(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045188
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】パターン形成された有機発光ダイオードの配合物を乾燥させるシステム
(51)【国際特許分類】
H10K 71/13 20230101AFI20240326BHJP
【FI】
H10K71/13
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024001339
(22)【出願日】2024-01-09
(62)【分割の表示】P 2021503173の分割
【原出願日】2019-07-23
(31)【優先権主張番号】62/702,270
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/812,143
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513317345
【氏名又は名称】カティーバ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140833
【弁理士】
【氏名又は名称】岡東 保
(72)【発明者】
【氏名】コナー エフ. マディガン
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ソ-カン コー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】インクジェット技術を用いて堆積させた有機発光ダイオード材料からキャリア液を精密かつ均一に除去して、画素および画質のばらつきを防ぐ。
【解決手段】揮発性キャリア液に溶解または懸濁した有機発光ダイオード材料で湿潤化され、乾燥境界領域によって互いに分離された表示領域がパターン形成された基板を乾燥させる乾燥室が提供される。マスクにより、湿潤領域に対向する蒸気透過領域と乾燥境界領域に対向する蒸気バリア領域とを用いて真空吸引時のキャリア液の乾燥速度を調整することによって、または、真空吸引前に迅速にキャリア液によって飽和する程度の低容積を有する乾燥室に湿潤領域をまとめて収容することによって、真空吸引時のキャリア液の乾燥速度を調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に配設され、支持面を有する基板支持体と、
前記容器に結合されているガス源と、
前記容器に結合されている真空源と、
前記容器内の前記基板支持体の前記支持面から離れて配設される複数の蒸気透過領域と複数の蒸気バリア領域とを有する硬質体を含むマスクであって、前記マスクと前記支持面との間の距離を調整可能なように移動可能なマスクと、
前記マスクと前記真空源の間に設けられたガス分配要素であって、前記ガス分配要素は、少なくとも一つの孔を有し、さらに前記マスクと前記ガス分配要素の間の間隙を包囲する蒸気バリアを有する、ガス分配要素と、を備える乾燥室。
【請求項2】
前記マスクは、前記容器を貫通して延在するマスク支持体を有する、請求項1に記載の乾燥室。
【請求項3】
前記マスク支持体は、前記マスクの両側に配置されている、請求項2に記載の乾燥室。
【請求項4】
前記ガス源は、前記蒸気バリアの外側にガス流を供給する位置で前記容器に結合されている、請求項1に記載の乾燥室。
【請求項5】
前記マスクは、前記マスクの近位面から前記支持面に向かって延在する壁を備える、請求項1に記載の乾燥室。
【請求項6】
前記基板支持体は、温度制御要素を備える、請求項1に記載の乾燥室。
【請求項7】
前記ガス分配要素は、領域選択的である、請求項1に記載の乾燥室。
【請求項8】
前記複数の蒸気透過領域の各々は、単一の開口部、複数の開口部、メッシュ部材、スクリーン部材、または多孔質部材を有する、請求項1に記載の乾燥室。
【請求項9】
容器内に配設され、支持面を有する基板支持体と、
前記容器に結合されている真空源と、
前記容器に結合されているガス源と、
前記容器内の前記基板支持体の前記支持面から離れて配設される複数の蒸気透過領域と複数の蒸気バリア領域とを有する硬質体を含むマスクであって、前記マスクと前記支持面との間の距離を調整可能なように移動可能なマスクとを有し、前記複数の蒸気透過領域の各々は、単一の開口部、複数の開口部、メッシュ部材、スクリーン部材、または多孔質部材であり、
