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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044917
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】シリカ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
C01B33/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150743
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 啓
(72)【発明者】
【氏名】竹内 栄
(72)【発明者】
【氏名】銭谷 優香
(72)【発明者】
【氏名】持田 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】野原 晃太
(72)【発明者】
【氏名】関 三枝子
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072HH30
4G072JJ09
4G072JJ23
4G072JJ42
4G072KK03
4G072KK15
4G072LL11
4G072MM02
4G072PP15
4G072PP17
4G072QQ01
4G072QQ09
(57)【要約】
【課題】モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物を含むシリカ粒子であって、帯電分布が狭いシリカ粒子を製造すること。
【解決手段】シリカ粒子の製造方法は、シリカ母粒子の表面に3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を形成する被覆工程と、水と、アルコールと、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子と、モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物と、アンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有し且つアンモニア及びアミンの総量が0.2質量%以上4.5質量%以下である反応液中で、被覆構造にモリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物を付着させる付着工程と、反応液から水及びアルコールを除去する乾燥工程と、を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ母粒子の表面に3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を形成する被覆工程と、
水と、アルコールと、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子と、モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物と、アンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有し且つアンモニア及びアミンの総量が0.2質量%以上4.5質量%以下である反応液中で、前記被覆構造に前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物を付着させる付着工程と、
前記反応液から水及びアルコールを除去する乾燥工程と、を有する、
シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記反応液が、アンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記反応液に含まれるアンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンの総量が0.2質量%以上4.5質量%以下である、
請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物が、モリブデン元素を含む第四級アンモニウム塩、及び、第四級アンモニウム塩とモリブデン元素を含む金属酸化物との混合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物がCAS登録番号117342-25-3の化合物である、請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記3官能シラン化合物が下記の式(S)で表される3官能シラン化合物である、請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
式(S) RSiX
Rは炭素数1以上6以下の炭化水素基であり、3個のXはそれぞれ独立に水酸基又は加水分解基である。
【請求項6】
前記式(S)において3個のXがそれぞれ独立にメトキシ基又はエトキシ基である、請求項5に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記反応液が、前記3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子100質量部に対して、前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物を1質量部以上5質量部以下含む、請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記反応液に含まれるアルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び2-メチル-2-プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記反応液に含まれるアルコールの量が45質量%以上95質量%以下である、請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記付着工程が、前記反応液の温度を25℃以上65℃以下の範囲に保持し1時間以上攪拌することを含む、請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記被覆工程の前に、シリカ母粒子をゾルゲル法により造粒する造粒工程をさらに有する、請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリカ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、樹脂母粒子と、樹脂母粒子の表面に存在し、四級アンモニウム塩を含有し、且つ、表面が疎水化処理されたシリカ粒子と、を有し、洗浄前の樹脂粒子における熱分解質量分析によって得られる四級アンモニウム塩の熱分解物に由来する検出温度を検出温度Aとし、洗浄後の樹脂粒子における熱分解質量分析によって得られる四級アンモニウム塩の熱分解物に由来する検出温度を検出温度Bとした場合における、検出温度Aと検出温度Bとの差(検出温度A-検出温度B)が50℃超過である樹脂粒子、並びにその製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、体積基準の粒度分布における1次粒子のメジアン径(D50)が5~250nmであり、D90/D10比が3以下であり、かつ平均円形度が0.8~1であるシリカ粒子の表面に、第4級塩型シラン化合物が結合した正帯電型疎水性球状シリカ粒子、並びにその製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、第四級アンモニウム塩を含有し、洗浄前のシリカ粒子における窒素ガス吸着法の細孔分布曲線から求める細孔直径2nm以下の頻度の最大値FBEFOREと、洗浄後のシリカ粒子における窒素ガス吸着法の細孔分布曲線から求める細孔直径2nm以下の頻度の最大値FAFTERとの比FBEFORE/FAFTERが0.90以上1.10以下であり、且つ、最大値FBEFOREと、洗浄前のシリカ粒子を600℃で焼成後のシリカ粒子における窒素ガス吸着法の細孔分布曲線から求める細孔直径2nm以下の頻度の最大値FSINTERINGとの比FSINTERING/FBEFOREが5以上20以下であるシリカ粒子、並びにその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-018496号公報
【特許文献2】特開2022-033224号公報
【特許文献3】特開2021-151944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物を含むシリカ粒子であって、帯電分布が狭いシリカ粒子を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段には、下記の態様が含まれる。
【0008】
<1>
シリカ母粒子の表面に3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を形成する被覆工程と、
水と、アルコールと、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子と、モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物と、アンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有し且つアンモニア及びアミンの総量が0.2質量%以上4.5質量%以下である反応液中で、前記被覆構造に前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物を付着させる付着工程と、
前記反応液から水及びアルコールを除去する乾燥工程と、を有する、
シリカ粒子の製造方法。
<2>
前記反応液が、アンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記反応液に含まれるアンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンの総量が0.2質量%以上4.5質量%以下である、
<1>に記載のシリカ粒子の製造方法。
<3>
前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物が、モリブデン元素を含む第四級アンモニウム塩、及び、第四級アンモニウム塩とモリブデン元素を含む金属酸化物との混合物からなる群から選択される少なくとも1種である、<1>又は<2>に記載のシリカ粒子の製造方法。
<4>
前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物がCAS登録番号117342-25-3の化合物である、<1>又は<2>に記載のシリカ粒子の製造方法。
<5>
前記3官能シラン化合物が下記の式(S)で表される3官能シラン化合物である、<1>~<4>のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
式(S) RSiX
Rは炭素数1以上6以下の炭化水素基であり、3個のXはそれぞれ独立に水酸基又は加水分解基である。
<6>
前記式(S)において3個のXがそれぞれ独立にメトキシ基又はエトキシ基である、<5>に記載のシリカ粒子の製造方法。
