(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045206
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】前駆細胞を指向性分化によって胃組織に変換するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240326BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240326BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240326BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240326BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20240326BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
A61L27/38 300
A61P1/04
A61P35/00
C12N5/0735
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002404
(22)【出願日】2024-01-11
(62)【分割の表示】P 2022066353の分割
【原出願日】2015-05-27
(31)【優先権主張番号】62/003,719
(32)【優先日】2014-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】500469235
【氏名又は名称】チルドレンズ ホスピタル メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】ウェルズ、ジェームズ・マコーマック
(72)【発明者】
【氏名】マクラッケン、カイル・ウィリアム
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヒト胃の発生及び疾患の根底にある機構を解明し、新規治療を同定するための、ロバストなインビトロシステムを構築するために用いることのできる胃組織を作り出す方法及びシステムを提供する。
【解決手段】胃オルガノイドの形態などの胃細胞及び/又は胃組織の形成を誘導する方法が開示される。胃細胞及び/又は組織の形成は、前駆細胞内の1つ以上のシグナル伝達経路を活性化及び/又は阻害することによって実施され得る。また、前駆細胞に由来する開示された胃細胞、胃組織、及び/又は胃オルガノイドの使用方法も開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)FGF4と、WNTシグナル伝達経路の活性剤と、ドルソモルフィン、LDN189、DMH-1、及びノギンからなる群から選択されるBMPシグナル伝達経路の阻害剤を、胚体内胚葉細胞に接触させることにより、前記胚体内胚葉細胞を前腸スフェロイドに分化させるステップと、
b)ステップa)の前腸スフェロイドにレチノイン酸を接触させて、後方前腸スフェロイドを形成するステップと、
c1)ステップb)の後方前腸スフェロイドにEGF、レチノイン酸、及びドルソモルフィン、LDN189、DMH-1、及びノギンからなる群から選択されるBMPシグナル伝達経路の阻害剤を接触させて前庭部組織を含む胃オルガノイドを形成するステップ、又は、
c2)ステップb)の後方前腸スフェロイドにEGF、レチノイン酸、ドルソモルフィン、LDN189、DMH-1、及びノギンからなる群から選択されるBMPシグナル伝達経路の阻害剤、及びWNTシグナル伝達経路の活性剤を接触させて胃底部組織を含む胃オルガノイドを形成するステップのいずれか一方と、を含む、
インビトロで、胃オルガノイドを形成する方法。
【請求項2】
前記胚体内胚葉細胞が、多能性幹細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多能性幹細胞が、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)の前記胚体内胚葉細胞を、24~120時間接触させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)の前記胚体内胚葉細胞を、2日間接触させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)の前記前腸スフェロイドを、1日間接触させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップc1)又はステップc2)の前記後方前腸スフェロイドを、3日間接触させる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記FGF4が50ng/ml~1500ng/mlの濃度で提供される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記FGF4が500ng/mlの濃度で提供される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記WNTシグナル伝達経路の活性剤がWnt3a又はCHIR99021である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記WNTシグナル伝達経路の活性剤がWnt3aであり、Wnt3aが50ng/ml~1500ng/mlの濃度で提供される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記Wnt3aが500ng/mlの濃度で提供される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記WNTシグナル伝達経路の活性剤がCHIR99021である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記CHIR99021が2μMの濃度で提供される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップa)、ステップc1)、ステップc2)又はこれらの任意の組み合わせのBMPシグナル伝達経路の阻害剤がノギンである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ノギンが、50ng/ml~1500ng/mlの濃度で提供される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ノギンが、200ng/mlの濃度で提供される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
a)請求項1~17のいずれか一項に記載の方法により、インビトロで形成される胃オルガノイドを、化合物と接触させるステップ;及び
b)胃オルガノイドによる化合物の吸収レベルを検出するステップと、を含む、
インビトロで、胃オルガノイドの吸収効果を同定する方法。
【請求項19】
a)請求項1~17のいずれか一項に記載の方法により、インビトロで形成される胃オルガノイドを、化合物と接触させるステップ;及び
b)胃オルガノイドによる化合物の吸収レベルを検出するステップと、を含む、
インビトロで、胃オルガノイドに対する化合物の毒性を同定する方法。
【請求項20】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法により胃オルガノイドを形成することを含む、インビトロで、胃疾患の治療に用いるための代替胃組織を作成する方法。
【請求項21】
前記胃疾患が、胃遺伝性疾患、消化性潰瘍疾患、メネトリエ病及び胃癌からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援研究に関する記載
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)の助成によるDK080823、DK092456、及びGM063483に基づく連邦政府の支援を受けて行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
優先権の主張
本願は、あらゆる目的から、2014年5月28日に出願された“Methods and Systems for Converting Precursor Cells into Gastric Tissues through Directed Differentiation”と題されるWells et alに対する米国仮特許出願第62/003,719号明細書に対する優先権及びその利益を主張する。
【0003】
本明細書には、幹細胞を指向性分化によって特定の組織又は器官に変換することに関する方法及びシステムが開示される。詳細には、ヒト多能性幹細胞からの胚体内胚葉形成を促進するための方法及びシステムが開示される。また、分化した胚体内胚葉からの胃オルガノイド又は胃組織形成を促進するための方法及びシステムも開示される。
【背景技術】
【0004】
胃の機能及び構造は、多種多様な生息場所及び食事に適応して哺乳類種間で大きく異なる。結果的に、非ヒトの胃発生及び疾患モデルには著しい限界がある。例えば、細菌ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter Pylori)は世界人口の50%に感染し、10%が消化性潰瘍疾患を発症し、及び1~2%1~3が胃癌を発症する。胃疾患は、消化性潰瘍疾患及び胃癌を含め、世界人口の10%が罹患し、概して慢性ピロリ菌(H.pylori)感染に起因する。ピロリ菌(H.pylori)誘発性疾患の現在のモデルは、感染に対するヒトの反応と同じ病態生理学的特徴を呈しない動物モデルに頼っており4、胃細胞株は生体内での胃上皮の細胞上及び構造上の複雑性を欠いている。従って、ヒトで起こるとおりのピロリ菌(H.pylori)感染の効果を研究するのに適したモデルはない。成体胃幹細胞を使用した最近の進歩により、インビトロでげっ歯類胃上皮を成長させることが可能であるが5、ヒト患者からこれらの細胞を入手しようとすれば外科的手術が必要となり得る。さらに、かかる方法は、ヒト胃の胚発生又は間質-上皮相互作用のモデル化には使用できない。胚発生及び成体胃の構造が種によって異なるため、マウスモデルはこの器官の器官形成及び発病研究に準最適なものとなる。従って、ヒト胃の発生及び疾患の根底にある機構を解明し、且つかかる疾患のヒト治療に有用な新規治療を同定するための、ロバストなインビトロシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当該技術分野において必要とされているのは、所望の特定のタイプの組織又は生物、詳細には前述の目的の1つ以上に用いることのできる胃組織を作り出すため、ヒト多能性幹細胞などの前駆細胞の終着点を正確に制御する方法及びシステムである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
胃オルガノイドの形態などの胃細胞及び/又は胃組織の形成を誘導する方法が開示される。胃細胞及び/又は組織の形成は、前駆細胞内の1つ以上のシグナル伝達経路を活性化及び/又は阻害することによって実施され得る。また、前駆細胞に由来する開示される胃細胞、胃組織、及び/又は胃オルガノイドの使用方法も開示される。
【0007】
当業者は、以下に説明する図面が例示目的に過ぎないことを理解するであろう。図面は、いかなる形であれ本教示の範囲を限定することを意図するものではない。
【0008】
この特許又は出願ファイルは、色彩を付して作成された少なくとも1つの図面を含んでいる。色彩図面が付された、この特許又は特許出願公開の写しは、請求及び必要な手数料の納付に基づいて、当局によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、胃スフェロイドにおけるSox2/Cdx2/B-カテニンの発現及びRAの効果を示す。
【
図2】
図2A~
図2Eは、hPSCから三次元胃オルガノイドへの分化を指向させるために使用されるインビトロ培養系の概略図(
図2A)、Sox2、Pdx1及びCdx2を用いたマウスE10.5胚のホールマウント免疫蛍光染色による発生中の後方前腸器官の確定マーカー(
図2B)、RAの存在下及び非存在下におけるPDX1発現(
図2C)、後方前腸スフェロイドがhGOに成長する間の形態学的変化を示す実体顕微鏡写真(
図2D)、並びにE14.5及びE18.5及び同等のhGO発生段階におけるマウス前庭部の発生の比較(
図2E)を示す。
【
図3】
図3A~
図3Dは、P12前庭部、E18.5前庭部及びd34オルガノイドにおけるMuc5AC、TFF2、GSII UEAI、及びCHGA発現(
図3A)、hGOの発生中の成長、形態形成、及び細胞型特異化におけるEGFの種々の役割の概略図(
図3B)、DOX有り及び無しでの胃オルガノイドにおけるガストリン、グレリン、5-HT、及びChrAの発現(
図3C)、及び複数のEGF濃度におけるNEUROG3の相対発現(
図3D)を示す。
【
図4】
図4A~
図4Dは、d34オルガノイド、E18.5前庭部、及びP12前庭部におけるSOX9 Ki67発現(
図4A)、明視野顕微鏡法及び免疫蛍光染色法を用いて可視化したオルガノイドのピロリ菌(H.Pylori)感染(
図4B)、癌遺伝子c-Metの免疫沈降(
図4C)、及びEdU取込みによって計測した、hGO上皮における細胞増殖(
図4D)を示す。
【
図5】
図5A~
図5Dは、ノギンの存在下及び非存在下におけるGSK3β阻害薬CHIR99021及び組換えWNT3Aの存在下でのSox2及びCdx2発現(
図5A)、明視野顕微鏡法を用いて可視化したCHIR誘導性の腸管形態形成及びスフェロイド生成(
図5B)、単層培養物の免疫蛍光染色によるCHIR/FGF処理した内胚葉におけるCDX2誘導及びノギン処理及びCHIR/FGF/ノギン処理した内胚葉におけるSOX2誘導の評価(
図5C)、BMP標的遺伝子MSX1/2のqPCR解析(
図5D)、及びBMP2の存在下及び非存在下におけるSOX2及びCDX2発現を示す。
【
図6】
図6A~
図6Gは、2つのhESC株(H1及びH9)及び1つのiPSC株(72.3)の間のスフェロイド形成及び特徴を比較する表(
図6A)、H1及びiPSC 72.3細胞株に由来する34日目hGOの免疫蛍光染色(
図6B)、34日目hGOにおける器官上皮細胞型定量化(
図6C)、人工多能性幹細胞株iPSC 72.3の特徴付け(
図6D~
図6G)を示す。
【
図7】
図7A~
図7Dは、前腸パターン形成実験の概略説明図(
図7A)、前腸単層培養物から生成されるスフェロイドの数がRAによって増加することを示す明視野像(
図7B)、Hnf1βタンパク質が前腸の後方部分に局在化している14体節期胚の免疫蛍光像を示す
図1dの弱拡大像(
図7C)、RAで処理した前腸スフェロイドにおける遺伝子発現のqPCR解析(
図7D)を示す。
【
図8】
図8は、hGO分化後期における明視野像及び免疫染色を示す。
【
図9】
図9は、インビボでの前庭部発生の4つの胎生期(E12.5、E14.5、E16.5及びE18.5)及び1つの生後期(P12)の間におけるマウス前庭部及びヒト胃オルガノイドが発生する間の転写因子発現を示す。
【
図10】
図10は、E12.5前庭部及び13日目hGOにおけるpHH3/E-Cad/DAPI発現及びaPCC/E-CAD/DAPI発現を示す。
【
図12】
図12は、インビボでの胃前庭部内分泌細胞発生を示す。
【
図14】
