IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

特開2024-4491反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ
<>
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図1
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図2
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図3
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図4
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図5
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図6
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図7
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図8
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図9
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図10
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図11
  • 特開-反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004491
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】反射型偏光素子貼合レンズ、ヘッドマウントディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/04 20060101AFI20240109BHJP
   G02B 27/02 20060101ALI20240109BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20240109BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240109BHJP
   G02B 3/04 20060101ALN20240109BHJP
【FI】
G02B1/04
G02B27/02 Z
G02B3/00 Z
G02B5/30
G02B3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106488
(22)【出願日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2022104032
(32)【優先日】2022-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕
(72)【発明者】
【氏名】山畑 勇太
(72)【発明者】
【氏名】杉村 昌治
(72)【発明者】
【氏名】土井 誠太郎
(72)【発明者】
【氏名】日高 泉展
【テーマコード(参考)】
2H149
2H199
【Fターム(参考)】
2H149AA17
2H149AB01
2H149BA03
2H149BA23
2H149BB28
2H149FA02Z
2H149FA41W
2H149FC10
2H149FD02
2H149FD09
2H149FD46
2H149FD47
2H199CA42
2H199CA47
2H199CA59
2H199CA63
2H199CA64
2H199CA65
2H199CA86
(57)【要約】
【課題】本発明は、薄型かつ軽量な光学系であるパンケーキレンズ構成を持つヘッドマウントディスプレイにおいて、フレアやゴーストの発生そしてコントラストの低下を効果的に抑制させつつ、高解像度の映像を提供可能な反射型偏光素子貼合レンズを得ることを目的とする。
【解決手段】上記課題を達成するべく、本発明は、画像表示素子からの光を観察者の眼球に向かって導く接眼光学系を有する画像表示装置に使用するレンズであって、前記レンズは、主鎖もしくは側鎖にアリール基又は脂環式基を持つ熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂レンズであり、前記樹脂レンズは、ガラス転移温度Tgが115℃~150℃であり、光弾性係数の絶対値が10×10-12Pa-1以下であり、互いに反対側の第1の面および第2の面を有し、その一方の面に反射型偏光素子が貼合されてなる、反射型偏光素子貼合レンズである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示素子からの光を観察者の眼球に向かって導く接眼光学系を有する画像表示装置に使用するレンズであって、
前記レンズは、主鎖もしくは側鎖にアリール基又は脂環式基を持つ熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂レンズであり、
前記樹脂レンズは、
ガラス転移温度Tgが115℃~150℃であり、
光弾性係数の絶対値が10×10-12Pa-1以下であり、
互いに反対側の第1の面および第2の面を有し、その一方の面に反射型偏光素子が貼合されてなる、反射型偏光素子貼合レンズであり、
前記樹脂レンズの第1の面と第2の面を結ぶ光軸に平行であり、前記樹脂レンズに貼合されている反射型偏光素子の透過軸に平行な偏光光を入射した時の、530nmの透過率(Tp530)が70%以上であって、
前記Tp530と、前記樹脂レンズに貼合されている反射型偏光素子の透過軸に垂直な偏光光を入射した時の透過率(Tc530)と、の比率が150以上(Tp530/Tc530≧150)であることを特徴とする、反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項2】
前記樹脂レンズの酸成分含有量が120ppm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項3】
前記樹脂レンズと前記反射型偏光素子が貼合される面が、光軸を含む領域において凸形状もしくは凹形状の面であり、基準とする曲率半径Rの絶対値が20mm以上200mm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項4】
前記樹脂に貼合される反射型偏光素子は、厚さ150μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項5】
前記樹脂レンズに貼合されている反射型光学素子の、透過軸に平行な光の透過率と垂直な光の透過率との比率が200以上(Tp530/Tc530≧200)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項6】
USAF1951ターゲットネガを使用して、530nmの光を発するLED光源で背面より照射し、次いで、円偏光フィルター、ハーフミラー、1/4波長素子、前記反射型偏光素子貼合レンズ、カメラを、順番に配置して、該カメラでターゲット像を撮影した時にGroup4のElement3のコントラストが0.15以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項7】
前記樹脂レンズの飽和吸水率が2.0質量%以下であることを特徴する、請求項1又は2に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項8】
前記樹脂レンズを構成する樹脂組成物が、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基からなる群に属する極性基のうち少なくとも1つを主鎖もしくは側鎖に持つ樹脂を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項9】
前記樹脂レンズを構成する樹脂組成物の酸素重量割合(レンズ)と前記反射型偏光素子を構成する樹脂組成物の酸素重量割合(フィルム)が、いずれも10wt%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項10】
前記樹脂レンズを構成する樹脂組成物が、メタクリル系樹脂組成物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項11】
前記樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、曲げ強さが65MPa以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項12】
前記反射型偏光素子が、偏光分離に関わる反射面を1面だけ持つことを特徴とする、請求項1又は2に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
【請求項13】
請求項10に記載の反射型偏光素子貼合レンズを使用することを特徴とする、ヘッドマウントディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光を利用した光学機器に好適な反射型偏光素子を貼合したレンズ、及び、それを使用したヘッドマウントディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バーチャルリアリティ(仮想現実、以下VRと称する。)やアウグメンティッドリアリティ(拡張現実、以下ARと称する。)のデバイス開発が盛んに行われている。VRヘッドマウントディスプレイについて具体的には、コンピュータで作成した映像やステレオカメラで撮影した映像を、眼の近傍に配置された各眼用のディスプレイから表示し、該ディスプレイと眼の間に配置した拡大光学系を使用して、人の眼の視野角近くからそれ以上に拡大することで、ユーザーに対してあたかもその映像空間内に存在するかのように感じさせるデバイスが例示される。また同様にARヘッドマウントディスプレイについては、映像をミラーや回折格子そしてホログラフィック素子を利用して透明な導波体に入射し、全反射によって導波させたのち、全反射を崩す形で配置されたミラーや回折格子そしてホログラフィック素子によりユーザーの眼の方向に映像光を出力することで、現実世界は透明な導波路からシースルーとして観察されつつ、上記光学系により映像光も現実世界に重畳され観察することができるデバイスが例示される。
【0003】
これらのデバイスでは、観察者が不快感なく装着可能で、かつ映像を観察した時に違和感のない表示が求められており、デバイス全体の軽量化、小型化、薄型化、そして没入感の高い映像の表示が求められている。
【0004】
特に没入感を高めるために、特にVRヘッドマウントディスプレイにおいては、映像の視野角は重視されており、人の視野角近くまで映像を拡大させつつ、デバイスが大きく嵩張った構造とならないようにするため、拡大光学系が薄型でありつつ、強力な拡大倍率を持つことが求められている。
【0005】
そのような光学系として、例えば、特許文献1~3に示されるような文献にて、偏光を利用して光路を折り畳む接眼光学系が提案されている。
基本的な構成を概念図として図1に示す。まず左側から画像表示装置101、円偏光素子(例えば、直線偏光板と1/4λ素子が貼り合わされたもの)102、ハーフミラー103、レンズ104、1/4λ素子105そして偏光を分離する機能を持つ反射型の偏光素子106(例えば、入射面に垂直なS波を反射し、入射面に平行なP波は透過するような光学素子)を組み合わせた構成を持つ。ここで、画像表示装置101から出射された光は、円偏光素子102で円偏光(例えば進行方向からみて左回りの円偏光)に変換され、ハーフミラー103を透過する。その後、レンズ104内を透過した後、1/4λ素子105で1/4λの位相差が付与され直線偏光に変換される。この時、反射型偏光素子106の透過軸をこの直線偏光の軸と直交させておくことで、該光は、反射型偏光素子106で反射され光路を折返し、再度1/4λ素子105で円偏光(例えば進行方向からみて左回りの円偏光)に変換される。レンズ内を透過し、再びハーフミラーで折返された後(例えば進行方向からみて右回りの円偏光に変換される)、3回目レンズを透過すると、次は1/4λ素子で直線偏光に変換された際、反射型の光学素子を透過する偏光軸となっており、反射型偏光素子106を透過した後、ユーザーが映像を虚像として視認する構成となっている。このような構成(以下、パンケーキレンズ構成と称する)とすることで、光が折り畳まれた光学系となり、レンズによる拡大倍率を上げ、かつ薄型の光学系をヘッドマウントディスプレイに適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6563638号公報
【特許文献2】特許第6386210
【特許文献3】特開2020-85956号公報
【特許文献4】米国特許第10409067号公報
【特許文献5】特開2021-92767号公報
【特許文献6】特開平10-10465号公報
【特許文献7】特開2020-095295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような光学系では、レンズの中を3回光が透過するため、レンズが持つ複屈折の寄与も3倍となり、偏光の軸を厳密に制御することができない状態となりやすい。この場合、直線偏光であるべき光が位相差を受け楕円偏光となることで、例えば反射型偏光素子で反射されるべき映像が透過されることによりゴーストやフレアが発生する、それに加えて、2度折り返した後、本来透過されるべき光が再度反射されることによるコントラストの低下等が発生してしまう。これらの不良が問題となっていた。
【0008】
特に、ヘッドマウントディスプレイの軽量化のためガラスではなく樹脂レンズを使用する場合、樹脂を射出成形する際に発生する主鎖の配向に起因した配向複屈折や、内部に残留した応力や外部より加えられる応力に起因した光弾性の影響によって、映像光の偏光軸が回転し、前記ゴーストやフレアの発生、コントラスト低下等が大きな問題となることが示されている(例えば特許文献3や5)。
【0009】
そのため、このような問題を抑制するため、低複屈折樹脂の開発が求められており、樹脂として配向複屈折と光弾性が共に極めて小さくなるようにモノマー構成比が厳密に制御された低複屈折樹脂がヘッドマウントディスプレイ用のレンズとして好適であることが特許文献4~6で報告されている。
【0010】
このような樹脂を使用すれば、ゴーストやフレアの発生、そしてコントラストの低下等を抑制させつつ、複数枚のレンズを組み合わせることで虚像の単色収差や色収差の補正を行うことが可能であり、特に、ガラスでは作製が困難である非球面レンズを使用することによって虚像の単色収差を効率的に補正することが可能となる。例えば、収差補正に非球面レンズが有効であることは特許文献7に例示される。
【0011】
また、光学系としての拡大倍率の向上や空気界面での反射によるコントラスト低下やゴースト発生の抑制のためには、前記位相差板及び反射型光学素子の2つの光学素子を共にレンズ面に貼り合わせられることが有効である。
【0012】
ところが、このような構成とする場合、平面では比較的容易に貼り合わせ自体は可能だが、信頼性試験等にかけると貼合面の剥離が発生するなどの問題があり、実用的ではなかった。また、理想的には曲面や非球面形状に貼り合わせることでより光学系の短焦点化が可能であるため光学系の薄型化に寄与するが、その場合は貼り合わせ工程が非常に難しくなる。貼り合わせ時の面の乱れ(うねり)は解像度低下や像の歪みに繋がり、接着界面の気泡は映像の欠陥を生む。また、延伸工程によって機能を発現している波長板や反射型光学素子をレンズ面に熱によって貼り合わせる場合、熱膨張や応力緩和に伴う収縮等により基材フィルムの延伸倍率が変化することで、光学素子の機能が設計値からずれることが大きな問題となる。さらに、波長板や偏光素子等とレンズを貼合わせることにより、貼合わせ後の収縮や、環境変化に伴う膨張/収縮に伴う貼合わせ界面でのテンションによって波長板や反射型光学素子とレンズ界面の剥がれや、樹脂レンズ内部に歪みが生まれることで応力に起因する複屈折が発生する。これら複合的な要因により、素子として求められる面精度、反射特性、設計位相差の付与や保持といった機能を満たすことができなくなる等の課題があった。従って、当該構成は、非常に工程の歩留まりが悪く、従来開示の技術では十分量産に耐えうる構成となっていなかった。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、折畳み接眼光学系のゴースト、フレアの発生そしてコントラストの低下を効果的に抑制させつつ、高解像度の映像を提供可能な反射型偏光素子貼合レンズの提供とそれを使用したヘッドマウントディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、耐熱が十分に高く、光弾性係数が小さく、主鎖もしくは側鎖にアリール基(芳香族単価水素から誘導された官能基又は置換基)又は脂環式基を持つ熱可塑性樹脂から構成される樹脂レンズを使用し、該レンズの光軸を含む領域で平面もしくは凸形状を持つ面に対して、反射型光学素子を貼合わせたレンズが、レンズの光軸に平行な光であって、反射型偏光素子の透過軸に平行な偏光光を入射した時の透過率(Tp530)と、反対に透過軸に垂直な偏光光を入射した時の透過率(Tc530)との比率 Tp530/Tc530≧150 を満足するように制御することで、パンケーキレンズ構成においてもフレアやゴーストの発生やコントラストの低下といった課題を解決でき、環境試験後も反射型偏光素子の剥がれなく性能と耐久性に優れた反射型偏光素子貼合レンズが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]画像表示素子からの光を観察者の眼球に向かって導く接眼光学系を有する画像表示装置に使用するレンズであって、
前記レンズは、主鎖もしくは側鎖にアリール基又は脂環式基を持つ熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂レンズであり、
前記樹脂レンズは、
ガラス転移温度Tgが115℃~150℃であり、
光弾性係数の絶対値が10×10-12Pa-1以下であり、
互いに反対側の第1の面および第2の面を有し、その一方の面に反射型偏光素子が貼合されてなる、反射型偏光素子貼合レンズであり、
前記樹脂レンズの第1の面と第2の面を結ぶ光軸に平行であり、前記樹脂レンズに貼合されている反射型偏光素子の透過軸に平行な偏光光を入射した時の、530nmの透過率(Tp530)が70%以上であって、
前記Tp530と、前記樹脂レンズに貼合されている反射型偏光素子の透過軸に垂直な偏光光を入射した時の透過率(Tc530)と、の比率が150以上(Tp530/Tc530≧150)であることを特徴とする、反射型偏光素子貼合レンズ。
[2] 前記樹脂レンズの酸成分含有量が130ppm以下であることを特徴する、[1]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[3] 前記樹脂レンズと反射型偏光素子が貼合される面が、光軸を含む領域において凸形状もしくは凹形状の面であり、基準とする曲率半径Rの絶対値が20mm以上200mm以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[4] 前記樹脂に貼合される反射型偏光素子は厚さ150μm以下であることを特徴とする[1]乃至[3]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[5] 前記樹脂レンズに貼合されている反射型光学素子の、透過軸に平行な光の透過率と垂直な光の透過率との比率が200以上(Tp530/Tc530≧200)であることを特徴とする、[1]乃至[4]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[6] USAF1951ターゲットネガを使用して、530nmの光を発するLED光源で背面より照射し、次いで順番に直線偏光素子、1/4λ素子、ハーフミラー、1/4λ素子、前記反射型偏光素子貼合レンズ、カメラを配置して、該カメラでターゲット像を撮影した時にGroup4のElement3のコントラストが0.15以上であることを特徴とする、[1]乃至[5]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[7] 前記樹脂レンズの飽和吸水率が2.0重量%以下であることを特徴する、[1]乃至[6]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[8] 前記樹脂レンズを構成する樹脂組成物が、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基からなる群に属する極性基のうち少なくとも1つを主鎖もしくは側鎖に持つ樹脂を含むことを特徴とする、[1]乃至[7]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[9] 前記樹脂レンズを構成する樹脂組成物の酸素重量割合(レンズ)と前記反射型偏光素子を構成する樹脂組成物の酸素重量割合(フィルム)がいずれも10wt%以上であることを特徴とする、[1]乃至[8]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[10] 前記樹脂レンズを構成する樹脂組成物が、メタクリル系樹脂組成物であることを特徴とする、[1]乃至[9]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[11] 前記樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、曲げ強さが65MPa以上であることを特徴とする、[1]乃至[10]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[12] 前記反射型偏光素子が、偏光分離に関わる反射面を1面だけ持つことを特徴とする、[1]乃至[11]に記載の反射型偏光素子貼合レンズ。
[13] 請求項[1]乃至[12]に記載の反射型偏光素子貼合レンズを使用することを特徴とする、ヘッドマウントディスプレイ。
【発明の効果】
【0016】
本発明に記載の反射型偏光素子貼合レンズを使用することで、薄型かつ軽量な光学系であるパンケーキレンズ構成を持つヘッドマウントディスプレイにおいて、フレアやゴーストの発生そしてコントラストの低下を効果的に抑制させつつ、高解像度の映像を提供可能な反射型偏光素子貼合レンズを得ることができ、本発明の反射型偏光素子貼合レンズは、環境試験後でも反射型偏光素子の剥がれがなく、耐久性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、パンケーキレンズ構成の光学系の概念図である。
図2図2は、反射型偏光素子としてワイヤグリッド偏光板の部分断面概念図である。
図3図3は、偏光透過率および偏光分離特性を評価するための実験概要をあらわす概念図である。
図4図4は、偏光透過率および偏光分離特性の結果の一例である。
図5】本発明の反射型偏光素子貼合レンズを使用したパンケーキレンズ構成の光学系を使用して、画像の二重像発生やフレアの発生を評価するための実験装置の概略を表す概念図である。
図6図5の実験において二重像やフレアが発生した実験結果の一例である。
図7】本発明の反射型偏光素子貼合レンズを使用したパンケーキレンズ構成の光学系を使用して、映像の解像性能を評価するための実験装置の概略を表す概念図である。
図8図7の実験で使用したターゲットの光透過領域と遮光領域を説明するための概念図である。
図9図7の実験の変形例であり、使用する反射型偏光素子貼合レンズを実施例3に記載のレンズを使用した概念図である。
図10図7の実験の変形例であり、使用する反射型偏光素子貼合レンズを実施例4に記載のレンズをした場合の概念図である。
図11図5の実験の変形例であり、実施例10にかかる反射型偏光素子貼合レンズを使用したものである。
図12図5の実験の変形例であり、映像コントラスト評価時の映像の表示方法を説明したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。また、光の偏光状態や位相差についての記述で、直線偏光、円偏光、楕円偏光、1/4λの位相差などの概念が表す状態は、一般的にある一定の範囲を持つ広い状態を意味する。このため、それらの誤差によって本発明の本質的な効果が妨げられるものではない。また、各光学素子で生じる位相差は、波長λの光に対する位相差であり、波長λとしては主に可視光域の任意の波長を選択することができ、例えばλ=587.6nmであるが、これに限定されるものではない。
【0019】
[反射型偏光素子貼合レンズ]
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズは、画像表示素子からの光を観察者の眼球に向かって導く接眼光学系を有する画像表示装置に使用するレンズであって、前記レンズは、主鎖もしくは側鎖にアリール基又は脂環式基を持つ熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂レンズであり、前記樹脂レンズは、ガラス転移温度Tgが115℃~150℃、光弾性係数の絶対値が10×10-12Pa-1以下、互いに反対側の第1の面および第2の面を有しており、その一方の面に反射型偏光素子が貼合されてなる反射型偏光素子貼合レンズであり、前記樹脂レンズの光軸に平行な光であって、前記樹脂レンズに貼合されている反射型偏光素子の透過軸に平行な偏光光を入射した時の530nmの透過率(Tp530)が70%以上であって、前記樹脂レンズに貼合されている反射型偏光素子の透過軸に垂直な偏光光を入射した時の透過率(Tc530)との比率 Tp530/Tc530≧200であることを特徴とする。
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズは、上記反射型偏光素子と樹脂レンズに加えて他の部材(例えば、波長板や位相差コート、ハーフミラー、反射防止コート等の機能性コート層など)を含む反射型偏光素子貼合レンズであっても良い。上記他の部材は、1個であってもよいし、複数個あってもよい。
【0020】
-平行偏光透過率-
本実施形態における反射型偏光素子貼合レンズは、後述する方法で偏光光透過性を評価することができる。具体的な指標としては、前記反射型偏光素子貼合レンズの光軸に平行な光であって、該レンズを構成する樹脂レンズに貼合されている反射型偏光素子の透過軸に平行な偏光光を入射した時の透過率(Tp)の内、530nmの透過率(Tp530)が50%以上あることが好ましい。より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、特に好ましくは75%以上である。透過軸に平行な偏光に位相差を付与することなく、十分透過することで光の利用効率が向上し、ヘッドマウントディスプレイの利用者が視認する仮想映像の輝度を十分高めることができる。
また、ここでは画像の明るさへの寄与が大きい波長として530nmを基準として透過率の指標を記載しているが、赤色の領域の波長として例えば620nmを基準として、530nmの場合と同様に、Tp620nmは前記偏光透過率が高いことが好ましい。なお、530nmよりも短波長領域の透過率は、樹脂レンズ及び反射型偏光素子の色調の影響を受けやすい。従って、そのような波長域でもTpが高いことが望まれるが、偏光特性を保持するという観点においては、Tp(530)が高ければ、概ね短波長領域の偏光も保持されると考えて良い。
【0021】
-偏光分離特性-
本実施形態における反射型偏光素子貼合レンズは、後述する方法で偏光分離特性を評価することができる。
具体的な指標としては、前記反射型偏光素子貼合レンズの光軸に平行な光であって、該レンズを構成する樹脂レンズに貼合されている反射型偏光素子の透過軸に平行な偏光光を入射した時の透過率(Tc)が低く、特に530nmの透過率(Tc530)が0.7%以下であることが好ましい。より好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
そして、前記反射型偏光素子貼合レンズの光軸に平行な光であって、該レンズを構成する樹脂レンズに貼合されている反射型偏光素子の透過軸に平行な偏光光を入射した時の530nmの透過率(Tp530)と垂直な偏光光を入射した時の透過率(Tc530)との比率 Tp530/Tc530≧100であることで偏光分離特性が好ましい領域にあると言え、より好ましくはTp530/Tc530≧150であり、更に好ましくはTp530/Tc530≧200、特に好ましくはTp530/Tc530≧300である。この範囲に収めることで、ヘッドマウントの利用者が視認する仮想映像のコントラストを良好なものとすることが可能となる。ただし、Tp530/Tc530≧200はないと、該反射型偏光素子貼合レンズを使用したパンケーキレンズ構成において、輝度差の大きな画像(黒の背景に白字など)を表示した際、確認される虚像にゴーストが僅かに重なって表示されてしまう。
また、ここでは明るさへの寄与が大きい波長として530nmを基準としているが、このことは、赤色の領域の波長として例えば、620nmを基準として、530nmの場合と同様に、Tp620/Tc620でも同様の基準を満たすことが望まれる。なお、530nmよりも短波長領域の透過率は、樹脂レンズ及び反射型偏光素子の色調の影響を受けやすい。従って、そのような波長域でもTp/Tcが高いことが望まれるが、偏光特性を保持するという観点においては、Tp530/Tc530が高ければ、概ね短波長領域の偏光も保持されると考えて良い。
【0022】
-外観-
本実施形態における反射型偏光素子貼合レンズは、外観上しわが確認されず、貼合界面(例えば反射型偏光素子とレンズとの間の界面)に気泡や剥離箇所が存在しないことが好ましい。このような不良部が存在すると、画像視認時の欠陥となる虞がある。
【0023】
-信頼性試験後の外観-
本実施形態における反射型偏光素子貼合レンズは、信頼性試験後に外観上しわが確認されず、反射型偏光素子と樹脂レンズ界面に気泡巻き込み、剥離し白化する等の不良が発生しないことが好ましい。後述の実施例記載の方法で評価することができる。
【0024】
-パンケーキレンズでの評価-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズは、後述の実施例に記載の方法にてパンケーキレンズ構成における観察像の評価を行うことができる。
観察像の評価としてはゴーストやフレアの発生がなく、コントラストが良好な映像が虚像として観察されることが望ましく、解像性能を評価するためのターゲットを使用することで、定量的に評価することができる。後述の実施例に記載の測定方法にて解像性能を評価することが可能であり、例えばUSAFターゲット(Edmund社製のもの、図8に例示)を使用した例では、Group4、Element3では、3本の線形の透光領域とその間に暗部領域を持つ3本1組のLine Pairsがあり、透光領域と暗部領域で1つラインペアとして、同ラインペアが1mmあたり約20組という大きさで配置されており、該透光領域を透過した光で形成されるLine Pairsをコントラスト良く虚像として提示することが求められる。
具体的には、Group4、Element3のLine Pairsのコントラストとして0.10以上であることが好ましく、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.20以上、特に好ましくは0.25以上である。この範囲の反射型偏光素子貼合レンズを使用することで細かい画像もボケなく、コントラスト良く表現することが可能となり、鮮明な映像を虚像として表示できるようになる。
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズでは、偏光分離特性が高度に保持されており、反射型偏光素子が樹脂レンズ貼合後もしわや剥離等なく良好な面状態を保持していることにより上記範囲の反射型偏光素子貼合レンズを得ることができる。
【0025】
[樹脂レンズ]
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズに使用される樹脂レンズ(以下、単に「樹脂レンズ」と記す場合がある)は、主鎖もしくは側鎖にアリール基もしくは脂環式基を持つ熱可塑性樹脂組成物から構成されており、ガラス転移温度Tgが115℃~150℃、光弾性係数の絶対値が10×10-12Pa-1以下、互いに反対側の第1の面および第2の面を有することを特徴とする。
【0026】
-樹脂組成物-
樹脂レンズを構成する樹脂組成物として適切な形態については後述するが、樹脂組成物中に、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基からなる群に属する極性基のうち少なくとも1つを含有する樹脂を含むことが好ましい。このように極性基を含むことで、反射型偏光素子を貼合した際も剥がれが発生しにくく、強固な密着性を担保することができる。
【0027】
-形状-
樹脂レンズの形状は特に限定されるものではない。樹脂レンズの反射型偏光素子貼合面は、有効径内において、平面もしくはレンズの光軸を含む領域で凸形状面もしくは凹形状面であることが好ましい。反射型偏光素子をしわや気泡なく良好に貼合できる範囲内において、筐体と固定するための凸部や凹部を有していても構わない。
なお、レンズの形状は、有効径内において、球面の形状であっても非球面の形状であっても自由曲面形状であっても構わない。また、一軸にのみ曲面を形成するシリンドリカル形状であっても良い。
【0028】
-寸法-
レンズの大きさは特に限定されるものではない。ただし貼合工程における取扱いのしやすさからΦ10mm以上Φ100mm以下であることが好ましい。より好ましくはΦ20mm以上Φ80mm以下、さらに好ましくはΦ25mm以上Φ60mm以下である。
【0029】
-曲率半径-
樹脂レンズの反射型偏光素子貼合面の有効径内の形状は曲率半径R(単位:mm)を使用して表すことができる。レンズには互いに反対側の第1面と第2面があり、それぞれに曲率半径Rが定義されている。レンズ外にある曲率中心から曲率半径Rの円を描いた際にその円周の一部がレンズ面形状を規定する。この時、レンズの第1面の曲率中心と第2面の曲率中心を結ぶ線がレンズの光軸とされる。レンズの曲率半径は、光軸の第1面側を負、第2面側を正とすると、第1面が第1面側に凸面または第2面が第2面側凹面の曲面を持つ場合、曲率半径は正の数字で表され、一方で、第1面が第1面側に凹面または第2面が第2面側に凸面の曲を持つ場合、曲率半径は負の数字で表される。本発明において、レンズ形状を規定する曲率半径Rは特に限定されるものではない。前記貼合面が平面である場合(曲率半径Rの絶対値=∞)を除くと、曲率半径Rの絶対値が10mm以上500mm以下であることが好ましい。より好ましくは20mm以上300mm以下であり、特に好ましくは30mm以上200mm以下である。この範囲の形状とすることで、高い歩留まりで反射型偏光素子をシワや気泡等の不良なく良好に貼合することが可能である。
レンズの曲率半径で表現されない領域であるレンズの外周部ツバやガス抜きや持ち手用の成形品の領域は極力含まない形状のレンズである方が望ましい。曲率が極端に変化するような領域(レンズの形状を表す曲線を2回微分したときの値が0となるような点)があると、反射型偏光素子を貼合する際に気泡を巻き込みやすい他、信頼性試験時に剥がれが発生しやすい領域となるため避けた方が良い。
また、本実施形態が想定するパンケーキレンズとしての利用を考えた場合は、拡大倍率を高めるため、樹脂レンズの反射型偏光素子貼合面は、曲率半径の絶対値は小さくすることが好ましい。例えば、100mm以下である。ただし、曲率半径の絶対値が小さすぎると、反射型偏光素子の貼合が難しくなるほか、光学系の収差の補正が困難となるため、バランスを考慮し適宜設計することが好ましい。
樹脂レンズの反射型偏光素子貼合面が平面の場合は、樹脂レンズに貼合される反射型偏光素子や、例えば、所定の波長に対して1/4の位相差を付与する1/4波長板(1/4波長フィルム)や1/4位相差を付与するコーティングを併せて利用する場合に、これら素子に対して望ましくない応力がかかることを回避するのに有効である。
樹脂レンズの反射型偏光素子貼合面が、非球面形状の場合、面形状は、面のサグ量zが以下の式1に従う回転対称非球面とすることができる。
【数1】
(式1)
式中、c、k、D、E、F、G、H及びIは定数であり、z(単位:mm)は面の頂点からの距離(光軸に平行な方向)であり、r(単位:mm)は頂点から半径方向の距離を表す。パラメータkは、円錐定数と称される。また、cは、基準となる曲率半径Rの逆数1/R(単位:mm-1)である。
【0030】
-有効径内の位相差-
本実施形態における反射型偏光素子貼合レンズに使用される樹脂レンズは、樹脂レンズ単体として、有効径内の位相差の絶対値の平均が10nm以下であり、好ましくは5nm以下であり、より好ましくは3nm以下である。このような範囲にある樹脂レンズを反射型偏光素子と貼り合わせることにより、ゴースト(映像が二重になる)、フレア、コントラストの低下等なく、鮮明かつ高解像度な映像を視認することができる。