<7>
前記反応液が、前記3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子100質量部に対して、前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物を1質量部以上5質量部以下含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
<8>
前記反応液に含まれるアルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び2-メチル-2-プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、<1>~<7>のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
<9>
前記反応液に含まれるアルコールの量が45質量%以上95質量%以下である、<1>~<8>のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
<10>
前記付着工程が、前記反応液の温度を25℃以上65℃以下の範囲に保持し1時間以上攪拌することを含む、<1>~<9>のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
<11>
前記被覆工程の前に、シリカ母粒子をゾルゲル法により造粒する造粒工程をさらに有する、<1>~<10>のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
<1>、<3>、<4>、<5>、<6>、<7>、<8>、<9>、<10>又は<11>に係る発明によれば、反応液中のアンモニア及びアミンの総量が0.2質量%未満又は4.5質量%超である製造方法に比べて、帯電分布が狭いシリカ粒子を製造することができる。
<2>に係る発明によれば、反応液中のアンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンの総量が0.2質量%未満又は4.5質量%超である製造方法に比べて、帯電分布が狭いシリカ粒子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0011】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0012】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0014】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0015】
<シリカ粒子の製造方法>
本実施形態に係るシリカ粒子の製造方法は、下記の被覆工程、付着工程及び乾燥工程を有する。
【0016】
被覆工程:シリカ母粒子の表面に3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を形成する工程。
付着工程:水と、アルコールと、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子と、モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物と、アンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有し且つアンモニア及びアミンの総量が0.2質量%以上4.5質量%以下である反応液中で、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造にモリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物を付着させる工程。
乾燥工程:反応液から水及びアルコールを除去する工程。
【0017】
本開示において、「モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物」を「モリブデン窒素含有化合物」という。
本開示において、反応液に含まれるアンモニア及びアミンの総量を「アルカリ濃度」という。反応液のアルカリ濃度は、反応液全体の質量に対するアンモニア及びアミンの総質量(質量%)である。
【0018】
本実施形態に係る製造方法によって製造されたシリカ粒子は帯電分布が狭い。推測される機序は下記のとおりである。
【0019】
従来、帯電制御剤として作用する化合物であるモリブデン窒素含有化合物を表面に付着したシリカ粒子がある。モリブデン窒素含有化合物をシリカ粒子表面に付着させる一般的な方法は、シリカ粒子懸濁液にモリブデン窒素含有化合物を溶解させることと、シリカ粒子懸濁液を乾燥させることとを含む。
ただし、モリブデン窒素含有化合物はシリカ粒子懸濁液の媒体(通常、水とアルコールの混合液である。)への溶解度が低いので、乾燥後のシリカ粒子にモリブデン窒素含有化合物が析出してなる結晶体及び/又は凝集物が混入することがある。モリブデン窒素含有化合物の結晶体及び/又は凝集物が混入したシリカ粒子は、帯電分布が広くなる傾向がある。
これに対して、本実施形態に係る製造方法は、付着工程の反応液におけるモリブデン窒素含有化合物の溶解度を上げる目的で、反応液のアルカリ濃度を0.2質量%以上とする。このことによって反応液に対するモリブデン窒素含有化合物の溶解度を上げ、より多くのモリブデン窒素含有化合物をシリカ粒子の被覆構造に付着させ、その結果、乾燥後のシリカ粒子にモリブデン窒素含有化合物の結晶体及び/又は凝集物が混入することを抑制する。したがって、本実施形態に係る製造方法によって製造されたシリカ粒子は帯電分布が狭い。
【0020】
本実施形態において付着工程の反応液のアルカリ濃度は0.2質量%以上4.5質量%以下である。
反応液のアルカリ濃度が0.2質量%未満であると、反応液に対するモリブデン窒素含有化合物の溶解度が低く、乾燥後のシリカ粒子にモリブデン窒素含有化合物の結晶体及び/又は凝集物が混入することがある。反応液のアルカリ濃度は、モリブデン窒素含有化合物(特にCAS登録番号117342-25-3の化合物)の溶解度を上げる観点から、0.2質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましい。
反応液に対するモリブデン窒素含有化合物の溶解度を上げる観点からは、アルカリ濃度は高いことが好ましいが、ただし、反応液のアルカリ濃度が高すぎると反応液中のシリカ粒子の分散が不安定になる。反応液中のシリカ粒子の分散安定性の観点から、反応液のアルカリ濃度は4.5質量%以下であり、4.3質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましい。
【0021】
本開示において、本実施形態に係る製造方法によって製造されるシリカ粒子を「シリカ粒子(S)」という。
【0022】
シリカ粒子(S)は、SEM-EDXにより作成したモリブデン元素マップにおいて、モリブデン元素の総面積に占める、長径500nm以上の塊を成している領域の総面積が5%以下であることが好ましい。
【0023】
本開示において、「SEM-EDXにより作成したモリブデン元素マップにおいて、長径500nm以上の塊を成している領域」を「モリブデン塊」といい、「SEM-EDXにより作成したモリブデン元素マップにおいて、モリブデン元素の総面積に占める、長径500nm以上の塊を成している領域の総面積」を「モリブデン塊の存在率」という。
【0024】
モリブデン塊の存在率は、SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy,走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析)によって測定する特性であり、具体的な測定方法は下記のとおりである。
【0025】
シリカ粒子をカーボンテープ上にまいて固定する。このとき可能な限り、シリカ粒子が互いに接したり重なったりしないように分散させてまき、且つ、倍率180倍のSEMの一視野に観察されるシリカ粒子が500個以上2000個以下となる密度にする。
シリカ粒子にカーボンを真空蒸着し、これをSEMの試料とする。カーボンの蒸着時間は70秒である。
EDX装置(堀場製作所製、EMAX ENERGY、検出器:X-Max80mm)を取り付けたSEM(日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いて、倍率180倍で試料を撮影する。SEMの加速電圧10kV、EDXの検出時間はモリブデン元素について300秒である。3視野を撮影し、観察されるシリカ粒子の総個数1500個以上6000個以下とする。
モリブデン元素のEDXマッピングデータを画像処理解析ソフトWinRoof(三谷商事株式会社)で解析し、色抽出における明度(L)及び彩度(S)の最高値の10%を閾値として二値化し、二値化したモリブデン元素マップを作成する。
二値化したモリブデン元素マップにおいて、モリブデン元素の総面積A1と、長径(すなわち輪郭の長軸長さ)500nm以上の塊を成している領域の総面積A2とを算出する。A1に占めるA2の面積割合(百分率)を「モリブデン塊の存在率」とする。
【0026】
シリカ粒子のモリブデン元素マップにおけるモリブデン塊は、モリブデン元素が存在することと、SEM画像において観察される形状及び大きさとからして、モリブデン窒素含有化合物の結晶体及び/又は凝集物と推定される。シリカ粒子のモリブデン元素マップにモリブデン塊が存在することは、シリカ粒子にモリブデン窒素含有化合物の結晶体及び/又は凝集物が混入していることを意味する。
【0027】
シリカ粒子(S)におけるモリブデン塊の存在率の値は低いほど好ましい。具体的には、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましく、0%が理想的である。
【0028】
以下、シリカ粒子の製造方法の各工程とシリカ粒子の構図及び成分を詳細に説明する。
【0029】
[シリカ母粒子]
シリカ母粒子は、乾式シリカでもよく、湿式シリカでもよい。
【0030】
乾式シリカとしては、シラン化合物を燃焼させて得られる燃焼法シリカ(ヒュームドシリカ);金属ケイ素粉を爆発的に燃焼させて得られる爆燃法シリカ;が挙げられる。
【0031】
湿式シリカとしては、珪酸ナトリウムと鉱酸との中和反応によって得られる湿式シリカ(アルカリ条件で合成・凝集した沈降法シリカ、酸性条件で合成・凝集したゲル法シリカ粒子);酸性珪酸をアルカリ性にして重合することで得られるコロイダルシリカ;有機シラン化合物(例えばアルコキシシラン)の加水分解によって得られるゾルゲルシリカ;が挙げられる。
【0032】
シリカ母粒子としては、帯電分布狭化の観点から、ゾルゲルシリカが好ましい。
【0033】
被覆工程に供するシリカ母粒子は、下記の工程(i)又は工程(ii)によってシリカ母粒子懸濁液として準備することが好ましい。
工程(i):アルコールを含む溶媒とシリカ母粒子とを混合してシリカ母粒子懸濁液を準備する工程。
工程(ii):シリカ母粒子をゾルゲル法により造粒してシリカ母粒子懸濁液を得る工程。
【0034】
工程(i)に用いるシリカ母粒子は、乾式シリカでもよく、湿式シリカでもよい。具体的には、ゾルゲルシリカ、水性コロイダルシリカ、アルコール性シリカ、フェームドシリカ、溶融シリカ等が挙げられる。
【0035】
