(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045239
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体を発現する粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240326BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240326BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240326BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240326BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240326BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240326BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240326BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20240326BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17 ZNA
A61P37/02
A61P35/00
A61P31/00
C12N15/13
C07K19/00
C07K16/30
C07K14/725
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024004959
(22)【出願日】2024-01-17
(62)【分割の表示】P 2021535007の分割
【原出願日】2019-12-18
(31)【優先権主張番号】18306743.8
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】513246469
【氏名又は名称】インサーム(インスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】507240336
【氏名又は名称】アシスターンス・ピュブリック-オピトー・ドゥ・パリ
(71)【出願人】
【識別番号】506140435
【氏名又は名称】インスティテュート キュリエ
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】ランツ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】カイラ-ズックマン,ソフィ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】癌、感染症又は自己免疫疾患を治療するための免疫療法を提供する。
【解決手段】本発明は、キメラ抗原受容体(CARs)を発現する粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞に関し、MAIT細胞は、治療対象に対して同種異系である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現する粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項2】
前記同種異系である、請求項1に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項3】
前記キメラ抗原受容体(CAR)は、標的抗原に対して特異的に結合又は認識する抗原結合ドメインを含む、請求項1に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項4】
前記抗原結合ドメインは抗体である、請求項3に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項5】
前記抗原結合ドメインはscFvである、請求項3に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項6】
前記CARは、腫瘍関連抗原(TAA)に結合する、請求項3に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項7】
前記CARは、腫瘍細胞の表面に発現した任意のTAA、好ましくは、CD19、GD2、EGFR、CD20、CD22、CD33、CD138、CD52、CD30、ROR1、HER2、EpCAM、MUC-1、MUC5AC、BCMA、CD38、SLAMF7/CS1、CD123、IL-13Ra2、HER2、LeY、MUC16又はPSMAに特異的に結合する、請求項6に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項8】
前記CARは、細胞内腫瘍性タンパク質又は細胞内腫瘍関連抗原、特に、WT-1、NY-ESO-1、MAGE、PRAME、RAS、メソテリン、c-Met、CEA、CSPG-4、EBNA3C、CA-125又はGPA7を特異的に標的化する、請求項6に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項9】
前記CARは、前記抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間及び/又は前記膜貫通ドメインと細胞質内ドメインとの間に、ヒンジ配列を含む、請求項1に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項10】
前記ヒンジは、IgG1 Fc領域、IgG2 Fc領域、IgG3 Fc領域、IgG4 Fc領域、IgE Fc領域、IgM Fc領域、又はIgA Fc領域の少なくとも一部から誘導されるか又はそれらを含む、請求項9に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項11】
前記ヒンジは、CH2及びCH3ドメインの範囲内のIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgM又はIgA免疫グロブリンFc領域の少なくとも一部を含む、請求項9に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項12】
前記CARは、第1世代のCARである、請求項1~11のいずれか1項に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項13】
前記CARは、第2世代のCARである、請求項1~11のいずれか1項に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項14】
前記CARは、第3世代のCARである、請求項1~11のいずれか1項に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項15】
前記CARは、第4世代のCARである、請求項1~11のいずれか1項に記載の粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞。
【請求項16】
CAR-MATT細胞の製造方法であって、
細胞培養から又は個々の対象若しくは血液バンクからの血液サンプルからMAIT細胞を準備するステップと、
前記MAIT細胞を単離するステップと、
前記MAIT細胞を活性化及び増加するステップと、
前記MAIT細胞に対して形質導入及び選択をするステップとを含む、CAR-MATT細胞の製造方法。
【請求項17】
前記単離は、親和性又は免疫親和性ベースの分離により行われる、請求項16に記載のCAR-MAIT細胞の製造方法。
【請求項18】
前記MAIT細胞は、抗Vα7.2抗体、抗-IL18Rα、抗-CD161又は抗-CD26抗体を用いて、ポジティブ単離される、請求項16に記載のCAR-MAIT細胞の製造方法。
【請求項19】
前記MAIT細胞は、自家又は同種異系間の照射済みPBMCs並びにIL-2、IL-7、IL-12、IL-18及び/若しくはIL-15サイトカインの存在下でCD3/CD28刺激を行うことによりインビトロで増加される、又は、5-OP-RU及び/若しくは5-OE-RU等のMAIT細胞活性リガンドの存在下でインビトロで増加及び/若しくは活性化される、請求項16に記載のCAR-MAIT細胞の製造方法。
【請求項20】
CARをコードする核酸構築物を前記MAIT細胞に導入する、請求項16に記載のCAR-MAIT細胞の製造方法。
【請求項21】
請求項1~15のいずれか1項に係るCAR-MAITを含む、薬学的又は獣医学的組成物。
【請求項22】
非経口投与又は静脈内投与用の請求項21に記載の薬学的又は獣医学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ね、免疫療法、特に、癌、感染症又は自己免疫疾患を治療するための免疫
療法に関するものである。さらに詳細には、本発明は、キメラ抗原受容体(CARs)を
発現する粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体を発現するT細胞(CAR-T)を用いた免疫療法は、注目すべき臨
