IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三洋化成工業株式会社の特許一覧

特開2024-45049アスファルト乳剤用分解剤組成物及びアスファルトコンクリートの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045049
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】アスファルト乳剤用分解剤組成物及びアスファルトコンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 7/24 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
E01C7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150651
(22)【出願日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2022150192
(32)【優先日】2022-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武内 芳樹
【テーマコード(参考)】
2D051
【Fターム(参考)】
2D051AE01
2D051AF17
2D051AG11
2D051AG15
2D051AG16
2D051AH02
2D051EB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低温下でもアスファルト乳剤の分解時間及びアスファルト被膜形成に要する時間を十分に短縮可能なアスファルト乳剤用分解剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】炭素数8以上のアニオン性界面活性剤(A)、炭素数1~7の有機塩(B)及び水性媒体(C)を含有するアスファルト乳剤用分解剤組成物であり、前記有機塩(B)の前記アニオン性界面活性剤(A)に対する重量比[(B)/(A)]が0.01~0.25であり、前記有機塩(B)の前記水性媒体(C)に対する重量比[(B)/(C)]が0.01~0.1であるアスファルト乳剤用分解剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8以上のアニオン性界面活性剤(A)、炭素数1~7の有機塩(B)及び水性媒体(C)を含有するアスファルト乳剤用分解剤組成物であり、前記有機塩(B)の前記アニオン性界面活性剤(A)に対する重量比[(B)/(A)]が0.01~0.25であり、前記有機塩(B)の前記水性媒体(C)に対する重量比[(B)/(C)]が0.01~0.1であるアスファルト乳剤用分解剤組成物。
【請求項2】
前記有機塩(B)が有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩及び有機リン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のアスファルト乳剤用分解剤組成物。
【請求項3】
前記有機塩(B)が酢酸塩を含有する請求項1記載のアスファルト乳剤用分解剤組成物。
【請求項4】
更に消泡剤(D)を含有する請求項1記載のアスファルト乳剤用分解剤組成物。
【請求項5】
カチオン系アスファルト乳剤に請求項1~4のいずれか1項に記載のアスファルト乳剤用分解剤組成物を接触させる工程を有するアスファルトコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアスファルト乳剤用分解剤組成物及びアスファルトコンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルトは道路舗装や防水用途、建築用途など広範囲な分野で使用されている。アスファルトは、常温では固体又は高粘度の半固体で流動性がほとんどないことから常温での取り扱いは困難であり、一般的には高温加熱し液状にして使用される。
常温での取り扱い時の作業性を改善する手法の一つとして、乳化剤を含む水中にアスファルトを微粒子状に微分散させ、見かけの粘性を大幅に低下させたアスファルト乳剤を用いる方法がある。アスファルト乳剤は、使用される乳化剤の種類によりカチオン系、アニオン系及びノニオン系に分類されるが、道路舗装用にはカチオン系の乳化剤を使用したカチオン系アスファルト乳剤が最も多く使用されている。
アスファルト乳剤は、アスファルトと水に分離(分解)することで粘結性を生じ、アスファルト被膜を形成する。カチオン系アスファルト乳剤の分解は、通常、アスファルト合材中に含まれる骨材の表面でのイオン的分解や乳剤中の水分が蒸発することにより行われるが、道路舗装の施工時間の短縮の観点から分解時間の短縮が求められていた。