工程(i)に用いるアルコールを含む溶媒は、アルコール単独の溶媒であってもよいし、アルコールとその他の溶媒との混合溶媒であってもよい。混合溶媒の場合、アルコールの割合は80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0036】
アルコールを含む溶媒を構成するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール(n-ブチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール(イソブチルアルコール)、2-ブタノール(sec-ブチルアルコール)、2-メチル-2-プロパノール(tert-ブチルアルコール)等の低級アルコールが挙げられる。中でも、テトラアルコキシシラン及びシリカとの反応性の低さ、シリカ粒子の分散安定性、乾燥工程における除去の容易さ等の観点から、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び2-メチル-2-プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0037】
アルコールを含む溶媒を構成するアルコール以外のその他の溶媒としては、水;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸セロソルブ等のセロソルブ類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;などが挙げられる。
【0038】
アルコールを含む溶媒として、低級アルコールと水との混合溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び2-メチル-2-プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種と水との混合溶媒がより好ましい。当該混合溶媒に占めるアルコールの割合は、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0039】
本開示において工程(ii)を「造粒工程」ともいう。以下に造粒工程の詳細を説明する。
【0040】
[造粒工程]
造粒工程は、シリカ母粒子をゾルゲル法により造粒する工程である。本工程によって被覆工程に供されるシリカ母粒子懸濁液が得られる。
【0041】
造粒工程は、アルコールを含む溶媒中にアルカリ触媒が含まれるアルカリ触媒溶液を準備するアルカリ触媒溶液準備工程と、アルカリ触媒溶液中にテトラアルコキシシラン及びアルカリ触媒を供給して、シリカ母粒子を生成させるシリカ母粒子生成工程と、を含むゾルゲル法であることが好ましい。
【0042】
アルカリ触媒溶液準備工程は、アルコールを含む溶媒を準備し、この溶媒とアルカリ触媒とを混合して、アルカリ触媒溶液を得る工程であることが好ましい。
【0043】
アルコールを含む溶媒は、アルコール単独の溶媒であってもよいし、アルコールとその他の溶媒との混合溶媒であってもよい。混合溶媒の場合、アルコールの割合は80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0044】
アルコールを含む溶媒を構成するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール(n-ブチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール(イソブチルアルコール)、2-ブタノール(sec-ブチルアルコール)、2-メチル-2-プロパノール(tert-ブチルアルコール)等の低級アルコールが挙げられる。中でも、テトラアルコキシシラン及びシリカとの反応性の低さ、シリカ粒子の分散安定性、乾燥工程における除去の容易さ等の観点から、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び2-メチル-2-プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0045】
アルコールを含む溶媒を構成するアルコール以外のその他の溶媒としては、水;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸セロソルブ等のセロソルブ類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;などが挙げられる。
【0046】
アルカリ触媒は、テトラアルコキシシランの反応(加水分解反応と縮合反応)を促進させるための触媒であり、例えば、アンモニア、尿素、モノアミン等の塩基性触媒が挙げられ、特にアンモニアが好ましい。
【0047】
アルカリ触媒溶液準備工程の一例は、アルコールとアンモニア水とを混合することを含む。本形態によって、アルコールと水との混合溶媒にアンモニアが溶解したアルカリ触媒溶液が得られる。ここでアルコールとして、低級アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び2-メチル-2-プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。アルコールと水との混合溶媒に占めるアルコールの割合は、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0048】
アルカリ触媒溶液におけるアルカリ触媒の濃度は、0.5mol/L以上1.5mol/L以下が好ましく、0.6mol/L以上1.2mol/L以下がより好ましく、0.65mol/L以上1.1mol/L以下が更に好ましい。
【0049】
シリカ母粒子生成工程は、アルカリ触媒溶液中にテトラアルコキシシランとアルカリ触媒とをそれぞれ供給し、アルカリ触媒溶液中でテトラアルコキシシランを反応(加水分解反応と縮合反応)させて、シリカ母粒子を生成する工程である。
【0050】
シリカ母粒子生成工程では、テトラアルコキシシランの供給初期にテトラアルコキシシランの反応により核粒子が生成した後(核粒子生成段階)、この核粒子の成長を経て(核粒子成長段階)、シリカ母粒子が生成する。
【0051】
テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。反応速度の制御性又は生成するシリカ母粒子の形状の均一性の観点から、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランが好ましい。
【0052】
アルカリ触媒溶液中に供給するアルカリ触媒は、アルカリ触媒溶液中に予め含まれるアルカリ触媒と同じ種類の化合物であってもよく異なる種類の化合物であってもよく、同じ種類の化合物であることが好ましい。
【0053】
アルカリ触媒溶液中に供給するアルカリ触媒として、例えば、アンモニア、尿素、モノアミン等の塩基性触媒が挙げられ、特にアンモニアが好ましい。アンモニア水を滴下することによって、アンモニアをアルカリ触媒溶液中に供給することが好ましい。
【0054】
アルカリ触媒溶液中にテトラアルコキシシランとアルカリ触媒とをそれぞれ供給する供給方式は、連続的に供給する方式であってもよいし、間欠的に供給する方式であってもよい。
【0055】
シリカ母粒子生成工程において、アルカリ触媒溶液の温度(供給時の温度)は、5℃以上50℃以下が好ましく、15℃以上45℃以下がより好ましい。
【0056】
[被覆工程]
被覆工程は、シリカ母粒子表面の少なくとも一部に(好ましくはシリカ母粒子表面の全体に)、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を形成する工程である。
【0057】
被覆工程に用いる3官能シラン化合物の非官能基がアルキル基などの疎水性基である場合、本工程によって被覆構造が形成されるとともにシリカ粒子表面が疎水化される。
【0058】
被覆工程は、例えば、シリカ母粒子懸濁液に3官能シラン化合物を添加し、シリカ母粒子の表面において3官能シラン化合物を反応させ、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を形成する。
【0059】
3官能シラン化合物の反応は、例えば、3官能シラン化合物をシリカ母粒子懸濁液に添加後、懸濁液を攪拌しながら加熱することで実施する。具体的には、例えば、懸濁液を40℃以上70℃に加熱し、攪拌しながら3官能シラン化合物を添加し、攪拌を継続する。攪拌を持続する時間は、10分間以上24時間以下が好ましく、60分間以上420分間以下がより好ましく、80分間以上300分間以下が更に好ましい。
【0060】
-3官能シラン化合物、被覆構造-
3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造は、シリカ母粒子よりも低密度であり、細孔構造を有する。また、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造は、モリブデン窒素含有化合物と親和性が高い。したがって、被覆構造の内部(つまり細孔構造の細孔内)にモリブデン窒素含有化合物が入り込み、シリカ粒子(S)に含まれるモリブデン窒素含有化合物の含有量が比較的多くなるものと推測される。
【0061】
シリカ母粒子の表面が負帯電性であるところ、正帯電性のモリブデン窒素含有化合物が付着することで、シリカ母粒子の過剰な負帯電を打ち消す効果が発生する。モリブデン窒素含有化合物はシリカ粒子(S)表面において被覆構造の内部(好ましくは細孔構造の細孔内)に付着しているので、シリカ粒子(S)の帯電分布が正帯電側に広がることはなく、シリカ母粒子の過剰な負帯電を打ち消すことでシリカ粒子(S)の帯電分布の狭化が実現される。
【0062】
3官能シラン化合物は、N(窒素元素)を含有しない化合物であることが好ましい。3官能シラン化合物としては、下記の式(S)で表されるシラン化合物が好ましい。
【0063】
式(S) RSiX
式(S)中、Rは炭素数1以上6以下の炭化水素基であり、3個のXはそれぞれ独立に水酸基又は加水分解基である。
【0064】
3官能シラン化合物の反応生成物とは、例えば、式(S)において、Xのすべて又は一部がOH基に置換した反応生成物;XがOH基に置換した基のすべて又は一部の基どうしが重縮合した反応生成物;XがOH基に置換した基のすべて又は一部とシリカ母粒子のSiOH基とが重縮合した反応生成物;が挙げられる。
【0065】
式(S)中のRで表される炭素数1以上6以下の炭化水素基として、脂肪族炭化水素基又はフェニル基が挙げられる。脂肪族炭化水素基の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。フェニル基の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0066】
Rが脂肪族炭化水素基であるとき、直鎖状、分岐状及び環状のいずれでもよく、直鎖状又は分岐状が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和及び不飽和のいずれでもよく、飽和脂肪族炭化水素基が好ましく、つまりアルキル基が好ましい。
【0067】
炭素数1以上6以下の直鎖状アルキル基として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基が挙げられる。
