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特開2024-45077コンデンサの検査方法及びそれに用いる検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045077
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】コンデンサの検査方法及びそれに用いる検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20240326BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20240326BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20240326BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20240326BHJP
【FI】
G01R31/00
G01N29/12
G01N29/46
H01G13/00 361Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023152404
(22)【出願日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2022150772
(32)【優先日】2022-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521468718
【氏名又は名称】YURIホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】松尾 礼治郎
【テーマコード(参考)】
2G036
2G047
5E082
【Fターム(参考)】
2G036AA17
2G036BB02
2G047AA05
2G047AC10
2G047BA04
2G047BC04
2G047BC07
2G047GF07
2G047GG12
2G047GG20
2G047GG32
2G047GG33
5E082AA01
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG26
5E082MM09
5E082MM32
(57)【要約】
【課題】 製造ライン上のコンデンサ、および誘電性を持つ電子部品を、定格(電圧、電流)内で、共通の検査条件のもと非破壊検査し、欠陥を高速に高信頼度で検出することが可能なコンデンサの検査方法及びこれに用いる検査装置を提供すること。
【解決手段】 同じ種類のコンデンサで構成されたコンデンサの一群を検査対象として、検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、コンデンサに対して、周波数が時間的に連続して変化する電気信号を入力し、コンデンサを振動させ、該振動に起因する振動反応電圧と直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程とを有することを特徴とする。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ種類のコンデンサで構成されたコンデンサの一群を検査対象とし、検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、
前記コンデンサに対して、周波数が時間的に連続して変化する電気信号を入力し、前記コンデンサを振動させ、該振動に起因する振動反応電圧と前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程とを有することを特徴とするコンデンサの検査方法。
【請求項2】
前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号を、第1周波数から第2周波数へ連続的に変調させ、その変調の周波数範囲に、1つまたは複数の前記同じ種類のコンデンサからあらかじめ確認されたコンデンサの固有振動モードの周波数の内、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項3】
前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号について、その周波数変調の基準速度を、前記同じ種類のコンデンサの、周波数変調範囲に含まれた固有振動モードの過渡応答の時定数から、あるいは、周波数変調速度を複数回変えて行った測定の結果から求め、周波数変調速度を基準速度に応じて一定に設定し、前記検査対象コンデンサごとに変更しないことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項4】
前記振動反応電圧発生工程における前記振動が、前記電気信号の変調速度に応じて発生する過渡振動を含み、前記振動反応電圧発生工程における前記振動反応電圧が過渡応答波形を含むことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項5】
前記振動反応電圧発生工程において、前記電気信号の周波数変調の時間パラメーターと、測定された振動反応電圧の時間パラメーターを対応させて、周波数特性または共振特性を取得することを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項6】
前記振動反応電圧発生工程において、入力する前記電気信号を連続的に変調させ、測定された振動反応電圧が所定の閾値に達したときに、その時点の瞬間周波数とは異なる周波数に切り替え、振動反応電圧に過渡応答波形を発生させることを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項7】
前記反応電圧から前記振動反応電圧を測定する振動反応電圧測定工程を有し、該振動反応電圧測定工程により測定された振動反応電圧の波形の特徴を、すでに測定された良品コンデンサの振動反応電圧の波形の特徴と比較して、前記コンデンサの良否を判定する良否判定工程を有することを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項8】
前記良否判定工程において、前記振動反応電圧の波形に含まれる前記過渡応答波形の値を二乗して周波数の自己混合を行い、二乗波形の低周波帯スペクトラムに基づいてコンデンサの良否を判定することを特徴とする請求項7に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項9】
前記振動反応電圧測定工程において、フィルタ処理により、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して前記振動反応電圧を表出させることを特徴とする請求項7に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項10】
コンデンサの検査装置であって、
検査対象のコンデンサのホルダー部と、
前記ホルダー部の入力側に接続された、バイアス電源と波形発生器とを含む電力供給装置と、
前記ホルダー部と前記波形発生器との間に、直列に接続された定電流回路と、
前記ホルダー部に対して並列に接続されたフィルタ回路とを備え、
前記電力供給装置のバイアス電源が、前記コンデンサに直流バイアス電圧の印加を行うとともに、
前記波形発生器が、前記コンデンサに対して、入力する電気信号を第1周波数から、該第1周波数とは異なる周波数の第2周波数に連続的に変調するよう制御し、又は、変調中にそのときの瞬間周波数とは異なる周波数に切り替わるよう制御し、前記コンデンサから振動を発生させ、発生させた前記振動に起因する振動反応電圧と、前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力させ、
前記定電流回路が、入力する前記電気信号、および、出力される前記反応電圧を安定させ、
前記フィルタ回路が、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して振動反応電圧を表出させることを特徴とするコンデンサの検査装置。
【請求項11】
前記定電流回路が、抵抗器および/又はインダクタにより構成されていることを特徴とする請求項10に記載のコンデンサの検査装置。
【請求項12】
前記フィルタ回路が、フィルタコンデンサとフィルタ抵抗器から構成されたRCハイパスフィルタ回路であることを特徴とする請求項10に記載のコンデンサの検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンデンサの検査方法及びそれに用いる検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックチップコンデンサは、小型、大容量であり、かつ、信頼性が高いため、今日ではほぼ全ての電子機器、医療機器に搭載されている。一方、生産現場では、コンデンサの高い信頼性を確保するために、外見では判別できない欠陥(電極異常、積層ずれ、ボイド、割れ)などを発見する必要がある。このような外見では判別できない欠陥を発見するために、絶縁抵抗、静電容量、tanδ、パルス耐圧等の数々の電気的特性試験が行われている。
【0003】
しかしながら、上記電気的特性試験においては、電気的な特性としては反応しない欠陥が存在することや、電気的特性試験で相当以上の感度を得ようとすると、コンデンサにかかる電気的な負荷が非常に大きくなることが懸念としてある。そのため、多くの場合、超音波探傷検査が併用される。
【0004】
この超音波探傷検査は、装置構成が簡便である点、不良のシグナルに一定の普遍性があり測定条件をコンデンサごとに調整しなくてよい点など、生産現場に適用するのに優れた特性がある。一方、超音波の反射・拡散性の問題から超音波を伝導する媒体が必要となること、測定感度がコンデンサの大きさに影響されること、測定時間が長いこと、また、コンデンサの縁(端部電極)に当たる部分では面が湾曲しているため、超音波が透過しにくいことなどの問題もあった。
【0005】
このためこれまでに、超音波探傷の代替技術として電気機械結合の原理を利用したインピーダンス測定法等が提案されている(特許文献1~5、非特許文献1)。
【0006】
ところで、セラミックコンデンサのように高い対称性を持つ幾何学的な構造では、固有の機械共振周波数(固有振動数)を複数モード持つことが知られており、逆圧電効果による歪み振動の周波数がこれら構造の固有振動数の近似点に来ると、構造の機械的振動は増幅される。それに伴いコンデンサ内部の歪みも増幅され、圧電効果からコンデンサの電位差が増加する。これが電気機械結合である。
【0007】
特許文献1~4は、コンデンサの共振特性を、電気機械結合により出力される電気的なシグナルとして計測する内部欠陥の検査方法である。このような従来の検査方法では、コンデンサに高バイアス電圧をかけ、段階的に周波数を掃引しながら周波数ごとのコンデンサの電気的反応(リアクタンス、インピーダンス、ESR)を測定する必要があり、1個のコンデンサを検査するのに非常に時間がかかる。
【0008】
また、同様の原理を利用した提案として、コンデンサに一定のバイアス電圧をかけ、そこに外部の応力(超音波等の振動)を与えることで電気機械結合の反応を惹起し、電流値から欠陥の有無を判別する技術がある(例えば特許文献5)。
【0009】
しかしながらこの提案では、DCバイアス電圧をかけながらも外部の振動源を必要とするため、外部の振動源のみで検査が可能な超音波探傷技術に対して優位性を持たない。
【0010】
一方、電気機械結合の原理を利用したその他の探傷法として、アメリカ国立標準技術研究所、NASA、メリーランド大学等の研究者による論文において、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の非線形音響効果についての研究が行われている(非特許文献2~4)。これらの研究では、外部まで割れが顕出したコンデンサの良不良判定を対象とし、トーンバースト信号を用いて電気機械結合によりコンデンサを特定の固有振動モードで振動させ、信号が切れて振幅が減衰するとき、その振動モードの位相(あるいは周波数)の変化から不良品を識別している。
【0011】
具体的には、上記研究におけるコンデンサの測定および判定は以下の手順を踏む。
a)測定するコンデンサを定める。
b)コンデンサにバイアスをかけ、測定信号の周波数を掃引し、コンデンサの固有振動数fαを特定する。
c)同等のバイアス電圧環境下で、トーンバースト信号の信号周波数を、b)で特定された周波数fαに設定しコンデンサに入力する。
d)信号が切れた際、コンデンサの電圧は振動しながら減衰(リングダウン)するが、初期には周波数fαで振動し、振幅が減衰するに従い時間単位周波数(または位相)が変化するとされる。この周波数の変化(または位相の変化)を特定時間枠でとらえ、良品と不良品を判別する。
【0012】
上記研究手法の実用上の問題点として、測定確度が低いことがあげられる。上記研究(非特許文献2~4)で不良判別が行われたのは、製造ラインにおけるスクリーニングへの需要が高い内部欠陥を持つコンデンサではなく、目視や外観検査でも不良判定が可能な、外部に割れが顕出したコンデンサのみであった。また、非特許文献2では、トーンバースト信号の信号周波数を段階的に変化させ、固有振動モードの検出を試みているが(非特許文献2, FIGURE 2)、コンデンサに複数存在する固有振動モードの内(図1(A)参照)、1つしか発見できなかった。上記研究の測定手法は、系統誤差が大きく、コンデンサの反応を測定するのに必要な信号解像度が低いといえる。
【0013】
コンデンサ製造ラインにおいて必要とされる測定・判定の高速性の観点から、上記研究手法を適用する際に、予めターゲットとなるコンデンサの周波数特性を測定し、固有振動数を特定する必要があるのは大きな障害となる。例えば同じ製造ロットのコンデンサであっても、材料、焼成条件などのわずかな差異からコンデンサの固有振動数は異なってくる。そのため、上記研究の手法をコンデンサ群の検査に適用するには、コンデンサごとに測定条件を確定・調整した後に、測定および良・不良の判別を行わなければならず、時間的に大きな足かせとなる。
【0014】
また、一般的に良品コンデンサが持つ機械共振ピークのQ値は高いため、固有振動数近辺では設定周波数のわずかな違いで、コンデンサの反応電圧は大きく異なる。このため、上記研究手法ではコンデンサごとに測定条件がそろわない問題がある。
【0015】
さらに、内部欠陥のあるコンデンサは通常の固有振動モードの他に、図1(B)に示すような副次的な共振モードを持つことがあることが知られている。上記研究の手法は、原理的に測定を特定の固有振動モードに固定するため、これら副次モードを判別することは困難である。
【0016】
加えて、上記研究の手法を適用するには、デュプレクサ、位相敏感検出できる測定器などが必要となり、装置構成が非常に複雑で高価であるという問題もあった。
【0017】
従って、測定の確度、検査速度、検査条件のばらつきおよび装置構成の簡便性の観点から、上記提案はいずれも製造ラインに用いるのには不適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4644259号公報
【特許文献2】特開昭61-108956号公報
【特許文献3】特開平7-174802号公報
【特許文献4】特許第2826422号公報
【特許文献5】特開平11-219871号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】L. Bechou, S. Mejdi, Y. Ousten, and Y. Danto, “Non-destructive detection and localization of defects in multilayer ceramic chip capacitors using electromechanical resonances”, Quality Rel. Eng. Int., vol.12, pp. 43-53, 1996
【非特許文献2】W. L. Johnson, S. A. Kim, T. P. Quinn, and G. S. White, “Nonlinear acoustic effects in multilayer ceramic capacitors”, Review of Progress in Quantitative Nondestructive Evaluation, Vols. 32B (AIP Conference Proceedings, vol. 1511), pp. 1462-1469, 2013
【非特許文献3】W. L. Johnson, S. A. Kim, G. S. White, and J. Herzberger, “Nonlinear acoustic detection of cracks in multilayer ceramic capacitors”, 2014 IEEE Ultrason.Symp. Proceedings (Chicago, Sept. 3-6, 2014), pp. 248-251
【非特許文献4】W. L. Johnson, S. A. Kim, G. S. White, J. Herzberger, K. L. Peterson, and P. R. Heyliger, “Time-domain analysis of resonant acoustic non-linearity arising from cracks in multilayer ceramic capacitors”, Proc. AIP Conf. Proc., vol. 1706, 2016, Art. No. 060005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上述の従来の状況に鑑みてなされたものであり、製造ライン上のコンデンサ、および誘電性を持つ電子部品を、定格(電圧、電流)内で、共通の検査条件のもと非破壊検査し、欠陥を高速に高信頼度で検出することが可能なコンデンサの検査方法及びこれに用いる検査装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
即ち、本発明のコンデンサの検査方法は、以下のことを特徴としている。
第1に、本発明のコンデンサの検査方法は、同じ種類のコンデンサで構成されたコンデンサの一群を検査対象とし、検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、
前記コンデンサに対して、周波数が時間的に連続して変化する電気信号を入力し、前記コンデンサを振動させ、該振動に起因する振動反応電圧と前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程とを有することを特徴とする。
第2に、上記第1の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号を、第1周波数から第2周波数へ連続的に変調させ、その変調の周波数範囲に、1つまたは複数の前記同じ種類のコンデンサからあらかじめ確認されたコンデンサの固有振動モードの周波数の内、少なくとも1つを含むことが好ましい。
第3に、上記第1又は第2の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号について、その周波数変調の基準速度を、前記同じ種類のコンデンサの、周波数変調範囲に含まれた固有振動モードの過渡応答の時定数から、あるいは、周波数変調速度を複数回変えて行った測定の結果から求め、周波数変調速度を基準速度に応じて一定に設定し、前記検査対象コンデンサごとに変更しないことが好ましい。
第4に、上記第1から第3の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程における前記振動が、前記電気信号の変調速度に応じて発生する過渡振動を含み、前記振動反応電圧発生工程における前記振動反応電圧が過渡応答波形を含むことが好ましい。
第5に、上記第1から第4の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程において、前記電気信号の周波数変調の時間パラメーターと、測定された振動反応電圧の時間パラメーターを対応させて、周波数特性または共振特性を取得することが好ましい。
第6に、上記第1から第5の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程において、入力する前記電気信号を連続的に変調させ、測定された振動反応電圧が所定の閾値に達したときに、その時点の瞬間周波数とは異なる周波数に切り替え、振動反応電圧に過渡応答波形を発生させることが好ましい。
