IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人関西医科大学の特許一覧

<>
  • 特開-内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞 図1
  • 特開-内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞 図2
  • 特開-内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞 図3-1
  • 特開-内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞 図3-2
  • 特開-内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞 図4
  • 特開-内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞 図5
  • 特開-内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞 図6
  • 特開-内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞 図7
  • 特開-内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045066
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240326BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240326BHJP
   A01K 67/027 20240101ALI20240326BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240326BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240326BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240326BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20240326BHJP
   C12N 15/16 20060101ALN20240326BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20240326BHJP
   C07K 14/505 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/071
A01K67/027
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/02
C12Q1/6897 Z
C12N15/16
C12N15/53
C07K14/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151701
(22)【出願日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2022148782
(32)【優先日】2022-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100203253
【弁理士】
【氏名又は名称】村岡 皓一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100179039
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】福田 尚代
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 龍哉
(72)【発明者】
【氏名】人見 浩史
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ22
4B063QR02
4B063QR77
4B063QS31
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD21
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA30
4H045DA89
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】簡便かつ低コストにホルモン産生能を評価することができる、内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞及び該細胞の製造方法の提供。作製した細胞や該細胞を移植した動物を用いて、内分泌疾患の治療又は予防薬をスクリーニングする方法や、生体におけるホルモン産生動態を可視化する方法の提供。
【解決手段】ホルモン遺伝子のプロモーターに制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する、内分泌細胞、並びに(1)ホルモン遺伝子のプロモーター下に制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する多能性幹細胞を準備する工程、及び
(2)該多能性幹細胞を内分泌細胞に分化させる工程を含む、前記細胞を製造する方法。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルモン遺伝子のプロモーターに制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する、内分泌細胞。
【請求項2】
前記ホルモン遺伝子が内在性のホルモン遺伝子である、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記ホルモンがエリスロポエチン、副甲状腺ホルモン、甲状腺ホルモン及びレニンからなる群から選択される、請求項1に記載の細胞。
【請求項4】
前記レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子又はルシフェラーゼ遺伝子である、請求項1に記載の細胞。
【請求項5】
多能性幹細胞に由来する、請求項1に記載の細胞。
【請求項6】
(1)ホルモン遺伝子のプロモーター下に制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する多能性幹細胞を準備する工程、及び
(2)該多能性幹細胞を内分泌細胞に分化させる工程
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞を製造する方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞を有する、非ヒト動物。
【請求項8】
げっ歯類動物である、請求項7に記載の動物。
【請求項9】
(1)請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び
(2)被験物質を接触させていない場合と比較して、レポーター遺伝子の発現量が変化した場合に、該被験物質を内分泌疾患の治療又は予防薬の候補物質として選別する工程
を含む、内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞を含む、内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニング用キット。
【請求項11】
(1)請求項7に記載の非ヒト動物に被験物質を投与する工程、及び
(2)被験物質を投与していない場合と比較して、レポーター遺伝子の発現量が変化した場合に、該被験物質を内分泌疾患の治療又は予防薬の候補物質として選別する工程
を含む、内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法。
【請求項12】
(1)ホルモン遺伝子のプロモーターに制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する多能性幹細胞を準備する工程、
(2)被験物質の存在下で、該多能性幹細胞を内分泌細胞に分化させる工程、及び
(3)被験物質の非存在下の場合と比較して、レポーター遺伝子の発現量が増加した場合に、該被験物質を内分泌細胞分化誘導促進薬の候補物質として選別する工程
を含む、内分泌細胞分化誘導促進薬のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞に関する。より詳細には、ホルモン遺伝子のプロモーター下に制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する、ホルモン遺伝子発現の検出が可能な内分泌細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
ホルモン(hormone)は、生体の外部や内部に起こった情報に対応し、体内において特定の器官で産生及び分泌され、血液など体液を通して体内を循環し、標的細胞でその効果を発揮する生理活性物質である。ホルモンにより伝えられる情報は、恒常性を維持するなどの重要な役割を果たす。ホルモンを分泌する臓器の障害などにより、ホルモン分泌に異常が生じることや、ホルモンが作用する臓器の異常により、ホルモン作用の異常が生じることで、内分泌疾患が発症する。内分泌疾患の中には、糖尿病や高脂血症の様に患者数の多い疾患から、これまで原因不明の精神疾患として放置されてきた希な疾患まで様々な疾患が含まれるため、内分泌疾患を正確に診断し、治療することは非常に重要である。
【0003】
上記ホルモンの1つとして、副甲状腺ホルモン(PTH)が存在する。副甲状腺は甲状腺の背面に位置し、PTHを産生及び分泌し、カルシウムの調節や骨代謝に重要な役割を担っている。副甲状腺に関連する疾患としては、PTHが過剰に分泌されることにより起こる副甲状腺機能亢進症があり、長期透析患者でよく認められる。一方、副甲状腺機能低下症は、PTH分泌低下により低カルシウム血症や高リン血症が惹起される疾患であり、頸部術後に最も頻発する合併症の1つである。
