(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045045
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】フルオレン化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/347 20060101AFI20240326BHJP
C07C 69/616 20060101ALI20240326BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C07C67/347
C07C69/616
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150211
(22)【出願日】2023-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2022149117
(32)【優先日】2022-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】川口 絵理
(72)【発明者】
【氏名】工藤 将士
(72)【発明者】
【氏名】石川 沙恵
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB48
4H006AB76
4H006AB92
4H006AB93
4H006AC21
4H006AC48
4H006AD15
4H006BA51
4H006BA69
4H006BB11
4H006BB14
4H006BB16
4H006BC10
4H006BC40
4H006BJ50
4H006KA34
4H039CA19
4H039CF10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】特定のフルオレン化合物を、高い反応転化率で簡便にまたは効率よく製造する方法、およびこの製造方法により得られたフルオレン化合物を提供する。
【解決手段】9,9位が未置換の9H-フルオレン類と、アクリル酸メチルに代表される不飽和化合物とを、少なくともケトン類を含む反応溶媒中で反応させる反応工程を経て、下記式(3)で表されるフルオレン化合物を製造する。
[式中、R
1は置換基、kは0~8の整数、R
2a
~
2
d、R
3a
~
3
dは独立してHまたは置換基、R
4a
~
4bは独立して-OR
h(式中、R
hはHもしくは炭化水素基)、グリシジルオキシ基、2-メチルグリシジルオキシ基またはハロゲン原子を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R
1は置換基を示し、kは0~8の整数を示す。)
で表される9,9位が未置換の9H-フルオレン類と、下記式(2a)および(2b)
【化2】
[式中、R
2a、R
2b、R
2cおよびR
2dは独立して水素原子または置換基を示し、
R
3aおよびR
3bは独立して水素原子または置換基を示し、
R
4aおよびR
4bは独立してヒドロキシル基、基[-OR
h](式中、R
hは炭化水素基を示す)、グリシジルオキシ基、2-メチルグリシジルオキシ基またはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物とを、少なくともケトン類を含む反応溶媒中で反応させる反応工程を含む、下記式(3)
【化3】
(式中、R
1、k、R
2a、R
2b、R
2c、R
2d、R
3a、R
3b、R
4aおよびR
4bは、それぞれ前記に同じ。)
で表されるフルオレン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ケトン類が、ジアルキルケトンである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応溶媒が、さらに、炭化水素類を含む請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記式(1)、(2a)、(2b)および(3)において、
R1がハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基または置換アミノ基であり、kが0~4の整数であり、
R2aおよびR2bが独立して水素原子、炭化水素基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基であり、R2cおよびR2dが独立して水素原子または炭化水素基であり、
R3aおよびR3bが独立して水素原子、炭化水素基、カルボキシアルキル基またはアルコキシカルボニルアルキル基であり、
R4aおよびR4bが独立してヒドロキシル基、基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)、グリシジルオキシ基または2-メチルグリシジルオキシ基である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応工程における反応温度が、-20℃~100℃である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項6】
前記式(1)で表される9H-フルオレン類の反応転化率が、95%以上である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の式(3)で表されるフルオレン化合物であって、窒素雰囲気下、280℃で2時間保持したとき、色相(APHA)が150以下であるフルオレン化合物。
【請求項8】
HPLCにおける純度が99.8面積%以上である請求項7記載のフルオレン化合物。
【請求項9】
請求項1記載の式(1)で表される9H-フルオレン類の含有量が、HPLCにおいて、0.03面積%以下である請求項7または8記載のフルオレン化合物。
【請求項10】
請求項1記載の式(3)で表され、R4aおよびR4bが基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)であるフルオレン化合物であって、
前記式(3)において、R4aおよびR4bの一方がヒドロキシル基、他方が前記基[-ORh]である化合物の含有量が、HPLCにおいて、0.1面積%以下であるフルオレン化合物。
【請求項11】
請求項1記載の式(1)で表される9H-フルオレン類と、請求項1記載の式(2a)および式(2b)で表される化合物とを、少なくともケトン類を含む反応溶媒中で反応させて、得られる請求項1記載の式(3)で表されるフルオレン化合物の熱安定性を向上する方法。
【請求項12】
反応温度が、80℃以下である請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1記載の式(1)で表される9H-フルオレン類と、請求項1記載の式(2a)および式(2b)で表される化合物とを、少なくともケトン類を含む反応溶媒中で反応させて、得られる請求項1記載の式(3)で表されるフルオレン化合物における不純物の含有量を低減する方法。
【請求項14】
反応温度が、45℃以下である請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記式(3)で表されるフルオレン化合物が、R4aおよびR4bが基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)であるフルオレン化合物であり、
前記不純物が、前記式(3)において、R4aおよびR4bの一方がヒドロキシル基、他方が前記基[-ORh]である化合物、および、未反応の前記式(1)で表される9H-フルオレン類から選択された少なくとも一種を含む請求項13または14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フルオレン化合物の製造方法およびこの方法で得られた化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン骨格を有する化合物は、高い屈折率などの光学的特性や耐熱性などの熱的特性などに優れており、樹脂原料や、添加剤などとして有効に利用されている。
【0003】
特開2002-179611号公報(特許文献1)には、フルオレンに不飽和カルボン酸化合物を強塩基触媒の存在下で反応させて、フルオレン骨格を有するカルボン酸化合物を製造する方法について開示されている。
【0004】
特開2005-89422号公報(特許文献2)には、所定のフルオレン類とカルボン酸エステルとを強塩基触媒下で反応させて、フルオレンジカルボン酸エステルを製造する方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-179611号公報
【特許文献2】特開2005-89422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の実施例6には、フルオレンとアクリル酸メチルとを、強塩基触媒の存在下、ジオキサン中で反応させて、下記式で表される3’,3’-(9-フルオレニリデン)ジプロピオン酸ジメチルを合成したことが記載されている。
【0007】
【0008】
また、特許文献2の実施例1には、フルオレンとアクリル酸t-ブチルとを、強塩基触媒の存在下、1,4-ジオキサン中で反応させて、9,9-ビス(プロピオン酸t-ブチル)フルオレンを合成したことが記載されている。
【0009】
しかし、より容易にまたは効率よくフルオレン化合物を調製する方法が求められている。
【0010】
また、これらのフルオレン化合物は、使用環境または保存状態などによっては、熱安定性の点で十分でない場合があり、特に高温環境下などの過酷な条件下では着色し易くなるため、利用用途が制限されるおそれがある。そのため、より一層高い熱安定性または高温環境下における保存安定性が求められている。
【0011】
従って、本発明(または本開示)の目的は、特定のフルオレン化合物を、高い反応転化率で簡便(または容易)にまたは効率よく製造する方法、および、この製造方法により得られたフルオレン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フルオレン類と、α,β-不飽和カルボニル基を有する化合物(α,β-不飽和カルボニル化合物)とを、特定の溶媒中で反応させると、高温環境下であっても着色を有効に抑制可能なフルオレン化合物が得られることを見いだし、本発明(または本開示)を完成した。
【0013】
すなわち、本開示は、下記態様などを包含していてもよい。
【0014】
態様[1]:下記式(1)で表されるフルオレン類(9,9位が未置換の9H-フルオレン類)と、下記式(2a)および(2b)で表される化合物とを、少なくともケトン類を含む反応溶媒中で反応させる反応工程を含む、下記式(3)で表されるフルオレン化合物の製造方法。
【0015】
【0016】
(式中、R1は置換基を示し、kは0~8の整数を示す)。
【0017】
【0018】
[式中、R2a、R2b、R2cおよびR2dは独立して水素原子または置換基を示し、
R3aおよびR3bは独立して水素原子または置換基を示し、
