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特開2024-45083情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045083
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/06 20120101AFI20240326BHJP
【FI】
G06Q40/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023155530
(22)【出願日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022150588
(32)【優先日】2022-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】516035910
【氏名又は名称】株式会社FOLIO
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100154748
【弁理士】
【氏名又は名称】菅沼 和弘
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 達也
【テーマコード(参考)】
5L055
【Fターム(参考)】
5L055BB55
(57)【要約】
【課題】与えられた評価指標を改善する投資戦略を運用の期初時点において具体的に提供すること。
【解決手段】情報処理装置1が、所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する場合、CPU11において次のように確率分布計算部51が機能する。確率分布計算部51は、運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する情報処理装置において、
運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する確率分布計算手段、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記確率分布計算手段は、前記投資商品の価格変動を前記幾何ブラウン運動と見做した時の前記パラメータが特定の条件を満たす場合についての、前記計算を実行する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する情報処理装置が実行する情報処理方法において、
運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する確率分布計算ステップ、
を含む情報処理方法。
【請求項4】
所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算するコンピュータに、
運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する確率分布計算ステップ、
を含む制御処理を実行させるプログラム。
【請求項5】
所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する情報処理装置において、
運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0,1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0,1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0,∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0,∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する確率分布計算手段、
を備える情報処理装置。
【請求項6】
所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する情報処理装置が実行する情報処理方法において、
運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0,1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0,1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0,∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0,∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する確率分布計算ステップ、
を含む情報処理方法。
【請求項7】
所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算するコンピュータに、
運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0,1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0,1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0,∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0,∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する確率分布計算ステップ、
を含む制御処理を実行させるプログラム。
【請求項8】
所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化する情報処理装置において、
定量的な評価指標と、運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行うパラメータ最適化手段、
を備える情報処理装置。
【請求項9】
前記パラメータ最適化手段は、前記評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略の前記パラメータとして、運用期間と切替金額のうち一部あるいは全ての最適化を行う、
請求項8に記載の情報処理装置。
【請求項10】
評価指標として、累積プロスペクト理論に基づく効用を用いる、
請求項8又は9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化する情報処理装置が実行する情報処理方法において、
定量的な評価指標と、運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行うパラメータ最適化ステップ、
を含む情報処理方法。
【請求項12】
所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化するコンピュータに、
定量的な評価指標と、運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行うパラメータ最適化ステップ、
を含む制御処理を実行させるプログラム。
【請求項13】
所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化する情報処理装置において、
定量的な評価指標と、運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0, 1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0, 1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0, ∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0, ∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行うパラメータ最適化手段、
を備える情報処理装置。
【請求項14】
前記パラメータ最適化手段は、前記評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略の前記パラメータとして、運用期間と切替金額のうち一部あるいは全ての最適化を行う、
請求項8に記載の情報処理装置。
【請求項15】
所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化する情報処理装置が実行する情報処理方法において、
定量的な評価指標と、運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0, 1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0, 1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0, ∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0, ∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行うパラメータ最適化ステップ、
を含む情報処理方法。
【請求項16】
所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化するコンピュータに、
定量的な評価指標と、運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0, 1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0, 1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0, ∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0, ∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行うパラメータ最適化ステップ、
を含む制御処理を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴールベースアプローチの資産運用において運用中に投資商品を切り替える運用戦略の最適化方法に係る、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ゴールベースアプローチとして知られる資産運用の手法は、個々人の目標やニーズに合わせて、目標金額や運用期間を明確に設定することを重視している。このアプローチは、投資の目的を具体的に定め、それに基づいて運用戦略をカスタマイズすることで、効率的な資産運用を可能にする。適切な目標金額の設定や運用期間の選定により、必要な資金を確保し、リスクを適切に管理できるため、個人の長期的なニーズに合致した資産運用が実現できるとされている。
【0003】
ゴールベースアプローチの資産運用の代表例の一つとしてターゲットイヤーファンドが挙げられる。ターゲットイヤーファンドはバランス型投資信託の一種で、予め定められたターゲットイヤー(運用の最終目標年)に近づくにつれてリスク資産比率を引き下げ、安定的な運用へ移行する資産配分変更を自動的に行うものである。
【0004】
ラップ口座やロボアドバイザーといった投資一任運用は、個々人のリスク許容度に合わせてカスタマイズされた投資戦略を提供できるという点でゴールベースアプローチの資産運用において重要である。これらの運用サービスは、アルゴリズムに基づいて個人のリスク許容度や設定された目標から、最適なアセットアロケーションを提案することができることが多い。この自動化されたアプローチは、投資家が自分で運用戦略を立案する手間を省き、効率的な資産運用を実現する。
【0005】
投資信託と投資一任いずれにおいても予め設定した目標金額に到達したら自動的に現金化を行う、あるいは最もリスクの低い運用に変更されると行った投資商品あるいは運用サービスが存在する。ここではそういった運用をプロフィットロック型運用と呼ぶことにする。目標金額を意識した運用が行われるという観点でプロフィットロック型運用はゴールベースアプローチにおいて重要な運用手法の一つである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】TVERSKY, Amos; KAHNEMAN, Daniel. Advances in prospect theory: Cumulative representation of uncertainty. Journal of Risk and uncertainty, 1992, 5: 297-323.