前記マスクと前記真空源の間に設けられたガス分配要素であって、前記ガス分配要素は、少なくとも一つの孔を有し、さらに前記マスクと前記ガス分配要素の間の間隙を包囲する蒸気バリアを有する、ガス分配要素と、を備える乾燥室。
【請求項10】
前記マスクは、前記容器を貫通して延在するマスク支持体を有する、請求項9に記載の乾燥室。
【請求項11】
前記マスク支持体は、前記マスクの両側に配置されている、請求項10に記載の乾燥室。
【請求項12】
前記マスクは、前記マスクの近位面から前記支持面に向かって延在する壁を備える、請求項9に記載の乾燥室。
【請求項13】
前記基板支持体は、温度制御要素を備える、請求項9に記載の乾燥室。
【請求項14】
容器内に配設され、支持面を有する基板支持体と、
前記容器に結合されたガス源および真空源と、
前記容器内の前記基板支持体の前記支持面から離れて配設される複数の蒸気透過領域と複数の蒸気バリア領域とを有するマスクであって、前記マスクと前記支持面との間の距離を調整可能なように移動可能な硬質体を含むマスクと、
前記マスクと前記真空源の間に設けられたガス分配要素であって、前記ガス分配要素は、少なくとも一つの孔を有し、さらに蒸気バリアを有し、前記ガス分配要素と前記マスクは、前記蒸気バリアによって囲まれた前記基板支持体の上方領域を包囲する、ガス分配要素と、
を備える乾燥室。
【請求項15】
前記基板支持体は、温度制御要素を備える、請求項14に記載の乾燥室。
【請求項16】
前記マスクは、前記基板支持体の両側に配置され、前記容器を貫通して延在するマスク支持体を備える、請求項14に記載の乾燥室。
【請求項17】
前記ガス分配要素は、領域選択的である、請求項14に記載の乾燥室。
【請求項18】
前記複数の蒸気透過領域の各々は、単一の開口部、複数の開口部、メッシュ部材、スクリーン部材、または多孔質部材を有する、請求項14に記載の乾燥室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2018年7月23日出願の米国仮特許出願第62/702,270号および2019年2月28日出願の米国仮特許出願第62/812,143号の利益を主張し、これらの出願を参照により本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオード(有機LED)とは、発光部品が有機材料の層または膜を備える発光ダイオード(LED)のことである。テレビ、コンピュータ、携帯電話等の表示装置において、個々に制御される微小な有機LEDのアレイを画素として含むものが増えている。
【0003】
インクジェット技術を用いて、キャリア液に溶解または懸濁した有機LED材料を基板上に堆積させることができる。紙に文字を印刷する場合と同様の工程で、有機LED配合物の液滴を所望のパターンに精密に配置することによって、有機LED画素を適切な基板上に「印刷」する。その後、乾燥処理を行うと、堆積させた液からキャリア液が除去され、有機LED材料が残る。
【0004】
画素の物理的な歪み、ひいては画質への悪影響を引き起こすことがないように、乾燥処理中に温度、流量、および圧力を精密に制御してキャリア液を除去する。しかし、圧力および温度の精密な制御は、画素の規模では難しい。そのため、表示領域全体にわたって画素および画質がばらつく可能性がある。したがって、堆積させた有機LED材料からキャリア液を除去するように精密かつ均一に制御する器具および方法が求められている。
【発明の概要】
【0005】
本明細書に記載の実施形態では、容器内に配設され、支持面を有する基板支持体と、容器内の基板支持体の支持面にわたって配設される複数の蒸気透過領域と複数の蒸気バリア領域とを有するマスクであって、支持面からの距離を調整可能なマスクと、容器に結合されたガス源と、容器に結合された真空源とを備える、乾燥室が提供される。
【0006】
本明細書に記載の他の実施形態では、複数の乾燥境界領域によって分離され、キャリア液で湿潤化された複数の湿潤領域を有する基板を乾燥させる方法であって、複数の蒸気透過領域と複数の蒸気バリア領域とを有するマスクを基板に対して位置決めする工程と、マスクの複数の蒸気透過領域を介して、基板の複数の湿潤領域からキャリア液を吸引する工程とを含む、方法が提供される。
【0007】