【0004】
また、別のホルモンとして、エリスロポエチン(Erythropoietin; EPO)が知られている。赤血球数の恒常性維持のために必須のプロセスである赤血球造血は、EPOによりその恒常性が維持されている。EPOは主に腎臓で産生され、血液中を循環し、骨髄中の後期赤芽球系前駆細胞(CFU-E)に作用して増殖、分化を刺激することで赤血球造血を促進する。EPOが正常レベルに産生されず不足すると、CFU-Eが減少し、赤血球造血が低下した結果、貧血になる。貧血はヘモグロビン濃度が不十分で身体の酸素輸送要求を満足できない病的状態であり、労作意欲の低下、易疲労感、息切れ、立ちくらみ、動悸等の臨床症状を呈するため、症状を改善することが望まれている。
【0005】
内分泌疾患の治療のために、再生医療の分野において、内分泌細胞の移植療法が試みられている。内分泌細胞は、(i)少量の細胞で機能する、(ii)評価系が確立している、(iii)分泌物のみを通過させ、細胞自体を通過させない培養バッグを用いることで、がん化の対策が可能、(iv)細胞の補充が容易、かつ(v)移植部位が限定されない、といった利点を有する。本発明者らは、以前より移植療法に用いる内分泌細胞の作製方法の開発を進めており、多能性幹細胞から、効率よく副甲状腺細胞(特許文献1)及びEPO産生細胞(特許文献2、非特許文献1)を分化誘導できる方法の開発に成功した。移植療法においては、治療効果を予測するため、事前に内分泌細胞のホルモン分泌能を評価することが重要である。また、内分泌細胞を用いた薬剤のスクリーニング方法や、薬剤の評価方法においても、該内分泌細胞からのホルモン分泌能を評価することは不可欠である。内分泌細胞からのホルモン分泌能は、培養上清のELISA、細胞懸濁液のPCR、細胞の免疫染色などを行うことが一般的であった。しかしながら、低コストで短時間にホルモン分泌量を測定することは困難であった。さらに、モデル動物を用いて、体外から侵襲なくホルモン産生能を評価することは不可能であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-69345
【特許文献2】国際公開第2013/151186号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hitomi H. et al., Sci Transl Med. 9(409):eaaj2300 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、簡便かつ低コストにホルモン産生能を評価することができる、内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞及び該細胞の製造方法を提供することを目的とする。また、作製した細胞や該細胞を移植した動物を用いて、内分泌疾患の治療又は予防薬をスクリーニングする方法や、生体におけるホルモン産生動態を可視化する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ホルモン遺伝子のプロモーター下に制御可能に連結されたレポーター遺伝子を有する内分泌細胞を作製できれば、in vitro及びin vivoでのホルモンの分泌を可視化でき、また簡便かつ低コストにホルモン産生能を評価することができるのではないか、との着想を得た。かかる着想に基づき研究を進めた結果、ヒトiPS細胞の遺伝子編集をすることにより、ヒトiPS細胞由来の新規な内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞を作製することに成功した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]
ホルモン遺伝子のプロモーターに制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する、内分泌細胞。
[2]
前記ホルモン遺伝子が内在性のホルモン遺伝子である、[1]に記載の細胞。
[3]
前記ホルモンがエリスロポエチン、副甲状腺ホルモン、甲状腺ホルモン及びレニンからなる群から選択される、[1]又は[2]に記載の細胞。
[4]
前記レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子又はルシフェラーゼ遺伝子である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の細胞。
[5-1]
多能性幹細胞に由来する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の細胞。
[5-2]
前記多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、[5-1]に記載の細胞。
[6]
(1)ホルモン遺伝子のプロモーター下に制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する多能性幹細胞を準備する工程、及び
(2)該多能性幹細胞を内分泌細胞に分化させる工程
を含む、[1]~[5-2]のいずれか1つに記載の細胞を製造する方法。
[7]
[1]~[5-2]のいずれか1つに記載の細胞を有する、非ヒト動物。
[8-1]
げっ歯類動物である、[7]に記載の動物。
[8-2]
前記げっ歯類動物がマウスである、[8-1]に記載の動物。
[9]
(1)[1]~[5-2]のいずれか1つに記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び
(2)被験物質を接触させていない場合と比較して、レポーター遺伝子の発現量が変化した場合に、該被験物質を内分泌疾患の治療又は予防薬の候補物質として選別する工程
を含む、内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法。
[10]
請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞を含む、内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニング用キット。
[11]
(1)[7]~[8-2]のいずれか1つに記載の非ヒト動物に被験物質を投与する工程、及び
(2)被験物質を投与していない場合と比較して、レポーター遺伝子の発現量が変化した場合に、該被験物質を内分泌疾患の治療又は予防薬の候補物質として選別する工程
を含む、内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法。
[12]
(1)ホルモン遺伝子のプロモーターに制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する多能性幹細胞を準備する工程、
(2)被験物質の存在下で、該多能性幹細胞を内分泌細胞に分化させる工程、及び
(3)被験物質の非存在下の場合と比較して、レポーター遺伝子の発現量が増加した場合に、該被験物質を内分泌細胞分化誘導促進薬の候補物質として選別する工程
を含む、内分泌細胞分化誘導促進薬のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ホルモン産生を簡便に評価することが可能となり、内分泌疾患に対するホルモン産生促進薬の開発や薬効評価に非常に有用である。さらに内分泌ホルモン産生機構の動態解明に、本発明を用いることにより、新規治療法開発につながる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】EPO遺伝子発現検出細胞の作製における、ドナーベクター及び標的部位の概要図を示す。EPO遺伝子座にsfGFP-pA、またはNLuc-pAを挿入した。
図2】使用したgRNAのオフターゲット作用を受ける可能性がある遺伝子座10箇所のゲノム配列を、サンガーシークエンスにより確認した。(下図:例として候補3のみ示す。)遺伝子座10箇所において、オフターゲットは検出されなかった。図面に記載された配列を配列番号78として配列表中に示す。
図3-1】EPO遺伝子発現検出細胞を、未分化状態からEPO産生細胞へ分化誘導した。EPOタンパク質の発現を認めるStage2の14日目で、細胞質におけるGFP発現を確認した。
図3-2】EPO遺伝子発現検出細胞を、未分化状態からEPO産生細胞へ分化誘導した。EPOタンパク質の発現を認めるStage 2において、5日目からGFPタンパク質の発現を認め、15日目まで増加し、観察を行った60日目まで発現を認めた。
図4】EPO遺伝子発現検出細胞を、未分化状態からEPO産生細胞へ分化誘導した。EPO遺伝子発現検出細胞をEPO産生細胞へ分化誘導し、免疫不全マウスの腎臓被膜下に移植した。上図は移植した腎臓である。移植後1週間で腎臓を摘出し、切片を作製し、HE染色を行った。腎臓被膜直下に移植したEPO遺伝子発現検出細胞を認める。(上図右)蛍光染色を行うと、移植部位にGFP(EPO)の発現を認めた。ヒト核(Human Nuc)とGFPが一致するため、移植した細胞であることが確認された(下図)。
図5】EPO遺伝子発現検出細胞を、EPO産生細胞へ分化誘導した。フローサイトメーターで、GFPの発現を確認した。EPOタンパク質が発現されるStage 2の8日目には二峰性の蛍光強度を認めた。GFPタンパク質発現を定量評価した。右図はStage 2の1日目、4日目、8日目におけるGFP発現の比較を示す。
図6】EPO遺伝子発現検出細胞を、薬剤スクリーニングに用いた。EPOタンパク質を増加させることが報告されているデスフェロキサミン(DFO)、ジメチルオキサログリシン(DMOG)、ロキサデュスタットを、EPO産生細胞へ分化誘導したEPO遺伝子発現検出細胞に負荷した。既に臨床応用されているロキサデュスタットは、有意にGFPタンパク質発現を増加させた。
