(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045265
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】可変温度反応器、可変温度反応器のためのヒータおよび制御回路
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240326BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240326BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20240326BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N15/09 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024006641
(22)【出願日】2024-01-19
(62)【分割の表示】P 2021528006の分割
【原出願日】2019-07-26
(31)【優先権主張番号】1812192.1
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】521036285
【氏名又は名称】レックス ダイアグノスティックス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バックランド,ジャスティン
(72)【発明者】
【氏名】ジェリコー,トム
(72)【発明者】
【氏名】ストーキー,アレックス
(72)【発明者】
【氏名】アラヤ‐ウィリアムズ,アマル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】温度の迅速な調整が必要とされる反応のための反応器を提供する。
【解決手段】反応器は、反応セル、ヒータ、およびヒートシンクを備え、反応セルは厚さHVおよび幅WVを有する反応体積を有し、ここで、WV>4HVであり、反応体積のより大きな面積の面の1つが厚さHWを有する外壁によって境界付けられている面によって画定され、ヒータは外壁と接触し、反応体積により近い面に配置された発熱加熱要素と反対側の面にあるヒータ支持体とを備え、ヒータ支持体はヒートシンクと接触しており、加熱要素とヒートシンクとの間に熱抵抗RTを与え、反応器は熱拡散係数DVを有する試薬で充填された場合、厚さ方向に拡散時間tVを有し、tV=HV
2/DVであり、tVは反応時定数tRよりも小さく、外壁は熱拡散係数DWを有し、熱拡散時間はtW=HW
2/DW<tVである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その中に所定の反応を受け入れるための可変温度反応器であって、
反応セル、ヒータ、およびヒートシンクを備え、
前記反応セルは、厚さHVおよび幅WVを有する反応体積を有し、ここで、WV>4HVであり、前記反応体積のより大きな面積の面の1つが、厚さHWを有する外壁によって境界付けられている面によって画定されており、
前記ヒータは前記外壁と接触しており、
前記ヒータは、前記反応体積により近い面に配置された発熱ヒータ要素と、反対側の面にあるヒータ支持体とを備え、前記ヒータ支持体はヒートシンクと接触しており、そのため、前記ヒータ支持体は前記ヒータ要素と前記ヒートシンクとの間に熱抵抗RTを提供し、
前記反応器は、熱拡散係数DVを有する試薬で充填される場合、厚さ方向に拡散時間tVを有し、tV=HV
2/DVであり、tVは反応時定数tRよりも小さく、
前記外壁は熱拡散係数DWを有し、熱拡散時間tW=HW
2/DW<tVを有する、可変温度反応器。
【請求項2】
前記ヒータ要素は、ヒータとしても温度センサとしても機能する、請求項1に記載の反応器。
【請求項3】
コントローラをさらに備え、前記ヒータは前記コントローラに接続され、前記コントローラによって制御されて、前記反応器の温度をより高い温度THighとより低い温度TLowの間で変化させ、温度は両方とも前記ヒートシンクの温度TSinkを超えている、請求項1または請求項2に記載の反応器。
【請求項4】
前記反応体積の厚さHVは250ミクロン未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項5】
前記反応セルは、幅WVおよび長さLVを有する領域内に位置する蛇行チャネルによって形成される幅WVおよび長さLVを有する反応体積を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項6】
前記反応体積は、ヒータが前記外壁の両方と接触し、かつヒートシンクが両方のヒータと接触している状態で、その大きな面積の面の両方で、厚さHWを有する外壁によって境界付けられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項7】
前記ヒータ要素は抵抗性の加熱要素である、請求項1~6のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項8】
前記ヒータ要素は導電性材料から製造され、前記ヒータ支持体は電気絶縁材料から製造される、請求項1~7のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項9】
前記ヒータは、前記ヒートシンクから分離可能である、請求項1~8のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項10】
前記ヒータ要素と前記ヒートシンクとの間の前記熱抵抗RTが以下の関係を満たすように選択され、
RT>(THIGH-TSink)/pHeatおよび
0.5RT,Opt<RT<2RT,Opt
ここで、RT,Opt=(THIGH+TLOW-2TSink)/pHeat、
前記反応器は、出力pHeatを備えたヒータおよび温度TSinkでのヒートシンクを使用して、より低い温度TLOWとより高い温度THIGHとの間を繰り返し循環するように構成されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項11】
前記ヒータ支持体の熱抵抗RTと、前記充填された反応体積の熱容量、および前記反応体積と前記ヒータ要素との間に位置する前記薄い外壁の部分の熱容量の合計CVとが、RTCV<tRの関係を満たし、ここでtRは反応時定数であるように構成されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項12】
前記充填された反応体積の熱容量と、前記反応体積と前記ヒータ要素との間に位置する前記薄い外壁の部分の熱容量の合計CVと、前記ヒートシンクの熱容量CSとが、CS/CV>100の関係を満たすように構成されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項13】
前記ヒートシンク材料の熱伝導率は、前記ヒータ支持体材料の熱伝導率の10倍を超える、請求項1~12のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項14】
前記反応体積と前記ヒートシンクとの間に位置する前記薄い外壁の部分およびヒータの熱容量は、前記反応体積の中の液体の熱容量よりも低い、請求項1~13のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項15】
前記ヒートシンク材料の熱浸透率は、前記ヒータ支持体材料の熱浸透率の10倍を超え、ここで、熱浸透率eは、前記材料の熱伝導率k、密度ρ、および比熱容量cpの関数であり、e=sqrt(kρcp)として定義される、請求項1~14のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項16】
前記ヒータ要素は、前記反応体積の全領域にわたって延びる、請求項1~15のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項17】
前記ヒータ要素は抵抗性であり、長方形または正方形の形状を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項18】
前記ヒータ要素は、前記ヒータの動作温度範囲にわたって500ppm/Kを超える、好ましくは2,500ppm/Kを超える、より好ましくは10,00ppm/Kを超える抵抗温度係数の絶対値を有する導電性材料から製造される、請求項1~17のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項19】
前記ヒータは、電気抵抗測定用のケルビン接点を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項20】
前記ヒータ要素は、その中心近くよりもその周囲近くで単位面積あたりの熱出力が高くなるように構成されている、請求項1~19のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項21】
前記ヒータ要素は、1つまたは複数のガードヒータに囲まれメインヒータを備える、請求項1~20のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項22】
前記メインヒータは電流の流れの方向に細長く、ガードヒータは、前記メインヒータの長辺に隣接して配置されている、請求項21に記載の反応器。
【請求項23】
前記ヒータ要素のシート抵抗は、電流の流れの方向に垂直な前記ヒータ要素の縁部に位
置する端部ゾーンで局所的に増加する、請求項1~22のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項24】
前記反応体積は、使用中に、核酸配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅に使用される試薬を含むように構成されている、請求項1~23のいずれか一項に記載の反応器。
【請求項25】
前記反応器は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)熱サイクルによってDNA増幅を実行するように構成されている、請求項1~23のいずれか一項に記載の反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度の迅速な調整が必要とされる反応のための反応器に関する。本発明はまた、反応器のためのヒータ、ならびに駆動および感知回路、ならびに反応器を動作させる対応する方法にも関する。
【0002】
そのような反応器が必要とされる一例のプロセスは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNA増幅であり、反応器は、PCRの完了までの時間を短縮するための高速熱サイクリングに適している。別の例は、合成によるDNA塩基配列決定であり、多段階反応の各段階の温度を調整することにより、塩基の添加を最適化できる。
【0003】
本発明の反応器はまた、溶液中のオリゴヌクレオチドの熱量測定検出によるPCRの進行のモニタリングにも適している。反応器はまた、連続して接続された液体試料内の複数の位置でサブ試料の独立した分析を行うデジタルPCRまたはマルチプレックスPCRにも適している。
【0004】
本発明はまた、反応体積の温度を迅速に調整し、高度の温度均一性と、正確な温度制御とを備えたヒータにも関する。
【0005】
本発明はまた、ホイートストンブリッジ回路内に構成された試料ヒータおよび参照ヒータを使用する示差走査熱量測定(DSC)または示差熱分析(DTA)のための装置にも関する。
