(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045061
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】生体組織上に光生成された酸性または塩基性放出可能な検出部分を有する生物学的コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240326BHJP
G01N 33/533 20060101ALI20240326BHJP
G01N 21/64 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/53 M
G01N33/533
G01N21/64 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023151298
(22)【出願日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】22196631
(32)【優先日】2022-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル ペルボス
(72)【発明者】
【氏名】サメハ ソリマン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ-ペイ グアン
(72)【発明者】
【氏名】モング サノ マーマ
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA01
2G043EA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生物試料のサンプル中の標的部分を検出する方法を提供する。
【解決手段】a)一般式(I)Xn-P-Ym[Xは検出部分であり、Pは酸性または塩基性分解可能なスペーサーであり、Yは抗原またはオリゴヌクレオチド認識部分である]を有する少なくとも1つのコンジュゲートを準備する工程、
b)Yを介してコンジュゲートを標的部分に結合させ、それにより標的部分を標識する工程、c)Xを検出することにより、コンジュゲートで標識された標的部分を検出する工程、d)放射線が供給されると、Pを切断することが可能な酸または塩基を放出することができる前駆体を準備する工程、e)放射線の供給によって前駆体を活性化し、それによりPを切断することが可能な酸または塩基を放出させる工程、f)放出された酸または塩基でPを分解し、それによりコンジュゲート検出部分から検出部分Xを切断する工程によってサンプル中の標的部分を検出する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
g)一般式(I)Xn-P-Ym[Xは検出部分であり、Pは酸性または塩基性分解可能なスペーサーであり、Yは抗原またはオリゴヌクレオチド認識部分であり、n、mは1~100の整数であり、XおよびYはPに共有結合する]を有する少なくとも1つのコンジュゲートを準備する工程、
h)前記抗原またはオリゴヌクレオチド認識部分Yを介して前記コンジュゲートを標的部分に結合させ、それにより前記標的部分を標識する工程、
i)前記検出部分Xを検出することにより、前記コンジュゲートで標識された前記標的部分を検出する工程、
j)放射線が供給されると、Pを切断することが可能な酸または塩基を放出することができる少なくとも1つの前駆体を準備する工程、
k)放射線を供給することによって前記前駆体を活性化し、それにより前記Pを切断することが可能な酸または塩基を放出させる工程、
l)放出された前記酸または塩基でスペーサーPを分解し、それによりコンジュゲート検出部分から前記検出部分Xを切断する工程
によって生物試料のサンプル中の標的部分を検出する方法。
【請求項2】
前記前駆体が少なくとも2つのサブユニットへの光切断により活性化され、前記サブユニットの少なくとも1つが酸および/または塩基であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
