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特開2024-45287飲料用のカカオ粉末およびこれを調製するための方法
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  • 特開-飲料用のカカオ粉末およびこれを調製するための方法 図1
  • 特開-飲料用のカカオ粉末およびこれを調製するための方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045287
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】飲料用のカカオ粉末およびこれを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/56 20060101AFI20240326BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240326BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240326BHJP
   A23L 2/39 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A23G1/56
A23L2/38 C
A23L2/00 Z
A23L2/00 Q
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008208
(22)【出願日】2024-01-23
(62)【分割の表示】P 2021571892の分割
【原出願日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】19178100.4
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518006983
【氏名又は名称】オーデーツェー リツェンツ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】ヒューン,ティロ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた豊かな味、好ましい官能特性、および高い含有量の栄養的に有益な成分を有するカカオベースまたはチョコレートベースの飲料の調製方法を提供する。
【解決手段】カカオ飲料を製造するための方法であって、a)カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、b)懸濁液を湿式粉砕する工程と、c)懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、d)懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、e)少なくともカカオ粉末を固相から分離する工程と、f)分離されたカカオ粉末を水供給源と混合してカカオ飲料を提供する工程とを含む、方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ飲料を製造するための方法であって、
a) カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、
b) 前記懸濁液を湿式粉砕する工程と、
c) 前記懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、
d) 前記懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、前記脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、前記固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、
e) 少なくともカカオ粉末を前記固相から分離する工程と、
f) 分離されたカカオ粉末を水供給源と混合して前記カカオ飲料を提供する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
工程e)が、3つの相への分離後に乾燥機内で前記固相を乾燥および任意選択的に焙焼して、カカオ香料および乾燥したカカオ粉末を得る工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分離されたカカオ粉末を工程e)の直後に少なくとも水および/またはミルクと混合する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
チョコレート飲料を製造するための方法であって、
a) カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、
b) 前記懸濁液を湿式粉砕する工程と、
c) 前記懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、
d) 前記懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、前記脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、前記固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、
e1) 3つの相を別々に処理する工程であって、