【背景技術】
【0006】
PCRでは、約60℃と約95℃の温度の間で温度サイクルを繰り返す必要がある。従来より、加熱と冷却はペルチェ素子を使用して行われ、温度を上げる必要がある場合はヒートシンクから試料に熱が送られ、温度を下げる必要がある場合には試料からヒートシンクに熱が送られる。ヒートシンクは多くの場合、ファンで冷却される。
【0007】
このアプローチには多くの欠点があり、必要とされる装置が大きく、消費電力が大きいことである。熱サイクル中に温度を変える装置の部分の熱容量は、試料の熱容量よりも大幅に大きいため、エネルギー使用量が増加し、熱サイクルが遅くなる。温度上昇率は制限され、熱サイクリング時間が、ペルチェ素子、および試料と熱接触し試料を含むために使用される部品を通り、かつ試料自体を通る長い熱拡散時間によって拡大する。これらの要因により、PCRの熱サイクリングが遅くなり、エネルギー効率が悪くなる。
【0008】
従来より、サーモサイクラーの制御には、ペルチェおよび試料から離れた温度センサが使用される。必然的に、ペルチェと比較して温度センサの熱応答に遅れが生じ、このことはシステムの熱制御を複雑にする。調整されたPIDアルゴリズムが、温度上昇率を最大化し、オーバーシュートを最小化するために使用されることが多いが、これは開発し実装するのに複雑である場合があり、試料内で意図した時間と温度のプロファイルを実現できない場合がある。
【0009】
さらなる欠点は、繰り返しの熱サイクルから生じる機械的応力のために、ペルチェ素子の寿命が制限されることである。
【0010】
これらの欠点は、正確な温度制御と、急速な温度変化を必要とする他の反応にも当てはまる。
【0011】
熱サイクリングに対する代替の従来技術のアプローチは、固定温度の水浴またはヒータの間で試料を移動させることである。3つの例を
図1~
図3に示す。
図1では、試料は水槽の間で移し替えられ、
図2では、試料はヒータブロック間で移し替えられる。これらの解決法は、可動する部品のために、機械的な複雑さが大きく、必要なスペースが大きくなる。
図3では、試料は2つのヒータブロックの上の通る蛇行経路を含むマイクロ流体チップの中を通されるが、試料がマイクロ流体チャネルの大きな表面積に曝されるという欠点がある。これには2つの欠点があり、試料と試薬がチャネル壁に付着する可能性があり、感度が低下し、試料体積の要件が増加し、試薬のコストが増加し、そしてマイクロ流体チップのサイズおよびコストも増大する。
【0012】
図3に示す長い蛇行チャネルのサイズと表面積が大きいのは、チャネルが、通常1mmを超える距離で空間的に分離された2つの異なる温度ゾーンの間を通過する必要があるためである。さらに、試料体積は蛇行チャネルの内部体積よりも小さいため、チャネルの表面積と試料体積の比が大きくなる。
【0013】
温度変化に必要な時間が、熱サイクリングの総時間の大部分を占めることがないように、十分に速い速度で熱サイクリングを実行することが望ましい。熱サイクリングの総時間は、温度変化の時間と反応の時間の合計であり、PCR反応の最も時間がかかる部分は伸長段階であり、これは、100塩基対の典型的な配列長に対して約1秒以上を必要とする。したがって、温度上昇のためには1秒未満の時間を目標とする。PCRの目標温度は通常60℃から95℃の間であるため、温度変化の時間を1秒まで短縮するには、加熱と冷却のために70℃/s以上の温度上昇率を達成することが必要である。必要な総時間は温度変化に必要な時間ではなく、反応時間によって支配されるため、これよりはるかに高い温度上昇率(200℃/s以上)では速度の利点が制限される。
【発明の概要】
【0014】
本発明において、本発明者等は、機械的移動システムまたは長い蛇行チャネルの欠点を持たない、約100℃/秒で高速熱サイクリングを実行するための反応器を開示する。蛇行チャネルの場合と比較して、幅の広いチャネルの中に試料を含むことで側壁の表面積を縮小することが可能である。幅の広いチャネルを使用する場合、支持されていない大きなスパンを回避し、流体チャネルの機械的強度を高めるために、リブやピラーなどの内部支持構造を導入する必要がある場合がある。
【0015】
加えて、本発明では、蛇行チャネルを含む反応器を開示する。いくつかの蛇行チャネルには上で説明したように欠点があるが、別のアプローチでは、時間の経過と共に温度を変動させることができる単一のヒータ上に配置されたより短い蛇行チャネルの中に試料を含めることも可能である。この場合、試料は増幅中に異なる温度ゾーンの間を流れることがなく、代わりにヒータの温度が時間と共に変動する。これにより、蛇行チャネルの長さを短くすることができ、チャネルの内部体積を試料の体積と等しくすることができ、チャネルの表面積と試料の体積の比を低下させることが可能である。さらなる利点は、この構成が定量的PCR実験に便利であり、PCR実験では増幅されたDNAの濃度を、例えば蛍光プローブや挿入色素を使用して単一の位置で経時的にモニタすることができる。
【0016】
反応器は3つの主要な要素を含み、温度制御されるべき体積を中に含む反応セル、熱を吸収するヒートシンク、および反応セルおよびヒートシンクと熱接触するヒータである。ヒータは、反応セルに接触する面に発熱ヒータ要素を有し、ヒートシンクに接触する面にヒータ支持体を有する。ヒータ支持体の熱抵抗は、目標反応温度、ヒートシンク温度、および電力要件の所与のセットに対して低い熱サイクルタイムを与えるように選択される。
【0017】
一態様では、本発明は、その中に所定の反応を受け入れるための可変温度反応器を提供し、反応器は、反応セル、ヒータ、およびヒートシンクを備え、
反応セルは、厚さHVおよび幅WVを有する反応体積を有し、ここで、WV>4HVであり、反応体積のより大きな面積の面の1つが、厚さHWを有する外壁によって境界付けられている面によって画定されており、
ヒータは前記外壁と接触しており、
この場合、ヒータは、反応体積により近い面に配置された発熱ヒータ要素と、反対側の面にあるヒータ支持体とを備え、ヒータ支持体はヒートシンクと接触しているため、ヒータ支持体はヒータ要素とヒートシンクとの間に熱抵抗RTを提供し、
この場合、反応器は、熱拡散係数DVを有する試薬で充填される場合、厚さ方向に拡散時間tVを有し、tV=HV
2/DVであり、tVは反応時定数tRよりも小さく、
外壁は熱拡散係数DWを有し、熱拡散時間tW=HW
2/DW<tVを有する。
【0018】
好ましくは、ヒータ要素は、ヒータとしても温度センサとしても機能する。
【0019】
好ましくは、反応器は、コントローラをさらに備え、ヒータはコントローラに接続され、反応器の温度をより高い温度THighとより低い温度TLowとの間で変化させるようにコントローラによって制御され、温度は両方ともヒートシンクの温度TSinkを超えている。
【0020】
好ましくは、反応体積の厚さHVは、250ミクロン未満である。
【0021】
好ましくは、反応セルは、幅WVおよび長さLVを有する領域内に位置する蛇行チャネルによって形成される幅WVおよび長さLVを有する反応体積を含む。
【0022】
好ましくは、反応体積は、厚さHWを有する外壁によってその大きな面積の面の両方において境界付けられており、ヒータは前記両方の外壁と接触しており、かつヒートシンクは両方のヒータと接触している。
【0023】
好ましくは、ヒータ要素は抵抗性加熱要素である。
【0024】
好ましくは、ヒータ要素は導電性材料から製造され、ヒータ支持体は電気絶縁材料から製造される。
【0025】
好ましくは、ヒータはヒートシンクから分離可能である。
【0026】
好ましくは、反応器は、ヒータ要素とヒートシンクとの間の熱抵抗RTが以下の関係式
RT>(THIGH-TSink)/pHeatおよび
0.5RT,Opt<RT<2RT,Opt
ここで、RT,Opt=(THIGH+TLOW-2TSink)/pHeatを満たすように選択され、
反応器は、出力pHeatを備えたヒータおよび温度TSinkのヒートシンクを使用して、より低い温度TLOWとより高い温度THIGHとの間を繰り返し循環するように構成されている。
【0027】
好ましくは、反応器は、ヒータ支持体の熱抵抗RTと、充填された反応体積の熱容量と、反応体積とヒータ要素との間に位置する薄い外壁の部分の熱容量との合計CVがRTCV<tRの関係を満たし、ここで、tRは反応の時定数であるように構成されている。
【0028】
好ましくは、反応器は、充填された反応体積の熱容量と、反応体積とヒータ要素との間
に位置する薄い外壁の部分の熱容量の合計CVと、ヒートシンクの熱の熱容量CSが、関係CS/CV>100を満たすように構成されている。
【0029】
好ましくは、ヒートシンク材料の熱伝導率は、ヒータ支持体材料の熱伝導率の10倍超である。
【0030】
好ましくは、反応体積とヒートシンクとの間に位置する薄い外壁の部分およびヒータの熱容量は、反応体積の中の液体の熱容量よりも低い。
【0031】
好ましくは、ヒートシンク材料の熱浸透率は、ヒータ支持体材料の熱浸透率の10倍超であり、ここで、熱浸透率eは、材料の熱伝導率k、密度ρ、および比熱容量cpの関数であり、e=sqrt(kρcp)として定義される。
【0032】
好ましくは、ヒータ要素は、反応体積の全領域にわたって延びる。
【0033】
好ましくは、ヒータ要素は抵抗性であり、長方形または正方形の形状を有する。
【0034】
好ましくは、ヒータ要素は、ヒータの動作温度範囲にわたって、500ppm/Kを超える、好ましくは2,500ppm/Kを超える、より好ましくは10,00ppm/Kを超える抵抗温度係数の絶対値を有する導電性材料から製造される。
【0035】
好ましくは、ヒータは、電気抵抗測定のためのケルビン接点を含む。
【0036】
好ましくは、ヒータ要素は、その中心近くよりもその周囲近くで単位面積あたりの熱出力が高くなるように構成される。
【0037】
好ましくは、ヒータ要素は、1つまたは複数のガードヒータに囲まれたメインヒータを備える。
【0038】
好ましくは、メインヒータは、電流が流れる方向に細長く、またこの場合、ガードヒータがメインヒータの長辺に隣接して配置されている。
【0039】
好ましくは、ヒータ要素のシート抵抗は、電流の流れの方向に垂直なヒータ要素の縁部に位置する端部ゾーンで局所的に増加する。
【0040】
好ましくは、反応体積は、使用中に、核酸配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅に使用される試薬を中に含むように構成される。
【0041】
好ましくは、反応器は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)熱サイクリングによってDNA増幅を実行するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
次に、本発明の例を、添付の図面を参照して説明する。
【0043】
【
図1】従来技術のシステムおよび方法を示す図である。
【
図2】従来技術のシステムおよび方法を示す図である。
【
図3】従来技術のシステムおよび方法を示す図である。
【
図4】従来技術のシステムおよび方法を示す図である。
【
図5】従来技術のシステムおよび方法を示す図である。
【
図6】従来技術のシステムおよび方法を示す図である。
【
図7】従来技術のシステムおよび方法を示す図である。
【
図8A】本発明による例示的な反応器の図を示す図である。
【
図8B】本発明による例示的な反応器の図を示す図である。
【
図9A】本発明による例示的な反応器の図を示す図である。
【
図9B】本発明による例示的な反応器の図を示す図である。
【
図10A】本発明による例示的な反応器を示す図である。
【