図14は、胃オルガノイドの指向性分化の方法の概要を示す。この分化過程の各ステップを代表的な実体顕微鏡写真と共に示す。
【
図15】
図15は、マウス胃の概略図並びに前胃、胃底部、前庭部、及び十二指腸における既知の領域マーカーの計測を示す。
【
図16】
図16は、前胃、胃底部、前庭部、及び十二指腸における新規領域マーカーの計測を示す。
【
図17】
図17は、胃底部特異化プロトコル並びに対照、Wnt100、Wnt500及びCHIR処理細胞におけるGAPDH、Gata4、Axin2、Sox2、Pdx1、及びCdx2の計測を示す。y軸は相対遺伝子発現を表す。
【
図18】
図18は、胃底部プロトコルにおけるAxin2、IRX2、IRX3、Pitx1、及びIRX4の計測を示す。y軸は相対遺伝子発現を表す。
【
図19】
図19は、胚体内胚葉からの腸組織、胃底部組織、及び前庭部組織の形成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特に注記されない限り、用語は、関連技術分野の当業者による従来の用法に従い理解されるものとする。
【0011】
本明細書で使用されるとき、用語「全能性幹細胞」(オムニポテント幹細胞としても知られる)は、胚細胞型及び胚体外細胞型に分化することのできる幹細胞である。かかる細胞は、生存能力のある完全な生物を構築することができる。これらの細胞は卵細胞と精細胞の融合によって作られる。受精卵の最初の数回の分裂によって作られる細胞もまた全能性である。
【0012】
本明細書で使用されるとき、用語「多能性幹細胞(PSC)」は、生体のほぼあらゆる細胞型に分化することのできる任意の細胞、即ち、内胚葉(胃の内膜、胃腸管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、及び外胚葉(表皮組織及び神経系)を含む3つの胚葉(胚上皮)のいずれかに由来する細胞を包含する。PSCは、着床前(primplantation)胚盤胞の内部細胞塊細胞の子孫であってもよく、又はある種の遺伝子を強制的に発現させることによる、非多能性細胞、例えば成体体細胞の誘導を通じて得られてもよい。多能性幹細胞は、当業者が容易に理解するであろうとおり、任意の好適な供給源に由来し得る。多能性幹細胞の供給源の例としては、ヒト、げっ歯類、ブタ、ウシを含めた哺乳類供給源が挙げられるが、それに限定されるものではない。
【0013】
本明細書で使用されるとき、用語「人工多能性幹細胞(iPSC)」は、iPS細胞と省略されることも多く、ある種の遺伝子の「強制」発現を誘導することによって通常非多能性の細胞、例えば成体体細胞から人工的に得られる多能性幹細胞の一種を指す。
【0014】
本明細書で使用されるとき、用語「胚性幹細胞(ESC)」は、ES細胞と省略されることも多く、初期胚である胚盤胞の内部細胞塊から得られる多能性の細胞を指す。本発明の目的上、用語「ESC」は、時に胚性生殖細胞もさらに包含して広義に用いられる。
【0015】
本明細書で使用されるとき、用語「前駆細胞」は、1つ以上の前駆細胞が自己再生能力又は1つ以上の特殊化した細胞型に分化する能力を獲得する本明細書に記載される方法において使用することのできる任意の細胞を包含する。一部の実施形態において、前駆細胞は多能性であるか、又は多能性になることが可能である。一部の実施形態において、前駆細胞は、多能性を獲得するため外部因子(例えば成長因子)の処理に供される。一部の実施形態において、前駆細胞は、全能性(又はオムニポテント)幹細胞;多能性幹細胞(人工又は非人工);多分化能幹細胞;少分化能幹細胞及び単分化能幹細胞であり得る。一部の実施形態において、前駆細胞は、胚、乳児、小児、又は成人に由来し得る。一部の実施形態において、前駆細胞は、遺伝子操作又はタンパク質/ペプチド処理によって多能性が付与されるように処理に供された体細胞であり得る。
【0016】
発生生物学において、細胞分化は、それほど特殊化していない細胞がより特殊化した細胞型になる過程である。本明細書で使用されるとき、用語「指向性分化」は、それほど特殊化していない細胞が特定の特殊化した標的細胞型になる過程を表す。特殊化した標的細胞型の特殊性は、初期細胞の運命を定義付け又は改変するために用い得る任意の適用可能な方法により決定することができる。例示的方法としては、限定はされないが、遺伝子操作、化学的処理、タンパク質処理、及び核酸処理が挙げられる。
【0017】
本明細書で使用されるとき、用語「細胞構成物」は、個々の遺伝子、タンパク質、遺伝子を発現するmRNA、及び/又は任意の他の可変的な細胞成分又はタンパク質活性、例えば、典型的には当業者によって生物学的実験(例えばマイクロアレイ又は免疫組織化学による)で例えば計測されるタンパク質修飾(例えばリン酸化)の程度である。生物系、一般的なヒト疾患の根底にある生化学的過程の複雑なネットワークに関する重要な発見、並びに遺伝子発見及び構造決定は、現在、研究過程の一環としての細胞構成物存在量データの適用によるものであり得る。細胞構成物存在量データは、バイオマーカーを同定し、疾患サブタイプを区別し、及び毒性機構を同定する助けとなり得る。
【0018】
幹細胞は全ての多細胞生物に見られる。幹細胞は、有糸細胞分裂によって自己複製し、且つ多様な特殊化した細胞型に分化する能力によって特徴付けられる。大まかな2種類の哺乳類幹細胞は、1)胚盤胞の内部細胞塊から単離される胚性幹細胞、及び2)成体組織に見られる成体幹細胞である。発生中の胚では、幹細胞はあらゆる特殊化した胚組織に分化し得る。成体生物では、幹細胞及びプロジェニター細胞は生体の修復システムとして働き、特殊化した細胞を補充し、また血液、皮膚、又は胃組織などの再生器官の正常な代謝回転を維持する。
【0019】
現在、幹細胞は、筋肉又は神経などの様々な組織の細胞と一致する特徴を有する特殊化した細胞へと、細胞培養によって成長させ、転換することができる。医学療法においては、臍帯血及び骨髄を含めた種々の供給源からの高度に可塑性の成体幹細胞が日常的に用いられている。治療的クローニングによって作成される胚細胞株及び自己胚性幹細胞もまた、将来的な治療法の有望な候補として提案されている。
【0020】
幹細胞の古典的定義は、典型的には2つの特性:自己複製、即ち未分化状態を維持しつつ多数の細胞分裂周期を経る能力と、発生能、特殊化した細胞型に分化する能力とを指し示している。一部の実施形態において、幹細胞は全能性又は多能性のいずれかであり、即ち幹細胞は任意の成熟細胞型を生じることが可能であり、しかし多分化能又は単分化能プロジェニター細胞が幹細胞と称されることもある。
【0021】
発生能は幹細胞の潜在的分化能力(異なる細胞型に分化する潜在能力)を特定する。全能性幹細胞(オムニポテント幹細胞としても知られる)は、胚細胞型及び胚体外細胞型に分化することができる。これらの細胞は、生存能力のある完全な生物を構築することができる。これらの細胞は卵細胞と精細胞の融合によって作られる。受精卵の最初の数回の分裂によって作られる細胞もまた全能性である。多能性幹細胞(PSC)は全能性細胞の子孫であり、ほぼあらゆる細胞、即ち、内胚葉(胃の内膜、胃腸管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、及び外胚葉(表皮組織及び神経系)を含む3つの胚葉のいずれかに由来する細胞に分化することができる。多分化能幹細胞は幾つもの細胞に分化し得るが、但し近縁の細胞ファミリーのものに限られる。少分化能幹細胞は、リンパ球系又は骨髄系幹細胞などのほんの数種の細胞に分化し得るのみである。単分化能細胞は、それ自体の、唯一つの細胞型のみを作り出すことができ、しかし自己複製の特性を有し、それによって非幹細胞と区別される(例えば筋幹細胞)。
【0022】
胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞は、ヒト疾患を研究する能力及び動物モデルにおいて治療上有効な代替組織を作成する能力にかつてない影響を与えている。
【0023】
発生生物学において、細胞分化は、それほど特殊化していない細胞がより特殊化した細胞型になる過程である。ヒトPSCから治療的細胞型への分化を指向させようとする取り組みの成功のほとんどは、胚器官発生の研究に基づいている。例としては、肝細胞及び膵内分泌細胞の作成が挙げられ、これらの細胞は肝疾患及び糖尿病の動物モデルにおいて機能上の潜在能力を示している。同様に、PSCから腸への分化は、壊死性腸炎、炎症性腸疾患及び短腸症候群などの疾患に治療利益をもたらし得る。
【0024】
上記で考察したとおり、多能性幹細胞は、3つの胚葉:内胚葉(胃の内膜、胃腸管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、及び外胚葉(表皮組織及び神経系)のいずれかに分化する潜在能力を有する。従って、多能性幹細胞は任意の胎児又は成体細胞型を生じることができる。しかしながら、特定の多能性幹細胞の運命は、数多くの細胞シグナル伝達経路及び数多くの因子によって制御される。さらに、多能性幹細胞は潜在的に胎盤などの胚体外組織に寄与する能力を有しないため、単独では胎児又は成体動物に発育することができない。
【0025】
現在までに、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から胃組織は作成されていない。PSCを肺、肝、膵及び腸細胞に分化させる取り組みの成功は、これらの器官の胚発生の理に適った分子的理解に依存している6~10。残念ながら、当該技術分野における問題は、内胚葉形成に続く胃発生の理解に相違が多くあることである。従って、hPSCから胃組織への分化を指向させるため、前腸の特異化及びパターン形成、胃の特異化、並びに最後に胃上皮成長及び分化を含めた幾つかの重要な胃発生初期段階を調節するシグナル伝達経路が本出願人によって同定された。加えて、より機能的で複雑な三次元組織を作成するため、本出願人は、前腸管の形態形成並びに腺及び小窩を含む胃上皮構造の形成を含めた、胃発生中に起こる幾つかの形態形成過程を誘導することを目指した。
【0026】
本明細書に記載されるとおり、時系列の成長因子操作を用いて培養下で胎生期胃組織発生を模倣する方法及びシステムが構築される。詳細には、PSC、ヒト胚性幹細胞(hESC)及び人工多能性幹細胞(iPSC)の両方から胃組織への分化をインビトロで指向させる方法及びシステムが構築される。これらの因子は、胎児腸発生を近似する段階:アクチビン誘導性の胚体内胚葉(DE)形成と;FGF/Wnt/BMP誘導性の後方前腸パターン形成(pattering)と、最後に、胃腺及び胃小窩、増殖帯、表層及び前庭部粘液細胞、並びにガストリン、グレリン、及びソマトスタチンを発現する内分泌細胞を含む機能性の胃細胞型及び形態への胃組織成長、形態形成及び細胞分化を促進するレチノイン酸及びEFGシグナル伝達の調節によって得られるプロガストリック(pro-gastric)培養系とを経てインビトロでのヒト腸の発生を指向させた。
【0027】
本出願人は、ヒトPSCから胃細胞、胃組織、及び/又は複雑な構造及び細胞組成を伴う三次元胃組織(hGO)への効率的な段階的分化を可能にする新規胎生期シグナル伝達経路を同定した。本出願人はさらに、発生中のhGOがマウスの発生中の前庭部とほぼ同一の分子的及び形態学的分化段階を経ること、及び得られる胃オルガノイドが、正常な前庭部上皮及び胎児期/生後期の胃と同等の三次元構成を成す一連の粘液細胞、内分泌細胞、及びプロジェニター細胞を含有し得ることを見出した。
【0028】
開示されるヒト胃細胞、胃組織及び/又は胃オルガノイド(hGO)は、ヒト胃の発生、生理機能の新規機構を同定するためのインビトロシステムとして使用されてもよく、及びピロリ菌(H.pylori)に対する胃上皮の病態生理学的反応のモデルとして使用されてもよい。開示される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGO及び方法は、創薬及び早期胃癌のモデル化に新しい機会をもたらす。さらに、本明細書には、ヒト胚前腸の初めての三次元作製が開示され、これは、肺及び膵臓を含む他の前腸器官組織の作成に向けた有望な出発点である。
【0029】
一態様において、前駆細胞から胃細胞、胃組織、及び/又は胃hGOの形成を誘導する方法が開示される。この方法は、a)前駆細胞内の1つ以上のシグナル伝達経路(1つ以上のシグナル伝達経路は、WNTシグナル伝達経路、WNT/FGFシグナル伝達経路、及びFGFシグナル伝達経路から選択される)を活性化するステップであって、それにより前駆細胞の子孫である胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOを入手するステップを含み得る。この方法は、前駆細胞内の1つ以上のシグナル伝達経路を阻害するステップb)をさらに含み得る。阻害される1つ以上のシグナル伝達経路はBMPシグナル伝達経路を含み得る。
【0030】
この方法は、前駆細胞をレチノイン酸に接触させるステップをさらに含み得る。前駆細胞をレチノイン酸に接触させるステップは、上記の活性化させるステップ及び阻害するステップの後に行われ得る。
【0031】
この方法は、胃オルガノイドの直径を直径約1mm超、又は直径約2mm超、又は直径約3mm超、又は直径約mm4超に増加させるのに十分な濃度及び/又は時間の長さで胃オルガノイドをEGFに接触させるステップをさらに含み得る。
【0032】
一態様において、1つ以上のシグナル伝達経路は、Wntシグナル伝達経路、Wnt/β-カテニンシグナル伝達、Wnt/APCシグナル伝達、及びWnt/PCP経路シグナル伝達から選択され得る。
【0033】
一態様において、Wntシグナル伝達経路を活性化させるステップは、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、及びWnt16からなる群から選択される1つ以上の分子に前駆細胞を接触させるステップを含み得る。
【0034】
一態様において、FGFシグナル伝達経路を活性化させるステップは、FGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7 FGF8、FGF9、FGF10、FGF11、FGF12、FGF13、FGF14、FGF16、FGF17、FGF18、FGF19、FGF20、FGF21、FGF22、及びFGF23からなる群から選択される1つ以上の分子に前駆細胞を接触させるステップを含み得る。
【0035】
一態様において、BMPシグナル伝達経路を阻害するステップは、前駆細胞をBMP阻害薬に接触させるステップを含み得る。一態様において、BMP阻害薬は、ドルソモルフィン、LDN189、DMH-1、ノギン及びそれらの組み合わせから選択され得る。一態様において、BMP阻害薬はノギンであり得る。
【0036】
一態様において、活性化させるステップは、インキュベーション時間と称される特定の時間にわたって前駆細胞をWnt3a、FGF4、及びBMP阻害薬に接触させるステップを含み得る。接触させるステップは同時に行われてもよく、又は他の態様では、接触させるステップは逐次行われてもよい。
【0037】
一態様において、胚体内胚葉を含み得る前駆細胞に、1)Wnt3a又はGSK阻害薬(例えば、CHIRON)と2)FGF4との組み合わせを含み得るシグナル伝達剤を第1のインキュベーション時間にわたって接触させてもよい。第1のインキュベーション時間はBMP阻害薬をさらに含み得る。第1のインキュベーション時間の後、前駆細胞を第2のインキュベーション時間に供してもよく、ここでは前駆細胞をレチノイン酸(RA)に接触させる。一態様において、第1のインキュベーション時間と第2のインキュベーション時間とは重複する。一部の実施形態において、第1のインキュベーション時間と第2のインキュベーション時間とは重複しない。
【0038】