第7に、上記第1から第6の発明のコンデンサの検査方法において、前記反応電圧から前記振動反応電圧を測定する振動反応電圧測定工程を有し、該振動反応電圧測定工程により測定された振動反応電圧の波形の特徴を、すでに測定された良品コンデンサの振動反応電圧の波形の特徴と比較して、前記コンデンサの良否を判定する良否判定工程を有することが好ましい。
第8に、上記第7の発明のコンデンサの検査方法の、前記良否判定工程において、前記振動反応電圧の波形に含まれる前記過渡応答波形の値を二乗して周波数の自己混合を行い、二乗波形の低周波帯スペクトラムに基づいてコンデンサの良否を判定することが好ましい。
第9に、上記第7又は第8の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧測定工程において、フィルタ処理により、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して前記振動反応電圧を表出させることが好ましい。
第10に、本発明のコンデンサの検査装置は、検査対象のコンデンサのホルダー部と、
前記ホルダー部の入力側に接続された、バイアス電源と波形発生器とを含む電力供給装置と、
前記ホルダー部と前記波形発生器との間に、直列に接続された定電流回路と、
前記ホルダー部に対して並列に接続されたフィルタ回路とを備え、
前記電力供給装置のバイアス電源が、前記コンデンサに直流バイアス電圧の印加を行うとともに、
前記波形発生器が、前記コンデンサに対して、入力する電気信号を第1周波数から、該第1周波数とは異なる周波数の第2周波数に連続的に変調するよう制御し、又は、変調中にそのときの瞬間周波数とは異なる周波数に切り替わるよう制御し、前記コンデンサから振動を発生させ、発生させた前記振動に起因する振動反応電圧と、前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力させ、
前記定電流回路が、入力する前記電気信号、および、出力される前記反応電圧を安定させ、
前記フィルタ回路が、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して振動反応電圧を表出させることを特徴とする。
第11に、上記第10の発明のコンデンサの検査装置において、前記定電流回路が、抵抗器および/又はインダクタにより構成されていることが好ましい。
第12に、上記第10又は11の発明のコンデンサの検査装置において、前記フィルタ回路が、フィルタコンデンサとフィルタ抵抗器から構成されたRCハイパスフィルタ回路であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のコンデンサの検査方法は、電気機械結合の反応を振動源とし、振動による圧電反応および応力の変化から生じる過渡応答からコンデンサの共振特性の情報を得て欠陥を探知する、外部の振動源が必要でない超音波探傷技術である。電気機械結合から起こる振動を用いるために振動を伝達する媒体を必要とせず、また検査感度がコンデンサの大きさに制限されない。さらに、周波数ごとに繰り返しの測定を行う必要がないため、測定に必要とされる時間が原理的に非常に短く、測定を例えば数ms程度と非常に短時間で行うことが可能である。
【0023】
また、本発明のコンデンサの検査方法は適用の際、固有振動数などコンデンサ個別の情報を必要としない。そのため、検査時にコンデンサの物理特性のばらつきに合わせた測定条件の調整を必要とせず、例えば大量生産ラインの同一ロット品、同一品種などのように一定の群に対し、同一条件による再現性の高い検査が可能である。
【0024】
本発明は高い測定の安定性を有し、幅広い周波数帯に渡り、欠陥の反応も含めたコンデンサの周波数特性、および、構造の健全性の情報を含んだ過渡応答波形を選択的に表出させることが可能で、高精度に不良を判別することができる。さらに、検査手法、装置構成が簡便であるため、検査システム全体を廉価に、かつ省スペースで構成することができる。
以上から、本発明のコンデンサの検査方法および検査装置は、製造ライン上でコンデンサの構造的な欠陥を検査するのに好適な特性を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】良品コンデンサの共振曲線と不良品コンデンサの共振曲線を対比させたものであり、(A)は良品コンデンサの共振曲線と固有振動モードを、(B)は不良品コンデンサの共振曲線と欠陥による副次モードをそれぞれあらわしている。
図2】コンデンサの振動による反応が電気信号の周波数変調速度に追随できない場合を示す概念図である。
図3】コンデンサの振動による反応が電気信号の周波数変調速度に追随する場合を示す概念図である。
図4】周波数が時間変化する信号波形、周波数制御関数、位相関数の例を示す概念図である。
図5】振動出力の共振曲線と固有振動数、半値全幅、半値半幅の関係を示す概念図である。
図6】1200kHz帯にあるコンデンサの固有振動モードを1190kHzの正弦波で振動させ、自由振動に切り替えた際の、過渡応答の減衰をあらわす波形である。
図7】検査手法(1)と検査手法(2)を適用し、線形変調の設定値をf=500kHz、f=2500kHzで固定して、変調時間Tを変化させた際、出力された振動反応電圧から構成された周波数特性である。
図8】検査手法(3)の測定原理を示す概念図であり、振動反応電圧が閾値Vtreshに達した際の、ftreshからfswitchへの周波数の切り替えをあらわしている。
図9】検査手法(3)を用いた測定例で、(A)は比較対象として、切り替えを行わない場合発生する、変調信号に対する振動反応電圧、(B)はVtresh=0.05Vを閾値として、fswitch=1300kHzの正弦波へ切り替えを行った際の振動反応電圧と過渡応答波形、(C)は出力した過渡応答波形の部分拡大図である。
図10】検査手法(1)を適用し、fi=500kHz、ft=2500kHz、T=2msに設定された周波数変調信号から得られた振動反応電圧波形であり、(A)は振動反応電圧を、(B)は振動反応電圧に含まれる過渡応答波形を、(C)は振動反応電圧と周波数制御関数から構成された周波数特性を示している。
図11】検査手法(1)による良品・不良品の判別例であり、(A-1)は良品コンデンサ1の周波数特性、(A-2)は良品コンデンサ1の過渡応答波形、(B-1)は不良品コンデンサ1の周波数特性、(B-2)は不良品コンデンサ1の過渡応答波形、(C-1)は不良品コンデンサ2の周波数特性、(C-2)は不良品コンデンサ2の過渡応答波形を示している。
図12】振動反応電圧を二乗し、周波数混合を行った波形の、低周波帯スペクトラムである。
図13】低周波帯スペクトラムをPCA基底に投影した際の、第三主成分スコアを第二主成分スコアに対しプロットしたものである。
図14】検査手法(2)を適用し、f=500kHz、f=2500kHz、T=16msに設定された周波数変調信号から得られた波形であり、(A)は振動反応電圧の波形を、(B)は振動反応電圧と周波数制御関数から構成された共振曲線を示している。
図15】検査手法(2)により測定された良品・不良品の共振曲線と、従来技術で得られた共振曲線とを比較したものである。
図16】検査手法(3)による良品・不良品の判別例であり、(A-1)は良品コンデンサ1の過渡応答波形、(A-2)は良品コンデンサ1の低周波帯スペクトラム、(B-1)は良品コンデンサ2の過渡応答波形、(B-2)は良品コンデンサ2の低周波帯スペクトラム、(C-1)は不良品コンデンサ1の過渡応答波形、(C-2)は不良品コンデンサ1の低周波帯スペクトラム、(D-1)は不良品コンデンサ2の過渡応答波形、(D-2)は不良品コンデンサ2の低周波帯スペクトラムをそれぞれ示している。
図17】本発明のコンデンサの検査装置の基本的な構成を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のコンデンサの検査方法では、検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、コンデンサに対して、周波数が時間的に連続して変化する電気信号を入力し、コンデンサを振動させ、該振動に起因する振動反応電圧と直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程とを有している。
【0027】
(検査対象コンデンサ)
本発明のコンデンサの検査方法は、同じ、または類似した機械特性を持つコンデンサの一群に適用されるものであり、例えば、同じ種類、または同じ部品番号を持つ、あるいは同じロットで製造されたなどのコンデンサの一群に適用できる。本発明のコンデンサの検査方法で検査可能なコンデンサとしては、誘電性を有するコンデンサであれば特に制限なく検査が可能であり、具体的には、例えば、積層セラミックコンデンサ、円板型セラミックコンデンサ、フィルムコンデンサ、電解コンデンサ等を例示することができる。これらの中でも特に、チタン酸バリウム等の強誘電物質を用いた積層セラミックコンデンサの検査に好適に用いることができる。
【0028】
<直流バイアス電圧印加工程>
本発明のコンデンサの検査方法では、まず、直流バイアス電圧印加工程として、検査対象のコンデンサに直流電圧を印加し、分極させて逆圧電効果を増大させる。通常、例えば積層セラミックコンデンサ(MLCC)には、小型化・大容量化を達成するために誘電物質として強誘電物質が採用されている。このような強誘電体コンデンサは、通常状態においても一定の分極を持つものであるが、通常のAC電界では逆圧電効果(電気歪効果)が顕在化することは少ない。しかし、バイアス電圧を印加することにより分極を促進させ、逆圧電効果を顕著に表出させることができる。
【0029】
なお、直流バイアス電圧は、一つのコンデンサを検査・測定している間、つまりコンデンサを振動させ振動反応電圧を測定する間は十分に一定であることが必要であるが、それ以外の時は一定値である必要はない。例えば、検査時間の2倍以上の周期を持つ矩形波、あるいは検査時間よりも十分長い周期を持つ正弦波なども利用可能である。
【0030】
直流バイアス電圧印加工程におけるバイアス電圧は、コンデンサの定格電圧以下であれば特に制限なく印加できる。
【0031】
バイアス電圧をかけた状態で、コンデンサに電気信号を入力すると、電気信号は逆圧電効果によりコンデンサの振動源(応力)として機能する。電気信号の電界により、コンデンサの電極境界に電界の微分が生じ、これが電気機械結合の応力として働き、コンデンサの構造内に振動として伝搬する。
【0032】
一定周波数の応力に対し、コンデンサは応力による振動エネルギーを熱として発散し、あるいは自身の構造の振動エネルギーとして蓄え、一定時間経過後に、応力の周期性に応じた安定した振動状態に達する。
【0033】
上記の安定した振動状態を定常振動と呼び、応力の周波数、つまり電気信号の周波数と1対1で対応する。
【0034】
コンデンサのような幾何学的に単純な構造では、外部応力に対し複数の固有振動モードを持つため、電気信号により固有振動数(固有振動モードの振動周波数)に整合した周波数の外部応力が加わると、構造はその周波数で大きく振動する。これは、共振曲線においては、局在化した固有振動数でのピークとして観察される。
【0035】
電気信号によりコンデンサに発生した振動は、電気機械結合の圧電効果により電圧に転換される。圧電効果による振動の電圧波形は、振動源となった電気信号の波形に重畳して出力される。本発明では、入力電気信号と、コンデンサの振動から圧電効果により発生する電圧とが、重畳/干渉し出力される電圧波形を、振動反応電圧と呼ぶ。
【0036】
定常状態において、特定周波数の電気信号により生じるコンデンサの振動反応電圧は、その周波数に対するコンデンサの振動のしやすさ、つまりはコンデンサの機械的な共振特性を表現すると考えられる。
【0037】
以下において共振曲線とは、バイアス環境下で正弦波の電気信号が入力された際、定常状態で測定されたコンデンサの振動反応電圧の値を示すものとする。
【0038】
一方、ある周波数(周波数A)の電気信号により一定の応力で振動している状態(周波数Aの定常振動)から別周波数の応力、周波数Bの電気信号に急速に、あるいは瞬間的に切り替えると、コンデンサの振動は一定時間経過後に周波数Bに収束する(周波数Bの定常振動)が、そこに至るまでの過渡状態では、電気信号の応力に起因する振動と、構造の固有モードに由来する過渡振動が組み合わさった混成振動が出現する。
【0039】
過渡振動はコンデンサの構造の固有振動モードの情報、およびそのモードに結合する他の振動モードの情報を含んでいる。
【0040】
定常振動と同様に、コンデンサの過渡振動も電気機械結合の圧電効果により電圧に転換され、振動反応電圧の一部として電気的に出力される。本発明では、過渡応答を含んだ振動反応電圧を過渡応答波形と呼ぶ。
【0041】
<振動反応電圧発生工程>
電気機械結合を利用した既存技術は、入力電気信号の周波数を離散的なステップで切り替え、周波数ごとに定常状態の振幅、つまりは周波数特性を測定し、周波数域に共振曲線を構成する。
【0042】
それに対し、本発明のコンデンサの検査方法では、コンデンサに入力する電気信号の周波数を、周波数制御関数により連続的に変化させ、コンデンサを振動させる。発生した振動は圧電効果により電圧に転換され、入力電気信号と重畳/干渉した電圧波形(振動反応電圧)となって出力される。
【0043】
また、発明のコンデンサの検査方法では、周波数の変化速度を調整する、あるいは周波数の瞬間的な切り替えを行うことにより、コンデンサの振動反応電圧に、周波数特性、構造の固有振動モードの情報を含んだ過渡応答波形、または共振曲線の値を選択的に表出させることができる。
【0044】
(検査手法とその原理)
本発明のコンデンサの検査方法は、入力する電気信号の周波数を所要以上高速に変調させ、短時間でコンデンサの周波数特性を振動反応電圧に写し取り、また、振動反応電圧にコンデンサの固有振動モードに由来する過渡応答波形を発生させる検査手法(1)、電気信号の周波数を所要以上低速に変調させ、振動反応電圧の振幅に共振曲線を写し取る検査手法(2)、変調信号に対するコンデンサの振動反応電圧に閾値を設定し、振幅が閾値に達した際に変調信号の周波数を瞬間的に切り替え、過渡応答波形を出力させる検査手法(3)、の3形態をとることができる。
【0045】
まず、検査手法(1)及び検査手法(2)の検査原理について説明する。手法(1)、および手法(2)では、入力する電気信号を、第1周波数(f)から第2周波数(f)へ連続的に変調させる。また、fからfまでの周波数の変調範囲に、少なくとも一つのコンデンサの固有振動数(固有振動モードの周波数、f)が含まれるように、電気信号を設定する。ただし、周波数の変調範囲は複数の固有振動数を含んでいてもよい。一般性を失わせず、以下の考察では、t=tの時、入力する電気信号の瞬間周波数fがコンデンサの固有振動数の内の一つfと整合していたとする。
【0046】
(検査手法(1):過渡応答波形と周波数特性)
検査手法(1)は、入力する電気信号を、第1周波数fから第2周波数fまで所要以上高速に変調させ、振動反応電圧に過渡応答波形を発生させ、過渡応答波形および振動反応電圧の周波数特性から検査を行う検査手法である。
【0047】
t=tの時、コンデンサには振動エネルギーが蓄積されており、固有振動数f=fの周波数で振動している。時間の経過に伴い、電気信号の周波数は変調し、一定時間後のt=t=t+Δtには瞬間周波数fに達する。外部応力である電気信号の、周波数の変化に対応して、コンデンサの振動反応電圧の波形は、周波数fの際の定常振動の波形、つまり周波数fの時のコンデンサの共振曲線の値に対応した振幅に、減衰しながら追随しようとする。ところが、コンデンサの共振曲線の値は、固有振動数付近ではピークをなぞり、大きく変化する。共振ピークをなぞった、fからfの間の振幅変化率が、コンデンサの振動反応電圧にとって変化可能な減衰率Exp(-Δt/τ)を上回ると、コンデンサの振動反応電圧は周波数fにおいて共振曲線の値まで減衰する時間がなく、電気信号(外部応力)の周波数に追随できなくなる。この際、入力される電気信号とコンデンサの機械的振動の慣性に由来する振動反応との間に干渉が発生し、過渡応答波形が出力される。図2に、電気信号の周波数変調速度が大きく、コンデンサの振動反応が電気信号の周波数変調に追随できない場合を概念図として示す。
【0048】
従って、コンデンサの固有振動の減衰時間τと共振曲線上の固有振動のピークの鋭さを基準とし、電気信号の第1周波数fから第2周波数fの変化速度を所要以上大きく(速く)すれば、コンデンサの振動波形は電気信号の周波数に追随しなくなり、固有振動数付近において入力電気信号とコンデンサの固有モードの振動波形が干渉した過渡応答波形が出力される。
【0049】
また、第1周波数fから第2周波数fまでの周波数制御関数の時間のパラメーターと、測定された振動反応電圧の時間パラメーターを対応させて、振動反応電圧の振幅を周波数の関数として表せば、コンデンサの周波数特性を取得することができる。ここで測定される周波数特性は、定常状態で測定される共振曲線とは値が異なるが、近似した性質を持ち、ピーク値やピーク周波数など、良品、不良品などの判別において有益な特徴を備えている。
【0050】
(検査手法(2):共振曲線の高精度測定)
続いて、入力信号の周波数を低速で変調させ、振動反応電圧の振幅が共振曲線を精度よく写し取る原理について説明する。
【0051】
この検査手法では、入力する電気信号の周波数を、第1周波数fから、該第1周波数とは異なる周波数の第2周波数fまで所要以上低速で変調させ、振動反応電圧を定常状態に収束させる。つまり、入力される電気信号が周波数fから周波数fに変化するとき、fからfの間の共振曲線の値の変化率が、コンデンサの反応電圧の可能な減衰率Exp(-Δt/τ)を下回っていれば、振動反動電圧はfにおいて定常振動の波形に収束する。この時、電気信号と、コンデンサの反応電圧との間に干渉は起こらず、瞬間周波数ごとに振動反応電圧の振幅は、コンデンサの共振曲線をなぞる。図3に、電気信号の周波数変調速度が小さく、コンデンサの振動波形が電気信号の周波数変調に追随する場合を概念図として示す。
【0052】
検査手法(2)においては、振動反応電圧が共振曲線に追随するため、第1周波数fから第2周波数fまでの周波数制御関数の時間のパラメーターと、振動反応電圧の時間パラメーターを対応させて、振動反応電圧の振幅を周波数の関数として表せば、共振曲線を得ることができる。
【0053】
(検査手法(1)及び検査手法(2)を適用するための周波数の変調速度)
振動反応電圧に過渡応答を発生させる(あるいはさせない)ために必要な周波数の変調速度について、より定量的に説明する。
【0054】
(周波数変調信号の波形と周波数制御関数)
まず、一定の周波数範囲において、電気信号の周波数を変調させる周波数制御関数について説明する。周波数が時間変化する波形は、時間変化する位相φ(t)を持つ波形W(t)として以下の式1で表すことができる。
【数1】
波形の参照時刻をt=t、その時点の位相をφと置くと、位相関数は以下の式2で表現できる。
【数2】
そして、t=tの時の波形の瞬間周波数fは、位相関数の時間微分として以下の式3で表される。
【数3】
【0055】
本発明ではh(t)を周波数制御関数と呼ぶ。
参照時刻t=tを変調の開始時刻とし、瞬間周波数をfから変調させていくとすると、以下の式4と定義できる。
【数4】
ここで、g(t)=0とする。fは本発明の電気信号の第1周波数である。また、変調の終了時刻t=tに与えられるf=f+g(t)が、本発明の電気信号の第2周波数である。
特に周波数を線形変調する場合は、以下の式5となる。
【数5】
線形定数αは、時間単位の周波数変化率である。図4に、周波数が時間変化する信号波形、周波数制御関数h(t)、位相関数φ(t)の例を示す。
【0056】
(ピークの鋭さと時定数)
振動系の振動出力(パワー)をあらわした共振曲線上で、固有振動モードのピークの鋭さはQ値で表される。Q値は共振の特性をあらわす指標で、固有振動モードの帯域幅から、以下の式6として定義される。
【数6】
ここで、fはピークの固有振動数であり、Δfは振動出力(パワー)が半分に減衰する周波数帯の幅で、半値全幅と呼ばれる。また、固有振動数fの前後において、ピークの対称性が高い場合、Q値は半値半幅Δf1/2を用いて、以下の式7と表すことができる。
【数7】
ピークの固有振動数fと半値全幅、半値半幅の関係を図5に示す。
また、Q値は振動系を固有振動モードで自由振動させた際の、振動系の保有エネルギーと振動1サイクルごとに失われるエネルギーの比としても定義でき、過渡応答の減衰時定数τと、以下の式8で関連づいている。
【数8】
時定数(つまりはQ値)が高いほど一定時間の減衰率は低くなり、振動反応電圧の減衰に必要な時間が長くなるため、共振曲線への追随性は悪くなる。良品コンデンサのようにQ値の高い系においては、Q=Qと置くことができるため、Q(式7)にQ(式8)を代入して、半値半幅Δf1/2について解くと、以下の式9となる。
【数9】
つまり、振動出力(パワー)がピーク値から半分に減衰するまでの周波数変化は、過渡応答の減衰の時定数τの逆数として表すことができる。
【0057】