ここで、樹脂レンズの有効径とは、レンズをヘッドマウントディスプレイの筐体に組み込んだ際に映像を視認できる範囲を表すものであり、レンズの光軸を中心とする円の径として示される。そのため、筐体に組込むためのツバ等がついているものは該部分を除く。映像を視認できる範囲が真円でない場合には短径を有効径とする。明確な有効径がない場合は、ツバ等レンズ面に該当しない領域を除き、レンズの投影面積の80%以上を含む領域と見なす。投影面積とは、樹脂レンズを水平面上に静置し、無限遠の鉛直上方の点から重力方向に平行な平行光線を照射し、水平面に投射される樹脂レンズ全体又は部分領域の形状の面積(すなわち、平行投影面積)をいう。樹脂レンズの有効径内の位相差は、具体的には後述の実施例記載の方法で測定することができる。
このような樹脂レンズを得る方法については、後述の好ましい樹脂組成物や好ましい成形条件を適用することで上記範囲の樹脂レンズを得ることができる。また、その他にも樹脂レンズの複屈折が大きなゲートの周辺領域を切断し使用する方法や、型に流し込んだモノマーを光硬化反応や熱硬化反応によって固めた成形体を使用し製造する方法も挙げることができる。しかし、ゲートの周辺領域を切断する方法は、光学系組立時の調整幅が小さくなるため好ましくない。例えば反射型偏光素子の偏光透過軸が所定位置に配置されるよう厳密な制御の下のレンズへの貼合を行う必要があり、調整が困難になる。また、硬化反応でレンズを作製する方法は形状精度を出すことが難しく、また経済的に考えた時、1つのレンズを得るために要するサイクル時間の長さに課題がある。
【0031】
-ガラス転移温度-
本実施形態における反射型偏光素子貼合レンズに使用される樹脂レンズは、ガラス転移温度(Tg)は、115℃以上160℃以下であることが好ましい。
当該樹脂レンズのガラス転移温度が115°以上であることにより、ヘッドマウントディスプレイの電子機器類からの発熱に対する耐熱性が担保される他、反射型偏光素子貼合の際に熱をかけるプロセスであっても寸法が変化することなく、良好な密着性を得ることができる点で好ましい。また、耐熱温度が低いと高温環境での寸法変化量が大きくなってしまうため、貼合する光学素子フィルムや樹脂レンズの寸法変化の違いから、貼合界面でのテンション等で発生する光弾性複屈折を抑制する観点からも好ましい。ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上、最も好ましいのは130℃以上である。
一方、ガラス転移温度(Tg)が160℃以下である場合には、極端な高温での溶融加工を避け、樹脂等の熱分解を抑制し、良好な製品を得ることができる。ガラス転移温度(Tg)は、上述の効果が一層得られる観点から、好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、JIS-K7121に準拠して測定することにより
決定できる。具体的には、後述の実施例記載の方法で求めることができる。
上記樹脂レンズのガラス転移温度は、例えば、後述の本発明において好ましい樹脂組成物から成形体を作製することにより上述の範囲に調整することができ、樹脂組成物中の主鎖に環構造を持たせることによりガラス転移温度を高くすることが可能である。
【0032】
-光弾性係数CR-
本実施形態における反射型偏光素子貼合レンズに使用される樹脂レンズの光弾性係数CRの絶対値|CR|は、10.0×10-12Pa-1以下であることが好ましく、より好ましくは5.0×10-12Pa-1以下であり、さらに好ましくは3.0×10-12Pa-1以下であり、更に好ましくは1.0×10-12Pa-1以下である。
光弾性係数に関しては種々の文献に記載があり(例えば、化学総説,No.39,1998(学会出版センター発行)参照)、下記式(i-a)及び(i-b)により定義されるものである。光弾性係数CRの値がゼロに近いほど、外力による複屈折変化が小さいことがわかる。
|CR|=|Δn|/σR ・・・(i-a)
|Δn|=|nx-ny| ・・・(i-b)
(式中、CRは、光弾性係数、σRは、伸張応力、|Δn|は複屈折の絶対値、nxは、伸張方向の屈折率、nyは、面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率、をそれぞれ示す。) 本実施形態の樹脂レンズの光弾性係数CRの絶対値|CR|が10.0×10-12Pa-1以下であれば、レンズを固定する際に生じる応力や温度等の環境変化によって生じる寸法変化に伴って生じる光弾性複屈折が十分小さく、鮮明な映像が得られる樹脂レンズが得られる。また、光弾性係数CRの絶対値|CR|が大きいと、反射型偏光素子を貼合レンズとして使用した際に、温度や湿度といった環境の変化によって樹脂レンズと反射型偏光素子の間の膨張、収縮による寸法変化の差が生じ、これにより内部歪みが生まれ複屈折を引き起こす。複屈折は前述の通りゴーストの発生やコントラスト悪化を生むため好ましくない。
なお、光弾性係数CRの測定は、樹脂レンズを細断後、真空圧縮成形機を用いてプレスフィルムとすることで行う。具体的には後述の実施例記載の方法で求めることができる。
【0033】
上記成形体の光弾性係数の絶対値は、例えば、後述の本発明において好ましい樹脂組成物から成形体を作製することにより上述の範囲に調整することができ、ホモポリマーとした時に光弾性係数が正のモノマーと光弾性係数が負のモノマーの共重合組成比を適切な範囲に調整することが好ましい。また、アニールにより応力歪みを緩和することも可能であるが、十分に応力を緩和させるには樹脂のガラス転移温度-25℃からガラス転移温度近くまで熱処理を行う必要があり、該工程において面形状が変化して焦点ズレ等を発生しまうため好ましくない。従って、光弾性係数が小さい樹脂組成物からレンズを成形することが望ましい。
【0034】
-光透過率-
本実施形態における反射型偏光素子貼合レンズに使用される樹脂レンズは、分光色彩計を用いてD65光源2°視野で測定した光透過率について、透過率波長680nmにおける透過率(T680)に対する、波長450nmにおける透過率(T450)の比率(T450/T680)が0.95~1.03であることが好ましく、0.97~1.01であることがより好ましく、0.98~1.00であることがさらに好ましい。比率(T450/T680)が上記範囲内であると、良好な色調の映像を得ることができる。
なお、光透過率は、具体的には後述の実施例記載の方法で測定することができる。
【0035】
-分子量及び分子量分布-
本実施形態における反射型偏光素子貼合レンズに使用される樹脂レンズは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、好ましくは80,000~170,000の範囲であり、より好ましくは90,000~170,000の範囲であり、さらに好ましくは100,000~150,000の範囲であり、さらにより好ましくは110,000~150,000の範囲である。重量平均分子量(Mw)が上記範囲にあると、機械的強度及び流動性のバランスにも優れる。
【0036】
なお、樹脂レンズの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、Z平均分子量(
Mz)は、下記の装置、及び条件で測定することができる。
・測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-83
20GPC)
・測定条件:
カラム:TSKguardcolumn SuperH-H 1本、TSKgel S
uperHM-M 2本、TSKgel SuperH2500 1本、を順に直列接続
して使用する。
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/min、内部標準として、2,6
-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、0.1g/Lで添加する。
検出器:RI(示差屈折)検出器
検出感度:3.0mV/分
サンプル:0.02gの樹脂レンズのテトラヒドロフラン20mL溶液
注入量:10μL
検量線用標準サンプル:単分散の重量ピーク分子量が既知で分子量が異なる、以下の1
0種のポリメチルメタクリレート(PolymerLaboratories製;PMM
A Calibration Kit M-M-10)を用いる。
重量ピーク分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準試料10 850
上記の条件で、樹脂レンズの溶出時間に対する、RI検出強度を測定する。
上記、検量線用標準サンプルの測定により得られた各検量線を基に、樹脂レンズの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及びZ平均分子量(Mz)を求め、その値を用い、分子量分布(Mw/Mn)及び(Mz/Mw)を決定する。
【0037】
-酸成分量-
本実施形態における反射型偏光素子貼合レンズに使用される樹脂レンズは、後述の実施例に記載のイオンクロマトグラフィーを使用した測定方法にて、樹脂の構造に起因する酸価ではなく、樹脂レンズに溶融する(遊離する可能性のある)酸成分の含有量を測定することができる。
酸成分の含有量としては、200ppm以下であることが好ましく、130ppm以下であることがより好ましい、さらに好ましくは100ppm以下であり、特に好ましくは70ppm以下である。本発明者は、このような酸成分を含まない樹脂レンズを使用することで、良好な反射型偏光素子貼合レンズが得られることを見いだした。具体的には、結露と乾燥を繰り返すことや、高温高湿度環境下での信頼性試験後であっても、樹脂レンズ中に溶存する酸成分(アルカリ成分も悪さをするが、一般的に樹脂中残存量が少ない)が水等に溶出し、界面に影響することがないため、反射型偏光素子との接着界面を汚染し映像の品位を落とす、反射型偏光素子との接着界面の粘着性を低下させる、さらに貼合する反射型偏光素子としてワイヤグリッド偏光板を称する場合は、後述の偏光分離に関わる反射面を構成する金属ワイヤの劣化を抑制することで偏光分離特性を高く保持することができる。
本実施形態の樹脂レンズの酸成分量は、後述の本発明において好ましい樹脂組成物の中でも特に環化工程を経ない樹脂組成物である方がより少ない酸成分量とすることができるため好ましい。更に、モノマー中の酸成分量や、触媒中の塩化物成分を少なく抑えることで上述の範囲の樹脂レンズを得ることができる。
【0038】
-飽和吸水率-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズは、後述の実施例に記載の測定方法にて、飽和吸水率を測定することができる。
飽和吸水率としては、0.005%~3%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.007%~2.5%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、0.01%~2.0%の範囲である。この範囲の樹脂組成物を使用して樹脂レンズを構成することで、反射防止コートやミラーコートとの密着性を良好な状態で保つことができる他、高温高湿試験後も反射型偏光素子との剥がれがなく良好な外観を保持することが可能となる。
本実施形態の樹脂レンズの飽和吸水率は、樹脂を構成する単量体の側鎖にシクロへキシル基やアリール基等を含むことで吸水率を抑えることができる。またカルボニル基の量を減らすことでも吸水率を下げることができるため、スチレンやα-メチルスチレン等のカルボニル基を含まない単量体を共重合することで吸水率を抑えることができる。
【0039】
[反射型偏光素子]
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズに貼り合わせる反射型偏光素子としては、偏光分割する偏光分割ミラーである偏光ビームスプリッタ(PBS)機能を持つ素子を使用することができる。例えば、複屈折の異なる薄膜を積層した偏光素子や、サブ波長構造を用いた構造複屈折型のワイヤグリッド偏光素子、右円偏光と左円偏光の円偏光を分離するコレステリック液晶からなる素子が利用できる。工業的には、複屈折の異なる薄膜を積層した偏光素子 (以下、積層型の反射型偏光素子と記すことがある)としては、3M社製の多層複屈折フィルムAPF、DBEF等を用いることができる。また、ワイヤグリッド偏光素子としては、旭化成株式会社製のワイヤグリッド反射型偏光素子(WGF:登録商標)、ProFluxPPL02(Moxtek社製)等を使用することができる。そして、コレステリック液晶板としては、ニポックスAPCF(日東電工社製)等が利用できる。
【0040】
反射型偏光素子には、ワイヤグリッド反射型偏光素子(旭化成社製、WGF:登録商標)が好適である。曲面への貼合工程については後述するが、延伸によらない偏光分離特性の機能を持つため、レンズへの貼合に伴いベースフィルムにテンションがかかっても偏光特性が崩れにくい。また、積層型の反射型偏光素子の場合、曲面を持つ基材に貼合する前に、直行する2軸の収縮倍率の違いを考慮して、レンズへの貼合前に、予め型で回転非対称な形に変形しておくようなプロセスが必要とされるが、ワイヤグリッドフィルムでは、そのような前処理なく直接基材に貼合することが可能である。更に、偏光分離に関わる反射面が1面であることで、多層反射による偏光分離と異なり、映像を反射した際の解像性能に優れていることから、本実施形態において好適に利用できる。
【0041】
ワイヤグリッド反射型偏光素子は、後述の保持基材(例えばベースとしてフィルムを利用)と、保持基材の表面に設けられた可視光波長以下(100nm程度)のピッチで多数並べられた樹脂製凸部に金属ワイヤ(例えばアルミニウム)が保持された構成をとる。
ワイヤグリッド反射型偏光素子は、金属ワイヤと平行方向に振動する光は反射され、垂直方向に振動する光は透過する特性を持っている。従って、金属ワイヤの向きによって反射/透過の偏光方向を選択できるという特徴を持つ。
【0042】
ワイヤグリッド偏光素子について説明する。図2は、本実施の形態に係るワイヤグリッド偏光素子の断面図である。
【0043】
ワイヤグリッド反射型偏光素子は、保持基材(ベースフィルム)21と、保持基材21の表面21aに、接合層29を介して設けられた樹脂基材22と、を有して構成されている。
図2に示すように、樹脂基材22には、複数の格子状凸部23が設けられている。また、図2に示すように、樹脂基材22は、所定厚からなる基材層24と格子状凸部23とが一体的に形成されている。
【0044】
保持基材21は、目的とする波長領域において実質的に透明であればよく、例えば、ガラスなどの無機材料や樹脂材料を用いることもできるが、製法としてロールプロセスが利用でき、曲面への追従性が高いことからフィルム(樹脂材料)を用いることが好ましい。
【0045】
保持基材21に用いることができる樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン樹脂(COP)、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂や、この他、トリアセテート樹脂(TAC)等があり、具体的には、富士フィルム社製のTD80ULやZRD60SL、コニカミノルタ社製のKC6UA等を好適に用いることができる。
【0046】
樹脂基材22としては、例えば、保持基材21と同様の熱可塑性樹脂を使用できるほか、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。また、UV硬化性樹脂や熱硬化性樹脂と上記熱可塑性樹脂や、トリアセテート樹脂とを組み合わせたり、単独で用いて基材を構成させたりすることができる。なお、前記UV硬化性樹脂を塗布する方法としては、グラビアロールを用いたグラビア方式や、スロットダイ方式、ナイフコーティング方式の他に、インクジェット方式や電位差を利用したスプレーコーティング方式等を挙げることができる。また、硬化させるために、UV光や、添加された紫外線吸収剤での吸収を考慮した405nm程度の可視光を発する光源を使用したり、電子線を発する光源を利用したりすることも可能である。
【0047】
基材22の表面に形成された格子状凸部23を有する凹凸構造は、凹凸構造の延在方向に対して垂直な断面において、矩形形状であることが好ましい。矩形形状とは、凹部と凸部の繰り返しからなり、それは、台形形状、矩形形状、方形形状を含む。また、断面視における凹凸構造の輪郭を関数と見なした場合の変曲点前後が、放物線のようになだらかに曲率が変化する曲線部を有することもでき、凸部にくびれがある形状も含むことができる。
凹凸構造の形状により、基材表面にある凹凸形状の凸部の側面、及び、凹部の底部に、後述する斜め蒸着法で金属ワイヤ間は離間しつつも鉛直方向に連続した形状の金属ワイヤを形成することが容易となる。なお、斜め蒸着法で金属ワイヤを形成した場合、凸部23の一方側面に偏在するように金属ワイヤ27が設けられる。このため、凹凸構造の周期と金属ワイヤ27の周期(ピッチP)は概略同一の間隔となる。
【0048】
凹凸構造の周期(格子状凸部23間のピッチP)(図2参照)は、特に限定されないが、偏光分離特性を発揮できる周期にすることが好ましい。一般に、ワイヤグリッド偏光板は、金属ワイヤ27の周期が小さくなるほど、広帯域で良好な偏光分離特性を示す。金属ワイヤ27が空気(屈折率1.0)と接する場合には、金属ワイヤ27の周期を対象とする光の波長の1/3から1/4以下とすることで、実用的に十分な偏光分離特性を示すことになる。このため、可視光領域の光の利用を考慮する場合、金属ワイヤ27の周期と基材50aの凹凸構造の周期を150nm以下とすることが好ましく、より好ましくは130nm以下とすることであり、さらに好ましくは120nm以下とすることであり、最も好ましくは100nm以下とすることである。金属ワイヤ27の周期と基材50aの凹凸構造の周期の下限に特に限定はないが、製造容易性の観点から、50nm以上が好ましく、60nm以上がより好ましく、80nm以上がさらに好ましい。
【0049】
なお、当該ワイヤグリッド反射型偏光素子は、凹凸構造の格子状凸部23の一方側面に偏在するように金属ワイヤ27を設けることが好ましい。したがって、凹凸構造の延在方向と金属ワイヤ27の延在方向は実質的に平行となる。また、凹凸構造と金属ワイヤ27は実質的に所定の方向に延在していればよく、凹凸構造の凹部、凸部、金属ワイヤの各々が厳密に平行に延在している必要はない。
【0050】
図2に示すように、各格子状凸部23の表面の少なくとも一部に誘電体層26を介して金属層(金属ワイヤ)27が形成されている。誘電体層26は形成されていなくてもよい。かかる場合、金属層27が直接、格子状凸部23の表面に形成される。
【0051】
樹脂基材22を構成する材料と金属ワイヤ27との密着性向上のため、両者の間に、両社と密着性の高い誘電体層26を介在させることができる。これにより、樹脂基材22と金属ワイヤ27との密着性を高めることで、金属ワイヤ27の剥離を防ぐことができる。
誘電体層は、可視領域で実質的に透明であればよく、好適に用いることができる誘電体としては、例えば、珪素(Si)の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体又はその複合体(誘電体単体に他の元素、単体又は化合物が混ざった誘電体)や、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、銅(Cu)などの金属の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体又はそれらの複合物を用いることができる。誘電体材料の積層方法には特に限定は無く、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的蒸着方法を好適に用いることができる。
【0052】
金属層(金属ワイヤ)27を構成する金属は、可視光領域で光の反射率が高く、誘電体層26を構成する材料との密着性の高いものであることが好ましい。金属ワイヤ27は、アルミニウム、銀、銅、白金、金又はこれらの各金属を主成分とする合金などの導電材料を用いて形成することができる。アルミニウム、銀又はそれらの合金で構成されていることが好ましい。コストの観点から、アルミニウム又はその合金で構成されることがさらに好ましい。特に、アルミニウムは、可視領域での吸収損失を小さくできるため好ましい。金属ワイヤ27の作製方法に、制限は無い。例えば、電子線リソグラフィ法、又は、干渉露光法によるマスクパターニングとドライエッチングとを用いて形成する方法や、斜め蒸着法によって作製する方法等を挙げることができる。生産性の観点からは、斜め蒸着法が好ましい。
【0053】
斜め蒸着法とは、凹凸構造の延在方向に垂直な断面(以下、「断面視」と略記する。)において、蒸着源が基材の表面の垂直方向に対して傾斜した方向に存在し、所定の角度を保持して金属を基材に蒸着して積層させていく方法である。蒸着角度は、凹凸構造の凸部と作製する金属ワイヤの断面形状から好ましい範囲が決まり、一般には、5度~45度が好ましく、より好ましくは5度~35度である。さらに、蒸着中に積層した金属の射影効果を考慮しながら、蒸着角度を徐々に減少、又は、増加させることは、金属ワイヤ27の高さ等断面形状を制御する上で好適である。なお、保持基材22の表面が湾曲している場合には、樹脂基材22の表面の法線方向に対して傾斜した方向から蒸着を行うこととしてもよい。また、蒸着源の形状は、被蒸着領域を十分に蒸着できるものであれば制限がなく、断続的な点状や、連続的な線状を選択できる。蒸着源が点状である場合、凹凸構造の延在方向に対して斜め方向からも蒸着できることになり、見かけ上、凹凸構造の間隔が広がって凹部の底部まで蒸着できるため、好ましい。
【0054】
具体的には、特定方向に所定のピッチをもって概略平行に延在する凹凸構造を表面に有した樹脂基材22の表面の被蒸着領域の中心における垂直方向に対して、5度以上45度未満となる方向に蒸着源の中心を設け、凹凸構造上に金属ワイヤ27を形成する。さらに好ましくは、樹脂基材22の表面の被蒸着領域の中心における垂直方向に対して5度以上35度未満となる角度方向に蒸着源の中心を設けることである。これにより、金属ワイヤ27を、樹脂基材22の表面の凹凸構造の凸部23のいずれか一方の側面に、選択的に設けることが可能となる。なお、基材を搬送しながら蒸着する場合には、ある瞬間における被蒸着領域の中心と蒸着源の中心が、上述した条件となるように蒸着を行ってもよい。
【0055】
金属蒸着量(平均厚み)は50nmから300nm程度が好ましい。なお、ここでいう平均厚みとは、平滑ガラス基板上にガラス面に垂直方向から物質を蒸着させたと仮定した時の蒸着物の厚みのことを指し、金属蒸着量の目安として使用する。
【0056】
図2に示すように、保持基材21と樹脂基材22との接着性の向上や屈折率の調整を目的とした接着層や粘着層の接合層29を介していてもよい。例えば、保持基材21と樹脂基材22との間に、シリカ、アルミナなどの誘電体層が薄い膜厚で形成されていても良いし、保持基材21の表面21aをコロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、紫外線処理することで官能基の付与や微細な凹凸形状を付与するなどの変性層であっても良い。
【0057】
ワイヤグリッド反射型偏光素子20の厚みを特に限定するものでないが、例えば50μm~200μm程度である。薄肉とする方がレンズ曲面への追従性が高くなり、樹脂レンズ面への貼合プロセスにおける歩留まりを飛躍的に向上することが可能となる。具体的には50~150μm以下であることが好ましい。より好ましくは、50~130μm以下である。また、保持基材21を切り離し、樹脂基材22と金属層27とでワイヤグリッド反射型偏光素子20を構成することで、ワイヤグリッド反射型偏光素子20の厚みを0.5μm~50μm程度まで薄くすることができる。
【0058】
粘着加工前に、ワイヤグリッド反射型偏光素子20の金属ワイヤ27を有しない保持基材21が露出する面に、コロナ処理等表面処理を施すことは、粘着強度の向上に効果がある。格子状凸部23がCOPである場合には、金属ワイヤ27が、凹凸構造から脱離することを防止するため、放電電極長、基材フィルム搬送速度、及び、放電電力から算出される放電量を10~120W・min/m2相当となるように処理条件を調整することが好ましい。
【0059】
[粘着剤及び接着剤]
樹脂レンズと接合するための粘着及び接着加工に用いる材料としては、様々な接着剤、粘着剤を用いることができるが、加工性の観点から、固形のシート状のものが好ましく、一例としては、粘着剤を挙げることができる。
【0060】
一般に、格子状凸部23表面の金属ワイヤ27と粘着剤層が接して設けられる場合、用いる粘着剤種によっては、粘着剤層に含まれる酸成分等により金属ワイヤ27が腐食し、偏光分離特性が低下する可能性がある。そのため、特に、粘着剤層を金属ワイヤ27側表面に貼合する場合には、酸成分を極力含まない材料を用いることも可能である。酸成分を極力含まない材料で金属ワイヤ27を被覆することにより、高温高湿度環境下において水滴の付着による金属ワイヤ27の劣化を抑制すると共に、粘着剤層に含まれる酸に起因して金属ワイヤ27が劣化することを抑制することができる。酸を極力含まない材料としては、酸価が5.0mgKOH/g以下である材料を用いることができる。この数値以下の酸強度であれば、粘着剤層に含まれる酸によって金属ワイヤ27が劣化して、ワイヤグリッド偏光板の偏光度が変動することを抑制することができる。
【0061】
具体的な粘着剤としては、その両面を剥離紙で覆った両面テープを用いることができる。目的とする波長の光を透過できる透明性を有した材料であれば問題無く使用でき、例えば、日東電工製CS9861US、CS9862UA、HJ-9150Wやリンテック製MO-T015、MO-3005、MO-3006、MO-3014、積水化学社製5405X-75等を好適に使用できる。なお、保持基材21がフィルムであるワイヤグリッド偏光板を貼着する場合、環境温度の変化に伴うフィルムの膨張、及び、収縮を考慮する必要がある。貼合する側の基材(例えばレンズ)とワイヤグリッド偏光板の収縮膨張の違いに伴い発生する貼合面にかかるテンションに追従するため、柔軟性を有する粘着材料が有効であり、上述したようなアクリル系樹脂からなるものや、シリコーン系樹脂からなる粘着材料が好ましい。耐熱性を考慮する場合には、シリコーン系樹脂を主成分とする粘着剤(以下、「シリコーン系粘着剤」という)が好ましい。また、透明性や接着力、調達コストなどを考慮する場合には、アクリル系樹脂を主成分とする粘着剤(以下、「アクリル系粘着剤」という)が好ましく、さらに、該粘着剤の樹脂構造中にはヒドロキシル基を有することが偏光特性の低下抑止の観点からより好ましい。
【0062】
また、粘着材料の厚みは、取扱性と柔軟性を保持する観点から、50μm以上が好ましい。一方で、粘着材料を厚くし過ぎてしまうと、鏡面性(もしくは面精度が設計形状通り)を確保が難くなってしまうため、100μm以下が好ましい。
【0063】
また、粘着剤層は、粘着力が強い材料を用いることが好ましい。粘着力が強い材料を用いることにより、高温高湿度環境等においても剥離を抑制することができる。粘着力が強い材料としては、ガラスに対する粘着力が1.5N/25mm以上である材料を用いればよいが、好ましくは5.0N/25mm以上である。
【0064】
なお、粘着剤には、添加剤を加えてもよい。添加剤とは、屈折率調整剤や粘着付与剤、充填剤、顔料、希釈剤等であり、粘着剤の安定性を向上させる紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0065】
[樹脂組成物]
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズは、反射型偏光素子の機能を損なわない低複屈折特性および耐熱特性を兼ね備えた樹脂であれば特に限定されるものではないが、高度に低複屈折特性を実現可能な樹脂としてはメタクリル系樹脂を含む樹脂組成物からなることが好ましい。
【0066】
[メタクリル系樹脂]
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズに含まれるメタクリル系樹脂としては、十分な耐熱性を担保するためには、特に主鎖に環構造を有する構造単位(X)とメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位とを有するメタクリル系樹脂を含むことが好ましい。メタクリル系樹脂、特に主鎖に環構造を有する構造単位(X)とメタクリル酸エステル単量体単位とを含むメタクリル系樹脂を含むことにより、耐熱性が高く、レンズの有効径内の位相差が十分に小さく、また、光弾性係数も十分に小さい樹脂レンズを得ることができる。
【0067】
[主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂]
以下、主鎖に環構造を有する構造単位(X)とメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位とを有するメタクリル系樹脂の各構造単位について説明する。
【0068】
-メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位-
メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位としては、例えば、以下に示すメタクリル酸エステル類から選ばれる単量体に由来する構造単位が挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸ジシクロオクチル、メタクリル酸トリシクロドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1-フェニルエチル、メタクリル酸2-フェノキシエチル、メタクリル酸3-フェニルプロピル、メタクリル酸2,4,6-トリブロモフェニル等が挙げられる。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用する場合もある。
上記メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位としては、得られるメタクリル系樹脂の透明性や耐候性が優れる点で、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸ベンジルに由来する構造単位であることが好ましい。
メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位は、一種のみ含有していても、二種以上含有していてもよい。
【0069】
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成するメタクリル系樹脂として、主鎖に環構造を有する構造単位(X)とメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位との比率を適宜調節することにより、成形時の配向や残留応力によって生じる複屈折を低下させ、有効径内の位相差の絶対値の平均が10nm以下のヘッドマウントディスプレイ用樹脂レンズを得ることができる。また、上記比率を適宜調節することにより、メタクリル系樹脂に対して耐熱性を十分に付与することができる。これらの観点から、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量%として、好ましくは50~97質量%、より好ましくは55~97質量%、さらに好ましくは55~95質量%、さらにより好ましくは60~93質量%、特に好ましくは60~90質量%である。
なお、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位の含有量は、1H-NMR測定及び13C-NMR測定により求めることができる。1H-NMR測定及び13C-NMR測定は、例えば、測定溶媒としてCDCl3又はDMSO-d6を用い、測定温度40℃で行うことができる。
【0070】
-主鎖に環構造を有する構造単位(X)-
以下、主鎖に環構造を有する構造単位(X)について説明する。
主鎖に環構造を有する構造単位(X)としては、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むことが好ましく、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位のみからなることがより好ましい。主鎖に環構造を有する構造単位(X)は、一種であってもよいし複数種を組み合わせてもよい。
【0071】
-N-置換マレイミド単量体由来の構造単位-
次に、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位について説明する。
N-置換マレイミド単量体由来の構造単位は、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造単位としてよく、好ましくは、下記式(1)及び下記式(2)で表される構造単位の両方から形成される。
【0072】
【化1】
式(1)中、R1は、炭素数7~14のアリールアルキル基、炭素数6~14のアリー
ル基のいずれかを示し、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、酸素原子、硫黄原
子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~14のアリール基のいずれかを示す。
また、R2又はR3がアリール基の場合には、R2又はR3は置換基としてハロゲ
ン原子を含んでいてもよい。
また、R1は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ
基、ニトロ基、ベンジル基等の置換基で置換されていてもよい。
【化2】
式(2)中、R4は、水素原子、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数1~12のアルキル基のいずれかを示し、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数6~14のアリール基のいずれかを示す。
【0073】
以下、具体的な例を示す。
式(1)で表される構造単位を形成する単量体(N-アリールマレイミド類、N-芳香族置換マレイミド等)としては、例えば、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(2-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-ブロモフェニル)マレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(2,6-ジメチルフェニル)マレイミド、N-(2-エチルフェニル)マレイミド、N-(2-メトキシフェニル)マレイミド、N-(2-ニトロフェニル)マレイミド、N-(2,4,6-トリメチルフェニル)マレイミド、N-(4-ベンジルフェニル)マレイミド、N-(2,4,6-トリブロモフェニル)マレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-アントラセニルマレイミド、3-メチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、3,4-ジメチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1,3-ジフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1,3,4-トリフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン等が挙げられる。
これらの単量体のうち、得られるメタクリル系樹脂の耐熱性、及び複屈折等の光学的特性が優れる点から、N-フェニルマレイミド及びN-ベンジルマレイミドが好ましい。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
【0074】
式(2)で表される構造単位を形成する単量体としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-s-ブチルマレイミド、N-t-ブチルマレイミド、N-n-ペンチルマレイミド、N-n-ヘキシルマレイミド、N-n-ヘプチルマレイミド、N-n-オクチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-シクロペンチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、1-シクロヘキシル-3-メチル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3,4-ジメチル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3,4-ジフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン等が挙げられる。
これらの単量体のうち、メタクリル系樹脂の耐候性が優れる点から、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドが好ましく、近年光学材料に求められている低吸湿性に優れることから、側鎖に脂環式基を持つN-シクロヘキシルマレイミドが特に好ましい。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いることもできる。
【0075】
本実施形態のメタクリル系樹脂において、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位とを併用して用いることが、高度に制御された複屈折特性を発現させ得る上で特に好ましい。