図10B】本発明による例示的な反応器を示す図である。
【
図11】本発明による例示的な反応器を示す図である。
【
図12】本発明による代替の反応器の幾何学形状の断面図である。
【
図13A】本発明で使用することができる反応セルカバーの例を示す図である。
【
図13B】本発明で使用することができる反応セルカバーの例を示す図である。
【
図14A】本発明で使用することができる反応セルカバーの例を示す図である。
【
図14B】本発明で使用することができる反応セルカバーの例を示す図である。
【
図16】本発明で使用される反応セルの2つの形式を示す図である。
【
図17】本発明の動作中、時間60秒までの同時のDNA増幅および拡散と、それに続く60秒の時間が経った後のDNA拡散のシミュレーションを示す図である。
【
図18】本発明で使用された2つの例示的なセルについて、PCR増幅の開始後100秒の時間でのDNA濃度を示す図である。
【
図19】PCR増幅の開始後100秒の時間での位置を有する本発明を使用する方法における濃度変動を示す図である。
【
図20】本発明で使用することができる流体セルアレイを示す図である。
【
図21】本発明で使用することができる流体セルアレイを示す図である。
【
図22A】本発明で使用することができる流体セルアレイを示す図である。
【
図22B】本発明で使用することができる流体セルアレイを示す図である。
【
図29A】本発明によるヒータの例を示す図である。
【
図29B】本発明によるヒータの例を示す図である。
【
図29C】本発明によるヒータの例を示す図である。
【
図29D】本発明によるヒータの例を示す図である。
【
図31】本発明で使用することができるヒートシンクを示す図である。
【
図32】反応中の本発明の動作特性および出力特性を表すグラフである。
【
図33】反応中の本発明の動作特性および出力特性を表すグラフである。
【
図34】反応中の本発明の動作特性および出力特性を表すグラフである。
【
図35】反応中の本発明の動作特性および出力特性を表すグラフである。
【
図36】本発明の動作特性を示す別のグラフである。
【
図37】本発明の動作特性を示す別のグラフである。
【
図38】本発明の動作特性を示す別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1(従来技術)は、異なる温度に保持された水浴間で試料を移動することによる熱サイクリングを示す。装置は概略式の形態で(A)で示されている。試料の温度と位置は、(B)において時間に対してプロットされている。参照:Farrar、J.S.and
Wittwer、C.T.(2015)Extreme PCR:Efficient
and Specific DNA Amplification in 15-60Seconds、Clinical Chemistry、61:1 145-153。
【0045】
図2(従来技術)は、異なる温度に保持されたヒータブロック間で試料を移動することによる熱サイクリングを示している。参照:国際公開第2012161566号パンフレット。
【0046】
図3(従来技術)は、高温ゾーンと低温ゾーンを交互に通過する蛇行経路を通るように試料を通過させることによる熱サイクリングを示している。参照:Trauba、J.M.and Wittwer、C.T.(2017)Microfluidic Extreme PCR:<1 Minute DNA Amplification in a
Thin Film Disposable、J.Biomedical Science and Engineering、10、219-231。
【0047】
図4(従来技術)は、非混和性の液体、通常はフッ素化オイルに含まれる試料の液滴を作成することによるデジタルPCRを示している。参照:Hindson、B.J.(2011)High-Throughput Droplet Digital PCR System for Absolute Quantitation of DNA Copy Number、Anal.Chem、83、8604-8610。
【0048】
図5(従来技術)は、スリップチップデバイスの上面図および側面図を示している。スリップチップは、2つの部品の相対運動を使用して、デジタルPCRまたはマルチプレックスPCR用の分離されたサブ試料を作成する。参照:米国特許第9,415,392B2号明細書。
【0049】
図6(従来技術)は、最初に試料液体を充填し、次にガス透過性障壁を通過することができ、かつ試料を切り離された分量に分割するガスを充填することによるデジタルPCRのデジタル化を示している。参照:国際公開第2018094091号パンフレット。
【0050】
図7(従来技術)は、0.0244mMのPNA(TG)/DNA二重溶液、0.0303mMのDNA(TG)/DNA二重溶液、および緩衝液の2回の繰り返しDSC走査を示している。温度走査速度は60K/hで、セル容量は0.511mlであった。参照:Chakrabarti、M.C. and Schwarz,F.P.(1999)Thermal stability of PNA/DNA and DNA/DNA
duplexes by differential scanning calorimetry、Nucleic Acids Research、24、4801-4806。
【0051】
本発明が採用されるタイプの反応の場合、熱サイクリングは、ヒータと試料との間の熱拡散時間を、目標サイクルタイムと比較して短くすることを必要とする。熱拡散時間tは次の式で与えられ、
t=R2/DT、
ここで、Rは特徴的な長さのスケールであり、DTは材料の熱拡散係数である。以下の表1は、以下で説明する反応器の設計例を示しており、ここでは、反応体積および薄い外
壁の熱拡散時間は両方とも、100塩基対の配列で約1秒と見なされるPCRの反応時間よりも短くなっている。
【0052】
効率的に加熱するために、試料の熱容量に対して、反応セル材料の熱容量とヒータの熱容量の比を最小にすることが望ましい。反応体積の熱容量は、反応セルの熱容量とヒータの熱容量の合計の大部分、好ましくは10%よりも大きく、より好ましくは50%よりも大きくなければならない。
【0053】
反応体積を加熱するために、ヒータ要素がオンに切り替えられ、ヒータ要素によって生成された熱が反応体積およびヒートシンクに流れ込む。反応体積を冷却するために、ヒータ要素がオフに切り替えられ、熱が反応体積からヒータを通ってヒートシンクに流れる。ヒートシンクの熱容量は、反応を完了するために必要な一連の熱サイクルにわたるヒートシンクの温度上昇を制限するために、反応セルとヒータを組み合わせた熱容量よりもはるかに大きくなるように選択される。以下に提供される例では、ヒートシンクの熱容量は、ヒータと反応セルを組み合わせた熱容量の100倍を超えている。ヒートシンクの温度上昇をさらに制限するために、ヒートシンクは、例えば自然対流または強制対流、液体循環、噴霧冷却、またはヒートパイプまたはペルチェデバイスへの接続によって継続的に冷却することができる。
【0054】
所与の温度プロファイルとヒートシンク温度TSinkおよびヒータ要素出力pHeatに関する熱サイクリング時間を最小限に抑えるように、ヒータ支持体RTの熱抵抗を最適化することができる。TLOWとTHIGHの間の熱サイクリングに必要な時間は、加熱時間が冷却時間と等しい場合に最小化され、この条件は、RT=RT,Optの場合、次のように満たされる。
RT,Opt=(THIGH+TLOW-2TSink)/pHeat
【0055】
軸方向はヒータと反応セルとの間の接触面に垂直であり、かつ横方向はヒータと反応セルとの間の接触面の平面内にあると定義する。横方向の熱流は反応セル内の温度勾配および温度の不均一性を意味するため、温度制御の精度を低下させるには、横方向の熱流を制限することが望ましい。
【0056】
横方向の熱流を制限するために、反応体積は、側面の面積がヒータ要素に最も近い面の面積よりも小さくなるように、高さHV(軸方向)と幅WV(横方向)の比を有するように選択される。この条件は、次のように正方形または円形の反応体積の場合に満たされる。
WV>4HV
【0057】
横方向の熱流をさらに制限するために、ヒータ要素は、その縁部の近くでより高い熱出力を有し、かつ反応体積を超えて延びるように設計され得る。その縁部近くのヒータ要素のより高い熱出力は、横方向の熱流を補償し、反応体積全体でより均一な温度条件を提供することができる。
【0058】
電気ヒータ要素は、正方形または長方形の形状の発熱領域を有してよく、発熱領域の2つの向かい合う側に電気端子を備え、一方の端子から他方の端子に電流が流れる方向を有する。このようなヒータ要素の温度均一性を改善するための1つのアプローチは、電気端子の側面近くのヒータ要素のシート抵抗を増加させて、単位面積あたりの熱出力が、ヒータ要素の中心近くの熱出力に対して、これらの側面近くで局所的に増加するようにすることである。温度均一性をさらに改善するために、電流の流れの方向に平行な側面に沿ってヒータ要素の熱出力を増加させることも望ましい。これは、これらの側面の近くで電流密度が増加し、ヒータ要素の中心近くの熱出力に対して、単位面積あたりの熱出力が増加す
るように、これらの側面の近くのシート抵抗を局所的に低下させることによって行うことができる。
【0059】
ヒータ要素の抵抗は、材料の厚さを減少させることによって、または電気伝導経路の長さを拡大し、かつ電気伝導経路の断面積を減少させる効果がある穴またはスロットまたは材料の変動で材料をパターン化することによって、局所的に増大させることができる。これらの穴またはスロットの特徴は、反応体積内の温度均一性を妨げないように、反応体積の厚さと比べて小さくする必要がある。
【0060】
ガードヒータを使用することで、ヒータの縁部の横方向の熱流をさらに制限することができる。ガードヒータは、ヒータ要素の縁部の近くに配置され、かつメインヒータ要素の目標温度に近い温度を維持するように駆動される追加のヒータである。ガードヒータの単位面積ユニットあたりの熱出力は、横方向の熱損失を補償するために、メインヒータ要素の単位面積ユニットあたりの熱出力よりも高くなっている。ガードヒータは、メインヒータ要素と同じ温度設定値で閉ループ制御で動作されてよい、または、ガードヒータは、メインヒータ要素と同じコントローラまたはオン/オフタイミングであるが、特有の温度設定値で温度均一性を最適化するように調整することができる異なる駆動電圧で動作されてもよい。
【0061】
反応器は、片面セルまたは両面セルとして構成することができる。片面構成には、ヒータと接触する薄い外壁が1つある反応セルがあり、ヒータはヒートシンクと接触している。両面構成には、ヒータと接触する2つの薄い外壁を備えた反応セルがあり、ヒータはヒートシンクと接触している。
【0062】
反応セル、ヒータ、およびヒートシンクは、平面形状または湾曲した形状を採ることができる。構築を容易にし、反応を光学的に監視するために、平面形態が好ましい場合がある。しかしながら、部分的球形または円筒形などの他の形態も可能であり、これらは、張力をかけられた柔軟な反応セルおよびヒータ層が互いと良好な熱接触する、および通常は剛性の金属部品であるヒートシンクと良好な熱接触するのを可能にするという利点を有する場合がある。
【表1】
【0063】
空間的に分離された温度センサによるヒータ要素の熱制御は、ヒータ要素における温度変化と温度センサにおける温度変化との間にタイムラグがあるため、難しい問題を持ち込む。このタイムラグは、オーバーシュートやヒータ要素温度の振動などの問題を引き起こす可能性がある。これらの問題を回避するために、ヒータ要素は、ヒータ要素の抵抗を使用してその温度を決定する温度センサとして構成されてよい。ヒータ要素は、正の抵抗温度係数(金属など)または負の抵抗温度係数(金属酸化物または他の誘電体など)を有してよい。いずれの場合も、ヒータ要素の抵抗温度係数(TCR)の大きさが大きく、好ましくは500ppm/Kを超える、より好ましくは2,500ppm/Kを超える、最も好ましくは10,000ppm/Kを超えることが望ましい。