1) 前記カカオ豆中に形成された酸性成分を前記水相を介して中和および/または除去すること、
2) カカオバターを前記脂肪相から分離すること、
3) カカオ粉末を前記固相から分離すること、および
4) カカオ香料およびポリフェノール粉末を少なくとも前記水相から分離すること
を含む、処理する工程、
e2) カカオ香料抽出物をカカオバター抽出物と再び組み合わせる工程、
e3) 再び組み合わされた抽出物を少なくとも前記カカオ粉末抽出物と混合し、任意選択的に前記ポリフェノール粉末抽出物および/または粉乳と混合する工程、
e4) 前記混合物をコンチングしてチョコレートを調製する工程、
e5) 任意選択的に前記チョコレートを粉末化する工程、ならびに
e6) 前記チョコレートを水供給源と混合してチョコレート飲料を提供する工程と
を含む、方法。
【請求項5】
工程3)が、3つの相への分離後に乾燥機内で前記固相を乾燥および任意選択的に焙焼して、カカオ香料および乾燥したカカオ粉末を得る工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程b)が、
b1) 第1の粗粉砕工程において第1のミル内で前記カカオ豆水懸濁液を湿式粉砕することと、
b2) 40マイクロメートル以下、好ましくは20マイクロメートルの平均粒子サイズを有するカカオ豆粒子が得られるように、第2の微粉砕工程において第2のミル内で前記カカオ豆水懸濁液を湿式粉砕することと
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水供給源が水またはミルクであり、および/または工程a)~e)が非水溶媒を使用することなく実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カカオ粉末をアルカリ処理しない、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ポリフェノール粉末を少なくとも前記水相から分離する工程と、前記ポリフェノール粉末を前記水供給源と混合する前に前記カカオ粉末と再び組み合わせる工程とを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水供給源との前記混合前の前記工程を70℃以下の温度で実施し、および/または前記水供給源との前記混合を40℃~85℃の温度で実施する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程a)~e)を、前記水供給源は別として、非カカオ果実構成要素を加えることなく実施する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法によって製造される、カカオまたはチョコレート飲料。
【請求項13】
カカオまたはチョコレート飲料の調製のためのカカオ粉末の使用であって、
前記カカオ粉末が、湿式粉砕されたカカオ豆の水性懸濁液から水相(重質相)および固相を分離することと、前記カカオ粉末を前記固相から回収することとを含む方法によって得られる、使用。
【請求項14】
請求項13に記載のカカオまたはチョコレート飲料の調製のためのカカオ粉末の使用であって、前記方法が、
a) カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、
b) 前記懸濁液を湿式粉砕する工程と、
c) 前記懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、
d) 前記懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、前記脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、前記固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、
e) 少なくともカカオ粉末を前記固相から分離する工程と
を含む、使用。
【請求項15】
a) カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、
b) 前記懸濁液を湿式粉砕する工程と、
c) 前記懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、
d) 前記懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、前記脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、前記固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、
e) 少なくともカカオ粉末を前記固相から分離する工程、または
e1) 3つの相を別々に処理する工程であって、
1) 前記カカオ豆中に形成された酸性成分を前記水相を介して中和および/または除去すること、
2) カカオバターを前記脂肪相から分離すること、
3) カカオ粉末を前記固相から分離すること、および
4) カカオ香料およびポリフェノール粉末を少なくとも前記水相から分離すること
を含む、処理する工程、
e2) カカオ香料抽出物をカカオバター抽出物と再び組み合わせる工程、
e3) 再び組み合わされた抽出物を少なくとも前記カカオ粉末抽出物と混合し、任意選択的に前記ポリフェノール粉末抽出物および/または粉乳と混合する工程、
e4) 前記混合物をコンチングしてチョコレートを調製する工程、ならびに