床結果を白血病の治療において示しており、癌及び、感染又は自己免疫等他の疾患を治療
するのにもっとも有望な新たな方策の一つである。現在まで使用されてきたもっとも有効
なCARsの中には、CD19を標的としたものがあり、当該CD19を標的としたもの
は、再発性又は難治性の造血器腫瘍の患者に完全寛解の見通しを提供する。CAR-T細
胞療法は、特異的抗原の認識を可能にするCARを発現させるようにリンパ球に遺伝子組
換えを行う免疫療法を代表するものである。抗原認識時に、このように改変されたT細胞
は、強力な細胞キラーに変換させるシグナル伝達ドメインによって活性化する。現行の臨
床プロトコルは、主に、アフェレーシスにより患者から捕集した自家T細胞を利用して、
CARを発現するように遺伝子組換えし、細胞の数を増幅させるためにインビトロで培養
し、最終的に同じ患者に再注入する。この手法には、患者の特異的細胞を製作する必要が
あり、このことが、最終の細胞製品において、効力及び安全性の変動を伴って、患者ごと
の変動につながる結果になることは避けられない。自家細胞移植に基づくこの手法は、製
造時間(アフェレーシスと再注入との間およそ2か月)等他の難点も有する。この延滞は
、患者が生命に関わる緊急事態に直面していると、重要である。その上、病気の患者から
の免疫細胞は、十分機能しているとは言えず、若しくは数も非常に減っている場合がある
。したがって、患者自身のリンパ球を用いるこのような治療は、コスト、時間がかかり、
CAR T細胞の広範囲の使用には適切ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/031687号
【特許文献2】米国特許第8,822,647号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2014/0271635号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Qasim他,Sci Transl Med.,2017 Jan 25,9(374)
【非特許文献2】Rotolo他,Cancer Cell. 2018 Oct 8;34(4):596-610
【非特許文献3】Hudecek他(2013) Clin.Cancer Res.,19:3153
【非特許文献4】Brueggemann and Kotrova; Blood Advances 2017 1:2456-2466
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記より、第三者の同種異系細胞を、予め製作し、詳細を特徴づけ、患者への迅速な投
与に利用できる免疫療法を開発することが、望ましいことになる。しかしながら、同種異
系細胞(すなわち、同種の他の個々人から得られた細胞)の使用には、困難がある程度生
じる。特に、同種異系細胞は、レシピエントの免疫細胞により、宿主対移植片拒絶(Hv
G)と呼ばれるプロセスにおいて拒絶されやすく、その有効性を制限してしまう。さらに
重要なのは、同種異系細胞が、移植片対宿主病(GVHD)の引き金となりかねないこと
である。実際、同種異系T細胞は、宿主組織を異物とみなし得る内在性T細胞受容体(T
CR)を維持し、その結果、深刻な組織の損傷及び死につながるGVHDを引き起こす恐
れがある。現行の手法は、内在性TCRが遺伝子的に不活性化される、ユニバーサルCA
R-T細胞の生成にある(Qasim他,Sci Transl Med.,2017
Jan 25,9(374))。他の方策は、内在性TCR又はCAR-NKT細胞を欠
くCAR-NK細胞等、アロ反応易発性が低い免疫細胞集団の使用に基づく(Rotol
o他,Cancer Cell. 2018 Oct 8;34(4):596-610
)。しかしながら、ヒトの血液中のNKT細胞の出現頻度は、非常に少ない(0.01~
0.5%)。
【0006】
よって、代替の及び/又は改良された同種異系CAR-T細胞ベースの免疫療法が、な
お必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、対象における癌、免疫疾患又は感染症治療において使用するためのキメラ抗
原受容体(CAR)を発現する粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞であって、M
AIT細胞は、対象に対して同種異系である、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細
胞を提供するものである。
【0008】
特定の実施形態において、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するMAIT細胞は、癌
の治療用である。
【0009】
癌は、血液系腫瘍であり得る。別の特定の実施形態において、前記癌は、好ましくは、
乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、皮膚癌、膵癌、結腸直腸癌、腎癌、肝癌、脳癌及び
肺癌からなる群から選択される固形腫瘍であり得る。
【0010】
一態様において、CAR-MAIT細胞は、免疫不全の対象に投与される。特に、CA
R-MAIT細胞は、対象を免疫不全にする前処置の後、投与する。前処置は、化学療法
、放射線治療及び/又はリンパ球枯渇抗体であり得る。
【0011】
特定の実施形態において、疾患は、血液系腫瘍である。この実施形態において、CAR
-MAIT細胞は、好ましくは、造血幹細胞(HSC)の移植前又は造血幹細胞(HSC
)の移植直後に、投与される。
【0012】
特定の実施形態において、癌は、微小残存病変(MRD)の段階において、白血病、リ
ンパ腫又は多発性骨髄腫等、血液系腫瘍である。
【0013】
好ましくは、MAIT細胞は、腫瘍関連抗原(TAA)に特異的に結合するCARを発
現する。
【0014】
TAAは、腫瘍細胞の表面に発現し得る。好ましくは、TAAは、CD19、GD2、
EGFR、CD20、CD22、CD33、CD138、CD52、CD30、ROR1
、HER2、EpCAM、MUC-1、MUC5AC、BCMA、CD38、SLAMF
7/CS1、CD123、IL-13Ra2、HER2、LeY、MUC16又はPSM
Aである。さらに好ましくは、TAAは、CD19、CD20、CD22、CD33、C
D138、BCMA、CD38、SLAMF7/CS1、IL-13Ra2又はHER2
である。
【0015】
別の実施形態において、MAIT細胞は、細胞内腫瘍性タンパク質又は細胞内腫瘍関連
抗原、特に、WT-1、NY-ESO-1、MAGE、PRAME、RAS、メソテリン
、c-Met、CEA、CSPG-4、EBNA3C、CA-125又はGPA7を特異
的に標的化するCARを発現する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】MAIT細胞は、同種異系の末梢血単核球(PBMCs)に応答するインビトロでの増殖はしない。カルボキシフルオセイン・スクシンイミジル・エステル(CFSE)が標識されたレスポンダーPBMCを、照射済み同種異系PBMCとともに(1:1の比)培養した。レスポンダーT細胞を、6日の培養の終わりに、生存細胞、それからCD3
+細胞においてゲーティングすることにより特定した。通常のCD3 T細胞(Tconv)とVα7.2
+ CD161
high MAIT細胞との増殖を、CFSE希釈により定量化した(CFSE
low細胞の%)。A)同種異系(上のパネル)又は自家(下のパネル)PBMCsの存在下での6日の培養後のT細胞(Tconv)(左のパネル)とMAIT細胞(右のパネル)とにおいてゲーティングした代表的なCFSE染色象限における数は、示した個体群の中における増殖性の(CFSE
LOW)細胞(水平バー)の割合を示す。B)増殖性の(CFSE
LOW)T(Tconv)及びMAIT細胞(各種レシピエント/ドナーの組を用いたn=6の実験)個々の値及び平均±SD値(対のt検定)を示す。
【
図2】MAIT細胞は、ヒト化マウスモデルにおけるGVHD誘発に関与しない。照射済み(1.3Gy)免疫不全NOD-Scid-IL-2Rγ
null(NSG)マウス(n=3)に、3×10
6ヒトPBMCsを注入し、GVHDの進行を評価するようにモニターし、15%を下回る体重減少を示したとき(±45日)安楽死させた。グラフは、初期接種(huPBMCs)して、疾患マウスの末梢血(PB)、脾臓、骨髄(BM)、肝臓、結腸及び肺に移植後45日で、フローサイトメトリーにより測定されたヒト(CD45
+)白血球中のCD3 T細胞とMAIT細胞との割合を示す。
【
図3】インビトロのMAIT細胞の増加。健康なドナーからのPBMCs(10
6/ml)を、サイトカイン及び合成MAIT細胞リガンドの存在下で17日間培養した。MAIT細胞の割合及び絶対数を、フローサイトメトリーにより、培養期間の前(0日)と、6日、10日及び17日とに、定量化した。A)培養期間にわたって(CD3 T細胞においてゲーティングされた)Vα7.2
+ CD161
high MAIT細胞の代表的な染色数は、CD3 T細胞中のMAIT細胞の割合を示す。B)培養期間にわたるMAIT細胞の増加(倍率変化の絶対数)
【