スペーサーPの酸性または塩基性分解により、前記抗原または認識部分Yが前記検出部分から切断されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記検出部分が発色団部分、蛍光部分、リン光部分、発光部分、光吸収部分、放射性部分、遷移金属および同位体質量タグ部分からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記酸性または塩基性分解可能なスペーサーPがアルキル、ポリエチレングリコール、多糖、タンパク質、ペプチド、デプシペプチド、ポリエステル、核酸セグメントおよびそれらの誘導体とのリンカーにおけるアセタール、シリルエステル、ヒドラジン、イミン、エステル、ホスホロアミダイト、ヒドラジン、ビニルエーテル、トリチル、アコニチル、オキシカルボニル、パラメトキシベンジル、ケタール、ポリケタール、オルトエステル、チオマレイン酸からなる群から選択される酸性または塩基性切断可能な官能単位を含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記抗原認識部分Yが抗体、断片化抗体、断片化抗体誘導体、ペプチド/MHC複合体標的化TCR分子、細胞接着受容体分子、副刺激分子の受容体、または人工改変結合分子であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記前駆体がジアゾニウム塩、ペルハロメチルトリアジン、ハロビスフェニル、o-ニトロベンズアルデヒド、スルホネート、イミジルスルホニルエステル、ジアリールヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾスルホネート、ジアリールスルホン、1,2-ジアゾケトン、2-ジアゾ1-オキソ5スルホニル、2-ジアゾ1-オキソ4スルホニル、ジアゾメチルケトン、ジアゾメルドラム酸、アリールアジド誘導体、ベンゾカーボネート、カルバメート、ジメトキシベンゾイニルカーボネート、ジメトキシベンゾイニルカルバメート、o-ニトロベンジルオキシカーボネート、o-ニトロベンジルオキシカルバメート、ニトロベンゼンスルフェニル、o-ニトロアニリン、ニトロベンジルカルバメート、3’,5’-ジメトキシベンゾインカルバメートからなる群から選択される官能単位を含むことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
2つ以上の前駆体を準備し、異なる前駆体が異なる波長の放射線によって活性化されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記生物試料のサンプルが第1のpHを有し、放射線を供給することによって前記前駆体を活性化した後に、前記生物試料のサンプルの少なくとも一部が第2のpHを有し、前記第1および第2のpHの差が少なくとも±0.5であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記コンジュゲートを生物試料の表面に供給し、前記前駆体を活性化する放射線を前記生物試料の空間的に規定された領域に適用することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記前駆体を活性化する放射線が、前記生物試料の少なくとも1つの空間的に規定された領域に適用され、放射線を供給する前に、前記少なくとも1つの空間的に規定された領域が第1のpHを有し、放射線を供給することによって前記前駆体を活性化した後に、前記少なくとも1つの空間的に規定された領域が第2のpHを有し、前記第1および第2のpHの差が少なくとも±0.5であることを特徴とする、請求項10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性または塩基性分解可能なスペーサーを介して連結された検出部分と、抗原またはオリゴヌクレオチド認識部分とを有するコンジュゲートで標的部分または標的細胞を標識することによる、標的部分もしくは標的細胞を、または細胞サンプルから検出または同定する方法であって、スペーサーを分解するために使用される酸または塩基を、空間的に光活性化可能な前駆体の形態で準備する、方法に関する。
【0002】
標的部分を検出した後、前駆体が放射線により活性化または光切断され、スペーサーを分解するための酸または塩基が放出されることで、標識された標的部分から少なくとも検出部分が除去される。
【0003】
背景
蛍光部分と抗原認識部分とを含むコンジュゲートを使用して細胞を検出することが、以前から知られている。さらに、蛍光部分を除去することができるコンジュゲートが開発されており、それにより細胞の再染色が可能となるため、複数の標的部分の検出が可能となる。