e5) 前記チョコレートを粉末化する工程と、
工程e)で得られた前記カカオ粉末または工程e5)で得られた粉末化されたチョコレートをインスタント化して、インスタントココア粉末を得る工程と
を含む方法によって得られる、インスタントココア粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレートベースまたはカカオベースの飲料を製造するための改善された方法および/または技術に関する。さらに、本発明は、該方法によって調製されたカカオ飲料およびチョコレート飲料、ならびにインスタントココア粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カカオ粉末(発酵および焙煎されたカカオ豆を含むペーストであるカカオリカーからカカオバターを抽出した後に得られる微細に粉砕された乾燥固体残留物として従来的に理解されている)は、チョコレートベースまたはカカオベースの飲料を調製するためのベースを提供するものであり、したがって、それらの食感、香味、および栄養特性に本質的に影響を与える。
【0003】
カカオ粉末自体の調製は、カカオの木(Theobroma cacao tree)のポッド内で成長するカカオの種子(一般にカカオ豆と呼ばれる)の加工から始まる。ポッドを収穫したら、通常、種子は、あらゆる異物を取り除くために洗浄され、発酵され、そして乾燥させられる。カカオの発酵は、空気に触れるとすぐに始まる。天然に存在する酵母胞子は、糖分のある豆上に定着し、糖を、二酸化炭素、芳香物質、およびアルコールに分解し始め、後者のものは、細菌によってもたらされる微生物活性によってさらに酢酸に変換される。このプロセスの最終段階では、カカオ豆中の胚芽は、アルコールと、酢酸と、上記の微生物活性によって生成される熱との存在によって不活性化され、それによって、豆の渋みを低下させることができる酵素が放出され、このことは、チョコレート香味の発現にとって重要である。典型的には、微生物活性によって自発的に誘発されるこの天然カカオ発酵プロセスは、該微生物活性によって生じる過剰な酢酸および/または熱によって微生物活性が阻害されるまで、約2日以上の間にわたって起こる。酸の多くは、発酵の完了後に豆の中に残るため、未処理のカカオ粉末は、酸が存在することで生じる最終的なカカオ製品の酸味および苦味を呈する傾向がある。これらの不快な香味をまろやかにするために、発酵および乾燥したカカオニブは、従来的には、(例えば、焙煎またはコンチング中に)高温に供され、および/またはアルカリ性塩で処理されて、酸度が中和され、得られたカカオ粉末の温水中での混和性が改善される(「ダッチングプロセス」として広く知られている方法)。US2011/135786A1およびWO2009/055585A1には、酸味および苦味の知覚を低減するために甘味料および/またはマスキング剤を加えることが開示されている。US2016/000110A1には、ブロマプロセスによって調製された非アルカリ処理のカカオ粉末の使用が開示されている。WO2011/141150A1は、インスタントココアを調製するための出発材料としてのテンパリングされたカカオマスに言及している。US53385454Aには、エタノールおよび水による複数回の抽出工程を含む方法であって、水性抽出物が、テオブロミン含有量が低減されていることから苦味がより少ないカカオ飲料の調製に使用される、方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、カカオ粉末の従来の調製方法は、いくつかの不利な点を伴う。例えば、アルカリ処理(例えば、ダッチング中に実施される)は、カカオ粉末の抗酸化物質の含有量を大幅に減らすと示されている(例えば、K.B.Millerら;J.Agric.Food Chem.2008,56(18),8527~8533を参照)。さらに、カカオバターをリカーから効果的に分離するためには、カカオ豆またはカカオニブを高剪断応力および/または高熱に供して、理想的にはカカオバターの完全な液化を可能にする必要があり、また、機械的プレス(例えば、油圧またはスクリュープレス)または有機溶媒の使用によるその後の抽出は、細胞区画の破壊をもたらし得るさらなる機械的および化学的負荷をカカオ原料にかけ、さらに、栄養的に有益な成分(例えば、ビタミンおよび抗酸化物質、例えば、ポリフェノール、フラボノイド、プロアントシアニジンなど)の含有量および最終的な製品における香料を減少させる。
【0005】
US6,673,379B2には、アルカリ処理されていない部分脱脂固形物を含み、かつ好ましいポリフェノール含有量を有する飲料を調製するための方法であって、カカオ豆が、カカオニブを焙煎することなくカカオの殻を緩めるのに十分な時間および温度で加熱される、方法が開示されている。しかしながら、この技術は、同様にスクリュープレスによる脂肪抽出に依存しており、また、カカオ固形物を消費可能にするために、溶媒抽出脱臭および/またはアルカリ処理も必要とする。
【0006】
カカオベースまたはチョコレートベースの飲料の調製においてしばしば観察される他の問題は、不溶性粒子の沈殿、粒状の食感、および/または安定剤(例えば、セルロース粉末)の存在による不十分な香味特性である。これを解決するため、US8,119,182B2には、所望の特性を呈する脂肪/油に富むチョコレート飲料を提供するための、粗挽きカカオニブを高温の水で抽出する工程と、不溶性固形物を除去する工程とを含む方法が開示されている。しかしながら、この方法では、アルカリ処理されていないカカオニブを使用した際に酸味および苦味が存在することが十分には防がれない。