式(1)で表される構造単位の含有量(X1)の、式(2)で表される構造単位の含有量(X2)に対するモル割合、(X1/X2)は、好ましくは0超15以下、より好ましくは0超10以下である。
モル割合(X1/X2)がこの範囲にあるとき、本実施形態の樹脂レンズは透明性を維持し、黄変を伴わず、また耐環境性を損なうことなく、良好な耐熱性と良好な光弾性特性を発現する。
【0076】
N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量%として、好ましくは5~40質量%の範囲、より好ましくは5~35質量%の範囲である。
この範囲内にあるとき、メタクリル系樹脂はより十分な耐熱性改良効果が得られ、また、耐候性、低吸水性、光学特性についてより好ましい改良効果が得られる。なお、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量を40質量%以下とすることが、重合反応時に単量体成分の反応性が低下し未反応で残存する単量体量が多くなることによるメタクリル系樹脂の物性低下を防ぐのに有効である。
また、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量をこの範囲内で適宜調節することにより、成形時の配向や残留応力によって生じる複屈折を低下させ、有効径内の位相差の絶対値の平均が10nm以下のヘッドマウントディスプレイ用樹脂レンズを得ることができる。N-置換マレイミドの種類によって最適なN-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量は異なるが、例えば、メタクリル酸エステル単量体としてメタクリル酸メチル、N-置換マレイミド単量体としてN-フェニルマレイミドとN-シクロヘキシルマレイミドとを用いた場合には、メタクリル酸メチル由来の構造単位79~83質量%、N-フェニルマレイミド由来の構造単位6~8質量%、N-シクロヘキシルマレイミド由来の構造単位11~13質量%の範囲内で調節することが好ましい。
【0077】
N-置換マレイミドは、製造工程中に副生物としてマレイン酸やフマル酸等の酸成分が残存するが、精製工程にて十分に酸成分量を減量することができる。また、保管時に高温高湿環境下にあると同様に加水分解により開環し、副生物としてマレイン酸やフマル酸等の酸成分が発生するが、低温暗所に湿度管理された状態で保管しておくことでこれら酸成分の発生を抑えることができる。また、N-置換マレイミドを主鎖に持つメタクリル系樹脂の場合、酸や塩基を使用した環化工程を経ることがなく、酸成分とアルカリ成分量の残存量の制御がしやすい利点がある。このことから、酸成分の含有量が少なくなるよう制御された樹脂を得ることができる。
【0078】
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズに使用する樹脂レンズを構成する、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、メタクリル酸エステル単量体及びN-置換マレイミド単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位を含有していてもよい。
例えば、上記共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル;不飽和ニトリル;シクロヘキシル基、ベンジル基、又は炭素数1~18のアルキル基を有するアクリル酸エステル;グリシジル化合物;不飽和カルボン酸類;等を挙げることができる。
上記芳香族ビニルとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
上記不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、等が挙げられる。
上記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
上記グリシジル化合物としては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記不飽和カルボン酸類としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの半エステル化物又は無水物等が挙げられる。
上記共重合可能な他の単量体由来の構造単位は、一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
【0079】
これら共重合可能な他の単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量%として、0~10質量%であることが好ましく、0~9質量%であることがより好ましく、0~8質量%であることがさらに好ましい。
他の単量体由来の構造単位の含有量がこの範囲にあると、主鎖に環構造を導入する本来の効果を損なわずに、樹脂の成形加工性や機械的特性を改善できるため好ましい。
【0080】
なお、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量、並びに共重合可能な他の単量体由来の構造単位の含有量は、H-NMR測定及び13C-NMR測定により求めることができる。H-NMR測定及び13C-NMR測定は、例えば、測定溶媒としてCDCl又はDMSO-d6を用い、測定温度40℃で行うことができる。
【0081】
-グルタルイミド系構造単位-
主鎖にグルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂としては、例えば、特開2006-249202号公報、特開2007-009182号公報、特開2007-009191号公報、特開2011-186482号公報、再公表特許2012/114718号公報等に記載されている、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂が挙げられ、当該公報に記載されている方法により形成することができる。
本実施形態のメタクリル系樹脂を構成するグルタルイミド系構造単位は、樹脂重合後に形成されてよい。
具体的には、グルタルイミド系構造単位は、下記一般式(3)で表されるものとしてよい。
【0082】
【化3】
上記一般式(3)において、好ましくはR7及びR8は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であり、R9は、水素原子、メチル基、ブチル基、シクロヘキシル基のいずれかであり、より好ましくは、R7は、メチル基であり、R8は、水素原子であり、R9は、メチル基である。
グルタルイミド系構造単位は、単一の種類のみを含んでいてもよいし、複数の種類を含んでいてもよい。
【0083】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂において、グルタルイミド系構造単位の含有量については、メタクリル系樹脂を100質量%として、好ましくは3~70質量%の範囲、より好ましくは3~60質量%の範囲である。
グルタルイミド系構造単位の含有量が上記範囲にあると、成形加工性、耐熱性、及び光学特性の良好な樹脂が得られることから好ましい。
また、グルタルイミド系構造単位の含有量をこの範囲内で適宜調節することにより、成形時の配向や残留応力によって生じる複屈折を低下させ、有効径内の位相差の絶対値の平均が5nm以下のヘッドマウントディスプレイ用樹脂レンズを得ることができる。一般式(3)のR7~R9の置換基の種類によって最適なグルタルイミド系構造単位の含有量は異なるが、例えば、R7及びR8が水素原子、R9がメチル基の場合、グルタルイミド系構造単位の含有量が3~10質量%の範囲にあると、成形時の配向や残留応力によって生じる複屈折を低下させ、有効径内の位相差の絶対値の平均が10nm以下のヘッドマウントディスプレイ用樹脂レンズを得ることができる。
なお、メタクリル系樹脂におけるグルタルイミド系構造単位の含有量は、前述の特許文献記載の方法を用いて決定できる。
【0084】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂は、必要に応じて、芳香族ビニル単量体単位をさらに含んでいてもよい。
芳香族ビニル単量体としては特に限定されないが、スチレン、α-メチルスチレンが挙げられ、スチレンが好ましい。
【0085】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂における芳香族ビニル単位の含有量としては、特に限定されないが、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂を100質量%として、0~20質量%が好ましい。
芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲にあると、耐熱性と優れた光弾性特性との両立が可能となり好ましい。
例えば、メタクリル酸エステル単量体としてメタクリル酸メチル、芳香族ビニル単量体としてスチレンを用いて共重合して得られるメタクリル酸メチル-スチレン共重合体をグルタルイミド化して樹脂を得る場合、メタクリル酸メチル由来の構造単位25~90質量%、スチレン由来の構造単位5~15質量%、グルタルイミド系構造単位5~70質量%の範囲内で調節することにより、成形時の配向や残留応力によって生じる複屈折を低下させ、有効径内の位相差の絶対値の平均が10nm以下のヘッドマウントディスプレイ用樹脂レンズを得ることができる。
また、その他の効果として、スチレン等の低吸水の単量体を共重合することで、得られるメタクリル系樹脂及び該樹脂の樹脂組成物の吸水率を低減することが可能であり、これにより、高湿環境下での信頼性試験後の反射型変更素子の剥離防止やレンズ面精度悪化を抑制することが可能となる。
【0086】
-ラクトン環構造単位-
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、例えば、特開2001-151814号公報、特開2004-168882号公報、特開2005-146084号公報、特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報、特開2007-63541号公報、特開2007-297620号公報、特開2010-180305号公報等に記載されている方法により形成することができる。
【0087】
本実施形態のメタクリル系樹脂を構成するラクトン環構造単位は、樹脂重合後に形成されてよい。
本実施形態におけるラクトン環構造単位としては、環構造の安定性に優れることから6員環であることが好ましい。
6員環であるラクトン環構造単位としては、例えば、下記一般式(4)に示される構造が特に好ましい。
【0088】
【化4】
上記一般式(4)において、R10、R11及びR12は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~20の有機残基である。
有機残基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~20の飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基等);エテニル基、プロペニル基等の炭素数2~20の不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基等);フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基(アリール基等);これら飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基における水素原子の一つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;等が挙げられる。
【0089】
ラクトン環構造単位は、例えば、ヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル単量体とを共重合して、分子鎖にヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシル基とを導入した後、これらヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシル基との間で、脱アルコール(エステル化)又は脱水縮合(以下、「環化縮合反応」ともいう)を生じさせることにより形成することができる。
【0090】
重合に用いるヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体としては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル(例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸t-ブチル)、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル等が挙げられ、好ましくは、ヒドロキシアルキル部位を有する単量体である2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸や2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルであり、特に好ましくは2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルである。
【0091】
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂におけるラクトン環構造単位の含有量は、メタクリル系樹脂100質量%に対して、5~40質量%であることが好ましく、より好ましくは5~35質量%である。
ラクトン環構造単位の含有量がこの範囲にあると、成形加工性を維持しつつ、耐溶剤性向上や表面硬度向上等の環構造導入効果が発現できる。また、ラクトン環構造単位の含有量をこの範囲内で適宜調節することにより、成形時の配向や残留応力によって生じる複屈折を低下させ、有効径内の位相差の絶対値の平均が10nm以下のヘッドマウントディスプレイ用樹脂レンズを得ることができる。
なお、メタクリル系樹脂におけるラクトン環構造の含有量は、前述の特許文献記載の方法を用いて決定できる。
【0092】
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、上述したメタクリル酸エステル単量体及びヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位を有していてもよい。
このような共重合可能な他の単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、α-ヒドロキシメチルスチレン、α-ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン、酢酸ビニル、2-ヒドロキシメチル-1-ブテン、メチルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール等の重合性二重結合を有する単量体等が挙げられる。
これら他のモノマー(構成単位)は、1種のみを有していてもよいし2種以上有していてもよい。
特に、スチレン等の低吸水の単量体を共重合することで、得られるメタクリル系樹脂及び該樹脂の樹脂組成物の吸水率を低減することが可能であり、これにより、高湿環境下での信頼性試験後の反射型偏光素子の剥離防止やレンズ面精度悪化を抑制することが可能となる。
【0093】
これら共重合可能な他の単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂100質量%に対して、0~20質量%であることが好ましく、耐候性の観点からは、10質量%未満であることがより好ましく、7質量%未満であることがさらに好ましい。
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、上記の共重合可能な他の単量体由来の構造単位を一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
【0094】
[芳香環水素化構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法]
主鎖に環構造を有する構造単位とメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位とを有するメタクリル系樹脂以外の方法で、本実施形態を満足する低複屈折特性を持つメタクリル系樹脂を得る方法として、芳香環水素化構造単位を有するメタクリル系樹脂が例として挙げられる。
【0095】
芳香環水素化構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体を水素添加触媒及び反応溶媒の存在下で水素添加して核水素化ポリマーを製造する方法が用いられる。
芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合する方法は公知の方法を用いることができるが、工業的にはラジカル重合による方法が簡便でよい。ラジカル重合は塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合など公知の方法を適宜選択することができるが、水素添加反応時の水分の含有を避けるため、塊状重合法もしくは溶液重合で製造されることが好ましい。本実施形態における製造方法では、重合形式として、例えば、バッチ重合法、セミバッチ法、連続重合法のいずれも用いることができる。
芳香環水素化構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法としては、例えば、特開2006-291184号公報、特開2006-291184号公報、特開2014-77043号公報、特開2014-77044号公報等に記載されている方法により形成することができる。
【0096】
以下、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体を水素添加して得られる芳香環水素化構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法の一例を具体的に説明する。
【0097】
重合に用いる芳香族ビニル化合物としては、具体的にスチレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエン、α-ヒドロキシメチルスチレン、α-ヒドロキシエチルスチレン、p-ヒドロキシスチレン、アルコキシスチレン、クロロスチレンなどが挙げられるが、スチレンが好ましい。また、2種類以上の芳香族ビニル化合物を共重合することも可能である。特にα位に置換基を持つスチレンを利用することで、樹脂の耐熱性を高めることができるため好ましい。
【0098】
芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートの共重合体の場合、共重合体の構成単位の組成は仕込んだモノマーの組成とは必ずしも一致せず、重合反応によって実際に共重合体に取り込まれたモノマーの量によって決定される。共重合体の構成単位の比は、重合率が100%であれば仕込みモノマー組成比と一致するが、実際には50~80%の重合率で製造する場合が多く、反応性の高いモノマーほど共重合体に取り込まれ易いため、モノマーの仕込み組成と共重合体の構成単位の組成にズレが生じるので、仕込みモノマーの組成
比を適宜調整する必要がある。
【0099】
本発明における水素添加反応に用いる芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートの共重合体の構成単位において、芳香族ビニル化合物モノマーの構成単位(Bモル)に対する(メタ)アクリレートモノマー由来の構成単位(Aモル)のモル比(A/B)は0.25以上4.0以下である。0.25未満になると機械強度が劣り、実用性に耐えない場合がある。4.0を超えると水素添加される芳香環が少ないため、水素添加反応によるガラス転移温度の向上などの性能向上効果が不足する場合がある。
【0100】
これら共重合可能な他の単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂100質量%に対して、0~20質量%であることが好ましく、耐候性の観点からは、10質量%未満であることがより好ましく、7質量%未満であることがさらに好ましい。
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、上記の共重合可能な他の単量体由来の構造単位を一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
【0101】
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、ラクトン環構造単位、芳香環水素化構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を有することが好ましい。主鎖に環構造を導入するために環化工程を経るメタクリル樹脂の場合、カルボン酸側鎖が残存している可能性があり、吸水率が非常に高くなる要因となり、反射防止コートやミラーコートの密着性や反射型偏光素子との貼合の密着性に悪影響を及ぼすため、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、芳香環水素化構造単位を有するメタクリル系樹脂がより好ましい。特に、他の熱可塑性樹脂をブレンドすること無く、光弾性係数等の光学特性を高度に制御しやすい点から、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有することが特に好ましい。
さらに、反射型偏光素子との貼合粘着性の阻害等を引き起こす酸や塩基を加える環化工程を経ず耐熱を高め低複屈折化の制御をすることができる環構造が得られるという点で、N-置換マレイミド単量体単位構造を有することが特に好ましい。
【0102】
-メタクリル系樹脂の製造方法-
以下、本実施形態のメタクリル系樹脂の製造方法について記載する。
【0103】
-N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法-
主鎖にN-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂(以下、「マレイミド共重合体」と記す場合がある)の製造方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれの重合方法が挙げられ、樹脂レンズ中に含まれる残存モノマー量や不純物量を少なくできる観点から、好ましくは懸濁重合、塊状重合、溶液重合法であり、より好ましくは溶液重合法である。
【0104】
重合開始剤の添加方法としては、一定添加速度ではなく重合溶液内に残存する単量体濃度に合わせ、可変的な添加であれば特に制限はなく、連続的に加えても断続的に加えてもよい。重合開始剤を断続的に加える場合は、添加していない時間については単位時間当たりの添加量を考えないものとする。
【0105】
本実施形態における製造方法では、重合形式として、回分(バッチ)式、半回分(セミバッチ)式、連続式を用いることができる。ここで、回分式とは、反応器へ原料を全量投入後に反応を開始・進行させ、終了後に生成物を回収するプロセスであり、また、半回分式とは、原料投入あるいは生成物回収のどちらか一方を反応進行中に同時に行うプロセスであり、さらに連続式とは、原料投入及び生成物回収の両方を反応進行中に同時に行うプロセスである。本実施形態においては、単量体の一部を重合開始前に反応器内に仕込み、重合開始剤を添加することによって重合を開始した後に、単量体の残部を供給する方法、いわゆるセミバッチ重合法を用いることが、精密に共重合体組成を制御でき、重合終了時の残存N-置換マレイミド量を低減し、色調及び蛍光発光性の副生成物を低減できる観点から好ましい。
連続式は、本実施形態における製造方法としては下記の理由により好ましくない。完全混合反応器一基で重合反応を実施する場合、メタクリル系樹脂中の分子量の異なる画分における各画分間での単量体組成の差を小さくできる利点があるが、重合後に未反応の単量体が多く残存するため、色調に悪影響を及ぼす傾向にある。一方で、プラグフロー反応器を使用した場合には、未反応の単量体の量を低減できるが、メタクリル系樹脂中の分子量の異なる画分における各画分間での単量体組成の差は大きくなる傾向がある。複数の完全混合反応器あるいは完全混合反応器とプラグフロー反応器とを直列に組み合わせた場合も、未反応の単量体量は低減できるが、上記各画分間での単量体組成の差が大きくなる傾向がある。
【0106】
N-置換マレイミド中の不純物を制御する方法としては、N-置換マレイミドの水洗(水洗工程)及び/又は脱水(脱水工程)をする前処理工程を設けること等が挙げられる。
上記前処理工程は、水洗のみであってもよいし、水洗と脱水との組み合わせであってもよい。また、水洗と脱水とは、1回ずつ行ってもよいし、複数回行ってもよい。上記前処理工程では、脱水工程で得られたN-置換マレイミド溶液の濃度調整をする濃度調整工程がさらに設けられていてもよい。
【0107】
水洗工程では、例えば、N-置換マレイミドを非水溶性有機溶媒に溶解させ、有機層と水層とに分離し、この有機層を、酸性水溶液、水、アルカリ水溶液のうちの1つ以上の液を用いて回分式、連続式、又はこれら両方の方式によって混合、洗浄し、その後、有機層と水層とを分離する方法を取ることができる。
【0108】
用いられる非水溶性有機溶媒は、具体的には、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ノルマルヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;クロロホルム、ジジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;等を用いることができる。
用いられる水は、下水、純水、上水のいずれを用いても良い。
また、酸性水溶液、アルカリ性水溶液の酸性度は特に制限されない。
【0109】
水洗工程前の有機層中のN-置換マレイミドの濃度は、0.5質量%以上30質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上25質量%以下である。
有機層と水層を混合、洗浄する際の温度は40℃以上であれば良いが、好ましくは40℃以上80℃以下、より好ましくは50℃以上60℃以下である。
有機層に対する水層の質量割合は、有機層の質量を100質量%とした場合、5質量%以上300質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以上200質量%、さらに好ましくは30質量%以上100質量%以下である。
有機層中のN-置換マレイミドの濃度、洗浄する際の液温、及び水層の質量割合が上記範囲にあると、N-置換マレイミドと水との反応が進行しにくく、酸性物質の生成を抑制することができ、かつ蛍光発光性の副生物生成の要因となる2-アミノ-N-置換スクシンイミド等の不純物が水層側へ抽出されやすいため好ましい。
【0110】
回分式で洗浄する場合には、用いる反応槽はステンレス製、グラスライニング製のいずれでも良く、これら以外の反応槽を用いても良い。また、撹拌翼の形状については特に制限されない。具体的な撹拌翼としては、例えば、3枚後退翼、4枚パドル翼、4枚傾斜パドル翼、6枚タービン翼、アンカー翼を使用することができ、また、神鋼環境ソリューション製のツインスターやフルゾーンを使用することができる。
撹拌時間は10分以上120分以下が好ましく、より好ましくは30分以上60分以下である。また、撹拌速度は、混合液が乱流状態になり、かつ乳化しないような速度が適宜選択される。撹拌時間、撹拌速度がそれぞれこの範囲にあると、撹拌効率と2-アミノ-N-置換スクシンイミド等の不純物の水層中への抽出効率が向上し、N-置換マレイミド中の不純物をより低減できるため好ましい。
【0111】
連続式で洗浄する場合には、空塔、充填塔、又は段塔を用いることができ、スタティックミキサー等の静止型混合器や、ダイナミックミキサー等の回転式ミキサーを使用することもできる。
有機層と水層との接触時間は、1秒以上60分以下に設定することが好ましく、より好ましくは30秒以上10分以下である。接触時間がこの範囲にあると、N-置換マレイミドと水との反応が進行しにくく酸性物質が生成されづらく、かつ蛍光発光性の副生物生成の要因となる2-アミノ-N-置換スクシンイミド等の不純物が水層側へ抽出されやすいため好ましい。
【0112】
脱水工程では、反応槽中に有機層を供し、減圧下で加熱することにより水分を除去する。圧力と温度は、用いる溶媒と水が共沸組成を形成する条件ならば特に制限は無い。
脱水工程後の有機層中の水分量は、有機層の質量を100質量%とした場合、100質量ppm以下が好ましい。脱水工程後の水分量がこの範囲にあると、メタクリル系樹脂重合時に水による色調悪化を抑制することができ、且つ水とともに留去される溶媒量を少なくできるため、コストの面からも好ましい。
脱水工程で得られたN-置換マレイミドを含む有機層を、N-置換マレイミド溶液として重合工程で用いてもよいし、さらに濃度調整工程で濃度を調整したN-置換マレイミド溶液を重合工程で用いてもよい。
【0113】
濃度調整工程では、例えば、脱水工程等で得られた上記N-置換マレイミドの有機層を上記非水溶性有機溶媒により希釈してもよい。濃度調整工程で用いる非水溶性有機溶媒は、水洗工程で用いる非水溶性有機溶媒と同じであることが好ましい。
【0114】
上記前処理工程で得られるN-置換マレイミド溶液は、上記非水溶性有機溶媒の溶液(有機層)であることが好ましい。
上記前処理工程で得られるN-置換マレイミド溶液中に含まれる水分量は、N-置換マレイミド溶液100質量%に対して、200質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100~200質量ppmである。
上記前処理工程で得られるN-置換マレイミド溶液中に含まれるN-置換マレイミドの質量割合は、N-置換マレイミド溶液100質量%に対して、5~30質量%であることが好ましく、より好ましくは5~25質量%である。この範囲にある場合、N-置換マレイミドが析出しにくく、均一溶液として移送が可能であるため好ましい。
【0115】
複数種のN-置換マレイミド溶液を重合工程で用いる場合、複数種のN-置換マレイミド溶液の混合液が上記水分量、及び/又は上記N-置換マレイミドの質量割合を満たすことが好ましく、各N-置換マレイミド溶液が上記水分量、及び/又は上記N-置換マレイミドの質量割合を満たすことがより好ましい。
上述のようなN-置換マレイミドの水洗工程及び脱水工程を採用することにより、蛍光発光性を有する2-アミノ-N-置換スクシンイミド等の不純物の低減と、反射型偏光板との接着不良やワイヤグリッド偏光板の金属ワイヤ劣化の原因となる酸性物質の生成をもたらす水分を除去することが可能となり、光路長の長いレンズにおいても良好な色調を有するメタクリル系樹脂及び該樹脂の組成物を得ることができるので好ましい。
重合工程では、上記前処理工程で得られたN-置換マレイミド溶液に、メタクリル酸エステル単量体、任意の他の単量体、重合開始剤、重合溶媒、連鎖移動剤等を混合し、単量体混合液としてから重合に用いてもよい。
【0116】
メタクリル系樹脂及び該樹脂の組成物を用いて得られる樹脂レンズの色調及び透過率を良好に保ち、蛍光発光性物質の含有量を低減するためには、重合終了後に残存する未反応N-置換マレイミドの総質量を、重合終了時の重合溶液100質量%に対して1000質量ppm以下とすることが好ましく、より好ましくは10質量ppm以上500質量ppm以下である。
また、N-置換マレイミドとしてN-フェニルマレイミド等のN-アリールマレイミド類を使用する際には、重合終了後に残存する未反応N-アリールマレイミド類の総質量が、重合終了時の重合溶液100質量%に対して、500質量ppm以下が好ましく、より好ましくは10質量ppm以上500質量ppm以下、さらに好ましくは10質量ppm以上50質量ppm以下である。
これらの範囲にあるとき、メタクリル系樹脂及び得られる樹脂レンズ中の蛍光性物質の含有量を抑えることができるため好ましい。また、未反応N-置換マレイミド量を10質量ppm未満にするためには、重合温度を高くしたり、重合開始剤の量を増やしたりする必要があるため、マレイミド熱変性物や活性ラジカルが増加し、メタクリル系樹脂の色調悪化の原因となるため好ましくない。重合終了後の未反応N-置換マレイミド量を上記の範囲に制御する手段として、セミバッチ重合法が挙げられる。セミバッチ重合法では、重合工程において、重合開始剤の添加開始から30分後以降に、重合に供与する全ての単量体(例えば、メタクリル酸エステル、N-置換マレイミド、及び任意の他の単量体)の総質量を100質量%として、メタクリル酸エステル単量体を5~35質量%追加添加することが好ましい。言い換えると、重合に供与する全ての単量体の総質量100質量%のうち65~95質量%を重合開始剤添加前に反応器内に仕込み、重合開始剤の添加開始から30分後以降にメタクリル酸エステル単量体の残部5~35質量%を追加添加することが好ましい。追加添加するメタクリル酸エステル単量体量は、重合に供与する全ての単量体の総質量を100質量%として、より好ましくは10~30質量%である。追加添加するメタクリル酸エステル単量体量が上記範囲にあると、未反応N-置換マレイミドと追加添加したメタクリル酸エステル単量体とが反応し、重合終了後の未反応N-置換マレイミド量を上述の範囲内に制御できるため好ましい。
【0117】
単量体の追加添加の開始時点、追加添加のスピード等は、重合転化率に応じて適宜選択すればよい。また、本発明の効果や未反応N-置換マレイミド量を低減することを阻害しない範囲で、メタクリル酸エステル単量体に加え、N-置換マレイミド単量体やその他の単量体を含む単量体混合物を追加添加してもよい。
上述のようなセミバッチ重合法を採用することにより、重合後半時点での未反応のN-置換マレイミド単量体量を低減し、脱揮工程における蛍光発光性物質の生成を最小限とすることが可能となり、光路長の長いレンズにおいても良好な色調を有するメタクリル系樹脂及び該樹脂の組成物を得ることができるので好ましい。
【0118】
以下、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法の一例として、溶液重合法を用いてセミバッチ式のラジカル重合で製造する場合について、具体的に説明する。
【0119】
セミバッチ重合法では、重合開始剤の添加開始から30分後以降に、重合に供与する全ての単量体(メタクリル酸エステル、N-置換マレイミド、及び任意の他の単量体)の総質量を100質量%として、メタクリル酸エステル単量体を5~35質量%追加添加することが好ましい。言い換えると、重合に供与する全ての単量体の総質量100質量%のうち65~95質量%を重合開始前に反応器内に仕込み、重合開始剤の添加開始から30分後以降にメタクリル酸エステル単量体の残部5~35質量%を追加添加することが好ましい。
追加添加するメタクリル酸エステル単量体量は、重合に供与する全ての単量体の総質量を100質量%として、より好ましくは10~30質量%である。
【0120】
単量体の追加添加の開始時点、追加添加のスピード等は、重合転化率に応じて適宜選択すればよい。
また、本発明の効果やN-置換マレイミド単量体の転化率を高めることを阻害しない範囲で、メタクリル酸エステル単量体に加え、N-置換マレイミド単量体やその他の単量体を含む単量体混合物を追加添加してもよい。
【0121】
上述のようなセミバッチ重合法を採用することにより、重合後半時点でのN-置換マレイミド単量体の転化率を高くすることが可能となり、蛍光発光性物質の含有量を低減し、光路長の長いレンズの光線透過率に優れ、得られる重合物の分子量分布を制御しやすく、特に射出成形に適した流動性を有する樹脂並びに該樹脂の組成物を得ることができるので好ましい。
【0122】
-重合溶媒-
重合溶媒としては、重合により得られるマレイミド共重合体の溶解度が高く、ゲル化防止等の目的から反応液の粘度を適切に保てるものであれば、特に制限はない。
具体的な重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;イソ酪酸メチル等のエステル類;メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;ジメチルホルムアミド、2-メチルピロリドン等の極性溶媒を用いることができる。
これらは単独でも2種以上を併用して用いることもできる。
また、重合時における重合生成物の溶解を阻害しない範囲で、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールを重合溶媒として併用してもよい。
【0123】
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、生産時に共重合体や使用モノマーの析出等が起こらず、容易に除去できる量であれば特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量%とした場合に、10~200質量%とすることが好ましく、より好ましくは25~200質量%、さらに好ましくは50~200質量%、さらにより好ましくは50~150質量%である
本実施形態においては、重合時の溶媒量が、配合する単量体の総量を100質量%とした場合に、100質量%以下の範囲内で、重合中に溶媒濃度を適宜変更しながら重合する方法も好ましく用いることができる。