図7】PTH遺伝子発現検出細胞の作製における、ドナーベクター及び標的部位の概要図を示す。PTH遺伝子座にsfGFP-pA、またはNLuc-pAを挿入した。下図は、正しくノックインされたことを確認している。
図8】使用したgRNAのオフターゲット作用を受ける可能性がある遺伝子座7箇所のゲノム配列をサンガーシークエンスにより確認した。(下図:例として候補7のみ示す。)遺伝子座7箇所において、オフターゲットは検出されなかった。図面に記載された配列を配列番号79として配列表中に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞
本発明により、ホルモン遺伝子のプロモーター下に制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する(換言すれば、染色体中にレポーター遺伝子が含まれる)、内分泌細胞(以下では、「本発明の細胞」と称することがある。)が提供される。本発明の細胞は、上記ホルモンを産生する細胞であり、細胞内でホルモンの産生される際にレポーター遺伝子が発現することになる。そのため、該細胞は、内分泌ホルモン遺伝子発現の検出等に用いることができる。
【0014】
本明細書において、「ホルモン遺伝子」とは、ペプチドホルモンをコードする遺伝子を意味する。前記ペプチドホルモンとしては、例えば、エリスロポエチン(Erythropoietin; EPO)、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone; PTH)(別称:パラトルモン(parathormone))、カルシトニン(calcitonin)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone; TRH)(別称:チロリベリン(Thyroliberin))、甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone; TSH)(別称:チロトロピン(Thyrotropin))、インヒビン(inhibin)、バソプレッシン(Vasopressin)(別称:抗利尿ホルモン)、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone; CRH)、副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone; ACTH)、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gonadotropin releasing hormone, GnRH)、性腺刺激ホルモン(別称:ゴナドトロピン(Gonadotropin))(例:黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)等)、プロラクチン(英語: Prolactin)、メラトニン(Melatonin)、オキシトシン(Oxytocin; OXT)、インスリン(Insulin)、グルカゴン(Glucagon)、セクレチン(secretin)、ソマトスタチン(somatostatin; SST)、成長ホルモン放出ホルモン(Growth hormone releasing hormone; GHRH, GRH)、成長ホルモン(growth hormone; GH)、甲状腺ホルモン(トリヨードチロニン(Triiodothyronine)、チロキシン(Thyroxin))、レニン(Renin)、アルドステロン(Aldosterone)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
内分泌細胞とは、ホルモン産生細胞又はホルモン分泌細胞とも呼ばれ、消化管や内分泌組織(例:膵臓、下垂体等)などに局在し、ホルモン産生及び分泌を役割とする細胞を意味する。内分泌細胞としては、EPOを産生及び分泌する腎臓の尿細管間質細胞、PTHを産生及び分泌する副甲状腺細胞(主細胞、好酸性細胞、透明細胞)、カルシトニンを産生及び分泌する甲状腺の傍濾胞細胞又は鰓後体のC細胞(calcitonin cells)、TRHを産生及び分泌する視床下部の神経細胞、TSHを産生及び分泌する下垂体前葉の下垂体向甲状腺細胞(thyrotroph)、インヒビンを産生及び分泌する顆粒膜細胞又はセルトリ細胞、バソプレッシンを産生及び分泌する視床下部の室傍核又は視索上核の神経分泌細胞、CRHを産生及び分泌する視床下部の神経分泌細胞、ACTHを産生及び分泌する下垂体前葉のACTH産生細胞、GnRHを産生及び分泌する視床下部の神経分泌細胞、性腺刺激ホルモンを産生及び分泌する下垂体前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞、プロラクチンを産生及び分泌する脳下垂体前葉のプロラクチン合成細胞(lactotroph)、メラトニンを産生及び分泌する松果体細胞、OXTを産生及び分泌する視床下部の室傍核又は視索上核の神経分泌細胞、インスリンを産生及び分泌する膵臓のβ細胞、グルカゴンを産生及び分泌する膵臓のα細胞、セクレチンを産生及び分泌する小腸粘膜のSmall granule cell、SSTを産生及び分泌する視床下部の腹内側核の神経分泌細胞、膵臓のランゲルハンス島δ細胞又は消化管のδ細胞、GHRHを産生及び分泌する視床下部の弓状核の神経分泌細胞、GHを産生及び分泌する脳下垂体前葉のGH分泌細胞、甲状腺ホルモンを産生及び分泌する濾胞上皮細胞、レニンを産生及び分泌する傍糸球体細胞、アルドステロンを産生及び分泌する副腎皮質球状層のアルドステロン産生細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
本発明において、細胞は、単一の細胞であってもよいが、典型的には、複数の細胞からなる細胞集団である。よって、本明細書において、特に断りのない限り、「細胞」には、「細胞集団」が含まれるものとする。細胞集団は、1種類の細胞から構成されていてもよく、2種類以上の細胞から構成されていてもよい。
【0017】
本発明に用いるレポーター遺伝子としては、例えば、蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、発色酵素遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。レポーター遺伝子にコードされるルシフェラーゼとして、ホタルルシフェラーゼ、バクテリアルシフェラーゼ、合成ウミシイタケルシフェラーゼ、トゲオキヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)ルシフェラーゼ(例:NanoLuc(登録商標)等)、分泌型のルシフェラーゼなどが挙げられる。レポーター遺伝子にコードされる蛍光タンパク質として、GFPやEGFPなどの緑色蛍光タンパク質、BFPやTagBFPなどの青色蛍光タンパク質、RFPやDsRedなどの赤色蛍光タンパク質などが挙げられる。レポーター遺伝子にコードされる発色酵素遺伝子としては、例えば、βガラクトシターゼ、βグルクロニダーゼ、アルカリフォスファターゼなどが挙げられる。これらのマーカー遺伝子については一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明の細胞は、生体から単離した内分泌細胞や、樹立された細胞株に遺伝子工学を行うことで作製することができる。前記遺伝子工学としては、例えば、ホルモン遺伝子プロモーターの下流にレポーター遺伝子を含む遺伝子発現カセット、を有するコンストラクトを作製し、該コンストラクトを細胞にインジェクションし、該遺伝子発現カセットが染色体に組み込まれた細胞を選別することなどが挙げられる。
【0019】
あるいは、本発明の細胞は、ゲノム編集等を用いた相同組み換えにより、レポーター遺伝子を、一方の又は両方の染色体(アリル)上の内在性のホルモン遺伝子のプロモーターの下流にノックインしてもよい。相同組み換えを利用する場合には、典型的には、ドナーDNAを用いるが、かかるドナーDNAには、5’ホモロジーアームと3’ホモロジーアームのとの間の領域(以下、「挿入予定領域」ともいう。)に少なくともレポーター遺伝子が含まれる。挿入予定領域は、染色体上のホルモン遺伝子のプロモーターの下流に挿入してもよく、該プロモーターの下流の領域(例えば、ホルモンをコードする領域やその一部の領域等)と置換してもよい。また、レポータータンパク質とホルモンとの融合タンパク質が発現するようにしてもよく、また、IRES(internal ribosome entry site)や2A(例:T2A、P2A、E2A、F2A)コード配列を挿入予定領域に含めることで、レポータータンパク質とホルモンとを同時に発現させることもできる。
【0020】
前記ゲノム編集としては、例えば、ジンクフィンガーDNA結合ドメインと非特異的なDNA切断ドメインとを連結した、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を用いる方法(特許第4968498号公報)、DNA結合モジュールである転写活性化因子様(TAL)エフェクターと、DNAエンドヌクレアーゼとを連結したTALEN(TALエフェクターヌクレアーゼ)を用いる方法(WO2011/072246)、あるいは、DNA配列CRISPR(Clustered Regularly interspaced short palindromic repeats)と、CRISPRとともに重要な働きを持つヌクレアーゼCasタンパク質ファミリーとを組み合わせたCRISPR-Cas9システムを利用する方法(WO2013/176772)が挙げられる。さらに、ゲノム編集等により、上記遺伝子発現カセットを、特定の遺伝子座にノックインしてもよい。特定の遺伝子座としては、ヒトPPP1R2C遺伝子座などのオープンクロマチン構造のため、挿入された遺伝子の発現抑制を受けにくい遺伝子座などが挙げられる。
【0021】