【非特許文献2】DE GIORGI, Enrico; HENS, Thorsten. Making prospect theory fit for finance. Financial Markets and Portfolio Management, 2006, 20: 339-360.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来の運用サービスにはそれぞれに課題が存在する。
【0008】
ターゲットイヤーファンドは残りの運用期間が予め定められた期間になると自動的にリスク水準を下げる。そのため目標金額からの乖離を考慮することが出来ず、例えば目標金額から離れているにも関わらずリスク水準を下げた結果、運用期間の期末時点において目標金額からの乖離が大きくなってしまう可能性があるといった課題がある。
【0009】
ラップ口座やロボアドバイザーはアセスメント等により予め推定した顧客のリスク許容度に合わせた運用を行うものであるため、運用期間中に何らかの条件に基づきリスク水準を自動的に切り替えるといった運用が出来るものは少ない。リスク水準の自動的な切替が実装されているものでも市場のイベントに合わせたものが多く、個々人の目標金額や運用期間を考慮したものではない。
【0010】
プロフィットロック型運用は目標金額に到達すると運用を切り替えることが出来るという観点で目標金額を考慮することが出来ているが、それまでの間は常に最初のリスク水準を維持するため、長期間高いリスクを取り続けてしまうという問題がある。例えば資産価格が目標金額付近に近づいてもリスク水準を下げることが出来ないため、目標金額付近でも大きな下落を起こす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、プロフィットロック型運用と同様、ある金額に到達したら投資商品のリスク水準を切り替えるという考え方を元に、リスク水準を切り替える金額を一つではなく複数に拡張することでより細やかな運用戦略を実現するものである。
【0012】
また、期末における資産価格の確率分布を具体的に評価する指標を与えた場合に、最適なパラメータ(運用期間と切替金額のうち一部あるいは全て)を最適化計算により求めるための手段も提供する。
【0013】
即ち、本発明の第1態様の情報処理装置は、
所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する情報処理装置において、
運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する確率分布計算手段、
を備える。
【0014】
本発明の第1態様の情報処理方法及びプログラムの夫々は、本発明の第1態様の情報処理装置に対応する方法及びプログラムの夫々である。
【0015】
本発明の第2態様の情報処理装置は、
所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する情報処理装置において、
運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0,1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0,1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0,∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0,∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する確率分布計算手段、
を備える。
【0016】
本発明の第2態様の情報処理方法及びプログラムの夫々は、本発明の第2態様の情報処理装置に対応する方法及びプログラムの夫々である。
【0017】
本発明の第3態様の情報処理装置は、
所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化する情報処理装置において、
定量的な評価指標と、運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行うパラメータ最適化手段、
を備える。
【0018】
本発明の第3態様の情報処理方法及びプログラムの夫々は、本発明の第3態様の情報処理装置に対応する方法及びプログラムの夫々である。
【0019】
本発明の第4態様の情報処理装置は、
所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化する情報処理装置において、
定量的な評価指標と、運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0, 1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0, 1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0, ∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0, ∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行うパラメータ最適化手段、
を備える。
【0020】
本発明の第4態様の情報処理方法及びプログラムの夫々は、本発明の第4態様の情報処理装置に対応する方法及びプログラムの夫々である。
【発明の効果】
【0021】
本発明は以上のような従来の課題を解決するために提案された投資戦略であり、与えられた評価指標を改善する投資戦略を運用の期初時点において具体的に提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】プロフィットロック型運用による運用の流れを示した図である。
図2】2点切替型運用による運用の流れを示した図である。
図3】N点切替型運用による運用の流れを示した図である。
図4】N点切替型運用のモンテカルロシミュレーションと計算によって求めた確率密度関数を比較した図である。
図5】N点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数の計算の流れを示した図である。
図6】投資商品が特定の条件を満たす場合における厳密な計算とそれを使わなかった場合の計算速度を比較した図である。
図7】連続切替型運用による運用の流れを示した図である。
図8】連続切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数の計算の流れを示した図である。
図9】連続切替型運用のモンテカルロシミュレーションと計算によって求めた確率密度関数を比較した図である。
図10】N点切替型運用のパラメータを最適化する計算の流れを示した図である。
図11】N点切替型運用のパラメータを最適化による評価指標の推移を示した図である。
図12】20点切替型運用の最適化によって得られた切替金額を示した図である。
図13】連続切替型運用のパラメータを最適化する計算の流れを示した図である。
図14】本発明が適用される情報処理装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図15図14の情報処理装置の機能的構成例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る計算方法及び最適化方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
<プロフィットロック型運用の確率分布>
まずプロフィットロック型運用で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を考える。以降、期末における資産価格の確率分布を期末資産価格確率分布と呼ぶ。
期初における投資金額を以降では期初投資金額と呼ぶ。
図1はプロフィットロック型運用の運用の流れを示すフローチャートである。まず運用開始時に期初投資金額で投資商品0を購入する。その後、一定期間の運用を行い(S1)、運用期間が終了したかを確認し(S2)、終了していなければ、目標金額に到達したかを確認し(S3)、到達していなければ再び一定期間の運用(S1)を行い到達の確認を繰り返す。もし到達していたら保有している投資商品0から投資商品1へのリアロケーションを実施し(S4)、一定期間の運用を行い(S5)運用期間が終了したかの確認(S6)を繰り返して運用を続ける。リアロケーションは投資商品0を全て売却して投資商品1を購入する形でも、投資商品が複数の金融商品からなるポートフォリオであれば差分を売買する形でも構わない。