より具体的には、重合初期においては40~60質量%を配合し、重合途中に、残りの60~40質量%を配合し、最終的には、配合する単量体の総量を100質量%とした場合に、溶媒量が100質量%以下の範囲になるようにする方法等が例示できる。
この方法を採用することにより、重合転化率を高めることができ、さらに分子量分布を制御することが可能となり、射出成形性に優れ、光路長の長いレンズを調製した際にも良好な色調が得られる樹脂及び樹脂組成物が得られるので好ましい。
【0124】
溶液重合においては、重合溶液中の溶存酸素濃度を出来る限り低減させておくことが重要であり、例えば、溶存酸素濃度は、10ppm以下の濃度であることが好ましい。溶存酸素濃度は、例えば、溶存酸素計DOメーターB-505(飯島電子工業株式会社製)を用いて測定することができる。溶存酸素濃度を低下する方法としては、重合溶液中に不活性ガスをバブリングする方法、重合前に重合溶液を含む容器中を不活性ガスで0.2MPa程度まで加圧した後に放圧する操作を繰り返す方法、重合溶液を含む容器中に不活性ガスを通ずる方法等の方法を適宜選択することができる。
【0125】
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、70~180℃であることが好ましく、より好ましくは80~160℃、さらに好ましくは90~150℃、さらにより好ましくは100~150℃である。生産性の観点から70℃以上とすることが好ましく、重合時の副反応を抑制し、所望の分子量や品質の重合体を得るために180℃以下とすることが好ましい。
【0126】
また、重合時間については、必要な転化率にて、必要な重合度を得ることができる時間であれば特に限定はないが、生産性等の観点から、2~15時間であることが好ましく、より好ましくは3~12時間、さらに好ましくは4~10時間である。
【0127】
-重合開始剤-
重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;等を挙げることができる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
重合開始剤の添加量としては、重合に用いる単量体の総量を100質量%とした場合に、0.01~1質量%としてよく、好ましくは0.05~0.5質量%である。
重合開始剤の添加方法としては、一定添加速度ではなく重合溶液内に残存する単量体濃度に合わせ、可変的な添加であれば特に制限はなく、連続的に加えても断続的に加えてもよい。重合開始剤を断続的に加える場合は、添加していない時間については単位時間当たりの添加量を考えないものとする。
【0128】
本実施形態では、反応系内に残存する未反応の単量体総量に対する重合開始剤より発生するラジカル総量の割合が、常時一定値以下となるように、重合開始剤の種類及び添加量、並びに重合温度等を適宜選択することが好ましい。
これらの方法を採用することにより、重合後期におけるオリゴマーや低分子量体の生成量を抑制したり、重合時の過熱を抑制して重合の安定性を図ったりすることもできる。
【0129】
-連鎖移動剤-
重合反応時には、必要に応じて、連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2-エチルヘキシル等のメルカプタン化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー、α-テルピネン、ジペンテン、ターピノーレン等の不飽和炭化水素化合物;等が挙げられる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の添加量としては、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.01~1質量部としてよく、好ましくは0.05~0.5質量部である。
【0130】
溶液重合により得られる重合液から重合物を回収する方法としては、特に制限はないが、例えば、重合により得られた重合生成物が溶解しないような炭化水素系溶媒やアルコール系溶媒等の貧溶媒が過剰量存在する中に重合液を添加した後、ホモジナイザーによる処理(乳化分散)を行い、未反応単量体について、液-液抽出、固-液抽出する等の前処理を施すことで、重合液から分離する方法;あるいは、脱揮工程と呼ばれる工程を経由して重合溶媒や未反応の単量体を分離し、重合生成物を回収する方法;等が挙げられる。
ここで、脱揮工程とは、重合溶媒、残存単量体、反応副生成物等の揮発分を、加熱・減圧条件下で、除去する工程をいう。
【0131】
-脱揮工程-
脱揮工程に用いる装置としては、例えば、管状熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置が挙げられる。その他、回転部を有する装置としては、神鋼環境ソリューション社製ワイブレン及びエクセバ、日立製作所製コントラ及び傾斜翼コントラ等の薄膜蒸発機や、脱揮性能を発揮するに十分な滞留時間と表面積とを有するベント付き押出機等を挙げることができる。
これらの中からいずれか2つ以上の装置を組み合わせた脱揮装置を用いた脱揮工程等も利用することができる。
【0132】
映像のコントラストが高いことが重視される用途に利用される樹脂レンズを構成する樹脂組成物については、蛍光発光性を有する反応副生成物を抑制することが重要であり、これらの副生成物の発生を抑制し、良好な色調のメタクリル樹脂を得るためには、例えば、単量体の転化率を高めるために、重合時間を出来る限り長くしたり、重合溶液中の未反応の単量体濃度に合わせ、重合開始剤の添加速度を変化させたりして重合を行う方法;重合中に溶媒濃度を適宜変更しながら重合する方法;重合後半に残存するN-置換マレイミド単量体との反応性が高い他の単量体を追加添加する方法;重合終了時にα-テルピネン等、N-置換マレイミドとの反応性の高い化合物を添加する方法等も使用することができる。
【0133】
色調を改良する観点からは、熱交換器と減圧容器とを主な構成とし、その構造として回転部を有しない脱揮装置を用いることが好ましい。
具体的には、その上部に熱交換器を配置し脱揮が可能な大きさを有する減圧容器に減圧ユニットが附帯した構成の脱揮槽と、脱揮後の重合物を排出するためのギアポンプ等の排出装置とから構成される脱揮装置を採用することができる。
上記脱揮装置は、重合溶液を、減圧容器の上部に配置され加熱された熱交換器、例えば、多管式熱交換器、プレートフィン式熱交換器、平板型流路とヒーターを有する平板式熱交換器等に供して予熱した後、加熱・減圧下にある脱揮槽に供給して、重合溶媒、未反応原料混合物、重合副生成物等と共重合体を分離除去する。上述のように回転部を有しない脱揮装置を用いることで、良好な色調を有するメタクリル系樹脂を得ることができるため好ましい。
【0134】
本実施形態において、減圧容器上部に配置する熱交換器としては、平板型流路とヒーターとを有する平板式熱交換器を用いることが好ましい。より好ましくは、同一平面状に断面が矩形であるスリット状流路を複数有する積層構造を有する平板型流路とヒーターとを有する平板式熱交換器である。
【0135】
脱揮装置に供された重合溶液は、該熱交換器の中央部から該スリット状流路へ送られて加熱される。加熱された重合溶液は、スリット状流路から、熱交換器と一体化した減圧下の減圧容器内に供給されて、フラッシュ蒸発させられる。
このような脱揮方法は、フラッシュ脱揮とも称されることもあり、本発明においては、以後、フラッシュ脱揮とも記す。
【0136】
脱揮装置に供された重合溶液は、該熱交換器の中央部から該スリット状流路へ送られて加熱される。加熱された重合溶液は、スリット状流路から、熱交換器と一体化した減圧下の減圧容器内に供給されて、フラッシュ蒸発させられる。
このような脱揮方法は、フラッシュ脱揮とも称されることもあり、本発明においては、以後、フラッシュ脱揮とも記す。
【0137】
脱揮装置での処理温度は、メタクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)+100℃~Tg+160℃の温度である。具体的な処理温度としては、好ましくは150~350℃、より好ましくは180~310℃、さらに好ましくは200~290℃である。下限温度以上とすることで残存揮発分を抑制でき、上限温度以下とすることで得られるメタクリル系樹脂の着色や分解を抑制できる。
【0138】
脱揮槽内における真空度としては、5~300Torrの範囲としてよく、中でも、10~200Torrの範囲が好ましい。この真空度が300Torr以下であると、効率よく未反応単量体又は未反応単量体と重合溶媒の混合物を分離除去することができ、得られる熱可塑性共重合体の熱安定性や品質が低下しない。真空度が5Torr以上であると、工業的な実施がより容易である。
【0139】
脱揮槽内における平均滞留時間としては、5~60分であり、好ましくは5~45分である。平均滞留時間がこの範囲にあると、効率よく脱揮できるとともに、重合物の熱変性による着色や分解を抑制できるので好ましい。
【0140】
脱揮工程を経て回収された重合物は、造粒工程と呼ばれる工程にてペレット状に加工される。
造粒工程では、溶融状態の樹脂を、多孔ダイを付帯設備として有するギアポンプ、単軸押出機、及び二軸押出機等から選ばれた少なくとも1種の搬出造粒装置にて、ストランド状に押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、及びアンダーウォーターカット方式にて、ペレット状に加工する。
【0141】
本実施形態では、高度に制御された樹脂組成物を得ようとするため、高温下で溶融状態にある樹脂組成物をできる限り空気に触れないようにして、素早く冷却固化させることができる造粒方式を採用することが好ましい。
その場合には、溶融樹脂温度を可能な範囲で低くし、且つ多孔ダイ出口から冷却水面までの滞留時間を極力少なくし、冷却水の温度も可能な範囲で高い温度にて、実施できる条件にて造粒を行うことがより好ましい。
例えば、溶融樹脂温度としては、220~280℃が好ましく、より好ましくは230~270℃であり、多孔ダイ出口から冷却水面までの滞留時間は5秒以内が好ましく、より好ましくは3秒以内であり、冷却水の温度としては、30~80℃が好ましく、より好ましくは40~60℃の範囲である。
【0142】
これら溶融樹脂温度並びに冷却水温度の範囲にて実施することにより、より着色が少なく、含有する水分率が低いメタクリル系樹脂ならびにその組成物が得られるので好ましい
【0143】
脱揮工程後のメタクリル系樹脂中に残留する単量体の含有量については、少ないほど、熱安定性や製品品質の観点から好ましい。具体的には、メタクリル酸エステル単量体の含有量としては、3000質量ppm以下が好ましく、より好ましくは2000質量ppm以下である。N-置換マレイミド単量体の含有量としては総量として200質量ppm以下が好ましく、より好ましくは100質量ppm以下である。
また、残留する重合溶媒の含有量としては500質量ppm以下が好ましく、より好ましくは300質量ppm以下である。
【0144】
-グルタルイミド系構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法-
主鎖にグルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれの重合方法が挙げられ、好ましくは懸濁重合、塊状重合、溶液重合法であり、さらに好ましくは溶液重合法である。
本実施形態における製造方法では、重合形式として、例えば、バッチ重合法、セミバッチ法、連続重合法のいずれも用いることができる。
本実施形態における製造方法では、ラジカル重合により単量体を重合することが好ましい。
【0145】
主鎖にグルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂は、例えば、特開2006-249202号公報、特開2007-009182号公報、特開2007-009191号公報、特開2011-186482号公報、国際公開第2012/114718号等に記載されている、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂であり、当該公報に記載されている方法により形成することができる。
以下、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法の一例として、溶液重合法を用いてバッチ式のラジカル重合で製造する場合について、具体的に説明する。
【0146】
まず、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステルを重合することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造する。グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂に芳香族ビニル単位を含める場合には、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニル(例えば、スチレン)とを共重合させ、(メタ)アクリル酸エステル-芳香族ビニル共重合体を製造する。
【0147】
重合に用いる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;等が挙げられる。
これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、生産時に共重合体や使用モノマーの析出等が起こらず、容易に除去できる量であれば特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量%とした場合に、10~200質量%とすることが好ましい。より好ましくは25~200質量%、さらに好ましくは50~200質量%、さらにより好ましくは50~150質量%である。
【0148】
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、50~200℃であることが好ましく、より好ましくは80~200℃である。さらに好ましくは90~150℃、さらにより好ましくは100~140℃、よりさらに好ましくは100~130℃である。生産性の観点から70℃以上とすることが好ましく、重合時の副反応を抑制し、所望の分子量や品質の重合体を得るために180℃以下とすることが好ましい。
重合時間としては、目的の転化率が満たされれば、特に制限されないが、生産性等の観点から、0.5~15時間であることが好ましく、より好ましくは2~12時間、さらに好ましくは4~10時間である。
【0149】
重合反応時には、必要に応じて重合開始剤や連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
【0150】
重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に開示した重合開始剤等が利用できる。
これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。 重合開始剤の添加量は、単量体の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、重合に用いる単量体の総量を100質量%とした場合に、0.01~1質量%としてよく、好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0151】
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に開示した連鎖移動剤等が利用できる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の添加量については、使用する重合条件において所望の重合度が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは重合に用いる単量体の総量を100質量%とした場合に、0.01~1質量%としてよく、好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0152】
重合工程における、好適な重合開始剤及び連鎖移動剤の添加方法は、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に記載した方法としてよい。
重合溶液中の溶存酸素濃度は、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に開示した値であってよい。
【0153】
次に、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体又は上記メタクリル酸エステル-芳香族ビニル共重合体にイミド化剤を反応させることで、イミド化反応を行う(イミド化工程)。これにより、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂を製造することができる。
【0154】
上記イミド化剤としては、特に限定されず、上記一般式(3)で表されるグルタルイミド系構造単位を生成できるものであればよい。
イミド化剤としては、具体的には、アンモニア又は一級アミンを用いることができる。上記一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、i-プロピルアミン、n-ブチルアミン、i-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有一級アミン;シクロヘキシルアミン等の脂環式炭化水素基含有一級アミン;等が挙げられる。
上記イミド化剤のうち、コスト、物性の面から、アンモニア、メチルアミン、シクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることが特に好ましい。
【0155】
このイミド化工程では、上記イミド化剤の添加割合を調整することにより、得られるグルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂におけるグルタルイミド系構造単位の含有量を調整することができる。
【0156】
上記イミド化反応を実施するための方法は、特に限定されないが、従来公知の方法を用いることができ、例えば、押出機又はバッチ式反応槽を用いることでイミド化反応を進行させることができる。
【0157】
上記押出機としては、特に限定されないが、例えば、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等を用いることができる。
中でも、二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、原料ポリマーとイミド化剤との混合を促進することができる。
二軸押出機としては、例えば、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式等が挙げられる。
上記例示した押出機は、単独で用いてもよいし、複数を直列に連結して用いてもよい。
また、使用する押出機には、大気圧以下に減圧可能なベン卜口を装着することが、反応のイミド化剤、メタノール等の副生物、又は、モノマー類を除去することができるため、特に好ましい。
【0158】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂を製造するにあたっては、上記イミド化の工程に加えて、ジメチルカーボネート等のエステル化剤で樹脂のカルボキシル基を処理するエステル化工程を含むことができる。その際、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の触媒を併用し処理することもできる。
エステル化工程は、上記イミド化工程と同様に、例えば、押出機又はバッチ式反応槽を用いることで進行させることができる。
また、過剰なエステル化剤、メタノール等の副生物、又はモノマー類を除去する目的で、使用する装置には、大気圧以下に減圧可能なベン卜口を装着することが好ましい。
この時、カルボキシル基のエステル化ができていない場合は残存するカルボキシル基が樹脂の吸水率を高くし、高湿環境下での信頼性試験にて、反射型偏光素子の貼合面剥がれや、レンズの面精度悪化に繋がる。また、ジメチルカーボネート等のエステル化剤やアミン類を十分に脱揮できていない場合、酸性物質やアルカリ性物質が残存することになり、反射型偏光素子との貼合面剥離や、ワイヤグリッド偏光素子の金属ワイヤの劣化を引き起こす原因となるため、好ましくない。
【0159】
イミド化工程、及び必要に応じてエステル化工程を経たメタクリル系樹脂は、多孔ダイを附帯した押出機から、ストランド状に溶融し押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、アンダーウォーターカット方式等にて、ペレット状に加工される。
また、樹脂の異物数を低減するために、メタクリル系樹脂を、トルエン、メチルエチルケトン、塩化メチレン等の有機溶媒に溶解し、得られたメタクリル系樹脂溶液を濾過し、その後、有機溶媒を脱揮する方法を用いることも好ましい。
【0160】
蛍光強度(蛍光発光性物質の含有量)を低減する観点からは、重合終了後の重合溶液をバッチ式反応槽中でイミド化し、せん断力を受ける二軸押出機を用いないことが好ましい。
イミド化反応は130~250℃で実施することが好ましく、150~230℃で実施することがより好ましく、170~190℃で実施することがさらに好ましい。また反応時間は、10分~5時間であることが好ましく、30分~2時間であることがより好ましい。
イミド化工程後は必要に応じてエステル化工程を経た後、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に記載した脱揮方法により脱揮後、ペレタイズすることが蛍光強度を低減する観点で好ましい。
【0161】
-ラクトン環構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法-
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、重合後に環化反応によりラクトン環構造を形成させる方法が用いられるが、環化反応を促進させる上で、溶媒を使用する溶液重合法にてラジカル重合により単量体を重合することが好ましい。
本実施形態における製造方法では、重合形式として、例えば、バッチ重合法、セミバッチ法、連続重合法のいずれも用いることができる。
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、例えば、特開2001-151814号公報、特開2004-168882号公報、特開2005-146084号公報、特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報、特開2007-63541号公報、特開2007-297620号公報、特開2010-180305号公報等に記載されている方法により形成することができる。
【0162】
以下、ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法の一例として、溶液重合法を用いてバッチ式でラジカル重合で製造する場合について、具体的に説明する。
ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、重合後に環化反応によりラクトン環構造を形成させる方法が用いられるが、環化反応を促進させる上で、溶媒を使用する溶液重合が好ましい。
【0163】
重合に用いる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;等が挙げられる。
これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0164】
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、ゲル化を抑制できる条件であれば特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量%とした場合に、50~200質量%とすることが好ましく、より好ましくは100~200質量%である。
【0165】
重合液のゲル化を充分に抑制し、重合後の環化反応を促進するためには、重合後に得られる反応混合物中における生成した重合体の濃度が50質量%以下になるように重合を行うことが好ましい。また、重合溶媒を反応混合物に適宜添加して、上記濃度が50質量%以下となるように制御することが好ましい。
【0166】
重合溶媒を反応混合物に適宜添加する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶媒を添加してもよいし、間欠的に重合溶媒を添加してもよい。
添加する重合溶媒は、1種のみの単一溶媒であっても2種以上の混合溶媒であってもよい。
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、生産性の観点から50~200℃であることが好ましく、より好ましくは80~180℃である。
重合時間としては、目的の転化率が満たされれば、特に制限されないが、生産性等の観点から、0.5~10時間であることが好ましく、より好ましくは1~8時間である。
【0167】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に開示した重合開始剤等が利用できる。
これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
重合開始剤の添加量は、単量体の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、重合に用いる単量体の総量を100質量%とした場合に、0.05~1質量%としてよい。
【0168】
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に開示した連鎖移動剤等が利用できる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の添加量については、使用する重合条件において所望の重合度が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは重合に用いる単量体の総量を100質量%とした場合に、0.05~1質量%としてよい。
【0169】
重合工程における、好適な重合開始剤及び連鎖移動剤の添加方法は、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に記載した方法でよい。
【0170】
重合溶液中の溶存酸素濃度は、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に開示した値であってよい。
【0171】
本実施形態におけるラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、上記重合反応終了後、環化反応を行うことにより得ることができる。そのため、重合反応液から重合溶媒を除去することなく、溶媒を含んだ状態で、ラクトン環化反応に供することが好ましい。
重合により得られた共重合体は、加熱処理されることにより、共重合体の分子鎖中に存在するヒドロキシル基(水酸基)とエステル基との間での環化縮合反応を起こし、ラクトン環構造を形成する。
ラクトン環構造形成の加熱処理の際、環化縮合によって副生し得るアルコールを除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた反応装置、脱揮装置を備えた押出機等を用いることもできる。
【0172】
ラクトン環構造形成の際、必要に応じて、環化縮合反応を促進するために、環化縮合触媒を用いて加熱処理してもよい。
環化縮合触媒の具体的な例としては、例えば、亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等の亜リン酸モノアルキルエステル、ジアルキルエステル又はトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2-エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ-2-エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル等のリン酸モノアルキルエステル、ジアルキルエステル又はトリアルキルエステル;酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、オクチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;等が挙げられる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0173】
環化縮合触媒の使用量としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタクリル系樹脂100質量%に対して、好ましくは0.01~3質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%である。
触媒の使用量が0.01質量%以上であると、環化縮合反応の反応率の向上に有効であり、触媒の使用量が3質量%以下であると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して溶融成形が困難になることを防ぐのに有効である。
【0174】
環化縮合触媒の添加時期としては、特に限定されるものではなく、例えば、環化縮合反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、その両方で添加してもよい。
溶媒の存在下に環化縮合反応を行う際に、同時に脱揮を行うこともできる。
【0175】
環化縮合反応と脱揮工程とを同時に行う場合に用いる装置については、特に限定されるものではないが、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものが好ましく、ベント付き二軸押出機がより好ましい。
用いるベント付き二軸押出機としては、複数のベント口を有するベント付き押出機が好ましい。
【0176】
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150~350℃、より好ましくは200~300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
ベント付き押出機を用いる場合の真空度としては、好ましくは10~500Torr、より好ましくは10~300Torrである。真空度が500Torrを超えると、揮発分が残存しやすいことがある。逆に、真空度が10Torr未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0177】
上記の環化縮合反応を行う際に、残存する環化縮合触媒を失活させる目的で、造粒時に有機酸のアルカリ土類金属及び/又は両性金属塩を添加することも好ましい。
有機酸のアルカリ土類金属及び/又は両性金属塩としては、例えば、カルシウムアセチルアセテート、ステアリン酸カルシウム、酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、2-エチルヘキシル酸亜鉛等を用いることができる。
【0178】
環化縮合反応工程を経た後、メタクリル系樹脂は、多孔ダイを附帯した押出機からストランド状に溶融し押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、及びアンダーウォーターカット方式にてペレット状に加工する。
なお、前述のラクトン環構造単位を形成するためのラクトン化は、樹脂の製造後樹脂組成物の製造(後述)前に行ってもよく、樹脂組成物の製造中に、樹脂と樹脂以外の成分との溶融混練と併せて、行ってもよい。
【0179】
蛍光強度(蛍光発光性物質の含有量)を低減する観点からは、重合終了後の重合溶液をバッチ式反応槽中でラクトン環化し、せん断力を受ける二軸押出機を用いないことが好ましい。ラクトン環化工程後は、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に記載した脱揮方法により脱揮後、ペレタイズすることが蛍光強度を低減する観点で好ましい。
【0180】
-芳香環水素化構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法-
芳香環水素化構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体を水素添加触媒及び反応溶媒の存在下で水素添加して核水素化ポリマーを製造する方法が用いられる。
芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合する方法は公知の方法を用いることができるが、工業的にはラジカル重合による方法が簡便でよい。ラジカル重合は塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合など公知の方法を適宜選択することができるが、水素添加反応時の水分の含有を避けるため、塊状重合法もしくは溶液重合で製造されることが好ましい。本実施形態における製造方法では、重合形式として、例えば、バッチ重合法、セミバッチ法、連続重合法のいずれも用いることができる。
芳香環水素化構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法としては、例えば、特開2006-291184号公報、特開2006-291184号公報、特開2014-77043号公報、特開2014-77044号公報等に記載されている方法により形成することができる。
【0181】
以下、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体を水素添加して得られる芳香環水素化構造単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法の一例を具体的に説明する。
【0182】
重合に用いる溶媒としては、溶媒自体が反応条件で安定であり、加えて水素添加反応前後の共重合体(芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体と、芳香環が水素添加された核水素化ポリマー)の溶解性及び水素の溶解性が良好、かつ反応が速やかに行なわれることも加味する必要がある。また、反応後の溶媒成分の脱揮を想定した場合、溶媒の発火点が高いことも重要となる。これらの要件を満たす溶媒としてn-ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサンなどの炭化水素系化合物、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングルコールジメチルエーテルなどのエーテル化合物、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド化合物、エステル化合物などが挙げられるが、特にエーテル化合物及びエステル化合物が好適である。エーテル化合物としてはテトラヒドロフランが特に好適である。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0183】
エステル化合物としてはカルボン酸エステル化合物が好適である。該カルボン酸エステル化合物には脂肪族のエステル化合物が用いられ、下記一般式(5)で示される化合物が好適である。式中、R1は炭素数1~6のアルキル基、R2は炭素数1~6のアルキル基である。R1及びR2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基が例として挙げられる。エステル化合物としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸‐n‐ブチル、酢酸ペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸‐n‐プロピル、プロピオン酸‐n‐ブチル、n‐酪酸メチル、イソ酪酸メチル、n‐酪酸‐n‐ブチル、n‐吉草酸メチル、n‐ヘキサン酸メチルなどが用いられるが、特に、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、イソ酪酸メチル、n―酪酸メチルがさらに好適である。
R1-COO-R2 ・・・(5)
【0184】
水素添加反応時の溶液中における共重合体(芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体と、芳香環が水素添加された核水素化ポリマー)の濃度は通常1~50重量%であり、好ましくは3~30重量%、さらに好ましくは5~25重量%である。共重合体の濃度が高すぎると、反応速度の低下や溶液粘性の上昇による取扱いの不便さなどの面から好ましくなく、濃度が低いと、生産性、経済性の面から好ましくない。
【0185】
水素添加反応前のポリマー溶液中の水分濃度は0.5重量%以下であり、好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.05重量%以下である。水分量が0.5重量%を超えると、製造した核水素化ポリマー(ペレット、粉)が着色することがあり、光学材料として好ましくない。
【0186】
重合反応時に、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤を添加できるが、硫黄分は水素添加反応を阻害するため、硫黄が極力含まれないことが望ましい。
