(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044915
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】グラスウール組成物
(51)【国際特許分類】
C03C 13/00 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
C03C13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150741
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】石崎 良太
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 創紀
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA05
4G062BB01
4G062DA06
4G062DB02
4G062DB03
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4G062MM01
4G062NN29
(57)【要約】
【課題】本発明は、Cr含有合金を含むスピナーを用いてグラスウールを製造する際の、該スピナー表面のCr
2O
3被膜の破壊を低減したグラスウール組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】以下のガラス組成:SiO
2:60.0~70.0質量%、Al
2O
3:0.5~3.0質量%、CaO:7.0~12.0質量%、MgO:1.0~5.0質量%、B
2O
3:3.5~8.5質量%、Na
2O:10.5~15.5質量%、K
2O:2.0質量%以下、Fe
2O
3:1.0質量%以下を有し、下記式(1)により算出される塩基度B値が0.520以下であることを特徴とする、グラスウール組成物。
【数1】
(式中、niはグラスウール組成物中の各成分の質量分率、Biは各成分の塩基度を表す。なお、各成分には、質量分率が0.001以上である成分のみを含めるものとする。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のガラス組成:
SiO
2:60.0質量%以上70.0質量%以下、
Al
2O
3:0.5質量%以上3.0質量%以下、
CaO:7.0質量%以上12.0質量%以下、
MgO:1.0質量%以上5.0質量%以下、
B
2O
3:3.5質量%以上8.5質量%以下、
Na
2O:10.5質量%以上15.5質量%以下、
K
2O:2.0質量%以下、
Fe
2O
3:1.0質量%以下
を有し、
下記式(1):
【数1】
(式中、niはグラスウール組成物中の各成分の質量分率、Biは前記各成分の塩基度を表す。なお、前記各成分には、質量分率が0.001以上である成分のみを含めるものとする。)
により算出される塩基度B値が0.520以下であることを特徴とする、グラスウール組成物。
【請求項2】
以下のガラス組成:
SiO2:61.0質量%以上69.0質量%以下、
Al2O3:1.0質量%以上2.5質量%以下、
CaO:7.5質量%以上11.5質量%以下、
MgO:1.5質量%以上4.5質量%以下、
B2O3:4.0質量%以上8.0質量%以下、
Na2O:11.0質量%以上15.0質量%以下、
K2O:1.5質量%以下、
Fe2O3:1.0質量%以下
を有する、請求項1に記載のグラスウール組成物。
【請求項3】
以下のガラス組成:
SiO2:62.0質量%以上68.0質量%以下、
Al2O3:1.0質量%以上2.5質量%以下、
CaO:8.0質量%以上11.0質量%以下、
MgO:2.0質量%以上4.0質量%以下、
B2O3:4.0質量%以上7.5質量%以下、
Na2O:11.5質量%以上15.0質量%以下、
K2O:1.0質量%以下、
Fe2O3:1.0質量%以下
を有する、請求項1に記載のグラスウール組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスウール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱吸音材等の素材となるグラスウールは、一般に、繊維化装置を用いて遠心法により製造される。より具体的には、ガラス原料を溶融させて得られた溶融ガラスが、繊維化装置において多数の微小穴が空いたスピナーに導入され、スピナーが高速回転することにより生じる遠心力によりスピナーの微小穴から押し出され、綿状に繊維化されることによりグラスウールが成形される。