【0064】
ヒータ要素には、ヒータ要素の抵抗のより正確な測定、およびより正確な温度測定を可能にするために、4端子ケルビン接点が備わっていてもよい。
【0065】
ヒータ要素の材料が所望のシート抵抗よりも低い場合、それは、シート抵抗を増加させるために、電流の流れの方向に垂直なスロットまたはギャップでパターン化されてもよい。
【0066】
ヒータ要素が所望のシート抵抗よりも高い場合、この場合、ヒータ要素を通る経路長を短くし、電流の流れの断面積を大きくするために、互いにかみ合った接触端子が備わっていてもよい。
【0067】
熱サイクリングの間、およびいくつかの熱サイクルの終わりに、反応の状態をモニタすることが望ましい。特に、DNAのPCR増幅は、蛍光標識色素または電気化学的に活性な標識を使用して検出することができる。これらの方法にはそれぞれ、コストがかかるか、またはPCR増幅プロセスを阻害する可能性のある標識に関する要件、複雑な光学計測器および試料との光学的インターフェースに関する要件、および試料との電気化学的インターフェースに関する要件という欠点がある。
【0068】
本発明は、融解温度での熱容量の増加をもたらす、熱サイクルの加熱段階中に融解の熱を検出することによって、増幅されたDNAの熱量測定検出を実現する。これにより、最小限の追加の計測器ハードウェアで、標識のない方法でPCR増幅を継続的にモニタすることが可能になる。
【0069】
本発明の反応器の形式は、走査熱量測定検出に非常に適しており、その理由は、その設計によって急速な温度上昇率が可能になり、また反応体積に含まれる試料の熱容量が、ヒータ、反応セルおよび試料の総熱容量のうちのかなりの部分であるためである。これらの要因により、熱量測定信号の強度が高まり、熱量測定検出の感度が向上する。
【0070】
DNA融解温度での熱容量の増加によってDNAの存在を検出するために、示差熱分析(DTA)法を使用することができ、この方法では、試料セルと参照セルの温度差は、試料と参照の両方に等しい熱入力で、温度が融点を通過して上昇している間、温度または時間の関数として測定される。反応の過程にわたる示差温度走査の進展をモニタすることで、反応生成物の濃度の変化を検出することができる。別の方法は、示差走査熱量測定(DSC)を使用し、この方法では、試料セルと参照セルに対する熱流束入力の差は、試料セルと参照セル両方の温度を上昇させ、等しく保たれている間、温度または時間の関数として測定される。
【0071】
AC熱量測定を、パルス式または振動形のヒータ駆動装置を使用して本発明と組み合わせることで、熱量測定のロバスト性および感度を高めることができる。一例のアプローチは、駆動周波数で正弦波駆動電圧で抵抗ヒータを駆動し、駆動周波数の2倍で振動する熱出力を生成することである。ヒータ要素の温度も駆動周波数の2倍で振動し、この振動の振幅は試料の熱容量に依存することになる。温度振動の振幅は、ヒータがゼロ以外の抵抗温度係数を有する温度センサとしても構成されている場合、ヒータ要素の電気抵抗の振動を測定することによって検出することができる。このアプローチの利点は、この方法がヒータ抵抗における低速DCドリフトの影響を受けることがなく、温度振動の同期検出を使用して外部ノイズの発生源を排除することができる点である。
【0072】
AC熱量測定に関する熱入力の周波数の最適な範囲は、振動性の熱源によって生成される温度振動の侵入度Lを考慮することによって推定することができる(参照:Marin
,E.(2010)Characteristic dimensions for heat transfer Lat.Am.J.Phys.Educ.,1,56-60)。
【数1】
【0073】
DTは熱が拡散する材料の熱拡散係数であり、ωは熱源の振動の角周波数である。片側のみにヒータを備えた反応器の場合、反応体積の高さHV以下の侵入度Lを与える条件を選択することが好ましい。より高い周波数の振動と、より小さな侵入度を使用することの利点は、熱量測定がHVの変動に影響されにくく、これにより試料と参照反応体積の幾何学形状の違いに対する感度を低下させる点である。
【0074】
条件L≦H
Vは、周波数2f
DRIVEで振動する熱出力を生成するために、抵抗ヒータ要素に印加される周波数f
DRIVEの正弦波電気駆動装置に対して生じ、ここで、f
DRIVEは次の条件を満たす。
【数2】
【0075】
片側のみにヒータを備えた反応器の場合、および本発明による典型的な反応体積の場合、高さHV=100μm、水の熱拡散係数DV=1.43×10-7m2/s、およびfDRIVE≧2.3Hzである。
【0076】
両側にヒータを備えた反応器の場合、侵入度Lは、反応体積の高さの半分以下であること、および本発明による典型的な反応体積の場合、高さH
V=100μm、水の熱拡散係数D
V=1.43×10
-7m
2/s、およびf
DRIVE≧9.1Hzであることが好ましい。一般に、両側にヒータを備えた反応器の場合、f
DRIVEは次の条件を満たす。
【数3】
【0077】
また、侵入度Lは、反応体積と接触する薄い外壁の厚さH
W以上であることが望ましい。これは条件
【数4】
を与える。
【0078】
本発明による典型的な反応体積の場合、壁の厚さHW=24μm、ポリプロピレン壁の熱拡散係数DW=8.26×10-8m2/s、およびfDRIVE≦23Hzである。好ましくは、本明細書で言及されるように、「体積」はまた、体積を定義する「容器」または「セル」を意味する場合があり、逆もまた同様である。
【0079】
AC熱量測定法を使用する場合、AC電気駆動装置の周波数の2倍の周波数でヒータ抵抗の変動を測定することが有利である。周波数ωの正弦波電気駆動波形をヒータ要素に供給することで、周波数2ωでそこに温度の揺らぎが発生し、それに応じて2ωで抵抗の揺らぎが発生する。これはさらに3ωでの電圧の揺らぎにつながる。「3-ω」法を使用してAC電気駆動装置の周波数の3倍の周波数での電圧の揺らぎを測定することで、狭帯域検出技術を使用できるようになり、向上した信号対雑音比を提供する。
【0080】
示差熱量測定法を使用する場合、電気抵抗ヒータ要素をホイートストンブリッジ回路内での試料反応および参照反応用に構成することが有利である。このアプローチにより、試料温度と参照温度の差が直接測定されることが可能になり、かつ試料温度と参照温度を個別に検出し、その後2つの比較的大きな分量の間の小さな差を計算することに関連する誤差を回避することが可能になる。
【0081】
ホイートストンブリッジの別の構成では、試料と参照はそれぞれ2つのヒータ要素で加熱され、4つのヒータ要素はフルブリッジ構成で構成されているため、ブリッジ回路の電圧出力は所与の温度差に関して2倍になる。
【0082】
試料ヒータ要素と参照ヒータ要素の抵抗の差により、ブリッジ回路の出力はゼロにならず、試料と参照の加熱が不均一になる可能性がある。試料と参照が同じ温度のときにブリッジ回路の出力がゼロになるようにブリッジ回路の均衡を保ち、また電圧がブリッジ回路の両端に印加されたときに試料と参照が同じ電力入力を受け取るようにブリッジ回路の均衡を保つことも望ましい。電圧と電力の均衡保持の組み合わせは、直列または並列構成の4つのトリム抵抗器で実現することができる。
【0083】
デジタルPCRは、PCR試薬を含む試料を最初にいくつかの別々のパーティション(例えば、液滴または壁で仕切られた領域)内でサブ試料に分割し、その後すべてのサブ試料を温度サイクルにかけてPCR反応の進行を可能にする技術である。
【0084】
この目的は、元の試料中の1つまたは複数のターゲットオリゴヌクレオチドの濃度を、リアルタイムPCRで可能な濃度よりもより精密に、かつ正確に判定することである。リアルタイムPCRは、PCR反応の測定値がしきい値を超えるために必要とされる増幅サイクル数であるCTを求めることによって、DNA濃度を定量化する。DNAの開始濃度はCTに関連しており、濃度が高いほど、CTの値は小さくなる。
【0085】
PCRが正常に進行したサブ試料の数の統計的分析により、試料中のDNA濃度をより正確に、かつより精密に推定することが可能になる。PCRが進行するサブ試料には、1つ以上のターゲットオリゴヌクレオチドが含まれている必要があるのに対して、PCRが進行していないサブ試料には含まれていないと見なされる。統計的方法では、濃度を正確に測定するために多数のサブ試料が必要であり、典型的には1000を超えるサブ試料が使用され、より高い感度が必要なアプリケーションでは10,000を超えるサブ試料が使用される。
【0086】
既存のデジタルPCR技術の重大な欠点は、最初に試料をサブ試料に分割する必要があることにある。この要件により、プロセスに関連する複雑さとハードウェアコストが大幅に増加する。液滴デジタルPCRには、より複雑な反応セルを使用したマイクロ流体液滴の生成、水性試料と非混和性オイルの正確に制御された流れ、およびPCR増幅前の液滴生成のための追加の時間が必要とされる。液滴デジタルPCRの代わりにガスを使用して反応体積を分割する。これには、制御された試料の追加と、それに続く制御されたガスの追加と、ガスを逃がすためのガス透過性の障壁の使用が必要である。
【0087】
本発明は、試料が切り離されたサブ試料に分割されない、壁がなく、液滴のないデジタルPCRシステムおよび方法を提供する。代わりに、PCRは、試料内のいくつかの反応ゾーンの中で進行し(または進行しない)、これらの反応ゾーンは、それらが経験する温度の範囲によってのみ画定される。反応ゾーンの間には物理的な障壁がなく、ある反応ゾーンから別の反応ゾーンへのオリゴヌクレオチドの移動は、溶液中のオリゴヌクレオチドの比較的遅い拡散によってのみ阻止される。試料は、サブ試料の間に固体、非混和性液体、またはガスの障壁がない連続する一連の液体として含まれる。これは、PCRを短いサイクルタイムで実行できることによって可能になり、その結果30~50サイクルのPCR増幅を100~200秒未満で完了することができ、拡散のための時間および拡散が発生し得る距離を制限する。
【0088】
このアプローチの変形形態では、部分的な障壁を導入して、後続の反応の検出と分析を容易にするためにサブ試料の位置を規定する、および隣接するサブ試料の位置の間の拡散速度を低下させ、これによりサブ試料を、より厳密に離間させることを可能にし、かつ所与のサイズの反応器と試料の総量に対するサブ試料の数を増加させてもよい。
【0089】
長さ[bpサイズ]を有する、水中の二本鎖DNA分子の拡散係数DDNAは、次の式(参照:Lukacs,G.L.et al(2000)Size-dependent
DNA mobility in cytoplasm and nucleus.J
Biol Chem.275(3):1625-9)を使用して計算することができる。
DDNA=[bpサイズ]-0.72×4.9×10-6cm2/s
【0090】
PCR増幅の典型的なターゲットを表す、100塩基対のDNA配列の拡散を検討する。100秒のタイムスケールでの拡散長RDは84μmであるため、増幅されたDNAの分離したクラスターは、100秒にわたってほぼこの距離だけ広がることになる。高さHVの反応体積に関するデジタルPCRの試料パーティションの当量VPは、次のように計算することができる。
Vp=πRn
2Hv
【0091】