重合開始剤としては、硫黄官能基を持たないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に開示した重合開始剤等が利用できる。
これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
重合開始剤の添加量は、単量体の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、重合に用いる単量体の総量を100質量%とした場合に、0.05~1質量%としてよい。
【0187】
重合工程における、好適な重合開始剤及び連鎖移動剤の添加方法は、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に記載した方法でよい。
【0188】
重合溶液中の溶存酸素濃度は、例えば、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に開示した値であってよい。
【0189】
連鎖移動剤は必ずしも必要とはしない。また使用する場合には、たとえば四塩化炭素、四臭化炭素、四沃化炭素などの四ハロゲン化炭素、又は2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン等のスチレン類の二量体を用いることが好ましい。一般的によく利用されるメルカプタン化合物系連鎖移動剤は、ポリマー末端に硫黄官能基が導入されてしまい、芳香環の水素添加反応を阻害するので好ましくない。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の添加量については、使用する重合条件において所望の重合度が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは重合に用いる単量体の総量を100質量%とした場合に、0.05~1質量%としてよい。
なお、一般的にメルカプタン化合物系連鎖移動剤を使用しない場合、原料ポリマーの熱分解性は低下するが、芳香環水素化構造単位を含むメタクリル樹脂では、分解温度などの物性は水素化率のみに依存し、水素化率が同じであれば硫黄系連鎖移動剤の使用は分解温度に影響しない。
【0190】
水素添加反応に用いる触媒(水素添加触媒)としては水素化活性を有するものであれば何でも良く特に制限されない。具体的にはニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金等が挙げられる。その中でも反応速度が高く、また溶媒が副反応を起こさず反応前後において保持されるようなものとして特にパラジウムを担体に担持したものが好ましい。一般に、触媒担体としては、活性炭、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、シリカ-アルミナ(SiO2-Al2O3)、珪藻土、酸化ジルコニウムなどが用いられる。本発明における触媒の担体として制限は無いが、活性炭又はアルミナ、又は酸化ジルコニウムを用いることが好ましい。
【0191】
担体上のパラジウム金属の担持量は、通常0.01~50重量%の範囲であり、好ましくは0.05~20重量%、さらに好ましくは0.1~10重量%である。経済上、高価な金属であるパラジウムの使用量はなるべく少ないことが好ましいが、活性炭又は酸化ジルコニウムを担体に用いた場合、高分散にパラジウムを担持することが可能であり、また、単位パラジウムあたりの反応速度が非常に大きいため、パラジウムの担持量を0.1~1.0重量%にした場合でも十分な反応速度を保持することができる。なお、パラジウムの分散度を測る際には一酸化炭素のパルス吸着法など既知の方法を用いる。
【0192】
パラジウムの前駆体としては塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウムなどの公知の塩、又は錯体を用いることができる。担体上に含浸担持させる際には前駆体を溶液にするが、前駆体溶液の組み合わせ(前駆体/溶媒)の例としては塩化パラジウム/塩酸水、塩化パラジウム/塩化ナトリウム水、硝酸パラジウム/水、硝酸パラジウム/塩酸水、酢酸パラジウム/塩酸水、酢酸パラジウム/有機溶媒などがある。
【0193】
好ましい水素添加反応の条件としては、60~250℃の温度、3~30MPaの水素圧、3~20hrの反応時間である。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなり、反応温度が高すぎると重合体の分解や溶媒の水素化分解といった副反応が起きるため好ましくない。また、水素圧が低い場合には反応速度が遅く、逆に水素圧をさらに高くしようとすると高耐圧の反応器を要するため、経済的に好ましくない。
【0194】
該水素添加反応後のポリマー溶液から水素添加触媒及び揮発成分(溶媒等)を分離することにより核水素化ポリマーを得ることができる。
触媒の分離は、濾過又は遠心分離などの公知の手法で行なうことができる。着色、機械物性への影響などを考慮すると、ポリマー内の残留触媒金属濃度は出来るだけ少なくする必要があり、10ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1ppm以下である。
【0195】
触媒を分離後、得られた核水素化ポリマー溶液から溶媒等の揮発成分を分離してポリマーを精製する方法としては、上記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の調製方法に記載した脱揮方法により脱揮後、ペレタイズすることが蛍光強度を低減する観点で好ましい。
【0196】
-添加剤-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、種々の添加剤を含有していてもよい。
添加剤としては、特に制限はないが、例えば、酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、メタクリル系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、有機繊維、酸化鉄等の顔料等の無機充填剤、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、着色剤、亜リン酸エステル類、ホスホナイト類、リン酸エステル類等の有機リン化合物、その他添加剤、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0197】
-酸化防止剤-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、成形加工時あるいは使用中の劣化や着色を抑制する酸化防止剤を含有することが好ましい。
前記酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
これらの酸化防止剤は、1種又は2種以上を併用してしてもよい。
また、熱安定性の向上や成形不良の抑制の観点から、複数種の熱安定剤を併用することが好ましく、例えば、リン系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤から選ばれる少なくとも一種とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用することが好ましい。
【0198】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロ
ピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス[(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリン)メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミン)フェノール、アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル、アクリル酸2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル等が挙げられる。
特に、ペンタエリスリトールテラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルが好ましい。
【0199】
また、前記酸化防止剤としてのヒンダードフェノール系酸化防止剤は、市販のフェノール系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、イルガノックス1010(Irganox1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASF社製)、イルガノックス1076(Irganox 1076:オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、BASF社製)、イルガノックス1330(Irganox1330:3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-t-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、BASF社製)、イルガノックス3114(Irganox3114:1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、BASF社製)、イルガノックス3125(Irganox3125、BASF社製)、アデカスタブAO-60(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ADEKA社製)、アデカスタブAO-80(3、9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルキシオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ADEKA社製)、スミライザーBHT(Sumilizer BHT、住友化学製)、シアノックス1790(Cyanox1790、サイテック製)、スミライザーGA-80(Sumilizer GA-80、住友化学製)、スミライザーGS(Sumilizer GS:アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル、住友化学製)、スミライザーGM(Sumilizer GM:アクリル酸2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル、住友化学製)、ビタミンE(エーザイ製)等が挙げられる。
これらの市販のフェノール系酸化防止剤の中でも、当該樹脂での熱安定性付与効果の観点から、イルガノックス1010、アデカスタブAO-60、アデカスタブAO-80、イルガノックス1076、スミライザーGS等が好ましい。
これらは1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0200】
また、前記酸化防止剤としてのリン系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4-ビス(1,1-ジメチルエチル)-6-メチルフェニル)エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)(1,1-ビフェニル)-4,4’-ジイルビスホスフォナイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト、テトラキス(2,4-t-ブチルフェニル)(1,1-ビフェニル)-4,4’-ジイルビスホスフォナイト、ジ-t-ブチル-m-クレジル-ホスフォナイト、4-[3-[(2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン)-6-イルオキシ]プロピル]-2-メチル-6-tert-ブチルフェノール等が挙げられる。
【0201】
さらに、リン系酸化防止剤として市販のリン系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のリン系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、イルガフォス168(Irgafos168:トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、BASF製)、イルガフォス12(Irgafos12:トリス[2-[[2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン-6-イル]オキシ]エチル]アミン、BASF製)、イルガフォス38(Irgafos 38:ビス(2,4-ビス(1,1-ジメチルエチル)-6-メチルフェニル)エチルエステル亜リン酸、BASF製)、アデカスタブ329K(ADK STAB-229K、ADEKA製)、アデカスタブPEP-36(ADK STAB PEP-36、ADEKA製)、アデカスタブPEP-36A(ADK STAB PEP-36A、ADEKA製)、アデカスタブPEP-8(ADK STAB PEP-8、ADEKA製)、アデカスタブHP-10(ADK STAB HP-10、ADEKA製)、アデカスタブ2112(ADK STAB 2112、ADEKA社製)、アデカスタブ1178(ADKA STAB 1178、ADEKA製)、アデカスタブ1500(ADK STAB 1500、ADEKA製)Sandstab P-EPQ(クラリアント製)、ウェストン618(Weston 618、GE製)、ウェストン619G(Weston 619G、GE製)、ウルトラノックス626(Ultranox 626、GE製)、スミライザーGP(Sumilizer GP:4-[3-[(2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン)-6-イルオキシ]プロピル]-2-メチル-6-tert-ブチルフェノール、住友化学製)、HCA(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド、三光株式会社製)等が挙げられる。
これら市販のリン系酸化防止剤の中でも、当該樹脂での熱安定性付与効果、多種の酸化防止剤との併用効果の観点から、イルガフォス168、アデカスタブPEP-36、アデカスタブPEP-36A、アデカスタブHP-10、アデカスタブ1178が好ましく、アデカスタブPEP-36A、アデカスタブPEP-36が特に好ましい。
これらのリン系酸化防止剤は、1種のみを単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0202】
また、前記酸化防止剤としての硫黄系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2、4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール(イルガノックス1726、BASF社製)、2,4-ビス(オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール(イルガノックス1520L、BASF社製)、2,2-ビス{〔3-(ドデシルチオ)-1-オキソポロポキシ〕メチル}プロパン-1,3-ジイルビス〔3-ドデシルチオ〕プロピオネート〕(アデカスタブAO-412S、ADEKA社製)、2,2-ビス{〔3-(ドデシルチオ)-1-オキソポロポキシ〕メチル}プロパン-1,3-ジイルビス〔3-ドデシルチオ〕プロピオネート〕(ケミノックスPLS、ケミプロ化成株式会社製)、ジ(トリデシル)3,3’-チオジプロピオネート(AO-503、ADEKA社製)等が挙げられる。
これら市販の硫黄酸化防止剤の中でも、当該樹脂での熱安定性付与効果、多種の酸化防止剤との併用効果の観点、取り扱い性の観点から、アデカスタブAO-412S、ケミノックスPLSが好ましい。
これらの硫黄系酸化防止剤は、1種のみを単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0203】
酸化防止剤の含有量は、熱安定性を向上させる効果が得られる量であればよく、含有量が過剰である場合、加工時にブリードアウトする等の問題が発生するおそれがあることから、メタクリル系樹脂100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下、さらにより好ましくは0.8質量部以下であり、よりさらに好ましくは0.01~0.8質量部、特に好ましくは0.01~0.5質量部である。
【0204】
酸化防止剤の含有量は、熱安定性を向上させる効果が得られる量であればよく、含有量が過剰である場合、加工時にブリードアウトする等の問題が発生するおそれがあることから、メタクリル系樹脂100質量%に対して、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、さらにより好ましくは0.8質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.01~0.8質量%、特に好ましくは0.01~0.5質量%である。
【0205】
酸化防止剤を添加するタイミングについては、特に限定はなく、重合前のモノマー溶液に添加した後に重合を開始する方法、重合後のポリマー溶液に添加・混合した後に脱揮工程に供する方法、脱揮後の溶融状態のポリマーに添加・混合した後にペレタイズする方法、脱揮・ペレタイズ後のペレットを再度溶融押出する際に添加・混合する方法等が挙げられる。これらの中でも、脱揮工程での熱劣化や着色を防止する観点から、重合後のポリマー溶液に添加・混合した後脱揮工程の前に酸化防止剤を添加した後に脱揮工程に供することが好ましい。
【0206】
-ヒンダードアミン系光安定剤-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、ヒンダードアミン系光安定剤を含有することができる。
ヒンダードアミン系光安定剤は、特に限定されないが、環構造を3つ以上含む化合物であることが好ましい。ここで、環構造は、芳香族環、脂肪族環、芳香族複素環及び非芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、1つの化合物中に2以上の環構造を有する場合、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。
ヒンダードアミン系光安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、具体的には、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートとメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケートの混合物、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-N,N’-ジホルミルヘキサメチレンジアミン、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジオールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジエタノールの反応物、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジオールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジエタノールの反応物、ビス(1-ウンデカノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート等が挙げられる。
中でも環構造を3つ以上含んでいるビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジオールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジエタノールの反応物、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジオールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジエタノールの反応物が好ましい。
ヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、光安定性を向上させる効果が得られる量であればよく、含有量が過剰である場合、加工時にブリードアウトする等の問題が発生するおそれがあることから、メタクリル系樹脂100質量%に対して、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、さらにより好ましくは0.8質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.01~0.8質量%、特に好ましくは0.01~0.5質量%である。
【0207】
-紫外線吸収剤―
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有することができる。
紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、その極大吸収波長を280~380nmに有する紫外線吸収剤であることが好ましく、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系化合物としては、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,
3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]
、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾ
トリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(
2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチ
ル)フェノール、2-ベンゾトリアゾール-2-イル-4,6-ジ-tert-ブチルフ
ェノール、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-
6-t-ブチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ
-t-ブチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1
,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イ
ル)-4-メチル-6-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノ
ール、メチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4
-ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、
2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖及び側鎖ドデシル)-4-メ
チルフェノール、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2
-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベ
ンゾトリアゾール、3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメ
チルエチル)-4-ヒドロキシ-C7-9側鎖及び直鎖アルキルエステルが挙げられる。
これらの中でも、分子量が400以上のベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、例え
ば、市販品の場合、Kemisorb(登録商標)2792(ケミプロ化成製)、アデカ
スタブ(登録商標)LA31(株式会社ADEKA製)、チヌビン(登録商標)234(
BASF社製)等が挙げられる。
ベンゾトリアジン系化合物としては、2-モノ(ヒドロキシフェニル)-1,3,5-
トリアジン化合物、2,4-ビス(ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン化合
物、2,4,6-トリス(ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン化合物が挙げ
られ、具体的には、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル
)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-エトキ
シフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-
プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキ
シ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2
-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル
-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2
,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5
-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニ
ル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ベン
ジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒド
ロキシ-4-ブトキシエトキシ)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロ
キシ-4-ブトキシフェニル)-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3-5-ト
リアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5
-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)-1,3
,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-
1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル
)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェ
ニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシル
オキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4
-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒド
ロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス
(2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,
6-トリス(2-ヒドロキシ-4-エトキシエトキシフェニル)-1,3,5-トリアジ
ン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシエトキシフェニル)-1,3,
5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-プロポキシエトキシフェニ
ル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-メトキシカ
ルボニルプロピルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2
-ヒドロキシ-4-エトキシカルボニルエチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジ
ン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-(1-(2-エトキシヘキシルオキシ)
-1-オキソプロパン-2-イルオキシ)フェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4
,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-メトキシフェニル)-1,3,5-ト
リアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-エトキシフェニル)
-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-プ
ロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-
3-メチル-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(
2-ヒドロキシ-3-メチル-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,
4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3
,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-オクチルオ
キシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-
メチル-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス
(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジ
ン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-エトキシエトキシフェニル
)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-
ブトキシエトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒド
ロキシ-3-メチル-4-プロポキシエトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2
,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-メトキシカルボニルプロピルオキ
シフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メ
チル-4-エトキシカルボニルエチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,
4,6-トリス(2-ヒドロキシ-3-メチル-4-(1-(2-エトキシヘキシルオキ
シ)-1-オキソプロパン-2-イルオキシ)フェニル)-1,3,5-トリアジン等が
挙げられる。
ベンゾトリアジン系化合物としては、市販品を使用してもよく、例えばKemisor
b102(ケミプロ化成社製)、LA-F70(株式会社ADEKA製)、LA-46(
株式会社ADEKA製)、チヌビン405(BASF社製)、チヌビン460(BASF
社製)、チヌビン479(BASF社製)、チヌビン1577FF(BASF社製)等を
用いることができる。
その中でも、アクリル系樹脂との相溶性が高く紫外線吸収特性が優れている点から、2
,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-[2-ヒドロキシ-4-(3-アルキル
オキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-5-α-クミルフェニル]-s-トリアジン
骨格(「アルキルオキシ」は、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ等の長鎖アルキルオキシ基を意味する)を有する紫外線吸収剤がさらに好ましく用いることができる。
【0208】
紫外線吸収剤としては、特に、樹脂との相溶性、加熱時の揮散性の観点から、分子量400以上のベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物が好ましく、また、紫外線吸収剤自体の押出加工時加熱による分解抑制の観点から、ベンゾトリアジン系化合物が特に好ましい。
【0209】
また、前記紫外線吸収剤の融点(Tm)は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましく、160℃以上であることがさらにより好ましい。
前記紫外線吸収剤は、23℃から260℃まで20℃/分の速度で昇温した場合の重量減少率が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることがさらにより好ましく、5%以下であることがよりさらに好ましい。
これらの紫外線吸収剤は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。2種類の構造の異なる紫外線吸収剤を併用することにより、広い波長領域の紫外線を吸収することができる。
【0210】
前記紫外線吸収剤の含有量は、耐熱性、耐湿熱性、熱安定性、及び成形加工性を阻害せず、本発明の効果を発揮する量であれば特に制限はないが、メタクリル系樹脂100質量部に対して、0.1~5質量部であることが好ましく、好ましくは0.2~4質量部であり、より好ましくは0.25~3質量部であり、さらに好ましくは0.3~3質量部である。この範囲にあると、紫外線吸収性能、成形性等のバランスに優れる。
【0211】
-離型剤-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、離型剤を含有することができる。前記離型剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩、炭化水素系滑剤、アルコール系滑剤、ポリアルキレングリコール類や、カルボン酸エステル類、炭化水素類のパラフィン系ミネラルオイル等が挙げられる。
【0212】
前記離型剤として使用可能な脂肪酸エステルとしては、特に制限はなく、従来公知のものを使用することができる。
脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、ベヘニン酸等の炭素数12~32の脂肪酸と、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の1価脂肪族アルコールや、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビタン等の多価脂肪族アルコールとのエステル化合物;脂肪酸と多塩基性有機酸と1価脂肪族アルコール又は多価脂肪族アルコールとの複合エステル化合物等を用いることができる。
【0213】
このような脂肪酸エステル系滑剤としては、例えば、パルミチン酸セチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ステアリル、クエン酸ステアリル、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンジパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンジオレエート、グリセリントリオレエート、グリセリンモノリノレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノ12-ヒドロキシステアレート、グリセリンジ12-ヒドロキシステアレート、グリセリントリ12-ヒドロキシステアレート、グリセリンジアセトモノステアレート、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールアジピン酸ステアリン酸エステル、モンタン酸部分ケン化エステル、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ソルビタントリステアレート等を挙げることができる。
これらの脂肪酸エステル系滑剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
市販品としては、例えば、理研ビタミン社製リケマールシリーズ、ポエムシリーズ、リケスターシリーズ、リケマスターシリーズ、花王社製エキセルシリーズ、レオドールシリーズ、エキセパールシリーズ、ココナードシリーズが挙げられ、より具体的にはリケマールS-100、リケマールH-100、ポエムV-100、リケマールB-100、リケマールHC-100、リケマールS-200、ポエムB-200、リケスターEW-200、リケスターEW-400、エキセルS-95、レオドールMS-50等が挙げられる。
【0214】