(周波数変調の基準速度と検査手法の適用条件)
周波数の変調速度は式4に従い制御され、t=tの時にf=fにある変調信号の周波数がΔf1/2変化するのに必要な時間Δt1/2は、
【数10】
から、以下の式10の解として求められる。
【数11】
尚、Δf1/2は正の値として定義されているため、式10の右辺では絶対値が取られている。式10は、高い周波数から低い周波数へと変調する場合(f=f>f)、及び、低い周波数から高い周波数ヘと変調する場合(f=f<f)の両方に適用可能である。
例えば、低い周波数から高い周波数ヘと変調するとき、式10をΔt1/2について解くと、以下の式11となる。
【数12】
ここでg-1はgの逆関数である。この式11に式9のΔf1/2の値を代入し、周波数変調速度の基準としてもよい。
【0058】
しかし、式11は複雑であり、基準速度としての使い勝手はあまりよくない。また、検査手法(1)、検査手法(2)において、周波数変調速度を急激に変化させる制御を行うことはまれである。そこで、式10をt=tにおいてテイラー展開し、式12の一次近似式をΔt1/2ついて解くと、式13が求まる。
【数13】
【数14】
ここで、g’はgの一次微分関数であり、周波数変調速度をあらわしている。
式13に式9からΔf1/2の値を代入すると、周波数変調速度の指標を、以下の式14の通り、減衰の時定数τの関数として求めることができる。
【数15】
【0059】
一方、周波数の変調が式5にあらわさられる線形変調の場合、式10の解に式9からΔf1/2の値を代入し、周波数変調速度の基準は厳密に、以下の式15と求めることができる。
【数16】
【0060】
式14あるいは式15(または式11)で求められた時間Δt1/2の間に、振動出力(パワー)をあらわした共振曲線上で、変調信号の周波数はΔf1/2変化し、振動出力は半分に減少する。これを振動反応電圧の減衰率に換算すると、振動出力は振幅の2乗に比例するため、振動反応電圧の振幅がピーク値から1/√2となった状態に相当する。
【0061】
時定数τで指数関数的に減衰する振動波形が、そのピーク値から1/√2に減衰するのに必要な時間Δtdecayは、以下の式16と求めることができる。
【数17】
【0062】
コンデンサに周波数変調信号が入力された際、振動反応電圧が変調周波数に追随し、その振幅が共振曲線をなぞるには、周波数変調速度の時間指標Δt1/2が、振動反応電圧の減衰に必要とされる時間Δtdecayよりも大きい必要がある。従って、コンデンサの振動反応電圧の振幅が、共振曲線を精度よく出力する、検査手法(2)に必要な周波数変調の速度範囲は、式14および式16から次の式17で与えられる。
【数18】
【0063】
同様に、周波数変調速度の時間指標t1/2が、振動反応電圧の減衰に必要とされる時間tdecayよりも小さい場合には、振動反応電圧は変調信号の周波数に追随できず、固有振動モードの慣性に起因する過渡応答波形が生じる。従って、過渡応答波形を出力する検査手法(1)に必要な周波数変調の速度範囲は、以下の式18で求められる。
【数19】
式17、および式18の右辺の値が、周波数変調の基準速度である。
【0064】
(周波数の線形変調)
ここで、電気信号の周波数を線形に変調する場合について考える。周波数の線形変調は、周波数制御関数が式5により与えられる変調方式であり、設定が簡便なため、汎用的に用いられる。式15、および式16を用いて線形変調の時の検査手法(1)、検査手法(2)の適用条件について解くと、それぞれ、以下の式19および式20が求められる。
【数20】
【数21】
式19、および式20の右辺の値が、線形変調を行う際の、周波数変調の基準速度である。
【0065】
線形変調は一般に、変調の開始周波数(電気信号の第1周波数)f、変調の終点周波数(電気信号の第2周波数)f、およびfからfまでの変調時間Tで表現される。周波数変調速度αは、以下の式21と与えられる。
【数22】
式21を式19、式20に代入し、変調時間Tについて解くと、以下の式22および式23が求められる。
【数23】
【数24】
【0066】
(検査手法(1)及び検査手法(2)の適用性確認)
式18、式19に示された測定条件を検証するために、変調時間Tが異なる試験信号を入力し、過渡応答波形の発現と、振動反応電圧の共振曲線への追随性を確認する。式19及び式20が表す周波数変調の基準速度は、それぞれ式22及び式23にある、変調時間と対応している。振動反応電圧への過渡応答波形の出現は、検査手法1が適用可能であることを示し、一方、過渡応答波形が出現しない場合は、検査手法2が適用可能なことを示す。
【0067】
(時定数τの値)
図6は、1200kHz帯にあるコンデンサの固有振動モードを、1190kHzの正弦波により定常振動させたのち、自由振動に切り替えたときの減衰波形である。この波形の振幅の減衰エンベロープに、指数関数的な減衰式A*Exp(-t/τm)+Bを当てはめ、τの値を0.03msと割り出した。
【0068】
線形変調の設定値をf=500kHz、f=2500kHzとし、図6で求められた時定数の値τ=0.03msを代入すると、以下の式24が求められる。
【数25】
この値は、線形変調において、検査手法(1)が適用可能な状態から検査手法(2)が適用可能な状態へ、あるいはその逆へ移り変わる変調時間の偏移点Tをあらわしている。
【0069】
図7に線形変調信号の設定値をf=500kHz、f=2500kHzで固定し、変調時間Tを変化させた際の振動反応電圧の測定結果を示す。また参照として、旧来技術で測定された共振曲線も示す。式24の値と整合して、T>4msのときには共振特性が精度よく出力され、また、T≦4msのときには、(コンデンサの周波数特性と共に)固有振動モードに由来する過渡応答波形が出力されていることがわかる。尚、共振曲線の測定は振動反応電圧のピークピーク値で行われたのに対し、検査手法(2)は振動反応電圧の絶対値から構成されたため、互いの値が電圧値の比として2倍異なっている。
【0070】
尚、実際に検査手法を製造ラインに適用する際、τの値は同一ロット、同一品種のように物理特性が等しいコンデンサ群に対して目安となる値が推定できればよく、必ずしも検査対象コンデンサを実測して正確な値を割り出す必要はない。これは、検査手法(1)、検査手法(2)の適用条件が不等式として与えられるためで、周波数の変調速度を、推定されるτに対し、十分に余裕を持った値に設定することも可能である。また、図6の例では、時定数τmの値を、固有振動モードの減衰波形から算出しているが、固有振動モードに近い周波数の正弦波が入力された際の、振幅のランプアップ波形を用いても、同様の結果を得られる。さらに、検査手法(1)、検査手法(2)の適用条件を求めるに際し、固有振動モードの過渡応答から算出するのではなく、周波数の変調速度を変えて行う複数回の測定から割り出すことも可能である。例えば図7の例のように、周波数の変調速度を変えながら、コンデンサの振動反応電圧を測定し、振動反応電圧の波形に過渡応答波形が含まれているか否かを観察することによって、適正な変調速度を決定できる。加えて、電気信号の変調範囲、つまり電気信号を第1周波数から第2周波数へ変調させ、その変調の周波数範囲が試験対象コンデンサの固有振動モードの周波数を少なくとも1つは含む周波数範囲は、試験対象コンデンサと同じ種類のコンデンサの共振特性からあらかじめ求めることができる。例えば一例として、図1に示した電気機械結合の原理を利用し測定する共振曲線を、1つまたは複数の同じ種類のコンデンサから測定し、必要な周波数範囲を割り出すことができる。
【0071】
(検査手法3:一定の振動反応電圧から、電気信号の周波数の瞬間的な切り替え)
検査手法1および検査手法2は、入力する電気信号の周波数を時間軸上で連続的に変化させる検査手法である。一方、検査手法3は、入力する電気信号の周波数を瞬間的(或いは離散的)に切り替え、コンデンサの固有振動数の情報を含む過渡応答波形を励起することができる。
【0072】
コンデンサの固有振動数付近で入力する電気信号の周波数を連続的に変調すると、コンデンサは固有振動モード、およびその振動モードと結合したその他の固有振動モードで振動し、その運動が振動反応電圧となって現れる。この時の振動反応電圧の振幅は、コンデンサの振動エネルギーの指標である。
【0073】
一方、コンデンサに振動エネルギーが蓄積した状態、つまり、周波数変調信号により振動反応電圧の振幅がある程度大きくなった状態の時、変調信号の瞬間周波数を瞬間的に切り替えると、コンデンサの振動は切り替え後の周波数に追随できず、運動の慣性に由来する過渡応答波形が得られる。
【0074】
本発明の測定手法(3)は、固有振動モードのピーク値よりも低い一定電圧の閾値(Vtresh)を振動反応電圧に設定し、第1周波数から電気信号を変調させ、コンデンサに振動エネルギーを蓄積させる。そして、周波数の変調に伴い振動反応電圧が閾値(Vtresh)に達したとき、入力する電気信号の周波数を、その時の変調信号の瞬間周波数とは異なる、別周波数fswitchに瞬間的に切り替える形態の測定手法である。この形態では、切り替えの正の振動反応電圧の振幅は一定(Vtresh)となるため、一定の振動エネルギーのもと過渡応答波形を発生させることができる。
【0075】
尚、コンデンサに振動エネルギーを蓄積させる際の周波数変調速度に特に制限はないが、変調速度が低い方が振幅の時間ごとの変化が少なくなり、閾値(Vtresh)を超える際、コンデンサごとに振動エネルギーがばらつくことを防ぐことができる。
【0076】
また、切り替え後の信号は別の変調信号でもよいが、固定周波数の信号(正弦波)の方が過渡応答波形の分離、解析が簡便である。さらに、切り替え後の信号はDC信号(fswitch=0)であってもよい。
【0077】
図8に周波数検査手法(3)の測定概念を示す。振動反応電圧が共振曲線をなぞるよう電気信号を低速で変調させ、コンデンサから出力される振動反応電圧の値がVtreshを越えるとき、周波数fswitchの正弦波に切り替える例である。
【0078】
図9は、実際に検査手法(3)を用いた測定事例である。周波数変調信号をf=1000kHz、f=1300kHz、T=10msとし、コンデンサを1200kHz帯の固有振動モードで振動させ、Vtreshを0.05V、fswitchを1300kHz、切り替え後の信号を1300kHzの正弦波に設定し測定を行った。(A)は比較対象として、周波数の切り替えを行わなかった場合の振動反応電圧である。振幅が共振曲線に近似した値をなぞっている。(B)は閾値Vtreshを0.05Vに設定したときの振動反応電圧である。振幅が0.05Vに達するまでは振動反応電圧は共振曲線をなぞり、その後、固定周波数1300kHzの振動へ切り替わっているのがわかる。(C)は(B)の波形の、周波数の切り替わり直後を拡大したものである。コンデンサの振動の慣性による過渡応答波形が出力されているのがわかる。
【0079】
(各検査手法の適用条件と特性)
検査手法(1)、検査手法(2)及び検査手法(3)の適用条件と、その特徴を以下にまとめる。
(検査手法(1))
式18または式23を周波数変調速度の指標とし、所要以上の速度で電気信号の周波数を変調させる。コンデンサの固有振動モードの非追随性(慣性)に由来する過渡応答波形と、周波数特性を同時に測定できる検査手法である。
【0080】
(検査手法(2))
式17または式22を周波数変調速度の基準として、所要以下の速度で電気信号の周波数を変調させる。コンデンサの振動波形を電気信号の周波数に追随させることで、振動反応電圧からコンデンサの共振曲線を精度よく測定できる検査手法である。
【0081】
(検査手法(3))
振動反応電圧に対し、一定の閾値を設定し、電気信号の周波数をコンデンサの固有振動数付近で変調させる。振動反応電圧が閾値に達した際に、電気信号を別周波数へ切り替え、過渡応答波形を発生させる。一定の振動反応電圧の値で電気信号の切り替えを行うため、コンデンサが過渡応答に移る際の振動エネルギーが一定し、安定性と再現性の高い検査手法である。
【0082】
(振動反応電圧から周波数特性または共振曲線を抽出する方法)
本発明の検査手法で得られる振動反応電圧V(t)は、電圧対時間の関数であり、時間ごとの瞬間周波数は周波数制御関数h(t)で与えられる。従って、周波数ごとの振動反応電圧は、パラメトリック方程式(h(t),V(t))として求められる。一方、周波数特性は周波数ごとの振動反応電圧の振幅であるが、周波数が連続的に変化しながら振動する波形に対し、周波数に1対1で対応する波形の振幅を求めることは困難である。しかし、一定間隔の時間窓を設定し、t≦t<tj+1で表されるj番目の時間窓Tに対し、例えばfを時間窓Tの中のh(t)の平均値、Vojを時間窓の中のV(t)の最大値とすると、周波数特性/共振特性(f,Voj)を離散的なデータセットとして求めることができる。ただし、時間窓Tにおけるその関数の代表値は、必ずしも平均値または最大値である必要はなく、例えば、二乗平均平方根、関数の二乗の最大値の平方根、最大値と最小値の差の半分なども用いることができる。
【0083】
(周波数範囲を絞った測定)
図7の検査手法の検証例では、コンデンサの複数の固有振動数を包括した、比較的広い範囲で周波数を変調させ、広域の周波数帯で共振特性を測定している。しかし、本発明の検査手法において、(波形発生装置の機能が許す限り)設定できる周波数変調範囲に特に制限はなく、測定対象とする固有振動数の前後に信号変調の周波数帯を絞り、その固有振動モードの反応を時間分解能高く測定することも可能である。
【0084】
(変調方式)
また、図7、および図9の測定例では、低周波から高周波へ線形変調する信号で測定を行っているが、これも特に制限があるわけではなく、例えば高周波から低周波へ変調する信号や、対数関数のように非線形関数で変調した信号も利用可能である。
【0085】
(検査の高速性)
本発明の検査手法はいずれも、測定は単一の電気信号により行われ、周波数を切り替えながら測定を繰り返す必要がないため、旧来技術に比べ非常に高速である。特に、検査手法(1)については、周波数の変調速度を過渡応答の減衰の時定数τを基準として設定するため、数msあるいはそれ以下での測定も可能である。
【0086】
(測定条件の共通化)
本発明の検査手法はいずれも、入力電気信号の振幅、変調範囲、変調速度などのパラメーター設定は検査対象群において一定であり、検査対象ごとに個別の調整を行わない。そのため、製造条件起因する物理特性のわずかなばらつき(例えば、固有振動数のばらつき)により測定条件が左右されることがなく、同一の測定条件のもと再現性の高い検査が可能である。
【0087】
<振動反応電圧測定工程>
(フィルタ処理による振動反応電圧の表出)
本発明の検査方法では、直流バイアス電圧印加工程および振動反応電圧発生工程を経てコンデンサから出力される反応電圧は、振動反応電圧および過渡応答波形に、直流バイアスが重畳したものである。従って、反応電圧をフィルタ回路に透過させるフィルタ処理を行うのが好ましい。フィルタ回路は、検査対象のコンデンサに並列に接続されるハイパスフィルタ機能を持つ回路であり、コンデンサの反応電圧から直流バイアス電圧を分離、除去し、微小な振動反応電圧、および過渡応答波形を表出させることができる。
【0088】
また、フィルタ回路は、電気信号の入力端部と測定系の測定端部を分離する役割も果たす。測定端部はフィルタ内に置かれるため、コンデンサホルダー部の出力端部およびフィルタ要素を介して電気信号の入力端部とは分離される。これにより、電気信号入力時に測定端部に大電流が流れることがなくなり、測定端部の寄生抵抗や配線の寄生インダクタンスなどによるノイズが、測定値へ影響することを抑えることができる。
【0089】
なお、フィルタ処理において、フィルタ回路としてRCハイパスフィルタを用いる場合、時間定数τ=RCと置くと、フィルタのカットオフ周波数1/2πτは測定最低周波数よりも低く設定する必要がある。また、フィルタの入力インピーダンスが測定コンデンサに流れる電流に影響することを防ぐため、フィルタ抵抗はコンデンサのインピーダンスよりも必要十分に高く設定する必要がある。
【0090】
本発明において、測定系は通常フィルタ処理後の電圧を測定するが、フィルタ回路またはフィルタコンデンサに直列に電流計を挿入し、電流を振動反応電圧の測定媒体としてもよい。これは、フィルタの抵抗器にかかる電圧の波形とフィルタ回路に流れる電流の波形が比例関係にあるからであり、電流、電圧のいずれを測定媒体としても、得られる振動反応電圧の情報に差異はない。
【0091】
<良否判定工程>
本発明では、電気信号によりコンデンサに発生した振動反応電圧の波形、および過渡応答波形について、良品と不良品が表す波形の相違に基づいて良否判定を行う。
【0092】
本発明で測定されるコンデンサの周波数特性、あるいは共振曲線は、コンデンサの構造の機械的な振動特性である。従って、良品と不良品のコンデンサでは、ピークの高さ、ピークの鋭さ(Q値)、ピーク周波数などが異なり、また、不良品では内部の欠陥に由来する副次ピークなどが発生する。
【0093】
また、過渡応答の減衰率の時定数τは、式8で表されているように、構造の健全性の指標であるQ値と直接に関係している。つまり、構造が健全で振動により散逸するエネルギーが少ない系ほど時定数は高く、よって機械的な振動が長く続く、また、内部欠陥による副次ピークが固有振動数の近傍に存在する場合、振動エネルギーが副次ピークヘ散逸し、固有振動モードとの干渉が起こる。
【0094】
従って、本発明の検査方法では、測定・抽出された過渡応答波形に含まれる振幅、振動周波数、過渡応答の減衰速度(時定数τ)、波形の干渉などの情報から、不良を判別することができる。
【0095】
(位相差成分の分離)
本発明においては、得られた過渡応答波形を二乗し周波数の自己混合を行うことで、入力する電気信号を基準位相として、固有振動モードの位相と基準位相との差を、低周波帯のスペクトラムにおいて解析することが可能である。
【0096】
検査手法(1)及び検査手法(3)を適用した際に出力される過渡応答波形は、入力する電気信号と同期する振動(定常応答)に由来する波形と、コンデンサの固有振動モードの慣性から発生した電圧(過渡振動)に由来する波形が重畳したものである。コンデンサ内部構造の情報を含んでいるのは過渡振動の成分であって、解析においては過渡応答波形から純粋に過渡振動に由来する成分を分離する必要がある。
【0097】
過渡応答波形W(t)から固有振動モードの情報を取り出すのに、直接フーリエ変換などを行い、周波数スペクトラムを解析することもできる。しかし、入力する電気信号の周波数帯と固有振動モードの周波数fが近い場合には、両者のスペクトラムが重なり合い分離が困難になる。これは、特に検査手法(1)の場合顕著である。(過渡応答波形発生時の瞬間周波数が固有振動モードの周波数fと一致する)。また、検査手法(1)、検査手法(3)共に、良品/不良品の判別は過渡応答のわずかな差異に基づく。従って、過渡応答のスペクトラムを直接取り出そうとすると、過渡応答の振動周波数と同じ帯域の電気信号は解析において大きなノイズとして現れる。
【0098】
ここで、固有振動モードfに由来する過渡応答波形W(t)を、以下の式25としてモデル化する
【数26】
最初の項は入力される電気信号による定常振動に由来する項である。位相関数φ(t)は入力する電気信号の設定パラメター(測定者が任意に設定する関数)であり、既知の関数である。検査手法(1)の場合には式2から、検査手法(3)の周波数切り替えの場合は、φ(t)=2πfswitchtで与えられる。また、δ(t)=φ(t)-2πftは位相関数φ(t)と固有振動モードの位相との差成分で、固有振動モードの位相の基準位相からのずれととらえることができる。A(t)は時間変化する周波数に対するコンデンサのインピーダンスの変化をあらわす。二番目の項は振動の慣性から起こる過渡振動に由来する項である。B(t)は過渡振動の指数関数的な減衰をあらわす。説明を単純化するため、二番目の項の定位相は0としてあるが、一般化も可能である。
【0099】
基準位相φ(t)は既知の関数であることから、固有振動モードの位相との差成分であるδ(t)の情報を得ることができれば、固有振動周波数fの情報を得るのと同義である。
ここで、過渡応答波形Wを二乗した波形を考える。三角関数の積和の公式から、以下の式26を参照して、過渡応答波形Wを二乗した波形は位相和成分と位相差成分に分離され、以下の式27で表される。
【数27】
【数28】
位相和成分は固有振動モードの周波数fの2倍の周波数で振動している。従って、式27の周波数スペクトラムを取ると、δ(t)を含む式27の最初の3項は低周波帯(~0Hz)に、位相和成分は高周波帯(~2f)に、それぞれ分離して現れる。
従って、振動反応電圧を二乗した波形(つまりは自己周波数混合を行った波形)のフーリエ変換を行えば、低周波帯のスペクトラムから差成分δ(t)を解析できる。
【0100】