これにより、100μmの反応体積の高さに対して2.2nlの容量が得られ、デジタルPCRで通常必要とされるように、通常5μlの試料を1000を超えるパーティションに分割することが可能になる。デジタルPCRを使用してDNA濃度を定量化する場合は、試料を多数のパーティションに分割することが望ましく、パーティションの数が多いほど測定の精度が高まり、より広い範囲の濃度を測定できるようになるためである。したがって、100μm程度の小さな反応体積セルの高さと組み合わせた、100s程度の高速増幅により、一般的なPCR試料の量(通常は最大20μl)をデジタルPCRで分析することが可能になる。
【0092】
小さなパーティション体積を可能にすることに加えて、本発明に記載の反応器の平坦な反応体積の形状は、デジタルカメラなどのアレイ検出器を使用するデジタルPCRのための増幅されたDNAの蛍光検出にも便利である。
【0093】
マルチプレックスPCRは、試料を分析して複数の異なるオリゴヌクレオチド配列の存在を検出する技術である。従来のアプローチの1つは、異なる蛍光波長の蛍光標識を使用して異なる種の検出を多重化することであるが、このアプローチは通常、蛍光波長が重複するため、最大約6種の検出までに制限される。代替の従来のアプローチは、試料を、固体、非混和性の液体または気体であり得る障壁によって分割された異なる反応体積に細分することである。このアプローチには、上記のデジタルPCRの場合と同じように、複雑
さが高まり、分析時間が長くなるという欠点がある。
【0094】
図8は、本発明による片面反応器A(左)および両面反応器B(右)を示している。各反応器は、1つまたは複数のヒータおよびヒートシンクを備えた反応セルを備える。ヒータは、ヒートシンクと接触しているヒータ支持体上に発熱ヒータ要素を備える。ヒータ支持体は、より硬く、より剛性の高いヒータ支持層と、より硬く、より剛性のあるヒートシンクとの間の良好な熱接触を実現するために、より柔らかく、より柔軟な熱パッド層を含んでもよい。片面ヒータを備えた反応器である実施形態Aは、単一のヒータおよびヒートシンクと、側壁、薄い外壁およびカバーを備えた反応器とを含む。実施形態Aでは、反応体積は、カバー、側壁、および薄い外壁によって囲まれている。両面ヒータを備えた反応器である実施形態Bは、側壁を取り囲む2つの薄い外壁を備えた反応セルを備える。実施形態Bでは、反応体積は、側壁および薄い外壁によって囲まれている。
【0095】
図9は、本発明による片面反応器A(左)および両面反応器B(右)の側面図を示している。
【0096】
図10は、本発明による熱パッドのない片面反応器A(左)および両面反応器B(右)の側面図を示している。
【0097】
図11は、本発明による反応器の寸法を示しており、反応セルの高さH
V、薄壁の厚さH
W、ヒータ支持体の高さH
H、熱パッドの高さH
P、ヒートシンクの高さH
Sおよび反応セルの幅W
Vを示している。
【0098】
図12は、様々な反応器の幾何学形状の断面図を示す。すべてに、ヒートシンクと接触しているヒータと接触している反応セルが含まれる。平面幾何学形状が(A)に、曲線幾何学形状が(B)に、円筒形の幾何学形状が(C)に示される。すべての場合において、反応体積は、2つのより大きな面積の実質的に平行な壁と、より小さな面積の側壁とによって境界付けられている。大きな面積の壁の少なくとも1つは、ヒータと接触している薄い外壁である。
【0099】
上述したように、反応セルは、平面または湾曲した形態を有することができる。しかしながら、反応セル内で、熱サイクリングが適用される1つまたは複数の反応体積は、いくつかの方法で構築されてもよい。
【0100】
図13は、流体ポートを形成する貫通穴と、反応体積を画定するくぼんだ特徴部と、反応体積を流体ポートに接続する流体チャネルとを備える実質的に平坦な部分を備える、本発明の実施形態で使用される反応セルカバーのカバーを示す。カバーは完全なもの(A)と、断面(B)で示されている。
【0101】
図14は、流体チャネルによって流体ポートに接続された反応体積を備える、本発明の実施形態で使用される反応セルカバーの平面図を示す。反応体積は、細長い、または長方形の形状(A)または実質的に正方形の形状(B)を有する場合がある。
【0102】
図15は、反応セル、ヒータ、およびヒートシンクのアセンブリを含む、本発明による反応器の分解組立図を示す。反応セルは2つの反応体積を含み、各反応体積は、反応体積の縁部を越えて横方向に延びるヒータ要素の上に位置する。ヒータはヒートシンクと熱的に接触する(任意選択で、この図には示されていない熱パッドを介して)。ヒータ要素領域の周囲近くに配置された断熱エアギャップを使用して、ヒータからヒートシンクへの熱流の速度を局所的に低下させ、それにより、ヒータ要素領域の縁部が中心よりも低温になる傾向を抑制し、かつ反応体積内の熱均一性を改善することができる。
【0103】
図16は、本発明の実施形態で使用される反応セルの2つの形式を示しており、(A)複数の試料用の反応セル(8つの試料形式が示される)と、(B)複数の検出位置を有する単一試料用の反応セルである。検出位置は、増幅されたDNAが検出される位置の数が、試料中の標的配列の濃度を計算するのに使用されるデジタルPCRを実施するために使用されてよい。検出位置はまた、例えば異なる検出位置に異なる配列特有のPCRプライマーを提供することによって、複数の異なる標的配列を検出するために、マルチプレックスPCRを実施するために使用されてもよい。
図16(A)および
図16(B)のそれぞれの反応セルは、単一のヒータ要素に関連する単一の反応体積を有してよい。
【0104】
一実施形態では、試料が不連続なサブ試料に分割されない、壁のないマルチプレックスPCRシステムおよび方法が提供される。代わりに、反応器には、異なるオリゴヌクレオチド配列の増幅または検出のための様々な試薬のアレイが事前に装填されており、様々な試薬は異なる位置に存在する。次に試料が反応器に装填され、連続する一連の液体として分析される。標的特有の試薬の間隔は、ある位置から隣接する位置までの距離が、検出反応に必要な時間に対する、通常はオリゴヌクレオチド検出の場合は30~50サイクルのPCRの拡散長よりも大きくなるように選択される。
【0105】
異なる標的配列のPCR増幅の場合、この例では、異なるプライマー対は、例えば一列のプライマー対を、反応セルの大きな面積の壁の1つにある一列の位置に堆積し、続いて乾燥することによって、反応体積の中の異なる位置に事前に装填することができる。プライマー特有の増幅は、各プライマー対の位置で発生することができ、この増幅の結果は、PCR増幅が、反応生成物またはプライマーが、隣接する位置に拡散するのに必要とする時間より短い時間で実行されると仮定するという条件で、隣接する位置でのPCR増幅の結果とは無関係に判定することができる。
【0106】
典型的なプライマーは、約20塩基のオリゴヌクレオチド配列であり、ターゲットDNA配列よりも短く、それに応じてより大きな拡散係数を有する。DNA拡散と同じ式を適用すると、20塩基のプライマーは時間100秒以内で151μm拡散する可能性がある。独立した検出では、多重化検出に関する隣接する位置は、この距離の少なくとも2倍、好ましくはこの距離の少なくとも4~6倍離す必要がある。一例として、高さ100μm、面積50mm2、および隣接する位置の間隔が約1mmの5μlの反応体積を考えることができる。各検出位置は1mm2の領域を占め、多重化のための50の独立した検出位置を提供する。
【0107】
拡散制限チャネルを使用して、反応の継続時間の間、隣接する反応ゾーン間の試薬および反応生成物の拡散を制限することができる。
図17は、本発明による反応器において、時間60秒までの同時のDNA増幅および拡散と、それに続く60秒の時間が経った後のDNA拡散のシミュレーションを示している。シミュレーションの開始時に、中央のセルには1つのDNA分子が含まれており、これは2秒のサイクルタイムでPCRによって増幅される。拡散制限チャネルのある反応セルの場合は実線で示され、拡散制限チャネルのない反応セルの場合は破線で示されている。隣接するゾーンで大きな拡散と増幅が発生し得る前に、1つの反応ゾーンにおいて完全に増幅するには高速増幅が必要である。この例では、拡散制限チャネルのある隣接するセルのDNA濃度は時間60秒でのメインのセルのDNA濃度の約5%であるが、拡散制限チャネルのない場合の隣接するセルのDNA濃度は約35%である。
【0108】
図18は、2つの場合について、時間100秒での本発明を使用する方法におけるDNA濃度のシミュレーションの結果を示しており、Aは拡散制限チャネルのない反応セルであり、Bは拡散制限チャネルによって分離された別々の反応ゾーン(検出位置)を有する
反応セルである。隣接するセルへのDNA拡散は、拡散制限チャネルによって抑制される。どちらの場合も、PCR増幅は60秒の間シミュレートされ(1サイクルあたり2秒間のPCR増幅の30サイクル)、その後さらに40秒間拡散される。
図18(A)および
図18(B)のそれぞれの反応セルは、単一のヒータ要素に関連する単一の反応体積を有してよい。
【0109】
図19は、PCR増幅の開始後の時間100秒の位置と共に、本発明を使用する方法における濃度変動を示す。拡散障壁は、DNAが増幅された位置の近くで高濃度のDNAを維持し、隣接する反応位置では低濃度を維持するのに役立つ。これにより、デジタルPCRまたはマルチプレックスPCRまたはその他の反応を、試薬と試料の流れのための連続的な流体経路を備えた反応器において実行することができるため、反応体積を分離するための液滴やその他の手段は不要になる。
【0110】
図20は、本発明による隣接する反応ゾーン間の拡散を制限するより小さなチャネルによって接続された一列の反応ゾーンを備えた流体セルの2つの異なる設計を示している。反応ゾーンは、異なる位置で異なるDNA配列の多重増幅および検出を実行するために、PCRプライマーなどの異なる試薬を含む場合がある。あるいは、デジタルPCRを実行するために、反応ゾーンにはすべて同じ試薬が含まれる場合もある。拡散制限チャネルは、分離した反応ゾーンを提供するために油中に水滴を生成する必要なしに、反応ゾーンの列を充填させることを可能にし、これにより、反応を単純化し、反応を実行するコストを低下させる。
図20(A)および
図20(B)のそれぞれの流体セルは、単一のヒータ要素に関連する単一の反応体積を有してよい。
【0111】
図21は、拡散制限340によって分離された反応ゾーン330を有する流体セルの詳細を示している。反応ゾーンからの流体経路は再結合して、反応生成物を収集し、反応セルから外に移すことを可能にする。
【0112】
図22は、流体経路を再結合した反応セルの出口の詳細を示している。気泡の形成を回避するために、毛細管破裂圧力が流れ方向に増加して、一連の毛細管流れ制限が流体経路に配置される。
図22(A)において、より大きな半径方向毛細管流れ制限351は、より小さな半径方向毛細管流れ制限352よりも低い破裂圧力を有する。2つのチャネルからの流れが合流すると、隣接するチャネルが充填されるまで1つのチャネルが毛細管の流れの制限のところに固定され、その時点で2つの前進する液体の最前部のメニスカスが接触し、気泡が発生することなく流れが再結合する。
図22(B)では、液体の流れは、より小さな毛細管半径方向流れ制限地点352で停止され、その一方で、液体は、より大きな毛細管半径方向流れ制限地点351を通過して流れる。前進するメニスカスが各制限地点352に到達すると、液体の流れが再結合する。
【0113】
図23は、反応体積220が幅W
V、長さL
Vおよび高さH
Vを有する反応セルの別の実施形態を示す。この例では、支持されていない大きなスパンを有する幅広の流体チャネルを回避することにより、セルの構造がより堅牢になる。反応体積220は、ヒータ要素500と位置合わせを正しくして位置決めされ、ヒータ要素500によって加熱されるように構成され、また反応体積領域W