【0004】
蛍光標識されたオリゴヌクレオチドを標的配列の検出に使用することができ、蛍光部分を後に切断して、その後の複数回のハイブリダイゼーションおよび検出を行い、解読または検出の能力を高めることができることも知られている。
【0005】
発明の概要
驚くべきことに、検出部分に酸性または塩基性分解可能なスペーサーを介して連結した抗原結合部分から構成されるコンジュゲートを、酸または塩基の前駆体を活性化または光切断することによって分解し得ることが見出された。放出後に、先の標識の干渉を受けることなく、生物試料を再び同じまたは異なるコンジュゲートに供することができる。
【0006】
したがって、本発明の対象は、
a)一般式(I)Xn-P-Ym[Xは検出部分であり、Pは酸性または塩基性分解可能なスペーサーであり、Yは抗原またはオリゴヌクレオチド認識部分であり、n、mは1~100の整数であり、XおよびYはPに共有結合する]を有する少なくとも1つのコンジュゲートを準備する工程、
b)抗原またはオリゴヌクレオチド認識部分Yを介してコンジュゲートを標的部分に結合させ、それにより標的部分を標識する工程、
c)検出部分Xを検出することにより、コンジュゲートで標識された標的部分を検出する工程、
d)放射線が供給されると、Pを切断することが可能な酸または塩基を放出することができる少なくとも1つの前駆体を準備する工程、
e)放射線を供給することによって前駆体を活性化し、それによりPを切断することが可能な酸または塩基を放出させる工程、
f)放出された酸または塩基でスペーサーPを分解し、それによりコンジュゲート検出部分から検出部分Xを切断する工程
によって生物試料のサンプル中の標的部分を検出する方法である。
【0007】
前駆体の活性化は、前駆体を少なくとも2つのサブユニットに光切断することで達成することができ、サブユニットの少なくとも1つは、酸および/または塩基である。
【0008】
好ましくは、スペーサーPの酸性または塩基性分解により、抗原または認識部分Yが検出部分から切断される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】酸性または塩基性分解可能なスペーサーPの単位の例を示す図である。
【
図2】酸性または塩基性分解可能なスペーサーPの単位の例を示す図である。
図2は、G. Lerche et al, Bioorg Chem. 20 (2021) 571-582)からの引用である。
【
図3】酸性または塩基性分解可能なスペーサーPの単位の例を示す図である。
【
図4】酸性または塩基性分解可能なスペーサーPの単位の例を示す図である。
【0010】
詳細な説明
「コンジュゲートから検出部分Xを切断する」という用語は、XとPとの間の結合が消失し、検出部分Xが、例えば解離または洗浄によって標的から除去され得ることを意味する。
【0011】
任意に、抗原認識部分Yも、XとPとの間の結合を消失させることによって標的から除去される。
【0012】
本発明の方法は、工程a)~g)の1つ以上のシーケンスで実施することができる。各シーケンスの後に、検出部分および任意に抗原認識部分が標的部分から放出される(除去される)。特に、生物試料が、さらに処理または分析すべき生細胞である場合、本発明の方法は、非標識細胞を提供するという利点を有する。
【0013】
各工程a)~g)の後および/または前に洗浄工程を行い、結合していないコンジュゲートまたは放出された検出部分のような不要物質をサンプルから除去することができる。
【0014】
標的部分
本発明の方法で検出される標的部分は、組織切片、細胞集合体、懸濁細胞または接着細胞のような任意の生物試料上に存在し得る。細胞は生細胞であっても、または死細胞であってもよい。好ましくは、標的部分は、無脊椎動物(例えば、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster))、脊椎動物(例えば、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)(Hamilton, 1822)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)(Daudin 1802))および哺乳動物(例えば、ハツカネズミ(Mus musculus)(Linnaeus, 1758)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)(Linneaeus, 1758))の動物全体、器官、組織切片、細胞集合体または単一細胞のような生物試料上の細胞内または細胞外に発現された抗原である。