脂肪酸アミドについても、特に制限はなく、従来公知のものを使用することができる。 脂肪酸アミドとしては、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド;N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルオレイン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド等の置換アミド;メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド等のメチロールアミド;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド(エチレンビスステアリルアミド)、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミド等の不飽和脂肪酸ビスアミド;m-キシリレンビスステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルイソフタル酸アミド等の芳香族系ビスアミド等を挙げることができる。
これらの脂肪酸アミドは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
市販品としては、例えば、ダイヤミッドシリーズ(日本化成社製)、アマイドシリーズ(日本化成社製)、ニッカアマイドシリーズ(日本化成社製)、メチロールアマイドシリーズ、ビスアマイドシリーズ、スリパックスシリーズ(日本化成社製)、カオーワックスシリーズ(花王社製)、脂肪酸アマイドシリーズ(花王社製)、エチレンビスステアリン酸アミド類(大日化学工業社製)等が挙げられる。
【0215】
脂肪酸金属塩とは、高級脂肪酸の金属塩を指し、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、2-エチルヘキソイン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、2塩基性ステアリン酸鉛、ナフテン酸鉛、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム等が挙げられ、その中でも、得られる透明樹脂組成物の加工性が優れ、極めて透明性に優れたものとなることから、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛が特に好ましい。
市販品としては、一例をあげると、堺化学工業社製SZシリーズ、SCシリーズ、SMシリーズ、SAシリーズ等が挙げられる。
上記脂肪酸金属塩を使用する場合の含有量は、透明性保持の観点から、樹脂組成物100質量%に対して0.2質量%以下であることが好ましい。
【0216】
上記離型剤は、1種単独で用いてもいいし、2種以上を併用して使用してもよい。
【0217】
使用に供される離型剤としては、分解開始温度が200℃以上であるものが好ましい。ここで、分解開始温度はTGAによる1%質量減量温度によって測定することができる。
【0218】
離型剤の含有量は、離型剤としての効果が得られる量であればよく、含有量が過剰である場合、加工時にブリードアウトの発生やスクリューの滑りによる押出不良等の問題が発生するおそれがあることから、メタクリル系樹脂100質量%に対して、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、さらにより好ましくは0.8質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.01~0.8質量%、特に好ましくは0.01~0.5質量%である。上記範囲の量で添加すると、離型剤添加による透明性の低下を抑制されるうえ、射出成形時の離型不良が抑制される傾向にあるため、好ましい。
【0219】
離型剤の含有量は、離型剤としての効果が得られる量であればよく、含有量が過剰である場合、加工時にブリードアウトの発生やスクリューの滑りによる押出不良等の問題が発生するおそれがあることから、メタクリル系樹脂100質量部に対して、5質量部以下でることが好ましく、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下、さらにより好ましくは0.8質量部以下であり、よりさらに好ましくは0.01~0.8質量部、特に好ましくは0.01~0.5質量部である。上記範囲の量で添加すると、離型剤添加による透明性の低下を抑制されるうえ、射出成形時の離型不良が抑制される傾向にある。
【0220】
-他の熱可塑性樹脂-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、本発明の目的を損なわず、複屈折の調整や可とう性向上の目的で、メタクリル系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含有することもできる。
【0221】
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリブチルアクリレート等のポリアクリレート類;ポリスチレン、スチレンーブチルアクリレート共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;さらには、例えば、特開昭59-202213号公報、特開昭63-27516号公報、特開昭51-129449号公報、特開昭52-56150号公報等に記載の、3~4層構造のアクリル系ゴム粒子;特公昭60-17406号公報、特開平8-245854公報に開示されているゴム質重合体;国際公開第2014-002491号に記載の、多段重合で得られるメタクリル系ゴム含有グラフ卜共重合体粒子;等が挙げられる。
この中でも、良好な光学特性と機械的特性とを得る観点からは、スチレン-アクリロニトリル共重合体や、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂と相溶し得る組成からなるグラフト部をその表面層に有するゴム含有グラフト共重合体粒子が好ましい。
【0222】
前述のアクリル系ゴム粒子、メタクリル系ゴム含有グラフ卜共重合体粒子、及びゴム質重合体の平均粒子径としては、本実施形態の組成物より得られる成形品の衝撃強度及び光学特性等を高める観点から、0.03~1μmであることが好ましく、より好ましくは0.05~0.5μmである。
【0223】
他の熱可塑性樹脂の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量部とした場合に、好ましくは0~50質量部、より好ましくは0~25質量である。
【0224】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物を製造する方法としては、本発明の要件を満たす組成物を得ることができれば、特に限定されるものではない。例えば、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練する方法が挙げられる。その中でも押出機による混練が、生産性の面で好ましい。混練温度は、メタクリル系樹脂を構成する重合体や、混合する他の樹脂の好ましい加工温度に従えばよく、目安としては140~300℃の範囲、好ましくは180~280℃の範囲である。また、押出機には、揮発分を減じる目的で、ベント口を設けることが好ましい。
【0225】
ここで、本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物では、残存する溶媒量(残存溶媒量)が1000質量ppm未満であることが好ましく、より好ましくは800質量ppm未満であり、さらに好ましくは700質量ppm未満である。
ここで、残存する溶媒とは、重合時に用いた重合溶媒(但し、アルコール類を除く)、及び重合により得られた樹脂を再度溶解し、溶液化する際に用いる溶媒を指し、具体的には、重合溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、2-メチルピロリドン等の極性溶媒;等が例示でき、再溶解に用いる溶媒としては、トルエン、メチルエチルケトン、塩化メチレン等が例示できる。
【0226】
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、残存するアルコール量(残存アルコール量)が500質量ppm未満であることが好ましく、より好ましくは400質量ppm未満であり、さらに好ましくは350質量ppm未満である。
ここで、残存するアルコールとは、環化縮合反応により副生したアルコールを指し、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール等脂肪族アルコール等が例示できる。
【0227】
上記残存溶媒量及び上記残存アルコール量は、ガスクロマトグラフィーにより測定する
ことができる。
【0228】
いずれの方法を選択した場合においても、酸素及び水を可能な限り低減させた上で、組成物を調製することが好ましい。
例えば、溶液重合での重合溶液中の溶存酸素濃度としては、重合工程において、300ppm未満が好ましく、また、押出機等を利用した調製法において、押出機内の酸素濃度としては、1容量%未満とすることが好ましく、0.8容量%未満とすることがさらに好ましい。メタクリル系樹脂の水分量としては、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下に調整する。
これらの範囲内であれば、本発明の要件を満たす組成物を調製することが比較的容易となり、有利である。
【0229】
-ガラス転移温度-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、ガラス転移温度(Tg)は、105℃以上160℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは110~155℃、更に好ましくは115~150℃、最も好ましくは120~150℃である。
なお、ガラス転移温度は、JIS-K7121に準拠して中点法により測定することができる。上記樹脂組成物のガラス転移温度が115°以上であることにより、ヘッドマウントディスプレイの電子機器類からの発熱や一部の屋外や車載環境下での高温環境下においても耐熱性が担保される他、反射型偏光素子貼合の際に熱をかけるプロセスであっても寸法が変化することなく、良好な密着性を得ることができる点で好ましい。また、変形を抑えることで、反射型偏光素子と樹脂レンズの貼合界面でのテンション等で発生する光弾性複屈折も抑制できるため好ましい。
一方、ガラス転移温度(Tg)が160℃以下である場合には、極端な高温での溶融加
工を避け、樹脂等の熱分解を抑制し、良好な製品を得ることができる。ガラス転移温度(
Tg)は、上述の効果が一層得られる点で好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。
また、ガラス転移温度が150℃を超える場合、後述の射出成形工程において、金型温度は樹脂カレンズの複屈折低減のため高く保つ必要があるが、樹脂レンズ取出しの際、ヒケ等の変形を抑制するため、冷却時間を長く取る必要がありサイクルタイムが長くなる他、室温との温度差によって急速な冷却で樹脂レンズ内に歪みが残りやすく、十分に樹脂レンズの複屈折を低減するという観点から好ましくない。
【0230】
-光弾性係数CR-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物の光弾性係数CRの絶対値|CR|は、10.0×10-12Pa-1以下であることが好ましく、より好ましくは5.0×10-12Pa-1以下であり、さらに好ましくは3.0×10-12Pa-1以下であり、更に好ましくは1.0×10-12Pa-1以下である。光弾性係数に関しては種々の文献に記載があり(例えば、化学総説,No.39,1998(学会出版センター発行)参照)、下記式(i-a)及び(i-b)により定義されるものである。光弾性係数CRの値がゼロに近いほど、外力による複屈折変化が小さいことがわかる。
|CR|=|Δn|/σR ・・・(i-a)
|Δn|=|nx-ny| ・・・(i-b)
(式中、CRは、光弾性係数、σRは、伸張応力、|Δn|は複屈折の絶対値、nxは、伸張方向の屈折率、nyは、面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率、をそれぞれ示す。) 上記樹脂組成物の光弾性係数CRの絶対値|CR|が3.0×10-12Pa-1以下であれば、レンズを鏡筒や治具に固定、接着する際に生じる応力や寸法温度変化に伴って生じる光弾性複屈折が十分小さく、鮮明な映像が得られる樹脂レンズが得られる。
【0231】
-分子量及び分子量分布-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、好ましくは80,000~170,000の範囲であり、より好ましくは90,000~170,000の範囲であり、さらに好ましくは100,000~150,000の範囲であり、さらにより好ましくは110,000~150,000の範囲である。重量平均分子量(Mw)が上記範囲にあると、機械的強度及び流動性のバランスにも優れる。
【0232】
なお、上記樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、Z平均分子量(Mz)は、下記の装置、及び条件で測定することができる。
・測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-83
20GPC)
・測定条件:
カラム:TSKguardcolumn SuperH-H 1本、TSKgel S
uperHM-M 2本、TSKgel SuperH2500 1本、を順に直列接続
して使用する。
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/min、内部標準として、2,6
-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、0.1g/Lで添加する。
検出器:RI(示差屈折)検出器
検出感度:3.0mV/分
サンプル:0.02gの樹脂レンズのテトラヒドロフラン20mL溶液
注入量:10μL
検量線用標準サンプル:単分散の重量ピーク分子量が既知で分子量が異なる、以下の1
0種のポリメチルメタクリレート(PolymerLaboratories製;PMM
A Calibration Kit M-M-10)を用いる。
重量ピーク分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準試料10 850
上記の条件で、樹脂レンズの溶出時間に対する、RI検出強度を測定する。
上記、検量線用標準サンプルの測定により得られた各検量線を基に、樹脂レンズの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及びZ平均分子量(Mz)を求め、その値を用い、分子量分布(Mw/Mn)及び(Mz/Mw)を決定する。
【0233】
-酸成分量-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、後述の実施例に記載のイオンクロマトグラフィーを使用した測定方法にて、樹脂レンズを使用する代わりに樹脂組成物をサンプルとして使用することで測定することができる。本測定により、樹脂の構造に起因する酸価ではなく、樹脂レンズから遊離し得る樹脂組成物中に溶存する酸成分の含有量を測定することができる。
酸成分含有量としては、200ppm以下であることが好ましく、130ppm以下であることがより好ましい、さらに好ましくは100ppm以下であり、特に好ましくは70ppm以下である。本発明者は、このような酸成分を含まない樹脂レンズを使用することで、良好な反射偏光素子貼合レンズが得られる。具体的には、結露と乾燥を繰り返すことや、高温高湿度環境下での信頼性試験後であっても、樹脂レンズ中に溶存する酸成分及びアルカリ成分が水等に溶出し、界面に影響することがないため、反射型偏光素子との接着界面を汚染し映像の品位を落とす、反射型偏光素子との接着界面の粘着性を低下させる、さらに貼合する反射型偏光素子としてワイヤグリッド偏光板を称する場合は、後述の偏光分離に関わる反射面を構成する金属ワイヤの劣化を抑制することができる。
【0234】
-飽和吸水率-
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、後述の実施例に記載の測定方法にて、飽和吸水率を測定することができる。
飽和吸水率としては、0.005%~3%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.007%~2.5%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、0.01%~2.0%の範囲である。この範囲の樹脂組成物を使用して樹脂レンズを構成することで、反射防止コートやミラーコートとの密着性を良好な状態で保つことができる他、高温高湿試験後も反射型偏光素子との剥がれがなく良好な外観を保持することが可能となる。
【0235】
-樹脂レンズと反射型偏光素子の飽和吸水率差分-
また、反射型偏光素子を構成する透明基材の飽和吸水率が高い場合は、樹脂レンズを構成する樹脂組成物の飽和吸水率が高い材料を使用するのが好ましく、樹脂レンズを構成する樹脂組成物の飽和吸水率として、吸水率(樹脂レンズ)、反射型偏光素子を構成する透明基材の飽和吸水率として、吸水率(反射型偏光素子)とした時、吸水率(樹脂レンズ)と吸水率(反射型偏光素子)の差分の絶対値が、好ましくは、0.1%~3.0%の範囲内、より好ましくは0.1~2.0%の範囲内、さらに好ましくは0.1%~1.5%の範囲内である。特に好ましくは0.1%~1.0%の範囲内である。この範囲の組合せで本発明の反射型偏光素子貼合レンズを構成することにより、恒温高湿試験で吸水による膨張率差による貼合面の剥離等の不良を抑制することができる。
【0236】
―酸素重量割合―
樹脂レンズを構成する樹脂組成物は、ポリマー分子中の各元素の重量に対する酸素原子の重量割合(以下、酸素重量割合(レンズ)と称する。)は10wt%以上であることが好ましく、35wt%以下であることが好ましい。酸素原子を一定以上の割合で含むことにより反射型偏光素子との接着性が向上する。より好ましくは12wt%以上30wt%以下、更に好ましくは12wt%以上25wt%以下である。
なお、酸素重量割合は、NMRで求められた樹脂組成物を構成するポリマーの組成と各構成単位のモル分子量に対する酸素原子の重量割合から計算する。ポリマーが100%メタクリル酸メチル(MMA)から構成される場合、構成単位のMMAのモル分子量100g/molとMMA中の酸素原子重量32g/molから32wt%と求めることができる。
【0237】
―樹脂レンズと反射型偏光素子の酸素重量割合差分―
特に反射型偏光素子と樹脂レンズの剥離が発生しやすいのは温度や湿度が一定になく頻繁に変化が生じる環境下で発生しやすい。このような環境下では、酸素重量割合(レンズ)は、貼り合わされる反射型偏光素子を構成する樹脂組成物のポリマー分子中の各元素の重量に対する酸素原子の重量割合(以下、酸素重量割合(フィルム)と称する。)の差分の絶対値が35wt%以下にあることが好ましい。酸素重量割合(レンズ)と酸素重量割合(フィルム)の差分の絶対値が35wt%以下に抑え設計することが好ましい。信頼性試験時の寸法変化の差が小さくなり、信頼性試験を経ても樹脂レンズと反射型偏光素子とが剥がれることなく、接着後の信頼性が向上する。より好ましくは20wt%以下、更に好ましくは10wt%以下、特に好ましくは5wt%以下である。
【0238】
-溶融粘度-
本実施形態で使用されるメタクリル系樹脂組成物は、レンズ形状の転写性を高めるため、射出時に相当する状態での粘度が低く、流動性が高いことが好ましい。従って、溶融粘度が、270℃、1000sec-1に於いて、20~235Pa・secであることが好ましく、20~230Pa・secであることがより好ましく、さらに好ましくは30~180Pa・sec、特に好ましくは、50~150Pa・secである。溶融粘度が20Pa・secよりも小さいと、射出時の樹脂の流動制御が困難で、保圧がうまくかからずレンズの面精度(設計値あるいは基準とする曲率半径からのズレ)が悪くなる、成形後レンズのヒケ等による面精度の悪化等が課題となる。一方で、溶融粘度が235Pa・secよりも大きいと、樹脂の流動性が低下することでレンズ形状の転写性が悪くなり、特に薄肉レンズでは成形が著しく困難となり、樹脂を無理に金型に押し込むと、樹脂レンズが金型へ張り付き、離型時の欠け、割れや、トラブル対応に伴う、樹脂の焼けによる着色や焼け異物等が問題となる。
なお、溶融粘度は、JIS-K7199に準拠して測定される値である。
【0239】
-引張り破壊ひずみ-
本実施形態で使用されるメタクリル系樹脂組成物は、射出成形の金型への張り付きに伴う離型時の欠け、ゲート部等の割れ等による工程遅延を避けるため、引張り破壊ひずみ(もしくは引張り破断伸びと称する)が大きいことが好ましい。引張り破壊ひずみは、1.5%以上であり、好ましくは2.0%以上であり、より好ましくは2.5%以上である。
なお、引張り破壊ひずみは、ISO527に準拠して測定される値であり、具体的には、後述する実施例において記載する方法により測定することができる。
【0240】
-曲げ強さ-
本実施形態で使用されるメタクリル系樹脂組成物は、樹脂レンズと反射型偏光素子がそれぞれ熱や吸水に伴い膨張もしくは収縮が生じるが、この時の寸法変化の差分によって曲げ応力が働く。これにより、反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズにクラックや割れが発生する場合がある。このような不良を防ぐため、曲げ強さが大きいことが好ましい。曲げ強さは65MPa以上であることが好ましい。より好ましくは75MPa以上であり、更に好ましくは85MPa以上である。この範囲にあることで、反射型偏光素子貼合レンズが信頼性試験に置かれた際にも樹脂レンズに割れ等が発生しにくい。
なお、曲げ強さは、ISO178に準拠して測定される値であり、具体的には、後述する実施例において記載する方法により測定することができる。
【0241】
-曲げ弾性率-
本実施形態で使用されるメタクリル系樹脂組成物は、樹脂レンズと反射型偏光素子がそれぞれ熱や吸水に伴い膨張もしくは収縮が生じるが、この時の寸法変化の差分によって曲げ応力が働く。これにより、反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズが光学設計通りの形状を保てず、変形してしまう場合がある。このような不良を防ぐため、曲げ弾性率は大きいことが好ましい。曲げ弾性率は2500MPa以上であることが好ましい。より好ましくは3000MPa以上であり、更に好ましくは3300MPa以上である。この範囲にあることで、反射型偏光素子貼合レンズが信頼性試験に置かれた際にも曲げ応力による樹脂レンズの面形状が崩れにくくなる。
なお、曲げ弾性率は、ISO178に準拠して測定される値であり、具体的には、後述する実施例において記載する方法により測定することができる。
【0242】
[反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズの製造方法]
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズは、上記樹脂組成物を成形してなる。本実施形態のヘッドマウントディスプレイ用樹脂レンズの製造方法としては、射出成形、圧縮成形、押出成形等の成形方法を用いることができる。このうち、生産性の観点からは射出成形が好ましい。
【0243】
通常、射出成形法は、(1)樹脂を溶融させ、温度制御された金型のキャビティに溶融樹脂を充填する射出工程、(2)ゲートシールするまでキャビティ内に圧力をかけ、射出工程で充填された溶融樹脂が金型に接し冷却されて収縮した量に相当する樹脂を注入する保圧工程、(3)保圧を開放後、樹脂が冷却されるまで成形品を保持する冷却工程、(4)金型を開いて冷却された成形品を取り出す工程からなる。
【0244】
本実施形態に於いては、射出成形機シリンダのノズル先端から中央にかけての温度設定として、使用するメタクリル系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を基準として、Tg+120~Tg+180℃、好ましくは、Tg+100℃~Tg+160℃の範囲、より好ましくは、Tg+110℃~Tg+150℃の範囲であることが好ましい。
ここで、成形温度とは、射出ノズルに巻かれているバンドヒーターの制御温度を指す。上記温度範囲に設定することで、溶融樹脂が十分に流動し、樹脂の熱分解による劣化を抑制した状態での成形が可能となる。成形温度が高いほど樹脂の流動性が高くなり、配向複屈折が生じにくくなるが、高温下では、樹脂の熱分解により、色調、透過率、Hazeに悪影響を与える他、射出成形時にガスを発生するため、発生したガスが金型内に充満し、樹脂充填時に凹凸部に押し込まれたガスが排出されず、樹脂の充填を阻害することにより金型転写率が悪くなる。樹脂レンズの状態を見ながら、適宜成形温度を選択すべきである。
【0245】
金型温度としては、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を基準として、Tg-70℃~Tgの範囲であることが好ましく、Tg-50℃~Tg-20℃の範囲であることがより好ましい。
金型温度をTg近辺の温度まで上げることで、樹脂レンズの複屈折を低減することができるが、一方で、金型に張り付きやすくなるため、レンズ面精度の悪化や、張り付きに伴う樹脂の欠けやゲート部の割れによる工程遅延が生じる懸念があるため、適宜選択すべきである。
【0246】
また、射出速度としては、得ようとする樹脂レンズの厚さや寸法により、適宜選択することができるが、例えば、2~1000mm/秒の範囲から適宜選択することができる。
また、保圧のための圧力としては、得ようとする樹脂レンズの形状により、適宜選択することができるが、例えば30~120MPaの範囲で適宜選択できる。
ここで保圧のための圧力とは、溶融樹脂を充填した後に、ゲートから更に溶融樹脂を送り出すためのスクリューによって保持される圧力である。
【0247】
また、射出成形によって生じる残留応力を緩和し、樹脂レンズの位相差を低減するために、アニール工程を経てもよい。アニールの際の温度は、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を基準として、Tg-50℃~Tgの範囲であることが好ましく、Tg-30℃~Tg-10℃の範囲であることがより好ましい。
【0248】
本実施形態の反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズの表面には、例えば、ハードコート処理、反射防止処理、ミラー処理、位相差層付与、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理をさらに行うこともできる。これら機能層の厚さは、特に制限はないが、通常、0.01~10μmの範囲である。
【0249】
樹脂レンズ表面に付与するハードコート層としては、例えば、シリコーン系硬化性樹脂、有機ポリマー複合無機微粒子含有硬化性樹脂、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、多官能アクリレート等のアクリレートと光重合開始剤もしくは熱重合開始剤とを有機溶剤に溶解あるいは分散させた塗布液を従来公知の塗布方法で、本実施形態の樹脂組成物より得られる樹脂レンズ上に、塗布し、乾燥させ、光もしくは熱により硬化させることにより形成される。
ハードコート層を塗布するまえに、接着性を改良するために、例えば、無機微粒子をその組成に含む易接着層やプライマー層、アンカー層等を予め設けたのちにハードコート層を形成させる方法も用いることができる。
【0250】
樹脂レンズ表面に付与する防眩層としては、シリカ、メラミン樹脂、アクリル樹脂等の微粒子をインキ化し、従来公知の塗布方法で、他の機能層上に塗布し、熱あるいは光硬化させることにより形成させる。
【0251】
樹脂レンズ表面に付与する反射防止層としては、金属酸化物、フッ化物、ケイ化物、ホウ化物、窒化物、硫化物等の無機物の薄膜からなるもの、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の屈折率の異なる樹脂を単層あるいは多層に積層させたもの等が例示でき、また、無機系化合物と有機系化合物との複合微粒子を含む薄層を積層させたものも利用できる。
【0252】
樹脂レンズ表面にミラーもしくはハーフミラー(反射率と透過率の比率が50対50以外、例えば透過率15%、反射率が85%の半透過反射面でも良い)を付与しても良い。任意の好適なものを使用すれば良いが、例えば、樹脂レンズ上に金属(例えば、銀又はアルミニウム)の薄層をコーティングすることによって構築可能である。金属の薄層をコートする場合は金属による光の吸収が生じるため、その他の方法として、樹脂レンズ表面上に薄膜誘電体コーティングを堆積させることでミラーを形成することも可能である。また、金属をコートする方法と誘電体をコートする方法を組み合わせても良い。
コートする層の厚さや層数によって、光の反射率と透過率を制御可能であり、誘電体を堆積する手法では、任意の波長の光のみを反射する設計とすることも可能である。
【0253】
―樹脂レンズへの位相差層の付与-
樹脂レンズ表面に位相差層を付与しても良い。例えば、液晶ポリマーをコーティングすることによって任意の波長に対する位相差層を付与することができる。位相差層を形成するための好適なコーティングとしては、米国特許出願公開第2002/0180916号、米国特許出願公開第2003/028048号、特許出願公開第2005/0072959号で説明される、線状光重合性ポリマー(LPP)材料、及び液晶ポリマー(LCP)材料が挙げられる。
【0254】
[反射型偏光素子貼合レンズの樹脂レンズの製造方法]
本実施形態に係る反射型偏光素子貼合レンズを製造する方法としては、本発明の要件を満たす組成物を得ることができれば、特に限定されるものではない。例えば、反射型偏光素子と樹脂レンズを貼合する方法としては、真空貼合装置による貼合、フィルムインサート成形プロセスを使用して、そのフィルム上にレンズを射出成形することで得る方法が挙げられる。その中でも真空貼合装置による貼合方法が、反射型偏光素子にしわ等がよらず、外観が良好な状態で貼合することができ、面精度に優れるレンズを使用できる点から好ましい。フィルムインサート成形プロセスの場合は、貼合に有利な成形条件と面精度や複屈折を低減に有利な方法とをバランスさせて設定する必要があり、成形条件の幅が狭くなるため、レンズの面精度や複屈折特性を良好な状態とすることが難しい。
【0255】
反射型偏光素子は、樹脂レンズと貼合しやすいように、貼合工程の前に、反射型偏光素子を熱による成形で所定の形状に加工した後に貼合工程に利用しても良い。
具体的には、反射型偏光素子を、加熱することにより、軟化状態とした後、所望の形状の金型に重ねることにより、所望の形状の反射型偏光素子を得ることができる。この時、形状の精度を出すため、雄雌型で挟みこんで成形しても良い。
未加工の反射型偏光素子もしくは前記所望の形状に加工処理を行った後の反射型偏光素子は、次いで、真空貼合装置による貼合もしくはフィルムインサート成形プロセスによって、樹脂レンズと貼合することができる。
【0256】
真空貼合装置の加工温度については、樹脂レンズに貼合する反射型偏光素子の基材フィルムのTgに応じて設定するのが良い。例えば、Tg-40℃~Tg+110℃の範囲に設定することができる。より好ましくはTg-20℃~Tg+90℃、さらに好ましくはTg-10℃~Tg+70℃に設定するのが良い。この範囲に設定することで、反射型偏光素子と樹脂レンズの密着性を良好に保つことができ、更に反射型偏光素子にしわが発生したり、樹脂レンズとの貼合面に気泡が入ったりする等の不良が生じにくくなる。
【0257】
真空貼合装置による反射型偏光素子の貼合の際には、反射型偏光素子の樹脂レンズとの貼合面は、粘着処理されていることが好ましい。
粘着剤としては、樹脂レンズの熱や吸水による収縮/膨張といった変形への追従性が高いことが望ましく、比較的柔らかい粘着剤であることが好ましい。
【0258】
反射型偏光素子を構成する基材としては、樹脂レンズの吸水による変形に追従できるよう貼合する樹脂レンズを構成する樹脂組成物の吸水率と反射型偏光素子の吸水率吸水への真空貼合装置による反射型偏光素子の貼合の際には、反射型偏光素子の飽和吸水率と樹脂レンズの飽和吸水率の差分の絶対値を小さくすることが好ましい。
具体的な差分の範囲は、「-樹脂レンズと反射型偏光素子の飽和吸水率差分-」の項で記載した通りである。
【0259】
反射型偏光素子を樹脂レンズと貼合する前に、所定の位相差(例えば特定の波長に四分の一の位相差)を持つように、位相差フィルムを貼合する、もしくはコーティングすることによって、位相差を持つように加工しても良い。なお、コーティングで位相差を付与することについては、「―樹脂レンズへの位相差層の付与-」に記載の内容を利用することができる。
ただし、反射型偏光素子と樹脂レンズの良好な密着性を担保する他、反射面の鏡面性(平坦性)や面精度を保持する観点においては、反射型偏光素子と樹脂レンズを直接貼合することが好ましい。
【実施例0260】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0261】
(樹脂組成物の特性評価)
以下、樹脂組成物の特性の測定方法について記載する。
【0262】
<引張り破壊ひずみの測定>
後述の製造例で製造した樹脂組成物のペレットを80~100℃で24時間乾燥し、射出成形機(東芝機械株式会社製、EX-100SX)を用いて、JIS-K6717に従い、射出成形することにより、厚さ4.0mmのISO3167のA型ダンベル試験片を作製した。この試験片について、ISO527に従って低荷重用万能材料試験機(インストロン社製)により、測定温度23℃、クロスヘッド速度5mm/分で引張試験を行った。5回測定を行い、引張り破壊時のチャック間伸びを測定し、その平均値を引張り破壊ひずみ(%)として算出した。
【0263】
<引張り破壊ひずみの測定>
後述の製造例で製造した樹脂組成物のペレットを80~100℃で24時間乾燥し、射出成形機(東芝機械株式会社製、EX-100SX)を用いて、JIS-K6717に従い、射出成形することにより、厚さ4.0mmのISO3167のA型ダンベル試験片を作製した。この試験片について、ISO527に従って低荷重用万能材料試験機(インストロン社製)により、測定温度23℃、クロスヘッド速度5mm/分で引張試験を行った。5回測定を行い、引張り破壊時のチャック間伸びを測定し、その平均値を引張り破壊ひずみ(%)として算出した。
【0264】
<曲げ強さ及び曲げ弾性率の測定>
後述の製造例で製造した樹脂組成物のペレットを80~100℃で24時間乾燥し、射出成形機(東芝機械株式会社製、EX-100SX)を用いて、JIS-K6717に従い、射出成形することにより、厚さ4.0mmのISO3167のA型ダンベル試験片を作製した。この試験片の中央部を切り出し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4.0mmの成形片を用意した。ISO178に従って低荷重用万能材料試験機(インストロン社製)により、測定温度23℃、試験速度2mm/分、スパン間64mmで引張試験を行った。6回測定を行い、その平均値として曲げ強さ(MPa)と曲げ弾性率(MPa)をそれぞれ算出した。
【0265】
(反射型偏光素子貼合樹脂レンズの特性評価)
以下、樹脂組成物から構成された樹脂レンズ及び反射型偏光素子からなる反射型偏光素子貼合樹脂レンズ特性の測定方法について記載する。
【0266】
<構造単位の解析>
後述の製造実施例及び製造比較例で製造した反射型偏光素子貼合レンズの内、樹脂レンズの部分を細断したものの各構造単位は、特に断りのない限りH-NMR測定及び13C-NMR測定により、樹脂及び樹脂組成物について各構造単位を同定し、その存在量を算出した。H-NMR測定及び13C-NMR測定の測定条件は、以下のとおりである。
・測定機器:日本電子株式会社製 JNM-ECZ400S
・測定溶媒:CDCl、又は、d6-DMSO、
比較例3の環状オレフィンコポリマーのみo-C12
・測定温度:40℃
なお、メタクリル系樹脂の主鎖中に含まれる環構造がラクトン環構造である場合には、特開2001-151814号公報、特開2007-297620号公報に記載の方法にて確認した。CHとCHの積分値を比率から所定量のオレフィンとシクロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとが共重合されていることを確認した。
【0267】
<分子量及び分子量分布>
後述の製造実施例及び製造比較例で製造した反射型偏光素子貼合レンズの内、樹脂レンズの部分を切出したものの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、Z平均分子量(Mz)は、下記の装置、及び条件で測定した。
・測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320GPC)
・測定条件:
カラム:TSKguardcolumn SuperH-H 1本、TSKgel SuperHM-M 2本、TSKgel SuperH2500 1本、を順に直列接続して使用した。
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/min、内部標準として、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、0.1g/Lで添加した。