一態様において、第1及び/又は第2のインキュベーション時間、及び/又は第1及び第2のインキュベーション時間の合計は、24~120時間、又は約36~約108時間、又は約48~約96時間、又は約60~約84時間であり得る。一態様において、第1のインキュベーション時間は少なくとも約24時間であり得る。
【0039】
一態様において、第2のインキュベーション時間(ここでは前駆細胞をRAに接触させ得る)は第1のインキュベーション時間の約72時間後に開始する。さらなる態様において、第2のインキュベーション時間は、培養物が前駆細胞から前腸スフェロイドを形成した後に開始する。次に、例えば前腸スフェロイドをMatrigel(商標)(Corning、BD Bioscience)に適用することにより、前腸スフェロイドを胃オルガノイドの形成に好適な成長条件下の三次元マトリックスに移し得る。Matrigelに移した後、前腸スフェロイドは第3のインキュベーション時間にわたってRAと接触させ、ここでは継続的な3D成長が起こり得る。次にスフェロイドを第4のインキュベーション時間にわたってEGFに接触させてもよく、この第4のインキュベーション時間は第3のインキュベーション時間と重複してもよい。第3のインキュベーション時間は約24時間であり得る。
【0040】
一態様において、前駆細胞は、50~1500ng/ml、又は約100~約1200ng/ml、又は約200~約1000ng/ml、又は約300~約900ng/ml、又は約400~約800ng/ml、又は約500~約700ng/mlの濃度のWnt3aに接触させてもよい。
【0041】
一態様において、前駆細胞は、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、人工多能性幹細胞、中胚葉細胞、胚体内胚葉細胞、後方内胚葉細胞、及び後腸細胞から選択され得る。
【0042】
一態様において、前駆細胞は、多能性幹細胞に由来する胚体内胚葉細胞であり得る。
【0043】
一態様において、前駆細胞は、胚性幹細胞、胚性幹細胞、又は人工多能性幹細胞などの多能性幹細胞であり得る。
【0044】
一態様において、胚体内胚葉細胞は、アクチビン、成長因子のTGF-βスーパーファミリーのBMPサブグループ;ノーダル、アクチビンA、アクチビンB、BMP4、Wnt3a、及びそれらの組み合わせから選択される1つ以上の分子に多能性幹細胞を接触させることによって得られ得る。
【0045】
一態様において、胃組織は1つ以上の前駆細胞からインビトロで作製され得る。
【0046】
一態様において、1つ以上の前駆細胞は、胚性幹細胞、中胚葉細胞、胚体内胚葉細胞、後方内胚葉細胞、前方内胚葉細胞、前腸細胞、及び後腸細胞から選択され得る。
【0047】
一態様において、多能性幹細胞は、限定はされないが、ヒト多能性幹細胞、又はマウス多能性幹細胞を含めた、哺乳類多能性幹細胞であり得る。
【0048】
一態様において、ヒト多能性幹細胞は、ヒト胚性幹細胞、ヒト胚性生殖細胞、及びヒト人工多能性幹細胞から選択され得る。
【0049】
一態様において、1つ以上の前駆細胞からインビトロで作製された胃細胞、組織、又はオルガノイドを含むキットが提供される。
【0050】
一態様において、胃細胞又は組織の吸収効果を同定する方法が提供される。この方法は、前駆細胞に由来する胃細胞、組織、又はオルガノイドを化合物に接触させるステップと;前記胃細胞又は組織による化合物の吸収レベルを検出するステップとを含み得る。
【0051】
一態様において、胃細胞又は組織に対する化合物の毒性を同定する方法が提供される。この方法は、前駆細胞に由来する胃細胞、組織、又はオルガノイドを化合物に接触させるステップと;前記胃細胞又は組織による化合物の吸収レベルを検出するステップとを含み得る。
【0052】
一態様において、デノボで作成された三次元ヒト胃オルガノイド(hGO)を含む組成物、及びヒト多能性幹細胞(hPSC)の指向性分化によってそれを作る方法が開示される。かかるhGOは、胃発生並びにピロリ菌(H.pylori)感染中に起こる初期イベントのモデル化に使用し得る。
【0053】
一態様において、ヒト多能性幹細胞(hPSC)の指向性分化によってインビトロでhGOを作成する方法が開示される。このヒト胃組織は、ヒト胃の発生及び疾患のモデル化に使用し得る。三次元腸管構造を形成するように胚体内胚葉(DE)を誘導する方法もまた開示される。一態様において、これは、FGF及びWNTシグナル伝達を活性化する一方で、同時にBMPシグナル伝達を阻害して前腸運命を促進し得ることによって実施され得る。次に前腸スフェロイドをレチノイン酸及びEGFシグナル伝達の操作によって後方前腸及び胃の運命となるように指向させると、hGOがもたらされ得る。
【0054】
hGOの発生は、胃腺及び胃小窩、増殖帯、表層及び前庭部粘液細胞、並びにガストリン、グレリン及びソマトスタチンを発現する内分泌細胞を形成するマウス前庭部の発生とほぼ同じ分子的な及び形態形成上の変化を経るものであり得る。hGOを使用してヒト胃発生をモデル化することにより、EGFシグナル伝達が転写因子NEUROGENIN 3の上流で内分泌細胞発生を抑制することが決定されている。本出願人はさらに、hGOが、c-Metシグナル伝達及び上皮増殖の急速な活性化を含め、ピロリ菌(H.pylori)によって惹起される胃疾患の初期段階を忠実に再現することを見出した。合わせると、これらの研究は、ヒト胃の発生及び疾患の根底にある機構を解明するための新規のロバストなインビトロシステムを描き出している。
【0055】
胚細胞に由来する多能性幹細胞
一態様において、本方法は、多能性であるか、又は多能性になるよう誘導することのできる幹細胞を入手するステップを含み得る。一部の実施形態において、多能性幹細胞は胚性幹細胞に由来し、一方で胚性幹細胞は初期哺乳類胚の全能性細胞に由来するもので、インビトロで無制限の未分化増殖が可能である。胚性幹細胞は、初期胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する多能性幹細胞である。未分化胚芽細胞から胚性幹細胞を得る方法は、当該技術分野において周知である。例えば、本明細書にある種の細胞型が例示されるが、当業者であれば、本明細書に記載される方法及びシステムを任意の幹細胞に適用可能であることを理解するであろう。
【0056】
本発明において実施形態で使用し得るさらなる幹細胞としては、限定はされないが、国立幹細胞バンク(National Stem Cell Bank:NSCB)、カリフォルニア大学(University of California)のヒト胚性幹細胞研究センター(Human Embryonic Stem Cell Research Center)、San Francisco(UCSF);Wi Cell Research InstituteのWISC細胞バンク;ウィスコンシン大学幹細胞及び再生医学センター(University of Wisconsin Stem Cell and Regenerative Medicine Center:UW-SCRMC);Novocell,Inc.(San Diego、Calif.);Cellartis AB(Goteborg、スウェーデン);ES Cell International Pte Ltd(シンガポール);テクニオン-イスラエル工科大学(Technion at the Israel Institute of Technology)(Haifa、イスラエル)が管理するデータベース;並びにプリンストン大学(Princeton University)及びペンシルバニア大学(University of Pennsylvania)が管理する幹細胞データベースによって提供されるか、又はそれに記載されるものが挙げられる。本発明において実施形態で使用し得る例示的胚性幹細胞としては、限定はされないが、SA01(SA001);SA02(SA002);ES01(HES-1);ES02(HES-2);ES03(HES-3);ES04(HES-4);ES05(HES-5);ES06(HES-6);BG01(BGN-01);BG02(BGN-02);BG03(BGN-03);TE03(13);TE04(14);TE06(16);UC01(HSF1);UC06(HSF6);WA01(H1);WA07(H7);WA09(H9);WA13(H13);WA14(H14)が挙げられる。
【0057】
一部の実施形態において、幹細胞は、追加的な特性を取り入れるためさらに修飾されてもよい。例示的な修飾細胞株としては、限定はされないが、H1 OCT4-EGFP;H9 Cre-LoxP;H9 hNanog-pGZ;H9 hOct4-pGZ;H9 in GFPhES;及びH9 Syn-GFPが挙げられる。
【0058】
胚性幹細胞に関するさらなる詳細については、例えば、Thomson et al.,1998,“Embryonic Stem Cell Lines Derived from Human Blastocysts”,Science 282(5391):1145-1147;Andrews et al.,2005,“Embryonic stem(ES)cells and embryonal carcinoma(EC)cells:opposite sides of the same coin”,Biochem Soc Trans 33:1526-1530;Martin 1980,“Teratocarcinomas and mammalian embryogenesis”,Science 209(4458):768-776;Evans and Kaufman,1981,“Establishment in culture of pluripotent cells from mouse embryos”,Nature 292(5819):154-156;Klimanskaya et al.,2005,“Human embryonic stem cells derived without feeder cells”,Lancet 365(9471):1636-1641;(これらの各々は本明細書によって全体として本明細書に援用される)を参照することができる。
【0059】
代替的な多能性幹細胞は、有性生殖する生物の配偶子を生じる細胞である胚性生殖細胞(EGC)に由来し得る。EGCは、後期胚の生殖堤に見られる始原生殖細胞に由来し、胚性幹細胞の特性の多くを有する。胚における始原生殖細胞が発生すると、成体において生殖配偶子(精子又は卵子)を生じる幹細胞となる。マウス及びヒトでは、適切な条件下で組織培養において胚性生殖細胞を成長させることが可能である。EGC及びESCは両方ともに多能性である。本発明の目的上、用語「ESC」は広義に用いられ、時にEGCを包含する。
【0060】
人工多能性幹細胞(iPSC)
一部の実施形態において、iPSCは、ある種の幹細胞関連遺伝子を非多能性細胞、例えば成体線維芽細胞にトランスフェクトすることによって得られる。トランスフェクションは、典型的にはレトロウイルスなどのウイルスベクターを用いて達成される。トランスフェクトされる遺伝子としては、マスター転写調節因子Oct-3/4(Pouf51)及びSox2が挙げられるが、他の遺伝子が誘導効率を増進させることも考えられる。3~4週間後、少数のトランスフェクト細胞が形態学的及び生化学的に多能性幹細胞と類似したものになり始め、典型的には、形態学的選択、倍加時間によるか、又はレポーター遺伝子及び抗生物質選択によって単離される。本明細書で使用されるとき、iPSCとしては、限定はされないが、マウスにおける第1代iPSC、第2代iPSC、及びヒト人工多能性幹細胞を挙げることができる。一部の実施形態では、レトロウイルス系を使用して、4つの中心的遺伝子:Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc-Mycを使用してヒト線維芽細胞を多能性幹細胞に形質転換し得る。代替的実施形態では、レンチウイルス系を使用して、OCT4、SOX2、NANOG、及びLIN28で体細胞を形質転換する。iPSCにおいてその発現を誘導し得る遺伝子としては、限定はされないが、Oct-3/4(例えば、Pou5fl);Sox遺伝子ファミリーの特定のメンバー(例えば、Sox1、Sox2、Sox3、及びSox15);Klfファミリーの特定のメンバー(例えば、Klf1、Klf2、Klf4、及びKlf5)、Mycファミリーの特定のメンバー(例えば、C-myc、L-myc、及びN-myc)、Nanog、及びLIN28が挙げられる。
【0061】
一部の実施形態では、非ウイルスベースの技術を用いてiPSCを作成し得る。一部の実施形態では、アデノウイルスを使用して必要な4つの遺伝子をマウスの皮膚及び肝細胞のDNAに運び込み、胚性幹細胞と同一の細胞をもたらすことができる。アデノウイルスはそれ自体の遺伝子のいずれも標的宿主と一体化することがないため、腫瘍を作り出す危険性がなくなる。一部の実施形態では、いかなるウイルストランスフェクション系も全くなしに、プラスミドによって再プログラム化を達成することができ、しかし効率は極めて低い。他の実施形態では、タンパク質の直接送達を用いてiPSCが作成され、従ってウイルス又は遺伝子修飾の必要がなくなる。一部の実施形態では、同様の方法論を用いてマウスiPSCの作成が可能である:ポリアルギニンアンカーによって細胞に供給される特定のタンパク質による細胞の反復的な処理が、多能性を誘導するのに十分であった。一部の実施形態において、多能性誘導遺伝子の発現はまた、低酸素条件下においてFGF2で体細胞を処理することによっても増加させることができる。
【0062】
胚性幹細胞に関するさらなる詳細は、例えば、Kaji et al.,2009,“Virus free induction of pluripotency and subsequent excision of reprogramming factors”,Nature 458:771-775;Woltjen et al.,2009,“piggyBac transposition reprograms fibroblasts to induced pluripotent stem cells”,Nature 458:766-770;Okita et al.,2008,“Generation of Mouse Induced Pluripotent Stem Cells Without Viral Vectors”,Science 322(5903):949-953;Stadtfeld et al.,2008,“Induced Pluripotent Stem Cells Generated without Viral Integration”,Science 322(5903):945-949;及びZhou et al.,2009,“Generation of Induced Pluripotent Stem Cells Using Recombinant Proteins”、Cell Stem Cell 4(5):381-384;(これらの各々は本明細書によって全体として本明細書に援用される)を参照することができる。
【0063】
一部の実施形態において、例示的iPS細胞株としては、限定はされないが、iPS-DF19-9;iPS-DF19-9;iPS-DF4-3;iPS-DF6-9;iPS(Foreskin);iPS(IMR90);及びiPS(IMR90)が挙げられる。
【0064】