【0025】
プロフィットロック型運用の期末資産価格確率分布を計算することを考える。以下では目標金額の到達確認は随時行われることとし一定期間が開くことは考慮しない。これは一定期間に対して運用期間が十分に長い場合には妥当な近似になると考えられる。
【0026】
それぞれの投資商品の資産価格 S が以下の式で表される幾何ブラウン運動に従うと考える。
【数1】
・・・(1)
ここで、
μ は、ドリフトを表し、
σ は、ボラティリティを表し、
dW は、ブラウン運動の増分を表す。
ドリフトとボラティリティは投資商品によって異なる値を取りうる。
【0027】
プロフィットロック型運用におけるパラメータとして、期初投資金額を1とし、目標金額をSGとし、運用期間をtGとし、投資商品0のドリフトをμ0, ボラティリティをσ0とし、投資商品1のドリフトをμ1, ボラティリティをσ1とする。
【0028】
もし期初投資金額が1と異なる値のSInitであった時、期初投資金額が1で目標金額が SG/SInit となり他の変数は同様の新たなプロフィットロック型運用における期末資産評価額の確率変数を X と置くと、もともとの運用における期末資産評価額の確率変数は SInitX と書けるため、期初投資金額が1の場合のみを議論しても一般性を欠かない。
【0029】
プロフィットロック型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数を、期中に目標金額に到達しなかった場合とした場合に分けて計算する。
【0030】
目標金額に到達しなかった場合の確率密度関数への寄与は以下の式により計算することが出来る。
【数2】
・・・(2)
【0031】
ここでfLNは対数正規分布の確率密度関数であり、以下の式により表される。
【数3】
・・・(3)
【0032】
目標金額に到達した場合の確率密度関数への寄与は以下の式により計算することが出来る。
【数4】
・・・(4)
上記とこれ以降もそうであるが、数式中に出てくる積分を計算する際は二重指数関数型数値積分公式等の数値積分手法を用いて計算する。
【0033】
ここでfIGは逆ガウス分布の確率密度関数であり以下の式により表される。
【数5】
・・・(5)
【0034】
式(2)及び式(4)を合わせて考えるとプロフィットロック型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数 p(S) は下記のように計算できる。
【数6】
・・・(6)
【0035】
<2点切替型運用の確率分布>
次に投資商品を切り替える金額を2つ設けたような運用を考える。これ以降、この運用を2点切替型運用と呼ぶことにし、投資商品を切り替える金額を切替金額と呼ぶことにする。2点切替型運用は大きい方の切替金額を目標金額に設定することにより、目標金額より低い金額で第三の投資商品に切り替えるようなプロフィットロック型運用の拡張と考えることも出来る。
図2は2点切替型運用の運用の流れを示すフローチャートである。まず運用開始時に期初投資金額で投資商品0を購入する。その後、一定期間の運用を行い(S11)、運用期間が終了したかを確認し(S12)、終了していなければ、切替金額に到達したかを確認し(S13)、到達していなければ再び一定期間の運用(S11)を行い到達の確認を繰り返す。もし到達していたら保有している投資商品0から投資商品1へのリアロケーションを実施(S14)する。その後、一定期間の運用を行い(S15)、運用期間が終了したかを確認し(S16)、終了していなければ、目標金額に到達したかを確認し(S17)、到達していなければ再び一定期間の運用(S15)を行い到達の確認を繰り返す。もし到達していたら保有している投資商品1から投資商品2へのリアロケーションを実施(S18)し、一定期間の運用を行い(S19)運用期間が終了したかの確認(S20)を繰り返して運用を続ける。
【0036】
2点切替型運用の期末資産価格確率分布を計算することを考える。プロフィットロック型運用と同様に切替金額への到達確認は随時行われることとし一定期間が開くことは考慮しない。
【0037】
2点切替型運用におけるパラメータとして、期初投資金額を1とし、1番目の切替金額をS1とし、2番目の切替金額をS2とし、運用期間をtGとし、投資商品0のドリフトをμ0, ボラティリティをσ0とし、投資商品1のドリフトをμ1, ボラティリティをσ1とし、投資商品2のドリフトをμ2, ボラティリティをσ2とする。
【0038】
2点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数を、期中に1番目の切替金額に到達しなかった場合とした場合に分けて計算する。
【0039】
1番目の切替金額に到達しない場合の確率密度関数への寄与は式(2)と同様に以下のように計算できる。
【数7】
・・・(7)
【0040】
プロフィットロック型運用において、期初投資金額を1とし、目標金額をS2/S1とし、運用期間を t とし、投資商品0のドリフトをμ1, ボラティリティをσ1とし、投資商品1のドリフトをμ2, ボラティリティをσ2とした場合における、期末資産価格確率分布の確率密度関数を pPL(S; t) と置く。
1番目の切替金額に到達した場合の確率密度関数への寄与は到達するまでの時刻の確率密度関数と、上記プロフィットロック型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数 pPL(S; t)の畳み込みを用いて以下のように計算することが出来る。
【数8】
・・・(8)
【0041】
式(7)、式(8)を合わせて考えると2点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数 p(S) は下記のように計算できる。
【数9】
・・・(9)
【0042】
<N点切替型運用の確率分布(再帰的な計算の場合)>
同様の考え方に従ってN個の切替金額を設けた運用について考える。これ以降、この運用をN点切替型運用と呼ぶことにする。
図3はN点切替型運用の運用の流れを示すフローチャートである。まず運用開始時に期初投資金額で投資商品0を購入し、次の切替金額の番号を示す変数Kに0を代入する(S31)。その後、一定期間の運用を行い(S32)、運用期間が終了したかを確認し(S33)、終了していなければ、K+1番目の切替金額に到達したかを確認し(S34)、到達していなければ再び一定期間の運用(S32)を行い到達の確認を繰り返す。もし到達していたら保有している投資商品Kから投資商品K+1へのリアロケーションを実施(S35)し、KにK+1の値を代入する(S36)。KがNであるかを確認して(S37)そうでなければ、再び一定期間の運用(S32)を行い到達の確認を繰り返す。もしKがNであれば、一定期間の運用を行い(S38)運用期間が終了したかの確認(S39)を繰り返して運用を続ける。
【0043】
N点切替型運用の期末資産価格確率分布を計算することを考える。これまでと同様に切替金額への到達確認は随時行われることとし一定期間が開くことは考慮しない。
【0044】
N点切替型運用におけるパラメータとして、期初投資金額を1とし、K番目の切替金額をSKとし、運用期間をtGとし、投資商品KのドリフトをμK, ボラティリティをσKとする。投資商品は運用開始時点のものとN個の切替金額に対応するもので合計N+1個存在する。
【0045】
2点切替型運用の時と同様に、N点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数を、期中に1番目の切替金額に到達しなかった場合とした場合に分けて計算する。
【0046】
1番目の切替金額に到達しない場合の確率密度関数への寄与は式(7)と同様に以下のように計算できる。
【数10】
・・・(10)
【0047】
N-1切替型運用において、期初投資金額を1とし、K番目の切替金額をSK+1/S1とし、運用期間をtとし、投資商品KのドリフトをμK+1,ボラティリティをσK+1とした場合における、期末資産価格確率分布の確率密度関数を pN-1(S;t) と置く。