炭素数3以上6以下の分岐状アルキル基として、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基が挙げられる。
炭素数3以上6以下の環状アルキル基として、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、これら単環のアルキル基が連結した多環のアルキル基が挙げられる。
【0068】
式(S)中のRは、炭素数1以上6以下の直鎖状アルキル基又は炭素数3以上6以下の分岐状アルキル基であることが好ましく、炭素数1以上4以下の直鎖状アルキル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることが更に好ましい。
【0069】
式(S)中のXで表される加水分解基としては、アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1以上6以下の直鎖状、分岐状又は環状のアルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0070】
炭素数1以上6以下の直鎖状アルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基が挙げられる。
炭素数3以上6以下の分岐状アルコキシ基として、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、sec-ヘキシルオキシ基、tert-ヘキシルオキシ基が挙げられる。
炭素数3以上6以下の環状アルコキシ基として、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0071】
式(S)中の3個のXはそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下の直鎖状アルコキシ基又は炭素数3以上6以下の分岐状アルコキシ基であることが好ましく、炭素数1以上4以下の直鎖状アルコキシ基であることがより好ましく、メトキシ基又はエトキシ基であることが更に好ましい。
【0072】
3官能シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。3官能シラン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0073】
3官能シラン化合物としては、アルキルトリアルコキシシランが好ましく、
アルキル基の炭素数が1以上6以下である、アルキルトリメトキシシラン及びアルキルトリエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく;
アルキル基の炭素数が1以上4以下である、アルキルトリメトキシシラン及びアルキルトリエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種が更に好ましく;
メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン及びエチルトリエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0074】
シリカ粒子(S)全体に占める、3官能シラン化合物の反応生成物で構成された被覆構造の質量割合は、5.5質量%以上30質量%以下が好ましく、7質量%以上22質量%以下がより好ましい。
【0075】
[付着工程]
付着工程は、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子の当該被覆構造に、モリブデン窒素含有化合物を付着させる工程である。付着工程は、3官能シラン化合物の反応生成物からなる細孔構造の細孔内に、モリブデン窒素含有化合物を付着させる工程であることが好ましい。
【0076】
付着工程における反応液は、水と、アルコールと、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子と、モリブデン窒素含有化合物と、アンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有し、且つアンモニア及びアミンの総量(本開示において「アルカリ濃度」という。)が0.2質量%以上4.5質量%以下である。
【0077】
反応液のアルカリ濃度は、モリブデン窒素含有化合物(特にCAS登録番号117342-25-3の化合物)の溶解度を上げる観点から、0.2質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましい。
反応液のアルカリ濃度は、反応液中のシリカ粒子の分散安定性の観点から、4.5質量%以下であり、4.3質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましい。
【0078】
反応液に含まれるアンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種は、モリブデン窒素含有化合物(特にCAS登録番号117342-25-3の化合物)の溶解度を上げる観点から、アンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。つまり反応液は、アンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
反応液に含まれるアンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンの総量は、モリブデン窒素含有化合物の溶解度を上げる観点から、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が更に好ましい。
反応液に含まれるアンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンの総量は、反応液中のシリカ粒子の分散安定性の観点から、4.5質量%以下が好ましく、4.3質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が更に好ましい。
【0079】
反応液に含まれるアンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種は、モリブデン窒素含有化合物(特にCAS登録番号117342-25-3の化合物)の溶解度を上げる観点から、アンモニアであることが特に好ましい。つまり反応液は、アンモニアを含有することが特に好ましい。
反応液に含まれるアンモニア量は、モリブデン窒素含有化合物の溶解度を上げる観点から、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が更に好ましい。
反応液に含まれるアンモニア量は、反応液中のシリカ粒子の分散安定性の観点から、4.5質量%以下が好ましく、4.3質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が更に好ましい。
【0080】
反応液に含まれるモリブデン窒素含有化合物の量は、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下が好ましく、1.2質量部以上4.8質量部以下がより好ましく、1.5質量部以上4.5質量部以下が更に好ましい。
【0081】
反応液を構成するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール(n-ブチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール(イソブチルアルコール)、2-ブタノール(sec-ブチルアルコール)、2-メチル-2-プロパノール(tert-ブチルアルコール)等の低級アルコールが挙げられる。中でも、テトラアルコキシシラン及びシリカとの反応性の低さ、シリカ粒子の分散安定性、乾燥工程における除去の容易さ等の観点から、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び2-メチル-2-プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0082】
反応液に含まれるアルコールの量は、シリカ粒子の分散安定性の観点から、反応液全体に対して45質量%以上95質量%以下が好ましく、46質量%以上94質量%以下がより好ましく、48質量%以上92質量%以下が更に好ましい。
【0083】
付着工程は、反応液を準備する反応液準備工程と、反応液の温度を所望の範囲に保持しながら攪拌する攪拌工程とを含むことが好ましい。
【0084】
反応液準備工程は、例えば、シリカ母粒子と3官能シラン化合物とを反応させた後のシリカ粒子懸濁液(以下、反応液準備工程の説明において単に「懸濁液」という。)に、モリブデン窒素含有化合物を添加することで実施する。反応液には、懸濁液から持ち込まれた水、アルコール、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子及びアルカリ触媒が含まれる。
【0085】
反応液準備工程は、反応液のアルカリ濃度を0.2質量%以上4.5質量%以下に調整する目的で、アンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を懸濁液に添加することを含んでもよい。
反応液準備工程は、反応液のアルカリ濃度を0.2質量%以上4.5質量%以下に調整する目的で、アルコール及び/又は水を懸濁液に添加することを含んでもよい。
【0086】
反応液準備工程における成分の混合の仕方及び混合順は制限されない。
実施形態の一例は、モリブデン窒素含有化合物を懸濁液に添加した後に、さらにアンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を懸濁液に添加し、反応液のアルカリ濃度を0.2質量%以上4.5質量%以下に調整する。
実施形態の別の一例は、アンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を懸濁液に添加し、その後、モリブデン窒素含有化合物を懸濁液に添加し、アルカリ濃度0.2質量%以上4.5質量%以下である反応液を得る。
【0087】
反応液準備工程においてモリブデン窒素含有化合物を懸濁液に添加することは、例えば下記の(1)及び/又は(2)により行う。
(1)モリブデン窒素含有化合物そのものを懸濁液に添加する。
(2)モリブデン窒素含有化合物を含むアルコール液を予め調製し、アルコール液を懸濁液に添加する。当該アルコール液のアルコールは、懸濁液に含まれるアルコールと同じ種類であってもよく異なる種類であってもよく、同じ種類であることが好ましい。当該アルコール液において、モリブデン窒素含有化合物の濃度は0.05質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上6質量%以下がより好ましい。
【0088】
攪拌工程は、反応液の液温を25℃以上65℃以下の範囲に保ちながら1時間以上攪拌することが好ましい。反応液の液温は、30℃以上65℃以下の範囲がより好ましく、35℃以上65℃以下の範囲が更に好ましい。攪拌を持続する時間は、1時間以上24時間以下が好ましく、1.5時間以上12時間以下がより好ましく、2時間以上6時間以下が更に好ましい。攪拌を持続する間、反応液の液温は上記の温度範囲において一定でもよく変動してもよい。
【0089】
-モリブデン窒素含有化合物-