R4aおよびR4bは独立してヒドロキシル基、基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)、グリシジルオキシ基、2-メチルグリシジルオキシ基またはハロゲン原子を示す]。
【0019】
【0020】
(式中、R1、k、R2a、R2b、R2c、R2d、R3a、R3b、R4aおよびR4bは、それぞれ前記に同じ)。
【0021】
態様[2]:前記ケトン類が、ジアルキルケトンである前記態様[1]記載の製造方法。
【0022】
態様[3]:反応工程における反応溶媒が、前記ケトン類に加えて、さらに、炭化水素類を含む前記態様[1]または[2]記載の製造方法。
【0023】
態様[4]:前記式(1)、(2a)、(2b)および(3)において、
R1がハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基または置換アミノ基であり、kが0~4程度の整数であり、
R2aおよびR2bが独立して水素原子、炭化水素基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基であり、R2cおよびR2dが独立して水素原子または炭化水素基であり、
R3aおよびR3bが独立して水素原子、炭化水素基、カルボキシアルキル基またはアルコキシカルボニルアルキル基であり、
R4aおよびR4bが独立してヒドロキシル基、基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)、グリシジルオキシ基または2-メチルグリシジルオキシ基である前記態様[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【0024】
態様[5]:前記反応工程における反応温度が、-20℃~100℃程度である前記態様[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0025】
態様[6]:前記式(1)で表される9H-フルオレン類の反応転化率が、95%程度以上である前記態様[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
【0026】
態様[7]:前記態様[1]~[6]のいずれかに記載の式(3)で表されるフルオレン化合物であって、窒素雰囲気下、280℃で2時間保持したとき、色相(APHA)が150以下であるフルオレン化合物。
【0027】
態様[8]:HPLCにおける純度が99.8面積%程度以上である前記態様[7]記載のフルオレン化合物。
【0028】
態様[9]:前記態様[1]~[6]のいずれかに記載の式(1)で表される9H-フルオレン類の含有量(不純物としての未反応の原料の含有量)が、HPLCにおいて、0.03面積%程度以下である前記態様[7]または[8]記載のフルオレン化合物。
【0029】
態様[10]:前記態様[1]~[9]のいずれかに記載の式(3)で表され、R4aおよびR4bが基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)であるフルオレン化合物であって、前記式(3)において、R4aおよびR4bの一方がヒドロキシル基、他方が前記基[-ORh]である化合物の含有量(不純物としての含有量)が、HPLCにおいて、0.1面積%程度以下であるフルオレン化合物。
【0030】
態様[11]:前記態様[1]~[6]のいずれかに記載の式(1)で表される9H-フルオレン類と、前記態様[1]~[6]のいずれかに記載の式(2a)および式(2b)で表される化合物とを、少なくともケトン類を含む反応溶媒中で反応させて、得られる前記態様[1]~[10]のいずれかに記載の式(3)で表されるフルオレン化合物の熱安定性を向上する方法。
【0031】
態様[12]:反応温度が、80℃以下である前記態様[11]記載の方法。
【0032】
態様[13]:前記態様[1]~[6]のいずれかに記載の式(1)で表される9H-フルオレン類と、前記態様[1]~[6]のいずれかに記載の式(2a)および式(2b)で表される化合物とを、少なくともケトン類を含む反応溶媒中で反応させて、得られる前記態様[1]~[10]のいずれかに記載の式(3)で表されるフルオレン化合物における不純物の含有量を低減する方法。
【0033】
態様[14]:反応温度が、45℃以下である前記態様[13]記載の方法。
【0034】
態様[15]:前記式(3)で表されるフルオレン化合物が、R4aおよびR4bが基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)であるフルオレン化合物であり、
前記不純物が、前記式(3)において、R4aおよびR4bの一方がヒドロキシル基、他方が前記基[-ORh]である化合物、および、未反応の前記式(1)で表される9H-フルオレン類から選択された少なくとも一種を含む前記態様[13]または[14]記載の方法。
【0035】
なお、本発明(または本開示)では、以下の従たる目的を達成(または課題を解決)してもよい。
【0036】
すなわち、本開示の他の目的は、熱安定性(または高温環境下における保存安定性)に優れたフルオレン化合物、およびその製造方法を提供することにある。
【0037】
本開示のさらに他の目的は、未反応の原料の残留を抑制可能なフルオレン化合物の製造方法、および、この製造方法により得られたフルオレン化合物を提供することにある。
【0038】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「C1アルキル基」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール基」で示す。
【0039】
本明細書および特許請求の範囲において、「独立して」とは、2つの構成要素が、それぞれ独立した構成要素であることを意味し、R2a、R2b、R2cおよびR2dの場合、R2a、R2b、R2cおよびR2dが互いに同一の基(水素原子または置換基)であってもよく、異なる基(水素原子または置換基)であってもよいことを意味する。
【0040】
本明細書および特許請求の範囲において、「 ~ 」で示される数値範囲は、特に断りのない限り、両端の数値を含む意味に用いる。
【発明の効果】
【0041】
本開示の方法では、特定のフルオレン類と、特定のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物(α,β-不飽和カルボニル化合物)とを特定の溶媒中で反応させるため、高い反応転化率で簡便(または容易)にまたは効率よく所定のフルオレン化合物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は実施例1で得られたFDP-mの結晶の粉末X線回折パターンを示すチャートである。
【
図2】
図2は実施例2で得られたFDP-mの結晶の粉末X線回折パターンを示すチャートである。
【
図3】
図3は比較例1で得られたFDP-mの結晶の粉末X線回折パターンを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
[反応工程]
本開示の製造方法は、下記式(1)で表される9,9位が未置換の9H-フルオレン類と、後述する式(2a)で表される化合物および後述する式(2b)で表される化合物とを、少なくともケトン類を含む反応溶媒中で反応(マイケル付加反応)させる反応工程を少なくとも含んでいる。
【0044】
(式(1)で表される9H-フルオレン類)
9,9位が未置換の9H-フルオレン類は下記式(1)で表される化合物であり、以下、単に「化合物(1)」、「9H-フルオレン類」などという場合がある。
【0045】
【0046】
(式中、R1は置換基を示し、kは0~8の整数を示す)。
【0047】
前記式(1)において、基R1としては、反応に不活性な非反応性基であってもよく、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;アルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)、アリール基などの炭化水素基;アルコキシ基;アシル基;ニトロ基;シアノ基;または置換アミノ基(モノまたはジ置換アミノ基)などが挙げられる。
【0048】
アルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基が挙げられ、好ましくはC1-8アルキル基、特にメチル基などのC1-4アルキル基が挙げられる。
【0049】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などのC6-12アリール基などが挙げられ、好ましくはフェニル基、ナフチル基などのC6-10アリール基である。前記ナフチル基としては、例えば、1-ナフチル基、2-ナフチル基などが挙げられ、2-ナフチル基が好ましい。
【0050】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1-12アルコキシ基が挙げられ、好ましくはC1-8アルコキシ基、特にメトキシ基などのC1-4アルコキシ基が挙げられる。
【0051】
アシル基としては、例えば、アセチル基などのC1-6アルキル-カルボニル基などが挙げられる。
【0052】
置換アミノ基(モノまたはジ置換アミノ基)としては、例えば、モノまたはジアルキルアミノ基、モノまたはジアリールアミノ基、モノまたはビス(アルキルカルボニル)アミノ基などが挙げられる。モノまたはジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基などのモノまたはジC1-4アルキルアミノ基が挙げられる。モノまたはジアリールアミノ基としては、例えば、ジフェニルアミノ基、N-フェニル-N-トリルアミノ基、N-フェニル-N-ナフチルアミノ基などのモノまたはジC6-12アリールアミノ基が挙げられる。モノまたはビス(アルキルカルボニル)アミノ基としては、例えば、ジアセチルアミノ基などのモノまたはビス(C1-4アルキル-カルボニル)アミノ基が挙げられる。
【0053】
好ましい基R1としては、ハロゲン原子または炭化水素基であり、さらに好ましくはアルキル基またはアリール基などの炭化水素基、特にアリール基である。
【0054】
置換数kは、例えば0~6程度の整数であってもよく、好ましくは以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、さらに好ましくは0もしくは1、または、0もしくは2であり、特に0である。なお、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環における基R1の各置換数(1~4位における置換数と、5~8位における置換数と)は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0055】