図4】MAIT細胞におけるCAR発現の検出。精製CD3 T細胞を、抗CD3/CD28ビーズで24時間インビトロで活性化させ、CAR+ T細胞をモニターすることができるように、CAR及び蛍光レポータータンパク質(BFP)をコードするレンチウイルスベクターを形質導入した。形質導入細胞(上のパネル)又は対照の非形質導入細胞(下のパネル)中のBFPの細胞表面発現を、通常のCD3 T細胞及びMAIT細胞において6日後に決定した。象限における数(水平バー)は、示した個体群の中におけるBFP
+細胞の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、本明細書ではCAR-MAIT細胞と呼ぶ、キメラ抗原受容体(CAR)を
発現する粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞を、同種異系養子免疫療法の分野に
おいて用いるため、提供する。
【0018】
CAR-MAIT細胞は、アロ反応の可能性を示さず、同種異系細胞に応答してインビ
トロで増殖せず、移植片対宿主病(GVHD)誘発に関与せず、通常のT細胞とは逆であ
る。本発明によれば、CAR-MAIT細胞は、容易に産生され、インビトロで、大量に
増加する。
【0019】
CAR-MAIT細胞は、例えば、冷凍ユニット内で保管可能であり、数体のレシピエ
ントへの迅速な投与のため、「使用準備ができた状態」にある。その準備は、費用対効果
が高く、また、対象間におけるHLA不適合にも拘らず、GVHDを誘発するリスクがな
く、普遍的治療を代表するものである。
【0020】
[定義]
本明細書に使用されるとき、「対象」、「宿主」、「個人」又は「患者」という用語は
、哺乳類、好ましくはヒトを指し、治療を必要とする任意の年齢の男性又は女性を指す。
【0021】
「腫瘍関連抗原」、「TAA」、「腫瘍抗原」及び「癌細胞抗原」という用語は、本明
細書において互換的に使用されている。それぞれの場合、用語は、癌細胞により、特に又
は選択的に発現したペプチド、タンパク質、糖タンパク質又は糖質を指す。
【0022】
「移植片対宿主病(GVHD)」という用語は、提供された免疫適格性リンパ球の、移
植レシピエント自体の組織に対する反応がある、一般的で深刻な合併症を指す。GVHD
は、血縁ドナー又は非血縁ドナーのいずれかからの造血幹細胞を使用する又は含む任意の
移植に起こり得る合併症である。疾患を「治療する」こと又は状態の「治療」は、患者の
健康状態を回復させることを意図した任意の行為を指す。「治療」は、1つ以上の症状若
しくは状態の軽減若しくは回復、疾患程度の低下、疾患状態の安定(例えば、患者を寛解
状態に維持すること)、疾患の予防若しくは疾患の広がり防止、疾患進行の遅延若しくは
減速、病状の寛解若しくは緩和、疾患の再発頻度の低下及び(部分的であれ完全であれ)
緩解を含むが、限定はされない。治療は、治癒、軽減又は予防効果を含む場合がある。「
予防の(prophylactic)」という用語は、特定の状態の重症度又は発生頻度
を低下させるものとみなしてよい。「予防の」はまた、特定の状態と診断をすでに受けて
いる患者においてその状態の再発を妨げることを含む。「治療の(Therapeuti
c)」もまた、既存の状態の重症度を低下又は遅延させることの場合がある。望ましい治
療効果は、疾患の進行速度を低下させること、病状を回復又は緩和させること、緩解、す
なわち改善された予後予測を含む。軽減は、疾患若しくは状態の徴候又は症状が現れるよ
り前に、また現れた後に、起こり得る。よって、「治療すること」又は「治療」は、疾患
又は望ましくない状態を「妨げる」又はその「防止」を含む場合がある。一実施形態にお
いて、癌を治療することは、癌細胞の成長若しくは増殖を阻害すること又は癌細胞を死滅
させることを含む。特定の実施形態において、癌を治療することは、転移のリスク又は発
現を低下させることを含む。別の特定の実施形態において、癌を治療することは、再発防
止を指す場合がある。癌を治療することはまた、患者を寛解状態に維持することを指す場
合がある。
【0023】
本明細書において使用されるように、「障害(disorder)」又は「疾患(di
sease)」という用語は、遺伝子若しくは発現のエラー、感染、毒、栄養摂取不全若
しくは不均衡、毒性又は好ましくない環境要因の影響による、正確に機能しない身体の器
官、部分、構造又は系のことを指す。好ましくは、このような用語は、健康上の障害若し
くは疾患、例えば、正常な物理的若しくは精神的機能を破壊する病気を指す。より好まし
くは、障害という用語は、動物及び/又はヒトに影響する免疫及び/又は炎症性疾患を指
す。好ましくは、障害又は疾患という用語は、癌、感染症又は免疫疾患を指す。
【0024】
本明細書において使用される「癌」という用語は、異常細胞の急速かつ制御不能な成長
という特徴を有する疾患と定義する。癌細胞は、局所的に又は血流及びリンパ系を通じて
、身体の他の部分へ広がり得る。
【0025】
「感染症」という用語は、細菌、ウイルス、真菌又は寄生虫等の生物により引き起こさ
れる障害を指す。
【0026】
「免疫疾患」又は「自己免疫疾患」という用語は、本明細書において使用されるように
、細胞、組織及び/又は器官の損傷という特徴を有し、対象の免疫反応によりそれ自体の
細胞、組織及び/又は器官に引き起こされた、対象における状態を指す。
【0027】
[CAR-MAIT細胞]
本発明の「CAR-MAIT細胞」は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する粘膜関
連インバリアントT(MAIT)細胞を指し示す。
【0028】
粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞は、T細胞のサブセットである。ヒトにお
いて、MAIT細胞は、血液、肝臓及び粘膜に見つかるもので、微生物の活性や感染を防
御する。MAIT細胞は、セミインバリアントT細胞受容体α(TCRα)鎖(ヒトでは
Vα7.2-Jα33/20/12)が限定数のTCRβ鎖と結合し得るという特徴を有
する。このセミインバリアントTCRは、単形性の、高度に保存されたMHCクラスI関
連1(MR1)分子により制限される。古典的MHC-ペプチド複合体を認識する通常の
T細胞とは対照的に、MAIT細胞は、MR1により提示される、5-OP-RU又は5
-OE-RU等、微生物誘導リボフラビン前駆物質誘導体を認識する。成人MAIT細胞
は、フローサイトメトリーにより、CD3+ CD4- Vα7.2+ CD161hi
gh (又はIL-18ahigh若しくはCD26high)として、対応する染色を
用いて、容易に特定される。MR1リガンドを認識すると、MAIT細胞は、炎症サイト
カイン(IFNγ、TNFα、IL-17)を放出し、標的細胞のパーフォリン依存型細
胞傷害性を媒介する。MAIT細胞は、肺及び腸を含めて、選択的に肝臓及び粘膜に局在
し、成人末梢血中に豊富であり(T細胞の1~10%)、臍帯血中では非常に少ない(T
細胞の<0.1%)。
【0029】
本発明は、同種異系の、すなわち、細胞が、細胞療法を受ける予定の又は最終的に受け
る対象以外の対象から単離されたかつ/又はそうでなければ調製された、MAIT細胞の
使用に関する。本明細書において使用されるように、「同種異系の(allogenei
c)」という用語は、同一の種の各種個体、ここでは、ドナー及びレシピエントが遺伝的
に同一ではない個体から得た細胞又は組織を指す。一部の実施形態において、第2の対象
が、第1の対象と同一のHLA遺伝子型を発現する。CAR-MAITは、GVHD関連
の宿主組織の損傷を媒介しないものとして示している。(A)強力なエフェクター細胞と
して、CARーMAITsは、よって、同種異系設定(allogeneic sett
ing)において養子免疫療法用の普遍的ツールとして有用である。
【0030】
本発明との関連において、MAIT細胞は、遺伝子組換えが行われて、キメラ抗原受容
体(CAR)を発現する。
【0031】
「キメラ抗原受容体(CARs)」は、本明細書において使用されるように、人工のT
細胞受容体、キメラT細胞受容体又はキメラ免疫受容体を指し、特定の免疫エフェクター
細胞、すなわち、MAIT細胞への人工的な特異性を移植した、遺伝子操作された受容体
を包含する。
【0032】
CARは、典型的には、膜貫通ドメインにより接合される、外部ドメイン(細胞外ドメ
イン)及びエンドドメイン(endodomain)(細胞質内ドメイン)を含む。細胞
表面に発現する外部ドメインは、抗原結合ドメイン又は受容体ドメインと、任意に、抗原
結合ドメインを膜貫通ドメインに連結するスペーサ(又はヒンジ)領域とを含む。膜貫通
ドメインは、典型的には、細胞膜の脂質二重層にまたがる疎水性αヘリックスである。C
ARのエンドドメインは、抗原結合時のMAIT細胞の活性化を誘発する細胞内シグナル
伝達モジュールからなる。エンドドメインは、以下に説明するように、シグナル伝達ドメ
インをいくつか含み得る。
【0033】
(抗原結合ドメイン)
CARの細胞外ドメインは、特異的に標的抗原を結合させる又は認識する抗原結合ドメ
インを含む。
【0034】
本明細書において使用されるように、「結合」又は「結合する」は、ペプチド、ポリペ
プチド、タンパク質、融合タンパク質、並びに抗原を認識し接触する抗体(抗体フラグメ
ントを含む)に関連している。好ましくは、それは、抗原-抗体型の相互作用に関連して