【0003】
アスファルト乳剤の分解時間を短縮する方法として、アスファルト乳剤の散布時に分解剤を散布する方法が提案されており、例えば特許文献1には、含硫黄型アニオン性界面活性剤と無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩とを含み、かつ、特定の比重を示すカチオン系アスファルト乳剤の分解剤が提案されている。
特許文献1に記載の分解剤では、一定の分解時間短縮効果が得られるものの十分とはいえず、特に寒冷地や冬期などの低温(例えば0~10℃)施工時には分解剤を散布してもアスファルト乳剤の分解が起こりにくいことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6690945号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、噴霧性が高く、低温下でもアスファルト乳剤の分解時間及びアスファルト被膜形成に要する時間を十分に短縮可能なアスファルト乳剤用分解剤組成物を提供することを目的とする。また、施工時間が短縮され、平滑性にも優れるアスファルトコンクリートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、炭素数8以上のアニオン性界面活性剤(A)、炭素数1~7の有機塩(B)及び水性媒体(C)を含有するアスファルト乳剤用分解剤組成物であり、前記有機塩(B)の前記アニオン性界面活性剤(A)に対する重量比[(B)/(A)]が0.01~0.25であり、前記有機塩(B)の前記水性媒体(C)に対する重量比[(B)/(C)]が0.01~0.1であるアスファルト乳剤用分解剤組成物;カチオン系アスファルト乳剤に該アスファルト乳剤用分解剤組成物を接触させる工程を有するアスファルトコンクリートの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物は、低温下でもアスファルト乳剤の分解時間及びアスファルト被膜形成に要する時間を十分に短縮できるという効果を奏する。また本発明のアスファルトコンクリートの製造方法は、施工時間が短縮され、平滑性にも優れるアスファルトコンクリートを製造できるという効果を奏する。
なお、本発明において「アスファルト乳剤の分解」とは、アスファルト乳剤の乳化状態を解消させ、アスファルトと水に分離することを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<アスファルト乳剤用分解剤組成物>
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物は、炭素数8以上のアニオン性界面活性剤(A)、炭素数1~7の有機塩(B)及び水性媒体(C)を必須成分として含有する。
【0009】
本発明における炭素数8以上のアニオン性界面活性剤(A)としては、スルホン酸系界面活性剤(A1)、硫酸エステル系界面活性剤(A2)、リン酸エステル系界面活性剤(A3)及びカルボン酸系界面活性剤(A4)等が挙げられる。
【0010】
スルホン酸系界面活性剤(A1)としては、炭素数(以下、Cと省略することがある)8~48のものが含まれる。特に限定されないが、具体例としては、アルキル(C8~24)スルホン酸(塩)、α-オレフィン(C8~24)スルホン酸(塩)、内部オレフィン(C8~24)スルホン酸(塩)、アルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸(塩)、アルキル基を有するアルキルナフタレンスルホン酸(塩)及びアルコ―ル(C8~24)のスルホコハク酸モノ又はジエステル(塩)等が挙げられる。
なお、本明細書における「(塩)」とは、塩を形成しているものを含んでいてもよいことを意味する。本発明における塩の具体例としては、アンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩及びバリウム塩等)等が挙げられる。塩は、1種単独でも2種以上を併用したものであってもよい。
スルホン酸系界面活性剤(A1)のうち浸透性の観点から好ましいものは、上記のうちアルキル基(炭素数8~16)を有するものであり、更に好ましいのはアルキル基(炭素数8~12)を有するものであり、特に好ましいのは分岐構造を有するアルキル基(炭素数8~12)を有するものである。
【0011】
硫酸エステル系界面活性剤(A2)としては、特に限定されないが、具体例としては、脂肪族アルコール(C8~18)の硫酸エステル(塩)、脂肪族アルコール(C8~18)のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド、以下のアルキレンオキサイドも同じ)1~10モル付加物の硫酸エステル(塩)、油脂{アルキル基(C8~18)を有するもの}の硫酸化物(塩)、脂肪酸エステル{アルキル基(C8~18)を有するもの}の硫酸化物(塩)及びオレフィン(C8~18)の硫酸化物(塩)等が挙げられる。