【0015】
検出部分
コンジュゲートの検出部分Xは、発色団部分、蛍光部分、リン光部分、発光部分、光吸収部分、放射性部分および遷移金属同位体質量タグ部分からなる群から選択されるもののように検出目的に使用することができる特性または機能を有する任意の部分であり得る。
【0016】
好適な蛍光部分は、免疫蛍光技術、例えばフローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡法の技術分野で既知のものである。本発明のこれらの実施形態では、コンジュゲートで標識された標的部分は、検出部分Xを励起し、生じる発光(フォトルミネセンス)を検出することによって検出される。この実施形態では、検出部分Xは、好ましくは蛍光部分である。
【0017】
有用な蛍光部分は、フィコビリタンパク質等のタンパク質ベース、ポリフルオレン等のポリマー、フルオレセインもしくはローダミンのようなキサンテン、シアニン、オキサジン、クマリン、アクリジン、オキサジアゾール、ピレン、ピロメテン等の有機小分子色素、またはRu、Eu、Pt錯体等の有機金属錯体であり得る。単一分子体に加えて、蛍光タンパク質または有機小分子色素のクラスター、および量子ドット、アップコンバージョンナノ粒子、金ナノ粒子、着色ポリマーナノ粒子等のナノ粒子も蛍光部分として使用することができる。
【0018】
フォトルミネセンス検出部分の別の群は、励起後の時間遅延発光を有するリン光部分である。リン光部分には、Pd、Pt、Tb、Eu錯体等の有機金属錯体、またはランタニドドープSrAl2O4等のリン光顔料を組み込んだナノ粒子が含まれる。
【0019】
本発明の別の実施形態では、コンジュゲートで標識された標的は、照射による事前の励起なしに検出される。この実施形態では、検出部分は放射性標識であり得る。放射性標識は、非放射性同位体をトリチウム、32P、35Sもしくは14C等の放射性対応物に交換するか、またはチロシンに結合した125I、フルオロデオキシグルコース内の18F、もしくは有機金属錯体、すなわち99Tc-DTPA等の共有結合標識を導入することによる放射性同位体標識化の形態であってもよい。
【0020】
別の実施形態では、検出部分は化学発光、すなわちルミノールの存在下でのホースラディッシュペルオキシダーゼ標識を引き起こすことが可能である。
【0021】
本発明の別の実施形態では、コンジュゲートで標識された標的は、放射線放出によってではなく、UV、可視光またはNIR放射線の吸収によって検出される。好適な光吸収検出部分は、N-アリールローダミンのような有機小分子クエンチャー色素、アゾ色素およびスチルベン等の蛍光発光を伴わない光吸収色素である。
【0022】
別の実施形態では、光吸収検出部分Xは、パルスレーザー光の照射を受け、光音響信号を生成することができる。
【0023】
本発明の別の実施形態では、コンジュゲートで標識された標的は、遷移金属同位体の質量分析検出によって検出される。遷移金属同位体質量タグ標識は、共有結合有機金属錯体またはナノ粒子成分として導入され得る。ランタニドおよび隣接する後期遷移元素の同位体タグが当該技術分野で既知である。
【0024】
検出部分Xは、スペーサーPに共有結合または非共有結合させることができる。共有結合または非共有結合によるコンジュゲーションの方法は、当業者に既知である。検出部分XとスペーサーPとを共有結合させる場合、検出部分上またはスペーサーP上の活性化基と、スペーサーP上または検出部分X上の官能基との直接的な反応、または初めに一方と反応し、次に他方の結合パートナーと反応するヘテロ二官能性リンカー分子を介した反応が可能である。
【0025】