上記遺伝子発現カセットや挿入予定領域には、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイト、IRES、2Aコード配列などの制御配列を含むことができ、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列などを含むことができる。また、記遺伝子発現カセットや挿入予定領域には、細胞への導入後、特定の遺伝子や配列を切除するため、それらの前後にLoxP配列又はFRT配列を有してもよい。
【0022】
2.内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞の製法
あるいは、本発明の細胞は、多能性幹細胞に上記遺伝子工学を施し、該多能性幹細胞を分化誘導することにより作製することもできる。特に、細胞としてヒト細胞を用いる場合に、多能性幹細胞から分化誘導することが好ましい。従って、別の態様において、
(1)ホルモン遺伝子のプロモーター下に制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する多能性幹細胞を準備する工程、及び
(2)該多能性幹細胞を内分泌細胞に分化させる工程
を含む、本発明の細胞を製造する方法(以下では、「本発明の製法」と称することがある。)が提供される。
【0023】
上記工程(1)で準備する多能性幹細胞は、公知の方法で樹立した多能性幹細胞や既に樹立された多能性幹細胞に、上記遺伝子操作を行い作製することができる。本発明に用いる多能性幹細胞は、未分化状態を保持したまま増殖できる「自己複製能」と、三つの一次胚葉すべてに分化できる「分化多能性」とを有する未分化細胞であればいずれでもよい。かかる多能性幹細胞としては、例えば、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(nuclear transfer Embryonic stem cell:ntES細胞)、多能性生殖幹細胞(multipotent germline stem cell)(「mGS細胞」)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、Muse細胞(multi-lineage differentiating stress enduring cell)などが挙げられるが、好ましくはiPS細胞(より好ましくはヒトiPS細胞)である。上記多能性幹細胞がES細胞又はヒト胚に由来する任意の細胞である場合、その細胞は胚を破壊して作製された細胞であっても、胚を破壊することなく作製された細胞であってもよいが、好ましくは、胚を破壊することなく作製された細胞である。
【0024】
iPS細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(Takahashi K. and Yamanaka S.(2006)Cell, 126:663-676; Takahashi K. et al.(2007), Cell, 131:861-872; Yu J. et al.(2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa M. et al., Nat. Biotechnol. 26:101-106(2008);WO 2007/069666)。iPS細胞を用いる場合、該iPS細胞は、自体公知の方法により体細胞から作製してもよいし、既に樹立され、ストックされているiPS細胞を用いてもよい。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物若しくはノンコーディング(non-coding)RNA又はES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物若しくはノンコーディングRNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3又はGlis1等が例示される。これらの初期化因子は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。初期化因子の組み合わせとしては、WO 2007/069666、WO 2008/118820、WO 2009/007852、WO 2009/032194、WO 2009/058413、WO 2009/057831、WO 2009/075119、WO 2009/079007、WO 2009/091659、WO 2009/101084、WO 2009/101407、WO 2009/102983、WO 2009/114949、WO 2009/117439、WO 2009/126250、WO 2009/126251、WO 2009/126655、WO 2009/157593、WO 2010/009015、WO 2010/033906、WO 2010/033920、WO 2010/042800、WO 2010/050626、WO 2010/056831、WO 2010/068955、WO 2010/098419、WO 2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO 2010/115050、WO 2010/124290、WO 2010/147395、WO 2010/147612、Huangfu D, et al.(2008), Nat. Biotechnol., 26:795-797、Shi Y, et al.(2008), Cell Stem Cell, 2:525-528、Eminli S, et al.(2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al.(2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al.(2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al.(2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A,(2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al.(2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al.,(2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al.(2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al.(2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al.(2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al.(2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al.(2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al.(2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al.(2011), Nature. 474:225-9に記載の組み合わせが例示される。
【0025】
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。ES細胞は、マウスで1981年に発見され(M.J. Evans and M.H. Kaufman(1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された(J.A. Thomson et al.(1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al.(1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848; J.A. Thomson et al.(1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall(1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。ヒト及びサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えば、USP5,843,780; Thomson JA, et al.(1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848;Thomson JA, et al.(1998), Science. 282:1145-1147; Suemori H. et al.(2006), Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; Ueno M. et al.(2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559; Suemori H. et al.(2001), Dev. Dyn., 222:273-279; Kawasaki H. et al.(2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I. et al.(2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。あるいは、ES細胞は、胚盤胞期以前の卵割期の胚の単一割球のみを用いて樹立することもできるし(Chung Y. et al. (2008), Cell Stem Cell 2: 113-117)、発生停止した胚を用いて樹立することもできる(Zhang X. et al. (2006), Stem Cells 24: 2669-2676.)。
【0026】