硫酸エステル系界面活性剤(A2)のうち好ましいものは、上記のうちアルキル基(炭素数8~16)を有するものであり、更に好ましいのはアルキル基(炭素数8~12)を有するものである。
【0012】
リン酸エステル系界面活性剤(A3)としては、特に限定されないが、具体例としては、脂肪族アルコール(C8~18)のリン酸モノ又はジエステル(塩)及び脂肪族アルコール(C8~18)のアルキレンオキサイド1~10モル付加物のリン酸モノ又はジエステル(塩)等が挙げられる。
リン酸エステル系界面活性剤(A3)のうち好ましいものは、上記のうちアルキル基(炭素数8~16)を有するものであり、更に好ましいのはアルキル基(炭素数8~12)を有するものである。
【0013】
カルボン酸系界面活性剤(A4)としては、C8~24(カルボキシル基の炭素も含む)のものが含まれる。特に限定されないが、具体例としては、C8~18のアルキルカルボン酸(塩)及び脂肪族アルコール(C8~18)のエーテルカルボン酸(塩)等が挙げられる。
【0014】
アニオン性界面活性剤(A)は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記アニオン性界面活性剤(A)のうち、アスファルト乳剤の分解性及びアスファルト被膜形成性の観点から好ましいのはスルホン酸系界面活性剤(A1)、硫酸エステル系界面活性剤(A2)及びリン酸エステル系界面活性剤(A3)であり、更に好ましいのは硫酸エステル系界面活性剤(A2)及びリン酸エステル系界面活性剤(A3)である。
【0015】
本発明における炭素数1~7の有機塩(B)としては、有機カルボン酸塩(B1)、有機スルホン酸塩(B2)、有機リン酸塩(B3)、有機ホスホン酸塩及び有機ホスフィン酸塩等の、有機酸の塩が挙げられる。
塩の具体例としては、上述のとおり、アンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩及びバリウム塩等)等が挙げられるが、アスファルト乳剤の分解効果の観点からは、有機塩(B)は、有機酸の金属塩であることが好ましい。
【0016】
有機カルボン酸塩(B1)としては、炭素数2~6(カルボキシル基の炭素も含む)の脂肪族カルボン酸の塩及び炭素数6~7(カルボキシル基の炭素も含む)の芳香族カルボン酸の塩が好ましい。
炭素数2~6の脂肪族カルボン酸の塩としては、脂肪族モノカルボン酸の塩(酢酸塩、乳酸塩、プロピオン酸塩及びアクリル酸塩等)、及び脂肪族ジカルボン酸の塩(シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、マレイン酸塩及びフマル酸塩等)が挙げられる。
炭素数6~7の芳香族カルボン酸の塩としては、芳香族モノカルボン酸の塩(例えば、安息香酸塩、o-、m-、又はp-ヒドロキシ安息香酸塩、o-、m-、又はp-トルイル酸塩)及び芳香族ジカルボン酸の塩(フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸等)が挙げられる。
【0017】
有機スルホン酸塩(B2)としては、炭素数1~6の脂肪族スルホン酸の塩及び炭素数6~7の芳香族スルホン酸の塩が含まれる。
炭素数1~6の脂肪族スルホン酸の塩としては、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩及びプロパンスルホン酸塩等が挙げられる。
炭素数6~7の芳香族スルホン酸の塩としては、ベンゼンスルホン酸塩、フェノールスルホン酸塩、o-、m-、又はp-トルエンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0018】
本発明における有機リン酸塩(B3)は、有機リン酸エステルの塩を意味し、脂肪族アルコール(C1~6)のリン酸エステル(モノ又はジエステル)の塩等が含まれる。具体例としては、リン酸モノメチルの塩、リン酸ジメチルの塩、リン酸モノエチルの塩、リン酸ジエチルの塩、リン酸モノイソプロピルの塩、リン酸ジイソプロピルの塩等が挙げられる。
【0019】
有機ホスホン酸塩としては、メチルホスホン酸塩、エチルホスホン酸塩、メチルジホスホン酸塩、ヒドロキシメチルホスホン酸塩及びヒドロキシエチルホスホン酸塩等が挙げられる。
【0020】
有機ホスフィン酸塩としては、メチルホスフィン酸塩、エチルホスフィン酸塩、メチルエチルホスフィン酸塩及びジエチルホスフィン酸塩等が挙げられる。
【0021】