なお、基R1の置換数kが複数(2以上)である場合、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環のうち、一方のベンゼン環に置換する2以上の基R1の種類は、同一または異なっていてもよく;また、双方のベンゼン環にそれぞれ置換する基R1の種類は異なっていてもよいが、同一が好ましい。なお、基R1の結合位置(置換位置)は、フルオレン環の1~8位であれば特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2,7位などが挙げられ、2,7位が好ましい。
【0056】
前記式(1)で表される代表的な化合物(9H-フルオレン類)としては、例えば、9H-フルオレン、ジアリール-9H-フルオレン、ジハロ-9H-フルオレンなどが挙げられる。
【0057】
ジアリール-9H-フルオレンとしては、例えば、2,7-ジフェニル-9H-フルオレン、2,7-ジ(1-ナフチル)-9H-フルオレン、2,7-ジ(2-ナフチル)-9H-フルオレン、2,7-ジ(ビフェニリル)-9H-フルオレン、1,8-ジフェニル-9H-フルオレン、3,6-ジフェニル-9H-フルオレン、4,5-ジフェニル-9H-フルオレンなどのジC6-12アリール-9H-フルオレンなどが挙げられる。
【0058】
ジハロ-9H-フルオレンとしては、例えば、2,7-ジブロモ-9H-フルオレン、2,7-ジクロロ-9H-フルオレン、2,7-ジヨード-9H-フルオレン、1,8-ジブロモ-9H-フルオレン、3,6-ジブロモ-9H-フルオレン、4,5-ジブロモ-9H-フルオレンなどが挙げられる。
【0059】
これらの化合物(1)は、市販品を用いてもよく、慣用の方法により調製してもよい。これらの化合物(1)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらの化合物(1)のうち、9H-フルオレン、2,7-ジアリール-9H-フルオレン、2,7-ジブロモ-9H-フルオレンが好ましく、さらに好ましくは9H-フルオレン、2,7-ジC6-10アリール-9H-フルオレン、2,7-ジブロモ-9H-フルオレンが挙げられ、特に9H-フルオレンが好ましい。
【0060】
(式(2a)および(2b)で表される化合物)
下記式(2a)で表される化合物は、以下、単に「化合物(2a)」という場合があり、下記式(2b)で表される化合物は、以下、単に「化合物(2b)」という場合があり、式(2a)および(2b)で表される化合物をまとめて、以下、単に「化合物(2a)(2b)」という場合がある。
【0061】
なお、化合物(2a)および化合物(2b)としては、互いに同一の化学構造を有するのが好ましい。
【0062】
【0063】
[式中、R2a、R2b、R2cおよびR2dは独立して水素原子または置換基を示し、
R3aおよびR3bは独立して水素原子または置換基を示し、
R4aおよびR4bは独立してヒドロキシル基、基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)、グリシジルオキシ基、2-メチルグリシジルオキシ基またはハロゲン原子を示す]。
【0064】
前記式(2a)および(2b)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性基であってもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基などが挙げられる。
【0065】
アルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基が挙げられ、好ましくは以下段階的に、C1-6アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基、C1-2アルキル基、メチル基である。
【0066】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。
【0067】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0068】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0069】
アルコキシカルボニル基(直鎖状または分岐鎖状アルコキシカルボニル基)としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基などのC1-6アルコキシ-カルボニル基などが挙げられる。
【0070】
好ましいR2a、R2b、R2cおよびR2dとしては、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基が挙げられ、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基、特に好ましくは水素原子である。
【0071】
なお、R2a、R2b、R2c、R2dの種類は、互いに同一または異なっていてもよいが、R2aおよびR2bの種類が同一であり、R2cおよびR2dの種類が同一であるのが好ましい。
【0072】
好ましいR2aおよびR2bとしては、水素原子、炭化水素基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基が挙げられ、より好ましくは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基、さらに好ましくは水素原子、アルキル基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基、なかでも好ましくは水素原子またはアルキル基であり、特に好ましくは水素原子である。
【0073】
好ましいR2cおよびR2dとしては、水素原子または炭化水素基が挙げられ、より好ましくは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基、特に好ましくは水素原子である。
【0074】
R3aおよびR3bで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性基であってもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基、カルボキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基などが挙げられる。
【0075】
アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基としては、例えば、前記R2a、R2b、R2cおよびR2dで表される置換基として例示した炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)と同様の基などが挙げられる。これらの炭化水素基のうち、アルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)が好ましく、さらに好ましくは以下段階的に、C1-12アルキル基、C1-6アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基、C1-2アルキル基、メチル基である。
【0076】
カルボキシアルキル基としては、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基などのカルボキシC1-6アルキル基などが挙げられる。
【0077】
アルコキシカルボニルアルキル基としては、例えば、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、t-ブトキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基などのC1-6アルコキシ-カルボニルC1-6アルキル基などが挙げられる。
【0078】
好ましいR3aおよびR3bとしては、水素原子、アルキル基、カルボキシアルキル基またはアルコキシカルボニルアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基であり、特に好ましくは水素原子である。
【0079】
なお、R3aおよびR3bの種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0080】
R4aおよびR4b中の基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)において、炭化水素基Rhとしては、例えば、アルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。これらの炭化水素基Rhとしては、例えば、前記R2a、R2b、R2cおよびR2dで表される置換基として例示した炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)と同様の基などが挙げられる。
【0081】
基[-ORh]としては、例えば、アルコキシ基(直鎖状または分岐鎖状アルコキシ基)、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが挙げられる。
【0082】
アルコキシ基(直鎖状または分岐鎖状アルコキシ基)としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1-12アルコキシ基が挙げられ、好ましくは以下段階的に、C1-6アルコキシ基、C1-4アルコキシ基、C1-3アルコキシ基、C1-2アルコキシ基、メトキシ基である。
【0083】
シクロアルキルオキシ基としては、例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基が挙げられる。
【0084】
アリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基(フェノキシ基)、アルキルフェニルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、ナフチルオキシ基(ナフトキシ基)などのC6-12アリールオキシ基が挙げられる。アルキルフェニルオキシ基としては、例えば、メチルフェニルオキシ基(またはトリルオキシ基)、ジメチルフェニルオキシ基(またはキシリルオキシ基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニルオキシ基が挙げられる。
【0085】
アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基が挙げられる。
【0086】
R4aおよびR4bにおいて、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0087】
好ましいR4aおよびR4bとしては、ヒドロキシル基、基[-ORh]、グリシジルオキシ基または2-メチルグリシジルオキシ基が挙げられ、さらに好ましくはヒドロキシル基または基[-ORh]、特に好ましくは基[-ORh]である。基[-ORh]の中でも、アルコキシ基(直鎖状または分岐鎖状アルコキシ基)が好ましい。
【0088】
なお、R4aおよびR4bの種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0089】