良品のコンデンサは帯域幅が狭く、固有振動モードを単一周波数で表現する式25によるモデル化が成り立つ。また、良品コンデンサ群において、固有振動数fは一定の範囲に収まるため、基準位相関数からの差成分δ(t)も群においては一定であり、式27の低域周波数スペクトラムも一定形状で分布する。一方、不良品のコンデンサは帯域幅が広く、過渡振動も複数の周波数の重なり合いとして表現されるのが自然である。また、振動周波数も良品の固有振動数fとは異なる。仮に、不良品の固有振動がf、fの2周波数の重なり合いで表現されるとすると、式25に対応して,不良品の過渡応答波形は、以下の式28のようにモデル化される。
【数29】
この波形を二乗すると、位相の差成分は、以下の式29となる。
【数30】
(A、C、Dは時間依存性を持つ関数であるが、表現の簡素化のため明示していない)波形の振動成分がCos(δ(t))のみであった良品モデル(式27)に対し、不良品モデル(式29)には振動成分にf、fが干渉し、低周波帯スペクトラムに直接の変化を与える。
【0101】
以上から、得られた過渡応答波形を二乗し(周波数の自己混合を行い)、低周波領域のスペクトラムを解析する手法は、入力電気信号を基準位相として、固有振動モードとの位相の差が測定対象となるため、入力電気信号と固有振動モードの周波数帯が近い場合でも確度よく良品と不良品の判別ができ、検査手法(1)及び検査手法(3)について有効な解析手法である。
【0102】
尚、式27のA(t)はコンデンサのインピーダンスに依存する項のため、入力する電気信号が高周波、つまり電気信号の周波数fが1/Cよりもはるかに大きい時、その値は抑制される。
【0103】
また、B(t)は過渡振動の指数関数的減衰からくる項であり、フーリエ変換、特にコサイン変換の際には式30に表されるように、0Hzに最大値を持つローレンツ分布として現れる。ここで、Vは固有振動モードのピーク値、τは過渡応答の減衰時定数である。
【数31】
【0104】
このローレンツ分布の最大値は、α=0を代入したときの値であり、以下の式31となる。
【数32】
ローレンツ分布の最大値は、τが大きいほど(つまりQ値が高いほど)高いため、振動モードのQ値が高いほど、スペクトラムの0Hzでの値は高くあらわれる。従って、低周波帯スペクトラムの0Hzの値を、スペクトラムのデータから外挿し算出すれば、あるいは、スペクトラムの最小周波数の値を0Hzの値とみなせば、Q値の指標を得ることができ、良品と不良品の判別に有益である。
【実施例0105】
以下に、検査手法(1)、検査手法(2)及び検査手法(3)を用いてコンデンサの振動反応電圧、周波数特性および過渡応答波形を測定し、良否を判別した実施例を示す。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
(実験サンプル)
形状が長さ3.2mm、高さ1.6mm、幅1.6mm、容量10μF、耐圧35V、温度特性がX5Rの積層セラミックコンデンサ(MLCC)500個を実験サンプルとした。なお、コンデンサは市販のものであり、実験サンプルのコンデンサの品番はすべて同一のものとした。
【0107】
(良品群)
実験サンプルから抜き取った、118個のコンデンサで良品群を構成した。
【0108】
(内部欠陥品)
サンプルサイズ42個ずつで構成した4群のコンデンサに対し、群ごとにそれぞれ異なる応力を加え、コンデンサに欠陥の生成を試みた。加えた応力は以下の通りである。
I群)急熱:室温にあるコンデンサを液体窒素(-196℃)に浸漬し、温度が安定したのちに液体金属(350℃)に浸漬し、熱衝撃を与えた。これを3回繰り返した。
II群)急冷:室温にあるコンデンサを液体金属(350℃)の上に置き加熱、温度が安定したのちに液体窒素に浸漬し、熱衝撃を与えた。これを2回繰り返した。
III群)物理衝撃:コンデンサの電極端部を上下から金属製の治具で固定し、重さ31gの円筒型金具を10cmの高さから自由落下させ、金具の底面を治具に当てた。これを2回繰り返した。
IV群)鉄球による物理衝撃: コンデンサの電極端部を上下から金属製の治具で固定し、重さ28gの鉄球を9cmの高さから治具へ自由落下させた。これを2回繰り返した。
【0109】
応力を加えたのち、従来型技術である波数スイープによりI~IV群のコンデンサの共振曲線を測定し、1190kHz帯ピークのピーク値が0.170V以下のものを欠陥品として識別した。
【0110】
欠陥品に対して検査員による外観検査を行い、欠陥が外部まで顕出しているものを外部欠陥品、外観検査では欠陥の特徴が検出できなかったものを内部欠陥品として分類した。
内部欠陥品に分類された個数は、I群が11個、II群が17個、III群が7個、IV群が10個であった。
【0111】
(機器構成と測定回路の設定)
以下の実施例では、図17に示す構成のコンデンサの検査装置において、負荷処理を行う定電流回路としてブリッジ抵抗を設けるとともに、フィルタ回路としてカットオフ周波数が50kHzのRCハイパスフィルタ回路及び、電圧/電流測定器としてのオシロスコープ(アジレント InfiniiVision DSO-X-3024A)を用い、直流バイアス電圧を12.0Vに設定し、計測を行った。
(検査手法(1)による不良判別実施例)
以下、検査手法(1)を用いた実施例について説明する。
【0112】
(検査手法(1)によって測定された波形の特徴)
図10は、検査手法(1)を適用し、T=2msに設定、入力する電気信号の周波数をf=500kHzからf=2500kHzまで線形変調し測定を行った際の、(A)良品コンデンサの振動反応電圧の波形、(B)発生した過渡応答波形、(C)求められた周波数特性をあらわしている。良品のコンデンサには同様の波形がばらつき少なく出現する。
【0113】
図11は検査手法(1)を適用し、f=500kHz、f=2500kHz、T=2msの線形変調を使用した際の、良品コンデンサと不良品コンデンサの比較事例である。良品コンデンサの共振ピークは、(A-1)にみられるように、鋭く、Q値高く出現する。また、1200kHz帯以外のピークも明瞭に表れる。
【0114】
一方、不良品コンデンサのピークは、(B-1)、(B-2)にみられるように、Q値が低く現れ、特に高周波帯のピークの反応が悪い。
【0115】
また、良品の過渡応答波形は、(A-2)にみられるように、一定周期の明瞭な干渉波形(つまりビート現象)が長時間続く。これは、良品コンデンサの構造の健全性が高く、エネルギーの散逸が少ないためと考えられる。対して、不良品コンデンサでは、(B-2)にみられるように、過渡応答波形が持続せず、干渉波形が短時間で消失する。これは、内部欠陥により、振動エネルギーが散逸するためと考えられる。また、不良品コンデンサの過渡応答波形では、(C-2)にみられるように、干渉波形は一定時間持続するが、干渉波形の減衰率およびビート周波数が一定しないものもある。これは、コンデンサの固有振動数の近傍に副次モードが存在し、その反応が干渉波形に含まれているためと考えられる。
【0116】
(不良判別に用いるデータの測定)
検査手法(1)を適用し、T=1ms、fi=500kHz、ft=2500kHzに設定した線形変調信号を使用し、良品コンデンサおよび内部欠陥コンデンサの振動反応電圧を測定した。
【0117】
(過渡応答波形および位相差成分の分離)
振動反応電圧の波形から、1190kHz帯のピーク位置を振幅の最大値から特定し、ピーク位置から始まる、4096点のデータを過渡応答波形として抽出した。前述の通り、ビート現象に良品、不良品の差異が現れていることから、位相の差成分に良品、不良品の特徴があらわれると考えられる。従って、抽出した過渡応答波形を二乗することで周波数混合をおこない、その後、波形を離散コサイン変換し、スペクトラムの低周波成分の解析を行った。図12に良品と不良品の代表例について、周波数スペクトラムの低周波成分を示す。位相差成分は、良品コンデンサと不良品コンデンサで明瞭にスペクトラムの分布形状が異なっている。また、良品のコンデンサのスペクトラムの0Hz付近の値は、不良品コンデンサのそれよりも明らかに高く、不良品コンデンサのQ値が低いことが示されている。
【0118】
(PCA解析)
良品と不良品の特徴をより定量的に判別するために、低周波帯スペクトラムの、周波数の低い方から85点を特徴点としてPCA解析を行った。まず、測定した良品群から、最初の80個分の周波数スペクトラムを抜き出し、良品の平均値ベクトルと、PCA基底を算出するのに用いた。良品群の残りの38個、および不良品群I、II、III、IVについて、各個の周波数スペクトラムから平均値ベクトルを除算したのちPCA基底に投影し、PCAスコアを得た。
【0119】
図13はそれぞれの群について、第三主成分を第二主成分に対してプロットしたものである。図から、良品群が軸の中央付近にまとまって分布しているのに対し、不良品群は数個の例外を除き、良品群とは離れて分布することがわかる。従って、PCAスコアに合格範囲を設けることで、良品と不良品を判別できる。
【0120】
上記はスペクトラムのPCA解析から不良を判別した事例であるが、ピーク周波数、ピーク値などを解析パラメーターに含めればより精緻な判別が可能となる。また、過渡応答の波形およびスペクトラムからの特徴抽出に、機械学習によるパターン認識、またはAIなどの活用も可能である。
【0121】
(検査手法(2)による不良判別事例)
図14に、検査手法(2)を適用し、T=16msに設定、入力する電気信号の周波数をf=500kHz、f=2500kHzとして線形変調し測定を行った際の、(A)振動反応電圧の波形、および、(B)周波数制御関数と振動反応電圧から求められた共振曲線を示す。
【0122】
図15は、検査手法(2)を適用し、f=500kHz、f=2500kHz、T=16msの線形変調を使用した際の、不良品コンデンサの判別事例である。良品コンデンサ1、不良品コンデンサ3、不良品コンデンサ4を測定し、構成された共振曲線をそれぞれ(A-2)、(B-2)、(C-2)に示す。
【0123】
また、比較参照として、それぞれのコンデンサを旧来技術で測定した場合の共振曲線を(A-1)、(B-1)、(C-1)に示す。検査手法(2)で測定された共振曲線は、旧来手法で測定された共振曲線と整合する。旧来技術は振動反応電圧のピーク値で共振曲線の測定を行ったのに対し、検査手法(2)は共振曲線を振動反応電圧の絶対値から構成したため、互いの値が電圧値の比として2倍異なっている。また、(A-2)にみられるように、良品のコンデンサの共振ピークは鋭く、Q値が高く出現するが、(B-2)、(B-3)にみられるように、不良品の共振ピークはピーク周波数帯が広く、Q値も低い。さらに、(B-2)、(C-2)からは、不良コンデンサの特徴の一つである副次ピークの出現が確認できる。
【0124】
(検査手法(3)による不良判別実施例)
検査手法(3)を適用し、切り替え前の変調信号のパラメーターをf=1000kHz、f=1300kHz、T=10msと設定し、Vtresh=0.035Vを閾値として、振動反応電圧がVtreshを越えた時点で、fswitch=1300kHzの正弦波に切り替え、良品コンデンサと不良品コンデンサを測定した。得られた過渡応答波形を二乗した後、離散コサイン変換を施し、低周波帯のスペクトラムを解析した。
【0125】
良品と不良品の代表例について、測定と解析の結果を図16に示す。図16から、良品の過渡応答波形は一定周期の明瞭なビート現象が長く続く(A-1、B-1)ことがわかる。一方、不良品の過渡応答波形は、ビート現象が短時間で消失する(C-1)、あるいは、ビート現象の周期が乱れ安定しない(D-1)ことが示されている。低周波帯のスペクトラムは、良品においてはスペクトラム下限(~0kHz)の周波数重みが大きく、また、120kHz付近に明瞭なピークが存在する(A-2、B―2)。一方、不良品の低周波域スペクトラムにおいては、スペクトラム下限の周波数重みが小さく、またピークが低背化する(C-2)、あるいはピークが分割する( D-2)などの特徴がみられる。従って、良品と不良品は低周波帯のスペクトラムから明確に区別することができる。
【0126】
以上の結果から、本発明の検査手法を適用することにより、コンデンサの内部欠陥を高確度に探知できることがわかる。
【0127】
<装置構成>
以下に、上記本発明のコンデンサの検査方法を実現するための検査装置について詳述する。本発明のコンデンサの検査装置は、基本的な構成として、検査対象のコンデンサのホルダー部と、ホルダー部の入力側に接続された、バイアス電源と波形発生器とを含む電力供給装置と、ホルダー部と前記電力供給装置との間に、直列に接続された定電流回路と、ホルダー部に対して並列に接続されたフィルタ回路とを備えている。図17に、本発明のコンデンサの検査装置の一実施形態の概略構成図を示す。
【0128】
本実施形態の検査装置は、検査対象のコンデンサ1のホルダー部2と、バイアス電源3と、波形発生器4と、定電流回路5と、フィルタ回路6及び電圧/電流測定器7を備えている。
【0129】
(ホルダー部)
ホルダー部2は、検査対象のコンデンサ1を載置して、コンデンサ1のプラス極及びマイナス極を外部装置及び外部回路と接続可能とする部材であり、形状等は、検査対象のコンデンサ1の形状、大きさ等に応じて適宜設定することができる。
【0130】
(バイアス電源)
バイアス電源3は、コンデンサ1に直流バイアス電圧を印加するために設けられる装置であり、コンデンサ1に定格電圧以下の所定の電圧を供給できるものであれば特に制限はなく、具体的には、例えば、蓄電池や安定化電源、所定の電圧の比較的長いスパンの矩形波が発生可能な装置、また、測定時間内での所定電圧からの変化が十分小さい電圧波形を生成するファンクションジェネレータ等を用いることができる。
【0131】
(波形発生器)
波形発生器4は、検査対象のコンデンサ1に第1電気信号及び第2電気信号を入力するための装置であり、所定の範囲及び速度で信号周波数の変調が行える、あるいは、周波数変調信号から別信号への切り替えができる装置であれば特に制限はなく、具体的にはファンクションジェネレータを好適に用いることができる。
【0132】
(定電流回路)
定電流回路5は、ホルダー部2に直列に接続されて設けられる回路であり、測定回路への供給電流を一定とし、安定した反応電圧を出力させるために設けられるものである。定電流回路は、入力電圧に比例した電流を出力する。
【0133】
コンデンサに波形発生器を直接接続した場合、コンデンサのインピーダンスは周波数に反比例することから、高周波帯ではコンデンサへの入力電圧が微小な寄生抵抗や寄生インダクタンス、さらには波形発生器の出力インピーダンスなどに影響されやすくなり、一定電圧でコンデンサをドライブすることが困難となる。また、コンデンサでは電流の位相が電圧から90°進むことから、波形発生器の発振特性により高周波帯での出力が不安定となることがある。
【0134】
そのため、本発明では、定電流回路5を測定対象のコンデンサ1に対して直列に接続する。ここで、定電流回路5の入力インピーダンス|Zin|は、測定対象のコンデンサ1のインピーダンス|Zc|よりも十分大きいことが要求される。これにより波形発生器から見た測定回路の入力インピーダンスはZin+Zcとなり、波形発生器4が出力する信号周波数に関わらず一定以上となるため、波形発生器 4の出力インピーダンスによる出力電圧の低下が起こらず、また、および波形発生器4が出力する電流と電圧の位相ずれが低減されるため、波形発生器4の出力電圧が安定する。
【0135】
定電流回路5は、コンデンサ1に入力する信号の周波数が変化した際も、コンデンサ1のインピーダンスの変化、寄生抵抗に左右されず、コンデンサ1に対し一定電流を供給する。ここで、定電流回路5の出力インピーダンス|Zout|は、測定対象のコンデンサ1のインピーダンス|Zc|よりも十分大きいことが要求される。定電流回路5によりコンデンサを定電流でドライブすることにより、振動反応電圧および反応電圧を安定して出力することができる。尚、定電流回路のもっとも簡便な形は、周波数の測定範囲におけるコンデンサ1のインピーダンス|Zc|よりも十分大きな値の固定抵抗器である。また、固定抵抗器に対し、インダクタを並列に接続し、高周波のノイズ対策および波形発生器4の発振対策としてもよい。
【0136】
(フィルタ回路)
フィルタ回路6は、ホルダー部2に並列に接続され、コンデンサの反応電圧から直流バイアス電圧等の直流成分を分離、除去し、振動反応電圧を表出させるハイパスフィルタ機能を持つ回路であり、通常、フィルタコンデンサ61とフィルタ抵抗器62から構成されたRCハイパスフィルタ回路が用いられる。ただし、測定の周波数範囲の帯域幅を備えた、バンドパスフィルタであってもよい。電圧/電流測定器7で電圧を測定する場合、フィルタ抵抗器62の一端はグラウンドに接地される。
【0137】
(電圧/電流測定器)
電圧/電流測定器7は振動反応電圧および過渡応答波形を測定する装置である。周波数制御関数または波形の切り替わりに同期した信号に対し測定トリガーをかけることができる装置であれば特に制限はない。例えば、一般的なオシロスコープを用いることができる。また、電圧/電流測定器7として、スペクトラムアナライザあるいはシグナルアナライザを用い、周波数成分分布に変換された振動反応電圧を出力することも可能である。
【0138】
上記実施形態の検査装置によれば、検査対象のコンデンサ1、コンデンサ1を載置するホルダー部2、直流バイアス電圧を印加するためのバイアス電源3と電気信号を発生させる波形発生器4から構成される入力系、また、入力系への供給電力を一定に保つための定電流回路5、検査対象のコンデンサ1に並列に接続されたフィルタ回路6、該フィルタ回路6を介してコンデンサ1の反応を測定する電圧/電流測定器7で構成できるため、装置構成が簡便であり、検査システム全体を廉価かつ省スペースで構成することができる。
【0139】
以上、本発明のコンデンサの検査方法及び検査装置を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0140】
例えば、上記実施形態においては、検査対象の電子部品をコンデンサとして説明したが、原理的には電極を持ち、誘電体を構成要素とする、フェライト、積層電池等の他の電子部品の検査にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0141】
1 コンデンサ
2 ホルダー部
3 バイアス電源
4 波形発生器
5 定電流回路
6 フィルタ回路
61 フィルタコンデンサ
62 フィルタ抵抗器
7 電圧/電流測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2024-02-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ種類のコンデンサで構成されたコンデンサの一群を検査対象とし、検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、
前記検査対象のコンデンサに対して、周波数が時間的に連続して変化する電気信号を入力し、前記検査対象のコンデンサを振動させ、該振動に起因する振動反応電圧と前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程とを有することを特徴とするコンデンサの検査方法。
【請求項2】
前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号を、第1周波数から第2周波数へ連続的に変調させ、その変調の周波数範囲に、1つまたは複数の前記同じ種類のコンデンサからあらかじめ確認されたコンデンサの固有振動モードの周波数の内、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項3】
前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号について、周波数変調の基準速度を、その周波数が変調の周波数範囲に含まれる前記同じ種類のコンデンサの固有振動モードの、過渡振動反応の時定数から、あるいは、前記同じ種類のコンデンサに対し、周波数変調速度を複数回変えて行った振動反応電圧の測定の結果から求め、前記電気信号の周波数変調速度を基準速度に応じて共通の値または共通の関数に設定し、前記検査対象コンデンサごとに変更しないことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項4】
前記振動反応電圧発生工程における前記振動が、前記電気信号の変調速度に応じて発生する過渡振動を含み、前記振動反応電圧発生工程における前記振動反応電圧が過渡応答波形を含むことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項5】
前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号の周波数変調の時間パラメーターと、測定された振動反応電圧の時間パラメーターを対応させて、周波数特性または共振曲線を取得することを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項6】