有機塩(B)は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記有機塩(B)のうち、水性媒体(C)への溶解性の観点から好ましいのは有機カルボン酸塩(B1)、有機スルホン酸塩(B2)及び有機リン酸塩(B3)であり、更に好ましいのは有機カルボン酸塩(B1)であり、特に好ましいのは炭素数2~3の脂肪族モノカルボン酸塩であり、最も好ましいのは酢酸塩(特に、酢酸アルカリ金属塩)である。
【0022】
水性媒体(C)としては、水、水溶性溶剤(25℃において水100gに対する溶解度が10g以上の溶剤)、及び、水と水溶性溶剤との混合物が挙げられる。
水溶性溶剤としては、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、変性アルコール及びプロピレングリコール等)、ケトン(アセトン及びメチルエチルケトン等)、エステル、エーテル(ジエチレングリコールモノメチルエーテル及びジエチレングリコールモノブチルエーテル)及びアミド等が挙げられる。
【0023】
水性媒体(C)は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記水性媒体(C)のうち、安全性等の観点から好ましいのは、水、沸点が100℃以上である水溶性溶剤、及びこれらの混合物である。
【0024】
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物において、前記有機塩(B)の前記アニオン性界面活性剤(A)に対する重量比[(B)/(A)]は0.01~0.25である。重量比[(B)/(A)]が0.01未満であるとアスファルト乳剤の分解速度およびアスファルト被膜形成速度が低下する傾向にあり、0.25を超える場合は粘度が高くなり、施工性(特に噴霧性)が悪化する傾向にある。重量比[(B)/(A)]はアスファルト乳剤の分解性、アスファルト被膜形成性及び施工性(特に噴霧性)の観点から、好ましくは0.02~0.23であり、更に好ましくは0.03~0.21である。
【0025】
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物において、前記有機塩(B)の前記水性媒体(C)に対する重量比[(B)/(C)]は0.01~0.1である。重量比[(B)/(C)]が0.01未満であるとアスファルト乳剤の分解性及びアスファルト被膜形成性が低下する傾向にあり、0.1を超える場合はアスファルト乳剤用分解剤組成物自体の相溶性が悪化する傾向にある。重量比[(B)/(C)]はアスファルト乳剤の分解性、アスファルト被膜形成性及び相溶性の観点から、好ましくは0.01~0.08であり、更に好ましくは0.02~0.07である。
【0026】
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物におけるアニオン性界面活性剤(A)の含有量は、アスファルト乳剤の分解性及びアスファルト被膜形成性の観点から、組成物の重量に基づいて、好ましくは5~60重量%であり、更に好ましくは10~50重量%である。
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物における有機塩(B)の含有量は、アスファルト乳剤の分解性及びアスファルト被膜形成性の観点から、組成物の重量に基づいて好ましくは0.1~12重量%であり、更に好ましくは0.5~10重量%である。
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物におけるアニオン性界面活性剤(A)と有機塩(B)の合計含有量と水性媒体(C)の重量の比[{(A)+(B)}/(C)]は、アスファルト乳剤の分解性及びアスファルト被膜形成性の観点から、好ましくは0.1~0.8であり、更に好ましくは0.15~0.75である。
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物における水性媒体(C)の含有量は、アスファルト乳剤の分解性及びアスファルト被膜形成性の観点から、組成物の重量に基づいて好ましくは40~90重量%であり、更に好ましくは50~86重量%である。
【0027】
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物は、消泡剤(D)を含有してもよい。特に、アニオン性界面活性剤(A)としてアルキル硫酸エステル等の起泡性の高いものを用いる場合は、消泡剤(D)を含有することが好ましい。
消泡剤(D)としては、特に限定されず公知のポリエーテル系消泡剤(D1)、エステル系消泡剤、鉱物油系消泡剤及びシリコーン系消泡剤等が使用できる。他成分との相溶性の観点からはポリエーテル系消泡剤(D1)が好ましい。
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物における消泡剤(D)の含有量は、アニオン性界面活性剤(A)の重量に基づいて好ましくは1~10重量%である。
【0028】