代表的な化合物(2a)(2b)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、α位(または2位)および/またはβ位(または3位)が炭化水素基に置換されたアクリル酸(ただしメタクリル酸は除く)、α位(または2位)がカルボキシアルキル基に置換されたアクリル酸、β位(または3位)がカルボキシル基に置換されたアクリル酸、ならびに、これらの酸に対応するエステルなどが挙げられる。
【0090】
α位(または2位)および/またはβ位(または3位)が炭化水素基に置換されたアクリル酸(ただしメタクリル酸は除く)としては、例えば、α位(または2位)が炭化水素基(ただしメチル基を除く)に置換されたアクリル酸、β位(または3位)が炭化水素基に置換されたアクリル酸、α位(または2位)およびβ位(または3位)が炭化水素基に置換されたアクリル酸などが挙げられる。
【0091】
α位(または2位)が炭化水素基(ただしメチル基を除く)に置換されたアクリル酸としては、例えば、α-アルキルアクリル酸、具体的には、α-エチルアクリル酸、α-プロピルアクリル酸、α-イソプロピルアクリル酸、α-n-ブチルアクリル酸、α-イソブチルアクリル酸、α-sec-ブチルアクリル酸などのα-C2-6アルキル-アクリル酸など;α-シクロアルキルアクリル酸、具体的には、α-シクロヘキシルアクリル酸などのα-C5-10シクロアルキル-アクリル酸など;α-アリールアクリル酸、具体的には、α-フェニルアクリル酸などのα-C6-10アリール-アクリル酸など;α-アラルキルアクリル酸、具体的には、α-ベンジルアクリル酸などのα-C5-10アリールC1-4アルキル-アクリル酸などが挙げられる。
【0092】
β位(または3位)が炭化水素基に置換されたアクリル酸としては、例えば、β-アルキルアクリル酸、具体的には、β-メチルアクリル酸(またはクロトン酸)などのβ-C1-6アルキルアクリル酸など;β-シクロアルキルアクリル酸、具体的には、β-シクロヘキシルアクリル酸などのβ-C5-10シクロアルキル-アクリル酸など;β-アリールアクリル酸、具体的には、β-フェニルアクリル酸(またはケイ皮酸)などのβ-C6-10アリール-アクリル酸などが挙げられる。
【0093】
α位(または2位)およびβ位(または3位)が炭化水素基に置換されたアクリル酸としては、例えば、α,β-ジアルキルアクリル酸、具体的には、α,β-ジメチルアクリル酸(またはチグリン酸)などのα,β-ジC1-6アルキルアクリル酸などが挙げられる。
【0094】
α位(または2位)がカルボキシアルキル基に置換されたアクリル酸としては、例えば、α-カルボキシアルキルアクリル酸、具体的には、α-カルボキシメチルアクリル酸(またはイタコン酸)などのα-カルボキシC1-6アルキル-アクリル酸などが挙げられる。
【0095】
β位(または3位)がカルボキシル基に置換されたアクリル酸としては、例えば、マレイン酸などが挙げられる。
【0096】
これらの酸に対応するエステルとしては、例えば、アルキルエステル、シクロアルキルエステル、アリールエステル、アラルキルエステル、グリシジルエステル、2-メチルグリシジルエステルなどが挙げられる。アルキルエステル(直鎖状または分岐鎖状アルキルエステル)としては、例えば、メチルエステル、エチルエステル、t-ブチルエステルなどのC1-6アルキルエステルなどが挙げられる。シクロアルキルエステルとしては、例えば、シクロヘキシルエステルなどのC5-10シクロアルキルエステルなどが挙げられる。アリールエステルとしては、例えば、フェニルエステルなどのC6-10アリールエステルなどが挙げられる。アラルキルエステルとしては、例えば、ベンジルエステルなどのC6-10アリールC1-4アルキルエステルなどが挙げられる。
【0097】
これらの化合物(2a)(2b)は、市販品を用いてもよく、慣用の方法により調製してもよい。これらの化合物(2a)(2b)のうち、(メタ)アクリル酸、α位(または2位)および/またはβ位(または3位)が炭化水素基に置換されたアクリル酸(ただしメタクリル酸は除く)、ならびに、これらの酸に対応するエステルが好ましく、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸および対応するエステルが挙げられ、特に(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。なお、化合物(2a)および化合物(2b)として、互いに異なる種類の化合物を用いてもよいが、同一の化合物を用いるのが好ましい。
【0098】
前記式(1)で表される9H-フルオレン類と、化合物(2a)および化合物(2b)の総量との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/2~1/10程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、1/2.1~1/5、1/2.3~1/3、1/2.5~1/2.8である。
【0099】
(反応溶媒)
反応工程では、少なくともケトン類(ケトン系溶媒)を含む反応溶媒中で反応させる。反応溶媒としてケトン類を用いることにより、反応転化率を有効に向上でき、効率よく(または高い生産性で)式(3)で表されるフルオレン化合物を調製できる。また、反応溶媒にケトン類を用いると、得られたフルオレン化合物の熱安定性(高温環境下における保存安定性)も有効に向上できる(加熱した際に生じる着色を有効に(容易にまたは効率よく)抑制できる)ようである。
【0100】
ケトン類としては、化学構造中にケトン構造[-C(=O)-]を少なくとも備え、かつ反応に不活性な溶媒であればよく、例えば、鎖状ケトン、環状ケトンなどが挙げられる。
【0101】
鎖状ケトン(直鎖状または分岐鎖状ケトン)としては、直鎖状または分岐鎖状の構造中にケトン骨格を有する化合物であればよく、例えば、エーテル結合を有していてもよいジアルキルケトンやアルキル-シクロアルキルケトンなどが挙げられ、好ましくは以下段階的に、C3-12鎖状ケトン、C3-10鎖状ケトン、C4-8鎖状ケトン、C5-7鎖状ケトンである。
【0102】
ジアルキルケトンとしては、例えば、アセトン(または2-プロパノン)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン(または2-ペンタノン)、メチルイソプロピルケトン(3-メチル-2-ブタノン)、ジエチルケトン(または3-ペンタノン)、メチルブチルケトン(または2-ヘキサノン)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチル-sec-ブチルケトン(または3-メチル-2-ペンタノン)、メチル-t-ブチルケトン(または3,3-ジメチル-2-ブタノン)、エチルプロピルケトン(または3-ヘキサノン)、エチルイソプロピルケトン(または2-メチル-3-ペンタノン)、メチルペンチルケトン(または2-ヘプタノン)、メチルイソアミルケトン(または5-メチル-2-ヘキサノン)、メチル-1-メチルブチルケトン(または3-メチル-2-ヘキサノン)、エチルブチルケトン(または3-ヘプタノン)、エチルイソブチルケトン(または5-メチル-3-ヘキサノン)、ジプロピルケトン(または4-ヘプタノン)、プロピルイソプロピルケトン(または2-メチル-3-ヘキサノン)、ジイソプロピルケトン(または2,4-ジメチル-3-ペンタノン)、メチルヘキシルケトン(または2-オクタノン)、メチル-4-メチルペンチルケトン(または6-メチル-2-ヘプタノン)、エチルペンチルケトン(または3-オクタノン)、エチル-2-メチルブチルケトン(または5-メチル-3-ヘプタノン)、プロピルブチルケトン(または4-オクタノン)、プロピルイソブチルケトン(または2-メチル-4-ヘプタノン)、プロピル-sec-ブチルケトン(または3-メチル-4-ヘプタノン)、イソプロピルブチルケトン(または2-メチル-3-ヘプタノン)、イソプロピルイソブチルケトン(または2,5-ジメチル-3-ヘキサノン)、メチルヘプチルケトン(または2-ノナノン)、メチル-3-メチルヘキシルケトン(または5-メチル-2-オクタノン)、エチルヘキシルケトン(または3-ノナノン)、プロピルペンチルケトン(または4-ノナノン)、ジブチルケトン(または5-ノナノン)、ジイソブチルケトン(または2,6-ジメチル-4-ヘプタノン)、メチルオクチルケトン(または2-デカノン)、エチルヘプチルケトン(または3-デカノン)などのC3-12ジアルキルケトンなどが挙げられる。
【0103】
アルキルシクロアルキルケトンとしては、例えば、メチルシクロペンチルケトン(または1-シクロペンチルエタノン)などのC1-6アルキル-C5-10シクロアルキルケトンなどが挙げられる。
【0104】
エーテル結合を有するジアルキルケトンとしては、例えば、アルコキシ-ジアルキルケトン、具体的には、メトキシアセトンなどのC1-6アルコキシ-C3-12ジアルキルケトンなどが挙げられる。
【0105】
環状ケトンとしては、環構造中にケトン骨格を有する化合物であればよく、例えば、シクロアルカノン、具体的には、シクロペンタノン、2,2-ジメチルシクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-メチルシクロヘキサノン、3-メチルシクロヘキサノン、4-メチルシクロヘキサノン、4-エチルシクロヘキサノン、3,3-ジメチルシクロヘキサノン、シクロヘプタノンなどのC5-10シクロアルカノンなど;架橋環式シクロアルカノン、具体的には、トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン-8-オンなどが挙げられる。
【0106】
これらのケトン類(ケトン系溶媒)は単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのケトン類のうち、鎖状ケトン(直鎖状または分岐鎖状ケトン)が好ましく、さらに好ましくはジアルキルケトンが好ましい。ジアルキルケトンの中でも、好ましくは以下段階的に、C3-10ジアルキルケトン、C4-8ジアルキルケトン、C5-7ジアルキルケトン、C6ジアルキルケトン、MIBKである。
【0107】
反応溶媒は、ケトン類単独であってもよく、本開示の効果を著しく害しない限り、ケトン類(ケトン系溶媒または第1の溶媒)とは異なる他の溶媒(第2の溶媒)を含んでいてもよい。第2の溶媒を組み合わせることにより、溶解性を向上させ、生産性をより向上できる場合がある。
【0108】
他の溶媒(第2の溶媒)としては、反応に不活性で、9H-フルオレン類および化合物(2a)(2b)を溶解可能であるのが好ましく、非極性溶媒であってもよく、極性溶媒であってもよい。また、他の溶媒(第2の溶媒)は、プロトン性溶媒であってもよく、非プロトン性溶媒であってもよい。
【0109】
非極性溶媒としては、例えば、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類などが挙げられる。プロトン性極性溶媒としては、例えば、アルコール類、水などが挙げられる。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、スルホキシド類などが挙げられる。