iPSCはESCと同様の様式で完全分化型組織に分化する能力を有したことが示されている。例えば、iPSCは、βIII-チューブリン、チロシンヒドロキシラーゼ、AADC、DAT、ChAT、LMX1B、及びMAP2を発現するニューロンに分化した。カテコールアミン関連酵素の存在は、iPSCがhESCと同様にドーパミン作動性ニューロンに分化可能であり得ることを示唆し得る。幹細胞関連遺伝子は分化後に下方制御されることが示された。また、iPSCが、自発的に拍動し始めた心筋細胞に分化し得ることも示されている。心筋細胞は、TnTc、MEF2C、MYL2A、MYHCβ、及びNKX2.5を発現した。幹細胞関連遺伝子は分化後に下方制御された。
【0065】
胃の器官及び発生
本出願人の発明以前には、胚性幹細胞及び/又はiPSCなどの前駆細胞を胃組織に変換するために利用可能なシステムはなかった。
【0066】
一部の実施形態において、ESC及びiPSCなどのPSCは、初めに胚体内胚葉(DE)、次に三次元腸管構造(前腸スフェロイド)、その次に後方前腸/胃組織の形成を介して三次元胃オルガノイド(hGO)へと、段階的な形で指向性分化を経る。
【0067】
一部の実施形態において、ESC及びiPSCなどのPSCは非段階的な形で指向性分化を経て、ここではDE形成を促進するための分子(例えば、成長因子、リガンド)及び続く組織形成のための分子が同時に加えられる。
【0068】
胚体内胚葉
胃の上皮は、胚体内胚葉(DE)と呼ばれる単層の細胞に由来する。前方DEは前腸並びに肺、食道、胃、肝臓及び膵臓を含めたその関連器官を形成し、後方DEは中腸及び後腸を形成して、これは小腸及び大腸並びに泌尿生殖器系の部位を形成する。DEはインビボで消化管及び気道の上皮を生じる。マウス、ヒヨコ及びカエルの胚を使用した研究からは、原腸胚期におけるDEの前後パターンの確立が、続く前腸及び後腸発生に必須であることが示唆される。一部の実施形態において、ESC及びiPSCなどのPSCは、初めに胚体内胚葉(DE)、次に前方/前腸上皮(例えば、前腸スフェロイド)、その次に胃組織へと、段階的な形で指向性分化を経る。この過程には、BMP、Wnt及びFGFシグナル伝達経路が決定的に重要であると考えられている。WNT及びFGFの活性化は腸管形態形成を促進する働きをし、及びBMPシグナル伝達の阻害は前腸運命を促進する。前腸の単層立方上皮は初めに多列円柱上皮、次に胃上皮を含む腺及び小窩並びに絨毛の基部にある増殖帯(これは予定プロジェニタードメイン(presumptive progenitor domain)に対応する)へと発生する。
【0069】
インビトロでDEから胃組織への分化を指向させるためのロバストで効率的なプロセスが確立される。一部の実施形態において、指向性分化は、iPSC及び/又はDE細胞における特定のシグナル伝達経路を選択的に活性化することによって実現される。一部の実施形態において、このシグナル伝達経路は、限定はされないが、Wntシグナル伝達経路、Wnt/APCシグナル伝達経路、FGFシグナル伝達経路、TGF-βシグナル伝達経路、BMPシグナル伝達経路;EGFシグナル伝達経路、及びレチノイン酸シグナル伝達経路を含めた、胃組織の発生において活性なものである。
【0070】
DEの発生及び/又は一般に腸の発生に関係するシグナル伝達経路の機能に関するさらなる詳細については、例えば、Zorn and Wells,2009,“Vertebrate endoderm development and organ formation”,Annu Rev Cell Dev Biol 25:221-251;Dessimoz et al.,2006,“FGF signaling is necessary for establishing gut tube domains along the anterior-posterior axis in vivo”,Mech Dev 123:42-55;McLin et al.,2007,“Repression of Wnt/{beta}-catenin signaling in the anterior endoderm is essential for liver and pancreas development”.Development,134:2207-2217;Wells and Melton,2000,Development 127:1563-1572;de Santa Barbara et al.,2003,“Development and differentiation of the intestinal epithelium”,Cell Mol Life Sci 60(7):1322-1332;Sancho et al.,2004,“Signaling Pathways in Intestinal Development and Cancer”,Annual Review of Cell and Developmental Biology 20:695-723;Logan and Nusse,2004,“The Wnt Signaling Pathway in Development and Disease”,Annual Review of Cell and Developmental Biology 20:781-810;Taipalel and Beachyl,2001,“The Hedgehog and Wnt signalling pathways in cancer”,Nature 411:349-354;Gregorieff and Clevers,2005,“Wnt signaling in the intestinal epithelium:from endoderm to cancer”,Genes&Dev.19:877-890;(これらの各々は本明細書によって全体として本明細書に援用される)を参照することができる。
【0071】
多能性細胞(例えば、iPSC又はESC)から胚体内胚葉を作製する任意の方法を本明細書に記載される方法に適用することが可能である。一部の実施形態において、多能性細胞は桑実胚に由来する。一部の実施形態において、多能性幹細胞は幹細胞である。これらの方法において使用される幹細胞としては、限定はされないが、胚性幹細胞を挙げることができる。胚性幹細胞は胚内部細胞塊に由来してもよく、又は胚生殖堤に由来してもよい。胚性幹細胞又は生殖細胞は、限定はされないが、ヒトを含めた様々な哺乳類種を含め、種々の動物種を起源とし得る。一部の実施形態では、ヒト胚性幹細胞を使用して胚体内胚葉が作製される。一部の実施形態では、ヒト胚性生殖細胞を使用して胚体内胚葉が作製される。一部の実施形態では、iPSCを使用して胚体内胚葉が作製される。
【0072】
一部の実施形態において、多能性幹細胞からDE細胞への分化過程において1つ以上の成長因子が使用される。分化過程で使用される1つ以上の成長因子としては、TGF-βスーパーファミリーからの成長因子を挙げることができる。かかる実施形態において、1つ以上の成長因子は、ノーダル/アクチビン及び/又は成長因子のTGF-βスーパーファミリーのBMPサブグループを含む。一部の実施形態において、1つ以上の成長因子は、ノーダル、アクチビンA、アクチビンB、BMP4、Wnt3a又はこれらの成長因子のいずれかの組み合わせからなる群から選択される。
【0073】
一部の実施形態において、胚性幹細胞又は人工多能性細胞及びiPSCは、1つ以上の成長因子によって6時間以上;12時間以上;18時間以上;24時間以上;36時間以上;48時間以上;60時間以上;72時間以上;84時間以上;96時間以上;120時間以上;150時間以上;180時間以上;又は240時間以上にわたり処理される。
【0074】
一部の実施形態において、胚性幹細胞又は生殖細胞及びiPSCは、10ng/ml以上;20ng/ml以上;50ng/ml以上;75ng/ml以上;100ng/ml以上;120ng/ml以上;150ng/ml以上;200ng/ml以上;500ng/ml以上;1,000ng/ml以上;1,200ng/ml以上;1,500ng/ml以上;2,000ng/ml以上;5,000ng/ml以上;7,000ng/ml以上;10,000ng/ml以上;又は15,000ng/ml以上の濃度の1つ以上の成長因子によって処理される。一部の実施形態において、成長因子の濃度は処理全体を通じて一定のレベルに維持される。他の実施形態において、成長因子の濃度は処理する間に変化させる。一部の実施形態において、成長因子は、種々のHyClone濃度でウシ胎仔セリン(FBS)を含む培地中に懸濁される。当業者であれば、本明細書に記載されるレジメンを単独又は組み合わせの任意の既知の成長因子に適用可能であることを理解するであろう。2つ以上の成長因子が使用されるとき、各成長因子の濃度は独立に変えてもよい。
【0075】
一部の実施形態において、胚体内胚葉細胞がエンリッチされた細胞集団が使用される。一部の実施形態において、胚体内胚葉細胞は単離され、又は実質的に精製される。一部の実施形態において、単離され、又は実質的に精製された胚体内胚葉細胞は、OCT4、AFP、TM、SPARC及び/又はSOX7マーカーと比べてより高度にSOX17、FOXA2、及び/又はCXRC4マーカーを発現する。
【0076】
胚体内胚葉を含む細胞集団をエンリッチする方法もまた企図される。一部の実施形態において、胚体内胚葉細胞は、胚体内胚葉細胞の表面上に存在するが混合細胞集団中の他の細胞の表面上には存在しない分子に結合する試薬にそれらの細胞を接触させて、次に試薬に結合した細胞を単離することにより、混合細胞集団から単離し、又は実質的に精製することができる。特定の実施形態において、胚体内胚葉細胞の表面上に存在する細胞構成物はCXCR4である。
【0077】
本発明のさらに他の実施形態は、CXCR4抗体、SDF-1リガンド又は他のCXCR4リガンドに関し、これらは、エンリッチされた、単離された、又は実質的に精製された形態の胚体内胚葉細胞を入手するために使用することができる。例えば、親和性に基づく分離又は磁気に基づく分離などの方法においてCXCR4抗体、SDF-1リガンド又は別のCXCR4リガンドを試薬として使用して、該試薬に結合する胚体内胚葉細胞の調製物をエンリッチし、単離し、又は実質的に精製することができる。
【0078】
一部の実施形態において、胚体内胚葉細胞及びhESCは1つ以上の成長因子で処理される。かかる成長因子には、TGF-βスーパーファミリーの成長因子が含まれ得る。かかる実施形態において、1つ以上の成長因子はノーダル/アクチビン及び/又は成長因子のTGF-βスーパーファミリーのBMPサブグループを含む。一部の実施形態において、1つ以上の成長因子は、ノーダル、アクチビンA、アクチビンB、BMP4、Wnt3a又はこれらの成長因子のいずれかの組み合わせからなる群から選択される。
【0079】
本発明において使用し得るDE細胞を入手し又は作り出すためのさらなる方法としては、限定はされないが、D’Amour et al.に対する米国特許第7,510,876号明細書;Fisk et al.に対する米国特許第7,326,572号明細書;Kubol et al.,2004,“Development of definitive endoderm from embryonic stem cells in culture”,Development 131:1651-1662;D’Amour et al.,2005,“Efficient differentiation of human embryonic stem cells to definitive endoderm”,Nature Biotechnology 23:1534-1541;及びAng et al.,1993,“The formation and maintenance of the definitive endoderm lineage in the mouse:involvement of HNF3/forkhead proteins”,Development 119:1301-1315;(これらの各々は本明細書によって全体として本明細書に参照により援用される)に記載されるものが挙げられる。
【0080】
後方化DEの指向性分化
一部の実施形態では、アクチビン誘導性胚体内胚葉(DE)がFGF/Wnt/ノギン誘導性前方内胚葉パターン形成、前腸特異化及び形態形成、並びに最後にプロガストリック培養系をさらに経ることにより、表層粘液細胞、粘液腺細胞、内分泌、及びプロジェニター細胞を含めた機能性の胃細胞型への胃組織成長、形態形成及び細胞分化が促進され得る。一部の実施形態では、ヒトPSCを、粘液、内分泌、及びプロジェニター細胞型を含む胃上皮にインビトロで分化するように効率的に指向させる。特定のタイプの胃組織形成を促進するため、任意の発生段階で成長因子などの分子を加え得ることは理解されるであろう。
【0081】
一部の実施形態では、DEの前方化内胚葉細胞が1つ以上の特殊化した細胞型へとさらに発生する。
【0082】
一部の実施形態において、可溶性FGF及びWntリガンド並びにBMP拮抗薬を使用して培養下で初期前腸特異化を模倣し、iPSC又はESCから発生したDEを指向性分化によって、主要な前庭部胃細胞型の全てを効率的に生じる前腸上皮に変換する。ヒトにおいては、DEの指向性分化は、胃発生に重要な特定のシグナル伝達経路を選択的に活性化させることによって実現する。
【0083】
インビトロでのヒト胃(stomach)/胃(gastric)の発生は、胎児期の腸発生;内胚葉形成、前方内胚葉パターン形成、前腸形態形成、胎児期の胃、前庭部及び胃底部発生、上皮形態形成、予定プロジェニタードメインの形成、及び胃の機能性細胞型への分化を近似する段階で起こる。
【0084】
当業者は、任意のFGFリガンドと組み合わせた任意のWntシグナル伝達タンパク質の発現を改変すると、本発明における指向性分化が生じ得ることを理解するであろう。一部の実施形態において、この改変は、Wnt3、詳細にはWnt3aの過剰発現である。一部の実施形態において、この改変は、Wnt1又は他のWntリガンドの過剰発現である。
【0085】
当業者は、FGFシグナル伝達経路のシグナル伝達活性を改変することと組み合わせてWntシグナル伝達経路のシグナル伝達活性を改変すると、本発明における指向性分化が生じ得ることを理解するであろう。一部の実施形態において、この改変は、前述の経路を活性化する小分子モジュレーターの使用による。例えば、Wnt経路の小分子モジュレーターには、限定はされないが、塩化リチウム;2-アミノ-4,6-二置換ピリミジン(ヘテロ)アリールピリミジン;IQ1;QS11;NSC668036;DCA β-カテニン;2-アミノ-4-[3,4-(メチレンジオキシ)-ベンジル-アミノ]-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジンが含まれた。
【0086】
代替的実施形態において、Wnt及び/又はFGFシグナル伝達経路に関連する細胞構成物、例えば、これらの経路の天然阻害因子又は拮抗物質を阻害して、Wnt及び/又はFGFシグナル伝達経路の活性化をもたらすことができる。
【0087】
一部の実施形態において、細胞構成物は他の細胞構成物又は外因性分子によって阻害される。Wntシグナル伝達の例示的な天然阻害因子としては、限定はされないが、Dkk1、SFRPタンパク質及びFrzBが挙げられる。一部の実施形態において、外因性分子としては、限定はされないが、WAY-316606;SB-216763;又はBIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)などの小分子を挙げることができる。
【0088】