【0007】
WO2010/073117、EP3114942A1、EP3114939A1、およびEP3114940A1には、カカオ豆またはカカオニブおよび水を含む懸濁液を形成することと、懸濁されたカカオ豆またはカカオニブを湿式粉砕することと、懸濁液を加熱することと、これをデカントして、該懸濁液を、水相、脂肪相、および固相に分離し、機械加工中のカカオ脂肪の液化およびチョコレートリカーの形成を回避することとを含む、カカオ豆を加工する方法が開示されている。しかしながら、カカオベースまたはチョコレートベースの飲料の調製は開示されていない。
【0008】
したがって、優れた豊かな味、好ましい官能特性、および高い含有量の栄養的に有益な成分を有するカカオベースまたはチョコレートベースの飲料を調製するための単純な方法を提供すること、およびインスタントココア粉末を提供することが依然として望ましく、これらの特性は、中期または長期の貯蔵中に維持される。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、本明細書で定義される特許請求の範囲の主題によって、この課題を解決する。本発明の利点は、以下の段落でさらに詳細に説明され、さらなる利点は、本発明の開示を考慮して、当業者に明らかになるであろう。
【0010】
総じて、一態様では、本発明は、カカオ飲料を製造するための方法であって、a)カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、b)該懸濁液を湿式粉砕する工程と、c)該懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、d)懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、該脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、該固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、e)少なくともカカオ粉末を固相から分離する工程と、f)分離されたカカオ粉末を水供給源と混合してカカオ飲料を提供する工程とを含む、方法を提供する。
【0011】
別の態様では、本発明は、チョコレート飲料を製造するための方法であって、a)カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、b)該懸濁液を湿式粉砕する工程と、c)該懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、d)懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、該脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、該固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、e1)3つの相を別々に処理する工程であって、1)酸性成分を水相を介して中和および/または除去すること、2)カカオバターを脂肪相から分離すること、3)カカオ粉末を固相から分離すること、および4)カカオ香料およびポリフェノール粉末を少なくとも水相から分離することを含む、処理する工程、e2)カカオ香料抽出物をカカオバター抽出物と再び組み合わせる工程、e3)再び組み合わされた抽出物を少なくとも該カカオ粉末抽出物と混合し、任意選択的に該ポリフェノール粉末抽出物および/または粉乳と混合する工程、e4)該混合物をコンチングしてチョコレートを調製する工程、e5)任意選択的にチョコレートを粉末化する工程、ならびにe6)チョコレートを水供給源と混合してチョコレート飲料を提供する工程とを含む、方法を提供する。
【0012】
本発明のさらなる態様は、前述の方法によって製造されたカカオまたはチョコレート飲料である。
【0013】
本発明のさらなる態様では、カカオまたはチョコレート飲料の調製のためのカカオ粉末の使用であって、カカオ粉末が、湿式粉砕されたカカオ豆の水性懸濁液から水相(重質相)および固相を分離することと、カカオ粉末を固相から回収することとを含む方法によって得られる、使用が記載されている。
【0014】
本発明の別の態様は、a)カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、b)該懸濁液を湿式粉砕する工程と、c)該懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、d)懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、該脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、該固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、e)少なくともカカオ粉末を固相から分離する工程、またはe1)3つの相を別々に処理する工程であって、1)カカオ豆中に形成された酸性成分を水相を介して中和および/または除去すること、2)カカオバターを脂肪相から分離すること、3)カカオ粉末を固相から分離すること、および4)カカオ香料およびポリフェノール粉末を少なくとも水相から分離することを含む、処理する工程、e2)カカオ香料抽出物をカカオバター抽出物と再び組み合わせる工程、e3)再び組み合わされた抽出物を少なくとも該カカオ粉末抽出物と混合し、任意選択的に該ポリフェノール粉末抽出物および/または粉乳と混合する工程、e4)該混合物をコンチングしてチョコレートを調製する工程、ならびにe5)チョコレートを粉末化する工程と、工程e)で得られたカカオ粉末または工程e5)で得られた粉末化されたチョコレートをインスタント化して、インスタントココア粉末を得る工程とを含む方法によって得られる、インスタントココア粉末である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】主題発明によるカカオ飲料を製造する例示的な方法を概略的に示す。