【0110】
炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ドデカンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0111】
ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素などが挙げられる。
【0112】
エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサンなどの環状エーテル;鎖状エーテルなどが挙げられる。鎖状エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル;アニソールなどのアルキルフェニルエーテル;ジメトキシエタンなどの(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0113】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール(IPA)などのC1-4アルコールなどが挙げられる。
【0114】
スルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0115】
これらの他の溶媒(第2の溶媒)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらの第2の溶媒のうち、好ましくは炭化水素類などの非極性溶媒、および/またはメタノールなどのアルコール類を用いてもよい。炭化水素類などの非極性溶媒、特に、トルエンなどの芳香族炭化水素などを第1の溶媒と組み合わせると、反応転化率の向上、目的物[式(3)で表されるフルオレン化合物]の純度の向上、不純物の低減(後述するモノエステル体の低減など)および熱安定性の向上[高温環境下における保存安定性の向上または着色の抑制(APHAの低減)]から選択される少なくとも一つの特性または性質をより改善できる場合がある。また、反応系中(反応溶媒中)に水、アルコール類などのプロトン性溶媒が存在すると、反応中間体である9H-フルオレン類のアニオン体が失活する場合があるため、予め脱水などによりプロトン性溶媒を除去してもよい。水、アルコール類などのプロトン性溶媒を添加する場合、後述する塩基を溶解した溶液の形態で添加してもよい。
【0116】
反応溶媒中のケトン類(ケトン系溶媒または第1の溶媒)の割合は、反応溶媒全体に対して、例えば10質量%以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、30~100質量%、50~100質量%、70~100質量%、90~100質量%、95~100質量%であってもよく、ケトン類に炭化水素類などの非極性溶媒を組み合わせる場合、好ましくは以下段階的に、30~95質量%、50~90質量%、60~85質量%、65~80質量%、70~75質量%であってもよい。ケトン類の割合が少なすぎない適度な範囲にあると、反応転化率を十分に向上でき、フルオレン化合物を容易にまたは効率よく製造し易くなったり、得られるフルオレン化合物の熱安定性(高温環境下における保存安定性)を有効に(容易にまたは効率よく)向上し易い傾向がある。
【0117】
ケトン類(ケトン系溶媒または第1の溶媒)と他の溶媒(第2の溶媒)との割合は、前者/後者(質量比)=10/90~100/0程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、30/70~100/0、50/50~100/0、70/30~100/0、90/10~100/0、95/5~99/1である。前記割合は、ケトン類と、プロトン性極性溶媒との割合であってもよく;ケトン類と、メタノールなどのアルコール類との割合であってもよい。また、ケトン類(第1の溶媒)と他の溶媒(第2の溶媒)との割合は、好ましくは以下段階的に、前者/後者(質量比)=30/70~95/5、50/50~90/10、60/40~85/15、65/35~80/20、70/30~75/25であってもよい。前記割合は、ケトン類と、第2の溶媒としての炭化水素類などの非極性溶媒および/またはアルコール類などのプロトン性極性溶媒との割合であってもよく;ジアルキルケトンなどのケトン類と、第2の溶媒としてのトルエンなどの芳香族炭化水素および/またはメタノールなどのアルコール類との割合であってもよい。ケトン類の割合が少なすぎない適度な範囲にあると、反応転化率を十分に向上でき、フルオレン化合物を容易にまたは効率よく製造し易くなったり、得られるフルオレン化合物の熱安定性(高温環境下における保存安定性)を有効に(容易にまたは効率よく)向上し易い傾向がある。
【0118】
第2の溶媒として、好ましくは炭化水素類などの非極性溶媒、特に、トルエンなどの芳香族炭化水素などをケトン類(第1の溶媒)と組み合わせてもよく、ケトン類(第1の溶媒)と炭化水素類などの非極性溶媒との割合は、例えば、前者/後者(質量比)=10/90~100/0程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、30/70~99/1、50/50~95/5、60/40~90/10、65/35~85/15、70/30~80/20である。前記割合は、ジアルキルケトンなどのケトン類と、トルエンなどの芳香族炭化水素との割合であってもよい。ケトン類の割合が少なすぎない適度な範囲にあると、反応転化率を十分に向上でき、フルオレン化合物を容易にまたは効率よく製造し易くなったり、得られるフルオレン化合物の熱安定性(高温環境下における保存安定性)を有効に(容易にまたは効率よく)向上し易い傾向がある。ケトン類の割合が多すぎない適度な範囲にあると、反応転化率の向上、目的物[式(3)で表されるフルオレン化合物]の純度の向上、不純物の低減および熱安定性の向上[高温環境下における保存安定性の向上または着色の抑制(APHAの低減)]から選択される少なくとも一つの特性または性質をより改善し易い傾向がある。
【0119】
第2の溶媒として、炭化水素類などの非極性溶媒(特に、トルエンなどの芳香族炭化水素など)およびプロトン性極性溶媒(メタノールなどのアルコール類など)を組み合わせてもよい。炭化水素類などの非極性溶媒(特に、トルエンなどの芳香族炭化水素など)と、プロトン性極性溶媒(メタノールなどのアルコール類など)との割合は、例えば、前者/後者(質量比)=10/90~100/0程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、30/70~99.9/0.1、50/50~99.5/0.5、65/35~99/1、80/20~97/3、90/10~95/5である。前記割合は、プロトン性極性溶媒の割合が多すぎない適度な範囲にあると、反応転化率を十分に向上でき、フルオレン化合物を容易にまたは効率よく製造し易くなったり、得られるフルオレン化合物の熱安定性(高温環境下における保存安定性)を有効に(容易にまたは効率よく)向上し易い傾向があり、また、反応転化率の向上、目的物[式(3)で表されるフルオレン化合物]の純度の向上、不純物の低減および熱安定性の向上[高温環境下における保存安定性の向上または着色の抑制(APHAの低減)]から選択される少なくとも一つの特性または性質をより改善し易い傾向がある。
【0120】
反応溶媒の使用量は、反応の進行を妨げない限り特に制限されず、化合物(1)、化合物(2a)および化合物(2b)の総量100質量部に対して、例えば10~1000質量部程度であってもよく、好ましくは50~500質量部、さらに好ましくは70~150質量部、特に、80~120質量部である。
【0121】
(塩基)
反応は、通常、反応中間体である9H-フルオレン類のアニオン体を生成するための塩基(塩基性触媒)の存在下で行ってもよい。塩基(塩基性触媒)としては、例えば、無機塩基、有機塩基などが挙げられる。
【0122】
無機塩基としては、例えば、金属水酸化物、金属炭酸塩または炭酸水素塩などが挙げられる。
【0123】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。
【0124】
金属炭酸塩または炭酸水素塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩または炭酸水素塩などが挙げられる。
【0125】
有機塩基としては、金属アルコキシド、第四級アンモニウム水酸化物(第四級アンモニウムヒドロキシド)などが挙げられる。
【0126】
金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0127】
第四級アンモニウム水酸化物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラ-n-プロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラ-n-ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラ-n-ヘキシルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどのテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド;1-アダマンチルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどの単環式または架橋環式シクロアルキルトリアルキルアンモニウムヒドロキシド;フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、3-(トリフルオロメチル)フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどの置換基を有していてもよいアリールトリアルキルアンモニウムヒドロキシド;ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシドなどのアラルキルトリアルキルアンモニウムヒドロキシド;2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(またはコリン)、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシド、トリス(ポリオキシエチレン)メチルアンモニウムヒドロキシドなどのヒドロキシル基を有する第四級アンモニウムのヒドロキシドなどが挙げられる。
【0128】
これらの塩基(塩基性触媒)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらの塩基のうち、第四級アンモニウムヒドロキシドが好ましく、アラルキルトリアルキルアンモニウムヒドロキシドがさらに好ましく、特に、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどのC6-10アリールC1-4アルキルトリC1-4アルキルアンモニウムヒドロキシドが好ましい。なお、塩基は、溶媒に溶解した溶液の形態、例えば、前記反応溶媒の項で例示した溶媒に溶解した溶液、具体的には、水溶液や、メタノール溶液などのアルコール溶液の形態で添加してもよい。