V×L
V全体に試料を分配する高さH
Vを有する蛇行流体チャネル270から構築される。寸法は、例えば、W
V=2.5mm、L
V=16mm、およびH
V=0.1mmであり得る。このような形態を有する反応体積を含む反応セルは、流体経路が容易に制御され、気泡を洗い流すことができ、また部品は、薄い外壁230を流体セルに取り付けるためのエンボス加工および積層プロセスを使用して製造することができるなどのいくつかの利点を提供する。PCR増幅を行うために、試料を反応体積に導入し、液体の動きを停止させ、正圧をかけ、次いで反応体積を熱サイクルさせる。PCRプライマーは、蛇行チャネルに沿った線形アレイとして提供されてよい。プライマ
ーは、それらの溶解性を考慮して選択されてよく、その結果、プライマーは、チャネルに沿って実質的に固定された状態のままである。
【0114】
図24は、蛇行した流体チャネルを備えた別の実施形態を示す。この実施形態では、4つの反応体積220は、蛇行した流体チャネル270を介して単一の試料から充填され、ヒータ要素500によって熱サイクルされるように構成されている。各反応体積の幅はW
V、長さはL
Vである。この実施形態では、寸法は、例えば、W
V=2.0mm、L
V=3.6mm、およびH
V=0.1mmであってよい。
【0115】
図25は、要素全体の温度均一性を高めるために、ヒータ要素の縁部近くで加熱を増大させるために、中程度のシート抵抗のゾーン、低いシート抵抗のゾーン、および高いシート抵抗のゾーンを有する本発明の実施形態で使用される導電性ヒータ要素を示す。ヒータ要素は、電気絶縁支持体上に支持された薄膜導体から形成される。ヒータ要素のシート抵抗は、導電性薄膜に穴を形成することによって局所的に増加され、穴の面積の割合が大きいほど、シート抵抗を大きく増加させる。電流が電気端子の間を流れることで、上および下の高い抵抗のゾーンでシート抵抗が増加することにより、より高い加熱電力密度をもたらし、左と右のより低い抵抗のゾーンで電流密度が増加することにより、より高い加熱電力密度をもたらす。ヒータはまた、通常不透明である導電層に穴を形成することによって部分的に透明にされる。部分的に透明なヒータ要素は、反応の光学的モニタリング、特に増幅されたDNAの蛍光検出を可能にするのに役立つ。
【0116】
図26は、本発明の実施形態で使用されるヒータ要素におけるエッジ効果補償に対する代替のアプローチを示している。ガードヒータがメインヒータの1つまたは複数の縁部に設けられ、ガードヒータはガードヒータと同じ温度設定値まで電気的に駆動される。メインヒータはまた、端部近くで増大した加熱をもたらし、これによりエッジ効果を抑えるために、より高い電気抵抗を有する端部ヒータゾーンも有する。メインヒータには4端子ケルビン接続が備わっているため、その抵抗を正確に測定し、ヒータ要素の温度を計算するのに使用することができる。結果として得られる温度測定値は、ヒータの駆動力および熱サイクリングの動作を制御するために使用される。
【0117】
図27は、縁部の2つの近くにガードヒータが配置されたメインヒータを備える、本発明の実施形態で使用されるヒータ要素を示す。この場合、メインヒータは細長く、ガードヒータは長辺の近くに配置されている。メインヒータには低い抵抗の中央ゾーンと、高い抵抗の端部ゾーンとがあり、ヒータの長方向に流れる電流によって高い抵抗の端部ゾーンの熱出力が増加し、この増加した熱出力がエッジ効果を補償し、ヒータの温度均一性を高めることになる。細長いヒータ要素の利点は、製造するのに便利であり、かつ気泡を閉じ込めることなく充填するのに便利な細長い反応体積の形状に一致することである。メインヒータの穿孔はヒータを部分的に透明にする。
【0118】
図28は、本発明の実施形態で使用される2つの反応体積のためのヒータの設計を示す。ヒータは、メインヒータ要素の長辺に隣接する3つのガードヒータ要素を備えた2つの細長いメインヒータ要素を含む。メインヒータの端部ゾーンは、薄膜導体(B)における穴の面積分率を増やすことによって作製されるより高いシート抵抗を有し、その一方でメインヒータの中央ゾーンは、薄膜導体(A)における穴の面積分率を減少させることによって作製されるより低いシート抵抗を有する。メインヒータにはケルビン接点が備わっていることで、ヒータ抵抗を正確に測定することができる。温度によるヒータ抵抗の変化は、ヒータ温度をモニタし、制御するために使用される。ガードヒータには個別の電気接点が設けられて、独立した電気駆動と制御を可能にする。外側のガードヒータは、内側のガードヒータよりも抵抗が低くなるように設計されてよく、その結果、すべてのガードヒータが同じ電圧で駆動された場合、外側のガードヒータがより多くの熱を生成し、これは、
より大きな熱出力がヒータの縁部でのより大きな熱損失を補償するため、温度均一性を向上させる。
【0119】
図29は、抵抗を変化させるためにパターン化された電極を備えた、本発明の実施形態で使用されるヒータを示す。ヒータ(A)は2つのメインヒータを有し、これらは、その短い端部の近くにより高い抵抗の領域を有し、中央により低い抵抗の領域を有する。抵抗は、可変の導体幾何学形状を提供するギャップ領域の幾何学形状によって調整することができる。(B)は、より高い抵抗の領域と、より低い抵抗の領域の一例を示す。細長いギャップが、ヒータ要素のシート抵抗を増加させるために、電流の方向に対して垂直に配向される。アスペクト比が大きいギャップほど抵抗の高い端部ゾーンを提供し、アスペクト比が小さいギャップほど抵抗の低い中心ゾーンを提供する。メインヒータの設計は、並列の電気伝導経路を設けることによって、単一の軌道の破損に対して堅牢である。ガードヒータはメインヒータの長辺近くに配置される。同じ駆動電圧で駆動したときにより大きな熱出力を提供するために、外側のガードヒータ(C)は内側のガードヒータ(D)よりも低い抵抗を有する。
【0120】
ヒータ要素は、反応体積の厚さHVよりも小さい直径を有する任意の穴と実質的に連続しており、または加熱要素内に細長いギャップがある場合、ギャップ幅は反応体積の厚さHVよりも小さくなることが理解されよう。
【0121】
図30は、加熱および温度感知のために低い抵抗の相互嵌合型電極と、高い抵抗の領域との組み合わせを使用する、本発明の実施形態で使用されるヒータ要素を示す。高い抵抗の領域は、対象の温度範囲で大きな抵抗温度係数(TCR)を有する酸化バナジウムなどの金属酸化物材料を使用して製造することができ、低い抵抗の交互嵌合型電極は、高い抵抗の加熱および検知領域よりもシート抵抗が低い金、アルミニウム、または銅などの金属の薄膜を使用して製造することができる。
【0122】
図31は、部分的に透明なヒータ要素と組み合わせて使用される場合に、反応の光学的モニタリングを可能にするために穴が開けられた本発明の実施形態で使用されるヒートシンクを示す。穴の直径およびピッチは、反応セルの温度均一性を乱さないように十分に小さくなるように選択される。典型的な例では、厚さ2mmのアルミニウムのヒートシンクブロックに2mmのピッチで直径1mmの穴を使用する。この構成により、反応器の両側にヒータとヒートシンクがある場合でも、反応を光学的にモニタリングすることが可能である。
【0123】
図32は、本発明による、熱抵抗を介してヒートシンクに接続されたヒータの経時的な温度変動(A)を示している。ヒータは、上限設定温度に達するまで(時間=0.26秒)10Wの固定電力で駆動され、下限設定温度に達するまで(時間=0.59秒)ヒータ電力はゼロに減少される。所与のヒータ電力とヒータ形状に関して、(B)に示すように、熱サイクリング時間を最小化する熱抵抗が存在する。10Wヒータの場合、最適な熱抵抗は約10K/Wである。ヒータの出力が高いほど、熱サイクリング時間を最小限に抑えるために必要な熱抵抗は低くなり、ヒータの出力が低いほど、熱サイクリング時間を最小限に抑えるために必要な熱抵抗は高くなる。例えば、5Wヒータには20K/Wの熱抵抗が必要であり、20Wヒータには5K/Wが必要である。
【0124】
図33は、本発明による例示的な反応器における0.4秒、0.8秒、および1.6秒の熱サイクリング時間に対するヒータ出力および熱抵抗の変動を示している。一定の熱サイクリング時間に対して、必要とされるヒータ出力を最小限に抑える最適な熱抵抗が存在する。
【0125】
図34は、90℃と60℃の間で駆動される、本発明の実施形態で使用されるヒータの経時的な温度変動を示している。熱サイクリング時間は2秒である。実線は温度設定値を示し、点線は温度測定値を示す。
【0126】
図35は、本発明の実施形態の反応器を使用して得られるDNA融解曲線データを示す。二本鎖DNAの存在は、挿入色素SYBR-GREENを使用して示され、これは、温度がDNAの融解温度、この場合は83℃前後を超えると、蛍光の急激な減少を示す。温度による蛍光の変動がAに示され、勾配-dF/dTがBに示される。
【0127】
図36は、本発明の実施形態の反応器を使用する、熱サイクル後のPCR増幅のDNA増幅曲線データを示す。上のグラフは、時間に対する挿入色素の蛍光を示しており、約120秒でバックグラウンドレベルを超えるDNA濃度の成長を示している。下のグラフは、時間に対する温度を示す。最初のホットスタートを使用してポリメラーゼ酵素を活性化し、その後、95℃の高温と60℃の低温で5秒の熱サイクリング時間が使用される。
【0128】
図37は、本発明の一実施形態において、DNA融解の熱量測定検出を実行するために使用される試料セルと参照セルとの温度差を示す。試料セルには1μMのDNA濃度が含まれており、参照セルにはDNAが含まれていない。DNA融解による熱容量の増加は、試料セルと参照セルが等しい電力で駆動されるときに温度の低下を引き起こす。直流駆動はAに示され、交流駆動はBに示される。交流駆動は、DNAが融解遷移を行っているときに、駆動周波数の2倍の温度振動を提供する。交流駆動によって生成された信号の電気的検出は、直流駆動よりも検出し易い場合がある。交流駆動の周波数は、反応器の高さを通る熱拡散の時間にほぼ等しい加熱期間を与えるように選択される。加熱期間は、正弦波駆動のサイクルタイムの1/4に等しくなる。
【0129】
図38は、20秒のホットスタート期間と、それに続く5秒の熱サイクルを30回繰り返す、本発明を使用する方法におけるPCR増幅スキームの温度プロファイルを示す。示差走査熱量測定は、次のように、すなわちベースラインの示差温度走査(温度に対する試料セルと参照セルの温度差を記録する)がホットスタート期間の温度上昇中に測定されるように、増幅されたDNAを検出するために使用される。エンドポイント温度走査は、最後のPCRサイクルの温度上昇中に行われる。ベースライン走査とエンドポイント走査の差は、DNAの融解の熱に比例する。
【0130】
図39は、DNA融解の熱量測定検出のための本発明によるブリッジ回路を示す。試料セルは抵抗器R1とR4によって加熱され、参照セルは抵抗器R2とR3によって加熱される。DNA溶融の場合、試料セルはより低い温度を有することになり、R1とR4の抵抗値は低下され、増幅器X1の正(非反転)入力でより高い電圧が生成され、増幅器X1の負(反転)入力でより低い電圧が生成される。これにより、X1から正の出力が得られる。この場合、直流駆動V1が示されているが、交流駆動を使用することもできる。正弦波交流駆動の場合、周波数選択検出方式を使用して、駆動周波数の2倍の信号のみを検出することができる。方形波駆動(パルス+Vまたは0V)の場合、周波数選択検出を使用して、駆動周波数と同じ周波数の信号を検出することができる。小さな温度差から測定可能な信号電圧を生成するために、ヒータ抵抗器は大きな温度係数の抵抗を有することが望ましい。別のアプローチでは、試料セルと参照セルとの間に接続された熱電対が、セル間の温度差に比例した信号電圧を生成する。