本明細書に記載の他の実施形態では、複数の乾燥境界領域によって分離された複数の湿潤領域を有する基板を支持する基板支持体であって、複数の湿潤領域が、キャリア液蒸気圧を呈する揮発性キャリア液を含む、基板支持体と、5分以内に揮発性キャリア液の蒸気によって飽和に近づく容積を有する処理空間を基板の上方に画定するガス分配機構と、処理空間から揮発性キャリア液の蒸気を吸引する真空源とを備える、乾燥室が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
添付の図面において、詳細な説明は限定としてではなく例示として示している。図中、同様の参照符号は同様の要素を指す。
【0009】
【
図1】境界領域115によって分離された複数の表示領域110を含むようにパターン形成された基板105を乾燥させる乾燥室100を示す図である。
【0010】
【
図2】
図1に示す基板105およびマスク125の一部を詳細に示す図である。
【0011】
【
図3】基板105およびマスク125の平面図である。
【0012】
【
図4】別の実施形態に係る乾燥室400を詳細に示す図である。
【0013】
【0014】
【0015】
【
図7A】
図7Aは、異なる実施形態に係るマスクの一部を示す断面図である。
【
図7B】
図7Bは、異なる実施形態に係るマスクの一部を示す断面図である。
【
図7C】
図7Cは、異なる実施形態に係るマスクの一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、境界領域115によって分離された複数の表示領域110を含むようにパターン形成された基板105を乾燥させる乾燥室100を示す図である。基板105は、例えば、多数の有機LEDディスプレイ用の画素アレイが堆積された大型の「母ガラス」であってもよい。境界領域115は、例えば駆動電子部品を含み得るが、画素は含まない。乾燥室100の容器102内の温度制御された支持体120上に基板105を載置して乾燥させると、揮発性キャリア液に溶解または懸濁した有機LED材料によって表示領域110がパターン形成される。境界領域115には画素が含まれないため、キャリア液も存在しない。したがって、キャリア液の蒸気濃度は、境界領域115の上方では比較的低くなる可能性がある。このように基板105の表面全体にわたって濃度が不均一になると、境界領域115に隣接する画素が表示領域110の内部にある画素よりも早く乾燥する可能性がある。乾燥が不均一であると、画素形成が不均一となり、ひいては画質の低下を生じさせる可能性がある。画素を規定するインク層は平坦であることが望ましいが、例えば、乾燥条件が理想的でない場合、盛り上がった層、または窪んだ層が形成されることがある。したがって、湿潤状態の画素アレイ全体にわたって乾燥条件がばらつくと、画素の外観上、目に見える好ましくないばらつきが生じる可能性がある。
【0017】
基板105の上方の硬質マスク125は、湿潤表示領域110に対向する蒸気透過領域と、乾燥領域115に対向する蒸気バリア領域とを含むようにパターン形成されている。マスクは、基板支持体120の少なくとも一部を覆う被覆部材であり、基板支持体120の支持面121と略平行である。本実施形態の場合、支持面121およびマスク125は、略平面形状である。マスク125は、支持面121に面する近位面122と、支持面121とは反対側に面する遠位面123とを有する。本実施形態では、近位面122および遠位面123はともに支持面121と平行(ここでは、ともに平面)であるが、遠位面123は任意の好都合な形状とすることができる。近位面122は、湿潤領域からのガス流およびガスの発生を管理できるような形状とすることができる。したがって、場合によっては、近位面122を支持面121と非平行とすることによって、特定のガス流または気化特性(例えば、溶媒の逃散能、蒸気流、または蒸気除去のための蒸気空間の調整等)を実現するようにしてもよい。
【0018】
乾燥領域115に対する蒸気バリア領域の大きさおよび間隔は、乾燥処理中に縁部画素の上方での拡散速度が低減するように設定される。
図1の例では、マスク125の蒸気透過領域は、対応する湿潤領域の中央部の上方に位置し、かつ、この湿潤領域よりもやや小さい。その結果生じるマスク125の重なりによって、湿潤領域の縁部付近におけるキャリア液の拡散速度が抑制される。これにより、湿潤領域の縁部での乾燥の進行速度を、湿潤領域の中央に近い部分での乾燥の進行速度と同じにすることができる。基板105に対する蒸気透過領域の大きさおよび間隔は、縁部画素と内部画素との間で乾燥時間が等しくなるように選択される。マスク125と基板105との間隔を調整することによって、縁部画素におけるキャリア液の拡散速度を増減させ、それによって縁部画素の乾燥時間を調整することができる。