【0129】
塩基の割合は、9H-フルオレン類1モルに対して、例えば0.001~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.01~0.08モル、さらに好ましくは0.02~0.05モルである。
【0130】
(他の成分)
反応は、相間移動触媒、脱水剤などの他の成分の存在下または非存在下で行ってもよい。これらの他の成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0131】
相間移動触媒としては、例えば、アンモニウム塩、ホスホニウム塩などが挙げられる。アンモニウム塩としては、第四級アンモニウム塩、例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、テトラアミルアンモニウムクロリド、テトラアミルアンモニウムブロミド、テトラヘプチルアンモニウムブロミド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルアンモニウムブロミド、ジメチルジパルミチルアンモニウムブロミドなどのテトラアルキルアンモニウムハライド;トリメチルフェニルアンモニウムクロリドなどのアリールトリアルキルアンモニウムハライド;ベンジルトリメチルアンモニウムヨージドなどのアラルキルトリアルキルアンモニウムハライドなどが挙げられる。ホスホニウム塩としては、例えば、テトラエチルホスホニウムブロミド、トリブチルヘキシルホスホニウムブロミド、トリブチル-n-オクチルホスホニウムブロミド、などのテトラアルキルホスホニウムハライド;テトラフェニルホスホニウムブロミドなどのテトラアリールホスホニウムハライドなどが挙げられる。これらの相間移動触媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0132】
相間移動触媒の割合は、9H-フルオレン類1モルに対して、例えば0.001~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.01~0.05モルである。
【0133】
脱水剤としては、例えば、モレキュラーシーブ(ゼオライト)などの分子ふるい、無機塩、具体的には、硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属硫酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムなどのアルカリ金属硫酸塩、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。これらの脱水剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。脱水剤の割合は、特に制限されず、反応系内を脱水可能な程度であればよい。
【0134】
反応は、相間移動触媒および/または脱水剤の存在下で行うことにより促進してもよく、本開示では、これらの非存在下であっても、簡便(または容易)にまたは効率よくフルオレン化合物を製造できる。
【0135】
(反応条件など)
反応工程は、化合物(1)と、化合物(2a)(2b)とを、ケトン類の存在下で反応させる工程であればよく、反応系内に各成分を添加する順序などは特に制限されない。
【0136】
また、化合物(1)は、ケトン類を含む反応溶媒との混合液の形態で反応に供してもよく、前記混合液に対して、化合物(2a)(2b)、塩基、他の成分などを添加して反応させてもよい。前記混合液は、化合物(1)が溶解した溶液であってもよく、完全には溶解していない状態(懸濁液)であってもよく、溶液であるのが好ましい。
【0137】
反応は、大気雰囲気下または不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。また、反応は、水の非存在下(脱水または非水環境下)で行ってもよく、攪拌しながら行ってもよく、常圧下または加圧下で行ってもよい。
【0138】
反応温度は、例えば-30℃~150℃程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、-20℃~100℃、-10℃~60℃、0~50℃、5~40℃、10~30℃、15~25℃であってもよく、より好ましくは以下段階的に、-20℃~45℃、-15℃~40℃、-10℃~30℃、-8℃~20℃、-5℃~10℃、-3℃~5℃であってもよく、より高い生産性も考慮すると、さらに好ましくは以下段階的に、0~45℃、5~40℃、10~35℃、15~30℃、20~25℃である。反応温度が低すぎない適度な範囲にあると、反応が進行し易くなる(反応転化率が向上する)傾向があり、また、反応溶媒に溶解させ易く、反応を容易にまたは効率よく進行でき、生産性を向上できる傾向がある。反応温度が高すぎない適度な範囲にあると、反応が進行し易くなる(反応転化率が向上する)傾向があるとともに、副反応を抑制できるためか、不純物含量の増加を抑制できる傾向がある。また、反応温度が高すぎない適度な範囲にあると、不純物含量の増加を抑制し易いためか、得られるフルオレン化合物の熱安定性(高温環境下での保存安定性)も低下を抑制して着色し難い傾向がある。なお、反応温度が低すぎず、高すぎない適度な範囲にあると、温度管理が容易で、生産性をより向上できる傾向にある。
【0139】
本開示の方法では、比較的低い温度域であっても、反応転化率を大きく低下させることなく、有効にまたは効率よく反応を進行できる。そのため、高い反応転化率を保持または向上しつつ、得られるフルオレン化合物の不純物含量を低減したり、熱安定性を向上したりすることもできる。したがって、本開示では、少なくともケトン類を含む反応溶媒中で、例えば80℃程度以下、好ましくは以下段階的に、70℃以下、60℃以下、50℃以下、45℃以下など、より好ましくは以下段階的に、-20℃~45℃、-15℃~40℃、-10℃~30℃、-8℃~20℃、-5℃~10℃、-3℃~5℃など、より高い生産性も考慮すると、さらに好ましくは以下段階的に、0~45℃、5~40℃、10~35℃、15~30℃、20~25℃などの比較的低い温度域などで反応させて、得られるフルオレン化合物[前記式(3)で表されるフルオレン化合物]の不純物の含有量を低減する方法や;得られるフルオレン化合物の熱安定性を向上する方法(高温環境下での着色を抑制する方法)も包含する。
【0140】
なお、前記不純物としては、例えば、未反応の化合物(1)などが挙げられ、式(3)で表されるフルオレン化合物のR4aおよびR4bが基[-ORh]である場合、後述するモノエステル体やジカルボン酸体なども不純物として挙げられる。前記不純物の含有量を低減する方法では、未反応の化合物(1)、モノエステル体およびジカルボン酸体から選択される少なくとも一種の不純物を低減してもよく、好ましくは未反応の化合物(1)およびモノエステル体から選択される少なくとも一種の不純物を低減してもよく、さらに好ましくは未反応の化合物(1)およびモノエステル体の双方を低減してもよい。
【0141】
反応時間は、例えば0.5~48時間程度であってもよく、本開示の方法では、容易にまたは効率よくフルオレン化合物を製造できるため、好ましくは以下段階的に、0.8~12時間、1~3時間である。
【0142】
本開示の製造方法では、反応転化率を有効に向上でき、特定のフルオレン化合物を容易にまたは効率よく製造できる。反応工程終了後(反応終了後)における反応転化率(9H-フルオレン類基準の反応転化率)は、例えば93%以上、好ましくは以下段階的に、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.3%以上、99.5%以上、99.7%以上、実質的に100%である。前記反応転化率は、反応開始から2時間後における反応転化率であってもよい。
【0143】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、反応転化率は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0144】
[精製工程]
本開示の方法は、反応工程終了後、必要に応じて、反応混合物を、慣用の分離精製方法に供して、得られたフルオレン化合物を精製する精製工程を含んでいてもよい。
【0145】
慣用の分離精製方法としては、例えば、中和、洗浄、抽出、ろ過、デカンテーション、濃縮、脱水、乾燥、晶析、カラムクロマトグラフィー、これらを組み合わせた方法などが挙げられる。
【0146】
例えば、反応工程終了後、得られた有機層を水で洗浄して水溶性の不純物を除去して精製してもよい。その際、酸、具体的には、塩酸などの酸性水溶液などを加えて反応混合物を中和した後、有機層を水で洗浄してもよい。また、この水洗した有機層から溶媒を留去(脱溶媒)した後、晶析および/またはカラムクロマトグラフィーにより精製してもよく、好ましくは晶析してもよい。
【0147】
晶析の際に用いる晶析溶媒としては、例えば、アルコール類、具体的には、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)などのC1-4アルコールなどが挙げられ、IPAが好ましい。また、種晶を添加して晶析してもよい。なお、晶析は複数回行ってもよいが、本開示の方法では反応転化率が高く、不純物含量を低減し易いためか、晶析回数が少なくても、フルオレン化合物を容易にまたは効率よく高純度化できるようである。
【0148】
[式(3)で表されるフルオレン化合物]
本開示の製造方法では、高い反応転化率(9H-フルオレン類基準の反応転化率)で、目的物としての下記式(3)で表されるフルオレン化合物を容易にまたは効率よく製造できる。また、本開示の方法では、熱安定性(または高温環境下における保存安定性)に優れたフルオレン化合物を調製することもできる。さらに、本開示の方法では、未反応の原料の残留を有効にまたは効率よく抑制することもできる。なお、本明細書および特許請求の範囲では、下記式(3)で表される化合物を、単に「フルオレン化合物」という場合がある。
【0149】
【0150】
(式中、R1、k、R2a、R2b、R2c、R2d、R3a、R3b、R4aおよびR4bは、それぞれ前記式(1)、(2a)および(2b)に好ましい態様を含めて同じ)。
【0151】
前記式(3)において[前記式(1)、(2a)および(2b)において]、好ましい代表的な態様としては、例えば、
R1がハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基または置換アミノ基であり、kが0~4の整数であり、
R2aおよびR2bが独立して水素原子、炭化水素基、カルボキシル基またはアルコキシカルボニル基であり、R2cおよびR2dが独立して水素原子または炭化水素基であり、
R3aおよびR3bが独立して水素原子、炭化水素基、カルボキシアルキル基またはアルコキシカルボニルアルキル基であり、