例えば、多数のヘテロ二官能性化合物が実体への連結に利用可能である。例示的な実体としては、アジドベンゾイルヒドラジド、N-[4-(p-アジドサリチルアミノ)ブチル]-3’-[2’-ピリジルジチオ]プロピオンアミド)、ビス-スルホスクシンイミジルスベレート、アジピミド酸ジメチル、酒石酸ジスクシンイミジル、N-y-マレイミドブチリルオキシスクシンイミドエステル、N-ヒドロキシスルホスクシンイミジル-4-アジドベンゾエート、N-スクシンイミジル[4-アジドフェニル]-1,3’-ジチオプロピオネート、N-スクシンイミジル[4-ヨードアセチル]アミノベンゾエート、グルタルアルデヒド、スクシンイミジル-[(N-マレイミドプロピオンアミド)ポリエチレングリコール]エステル(NHS-PEG-MAL)およびスクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレートが挙げられる。好ましい連結基は、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SPDP)、または検出部分上に反応性スルフヒドリル基を有し、スペーサーP上に反応性アミノ基を有する4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)である。
【0026】
スペーサーPへの検出部分Xの準共有結合は、10-9M以下の解離定数をもたらす結合系、例えばビオチン-アビジン結合相互作用によって達成することができる。
【0027】
酸性または塩基性分解可能なスペーサーP
好適な酸性または塩基性分解可能なスペーサーPは、アルキル、ポリエチレングリコール、多糖、タンパク質、ペプチド、デプシペプチド、ポリエステル、核酸セグメントおよびそれらの誘導体とのリンカーにおけるアセタール、シリルエステル、ヒドラジン、イミン、エステル、ホスホロアミダイト、ヒドラジン、ビニルエーテル、トリチル、アコニチル、オキシカルボニル、パラメトキシベンジル、ケタール、ポリケタール、オルトエステル、チオマレイン酸からなる群から選択される酸性または塩基性切断可能な官能単位を含み得る。
【0028】
前駆体の活性化または光切断に使用される放射線は、前駆体の化学的性質によって異なるが、通常は200~800nmの範囲である。
【0029】
前駆体
好適な前駆体は、ジアゾニウム塩、ペルハロメチルトリアジン、ハロビスフェニル、o-ニトロベンズアルデヒド、スルホネート、イミジルスルホニルエステル、ジアリールヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾスルホネート、ジアリールスルホン、1,2-ジアゾケトン、2-ジアゾ1-オキソ5スルホニル、2-ジアゾ1-オキソ4スルホニル、ジアゾメチルケトン、ジアゾメルドラム酸、アリールアジド誘導体、ベンゾカーボネート、カルバメート、ジメトキシベンゾイニル(dimethoxybenzoiinyl)カーボネート、ジメトキシベンゾイニルカルバメート、o-ニトロベンジルオキシカーボネート、o-ニトロベンジルオキシカルバメート、ニトロベンゼンスルフェニル、o-ニトロアニリン、ニトロベンジルカルバメート、3’,5’-ジメトキシベンゾインカルバメートからなる群から選択される官能単位を含む。
【0030】
抗原認識部分Y
「抗原認識部分Y」という用語は、細胞上の細胞内または細胞外に発現される抗原のような生物試料上に発現される標的部分に対する、あらゆる種類の抗体、断片化抗体または断片化抗体誘導体を指す。この用語は、完全無傷抗体、断片化抗体または断片化抗体誘導体、例えばFab、Fab’、F(ab’)2、sdAb、scFv、di-scFv、ナノボディに関する。かかる断片化抗体誘導体は、これらの種類の分子を含有する共有結合および非共有結合のコンジュゲートを含む組換え手順によって合成することができる。抗原認識部分の更なる例は、ペプチド/MHC複合体標的化TCR分子、細胞接着受容体分子、副刺激分子の受容体、人工改変結合分子、例えば、細胞表面分子等を標的とするペプチドまたはアプタマーである。
【0031】
「抗原認識部分Y」は、他のヌクレオチドのように生物試料の適切な標的部分を認識するオリゴヌクレオチドを含んでいてもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドは10~200ヌクレオチドを含む。
【0032】
本発明の方法に使用されるコンジュゲートは、最大100個、好ましくは1~20個の抗原認識部分Yを含み得る。抗原認識部分と標的抗原との相互作用は、高親和性であっても、または低親和性であってもよい。単一の低親和性抗原認識部分の結合相互作用は、抗原との安定した結合をもたらすには低すぎる。低親和性抗原認識部分を酵素分解可能なスペーサーPへのコンジュゲーションにより多量体化し、高いアビディティを与えることができる。工程g)においてスペーサーPを酵素的に切断する場合、低親和性抗原認識部分が単量体化され、検出部分X、スペーサーPおよび抗原認識部分Yが完全に除去される(