【0019】
本実施形態では、蒸気透過領域は、表示領域110に並置されたマスク125の大きな開口部として示す。本実施形態の場合、開口部は、表示領域110の形状に関連した形状を有することになる。表示領域110の被覆された縁部の寸法は、表示領域110のうち被覆部分の乾燥速度と非被覆部分の乾燥速度との所望の差異に関連する。縁部の幅方向の軸に沿う方向において、被覆された表示領域110の一縁部の幅は、表示領域110の幅全体の1~10%であってもよい。この割合は、縁部での乾燥促進に影響されることが見込まれる縁部幅に応じて決まる。なお、湿潤ゾーンと乾燥ゾーンとの大気組成の差異が縁部での乾燥促進を引き起こすほど顕著ではない程度にまで、隣接する表示領域110同士の間隔を狭くする場合もある。この場合は、そのような狭い乾燥領域に隣接する縁部を、乾燥速度の調整のために被覆する必要はない。乾燥させる表示領域110の材料の組成によっては、幅方向の軸に沿う方向において、表示領域110間の乾燥ゾーンの寸法が表示領域110の寸法の1%未満であり、乾燥ゾーンに隣接する縁部のために縁部乾燥速度を調整する必要がないほど小さい場合もある。この場合、以下で示すように、開口部が複数の表示領域110に跨がるようにしてもよい。
【0020】
開口部ではなく、メッシュ部材、スクリーン部材、または多孔質部材を用いて、蒸気透過領域を形成することもできる。マスク125を通る特定の流れパターンを作り出すために、メッシュ部材、スクリーン部材、多孔質部材、および開口部を適宜組み合わせて用いることもできる。これに加えて、またはこれに代えて、蒸気透過領域は、多数の孔を利用するものであってもよい。これらすべての場合において、蒸気透過領域は、概して何らかの複数の開口部が貫通して形成された部材を有する。この部材は蒸気透過領域の端から端まで延在し、マスク125の境界領域に接続することになる。蒸気透過領域の部材の厚さは、境界領域の厚さと同じであってもよいし、異なってもよい。例えば、蒸気透過領域の部材には開口部および/または通路が貫通して形成されており、この領域の厚さは境界領域の厚さよりも薄くてもよい。言い換えると、蒸気透過領域は、マスクのうち、何らかの複数の開口部または通路が貫通して形成された凹部であってもよい。
【0021】
乾燥室100は、基板を載置および除去しやすくするためのリフトピン130を含む。基板支持体120は、基板105とマスク125との間隔を調整するために上下方向に作動可能である。マスク125も、マスク支持体135を介して同様に作動可能である。これらの調整可能な要素を操作するためのアクチュエータ(図示せず)を、乾燥室100の内部空間140の外側に設けることができる。マスク支持体135は、マスク125の両側に沿って配置してもよいし、マスク125を支持するために使用され得るフレーム(
図5参照)に取り付けてもよい。支持体135をマスク125の両側に沿って配置することによって、基板支持体120とマスク125との間で基板を基板支持体120上に載置したり、そこから基板を除去したりすることができる。マスク支持体135は容器102の床136を貫通して容器102の外側の位置まで延在しており、容器102の外側において、マスク支持体135は例えばリニアアクチュエータ(図示せず)によって駆動され得る。
【0022】
乾燥処理中、真空源170を用いて内部空間140を所望の圧力プロファイルに維持する閉ループ制御下で、外部ガス源142から不活性ガスを導入する。真空源170は真空ポート103によって容器の内部に結合され、外部ガス源はガスポート104によって容器の内部に結合される。これらのポートは、それぞれ容器102の対向する壁に位置するように図示されているが、任意の好都合な位置に設けることができる。他のガス、例えば、任意選択でオゾン除去処理を施した乾燥した清浄空気等を用いてもよい。内部空間140、支持体120、および乾燥室100のうちの他の要素の温度を対象として、加熱、冷却、またはその両方に対する閉ループ制御を行ってもよい。したがって、圧力および温度の両方に応じて、湿潤領域110からキャリア液体が蒸発することになる。温度および圧力を制御するための機構は当業者には周知であるため、処置の詳細については省略する。関心があれば、米国特許公開第2017/0141310号を参照されたい。この公報は参照により本明細書に組み込まれる。