さらなる詳細については、例えば、Liu et al.,“A small-molecule agonist of the Wnt signaling pathway”,Angew Chem Int Ed Engl.44(13):1987-1990(2005);Miyabayashi et al.,“Wnt/beta-catenin/CBP signaling maintains long-term murine embryonic stem cell pluripotency”,Proc Natl Acad Sci USA.104(13):5668-5673(2007);Zhang et al.,“Small-molecule synergist of the Wnt/beta-catenin signaling pathway”,Proc Natl Acad Sci U S A.104(18):7444-7448(2007);Neiiendam et al.,“An NCAM-derived FGF-receptor agonist,the FGL-peptide,induces neurite outgrowth and neuronal survival in primary rat neurons”,J.Neurochem.91(4):920-935(2004);Shan et al.,“Identification of a specific inhibitor of the dishevelled PDZ domain”,Biochemistry 44(47):15495-15503(2005);Coghlan et al.,“Selective small molecule inhibitors of glycogen synthase kinase-3 modulate glycogen metabolism and gene transcription”,Chem.Biol.7(10):793-803(2000);Coghlan et al.,“Selective small molecule inhibitors of glycogen synthase kinase-3 modulate glycogen metabolism and gene transcription”,Chemistry&Biology 7(10):793-803;及びPai et al.,“Deoxycholic acid activates beta-catenin signaling pathway and increases colon cell cancer growth and invasiveness”,Mol Biol Cell.15(5):2156-2163(2004);(これらの各々は本明細書によって全体として参照により援用される)が参照される。
【0089】
一部の実施形態では、Wnt及び/又はFGFシグナル伝達経路に関連する細胞構成物を標的化するsiRNA及び/又はshRNAを使用してこれらの経路が活性化される。当業者であれば、標的細胞構成物には、限定はされないが、SFRPタンパク質;GSK3、Dkk1、及びFrzBが含まれ得ることを理解するであろう。
【0090】
RNAiベースの技術に関するさらなる詳細については、例えば、Couzin,2002,Science 298:2296-2297;McManus et al.,2002,Nat.Rev.Genet.3,737-747;Hannon,G.J.,2002,Nature 418,244-251;Paddison et al.,2002,Cancer Cell 2,17-23;Elbashir et al.,2001.EMBO J.20:6877-6888;Tuschl et al.,1999,Genes Dev.13:3191-3197;Hutvagner et al.,Sciencexpress 297:2056-2060;(これらの各々は本明細書によって全体として参照により援用される)を参照することができる。
【0091】
線維芽細胞成長因子(FGF)は、血管新生、創傷治癒、及び胚発生に関与する成長因子のファミリーである。FGFはヘパリン結合タンパク質であり、細胞表面関連ヘパラン硫酸プロテオグリカンとの相互作用はFGFシグナル伝達に必須であることが示されている。FGFは多種多様な細胞及び組織の増殖及び分化プロセスにおける中心的存在である。ヒトにおいては、FGFファミリーの22個のメンバーが同定されており、その全てが構造上関係のあるシグナル伝達分子である。メンバーFGF1~FGF10は全て線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)に結合する。FGF1は酸性線維芽細胞成長因子としても知られ、FGF2は塩基性線維芽細胞成長因子しても知られる。FGFホモログ因子1~4(FHF1~FHF4)としても知られるメンバーFGF11、FGF12、FGF13、及びFGF14は、FGFと比べて機能上の特徴的差異を有することが示されている。これらの因子は顕著に類似した配列相同性を有するが、それらはFGFRに結合せず、FGFと無関係の細胞内過程に関与する。この集団は「iFGF」としても知られる。メンバーFGF16~FGF23は比較的新しく、それほど十分には特徴付けられていない。FGF15はヒトFGF19のマウスオルソログである(従ってヒトFGF15は存在しない)。ヒトFGF20はアフリカツメガエルFGF-20(XFGF-20)とのその相同性に基づき同定された。他のFGFの局所的活性と対照的に、FGF15/FGF19、FGF21及びFGF23は、より全身性の効果を有する。
【0092】
一部の実施形態において、当業者は、任意のFGFをWntシグナル伝達経路のタンパク質と併せて使用し得ることを理解するであろう。一部の実施形態において、可溶性FGFとしては、限定はされないが、FGF4、FGF2、及びFGF3を挙げることができる。
【0093】
一部の実施形態において、FGFシグナル伝達経路の細胞構成物は、他の細胞構成物又は外因性分子によって阻害される。FGFシグナル伝達の例示的な天然阻害因子としては、限定はされないが、スプラウティー(Sprouty)タンパク質ファミリー及びスプレッド(Spred)タンパク質ファミリーを挙げることができる。上記で考察したとおり、タンパク質、小分子、核酸を使用してFGFシグナル伝達経路を活性化することができる。
【0094】
当業者は、Wnt及びFGFシグナル伝達経路に関連して本明細書に記載される方法及び組成物が例として提供されることを理解するであろう。同様の方法及び組成物を本明細書に開示される他のシグナル伝達経路に適用可能である。
【0095】
一部の実施形態において、DE培養物は、本明細書に記載されるシグナル伝達経路の1つ以上の分子によって6時間以上;12時間以上;18時間以上;24時間以上;36時間以上;48時間以上;60時間以上;72時間以上;84時間以上;96時間以上;120時間以上;150時間以上;180時間以上;200時間以上、240時間以上;270時間以上;300時間以上;350時間以上;400時間以上;500時間以上;600時間以上;700時間以上;800時間以上;900時間以上;1,000時間以上;1,200時間以上;又は1,500時間以上処理され得る。
【0096】
一部の実施形態において、DE培養物は、10ng/ml以上;20ng/ml以上;50ng/ml以上;75ng/ml以上;100ng/ml以上;120ng/ml以上;150ng/ml以上;200ng/ml以上;500ng/ml以上;1,000ng/ml以上;1,200ng/ml以上;1,500ng/ml以上;2,000ng/ml以上;5,000ng/ml以上;7,000ng/ml以上;10,000ng/ml以上;又は15,000ng/ml以上の濃度の本明細書に記載されるシグナル伝達経路の1つ以上の分子によって処理される。一部の実施形態において、シグナル伝達分子の濃度は処理全体を通じて一定に維持される。他の実施形態において、シグナル伝達経路の分子の濃度は処理する間に変化させる。一部の実施形態において、本発明におけるシグナル伝達分子は、DMEM及びウシ胎仔セリン(FBS)を含む培地中に懸濁される。FBSは、2%以上;5%以上;10%以上;15%以上;20%以上;30%以上;又は50%以上の濃度であってもよい。当業者であれば、本明細書に記載されるレジメン(regiment)が、限定はされないがWnt及びFGFシグナル伝達経路における任意の分子を含めた、単独又は組み合わせの本明細書に記載されるシグナル伝達経路の任意の既知の分子に適用可能であることを理解するであろう。
【0097】
2つ以上のシグナル伝達分子を使用してDE培養物を処理する実施形態において、それらのシグナル伝達分子は同時に又は別々に加えることができる。2つ以上の分子を使用するとき、各々の濃度は独立に変化させてもよい。
【0098】
PSCからDE培養物への、及び続いて様々な中間的成熟胃細胞型への分化は、発生段階特異的細胞マーカーの存在によって決定し得る。一部の実施形態では、代表的な細胞構成物の発現を用いてDE形成が決定される。代表的な細胞構成物としては、限定はされないが、CMKOR1、CXCR4、GPR37、RTN4RL1、SLC5A9、SLC40A1、TRPA1、AGPAT3、APOA2、C20orf56、C21orf129、CALCR、CCL2、CER1、CMKOR1、CRIP1、CXCR4、CXorf1、DIO3、DIO30S、EB-1、EHHADH、ELOVL2、EPSTI1、FGF17、FLJ10970、FLJ21195、FLJ22471、FLJ23514、FOXA2、FOXQ1、GATA4、GPR37、GSC、LOC283537、MYL7、NPPB、NTN4、PRSS2、RTN4RL1、SEMA3E、SIAT8D、SLC5A9、SLC40A1、SOX17、SPOCK3、TMOD1、TRPA1、TTN、AW166727、AI821586、BF941609、AI916532、BC034407、N63706及びAW772192を挙げることができる。
【0099】
DE形成の検出に好適なさらなる細胞構成物については、例えば、2005年6月23日に出願された米国特許出願第11/165,305号明細書;2005年12月22日に出願された米国特許出願第11/317,387号明細書;2004年12月23日に出願された米国特許出願第11/021,618号明細書;2005年4月26日に出願された米国特許出願第11/021,618号明細書、同第11/115,868号明細書;2005年12月22日に出願された米国特許出願第11/317,387号明細書;2006年6月23日に出願された米国特許出願第11/474,211号明細書;2005年6月23日に出願された米国特許出願第11/165,305号明細書;2008年8月29日に出願された米国特許出願第11/587,735号明細書;2008年2月28日に出願された米国特許出願第12/039,701号明細書;2009年3月30日に出願された米国特許出願第12/414,482号明細書;2009年6月2日に出願された米国特許出願第12/476,570号明細書;2008年7月21日に出願された米国特許出願第12/093,590号明細書;2009年10月20日に出願された米国特許出願第12/582,600号明細書;(これらの各々は本明細書によって全体として本明細書における参照に援用される)を参照することができる。
【0100】
一部の実施形態では、DEをFGF4及びWnt3a+ノギンと共にある期間、例えば、12時間以上;18時間以上;24時間以上;36時間以上;48時間以上;60時間以上;又は90時間以上インキュベートした後の前腸形成の傾向を明らかにするため、SOX2の発現が用いられる。一部の実施形態では、CDX2の発現の長期化によって計測するとき安定した前方内胚葉表現型を達成するため、より長いインキュベーション時間が必要である。かかる実施形態において、インキュベーション時間は60時間以上;72時間以上;84時間以上;96時間以上;108時間以上;120時間以上;140時間以上;160時間以上;180時間以上;200時間以上;240時間以上;又は300時間以上であり得る。
【0101】
或いは、一部の実施形態では、細胞構成物、例えばCDX2などの後腸マーカーの欠如を用いて指向性の前腸形成を明らかにすることができる。一部の実施形態では、胃の転写因子PDX1、KLF5、及びSOX9を使用して胃の発生を表すことができる。一部の実施形態では、GATA4及び/又はGATA6タンパク質発現を使用して胃の発生を表すことができる。これらの実施形態において、インキュベーション時間は12時間以上;18時間以上;24時間以上;36時間以上;48時間以上;60時間以上;又は90時間以上であり得る。或いは、インキュベーション時間は60時間以上;72時間以上;84時間以上;96時間以上;108時間以上;120時間以上;140時間以上;160時間以上;180時間以上;200時間以上;240時間以上;又は300時間以上であり得る。
【0102】
一部の実施形態では、関連するシグナル伝達経路の分子を標的化する一次及び/又は二次抗体を使用した免疫組織化学によって細胞構成物の存在量データ、例えばタンパク質及び/又は遺伝子発現レベルが決定される。他の実施形態では、マイクロアレイ解析によって細胞構成物の存在量データ、例えばタンパク質及び/又は遺伝子発現レベルが決定される。
【0103】
さらにそれに代えて、形態学的変化を用いて指向性分化の進行を表すことができる。一部の実施形態において、前腸スフェロイドがさらなる成熟のため三次元培養条件にさらに供され得る。加えて、胃オルガノイドを6日以上;7日以上;9日以上;10日以上;12日以上;15日以上;20日以上;25日以上;28日以上;32日以上;36日以上;40日以上;45日以上;50日以上;又は60日以上観察することができる。
【0104】
多能性幹細胞の指向性分化
一部の実施形態では、多能性幹細胞は「ワンステップ」プロセスによって胃細胞型に変換される。例えば、多能性幹細胞をDE培養物に分化させることのできる1つ以上の分子(例えばアクチビンA)が、DE培養物の指向性分化を促進することのできる追加的な分子(例えば、Wnt3a/FGF4アクチベーター及びBMP阻害薬)と組み合わされることにより、多能性幹細胞が直接処理される。
【0105】
有用性及びキットの実施形態
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃組織又は関連細胞型を使用して、ピロリ菌(H.Pylori)の胃取り込み及び/又は輸送及び/又は処理機構に関して薬物をスクリーニングすることができる。例えば、これは、最も容易に吸収される又は有効な薬物をスクリーニングするためハイスループット方式で行うことができ、薬物の胃取り込み及び胃毒性を試験するために行われる第1相臨床試験を増強することができる。これには、小分子、ペプチド、代謝産物、塩の細胞周囲及び細胞内輸送機構が含まれ得る。本明細書に開示される胃組織はさらに、生体適合性を評価するための、胃組織との接触が意図される任意の薬剤及び/又は装置との適合性の評価に使用され得る。
【0106】
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOを使用して、正常なヒト胃発生の分子基盤を同定することができる。
【0107】
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOを使用して、ヒト胃発生に影響を与える先天的欠陥の分子基盤を同定することができる。
【0108】
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOを使用して、遺伝子突然変異によって引き起こされる胃の先天的欠陥を修正することができる。詳細には、iPSC技術及び本明細書に記載される遺伝的に正常な胃組織又は関連細胞型を使用して、ヒト胃発生に影響を与える突然変異を修正することができる。一部の実施形態では、本明細書に記載される胃組織又は関連細胞型を使用して代替組織を作成することができる。遺伝性疾患の例としては、限定はされないが、Neurog3突然変異及び腸内分泌異常(enteric anendocrinosis)、PTF1a突然変異及び新生児糖尿病、胃の腸内分泌細胞に影響する(effect)PDX1突然変異が挙げられる。