【0131】
図40は、追加の直列抵抗器R5、R6、R7、およびR8を使用して、ブリッジ回路の差動電圧出力を最小化し、かつR1およびR4を備える試料ヒータの電力出力と、R2およびR3を備える参照ヒータとの差を最小化する、本発明による平衡回路を示す。R5、R6、R7、およびR8の値は、製造時に設定することも、検出前に調整することもで
きる。X1を飽和させることなく、高い増幅ゲインと高感度の検出を可能にするために、ブリッジ回路の電圧の不均衡を最小限に抑えることが望ましい。両方のセルが同時にDNA融解温度に到達し、2つのセル間のDNA濃度の差に比例する信号を提供することを保証するために、試料セルと参照セルに対する電力の入力は等しいことが望ましい。
【0132】
図41は、ブリッジ回路の差動電圧出力を最小化し、かつ試料ヒータと参照ヒータの電力出力の差を最小化するために、本発明で使用され得る追加の並列抵抗器R5、R6、R7、およびR8を示す。
【0133】
当業者によって理解されるように、本発明を達成するために記載される他の例のいずれかと組み合わせて使用することができる、本発明によるいくつかの例示的な反応器、ヒータ、および回路構造を説明する。
【0134】
アプリケーションの主題には、さらに次の番号付きの条項が含まれる。
【0135】
1.その中に所定の反応を受け入れるための可変温度反応器であって、
反応セル、ヒータ、およびヒートシンクを備え、
反応セルは、厚さHVおよび幅WVを有する反応体積を有し、ここで、WV>4HVであり、反応体積のより大きな面積の面の1つが、厚さHWを有する外壁によって境界付けられている面によって画定されており、
ヒータは前記外壁と接触しており、
ヒータは、反応体積により近い面に配置された発熱ヒータ要素と、反対側の面にあるヒータ支持体とを備え、ヒータ支持体はヒートシンクと接触しており、そのため、ヒータ支持体はヒータ要素とヒートシンクとの間に熱抵抗RTを提供し、
反応器は、熱拡散係数DVを有する試薬で充填される場合、厚さ方向に拡散時間tVを有し、tV=HV
2/DVであり、tVは反応時定数tRよりも小さく、
外壁は熱拡散係数DWを有し、熱拡散時間tW=HW
2/DW<tVを有する、可変温度反応器。
【0136】
2.ヒータ要素は、ヒータとしても温度センサとしても機能する、条項1の反応器。
【0137】
3.コントローラをさらに備え、ヒータはコントローラに接続され、コントローラによって制御されて、反応器の温度をより高い温度THighとより低い温度TLowの間で変化させ、温度は両方ともヒートシンクの温度TSinkを超えている、条項1または条項2の反応器。
【0138】
4.反応体積の厚さHVは250ミクロン未満である、条項1から3のいずれか一項の反応器。
【0139】
5.反応セルは、幅WVおよび長さLVを有する領域内に位置する蛇行チャネルによって形成される幅WVおよび長さLVを有する反応体積を含む、条項1から4のいずれか一項の反応器。
【0140】
6.反応体積は、ヒータが前記外壁の両方と接触し、かつヒートシンクが両方のヒータと接触している状態で、その大きな面積の面の両方で、厚さHWを有する外壁によって境界付けられる、条項1から5のいずれか一項の反応器。
【0141】
7.ヒータ要素は抵抗性の加熱要素である、条項1から6のいずれか一項の反応器。
【0142】
8.ヒータ要素は導電性材料から製造され、ヒータ支持体は電気絶縁材料から製造され
る、条項1から7のいずれか一項の反応器。
【0143】
9.ヒータ支持体は、より硬く、より剛性のあるヒートシンク層と接触している、より柔らかく、より柔軟な層から形成される、条項1から8のいずれか一項の反応器。
【0144】
10.ヒータ支持体は、より柔らかく、より柔軟な層と接触している、より硬く、より剛性の層からさらに形成され、この場合、より柔らかく、より柔軟な層はヒートシンク層と接触している、条項9の反応器。
【0145】
11.反応セルはヒータから分離可能である、条項1から10のいずれか一項の反応器。
【0146】
12.ヒータはヒートシンクから分離可能である、条項1から11のいずれか一項の反応器。
【0147】
13.ヒートシンクが強制空冷または循環液体冷却または噴霧冷却またはヒートパイプ、あるいはペルチェ素子またはヒートポンプによる能動冷却によって冷却される、条項1から12のいずれか一項の反応器。
【0148】
14.反応セルは、流体の入口ポートおよび出口ポートを反応体積に接続する入口チャネルおよび出口チャネルを有する、条項1から13のいずれか一項の反応器。
【0149】
15.反応セルは不活性ポリマーである液体接触材料を含む、条項1から14のいずれか一項の反応器。
【0150】
16.ヒータ要素とヒートシンクとの間の熱抵抗RTが以下の関係を満たすように選択され、
RT>(THIGH-TSink)/pHeatおよび
0.5RT,Opt<RT<2RT,Opt
ここで、RT,Opt=(THIGH+TLOW-2TSink)/pHeat、
反応器は、出力pHeatを備えたヒータおよび温度TSinkでのヒートシンクを使用して、より低い温度TLOWとより高い温度THIGHとの間を繰り返し循環するように構成されている、条項1から15のいずれか一項の反応器。
【0151】
17.ヒータ支持体の熱抵抗RT、および充填された反応体積の熱容量と、反応体積とヒータ要素との間に位置する薄い外壁の部分の熱容量の合計CVが、RTCV<tRの関係を満たし、ここで、tRは反応時定数であるように構成されている、条項1から16のいずれか一項の反応器。
【0152】
18.充填された反応体積の熱容量と、反応体積とヒータ要素との間に位置する薄い外壁の部分の熱容量の合計CVと、ヒートシンクの熱容量CSが、CS/CV>100の関係を満たすように構成されている、条項1から17のいずれか一項の反応器。
【0153】
19.ヒートシンク材料の熱伝導率は、ヒータ支持体材料の熱伝導率の10倍を超える、条項1から18のいずれか一項の反応器。
【0154】
20.反応体積とヒートシンクとの間に位置する薄い外壁の部分およびヒータの熱容量は、反応体積の中の液体の熱容量よりも低い、条項1から19のいずれか一項の反応器。
【0155】
21.ヒートシンク材料の熱浸透率は、ヒータ支持体材料の熱浸透率の10倍を超え、
ここで、熱浸透率eは、材料の熱伝導率k、密度ρ、および比熱容量cpの関数であり、e=sqrt(kρcp)として定義される、条項1から20のいずれか一項の反応器。
【0156】
22.ヒータ要素は反応体積の全領域にわたって延びる、条項1から21のいずれか一項の反応器。
【0157】
23.ヒータ要素は抵抗性であり、長方形または正方形の形状を有する、条項1から22のいずれか一項の反応器。
【0158】
24.ヒータ要素は、ヒータの動作温度範囲にわたって500ppm/Kを超える抵抗温度係数の絶対値を有する導電性材料から製造される、条項1から23のいずれか一項の反応器。
【0159】
25.ヒータ要素は、ヒータの動作温度範囲にわたって2,500ppm/Kを超える抵抗温度係数の絶対値を有する導電性材料から製造される、条項1から24のいずれか一項の反応器。
【0160】
26.ヒータ要素は、ヒータの動作温度範囲にわたって10,00ppm/Kを超える抵抗温度係数の絶対値を有する導電性材料から製造される、条項1から25のいずれか一項の反応器。
【0161】
27.ヒータ要素は、導電性材料を蒸発させる、またはスパッタリングする、または印刷する、または積層する、またはリソグラフィーでパターン化する、またはレーザーパターン化することによって製造される、条項1から26のいずれか一項のヒータ。
【0162】
28.ヒータ要素は正のTCRを有する導電性材料から製造され、Pt、Ti、Al、Mo、Ni、Cu、Auのうちの1つを含み得る、条項1から27のいずれか一項の反応器。
【0163】
29.抵抗性加熱要素は、酸化バナジウムなどの、温度が上昇するにつれて電気絶縁性から導電性に遷移する金属酸化物などの負のTCRを有する材料から製造される、条項1から28のいずれか一項の反応器。
【0164】
30.電気接点がヒータ要素の向かい合う角に設けられ、電流は、電気接点の角におけるより広い幅から、電気接点縁部の遠位側におけるより狭い幅まで縮小する、先細になった幅を有する電気を伝導する軌道によって、ヒータ要素の向かい合う縁部に沿って分配される、条項1から29のいずれか一項の反応器。
【0165】
31.ヒータは電気抵抗測定用のケルビン接点を含む、条項1から30のいずれか一項の反応器。
【0166】
32.ヒータ要素は、その中心近くよりもその周囲近くで単位面積あたりの熱出力が高くなるように構成されている、条項1から31のいずれか一項の反応器。
【0167】
33.ヒータ要素は、2つの向かい合う縁部に沿って電気接点を有する正方形または長方形の形状を有し、電気接点の縁部により高いシート抵抗領域を備え、他の2つの縁部により低いシート抵抗領域を備える、条項32の反応器。
【0168】
34.ヒータ要素は、1つまたは複数のガードヒータに囲まれたメインヒータを備える、条項1から33のいずれか一項の反応器。
【0169】
35.ガードヒータの温度をメインヒータと同じ温度設定値に制御する手段を備える、条項34の反応器。
【0170】
36.ガードヒータはメインヒータよりもシート抵抗が低い、条項34または35の反応器。
【0171】
37.メインヒータは電流の流れの方向に細長く、ガードヒータがメインヒータの長辺に隣接して配置されている、条項34から36のいずれか一項の反応器。
【0172】
38.ヒータ要素のシート抵抗は、電流の流れの方向に垂直なヒータ要素の縁部に位置する端部ゾーンで局所的に増加する、条項1から37のいずれか一項の反応器。
【0173】
39.ヒータ要素のシート抵抗は、電流の流れの方向に平行なヒータ要素の縁部に位置する側部ゾーンで局所的に減少する、条項1から38のいずれか一項の反応器。
【0174】
40.ヒータ要素内の増加したシート抵抗は、例えば、穴またはスロットのアレイによって穿孔された導電性材料の層を形成することによって、導電性材料の部分的な被覆によって提供される、条項38の反応器。
【0175】
41.ヒータ支持体またはヒートシンクは、ヒータ要素の周囲近くおよびヒータ要素とヒートシンクとの間に位置する断熱層を備える、条項1から40のいずれか一項の反応器。
【0176】
42.反応体積は、使用中、核酸配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅に使用される試薬を含むように構成されている、条項1から41のいずれか一項の反応器。
【0177】
43.ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)熱サイクリングによるDNA増幅を実施するように構成されている、条項1から41のいずれか一項の反応器。
【0178】
44.反応器は、多段階反応における異なる反応段階に対して異なる温度設定値で温度を制御するように構成されたコントローラを備える、条項1から43のいずれか一項の反応器。
【0179】
45.反応器はDNA配列のための多段階反応を実行するように構成されている、条項44の反応器。
【0180】
46.ヒートシンクは、反応体積の光学的検査を可能にするための穴を備える、条項1から45のいずれか一項の反応器。
【0181】
47.反応体積における反応の結果が、蛍光または比色またはUV吸収または電気化学または熱量測定または電気泳動またはオリゴヌクレオチド感知を使用して検出されるように構成されている、条項1から46のいずれか一項の反応器。
【0182】
48.複数の熱サイクルにわたる反応測定の進展をモニタリングすることによって反応出力が検出されるように構成されている、条項1から47のいずれか一項の反応器。