ntES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(Wakayama T. et al.(2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al.(2005), Biol. Reprod., 72:932-936; Byrne J. et al.(2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がntES(nuclear transfer ES)細胞である。ntES細胞の作製のためには、核移植技術(Cibelli J.B. et al.(1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008), 実験医学, 26巻, 5号(増刊), 47~52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
【0027】
mGS細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(Kanatsu-Shinohara M. et al.(2003)Biol. Reprod., 69:612-616; Shinohara K. et al.(2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor(GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、生殖幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008), 実験医学, 26巻, 5号(増刊), 41~46頁, 羊土社(東京、日本))。
【0028】
EG細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞である。LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立し得る(Matsui Y. et al.(1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al.(1992), Nature, 359:550-551)。
【0029】
Muse細胞は、生体に内在する非腫瘍性の多能性幹細胞であり、例えば、WO 2011/007900に記載された方法にて製造することができる。詳細には、線維芽細胞又は骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間又は16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞がMuse細胞であり、SSEA-3及びCD105が陽性である。
【0030】
上記工程(2)における多能性幹細胞から内分泌細胞への分化は、自体公知の方法を用いて行うことができる、典型的には、多能性幹細胞を、基本培地に内分泌細胞分化誘導因子を添加して調製した培地中で培養することにより行うことができる。例えば、内分泌細胞がEPO産生細胞の場合には、特許文献2又は非特許文献1に記載の方法などを用いて、多能性幹細胞からEPO産生細胞を分化誘導することができる。より具体的には、
(a)多能性幹細胞を、アクチビンAとGSK-3β阻害剤(例:BIO、SB216763、4-ジブロモアセトフェノン、L803-mts、CHIR99021等)とを含む培地で培養する工程、及び
(b)工程(a)の後、多能性幹細胞を、IGF-1を含む培地で培養する工程
により、多能性幹細胞からEPO産生細胞を分化誘導することができる。
【0031】
本明細書において、「エリスロポエチン産生細胞」とは、エリスロポエチンを産生可能な任意の細胞を意味し、尿細管間質細胞など特定の組織細胞であることを限定しない。
【0032】
また、例えば、内分泌細胞が副甲状腺細胞の場合には、特許文献1に記載の方法などを用いることができる。より具体的には、
(A)多能性幹細胞を、アクチビンAの存在下で培養し、胚体内胚葉へ誘導する工程、
(B)工程(A)で得られた胚体内胚葉を、レチノイン酸(例:天然のレチノイン酸、レチノイン酸誘導体等)の存在下で培養し、第3咽頭嚢様細胞へ誘導する工程、及び
(C)(B)で得られた第3咽頭嚢様細胞を、ソニックヘッジホッグ(SHH)作動薬(例:Shh受容体アゴニスト、Purmorphamine、SAG等)の存在下で培養し、副甲状腺細胞へ誘導する工程
により、多能性幹細胞から副甲状腺細胞を分化誘導することができる。
【0033】
一態様において、上記工程(A)は、
(A1)多能性幹細胞を、アクチビンA及びWntシグナル活性化剤の存在下で培養する工程、及び
(A2)工程(A1)で得られた細胞を、アクチビンA及びBMPシグナル阻害剤の存在下で培養する工程
である。
【0034】
本明細書において、「副甲状腺細胞」とは、副甲状腺細胞マーカーであるGcm2 (glial cell missing-2 homolog)遺伝子を少なくとも発現する細胞を意味する。好ましくは、本発明における副甲状腺細胞は、さらにCaSR (calcium sensing receptor)、CCL21等の他の副甲状腺細胞マーカー遺伝子を発現する細胞である。「胚体内胚葉」とは、副甲状腺や胸腺をはじめとする内胚葉系列の種々の組織、器官に分化し得る細胞であり、Sox17、FoxA2、CXCR4、CER1等の1以上の胚体内胚葉マーカー遺伝子を発現する細胞を意味する。また、「第3咽頭嚢様細胞」とは、胚体内胚葉から分化した副甲状腺又は胸腺に分化し得る細胞を意味し、Hoxa3陽性により特徴づけられる。当該細胞は、Pax1、Eya1、Pax9、Six1及びPbx1等の1以上の転写因子をさらに発現しているものが好ましい。「遺伝子の発現」とは、特に断らない限り、少なくとも「機能的なタンパク質の産生」を含む意味で用いられるが、好ましくは、さらに「mRNAの産生」を含む意味で用いられる。
【0035】
上記工程(2)で用いる基本培地としては、例えば、Neurobasal培地、Neural Progenitor Basal培地、NS-A培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、最小必須培地(MEM)、Eagle MEM培地、αMEM培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
培地は、血清含有培地又は無血清培地であり得る。好ましくは、無血清培地が使用され得る。無血清培地(SFM)とは、未処理又は未精製の血清をいずれも含まない培地を意味し、従って、精製された血液由来成分又は動物組織由来成分(増殖因子など)を含有する培地が挙げられ得る。血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS)、ヒト血清など)の濃度は、0~20%、好ましくは0~5%、より好ましくは0~2%、最も好ましくは0%(すなわち、無血清)であり得る。血清を用いる場合、血清濃度を徐々に増加させてもよい(例、0→0.2→2→5%)。SFMは任意の血清代替物を含んでよく、又は含まなくてもよい。血清代替物としては、例えば、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン、組換えアルブミン等のアルブミン代替物、植物デンプン、デキストラン及びタンパク質加水分解物等)、トランスフェリン(又は他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオグリセロールあるいはこれらの均等物などを適宜含有する物質が挙げられ得る。かかる血清代替物は、例えば、WO 98/30679に記載の方法により調製できる。また、より簡便にするため、市販のものを利用できる。かかる市販の物質としては、Knockout(商標)Serum Replacement(KSR)、Chemically-defined Lipid concentrated、及びGlutamax(Invitorogen)が挙げられる。
【0037】
培地は、自体公知のその他の添加物を含んでもよい。当該添加物は特に限定されないが、例えば、成長因子(例えば、インスリンなど)、ポリアミン類(例えば、プトレシンなど)、ミネラル(例えば、セレン酸ナトリウムなど)、糖類(例えば、グルコースなど)、有機酸(例えば、ピルビン酸、乳酸など)、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸(NEAA)、L-グルタミンなど)、還元剤(例えば、2-メルカプトエタノールなど)、ビタミン類(例えば、アスコルビン酸、d-ビオチンなど)、ステロイド(例えば、[ベータ]-エストラジオール、プロゲステロンなど)、抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシンなど)、緩衝剤(例えば、HEPESなど)、栄養添加物(例えば、B27 supplement、N2 supplement、StemPro-Nutrient Supplement等)などを挙げることができる。各添加物は自体公知の濃度範囲で含まれることが好ましい。
【0038】
培養に用いる培養器は、特に限定されないが、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、及びローラーボトルが挙げられ得る。培養器は細胞接着性であり得る。細胞接着性の培養器は、培養器表面の細胞への接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス(ECM)などの任意の細胞接着用基質でコートされたものであり得る。細胞接着用基質は、多能性幹細胞又はフィーダー細胞(用いられる場合)の接着を目的とする任意の物質であり得る。細胞接着用基質としては、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ポリ-L-オルニチン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、並びにそれらの混合物、例えばマトリゲル、並びに溶解細胞膜調製物(lysed cell membrane preparations)が挙げられる(Klimanskaya I et al 2005. Lancet 365:p1636-1641)。
【0039】