1番目の切替金額に到達した場合の確率密度関数への寄与は到達するまでの時刻の確率密度関数と、上記N-1切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数pN-1(S;t)の畳み込みを用いて以下のように計算することが出来る。
ただしN =3の時はp2(S;t) として前述の2点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数を用いることとする。
【数11】
・・・(11)
【0048】
式(10)、式(11)を合わせて考えるとN点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数 p(S)は下記のように計算できる。
【数12】
・・・(12)
【0049】
上記の計算方法はN点切替戦略型の再帰的な構造を明らかにし、N-1点までの切替戦略型の期末資産価格確率分布の確率密度関数を予め計算していた場合に使い回すことが出来るという観点では計算上のメリットがある。しかしN点切替戦略型の期末資産価格確率分布の確率密度関数を直接計算しようとすると複雑な項を持つ多重積分を計算する必要があるという観点での計算上の困難も存在する。
【0050】
<N点切替型運用の確率分布(積み上げ型の計算の場合)>
これまでとは別の方法でN点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数を計算する方法を考える。これからの計算方法は、各切替金額への到達時刻の確率分布を先に計算しておき、その後の価格推移による期末資産価格確率分布の確率密度関数との畳み込みを計算し、最後に全体を足し合わせるというものである。
【0051】
まず最初に計算が簡便になるようにN個の切替金額を指定するパラメータの記述方法を考える。
【0052】
k番目の切替金額とk+1番目の切替金額が最後の切替金額 SN に対して以下の関係を満たすようにパラメータκk+1を設定する。k は0からN-1までの値を動くとし、κ1を計算する時に必要になるS0は便宜的に1とする。Sk ≦ Sk+1 ≦ SN から κkは閉区間 [0, 1] に値を取る。
【数13】
・・・(13)
【0053】
予め切替金額 Skが与えられている場合は、上記関係式を用いてパラメータκk+1を以下の式で計算することが出来る。
【数14】
・・・(14)
【0054】
κkを用いてAk, Bkを以下のように定義する。
【数15】
・・・(15)
【数16】
・・・(16)
【数17】
・・・(17)
【0055】
上記のパラメータを用いるとk番目の切替金額は以下のように計算することが出来る。
【数18】
・・・(18)
【0056】
上記の方法でパラメータ化された切替金額を使ってN番目の切替金額への到達時刻の確率分布を計算する方法を考える。
【0057】
1番目の切替金額への到達時刻の確率分布 pfht 1(t) は幾何ブラウン運動の到達時刻の確率分布となるので逆ガウス分布を使って以下のように計算できる。
【数19】
・・・(19)
【0058】
2番目の切替金額への到達時刻は、1番目の切替金額への到達時刻と1番目の切替金額に到達した後に2番目の切替金額に到達するまでの時間の和になるので、逆ガウス分布の確率密度関数の畳み込みを用いて以下のように計算することが出来る。
【数20】
・・・(20)
【0059】
上記式を解析的に計算することは出来ないので実際に数値計算を行う際は、0から運用期間 tG までの区間を均等に分割し各点において上記式を数値積分する形で値を求め線形補間した区分線形関数で近似することで計算を行う。ただし分割幅に対して Ak が小さい場合は fIG がデルタ関数に近づきうまく近似することが出来ないので、適切な閾値を定めて Ak がそれを下回る場合は計算中の fIG をデルタ関数とみなして計算すれば良い。この場合、pfht k(t) = pfht k-1(t) となる。
【0060】
同様の考えを繰り返すことによりk+1番目の確率分布はk番目の確率分布を用いて以下のように計算することが出来る。
【数21】
・・・(21)
【0061】
上記のN番目の切替金額に到達する時刻の確率分布を用いてN点切替型運用における期末資産価格確率分布の確率密度関数を
1番目の切替金額に到達しない場合
k番目の切替金額には到達したがk+1番目の切替金額には到達しなかった場合
最後の切替金額に到達した場合
の大きく3つの場合に分けて計算することが出来る。
【0062】
まず1番目の切替金額に到達しない場合の確率密度関数への寄与は式(10)と同様に以下のような式で計算できる。
【数22】
・・・(22)
【0063】
k番目の切替金額には到達したがk+1番目の切替金額には到達しなかった場合の確率密度関数への寄与は以下の式によって計算できる。
【数23】
・・・(23)
【0064】
最後の切替金額に到達した場合の確率密度関数への寄与は以下の式によって計算できる。
【数24】
・・・(24)
【0065】
式(22)、式(23)、式(24)をまとめるとN点切替型運用における期末資産価格確率分布の確率密度関数は以下のような式で計算することが出来る。
【数25】
・・・(25)
ここで [a, b) はaを含みbを含まない半開区間を表し、 1A(S) は指示関数でありSが集合Aに含まれる時に1、それ以外の時は0となる関数である。
【実施例0066】
本実施例では、5点切替型運用においてモンテカルロシミュレーションにより得られた確率密度関数と式(25)による期末資産価格確率分布の確率密度関数を計算して比較を行う。5点切替型運用のパラメータは期初投資金額が1、切替金額は、
1番目の切替金額が1.2、
2番目の切替金額が1.4、
3番目の切替金額が1.6、
4番目の切替金額が1.8、
5番目の切替金額が2.0、
運用期間を10年とし、各投資商品は、
投資商品0のドリフトは0.797%(月率)、ボラティリティは2.887%(月率)、
投資商品1のドリフトは0.664%(月率)、ボラティリティは2.425%(月率)、
投資商品2のドリフトは0.533%(月率)、ボラティリティは1.963%(月率)、
投資商品3のドリフトは0.404%(月率)、ボラティリティは1.501%(月率)、
投資商品4のドリフトは0.277%(月率)、ボラティリティは1.039%(月率)、
投資商品5のドリフトは0.154%(月率)、ボラティリティは0.577%(月率)、
とする。
モンテカルロシミュレーションは図3のフローチャートに従ってサンプルが生成される。サンプル数は100万個、一定期間の運用は1ヶ月とし、毎月のリターンは投資商品のドリフトを期待値、ボラティリティをボラティリティとする正規分布に従うと仮定する。
式(25)による線グラフとモンテカルロシミュレーションの結果をビンの数を100とするヒストグラムとして棒グラフで示し重ねた図を図4に示す。式(25)による計算は一定期間の考慮がなく近似になっているがモンテカルロシミュレーションの結果とよく一致していることが確認できる。
【0067】
<切替金額に到達する時刻の確率分布の厳密な計算が出来る条件について>
上記の計算方法においてk番目の切替金額に到達する時刻の確率分布の計算は区分線形関数で近似しているため計算精度が近似精度に依存してしまう。しかし投資商品のドリフトとボラティリティが特定の関係を満たす場合は逆ガウス分布の再生性により近似計算を行うこと無く厳密に計算を行うことが出来る。以下にこのような計算が可能になる条件を3つ示す。
【0068】
まず、切替金額のパラメータAkと投資商品のドリフトとボラティリティが任意のkに対して
【数26】
・・・(26)
という関係を満たすと仮定する。
【0069】
この時、k番目の切替金額に到達する時刻の確率密度関数は以下のように計算することが出来る。
【数27】
・・・(27)
【0070】
次に、投資商品のドリフトとボラティリティが任意のkに対して
【数28】
・・・(28)
という関係を満たすと仮定する。ここで複号は各kについて独立に選択することが出来る。
【0071】
この時k番目の切替金額に到達する時刻の確率分布の確率密度関数は以下のように計算することが出来る。
【数29】
・・・(29)
【0072】
最後に、投資商品のドリフトとボラティリティが任意のkに対してある定数SRを用いて
【数30】
・・・(30)
という関係を満たすと仮定する。
【0073】