このスピナーは、一般に、Cr、Co及びNi等を含む耐熱合金からなる。スピナーが加熱されると、合金表面でCrが酸化されてCr2O3が生じ、酸化被膜として合金表面を覆うことにより、溶融ガラスによる腐食作用に抵抗する。このように合金に溶融ガラスに対する耐食性を付与することから、Crは合金の構成成分として重要である。
しかしながら、合金表面のCr2O3被膜は高温の溶融ガラスとの接触により破壊され、溶融ガラスに溶出する。次第に合金表面のCr2O3被膜が破壊されてなくなると、Co等の高温強度特性を有する合金成分が溶出してしまい、スピナーの腐食や割れが生じやすくなる。
そこで、例えば、特許文献1には、B、Ni、Cr、Co、W等の合金中の主要元素の含有量を調整することにより、溶融ガラスに対する耐食性を向上させたスピナー用耐熱合金が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、溶融ガラスと合金との接触によるガラス中のクロム成分の変化量については開示されておらず、耐食性の点で更なる改良の余地がある。また、スピナーの腐食軽減のために、スピナーに導入される溶融ガラスを改良した例は報告されていない。
【0005】
そこで、本発明は、Cr含有合金を含むスピナーを用いてグラスウールを製造する際の、該スピナー表面のCr2O3被膜の破壊を低減したグラスウール組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、特にNa2O及びB2O3の含有量を調整した特定のガラス組成及び塩基度B値を有するグラスウール組成物とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
以下のガラス組成:
SiO
2:60.0質量%以上70.0質量%以下、
Al
2O
3:0.5質量%以上3.0質量%以下、
CaO:7.0質量%以上12.0質量%以下、
MgO:1.0質量%以上5.0質量%以下、
B
2O
3:3.5質量%以上8.5質量%以下、
Na
2O:10.5質量%以上15.5質量%以下、
K
2O:2.0質量%以下、
Fe
2O
3:1.0質量%以下
を有し、
下記式(1):
【数1】
(式中、niはグラスウール組成物中の各成分の質量分率、Biは前記各成分の塩基度を表す。なお、前記各成分には、質量分率が0.001以上である成分のみを含めるものとする。)
により算出される塩基度B値が0.520以下であることを特徴とする、グラスウール組成物。
[2]
以下のガラス組成:
SiO
2:61.0質量%以上69.0質量%以下、
Al
2O
3:1.0質量%以上2.5質量%以下、
CaO:7.5質量%以上11.5質量%以下、
MgO:1.5質量%以上4.5質量%以下、
B
2O
3:4.0質量%以上8.0質量%以下、
Na
2O:11.0質量%以上15.0質量%以下、
K
2O:1.5質量%以下、
Fe
2O
3:1.0質量%以下
を有する、[1]に記載のグラスウール組成物。
[3]
以下のガラス組成:
SiO
2:62.0質量%以上68.0質量%以下、
Al
2O
3:1.0質量%以上2.5質量%以下、
CaO:8.0質量%以上11.0質量%以下、
MgO:2.0質量%以上4.0質量%以下、
B
2O
3:4.0質量%以上7.5質量%以下、
Na
2O:11.5質量%以上15.0質量%以下、
K
2O:1.0質量%以下、
Fe
2O
3:1.0質量%以下
を有する、[1]に記載のグラスウール組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Cr含有合金を含むスピナーを用いてグラスウールを製造する際の、該スピナー表面のCr2O3被膜の破壊を低減したグラスウール組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0010】
〈グラスウール組成物〉
本実施形態のグラスウール組成物は、以下のガラス組成を有する。
SiO
2:60.0質量%以上70.0質量%以下、
Al
2O
3:0.5質量%以上3.0質量%以下、
CaO:7.0質量%以上12.0質量%以下、
MgO:1.0質量%以上5.0質量%以下、
B
2O
3:3.5質量%以上8.5質量%以下、
Na
2O:10.5質量%以上15.5質量%以下、
K
2O:2.0質量%以下、
Fe
2O
3:1.0質量%以下。
また、本実施形態のグラスウール組成物は、下記式(1)により算出される塩基度B値が0.520以下である。
【数2】
(式中、niはグラスウール組成物中の各成分の質量分率、Biは前記各成分の塩基度を表す。なお、前記各成分には、質量分率が0.001以上である成分のみを含めるものとする。)
【0011】