【0023】
湿潤領域110から蒸気160の流れを均等に導くために、可動式または固定式のガス分配要素145を任意選択で設けてもよい。ガス分配要素145は、孔150と、領域選択的な外縁蒸気バリア155とを有する。蒸気バリア155は、マスク125とガス分配要素145との間の間隙を包囲する。蒸気バリア155は、基板105の上方の領域165からの蒸気の拡散を最小限にする役割を果たすとともに、蒸気160の流れまたは分配を乱すおそれのあるガスの流入を減少させる役割も果たす。乾燥処理中、真空源170は、マスクの蒸気透過領域を介して、湿潤領域110からキャリア液の蒸気160を吸引する。図示はしないが、ある実施形態では、ガス分配要素145の上方の蒸気160を捕集するために、例えば温度制御された、または受動的な凝縮板を設ける。本実施形態では、
図1に示すように、ガス源142は、概して容器102内の蒸気バリア155の周囲および外側にガス流を供給する。しかし、ガス源142は、容器102の床に沿って、または容器102の側壁内等の任意の好都合な位置に設けることができる。
【0024】
ガス分配要素145が有する孔の大きさおよび間隔は、均一であってもよいし、不均一であってもよい。例えば、縁部に近づくにつれて孔をより小さくし、かつ/またはより間隔を空けて分布させることによって、ガス分配要素145(およびマスク125)の縁部付近でガス圧力を徐々に増大させ、マスク125の縁部において乾燥条件への影響を徐々に大きくすることができる。孔ではなく、メッシュまたはスクリーンをガス分配要素145に用いることもできる。
【0025】
あるいは、マスク支持体135を移動させる1つ以上のアクチュエータを配置する便宜上、マスク支持体135は、容器102の天井138または側壁139を貫通するように設けることもできる。必要に応じて、マスク支持体135は、ガス分配要素145および天井138を貫通するように配設することも可能であるし、またはガス分配要素145を取り囲むように設けることも可能である。
【0026】
マスク125は、基板105と接触することなく基板105の上方に例えば数ミリメートルの均一な間隙を維持できる程度の十分な硬さを有する低ガス放出材料から作成される。非限定的な例として、ステンレス鋼、アルミニウム、またはチタンが適している。硬質プラスチック材料を用いることもできる。ガス源142は、例えば窒素、アルゴン、または浄化空気の制御流を供給し、これらのガスあるいは他のガスの所定の最大濃度を維持するように制御可能である。例えば支持体120内に設けられる加熱冷却要素131を用いて支持体120の温度を調整して基板105の温度を管理し、乾燥室の内部空間140の圧力およびガス組成を管理し、マスク125と基板105との間の間隙を管理することによって、乾燥サイクル中の湿潤領域110の乾燥を制御する。加熱冷却要素131としては、抵抗体または導電体、例えば加熱コイル、または加熱流体もしくは冷却流体を搬送する管類を用いることができる。当業者であれば、これらの処理パラメータの好ましい組み合わせを経験的に導き出すことが可能であろう。所与の基板に対する乾燥サイクル中に、これらのパラメータのうちのいずれかまたはすべてを変更することも可能であろう。図示はしないが、上述したように、基板支持体120等は、基板105を加熱および冷却するとともに基板105を一定温度または所望の温度プロファイルに維持するための温度制御要素を含んでもよい。
【0027】
図2は、
図1に示す基板105およびマスク125の一部を詳細に示す図である。湿潤領域110は、中央領域110Aおよび縁部領域110Bに分けられる。いずれの領域も、湿潤状態の有機LED配合物の画素、すなわちインク溝205に収容された「インク」200の画素を含む。マスク125の図示された部分は、縁部画素の上方の蒸気濃度が中央領域110Aの上方の蒸気濃度あるいはそれに近い蒸気濃度に維持されるように、縁部領域110Bに重なっている。縁部領域110Bは、製造するデバイスが機能するのに必要な領域よりも拡張して設けてもよい。この場合、拡張された外縁画素は、内側の近隣画素の機能を改善する蒸気源として機能する。これらの犠牲的な、すなわち「ダミー」画素は、ディスプレイに画像を生成する際にアクティブにならない。