【0109】
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOを使用して、消化性潰瘍疾患、メネトリエ病などの疾患又は病態のための、又は胃癌患者のための代替胃組織を作成することができる。
【0110】
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOを使用して、ヒト宿主上皮及び宿主免疫とのミクロビオティック(microbiotic)な相互作用を研究することができる。
【0111】
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃組織又は関連細胞型、詳細には腸内分泌細胞を使用して、胃内分泌によって媒介される摂食行動、代謝のホルモン調節を研究することができる。
【0112】
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGO、詳細にはホルモンガストリン又はグレリンを産生する腸内分泌細胞を使用して、例えば、肥満症、メタボリックシンドローム、又は2型糖尿病の患者における代謝調節を研究し、改善することができる。
【0113】
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOを使用して、それを必要としている対象における任意の損傷した又は摘出された胃組織を置換することができる。
【0114】
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOを使用して、胃組織に作用する任意の薬物の毒性及び有効性をスクリーニングすることができる。
【0115】
本明細書に記載される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOを使用して化合物の吸収レベルを決定する一部の実施形態では、この化合物を胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOとある化合物と接触させ;及び胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOによる化合物の吸収レベルを定量化することができる。一部の実施形態において、化合物は、放射性同位元素、蛍光標識及び/又は一次若しくは二次可視マーカーで標識されてもよい。
【0116】
一部の実施形態では、本明細書に記載される胃細胞、胃組織及び/又は胃hGOを含み且つ前述の有用性の1つ以上に基づく診断キット又はパッケージが開発される。
【0117】
本発明が詳細に説明されているが、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲から逸脱することなく改良例、変形例、及び均等な実施形態が可能であることは明らかであろう。さらには、本開示における例は全て非限定的な例として提供されることが理解されなければならない。
【実施例0118】
以下の非限定的な例は、本明細書に開示される本発明の実施形態をさらに説明するため提供される。当業者は、以下の例に開示される技術が、本発明の実施において良好に機能することが見出された手法に相当し、従ってその実施のための態様の例を成すものと見なし得ることを理解しなければならない。しかしながら、当業者は、本開示に鑑みて、開示される具体的な実施形態において多くの変更を行うことができ、それでもなお本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく同様の又は類似した結果を達成し得ることを理解しなければならない。
【0119】
多能性幹細胞培養
ヒト胚性幹細胞株WA01(H1)及びWA09(H9)をWiCellから入手した。ESC株及びiPSC株は、mTesR1培地(Stem Cell Technologies)においてHESC適格Matrigel(BD Biosciences)上でフィーダーフリー条件でコロニーとして維持した。細胞は4日毎にdispase(Invitrogen)を用いて常法で継代した。
【0120】
DE誘導
(
図14に要約する)Matrigel(BD Biosciences)で被覆した24ウェルプレートのmTesR1培地+ROCK阻害薬Y27632(10μM;Stemgent)においてヒトES及びiPS細胞を単一細胞としてウェル当たり150,000細胞でプレーティングした。ROCK阻害薬は、分化のためのプレーティング後の幹細胞の生存を増強する。翌日から開始して、漸増濃度の0%、0.2%、及び2.0%既知組成ウシ胎仔血清(dFBS;Invitrogen)を含有するRPMI 1640(Invitrogen)において細胞をアクチビンA(100ng ml-1;Cell Guidance Systems)で3日間処理した。
【0121】
胚体内胚葉(DE)の分化
PSCを分化させるため、Matrigel(マトリゲル)で被覆した24ウェルディッシュにおいて、ROCK阻害薬Y-27632(10μM;Stemgent)を含むmTesR1にウェル当たり150,000細胞の密度でaccutase(Stem Cell Technologies)を使用して単一細胞としてプレーティングした。翌日、以前記載されているとおりPSCはDEに分化した11、35。漸増濃度の0%、0.2%、及び2.0%既知組成ウシ胎仔血清(dFBS;Invitrogen)を含有するRPMI 1640培地(Invitrogen)において細胞をアクチビンA(100ng ml-1;Cell Guidance Systems)に3日間曝露した。加えて、DE誘導の初日にBMP4(50ng ml-1;R&D Systems)を添加した。
【0122】
内胚葉パターン形成及び腸管形態形成
DE誘導に続き、2.0%dFBSを含むRPMI 1640において細胞を成長因子/拮抗薬で3日間処理した。後方前腸スフェロイドを作成するため、ノギン(200ng ml-1;R&D Systems)と、FGF4(500ng ml-1;R&D Systems)と、WNT3A(500ng ml-1;R&D Systems)又はCHIR99021(2μM;Stemgent)のいずれかとでDEを3日間処理した。CHIR99021は、Wntシグナル伝達経路を刺激する小分子である。最終日にRA(2μM;Sigma Aldrich)を添加する。三次元成長及び前庭部の特異化。後方前腸スフェロイドを以前記載されているとおりMatrigel(BD Biosciences)に包埋し10、12、続いて、N2(Invitrogen)、B27(Invitrogen)、L-グルタミン、10μM HEPES、ペニシリン/ストレプトマイシン、及びEGF(100ng ml-1;R&D Systems)を補足したアドバンストDMEM/F12(Invitrogen)において成長させた。前庭部の特異化のため、三次元成長の最初の3日間にRA及びノギンを添加した。内分泌細胞の特異化のため、30日目にEGF濃度を10ng ml-1に下げる。
【0123】
内胚葉パターン形成及び前腸スフェロイド作成
DE誘導に続き、2.0%dFBS及び成長因子:WNT3A(500ng ml-1;R&D Systems)、CHIR99021(2μM;Stemgent);FGF4(500ng ml-1;R&D Systems)、及びノギン(200ng ml-1;R&D Systems)を含むRPMI 1640培地において細胞を培養した。培地は毎日交換した。3日後、WNT3A(又はCHIR99021)、FGF4、及びノギンの組み合わせにより、培養ウェルに浮遊前腸スフェロイドがもたらされた。前腸内胚葉の後方化のため、WNT/FGF/ノギン処理の3日目にRA(2μM;Sigma Aldrich)を添加した。
【0124】
胃オルガノイドの三次元培養
スフェロイドを以前記載されているとおりの三次元インビトロ培養系に移した5、10、12。簡潔に言えば、スフェロイドを回収し、50μl Matrigel(BD Biosciences)に再懸濁し、及び三次元ドロップレットでプレーティングした。組織培養インキュベーターにおいてMatrigelを10~15分間固化させた後、腸培地:N2(Invitrogen)、B27(Invitrogen)、L-グルタミン、10μM HEPES、ペニシリン/ストレプトマイシン、及びEGF(100ng ml-1;R&D Systems)を含むアドバンストDMEM/F12でスフェロイドをオーバーレイした。最初の3日間、この腸培地にRA及びノギンを添加した。培地は必要に応じて3~4日毎に取り替えた。20日目、オルガノイドを回収し、約1:12希釈で新鮮なMatrigelにリプレーティングした。
【0125】
dox誘導性hNEUROG3 hESC株の作成
過剰発現コンストラクトを作成するため、Gateway Cloning(Invitrogen)法を用いてhNEUROG3 cDNA(ダナ・ファーバー/ハーバード癌センターDNAリソースコア(Dana-Farber/Harvard Cancer Center DNA Resource Core;クローンHsCD00345898)をpInducer20レンチウイルスベクター(T.Westbrookから供与された36)にクローニングした。高力価レンチウイルス粒子はCCHMCウイルスベクターコアによって作製された。AccutaseでH1 hESCを分離し、10μM Y-27632を含むmTesR1に単一細胞懸濁液としてプレーティングし、レンチウイルスに4時間曝露した。mTesR1は毎日取り替え、2日後、培地にG418(200μg ml-1)を添加して組み込みクローンを選択した。G418耐性細胞は抗生物質において無限に維持したが、他の場合には通常どおり培養して継代した。
【0126】
iPSC株の作成及び特徴付け
初代ヒト包皮線維芽細胞(HFF)は新生児ヒト包皮組織から培養し、シンシナティ大学皮膚科学科(Department of Dermatology,University of Cincinnati)を通じて2人のドナーから入手し、及びSusanne Wells PhDから供与いただいた。10%FCS(Hyclone)を補足したDMEM(Invitrogen)からなる線維芽細胞培地においてHFFを培養し、継代第5代と第8代との間の再プログラム化に使用した。本研究に使用したEBNA1/OriPベースのエピソームプラスミドpCLXE-hOct3/4-shp53、pCLXE-hSox2-Klf4、pCLXE-hLmyc-Lin28、及びpCLXE-GFPは以前記載されており37、Addgeneから入手した(ID番号:それぞれ27077、27078、27080、及び27082)。最適化されたヒト皮膚線維芽細胞Nucleofectorキット(VPD-1001;Lonza)をエピソームプラスミドによるHFFのトランスフェクションに使用した。簡潔に言えば、各トランスフェクションについて、室温において200×gで10分間遠心して1×106個のHFFをペレット化し、100μlの室温Nucleofector溶液に再懸濁し、1.25μgの各エピソームプラスミドをヌクレオフェクトした(プログラムU20)。2回のトランスフェクションからの細胞(合計2×106細胞)を、10cm組織培養プレートの線維芽細胞培地にリプレーティングし、37℃/5%CO2で培養した。トランスフェクションの6日後、1.07×106個の照射マウス胚線維芽細胞(MEF)が入ったゼラチン被覆10cmディッシュの線維芽細胞培地に4.5×105個のHFFをリプレーティングした。トランスフェクション後7日目に開始して、細胞に毎日、20%ノックアウト血清代替物、1mM L-グルタミン、0.1mM β-メルカプトエタノール、0.1mM 非必須アミノ酸、及び4ng ml-1塩基性FGF(全てInvitrogenから)を補足したDMEM/F12培地を供給した。約2週間後、hESC様の形態を有する孤立したコロニーを手動で切り出し、hESC適格matrigel(Becton Dickinson)で被覆された組織培養ディッシュのmTesR1培地(Stem Cell Technologies)にリプレーティングした。mTeSR1/matrigel培養に適応させた後、自発的分化が最小限の、ロバストな増殖及びhESC様の形態を維持したiPSCを、凍結保存及び特徴付けのため拡大した。
【0127】
標準的な中期の広がり及びGバンド核型がCCHMC細胞遺伝学研究所(CCHMC Cytogenetics Laboratory)によって決定された。奇形腫形成のため、6ウェルディッシュの3つのウェルのiPSCを組み合わせて、氷冷DMEM/F12中に穏やかに再懸濁した。注射の直前に、約33%の終濃度となるようにmatrigelを添加し、免疫不全NOD/SCID γ C-/-マウスに細胞を皮下注射した。6~12週間以内に腫瘍が形成された。切除した奇形腫を固定し、パラフィンに包埋し、組織学的検査のため切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。
【0128】
胃オルガノイドの例示的プロトコル
以下の表は、前駆細胞から胃オルガノイドを発生させるための例示的処理プロトコルを示す。
【0129】
【0130】
胃底部特異化プロトコル
本出願人は、初めに、胎生期において胃底部で特異的に発現するが前庭部では発現しない遺伝子を同定しようとした。E14.5マウス胚の消化管を顕微解剖し、4つの領域に分けた:前胃(食道を含む)、胃底部、前庭部、及び十二指腸。
図15を参照のこと。次にこれらの領域の領域形成マーカーをqPCRによって分析した。
図15は、種々の領域で発現することが知られる対照遺伝子の発現を示す。胃底部及び前庭部は、そのSox2及びGata4の高発現、並びにP63及びCdx2の欠如によって前胃及び十二指腸と区別することができる。重要なことに、Pdx1(前庭部のマーカー)は胃底部と比べて前庭部組織においてはるかに高いレベルで発現し、正確な解剖を指示するものである。
【0131】
胚体マウス内胚葉及び成体ヒト胃組織の公開されているマイクロアレイデータセットのバイオインフォマティクス解析を使用して、胃底部で優先的に発現し得るが前庭部では発現しない候補遺伝子のリストを作成した。E14.5マウスセグメントにおけるこれらの推定マーカーの発現をqPCRによって調べた。Irx1、Irx2、Irx3、Irx5、及びPitx1が、実に、前庭部と比べて胃底部においてより高いレベルで発現する。従ってこれらのマーカーは、hPSC由来の前腸培養物における胃底部特異化の指標として使用し得る。
図16を参照のこと。
【0132】
次に、胃オルガノイド分化プロトコルの6~9日目における胃底部-前庭部パターン形成の調節におけるWntシグナル伝達の機能を試験した。Wnt3a(100ng/mL及び500ng/mLで)の添加はスフェロイド遺伝子発現に何ら効果を有しなかったが、それはまた、実にWnt標的遺伝子Axin2の発現も誘導した。従って、小分子CHIR99021(CHIR;2uM)の効果を試験した。CHIR99021は受容体非依存的にWntシグナル伝達を刺激する。CHIRへの曝露によりPdx1発現レベルのロバストな抑制がもたらされ、これは胃底部特異化と一致した。CHIRは腸マーカーCdx2の発現を誘導しなかった。
図17を参照のこと。
図18は、Pdx1の抑制と一致して、CHIRへの曝露が胃底部特異的マーカーIRX3及びIRX5の高レベルの発現を誘導したことを示す。
【0133】
ピロリ菌(H.pylori)感染