いる。「特異的に結合する」ことによって、CARの抗原結合ドメインが、特異的抗原を
認識するが、所定のサンプルにおいて、実質的に他の分子を認識又は結合しないことを意
味する。「特異的に結合する」ことは、特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ
)の存在に依存する。本明細書において使用されるように、「特異的に結合する」という
用語は、CARの抗原結合ドメインと抗原との間の少なくとも10-6Mの結合親和性で
の接触を意味する。いくつかの態様において、CARの抗原結合ドメインは、少なくとも
約10-7M、好ましくは、10-8M、10-9M、10-10Mの親和性で結合する
。結合親和性は、当業者に利用可能な任意の方法、特に、表面プラズモン共鳴法(SPR
)により測定可能である。
【0035】
一実施形態において、このような抗原結合ドメインは、抗体、好ましくは、一本鎖抗体
である。抗体は、ヒト化抗体であることが、好ましい。特に、このような抗原結合ドメイ
ンは、フラグメント抗原結合(Fab)フラグメント、F(ab’)2フラグメント、F
ab’フラグメント、Fvフラグメント、リコンビナントIgG(rlgG)フラグメン
ト、一本鎖抗体フラグメント、一本鎖可変フラグメント(scFv)、シングルドメイン
抗体(例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ)フラグメント、二重特異性抗体、及び
抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体から選択される抗体フラグメントである
。特定の実施形態において、抗体は、scFv等の、可変重鎖領域及び/又は可変軽鎖領
域を含む一本鎖抗体フラグメントである。特に、このような抗原結合ドメインは、Fab
及びscFvから選択される。
【0036】
抗原標的化ドメインがscFvである実施形態において、scFvは、可動性リンカー
により連結された抗原特異的mAbの可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)領域から誘
導され得る。scFvは、誘導されるフル抗体と同一の特異性及び同様の親和性を保持す
る。scFvのVHドメインとVLドメインとを接続するペプチドリンカーは、一方の可
変領域ドメインのカルボキシル末端を、他方の可変ドメインのアミノ末端に、VH-VL
ペアリング(paring)と抗原結合部位との間のフィデリティーを損なうことなく、
接合する。ペプチドリンカーは、アミノ酸の長さが10~30まで変動し得る。一実施形
態において、scFvペプチドリンカーは、Gly/Serリンカーであり、アミノ酸配
列Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号:1)又はGly-Gly-Gly-Gl
y-Ser(配列番号:2)の1つ以上の反復を含む。
【0037】
CARの細胞外ドメインは、1つ以上の抗原結合ドメインを含んでよい。
【0038】
特定の実施形態において、CARは、腫瘍関連抗原(TAA)に特異的に結合する。特
に、CARは、腫瘍細胞の表面に発現した任意のTAA、好ましくは、CD19、GD2
、EGFR、CD20、CD22、CD33、CD138、CD52、CD30、ROR
1、HER2、EpCAM、MUC-1、MUC5AC、BCMA、CD38、SLAM
F7/CS1、CD123、IL-13Ra2、HER2、LeY、MUC16、PSM
Aに特異的に結合し、さらに好ましくは、TAAは、CD19、CD20、CD22、C
D33、CD138、BCMA、CD38、SLAMF7/CS1、IL-13Ra2又
はHER2である。
【0039】
特定の実施形態において、CARは、CD19に特異的に結合する。
【0040】
別の特定の実施形態において、CARは、細胞内腫瘍性タンパク質又は細胞内腫瘍関連
抗原、特に、WT-1、NY-ESO-1、MAGE、PRAME、RAS、メソテリン
、c-Met、CEA、CSPG-4、EBNA3C、CA-125、GPA7を標的化
する。特に、前記細胞内腫瘍性タンパク質又は腫瘍関連抗原は、細胞表面において、処理
され、組織適合性(HLA)モジュールに結合するペプチドとして発現する。
【0041】
別の特定の実施形態において、CAR-MAIT細胞は、感染症の治療用である。この
実施形態では、CARは、感染した細胞の表面に発現した病原体成分を標的化することが
でき、好ましくは、CARは、細胞表面に発現したウイルスタンパク質を標的化し、より
好ましくは、CARは、HIVエンベロープタンパク質を標的化する。
【0042】
別の特定の実施形態において、CAR-MAIT細胞は、自己免疫疾患の治療用である
。この実施形態では、CARは、好ましくは、自己免疫性B細胞の表面に発現した自己反
応性抗体を標的化し、例えば、CARは、尋常性天疱瘡におけるデスモグレイン3向けの
自己反応性抗体を標的化する。
【0043】
(スペーサ又はヒンジドメイン)
CARは、任意選択的に、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインに連結するスペーサ又は
ヒンジドメインを含む。
【0044】
一部の実施形態において、CARは、抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間及び/
又は膜貫通ドメインと細胞質内ドメインとの間に、ヒンジ配列を含む。当業者は、ヒンジ
配列が、柔軟性を促進するアミノ酸の短い配列であることを理解するだろう。
【0045】
特に、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインに連結するスペーサ又はヒンジドメインは、
抗原結合ドメインが、抗原を認識できるように配向するのに十分な柔軟性を備えるように
設計される。
【0046】
ヒンジは、免疫グロブリンFc領域、例えば、IgG1 Fc領域、IgG2 Fc領
域、IgG3 Fc領域、IgG4 Fc領域、IgE Fc領域、IgM Fc領域、
又はIgA Fc領域の少なくとも一部から誘導されるか又はそれらを含み得る。特定の
実施形態において、ヒンジドメインは、CH2及びCH3ドメインの範囲内のIgG1、
IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgM又はIgA免疫グロブリンFc領域の少
なくとも一部を含む。
【0047】
例示のヒンジは、限定はしないが、CD8aヒンジ、CD28ヒンジ、lgG1/lg
G4(ヒンジ-Fc部分)配列、IgG4ヒンジ単独、CH2及びCH3ドメインに連結
されたIgG4ヒンジ又はCH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジを含み、それらは
、Hudecek他(2013) Clin.Cancer Res.,19:3153
、国際公開第2014/031687号明細書、米国特許第8,822,647号明細書
又は米国特許出願公開第2014/0271635号明細書に記載のものである。ヒンジ
ドメインとして、本発明は、使用可能な、CD8aの残基118~178(GenBan
k Accession No.NP_001759.3)、CD8の残基135~19
5(GenBank Accession No.AAA35664)、CD4の残基3
15~396(GenBank Accession No.NP_000607.1)
、又はCD28の残基137~152(GenBank Accession No.N
P_006130.1)のすべて又は一部に関する。また、スペーサドメインとして、抗
体H鎖又L鎖の定常領域の一部(CH1領域又はCL領域)を使用可能である。さらに、
スペーサドメインは、人工合成された配列であってよい。
【0048】
一部の実施形態において、例えば、ヒンジ配列は、CD8α分子又はCD28分子から
誘導される。
【0049】
(膜貫通ドメイン)
CARの膜貫通ドメインは、細胞表面上に受容体を固定するように、機能する。膜貫通
ドメインの選択は、隣接するスペーサ及び細胞内配列に左右される場合がある。
【0050】
一部の実施形態における膜貫通ドメインは、天然又は合成原料から誘導される。原料が
天然である場合、いくつかの態様におけるドメインは、任意の膜結合型又は膜貫通タンパ
ク質から誘導される。膜貫通領域は、T細胞受容体のα、β又はζ鎖、CD28、CD3
ζ、CD3ε、CD3γ、CD3δ、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD
16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、C
D137、CD154、ICOS/CD278、GITR/CD357、NKG2D、及
びDAP分子から誘導されるものを含む(すなわち、少なくともそれらの膜貫通領域を含
む)。あるいは、一部の実施形態における膜貫通ドメインは、合成である。いくつかの態
様において、合成の膜貫通ドメインは、ロイシン及びバリン等の主に疎水性の残基を含む
。いくつかの態様では、フェニルアラニン、トリプトファン及びバリンの3つ組が、合成
の膜貫通ドメインのそれぞれの末端に見つかるだろう。膜貫通ドメインは、膜において熱