前記振動反応電圧発生工程において、入力する前記電気信号を連続的に変調させ、測定された振動反応電圧が所定の閾値に達したときに、その時点の瞬間周波数とは異なる周波数に切り替え、振動反応電圧に過渡応答波形を発生させることを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項7】
前記反応電圧から前記振動反応電圧を測定する振動反応電圧測定工程を有し、該振動反応電圧測定工程により測定された振動反応電圧の特徴を、すでに測定された良品コンデンサの振動反応電圧特徴と比較して、前記検査対象のコンデンサの良否を判定する良否判定工程を有することを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項8】
前記良否判定工程において、前記振動反応電圧含まれる前記過渡応答波形の値を二乗して周波数の自己混合を行い、二乗波形の低周波帯スペクトラムに基づいてコンデンサの良否を判定することを特徴とする請求項7に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項9】
前記振動反応電圧測定工程において、フィルタ処理により、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して前記振動反応電圧を表出させることを特徴とする請求項7に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項10】
コンデンサの検査装置であって、
検査対象のコンデンサのホルダー部と、
前記ホルダー部の入力側に接続された、バイアス電源と波形発生器とを含む電力供給装置と、
前記ホルダー部と前記波形発生器との間に、直列に接続された定電流回路と、
前記ホルダー部に対して並列に接続されたフィルタ回路とを備え、
前記電力供給装置のバイアス電源が、前記検査対象のコンデンサに直流バイアス電圧の印加を行うとともに、
前記波形発生器が、前記検査対象のコンデンサに対して、入力する電気信号を第1周波数から、該第1周波数から周波数の第2周波数に連続的に変調するよう制御し、又は、第1周波数から変調中にそのときの瞬間周波数とは異なる周波数に切り替わるよう制御し、前記検査対象のコンデンサから振動を発生させ、発生させた前記振動に起因する振動反応電圧と、前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力させ、
前記定電流回路が、入力する前記電気信号、および、出力される前記反応電圧を安定させ、
前記フィルタ回路が、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して振動反応電圧を表出させることを特徴とするコンデンサの検査装置。
【請求項11】
前記定電流回路が、抵抗器および/又はインダクタにより構成されていることを特徴とする請求項10に記載のコンデンサの検査装置。
【請求項12】
前記フィルタ回路が、フィルタコンデンサとフィルタ抵抗器から構成されたRCハイパスフィルタ回路であることを特徴とする請求項10に記載のコンデンサの検査装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンデンサの検査方法及びそれに用いる検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックチップコンデンサは、小型、大容量であり、かつ、信頼性が高いため、今日ではほぼ全ての電子機器、医療機器に搭載されている。一方、生産現場では、コンデンサの高い信頼性を確保するために、外見では判別できない欠陥(電極異常、積層ずれ、ボイド、割れ)などを発見する必要がある。このような外見では判別できない欠陥を発見するために、絶縁抵抗、静電容量、tanδ、パルス耐圧等の数々の電気的特性試験が行われている。
【0003】
しかしながら、上記電気的特性試験においては、電気的な特性としては反応しない欠陥が存在することや、電気的特性試験で相当以上の感度を得ようとすると、コンデンサにかかる電気的な負荷が非常に大きくなることが懸念としてある。そのため、多くの場合、超音波探傷検査が併用される。
【0004】
この超音波探傷検査は、装置構成が簡便である点、不良のシグナルに一定の普遍性があり測定条件をコンデンサごとに調整しなくてよい点など、生産現場に適用するのに優れた特性がある。一方、超音波の反射・拡散性の問題から超音波を伝導する媒体が必要となること、測定感度がコンデンサの大きさに影響されること、測定時間が長いこと、また、コンデンサの縁(端部電極)に当たる部分では面が湾曲しているため、超音波が透過しにくいことなどの問題もあった。
【0005】
このためこれまでに、超音波探傷の代替技術として電気機械結合の原理を利用したインピーダンス測定法等が提案されている(特許文献1~5、非特許文献1)。
【0006】
コンデンサのように高い対称性を持つ幾何学的な構造では、固有の機械共振周波数(固有振動数)を複数モード持つことが知られており、逆圧電効果による歪み振動の周波数がこれら構造の固有振動モードの周波数の近似点に来ると、構造の機械的振動は増幅される。それに伴いコンデンサ内部の歪みも増幅され、圧電効果からコンデンサの電位差が増加する。これが電気機械結合である。
【0007】
特許文献1~4は、コンデンサの共振特性を、電気機械結合により出力される電気的なシグナルとして計測する内部欠陥の検査方法である。このような従来の検査方法では、コンデンサに高バイアス電圧をかけ、段階的に周波数を掃引しながら周波数ごとのコンデンサの電気的反応(リアクタンス、インピーダンス、ESR)を測定する必要があり、1個のコンデンサを検査するのに非常に時間がかかる。
【0008】
また、同様の原理を利用した提案として、コンデンサに一定のバイアス電圧をかけ、そこに外部の応力(超音波等の振動)を与えることで電気機械結合の反応を惹起し、電流値から欠陥の有無を判別する技術がある(例えば特許文献5)。
【0009】
しかしながらこの提案では、DCバイアス電圧をかけながらも外部の振動源を必要とするため、外部の振動源のみで検査が可能な超音波探傷技術に対して優位性を持たない。
【0010】
一方、電気機械結合の原理を利用したその他の探傷法として、アメリカ国立標準技術研究所、NASA、メリーランド大学等の研究者による論文において、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の非線形音響効果についての研究が行われている(非特許文献2~4)。これらの研究では、外部まで割れが顕出したコンデンサの良不良判定を対象とし、トーンバースト信号を用いて電気機械結合によりコンデンサを特定の固有振動モードで振動させ、信号が切れて振幅が減衰するとき、その振動モードの位相(あるいは周波数)の変化から不良品を識別している。
【0011】
具体的には、上記研究におけるコンデンサの測定および判定は以下の手順を踏む。
a)測定するコンデンサを定める。
b)コンデンサにバイアスをかけ、測定信号の周波数を掃引し、コンデンサの固有振動モードの周波数f 0 を特定する。
c)同等のバイアス電圧環境下で、トーンバースト信号の信号周波数を、b)で特定された周波数 0 に設定しコンデンサに入力する。
d)信号が切れた際、コンデンサの電圧は振動しながら減衰(リングダウン)するが、初期には周波数 0 で振動し、振幅が減衰するに従い時間単位周波数(または位相)が変化するとされる。この周波数の変化(または位相の変化)を特定時間枠でとらえ、良品と不良品を判別する。
【0012】
上記研究手法の実用上の問題点として、測定確度が低いことがあげられる。上記研究(非特許文献2~4)で不良判別が行われたのは、製造ラインにおけるスクリーニングへの需要が高い内部欠陥を持つコンデンサではなく、目視や外観検査でも不良判定が可能な、外部に割れが顕出したコンデンサのみであった。また、非特許文献2では、トーンバースト信号の信号周波数を段階的に変化させ、固有振動モードの検出を試みているが(非特許文献2, FIGURE 2)、コンデンサに複数存在する固有振動モードの内(図1(A)参照)、1つしか発見できなかった。上記研究の測定手法は、系統誤差が大きく、コンデンサの反応を測定するのに必要な信号解像度が低いといえる。
【0013】
製造ラインにおいて必要とされる測定・判定の高速性の観点から、上記研究手法を適用する際に、予め検査対象となるコンデンサの周波数特性を測定し、固有振動モードの周波数を特定する必要があるのは大きな障害となる。例えば同じ製造ロットのコンデンサであっても、材料、焼成条件などのわずかな差異からコンデンサの固有振動モードの周波数は異なってくる。そのため、上記研究の手法をコンデンサ群の検査に適用するには、コンデンサごとに測定条件を確定・調整した後に、測定および良・不良の判別を行わなければならず、時間的に大きな足かせとなる。
【0014】
また、一般的に良品コンデンサが持つ機械共振ピークのQ値は高いため、固有振動モードの周波数近辺では設定周波数のわずかな違いで、コンデンサの反応電圧は大きく異なる。このため、上記研究手法ではコンデンサごとに測定条件がそろわない問題がある。
【0015】
さらに、内部欠陥のあるコンデンサは通常の固有振動モードの他に、図1(B)に示すような副次的な共振モードを持つことがあることが知られている。上記研究の手法は、原理的に測定を特定の固有振動モードに固定するため、これら副次モードを判別することは困難である。
【0016】
加えて、上記研究の手法を適用するには、デュプレクサ、位相敏感検出できる測定器などが必要となり、装置構成が非常に複雑で高価であるという問題もあった。
【0017】
従って、測定の確度、検査速度、検査条件のばらつきおよび装置構成の簡便性の観点から、上記提案はいずれも製造ラインに用いるのには不適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4644259号公報
【特許文献2】特開昭61-108956号公報
【特許文献3】特開平7-174802号公報
【特許文献4】特許第2826422号公報
【特許文献5】特開平11-219871号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】L. Bechou, S. Mejdi, Y. Ousten, and Y. Danto, "Non-destructive detection and localization of defects in multilayer ceramic chip capacitors using electromechanical resonances", Quality Rel. Eng. Int., vol.12, pp. 43-53, 1996
【非特許文献2】W. L. Johnson, S. A. Kim, T. P. Quinn, and G. S. White, "Nonlinear acoustic effects in multilayer ceramic capacitors", Review of Progress in Quantitative Nondestructive Evaluation, Vols. 32B (AIP Conference Proceedings, vol. 1511), pp. 1462-1469, 2013
【非特許文献3】W. L. Johnson, S. A. Kim, G. S. White, and J. Herzberger, "Nonlinear acoustic detection of cracks in multilayer ceramic capacitors", 2014 IEEE Ultrason.Symp. Proceedings (Chicago, Sept. 3-6, 2014), pp. 248-251
【非特許文献4】W. L. Johnson, S. A. Kim, G. S. White, J. Herzberger, K. L. Peterson, and P. R. Heyliger, "Time-domain analysis of resonant acoustic non-linearity arising from cracks in multilayer ceramic capacitors", Proc. AIP Conf. Proc., vol. 1706, 2016, Art. No. 060005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上述の従来の状況に鑑みてなされたものであり、製造ライン上のコンデンサ、および誘電性を持つ電子部品を、定格(電圧、電流)内で、共通の検査条件のもと非破壊検査し、欠陥を高速に高信頼度で検出することが可能なコンデンサの検査方法及びこれに用いる検査装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
即ち、本発明のコンデンサの検査方法は、以下のことを特徴としている。
第1に、本発明のコンデンサの検査方法は、同じ種類のコンデンサで構成されたコンデンサの一群を検査対象とし、検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、
前記検査対象のコンデンサに対して、周波数が時間的に連続して変化する電気信号を入力し、前記検査対象のコンデンサを振動させ、該振動に起因する振動反応電圧と前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程とを有することを特徴とする。
第2に、上記第1の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号を、第1周波数から第2周波数へ連続的に変調させ、その変調の周波数範囲に、1つまたは複数の前記同じ種類のコンデンサからあらかじめ確認されたコンデンサの固有振動モードの周波数の内、少なくとも1つを含むことが好ましい。
第3に、上記第1又は第2の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号について、周波数変調の基準速度を、その周波数が変調の周波数範囲に含まれる前記同じ種類のコンデンサの固有振動モードの、過渡振動反応の時定数から、あるいは、前記同じ種類のコンデンサに対し、周波数変調速度を複数回変えて行った振動反応電圧の測定の結果から求め、前記電気信号の周波数変調速度を基準速度に応じて共通の値または共通の関数に設定し、前記検査対象コンデンサごとに変更しないことが好ましい。
第4に、上記第1から第3の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程における前記振動が、前記電気信号の変調速度に応じて発生する過渡振動を含み、前記振動反応電圧発生工程における前記振動反応電圧が過渡応答波形を含むことが好ましい。
第5に、上記第1から第4の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号の周波数変調の時間パラメーターと、測定された振動反応電圧の時間パラメーターを対応させて、周波数特性または共振曲線を取得することが好ましい。
第6に、上記第1から第5の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧発生工程において、入力する前記電気信号を連続的に変調させ、測定された振動反応電圧が所定の閾値に達したときに、その時点の瞬間周波数とは異なる周波数に切り替え、振動反応電圧に過渡応答波形を発生させることが好ましい。
第7に、上記第1から第6の発明のコンデンサの検査方法において、前記反応電圧から前記振動反応電圧を測定する振動反応電圧測定工程を有し、該振動反応電圧測定工程により測定された振動反応電圧特徴を、すでに測定された良品コンデンサの振動反応電圧特徴と比較して、前記検査対象のコンデンサの良否を判定する良否判定工程を有することが好ましい。
第8に、上記第7の発明のコンデンサの検査方法の、前記良否判定工程において、前記振動反応電圧含まれる前記過渡応答波形の値を二乗して周波数の自己混合を行い、二乗波形の低周波帯スペクトラムに基づいてコンデンサの良否を判定することが好ましい。
第9に、上記第7又は第8の発明のコンデンサの検査方法の、前記振動反応電圧測定工程において、フィルタ処理により、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して前記振動反応電圧を表出させることが好ましい。
第10に、本発明のコンデンサの検査装置は、検査対象のコンデンサのホルダー部と、
前記ホルダー部の入力側に接続された、バイアス電源と波形発生器とを含む電力供給装置と、
前記ホルダー部と前記波形発生器との間に、直列に接続された定電流回路と、
前記ホルダー部に対して並列に接続されたフィルタ回路とを備え、
前記電力供給装置のバイアス電源が、前記検査対象のコンデンサに直流バイアス電圧の印加を行うとともに、
前記波形発生器が、前記検査対象のコンデンサに対して、入力する電気信号を第1周波数から第2周波数に連続的に変調するよう制御し、又は、第1周波数から変調中にそのときの瞬間周波数とは異なる周波数に切り替わるよう制御し、前記検査対象のコンデンサから振動を発生させ、発生させた前記振動に起因する振動反応電圧と、前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力させ、
前記定電流回路が、入力する前記電気信号、および、出力される前記反応電圧を安定させ、
前記フィルタ回路が、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して振動反応電圧を表出させることを特徴とする。
第11に、上記第10の発明のコンデンサの検査装置において、前記定電流回路が、抵抗器および/又はインダクタにより構成されていることが好ましい。
第12に、上記第10又は11の発明のコンデンサの検査装置において、前記フィルタ回路が、フィルタコンデンサとフィルタ抵抗器から構成されたRCハイパスフィルタ回路であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のコンデンサの検査方法は、電気機械結合の反応を振動源とし、振動による圧電反応および応力の変化から生じる過渡応答からコンデンサの共振特性の情報を得て欠陥を探知する、外部の振動源が必要でない超音波探傷技術である。電気機械結合から起こる振動を用いるために振動を伝達する媒体を必要とせず、また検査感度がコンデンサの大きさに制限されない。さらに、本発明のコンデンサの検査方法では周波数ごとに繰り返しの測定を行う必要がないため、測定に必要とされる時間が原理的に非常に短く、測定を例えば数ms程度と非常に短時間で行うことが可能である。
【0023】
また、本発明のコンデンサの検査方法は適用の際、固有振動モードの周波数などコンデンサ個別の情報を必要としない。そのため、検査時にコンデンサの物理特性のばらつきに合わせた測定条件の調整を必要とせず、例えば大量生産ラインの同一ロット品、同一品種などのように一定の群に対し、同一条件による再現性の高い検査が可能である。
【0024】
本発明は高い測定の安定性を有し、幅広い周波数帯に渡り、欠陥の反応も含めたコンデンサの周波数特性、および、構造の健全性の情報を含んだ過渡応答波形を選択的に表出させることが可能で、高精度に不良を判別することができる。さらに、検査手法、装置構成が簡便であるため、検査システム全体を廉価に、かつ省スペースで構成することができる。
以上から、本発明のコンデンサの検査方法および検査装置は、製造ライン上でコンデンサの構造的な欠陥を検査するのに好適な特性を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】良品コンデンサの共振曲線と不良品コンデンサの共振曲線を対比させたものであり、(A)は良品コンデンサの共振曲線と固有振動モードを、(B)は不良品コンデンサの共振曲線と欠陥による副次モードをそれぞれあらわしている。
図2】コンデンサの振動反応が電気信号の周波数変調速度に追随できない場合を示す概念図である。
図3】コンデンサの振動反応が電気信号の周波数変調速度に追随する場合を示す概念図である。
図4】周波数が時間変化する信号波形、周波数制御関数、位相関数の例を示す概念図である。
図5】振動出力の共振曲線と固有振動モードの周波数、半値全幅、半値半幅の関係を示す概念図である。
図6】1200kHz帯にあるコンデンサの固有振動モードを1190kHzの正弦波で振動させ、自由振動に切り替えた際の、過渡振動反応の減衰をあらわす波形である。
図7】検査手法(1)と検査手法(2)の適用条件の検証として、線形変調の設定値をfi=500kHz、ft=2500kHzで固定し、変調時間Tを変化させ出力した振動反応電圧から構成された周波数特性である。
図8】検査手法(3)の測定原理を示す概念図であり、振動反応電圧が閾値Vtreshに達したとき、電気信号の周波数がtreshからfswitch へ切り替わることをあらわしている。