モリブデン窒素含有化合物は、アンモニア及び温度25℃以下で気体状態の化合物を除く、モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物である。
【0090】
モリブデン窒素含有化合物は、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造の内部(好ましくは細孔構造の細孔内)に付着していることが好ましい。モリブデン窒素含有化合物は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0091】
モリブデン窒素含有化合物は、帯電分布狭化及び帯電分布維持性の観点から、モリブデン元素を含む第四級アンモニウム塩(特に、モリブデン酸第四級アンモニウム塩)、及び、第四級アンモニウム塩とモリブデン元素を含む金属酸化物との混合物からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。モリブデン元素を含む第四級アンモニウム塩は、モリブデン元素を含むアニオンと第四級アンモニウムカチオンとの結合が強いので、帯電分布維持性が高い。
【0092】
モリブデン窒素含有化合物としては、下記の式(1)で表される化合物が好ましい。
【0093】
【化1】
【0094】
式(1)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、Xはモリブデン元素を含む陰イオンを表す。ただし、R、R、R及びRの少なくとも1つはアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。R、R、R及びRのうち2つ以上が連結して、脂肪族環、芳香環又はヘテロ環を形成してもよい。ここで、アルキル基、アラルキル基及びアリール基は置換基を有していてもよい。
【0095】
~Rで表されるアルキル基としては、炭素数1以上20以下の直鎖状のアルキル基、炭素数3以上20以下の分岐状のアルキル基が挙げられる。炭素数1以上20以下の直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基等が挙げられる。炭素数3以上20以下の分岐状のアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、イソノニル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基等が挙げられる。
~Rで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基、テトラデシル基等の炭素数1以上15以下のアルキル基が好ましい。
【0096】
~Rで表されるアラルキル基としては、炭素数7以上30以下のアラルキル基が挙げられる。炭素数7以上30以下のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル 基、フェニルオクチル基、フェニルノニル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、アントラチルメチル基、フェニル-シクロペンチルメチル基等が挙げられる。
~Rで表されるアラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基等の炭素数7以上15以下のアラルキル基が好ましい。
【0097】
~Rで表されるアリール基としては、炭素数6以上20以下のアリール基が挙げられる。炭素数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ピリジル基、ナフチル基等が挙げられる。
~Rで表されるアリール基としては、フェニル基等の炭素数6以上10以下のアリール基が好ましい。
【0098】
、R、R及びRの2つ以上が互いに連結して形成される環としては、炭素数2以上20以下の脂環、炭素数2以上20以下の複素環式アミン等が挙げられる。
【0099】
、R、R及びRはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ニトリル基、カルボニル基、エーテル基、アミド基、シロキサン基、シリル基、シランアルコキシ基等が挙げられる。
【0100】
、R、R及びRは各々独立に、炭素数1以上16以下のアルキル基、炭素数7以上10以下のアラルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基を表すことが好ましい。
【0101】
で表されるモリブデン元素を含む陰イオンは、モリブデン酸イオンが好ましく、モリブデンが4価又は6価であるモリブデン酸イオンが好ましく、モリブデンが6価であるモリブデン酸イオンがより好ましい。モリブデン酸イオンとしては、具体的には、MoO 2-、Mo 2-、Mo10 2-、Mo13 2-、Mo24 2-、Mo26 4-が好ましい。
【0102】
式(1)で表される化合物は、帯電分布狭化及び帯電分布維持性の観点から、総炭素数18以上35以下が好ましく、総炭素数20以上32以下がより好ましい。
【0103】
式(1)で表される化合物を以下に例示する。本実施形態はこれに限定されない。
【0104】
【化2】
【0105】
モリブデン元素を含む第四級アンモニウム塩として、[N(CH)(C1429Mo28 4-、[N(C(CMo 2-、[N(CH(CH)(CH17CHMoO 2-、[N(CH(CH)(CH15CHMoO 2-等のモリブデン酸第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0106】
モリブデン元素を含む金属酸化物として、モリブデン酸化物(三酸化モリブデン、二酸化モリブデン、Mo26)、モリブデン酸アルカリ金属塩(モリブデン酸リチウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等)、モリブデンアルカリ土類金属塩(モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸カルシウム等)、その他複合酸化物(Bi・2MoO、γ-CeMo13等)が挙げられる。
【0107】
モリブデン窒素含有化合物としては、CAS登録番号117342-25-3の化合物が特に好ましい。CAS登録番号117342-25-3の化合物は、別名、TP-415、及び、1-Tetradecanaminium, N,N-dimethyl-N-tetradecyl-, hexa-.mu.-oxotetra-.mu.3-oxodi-.mu.5-oxotetradecaoxooctamolybdate(4-)(4:1)である。
【0108】
シリカ粒子(S)は、300℃以上600℃以下の範囲の温度帯で加熱した際に、モリブデン窒素含有化合物が検出される。モリブデン窒素含有化合物は、不活性ガス中での300℃以上600℃以下の加熱で検出することができ、例えば、Heをキャリアガスに用いた加熱炉式の落下型熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて検出する。具体的には、0.1mg以上10mg以下のシリカ粒子を熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計に導入し、検出されるピークのMSスペクトルからモリブデン窒素含有化合物の含有有無を確認する。モリブデン窒素含有化合物を含有するシリカ粒子から熱分解で生成する成分としては、例えば、下記の式(2)で示される第一級、第二級若しくは第三級のアミン又は芳香族窒素化合物が挙げられる。式(2)のR、R及びRはそれぞれ式(1)のR、R及びRと同義である。モリブデン窒素含有化合物が第四級アンモニウム塩である場合、600℃の熱分解により側鎖の一部が脱離し、第三級アミンが検出される。
【0109】
【化3】
【0110】
-モリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物-
シリカ粒子(S)において、3官能シラン化合物の反応生成物の被覆構造(好ましくは細孔構造)には、モリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物が付着していてもよい。
【0111】
モリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物は、例えば、シリカ粒子(S)の帯電性又は疎水化度を制御する目的で、シリカ粒子(S)に導入されることがある。付着工程における反応液にモリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物をも含有させることで、3官能シラン化合物の反応生成物の被覆構造の内部(好ましくは細孔構造の細孔内)にモリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物を付着させることができる。
【0112】
モリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物としては、例えば、第四級アンモニウム塩、第一級アミン化合物、第二級アミン化合物、第三級アミン化合物、アミド化合物、イミン化合物、及びニトリル化合物からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。モリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物は、好ましくは第四級アンモニウム塩である。
【0113】
第一級アミン化合物の具体例としては、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミン、2,4,6-トリメチルアニリンが挙げられる。
第二級アミン化合物の具体例としては、ジベンジルアミン、2-ニトロジフェニルアミン、4-(2-オクチルアミノ)ジフェニルアミンが挙げられる。
第三級アミン化合物の具体例としては、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、N,N-ジベンジル-2-アミノエタノール、N-ベンジル-N-メチルエタノールアミンが挙げられる。
アミド化合物の具体例としては、N-シクロヘキシル-p-トルエンスルホンアミド、4-アセトアミド-1-ベンジルピペリジン、N-ヒドロキシ-3-[1-(フェニルチオ)メチル-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル]ベンズアミドが挙げられる。
イミン化合物の具体例としては、ジフェニルメタンイミン、2,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニルイミノ)ブタン、N,N’-(エタン-1,2-ジイリデン)ビス(2,4,6-トリメチルアニリン)が挙げられる。
ニトリル化合物の具体例としては、3-インドールアセトニトリル、4-[(4-クロロ-2-ピリミジニル)アミノ]ベンゾニトリル、4-ブロモ-2,2-ジフェニルブチロニトリルが挙げられる。
【0114】
第四級アンモニウム塩としては、下記の式(AM)で表される化合物が挙げられる。式(AM)で表される化合物は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0115】
【化4】
【0116】