力学的に安定している。それは、単一のαヘリックス、膜貫通βバレル、グラミシジンA
のβヘリックス又は任意の他の構造体であってよい。
【0051】
任意選択的に、短いオリゴ-又はポリペプチドリンカーは、好ましくは、アミノ酸長が
2と10との間であって、CARの膜貫通ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインとの間
に連結を形成し得る。グリシン-セリンの対が、適切なリンカーを提供し得る。
【0052】
(細胞内ドメイン)
「細胞内ドメイン」、「細胞質内ドメイン」及び「細胞内シグナル伝達ドメイン」とい
う用語は、本明細書において互換的に使用している。CARの細胞内ドメインの役割は、
細胞外ドメインが抗原を認識するとすぐにMAIT細胞への活性化シグナルを生成するこ
とである。特に、CARの細胞内ドメインは、MAIT細胞の正常なエフェクター機能の
少なくとも1つの活性化の引き金を引く又は引き出す。
【0053】
本発明において特に使用される細胞内ドメイン配列の例は、リンパ球受容体鎖、TCR
/CD3複合体タンパク質、Fc受容体サブユニット、IL-2受容体サブユニット、C
D3ζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD
79a、CD79b、CD66d、CD278(ICOS)、FcsRI、DAP10、
及びDAP12の細胞内シグナル伝達ドメインから誘導されるものを含む。CARにおけ
る細胞内ドメインが、CD3ζから誘導される細胞質シグナル伝達配列を含むことが、特
に好ましい。
【0054】
CARの細胞内ドメインは、単独の又は共刺激ドメインと組み合わされた(CD3ζシ
グナル伝達ドメイン等の)シグナル伝達ドメインを含むように設計可能である。共刺激分
子とは、リンパ球の、抗原への有効な応答に必要とされる細胞表面分子と定義可能である
。このような分子の例には、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40
(CD134)、CD30、CD40、CD244(2B4)、ICOS、リンパ球機能
関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3と
、CD83、CD8、CD4、b2c、CD80、CD86、DAP10、DAP12、
MyD88、BTNL3及びNKG2Dと特異的に結合するリガンドとが含まれる。上述
の共刺激ドメインの細胞内シグナル伝達部分は、単独で又は他の共刺激ドメインと組み合
わせて使用可能である。特に、CARは、CD27、CD28、4-1BB(CD137
)、OX40(CD134)、CD30、CD40、CD244(2B4)、ICOS、
LFA-1、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3からなる群からの2
つ以上の共刺激ドメイン、並びにCD83、CD8、CD4、b2c、CD80、CD8
6、DAP10、DAP12、MyD88、BTNL3及びNKG2Dと特異的に結合す
るリガンドとの任意の組合せを含み得る。
【0055】
よって、例えば、CARは、CD3ζシグナル伝達ドメイン等のシグナル伝達ドメイン
と、CD28及びCD40、CD28及び4-1BB(CD137)、CD28及びOX
40(CD134)並びにCD28及びLFA-1から選択される2つの共刺激ドメイン
とを含むように設計可能である。
【0056】
「第1世代のCARs」は、単一のシグナル伝達ドメインを含む。1つの追加の共刺激
ドメインとともにシグナル伝達ドメインを含むCARsは、「第2世代」と呼ばれ、その
一方、2つの追加の共刺激ドメインとともにシグナル伝達ドメインを含むものは、「第3
世代」とされる。例えば、第1世代のCARsは、CD3ζ鎖だけを、単一のシグナル伝
達ドメインとして含む。第2及び第3世代のCARsは、CD28、CD27、OX-4
0(CD134)及び4-1BB(CD137)等、それぞれ1つ以上の追加の共刺激シ
グナル伝達ドメインからなる。例えば、第2世代のCARは、CD3ζ及びCD28シグ
ナル伝達ドメインを含み得、一方、第3世代のCARは、CD3ζ、CD28及びOX-
40(CD134)又は4-1BB(CD137)いずれかを含み得る。
【0057】
本発明のCARは、上述のように、第1世代、第2世代又は第3世代のCARであって
よい。好ましくは、CARは、第2又は第3世代のCARである。
【0058】
「TRUCKs」は、最近開発された「第4世代の」CARsを代表するものである。
TRUCKs(T cells redirected for universal
cytokine killing)は、標的組織内に蓄積する遺伝子導入生成物を生成
し放出するようにビヒクルとして使用されるCARリダイレクトT細胞(CAR-red
irected T cell)である。生成物、例えば、炎症促進性サイトカインは、
一旦、T細胞がCARにより活性化されると、恒常的に生成又は誘発され得る。酵素又は
免疫調節性分子等の他の物質は、標的病変においてCARリダイレクトT細胞により同様
に生成され沈着し得る。この方策には、2つの別個の導入遺伝子が、例えば、(i)CA
Rと、(ii)IL-12等のサイトカインに連結される細胞活性化応答プロモーターと
を発現する必要がある。したがって、IL-12等の免疫刺激性サイトカインが、CAR
会合時に分泌される。
【0059】
特定の実施形態において、CARは、上に定義したように第4世代のCARである。
【0060】
特定の実施形態において、各種抗原に結合するCARs等、複数のCARsが、単一の
MAIT-細胞により発現され得る。
【0061】
[CAR-MAIT細胞の生成]
(MAIT細胞の取得)
CAR-MAIT細胞の生成は、細胞培養から又は個々の対象若しくは血液バンクから
の血液サンプルからMAIT細胞を準備するステップを含む。MAIT細胞は、好ましく
は、ドナー対象、特に、健康なドナー対象から誘導される。
【0062】
細胞は、血液サンプル(末梢血及び臍帯血を含む)から、並びに分離、遠心分離、遺伝
子操作、洗浄及び/又はインキュベーション等、1つ以上の処理ステップから得られるサ
ンプルから取得することができる。特定の実施形態において、ドナーからのサンプルは、
末梢血単核細胞(PBMCs)を含む。
【0063】
特定の実施形態において、MAIT細胞は、限定はしないが、末梢血、末梢血単核細胞
(PBMCs)、骨髄、臍帯血を含め、対象に存在する任意の部位から捕集される。
【0064】
特定の実施形態において、MAIT細胞は、除去療法、特に、白血球除去療法により、
捕集される。
【0065】
(MAIT細胞の単離)
当業者に知られているように、種々の方法が、免疫細胞を対象から単離することに、容
易に利用可能であり、又は、例えば、Life Technologies社のDyna
beads(登録商標)system;STEMcell Technologies社
のEasySep(登録商標)、RoboSep、RosetteSep、SepMat
e(登録商標);Miltenyi Biotec社のMACS(登録商標)細胞分離キ
ット、細胞表面マーカー発現及び他の市販の細胞分離及び単離キット(例えば、IL、R
ockfordのPierce社のISOCELL)を用いて、本願に適合させることが
できる。MAIT細胞は、ビーズ又は、このようなキットにおいて利用可能な、細胞表面
マーカーに特異的な他の結合剤を使用して単離させてよい。
【0066】
一部の実施形態において、単離は、親和性又は免疫親和性ベースの分離である。例えば
、いくつかの態様における単離は、細胞の発現又は、1つ以上のマーカー、典型的には細
胞表面マーカーの発現レベルに基づいて、MAIT細胞を分離することを含み、当該MA
IT細胞の分離は、例えば、このようなマーカーに特異的に結合する抗体又は結合パート
ナーとともにインキュベーションし、続いて、一般には洗浄ステップ、そして、抗体又は
結合パートナーが結合された細胞を、抗体又は結合パートナーに結合されていない細胞か
ら分離することにより、行う。このような分離ステップは、試薬を結合したMAIT細胞
がさらなる用途のため保持されるポジティブ選択、及び/又は抗体若しくは結合パートナ
ーに結合されていないMAIT細胞が保持されるネガティブ選択に基づくものとすること
ができる。一部の実施形態において、分離ステップの繰り返しが実行され、そこで、ポジ
ティブ又はネガティブ選択をした、1つのステップからの画分が、その後のポジティブ又
はネガティブ選択等、別の分離ステップを受ける。
【0067】
一部の実施形態において、MAIT細胞の個体群が、フローサイトメトリーを経て捕集
され濃縮され、そこで、複数の細胞表面マーカーに対して染色された細胞が、流体の流れ
の中を、分取スケール(FACS)を含む蛍光標示式細胞分取器(FACS)及び/又は
微小電気機械システム(MEMS)チップ等により、例えばフローサイトメトリック検出
システムと組み合わせて、運ばれる。このような方法によって、同時に複数のマーカーに
基づいてポジティブ又はネガティブ選択をすることができる。
【0068】
一部の実施形態において、MAIT細胞の単離は、CD3、CD8、Vα7.2、CD
161 CD26及び/又はIL-18Ra(CD218a)のポジティブ若しくは高い
表面発現並びに/又はCD4のネガティブ発現に、かつ/又は任意選択的にNKG2D又