培養温度は、特に限定されないが、約30~約40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の存在下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2~5%である。
【0040】
また、本発明の製法は、上記工程(2)の後に、(3)レポーター遺伝子が発現する細胞を単離又は精製する工程を含んでいてもよい。かかる工程を行うことで、細胞集団中における、レポーター遺伝子を発現する細胞の割合を上げることができる。単離又は精製の方法は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、指標とする分子に対する抗体により標識し、フローサイトメトリーやマスサイトメトリーを用いた方法、磁気細胞分離法、又は所望の抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製する方法が挙げられる。レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である場合には、抗体を用いることなくフローサイトメトリーにより該蛍光タンパク質を発現する細胞を単離又は精製することもできる。
【0041】
3.内分泌ホルモン遺伝子発現検出動物及びその製法
また、本発明の細胞を有する非ヒト動物を用いることで、内分泌ホルモンをライブイメージングすることが可能となり、薬のスクリーニングや、内分泌ホルモン産生機構の解明などに資することとなる。よって、別の態様において、本発明の細胞を有する、非ヒト動物(以下では、「本発明の動物」ともいう。)が提供される。
【0042】
本発明の動物の元となる動物種としては、ヒト以外の動物であれば特に制限されないが、例えば、哺乳類動物(例:マウス、ラット、ハムスター、モルモットなどのげっ歯類動物、アカゲザル、カニクイザル、ニホンザル、チンパンジーなどの霊長類動物、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ等)、鳥類(例:ニワトリ等)などが挙げられる。中でも、哺乳動物が好ましく、特に、取り扱いの容易さの観点からは、げっ歯類動物が好ましく、中でもマウスがより好ましい。
【0043】
本発明の動物の製造方法としては、以下の方法が挙げられる。例えば、本発明の細胞を、自体公知の方法(例えば、非特許文献1に記載の方法)により動物(例えば、免疫不全動物等)に移植することで、本発明の細胞を有する動物を製造することができる。あるいは、受精卵に、上記1.で記載したコンストラクトを導入することや、上記1.で記載したゲノム編集を行うことで、ホルモン遺伝子のプロモーター下に制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する受精卵が得られる。かかる受精卵を偽妊娠したメス動物の子宮に移植することにより、本発明の細胞を有する動物を得ることができる。あるいは、多能性幹細胞に対して上記ゲノム編集を行い、ホルモン遺伝子のプロモーター下に制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する多能性幹細胞を作成し、該細胞を動物の胚盤胞に注入してキメラ動物を作製し、該キメラ動物を野生型動物と交配すること(必要により、さらに子孫同士を交配すること)で、本発明の細胞を有する動物が作製される。
【0044】
4.内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法等
以上のようにして作製された本発明の細胞又は本発明の動物は、例えば、内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニングに用いることができる。即ち、本発明は、内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法であって、
(1)本発明の細胞に被験物質を接触させる工程、及び
(2)被験物質を接触させていない場合と比較して、レポーター遺伝子の発現量が変化した場合に、該被験物質を内分泌疾患の治療又は予防薬の候補物質として選別する工程
を含む、内分泌疾患の治療又は予防薬(治療効果及び予防効果の両方の効果を有する薬も含む。以下同様。)のスクリーニング方法を提供する。本方法で用いる細胞としては、本発明の細胞や該細胞を含む細胞集団であってもよく、また本発明の動物の一部(例えば、臓器、組織等)であってもよい。
【0045】
本発明の別の実施態様において、
(1’)本発明の動物に被験物質を投与する工程、及び
(2’)被験物質を投与していない場合と比較して、レポーター遺伝子の発現量が変化した場合に、該被験物質を内分泌疾患の治療又は予防薬の候補物質として選別する工程
を含む、内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニング方法が提供される。
【0046】
さらに別の実施態様において、
(I)ホルモン遺伝子のプロモーターに制御可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に有する多能性幹細胞を準備する工程、
(II)被験物質の存在下で、該多能性幹細胞を内分泌細胞に分化させる工程、及び
(III)被験物質の非存在下の場合と比較して、レポーター遺伝子の発現量が増加した場合に、該被験物質を内分泌細胞分化誘導促進薬の候補物質として選別する工程
を含む、内分泌細胞分化誘導促進薬のスクリーニング方法が提供される。
【0047】
上記工程(I)および工程(II)における具体的な態様や方法などは、上記「1.内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞」及び「2.内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞の製法」で記載した内容がすべて援用される。
【0048】
また、さらには、本発明の細胞を含む、内分泌疾患の治療又は予防薬のスクリーニング用キット、あるいは本発明の細胞を含む、内分泌細胞分化誘導促進薬のスクリーニング用キットも提供される。これらのキットには、ルシフェリン、ATP、マグネシウムイオン、基本培地、培地添加物、培養容器および被験物質のライブラリーのうちの少なくとも1種が含まれていてもよい。上記キットに含まれる、本発明の細胞、基本培地などの各構成物質の定義や具体例等は、上記「1.内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞」及び「2.内分泌ホルモン遺伝子発現検出細胞の製法」で記載した内容がすべて援用される。
【0049】
本明細書において、「内分泌疾患」とは、ホルモン分泌の異常(即ち、ホルモン分泌の過剰又は低下(欠乏を含む、以下同様。))又はホルモンが作用する臓器又は組織の異常に起因して生じる疾患を意味する。ホルモン分泌の過剰に起因する疾患としては、例えば、甲状腺機能亢進症、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、中枢性思春期早発症、先端巨大症、インスリノーマ、プロラクチノーマ、グルカゴノーマ、ソマトスタチノーマ、レニオーマ、原発性アルドステロン症、骨粗鬆症などが挙げられるが、これらに限定されない。ホルモン分泌の低下に起因する疾患としては、例えば、下垂体機能低下症、下垂体性矮小症、カルマン症候群、甲状腺機能低下症、思春期遅発症、成長ホルモン分泌不全性低身長症、中枢性尿崩症、糖尿病などが挙げられるが、これらに限定されない。ホルモンが作用する臓器の異常に起因する疾患としては、例えば、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(腎臓のバソプレッシンに対する感受性の亢進に起因する)、腎性尿崩症(腎臓のバソプレッシンに対する感受性の低下に起因する)、糖尿病(肝臓等のインスリンに対する感受性の低下に起因する)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
上記工程(1)において、本発明の細胞と被験物質との接触は、典型的には、本発明の細胞を含む培地中に被験物質を添加することで行うことができ、また、予め被験物質を添加しておいた培地に、本発明の細胞を播種することにより行うこともできる。細胞と接触させる被験物質の濃度としては、特に限定は無く、通常約0.1μM~約100μMであればよく、好ましくは1μM~50μMであればよい。細胞と被験物質とを接触させる時間は、特に限定されるものでなく適宜設定するものであるが、例えば5分間~30分間程度であり、好ましくは10分間~20分間程度である。被験物質は適宜、水、リン酸バッファーもしくはトリスバッファー等のバッファー、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシドもしくはこれらの混合物などの溶媒に溶解又は懸濁して用いることができる。また、本発明の細胞にホルモンの分泌を誘発する物質を接触させて、レポーター遺伝子の発現量を増加させてもよい。
【0051】
上記工程(1’)における動物への被験物質の投与は、経口的に又は非経口的(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入(例:脳室内投与)、腹腔内投与など)に行うことが可能であるが、非経口的に投与するのが望ましい。被験物質の投与量は、化合物の種類、動物種、体重、投与形態などによって異なり、例えば、0.01~1000 mg/kg/日の範囲から適宜選択することができ、当該量を1日1回ないし数回に分けて投与することができる。投与期間も特に制限されないが、例えば1~14日間連日もしくは2~4日おきに投与することができる。被験物質は、常套手段に従って医薬上許容される担体と混合するなどして、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造してもよい。当該非経口製剤に含まれ得る医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液などが挙げられる。また、本発明の動物にホルモンの分泌を誘発する物質を投与して、レポーター遺伝子の発現量を増加させてもよい。