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物は、発明の効果を阻害しない範囲で、上記アニオン性界面活性剤(A)、有機塩(B)、水性媒体(C)及び消泡剤(D)以外のその他の成分を含有しても良い。その他の成分としては、無機塩(無機硫酸塩及び無機リン酸塩等)、乳化剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0029】
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物の製造方法としては、各成分が均一に溶解(25℃において、目視で析出物や濁りが認められない状態)するよう混合できる方法であれば特に限定されないが、好ましい形態として下記(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1)アニオン性界面活性剤(A)及び有機塩(B)を水性媒体(C)に溶解させた溶液を別々に作成してから、各溶液と、必要により追加の水性媒体(C)を混合し、更に必要により消泡剤(D)を添加して混合する方法。
(2)撹拌下、水性媒体(C)に、アニオン性界面活性剤(A)と有機塩(B)を少量ずつ加えて混合し、必要により追加の水性媒体(C)及び/又は消泡剤(D)を添加して混合する方法。
(3)有機塩(B)を水性媒体(C)に溶解させた溶液を作成し、撹拌下、アニオン性界面活性剤(A)を少量ずつ加え、混合し、必要により追加の水性媒体(C)及び/又は消泡剤(D)を添加して混合する方法。
【0030】
本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物は、アニオン性界面活性剤(A)、有機塩(B)及び水性媒体(C)を上記の適切な重量比で含有するため、カチオン系アスファルト乳剤を速やかに分解(エマルションとして安定化している状態を破壊)し、更にアスファルト粒子の凝集及びアスファルト被膜の形成を促進することが可能である。その詳細なメカニズムは明らかでないが、次のように推察される。ただし、本開示は、この推定メカニズムによって何ら限定解釈されるものではない。
アスファルト乳剤用分解剤組成物中の有機塩(B)が、静電的相互作用によりアスファルト乳剤中のカチオン性乳化剤(活性剤)に接近し、捕捉する。この際、有機塩(B)は分子サイズが小さいため速やかに接近できる。次に、有機塩(B)とアニオン性界面活性剤(A)とのイオン交換を経てアニオン性界面活性剤(A)とアスファルト乳剤中のカチオン性乳化剤とがイオン結合して塩を生成することにより、エマルションを安定化していたカチオン性乳化剤が無効化し、安定化しているエマルションが破壊されるとともに、アスファルト粒子が凝集し、アスファルト被膜の形成がはじまる。この際、アニオン性界面活性剤(A)の有機基と有機塩(B)の有機基とが親和性を有するため、アニオン性界面活性剤(A)と有機塩(B)とが接近し、イオン交換が比較的起こりやすいと考えられる。
【0031】
<アスファルトコンクリートの製造方法>
本発明は、カチオン系アスファルト乳剤に該アスファルト乳剤用分解剤組成物を接触させる工程を有するアスファルトコンクリートの製造方法である。
【0032】
前記工程において、カチオン系アスファルト乳剤に該アスファルト乳剤用分解剤組成物を接触させる方法としては、特に限定されないが、好ましい形態として下記(1)及び(2)の方法が挙げられる。
(1)カチオン系アスファルト乳剤を施工面に散布又は塗布した後、その上からアスファルト乳剤用分解剤組成物を散布又は塗布する方法
(2)カチオン系アスファルト乳剤を施工面に散布又は塗布する際に、同時にアスファルト乳剤用分解剤組成物を散布又は塗布する方法
なお、上記「アスファルト乳剤用分解剤組成物を散布又は塗布する方法」としては、カチオン系アスファルト乳剤とムラなく均一に接触させる観点から、霧状にして散布することが好ましく、各種スプレーヤーやアスファルトディストリビュータ等を用いて散布する方法が好ましい。
また、上記「施工面」としては、カチオン系アスファルト乳剤が施工される面であれば特に限定されず、道路路盤、基層及び表層(道路舗装用途)、鉄道路盤、法面や建物の屋上及び壁面等(防水用途)等が挙げられる。
【0033】
前記工程を実施する際の温度は特に限定されず、通常アスファルト乳剤が使用される温度下で実施することができる。一般的に、アスファルトコンクリートの製造を寒冷地や冬期に屋外で行う場合、外気温が低く(例えば0~10℃)、アスファルト乳剤の分解性が低下し分解時間及びアスファルト被膜の形成に要する時間が長くなるが、本発明のアスファルトコンクリートの製造方法では、寒冷地や冬期に屋外で行う場合でもアスファルト乳剤の分解時間及びアスファルト被膜の形成に要する時間が十分に短縮できる。