はNKp30受容体の存在に基づくものである。
【0069】
特定の実施形態において、MAIT細胞は、抗体、特に、抗Vα7.2抗体と、抗-I
L18Rα若しくは抗-CD161若しくは抗-CD26抗体とがコーティングされたビ
ーズを用いて、ポジティブ単離される。
【0070】
単離されたMAIT細胞は、直ちに使用してよく、又は冷凍する等により一定期間保管
可能である。
【0071】
(MAIT細胞の活性化と増加)
望ましいCARを発現するようにMAIT細胞の遺伝子を改変する前又は後に拘わらず
、細胞は、活性化しかつ/又は増加し得る。一部の実施形態において、MAIT細胞は、
刺激条件において又は刺激剤の存在下でインキュベートされる。このような条件は、組換
え抗原受容体の導入のため等、MAIT細胞の増殖、増加、活性化及び/又は生存を誘発
するように、抗原曝露を模倣するようにかつ/又は遺伝子操作用の細胞を刺激するように
、設計されたものを含む。条件は、1つ以上の特定の培地、温度、酸素含量、二酸化炭素
含量、時間、薬剤、例えば、栄養分、アミノ酸、抗生物質、イオン及び/又はサイトカイ
ン、ケモカイン、抗原、結合パートナー、融合タンパク質、組換可溶性受容体等の刺激因
子と、MAIT細胞を活性化するように設計された任意の他の薬剤を含み得る。
【0072】
例えば、MAIT細胞は、抗-CD3抗体及び/又は抗-CD28抗体とともに、細胞
の増殖を刺激する条件下でインキュベート可能である。
【0073】
一部の実施形態において、本発明のMAIT細胞は、組織又は細胞とともに共培養する
ことにより、インビトロで増加させ得る。一部の実施形態において、MAIT細胞は、非
分裂PBMC等フィーダー細胞とともに共培養することにより増加させる。いくつかの態
様では、非分裂フィーダー細胞は、照射済みPBMCフィーダー細胞、特に、自家又は同
種異系間の照射済みPBMCを含み得る。
【0074】
特定の実施形態において、MAIT細胞は、自家又は同種異系間の照射済みPBMCs
並びにIL-2、IL-7、IL-12、IL-18及び/又はIL-15サイトカイン
の存在下でCD3/CD28刺激を行うことにより、インビトロで増加させる。
【0075】
特定の実施形態において、MAIT細胞は、5-OP-RU及び/又は5-OE-RU
等MAIT細胞活性リガンドの存在下インビトロで増加及び/又は活性化させる。
【0076】
別の特定の実施形態において、本方法は、ドナーの細胞サンプルから、特に、ドナーの
PBMCsから選択的にインビトロでMAIT細胞を増加させるステップを含む。選択的
なインビトロによるMAIT細胞増加は、合成5-OP-RUの存在下で、また任意選択
的にサイトカインとともに、ドナーからのPBMCsを培養することにより、行い得る。
特に、ドナーからのPBMCsを、5-OP-RU及び、rhuIL-2等のIL-2の
存在下で、培養する。
【0077】
特定の実施形態において、MAIT細胞は、好ましくは、エクスビボで、患者への投与
前に、少なくともおよそ5日間、好ましくは、およそ10日以上、より好ましくは、およ
そ15日以上、最も好ましくはおよそ20日以上、増加させる。
【0078】
別の実施形態において、MAIT細胞は、患者への投与前、増加0日と比較して、少な
くともおよそ100倍、好ましくは少なくとも約200倍、より好ましくは少なくとも約
400倍、好ましくは少なくとも約600倍、より好ましくは少なくとも約1000倍、
さらにより好ましくは少なくとも約1500倍、増加させた。
【0079】
一部の実施形態において、準備方法は、凍結ステップ、例えば、単離、インキュベーシ
ョン及び/又は(遺伝子)操作の前後いずれかにおいて細胞を凍結保存することを含む。
【0080】
(細胞の形質導入及び選択)
特定の実施形態において、MAIT細胞は、1つ以上のCARを発現させるために形質
導入させる。
【0081】
CARをコードする核酸構築物を、MAIT細胞内にNaked DNAとして又は適
切なベクター内に導入可能であることが、理解される。
【0082】
Naked DNAは、一般に、プラスミド発現ベクター内に、発現に適する配向で収
容されるキメラ受容体をコードするDNAを指す。核酸構築物を宿主細胞内に導入する物
理的方法は、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、粒子ボンバードメント、微量注
入法、エレクトロポレーション及び同様のものを含む。巨大分子複合体、ナノカプセル、
マイクロスフィア、ビーズ並びに、水中油型エマルション、ミセル、混合ミセル及びリポ
ソームを含む脂質ベース系を含め、他の手段を用いることができる。
【0083】
特定の実施形態において、CARをコードする核酸構築物を、レトロウイルス、アデノ
ウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス及びレンチウイルス等ウイルスベクタ
ーにより、MAIT細胞内に導入する。特に、ベクターは、レンチウイルスベクターであ
る。
【0084】
MAIT細胞中におけるCAR配列の存在を確認するために、種々のアッセイを実行し
てよい。このようなアッセイは、例えば、サザン及びノーザンブロット法、RT-PCR
及び定量的PCR等、周知の「分子生物学的」アッセイ、特定のペプチドの存在又は非存
在の検出等、「生化学的」アッセイ、フローサイトメトリーによる細胞表面におけるCA
Rの発現の検出等、「免疫学的」アッセイを含む。
【0085】
[薬学的組成物]
上述のCAR-MAIT細胞を含む薬学的又は獣医学的組成物をさらに記述する。
【0086】
薬学的組成物は、その上、薬学的に許容されるキャリアを含んでよい。本明細書におい
て言及する「許容されるキャリア」は、任意の既知の化合物又は当業者に薬学的又は獣医
学的組成物の処方において有用であると分かっている化合物の組合せである。特定の実施
形態において、「薬学的に許容される」という用語は、連邦政府若しくは州政府の、すな
わち米国若しくは欧州薬局方に収載された規制当局により、又は動物及びヒトにおける使
用のため一般に認知されている他の薬局方により、承認されていることを意味する。
【0087】
「キャリア」という用語は、それとともにCAR-MAIT細胞が投与される希釈剤、
アジュバント、添加物、又はビヒクルを指す。このような薬学的キャリアは、水及び、石
油、動物、植物若しくは合成由来の、ピーナッツ油、大豆油、鉱物油、ゴマ油及び同様の
もの等の油等の滅菌液とすることができる。水は、薬学的組成物を静脈内投与する場合、
好ましいキャリアである。生理食塩水並びに水性デキストロース及びグリセロール溶液も
また、液体キャリアとして、特に、注射剤溶液のために、使用可能である。適切な薬学的
添加物には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム
、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセ
ロール、プロピレングリコール、水、エタノール及び同様のものが含まれる。組成物には
、望ましい場合、湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を微量含ませることもできる。
【0088】
さらなる態様において、薬学的又は獣医学的組成物は、それぞれの個体群が各種CAR
を発現するMAIT-細胞の1つ以上の個体群を含み得る。
【0089】
薬学的又は獣医学的組成物は、非経口、静脈内、筋肉内、皮下投与及び同様のものを含
む、任意の従来の投与経路用に製剤可能である。
【0090】
非経口投与の場合、薬学的又は獣医学的組成物は、好ましくは静脈内投与により投与さ
れる。
【0091】
望ましくは、CAR-MAIT細胞の所望の免疫増強効果に有害な影響を与えない、薬
学的に許容される形態が用いられる。
【0092】
薬学的又は獣医学的組成物は、治療上有効な又は予防上有効な量等、疾患又は病態を治
療又は防止するのに有効な量、CAR-MAIT細胞を含む。所望の量を、組成物の単回
投与、組成物の複数回投与又は組成物の継続投与により送達させ得る。CAR-MAIT
細胞の投与量は、当業者に周知の標準的手順により決定可能である。患者の生理学的デー
タ(例えば、年齢、サイズ、体重及び健康並びにレシピエントの体重、もしあれば併用中
の治療の種類、治療頻度及び所望の効果の性質)と、投与経路とを、適切な用量、患者に
投与していく治療有効量として決定するために、考慮する必要がある。
【0093】
[使用]
本発明は、MAIT細胞が対象に対して異種である、対象の疾患の治療において使用す
るためのCAR-MAITに関する。
【0094】
好ましい実施形態において、本発明のCAR-MAIT細胞は、治療製品、理想的には
「市販の」製品として、使用される。
【0095】
一態様において、治療対象の疾患又は障害は、増殖性疾患又は障害、好ましくは癌、感
染性疾患又は障害、好ましくはウイルス、細菌又は真菌による感染症、炎症性疾患又は障
害及び免疫疾患又は障害、好ましくは自己免疫又は自己免疫疾患から選択される病態であ
る。
【0096】
特定の実施形態において、CAR-MAIT細胞及び/又は薬学的組成物は、HIV感
染、肝炎A、B又はCウイルス感染、ヘルペスウイルス感染(例えば、VZV、HSV-
1、HSV-6、HSV-II、CMV及びEBV)及びインフルエンザウイルス感染等