式(AM)中、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、Zは陰イオンを表す。ただし、R11、R12、R13及びR14の少なくとも1つはアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。R11、R12、R13及びR14のうち2つ以上が連結して、脂肪族環、芳香環又はヘテロ環を形成してもよい。ここで、アルキル基、アラルキル基及びアリール基は置換基を有していてもよい。
【0117】
11~R14で表されるアルキル基としては、炭素数1以上20以下の直鎖状のアルキル基、炭素数3以上20以下の分岐状のアルキル基が挙げられる。炭素数1以上20以下の直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基等が挙げられる。炭素数3以上20以下の分岐状のアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、イソノニル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基等が挙げられる。
11~R14で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基、テトラデシル基等の炭素数1以上15以下のアルキル基が好ましい。
【0118】
11~R14で表されるアラルキル基としては、炭素数7以上30以下のアラルキル基が挙げられる。炭素数7以上30以下のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル 基、フェニルオクチル基、フェニルノニル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、アントラチルメチル基、フェニル-シクロペンチルメチル基等が挙げられる。
11~R14で表されるアラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基等の炭素数7以上15以下のアラルキル基が好ましい。
【0119】
11~R14で表されるアリール基としては、炭素数6以上20以下のアリール基が挙げられる。炭素数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ピリジル基、ナフチル基等が挙げられる。
11~R14で表されるアリール基としては、フェニル基等の炭素数6以上10以下のアリール基が好ましい。
【0120】
11、R12、R13及びR14の2つ以上が互いに連結して形成される環としては、炭素数2以上20以下の脂環、炭素数2以上20以下の複素環式アミン等が挙げられる。
【0121】
11、R12、R13及びR14はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ニトリル基、カルボニル基、エーテル基、アミド基、シロキサン基、シリル基、シランアルコキシ基等が挙げられる。
【0122】
11、R12、R13及びR14は各々独立に、炭素数1以上16以下のアルキル基、炭素数7以上10以下のアラルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基を表すことが好ましい。
【0123】
で表される陰イオンは、有機陰イオン及び無機陰イオンのいずれでもよい。
有機陰イオンとしては、ポリフルオロアルキルスルホン酸イオン、ポリフルオロアルキルカルボン酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、芳香族カルボン酸イオン、芳香族スルホン酸イオン(1-ナフトール-4-スルホン酸イオン等)などが挙げられる。
無機陰イオンとしては、OH、F、Fe(CN) 3-、Cl、Br、NO 、NO 、CO 2-、PO 3-、SO 2-等が挙げられる。
【0124】
式(AM)で表される化合物は、帯電分布狭化及び帯電分布維持性の観点から、総炭素数18以上35以下が好ましく、総炭素数20以上32以下がより好ましい。
【0125】
式(AM)で表される化合物を以下に例示する。本実施形態はこれに限定されない。
【0126】
【化5】
【0127】
シリカ粒子(S)に含まれるモリブデン窒素含有化合物及びモリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物の合計含有量は、帯電分布狭化及び帯電分布維持性の観点から、ケイ素元素に対する窒素元素の質量比N/Siとして、0.005以上0.50以下が好ましく、0.008以上0.45以下がより好ましく、0.015以上0.20以下がより好ましく、0.018以上0.10以下が更に好ましい。
【0128】
シリカ粒子(S)における上記の質量比N/Siは、酸素・窒素分析装置(例えば堀場製作所社製EMGA-920)を用いて、積算時間45秒で測定し、Si原子に対するN原子の質量割合(N/Si)として求める。試料には前処理として100℃24時間以上の真空乾燥を施し、アンモニア等の不純物を除去する。
【0129】
アンモニア/メタノール混合溶液によってシリカ粒子(S)から抽出される、モリブデン窒素含有化合物及びモリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物の合計抽出量Xは、シリカ粒子(S)の質量に対して0.1質量%以上であることが好ましい。且つ、アンモニア/メタノール混合溶液によってシリカ粒子(S)から抽出される、モリブデン窒素含有化合物及びモリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物の合計抽出量Xと、水によってシリカ粒子(S)から抽出される、モリブデン窒素含有化合物及びモリブデン元素を含まない窒素元素含有化合物の合計抽出量Y(Xと同様に、シリカ粒子(S)の質量に対する質量割合)とは、Y/X<0.3を満たすことが好ましい。
上記の関係は、シリカ粒子(S)に含まれる窒素元素含有化合物が水に溶けにくい性質であること、すなわち空気中の水分を吸着しにくい性質であることを示す。したがって、上記の関係であると、シリカ粒子(S)は帯電分布狭化及び帯電分布維持性に優れる。
【0130】
抽出量Xは、シリカ粒子(S)の質量に対して0.25質量%以上6.5質量%以下が好ましい。抽出量Xと抽出量Yとの比Y/Xは、理想的には0である。
【0131】
抽出量Xと抽出量Yとは、下記の方法で測定する。
シリカ粒子を、熱重量・質量分析装置(例えばネッチ・ジャパン株式会社製のガスクロマトグラフ質量分析計)により400℃で分析し、炭素数1以上の炭化水素が窒素原子と共有結合した化合物のシリカ粒子に対する質量分率を測定し、積算しW1とする。
液温25℃のアンモニア/メタノール溶液(Sigma-Aldrich社製、アンモニア/メタノールの質量比=1/5.2)30質量部に、シリカ粒子1質量部を添加し、30分間超音波処理を行った後、シリカ粉体と抽出液を分離する。分離したシリカ粒子を真空乾燥機で100℃24時間乾燥し、熱重量・質量分析装置により400℃で、炭素数1以上の炭化水素が窒素原子と共有結合した化合物のシリカ粒子に対する質量分率を測定し、積算しW2とする。
液温25℃の水30質量部に、シリカ粒子1質量部を添加し、30分間超音波処理を行った後、シリカ粒子と抽出液を分離する。分離したシリカ粒子を真空乾燥機で100℃24時間乾燥し、熱重量・質量分析装置により400℃で、炭素数1以上の炭化水素が窒素原子と共有結合した化合物のシリカ粒子に対する質量分率を測定し、積算しW3とする。
W1とW2とから、抽出量X=W1-W2を算出する。
W1とW3とから、抽出量Y=W1-W3を算出する。
【0132】
[疎水化処理工程]
本実施形態に係る製造方法は、付着工程後又は付着工程中に、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子に疎水化処理を行う疎水化工程をさらに有してもよい。疎水化処理工程は、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造にさらに、疎水化処理剤からなる疎水化処理構造を付着させる工程である。例えば、被覆工程に用いる3官能シラン化合物の非官能基が親水性基である場合、又は、シリカ粒子(S)の疎水化度を上げる場合、疎水化処理工程を実施する。
【0133】
疎水化処理剤としては、3官能シラン化合物以外の化合物が適用され、例えば、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン等のシラザン化合物、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤が挙げられる。
【0134】
疎水化処理工程は、例えば、シリカ母粒子と3官能シラン化合物とを反応させた後のシリカ粒子懸濁液にモリブデン窒素含有化合物を添加し、さらに疎水化処理剤を添加し、反応液を調製することにより実施する。疎水化処理剤を用いる場合、反応液を40℃以上70℃に加熱し攪拌することが好ましい。攪拌を持続する時間は、10分間以上24時間以下が好ましく、20分間以上120分間以下がより好ましく、20分間以上90分間以下が更に好ましい。
【0135】
[乾燥工程]
付着工程又は疎水化処理工程を実施後、又は、付着工程又は疎水化処理工程の実施中に、反応液から水及びアルコールを除去する乾燥工程を実施する。乾燥方法としては、例えば、熱乾燥、噴霧乾燥、超臨界乾燥が挙げられる。
以下の説明において、付着工程又は疎水化処理工程を実施後の反応液を「シリカ粒子懸濁液」という。
【0136】
噴霧乾燥は、スプレイドライヤー(ディスク回転式、ノズル式等)を用いた公知の方法で行うことができる。例えば、熱風気流中に0.2リットル/時間以上1リットル/時間以下の速度でシリカ粒子懸濁液を噴霧する。熱風の温度は、スプレイドライヤーの入口温度70℃以上400℃以下、出口温度40℃以上120℃以下の範囲にあることが好ましい。より好ましい入口温度は100℃以上300℃以下の範囲である。シリカ粒子懸濁液のシリカ粒子濃度は、10質量%以上30質量%以下が好ましい。
【0137】
超臨界乾燥の超臨界流体として用いる物質としては、二酸化炭素、水、メタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。超臨界流体としては、処理効率の観点と、粗大粒子の発生を抑制する観点とから、超臨界二酸化炭素が好ましい。超臨界二酸化炭素を用いる工程は、具体的には、例えば以下の操作によって行う。
【0138】
密閉反応器にシリカ粒子懸濁液を収容し、次いで液化二酸化炭素を導入した後、密閉反応器を加熱すると共に高圧ポンプにより密閉反応器内を昇圧させ、密閉反応器内の二酸化炭素を超臨界状態とする。そして、密閉反応器に液化二酸化炭素を流入させ、密閉反応器から超臨界二酸化炭素を流出させることで、密閉反応器内においてシリカ粒子懸濁液に超臨界二酸化炭素を流通させる。シリカ粒子懸濁液に超臨界二酸化炭素が流通する間に、水及びアルコールが超臨界二酸化炭素に溶解し、密閉反応器外へ流出する超臨界二酸化炭素に同伴して水及びアルコールが除去される。密閉反応器内の温度及び圧力は、二酸化炭素を超臨界状態にする温度及び圧力とする。二酸化炭素の臨界点が31.1℃/7.38MPaであるところ、例えば、温度40℃以上200℃以下/圧力10MPa以上30MPa以下の温度及び圧力とする。密閉反応器への超臨界流体の流量は、80mL/秒以上240mL/秒以下であることが好ましい。
【0139】