この時、k番目の切替金額に到達する時刻の確率分布の確率密度関数は以下のように計算することが出来る。
【数31】
・・・(31)
【0074】
以上を合わせるとN点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数は図5のようなフローチャートに従って計算する事ができる。まず計算に必要なパラメータの値を用意する(S41)。もし計算に必要なN-1点切替型運用の末資産価格確率分布の確率密度関数が求まっていれば(S42)式(12)を用いて計算する(S43)。もし求まっていなければ、投資商品が切替金額到達時刻の確率分布の厳密な計算が出来る条件を満たすかを確認する(S44)。もし満たさなければ、前述の近似的な方法で各切替金額までの到達時刻の確率密度関数を計算する(S45)。もし満たしていれば式(27)、式(29)、式(31)いずれかの厳密な方法で各切替金額までの到達時刻の確率密度関数を計算する(S46)。その後、一度も切替金額に到達しない場合の寄与と(S47)、k番目の切替金額には到達したがk+1番目の切替金額には到達しなかった場合の寄与と(S48)、最後の切替金額に到達した場合の寄与を計算し(S49)、それぞれの寄与を合計する(S50)ことでN点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数を計算することが出来る。
【実施例0075】
本実施例では、N点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数を近似的な方法で計算する場合と前述の条件式(30)を満たす場合に式(31)で厳密に計算する場合との計算速度を比較する。N点切替型運用のパラメータは期初投資金額が1、運用期間を10年とし、切替金額は1.0から2.0までの間をN等分する形で設定し、投資商品のボラティリティは0.577%(月率)から2.887%(月率)までをN等分し、ドリフトはSRを0.261として式(30)により計算し、ボラティリティの高いものから順に投資商品に対応させる。
図6は切替金額の個数を10から100まで変化させた時の近似的な方法での計算と厳密に計算する場合の速度を比較した図である。厳密な計算の10点切替戦略における計算時間を1としてそれぞれの場合においてかかった計算時間の倍率をプロットしている。厳密な場合のほうが近似する必要が無いことに加えて数値積分を計算する必要がないため速度が速くなっていることが分かる。ただし厳密な計算は投資商品が対応する条件を満たす場合にしか使えないことに注意が必要である。
【0076】
<連続切替型運用の確率分布>
N点切替型運用のNを非常に大きくした極限として連続的な切替金額を用いた運用を考えることが出来る。これ以降、この運用を連続切替型運用と呼ぶことにする。連続切替型運用は切替金額の範囲が有界な場合と非有界な場合の2種類に分けられる。有界な場合を有界連続切替型運用、非有界な場合を非有界連続切替型運用と呼ぶことにする。
図7は連続切替型運用の運用の流れを示すフローチャートである。まず運用開始時に期初投資金額で投資商品0を購入し、過去最高金額を表す変数Shighに期初投資金額SInitを代入する(S61)。その後、一定期間の運用を行い(S62)、運用期間が終了したかを確認し(S63)、終了していなければ、その時点での資産評価額SがShighより高いか確認し(S64)、高くなければ再び一定期間の運用(S62)を行い資産評価額の確認を繰り返す。もし高ければ、非有界連続切替型運用であるか(S65)そうでなければSが目標金額SGより高いかを確認し(S66)高くなければ、運用している投資商品からSに対応する投資商品へのリアロケーションを実施し(S67)、ShighにSを代入し(S68)、再び一定期間の運用(S62)を行い資産評価額の確認を繰り返す。もし有界連続切替型でありSがSGより高ければ(S66)、一定期間の運用を行い(S69)運用期間が終了したかの確認(S70)を繰り返して運用を続ける。
【0077】
連続切替型運用の期末資産価格確率分布を計算することを考える。これまでと同様に切替金額への到達確認は随時行われることとし一定期間が開くことは考慮しない。
【0078】
まず有界連続切替型運用について考える。有界連続切替型運用におけるパラメータとして、期初投資金額を1とし、目標金額をSGとし、運用期間をtGとし、z(S)を閉区間[1, SG]から閉区間[0, 1]への関数で各金額における投資商品のインデックスを返す関数とし、μ(z), σ(z) を投資商品のインデックス(閉区間[0, 1])から対応する投資商品のドリフトとボラティリティを返す関数とする。連続的なインデックスをもつ投資商品は、例えば株式と債券の2資産ポートフォリオを考えた時の保有比率にインデックスを対応付けることで実現することが出来る。
【0079】
有界連続切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数を、目標金額にまで到達しなかった場合と到達した場合に分けて計算する。
【0080】
目標金額にまで到達しなかった場合の確率密度関数への寄与は以下のような式で計算できる。
【数32】
・・・(32)
ここで max(a, b) は a, b のうち大きい方の値を返す関数である。
【0081】
ここで g(s, t) は投資商品が連続的に変化する中で金額 s に初めて到達する時刻の確率密度関数を表す関数であり以下のように計算することが出来る。
【数33】
・・・(33)
【0082】
目標金額にまで到達した場合の確率密度関数への寄与は以下のような式で書ける。
【数34】
・・・(34)
【0083】
式(32)、式(34)を合わせると有界連続切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数は以下のように計算することが出来る。
【数35】
・・・(35)
【0084】
次に非有界連続切替型運用について考える。非有界連続切替型運用におけるパラメータとして、期初投資金額を1とし、運用期間をtGとし、z(S)を半開区間[1, ∞)から半開区間[0, ∞)への関数で各金額における投資商品のインデックスを返す関数とし、μ(z), σ(z) を投資商品のインデックス(半開区間[0, ∞))から対応する投資商品のドリフトとボラティリティを返す関数とする。
【0085】
非有界連続切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数は以下のように計算することが出来る。
【数36】
・・・(36)
【0086】
以上を合わせると連続切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数は図8のようなフローチャートに従って計算する事ができる。まず計算に必要なパラメータの値を用意し(S81)、式(33)により各資産価格までの到達時刻の確率密度関数を計算する(S82)。もし有界連続切替型運用でなければ(S83)、式(36)を使って確率密度関数を計算する(S84)。そうでなければ式(32)を使って目標金額まで到達しなかった場合の寄与(S85)と式(34)を使って目標金額まで到達した場合の寄与(S86)を計算し、それぞれの寄与を合計(S87)して確率密度関数を計算する。
【実施例0087】
本実施例では、有界連続切替型運用においてモンテカルロシミュレーションにより得られた確率密度関数と式(35)による期末資産価格確率分布の確率密度関数を計算して比較を行う。有界連続切替型運用のパラメータは期初投資金額が1、目標金額が4、運用期間を30年とし、[1, 4]を定義域とする投資商品のインデックスを返す関数を z(S) = (S-1)/3、投資商品のドリフトを返す関数を μ(z) = 0.165% + z × 0.632%、ボラティリティを返す関数をμ(z) = 0.577% + z × 2.309%とする。
モンテカルロシミュレーションは図7のフローチャートに従ってサンプルが生成される。サンプル数は100万個、一定期間の運用は1ヶ月とし、毎月のリターンは投資商品のドリフトを期待値、ボラティリティをボラティリティとする正規分布に従うと仮定する。
式(35)による線グラフとモンテカルロシミュレーションの結果をビンの数を100とするヒストグラムとして棒グラフで示し重ねた図を図9に示す。式(25)による計算は一定期間の考慮がなく近似になっているがモンテカルロシミュレーションの結果とよく一致していることが確認できる。