、ウイルス感染症の治療に適切である。ウイルスではない例には、アスペルギルス症、カ
ンジダ症、コクシジオイデス症並びに、クリプトコックス及びヒストプラスマ症と関連す
る疾患等、慢性の真菌疾患が、含まれ得る。慢性の細菌の感染病原体の非限定的な例は、
肺炎クラミジア、リステリア菌、及び結核菌であり得る。感染症はまた、性行為感染症(
例えば、クラミジア、淋病)、ジフテリア又はコレラを含む。
【0097】
特定の実施形態において、CAR-MAIT細胞及び/又は薬学的組成物は、自己免疫
異常の治療に適切である。自己免疫異常は、対象においてほぼすべての器官系、限定はし
ないが、神経系、胃腸管系、内分泌系の疾患、並びに皮膚及び他の結合組織、目、血液及
び血管に影響し得る。自己免疫疾患の例には、限定はしないが、尋常性天疱瘡、橋本病、
全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、グレーブス病、強皮症、関節リウマチ、
多発性硬化症、重症筋無力症及び糖尿病が含まれる。
【0098】
特定の実施形態において、CAR-MAIT細胞及び/又は薬学的組成物は、癌の治療
において使用するためのものである。よって、本発明はまた、その必要がある対象におけ
る癌の成長を阻害する方法及び/又はその必要がある患者において癌の形成及び/若しく
は転移を防止する方法に関する。
【0099】
特定の実施形態において、CAR-MAIT細胞は、癌の再発を治療することに使用す
るものである。
【0100】
特に、癌は、固形腫瘍又は造血性癌である。
【0101】
特に、癌は、肉腫及び細胞腫等の固形腫瘍であって、これには、線維肉腫、粘液肉腫、
脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、及び他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋
肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ系腫瘍、膵癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細
胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞
腫脂腺系腫瘍、乳頭癌、乳頭状腺癌、髄様癌、気管支原性肺癌、腎細胞癌、肝細胞腫、胆
管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱癌、メラノーマ
、及び中枢神経系腫瘍(神経膠腫等(脳幹神経膠腫及び混合膠腫等)、神経膠芽腫(多形
神経膠芽腫としても知られる)、星状細胞腫、中枢神経系リンパ腫、胚細胞腫、髄芽腫、
シュワン細胞腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫瘍、乏突起神経膠
腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫及び脳転移)が含まれる。
【0102】
造血性癌は、血液又は骨髄の癌である。血液(すなわち、血行性)癌の例には、急性白
血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病及び骨髄芽球性、前
骨髄球性、骨髄単球性、単球性及び赤白血病等)、慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性
)白血病、慢性骨髄性白血病、及び慢性リンパ性白血病等)、真性多血症、リンパ腫、ホ
ジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性及び高異型度の形態)、多発性骨髄腫、ワルデン
ストレーム高ガンマグロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、ヘアリーセル白血病及
び脊髄形成異常症を含む、白血病が含まれる。
【0103】
特定の実施形態において、疾患は、血液系腫瘍、より好ましくは、白血病、リンパ腫又
は骨髄腫である。
【0104】
特定の実施形態において、MAIT細胞は、免疫不全の対象に投与される。免疫適格性
宿主において、同種異系細胞は、宿主の免疫系により拒絶される場合がある。よって、同
種異系間のCAR MAIT細胞の拒絶を防止するために、宿主の免疫系を、好ましくは
、有効に抑制する又は損なわせる。
【0105】
特に、CAR-MAIT細胞を、対象を免疫不全にする前処置の後、投与する。
【0106】
特に、前処置は、骨髄破壊的若しくは骨髄非破壊的な処置、又はリンパ球除去化学療法
である。
【0107】
特に、前処置は、化学療法及び/又は放射線治療及び/又はリンパ球枯渇抗体にある。
【0108】
免疫抑制剤が、前処置中に使用される場合があり、例えば、アザチオプリン、メトトレ
キサート、5-フルオロウラシル、シクロホスファミド、フルダラビン、ペントスタチン
、ロミデプシン(FR901228)、抗-CD52(CAMPATH、アレムツズマブ
)、抗-CD3、抗-CD20(リツキシマブ)抗体又は他の抗体治療、シクロスポリン
、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド等である。
【0109】
特定の実施形態において、疾患は、血液系腫瘍であり、MAIT細胞を、造血幹細胞(
HSC)の移植前に又は造血幹細胞(HSC)移植直後に、投与する。
【0110】
特に、CAR-MAIT細胞は、微小残存病変(MRD)の段階における血液系腫瘍の
治療用である。
【0111】
微小残存病変(MRD)は、癌細胞、特に、治療後身体内に残されて、再発の主な原因
となる白血病の癌細胞を指す。特に、微小残存病変(MRD)という用語は、従来の細胞
形態学により検出不可能な低レベルの疾患を記述するのに使用される(例えば、Brue
ggemann and Kotrova; Blood Advances 2017
1:2456-2466を参照)。
【0112】
特に、CAR-MAIT細胞は、治療濃度域中における残存白血病性又は播種性の腫瘍
細胞を取り除くことに用いられる。CAR-MAIT細胞は、血液系腫瘍の患者における
移植への橋渡し役として、又は造血幹細胞移植後の微小残存病変(MRD)又は再発の治
療(又はハイリスクの患者のための補助療法)として、使用することができる。
【0113】
CAR-MAIT細胞の投与は、注入、輸注、体内移植又は移植を含む、任意の従来の
方法で実行してよい。本明細書に説明した組成物は、患者に、静脈内注入により、又は腫
瘍内、結節内若しくは腹腔内投与してよい。一実施形態において、細胞組成物は、好まし
くは静脈内注入により投与される。
【実施例0114】
[材料及び方法]
(フローサイトメトリー)
健康なドナーからの末梢血単核細胞は、フィコール密度勾配遠心法(Eurobio社
)により、単離し、すぐに使用するか凍結させる。マルチパラメータ10カラーフローサ
イトメトリー解析を、以下の抗体の組合せを用いて、15分間4℃で実行した。抗CD4
5 Krome Orange、抗CD3 ECD、抗CD8β PE又はECD、抗T
CR Vα24 PE Cy7(すべてBeckman Coulter社より);抗T
CR Vα7.2 FITC又はAPC(clone 3C10)、抗CD161 Pe
rCP Cy5.5又はBV421、抗CD4 AF700(Biolegend社);
抗CD161 APC、抗CD3 APC Vio770(Miltenyi Biot
ec社);抗CD4 APC AF750(Invitrogen社);抗CD3 Pe
rCP(BD Biosciences社);Zombie aqua live/de
ad(BioLegend社)。データを、総計少なくとも100,000イベントをラ
イブゲートにおいて収集するNaviosフローサイトメーター(Beckman Co
ulter社)において取得した。ゲートを、アイソタイプ及び蛍光マイナスワン(FM
O)染色により確定した。ゲーティング法は、CD45対側方散乱であり、MAIT細胞
を、CD3+ CD4- CD161high Vα7.2+細胞として確定した。細胞
絶対数を、同一サンプルにおいて、CountBright Absolute Cou
nting Beads (Invitrogen社)を用いて、計算した。データを、
FlowJo softwareを用いて解析した。
【0115】
(混合リンパ球反応)
レスポンダーPBMCsを、カルボキシフルオセインスクシンイミジルエステル(CF
SE)1μMで標識し、2×105のCFSEで標識されたレスポンダー細胞を、2×1
05の照射済み同種異系又は自家(ネガティブコントロール)PBMCsを伴って又は伴
わず、平底96ウェルプレート中において6日間培養した。レスポンダーT細胞を、培養
期間の終わりに、生きたCD3+細胞においてゲーティングすることにより特定した。通
常のT(Tconv)とMAIT細胞の増殖を、CFSE希釈により定量化した(%CF
SElow細胞)。
【0116】
(異種細胞の養子移植)
NSGマウス(Jackson laboratory,Bar Harbor,MI
)を、Institut de Recherche Saint-Louis(Par
is)の病原体フリーの動物施設に収容した。8~10週齢の雌のNSGへの照射(1.