本発明者らは、Cr含有合金を含むスピナー表面のCr2O3被膜の破壊低減には、該スピナーで繊維化するグラスウール組成物におけるガラスのイオン性の強さが重要であることを見出した。ここで言うイオン性とは、ある酸化物における酸素イオンの離れやすさを意味する。ガラスのイオン性が強いほど、イオン結合性の酸化物であるCr2O3との反応性が高まるため、Cr2O3が溶出しやすくなる。特に、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物である塩基性酸化物は、酸素イオンの引き付けが弱く、イオン性が強い。
【0012】
本明細書では、このイオン性の影響度を示す指標として、ガラス組成物中の陽イオンからの酸素イオンの離れやすさを示す、塩基度B値を用いる。塩基度B値が大きいほどガラスのイオン性が強いことを示し、Cr
2O
3が反応して溶出しやすくなる。
塩基度B値は、Morinaga K et al., “Compositional Dependence of Absorption Spectra of Ti3+ in Silicate, Borate, and Phosphate Glasses,” Journal of the American Ceramic Society, Volume 77, Issue 12, December 1994, pages 3113-3118(その全体を参照により本明細書に援用するものとする)に示されるように、「ガラス組成の各成分の含有量×各成分の塩基度の総和」として下記式(1)により算出される値である。
【数3】
式(1)中、niは、グラスウール組成物の質量を1としたときの各成分の質量分率、Biは各成分の塩基度を表す。
なお、本明細書において、上記各成分には、質量分率が0.001以上(即ち、含有量が0.1質量%以上)である成分のみを含め、質量分率が0.001未満(即ち、含有量が0.1質量%未満)である成分は除外して塩基度B値を算出する。
【0013】
ガラス組成の各成分の塩基度は、上記Morinaga Kらの論文に記載されており、以下の表1に示すとおりである。
【表1】
【0014】
本実施形態のグラスウール組成物は、上述のように算出される塩基度B値が0.520以下であり、0.510以下であることが好ましく、0.500以下であることがより好ましい。塩基度B値が上記範囲であると、Cr含有合金を含むスピナーを用いてグラスウールを製造する際に、合金表面のCr2O3被膜の破壊を低減することができる。これにより、Cr2O3被膜の溶出が低減され、Cr2O3被膜がより長期にわたり維持されて合金中の他の成分(例えば、高温強度特性を有するCo等)の溶出が抑制されるため、スピナーの腐食や割れが生じにくくなり、スピナーをより長期にわたって使用することができる。また、スピナーの交換頻度が少なくなるため、コストダウンやスピナー交換による作業負荷の低減にもつながる。また、スピナーの割れが大きい場合には、割れた高温のスピナー片や溶融したグラスウール組成物が飛んで作業者に触れたり、生産設備を損傷したりすることも考えられるが、割れが生じにくくなることによりこのような危険も低減され、安全性が向上する。
塩基度B値は低いほど好ましく、下限は特に限定されないが、例えば、0.420以上であってもよく、0.430以上であってもよい。
【0015】
本実施形態のグラスウール組成物を用いてグラスウールを製造する際に使用されるスピナーとしては、Cr含有合金を含むものであれば特に限定されず、例えば、Cr、Co及びNiを基本元素とする合金を含むスピナー等が挙げられる。
スピナー中のCrの含有量は、スピナーを100質量%として、20質量%以上40質量%以下であることが好ましい。Crの含有量が上記範囲であると、スピナー材としての靭性を維持しながら高温強度や溶融ガラスに対する耐摩耗性に優れたものとなる傾向にあり、かつ、本実施形態のグラスウール組成物により、スピナー表面のCr2O3被膜の破壊がより効果的に低減される傾向にある。
【0016】
以下、本実施形態のグラスウール組成物の各成分について説明する。
【0017】
[SiO2]
本実施形態のグラスウール組成物は、グラスウール組成物を100質量%として、SiO2の含有量が60.0質量%以上70.0質量%以下である。SiO2の含有量が上記範囲であると、グラスウール組成物の粘性や溶融温度、失透温度がガラス繊維形成工程において適度な範囲となる傾向にある。
SiO2の含有量は、61.0質量%以上であることが好ましく、62.0質量%以上であることがより好ましい。また、SiO2の含有量は、69.0質量%以下であることが好ましく、68.0質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
[Al2O3]
本実施形態のグラスウール組成物は、グラスウール組成物を100質量%として、Al2O3の含有量が0.5質量%以上3.0質量%以下である。Al2O3の含有量が上記範囲であると、グラスウール組成物の失透を生じにくくし、また化学的耐久性も上昇し、粘性や溶融温度がガラス繊維形成工程において適度な範囲となる傾向にある。