図3b)。高親和性抗原認識部分は、安定した結合をもたらし、工程g)中に検出部分XおよびスペーサーPが除去される。
【0033】
好ましくは、「抗原認識部分Y」という用語は、生物試料(標的細胞)により、IL2、FoxP3、CD154のように細胞内、またはCD3、CD14、CD4、CD8、CD25、CD34、CD56およびCD133のように細胞外で発現される抗原に対する抗体を指す。
【0034】
抗原認識部分Y、特に抗体は、側鎖アミノまたはスルフヒドリル基を介してスペーサーPに結合させることができる。場合によっては、抗体のグリコシド側鎖を過ヨウ素酸塩によって酸化し、アルデヒド官能基を生じさせることができる。
【0035】
抗原認識部分Yは、スペーサーPに共有結合または非共有結合させることができる。共有結合または非共有結合によるコンジュゲーションの方法は、当業者に既知であり、検出部分Xのコンジュゲーションについて述べたものと同じである。
【0036】
本発明の方法は、複雑な混合物からの特定の細胞型の検出および/または単離に特に有用であり、工程a)~g)の2つ以上の連続または並列シーケンスを含み得る。方法にはコンジュゲートの様々な組合せを使用することができる。例えば、コンジュゲートは、2つの異なる抗CD34抗体のような2つの異なるエピトープに特異的な抗体を含んでいてもよい。異なる抗体、例えば2つの別個のT細胞集団間の区別のための抗CD4および抗CD8、または制御性T細胞のような異なる細胞亜集団の決定のための抗CD4および抗CD25を含む異なるコンジュゲートによって異なる抗原に対処することができる。
【0037】
酸の量は、所望の時間内にスペーサーを実質的に分解するのに十分である必要がある。通常、検出シグナルは少なくとも約80%、より通常は少なくとも約95%、好ましくは少なくとも約99%減少する。放出の条件は温度、pH、金属補因子の存在、還元剤等の点で経験的に最適化することができる。分解は、通常少なくとも約15分、より通常は少なくとも約10分で完了し、通常は約30分より長くはならない。
【0038】
方法の実施形態
第一に、2つ以上の前駆体を準備することができ、異なる前駆体は、異なる波長の放射線によって活性化または光切断される。
【0039】
第二に、コンジュゲートを生物試料の表面に供給し、前駆体を活性化する放射線を生物試料の空間的に規定された領域に適用する。明らかに、スペーサーPの分解は、生物試料の空間的に規定された領域のみに限定される。
【0040】
第三に、生物試料のサンプルが第1のpHを有し、放射線を供給することによって前駆体を活性化した後に、生物試料のサンプルの少なくとも一部が第2のpHを有し、第1および第2のpHの差は少なくとも±0.5、好ましくは少なくとも±1.0、より好ましくは少なくとも±2.0である。しかしながら、pH範囲は4~10を超えてはならない。
【0041】
第四に、前駆体を活性化する放射線を生物試料の少なくとも1つの空間的に規定された領域に適用し、放射線を供給する前に、少なくとも1つの空間的に規定された領域が第1のpHを有し、放射線を供給することによって前駆体を活性化した後に、少なくとも1つの空間的に規定された領域が第2のpHを有し、第1および第2のpHの差は少なくとも±0.5、好ましくは少なくとも±1.0、より好ましくは少なくとも±2.0である。しかしながら、pH範囲は4~10を超えてはならない。
【0042】
細胞検出方法
コンジュゲートXn-P-Ymで標識された標的を検出する方法および装置は、検出部分Xによって決まる。
【0043】
本発明の一変形形態では、検出部分Xは蛍光部分である。蛍光色素コンジュゲートで標識された標的は、蛍光部分Xを励起し、生じる蛍光シグナルを分析することによって検出される。励起の波長は、通常は蛍光部分Xの吸収極大に従って選択され、当該技術分野で既知のレーザーまたはLED源によって供給される。幾つかの異なる検出部分Xが複数の色/パラメーター検出に使用される場合、吸収スペクトルが重複せず、少なくとも吸収極大が重複しない蛍光部分を選択することに注意する必要がある。蛍光部分を検出部分とする場合、標的は、例えば蛍光顕微鏡下、フローサイトメーター、分光蛍光計または蛍光スキャナーで検出することができる。化学発光によって放出された光は、励起を省略した同様の計器類によって検出することができる。
