する、もしくは、接触子32に付着させたバルクを基板31上を摺動運動することによって塗布する。この試料Sの物理特性によって、摺動運動中に基板31と接触子32の間に働く摩擦力が変化する。つまり、試料Sの潤滑性が高い場合には基板31と接触子32との摩擦力は低くなり、試料Sの潤滑性が低い場合には基板31と接触子32との摩擦力は高くなる。
【0033】
ここにいう摩擦力には、静止摩擦力と動摩擦力が含まれる。静止している物体にある一定以上の大きさの力を加えた場合に物体が滑り出す直前に最大となる摩擦力を「最大静止摩擦力」といい、物体を移動中に発生する摩擦力のことを「動摩擦力」という。ここで、最大静止摩擦力Fと動摩擦力F´は、それぞれ以下の式で表される。
[最大静止摩擦力] F=μN
[動摩擦力] F´=μ´N
上記式に表されるように、最大静止摩擦力Fと動摩擦力F´はいずれも垂直抗力Nに比例していることがわかる。一方で、上記式において、μは静止摩擦係数、μ´は動摩擦係数をそれぞれ表しているが、いずれの摩擦係数(μ,μ´)も摩擦力(F,F´)を接触面に作用する垂直抗力(N)で割った無次元量である。このため、摩擦力(F,F´)を摩擦係数(μ,μ´)に変換することで物体に加わる荷重を無視できるようになる。
【0034】
なお、本実施形態では、動摩擦係数だけでなく静止摩擦係数も測定することとしている。このため、基板31上における接触子32の往復運動は、往路過程と復路過程を連続して行うのではなく、往路過程と復路過程の間で一度接触子32を静止させた後、静止した接触子32を再度移動させることとしている。
【0035】
摺動運動中、試料Sが塗布された基板31と接触子32の間に働く摩擦力は、接触子32の繰り返しの往路過程及び復路過程のそれぞれにおいて、多数のプロットで測定される。例えば、ロードセル33により2ms(2ミリ秒)ごとに摩擦力のデータを測定することとし、往路過程全体と復路過程全体が1s(1秒)である場合、プロット(データの測定点)の数は、往路過程で500プロット、復路過程で500プロットとなる。ここで、往路過程と復路過程のすべてのプロットで測定されたデータを使用する必要はないため、例えば使用するデータは往路過程と復路過程の一方のみとし、他方のデータは無視することとしてもよい。本実施形態では、一例として、往路過程で取得したデータのみを採用し、復路過程で取得したデータは無視することとしている。
【0036】
また、接触子32は基板31上で繰り返し往復運動をすることになるが、すべての往路過程(又は復路過程)で取得した摩擦力のデータを採用する必要はなく、一部の往路過程(又は復路過程)のデータのみを採用することとしてもよい。例えば、接触子32を基板31上で20往復させることとした場合、1往路目、2往路目、5往路目、及び20往路目のみのデータを採用するということも可能である。どの往路のデータを採用するか、あるいは往路何回分のデータを採用するかは適宜調整すればよい。
【0037】
また、接触子32の1つのストローク(往路過程と復路過程のいずれか片道)を複数の区間に区切って摩擦力のデータを整理することとしてもよい。例えば、1ストロークを前半と後半の2つの区間に区切ることとしてもよいし、前期、中期、後期の3つの区間に区切ることとしてもよいし、それ以上であってもよい。これにより、例えば、ある往路過程の一区間と次の往路過程の同じ区間の摩擦係数を比較した変化量を求めたり、ある往路過程における一区間とその次の区間の摩擦係数を比較した変化量を求めたりすることもできる。
【0038】
摩擦力の測定方法の実施例は以下の通りである。
[使用機械]TL201Tt 静・動摩擦測定機(株式会社トリニティーラボ)
[測定回数]1条件につき3回ずつ行いそれらの平均値を使用して解析を行う
[荷 重]30gの錘を使用
[移動速度]30mm/s
[移動距離]30mm
[往復回数]1条件につき20往復測定
[基 板]スキンテキスチャーモデル(ポリウレタン製、株式会社トリニティーラボ)
[接触子 ]触覚接触子(ポリウレタン製、株式会社トリニティーラボ)
[測定環境]室温25℃、湿度50%、基板温度36℃
【0039】
本実施形態では、上記のようにして測定したスキンケア製剤の試料Sの摩擦力(厳密にいうと試料Sが塗布された基板31と接触子32の間に働く摩擦力)から、以下の12項目の摩擦特性値を算出することとしている。また、接触子32の往路過程で測定したデータのみを採用することとし、この各往路過程を前期、中期、後期の3つの区間に区切ってデータを整理する。さらに、各項目を、1往路目、2往路目、5往路目、及び20往路目のデータのみ採用する。従って、主成分分析にかける説明変数の数は48となる(12項目×4往路分)。
【0040】
[摩擦特性値]
01.静止摩擦係数(最大)
02.動摩擦係数(平均)