図2】主題発明によるチョコレートベースの飲料を製造する例示的な方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
これより、本発明をより完全に理解するために、その例示的な実施形態の以下の説明を参照する。
【0017】
本明細書では、「カカオ飲料」および「チョコレート飲料」の用語間で区別がなされ、前者は、(部分)脱脂カカオ粉末をベースとするカカオベースの飲料を示すことを意図しており、後者は、チョコレートをベースとするカカオベースの飲料を表す。
【0018】
本発明の第1の実施形態によるカカオ飲料を製造するための方法は、一般に、a)カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、b)該懸濁液を湿式粉砕する工程と、c)該懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、d)懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、該脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、該固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、e)少なくともカカオ粉末を固相から分離する工程と、f)分離されたカカオ粉末を水供給源と混合してカカオ飲料を提供する工程とを特徴とする。したがって、この方法で得られるカカオ粉末は、カカオリカーから製造されていないため、従来のカカオ粉末とは大きく異なる。
【0019】
驚くべきことに、工程d)の3相分離中に水でカカオ豆/カカオニブを事前抽出したにもかかわらず、製造されたカカオ飲料は、アルカリ処理を必要とすることなく、高い抗酸化物質含水量および満足のいく滑らかな食感と組み合わさった、不快な苦味、渋み、または酸味のない豊かな芳香プロファイルを呈することが見出された。さらに、この方法は、従来の方法に比べて単純であり、豆から調製飲料へのより速い加工を可能にする。
【0020】
第1の実施形態による方法の例示的な概要が図1に示されている。
【0021】
主題のカカオ飲料の製造技術は、一般に、カカオ豆/カカオニブの粉砕の前またはその間に水を加えることによってカカオ豆またはカカオニブの懸濁液を形成することから始まる。カカオ豆またはカカオニブは、発酵済、未発酵、インキュベート済、事前焙煎済、または非焙煎のカカオ豆またはカカオニブであり得る。一実施形態では、生のカカオ豆は、出発材料として果肉および粘液と一緒に(すなわち、ポッドの殻のみが除去されて)加工され得る。形成される懸濁液中の水とカカオ豆/カカオニブとの重量比は、特に限定されることはないが、好ましくは1:1~6:1、より好ましくは2:1~4:1、特に好ましくは約3:1であり、これによって、さらなる工程における加工性に有利な影響が与えられ得る(例えば、容易なポンプ輸送、粉砕、およびより簡単な相分離)。
【0022】
工程a)で、追加の香味を提供するために、代替的な含水液体、好ましくは、例えば、コーヒーと、紅茶と、フルーツジュース、フルーツジュース濃縮物、またはミルクなどの含水量60~約95重量%の液体とのうちの1つ以上から選択される液体も使用され得ると理解されるであろう。そのような場合、形成された懸濁液中の含水量は、上記で定義された比に収まることが好ましい。さらなる方法工程における熱負荷は比較的低いため、該液体に由来する温度に敏感な香味は保持され、カカオ豆の主要および副次的な香味と良好に相互作用し得る。
【0023】
コーヒー香味のカカオ製品を得るために、水中で懸濁液を形成する際に、コーヒー豆(ホール状であるかまたは砕かれており、未焙煎または焙煎済である)を発酵したカカオ豆/カカオニブに混合してもよいが、ただし、コーヒー豆の含有量によって湿式粉砕および相分離の工程が妨げられたり悪影響を受けたりしないように、カカオ豆/カカオニブが豆混合物の大部分をなすことを前提とする。好ましくは、コーヒー豆の含有量は、豆混合物の20重量%未満、より好ましくは10重量%未満である。
【0024】
工程b)では、カカオ豆/カカオニブは、単回または複数回の湿式粉砕工程に供され、それによって、豆の粒子サイズは、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、さらにより好ましくは20μm以下になる。好ましい実施形態では、工程b)は、b1)第1の粗粉砕工程において第1のミル内で該カカオ豆水懸濁液を湿式粉砕することと、b2)40μm以下または好ましくは20μm以下の平均粒子サイズを有するカカオ豆粒子が得られるように、第2の微粉砕工程において第2のミル内で該カカオ豆水懸濁液を湿式粉砕することとを含む。豆の粒子サイズの縮小は、例えば、ディスクミル(例えば、有孔ディスクミル)、コロイドミル(例えば、歯付きコロイドミル)、またはコランダム石ミルを使用することによって達成することができる。少なくとも1回の粉砕工程において、カカオ豆の細胞がふやかされて、ふやかされたカカオ豆の利用可能な表面積の増加によって溶媒(水)がカカオ豆材料をより良好に濡らすことができるようになることが好ましい。湿式粉砕に使用される方法および装置は、著しい摩擦熱の生成または大きな機械的力による不所望な乳化が回避される限り、特に制限されることはない。複数回の粉砕工程を使用する場合、粗い湿式粉砕工程(例えば、任意選択的にさらなる水を用いる)が有孔ディスクミルを使用して行われ、次いで、粗く粉砕された懸濁液が微細粉砕工程のために歯付きコロイドミルにポンプ輸送されることが好ましいであろう。