図9】検査手法(3)を用いた測定例で、(A)は比較対象として、変調信号を切り替えない場合の振動反応電圧、(B)はVtresh=0.05Vを閾値として、変調信号からswitch=1300kHzの正弦波へ切り替えを行った際の振動反応電圧と過渡応答波形、(C)は出力した過渡応答波形の部分拡大図である。
図10】検査手法(1)を適用し、fi=500kHz、ft=2500kHz、T=2msに設定された周波数変調信号から得られた振動反応電圧波形であり、(A)は振動反応電圧を、(B)は振動反応電圧に含まれる過渡応答波形を、(C)は振動反応電圧と周波数制御関数をもとに構成された周波数特性を示している。
図11】検査手法(1)による良品・不良品の判別例であり、(A-1)は良品コンデンサ1の周波数特性、(A-2)は良品コンデンサ1の過渡応答波形、(B-1)は不良品コンデンサ1の周波数特性、(B-2)は不良品コンデンサ1の過渡応答波形、(C-1)は不良品コンデンサ2の周波数特性、(C-2)は不良品コンデンサ2の過渡応答波形を示している。
図12過渡応答波形を二乗し、周波数混合を行った波形の、低周波帯スペクトラムである。
図13】低周波帯スペクトラムをPCA基底に投影した際の、第三主成分スコアを第二主成分スコアに対しプロットしたものである。
図14】検査手法(2)を適用し、fi=500kHz、ft=2500kHz、T=16msに設定された周波数変調信号から得られた測定結果であり、(A)は振動反応電圧を、(B)は振動反応電圧と周波数制御関数をもとに構成された共振曲線を示している。
図15】検査手法(2)により測定された良品・不良品の共振曲線と、従来技術で得られた共振曲線とを比較したものである。
図16】検査手法(3)による良品・不良品の判別例であり、(A-1)は良品コンデンサ1の過渡応答波形、(A-2)は良品コンデンサ1の低周波帯スペクトラム、(B-1)は良品コンデンサ2の過渡応答波形、(B-2)は良品コンデンサ2の低周波帯スペクトラム、(C-1)は不良品コンデンサ1の過渡応答波形、(C-2)は不良品コンデンサ1の低周波帯スペクトラム、(D-1)は不良品コンデンサ2の過渡応答波形、(D-2)は不良品コンデンサ2の低周波帯スペクトラムをそれぞれ示している。
図17】本発明のコンデンサの検査装置の基本的な構成を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のコンデンサの検査方法、検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、コンデンサに対して、周波数が時間的に連続して変化する電気信号を入力し、コンデンサを振動させ、該振動に起因する振動反応電圧と直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程とを有している。
【0027】
(検査対象コンデンサ)
本発明のコンデンサの検査方法は、同じ、または類似した機械特性を持つコンデンサの一群に適用されるものであり、例えば、同じ種類、または同じ部品番号を持つ、あるいは同じロットで製造されたなどのコンデンサの一群に適用できる。本発明のコンデンサの検査方法で検査可能なコンデンサとしては、誘電性を有するコンデンサであれば特に制限なく検査が可能であり、具体的には、例えば、積層セラミックコンデンサ、円板型セラミックコンデンサ、フィルムコンデンサ、電解コンデンサ等を例示することができる。これらの中でも特に、チタン酸バリウム等の強誘電物質を用いた積層セラミックコンデンサの検査に好適に用いることができる。
【0028】
<直流バイアス電圧印加工程>
本発明のコンデンサの検査方法では、まず、直流バイアス電圧印加工程として、検査対象のコンデンサに直流電圧を印加し、分極させて逆圧電効果を増大させる。通常、例えば積層セラミックコンデンサ(MLCC)には、小型化・大容量化を達成するために誘電物質として強誘電物質が採用されている。このような強誘電体コンデンサは、通常状態においても一定の分極を持つものであるが、通常のAC電界では逆圧電効果(電気歪効果)が顕在化することは少ない。しかし、バイアス電圧を印加することにより分極を促進させ、逆圧電効果を顕著に表出させることができる。
【0029】
なお、直流バイアス電圧は、一つのコンデンサを検査・測定している間、つまりコンデンサを振動させ振動反応電圧を測定する間は十分に一定であることが必要であるが、それ以外の時は一定値である必要はない。例えば、検査時間の2倍以上の周期を持つ矩形波、あるいは検査時間よりも十分長い周期を持つ正弦波なども利用可能である。
【0030】
直流バイアス電圧印加工程におけるバイアス電圧は、コンデンサの定格電圧以下であれば特に制限なく印加できる。
【0031】
バイアス電圧をかけた状態で、コンデンサに電気信号を入力すると、電気信号は逆圧電効果によりコンデンサの振動源(応力)として機能する。電気信号の電界により、コンデンサの電極境界に電界の微分が生じ、これが電気機械結合の応力として働き、コンデンサの構造内に振動として伝搬する。
【0032】
一定周波数の応力に対し、コンデンサは応力による振動エネルギーを熱として発散し、あるいは自身の構造の振動エネルギーとして蓄え、一定時間経過後に、応力の周期性に応じた安定した振動状態に達する。
【0033】
上記の安定した振動状態を定常振動と呼び、応力の周波数、つまり電気信号の周波数と1対1で対応する。
【0034】
コンデンサのような幾何学的に単純な構造では、外部応力に対し複数の固有振動モードを持つ。電気信号により固有振動モードの周波数に整合した周波数の外部応力が加わると、構造はその周波数で大きく振動する。これは、共振曲線においては、固有振動モードの周波数で局在化したピークとして観察される。
【0035】
電気信号によりコンデンサに発生した振動は、電気機械結合の圧電効果により電圧に転換される。圧電効果による振動の電圧波形、すなわち振動反応は、振動源となった電気信号の波形に重畳して出力される。本発明では、入力電気信号と、コンデンサの振動から圧電効果により発生する電圧(振動反応)とが、重畳/干渉し出力される電圧波形を、振動反応電圧と呼ぶ。
【0036】
定常状態において、特定周波数の電気信号により生じるコンデンサの振動反応電圧の振幅は、その周波数に対するコンデンサの振動のしやすさ、つまりはコンデンサの機械的な振動特性を表現すると考えられる。
【0037】
以下において共振曲線の値とは、バイアス環境下で正弦波の電気信号が入力された際、定常状態で測定されたコンデンサの振動反応電圧の振幅を示すものとする。
【0038】
一方、ある周波数(周波数A)の電気信号により一定の応力で振動している状態(周波数Aの定常振動)から別周波数の応力、周波数Bの電気信号に急速に、あるいは瞬間的に切り替えると、コンデンサの振動は一定時間経過後に周波数Bに収束する(周波数Bの定常振動)が、そこに至るまでの過渡状態では、電気信号の応力に起因する振動と、構造の固有振動モードの振動の慣性に由来する過渡振動が組み合わさった混成振動が出現する。
【0039】
過渡振動はコンデンサの構造の固有振動モードの情報、およびそのモードに結合する他の振動モードの情報を含んでいる。
【0040】
電気信号の応力に起因した振動と同様に、コンデンサの固有振動モードの振動の慣性に由来する過渡振動も電気機械結合の圧電効果により電圧に転換され、振動反応電圧の一部として電気的に出力される。本発明では、過渡振動反応を含んだ振動反応電圧を過渡応答波形と呼ぶ。
【0041】
<振動反応電圧発生工程>
電気機械結合を利用した既存技術は、入力電気信号の周波数を離散的なステップで切り替え、周波数ごとに定常状態でコンデンサの電気的反応を測定し、周波数域に共振曲線を構成する。
【0042】
それに対し、本発明のコンデンサの検査方法では、検査対象のコンデンサに入力する電気信号の周波数を、周波数制御関数により連続的に変化させ、検査対象のコンデンサを振動させる。発生した振動は圧電効果により電圧に転換され、入力電気信号と重畳/干渉した電圧波形、つまり振動反応電圧となって出力される。
【0043】
また、発明のコンデンサの検査方法では、周波数の変化速度を調整する、あるいは周波数の瞬間的な切り替えを行うことにより、検査対象のコンデンサの振動反応電圧に、周波数特性、構造の固有振動モードの情報を含んだ過渡応答波形、または共振曲線の値を選択的に表出させることができる。
【0044】
(検査手法とその原理)
本発明のコンデンサの検査方法は、入力する電気信号の周波数を所要以上高速に変調させ、短時間でコンデンサの周波数特性を振動反応電圧に写し取り、また、振動反応電圧にコンデンサの固有振動モードの振動の慣性に由来する過渡応答波形を発生させる検査手法(1)、電気信号の周波数を所要以上低速に変調させ、振動反応電圧の振幅に共振曲線の値を写し取る検査手法(2)、変調信号に対するコンデンサの振動反応電圧に閾値を設定し、振幅が閾値に達した際に変調信号の周波数を瞬間的に切り替え、過渡応答波形を出力させる検査手法(3)、の3形態をとることができる。
【0045】
まず、検査手法(1)及び検査手法(2)の検査原理について説明する。手法(1)、および手法(2)では、検査対象のコンデンサに入力する電気信号を、第1周波数(fi)から第2周波数(ft)へ連続的に変調させる。また、検査対象コンデンサの固有振動モードの周波数(f 0 )が、少なくとも一つ、iからftまでの変調の周波数範囲に含まれるように電気信号を設定する。ただし、変調の周波数範囲に複数の固有振動モードの周波数を含んでいてもよい。一般性を失わせず、以下の考察では、t=taの時、入力する電気信号の瞬間周波数faがコンデンサの固有振動モードの周波数の内の一つf0と整合していたとする。
【0046】
(検査手法(1):過渡応答波形と周波数特性)
検査手法(1)は、コンデンサに入力する電気信号を、第1周波数fiから第2周波数ftまで所要以上高速に変調させ、振動反応電圧に過渡応答波形を発生させる、また、振動反応電圧から周波数特性を取得することができる検査手法である。
【0047】
t=taの時、コンデンサには振動エネルギーが蓄積されており、固有振動モードの周波数0=fa 振動している。時間の経過に伴い、電気信号の周波数は変調し、一定時間後のt=tb=ta+Δtには瞬間周波数fbに達する。外部応力である電気信号の周波数の変化に対応して、コンデンサの振動反応電圧は、周波数fbの際の定常振動の波形、つまり周波数fbの時のコンデンサの共振曲線の値に対応した振幅に、減衰しながら追随しようとする。ところが、コンデンサの共振曲線の値は、固有振動モードの周波数付近ではピークをなぞり、大きく変化する。共振ピークをなぞった、f0からfbの間の振幅変化率が、コンデンサの振動反応電圧にとって変化可能な減衰率Exp(-Δt/τ)を上回ると、コンデンサの振動反応電圧はその振幅が周波数fbにおいて共振曲線の値まで減衰する時間がなく、電気信号(外部応力)の周波数に追随できなくなる。この際、入力される電気信号とコンデンサの機械的振動の慣性に由来する過渡振動反応との間に干渉が発生し、過渡応答波形が出力される。図2に、電気信号の周波数変調速度が大きく、コンデンサの振動反応が電気信号の周波数変調に追随できない場合を概念図として示す。
【0048】
従って、コンデンサの固有振動モードの過渡振動反応の時定数τと共振曲線上の固有振動のピークの鋭さを基準とし、電気信号の第1周波数fiから第2周波数ftの変化速度を所要以上大きく(速く)すれば、コンデンサの振動反応電圧は電気信号の周波数に追随しなくなり、固有振動モードの周波数付近において入力電気信号とコンデンサの固有振動モードの過渡振動反応が干渉した過渡応答波形出力することができる
【0049】
また、第1周波数fiから第2周波数ftまでの周波数制御関数の時間のパラメーターと、測定された振動反応電圧の時間パラメーターを対応させて、振動反応電圧の振幅を周波数の関数として表せば、周波数変調信号に対するコンデンサの周波数特性を取得することができる。ここで得られる周波数特性は、定常状態で測定される共振曲線とは値が異なるが、近似した性質を持ち、ピーク値やピーク周波数など、良品不良品判別する際に有益な特徴を備えている。
【0050】
(検査手法(2):共振曲線の高精度測定)
続いて、検査手法(2)において、入力信号の周波数を低速で変調させ、振動反応電圧の振幅が共振曲線の値を精度よく写し取る原理について説明する。
【0051】
この検査手法では、入力する電気信号の周波数を、第1周波数fiから、該第1周波数とは異なる周波数の第2周波数ftまで所要以上低速で変調させ、振動反応定常状態に収束させる。すなわち、入力される電気信号が周波数faから周波数fbに変化するとき、faからfbの間の共振曲線の値の変化率が、コンデンサの振動反応電圧の可能な減衰率Exp(-Δt/τ)を下回っていれば、振動反応電圧はfbにおいて定常振動の波形に収束する。この時、電気信号と、コンデンサの振動反応との間に干渉は起こらず、瞬間周波数ごとに振動反応電圧の振幅は、コンデンサの共振曲線をなぞる。図3に、電気信号の周波数変調速度が小さく、コンデンサの振動反応が電気信号の周波数変調に追随する場合を概念図として示す。
【0052】
検査手法(2)においては、振動反応電圧の振幅は共振曲線の値に追随するため、第1周波数fiから第2周波数ftまで電気信号の周波数を変調させる周波数制御関数の時間のパラメーターと、振動反応電圧の時間パラメーターを対応させて、振動反応電圧の振幅を周波数の関数として表せば、共振曲線を得ることができる。
【0053】
(検査手法(1)及び検査手法(2)を適用するための周波数の変調速度)
振動反応電圧に過渡応答波形を発生させる(あるいはさせない)ために必要な周波数の変調速度について、より定量的に説明する。
【0054】
(周波数変調信号の波形と周波数制御関数)
まず、一定の周波数範囲において、電気信号の周波数を変調させる周波数制御関数について説明する。周波数が時間変化する波形は、時間変化する位相φ(t)を持つ波形W(t)として以下の式1で表すことができる。
【数1】
波形の参照時刻をt=ti、その時点の位相をφiと置くと、位相関数は以下の式2で表現できる。
【数2】
そして、t=trの時の波形の瞬間周波数frは、位相関数の時間微分として以下の式3で表される。
【数3】
【0055】
本発明ではh(t)を周波数制御関数と呼ぶ。
参照時刻t=tiを変調の開始時刻とし、瞬間周波数をfiから変調させていくとすると、h(t)を以下の式4と定義できる。
【数4】
ここで、g(ti)=0とする。fiは本発明の電気信号の第1周波数である。また、変調の終了時刻t=ttに与えられるft=fi+g(tt)が、本発明の電気信号の第2周波数である。
特に周波数を線形変調する場合は、以下の式5となる。
【数5】
線形定数αは、時間単位の周波数変化率である。図4に、周波数が時間変化する信号波形、周波数制御関数h(t)、位相関数φ(t)の例を示す。
【0056】
(ピークの鋭さと時定数)
振動系の振動出力(パワー)をあらわした共振曲線上で、固有振動モードのピークの鋭さはQ値で表される。Q値は共振の特性をあらわす指標で、固有振動モードの帯域幅から、以下の式6として定義される。
【数6】
ここで、f0はピーク周波数つまり固有振動モードの周波数であり、Δfは振動出力(パワー)が半分に減衰する周波数帯の幅で、半値全幅と呼ばれる。また、固有振動モードの周波数0の前後において、ピークの対称性が高い場合、Q値は半値半幅Δf1/2を用いて、以下の式7と表すことができる。
【数7】
ピーク周波数0と半値全幅、半値半幅の関係を図5に示す。
また、Q値は振動系を固有振動モードで自由振動させた際の、振動系の保有エネルギーと振動1サイクルごとに失われるエネルギーの比としても定義でき、過渡振動反応の時定数τと、以下の式8で関連づいている。
【数8】
Q値が高いほど時定数τも高く、過渡振動反応の一定時間の減衰率は低くなり、過渡振動反応の減衰に必要な時間が長くなるため、振動反応電圧の共振曲線への追随性は悪くなる。良品コンデンサのようにQ値の高い系においては、QB=QDと置くことができるため、QB(式7)にQD(式8)を代入して、半値半幅Δf1/2について解くと、以下の式9となる。
【数9】
よって、振動出力(パワー)がピーク値から半分に減衰するまでの周波数変化は、過渡振動反応の時定数τの逆数として表すことができる。
【0057】
(周波数変調の基準速度と検査手法の適用条件)
周波数の変調は式4に従い制御され、t=taの時にfa=f0にある変調信号の周波数がΔf1/2変化するのに必要な時間Δt1/2は、
【数10】
から、以下の式10の解として求められる。
【数11】
尚、Δf1/2は正の値として定義されているため、式10の右辺では絶対値が取られている。式10は、高い周波数から低い周波数へと変調する場合(fa=f0>fb)、及び、低い周波数から高い周波数ヘと変調する場合(fa=f0<fb)の両方に適用可能である。
例えば、低い周波数から高い周波数ヘと変調するとき、式10をΔt1/2について解くと、以下の式11となる。
【数12】
ここでg-1はgの逆関数である。この式11に式9のΔf1/2の値を代入し、周波数変調の時間基準としてもよい。
【0058】
しかし、式11は複雑であり、時間基準としての使い勝手はよくない。また、検査手法(1)、検査手法(2)において、周波数変調速度を急激に変化させる制御を行うことはまれである。そこで、式10をt=taにおいてテイラー展開し、一次近似式である式12をΔt1/2ついて解くと、式13が求まる。
【数13】
【数14】
ここで、g’はgの一次時間微分関数であり、時間ごとの周波数変調速度をあらわしている。
式13に式9からΔf1/2の値を代入すると、周波数変調の時間基準Δt 1/2 を、以下の式14の通り、減衰の時定数τの関数として求めることができる。
【数15】
【0059】
一方、周波数の変調が式5にあらわされる線形変調の場合、式10の解に式9からΔf1/2の値を代入し、周波数変調の時間基準Δt 1/2 は厳密に、以下の式15と求めることができる。
【数16】
【0060】
式14あるいは式15(または式11)で求められた時間Δt1/2の間に、振動出力(パワー)をあらわした共振曲線上で、変調信号の周波数はΔf1/2変化し、振動出力は半分に減少する。これを過渡振動反応の振幅の減衰率に換算すると、振動出力は振幅の乗に比例するため、過渡振動反応の振幅がピーク値から1/√2となる状態に相当する。
【0061】
時定数τで指数関数的に減衰する固有振動モードの振動反応が、そのピーク値から1/√2に減衰するのに必要な時間Δtdecayは、以下の式16と求めることができる。
【数17】
【0062】
コンデンサに周波数変調信号が入力された際、振動反応電圧が変調周波数に追随し、その振幅が共振曲線をなぞるには、周波数変調速度の時間基準Δt1/2が、振動反応電圧の減衰に必要とされる時間Δtdecayよりも大きい必要がある。従って、コンデンサの振動反応電圧の振幅が共振曲線の値を精度よく出力する、検査手法(2)に必要な周波数変調の速度範囲は、式14および式16から過渡振動反応の時定数τに換算し次の式17で与えられる。
【数18】
【0063】
同様に、周波数変調速度の時間基準Δ1/2が、振動反応電圧の減衰に必要とされる時間tdecayよりも小さい場合には、振動反応電圧は変調信号の周波数に追随できず、固有振動モードの振動の慣性に起因する過渡応答波形が生じる。従って、過渡応答波形を出力する検査手法(1)に必要な周波数変調の速度範囲は、式14および式16から、以下の式18で求められる。
【数19】
式17式18に共通する右辺の値が、周波数変調の基準速度である。
【0064】
(周波数の線形変調)
ここで、電気信号の周波数を線形に変調する場合について考える。周波数の線形変調は、周波数制御関数が式5により与えられる変調方式であり、設定が簡便なため、汎用的に用いられる。式15、および式16を用いて線形変調の時の検査手法(1)、検査手法(2)の適用条件について解くと、それぞれ過渡振動反応の時定数τに換算し、以下の式19および式20として求められる。
【数20】
【数21】
式19式20に共通する右辺の値が、線形変調を行う際の、周波数変調の基準速度である。
【0065】
線形変調は一般に、変調の開始周波数(電気信号の第1周波数)fi、変調の終点周波数(電気信号の第2周波数)ft、およびfiからftまでの変調時間Tで表現される。この場合、周波数変調速度αは、以下の式21と与えられる。
【数22】
式21を式19、式20に代入し、変調時間Tについて解くと、以下の式22および式23が求められる。
【数23】
【数24】
【0066】
(検査手法(1)及び検査手法(2)の適用性確認)
式19および式20に示された手法の適用条件を検証する。式22及び式23を参照し、f i とf t を一定値に固定し、変調時間Tが異なる試験信号をコンデンサに入力し、過渡応答波形の発現と、振動反応電圧の共振曲線への追随性を確認する。式19及び式20が表す周波数変調の基準速度は、それぞれ式22及び式23にある、変調時間と対応している。振動反応電圧への過渡応答波形の出現は、検査手法1が適用可能であることを示し、一方、過渡応答波形が出現しない場合は、検査手法2が適用可能なことを示す。
【0067】