【0052】
非経口的な投与に好適な製剤としては、水性及び非水性の等張な無菌の注射液剤が挙げられ、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性及び非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分及び医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0053】
上記工程(2)において、「被験物質を接触させていない」には、例えば、被験物質を製剤の形態で接触させる場合には、該被験物質以外は同一成分を含む製剤を接触させること、該被験物質とは異なる、内分泌疾患の治療又は予防効果のないことが既知の物質を含む製剤を接触させること、あるいはこれらの剤のいずれとも接触させないことなどが包含される。また、工程(2)で対照として用いる被験物質を接触させていない細胞としては、同様の方法により作製した別個の細胞を使用してもよいし、被験物質の投与前の同一の細胞を使用してもよい。工程(2’)における、「被験物質を投与していない」についても同様であり、「接触させていない」を「投与していない」に、「細胞」を「動物」に読み替えるものとする。「被験物質の非存在下」についても同様である。
【0054】
上記工程(2)又は(2’)における比較の結果、レポーター遺伝子の発現量が変化した被験物質を、内分泌疾患の治療又は予防薬の候補物質として選別することができる。レポーター遺伝子の発現量の変化は、レポーター遺伝子の発現量の上昇であってもよく、低下であってもよい。レポーター遺伝子の発現量が上昇する場合には、ホルモン分泌の低下に起因する疾患や、ホルモンに対する感受性の低下に起因する疾患の治療又は予防薬の候補物質となる。また、レポーター遺伝子の発現量が低下する場合には、ホルモン分泌の過剰に起因する疾患や、ホルモンに対する感受性の亢進に起因する疾患の治療又は予防薬として用いることができる。
【0055】
レポーター遺伝子の発現量は、レポーター遺伝子の種類に応じた方法で測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子であれば、発光強度をもって測定することができる。レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子であれば、蛍光強度をもって測定することができる。レポーター遺伝子が発色酵素遺伝子であれば、発色強度をもって測定することができる。また、蛍光イメージングシステムや発光イメージングシステムを用いて、レポーター遺伝子の発現を検出又は測定することもできる。
【0056】
本発明において、被験物質としては、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質又は粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、及び天然化合物が例示される。
【0057】
本発明において、被験物質はまた、(1)生物学的ライブラリー、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、及び(4)アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の3つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam(1997)Anticancer Drug Des. 12:145-67)。低分子化合物ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909-13; Erb et al.(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422-6; Zuckermann et al.(1994)J. Med. Chem. 37:2678-85; Cho et al.(1993)Science 261:1303-5; Carell et al.(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059; Carell et al.(1994)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061; Gallop et al.(1994)J. Med. Chem. 37:1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten(1992)Bio/Techniques 13:412-21を参照のこと)又はビーズ(Lam(1991)Nature 354:82-4)、チップ(Fodor(1993)Nature 364:555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、及び同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al.(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith(1990)Science 249:386-90; Devlin(1990)Science 249:404-6; Cwirla et al.(1990)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378-82; Felici(1991)J. Mol. Biol. 222:301-10; 米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例0059】
実施例1:EPO遺伝子発現検出細胞の作製
<iPS細胞のEPO遺伝子座へのレポーター遺伝子のノックイン>
Addgeneより購入したpx459v2.0(#62988, px459v2.0: SpCas9とgRNAの発現ベクター)をBbsIで切断したのちに、EPO遺伝子座を認識するgRNA配列をDNAオリゴで合成したものと結合させることで、EPO遺伝子座を標的とするCRISPR-Cas9システムをコードするベクター(EPO gRNA-px459v2.0)を作製した。具体的な手順は次の通りである。まず、Px459v2.0をBbsIで切断し、gRNA DNAオリゴとライゲーションし、DH5αへトランスフォーメーションした。翌日、コロニーPCRによりinsertが挿入されたクローンを選別し、該クローンを培養し、ミニプレップでプラスミドDNAを抽出した。最後に抽出したプラスミドDNAの配列を確認した。
【0060】
5’armと3’arm配列(ゲノムDNAを鋳型としてPCRで増幅したもの)と、sfGFP-pA配列をLITMUS29ベクターへIn-Fusionによりクローニングすることで、相同組換えのためのドナーベクター(EPO-sfGFP-pA-LITMUS29)を作製した。ドナーベクター及び標的部位の概要図を図1に示す。具体的な手順は次の通りである。まず、5’arm、sfGFP-pA、及び3’armをそれぞれ特異的なプライマーを使ってPCRを行った。次に、In-Fusionを用いて、3つのPCR産物をLITMUS29ベクターへ挿入した。翌日、コロニーPCRによりinsertが挿入されたクローンを選別し、該クローンを培養し、ミニプレップでプラスミドDNAを抽出した。最後に抽出したプラスミドDNAの配列を確認した。
【0061】
EPO gRNA-px459v2.0及びEPO-sfGFP-pA-LITMUS29を、ヒトiPS細胞へNucleofector2/Amaxa (Lonza)を使って遺伝子導入した(program A-013)。具体的な手順は次の通りである。まず、iPS細胞をTrypLEで処理し、細胞懸濁液を調製し、等量のトリパンブルー溶液を混ぜ、細胞数をカウントした(1.6x106/mLに調整した)。次に、Opti-MEM 100 micro-LにEPO gRNA-px459v2.0を2 μg、EPO-sfGFP-pA-LITMUS29を2 μg加え、vortexでよく混合した。iPS細胞を3のDNAを含むopti-mem溶液で懸濁したのちに、キュベットへ移した。Nucleofector 2 (Lonza)のプログラムA-013でelectroporationし、遺伝子導入を行った。遺伝子導入したiPS細胞は、Y27632を含むgrowth medium中で培養した。
【0062】
導入翌日にpuromycin (0.5-2.0 μg/mL)で薬剤選別を行い、翌日または翌々日にiPSC増殖培地へ交換した。薬剤選別終了後は、growth mediumにてiPS細胞を培養した。細胞がコロニーを形成した後、ピペットマンを用いて顕微鏡下で各コロニーを単離した。単離したコロニーが十分な細胞数になった後、細胞の一部からゲノムDNAを抽出し、genotyping PCRを行い、EPO遺伝子座にsfGFP-pAが挿入されたクローンを選別した。sfGFP-pAを持つクローンのEPO遺伝子座のゲノムDNA配列は、サンガーシークエンスにより確認した。また、使用したgRNAのオフターゲット作用を受ける可能性がある遺伝子座10箇所のゲノム配列をサンガーシークエンスにより確認した結果、オフターゲットは検出されなかった(図2)。
【0063】
本実施例で用いたオリゴヌクレオチドまたはプライマーの情報を、表1に示す。表1において、5’末端又は3’末端に存在する下線を引いた配列は、制限酵素の突出末端との結合部位を示し、配列の途中に存在する下線を引いた配列は、クローニングに使用した制限酵素部位を示す。
【0064】
【表1-1】
【0065】
【表1-2】
【0066】
<iPS細胞からEPO産生細胞への分化誘導>