【0025】
湿式粉砕工程の後に、全体的な熱負荷を低減し、かつ乳化を防止するために、工程c)において懸濁液を70℃以下の温度で熱処理に供する。カカオバターの収率と、芳香物質、抗酸化物質、および/またはビタミンなどの所望の香味の維持との好ましいバランスの観点から、43~65℃の加熱温度が好ましい。カカオバターの液化および/または改善された機械的相分離の観点から、45~50℃の加熱温度範囲が特に好ましい。湿式粉砕された懸濁液の加熱は、掻き取り式またはチューブ式熱交換器によって行われ得るが、これに限定されることはない。
【0026】
その後、工程d)において、相分離は、3つの相、すなわち、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相が得られるように行われ、該脂肪相は、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、該固相は、カカオ粉末および水を含む。さらに、固相は、総乾燥重量に対して最大30重量%、好ましくは27重量%未満、より好ましくは20重量%未満の含有量の残留カカオバターを含み得る。好ましくは、デカンタまたはノズルセパレータなどの、遠心力を用いる装置を利用して、機械的粒子分離を達成することができる。例えば、懸濁液をデカントして、粗いまたは大きなまたは高質量の固形物を液体から分離してもよく、次いで、より小さなおよび/または微細な固体粒子を液体からさらに分離してもよい、および/または油生成物を非油生成物から分離してもよい。
【0027】
カカオ粉末を含む固相から水相を分離することによって、アルカリ処理(またはダッチング)を必要とすることなく、カカオ飲料中の酸性成分および不快な水溶性芳香成分の濃度が著しく減少する。また、適切であると考えられる場合、水溶性酸は、それらの添加によって必ずしも最終的な製品において酸味または苦味が生じるとは限らないため、相分離の前に、pH条件の調整に関して、および/またはカカオ豆もしくはカカオニブ中の香味の発現を改善する目的で好ましいと思われる任意の所望の量で添加され得る。
【0028】
水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相の間の改善された分離を達成するために、複数回の相分離および再組み合わせ工程を用いることができる。例えば、最初のデカント工程によって得られた脂肪相を、さらに濾過または遠心分離して、残存する微粒子または水を脂肪相から分離してもよく、そのようにして得られた微粒子および水を、最初のデカント工程からのまたは該相の後の加工段階の水および固相と再び組み合わせてもよい。また、水相は、微粒子を除去するために、例えば真空回転フィルタを使用した濾過による、さらなる精製工程に供してもよく、次いで、これを固相と再び組み合わせてもよい。
【0029】
3つの相(すなわち、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相)の分離後に、図1に示されるように、これらを独立的に処理して、(脂肪相から)カカオバター、(固相から)カカオ粉末、(水相および/または固相から)カカオ香料、および(水相から)ポリフェノール濃縮物を分離することができる。
【0030】
脂肪相(軽質相)を、(例えば、振動スクリーンを用いることによって)濾過し、および/または3相分離器(例えば、遠心分離機)に運び、(乾燥/焙煎工程の前またはその間に任意選択的に固相に加えられ得る)微粒子および(香料回収の前に任意選択的に水相に加えられ得る)残留水を除去してもよい。カカオバターは、精製された脂肪相を濾過することによって得ることができる。
【0031】
工程e)で、カカオ粉末は、例えば乾燥によって、固相から分離される。3つの相への分離後に得られた(濡れた)固相は、任意選択的に、加熱可能なロール粉砕機で処理して粒子サイズを小さくし、予備乾燥を開始することができる。また、乾燥前に、砂糖、砂糖溶液、および/またはフルーツジュースを、分離されたカカオ固形物に任意選択的に加えて、乾燥/焙煎プロセス中の香味の発現を改善することができる。好ましくは、工程e)は、3つの相への分離後に乾燥機内で固相を乾燥および任意選択的に焙焼して、カカオ香料および乾燥したカカオ粉末を得る工程を含む。さらに好ましくは、固相は、熱負荷を低減し、かつ健康誘発成分を維持する観点から、55~100℃の温度で、好ましくは、減圧下で55~70℃から選択される温度で、穏やかに乾燥および同時に焙煎されて、焙煎された香味および他の香料を収集することが可能になる。好ましくは、乾燥/焙焼工程は、EP3114941A1に開示されているような混合装置内で行われ、該混合装置は、その軸が水平に配置され、かつその両端がエンドプレートによって閉じられた円筒形の管状本体を備え、また同軸の加熱または冷却ジャケットを有し、これを通して、例えば、透熱性油または別の流体が流れて、本体の内壁を所定の温度に保つことが意図されている。管状本体は、固相用の入口および出口の開口部を有する。出口の開口部は、ダクトによって、香料相を乾燥した製品から分離するための装置と連絡している。この装置は、管状本体内で回転するように支持されたブレード付きロータをさらに備え、そのブレードは、螺旋体として配置されており、処理される固相を遠心分離し、かつ同時にこれを出口の開口部に向かって輸送するように配向されている。この混合装置を使用すると、有利には、乾燥/焙煎工程と焙煎香味および他の芳香物質の分離とを連続的に行うことができ、また、カカオ豆の加工からカカオ粉末(乾燥したカカオ材料)の調製まで著しく加速され、それによって、加工時間が、20分未満、典型的には15分未満になる。