【0088】
<N点切替型運用の最適化手法>
従来であればN点切替型運用のような複雑な運用戦略の確率分布はモンテカルロシミュレーションを用いて計算する必要があり、計算の効率が悪く、計算結果がノイズの影響を受ける事に加え、与えられた評価指標の下で最適なパラメータを求めるためにはグリッドサーチなどの効率の悪い手法を用いる必要があった。
しかしこれまでの議論により、N点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数を解析的に求めることが出来るようになったため、期末資産価格確率分布を定量的に評価する指標が与えられた場合には、その値も解析的に計算できるようになる。その結果、最適なパラメータの探索を最適化手法を用いて実行することが可能になった。
【0089】
定量的に評価する指標の例として目標金額達成確率が挙げられる。これは目標金額SGとN点切替型運用の期末資産価格確率分布の確率密度関数p(S)を用いて以下のように計算することが出来る。
【数37】
・・・(37)
【0090】
定量的に評価する指標のもう一つの例としてプロスペクト理論を用いた評価の方法が考えられる。プロスペクト理論を用いて連続的な確率分布を評価する方法は以下のようにして行われる。
【0091】
Xを期末資産価格を表す確率変数、FXをXの累積分布関数、目標金額をSG、u+を参照点よりプラスの領域における価値関数、u-を参照点よりマイナスの領域における価値関数、T+を参照点よりプラスの領域における確率加重関数、T-を参照点よりマイナスの領域における確率加重関数とし、参照点は目標金額と一致していると仮定する。
【0092】
この時、プロスペクト理論における評価指標は以下の式で計算することが出来る。
【数38】
・・・(38)
【0093】
プロスペクト理論において価値関数と確率加重関数は決められているものではなく選択に恣意性がある。特に資産価格の確率分布のような非有界な連続的に値を取る対象を評価する場合、価値関数は通常使用される Tversky and Kahneman が非特許文献1で提案した区分冪関数だとサンクトペテルブルクのパラドックスを引き起こすことを非特許文献2で指摘されているため、N点切替型運用の期末資産価格確率分布の評価時には Giorgi and Hens が非特許文献2で提案した区分指数型関数型の価値関数を使用して計算する。
【0094】
プロスペクト理論における評価指標を計算する際にはN点切替戦略型の期末資産価格確率分布の累積分布関数を計算する必要がある。これは累積分布関数の定義より以下の式となり、3つの場合に分けて計算できることが分かる。
【数39】
・・・(39)
【0095】
まずP1(X)は以下の式により計算することが出来る。
【数40】
・・・(40)
ここで Φ(X) は標準正規分布の累積分布関数である。
【0096】
次にP2 k(X)は以下の式により計算することが出来る。
【数41】
・・・(41)
【0097】
最後にP3(X)は以下の式により計算することが出来る。
【数42】
・・・(42)
【0098】
式(40)、式(41)、式(42)をまとめるとN点切替戦略型の期末資産価格確率分布の累積分布関数は以下のように計算することが出来る。
【数43】
・・・(43)
【0099】
上述のN点切替戦略型の期末資産価格確率分布の累積分布関数の計算には引数の資産価格より低い切替金額からの寄与を全て計算する必要があるが、プロスペクト理論による評価指標を数値積分により計算する際は切替金額より高い点において累積分布関数を評価する回数が多くなると考えられる。相補累積分布関数の計算には引数より高い切替金額からの寄与だけを計算する形になるため、プロスペクト理論による評価指標を数値積分により計算する際は相補累積分布関数を用いた形で計算する方が計算効率が良いと考えられる。
【0100】
Xの相補累積分布関数を と書く時、相補累積分布関数の定義より以下の式が成り立つ。
【数44】
・・・(44)
【0101】
よって相補累積分布関数を利用したプロスペクト理論における評価指標は以下の式で計算することが出来る。
【数45】
・・・(45)
【0102】
N点切替戦略型の期末資産価格確率分布の相補累積分布関数は定義より以下の式となり、累積分布関数と同様に3つの場合に分けて計算できることが分かる。
【数46】
・・・(46)
【0103】
まずマクロン付P(X)は以下の式により計算することが出来る(マクロン付Pとは、上にバーの付くPを意味するものとする。以下同様。)。
【数47】
・・・(47)
【0104】
次にマクロン付P k(X)は以下の式により計算することが出来る。
【数48】
・・・(48)
【0105】
最後にマクロン付P(X)は以下の式により計算することが出来る。
【数49】
・・・(49)
【0106】
以上をまとめるとN点切替戦略型の期末資産価格確率分布の相補累積分布関数は以下のように計算することが出来る。
【数50】
・・・(50)
【0107】
定量的に評価する指標の最後の例として目標金額周りのm次モーメントが挙げられる。目標金額SG周りのm次モーメント は定義より以下のように計算することが出来る。
【数51】
・・・(51)
【0108】
目標金額周りのm次モーメントは原点周りのm次までのモーメントを使って以下のように計算することが出来る。
【数52】
・・・(52)
【0109】
原点周りのm次モーメントは定義より以下の式となり、3つの場合に分けて計算できることが分かる。
【数53】
・・・(53)
【0110】
まずE1 mは以下の式により計算することが出来る。
【数54】
・・・(54)
【0111】
ここでFIGは以下の式で表されるような逆ガウス分布の累積分布関数である。
【数55】
・・・(55)
【0112】
次にE2 m,kは以下の式により計算することが出来る。
【数56】
・・・(56)
【0113】
最後にE3 mは以下の式により計算することが出来る。
【数57】
・・・(57)
【0114】
式(54)、式(56)、式(57)をまとめると原点周りのm次モーメントは以下のように計算することが出来る。
【数58】
・・・(58)
【0115】
以上のように定量的な評価指標が与えられれば解析的に計算することが出来るので、与えれた評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータ(運用期間と切替金額のうち一部あるいは全て)を最適化手法によって求めることが出来る。
【0116】
特にN点切替戦略型の期末資産価格確率分布に関する式は運用期間と切替金額に対して微分可能となっているため、評価指標も微分可能である場合は、勾配降下法や準ニュートン法(BFGS法)といった勾配情報を用いる最適化手法を使って最適化することが出来る。各パラメータによる導関数は解析的に求めることも出来るが自動微分を使ってプログラムから計算することも可能である。
【0117】
前述の自動微分による導関数の評価に時間がかかる場合や、そもそも評価指標が微分可能でない場合には遺伝的アルゴリズムやCMA-ESといった勾配情報を用いない最適化手法を考えることも可能である。
【0118】
以上の最適化のフレームワークをフローチャートにまとめると図10のようなフローチャートに従って計算する事ができる。まず定量的な評価指標を与える(S91)。次に最適化対象とならないパラメータを与え(S92)、最適化対象となるパラメータの初期値を与える(S93)。もし評価指標が微分可能であれば(S94)、勾配情報を用いる最適化手法を用いて最適化を行う(S95)。逆に微分可能でない場合や導関数の計算コストが高い場合は、勾配情報が必要ない最適化手法を用いて最適化を行う(S96)。最適化の結果、最適化されたパラメータを得る(S97)。
【実施例0119】
本実施例では、目標金額周りの2次モーメントを評価指標としてN点切替型運用の切替金額の最適化を実際に行う。評価指標の値が小さくなるほど期末資産価格が目標金額の周辺に分布すると解釈できるため、評価指標が小さくなるように最適化を行う。N点切替型運用のパラメータは期初投資金額が1、目標金額が2運用期間を10年とし、切替金額は最後の切替金額を目標金額に固定してそれ以外の値は最適化により求める。投資商品のボラティリティは0.866%(月率)から2.598%(月率)までをN等分し、ドリフトはSRを0.280として式(30)により計算し、ボラティリティの高いものから順に投資商品に対応させる。切替金額の初期値は期初投資金額から目標金額をN等分する形で設定する。最適化手法にはCMA-ESを用いる。