過渡振動反応の時定数τの値)
図6は、1200kHz帯にあるコンデンサの固有振動モードを、1190kHzの正弦波により定常振動させたのち、自由振動に切り替えたときの振動反応の減衰波形である。この波形の振幅の減衰エンベロープに、指数関数的な減衰式A*Exp(-t/τm)+Bを当てはめ、過渡振動反応の時定数τmの値を波形から0.03msと割り出した。
【0068】
線形変調の設定値であるi=500kHz、ft=2500kHz、および図6で求められた時定数の値τm=0.03msを代入すると、式22および式23の右辺と対応し、基準となる変調時間が以下の式24として求められる。
【数25】
この値は、線形変調において、検査手法(1)が適用可能な状態から検査手法(2)が適用可能な状態へ、あるいはその逆へ移り変わる偏移点となる変調時間tをあらわしている。
【0069】
図7に線形変調信号の設定値をfi=500kHz、ft=2500kHzで固定し、変調時間Tを変化させた際に、出力された振動反応電圧から構成された周波数特性を示す。また参照として、旧来技術で測定された共振曲線も示す。式24の値と整合して、T>4msのときには共振曲線が精度よく出力され、また、T≦4msのときには、コンデンサの周波数特性と共に、固有振動モードの過渡振動反応に由来する過渡応答波形が出力されていることがわかる。尚、図7において、旧来技術の共振曲線の測定は振動反応電圧のピークピーク値で行われたのに対し、検査手法(2)の共振曲線は振動反応電圧の絶対値から構成されたため、互いの値が電圧値の比として2倍異なっている。
【0070】
実際に検査手法(1)、検査手法(2)を製造ラインに適用する際、τの値は同一ロット、同一品種のように物理特性が等しいコンデンサ群に対して目安となる値が推定できればよく、必ずしも検査対象コンデンサを実測して検査対象群についての正確な値を割り出す必要はない。また、検査手法(1)、検査手法(2)の適用条件不等式として与えられるため、設定する周波数の変調速度を、検査対象群に推定されるτに対し、十分に余裕を持った値することも可能である。図6の例では、過渡振動反応の時定数τの値を、固有振動モードの過渡振動反応の減衰波形から算出しているが、固有振動モードの周波数に近い周波数の正弦波が入力された際の、過渡振動反応のランプアップ波形を用いても、同様の結果を得られる。さらに、検査手法(1)、検査手法(2)の適用条件を求めるに際し、固有振動モードの過渡振動反応の時定数τから算出するのではなく、周波数の変調速度を変えて行う複数回の測定から割り出すことも可能である。例えば図7の例のように、周波数の変調速度を変えながら、コンデンサの振動反応電圧を測定し、振動反応電圧に過渡応答波形が含まれているか否かを観察することによって、適正な変調速度を決定できる。加えて、電気信号の変調範囲、つまり電気信号を第1周波数から第2周波数へ変調させ、その変調の周波数範囲が試験対象コンデンサの固有振動モードの周波数を少なくとも1つは含む周波数範囲は、試験対象コンデンサと同じ種類のコンデンサの共振特性からあらかじめ求めることができる。例えば一例として、図1に示した電気機械結合の原理を利用し測定する共振曲線を、あらかじめ1つまたは複数の同じ種類のコンデンサから測定しておけば、必要な周波数範囲を割り出すことができる。
【0071】
(検査手法(3):一定の振動反応電圧から、電気信号の周波数の瞬間的な切り替え)
検査手法(1)および検査手法(2)は、入力する電気信号の周波数を時間軸上で連続的に変化させる検査手法である。一方、検査手法(3)は、検査対象のコンデンサに入力する電気信号の周波数を特定の瞬間に、瞬間的、或いは離散的に切り替えることで、振動反応電圧にコンデンサの固有振動モードの情報が含まれた過渡応答波形を発生させる検査手法である
【0072】
コンデンサの固有振動モードの周波数付近で入力する電気信号の周波数を連続的に変調すると、コンデンサは固有振動モード、およびその振動モードと結合したその他の固有振動モードで振動し、その運動が振動反応電圧となって現れる。この時の振動反応電圧の振幅は、コンデンサの振動エネルギーの指標である。
【0073】
一方、コンデンサに振動エネルギーが蓄積した状態、つまり、周波数変調信号により振動反応電圧の振幅がある程度大きくなった状態の時、変調信号の瞬間周波数を別の値の周波数へ瞬間的に切り替えると、コンデンサの振動は切り替え後の周波数に追随できず、振動の慣性に由来する過渡応答波形が得られる。
【0074】
本発明の検査手法(3)は、固有振動モードのピーク値よりも低い一定電圧の閾値(Vtresh)を振動反応電圧に設定し、第1周波数 i から固有振動モードの周波数へ向け電気信号を変調させ、コンデンサに振動エネルギーを蓄積させる。そして、周波数の変調に伴い振動反応電圧の振幅が閾値(Vtresh)に達したとき、入力する電気信号の周波数を、その時の変調信号の瞬間周波数とは異なる、別周波数fswitchに瞬間的に切り替える形態の検査手法である。この形態では、周波数を切り替えるときの振動反応電圧の振幅は、検査対象コンデンサごとに等しく(Vtresh)なるため、等価な振動エネルギーのもと過渡応答波形を発生させ検査することができる。
【0075】
尚、コンデンサに振動エネルギーを蓄積させる際の周波数変調速度に特に制限はないが、変調速度が低い方が振動反応電圧の振幅の時間ごとの変化が少なくなり、閾値(Vtresh)を超える際、コンデンサごとに振動エネルギーがばらつくことを防ぐことができる。
【0076】
また、切り替え後の信号は別の変調信号でもよいが、固定周波数の信号(正弦波)の方が過渡応答波形の分離、解析が簡便である。さらに、切り替え後の信号はDC信号(fswitch=0)であってもよい。
【0077】
図8検査手法(3)の測定概念を示す。振動反応電圧が共振曲線をなぞるよう電気信号を低速で変調させ、コンデンサから出力される振動反応電圧の振幅がVtreshを越えるとき、周波数fswitchの正弦波に切り替える例である。
【0078】
図9は、実際に検査手法(3)を用いた測定事例である。コンデンサの1200kHz帯の固有振動モードを測定対象とし、線形変調信号のパラメーターをf i =1000kHz、f t =1300kHz、T=10ms、振動反応電圧の閾値 Vtreshを0.05V、切り替え後の信号をf switch =1300kHzの正弦波にそれぞれ設定し、発生した振動反応電圧を測定した。(A)は比較対象として、周波数の切り替えを行わなかった場合の振動反応電圧である。振幅が共振曲線をなぞっている。(B)は閾値Vtreshを0.05Vに設定したときの振動反応電圧である。閾値0.05Vに達するまで、振動反応電圧の振幅は共振曲線をなぞり、その後、固定周波数1300kHzの振動へ切り替わっているのがわかる。(C)は(B)の波形の、周波数の切り替わり直後を拡大したものである。コンデンサの振動の慣性による過渡応答波形が出力されているのがわかる。
【0079】
(各検査手法の適用条件と特性)
検査手法(1)、検査手法(2)及び検査手法(3)の適用条件と、その特徴を以下にまとめる。
(検査手法(1))
式18または式20を周波数変調速度の基準とし、基準速度以上の速度で電気信号の周波数を変調させる。コンデンサの固有振動モードの振動の非追随性(慣性)に由来する過渡応答波形と、周波数特性を同時に取得することができる検査手法である。
【0080】
(検査手法(2))
式17または式19を周波数変調速度の基準として、基準速度未満の速度で電気信号の周波数を変調させる。コンデンサの振動反応を電気信号の周波数に追随させることで、振動反応電圧からコンデンサの共振曲線を精度よく構成できる検査手法である。
【0081】
(検査手法(3))
振動反応電圧に対し、一定の閾値を設定し、電気信号の周波数をコンデンサの固有振動モードの周波数付近で変調させる。振動反応電圧が閾値に達した際に、電気信号を別周波数へ切り替え、過渡応答波形を発生させる。検査対象群の測定において、一定の振動反応電圧の振幅で電気信号の切り替えを行うため、コンデンサが過渡応答に移る際の振動エネルギーが一定し、安定性と再現性の高い検査手法である。
【0082】
(振動反応電圧から周波数特性または共振曲線を構成する方法)
本発明の検査手法で得られる振動反応電圧Vo(t)は、電圧対時間の関数であり、時間ごとの瞬間周波数は周波数制御関数h(t)で与えられる。従って、周波数ごとの振動反応電圧は、パラメトリック方程式(h(t),Vo(t))として求められる。一方、周波数特性あるいは共振曲線の値は周波数ごとの振動反応電圧の振幅であるが、周波数が連続的に変化しながら振動する波形に対し、周波数に1対1で対応する波形の振幅を求めることは困難である。しかし、一定間隔の時間窓を設定し、tj≦t<tj+1で表されるj番目の時間窓Tjに対し、例えばfjを時間窓Tjの中のh(t)の平均値、Vojを時間窓の中のVo(t)の最大値とすると、周波数特性/共振曲線の値(fj,Voj)を離散的なデータセットとして求めることができる。ただし、それぞれの時間窓Tjにおける代表値、必ずしも平均値または最大値から求める必要はなく、例えば、二乗平均平方根、関数の二乗の最大値の平方根、最大値と最小値の差の半分なども用いることができる。
【0083】
(周波数範囲を絞った測定)
図7検査手法適用条件の検証例では、コンデンサの複数の固有振動モードの周波数を包括した、比較的広い範囲で電気信号の周波数を変調させ、広域の周波数帯で共振特性を測定している。しかし、本発明の検査手法では、波形発生器の機能が許す限りにおいて、変調信号に設定できる周波数範囲に特に制限はなく、測定対象とする固有振動モードの周波数の前後に信号変調の周波数帯を絞り、その固有振動モードの反応を時間分解能高く測定することも可能である。
【0084】
(変調方式)
また、図7、および図9の測定例では、低周波から高周波へ線形変調する信号で測定を行っているが、これも特に制限があるわけではなく、例えば高周波から低周波へ変調する信号や、対数関数のように非線形関数で変調した信号も利用可能である。
【0085】
(検査の高速性)
本発明の検査手法はいずれも、測定は単一の電気信号により行われ、周波数を切り替えながら測定を繰り返す必要がなく、旧来技術に比べ非常に高速である。特に、検査手法(1)については、周波数の変調速度を過渡振動反応の時定数τを基準として設定するため、数msあるいはそれ以下での測定も可能である。
【0086】
(測定条件の共通化)
本発明の検査手法はいずれも、測定に用いる電気信号の振幅、変調範囲、変調速度などパラメーター設定は検査対象群において共通であり、検査対象のコンデンサごとに個別の調整を行わない。そのため、製造条件起因するコンデンサごとの物理特性のわずかなばらつき、例えば、固有振動モードの周波数のばらつきなどにより測定条件が左右されることがなく、同一の測定条件のもと再現性の高い検査が可能である。
【0087】
<振動反応電圧測定工程>
(フィルタ処理による振動反応電圧の表出)
本発明の検査方法では、直流バイアス電圧印加工程および振動反応電圧発生工程を経て検査対象のコンデンサから出力される反応電圧は、振動反応電圧および過渡応答波形に、直流バイアスが重畳したものである。従って、反応電圧をフィルタ回路に透過させるフィルタ処理を行うのが好ましい。フィルタ回路は、検査対象のコンデンサに並列に接続されるハイパスフィルタ機能を持つ回路であり、コンデンサの反応電圧から直流バイアス電圧を分離、除去し、微小な振動反応電圧、および過渡応答波形を表出させることができる。
【0088】
また、フィルタ回路は、電気信号の入力端部と測定系の測定端部を分離する役割も果たす。測定端部はフィルタ内に置かれるため、コンデンサホルダー部の出力端部およびフィルタ要素を介して電気信号の入力端部とは分離される。これにより、電気信号入力時に測定端部に大電流が流れることがなくなり、測定端部の寄生抵抗や配線の寄生インダクタンスなどによるノイズが、測定値へ影響することを抑えることができる。
【0089】
なお、フィルタ処理において、フィルタ回路としてRCハイパスフィルタを用いる場合、時間定数τ=RCと置くと、フィルタのカットオフ周波数1/2πτは測定最低周波数よりも低く設定する必要がある。また、フィルタの入力インピーダンスが測定コンデンサに流れる電流に影響することを防ぐため、フィルタ抵抗はコンデンサのインピーダンスよりも必要十分に高く設定する必要がある。
【0090】
本発明において、測定系は通常フィルタ処理後の電圧を測定するが、フィルタ回路またはフィルタコンデンサに直列に電流計を挿入し、電流を振動反応電圧の測定媒体としてもよい。これは、フィルタの抵抗器にかかる電圧の波形とフィルタ回路に流れる電流の波形が比例関係にあるからであり、電流、電圧のいずれを測定媒体としても、得られる振動反応電圧の情報に差異はない。
【0091】
<良否判定工程>
本発明では、電気信号により検査対象のコンデンサに発生した振動反応電圧、および過渡応答波形について、良品と不良品が表す波形の特徴の相違に基づいて良否判定を行う。
【0092】
本発明において、振動反応電圧をもとに構成されるコンデンサの周波数特性、あるいは共振曲線は、コンデンサの構造の機械的な振動特性をあらわす。従って、良品と不良品のコンデンサでは、ピークの高さ、ピークの鋭さ(Q値)、ピーク周波数などが異なり、また、不良品では内部の欠陥に由来する副次ピークなどが発生する。
【0093】
また、過渡振動反応の時定数τは、式8で表されているように、構造の健全性の指標であるQ値と直接に関係している。つまり、構造が健全で振動により散逸するエネルギーが少ない系ほど時定数は高く、よって固有振動モードの過渡振動反応が長く続くまた、内部欠陥による副次ピークが固有振動モードの周波数の近傍に存在する場合、振動エネルギーが副次ピークヘ散逸し、固有振動モードの過渡振動反応との干渉が起こる。
【0094】
従って、本発明の検査方法では、振動反応電圧の特徴、および振動反応電圧から抽出された過渡応答波形に含まれる振幅、振動周波数、過渡振動反応の減衰速度(時定数τ)、波形の干渉などの情報から、不良を判別することができる。
【0095】
(位相差成分の分離)
本発明においては、得られ過渡応答波形を二乗し周波数の自己混合を行うことで、入力する電気信号を基準位相として、固有振動モードの過渡振動反応の位相と基準位相との差を、低周波帯のスペクトラムにおいて解析することができる
【0096】
検査手法(1)及び検査手法(3)を適用した際に出力される過渡応答波形は、入力された電気信号、電気信号に同期する振動由来する波形(同期振動反応)、およびコンデンサの固有振動モードの振動の慣性に由来する波形(過渡振動反応)が重畳したものである。コンデンサ内部構造の情報を含んでいるのは過渡振動であって、解析においては過渡応答波形から純粋に過渡振動反応に由来する成分を分離する必要がある。
【0097】
過渡応答波形WT(t)から固有振動モードの過渡振動反応の情報を取り出すのに、直接フーリエ変換などを行い、周波数スペクトラムを解析することもできる。しかし、入力する電気信号の周波数帯と固有振動モードの周波数f0が近い場合には、両者のスペクトラムが重なり合い分離が困難になる。特に検査手法(1)の場合には、過渡応答波形発生時の瞬間周波数が固有振動モードの周波数f0と一致するため影響が顕著に表れる。また、検査手法(1)、検査手法(3)共に、良品/不良品の判別は過渡振動反応があらわす過渡応答波形の特徴のわずかな差異に基づく。従って、過渡応答波形から、過渡振動反応のスペクトラムを直接取り出そうとした場合、過渡振動の振動周波数と同じ帯域の電気信号はノイズとして解析に大きく影響する
【0098】
ここで、固有振動モードf0 の過渡振動反応が含まれた過渡応答波形WT(t)を、以下の式25としてモデル化する
【数26】
最初の項は入力される電気信号に由来する項である。基準位相となる位相関数φ(t)は入力する電気信号の設定パラメーター、つまり測定者が任意に設定する関数であり、既知の関数である。検査手法(1)の場合には式2から、検査手法(3)の周波数切り替えの場合は、φ(t)=2πfswitchtで与えられる。δ(t)=φ(t)-2πf0tは位相関数φ(t)と固有振動モードの過渡振動反応の位相との差成分で、過渡振動反応の位相の基準位相からのずれをあらわす。A(t)は時間変化する周波数に対するコンデンサのインピーダンスの変化をあらわす。二番目の項は固有振動モードの振動の慣性から起こる過渡振動に由来する項である。B(t)は過渡振動反応の指数関数的な減衰をあらわす。説明を単純化するため、二番目の項の定位相は0としてあるが、一般化も可能である。
【0099】
基準位相φ(t)は既知の関数であることから、固有振動モードの過渡振動反応の位相との差成分であるδ(t)の情報を得ることができれば、固有振動モード0の情報を得るのと同義である。
ここで、過渡応答波形WTを二乗した波形を考える。三角関数の積和の公式から、以下の式26を参照して、過渡応答波形WTを二乗した波形は位相和成分と位相差成分に分離され、以下の式27で表される。
【数27】
【数28】
位相和成分は固有振動モードの周波数f0の2倍の周波数で振動している。よって、式27の波形の周波数スペクトラムを取ると、δ(t)を含む式27の最初の3項は低周波帯(~0Hz)に、位相和成分は高周波帯(~2f0)に、それぞれ分離して現れる。
従って、振動反応電圧を二乗した波形つまりは周波数の自己混合を行った波形のフーリエ変換を行えば、低周波帯のスペクトラムから位相差関数δ(t)を解析できる。
【0100】
良品のコンデンサは帯域幅が狭く、固有振動モードを単一周波数で表現する式25によるモデル化が成り立つ。また、良品コンデンサ群において、特定の固有振動モードの周波数0は一定の範囲に収まるため、基準位相からの位相差をあらわす関数δ(t)も群においては一定であり、式27の波形の低周波帯のスペクトラムも一定形状で分布する。一方、不良品のコンデンサは帯域幅が広く、過渡振動も複数の周波数の重なり合いとして表現されるのが自然である。また、振動周波数も良品の固有振動モードの周波数0とは値が異なる。仮に、不良品の固有振動がf1、f2の2周波数の重なり合いで表現されるとすると、式25に対応して,不良品の過渡応答波形は、以下の式28のようにモデル化される。
【数29】
この波形を二乗すると、位相の差成分は、以下の式29となる。
【数30】
ここで、A、C、Dは時間依存性を持つ関数であるが、表現の簡素化のため明示していない波形の振動成分がCos(δ(t))のみであった良品モデル(式27)に対し、不良品モデル(式29)には振動成分にf1、f2が干渉し、低周波帯スペクトラムに直接の変化を与えることが分かる
【0101】
以上から、得られた過渡応答波形を二乗し周波数の自己混合を行い低周波領域のスペクトラムを解析する手法は、入力電気信号を基準位相として、固有振動モードとの位相の差が測定対象となるため、入力電気信号と固有振動モードの周波数帯が近い場合でも確度よく良品と不良品の判別ができ、検査手法(1)及び検査手法(3)について有効な解析手法である。
【0102】
尚、式27のA2(t)はコンデンサのインピーダンスに依存する項のため、入力する電気信号が高周波、つまり電気信号の周波数fが1/Cよりもはるかに大きい時、その値は抑制される。
【0103】
また、B2(t)は過渡振動反応の指数関数的減衰からくる項であり、フーリエ変換、特にコサイン変換の際には式30に表されるように、0Hzに最大値を持つローレンツ分布として現れる。ここで、V0は固有振動モードのピーク値、τは過渡振動反応の時定数である。
【数31】
【0104】
このローレンツ分布の最大値は、α=0を代入したときの値であり、以下の式31となる。
【数32】
ローレンツ分布の最大値τが大きいほど高いため、固有振動モードのQ値が高いほどスペクトラムの0Hzでの値は高くあらわれる。従って、低周波帯スペクトラムの0Hzの値を、スペクトラムのデータから外挿し算出すれば、あるいは、スペクトラムの最小周波数の値を0Hzの値とみなせば、Q値の指標を得ることができ、良品と不良品の判別に有益である。
【実施例0105】
以下に、検査手法(1)、検査手法(2)及び検査手法(3)を用いてコンデンサの振動反応電圧および過渡応答波形を測定し、それぞれの手法において良否を判別した実施例を示す。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
(実験サンプル)
形状が長さ3.2mm、高さ1.6mm、幅1.6mm、容量10μF、耐圧35V、温度特性がX5Rの積層セラミックコンデンサ(MLCC)500個を実験サンプルとした。なお、コンデンサは市販のものであり、実験サンプルのコンデンサの品番はすべて同一のものとした。
【0107】
(良品群)
実験サンプルから抜き取った、118個のコンデンサで良品群を構成した。
【0108】
(内部欠陥品)
サンプルサイズ42個ずつで構成した4群のコンデンサに対し、群ごとにそれぞれ異なる応力を加え、コンデンサに欠陥の生成を試みた。加えた応力は以下の通りである。
I群)急熱:室温にあるコンデンサを液体窒素(-196℃)に浸漬し、温度が安定したのちに液体金属(350℃)に浸漬し、熱衝撃を与えた。これを3回繰り返した。