03.動摩擦係数の変動値
04.静止摩擦係数から動摩擦係数を差し引いた差分値
05.往路前期区間における動摩擦係数の平均値(100プロット)
06.往路前期区間における動摩擦係数の変動値
07.往路中期区間における動摩擦係数の平均値(100プロット)
08.往路中期区間における動摩擦係数の変動値
09.往路後期区間における動摩擦係数の平均値(100プロット)
10.往路後期区間における動摩擦係数の変動値
11.往路前期区間と往路中期区間における動摩擦係数の平均値の変化量
12.往路中期区間と往路後期区間における動摩擦係数の平均値の変化量
【0041】
なお、上記12項目の摩擦特性値のうち、項目01~03が製剤の官能に及ぼす影響が大きく、最も優先度が高いものであると考えられる。次に優先度が高いのは項目04であり、その後は項目05~09、項目11~12と続くと考えられる。以下では、摩擦特性値の各項目について説明する
【0042】
(01.静止摩擦係数)
前述したととおり、静止している物体にある一定以上の大きさの力を加えた場合に物体が滑り出す直前に最大となる摩擦力を最大静止摩擦力という。この最大静止摩擦力Fは、F=μNの式で表され、垂直抗力Nに比例する。静止摩擦係数μは、最大静止摩擦力Fを接触面に作用する垂直抗力Nで割った無次元量である。
【0043】
(02.動摩擦係数)
前述したとおり、物体の移動中に発生する摩擦力を動摩擦力という。この動摩擦力F‘は、F´=μ´Nの式で表され、垂直抗力Nに比例する。動摩擦係数μ´は、動摩擦力F´を接触面に作用する垂直抗力Nで割った無次元量である。また、本実施形態において、接触子の1ストローク(往路過程と復路過程のいずれか片道)中に動摩擦係数が変化する場合には、ここにいう動摩擦係数とは、1ストローク中に測定された平均の動摩擦係数を意味する。
【0044】
(03.動摩擦係数の変動値)
動摩擦係数の変動値とは、すなわち、動摩擦力の発生時点から所定時点までの接触子の摺動運動期間における動摩擦係数力の変動値を意味する。具体的には、接触子の1ストローク中に、動摩擦力の発生時点から接触子が減速過程に入るまでの区間において計測された動摩擦係数の最大値から最小値を引いた値を、動摩擦係数力の変動値とすればよい。一般的に、固体表面同士の間に発生する動摩擦力や動摩擦係数には大きな変動はない。しかし、スキンケア製剤を塗布したという状況下での摩擦測定では、製剤が潤滑剤の役割を果たすため潤滑層の存在を考慮しなければならない。加えて、製剤を塗り広げるという動作の下では、潤滑層の厚さが不均一になることが予想される。例えば、塗布距離が長いほど潤滑層が薄くなったり、製剤の粘度が高いほど潤滑層が厚くなるといった可能性が考えられる。このため、製剤を塗り広げる場合には、接触子と基板の間の動摩擦の大きさが一定にはならず、往復運動を重ねていく中で徐々に変動が生じるものと予想される。そして、そういった動摩擦係数が徐々に変動するという摩擦特性が、製剤の使用時の官能に影響を及ぼしていると考えられる。そこで、本実施形態では、一塗りの動作中(動摩擦開始地点から接触子が減速過程に入る前までの区間)に動摩擦係数がどのくらい変動しているのかを、動摩擦係数の変動値として算出する。
【0045】
(04.静止摩擦係数から動摩擦係数を差し引いた差分値)
静止摩擦係数から動摩擦係数を差し引いた差分値も、摩擦特性値の1つとして利用し得る。ここにいう静止摩擦係数とは、前述したとおり最大静止摩擦力Fを接触面に作用する垂直抗力Nで割った値であることから一意に定まる。一方で、動摩擦係数は、1ストローク中に変化する可能性がある。この場合、例えば1ストロークを前期、中期、後期の3の区間に区切った場合に、静止摩擦係数とその直後の動摩擦係数とを比較しやすくするために、前期中の各プロットで測定された動摩擦係数のデータの平均値と静止摩擦係数との差分を求めることとすればよい。なお、前期中のプロットが多数存在する場合には、ランダムに抽出された100プロットの動摩擦係数のデータの平均値と静止摩擦係数との差分としてもよい。一般的な摩擦理論として、最大静止摩擦力は動摩擦力よりも大きいといわれている(アモントン・クーロンの法則)。しかしながら、この法則は流体潤滑された表面では成立しない。実際に測定を行うと、もったりとした高粘度のスキンケアクリームでは動摩擦係数以下もしくは同等の大きさの静止摩擦係数が測定されるという傾向が見られた。一方で、しゃばしゃばした低粘度の化粧水では動摩擦係数と比べて高い静止摩擦係数が測定された。このため、静止摩擦係数から動摩擦係数を差し引いた差分値も製剤の使用時の官能に影響を及ぼしていると考えられる。
【0046】
(05~10.各区間における動摩擦係数の平均値とその変動値)