図11にNを2から20まで変化させた時の最適化後の評価指標の値の推移を示した。切替金額を増やすにつれて評価指標の値が小さくなっていくことが分かる。
図12に20点切替戦略時の場合における最適化結果である切替金額の値を示した。目標金額の手前である1.5付近から徐々にリスク水準を下げていく様子が確認できる。
【0120】
<連続切替型運用の最適化手法>
N点切替型運用と同様に連続切替型運用においても期末資産価格確率分布の確率密度関数を解析的に求めることが出来るようになったため、期末資産価格確率分布を定量的に評価する指標が与えられた場合には、その値も解析的に計算できるようになる。その結果、最適なパラメータの探索を最適化手法を用いて実行することが可能になった。
【0121】
連続切替型運用の期末資産価格確率分布を含む最適化を行う際は、投資商品のインデックスを返す関数 z(S) としてパラメータ付けられた関数を用いる。例えば予めm個の特性関数を定めて、その線形結合として z(S) 表すことでm次元ベクトルの最適化に帰着させる事ができる。
【数59】
・・・(59)
【0122】
以上の最適化のフレームワークをフローチャートにまとめると図13のようなフローチャートに従って計算する事ができる。まず定量的な評価指標を与える(S101)。次に最適化対象とならないパラメータを与え(S102)、最適化対象となるパラメータの初期値を与える(S103)。もし評価指標が微分可能であれば(S104)、勾配情報を用いる最適化手法を用いて最適化を行う(S105)。逆に微分可能でない場合や導関数の計算コストが高い場合は、勾配情報が必要ない最適化手法を用いて最適化を行う(S106)。最適化の結果、最適化されたパラメータを得る(S107)。
【0123】
<最適化手法を実現する装置>
図14は、本発明が適用される情報処理装置のハードウェアの構成例を示すブロック図である。
N点切替型運用の最適化手法及び連続切替型運用の最適化手法は、例えば図14に示す情報処理装置1を使って実行することができる。即ち、図14に示す情報処理装置1は、図10及び図13に示される各ステップを実行する機能を有する装置である。
【0124】
情報処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)11と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)13と、バス14と、入出力インターフェース15と、出力部16と、入力部17と、記憶部18と、通信部19と、ドライブ20とを備えている。
【0125】
CPU11は、ROM12に記録されているプログラム、又は、記憶部18からRAM13にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。
RAM13には、CPU11が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0126】
CPU11、ROM12及びRAM13は、バス14を介して相互に接続されている。このバス14にはまた、入出力インターフェース15も接続されている。入出力インターフェース15には、出力部16、入力部17、記憶部18、通信部19及びドライブ20が接続されている。
【0127】
出力部16は各種液晶ディスプレイ等で構成され、各種情報を出力する。
入力部17は、各種ハードウェアボタン等で構成され、各種情報を入力する。
記憶部18は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等で構成され、各種データを記憶する。
通信部19は、インターネットを含むネットワークを介して他の装置との間で行う通信を制御する。
【0128】
ドライブ20は、必要に応じて設けられる。ドライブ20には磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリ等よりなる、リムーバブルメディア30が適宜装着される。ドライブ20によってリムーバブルメディア30から読み出されたプログラムは、必要に応じて記憶部18にインストールされる。またリムーバブルメディア30は、記憶部18に記憶されている各種データも、記憶部18と同様に記憶することができる。
【0129】
[機能的構成]
次に、情報処理装置1の機能について、図15を参照して説明する。
図15は、図14の情報処理装置1の機能的構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0130】
図15に示すように、情報処理装置1のCPU11においては、N点切替型運用の最適化手法及び連続切替型運用の最適化手法が実行される場合、確率分布計算部51と、パラメータ最適化部52とが機能する。
【0131】
情報処理装置1が、所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する第1態様の場合、CPU11において次のように確率分布計算部51が機能する。
即ち、確率分布計算部51は、運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する。
【0132】
ここで、確率分布計算部51は、前記投資商品の価格変動を前記幾何ブラウン運動と見做した時の前記パラメータが特定の条件を満たす場合についての、前記計算を実行することができる。
これにより、前記計算として、より簡潔で高速な計算が実行可能になる。
【0133】
また、情報処理装置1が、所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する第2態様の場合、CPU11において次のように確率分布計算部51が機能する。
即ち、確率分布計算部51は、運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0,1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0,1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0,∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0,∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する。
【0134】
また、情報処理装置1が、所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化する第3態様の場合、CPU11において次のようにパラメータ最適化部52が機能する。
即ち、パラメータ最適化部52は、定量的な評価指標と、運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行う。
【0135】
ここで、パラメータ最適化部52は、前記評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略の前記パラメータとして、運用期間と切替金額のうち一部あるいは全ての最適化を行うことができる。
【0136】
また、評価指標として、累積プロスペクト理論に基づく効用を用いることができる。
これにより、計算量を抑え、数値的な不安定さを軽減することが可能になる。
【0137】
また、情報処理装置1が、所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化する第4態様の場合、CPU11において次のようにパラメータ最適化部52が機能する。
即ち、パラメータ最適化部52は、定量的な評価指標と、運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0, 1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0, 1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0, ∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0, ∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行う。