ピロリ菌(H.pylori)株G2738及びCagAが欠損している突然変異体G27株(ΔCagA)39を、以前記載されているとおり40、コロンビア寒天基礎培地(Fisher Scientific)、5%ウマ血液(Colorado Serum Company)、5μg ml-1、バンコマイシン及び10μg ml-1トリメトプリムからなる血液寒天プレートで成長させた。オルガノイド注入のため、ピロリ菌(H.pylori)をブルセラブロスに1×109細菌ml-1の濃度で再懸濁し、Nanoject II(Drummond)微量注入器装置にロードした。約200nl(2×105細菌を含有する)を各オルガノイドの管腔に直接注入し、注射を受けたオルガノイドを24時間培養した。陰性対照としてはブルセラブロスを注入した。
【0134】
材料及び方法
免疫蛍光染色
全ての組織を4%パラホルムアルデヒドに、凍結処理用には室温で1時間又はパラフィン処理用には4℃で一晩のいずれかで固定した。凍結切片については、組織を30%スクロース中に4℃で一晩保護し、次OCT(Tissue-Tek)に包埋し、10μmに切り出した。パラフィン切片については、組織を段階的エタノール系列、続いてキシレンで処理し、次にパラフィン包埋し、7μmに切り出した。組織培養細胞は室温で15分間固定し、直接染色した。染色については、凍結スライドを室温に解凍し、PBS中に再水和させる一方で、パラフィンスライドを脱パラフィン化して抗原回復に供した。スライドをPBS+0.5%Triton-X中の5%正常ロバ血清(Jackson Immuno Research)において室温で30分間ブロックした。一次抗体(「方法」の表1に掲載)をブロッキング緩衝液中に希釈し、4℃で一晩インキュベートした。スライドをPBSで洗浄し、二次抗体と共に室温で1時間インキュベートし、Fluoromount-G(Southern Biotech)を使用してカバースリップをマウントした。Nikon A1Rsi倒立共焦点顕微鏡で共焦点像を取得した。
【0135】
RNA単離及びqPCR
Nucleospin RNA IIキット(Machery-Nagel)を使用して組織から全RNAを単離した。Superscript VILO cDNA合成キット(Invitrogen)を製造者のプロトコルに従い使用して、100ng RNAから逆転写を実施した。CFX-96リアルタイムPCR検出システム(BioRad)でQuantitect SybrGreen Master Mix(Qiagen)を使用してqPCRを行った。ΔΔCT法を用いて分析を実施した。PCRプライマーはqPrimerDepot(http://primerdepot.nci.nih.gov)の配列を使用して設計しており、表2に掲載する。
【0136】
免疫沈降及びウエスタンブロット分析
ピロリ菌(H.pylori)に感染させたオルガノイドを氷冷PBS中においてMatrigelから回収し、150gで5分間遠心した。プロテアーゼ阻害薬(Roche)を補足したM-PER哺乳類タンパク質抽出試薬(Thermo Scientific)中に組織を溶解させた。細胞溶解物からの10μg全タンパク質を抗c-Met抗体(2μg;Cell Signaling 4560)によって4℃で16時間免疫沈降させた。次にプロテインA/Gアガロースビーズ(20μl;Santa Cruz Biotechnology)を添加し、試料を4℃で16時間インキュベートした。免疫沈降物をPBSで3回洗浄し、次に、β-メルカプトエタノール(40μl;BioRad)を含有するLaemmliローディング緩衝液に再懸濁した。試料を4~20%トリス-グリシン勾配ゲル(Invitrogen)上で泳動させ、80Vで3.5時間泳動させた。ゲルをニトロセルロース膜(Whatman Protran、0.45μm)に105Vで1.5時間転写した。膜をKPL Detectorブロック溶液(Kirkeaard&Perry Laboratories)において室温で1時間ブロックし、次に一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。使用した一次抗体:抗ホスホチロシン(Santa Cruz、sc-7020;1:100)、抗c-Met(Abcam、ab59884;1:100)、及び抗ピロリ菌(H.pylori)CagA(Abcam、ab90490;1:100)。膜を洗浄し、Alexa Fluor抗マウス680(Invitrogen;1:1000)二次抗体においてインキュベートした。Odyssey赤外線イメージングソフトウェアシステム(Licor)を使用してブロットを画像化した。
【0137】
考察
hPSCは胚体内胚葉(DE)に分化した
11。DEはインビボで胃腸管及び気道の上皮を生じる。全ての内胚葉器官の発生における次の2つの重要なイベントは、前後(A-P)軸に沿ったDEのパターン形成及び腸管形態形成であり、前方におけるSox2+前腸及び後方におけるCdx2+中・後腸の形成がもたらされる(E8.5、14体節期マウス胚、
図1Aにおいて強調表示されるとおり)。この形態形成及び内胚葉と中胚葉との間の組織相互作用は、インビボ及びインビトロの両方で適切な器官形成にとって決定的に重要であるものと思われる。WNT3AとFGF4とは、以下の3つのことを行うため相乗作用することが以前実証されている:hPSC由来のDEを後方化し、間葉の拡大を促進し、及び中・後腸マーカーCDX2を発現する腸管様構造の構築を誘導する
10、12。
図1Aは、e8.5(14体節期)マウス胚においてSox2タンパク質が前腸内胚葉を特徴付け、及びCdx2タンパク質が中/後腸内胚葉を特徴付けることを示す。
図1Bは、BMPを阻害すると中/後腸運命が抑制され、前腸マーカーSOX2の発現が促進されたことを示す。培地単独(対照)又は指示される成長因子/拮抗薬を含む培地において3日間曝露したhPSC-DE培養物におけるパターン形成マーカーのPCR解析。WNTとFGFとを合わせた活性は、既報告のとおりCdx2発現を誘導し
10、一方、BMP拮抗薬ノギンはCdx2発現を抑制し、高レベルの前腸マーカーSOX2を誘導するのに十分であった。
*、対照と比較してp<0.05。
**、WNT/FGFと比較してp<0.005。
図1Cは、Wnt/FGF/ノギンを用いて作成された前腸スフェロイドが、高レベルのCDX2を有するWnt及びFGF単独で作成したスフェロイドと比較したとき、ホールマウント免疫蛍光染色及びmRNAによって高レベルのSOX2タンパク質を有することを示す。
*、p<1.0×10-6。
図1Dは、e8.5、14体節期マウス胚における後方前腸が胃及び膵臓を生じ、高レベルのHnf1βタンパク質を有することを示す。
図1Eは、スフェロイド作成ステップの最終日に培養物をRAに曝露すると、SOX2発現上皮においてHNF1βの発現が誘導され、後方前腸スフェロイドの形成がもたらされることを示す。
*、p<0.005。
図1Fは、前方及び後方前腸内胚葉の両方の形成におけるノギン及びRAのパターン形成効果を要約する系統図を示す。スケールバー、100μm。エラーバーは標準偏差を表す。
【0138】
【0139】
【0140】
hPSC由来のDEにおける前腸構造の形成を促進するため、本出願人は、WNT/FGFが腸管形態形成を刺激する能力を、後方内胚葉運命の促進におけるそれらの役割と分離しようとした。発生モデル生物によるインビボ研究に基づき
13、14、A-Pパターン形成の調節におけるBMPシグナル伝達の機能を試験し、本出願人は、WNT/FGFが後腸プログラムを惹起するのにBMP活性を必要とすることを見出した。具体的には、BMPシグナル伝達を拮抗薬ノギンで阻害すると、WNT/FGFの存在下であっても、DE培養物において3日後にCDX2が抑制され、前腸マーカーSOX2が誘導された(
図1B~
図1C及び
図5)。重要なことに、BMPシグナル伝達の阻害は、WNT/FGFが間葉の拡大及び腸管構造の構築を促進する能力、従ってSOX2
+前腸スフェロイドの形成をもたらす能力には何ら効果を有しなかった。
【0141】
図5は、後方運命を促進するには、WNT及びFGFの活性化と並行してBMPシグナル伝達が必要であることを示す。
図5Aは、GSK3β阻害薬CHIR99021(CHIR;2μM)が組換えWNT3Aと同じ後方化効果を誘導したことを示し、この効果はBMP阻害によって遮断することができる。
図5Bは、CHIRが腸管形態形成を誘導したことを示し、WNT3Aと同じようにスフェロイド生成が起こる。
図5Cは単層培養物の免疫蛍光染色を示し、これから、CHIR/FGF処理した内胚葉における高いCDX2誘導効率並びにノギン処理及びCHIR/FGF/ノギン処理した内胚葉におけるSOX2誘導が確認される。
図5Dは、BMP標的遺伝子MSX1/2のqPCR解析を示し、これは、Wnt/FGFに応答したBMP活性の増加はなく、しかし標的遺伝子はノギンに応答して抑制されることを示しており、内因性BMPシグナル伝達の存在が実証される。
図5Eは、BMP2(100ng mL-1)を添加してもWnt/FGFが内胚葉を後方化する能力の代わりにはならず、又はその能力は増強されなかったことを示す。これらのデータは、Wnt/FGFの後方化効果がBMPシグナル伝達の上方制御によって媒介されることはなく、しかし内因性BMP活性は実に必要であることを示している。スケールバー、
図5Bでは1mm;
図5Cでは100μm。エラーバーは標準偏差を表す。
【0142】
スフェロイド形態形成は、hESC株及びhiPSC株の両方においてロバストなプロセスであり(
図6A)、90%超のスフェロイド細胞がSOX2を発現し(
図1C)、前腸系統への効率的な特異化を示している。従って、WNT、FGF及びBMPの間の新しいエピスタシス関係が本出願人によって同定されており、ここでは3つ全ての経路が協働して中・後腸運命を促進する一方、WNT及びFGFは、BMPと別個に、内胚葉及び中胚葉から腸管構造への構築を駆動する働きをする。
【0143】
図2A~
図2Gは、胃オルガノイド分化が効率的且つ細胞株非依存的プロセスであることを示す。
図2A、2つのhESC株(H1及びH9)及び1つのiPSC株(72.3)の間のスフェロイド形成及び特徴を比較する表。
図2B、H1及びiPSC 72.3細胞株に由来する34日目hGOの免疫蛍光染色。iPSC由来のオルガノイドは、hESCに由来するものと同じ形態学的及び分子的特徴を呈する。
図2C、34日目hGOにおける器官上皮細胞型定量化。上皮の90%超が前庭部であり(PDX1発現及び欠損したPTF1A発現によって指示される)、一方、CDX2(腸)、アルブミン(肝臓)及びp63(扁平上皮)を含めた、内胚葉に由来する他の器官に関連するマーカーの発現は5%未満である。
図2d~g、人工多能性幹細胞株iPSC 72.3の特徴付け。
図2D、iPSC 72.3は、H1 hESC株と比較したとき多能性幹細胞コロニーの正常な形態学的特徴を呈し、及び
図2E、正常な46;XY核型を有する。
図2F、iPSC 72.3は多能性マーカーOCT3/4及びNANOGを発現し、及び
図2G、インビボ奇形腫アッセイにおいて内胚葉、中胚葉、及び外胚葉系統への分化により多能性を実証する。スケールバー、100μm。エラーバーは標準偏差を表す。
【0144】
インビボでは、胃の胃底部及び前庭部ドメインの両方が、膵臓、肝臓及び十二指腸に加えて、Sox2
+前腸内胚葉の後方セグメントから生じる。SOX2
+前腸スフェロイドを胃系統に指向させるため、本出願人は、後方前腸運命を促進するシグナル伝達経路を同定しようとした。本出願人は、後方前腸に由来する器官の発生におけるその役割を考え
15~17、レチノイン酸(RA)シグナル伝達に注目した。インビボでは、後方前腸はHnf1βの発現によって特徴付けられる(
図1D。本出願人は、パターン形成/スフェロイド作成段階(FGF4/WNT3A/ノギン)の最終日(5~6日目)にRAに24時間曝露すると、後方前腸マーカーのロバストな活性化及びSOX2/HNF1β
+後方前腸スフェロイドの形成がもたらされることを突き止めた(
図1E及び
図7)。従って、RA、WNT、FGF、及びBMPシグナル伝達経路の正確な時間的且つコンビナトリアルな操作により、三次元後方前腸スフェロイドの作成が可能となる。
【0145】
図7A~
図7Dは、レチノイン酸が前腸内胚葉を後方化することを示す。
図7Aは、前腸パターン形成実験の概略説明図を示す。DE培養物をWnt(CHIR)/FGF/ノギンで3日間処理してSox2陽性前腸スフェロイドを作成したことを示し、RAはパターン形成の3日目に24時間添加する。
図7Bは、前腸単層培養物から生成されるスフェロイドの数がRAによって増加することを示す明視野像を示す。
図7Cは、Hnf1βタンパク質が前腸の後方部分に局在化している14体節期胚の免疫蛍光像を示す
図1Dの弱拡大像を示す。胚のうち枠で囲んだ領域が
図1Dに示される。
図7Dは、RAで処理した前腸スフェロイドにおける遺伝子発現のqPCR解析を示す。後方前腸マーカーHNF1β及びHNF6は、RAに24時間曝露することによってロバストに誘導される。
*、p<0.05。スケールバー、
図7Bでは1mm;
図7Cでは100μm。エラーバーは標準偏差を表す。
【0146】
後方前腸を個別的な器官系統に指向させる分子機構については、ほとんど解明されていない。発生初期、予定器官域が個別的な遺伝子発現パターンによって特徴付けられる:Sox2
+胃底部、Sox2/Pdx1
+前庭部、Pdx1/Ptf1α
+膵臓、及びPdx1/Cdx2
+十二指腸(
図2B)。本出願人はこれらの分子マーカーを使用して、後方前腸スフェロイド培養物を胃系統に指向させるシグナル伝達経路を同定した。スフェロイドを三次元培養条件に移した後、RAによって72時間さらに処理すると(6~9日目)、高いSOX2発現を維持しつつ、PDX1 mRNAレベルの100倍超の増加が生じた(
図2C)。重要なことに、膵臓特異的マーカーPTF1αの発現は誘導されなかったため、他の研究で観察されたとおりの
9、RA処理が膵臓運命を促進することはなかった。これらのデータは、RAシグナル伝達と三次元成長との組み合わせが後方前腸スフェロイドを初期前庭部運命の指標であるSOX2/PDX1
+上皮に効率的に指向させることを実証している。
【0147】
図2は、概して、ヒト前庭部胃オルガノイドの特異化及び成長を示す。エラーバーは標準偏差を表す。
図2Aは、hPSCから三次元胃オルガノイドへの分化を指向させるために使用されるインビトロ培養系の概略図を示し、
図2Bは、Sox2、Pdx1及びCdx2を用いたマウスE10.5胚のホールマウント免疫蛍光染色による発生中の後方前腸器官の確定マーカーを示す。Sox2及びPdx1の共発現は胃上皮の遠位部分、予定前庭部(a)にユニークであり、Sox2発現は胃底部(f)を特徴付け、Pdx1(及びPtf1a)の発現は背側膵(dp)及び腹側膵(vp)を特徴付け、及びPdx1/Cdx2の共発現は十二指腸(d)を特徴付ける。
図2Cは、三次元マトリックスにおいてRA(2μM)の存在下で3日間培養された後方前腸スフェロイドが、発生中の前庭部と同様に、高レベルのPDX1及びSOX2を共発現し、膵臓マーカーPTF1αは発現しなかったことを示す(
*、p<0.05)。
図2Dは、後方前腸(forgut)スフェロイドから胃オルガノイドに成長する間の形態学的変化を明らかにする実体顕微鏡写真を示す。4週間までに、hGOの上皮は複雑な腺状構造を呈した(スケールバー、500μm)。
図2Eは、E14.5及びE18.5並びに同等のhGO発生段階における発生中のマウス前庭部の比較を示す。両方のマウス前庭部及びhGOにおいて初期多列上皮にSox2及びPdx1が共発現する。後期になると、上皮がより成熟した腺状構造に変わることに伴いSox2は下方制御される。Pdx1はインビボで成体期全体を通じて、及びhGOにおいて調べた全ての段階で前庭部に維持される(