【0028】
図3は、
図1および
図2の基板105およびマスク125の平面図である。マスク125の開口125Aと湿潤領域110は、この例では幾何学的に相似であり、マスク125は他の点で基板105用に調整されている。マスク125は、乾燥室100から容易に取り外し可能であり、異なるパターンの基板専用のマスクと交換可能である。基板ごとに専用の、かつ交換可能なマスクは、多様な基板すべてについて乾燥の均一性を向上させるために必要な大幅な変更を加えるよりも、簡単で低コストである。
【0029】
図4は、別の実施形態に係る乾燥室400を詳細に示す図である。乾燥室400は、いくつかの点で
図1の乾燥室100と類似しており、同様の符号で特定される要素は同様の要素である。
【0030】
乾燥室400では、基板支持体410およびガス分配機構415によって画定される処理空間405内に基板105が封止される。ガス分配機構415は、逆シャワーヘッドのような形状であり、チャネル420および外縁境界部425が組み込まれている。支持体410および機構415のうちの一方または両方は、上下方向に作動し、これにより基板の投入および除去が容易になる。第2の処理空間430には、例えば不活性ガスまたは乾燥した清浄空気を充填することができる。封止部材432(例えば、Oリング)によって、乾燥処理中に上記ガスが処理空間405の内容物に通じることを防止することができる。他の実施形態では、例えば側部に扉または開口を設けることによって、処理空間405にアクセス可能にすることができる。
【0031】
乾燥室400では、基板105全体にわたってキャリア液体の蒸気濃度が平衡となるため、乾燥の均一性が向上する。空間405の容積は、蒸発するキャリア液(本明細書では、蒸気160として図示)が5分未満で飽和に達する程度に設定されている。飽和付近の蒸気濃度は、湿潤領域110および乾燥領域115の全体にわたって平衡となる。したがって、中央画素の乾燥に対する縁部画素の乾燥の差異が減少する。空間405の容積は、キャリア液体の蒸気濃度に応じて規定され、溶媒、圧力、および温度によって異なる。
図4の断面は原寸に比例してはいない。例えば、基板105が9平方メートルである実施形態では、機構415の孔のある下面が基板の上方数ミリメートル以内に位置することができる。
【0032】
真空源170によって低圧をかけて空間405を真空引きする前に、空間405内の蒸気濃度を平衡に近づけることによって、乾燥処理を行う。一実施形態では、蒸気吸引の開始前に処理空間405内の揮発性キャリア液の飽和度が90%以内となるように、処理変数を設定する。空間405が低容積であるため、蒸気160は迅速に吸引される。吸引が迅速であるため、近隣画素間の乾燥時間に影響が生じにくくなり、縁部画素の形成不良が抑制される。他の実施形態では、上で詳述したタイプの蒸気マスクを空間405内に含めてもよい。ガス分配機構415の孔のパターンは、湿潤領域110から優先的に蒸気を引き出すように変更することもできる。
【0033】
図5は、一実施形態に係るマスク500の平面図である。マスク500を用いて、
図1の装置100等の乾燥装置で乾燥させるべき湿潤領域を有する基板の乾燥プロファイルを調整することができる。マスク500は、複数の第1の開口502と、複数の第2の開口504と、単一の第3の開口506とを有する。複数の第1の開口502は、基板上の複数の第1の湿潤領域508(本明細書では破線で表す)をマスキングするためのものである。複数の第2の開口504は、同様に、複数の第2の湿潤領域510をマスキングするためのものである。第3の開口506は、同様に、複数の第3の湿潤領域512をマスキングするためのものである。
【0034】
複数の第1の開口502は、第1の大きさと第1の形状とを有する。複数の第2の開口504は、第2の大きさと第2の形状とを有する。第3の開口506は、第3の大きさと第3の形状とを有する。本実施形態では、第1、第2、および第3の大きさは互いに異なり、第1、第2、および第3の形状は互いに異なる。それぞれの形状は略長方形であるが、第1および第2の形状は丸みを帯びた角部を有するのに対し、第3の形状は通常の直角の角部を有する。本実施形態では、第1の大きさよりも第2の大きさの方が大きい。第1の形状は、第1の曲率半径を有する丸みを帯びた角部を有する。一方、第2の形状は、第1の曲率半径よりも小さな第2の曲率半径を有する丸みを帯びた角部を有する。