【0138】
ここで、パラメータ最適化部52は、前記評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略の前記パラメータとして、運用期間と切替金額のうち一部あるいは全ての最適化を行うことができる。
【0139】
以上の内容を換言すると、情報処理装置1は、ゴールベースアプローチの資産運用において運用中に投資商品を切り替える運用戦略の最適化装置としても機能する。
即ち、情報処理装置1は、目標金額、運用期間、投資対象となる投資商品群が与えられた時に、目標金額までの間にマイルストーンとなる金額を複数設定し、運用期間中にその金額に到達した場合に投資商品を切り替えることで期末時点における資産評価額の確率分布を制御する。また情報処理装置1は、資産評価額の確率分布を定量的に評価する指標が与えられれば最適化手法により最適化対象となるパラメータを高速に計算することができる。
【0140】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0141】
例えば、図14に示すハードウェア構成は、本発明の目的を達成するための例示に過ぎず、特に限定されない。
【0142】
また、図15に示す機能ブロック図は、例示に過ぎず、特に限定されない。即ち、上述した一連の処理を全体として実行できる機能が情報処理システムに備えられていれば足り、この機能を実現するためにどのような機能ブロックを用いるのかは、特に図15の例に限定されない。
【0143】
また、機能ブロックの存在場所も、図15に限定されず、任意でよい。
また、1つの機能ブロックは、ハードウェア単体で構成してもよいし、ソフトウェア単体で構成してもよいし、それらの組み合わせで構成してもよい。
【0144】
各機能ブロックの処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータ等にネットワークや記録媒体からインストールされる。
コンピュータは、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータであってもよい。また、コンピュータは、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能なコンピュータ、例えばサーバの他汎用のスマートフォンやパーソナルコンピュータであってもよい。
【0145】
このようなプログラムを含む記録媒体は、各ユーザにプログラムを提供するために装置本体とは別に配布される、リムーバブルメディアにより構成されるだけではなく、装置本体に予め組み込まれた状態で各ユーザに提供される記録媒体等で構成される。
【0146】
なお、本明細書において、記録媒体に記録されるプログラムを記述するステップは、その順序に添って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的或いは個別に実行される処理をも含むものである。
【0147】
また、本明細書において、システムの用語は、複数の装置や複数の手段等より構成される全体的な装置を意味するものである。
【0148】
以上まとめると、本発明が適用される情報処理装置は、次のような構成を取れば足り、各種各様な実施形態を取ることができる。
【0149】
即ち、本発明が適用される第1態様の情報処理装置(例えば図13の情報処理装置1)は、
所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する情報処理装置において、
運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する確率分布計算手段(例えば図14の確率分布計算部51)、
を備える。
【0150】
前記確率分布計算手段は、前記投資商品の価格変動を前記幾何ブラウン運動と見做した時の前記パラメータが特定の条件を満たす場合についての、前記計算を実行する、
ことができる。
これにより、前記計算として、より簡潔で高速な計算が実行可能になる。
【0151】
また、本発明が適用される第2態様の情報処理装置(例えば図13の情報処理装置1)は、
所与の運用戦略で運用を行った場合の期末における資産価格の確率分布を計算する情報処理装置において、
運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0,1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0,1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0,∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0,∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行った場合についての、期末における資産価格の確率分布の計算を実行する確率分布計算手段(例えば図14の確率分布計算部51)
を備える。
【0152】
また、本発明が適用される第3態様の情報処理装置(例えば図13の情報処理装置1)は、
所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化する情報処理装置において、
定量的な評価指標と、運用期間と、期初における投資金額と、N個(Nは、1以上の整数値)の切替金額と、運用開始時点及び切替金額に対応するN+1個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータとが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行うパラメータ最適化手段(例えば図14のパラメータ最適化部52)、
を備える。
【0153】
前記パラメータ最適化手段は、前記評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略の前記パラメータとして、運用期間と切替金額のうち一部あるいは全ての最適化を行う、
ことができる。
【0154】
評価指標として、累積プロスペクト理論に基づく効用を用いる、
ことができる。
これにより、計算量を抑え、数値的な不安定さを軽減することが可能になる。
【0155】
また、本発明が適用される第4態様の情報処理装置(例えば図13の情報処理装置1)は、
所与の評価指標を最大化あるいは最小化するような運用戦略のパラメータを最適化する情報処理装置において、
定量的な評価指標と、運用期間と、目標金額と、期初における投資金額と、期初における投資金額から目標金額までの金額(連続値)から閉区間[0, 1]に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と閉区間[0, 1]でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組、もしくは期初における投資金額以上の金額(連続値)から半開区間[0, ∞)に値を取る投資商品のインデックスを返す関数と半開区間[0, ∞)でインデックス付けられた連続個の投資商品の価格変動を幾何ブラウン運動と見做した時のパラメータの組とが与えられたときに、期初における投資金額を全て用いて最初の投資商品を購入して運用を始め、それぞれの切替金額に最初に到達する度に投資対象を対応する投資商品に変更する運用を行う場合についての、評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略のパラメータの最適化を行うパラメータ最適化手段(例えば図14のパラメータ最適化部52)、
を備える。
【0156】
前記パラメータ最適化手段は、前記評価指標を最大化あるいは最小化する運用戦略の前記パラメータとして、運用期間と切替金額のうち一部あるいは全ての最適化を行う、
ことができる。
【符号の説明】
【0157】
1・・・情報処理装置、11:CPU、12:ROM、13:RAM、14:バス、15:入出力インターフェース、16:出力部、17:入力部、18:記憶部、19:通信部、20:ドライブ、30:リムーバブルメディア、51・・・確率分布計算部、52・・・パラメータ最適化部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15