検出器:RI(示差屈折)検出器
検出感度:3.0mV/分
サンプル:0.02gのメタクリル系樹脂組成物のテトラヒドロフラン20mL溶液
注入量:10μL
検量線用標準サンプル:単分散の重量ピーク分子量が既知で分子量が異なる、以下の10種のポリメチルメタクリレート(PolymerLaboratories製;PMMA Calibration Kit M-M-10)を用いた。
重量ピーク分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準試料10 850
上記の条件で、メタクリル系樹脂組成物の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
上記検量線用標準サンプルの測定により得られた各検量線を基に、メタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、並びにZ平均分子量(Mz)を求め、その値を用い、分子量分布(Mw/Mn)及び(Mz/Mw)を決定した。
【0268】
<ガラス転移温度の測定>
JIS-K7121に準拠して、ガラス転移温度(Tg)(℃)を測定した。
まず、標準状態(23℃、50%RH)で状態調節(23℃で1週間放置)した後述の製造実施例及び製造比較例で製造した反射型偏光素子貼合レンズの内、樹脂レンズの部分から切り出したものから、試験片として4点(4箇所)、それぞれ約10mgを切り出した。
次に、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製 Diamond DSC)を窒素ガス流量25mL/分の条件下で用いて、ここで、10℃/分で室温(23℃)から200℃まで昇温(1次昇温)し、200℃で5分間保持して、試料を完全に融解させた後、10℃/分で200℃から40℃まで降温し、40℃で5分間保持し、さらに、上記昇温条件で再び昇温(2次昇温)する間に描かれるDSC曲線のうち、2次昇温時の階段状変化部分曲線と各ベースライン延長線から縦軸方向に等距離にある直線との交点(メタクリル系樹脂組成物のガラス転移温度をJIS-K7121に準拠して測定した。
示差走査熱量計(株式会社パーキンルマージャパン製、DSC8000)を窒素ガス流量25mL/分の条件下で用いて、ここで、10℃/分で室温(23℃)から200℃まで昇温(1次昇温)し、200℃で5分保持して試料を完全に融解させた後、10℃/分で200℃から40℃まで降温し、40℃で5分間保持し、さらに上記昇温条件で再び昇温(2次昇温)する間に描かれるDSC曲線のうち、2次昇温時の階段状変化部分曲線と各ベースライン延長線から縦軸方向に等距離にある直線との交点(中間点ガラス転移温度)をガラス転移温度(Tg)(℃)として測定した。1試料当たり4点の測定を行い、4点の算術平均(小数点以下四捨五入)を測定値とした。
【0269】
<光弾性係数の絶対値の測定>
後述の製造実施例及び製造比較例で製造した反射型偏光素子貼合レンズの内、樹脂レンズの部分を細断したものを、真空圧縮成形機を用いてプレスフィルムとすることで、測定用試料とした。
具体的な試料調製条件としては、真空圧縮成形機(神藤金属工業所製、SFV-30型)を用い、260℃、減圧下(約10kPa)、10分間予熱した後、樹脂レンズから切り出したものを、260℃、約10MPaで5分間圧縮し、減圧及びプレス圧を解除した後、冷却用圧縮成形機に移して冷却固化させた。得られたプレスフィルムを、23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室内で24時間以上養生を行った上で、測定用試験片(厚み約150μm、幅6mm)を切り出した。
Polymer Engineering and Science 1999, 39,2349-2357に詳細な記載のある複屈折測定装置を用いて、光弾性係数CR(Pa-1)を測定した。
フィルム状の試験片を、同様に恒温恒湿室に設置したフィルムの引張り装置(井元製作所製)にチャック間50mmになるように配置した。次いで、複屈折測定装置(大塚電子製、RETS-100)のレーザー光経路がフィルムの中心部に位置するように装置を配置し、歪速度50%/分(チャック間:50mm、チャック移動速度:5mm/分)で伸張応力をかけながら、試験片の複屈折を測定した。
測定により得られた複屈折(Δn)と伸張応力(σR)との関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きを求め、光弾性係数(CR)(Pa-1)を計算した。計算には、伸張応力が2.5MPa≦σR≦10MPaの間のデータを用いた。
CR=Δn/σR
ここで、複屈折(Δn)は、以下に示す値である。
Δn=nx-ny
(nx:伸張方向の屈折率、ny:面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率)
【0270】
<酸成分含有量の解析>
後述の製造実施例及び製造比較例で製造した反射型偏光素子貼合レンズの内、樹脂レンズの部分を細断したもの0.25gを5gのクロロホルムで溶解した。得られたポリマー溶液を、5mlの純水の入ったスクリュー菅瓶内に加え、ボルテックスで混合し樹脂を再沈殿させた。次いで、振とう器で5分間振とうさせた後、静置し有機相と水相に分離した。液液抽出によって得られた水層から酸成分量の解析を行った。
イオンクロマトグラフ(東ソー社製、IC-2001)にTSKgel SuperIC-APを使用して、溶離した酸成分の定量を行った。酢酸、ギ酸、メタクリル酸、Cl(塩化物)、SO(硫酸)、マレイン酸、フマル酸等の同定及び標品の入手が容易なものについては、標品を用いて定量を行った。Clより手前とCl以降の保持時間にて複数の同定不明成分が確認されたが、これら同定及び標品の入手が困難なものについてはClより手前の保持時間のものは面積値をギ酸換算での定量値として計算を行い、Cl以降の保持時間のものはマレイン酸換算での定量値として計算を行った。なお、上記定量の計算の際は、事前に、樹脂試料を使用せず、クロロホルム5g、水5gmlで液液抽出操作を行った際の水相中から検出された酸成分の面積値は差し引いて計算を実施した。対サンプル濃度(μg/g:ppmとする)は以下の式2を使用して計算を行った。
式2:対サンプル濃度[ppm]=(測定液濃度[mg/l]-操作ブランク 濃度[mg/l])×純水の使用量[ml]÷溶解した成形体重量[g]
なお、比較例3の環状オレフィンコポリマーを樹脂組成物として含む樹脂レンズの場合は、クロロホルムの代わりにシクロへキサンを使用したこと以外は同様にして酸成分量測定を行った。その他、後述の製造実施例及び製造比較例で使用した原料もキシレンやトルエン等の水との混和性が低く、かつ原料を溶解性のある溶剤で溶解した後、純水を使用した液液抽出によって得られた水層から同様に酸成分量を解析することができる。
【0271】
<飽和吸水率の測定>
反射型偏光素子貼合レンズの内、樹脂レンズの部分から、1辺の長さが15mm、厚みが2mmの板を切削し取りだした。樹脂レンズが小さい場合は、樹脂カバーから切削したものを使用しプレス成形にて同サイズの板を作製し使用した。
得られた板状成形片をJIS-7209に準拠して乾燥後、23℃の純水(蒸留水)に浸漬し、24hごと成形片を取り出し重量を測定し、重量が安定するまで繰り返し測定を行い、飽和吸水率を求めた。
【0272】
<溶融粘度>
JIS-K7199に準拠した条件下、ツインキャピラリーレオメーター(ROSAND社製)を用いて、温度270℃、せん断速度1000sec-1、キャピラリーダイ径1mmにて、樹脂組成物の溶融粘度(Pa・sec)を測定した。なお、後述の製造実施例及び製造比較例で製造した樹脂レンズの成形体部分を細かく切削したものを試料として使用し、シリンダに充填し測定を実施した。
【0273】
<樹脂レンズの有効径内の位相差>
実施例及び比較例により得られた樹脂レンズを、フォトニックラティス社製複屈折評価
システムPA-300-Lを用い、波長520nmで光軸方向からレンズの位相差の面分
布を測定し、レンズの有効径(Φ41mm)内を領域指定して、位相差の絶対値の平均値
(nm)を求めた。
【0274】
<樹脂レンズの光透過率(全光線透過率)>
実施例及び比較例により得られた樹脂レンズを、分光色彩・ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、COH7700)を用いて、光源がレンズの光軸を通るようにして、D65光源2°視野で波長400~700nmの範囲で10nmごとに透過率(%)を測定し、全光線透過率(%)の測定値を得た。同条件で成形した樹脂レンズ3枚の平均値を全光線透過率(%)とした。
【0275】
<反射型偏光素子貼合レンズの平行偏光透過率Tp>
実施例及び比較例により得られた反射型偏光素子貼合樹脂レンズの偏光透過率、分光色彩・ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、COH7700)を用いて、図3に示す位置関係で直線偏光板311(特定の振動を持つ直線偏光を透過し、前記直線偏光の振動軸と直行する軸に振動する直線偏光を吸収する偏光板)を光源の光が入射する位置に設置した。該直線偏光板311設置した状態で測定を実施。全光線透過率が30%以上あることを確認した後、その状態でベースラインを取得。次いで、積分球とサンプルホルダの間の位置に、反射型偏光素子貼合レンズ32を配置し、反射型偏光素子322が貼合されていない側の樹脂レンズ321面を、直線偏光板311を透過した直線偏光が入射する方向に向けて設置した。この時、反射型偏光素子322の透過軸を、直線偏光板311と同じ透過軸となるように設置した。このような構成とすることで、直線偏光板311、樹脂レンズ321、反射型偏光素子322をいずれも透過した光のみが積分球で集められ透過率として計測することができる。
光源の光がレンズの最厚部を透過するよう前記配置で反射型偏光素子貼合レンズを配置して、D65光源2°視野で波長400~700nmの範囲で10nmごとに透過率(%)を測定し、得られた分光透過率の内、波長530nmの透過率を平行偏光透過率(Tp)として計測した。同一条件で作製された反射型偏光素子貼合レンズ3個の平均値をTpとした。
【0276】
<反射型偏光素子の偏光透過率Tc及び偏光分離特性Tp/Tc>
前記平行偏光透過率(Tp)に対して、反射型偏光素子322の透過軸を直線偏光板311と90度直行する位置関係で設置した以外は、同様にして分光透過率の測定を行った。
得られた分光透過率の内、波長530nmの透過率を直行偏光透過率(Tc)として計測した。同一条件で作製された反射型偏光素子貼合レンズ3個の平均値をTcとした。
前記測定で得られたTpとTcの比率Tp/Tcを計算した。
【0277】
<反射型偏光素子貼合レンズの外観評価>
反射型偏光素子貼合レンズの外観を以下の基準で評価した。
◎:しわ、気泡、剥離等なく良好な外観
〇:有効径外にしわ、気泡、剥離等が見られた。
シ:しわあり
ハ:剥離、剥離部の白化が見られる
キ:気泡が見られる
×:しわ、気泡、剥離等が見られる
【0278】
<パンケーキレンズでの観察像評価>
実施例および比較例で得られた反射型偏光素子貼合レンズを用いて、パンケーキレンズ構成でのコントラストを評価した。
図8に示すように、パンケーキレンズ構成のヘッドマウントディスプレイの原理を想定した模擬装置を暗室内に作製した。
当該模擬装置では、スマートフォン50(サムスン電子社製、GalaxyS8+、SC-03J)を配置し画像を出力する。画像は図5に示すように白い□と黒い■が格子状に並んだ画像を表示した。次いで、該画像光は円偏光素子53(吸収型の直線偏光素子と1/4波長板が貼合されたもの、ケンコー・トキナー社製49S ZX C-PL)を直線偏光素子側がターゲットに向くように設置したものを透過し、円偏光(例えば進行方向からみて左回りの円偏光)に変換される。次いで、ハーフミラー素子54(入射面は反射防止コート有、出射面は誘電体多層膜ハーフミラーであり、透過率:反射率=50%:50%)を透過する。その後、1/4波長板55(駿河精機製、複屈折を持つポリマーを2枚のガラス基板に挟んだ構造、532nmで1/4波長の位相差を与えるよう設計されている)を透過し、直線偏光(第1の直線偏光)に変換される。この時、前述の円偏光素子53と1/4波長板55の組合せで直線偏光になっているかは別途、直線偏光素子を使用して光が遮蔽することが可能か確認することができる。また、1/4波長板55より外側には遮光層58を設けており、反射による迷光等の余計な光を遮蔽している。次いで、反射型偏光素子貼合レンズ56の樹脂レンズ側561から映像光が入射するように配置する。この時、入射する直線偏光の軸が反射型偏光素子562の反射軸と一致するよう設定しておくことで、樹脂レンズ透過後、反射型偏光素子562にて反射し、光路が折り返される。再度、樹脂レンズ561、1/4波長板55を透過、円偏光(例えば進行方向からみて左回り円偏光)に変換されたのち、ハーフミラー素子54で反射され、円偏光(例えば進行方向からみて右回り円偏光)に変換、1/4波長板55を透過すると、第1の直線偏光とは90度軸が回転した直線偏光に変換され、樹脂レンズ561を透過、次いで、反射型偏光素子562では、透過軸に一致する偏光となっているため透過する。これをデジタル一眼カメラ57(オリンパス社製、E-PL5、標準ズームレンズ M.Zuiko Digital 14-42mm F3.5-5.6IIR使用)で撮影した。画像の焦点が合っていない場合は1~3mmの範囲でスマートフォン50の位置を調整した。撮影条件は、ISO-6400、焦点距離31mm、露出時間1/200秒、絞り値f/5とした。
撮像された画像について、反射型偏光素子が樹脂レンズとの貼合工程を経ても機能を保持し、反射面の鏡面性(平坦性)や面精度が高く、樹脂レンズの複屈折が高度に制御されている場合、ターゲット像が拡大された像として確認され、ゴーストやフレアがなく鮮明な像が確認される。一方で、成形時及び反射型偏光素子貼合により生じる残留応力によって発生した複屈折が大きな反射型偏光素子貼合レンズを使用した場合、図6に示すように拡大された像と拡大されていないゴーストが同時に表示されることで二重像や光の漏れ込み夜フレアが発生する。比較例1や比較例3に示す反射型偏光素子貼合レンズを使用したものは、同現象が確認され、不鮮明な像が観察された。
撮像された画像について、ゴーストによる二重像やフレアの有無に関する評価を以下の基準で実施した。
・二重像やフレアの影響がない:◎
・二重像やフレアの影響が軽微:〇
・二重像による影見えが見られ、フレアによって白っぽい像となっている:×
・二重像が顕著に見られ、フレアによって白っぽい像となっている:××
【0279】
<パンケーキレンズでの解像性能(USAFターゲットのコントラスト)>
実施例および比較例で得られた反射型偏光素子貼合レンズを用いて、パンケーキレンズ構成での解像性能を評価した。
図9に示すように、パンケーキレンズ構成のヘッドマウントディスプレイの原理を想定した模擬装置を暗室内に作製した。
当該模擬装置では、530nmの光を発するコリメートレンズ付きLED光源51(Thorlabs社製、M530L4)とフロスト拡散板52(シグマ光機社製、#240)を配置し、USAF Target600(Edmund社製、USAF1951ターゲットネガ、以下、ターゲットと称する場合もある。ターゲット領域は約12mm□)を背面より照射した。ターゲットの透過領域601(図6(B)参照)を抜けた光で形成されたターゲット像の光が、円偏光素子53(吸収型の直線偏光素子と1/4波長板が貼合されたもの、ケンコー・トキナー社製49S ZX C-PL)を直線偏光素子側がターゲットに向くように設置したものを透過し、円偏光(例えば進行方向に右回りの円偏光)に変換される。次いで、ハーフミラー素子54(入射面は反射防止コート有、出射面は誘電体多層膜ハーフミラーであり、透過率:反射率=50%:50%)を透過する。その後、1/4波長板55(駿河精機製、複屈折を持つポリマーを2枚のガラス基板に挟んだ構造、532nmで1/4波長の位相差を与えるよう設計されている)を透過し、直線偏光(初期の直線偏光)に変換される。この時、前述の円偏光素子53と1/4波長板55の組合せで直線偏光になっているかは直線偏光素子を使用して光が遮蔽することが可能か確認することができる。また、1/4波長板55より外側には遮光層58を設けており、反射による迷光等の余計な光を遮蔽している。次いで、反射型偏光素子貼合レンズ56の樹脂レンズ側561から光を入射する。この時、入射する直線偏光の軸が反射型偏光素子562の反射軸と一致するよう設定しておくことで、樹脂レンズ透過後、反射型偏光素子562にて反射し、光路が折り返される。再度、樹脂レンズ561、1/4波長板55を透過、円偏光(例えば進行方向からみて左回り円偏光)に変換されたのち、ハーフミラー素子54で反射され、円偏光(例えば進行方向からみて右回り円偏光)に変換、1/4波長板55を透過すると、初期の直線偏光とは90度軸が回転した直線偏光に変換され、樹脂レンズ561を透過、次いで、反射型偏光素子562では、透過軸に一致する偏光となっているため透過する。これをデジタル一眼カメラ57(オリンパス社製、E-PL5、標準ズームレンズ M.Zuiko Digital 14-42mm F3.5-5.6IIR使用)で撮影した。画像の焦点が合っていない場合は1~3mmの範囲でターゲット60の位置を調整した。撮影条件は、ISO-6400、焦点距離42mm、露出時間1/320秒、絞り値f/5.6とした。
撮像された画像について、コントラストと解像性能については、USAF1951ターゲット拡大像のGroup4のElement3のコントラストを求めた。ここで、コントラストは、以下の式3から求められる。USAF1951ターゲットの拡大像の中で、Group4のElemet4に位置する透過領域601の内、輝線縦3本1組全体を囲み輝度値を求めた際の輝線の最小輝度と輝線の間に位置する暗部の領域(遮光領域602に相当)の最大輝度の数値を式3に入れコントラストを求めた。同様に、輝線横3本1組全体を囲み輝度値を求めた際の輝線の最小輝度と輝線の間に位置する暗部の領域(遮光領域602に相当)の最大輝度を式3に入れコントラストを求めた。両者の平均値を本発明評価におけるコントラストとした。また、前記画像の輝度値はImageJを利用して求めた。
式3:コントラスト=(輝線の最小輝度-輝線間暗部の最大輝度)/(輝線の最小輝度+輝線間暗部の最大輝度)
【0280】
<パンケーキレンズでの映像コントラスト評価>
実施例および比較例で得られた反射型偏光素子貼合レンズを用いて、パンケーキレンズ構成でのコントラストを評価した。
<パンケーキレンズでの観察像評価>と同様の構成である図8に示すパンケーキレンズ構成のヘッドマウントディスプレイの原理を想定した模擬装置を暗室内に作製し使用した。当該模擬装置では、スマートフォン50として、シャープ社製、AQUOS sense6、SH-M19を配置し画像を出力した。そして、画像は図12に示すように黒色■が白い線で囲われた格子状模様の画像を表示した。この時黒色■9個とそれを囲う白線から成る領域の外接円の直径が映像表示領域の有効径と一致するか、外接円の直径が映像表示領域の有効径の9割以上となるように表示した。更に、1/4波長板55として、日本化薬社製、40mmφのWA140Tを片面ARコート済みのガラス板でARコートが外側を向くように挟み込んだ素子を使用した。また、撮像カメラには、デジタル一眼カメラ57として、キヤノン社製EOS RP(標準ズームレンズRF24―105mm F4―F7.1 IS STM使用)を使用し撮影した。画像の焦点が合っていない場合は1~3mmの範囲でターゲット60の位置を調整した。撮影条件は、ISO-8000、焦点距離31mm、露出時間1/250秒、絞り値f/5.6とした。
画像は中央に黒色■が撮像された画像について、黒色■の輝度と隣り合う白線の輝度を式4に入れコントラストを求めた。9個の黒色■と隣り合う白線との間のコントラスト値を平均いて、本発明評価における映像コントラストとした。また、前記画像の輝度値はImageJを利用して求めた。
式4:映像コントラスト=(黒色■に隣り合う白線の平均輝度-黒色■の平均輝度)/(黒色■に隣り合う白線の平均輝度+黒色■の平均輝度)
【0281】
<信頼性試験後の外観評価>
実施例および比較例で得られた反射型偏光素子貼合レンズ各3個を用いて、恒温高湿環境下での耐久性を評価した。60℃、90%RH環境に保持した恒温恒湿器(ESPEC社製、PL-4KP)に反射型偏光素子貼合レンズを入れた。60℃、90%RH環境下に500時間おいた後に、反射型偏光素子貼合レンズを取り出し、反射型偏光素子貼合レンズ各3個の外観を、それぞれ以下の基準で評価した。
〇:しわ、気泡、剥離等なく良好な外観
シ:しわあり
ハ:剥離、剥離部の白化が見られる
キ:気泡が見られる
×:しわ、気泡、剥離等が同時に見られる
【0282】
<冷熱サイクル試験後の外観評価>
実施例および比較例で得られた反射型偏光素子貼合レンズ各10個を恒温恒湿槽(エスペック株式会社製低温恒温恒湿器PL-2J)を用いて、冷熱サイクル試験を、1サイクル:-30℃×1時間、85℃×1時間として、20サイクル実施し、反射型偏光素子貼合レンズの外観を以下の基準で評価し、不良にあたるレンズ個数をカウントした。測定結果を表1に示す。なお、測定した不良にあたるレンズ個数は、以下の基準に従って評価できる。
良品:しわ、気泡、剥離等なく良好な外観
不良品:レンズにクラックや反射型返送素子のしわ、気泡、剥がれが確認される。
【0283】
[原料]
後述する実施例及び比較例において使用した原料について下記に示す。
【0284】
[[メタクリル系樹脂を構成するモノマー]]
・メタクリル酸メチル(MMA):旭化成株式会社製
・N-フェニルマレイミド(PMI):株式会社日本触媒製
・N-シクロヘキシルマレイミド(CMI):株式会社日本触媒製
・スチレン:富士フィルム和光純薬工業株式会社製
・α-メチルスチレン:富士フィルム和光純薬工業株式会社製
・2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA):Combi-Blocks社製
【0285】
[[有機溶媒]]
・メタキシレン(mXy):三菱瓦斯化学株式会社製
・イソ酪酸メチル:関東化学株式会社製
・トルエン:富士フィルム和光純薬工業株式会社製
【0286】
[[重合開始剤]]
・1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン:日油株式会社製
・t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート:アルケマ吉富株式会社製「ルペロックス575」
・t-アミルパーオキシイソノナノエート:アルケマ吉富株式会社製
【0287】
[[連鎖移動剤]]
・n-オクチルメルカプタン:シェブロンフィリップスケミカル社製
・n-ドデシルメルカプタン:富士フィルム和光純薬工業株式会社製
【0288】
[[添加剤]]
・ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]:BASF社製「Irganox1010」
・トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト:BASF社製「Irgafos168」
・リケマールH-100:理研ビタミン株式会社製
・アデカスタブ2112:株式会社ADEKA製
・リン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物:堺化学工業株式会社製
・アデカスタブPEP-36:株式会社ADEKA製
・オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート:BASF社製「Irganox1076」
・モノメチルアミン:三菱ガス化学株式会社製
・炭酸ジメチル:富士フィルム和光純薬株式会社製
・トリエチルアミン:富士フィルム和光純薬株式会社製
【0289】
前記原料のうち、N-フェニルマレイミド及びN-シクロへキシルマレイミドは、納品時点から温度が20~30℃の範囲になるよう調整された庫内に保管しておき、納入日から3ヶ月以内の原料を使用した。
使用前にメタキシレンで原料を溶解し、純水を使用して液液抽出した後、水層を使用して酸成分の定量を行った。N-フェニルマレイミドからはマレイン酸が多く確認され、総計950ppmの酸成分が確認された。一方で、N-シクロへキシルマレイミドからは総計110ppmの酸成分が確認された。マレイン酸の量が1000ppmを超過している場合は、特開2021-92767号公報に記載の方法で、マレイミドを水洗及び脱水を御行い、精製した後、メタクリル系樹脂の製造に供した。
【0290】
合成例1〔メタクリル系樹脂組成物A〕
メタクリル酸メチル(以下、MMAと記す)318.7kg、N-フェニルマレイミド(以下、PMIと記す)35.5g、N-シクロヘキシルマレイミド(以下、CMIと記す)63.7kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.341kg、メタキシレン(以下、mXyと記す)225.1kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した1.25m反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、mXy116.9kgを計量してタンク1に加え、追添溶媒を準備した。
さらに、タンク2にMMA104.5kg、mXy85.5kgを計量し、撹拌して追添用MMA溶液を得た。
反応器の内容液については30L/分の速度で窒素によるバブリングを1時間実施し、タンク1、タンク2のそれぞれについては10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、ジャケット内にスチームを吹き込んで反応器内の溶液温度を125℃に上昇させ、50rpmで撹拌しながら、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.457kgをmXy2.67kgに溶解させた重合開始剤溶液を、1kg/時間の速度で添加することで重合を開始した。なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で125±2℃に制御した。重合開始から30分後、重合開始剤溶液の添加速度を0.25kg/時間に低下させ、さらにタンク1から29.24kg/時間で3.5時間の間mXyを添加した。
次いで、重合開始から4時間後に重合開始剤溶液の添加速度を0.75kg/時間に上げるとともにタンク2から追添用MMA溶液を95kg/時間で2時間の間添加した。
さらに、重合開始から6時間後に重合開始剤溶液の添加速度を0.25kg/時間に低下させ、重合開始7時間後に添加を停止した。
重合開始から8時間経過した後、メタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。これに酸化防止剤としてIrganox1010 0.261kg、Irgafos168 0.784kg、離型剤としてリケマールH-100 0.784kgを添加した。
次に、得られた重合溶液を、予め250℃に加熱された管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給して脱揮を行った。気化槽の真空度は10~15Torrの条件とした。気化槽を流下した樹脂をスクリューポンプで払い出し、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化して、N-置換マレイミド構造単位を有するメタクリル系樹脂組成物Aを得た。
得られたペレットのTgは133℃、溶融粘度が131Pa・sec、引張り破壊ひずみが1.7%、曲げ強さは66MPa、曲げ弾性率は3400MPaであった。その他の特性は表にまとめて記す。また、H-NMR組成から求めた単量体構成比から求めた酸素重量割合は29wt%である。
【0291】
合成例2〔メタクリル系樹脂組成物B〕
MMA75.000モル%、スチレン24.998モル%、重合開始剤としてt-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.002モル%からなるモノマー組成物を、ヘリカルリボン翼付き10L完全混合槽に1kg/hで連続的に供給し、平均滞留時間2.5時間、重合温度150℃で連続重合を行った。重合槽の液面が一定となるよう底部から連続的に抜き出し、管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給して脱揮を行った。気化槽の真空度は10~15Torrの条件とした。気化槽を流下した樹脂をスクリューポンプで払い出し、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化して、脱溶剤装置に導入してペレット状のメタクリル酸メチル-スチレン共重合体を得た。
この共重合体をイソ酪酸メチルに溶解し、10質量%イソ酪酸メチル溶液を調製した。1000mLオートクレーブ装置に、この共重合体の10質量%イソ酪酸メチル溶液を500質量部、水素化触媒として10質量%Pd/C(NEケムキャット社製)を1質量部仕込み、水素圧9MPa、200℃で15時間保持して、共重合体のスチレン部位の芳香族二重結合を水素化した。フィルターにより水素化触媒を除去し、この重合体溶液に対して0.04質量部のリケマールH-100を添加混合した後、管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給して脱揮を行った。気化槽の真空度は10~15Torrの条件とした。気化槽を流下した樹脂をギアポンプで払い出し、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化し、メタクリル系樹脂組成物Bを得た。
得られたペレットのTgは118℃、溶融粘度83Pa・sec、引張り破壊ひずみ2.9%、曲げ強さは95MPa、曲げ弾性率は3170MPaであった。その他の特性は表にまとめて記す。また、H-NMR組成から求めた単量体構成比から求めた酸素重量割合は24wt%である。
【0292】
合成例3〔メタクリル系樹脂組成物C〕
パドル翼を備え付けた撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30Lの反応釜に、2.25kgのメタクリル酸メチル、0.32kgの2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、0.024kgのスチレン、連鎖移動剤として最終的に反応釜に仕込む全単量体の総量100質量部に対して0.025質量部のn-ドデシルメルカプタン、0.025部のアデカスタブ2112、そして5.39kgのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、撹拌しつつ105℃まで昇温した。
初期開始剤として、重合槽内にトルエン0.20kg、t-アミルパーオキシイソノナノエート0.014kgからなる溶液を10分かけて滴下しながら105℃~110℃で重合を行った。さらにその10分後に、トルエン0.26kgとt-アミルパーオキシイソノナノエート0.017kgからなる溶液を3時間かけて滴下しながら、また、この開始剤溶液との投入と同時に、メタクリル酸メチル2.75kg、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル0.40kg、スチレン0.24kgからなる溶液を3時間かけて滴下しながら重合温度105~110℃にて重合を行い、さらに2時間かけて熟成を行った。
得られた重合体溶液に、4.5gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物と72gのトルエンの混合溶液を加え、90~110℃で1.5時間、環化縮合反応を行った。その後、最終的に反応釜に仕込む全単量体総量100質量部に対して0.10質量部のリケマールH-100を添加、撹拌して混合を行った。
得られた重合液を4フォアベント、1バックベント付φ42mm脱揮押出機を用いて、バレル温度220℃、120rpm、樹脂量換算で5kg/時で環化縮合反応及び脱揮処理を行い、メタクリル系樹脂組成物Cのペレットを得た。
得られたペレットのTgは127℃、溶融粘度72Pa・sec、引張り破壊ひずみ2.2%、曲げ強さは98MPa、曲げ弾性率は3600MPaであった。また、H-NMR組成から求めた単量体構成比から求めた酸素重量割合は31wt%である。
【0293】
合成例4〔メタクリル系樹脂組成物D〕
特開2003-231785号公報の[実施例]の項に記載の共重合体(A)の製造方法にしがって、MS樹脂(MMAとα-メチルスチレンとの共重合体)を重合した。オートクレーブ内に仕込むMMAとスチレンの質量比を変えて、重合時に全単量体重量を100質量部とした時、0.15質量部のリケマールH-100を加え重合を行い、前駆体樹脂(MMA:α-メチルスチレン=88質量%:12質量%)を得た。
スクリュー径40mmの同方向回転式二軸押出機を用い、押出機シリンダ温度を275℃、スクリュー回転数を150rpmとし、ホッパーより上記重合で得たMS樹脂を20kg/時間で供給するとともに、窒素を200mL/minの流量で押出機内にフローした。ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから原料樹脂100質量部に対して2.2質量部のモノメチルアミンを注入し、イミド化反応を行った。反応ゾーンの末端(ベント口の手前)にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のモノメチルアミンをベント口の圧力を30Torrに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することによりイミド樹脂を得た。
次いでスクリュー径40mmの同方向回転式二軸押出機を用い、押出機シリンダ温度を255℃、スクリュー回転数を150rpmに設定し、得られたイミド樹脂を20kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルからエステル化剤として炭酸ジメチルとトリエチルアミンの混合液を注入し、樹脂中のカルボン酸基の低減を行った。イミド樹脂100質量部に対して炭酸ジメチルは2.6質量部、トリエチルアミンは0.2質量部とした。反応後の副生成物および過剰の炭酸ジメチルをベント口の圧力を30Torrに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化しグルタルイミド構造を有するメタクリル系樹脂組成物Dを得た。
得られたペレットのTgは134℃、溶融粘度172Pa・sec、引張り破壊ひずみ5.1%、曲げ強さは117MPa、曲げ弾性率は3500MPaであった。また、H-NMR組成から求めた単量体構成比から求めた酸素重量割合は26wt%である。
【0294】
合成例5〔メタクリル系樹脂組成物E〕
MMAを298.5kg、PMIを37.0kg、CMIを104.5kg、連鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンを0.23kg、mXy247.0kgを計量し、ジャケットによる温度調節装置と撹拌翼を具備した1.25m3反応器に加え撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、mXy123.0kgを計量して、タンク1に加えた。
さらに、タンク2にMMA110.0kg及びmXy80.0kgを計量して撹拌し、追添用単量体溶液とした。
反応器の内容液については30L/分の速度で窒素によるバブリングを1時間実施し、タンク1、タンク2のそれぞれについては10L/分の速度で窒素によるバブリングを30分間実施し、溶存酸素を除去した。
その後、ジャケット内にスチームを吹き込んで反応器内の溶液温度を124℃に上昇させ、50rpmで撹拌しながら、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.35kgをmXy4.652kgに溶解させた重合開始剤溶液を、1kg/時間の速度で添加することで重合を開始するとともに、タンク1から30.75kg/時間で4時間の間、mXyを添加した。
なお、重合中は反応器内の溶液温度をジャケットによる温度調節で124±2℃で制御した。
次いで、4時間後から6時間後の間、タンク2からMMAを含む単量体溶液を95kg/時間の速度で添加した。
さらに、重合開始剤溶液は重合開始0.5時間後に0.25kg/時間、4時間後に0.75kg/時間、6時間後に0.5kg/時間にそれぞれ添加速度を低下させ、重合開始7時間後に重合開始剤溶液の添加を停止し、重合を更に3時間継続し、主鎖に環構造単位を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液に、アデカスタブPEP-36を0.83kg、Irgafos168を0.28kg、Irganox1076を0.44kg、そしてリケマールH-100を1.10kg、撹拌下に添加した。
次に、得られた重合溶液を、予め260℃に加熱された管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置に供給して脱揮を行った。気化槽の真空度は10~15Torrの条件とした。気化槽を流下した樹脂をスクリューポンプで払い出し、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化して、N-置換マレイミド構造単位を有するメタクリル系樹脂Eを得た。