乾燥工程後のシリカ粒子に解砕又は篩分を行って、粗大粒子や凝集粒子の除去を行うことが好ましい。解砕は、例えば、ジェットミル、振動ミル、ボールミル、ピンミル等の乾式粉砕装置により行う。篩分は、例えば、振動篩、風力篩分機等により行う。
【0140】
<シリカ粒子(S)の特性>
シリカ粒子(S)は、帯電分布狭化及び帯電分布維持性の観点から、下記の特性を有することが好ましい。
【0141】
-平均円形度、平均一次粒径、粒度分布指標-
シリカ粒子(S)の平均円形度は、0.60以上0.96以下が好ましく、0.65以上0.94以下がより好ましく、0.70以上0.92以下がより好ましく、0.75以上0.90以下が更に好ましい。
【0142】
シリカ粒子(S)の平均一次粒径は、10nm以上200nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましく、30nm以上120nm以下が更に好ましく、40nm以上100nm以下が特に好ましい。
【0143】
シリカ粒子(S)の粒度分布指標は、1.1以上2.0以下が好ましく、1.15以上1.6以下がより好ましい。
【0144】
シリカ粒子(S)の平均円形度、平均一次粒径、粒度分布指標の測定方法は、下記のとおりである。
走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いて、倍率4万倍でシリカ粒子を撮影する。少なくとも200個のシリカ粒子を画像処理解析ソフトWinRoof(三谷商事株式会社)で解析する。一次粒子像それぞれの円相当径と面積と周囲長とを求め、さらに、円形度=4π×(粒子像の面積)÷(粒子像の周囲長)を求める。円形度の分布において小さい側から累積50%となる円形度を平均円形度とする。円相当径の分布において小径側から累積50%となる円相当径を平均一次粒径とする。円相当径の分布において小径側から累積16%となる粒径をD16とし、累積84%となる粒径をD84とし、粒度分布指標=(D84/D16)0.5を求める。
【0145】
-疎水化度-
シリカ粒子(S)の疎水化度は、10%以上60%以下が好ましく、20%以上55%以下がより好ましく、28%以上53%以下が更に好ましい。
【0146】
シリカ粒子の疎水化度の測定方法は、下記のとおりである。
イオン交換水50mlに、シリカ粒子を0.2質量%入れ、マグネティックスターラーで攪拌しながらビュレットからメタノールを滴下し、試料全量が沈んだ終点におけるメタノール-水混合溶液中のメタノール質量分率を疎水化度として求める。
【0147】
-体積抵抗率-
シリカ粒子(S)の体積抵抗率Rは、1.0×10Ωcm以上1.0×1012.5Ωcm以下が好ましく、1.0×107.5Ωcm以上1.0×1012Ωcm以下がより好ましく、1.0×10Ωcm以上1.0×1011.5Ωcm以下がより好ましく、1.0×10Ω・cm以上1.0×1011Ω・cm以下が更に好ましい。シリカ粒子(S)の体積抵抗率Rは、モリブデン窒素含有化合物の含有量により調整できる。
【0148】
シリカ粒子(S)は、350℃焼成前後における体積抵抗率を各々Ra及びRbとしたとき、比Ra/Rbが0.01以上0.8以下であることが好ましく、0.015以上0.6以下であることがより好ましい。
シリカ粒子(S)の350℃焼成前の体積抵抗率Ra(前記体積抵抗率Rと同義)は、1.0×10Ωcm以上1.0×1012.5Ωcm以下が好ましく、1.0×107.5Ωcm以上1.0×1012Ωcm以下がより好ましく、1.0×10Ωcm以上1.0×1011.5Ωcm以下がより好ましく、1.0×10Ω・cm以上1.0×1011Ω・cm以下が更に好ましい。
【0149】
350℃焼成は、窒素環境下、昇温速度10℃/分で350℃まで昇温し、350℃で3時間保持し、昇温速度10℃/分で室温(25℃)まで冷却する。
シリカ粒子(S)の体積抵抗率は、温度20℃且つ相対湿度50%の環境で下記のとおり測定する。
20cmの電極板を配した円形の治具の表面に、シリカ粒子(S)を1mm以上3mm以下程度の厚さに載せ、シリカ粒子層を形成する。シリカ粒子層の上に20cmの電極板を載せシリカ粒子層を挟み込み、シリカ粒子間の空隙をなくすため電極板の上に0.4MPaの圧力をかける。シリカ粒子層の厚さL(cm)を測定する。シリカ粒子層上下の両電極に接続したインピーダンスアナライザ(Solartron Analytical社製)にて、周波数10-3Hz以上10Hz以下の範囲のナイキストプロットを得る。これを、バルク抵抗、粒子界面抵抗及び電極接触抵抗の3種類の抵抗成分が存在すると仮定して、等価回路にフィッティングし、バルク抵抗R(Ω)を求める。バルク抵抗R(Ω)とシリカ粒子層の厚さL(cm)とから、式ρ=R/Lによりシリカ粒子の体積抵抗率ρ(Ω・cm)を算出する。
【0150】
-OH基量-
シリカ粒子(S)のOH基量は、0.05個/nm以上6個/nm以下が好ましく、0.1個/nm以上5.5個/nm以下がより好ましく、0.15個/nm以上5個/nm以下が好ましく、0.2個/nm以上4個/nm以下がより好ましく、0.2個/nm以上3個/nm以下が更に好ましい。
【0151】
シリカ粒子のOH基量は、シアーズ法により下記のとおり測定する。
シリカ粒子1.5gを水50g/エタノール50g混合液に加えて、超音波ホモジナイザーで2分間攪拌し、分散液を作製する。25℃の環境下で攪拌しながら、0.1mol/Lの塩酸水溶液を1.0g滴下し、試験液を得る。試験液を自動滴定装置に入れ、0.01mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液による電位差滴定を実施し、滴定曲線の微分曲線を作成する。滴定曲線の微分値が1.8以上となる変曲点のうち、0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液の滴定量が最も多くなる滴定量をEとする。
下記の式から、シリカ粒子の表面シラノール基密度ρ(個/nm)を算出し、これをシリカ粒子のOH基量とする。
式:ρ=((0.01×E-0.1)×NA/1000)/(M×SBET×1018
E:滴定曲線の微分値が1.8以上となる変曲点のうち、0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液の滴定量が最も多くなる滴定量、NA:アボガドロ数、M:シリカ粒子量(1.5g)、SBET:窒素吸着3点法により測定したシリカ粒子のBET比表面積(m/g)(平衡相対圧は0.3とする)。
【0152】
-Net強度の比NMo/NSi
シリカ粒子(S)は、帯電分布狭化及び帯電分布維持性の観点から、蛍光X線分析により測定されるモリブデン元素のNet強度NMoとケイ素元素のNet強度NSiとの比NMo/NSiが0.035以上0.45以下であることが好ましい。比NMo/NSiは、0.05以上がより好ましく、0.07以上が更に好ましく、0.10以上が特に好ましい。比NMo/NSiは、0.40以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましく、0.30以下が特に好ましい。
【0153】
シリカ粒子(S)のモリブデン元素のNet強度NMoは、帯電分布狭化及び帯電分布維持性の観点から、5kcps以上75kcps以下が好ましく、7kcps以上55kcps以下がより好ましく、8kcps以上50kcps以下が更に好ましく、10kcps以上40kcps以下が更に好ましい。
【0154】
シリカ粒子におけるモリブデン元素のNet強度NMoとケイ素元素のNet強度NSiの測定方法は、下記のとおりである。
シリカ粒子約0.5gを、圧縮成形機を用いて荷重6t且つ60秒の加圧で圧縮し、直径50mm且つ厚さ2mmのディスクを作製する。このディスクを試料にして、走査型蛍光X線分析装置(XRF-1500、(株)島津製作所製)を用いて、下記の条件で定性定量元素分析を行い、モリブデン元素、ケイ素元素それぞれのNet強度(単位:kilo counts per second,kcps)を求める。
・管電圧:40kV
・管電流:90mA
・測定面積(分析径):直径10mm
・測定時間:30分
・対陰極:ロジウム
【0155】
-細孔直径-
シリカ粒子(S)は、窒素ガス吸着法の細孔分布曲線において、細孔直径0.01nm以上2nm以下の範囲に第一ピークを有し、細孔直径1.5nm以上50nm以下の範囲に第二ピークを有することが好ましく、2nm以上50nm以下の範囲に第二ピークを有することがより好ましく、2nm以上40nm以下の範囲に第二ピークを有することが更に好ましく、2nm以上30nm以下の範囲に第二ピークを有することが更に好ましい。
第一ピーク及び第二ピークが上記範囲に有ることで、モリブデン窒素含有化合物が被覆構造の細孔奥深くまで入り込み、帯電分布が狭化する。
【0156】
窒素ガス吸着法の細孔分布曲線の求め方は、下記のとおりである。
シリカ粒子を、液体窒素温度(-196℃)に冷却して、窒素ガスを導入し、窒素ガスの吸着量を定容量法又は重量法で求める。導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットすることにより吸着等温線を作成する。吸着等温線から、BJH法の計算式により、縦軸が頻度、横軸が細孔直径で表される細孔径分布曲線を求める。得られた細孔径分布曲線から、縦軸が体積、横軸が細孔直径で表される積算細孔容積分布を求め、細孔直径のピークの位置を確認する。
【0157】
-態様(A)、態様(B)-
シリカ粒子(S)は、帯電分布狭化及び帯電分布維持性の観点から、下記の態様(A)及び態様(B)のいずれかを満たすことが好ましい。
【0158】
・態様(A):350℃焼成前後における窒素ガス吸着法の細孔分布曲線から求める細孔直径1nm以上50nm以下の細孔体積を各々A及びBとしたとき、B/Aが1.2以上5以下であり且つBが0.2cm/g以上3cm/g以下である態様。
以下、「350℃焼成前における窒素ガス吸着法の細孔分布曲線から求める細孔直径1nm以上50nm以下の細孔体積A」を「350℃焼成前の細孔体積A」といい、「350℃焼成後における窒素ガス吸着法の細孔分布曲線から求める細孔直径1nm以上50nm以下の細孔体積B」を「350℃焼成後の細孔体積B」という。
【0159】
350℃焼成は、窒素環境下、昇温速度10℃/分で350℃まで昇温し、350℃で3時間保持し、昇温速度10℃/分で室温(25℃)まで冷却する。
細孔体積の測定方法は、下記のとおりである。
シリカ粒子を、液体窒素温度(-196℃)に冷却して、窒素ガスを導入し、窒素ガスの吸着量を定容量法又は重量法で求める。導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットすることにより吸着等温線を作成する。吸着等温線から、BJH法の計算式により、縦軸が頻度、横軸が細孔直径で表される細孔径分布曲線を求める。得られた細孔径分布曲線から、縦軸が体積、横軸が細孔直径で表される積算細孔容積分布を求める。得られた積算細孔容積分布から、細孔直径1nm以上50nm以下の範囲の細孔容積を積算し、それを「細孔直径1nm以上50nm以下の細孔体積」とする。
【0160】
350℃焼成前の細孔体積Aと350℃焼成後の細孔体積Bとの比B/Aは、1.2以上5以下が好ましく、1.4以上3以下がより好ましく、1.4以上2.5以下が更に好ましい。
350℃焼成後の細孔体積Bは、0.2cm/g以上3cm/g以下が好ましく、0.3cm/g以上1.8cm/g以下がより好ましく、0.6cm/g以上1.5cm/g以下が更に好ましい。
【0161】