前記工程に先だって、アスファルト乳剤分解剤組成物をあらかじめ予熱(例えば25~60℃程度)してもよい。更にアスファルト乳剤も予熱(例えば25~70℃程度)してもよいが、本発明のアスファルト分解剤組成物を用いた場合、アスファルト乳剤の予熱なしでもアスファルト乳剤の分解時間及びアスファルト被膜の形成に要する時間が十分短い。
【0034】
カチオン系アスファルト乳剤としては、特に限定されず、JIS-K2208に規定の「PK-1」、「PK-2」、「PK-3」、「PK-4」、「MK-1」、「MK-2」又は「MK-3」規格に適合するもの、及び日本アスファルト乳剤協会(JEAAS)規格に規定の「PK-P」、「PK-H」又は「PKM-T」規格に適合するもの等が含まれる。なかでも、上記「PK-4」及び/又は「PKM-T」規格に適合するものを用いた場合、本願の効果がより顕著に得られるため、特に好ましい。
【0035】
本発明のアスファルトコンクリートの製造方法において、アスファルト乳剤用分解剤組成物の使用量は、カチオン系アスファルト乳剤の重量を基準として5~30重量%であることが好ましく、10~20重量%であることが更に好ましい。
【0036】
本発明の方法でアスファルトコンクリートを製造すると、カチオン系アスファルト乳剤の分解時間及びアスファルト被膜の形成時間が短縮されるため、カチオン系アスファルト乳剤を用いる一般的なアスファルトコンクリート製造方法に比べ、施工時間が短縮できる。また本発明の方法は、大量のアスファルトを高温加熱して溶融する工程を伴うアスファルトコンクリート製造方法等に比べ、エネルギー消費量及び二酸化炭素発生量の大幅な削減が可能であり、安全性にも優れる。
【0037】
本明細書には、以下の事項が開示されている。
【0038】
本開示(1)は、炭素数8以上のアニオン性界面活性剤(A)、炭素数1~7の有機塩(B)及び水性媒体(C)を含有するアスファルト乳剤用分解剤組成物であり、前記有機塩(B)の前記アニオン性界面活性剤(A)に対する重量比[(B)/(A)]が0.01~0.25であり、前記有機塩(B)の前記水性媒体(C)に対する重量比[(B)/(C)]が0.01~0.1であるアスファルト乳剤用分解剤組成物である。
【0039】
本開示(2)は、前記有機塩(B)が有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩及び有機リン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、本開示(1)に記載のアスファルト乳剤用分解剤組成物である。
【0040】
本開示(3)は、前記有機塩(B)が酢酸塩を含有する、本開示(1)又は(2)に記載のアスファルト乳剤用分解剤組成物である。
【0041】
本開示(4)は、更に消泡剤(D)を含有する、本開示(1)~(3)のいずれかとの任意の組み合わせのアスファルト乳剤用分解剤組成物である。
【0042】
本開示(5)は、カチオン系アスファルト乳剤に本開示(1)~(4)のいずれかに記載のアスファルト乳剤用分解剤組成物を接触させる工程を有するアスファルトコンクリートの製造方法である。
【実施例0043】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0044】
[実施例1]
ビーカーにラウリル硫酸トリエタノールアミン塩(A-1)の40%水溶液(純分換算25.0部)を入れ、酢酸ナトリウム(B-1)の40%水溶液(純分換算1.0部)と水(C-1)34.0部を加え、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌した。更に、ポリエーテル系消泡剤(D-1)[商品名「SNデフォーマー265」、サンノプコ(株)製]1.0部を加えスターラーで撹拌することにより、本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物(P-1)を得た。
なお、各実施例及び比較例における表1中の水(C-1)の配合部数は、アニオン性界面活性剤(A)の水溶液及び/又は有機塩(B)の水溶液に含まれる水を含めた部数である。 また、表1中の各アニオン性界面活性剤(A)及び各有機塩(B)の配合部数は、純分の部数である。
【0045】
[実施例2]
ビーカーにスルホコハク酸ジ-2-エチルヘキシルナトリウム(A-2)12.0部及び水(C-1)39.8部とプロピレングリコール(C-2)42.0部の混合溶媒を入れ、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌して溶解させた後、酢酸ナトリウム(B-1)の40%水溶液(純分換算2.5部)を加え、スターラーで撹拌することにより、アスファルト乳剤用分解剤組成物(P-2)を得た。
【0046】
[実施例3]