【0044】
放射性検出部分は、放射性同位体によって放出される放射線により検出される。放射性放射線の検出に適した計器類としては、例えばシンチレーションカウンターが挙げられる。β放出の場合、電子顕微鏡法を検出に用いることもできる。
【0045】
遷移金属同位体質量タグ部分は、マスサイトメトリー計器類に組み込まれるICP-MS等の質量分析法によって検出される。
【0046】
方法の使用
本発明の方法は、研究、診断および細胞療法における様々な用途に用いることができる。
【0047】
本発明の第1の変形形態では、計数目的、すなわちコンジュゲートの抗原認識部分によって認識される或る特定の抗原のセットを有するサンプルからの細胞の量を確定するために、細胞のような生物試料を検出する。
【0048】
第2の変形形態では、生物試料の1つ以上の集団をサンプルから検出し、標的細胞として分離する。この変形形態は、例えば臨床研究、診断および免疫療法における標的細胞の精製に用いることができる。この変形形態では、工程a)~g)のいずれかおよび任意に洗浄工程の後に1つ以上の選別工程を行ってもよい。
【0049】
特にフローソーター、例えば、例えば欧州特許出願公開第14187215.0号明細書または欧州特許出願公開第14187214.3号明細書に開示されているようなFACSまたはMEMSベースのセルソーターシステムが、かかる分離に適している。
【0050】
本発明の別の変形形態では、コンジュゲートの抗原認識部分によって認識される生物試料上の抗原のような標的部分の位置を決定する。かかる手法は、「マルチエピトープリガンドカルトグラフィー(Multi Epitope Ligand Cartography)」、「チップベースサイトメトリー」または「Multioymx」として知られており、例えば欧州特許第0810428号明細書、欧州特許第1181525号明細書、欧州特許第1136822号明細書または欧州特許第1224472号明細書に記載されている。この技術では、細胞を固定化し、蛍光部分に結合した抗体と接触させる。抗体が生物試料上(例えば細胞表面上)のそれぞれの抗原によって認識され、結合していないマーカーを除去し、蛍光部分を励起した後に、蛍光部分の蛍光発光によって抗原の位置が検出される。或る特定の変形形態では、蛍光部分に結合した抗体の代わりに、MALDIイメージングまたはCyTOFで検出可能な部分に結合した抗体を使用することができる。当業者であれば、蛍光部分に基づく手法をこれらの検出部分で機能するように修正する方法を知っている。
【0051】
標的部分の位置は、蛍光放射線の波長に対して十分な分解能および感度を有するデジタルイメージング装置によって達成される。デジタルイメージング装置は、光学的拡大の有無にかかわらず、例えば蛍光顕微鏡とともに使用することができる。得られる画像は、ハードドライブのような適切な保存装置に、例えばRAW、TIF、JPEGまたはHDF5フォーマットで保存される。
【0052】
異なる抗原を検出するために、同じまたは異なる蛍光部分または抗原認識部分Yを有する異なる抗体コンジュゲートを供給することができる。異なる波長を有する蛍光発光の並列検出には限界があるため、抗体-蛍光色素コンジュゲートを個別に順次、または小集団(2~10個)で順に用いる。
【0053】
本発明による方法のさらに別の変形形態では、サンプルの生物試料、特に懸濁細胞をマイクロキャビティ内への捕捉または付着によって固定化する。
【0054】
概して、本発明の方法は、幾つかの変形形態で行うことができる。例えば、コンジュゲートで標識された標的部分を検出する前に、標的部分によって認識されないコンジュゲートを、例えばバッファーで洗浄することによって除去することができる。
【0055】
本発明の変形形態では、少なくとも2つのコンジュゲートを同時にまたはその後の染色シーケンスで供給し、各抗原認識部分Yが異なる抗原を認識する。代替的な変形形態では、少なくとも2つのコンジュゲートをサンプルに同時にまたはその後の染色シーケンスで供給することができ、各コンジュゲートが、異なる酵素によって切断される異なる分解可能なスペーサーPを含む。どちらの場合も、標識された標的部分は同時にまたは順次検出することができる。順次検出は、スペーサー分子Pの同時分解、または任意に非結合部分の中間除去(洗浄)を伴う、その後のスペーサー分子Pの分解を含み得る。
【外国語明細書】