【0183】
49.反応センサが反応体積の外壁内に配置されているか、または反応体積の外壁と接触している、条項1から48のいずれか一項の反応器。
【0184】
50.反応器内の試料の熱容量の変化を測定するための測定構成要素を備えることにより、反応の結果の熱量測定検出用に構成されている、条項1から49のいずれか一項の反応器。
【0185】
51.反応器は、試料反応および参照反応を使用するように構成されていることにより、DTAまたはDSC用に構成されている、条項1から50のいずれか一項の反応器。
【0186】
52.異なる時間に測定された第2の温度走査から第1の温度走査を差し引くための手段を備えることにより、ベースライン補正を伴うDTAまたはDSC用に構成されている、条項1から50のいずれか一項の反応器。
【0187】
53.反応の結果を標識なしで検出するように構成されている、条項1から52のいずれか一項の反応器。
【0188】
54.試料反応体積および参照反応体積を加熱しながら測定が行われるように構成されている、条項51の反応器。
【0189】
55.DNAまたはRNAである反応生成物を取り扱うように構成され、かつ反応生成物の融解が熱量測定で検出されるように構成されている、条項1から54のいずれか一項の反応器。
【0190】
56.最初のDTAまたはDSC測定は、DNAのPCR増幅のための熱サイクリングに先行するホットスタート段階のために試料および参照の温度を上昇させる間に実行され、2番目のDTAまたはDSC測定は、DNAのPCR増幅のための熱サイクリングに続いて実行されるように構成されている、条項51または54の反応器。
【0191】
57.少なくとも1つの反応体積は試料材料を含み、少なくとも1つの反応体積は使用中の参照材料を含む、条項1から56のいずれか一項の複数の反応器。
【0192】
58.ヒータ要素は、ヒータにパルス式または振動性の熱出力を提供するように構成された駆動装置を有する、条項1から57のいずれか一項の反応器。
【0193】
59.高さH
Vを有する反応体積と、熱拡散係数D
Vを有する内容物と、厚さH
Wおよび熱拡散係数D
Wを有する薄い反応チャンバ壁とが、片側のみがヒータによって加熱されるように構成されており、ここでヒータ駆動装置の周波数は、関係式
【数5】
を満たす、条項1から58のいずれか一項の反応器。
【0194】
60.高さH
Vを有する反応体積と、熱拡散係数D
Vを有する内容物と、厚さH
Wおよび熱拡散係数D
Wを有する薄い反応チャンバ壁とが、両側がヒータによって加熱されるように構成されており、ヒータ駆動装置の周波数は、関係式
【数6】
を満たす、条項1から59のいずれか一項の反応器。
【0195】
61.駆動周波数で正弦波形で駆動される抵抗ヒータ要素をさらに備え、駆動周波数の2倍の周波数でヒータ要素抵抗の変動を測定することによって、または駆動周波数の3倍でのヒータ電圧または電流の変動を測定することによって、ヒータ要素の温度を測定するための手段を備える、条項1から60のいずれか一項の反応器。
【0196】
62.試料と参照の温度差が、ブリッジ回路内に配置された試料抵抗ヒータ、参照抵抗ヒータおよび2つの固定抵抗器を使用して感知される、条項1から61のいずれか一項の反応器。
【0197】
63.試料と参照の温度差は、ブリッジ回路内に配置された2つの試料抵抗ヒータと、2つの参照抵抗ヒータとを使用して感知され、ブリッジ回路の各側に、試料容器と参照容器のそれぞれからの1つの抵抗ヒータが含まれる、条項1から61のいずれか一項の反応器。
【0198】
64.トリム抵抗器を使用して、ブリッジ回路の出力電圧と、試料容器および参照容器に印加されるヒータ出力を同時に均衡させる、条項62または63の反応器。
【0199】
65.ヒータ要素は、反応体積の光学的検査を可能にするための穴を備える、条項1から64のいずれか一項の反応器。
【0200】
66.ヒータ要素は、光の透過、および反応の光学的モニタリングを可能にする穴またはスロットまたはギャップまたは蛇行経路で形成される、条項1から65のいずれか一項の反応器。
【0201】
67.ヒータ要素は、ITOまたはグラフェンまたはナノワイヤ材料などの透明な導電性材料から形成される、条項1から66のいずれか一項の反応器。
【0202】
68.反応体積は、複数の空間的に隔てられたゾーンを含み、異なる試薬が反応体積の異なるゾーンに配置され、ゾーン間隔は、反応時定数tRの時間スケールでの反応生成物の質量拡散長と試薬の質量拡散長の大きい方よりも大きく、異なる反応が、各反応ゾーンの中で独立してモニタされる、条項1から67のいずれか一項の反応器。
【0203】
69.サイクルタイムtCで反応体積をN回熱サイクルするための手段をさらに備え、試薬ピッチは、NにtCを掛けたものに等しい拡散時間での反応生成物および試薬の質量拡散長よりも大きい、条項68の反応器。
【0204】
70.使用中の反応体積の各ゾーンに同じ試薬が配置されている場合、各ゾーン内の反応生成物の有無を検出するために各ゾーンを独立してモニタする手段が設けられる、条項68または69の反応器。
【0205】
71.使用中の分析物の濃度を計算するために、反応生成物を含むゾーンと、反応生成物を含まないゾーンの数の統計を処理するためのプロセッサをさらに備える、条項68から70のいずれか一項の反応器。
【0206】
72.反応体積内に少なくとも100の反応ゾーンがある場合、または反応体積内に少なくとも1,000の反応ゾーンがある場合、または反応体積内に少なくとも10,000の反応ゾーンがある場合の、条項68から71のいずれか一項の反応器。
【0207】
73.反応体積が、反応ゾーンの断面積の0.25未満の断面積を有する拡散制限チャネルによって接続された反応ゾーンに分割され、ここで拡散制限チャネルは、反応ゾーンの幅の0.25を超える長さを有する、条項68から72のいずれか一項の反応器。
【0208】
74.加熱要素を備え、加熱要素は、ヒータとしても温度センサとしても機能する、可変温度反応器用のヒータ。
【0209】
75.ヒータ要素は抵抗性であり、長方形または正方形の形状を有する、条項74のヒータ。
【0210】
76.ヒータ要素は、ヒータの動作温度範囲にわたって500ppm/Kを超える抵抗温度係数の絶対値を有する導電性材料から製造される、条項74または75のヒータ。
【0211】
77.ヒータ要素は、ヒータの動作温度範囲にわたって2,500ppm/Kを超える抵抗温度係数の絶対値を有する導電性材料から製造される、条項74から76のいずれか一項のヒータ。
【0212】
78.ヒータ要素は、ヒータの動作温度範囲にわたって10,00ppm/Kを超える抵抗温度係数の絶対値を有する導電性材料から製造される、条項74から77のいずれか一項のヒータ。
【0213】
79.ヒータ要素は、導電性材料を蒸発させる、またはスパッタリングする、または印刷する、または積層する、またはリソグラフィーでパターン化する、またはレーザーパターン化することによって製造される、条項74から78のいずれか一項のヒータ。
【0214】
80.ヒータ要素は正のTCRを有する導電性材料から製造され、Pt、Ti、Al、Mo、Ni、Cu、Auのうちの1つを含み得る、条項74から79のいずれか一項のヒータ。
【0215】
81.抵抗性加熱要素は、酸化バナジウムなどの、温度が上昇するにつれて電気絶縁性から導電性に遷移する金属酸化物などの負のTCRを有する材料から製造される、条項74から80のいずれか一項のヒータ。
【0216】
82.電気接点がヒータ要素の対向する角に設けられ、電流は、電気接点の角におけるより広い幅から、電気接点縁部の遠位側におけるより狭い幅まで縮小する、先細になった幅を有する電気を伝導する軌道によって、ヒータ要素の向かい合う縁部に沿って分配される、条項74から81のいずれか一項のヒータ。
【0217】
83.ヒータは電気抵抗測定用のケルビン接点を含む、条項74から82のいずれか一項のヒータ。
【0218】
84.ヒータ要素は、その中心近くよりもその周囲近くで単位面積あたりの熱出力が高くなるように構成されている、条項74から83のいずれか一項のヒータ。
【0219】
85.ヒータ要素は、2つの向かい合う縁部に沿って電気接点を有する正方形または長方形の形状を有し、電気接点の縁部により高いシート抵抗領域を備え、他の2つの縁部により低いシート抵抗領域を備える、条項84のヒータ。
【0220】
86.ヒータ要素は、1つまたは複数のガードヒータに囲まれたメインヒータを備える、条項74から85のいずれか一項のヒータ。
【0221】
87.ガードヒータの温度をメインヒータと同じ温度設定値に制御する手段を備える、条項86のヒータ。
【0222】
88.ガードヒータはメインヒータよりもシート抵抗が低い、条項86または87のヒータ。
【0223】
89.メインヒータは電流の流れの方向に細長く、ガードヒータがメインヒータの長辺に隣接して配置されている、条項86から88のいずれか一項のヒータ。
【0224】
90.ヒータ要素のシート抵抗は、電流の流れの方向に垂直なヒータ要素の縁部に位置する端部ゾーンで局所的に増加する、条項74から89のいずれか一項のヒータ。
【0225】
91.ヒータ要素のシート抵抗は、電流の流れの方向に平行なヒータ要素の縁部に位置する側部ゾーンで局所的に減少する、条項74から90のいずれか一項のヒータ。
【0226】
92.ヒータ要素内の増加したシート抵抗は、例えば、穴またはスロットのアレイによって穿孔された導電性材料の層を形成することによって、導電性材料の部分的な被覆によって提供される、条項91のヒータ。
【0227】
93.試料抵抗ヒータおよび参照抵抗ヒータに電力を供給するための手段と、ブリッジ回路内に配置された試料抵抗ヒータ、参照抵抗ヒータ、および2つの固定抵抗器をモニタすることによって、試料と参照の温度差を感知するための手段とを備える、可変温度反応器のための駆動および感知回路。
【0228】
94.ブリッジ回路内に配置された2つの試料抵抗ヒータ、および2つの参照抵抗ヒータに電力を供給する手段と、2つの試料抵抗ヒータ、および2つの参照抵抗ヒータをモニタすることによって、試料と参照との温度差を測定する手段とを備え、ブリッジ回路の各側は、使用時に試料容器と参照容器のそれぞれからの1つの抵抗ヒータが含まれるように構成される、可変温度反応器用の駆動および感知回路。
【0229】
95.ブリッジ回路の出力電圧と、試料容器および参照容器に印加されるヒータ出力を同時に均衡させるためのトリム抵抗器をさらに備える、条項93または94の回路。
【0230】
96.可変温度反応からの測定値を提供するために、条項1から95のいずれか一項の反応器、ヒータ、および回路を動作させる方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その中に所定の反応を受け入れるための可変温度反応器であって、
反応セル、ヒータ、およびヒートシンクを備え、
前記反応セルは、厚さHVおよび幅WVを有する反応体積を有し、ここで、WV>4HVであり、前記反応体積のより大きな面積の面の1つが、厚さHWを有する外壁によって境界付けられている面によって画定されており、
前記ヒータは前記外壁と接触しており、
前記ヒータは、前記反応体積により近い面に配置された発熱ヒータ要素と、反対側の面にあるヒータ支持体とを備え、前記ヒータ支持体はヒートシンクと接触しており、そのため、前記ヒータ支持体は前記ヒータ要素と前記ヒートシンクとの間に熱抵抗RTを提供し、
前記反応器は、熱拡散係数DVを有する試薬で充填される場合、厚さ方向に拡散時間tVを有し、tV=HV
2/DVであり、tVは反応時定数tRよりも小さく、
前記外壁は熱拡散係数DWを有し、熱拡散時間tW=HW
2/DW<tVを有する、可変温度反応器。