【0032】
好ましい実施形態では、工程e)で製造されたカカオ粉末は、少なくとも20mgのECE((-)エピカテキン当量)/g脱脂乾燥物質、より好ましくは少なくとも30mgのECE/g脱脂乾燥物質、特に好ましくは少なくとも40mgのECE/g脱脂乾燥物質の総ポリフェノール含有量を有する。好ましくは、カカオ粉末は、少なくとも10mgのECE/g脱脂乾燥物質、より好ましくは少なくとも20mgのECE/g脱脂乾燥物質、特に好ましくは少なくとも30mgのECE/g脱脂乾燥物質のフラボノイド濃度を有する。別の好ましい実施形態では、カカオ粉末は、少なくとも2mgのPCE(プロシアニジンB2当量)/g脱脂乾燥物質、より好ましくは少なくとも3mgのPCE/g脱脂乾燥物質、特に好ましくは少なくとも4mgのPCE/g脱脂乾燥物質のプロアントシアニジン濃度を有する。
【0033】
総ポリフェノール含有量、ならびにフラボノイドおよびプロアントシアニジン濃度は、当業者に公知の一般的な分光光度法によって決定することができる。例えば、総ポリフェノール含有量は、Folin-Ciocalteu index、Off.J.Eur.Communities 1990、41、178~179およびCooperら、J.Agric.Food Chem 2008、56、260~265に開示されている方法に従って、(-)エピカテキンを標準として用いたFolin-Ciocalteuアッセイを使用して決定することができる。総フラボノイド含有量は、(-)エピカテキンを標準として使用して、例えば、Emeldaら、Int.J.ChemTech Res.2014,6(4),2363~2367に従って、塩化アルミニウム比色アッセイによって決定することができる。標準としてプロシアニジンB2を使用する酸-ブタノール法(例えば、Bates-SmithアッセイまたはPorter法など)は、プロアントシアニジンの含有量を分光光度法で決定するために用いることができる。
【0034】
工程a)~e)は、溶媒除去の追加の工程を回避し、かつカカオ粉末抽出物中の栄養的に有益な成分の高い含有量を維持するために、非水系溶媒を使用することなく実施されることが好ましい。
【0035】
第1の実施形態による方法の最終工程f)で、分離されたカカオ粉末を水供給源と混合してカカオ飲料を提供する。水供給源は、カカオ粉末粒子の十分な分散を可能にする限り特に限定されることはないが、好ましくは、工程a)に関して先に言及したように、水または含水液体から選択される。特に好ましくは、水供給源は、水またはミルク(牛乳、山羊乳、大豆乳、米乳、ココナッツミルク、アーモンドミルク、フラックスミルク、ヘンプミルク、オートミルクなどを含むがこれらに限定されることはない)である。
【0036】
(乾燥した)カカオ粉末は、工程f)の前に可溶化処理または分散促進に供され得る。しかしながら、この目的に際して、そのような処理は、例えば、WO2008/059064A1に開示されている酵素的プロセスのように、アルカリ性の薬剤を加えることなく実施されることが好ましい。そのような方法のさらなる例は、当業者に公知であろう。
【0037】
一般に、栄養的に有益な成分の高い含有量を維持するためには、カカオ粉末がアルカリ処理されていないことが好ましい。
【0038】
さらなる添加剤(例えば、ビタミン、ミネラル、塩、レシチン)、香味(例えば、バニラ、キャラメル、シナモン、ナッツの香味)、増粘剤(例えば、コーンスターチ)、および甘味料(糖(例えば、スクロース、ラクトース、デキストロース、マルトース、フルクトース、サッカロース)またはカカオパルプなど)を混合工程の間またはその前に加えてもよい。しかしながら、さらなる好ましい実施形態では、工程a)~e)を、水供給源は別として、非カカオ果実構成要素を加えることなく実施する。例えば、図1に示されるように、この方法は、ポリフェノール粉末を(例えば、逆流蒸留によって)少なくとも水相から分離する工程と、ポリフェノール粉末を水供給源と混合する前にカカオ粉末と再び組み合わせて、最終的なカカオ飲料中の抗酸化物質の含有量をさらに増加させる工程とをさらに含むことができ、水相および/または固相から抽出されたカカオ香料は、飲料の味をさらに豊かにするために、混合工程でカカオ粉末と再び組み合わせることができ、および/またはカカオパルプは、任意選択的な甘味剤として使用することができ、それによって、カカオ果実の天然成分を理想的に利用する多種多様な官能および栄養特性を有するカカオ飲料を製造することができる。
【0039】
また、一般に、水供給源との混合前の工程は70℃以下の温度で実施することが好ましいが、水供給源との混合は40℃~85℃の温度で実施することが好ましい。
【0040】
混合工程f)は、当業者に公知の適切な技術および装置によって実施することができる。