【0035】
複数の第1の開口502同士の間隔は第1の間隔であり、複数の第2の開口504同士の間隔は、第1の間隔とは異なる第2の間隔である。開口同士の間隔は、湿潤領域同士の間隔および開口の縁部被覆率によって概ね決まる。他の箇所で説明したように、開口の縁部被覆率は、中央領域に対して行う縁部領域の乾燥調整に基づいて決定される。本実施形態では、
図5に示すように、第1および第2の開口の各々の外縁は、マスク500の下方に適切に位置合わせした基板上に投影したときに、乾燥させる対応の湿潤領域の内部に完全に収まり、かつこの湿潤領域と同心である。したがって、縁部被覆率は、各湿潤領域の四辺すべてにおいて対称である。なお、本願の図面に示す形状は略長方形であるが、他の形状、例えば略多角形、略楕円、および略円、ならびに不規則な形状にも同じ概念を適用することができる。
【0036】
第3の開口506は、乾燥速度調整のためのマスキングが不要となる程度に小さい乾燥ゾーンにより互いに分離された、基板の複数の湿潤領域の縁部をマスキングする。したがって、第3の開口506は、大きな乾燥ゾーンに隣接する湿潤領域の縁部をマスキングする。このため、単一の開口によって複数の湿潤領域をマスキングする。
【0037】
図5に示す開口の大きさ、形状、および配置は、乾燥マスク構造の概念を説明することを意図するものであり、単一のマスクにおいて任意の組み合わせで用いることが可能である。単一のマスクにおいて複数の開口が同じ形状を有することもできるし、すべて異なる形状を有することもできる。形状は、略長方形であってもよいし、複数の形状の混合であってもよい。同様に、開口の大きさおよび間隔は、すべて同じとすることもできるし、任意の組み合わせですべて異なるようにすることもできる。
【0038】
図5に示すマスク500は、マスク500を支持するとともにマスク500の操作を可能にするフレーム514に結合されている。フレームは、支持体516で支持されている。支持体516は、フレーム514の下方にあり、
図5の平面図では直接見えないため、破線で示されている。支持体516は、
図1に関連して説明したマスク支持体135と概ね同様である。支持体516はマスク500の両側に設けられ、したがってフレーム514に結合された両側の間で基板をマスク500の一端部から載置および除去しやすくなる。
【0039】
図6は、別の実施形態に係るマスク600の平面図である。マスク600では、ある湿潤領域の乾燥を調整するために多数の孔を有する。具体的には、マスク600では、複数の第1の湿潤領域508に対応する蒸気透過領域を形成する多数の孔を有する。マスク600では、複数の第1の湿潤領域508をマスキングするように複数の蒸気透過領域602が設けられている。各蒸気透過領域602の孔はさまざまな大きさを有しており、その大きさは、湿潤領域508の縁部から中央に向かって乾燥速度が均一になるように、蒸気透過領域602の中央領域に近づくほど概ね大きくなっている。孔同士の間隔は不規則であるが、マスクを通る流れの断面が縁部から中央に向かって概ね大きくなる傾向がある。本実施形態では、蒸気透過領域602の縁部付近では小さな孔が設けられ、蒸気透過領域602の中央付近ではより大きな孔が設けられている。孔の大きさは、蒸気透過領域602の縁部から中央に向かって、概ね単調に(または直線的に)増大する。本実施形態の場合、蒸気透過領域602の角部付近の孔が最も小さい。これは、湿潤領域508のうち角部に近い領域は最も乾燥した領域に囲まれており、最も速く乾燥する条件下にあるためである。
【0040】
マスク600は、異なる種類の蒸気透過特徴部を有する実施形態である。本実施形態では、多数の孔を有する蒸気透過領域と、単一の開口部を有する蒸気透過領域とを設けている。さらに、単一の湿潤領域を覆う単一の開口部を有する蒸気透過領域と、複数の湿潤領域を覆う単一の蒸気透過領域とを設けている。単一のマスク内に異なる種類の蒸気透過領域を設けることもできる。蒸気透過領域の種類としては、
図6に示すものに加えて、多孔質部材、溝のついた部材、エッチングにより蛇行通路を貫通させた固体部材、焼結部材、あるいはその他の透過性部材等が挙げられる。
【0041】
図7Aは、本明細書に記載した装置のうちのいずれかで使用可能なマスク700の一部の断面図である。