前述したとおり、本実施形態では、各往路過程を前期、中期、後期の3つの区間に区切ってデータを整理することしている。ここで、前期、中期、及び後期の中から100のプロットをランダムに抽出し、各100プロットにおいて測定された動摩擦係数の平均値を算出する。これにより、往路前期区間における動摩擦係数の平均値(100プロット)、往路中期区間における動摩擦係数の平均値(100プロット)、及び往路後期区間における動摩擦係数の平均値(100プロット)を求めることができる。また、各区間における動摩擦係数の変動値としては、例えば前期区間に関しては、(ある往路過程における前期区間の動摩擦係数の100プロットの最大値)-(同じ往路過程における前期区間の動摩擦係数の100プロットの最小値)により求められる。中期区間における動摩擦係数の変動値と、後期区間における動摩擦係数の変動値についても同様である。
【0047】
(11~12.前後の区間における動摩擦係数の平均値の変化量)
前述したとおり、本実施形態では、各往路過程を前期、中期、後期の3つの区間に区切ってデータを整理することしている。そこで、前後の区間における動摩擦係数の平均値の変化量も、摩擦特性値の1つとして利用し得る。具体的には、往路前期区間と往路中期区間における動摩擦係数の平均値の変化量は、(ある往路過程における前期区間の動摩擦係数の100プロットの平均値)-(同じ往路過程における中期区間の動摩擦係数の100プロットの平均値)により求められる。同様に、往路中期区間と往路後期区間における動摩擦係数の平均値の変化量は、(ある往路過程における中期区間の動摩擦係数の100プロットの平均値)-(同じ往路過程における後期区間の動摩擦係数の100プロットの平均値)により求められる。
【0048】
前述したとおり、本実施形態では、接触子を20往復させる間に上記の12項目のデータを収集し、そのうち、1往路目、2往路目、5往路目、及び20往路目のデータのみ採用する。従って、主成分分析にかける説明変数の数は48となる(12項目×4往路分)。これらの説明変数を主成分分析にかけると、より低次元の主成分(合成変数)に縮約される。生成された主成分のうち、より寄与率の高いものが機械学習の教師データとして用いられる。例えば累積寄与率が90%以上となるように、寄与率の高い順に主成分を抽出すればよい。教師データとして用いる主成分の数に特に制限はないが、例えば10以下となることが好ましく、8以下又は6以下となることが特に好ましい。
【0049】
[3.分類装置]
本実施形態において、分類装置20は、
図1に示されるように、学習済みモデル21と主成分分析部22を備える。この分類装置20は、あるスキンケア製剤の試料に関する摩擦特性値と粘度とがセットとなっている入力データ23を、学習済みモデル21と主成分分析部22に入力することにより、その試料の分類に関する推定ラベルを含む出力データ24を出力するように構成されている。
【0050】
学習済みモデル21は、前述した学習装置10により生成されたものであり、分類装置20によるスキンケア製剤の分類処理に利用される。分類装置20の主成分分析部22は、前述した学習装置10の主成分分析部12と同じ処理を行う。すなわち、分類装置20の主成分分析部22は、入力データ23に含まれる複数の摩擦特性値について主成分分析を行うことにより、これらを要約した一又は複数の主成分を求める。本実施形態では、前述したように、製剤の摩擦特性値として、静止摩擦係数や、動摩擦係数、動摩擦係数の変動値、静止摩擦係数と動摩擦係数の差分値などの多数の値が用いられる。学習済みモデル21には、あるスキンケア製剤の試料に関する粘度と、その試料に関する複数の摩擦特性値から得られた主成分とが入力される。この学習済みモデル21は、多量のスキンケア製剤の試料について粘度、摩擦特性値から得られた主成分、及び試料の分類に関わる正解ラベルを教師データとして訓練されたものであるから、粘度と主成分が入力されるとそれに対応する推定ラベルを出力することとなる。このようにして、学習装置10により生成された学習済みモデル21を用いて、スキンケア製剤の分類装置20を構成することが可能である。
【0051】
[4.実際の計算例]
43種類のスキンケア製剤について、前述した例に従って48個(12項目×4往路分)の摩擦特性値と粘度(JIS Z 8803)を測定した。また、43類全種の製剤の各摩擦特性値と粘度を階層クラスター分析にかけて5つのグループに分類した。このクラスター分析により分類されたグループを正解ラベルとした。43類の製剤のうち、31種類(70%)は教師データとし、残りの12種類(30%)はテストデータとした。
【0052】
まず、教師データとなる31種類の製剤の摩擦特性値(48個)に対して主成分分析を行ったところ、上位第1主成分から第6主成分で累積寄与率が91%となったため、これら第1主成分から第6主成分を教師データとして採用した。31種類のスキンケア製剤について、第1主成分から第6主成分、粘度、及びクラスター分析により得られた正解ラベルを教師データとして機械学習(SVM)を行ってモデルを訓練し、学習済みモデルを生成した。