得られたペレットのTgは146℃、溶融粘度が210Pa・sec、引張り破壊ひずみ3.9%、曲げ強さは59MPa、曲げ弾性率は3500MPaであった。また、H-NMR組成から求めた単量体構成比から求めた酸素重量割合は28wt%である。
【0295】
合成例6〔メタクリル系樹脂組成物F〕
連鎖鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンの量を0.708kgとし、原料に温度管理されていない高温高湿環境下で保管されていたPMI及びCMIを使用したこと以外は、合成例1と同様に重合を行い、メタクリル系樹脂組成物Eを得た。PMIとCMIの酸成分量は、PMIが5100ppm、CMIが230ppmであった。
得られたペレットのTgは134℃、溶融粘度が102Pa・sec、引張り破壊ひずみが1.2%、曲げ強さは68MPa、曲げ弾性率は3300MPaであった。また、H-NMR組成から求めた単量体構成比から求めた酸素重量割合は29wt%である。
【0296】
合成例7〔メタクリル系樹脂組成物G〕
スクリュー径40mmの同方向回転式二軸押出機を用い、押出機シリンダ温度を275℃、スクリュー回転数を150rpmとし、ホッパーよりリケマールH-100をポリマー全体の質量を100質量部とした時、0.1質量部含む重量平均分子量10,8000のポリメタクリル酸メチルを20kg/時間で供給するとともに、窒素を200mL/minの流量で押出機内にフローした。ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから原料樹脂100質量部に対して1.8質量部のモノメチルアミンを注入し、イミド化反応を行った。反応ゾーンの末端(ベント口の手前)にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のモノメチルアミンをベント口の圧力を50Torrに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することによりイミド樹脂を得た。
次いでスクリュー径40mmの同方向回転式二軸押出機を用い、押出機シリンダ温度を255℃、スクリュー回転数を150rpmに設定し、得られたイミド樹脂を20kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルからエステル化剤として炭酸ジメチルとトリエチルアミンの混合液を注入し、樹脂中のカルボン酸基の低減を行った。イミド樹脂100質量部に対して炭酸ジメチルは3.2質量部、トリエチルアミンは0.8質量部とした。反応後の副生成物および過剰の炭酸ジメチルをベント口の圧力を50Torrに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化しグルタルイミド構造を有するメタクリル系樹脂組成物Gを得た。
得られたペレットのTgは122℃、溶融粘度は158Pa・sec、引張り破壊ひずみ7.9%、曲げ強さは127MPa、曲げ弾性率は3570MPaであった。また、H-NMR組成から求めた単量体構成比から求めた酸素重量割合は31wt%である。
【0297】
合成例8〔メタクリル系樹脂組成物H〕
パドル翼を備え付けた撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30Lの反応釜に、2.25kgのメタクリル酸メチル、1.25kgの2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、連鎖移動剤として全単量体の総量100質量部に対して0.025質量部のn-ドデシルメルカプタン、0.025部のアデカスタブ2112、そして6.25kgのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、撹拌しつつ105℃まで昇温した。
還流させながら、重合槽内にt-アミルパーオキシイソノナノエートを全単量体の総量100質量部に対して0.05質量部加え、さらにt-アミルパーオキシイソノナノエート0.1質量部を2時間かけて滴下しながら、還流下で重合温度105~110℃にて還流下で重合を行い、さらに6時間重合反応を行った。
得られた重合体溶液に、6.3gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物を加え、90~110℃で5時間、環化縮合反応を行った。その後、全単量体総量100質量部に対して0.15質量部のリケマールH-100を添加、撹拌して混合を行った。
得られた重合液を4フォアベント、1バックベント付φ42mm脱揮押出機を用いて、120rpm、樹脂量換算で2.2kg/時で環化縮合反応及び脱揮処理を行い、メタクリル系樹脂組成物Hのペレットを得た。
得られたペレットのTgは133℃、溶融粘度165Pa・sec、引張り破壊ひずみ3.2%、曲げ強さは71MPa、曲げ弾性率は3600MPaであった。また、H-NMR組成から求めた単量体構成比から求めた酸素重量割合は33wt%である。
【0298】
合成例9〔環状オレフィンコポリマーの樹脂組成物I〕
まずVO(OC2H5)Cl2をシクロヘキサンで希釈し、バナジウム濃度が6.7ミリモル/L-シクロヘキサンであるバナジウム触媒を調製した。エチルアルミニウムセスキクロリド(Al(C2H5)1.5Cl1.5)をシクロヘキサンで希釈し、アルミニウム濃度が107ミリモル/L-ヘキサンである有機アルミニウム化合物触媒を調製した。
次いで、攪拌式重合器(内径500mm、反応容積100L)を用いて、連続的にエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合反応を行った。ここで、エチレンは水素ガスとともに重合器内に供給した。この共重合反応を行う際には、上記方法によって調製されたバナジウム触媒を、重合溶媒として用いられた重合器内のシクロヘキサンに対するバナジウム触媒濃度が0.6ミリモル/Lになるような量で重合器内に供給した。また、有機アルミニウム化合物であるエチルアルミニウムセスキクロリドを、Al/V=18.0になるような量で重合器内に供給した。重合温度を8℃とし、重合圧力を1.8kg/cm2Gとして連続的に共重合反応を行った。
重合器より抜出したエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体溶液に対して、水およびpH調節剤として濃度が25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し重合反応を停止させた。また、共重合体中に存在する触媒残渣をこの共重合体溶液中から除去(脱灰)した。上記脱灰処理を行った、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体のシクロヘキサン溶液(ポリマー濃度7.7質量%)に安定剤としてIrganox1010を共重合体に対する添加量が共重合体100質量部に対して0.4質量部となるように添加した。次いで、フラッシュ乾燥工程に入る前に一旦、有効容積1.0mの攪拌槽を用いて1時間混合した。
熱源として20kg/cm2Gの水蒸気を用いた二重管式加熱器(外管径2B、内管径3/4B、長さ21m)に、シクロヘキサン溶液中の共重合体の濃度を5質量%とした上記共重合体のシクロヘキサン溶液を150kg/hの量で供給して、180℃に加熱した。
熱源として25kg/cm2Gの水蒸気を用いた二重管式フラッシュ乾燥器(外管径2B、内管径3/4B、長さ27m)とフラッシュホッパー(容積200L)とを用いて、上記加熱工程を経た上記共重合体のシクロヘキサン溶液から重合溶媒であるシクロヘキサンとともに大半の未反応モノマーを除去することでフラッシュ乾燥された溶融状態のエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体(環状オレフィンコポリマー)を得た。
脂肪酸エステルであるエキセパールPE-MS(花王株式会社製)を100℃で4時間加熱した溶融状態で、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して2.1質量部の量で直接ベント付二軸混練押出機に装入し、押出機の樹脂装入部より装入した前記環状オレフィンコポリマーと混錬し、押出機出口に取り付けられたアンダーウォーターペレタイザーによりペレット化し、得られたペレットを温度100℃の熱風にて4時間乾燥して環状オレフィンコポリマーの樹脂組成物Iを得た。
得られたペレットのTgは129℃、引張り破壊ひずみ2.5%、曲げ強さは77MPa、曲げ弾性率は3400MPaであった。また、単量体構成比から求めた酸素重量割合は0wt%である
【0299】
(実施例1)
[レンズの成形]
合成例1で得られたメタクリル系樹脂組成物Aを使用し、射出成形機(FANUC社製、S-2000i50B)にて射出成形を行った。金型には、光軸厚みが3.2mm、φ41mmの平凸レンズを使用した。仕上がりとして、光軸を含む面で凸面の曲率半径はR95mmの非球面形状であり、円錐定数k=-1.12452、偶数次の定数は設定していない。
シリンダ温度は使用する樹脂組成物のTg+135℃、金型温度は使用する樹脂組成物のTg-15℃に設定し成形を行った。保持圧力は、1段目に60MPaで4秒、その後成形品内部の応力歪を緩和するため保圧2段目は40MPaで3秒に設定した。また、射出速度は10mm/sに設定して成形を実施し、実施例1にかかる樹脂レンズを得た。レンズの形状をNH-3SPs(三鷹光器株式会社製)にて測定し、所定の形状のレンズが得られるように適宜成形条件の調整を行い所定形状のレンズを得た。有効径(φ41mmの円で囲まれる範囲で測定を行った。測定エリアの投影面積はレンズ全体の投影面性に対して100%であった。)内の面内位相差は2nm、全光線透過率は91.5%であった。樹脂レンズとして評価したその他の評価結果は表1に示す。
【0300】
[反射型偏光素子母型作製のための格子状凸部を有する樹脂基材の作製]
ピッチが230nmで、凹凸格子の高さが230nmである凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパを準備した。この凹凸格子は、レーザ干渉露光法を用いたパターニングにより作製されたものであり、その断面形状は正弦波状で、上面からの形状は縞状格子形状であった。また、その平面寸法は縦横ともに500mmであった。このニッケルスタンパを用いて、熱プレス法により厚さ0.5mm、縦横がそれぞれ520mmのシクロオレフィン樹脂(以下、COPと略す)板の表面に凹凸格子形状を転写し、凹凸格子形状を転写したCOP板を作製した。
次いで、この凹凸格子形状が転写されたCOP板を520mm×460mmの長方形に切り出し、被延伸部材としての延伸用COP板とした。このとき、520mm×460mmの長手方向(520mm)と凹凸格子の延在方向とが互いに略平行になるように切り出した。
次いで、この延伸用COP板の表面に、スプレーによりシリコーンオイルを塗布し、約 80℃の循環式空気オーブン中に30分放置した。次いで、延伸用COP板の長手方向の 両端10mmを延伸機のチャックで固定し、その状態で113±1℃に温度調節された循 環式空気オーブン中に延伸用COP板を10分間放置した。その後、250mm/分の速 度でチャック間の距離が2.7倍延伸したところで延伸を終え、20秒後に延伸したCO P板(延伸済みCOP板)を室温雰囲気下に取り出し、 チャック間の距離を維持したまま 冷却した。この延伸済みCOP板の中央部分約40%は、ほぼ均一にくびれており、最も 幅が縮小されている部分は280mmになっていた。この延伸済みCOP板の表面と断面を、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)にて観察したところ、微細凹凸格子のピッチと高さがそれぞれ、140nm/130nm(ピッチ/高さ)であった。その断面形状が正弦波状で、上面からの形状が縞状格子状となっており、実質的に延伸前の凹凸格子形状と相似で縮小されていたことが分かった。
【0301】
(ニッケルスタンパの作製)
得られた、140nmピッチの延伸済みCOP板表面に、それぞれ導電化処理として金をスパッタリングにより30nm被覆した後、それぞれニッケルを電気メッキし、厚さ0.2mm、縦270mm、横220mmの微細凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパを作製した。なお、ニッケルスタンパの長手方向が微細凹凸格子の延在方向と略直角になるように作製した。
【0302】
(ロールスタンパの作製)
前記ニッケルスタンパを、微細凹凸格子を外周側になるよう円筒型に加工し、次いで溶接を行いロールスタンパとした。この際、接合はニッケルスタンパの長手方向がロールスタンパの円周方向となる向きで行った。次いで、ロールスタンパの略中央部に幅13mm、厚さ80μmの日東電工製ニトフロン粘着テープを円周方向に貼付した。
【0303】
(基材フィルムロールの準備)
幅250mm、厚み130μmのトリアセチルセルロースフィルム(以下、TACフィルム、酸素重量割合は50wt%である)のロール(フィルム長300m)に対し、表面に突起形状を有する円盤状の金型を用い、幅方向の端部1~15mmの範囲に基材フィルム表面からの高さの平均値が50μmになるようにナーリング加工を施した。
【0304】
(微細凹凸格子転写フィルムロールの作製)
前記ナーリング加工を施したTACフィルムロールに対し、前記ニトフロンテープの貼付位置を除き、ナーリング加工を施した部分より幅方向内側に連続的に紫外線硬化性樹脂 を約2μm塗布し、塗布面を上記140nmピッチの微細凹凸格子を表面に有するロールスタンパ上の微細凹凸格子の延在方向とTACフィルムの幅方向が平行になるように接触させ、フィルム側から中心波長365nmの紫外線ランプを用いて紫外線を1000mJ/cm2照射し、ロールスタンパの微細凹凸格子を連続的に転写した後、ロール状に巻き取った。以下、このロールを原反ロールと呼ぶことにする。得られた微細凹凸格子転写フィルムをFE-SEMにより観察し、その断面形状が正弦波状で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。
【0305】
(原反ロールの乾燥)
以上のようにして得られた原反ロールに含まれる水分を乾燥するために、原反ロールを200Wの赤外線ヒーターが3台設けられた真空槽に移し、フィルムを真空中でほどきながら2m/分で走行させ、加熱後、ロール状に巻き取った。フィルム走行停止時の真空度は0.03Pa、フィルム走行中(乾燥中)の真空度は0.15Paであった。また、ヒーター通過後のTACフィルムの表面温度を知るためにTACフィルム上には予めサーモラベル(登録商標)を貼っておいた。ヒーター通過後のTACフィルムの表面温度は60℃から70℃の間であった。
【0306】
(金属ナノワイヤの形成)
乾燥後の原反ロールを乾燥機の真空槽中に12時間放置したところ、フィルムの温度は23℃まで下がった。その後、原反ロールを金属ワイヤ形成用の真空チャンバへ移した。 次いで、反応性ACマグネトロンスパッタリング法にて微細凹凸格子面に窒化ケイ素層を設けた。具体的には、ターゲットサイズ127mm×750mm×10mmtのシリコンターゲットを2枚並べ、基板~ターゲット距離80mm、アルゴンガス流量200sccm、窒素ガス流量300sccm、出力11kW、周波数37.5kHz、走行速度5m/分で原反ロールをほどきながらフィルム搬送用ロールで巻取ロール側に送りながら処理を施し、その後ロール状に巻き取った。スパッタリングの際の張力は30N、メインローラー温度は30℃、スパッタリング開始前のバックグラウンドの真空度は0.005Pa、スパッタリング中の真空度は0.38Paであった。同じ条件でSiチップに窒化珪素を成膜し、エリプソメーターにて窒化珪素層の厚みを算出したところ、3nmであった。
スパッタリング終了後、赤外線温度計で原反ロールの温度を測定したところ、24℃であった。原反ロールの格子状凸部転写面に薄膜層として窒化珪素をスパッタリング法にて形成した後、フィルムをスパッタリング時と逆方向にメインローラーで送り、抵抗加熱蒸着法にて金属ナノワイヤを形成し、ロール状に巻き取った。なお、金属としてはアルミニウム(Al)を用いた。このとき、Alの蒸着には斜め蒸着法を用い、格子の長手方向と垂直に交わる平面内において基材面の法線蒸着源とのなす角が32°からはじまり15°で終わるようにマスクを配置して行った。マスクの開口幅は60mm、マスク開口部の中心と蒸着ボートとの距離は400mmであった。蒸着ボート加熱前の真空度は0.005Paであった。張力は30N、メインローラーの温度は30℃とした。以上のような条件にて、フィルム送り速度3.5m/分で格子状凸部転写フィルムを走行させながら、加熱されたボート上に純度99.9%以上、線径1.7mmのアルミワイヤを送り速度200mm/分でフィードし、アルミニウムを蒸着した。蒸着中の真空度は0.007Paであった。
【0307】
(アルミニウムの膜厚測定)
前記蒸着にて得られたワイヤグリッド偏光板について、蒸着後期のフィルム部を切り出し、アルミニウムの膜厚を蛍光X線の発光強度より換算したところ、ともに130nmであった。
【0308】
(アルミニウムのエッチング)
Alの金属ナノワイヤが形成された格子状凸部転写フィルムロールを、フィルムをほどきながら温度23℃の0.5重量%のNaOHaq槽内を65秒間走行させ、次いで、これを水洗・風乾し、所望の光学特性を有するワイヤグリッド偏光板のロールを得た。
【0309】
(貼合用ワイヤグリッド偏光素子の採取)
エッチングを実施したワイヤグリッド偏光板ロールを後述の環境下にて所定時間静置させた後、270mm長さのシートに裁断し、貼合用ワイヤグリッド偏光素子を得た。白色バックライト上に置き、外観を目視観察した。外観は均一であり、影や金属ワイヤ部に剥がれが等観察されなかった。
【0310】
上記工程にて得られた厚み130μmのワイヤグリッド偏光素子(TAC基材)の保持基材21側に両面粘着シートを貼合したものを用意した。
前記射出成形で得られた平凸形状の樹脂レンズを、真空貼合装置の貼合側土台に、レンズを保持する治具を使用し、被貼合面として非球面(R=95mm、円錐定数k=-1.12452)が上面に平面(R=∞)が下面にくるように設置し、上面方向にあるヒーターブロックに前記作製したワイヤグリッド偏光素子の保持基材21側に両面粘着シートを貼合したものを、保持基材側が下面になるよう設置し、ヒーター温度140℃で保持した。5分後、装置内を20Torrとなるよう真空にひき、ワイヤグリッド偏光素子をレンズに密着させ、そこから空気圧をかけワイヤグリッド偏光素子をレンズに押付け貼合した。これにより、実施例1にかかる反射型偏光素子貼合レンズを得た。評価結果を表1に示す。
【0311】
(実施例2)
実施例1で得られたワイヤグリッド偏光素子を貼合する際、ワイヤグリッド偏光素子の格子状凸部23側に粘着シートを貼合したものを用意し使用したこと以外は、実施例1と同様の条件で成形及びワイヤグリッド偏光素子の貼り合わせを行った。評価結果を表1に示す。
【0312】
(実施例3)
実施例1で得られた樹脂レンズにワイヤグリッド偏光素子を貼合する際、被貼合面として平面(設計:R=∞)とした以外は実施例1と同様の条件で成形及び行った。また、<パンケーキレンズでの解像性能>については、図9に示す構成にて検証を行った。
【0313】
(実施例4)
合成例1で得られたメタクリル系樹脂組成物Aを使用し、射出成形機(FANUC社製、S-2000i50B)にて射出成形を行った。金型には、光軸厚みが7.0mm、φ41mmの両凸レンズを使用した。仕上がりとして、第一の面は、光軸を含む面で凸面であり、曲率半径はR95mmの非球面形状、円錐定数k=-1.12452、偶数次の定数は設定していない。第二の面は、光軸を含む面で凸面であり、曲率半径はR68mmである。(第二面側を正と見ると曲率半径R=-68mmの球面と表現される)また、図10に図示していないが、レンズ面外に突出し用のツバがついており、レンズ全体ではφ45mmとなっている。
シリンダ温度は使用する樹脂組成物のTg+135℃、金型温度は使用する樹脂組成物のTg-15℃に設定し成形を行った。保持圧力は、1段目に100MPaで5秒、その後成形品内部の応力歪を緩和するため保圧2段目は80MPaで4秒に設定した。また、射出速度は20mm/sに設定して成形を実施し、実施例4にかかる樹脂レンズを得た。レンズの形状をNH-3SPs(三鷹光器株式会社製)にて測定し、所定の形状のレンズが得られるように適宜成形条件の調整を行い所定形状のレンズを得た。有効径内(ツバを除き、φ41mmの円で囲まれる範囲で測定を行った。測定エリアの投影面積はレンズ全体の投影面性に対して100%であった。)の位相差は5nmであった。全光線透過率は89.3%であった。
【0314】
実施例1でワイヤグリッド偏光素子を製造する際、厚み80μmのTACフィルムのロールを使用した以外は同様にしてワイヤグリッド偏光素子(TAC基材)を得た。該ワイヤグリッド偏光素子の保持基材21側に両面粘着シートを貼合したものを使用して樹脂レンズへの貼合工程を実施した。
前記射出成形で得られた両凸形状の樹脂レンズを、真空貼合装置の貼合側土台に、レンズを保持する治具を使用し、被貼合面として球面(R=68mm)が上面、非球面(R=95mm)が下面にくるように設置し、上面方向にあるヒーターブロックにワイヤグリッド反射型偏光素子の保持基材21側に両面粘着シートを貼合したものを、保持基材側が下面になるよう設置し、ヒーター温度150℃で保持した。5分後、装置内を20Torrとなるよう真空にひき、ワイヤグリッド偏光素子をレンズに密着させ、空気圧をかけワイヤグリッド偏光素子をレンズに押付け貼合した。これにより、実施例4にかかる反射型偏光素子貼合レンズを得た。<パンケーキレンズでの観察像評価>及び<パンケーキレンズでの解像性能>については、図10に示す構成にて検証を行った。評価結果を表1に示す。
【0315】
(実施例5)
実施例4で、得られた樹脂レンズにワイヤグリッド偏光素子を貼合する際、ワイヤグリッド偏光素子の格子状凸部23側に粘着シートを貼合したものを用意し使用したこと以外は、実施例4と同様の条件で成形及びワイヤグリッド偏光素子の貼り合わせを行った。評価結果を表1に示す。
【0316】
(実施例6)
合成例2で得られた熱可塑性樹脂組成物Bを使用した以外は、実施例1と同様の条件で成形及びワイヤグリッド偏光素子の貼合を行った。評価結果を表1に示す。
【0317】
(実施例7)
合成例3で得られた熱可塑性樹脂組成物Cを使用した以外は、実施例1と同様の条件で成形及びワイヤグリッド偏光素子の貼合を行った。評価結果を表1に示す。
【0318】
(実施例8)
合成例4で得られた熱可塑性樹脂組成物Dを使用した以外は、実施例1と同様の条件で成形及びワイヤグリッド偏光素子の貼合を行った。評価結果を表1に示す。
【0319】
(実施例9)
合成例4で得られた熱可塑性樹脂組成物Eを使用した以外は、実施例1と同様の条件で成形及びワイヤグリッド偏光素子の貼合を行った。評価結果を表1に示す。
【0320】
(実施例10)
合成例5で得られた熱可塑性樹脂組成物Fを使用した以外は、実施例1と同様の条件で成形及びワイヤグリッド偏光素子の貼合を行った。評価結果を表1に示す。
【0321】
(比較例1)
合成例7で得られた熱可塑性樹脂組成物Hを使用したこと、更にワイヤグリッド偏光素子の基材に厚さ130μmのCOPフィルム(酸素重量割合は0wt%である)のロールを使用した以外は、実施例1と同様の条件で成形及びワイヤグリッド偏光素子の貼合を行った。評価結果を表1に示す。
表1に示すように、偏光分離特性Tp(530)/Tc(530)が75と低く、<パンケーキレンズでの観察像評価>においてゴースト像の影響が顕著に確認され、<パンケーキレンズでの解像性能>ではコントラストは0.04と悪い結果となった。
【0322】
(比較例2)
合成例8で得られた熱可塑性樹脂組成物Gを使用した以外は、実施例1と同様の条件で成形及びワイヤグリッド偏光素子の貼合を行った。評価結果を表1に示す。
【0323】
(比較例3)
実施例1でワイヤグリッド偏光素子を製造する際、厚み80μmのTACフィルムのロールを使用した以外は同様にしてワイヤグリッド偏光素子(TAC基材)を得た。該ワイヤグリッド偏光素子の保持基材21側に両面粘着シートを貼合したものを使用して樹脂レンズへの貼合工程を実施した。
合成例9で得られた熱可塑性樹脂組成物Iを使用し、前記ワイヤグリッド厚み80μmのTACフィルムから得たワイヤグリッド偏光素子を使用した以外は、実施例1と同様の条件で成形及びワイヤグリッド偏光素子の貼合を行った。評価結果を表1に示す。
表1に示すように、偏光分離特性Tp(530)/Tc(530)が135であったが、<パンケーキレンズでの観察像評価>においてはゲート近傍よりゴースト像とフレアの影響が顕著に確認され、<パンケーキレンズでの解像性能>ではコントラストは0.12という結果であった。
【0324】
(比較例4)
実施例1でワイヤグリッド偏光素子を製造する際、厚み200μmのTACフィルムのロールを使用した以外は同様にしてワイヤグリッド偏光素子(TAC基材)を得た。該ワイヤグリッド偏光素子の保持基材21側に両面粘着シートを貼合したものを使用したこと以外は比較例2と同様にして成形及び該ワイヤグリッド偏光素子の貼合工程を実施した。
ワイヤグリッド偏光素子を貼合したものを外観評価すると、ワイヤグリッド偏光素子にしわや浮き、気泡等が発生しており、偏光透過率やパンケーキレンズでの観察評価等の以降の工程の評価ができなかった。
【0325】
(実施例11)
実施例1で、射出成形で得られたレンズを水と界面活性剤を使用した洗浄液を使用して、超音波処理により洗浄を行った。80℃で6時間真空乾燥にかけた後、反射型偏光素子を貼合しない面、実施例1では平面側に対し蒸着工程により反射防止コートを施した。樹脂レンズとしての有効径(φ41mmの円で囲まれる範囲で測定を行った。測定エリアの投影面積はレンズ全体の投影面性に対して100%であった。)内の面内位相差は1.5nm、全光線透過率は95.3%であった。その後の工程は実施例1と同様にしてワイヤグリッド偏光素子の貼合を行った。
得られたワイヤグリッド偏光素子貼合レンズの外観は良好であり、<パンケーキレンズでの観察像評価>ではコントラストに優れた良好な像が観察された。その他評価結果は表1に示す。
【0326】
【表1】
【0327】
(実施例12)
合成例1で得られたメタクリル系樹脂組成物Aを使用し、射出成形機(FANUC社製、S-2000i50B)にて射出成形を行った。金型には、光軸厚みが7.0mmのメニスカスレンズを使用した。仕上がりとして、第一の面は、光軸を含む面で凸面であり、曲率半径はR135mmの球面形状であり、第二の面は光軸を含む面で凹面であり、曲率半径はR29mm(第二面側を正と見ると曲率半径R=29mmの球面と表現される)の非球面形状であり、円錐定数k=-0.653、偶数次の定数は設定していない。
シリンダ温度は使用する樹脂組成物のTg+135℃、金型温度は使用する樹脂組成物のTg-15℃に設定し成形を行った。保持圧力は、1段目に100MPaで5秒、その後成形品内部の応力歪を緩和するため保圧2段目は80MPaで4秒に設定した。また、射出速度は20mm/sに設定して成形を実施し、実施例1にかかる樹脂レンズを得た。レンズの形状をNH-3SPs(三鷹光器株式会社製)にて測定し、所定の形状のレンズが得られるように適宜成形条件の調整を行い所定形状のレンズを得た。
【0328】
実施例1で得られた厚み130μmのワイヤグリッド偏光素子(TAC基材)の保持基材21側に両面粘着シートを貼合したものを同様に使用した。
前記射出成形で得られたメニスカス形状の樹脂レンズを、真空貼合装置の貼合側土台に、レンズを保持する治具を使用し、被貼合面として光軸を含む凹面の球面(R=135mm)が上面に、光軸を含む凸面の非球面(R=29mm、円錐定数k=-0.653、偶数次定数の設定なし)が下面にくるように設置し、上面方向にあるヒーターブロックにワイヤグリッド偏光素子の保持基材21側に両面粘着シートを貼合したものを、保持基材側が下面になるよう設置し、ヒーター温度140℃で保持した。5分後、装置内を20Torrとなるよう真空にひき、ワイヤグリッド偏光素子をレンズの一部に密着させ、空気圧をかけワイヤグリッド偏光素子をレンズに押付け貼合した。これにより、実施例12にかかる反射型偏光素子貼合レンズを得た。<パンケーキレンズでの観察像評価>のみ図11に示す構成にて検証を行った。評価結果としてはゴーストやフレアは観察されず、良好な観察結果が得られた。
【0329】
(参考例1)
合成例1で得られたメタクリル系樹脂組成物Aを使用し、射出成形機(FANUC社製、S-2000i50B)にて射出成形を行った。金型には、光軸厚みが8.0mmのメニスカスレンズを使用した。仕上がりとして、第一の面は、光軸を含む面で凸面であり、曲率半径はR43mmの球面形状であり、第二の面は平面である。
シリンダ温度は使用する樹脂組成物のTg+125℃、金型温度は使用する樹脂組成物のTg-20℃に設定し成形を行った。保持圧力は、1段目に90MPaで5秒、その後成形品内部の応力歪を緩和するため保圧2段目は70MPaで4秒に設定した。また、射出速度は6m/sに設定して成形を実施し、実施例1にかかる樹脂レンズを得た。レンズの形状をNH-3SPs(三鷹光器株式会社製)にて測定し、所定の形状のレンズが得られるように適宜成形条件の調整を行い所定形状のレンズを得た。
【0330】
実施例1で得られた厚み130μmのワイヤグリッド偏光素子(TAC基材)の保持基材21側に両面粘着シートを貼合したものを同様に使用した。
前記射出成形で得られた平凸形状の樹脂レンズを、真空貼合装置の貼合側土台に、レンズを保持する治具を使用し、被貼合面として光軸を含む凸面の球面(R=43mm)が上面に、光軸を含む平面が下面にくるように設置し、上面方向にあるヒーターブロックにワイヤグリッド偏光素子の保持基材21側に両面粘着シートを貼合したものを、保持基材側が下面になるよう設置し、ヒーター温度140℃で保持した。5分後、装置内を20Torrとなるよう真空にひき、ワイヤグリッド偏光素子をレンズの一部に密着させ、空気圧をかけワイヤグリッド偏光素子をレンズに押付け貼合した。これにより、参考例1にかかる反射型偏光素子貼合レンズを得た。外観は良好であり、偏光透過率Tp530は79%であり、偏光分離能(Tp530/Tc530)は425であった。信頼性試験後の外観は2個〇、1個ハの評価結果であった。また、冷熱サイクル試験後の外観は10個中2個で不良品が確認された。
【0331】
(参考例2)
合成例1にて、PMIを23.5g、CMIを75.7kg、リケマールH-100の量を3.30kgにし、連鎖鎖移動剤であるn-オクチルメルカプタンの量を0.95kgとしたこと以外は、合成例1と同様に重合を行い、メタクリル系樹脂組成物Jを得た。得られたペレットのTgは132℃、溶融粘度が93Pa・sec、引張り破壊ひずみが1.0%、曲げ強さは56MPa、曲げ弾性率は3350MPaであった。また、H-NMR組成から求めた単量体構成比から求めた酸素重量割合は29wt%である。
【0332】
メタクリル系樹脂組成物Jを使用し、実施例1と同様にして参考例2の反射型偏光素子貼合レンズを得た。外観は良好で、偏光透過率(Tp530)は81.3%、偏光分離能(Tp530/Tc530)は385であった。また、冷熱サイクル試験後の外観は10個中3個で不良品が確認されレンズにクラックが入っていた。
【産業上の利用可能性】
【0333】
本発明による反射型偏光素子貼合レンズは、ヘッドマウントディスプレイ、顕微鏡、電子ビューファインダー等の接眼光学系として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0334】
20 ワイヤグリッド反射型偏光素子
21 保持基材
22 樹脂基材
23 格子状凸部
24 基材層
26 誘電体層
27 金属ワイヤ
29 接合層
32 反射型偏光子貼合レンズ
311 直線偏光板
322 反射型偏光素子
50 スマートフォン
51 コリメートレンズ付LED光源
52 フロスト拡散板
53 円偏光素子
54 ハーフミラー素子
55 1/4波長板
56 反射型偏光素子貼合レンズ
561 樹脂レンズ
562 反射型偏光素子
58 遮光層
59 反射型偏光素子貼合平凸レンズ
591 樹脂レンズ
592 反射型偏光素子
60 反射型偏光素子貼合両凸レンズ
601 樹脂レンズ
602 反射型偏光素子
600 USAF Target
61 反射型偏光素子貼合メニスカスレンズ
611 樹脂レンズ
612 反射型偏光素子
600 USAF Target
610 透光領域
620 遮光領域
561 樹脂レンズ
562 反射型偏光素子
101 画像表示装置
102 円偏光素子
103 ハーフミラー
104 レンズ
105 1/4λ素子
106 反射型偏光素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-12-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0264
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0264】
<曲げ強さ及び曲げ弾性率の測定>
後述の製造例で製造した樹脂組成物のペレットを80~100℃で24時間乾燥し、射出成形機(東芝機械株式会社製、EX-100SX)を用いて、JIS-K6717に従い、射出成形することにより、厚さ4.0mmのISO3167のA型ダンベル試験片を作製した。この試験片の中央部を切り出し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4.0mmの成形片を用意した。ISO178に従って低荷重用万能材料試験機(インストロン社製)により、測定温度23℃、試験速度2mm/分、支点間距離64mmで曲げ試験を行った。6回測定を行い、その平均値として曲げ強さ(MPa)と曲げ弾性率(MPa)をそれぞれ算出した。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0298
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0298】
合成例9〔環状オレフィンコポリマーの樹脂組成物I〕
まずVO(OC )Cl をシクロヘキサンで希釈し、バナジウム濃度が6.7ミリモル/L-シクロヘキサンであるバナジウム触媒を調製した。エチルアルミニウムセスキクロリド(Al(C 1.5 Cl 1.5 )をシクロヘキサンで希釈し、アルミニウム濃度が107ミリモル/L-ヘキサンである有機アルミニウム化合物触媒を調製した。
次いで、攪拌式重合器(内径500mm、反応容積100L)を用いて、連続的にエチレンとテトラシクロ[4.4.0.1 2,5 .1 7,10 ]-3-ドデセンとの共重合反応を行った。ここで、エチレンは水素ガスとともに重合器内に供給した。この共重合反応を行う際には、上記方法によって調製されたバナジウム触媒を、重合溶媒として用いられた重合器内のシクロヘキサンに対するバナジウム触媒濃度が0.6ミリモル/Lになるような量で重合器内に供給した。また、有機アルミニウム化合物であるエチルアルミニウムセスキクロリドを、Al/V=18.0になるような量で重合器内に供給した。重合温度を8℃とし、重合圧力を1.8kg/cm Gとして連続的に共重合反応を行った。
重合器より抜出したエチレンとテトラシクロ[4.4.0.1 2,5 .1 7,10 ]-3-ドデセンとの共重合体溶液に対して、水およびpH調節剤として濃度が25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し重合反応を停止させた。また、共重合体中に存在する触媒残渣をこの共重合体溶液中から除去(脱灰)した。上記脱灰処理を行った、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.1 2,5 .1 7,10 ]-3-ドデセンとの共重合体のシクロヘキサン溶液(ポリマー濃度7.7質量%)に安定剤としてIrganox1010を共重合体に対する添加量が共重合体100質量部に対して0.4質量部となるように添加した。次いで、フラッシュ乾燥工程に入る前に一旦、有効容積1.0mの攪拌槽を用いて1時間混合した。
熱源として20kg/cm Gの水蒸気を用いた二重管式加熱器(外管径2B、内管径3/4B、長さ21m)に、シクロヘキサン溶液中の共重合体の濃度を5質量%とした上記共重合体のシクロヘキサン溶液を150kg/hの量で供給して、180℃に加熱した。
熱源として25kg/cm Gの水蒸気を用いた二重管式フラッシュ乾燥器(外管径2B、内管径3/4B、長さ27m)とフラッシュホッパー(容積200L)とを用いて、上記加熱工程を経た上記共重合体のシクロヘキサン溶液から重合溶媒であるシクロヘキサンとともに大半の未反応モノマーを除去することでフラッシュ乾燥された溶融状態のエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体(環状オレフィンコポリマー)を得た。
脂肪酸エステルであるエキセパールPE-MS(花王株式会社製)を100℃で4時間加熱した溶融状態で、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して2.1質量部の量で直接ベント付二軸混練押出機に装入し、押出機の樹脂装入部より装入した前記環状オレフィンコポリマーと混錬し、押出機出口に取り付けられたアンダーウォーターペレタイザーによりペレット化し、得られたペレットを温度100℃の熱風にて4時間乾燥して環状オレフィンコポリマーの樹脂組成物Iを得た。
得られたペレットのTgは129℃、引張り破壊ひずみ2.5%、曲げ強さは77MPa、曲げ弾性率は3400MPaであった。また、単量体構成比から求めた酸素重量割合は0wt%である