Al2O3の含有量は、1.0質量%以上であることが好ましい。また、Al2O3の含有量は、2.5質量%以下であることが好ましい。
【0019】
[CaO]
本実施形態のグラスウール組成物は、グラスウール組成物を100質量%として、CaOの含有量が7.0質量%以上12.0質量%以下である。CaOの含有量が上記範囲であると、グラスウール組成物の失透温度を適度な範囲に維持しつつ、ガラス粘度がガラス繊維形成工程において適度な範囲となる傾向にある。また、特に、CaOの含有量が12.0質量%以下であるため、塩基度B値が低減されたグラスウール組成物となる。
CaOの含有量は、7.5質量%以上であることが好ましく、8.0質量%以上であることがより好ましい。また、CaOの含有量は、11.5質量%以下であることが好ましく、11.0質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
[MgO]
本実施形態のグラスウール組成物は、グラスウール組成物を100質量%として、MgOの含有量が1.0質量%以上5.0質量%以下である。MgOの含有量が上記範囲であると、グラスウール組成物の失透温度を低下させ、さらにはガラス粘度がガラス繊維形成工程において適度な範囲となる傾向にある。
MgOの含有量は、1.5質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましい。また、MgOの含有量は、4.5質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
[Na2O、B2O3]
本実施形態のグラスウール組成物は、グラスウール組成物を100質量%として、Na2Oの含有量が10.5質量%以上15.5質量%以下であり、B2O3の含有量が3.5質量%以上8.5質量%以下である。
Na2O及びB2O3は、ガラスの粘度を低下させる役割を有する成分である。一方で、表1に示されるように、Na2Oはガラス組成の中でも塩基度が非常に高い成分であるのに対し、B2O3は塩基度が非常に低い成分である。そこで、本発明者らは、Na2O及びB2O3の含有量に着目し、本実施形態のグラスウール組成物において、Na2Oの含有量を15.5質量%以下におさえ、B2O3の含有量を3.5質量%以上とすることにより、グラスウール製造に適した粘度及び溶融温度を維持しつつ、塩基度B値が低減されたグラスウール組成物の実現を可能にした。
塩基度B値をより低減する観点からNa2Oの含有量はより少ない方が好ましく、同時に、Na2Oの含有量を少なくした分、グラスウール製造に適した粘度を維持する観点からB2O3の含有量を増やすことが好ましい。そのため、Na2Oの含有量は、好ましくは15.0質量%以下であり、B2O3の含有量は、好ましくは4.0質量%以上である。
また、Na2Oの含有量が10.5質量%以上であり、B2O3の含有量が8.5質量%以下であると、破砕した廃ガラス等の安価なリサイクルカレットを原料としたり、高価なB2O3原料の使用を低減することができたりするなど、ガラス組成の調整において原料ソースやコストの点で利点がある。これらの観点からは、Na2Oの含有量は、11.0質量%以上であってもよく、11.5質量%以上であってもよい。また、B2O3の含有量は、8.0質量%以下であってもよく、7.5質量%以下であってもよい
【0022】
[K2O]
本実施形態のグラスウール組成物は、グラスウール組成物を100質量%として、K2Oの含有量が2.0質量%以下である。K2Oの含有量が上記範囲であると、グラスウール組成物のガラスの粘度を低下させ、粘度をガラス繊維形成工程において適度な範囲にし、さらにはNa2Oとの混合アルカリ効果によって化学的耐久性が良好となる傾向にある。その一方で、K2Oは組成の中でも塩基度が高い成分であるが、K2Oの含有量が2.0質量%以下であるため、塩基度B値が低減されたグラスウール組成物となる。
K2Oの含有量は、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。また、K2Oの含有量の下限について、K2Oは少ないほど好ましいが、グラスウールの主な原料として廃棄された板ガラスや市中で回収したビンガラスを粉砕したリサイクルカレットを用いた場合、それらにK2Oが少量含有されているため、特に限定されない。
【0023】
[Fe2O3]
本実施形態のグラスウール組成物は、グラスウール組成物を100質量%として、Fe2O3の含有量が1.0質量%以下である。グラスウールの主な原料として廃棄された板ガラスや市中で回収したビンガラスを粉砕したリサイクルカレットを用いた場合、Fe2O3含有量はカレット毎にばらつくが、1.0質量%以下であれば十分に好ましく、グラスウール組成物の熱伝達・熱吸収を適度な範囲に維持しつつ、炉の材料の浸食を軽減できる傾向にある。