【0053】
他方、テストデータとなる12種類(30%)の製剤の摩擦特性値を、教師データから算出した上位第1主成分から第6主成分に代入した。そして、テストデータの製剤の各主成分と粘度を上記の学習済みモデルに入力し、推定ラベルを出力した。ここで出力されたテストデータの推定ラベルが事前のクラスター分析により分類された正解ラベルと一致するかどうかを検証した。その結果、12種類の製剤の推定ラベルのうち10種類(約83%)が正解ラベルと一致することが確認された。これにより、本発明により生成された学習済みモデルは十分に実用的な精度を有していることが確認された。なお、学習済みモデルの精度は、教師データを増やせばさらに向上するものと推察される。
【0054】
[5.コンピュータ構成]
図3は、コンピュータ100のハードウェア構成例を示すブロック図である。コンピュータ100は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサ110と、メインメモリ120と、ストレージ130と、入出力用のインターフェース140を備える。前述した学習装置10及び分類装置20は、いずれもこのような構成のコンピュータ100に実装することができる。
【0055】
具体的には、学習装置10及び/又は分類装置20用のプログラムが、ストレージ130に記憶されている。ストレージ130は、コンピュータ100の内部に備え付けられたHDDやSSDであってもよいし、インターフェース140を介して接続された外部ストレージ(HDD、SSD、CD-ROM等)であってもよい。プロセッサ110は、各プログラムをストレージ130から読み出してメインメモリ120に展開し、当該プログラムに従った処理を実行する。また、プロセッサ110は、各プログラムに従って、前述した学習装置10及び分類装置20での各プロセスの実行に必要となる記憶領域をメインメモリ120に確保する。プロセッサ110への情報入力とプロセッサ110からの情報出力はインターフェース140を介して行われる。例えば、コンピュータ100には、インターフェース140を介して入力デバイスが接続されていてもよい。また、コンピュータ100は、このインターフェース140を介して表示デバイスや通信デバイス、印刷デバイスが接続されていてもよい。
【0056】
前述した学習装置10(
図1参照)がこのコンピュータ100に実装される場合、主に、主成分分析部12及び学習部13の動作を実行するためのプログラムが、ストレージ130に記憶されている。また、機械学習の教師データとして用いられるデータセット11もこのストレージ130に記憶されている。プロセッサ110は、プログラムをストレージ130から読み出してメインメモリ120に展開し、このストレージ130に記憶されているデータを読み込みながら、当該プログラムに従った処理を実行する。また、プロセッサ110は、処理途中で発生するデータをメインメモリ120に一時的に記憶したり、あるいはストレージ130に書き出したりしながら、プログラムに従った処理を実行する。
【0057】
また、同様に、前述した分類装置20(
図1参照)がこのコンピュータ100に実装される場合、学習済みモデル21及び主成分分析部22の動作を実行するためのプログラムが、ストレージ130に記憶されている。また、入力データ23もこのストレージ130に記憶されている。プロセッサ110は、プログラムをストレージ130から読み出してメインメモリ120に展開し、このストレージ130に記憶されているデータを読み込みながら、当該プログラムに従った処理を実行する。また、プロセッサ110は、処理途中で発生するデータに一時的に記憶したり、ストレージ130に書き出したりしながら、プログラムに従った処理を実行する。最終的に、プロセッサ110は、処理の結果により得られた出力データ24をストレージ130に書き出したり、あるいはインターフェース140を介して外部へと出力する。
【0058】
以上、本願明細書では、本発明の内容を表現するために、図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0059】
10…学習装置 11…データセット
12…主成分分析部 13…学習部
20…分類装置 21…学習済みモデル
22…主成分分析部 23…入力データ
24…出力データ 30…摩擦測定装置
31…人工皮膚基板(第1の接触子) 32…指紋模倣接触子(第2の接触子)
33…ロードセル 34…錘
35…加温プレート S…試料
100…コンピュータ 110…プロセッサ
120…メインメモリ 130…ストレージ
140…インターフェース