ビーカーに2-エチルヘキシル硫酸ナトリウム(A-3)の40%水溶液(純分換算34.0部)と、酢酸ナトリウム(B-1)の40%水溶液(純分換算6.0部)を入れ、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌した。更に、ポリエーテル系消泡剤(D-1)1.0部を加えスターラーで撹拌することにより、本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物(P-3)を得た。
【0047】
[実施例4]
ビーカーにラウリル硫酸ナトリウム(A-4)18.0部と水(C-1)78.5部を入れ、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌して溶解させた後、酢酸ナトリウム(B-1)の40%水溶液(純分換算1.0部)を加え、スターラーで撹拌した。更に、ポリエーテル系消泡剤(D-1)1.0部を加えて撹拌することにより、アスファルト乳剤用分解剤組成物(P-4)を得た。
【0048】
[実施例5]
ビーカーに2-エチルヘキシル硫酸ナトリウム(A-3)の40%水溶液(純分換算38.0部)を入れ、p-トルエンスルホン酸ナトリウム(B-2)の40%水溶液(純分換算1.0部)と水(C-1)1.5部を加え、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌した。更に、ポリエーテル系消泡剤(D-1)1.0部を加えて撹拌することにより、本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物(P-5)を得た。
【0049】
[実施例6]
ビーカーに2-エチルヘキシル硫酸ナトリウム(A-3)の40%水溶液(純分換算38.0部)を入れ、プロピオン酸ナトリウム(B-3)の40%水溶液(純分換算1.0部)と水(C-1)1.5部を加え、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌した。更に、ポリエーテル系消泡剤(D-1)1.0部を加えて撹拌することにより、本発明のアスファルト乳剤用分解剤組成物(P-6)を得た。
【0050】
[実施例7]
ビーカーに2-エチルヘキシルリン酸ナトリウム(A-5)40.0部及び水(C-1)15.0部とプロピレングリコール(C-2)40.0部の混合溶媒を入れ、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌して溶解させた後、酢酸ナトリウム(B-1)の40%水溶液(純分換算2.0部)を加え、スターラーで撹拌することにより、アスファルト乳剤用分解剤組成物(P-7)を得た。
【0051】
[実施例8]
ビーカーに2-エチルヘキシル硫酸ナトリウム(A-3)の40%水溶液(純分換算4.0部)を入れ、酢酸ナトリウム(B-1)の40%水溶液(純分換算2.0部)、水(C-1)9.0部とプロピレングリコール(C-2)40.0部の混合溶媒及び2-エチルヘキシルリン酸ナトリウム(A-5)を加え、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌することにより、アスファルト乳剤用分解剤組成物(P-8)を得た。
【0052】
[比較例1]
ビーカーに酢酸ナトリウム(B-1)40%水溶液(純分換算25.0部)と水(C-1)37.5部を入れ、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌することにより、比較の組成物(P’-1)を得た。
【0053】
[比較例2]
ビーカーにスルホコハク酸ジ-2-エチルヘキシルナトリウム(A-2)12.0部と水(C-1)46.0部とプロピレングリコール(C-2)42.0部を入れ、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌することにより、比較の組成物(P’-2)を得た。
【0054】
[比較例3]
ビーカーに両性界面活性剤であるラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(A’-1)の35%水溶液(純分換算34.7部)を入れ、酢酸ナトリウム(B-1)1.0部を加え、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌することにより、比較の組成物(P’-3)を得た。
【0055】
[比較例4]
ビーカーにポリアクリル酸(重量平均分子量10000)ナトリウム(A’-2)の42.5%水溶液[商品名「キャリボンL-400」、三洋化成工業(株)製](純分換算40.0部)を入れ、酢酸ナトリウム(B-1)1.0部と水(C-1)4.9部を加え、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌することにより、比較の組成物(P’-4)を得た。