3Gy)を、24時間、3×106のヒトPBMCsを尾側静脈に注入する前に行った。
マウスに対して、毎日生存評価し、毎週体重測定を行った。急性GVHDの発生を、体重
減少、姿勢(猫背)及び活動低下に基づきモニターした。マウスは、体重減少が15%を
下回ったとき(平均±45日)絶命させた。末梢血、脾臓、骨髄、肝臓、肺及び腸を採取
した。組織を機械的解離させ、単一細胞懸濁液を、cell strainer(70μ
m,BD Biosciences社)を通してフィルターにかけた。ヒト(CD45+
)白血球中のCD3 T細胞とMAIT細胞の割合は、フローサイトメトリーにより、初
期接種において移植後45日で、決定された。
【0117】
(インビトロのMAIT細胞の増加)
健康なボランティアのPBMCs(106/ml)を、丸底の96ウェルに接種し、R
PMI-10%ヒト血清中で、300nMの合成5-OP-RU(Institut C
urieにおいて5-A-RUの化学合成により(化学部F.Shmidt)、メチグリ
オキサール(methyglyoxal)と同一のモル濃度で混合して製造された)及び
100IU/mLのIL-2の存在下で、培養した。6日後、細胞を計数し、上述のよう
に、生存率及びMAIT細胞の数を、フローサイトメトリーにより評価した。細胞は、1
7日まで3~4日ごとの100nMの5-OP-RUと100IU/mLのIL-2を用
いて、増えた。
【0118】
(MAIT細胞の形質導入)
CD3 T細胞を、PBMCから免疫磁気的に洗浄し(human CD3+ T C
ell Isolation Kit,Miltenyi Biotec社)、抗CD3
/CD28ビーズで24時間活性化し(1:1の比、Dynabeads Human
T-Activator CD3/CD28,ThermoFisher Scient
ific社)、CAR+ T細胞のモニターを可能にするように、腫瘍抗原向けCAR及
び蛍光レポータータンパク質(青色蛍光タンパク質、BFP)をコードするレンチウイル
スベクターを用いて形質導入する。細胞を、5%ヒト血清と100 IU/mL IL-
2とを補充した、新たなX-VIVO 15 培地(Lonza社)中で再懸濁させた。
【0119】
形質導入効率を、6日後にフローサイトメトリーにより、BFP+細胞の、通常のCD
3 T細胞及びMAIT細胞中における百分率として、決定した。
【0120】
(インビトロCAR-MAIT細胞の有効性)
CARにより標的化された抗原を発現する5×104ルシフェラーゼ発現腫瘍細胞を、
蛍光活性化細胞ソーティングされたCAR-T細胞、CAR-MAIT細胞又は模擬形質
導入されたMAIT細胞とともに、種々のE/T比で、96ウェルマイクロプレートで2
4時間インキュベートした。標的細胞生存率を発光強度の測定により定量した。
【0121】
[結果]
1.MAIT細胞は、混合リンパ球反応(MLR)においてインビトロで増殖しない
MAIT細胞が同種異系細胞を認識し同種異系免疫応答に寄与するインビトロでの可能
性を精査するために、MLR方法に基づくフローサイトメトリーを用いて、第三者の同種
異系細胞の存在下でMAIT細胞の増殖を定量した。
図1(A及びB)に示すように、M
AIT細胞は、通常のCD3 T細胞とは逆に、同種異系細胞に応答して増殖しないか又
は最小限の増殖をすることを示した。
【0122】
2.MAIT細胞は、ヒト化マウスモデルにおいてGVHD誘発に関与しない
MAIT細胞が急性GVHDの一因となるインビボでの可能性を精査するために、ヒト
PBMCの移植を、照射済み免疫不全のNOD-Scid-IL-2Rγnull(NS
G)マウスに用いた(
図2)。このモデルにおいて、異種及びリンパ球減少性の環境にお
けるヒトTリンパ球の生着、増加及び活性化は、急性異種-GVHDの症状につながり(
移植後±45日)、種々の組織におけるヒト細胞の浸潤、最終的には死亡を伴う。
【0123】
3.10
6ヒトPBMCsを注入した照射済み(1,3Gy)NSGマウスを、GVH
Dの進行(体重減少、猫背の姿勢、毛皮のしわ、活動低下)を評価するようにモニターし
、体重減少が15%を下回ったとき(移植後平均45日)絶命させた。疾患マウスの末梢
血、脾臓、骨髄、肝臓、結腸及び肺におけるヒトCD45
+白血球フローサイトメトリー
解析では、MAITsの存在を検出できず、逆に、通常のCD3 T細胞の大量の蓄積を
伴った(
図2)。
【0124】
まとめると、このような結果は、MAITsが、アロ反応を起こす可能性は低く、MA
IT細胞を、ユニバーサル同種異系間T細胞発現のためのリンパ球源として用いる道を開
くことを示す。
【0125】
3.効果的なMAIT細胞増加及びレンチウイルスCAR形質導入
MAIT細胞を、新たなCAR-T細胞源として用いる前提条件は、MAIT細胞が、
インビトロで十分な量増加し得ることであり、レンチウイルスベクターにより効率的に形
質導入され得ることである。選択的にインビトロでMAIT細胞を、健康なドナーのPB
MCsから増加させるための実験条件を設定した。5-OP-RU及びIL-2で刺激す
ることを21日間繰り返すと、選択的にMAIT細胞が豊富になり(CD3 T細胞の中
のMAIT細胞が21日で80%を超える)、MAIT細胞の絶対数が培養期間にわたっ
て2400倍増加した(
図3A及び
図3B)。
【0126】
MAIT細胞の増加処置とは別に、MAIT細胞のレンチウイルスCAR形質導入が通
常のCD3 T細胞のものと同程度効果的であると、判定した。
図4に示すように、抗C
D3/CD28刺激CD3 T細胞が、CAR-BFPレンチウイルス内包GFP
+ M
AIT細胞を、CD3 T細胞のものと同一の割合で、形質導入した。
【0127】
4.CAR-MAIT細胞が、関連の標的細胞を、CAR-T細胞と同様に効果的に死滅
させる
CAR-MAIT細胞のインビトロの有効性を立証するために、関連のCAR標的を発
現する腫瘍細胞に対する死滅実験を行った。5×104のルシフェラーゼ発現標的細胞を
、CAR-MAIT、CAR-T又は非形質導入MAIT(NT)エフェクター細胞とと
もに、種々のエフェクター/標的(E/T)比で24時間インキュベートした。標的細胞
の生存率を、(生存標的細胞の)蛍光強度測定により定量化した。CAR-MAIT細胞
、但し、非形質導入MAIT細胞(NT)が、腫瘍標的を、通常のCAR-T細胞と同様
に効果的に、低E:T比で死滅させた。