SNL細胞(McMahon,A.P.and Bradley,A.(1990)Cell 62;1073-1085)をフィーダー細胞として用いて、上記で得られたヒトiPS細胞を、6cmディッシュ上で80-90%コンフルエントになるまで培養した。該細胞をCTK溶液の添加により解離させ、フィーダー細胞を除去し、1mLのAccutase(TM)を加えてiPS細胞を単一細胞へ分散させた。次いで、10μM Y-27632、2% B27およびPenicillin/Streptomycinを含有するRPMI培地にiPS細胞を懸濁し、マトリゲルでコートした24ウェルプレートに細胞数250,000/ウェルとなるように播種した。100ng/mL アクチビンAおよび1μM CHIR99021を加えて、培地量が0.5mL/ウェルとなるように調整し、6日間培養した(Stage1)。この時、2日目に、0.5mM NaBを培地中に添加し(培地交換なし)、3日目に、100ng/mL アクチビンA、1μM CHIR99021および0.5mM NaBを含む培地へ交換し、5日目に、100ng/mL アクチビンA、1μM CHIR99021を含む培地へ交換した。6日間の培養後、培地を、1% DMSO、50ng/mL IGF-1、20% KSR、2mM L-glutamine、NEAA(非必須アミノ酸)、100μM 2-ME(2-mercaptoethanol)、50U/mL Penicillinおよび50μg/L Streptomycinを含有するDMEMに培地を置換し、所定の日数iPS細胞を培養した(Stage2)。この間、隔日で培地交換を行った。
【0067】
<レポーター遺伝子の発現確認>
上記の方法で作製したEPO遺伝子発現検出細胞を、EPO産生細胞へ分化誘導した。EPOタンパク質の発現を認めるStage2の14日目で、細胞質でのGFP発現を確認した(図3-1)。また、EPOタンパク質の発現が報告されているStage 2において、5日目からGFPタンパク質の発現を認め、15日目まで増加し、観察を行った60日目まで発現を認めた(図3-2)。EPOタンパク質発現が認められないStage 1では、GFP発現を認めなかった。EPO遺伝子発現検出細胞を、EPO産生細胞へと分化誘導することで、レポーターであるGFPが発現することを確認した。
【0068】
モデル動物であるマウスに、ホルモン産生細胞へ分化誘導したEPO遺伝子発現検出細胞を移植した(図4)。EPO遺伝子発現検出細胞をEPO産生細胞へ分化誘導し、免疫不全マウス(NOD-scidマウス)の腎臓被膜下に移植した。移植後1週間で腎臓を摘出し、切片を作製しHE染色を行ったところ、腎臓被膜直下に移植したEPO遺伝子発現検出細胞を認めた。蛍光染色を行うと、移植部位にGFP(EPO)の発現を認めた。ヒト核とGFPが一致するため、移植した細胞であることが確認された。
【0069】
<EPO産生細胞の評価>
EPO遺伝子発現は、GFP発現量で評価可能である。GFP発現量は、蛍光顕微鏡による観察、western blot法によるGFPタンパク質発現測定で評価する。また、フローサイトメーターで、GFP発現を確認した(図5)。EPO遺伝子発現検出細胞を、EPO産生細胞へ分化誘導し、EPOタンパク質が発現されるStage 2の8日目には二峰性の蛍光強度を認めた。EPO産生細胞に分化誘導することにより、GFPタンパク質発現を定量評価することが可能となった。EPO遺伝子とGFP遺伝子をヘテロで発現する細胞株を用いることにより、EPOとGFPの発現が相関するかを確認することも可能である。さらに、GFPの代わりにルシフェラーゼをインサートした細胞を用いると、移植された動物の体表から、EPO遺伝子発現を評価することができる。
【0070】
<EPO遺伝子発現検出細胞を用いた薬剤スクリーニング>
EPOタンパク質を増加させることが報告されているデスフェロキサミン(DFO)、ジメチルオキサログリシン(DMOG)、ロキサデュスタットを、EPO産生細胞へ分化誘導したEPO遺伝子発現検出細胞に負荷した(図6)。フローサイトメーターを用いて、GFP発現を定量評価した。既に臨床応用されているロキサデュスタットは、有意にGFPタンパク質発現を増加させた。従来用いられているPCRやELLISAに比較して、簡便に定量評価することが可能であった。
【0071】
以上の結果より、今回作製されたEPO遺伝子発現検出細胞を用いることで、簡便にEPO遺伝子発現を測定することが可能となった。さらに、生きた動物体内でのEPO遺伝子発現を、体表から観察することにより、侵襲なくホルモン産生能を評価することができる。
【0072】
実施例2:PTH遺伝子発現検出細胞の作製
<iPS細胞のPTH遺伝子座へのレポーター遺伝子のノックイン>
Addgeneより購入したpx459v2.0(#62988, px459v2.0: SpCas9とgRNAの発現ベクター)をBbsIで切断したのちに、PTH遺伝子座を認識するgRNA配列をDNAオリゴで合成したものと結合させることで、PTH遺伝子座を標的とするCRISPR-Cas9システムをコードするベクター(PTH gRNA-px459v2.0)を作製した。具体的な手順は次の通りである。まず、Px459v2.0をBbsIで切断し、gRNA DNAオリゴとライゲーションし、DH5αへトランスフォーメーションした。翌日、コロニーPCRによりinsertが挿入されたクローンを選別し、該クローンを培養し、ミニプレップでプラスミドDNAを抽出した。最後に抽出したプラスミドDNAの配列を確認した。
【0073】
5’armと3’arm配列(ゲノムDNAを鋳型としてPCRで増幅したもの)と、sfGFP-pA配列をLITMUS29ベクターへIn-Fusionによりクローニングすることで、相同組換えのためのドナーベクター(PTH-sfGFP-pA-LITMUS29)を作製した。ドナーベクター及び標的部位の概要図を図4に示す。具体的な手順は次の通りである。まず、5’arm、sfGFP-pA、及び3’armをそれぞれ特異的なプライマーを使ってPCRを行った。次に、In-Fusionを用いて、3つのPCR産物をLITMUS29ベクターへ挿入した。翌日、コロニーPCRによりinsertが挿入されたクローンを選別し、該クローンを培養し、ミニプレップでプラスミドDNAを抽出した。最後に抽出したプラスミドDNAの配列を確認した。
【0074】
PTH gRNA-px459v2.0及びPTH-sfGFP-pA-LITMUS29を、ヒトiPS細胞へNucleofector2/Amaxa (Lonza)を使って遺伝子導入した(program A-013)。具体的な手順は次の通りである。まず、iPS細胞をTrypLEで処理し、細胞懸濁液を調製し、等量のトリパンブルー溶液を混ぜ、細胞数をカウントした(1.6x106/mLに調整した)。次に、Opti-MEM 100 micro-LにPTH gRNA-px459v2.0を2 μg、PTH-sfGFP-pA-LITMUS29を2 μg加え、vortexでよく混合した。iPS細胞を3のDNAを含むopti-mem溶液で懸濁したのちに、キュベットへ移した。Nucleofector 2 (Lonza)のプログラムA-013でelectroporationし、遺伝子導入を行った。遺伝子導入したiPS細胞は、Y27632を含むgrowth medium中で培養した。
【0075】
導入翌日にpuromycin (0.5-2.0 μg/mL)で薬剤選別を行い、翌日または翌々日にiPSC増殖培地へ交換した。薬剤選別終了後は、growth mediumにてiPS細胞を培養した。細胞がコロニーを形成した後、ピペットマンを用いて顕微鏡下で各コロニーを単離した。単離したコロニーが十分な細胞数になった後、細胞の一部からゲノムDNAを抽出し、genotyping PCRを行い、PTH遺伝子座にsfGFP-pAが挿入されたクローンを選別した。sfGFP-pAを持つクローンのPTH遺伝子座のゲノムDNA配列は、サンガーシークエンスにより確認した。また、使用したgRNAのオフターゲット作用を受ける可能性がある遺伝子座7箇所のゲノム配列をサンガーシークエンスにより確認した結果、オフターゲットは検出されなかった(図5)。
【0076】
本実施例で用いたオリゴヌクレオチドまたはプライマーの情報を、表2示す。表2において、5’末端又は3’末端に存在する下線を引いた配列は、制限酵素の突出末端との結合部位を示し、配列の途中に存在する下線を引いた配列は、クローニングに使用した制限酵素部位を示す。
【0077】
【表2】
【0078】
<iPS細胞からPTH産生細胞への分化誘導及び評価>
単一細胞にしたヒトiPS細胞を、マトリゲルでコートしたプレートに播種した。2% B27およびPenicillin/Streptomycinを含有するRPMI培地に100ng/mL アクチビンAおよび3μM CHIR99021を加えて、1日間培養した。2日目に、100ng/mL アクチビンAを含む培地に交換し、4日間培養した。6日目に、100ng/mL アクチビンAおよび2μM Dorsomorphinを含む培地に交換した。9日目に、1μM レチノイン酸を含む培地に交換し、4日間培養した。13日目に、100ng/mL SHHおよび100nM SAGを加えて10日間培養した。
【0079】
<レポーター遺伝子の発現確認>
上記の方法で作製したPTH遺伝子発現検出細胞を、PTH産生細胞へ分化誘導した。PTHmRNAの発現を認める時期に合わせて、細胞質でのGFP発現を確認した。モデル動物であるマウスに、ホルモン産生細胞へ分化誘導したPTH遺伝子発現検出細胞を移植し、体表から観察する。
【0080】
以上の結果より、今回作製されたPTH遺伝子発現検出細胞を用いることで、簡便にPTH遺伝子発現を測定することが可能となった。さらに、生きた動物体内でのPTH遺伝子発現を、体表から観察することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、ホルモン産生を簡便に評価することが可能となり、内分泌疾患に対するホルモン産生促進薬の開発や薬効評価に非常に有用である。さらに内分泌ホルモン産生機構の動態解明に、本発明を用いることにより、新規治療法開発につながる。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2024045066000001.xml