II群)急冷:室温にあるコンデンサを液体金属(350℃)の上に置き加熱、温度が安定したのちに液体窒素に浸漬し、熱衝撃を与えた。これを2回繰り返した。
III群)物理衝撃:コンデンサの電極端部を上下から金属製の治具で固定し、重さ31gの円筒型金具を10cmの高さから自由落下させ、金具の底面を治具に当てた。これを2回繰り返した。
IV群)鉄球による物理衝撃: コンデンサの電極端部を上下から金属製の治具で固定し、重さ28gの鉄球を9cmの高さから治具へ自由落下させた。これを2回繰り返した。
【0109】
応力を加えたI~IV群のコンデンサそれぞれについて、従来型技術である波数スイープにより共振曲線を測定し、1190kHz帯ピークのピーク値が0.170V以下のものを欠陥品として識別した。
【0110】
欠陥品に対して検査員による外観検査を行い、欠陥が外部まで顕出しているものを外部欠陥品、外観検査では欠陥の特徴が検出できなかったものを内部欠陥品として分類した。
内部欠陥品に分類された個数は、I群が11個、II群が17個、III群が7個、IV群が10個であった。以下の実施例ではこれら内部欠陥品を不良品または不良コンデンサとし、良品から判別した。
【0111】
(機器構成と測定回路の設定)
以下の実施例では、図17に示す構成のコンデンサの検査装置において、負荷処理を行う定電流回路としてホルダー部に対し直列にブリッジ抵抗を設けるとともに、フィルタ回路としてカットオフ周波数が50kHzのRCハイパスフィルタ回路及び、電圧/電流測定器としてのオシロスコープ(アジレント InfiniiVision DSO-X-3024A)を用い、直流バイアス電圧を12.0Vに設定し、計測を行った。
(検査手法(1)による不良判別
以下、検査手法(1)を用いた実施例について説明する。
【0112】
(検査手法(1)によって測定された良品および不良品の波形とその特徴)
図10は、検査手法(1)を適用し、T=2msに設定、入力する電気信号の周波数をfi=500kHzからft=2500kHzまで線形変調し測定を行った際の、(A)良品コンデンサの振動反応電圧、(B)発生した過渡応答波形、(C)求められた周波数特性をあらわしている。良品のコンデンサは波形の特徴がばらつき少なく出現する。
【0113】
図11は検査手法(1)を適用し、fi=500kHz、ft=2500kHz、T=2ms線形変調する電気信号を入力した際に得られた、良品コンデンサと不良品コンデンサの波形の特徴を比較したものである。振動反応電圧から構成された周波数特性を見ると、良品コンデンサのピークは、(A-1)にあるように、鋭く、Q値高く出現する。また、1200kHz帯以外のピークも明瞭に表れる。
【0114】
一方、不良品コンデンサのピークは、(B-1)、(B-2)にあるように、Q値が低く現れ、特に高周波帯のピークの反応が悪い。
【0115】
また、図11の、振動反応電圧から抽出した過渡応答波形では、良品の過渡応答波形は、(A-2)にみられるように、一定周期の明瞭な干渉波形つまりビート現象長時間続く。これは、良品コンデンサの構造の健全性が高く、エネルギーの散逸が少ないためと考えられる。対して、不良品コンデンサでは、(B-2)にみられるように、過渡応答波形が持続せず、干渉波形が短時間で消失する。これは、内部欠陥により、振動エネルギーが散逸するためと考えられる。また、不良品コンデンサの過渡応答波形では、(C-2)にみられるように、干渉波形は一定時間持続するが、干渉波形の減衰率およびビート周波数が一定しないものもある。これは、コンデンサの固有振動モードの周波数の近傍に副次モードが存在し、その反応が干渉波形に含まれているためと考えられる。
【0116】
(不良判別に用いるデータの測定)
検査手法(1)を適用し、T=1ms、fi=500kHz、ft=2500kHzに設定した線形変調信号を使用し、良品コンデンサおよび不良品コンデンサの振動反応電圧を測定した。
【0117】
(過渡応答波形および位相差成分の分離)
それぞれのコンデンサについて、測定された振動反応電圧から、1190kHz帯のピーク位置を振幅の最大値から特定し、ピーク位置を起点として後に続く計4096点のデータを過渡応答波形として抽出した。前述の図11で観察された通り、ビート現象に良品、不良品の差異が現れることから、位相の差成分が、良品、不良品の特徴をあらわすパラメーターとして有効と考えられる。従って、抽出した過渡応答波形を二乗することで周波数混合をおこない、その後、波形を離散コサイン変換し、低周波領域のスペクトラムを解析した図12に良品と不良品の代表例について、低周波帯のスペクトラム示す。位相差成分をあらわす低周波領域において、良品コンデンサと不良品コンデンサで明瞭にスペクトラムの分布形状が異なっている。また、良品のコンデンサのスペクトラムの0Hz付近の値は、良品コンデンサのそれよりも明らかに低く、不良品コンデンサのQ値が低いことが示されている。
【0118】
(PCA解析)
良品と不良品の特徴をより定量的に判別するために、低周波帯スペクトラムの、周波数の低い方から85点を特徴点としてPCA解析を行った。まず、測定した良品群から、最初の80個分の周波数スペクトラムを抜き出し、良品の平均値ベクトルと、PCA基底を算出するのに用いた。良品群の残りの38個、および不良品群I、II、III、IVについて、各個の周波数スペクトラムから平均値ベクトルを除算したのちPCA基底に投影し、PCAスコアを得た。
【0119】
図13はそれぞれの群について、第三主成分を第二主成分に対してプロットしたものである。図から、良品群が軸の中央付近にまとまって分布しているのに対し、不良品群は数個の例外を除き、良品群とは離れて分布することがわかる。従って、PCAスコアに合格範囲を設けることで、良品と不良品を判別できる。
【0120】
上記はスペクトラムのPCA解析から不良を判別した事例であるが、ピーク周波数、ピーク値などを解析パラメーターに含めればより精緻な判別が可能となる。また、過渡応答波形およびスペクトラムからの特徴抽出するのに、機械学習によるパターン認識、またはAIなど活用することも可能である。
【0121】
(検査手法(2)による不良判別
図14に、検査手法(2)を適用し、T=16msに設定、入力する電気信号の周波数をfi=500kHz、ft=2500kHzとして線形変調し測定を行った際の、(A)振動反応電圧、および、(B)周波数制御関数と振動反応電圧から求められた共振曲線を示す。
【0122】
図15は、検査手法(2)を適用し、fi=500kHz、ft=2500kHz、T=16msの線形変調信号を使用した、不良品コンデンサの判別事例である。良品コンデンサ1、不良品コンデンサ3、不良品コンデンサ4を測定し、振動反応電圧および周波数制御関数をもとに構成された共振曲線をそれぞれ(A-2)、(B-2)、(C-2)に示す。
【0123】
また、比較参照として、それぞれのコンデンサを旧来技術で測定した場合の共振曲線を(A-1)、(B-1)、(C-1)に示す。検査手法(2)で測定された共振曲線は、旧来手法で測定された共振曲線と整合する。ただし、旧来技術は振動反応電圧のピークピーク値から共振曲線を測定したのに対し、検査手法(2)は共振曲線を振動反応電圧の絶対値から構成したため、互いの値が電圧値の比として2倍異なっている。また、(A-2)にみられるように、良品のコンデンサの共振ピークは鋭く、Q値が高く出現するが、(B-2)、(B-3)にみられるように、不良品の共振ピークはピーク周波数帯が広く、Q値も低い。さらに、(B-2)、(C-2)からは、不良コンデンサの特徴の一つである副次ピークの出現が確認できる。
【0124】
(検査手法(3)による不良判別
検査手法(3)を適用し、切り替え前の変調信号のパラメーターをfi=1000kHz、ft=1300kHz、T=10msと設定し、Vtresh=0.035Vを閾値として、振動反応電圧がVtreshを越えた時点で、fswitch=1300kHzの正弦波に切り替え、良品コンデンサと不良品コンデンサを測定した。得られた過渡応答波形を二乗した後、離散コサイン変換を施し、低周波帯のスペクトラムを解析した。
【0125】
良品と不良品の代表例について、測定と解析の結果を図16に示す。図16から良品の過渡応答波形は一定周期の明瞭なビート現象が長く続くことがわかる(A-1、B-1。一方、不良品の過渡応答波形は、ビート現象が短時間で消失する(C-1)、あるいは、ビート現象の周期が乱れ安定しない(D-1)ことが示されている。二乗した過渡応答波形の低周波帯のスペクトラムは、良品においてはスペクトラム下限(~0kHz)の周波数重みが大きく、Q値が高いことを示している。また、良品においては120kHz付近に明瞭なピークが存在する(A-2、B―2)。一方、不良品の低周波域スペクトラムにおいては、スペクトラム下限の周波数重みが小さく、Q値が低いことを示している。また、不良品においてはピークが低背化する(C-2)、あるいはピークが分割する( D-2)などの特徴がみられる。このように、検査手法(3)において、良品と不良品は低周波帯のスペクトラムを含み、過渡応答波形および波形から抽出した特徴によって明確に区別することができる。
【0126】
以上の結果から、本発明の検査手法を適用することにより、内部欠陥を持つコンデンサを高確度に探知できることがわかる。
【0127】
<装置構成>
以下に、上記本発明のコンデンサの検査方法を実現するための検査装置について詳述する。本発明のコンデンサの検査装置は、基本的な構成として、検査対象のコンデンサのホルダー部と、ホルダー部の入力側に接続された、バイアス電源と波形発生器とを含む電力供給装置と、ホルダー部と前記波形発生器との間に、直列に接続された定電流回路と、ホルダー部に対して並列に接続されたフィルタ回路とを備えている。図17に、本発明のコンデンサの検査装置の一実施形態の概略構成図を示す。
【0128】
本実施形態の検査装置は、検査対象のコンデンサ1のホルダー部2と、バイアス電源3と、波形発生器4と、定電流回路5と、フィルタ回路6及び電圧/電流測定器7を備えている。
【0129】
(ホルダー部)
ホルダー部2は、検査対象のコンデンサ1を載置して、コンデンサ1のプラス極及びマイナス極を外部装置及び外部回路と接続可能とする部材であり、形状等は、検査対象のコンデンサ1の形状、大きさ等に応じて適宜設定することができる。
【0130】
(バイアス電源)
バイアス電源3は、コンデンサ1に直流バイアス電圧を印加するために設けられる装置であり、コンデンサ1に定格電圧以下の所定の電圧を供給できるものであれば特に制限はなく、具体的には、例えば、蓄電池や安定化電源、所定の電圧の比較的長いスパンの矩形波が発生可能な装置、また、測定時間内での所定電圧からの変化が十分小さい電圧波形を生成するファンクションジェネレータ等を用いることができる。
【0131】
(波形発生器)
波形発生器4は、検査対象のコンデンサ1に電気信号を入力するための装置であり、所定の範囲及び速度で信号周波数の変調が行える、あるいは、周波数変調信号から別信号への切り替えができる装置であれば特に制限はなく、具体的にはファンクションジェネレータを好適に用いることができる。
【0132】
(定電流回路)
定電流回路5は、ホルダー部2および波形発生器4に直列に接続されて設けられる回路であり、測定回路への供給電流を一定とし、安定した反応電圧を出力させるために設けられるものである。定電流回路は、入力電圧に比例した電流を出力する。
【0133】
コンデンサに波形発生器を直接接続した場合、コンデンサのインピーダンスは周波数に反比例することから、高い周波数では波形発生器4からコンデンサ入力される電圧が微小な寄生抵抗や寄生インダクタンス、さらには波形発生器4自体の出力インピーダンスなどに影響されやすくなり、一定電圧でコンデンサをドライブすることが困難となる。また、コンデンサでは電流の位相が電圧から90°進むことから、波形発生器の発振特性により高い周波数で出力が不安定となることがある。
【0134】
そのため、本発明では、定電流回路5を検査対象のコンデンサ1に対して直列に接続する。ここで、定電流回路5の入力インピーダンス|Zin|は、検査対象のコンデンサ1のインピーダンス|Zc|よりも十分大きいことが要求される。これにより波形発生器から見た測定回路の入力インピーダンスはZin+Zcとなり、波形発生器4が出力する信号周波数に関わらず一定以上となるため、波形発生器の出力インピーダンスによる出力電圧の低下が起こらない。また、および波形発生器4が出力する電流と電圧の位相ずれが低減されるため、波形発生器4の出力電圧が安定する。
【0135】
定電流回路5は、コンデンサ1に入力する信号の周波数が変化した際も、コンデンサ1のインピーダンスの変化、寄生抵抗に左右されず、コンデンサ1に対し一定電流を供給する。ここで、定電流回路5の出力インピーダンス|Zout|は、検査対象のコンデンサ1のインピーダンス|Zc|よりも十分大きいことが要求される。定電流回路5によりコンデンサを定電流でドライブすることにより、振動反応電圧および反応電圧を安定して出力することができる。尚、定電流回路のもっとも簡便な形は、周波数の測定範囲におけるコンデンサ1のインピーダンス|Zc|よりも十分大きな値の固定抵抗器である。また、固定抵抗器に対し、インダクタを並列に接続し、高周波のノイズ対策および波形発生器4の発振対策としてもよい。
【0136】
(フィルタ回路)
フィルタ回路6は、ホルダー部2に並列に接続され、コンデンサの反応電圧から直流バイアス電圧等の直流成分を分離、除去し、振動反応電圧を表出させるハイパスフィルタ機能を持つ回路であり、通常、フィルタコンデンサ61とフィルタ抵抗器62から構成されたRCハイパスフィルタ回路が用いられる。ただし、測定の周波数範囲の帯域幅を備えた、バンドパスフィルタであってもよい。電圧/電流測定器7で電圧を測定する場合、フィルタ抵抗器62の一端はグラウンドに接地される。
【0137】
(電圧/電流測定器)
電圧/電流測定器7は振動反応電圧および過渡応答波形を測定する装置である。周波数制御関数または波形の切り替わりに同期した信号に対し測定トリガーをかけることができる装置であれば特に制限はない。例えば、一般的なオシロスコープを用いることができる。また、電圧/電流測定器7として、スペクトラムアナライザあるいはシグナルアナライザを用い、周波数成分分布に変換された振動反応電圧を出力することも可能である。
【0138】
上記実施形態の検査装置によれば、検査対象のコンデンサ1、コンデンサ1を載置するホルダー部2、直流バイアス電圧を印加するためのバイアス電源3と電気信号を発生させる波形発生器4から構成される入力系、また、入力系への供給電力を一定に保つための定電流回路5、検査対象のコンデンサ1に並列に接続されたフィルタ回路6、該フィルタ回路6を介してコンデンサ1の反応を測定する電圧/電流測定器7で構成できるため、装置構成が簡便であり、検査システム全体を廉価かつ省スペースで構成することができる。
【0139】
以上、本発明のコンデンサの検査方法及び検査装置を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0140】
例えば、上記実施形態においては、検査対象の電子部品をコンデンサとして説明したが、原理的には電極を持ち、誘電体を構成要素とする、フェライト、積層電池等の他の電子部品の検査にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0141】
1 コンデンサ
2 ホルダー部
3 バイアス電源
4 波形発生器
5 定電流回路
6 フィルタ回路
61 フィルタコンデンサ
62 フィルタ抵抗器
7 電圧/電流測定器
【手続補正書】
【提出日】2024-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ種類のコンデンサで構成されたコンデンサの一群を検査対象とし、検査対象のコンデンサに対して定格電圧以下の直流バイアス電圧を印加する直流バイアス電圧印加工程と、
前記検査対象のコンデンサに対して、周波数が時間的に連続して変化する電気信号を入力し、前記検査対象のコンデンサを振動させ、該振動に起因する振動反応電圧と前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力する振動反応電圧発生工程とを有することを特徴とするコンデンサの検査方法。
【請求項2】
前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号を、第1周波数から第2周波数へ連続的に変調させ、その変調の周波数範囲に、1つまたは複数の前記同じ種類のコンデンサからあらかじめ確認されたコンデンサの固有振動モードの周波数の内、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項3】
前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号について、周波数変調の基準速度を、その周波数が変調の周波数範囲に含まれる前記同じ種類のコンデンサの固有振動モードの、過渡振動反応の時定数から、あるいは、前記同じ種類のコンデンサに対し、周波数変調速度を複数回変えて行った振動反応電圧の測定の結果から求め、前記電気信号の周波数変調速度を、基準速度に応じて共通の値または共通の関数に設定し、前記検査対象のコンデンサごとに変更しないことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項4】
前記振動反応電圧発生工程における前記振動が、前記電気信号の変調速度に応じて発生する過渡振動を含み、前記振動反応電圧発生工程における前記振動反応電圧が過渡応答波形を含むことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項5】
前記振動反応電圧発生工程における前記電気信号の周波数変調の時間パラメーターと、測定された振動反応電圧の時間パラメーターを対応させて、周波数特性または共振曲線を取得することを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項6】
前記振動反応電圧発生工程において、入力する前記電気信号を連続的に変調させ、測定された振動反応電圧が所定の閾値に達したときに、その時点の瞬間周波数とは異なる周波数に切り替え、振動反応電圧に過渡応答波形を発生させることを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項7】
前記反応電圧から前記振動反応電圧を測定する振動反応電圧測定工程を有し、該振動反応電圧測定工程により測定された振動反応電圧の特徴を、すでに測定された良品コンデンサの振動反応電圧の特徴と比較して、前記検査対象のコンデンサの良否を判定する良否判定工程を有することを特徴とする請求項1に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項8】
前記良否判定工程において、前記振動反応電圧に含まれる過渡応答波形の値を二乗して周波数の自己混合を行い、二乗波形の低周波帯スペクトラムに基づいてコンデンサの良否を判定することを特徴とする請求項7に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項9】
前記振動反応電圧測定工程において、フィルタ処理により、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して前記振動反応電圧を表出させることを特徴とする請求項7に記載のコンデンサの検査方法。
【請求項10】
コンデンサの検査装置であって、
検査対象のコンデンサのホルダー部と、
前記ホルダー部の入力側に接続された、バイアス電源と波形発生器とを含む電力供給装置と、
前記ホルダー部と前記波形発生器との間に、直列に接続された定電流回路と、
前記ホルダー部に対して並列に接続されたフィルタ回路とを備え、
前記電力供給装置のバイアス電源が、前記検査対象のコンデンサに直流バイアス電圧の印加を行うとともに、
前記波形発生器が、前記検査対象のコンデンサに対して、入力する電気信号を第1周波数から、該第1周波数から周波数の第2周波数に連続的に変調するよう制御し、又は、第1周波数から変調中にそのときの瞬間周波数とは異なる周波数に切り替わるよう制御し、前記検査対象のコンデンサから振動を発生させ、発生させた前記振動に起因する振動反応電圧と、前記直流バイアス電圧とを含む反応電圧を出力させ、
前記定電流回路が、入力する前記電気信号、および、出力される前記反応電圧を安定させ、
前記フィルタ回路が、前記反応電圧から前記直流バイアス電圧の直流成分を分離、除去して振動反応電圧を表出させることを特徴とするコンデンサの検査装置。
【請求項11】
前記定電流回路が、抵抗器および/又はインダクタにより構成されていることを特徴とする請求項10に記載のコンデンサの検査装置。
【請求項12】
前記フィルタ回路が、フィルタコンデンサとフィルタ抵抗器から構成されたRCハイパスフィルタ回路であることを特徴とする請求項10に記載のコンデンサの検査装置。