【0056】
[比較例5]
ビーカーにラウリル硫酸ナトリウム(A-4)の40%水溶液(純分換算:10.0部)を入れ、無機塩である硫酸ナトリウム(B’-1)の40%水溶液(純分換算:10.0部)と水(C-1)50.0部を加え、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌することにより、比較の組成物(P’-5)を得た。
【0057】
[比較例6]
ビーカーにラウリル硫酸トリエタノールアミン塩(A-1)の40%水溶液(純分換算30.0部)を入れ、酢酸ナトリウム(B-1)の40%水溶液(純分換算8.0部)と水(C-1)5.0部を加え、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌することにより、重量比[(B)/(A)]が請求項1に規定の範囲の上限外である、比較の組成物(P’-6)を得た。
【0058】
[比較例7]
ビーカーにラウリル硫酸トリエタノールアミン塩(A-1)の40%水溶液(純分換算25.0部)を入れ、酢酸ナトリウム(B-1)の40%水溶液(純分換算0.1部)と水(C-1)37.3部を加え、スターラーピースを入れてスターラーで撹拌することにより、重量比[(B)/(A)]が請求項1に規定の範囲の下限外である、比較の組成物(P’-7)を得た。
【0059】
実施例及び比較例で得たアスファルト乳剤用分解剤組成物(P-1)~(P-8)及び比較の組成物(P’-1)~(P’-7)について、低温下でのアスファルト乳剤の分解性及び被膜形成性(5分後及び30分後)、噴霧性、及びアスファルト被膜の平滑性を下記方法で評価した結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
(1)低温下でのアスファルト乳剤の分解性及び被膜形成性(5分後及び30分後)
低温下でのアスファルト乳剤の分解性及び被膜形成性を下記手順及び基準で評価した。
なお、低温条件は日本アスファルト乳剤協会発行の「速分解型アスファルト乳剤の分解性能試験方法(案)」を参考に5℃に設定し、分解剤組成物はNETIS登録技術「分解促進型タックコート工法(QBタック)」の留意事項を参考に60℃に温調して散布した。
ガラスシャーレに5℃に温調したカチオン系アスファルト乳剤[日本アスファルト乳剤協会規格に規定されたタイヤ付着抑制型「PKM-T」規格に適合するもの]0.3L/mをスプレーで散布してシャーレ底面全体に行きわたらせた後、その上から60℃に温調した各分解剤組成物をスプレー(穴径約0.1mm)で散布した。各分解剤組成物の散布量は、アスファルト乳剤の散布重量の20重量%とした。全量散布後、ガラスシャーレを5℃の恒温槽内で静置し、5分後と30分後の乳剤の状態をそれぞれ下記基準で目視評価した。
<評価基準>
◎:下層まで分解して分離した分解水が透明。また、アスファルト被膜が形成されている
〇:全体的に分解し、アスファルト被膜を形成しているが、下層に一部アスファルト粒子が残存
×:一部~全体的に分解しているが、アスファルト被膜を形成しておらず、凝集物が沈降している
××:分解していない
なお、比較例4及び6の組成物は噴霧性が悪く散布状態が不均一であるため、分解性及び被膜形成性の評価がうまく行えなかった。
【0062】
(2)噴霧性
上記(1)の評価において、分解剤組成物をスプレー散布する際の噴霧性を、下記基準で評価した。
<評価基準>
〇スプレー散布時に均一に広がる
×スプレー散布時に均一に広がらず局所的に添加される、又はスプレー穴から出てこず散布できない
【0063】
(3)アスファルト被膜の平滑性(5分後)
上記(1)の5℃の恒温槽内で静置5分後の評価の際に、アスファルト被膜が形成されているサンプルについて、被膜の平滑性を目視観察し、下記基準で評価した。
<評価基準>
〇:5分静置後の表面が平滑である
△:5分静置後の表面にわずかに凸凹が見られる
×:5分静置後の表面が全体的に平滑でない
-:アスファルト被膜が形成されていない、又は局所的に形成されており、評価不可
【0064】
表1の結果から、本発明のアスファルト乳剤分解剤組成物(P-1)~(P-8)は、比較のものに比べ、低温下でのアスファルト乳剤の分解性及び被膜形成性、噴霧性、及びアスファルト被膜の平滑性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のアスファルト乳剤分解剤組成物は、低温下でもアスファルト乳剤の分解時間及びアスファルト被膜形成に要する時間を十分に短縮できる。また、本発明のアスファルトコンクリートの製造方法は、従来の方法に比べ施工時間が短縮され、平滑性にも優れたアスファルトコンクリートが製造できるため、アスファルトが使用される用途全般に用いることができるが、特に、道路舗装用途、鉄道舗装用途及び防水用途等に好適に用いることができ、極めて有用である。