R4aおよびR4bが独立してヒドロキシル基、基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)、グリシジルオキシ基または2-メチルグリシジルオキシ基である態様が挙げられ;さらに好ましくは、
R1がハロゲン原子または炭化水素基であり、kが0~2の整数であり、
R2aおよびR2bが独立して水素原子または炭化水素基であり、R2cおよびR2dが独立して水素原子または炭化水素基であり、
R3aおよびR3bが独立して水素原子または炭化水素基であり、
R4aおよびR4bが独立してヒドロキシル基または基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)である態様が挙げられ;なかでも、
R1がハロゲン原子、アルキル基またはアリール基であり、kが0または2であり、
R2aおよびR2bが独立して水素原子であり、R2cおよびR2dが独立して水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、
R3aおよびR3bが独立して水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、
R4aおよびR4bが独立して基[-ORh](式中、Rhは炭化水素基を示す)である態様が挙げられ;特に、
R1がハロゲン原子、アルキル基またはアリール基であり、kが0または2であり、
R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子であり、
R3aおよびR3bが独立して水素原子またはアルキル基であり、
R4aおよびR4bが独立して基[-ORh](式中、Rhはアルキル基を示す)である態様が挙げられる。
【0152】
前記式(3)で表される代表的なフルオレン化合物としては、式(1)で表される9H-フルオレン類の項で例示した代表的な9H-フルオレン類と、式(2a)および(2b)で表される化合物の項で例示した代表的な化合物(2a)(2b)とに対応するフルオレン化合物などが挙げられる。
【0153】
具体的なフルオレン化合物としては、9,9-ビス(カルボキシアルキル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジアリールフルオレン、9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジハロフルオレン、およびこれらの酸に対応するエステルまたは酸ハライドなどが挙げられる。
【0154】
9,9-ビス(カルボキシアルキル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)フルオレンなどが挙げられる。
【0155】
9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジアリールフルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジ(C6-10アリール)フルオレンなどが挙げられる。
【0156】
9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジハロフルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジクロロフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジブロモフルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジハロフルオレンなどが挙げられる。
【0157】
これらの酸に対応するエステルまたは酸ハライドとしては、前記式(3)におけるR4aおよびR4bの種類に対応するエステルまたは酸ハライドなどが挙げられ、例えば、ジメチルエステル、ジエチルエステル、ジt-ブチルエステルなどのジアルキルエステルなどが挙げられ、好ましくはジメチルエステルなどのジC1-4アルキルエステルが挙げられる。
【0158】
これらのフルオレン化合物のうち、9,9-ビス(カルボキシアルキル)フルオレンのジアルキルエステルが好ましく、さらに好ましくは9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンのジメチルエステルなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)フルオレンのジC1-4アルキルエステルである。
【0159】
本開示の方法で得られるフルオレン化合物は結晶の形態であってもよい。
【0160】
本開示の方法では、得られるフルオレン化合物の熱安定性(高温環境下における保存安定性)を有効に、容易にまたは効率よく向上できるようであり、加熱した際にも、着色を有効に抑制できる。本開示の方法で得られるフルオレン化合物を窒素雰囲気下で280℃に加熱して2時間保持した際の色相(APHA)は、例えば200以下(すなわち、0~200)であり、好ましくは以下段階的に、150以下、125以下、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下である。また、前記色相(APHA)は、値が小さいほど好ましいが、例えば5以上、10以上、20以上、30以上、40以上などであってもよい。
【0161】
本開示の方法では、反応転化率が高いためか、得られるフルオレン化合物の純度を向上し易いようである。
【0162】
得られるフルオレン化合物のHPLCにおける純度(LC純度)は、例えば95面積%以上(すなわち、95~100面積%)程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、97面積%以上、98面積%以上、99面積%以上、99.5面積%以上、99.8面積%以上、99.9面積%以上である。
【0163】
また、得られるフルオレン化合物中において、未反応の原料である9H-フルオレン類の含有量(不純物としての含有量)は、HPLCにおける面積割合で、例えば0.05面積%以下(すなわち、0~0.05面積%)程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、0.04面積%以下、0.03面積%以下、0.02面積%以下、0.01面積%以下、検出限界以下または0面積%である。
【0164】
さらに、前記式(3)において、R4aおよびR4bが基[-ORh]であるフルオレン化合物(すなわち、ジエステル体)を調製する場合、原料または副反応に由来するためか、式(3)におけるR4aおよびR4bの少なくとも一方がヒドロキシル基である不純物、すなわち、R4aおよびR4bのうち、一方がヒドロキシル基、他方が前記基[-ORh]であるフルオレン化合物(モノエステル体)、R4aおよびR4bのうち、双方がヒドロキシル基であるフルオレン化合物(ジカルボン酸体)が生じることが多い。これらの不純物のうち、特に、モノエステル体が含まれることが多いが、本開示の方法では、このようなモノエステル体などの不純物も有効に低減できる場合がある。得られるフルオレン化合物中において、R4aおよびR4bの少なくとも一方がヒドロキシル基である不純物の含有量、特に、モノエステル体の含有量は、HPLCにおける面積割合で、例えば0.2面積%以下(すなわち、0~0.2面積%)程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、0.17面積%以下、0.15面積%以下、0.1面積%以下、0.09面積%以下、0.07面積%以下、0.05面積%以下、0.04面積%以下、0.03面積%以下、0.02面積%以下である。
【0165】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、融点、APHA、LC純度、不純物含量は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0166】
本開示の方法では、高純度なフルオレン化合物を製造し易いにもかかわらず、前記フルオレン化合物を高い収率で容易にまたは効率よく製造することもできる。得られるフルオレン化合物の収率(9H-フルオレン類基準の収率)は、例えば75%以上(すなわち、75~100%)程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、78%以上、80%以上である。
【実施例0167】
以下に、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。用いた試薬および各評価方法は以下の通りである。
【0168】
[評価方法]
(反応転化率)
反応終了後の反応混合物の高性能(または高速)液体クロマトグラフィー(HPLC)を測定し、原料フルオレン(9H-フルオレン類)の反応転化率(消費率)を算出した。すなわち、HPLCチャートに基づいて、反応終了後における未反応の原料フルオレンの残存率[%](原料フルオレンの仕込み量に対する未反応分の割合[%])を算出し、100-(原料フルオレンの残存率)[%]を9H-フルオレン類基準の反応転化率として算出した。なお、HPLCは、後述する(HPLC純度および不純物含量)に記載の方法と同様の方法により測定した。
【0169】
(HPLC純度および不純物含量)
以下の測定装置および条件に基づいて、高性能(または高速)液体クロマトグラフィー(HPLC)により、実施例および比較例で得られた試料を測定し、HPLC純度[面積%]を算出した。
【0170】
装置:(株)島津製作所製「LC-2010A HT」
カラム:東ソー(株)製「TSKgel ODS-80TM」
検出方法:UV、検出波長254nm
溶離液:アセトニトリル/水(容量比)=60/40(アイソクラティック)
流量:1.0mL/分。
【0171】
なお、HPLCにより得られた結果から、目的化合物のジエステル体[前記式(3)において、R4aおよびR4bがメトキシ基である化合物]のHPLC純度(LC純度)に加えて、不純物として、モノエステル体[前記式(3)において、R4aおよびR4bの一方がメトキシ基、他方がヒドロキシル基である化合物]および9H-フルオレン類(未反応の原料)の含有量を、それぞれ面積割合([面積%])で求めた。
【0172】
(融点)
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製「Discovery DSC25」)を用い、窒素雰囲気下、測定温度30~300℃、昇温速度10℃/分の条件で
測定した。得られたDSCチャート(DSC曲線)から、融解による吸熱ピークのピークトップの温度を読み取り、融点とした。
【0173】
(色相APHA)
色相(APHA)は、窒素気流下、280℃にて2時間溶融し保持したサンプル(溶融状態の試料)について、JIS K0071に準拠した装置(色彩・濁度同時測定器、日本電色工業(株)製「COH-400」)を用いて測定した。
【0174】
(X線回折(XRD))
粉末X線回折装置(リガク(株)製「全自動多目的水平型X線回折装置Smart Lab」)を用いて、出力3kW、線源(Cu管球)、測定角5~90°の条件で測定した。