態様(A)は、シリカ粒子の少なくとも一部の細孔に十分量の窒素元素含有化合物が吸着している態様である。
【0162】
・態様(B):交差分極/マジック角回転(CP/MAS)法による29Si固体核磁気共鳴(NMR)スペクトル(以下「Si-CP/MAS NMRスペクトル」という。)における化学シフト-50ppm以上-75ppm以下の範囲に観測されるシグナルの積分値Cと、化学シフト-90ppm以上-120ppm以下の範囲に観測されるシグナルの積分値Dとの比C/Dが0.10以上0.75以下である態様。
【0163】
Si-CP/MAS NMRスペクトルは、核磁気共鳴分光分析を下記条件で実施することで得られる。
・分光器:AVENCE300(Brunker社製)
・共鳴周波数:59.6MHz
・測定核:29Si
・測定法:CPMAS法(Bruker社標準パルクシークエンスcp.av使用)
・待ち時間:4秒
・接触時間:8ミリ秒
・積算回数:2048回
・測定温度:室温(実測値25℃)
・観測中心周波数:-3975.72Hz
・MAS回転数:7.0mm-6kHz
・基準物質:ヘキシメチルシクロトリシロキサン
【0164】
比C/Dは、0.10以上0.75以下が好ましく、0.12以上0.45以下がより好ましく、0.15以上0.40以下が更に好ましい。
【0165】
Si-CP/MAS NMRスペクトルの全シグナルの積分値を100%としたとき、化学シフト-50ppm以上-75ppm以下の範囲に観測されるシグナルの積分値Cの割合(Signal ratio)は、5%以上が好ましく、7%以上がより好ましい。シグナルの積分値Cの割合の上限は、例えば、60%以下である。
【0166】
態様(B)は、シリカ粒子表面の少なくとも一部に、十分量の窒素元素含有化合物が吸着しうる低密度な被覆構造を有する態様である。この低密度な被覆構造は、例えば、3官能シラン化合物の反応生成物からなる細孔構造であり、例えばSiO2/3CH層である。
【0167】
シリカ粒子(S)は、例えば、現像剤、粉体塗料、化粧料、ゴム、研磨剤等の添加成分又は主成分として使用可能である。
【実施例0168】
以下、実施例により発明の実施形態を詳細に説明するが、発明の実施形態は、これら実施例に限定されるものではない。
以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
合成、処理、製造などは、特に断りのない限り、室温(25℃±3℃)で行った。
【0169】
<実施例1>
[造粒工程]
金属製攪拌棒、滴下ノズル及び温度計を備えたガラス製容器に、表1に示す量及び濃度のメタノール及びアンモニア水を入れ、攪拌混合してアルカリ触媒溶液を調製した。アルカリ触媒溶液の温度を25℃に調整し、アルカリ触媒溶液を窒素置換した。アルカリ触媒溶液の液温を25℃に保ち攪拌しながら、表1に示す量及び濃度のテトラメトキシシラン(TMOS)及びアンモニア水を同時に滴下し、シリカ母粒子懸濁液を得た。
【0170】
[被覆工程]
シリカ母粒子懸濁液の液温を60℃に調整し、60℃に保ち攪拌しながら、表1に示す量のメチルトリメトキシシラン(MTMS)を120分間かけて添加し、MTMSを反応させ、MTMSの反応生成物からなる被覆構造をシリカ母粒子表面に形成した。
【0171】
[付着工程]
シリカ母粒子とMTMSとを反応させた後のシリカ粒子懸濁液の液温を、表1に示す温度に調整した。シリカ粒子懸濁液の液温を保ち攪拌しながら、必要に応じてアンモニア水、ジメチルアミン水溶液又はジエチルアミン水溶液を添加し、さらに表1に示す量のTP-415(保土谷化学工業社、CAS登録番号117342-25-3の化合物)を添加し、付着工程の反応液を得た。反応液の組成を表2に示す。反応液の液温を保ちながら60分間攪拌した。
【0172】
[乾燥工程]
反応液を乾燥用容器に移した。反応液を攪拌しながら、乾燥用容器に液化二酸化炭素を注入し、反応槽内を150℃及び15MPaまで昇温昇圧し、温度及び圧力を保って二酸化炭素の超臨界状態を維持した状態で反応液の攪拌を続けた。二酸化炭素を流量5L/minで流入及び流出させ、120分間かけて水及びアルコールを除去し、シリカ粒子を得た。
【0173】
[シリカ粒子の特性の測定]
既述の測定方法によって、シリカ粒子に係る平均一次粒径、粒度分布指標、平均円形度、NMo/NSi、B/A、モリブデン塊の存在率を測定した。表2に結果を示す。
【0174】
[帯電分布の測定]
シリカ粒子2質量部と架橋アクリル樹脂粒子(日本触媒製、MA1010)100質量部とを混合し、この混合物5質量部とフェライト粒子(JFEケミカル社製、KNI-106GSM)50質量部とを混合し、電荷を測定する試料とした。
試料を、温度20℃且つ相対湿度50%のチャンバー内でターブラーシェーカー(TURBULA社製、ターブラーシェーカー・ミキサー)を用いて5分間攪拌し、CSG(チャージ・スペクトログラフ法)の画像解析により評価をした。
電荷分布の広狭は、電荷分布の累積積算の20%帯電量Q(20)と80%帯電量Q(80)の差を50%帯電量Q(50)で割った値、すなわち(Q(80)-Q(20))/Q(50)の値にて判断した。当該値が小さいほど電荷分布は狭い。当該値を下記のとおり分類した。表2に結果を示す。
A:(Q(80)-Q(20))/Q(50)値が0.75以下
B:(Q(80)-Q(20))/Q(50)値が0.75超0.85以下
C:(Q(80)-Q(20))/Q(50)値が0.85超1.0以下
D:(Q(80)-Q(20))/Q(50)値が1.0超
【0175】
[帯電量の変動率の測定]
シリカ粒子2質量部と架橋アクリル樹脂粒子(日本触媒製、MA1010)100質量部とを混合し、この混合物5質量部とフェライト粒子(JFEケミカル社製、KNI-106GSM)50質量部とを混合し、帯電量を測定する試料とした。
試料を高温高湿下(温度30℃且つ相対湿度90%)に7日間放置した。放置前後において、ブローオフ帯電量測定装置(東芝ケミカル社、TB-200)を用いて試料の帯電量を測定した。帯電量の変動率の絶対値|(放置前の帯電量-放置後の帯電量)/放置前の帯電量|を算出し、下記のとおり分類した。表2に結果を示す。
A:0以上0.2未満
B:0.2以上0.35未満
C:0.35以上0.5未満
D:0.5以上
【0176】
<実施例2~33、比較例1~3>
実施例1と同様にして、ただし、各工程の諸条件を表1に記載のとおりに変更して、それぞれシリカ粒子を製造した。シリカ粒子の特性及び帯電分布を実施例1同様に測定した。表2に結果を示す。
【0177】
【表1】
【0178】
【表2】
【0179】
(((1)))
シリカ母粒子の表面に3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を形成する被覆工程と、
水と、アルコールと、3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子と、モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物と、アンモニア及びアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有し且つアンモニア及びアミンの総量が0.2質量%以上4.5質量%以下である反応液中で、前記被覆構造に前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物を付着させる付着工程と、
前記反応液から水及びアルコールを除去する乾燥工程と、を有する、
シリカ粒子の製造方法。
(((2)))
前記反応液が、アンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、
前記反応液に含まれるアンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンの総量が0.2質量%以上4.5質量%以下である、
(((1)))に記載のシリカ粒子の製造方法。
(((3)))
前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物が、モリブデン元素を含む第四級アンモニウム塩、及び、第四級アンモニウム塩とモリブデン元素を含む金属酸化物との混合物からなる群から選択される少なくとも1種である、(((1)))又は(((2)))に記載のシリカ粒子の製造方法。
(((4)))
前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物がCAS登録番号117342-25-3の化合物である、(((1)))又は(((2)))に記載のシリカ粒子の製造方法。
(((5)))
前記3官能シラン化合物が下記の式(S)で表される3官能シラン化合物である、(((1)))~(((4)))のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
式(S) RSiX
Rは炭素数1以上6以下の炭化水素基であり、3個のXはそれぞれ独立に水酸基又は加水分解基である。
(((6)))
前記式(S)において3個のXがそれぞれ独立にメトキシ基又はエトキシ基である、(((5)))に記載のシリカ粒子の製造方法。
(((7)))
前記反応液が、前記3官能シラン化合物の反応生成物からなる被覆構造を有するシリカ粒子100質量部に対して、前記モリブデン元素を含有する窒素元素含有化合物を1質量部以上5質量部以下含む、(((1)))~(((6)))のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
(((8)))
前記反応液に含まれるアルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及び2-メチル-2-プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(((1)))~(((7)))のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
(((9)))
前記反応液に含まれるアルコールの量が45質量%以上95質量%以下である、(((1)))~(((8)))のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
(((10)))
前記付着工程が、前記反応液の温度を25℃以上65℃以下の範囲に保持し1時間以上攪拌することを含む、(((1)))~(((9)))のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
(((11)))
前記被覆工程の前に、シリカ母粒子をゾルゲル法により造粒する造粒工程をさらに有する、(((1)))~(((10)))のいずれか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。
【0180】
(((1)))、(((3)))、(((4)))、(((5)))、(((6)))、(((7)))、(((8)))、(((9)))、(((10)))又は(((11)))に係る発明によれば、反応液中のアンモニア及びアミンの総量が0.2質量%未満又は4.5質量%超である製造方法に比べて、帯電分布が狭いシリカ粒子を製造することができる。
(((2)))に係る発明によれば、反応液中のアンモニア、ジメチルアミン及びジエチルアミンの総量が0.2質量%未満又は4.5質量%超である製造方法に比べて、帯電分布が狭いシリカ粒子を製造することができる。