また、Fe2O3の含有量の下限は、上述の原料から混入不可避のため、特に限定されない。
【0024】
[その他]
本実施形態のグラスウール組成物は、グラスウール組成物の物性としての必要性及び製造上の必要性を満たし、本発明の目的を損なわない範囲であれば、上述の8成分以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、表1に示される成分の他、グラスウールの主な原料として廃棄された板ガラスや市中で回収したビンガラスを粉砕したリサイクルカレットを用いた場合に混入するCr2O3やCoOなどの着色成分や、SO3などの清澄成分等が挙げられる。
その他の成分の含有量は、上述の8成分の残部としてよく、特に限定されないが、合計で0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本実施形態のグラスウール組成物は、高温にし過ぎずとも一般的な温度条件で容易にグラスウールを製造できるという観点から、1100℃における粘度が70~85Pa・sであることが好ましく、71~84Pa・sであることがより好ましく、72~83Pa・sであることがさらに好ましい。
【0026】
〈グラスウール組成物の製造方法〉
本実施形態のグラスウール組成物は、ガラス原料を調合し、溶融混合することにより得ることができる。
ガラス原料は、特に限定されず、公知のガラス原料を用いることができるが、廃棄された板ガラスや市中で回収したビンガラスを粉砕したリサイクルカレットをグラスウールの主となるガラス原料として用いると、本実施形態のグラスウール組成物のガラス組成に近くなり、調整しやすい。
【0027】
〈グラスウール〉
本実施形態のグラスウールは、上述の本実施形態のグラスウール組成物を含み、上述の本実施形態のグラスウール組成物を繊維化装置を用いて遠心法により繊維化することで製造することができる。
【実施例0028】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例及び比較例で用いた測定・評価方法は、以下のとおりである。
【0030】
[粘度]
粘度計(円筒回転法を用いた自作製「回転式粘度計」)を用いて1100℃におけるグラスウール組成物の粘度(Pa・s)を測定した。
【0031】
[腐食試験]
蛍光X線分析装置(リガク社製「波長分散型蛍光X線 ZSX Primus II」)を用い、以下の条件にて腐食試験を行う前後のグラスウール組成物のガラス組成(質量%)を求めた。
(試験条件)
スピナーに用いられるCrを含む合金として、特開2004-99968号公報の実施例合金8に示される組成(C:0.68、Si:1.02、Mn:0.68、Ni:22.1、Cr:33.4、Co:32.4、W:6.72、B:0.04、Nb:1.23、単位は質量%)を有する合金を準備し、試験片(10mm×10mm×5mm)を得た。
上記試験片とグラスウール組成物とをアルミナるつぼに入れて1100℃の電気炉に挿入し、すぐにるつぼに蓋をした。24時間後、電気炉からるつぼ及び蓋を取り出し、650℃に熱した徐冷炉に入れて徐冷した。その後、徐冷されたるつぼを回収し、粉砕してグラスウール組成物を回収した。
【0032】
[実施例1、2、比較例1、2]
ガラス原料を調合し、1400℃で2時間かけて溶解し、ガラス化することにより、表2に示すガラス組成のグラスウール組成物を得た。
なお、残部(腐食試験前)が0.1質量%以上である実施例1及び比較例1について、残部(腐食試験前)の主成分は、それぞれ以下であった。
実施例1:Cl:0.15質量%
比較例1:Cl:0.12質量%
各グラスウール組成物の測定結果を表2に示す。
【0033】
【0034】
表2の測定結果より、塩基度B値が高いグラスウール組成物ほどCr2O3の溶出量が多いことが分かる。
実施例1よりもNa2O含有量を減らし、B2O3含有量を増加させることにより実施例1よりも塩基度B値を低減させた実施例2では、実施例1と同等の粘度を維持しながらCr2O3の溶出量を低減することができた。
比較例1は、塩基度B値が低いためCr2O3の溶出量も少なかったが、粘度が高く、グラスウールの製造(繊維化)には不適合であった。
実施例1及び2よりもB2O3含有量を減らし、Na2O含有量を増加させた比較例2は、実施例1及び2と粘度に大きな差はなかったが、塩基度B値が0.520超と高く、Cr2O3の溶出量が多かった。そのため、腐食試験において、実施例1、2及び比較例1よりも合金試験片の表面に腐食跡が多く観察され、また、グラスウールの製造(繊維化)を行った際には、実施例1、2及び比較例1よりもスピナー表面のCr2O3被膜の破壊がより早く生じ、腐食が多発した。
なお、塩基度B値が低いグラスウール組成物ほど、腐食試験後にAl2O3の含有量が増加したが、これはアルミナるつぼからAl2O3が溶出したものと考えられる。