【0175】
[試薬]
9H-フルオレン:富士フイルム和光純薬(株)製
アクリル酸メチル:東京化成工業(株)製
メチルイソブチルケトン(MIBK):関東化学(株)製
トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド(トリトンB)の40質量%メタノール溶液:東京化成工業(株)製
イソプロピルアルコール(IPA):関東化学(株)製
メタノール:関東化学(株)製
【0176】
[実施例1]
9H-フルオレン87.4gに200gのMIBKを加えて50℃で撹拌の後に、アクリル酸メチル120gおよびトリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド40質量%メタノール溶液7.5gを滴下し、窒素雰囲気下、50℃で2時間撹拌した。反応終了後、有機層を水洗した。得られた有機層から溶媒を留去後、IPAに溶解させ、撹拌しながら結晶を析出させ、10℃以下まで冷却後、析出した結晶をろ過することで145.6gの9,9-ビス[2-(メトキシカルボニル)エチル]フルオレン(以下、FDP-mともいう)を得た(収率81.7%)。
【0177】
反応転化率は98.2%であった。得られた結晶体の純度は99.88面積%であった。不純物として、下記式で表されるモノエステル体が0.09面積%残留しているのが確認され、未反応原料の9H-フルオレンのピークは検出されなかった。融点(DSCにおける吸熱ピークのピークトップ温度)は83℃であり、280℃で2時間溶融後のAPHAを測定したところ、74であった。なお、得られたFDP-mの粉末X線回折パターンを
図1に示し、主な回折ピーク(相対積分強度10%以上)を下記表1に示す。
【0178】
【0179】
【0180】
[実施例2]
晶析溶媒として、IPAに代えて、IPAの使用量の3倍量のメタノールを用いたこと以外は実施例1と同様にしてFDP-mを調製した。
【0181】
反応転化率は98.8%であった。得られた結晶体の純度は99.75面積%であった。不純物として、前記式で表されるモノエステル体が0.17面積%残留しているのが確認され、および未反応原料の9H-フルオレンのピークは検出されなかった。融点(DSCにおける吸熱ピークのピークトップ温度)は83℃であり、280℃で2時間溶融後のAPHAを測定したところ、138であった。なお、得られたFDP-mの粉末X線回折パターンを
図2に示し、主な回折ピーク(相対積分強度10%以上)を下記表2に示す。
【0182】
【0183】
[比較例1]
反応溶媒として、MIBKに代えて1,4-ジオキサンを用いたこと以外は実施例1と同様にして131.0gのFDP-mを調製した(収率73.5%)。
【0184】
反応転化率は91.1%であった。得られた結晶体の純度は99.74面積%であった。不純物として、前記式で表されるモノエステル体が0.11面積%残留しているのが確認され、未反応原料の9H-フルオレンが0.05面積%残留しているのが確認された。融点(DSCにおける吸熱ピークのピークトップ温度)は83℃であり、280℃で2時間溶融後のAPHAを測定したところ、209であった。なお、得られたFDP-mの粉末X線回折パターンを
図3に示し、主な回折ピーク(相対積分強度10%以上)を下記表3に示す。
【0185】
【0186】
[実施例3]
反応温度を40℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてFDP-mを調製した。
【0187】
反応転化率は98.7%であった。得られた結晶体の純度は99.92面積%であった。不純物として、前記式で表されるモノエステル体が0.03面積%残留しているのが確認され、未反応原料の9H-フルオレンのピークは検出されなかった。融点(DSCにおける吸熱ピークのピークトップ温度)は83℃であり、280℃で2時間溶融後のAPHAを測定したところ、47であった。
【0188】
[実施例4]
反応温度を20℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてFDP-mを調製した。
【0189】
反応転化率は99.9%であった。得られた結晶体の純度は99.82面積%であった。不純物として、前記式で表されるモノエステル体が0.04面積%残留しているのが確認され、未反応原料の9H-フルオレンのピークは検出されなかった。融点(DSCにおける吸熱ピークのピークトップ温度)は83℃であり、280℃で2時間溶融後のAPHAを測定したところ、44であった。
【0190】
[実施例5]
反応温度を0℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてFDP-mを調製した。
【0191】
反応転化率は100.0%であった。得られた結晶体の純度は99.95面積%であった。不純物として、前記式で表されるモノエステル体が0.03面積%残留しているのが確認され、未反応原料の9H-フルオレンのピークは検出されなかった。融点(DSCにおける吸熱ピークのピークトップ温度)は83℃であり、280℃で2時間溶融後のAPHAを測定したところ、43であった。
【0192】
[実施例6]
反応溶媒として、MIBK200gに代えて、MIBK150gとトルエン50gとの混合液を用い、反応温度を40℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてFDP-mを調製した。
【0193】
反応転化率は99.3%であった。得られた結晶体の純度は99.94面積%であった。不純物として、前記式で表されるモノエステル体が0.02面積%残留しているのが確認され、未反応原料の9H-フルオレンのピークは検出されなかった。融点(DSCにおける吸熱ピークのピークトップ温度)は83℃であり、280℃で2時間溶融後のAPHAを測定したところ、43であった。
【0194】
実施例および比較例の結果を下記表4に示す。
【0195】
【0196】
表4の結果から明らかなように、反応溶媒としてMIBKを用いた実施例では、9H-フルオレンの反応転化率が高く、効率的に反応が進行しており、得られたFDP-m中に未反応の9H-フルオレンが検出されなかった(N.D.)。
【0197】
また、実施例で得られたFDP-mは、280℃で溶融してもAPHAが低く、着色が有効に抑制されていた。特に、実施例2は比較例1と比較してLC純度がほぼ同等であるにもかかわらず、APHAを大きく低減できていた。
【0198】
なお、実施例3~5では、実施例1に対して反応温度が低くても、反応転化率が低下することなく、むしろ上昇した。また、反応温度が低くなるほど、副反応が有効に抑制されるためか、不純物としてのモノエステル体の含量が低下するとともに、APHAも低下する傾向が見られた。
【0199】
さらに、実施例6では、反応溶媒がケトン類と、ケトン類とは異なる非極性溶媒との組み合わせであっても、反応転化率が低下することなく、LC純度、モノエステル体の含量、APHAが良好な結果であった。
本開示の方法では、従来の方法に比べて、高い反応転化率で容易にまたは効率よく所定のフルオレン化合物を製造できる。また、本開示の方法で得られるフルオレン化合物は、高温環境下であっても着色を有効に抑制でき、保存安定性に優れるため、様々の用途に利用でき、例えば、工業製品、有機合成または樹脂合成の原料、屈折率向上剤などの添加剤(または樹脂添加剤)などに好適に使用してもよい。
代表的な用途としては、レジスト組成物などが挙げられ、前記フルオレン化合物で構成された感光性樹脂組成物は、例えば、半導体製造用レジスト、プリント配線板などの回路形成材料 、印刷版材、レリーフ像などの画像形成材料などに利用できる。特に、高い感度と解像度を得ることが可能であるので、半導体製造用レジストに有利に利用できる。
また、樹脂原料としても有効に利用でき、例えば、熱可塑性樹脂、具体的には、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂などのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などの原料(重合成分またはモノマー成分)として利用できる。得られた樹脂は様々な用途で利用でき、例えば、コーティング剤またはコーティング膜、具体的には、塗料、インキ、電子機器や液晶部材などの保護膜など;接着剤、粘着剤;樹脂充填剤;電気・電子材料または電気・電子部品(電気・電子機器)、具体的には、帯電防止剤、キャリア輸送剤、発光体、有機感光体、感熱記録材料、フォトクロミック材料、ホログラム記録材料、帯電防止トレイ、導電シート、光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、カラーフィルタ、有機EL素子、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池、センサ、EMIシールドフィルムなど;機械材料または機械部品(機器)、具体的には、自動車用材料または部品、航空・宇宙関連材料または部品、摺動部材などに利用してもよい。また、得られた樹脂は、優れた光学特性に優れるため、光学部材として有効に利用できる。
代表的な光学部材としては、液晶用フィルム、有機EL用フィルムなどの光学フィルム(光学シート);メガネ用レンズ、カメラ用レンズなどの光学レンズ;プリズム、ホログラム、光ファイバーなどが挙げられる。
光学フィルムとしては、例えば、偏光フィルム、偏光フィルムを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム、位相差フィルム、配向膜(配向フィルム)、視野角拡大(補償)フィルム、拡散板(フィルム)、プリズムシート、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性フィルム(ACF)、電磁波遮蔽(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、カラーフィルタ基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス層、光学フィルム同士の接着層もしくは離型層などが挙げられる。これらの光学フィルムは、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)、プラズマディスプレイ(PDP)、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)、電子ペーパなどのディスプレイ用の光学フィルムとして有効に利用でき、具体的な機器または装置としては、テレビジョン;デスクトップ型PC、ノート型PCまたはタブレット型PCなどのパーソナル・コンピュータ(PC);スマートフォン、携帯電話;カー・ナビゲーションシステム;タッチパネルなどフラットパネルディスプレイ(FPD)を備えた機器または装置などが挙げられる。
光学レンズとしては、例えば、メガネ用レンズ、コンタクトレンズ、カメラ用レンズ、VTRズームレンズ、ピックアップレンズ、フレネルレンズ、太陽集光レンズ、対物レンズ、ロッドレンズアレイなどが挙げられる。