図7Aは、マスク700の蒸気透過領域の少なくとも一部を形成する開口部の縁部におけるマスク700の一部を示す図である。マスク700は、下方にある基板の乾燥ゾーンの概ね上方に配設される境界領域702と、マスク700の遠位面706に陥凹した蒸気透過領域704とを有する。したがって、蒸気透過領域704は外壁707で境界領域702と接続する。あるいは、蒸気透過領域704は、遠位面706とは反対側のマスク700の近位面708に陥凹させることもできる。蒸気透過領域704は、少なくとも1つの開口部710を有する。この場合、基板のうち蒸気透過領域704で覆われた部分において所望の蒸発プロファイルが実現されるように、開口部の縁部712がテーパ状になっている。このテーパ形状は、開口部710を囲む薄い平坦壁714で終端する。本実施形態では、テーパは直線状(例えば傾斜状)であり、テーパ領域の寸法は、外壁707から開口部710の壁714までの蒸気透過領域704の寸法よりも小さい。テーパ領域は、湾曲形状とすることもできるし、開口部710から離れる方向に壁714から任意の所望の距離だけ延在させることもできる。場合によっては、テーパ領域は、外壁707を越えて境界領域702下の位置まで延在させることもできる。本実施形態では、マスク700の近位面708にテーパを施した。しかし、これに代えて、またはこれに加えて、マスク700の遠位面706にテーパを施すこともできる。
図7Bは、別の実施形態に係るマスク720の一部の断面図である。本実施形態では、蒸気透過領域722に開口部724が設けられる。開口部724は、開口部724を囲む壁を形成する湾曲縁部726を有する。湾曲縁部726は、本実施形態では楕円形であるが、縁部でのガス流に影響を与える任意の所望の形状(放物線状または双曲線状等)とすることができる。
図7Aおよび
図7Bは、本明細書に記載した各種マスクの蒸気透過領域の開口部に異なる縁部効果を持たせ得ることを示す例である。必要に応じて、単一の蒸気透過領域の各開口部が、他のすべての開口部とは異なる縁部効果を有し得る。単一の開口部において、その開口部の周囲全体に沿って縁部効果を変化させることもできる。例えば、本明細書に記載したいずれかのマスクの蒸気透過領域の1つの開口部の縁部をテーパ状とし、そのテーパの角度または形状を、開口部の外縁上で連続的または非連続的に変化させることもできる。このような開口部において、その開口部の一部のみに縁部効果を持たせ、残りの縁部を単なる垂直な平坦壁とすることもできる。縁部効果は、メッシュ部材や多孔質部材の蒸気透過領域(メッシュ部材や多孔質部材がマスクの境界領域と接する部分)で用いることもできる。
【0042】
図7Cは、別の実施形態に係るマスク740の一部の断面図である。本実施形態では、蒸気透過領域742が境界領域744によって囲まれており、壁746がマスク740の近位面748から基板支持体の支持面に向かって突出している。壁746は、平坦端部750を有する。壁746の平坦端部750は支持面に対向しており、平坦端部750と支持面との間に、平坦端部750に沿ってガス流の断面を減少させるような間隙を形成する。壁は、蒸気透過領域742または境界領域744の近位面748から突出させてもよいし、蒸気透過領域742から境界領域744にかけた領域と重ねてもよい。壁746は、基板の湿潤領域の周囲を部分的に封止するように、蒸気透過領域742の開口部の外縁全体にわたって延在させることができる。壁は、蒸気透過領域742の外縁全体にわたって延在させることもできる。壁は、開口部の一部、または蒸気透過領域の周囲全体にわたって延在させることもできる。部分的に封止した場合、溶剤を含有するガスが湿潤領域の縁部に沿って除去され加速的に蒸発する可能性が低減されるため、湿潤領域に隣接する乾燥ゾーンからの乾燥促進作用が低減する。なお、壁746は、平坦端部750ではなく、湾曲端部を有することもできる。
【0043】
特定の実施形態に関連して主題を説明したが、他の実施形態も想起される。例えば、
図1のマスク125では湿潤領域110ごとに単一の開口を設けたが、他の実施形態では、異なる数、形状、およびパターンの開口を用いて、比較的均一な蒸気濃度を維持することも可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の精神および範囲は、上述の記載に限定されるものではない。米国特許法第112条第6段落の要件を満たすと解釈されるのは、「ための手段」または「ためのステップ」と明記する請求項のみであるべきである。
【外国語明細書】