図2Eのスケールバーは100μm)。
【0148】
本出願人は、SOX2/PDX1
+スフェロイドを使用して、初期胃上皮の成長及び形態形成を促進する経路を同定し、高濃度のEGF(100ng mL
-1)がヒト前庭部胃オルガノイド(hGO)のロバストな成長を促進するのに十分であったことを見出した。3~4週間の間に、直径100μm未満のスフェロイドが直径2~4mmのオルガノイドに成長した。後の培養段階で(約27日目)、hGO上皮は、胎生期胃発生の後期を連想させる一連の形態形成上の変化を経て、その間に単純で扁平な多列上皮が精巧で複雑な腺上皮に移行した(
図2D)。前腸スフェロイドの初期成長はEGFに依存する(データは示さず);さらに、上皮の拡大及び腺への形態形成は、27日目に培地からEGFを取り除くと起こらない(
図8)。これらの結果は、胃粘膜の適切な成長の促進におけるEGFの重要な役割を指摘する既発表の知見を裏付けている
19、20。
【0149】
図8は、胃オルガノイドにおける腺形態形成にEGFが必要であることを示す。明視野像及び免疫染色は、hGO分化の後期における上皮形態形成及び腺形成にEGFが必要であることを実証している。27日目、腺形態形成前に成長培地からEGFを取り除くと、hGO上皮は単純な立方体様構造を保ち、これは腺を形成することはできない。スケールバー、100μm。
【0150】
hGO成長を胎生期マウス胃の発生と比較することにより、hGO発生がインビボでの胃の器官形成に驚くほど類似していることが明らかになった。初期には(マウスにおけるE12~14及び13日hGO)、両方ともに上皮が多列であり、管腔面の方に集中した有糸分裂細胞を含有しており(
図9及び
図10)、分裂間期核移動プロセスが示される
21。初期hGOは適切に極性化し、頂端マーカーaPKCの発現によって大まかに説明される二次管腔を含有する
22(
図10)。
【0151】
E16.5から生後初期の間に、前庭部は、腺及び小窩からなる高度に構造化された機構を呈する単層円柱上皮に変わる(
図2E及び
図9)。インビトロで13~34日の間、hGO上皮は同様の移行を経て、胎児後期前庭部と同様の腺状構造を有する高円柱上皮を形成する(
図2E)。転写因子Sox2、Pdx1、Gata4及びKlf5の発現を解析すると、インビボ及びインビトロの両方でこれらの形態形成過程を伴うステレオタイプな時間空間的発現パターンが明らかになった(
図9)。初期には、これらの因子は全て、未成熟の多列上皮において共発現する。しかしながら後期になると、上皮が初期の腺及び小窩を形成することに伴いSox2発現が下方制御され、一方で他の因子の発現は無限に維持される。これらのデータに基づくと、13日目hGOがE12~14マウス前庭部と同様の発生段階に相当する一方、34日目hGOは胎児後期~出生後初期の前庭部に一層近いことが推定される。さらに、hGOは正常な胚発生を再現すること、並びに前庭部発生中に起こる分子過程及び形態形成過程は、げっ歯類とヒトとの間で保存されていることが結論付けられる。
【0152】
図9は、マウス前庭部及びヒト胃オルガノイドの発生中の転写因子発現の比較を示す。インビボ前庭部発生の4つの胎生期(E12.5、E14.5、E16.5及びE18.5)及び1つの生後期(P12)を転写因子発現について分析した:Sox2、Pdx1、Gata4、Klf5、及びFoxF1。インビトロhGO発生の2つの段階(13日目及び34日目)で同じマーカーを分析し、オルガノイド発生がインビボで起こるものと似ていることが明らかになった。前庭部発生初期には、上皮マーカーSox2は遍在的に発現するが、後期になると、他の上皮転写因子、Pdx1、Gata4及びKlf5が発生全体を通じて持続的な発現を呈する一方で、Sox2は下方制御される。初期及び後期の両方のhGOが、上皮を取り囲むFoxF1陽性間葉細胞を含有する。スケールバー、100μm。
図10は、初期ヒト胃オルガノイドがステレオタイプな構造及び核挙動を呈することを示す。13日目、hGOは、E12.5マウス前庭部と同様に、頂端マーカーaPKC及び側底マーカーE-カドヘリンによって特徴付けられる頂低極性を示す多列上皮を含有する。さらに、オルガノイド上皮内に、頂端膜によって覆われた二次管腔(白色矢印)が見られる。E12.5マウス前庭部及び7日目hGOの両方ともに、細胞の頂端部分のみにおける有糸分裂核pHH3の存在によって示される分裂間期核移動を経るものと見られる。スケールバー、50μm。
【0153】
前腸スフェロイドは、以前記載された中・後腸スフェロイドと同様の間葉成分を含有した
10。胃オルガノイドに分化する間、間葉は拡大し、FOXF1及びBAPX1を含めた、前庭部間葉発生に関連する重要な転写因子を発現する(
図10及び
図11)。後期になると、hGO間葉は、概して、未成熟胃間葉の指標であるビメンチン
+粘膜下線維芽細胞及びそれより少数のACTA2
+上皮下筋線維芽細胞からなる(
図11)。hGOは、インビボで起こるような分化した平滑筋層を形成しない。EGFを除いていかなる外因性因子も存在しない中でのかかるロバストな上皮形態形成を考えると、間葉が上皮発生において役割を果たしている可能性があるように思われる。従って、上皮が間葉のロバストな分化を促進しないように見えることは意外である。これは、胃の間葉分化においては他の刺激、恐らくは機械的な刺激が役割を果たしていることを示唆している。
【0154】
図11は、胃オルガノイドにおける間葉系分化を示す。
図11Aは、前庭部間葉系転写因子BAPX1の時間的発現解析を示す。その既知の胚発現パターンと同様に、BAPX1はhGO分化初期において上方制御され、次に機能性細胞型マーカーの発現と一致して下方制御される。
図11Bは、間葉細胞型マーカーの染色により、34日目hGOがFOXF1/ビメンチン陽性粘膜下線維芽細胞及びより少数のビメンチン/ALPHA-SM-アクチン(SMA)発現上皮下線維芽細胞を含有することが明らかになることを示す。hGOは、インビボ前庭部におけるSMA/デスミン陽性細胞によって示されるロバストな平滑筋層を欠いている。スケールバー、100μm。エラーバーは標準偏差を表す。
【0155】
前庭部に見られる主要な機能性細胞型は、胃上皮を覆う保護粘液層を分泌する粘液細胞、並びにホルモンを分泌して胃腸の生理機能及び代謝恒常性を調節する内分泌細胞である
24。34日目までに、hGOは、管腔に粘液を分泌し且つそのインビボ対応物と同じ高円柱形態を有する表層粘液細胞(MUC5AC/UEAI
+)を含有する。hGOはまた、TFF2/GSII
+前庭部腺細胞も含有し、前庭部粘液系統における適切な分化が示される(
図3A)。加えて、hGOでは、基底部に限局された増殖帯及びSOX9発現によって示されるプロジェニター細胞ニッチが発生し(
図4A)、しかし上皮の増殖指数は可変的であり、1~10%の範囲である。従って、インビトロhGOは、前駆細胞型及び分化細胞型の両方を含む生理学的胃上皮を含有する。
【0156】
図4は、ヒト胃オルガノイドがピロリ菌(H.pylori)感染に対して急性応答を呈することを示す。
図4Aは、28日目のhGOが、胎生後期及び出生後のマウス前庭部と同様に、初期腺の底部の方に限られた増殖細胞(Ki67によって特徴付けられる)及びSOX9+プロジェニター細胞を含有したことを示す。
図4Bは、hGOを使用してピロリ菌(H.pylori)感染のヒト特異的疾患過程をモデル化したことを示す。細菌はhGOの管腔に微量注入し、注入24時間後に管腔の細菌を明視野顕微鏡法(黒色の矢印)及び免疫蛍光染色によって可視化した。
図4Cは癌遺伝子c-Metの免疫沈降を示し、ピロリ菌(H.pylori)がc-Metのロバストな活性化(チロシンリン酸化)を誘導したこと、及びこれがCagA依存的過程であることを実証する。さらに、CagAはヒト胃上皮細胞においてc-Metと直接相互作用する。
図4Dは、24時間以内にピロリ菌(H.pylori)感染が、EdU取込みによって計測して、hGO上皮において増殖細胞数の2倍の増加を引き起こしたことを示す。
*、p<0.05。スケールバー、aでは100μm;bでは25μm。エラーバーはs.e.m.を表す。
【0157】
図3は、ヒト胃オルガノイドが正常な分化前庭部細胞型を含有し、ヒト胃発生のモデル化に使用し得ることを実証する。
図3Aは、hGOが主要な前庭部細胞系統を全て含有することを実証する。34日目のhGOは表層粘液細胞(Muc5AC)及び粘液腺細胞(TFF2)を有するとともに、表層粘液UEAIと粘液腺細胞GSIIとを区別するレクチン染色を有する。hGOはまた、クロモグラニンA(CHGA)によって特徴付けられるとおりの内分泌細胞も含有する。
図3Bは、hGOの発生中の成長、形態形成、及び細胞型特異化におけるEGFの種々の役割の概略図である。腺形成の発生初期には高レベルのEGFが必要であったが、しかしながらそれは、発生後期には内分泌分化を抑制した;従って、30日目にEGF濃度を低下させて内分泌細胞を発生させた。
図3Cは、ガストリン、グレリン、及びセロトニン(5-HT)を含め、EGFの使用を中止するとhGOにおいて全ての主要な内分泌性ホルモンが発現することを示す。
図3Dは、高レベルのEGFがNEUROG3発現を抑制することを示す。30日目にEGF濃度を低下させると、qPCRによって34日目に計測されるNEUROG3発現の大幅な増加がもたらされたことから、内分泌特異化においてEGFがNEUROG3の上流で作用することが示される。
*、p<0.05。
図3Eは、NEUROG3がEGFの下流で作用して内分泌細胞運命を誘導することを示す。dox誘導性システムを使用したNEUROG3の強制的発現は、高EGF(100ng mL-1)の内分泌抑制効果を打ち消すのに十分であった。hGOは30日目にdox(1μg mL-1)に24時間曝露し、34日目に分析した。dox処理したオルガノイドは、ChrA発現内分泌細胞のロバストな誘導を呈した。スケールバー、100μm。エラーバーは標準偏差を表す。
【0158】
また、34日目hGOには、ガストリン、グレリン、ソマトスタチン、及びセロトニンを発現する前庭部における4つの主要な内分泌細胞型を含め、クロモグラニン-A(CHGA)
+内分泌細胞も豊富にある(
図3C及び
図12)。興味深いことに、本発明者らは、高レベルのEGFが内分泌細胞形成を抑制し、100ng ml
-1でオルガノイド当たり1個未満の内分泌細胞となったことを観察した。対照的に、30~34日目まで低レベルのEGF(10ng ml
-1)で培養したhGOでは豊富な内分泌細胞が発生した(
図13)。さらに、高EGFはまた、内分泌産生転写因子NEUROG3の発現も阻害した(
図3D)。NEUROG3は膵臓及び腸において広く研究されており
25~28、ほとんどの胃内分泌系統の形成に必要である
29、30。これらのデータは、NEUROG3の上流での胃内分泌細胞特異化におけるEGFRシグナル伝達の新規阻害効果を示唆している。このモデルを試験するため、本出願人は、ドキシサイクリン誘導性hNEUROG3過剰発現hESC株を使用し、NEUROG3発現が高EGF(100ng ml
-1)の内分泌阻害効果に打ち勝つのに十分であり、CHGA
+内分泌細胞のロバストな形成がもたらされたことを見出した(
図3E及び
図13)。これらの知見から、本発明者らは、EGFがNEUROG3の抑制によって内分泌プロジェニター細胞の形成を阻害すること、及びNEUROG3がヒト胃内分泌細胞の特異化に十分であることを結論付けた。
【0159】
図12は、インビボでの胃前庭部内分泌細胞発生を示す。前庭部における内分泌細胞分化は、初めはE18.5で明らかとなるが、生後期(P12が示される)にはより決定的となる。初期には、ガストリン、グレリン、ソマトスタチン、及びセロトニン(5-HT)を含め、全ての予想される胃内分泌サブタイプが明らかである。スケールバー、100μm。
図13は、EGFシグナル伝達がNEUROG3依存性胃内分泌特異化プログラムを抑制することを示す。
図13Aは、汎内分泌マーカーCHGAに関する染色によって示されるとおり、高濃度のEGF(100ng mL-1)に維持したhGOが34日目に内分泌細胞をほとんど有しなかったことを示す。24日目にEGF濃度を低下させると(10ng mL-1)、胃上皮に、より生理学的な数の内分泌細胞がもたらされた。
図13Bは、EGFによる内分泌分化抑制がNEUROG3の上流で起こるかどうかを試験するための、dox誘導性NEUROG3過剰発現トランス遺伝子を安定にトランスフェクトしたhESC株からのhGOの作成を示す。hGOは高EGF(100ng mL-1)に維持し、次に30日目にドキシサイクリン(1μg mL-1)で24時間処理し、次に34日目に分析した。dox処理hGOは内分泌マーカーCHGA、ガストリン、グレリン、及びソマトスタチンのロバストな活性化を示し、内分泌形態のCHGA陽性(
図3A)、グレリン陽性、及びソマトスタチン陽性細胞を含有する。
*、p<0.05。スケールバー、100μm。エラーバーは標準偏差を表す。
【0160】
臨床的エビデンスが示すところによれば、ピロリ菌(H.pylori)媒介性疾患においては前庭部の優勢なコロニー形成が重要な役割を有する
31、32。従って、本出願人は、病原体ピロリ菌(H.pylori)に対するヒト胃の病態生理学的反応のモデル化にhGOを使用し得るかどうかを試験した。正常な宿主-病原体インターフェースを模倣するため、本発明者らは、ピロリ菌(H.pylori)をオルガノイドの管腔へのマイクロインジェクションによって上皮の管腔表面に直接導入し、上皮のシグナル伝達及び増殖を計測した(
図4)。免疫蛍光法によって、hGO上皮に緊密に結合した細菌が観察された(
図4B)。24時間以内に、本出願人は、胃癌遺伝子c-Metのロバストな活性化
33及び上皮細胞増殖の2倍の増加を含めた、ピロリ菌(H.pylori)に対する有意な上皮反応を観察した。ピロリ菌(H.pylori)ビルレンス因子CagAは、疾患の発病において中心的な役割を果たす。既発表の研究と一致して
34、本出願人は、CagAがオルガノイド上皮細胞に移動し、c-Metと複合体を形成することを実証した(
図4C)。さらに、CagAを欠く非病原性ピロリ菌(H.pylori)株をhGOに注入すると上皮反応が解消されたことから、ピロリ菌(H.pylori)媒介性のヒトの発病におけるこの因子の重要性が裏付けられる。従って、hGOは、ピロリ菌(H.pylori)に対するその病態生理学的反応ゆえに、ピロリ菌(H.pylori)によって媒介されるヒト胃疾患を惹起するイベントについて解明するための前例のないモデルとなる。
【0161】
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a)FGF4と、WNTシグナル伝達経路の活性剤と、ドルソモルフィン、LDN189、DMH-1、及びノギンからなる群から選択されるBMPシグナル伝達経路の阻害剤を、胚体内胚葉細胞に接触させることにより、前記胚体内胚葉細胞を前腸スフェロイドに分化させるステップと、
b)ステップa)の前腸スフェロイドにレチノイン酸を接触させて、後方前腸スフェロイドを形成するステップと、
c1)ステップb)の後方前腸スフェロイドにEGF、レチノイン酸、及びドルソモルフィン、LDN189、DMH-1、及びノギンからなる群から選択されるBMPシグナル伝達経路の阻害剤を接触させて前庭部組織を含む胃オルガノイドを形成するステップ、又は、
c2)ステップb)の後方前腸スフェロイドにEGF、レチノイン酸、ドルソモルフィン、LDN189、DMH-1、及びノギンからなる群から選択されるBMPシグナル伝達経路の阻害剤、及びWNTシグナル伝達経路の活性剤を接触させて胃底部組織を含む胃オルガノイドを形成するステップのいずれか一方と、を含む、
インビトロで、胃オルガノイドを形成する方法。