【0041】
好ましい実施形態では、水供給源を工程e)の直後にカカオ粉末と混合する。一般に、カカオ抽出材料(すなわち、カカオバター、カカオ粉末、カカオ香料、およびポリフェノール濃縮物)の微生物腐敗の場合、脱臭は、真空脱気装置を使用することによって達成することができる。さらに、微生物汚染が発生した場合は、パスカリゼーションなどの高圧処理が可能である(例えば、これは、芳香族化合物を維持することができるため望ましい)。微生物腐敗および汚染の両方が発生する場合は、熱処理および脱臭が用いられ得る。しかしながら、本発明による方法は、有利には、カカオ豆/カカオニブの迅速な加工を可能にし、それによって、微生物の増殖を最小限に保つことができる。
【0042】
上記の観点から、第1の実施形態による本発明は、栄養的に価値のある成分の含有量を維持しながら、高品質のカカオ飲料の迅速、単純、かつ費用効果の高い製造を可能にする。
【0043】
第2の実施形態では、本発明は、チョコレート飲料を製造するための方法であって、a)カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、b)該懸濁液を湿式粉砕する工程と、c)該懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、d)懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、該脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、該固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、e1)3つの相を別々に処理する工程であって、1)酸性成分(例えば、発酵の間にカカオ豆中に形成された酢酸またはクエン酸)を水相を介して中和および/または除去すること、2)カカオバターを脂肪相から分離すること、3)カカオ粉末を固相から分離すること、および4)カカオ香料およびポリフェノール粉末を少なくとも水相から分離することを含む、処理する工程、e2)カカオ香料抽出物をカカオバター抽出物と再び組み合わせる工程、e3)再び組み合わされた抽出物を少なくとも該カカオ粉末抽出物と混合し、任意選択的に該ポリフェノール粉末抽出物および/または粉乳と混合する工程、e4)該混合物をコンチングしてチョコレートを調製する工程、e5)任意選択的にチョコレートを粉末化する工程、ならびにe6)チョコレートを水供給源と混合してチョコレート飲料を提供する工程とを含む、方法に関する。
【0044】
第1の実施形態とは対照的に、第2の実施形態の方法は、工程e)で、3つの相を別々に処理し、適切に再び組み合わせ、コンチングしてチョコレートを提供し、次いで、これを、第1の実施形態の工程f)と同様に工程e5)で水供給源と混合して、チョコレート飲料を提供するという点で異なる。第1および第2の実施形態は、必要に応じて組み合わせることができ、第1の実施形態による工程a)~f)の好ましい特徴は、第2の実施形態にも同様に適用できると理解されるであろう。
【0045】
第2の実施形態による工程e2)から出発する方法の例示的なスキームが図2に示されている。本明細書では、水相の脱香料処理(dearomatisation)から得られたカカオ香料抽出物、および/または任意選択的に、乾燥/焙煎工程(図1に示される)から得られた焙煎カカオ香料が、最初に工程e2)でカカオバターに加えられる。コンチング工程に供する前に、乾燥および焙煎した固体カカオ粉末を、香料を加えたカカオバターと工程e3)で混合し、好ましくは微粉砕する。ポリフェノール粉末を必要に応じて混合物に加えて、最終的な製品においてより強い香味およびより高い含有量の抗酸化物質を提供することができる。香味のさらなる調整または香味の発現は、砂糖、甘味料、カカオパルプ、および/またはフルーツジュースのうちの1つ以上を加えることによって実施することができる。ミルクチョコレートを調製するために、好ましくは混合工程e3)の前に、粉乳がさらに加えられる。任意選択的に、乳化剤(例えば、レシチン)をコンチングの前に加えて、粘度を下げること、砂糖の結晶化およびチョコレートの流動特性を制御すること、ならびに成分の均一な混合を助けることができる。また、追加の成分および香味、例えば、バニラ、ラムなどを、コンチング工程e4)の前またはその間に加えてもよい。コンチングプロセスは、一般に、チョコレートから不要な酸性成分を除去し、水分を減らし、かつ生成物の香味をまろやかにしながら、香味を生み出す乾燥したカカオからの物質を脂肪相に再分配する。コンチェの温度は制御されており、チョコレートの様々な種類に応じて異なる(ミルクチョコレートの場合の約49℃~ダークチョコレートの場合の最大82℃)。従来のチョコレート製造プロセスにおけるコンチング時間は、ある程度温度に依存するが、良好な結果を達成するためには、一般に16時間~72時間の範囲である。本発明による方法では、コンチング時間は、好ましくは16時間未満、より好ましくは12時間未満、典型的には10時間以下である。したがって、長いコンチング時間で観察されるような、所望の香料特性の喪失は起こらない。この段階で、コンチングされたチョコレートは、典型的には、少なくとも5mgのECE/g脱脂乾燥物質、より好ましくは少なくとも10mgのECE/g脱脂乾燥物質、特に好ましくは少なくとも20mgのECE/g脱脂乾燥物質の総ポリフェノール含有量を有する。好ましくは、チョコレートは、少なくとも5mgのECE/g脱脂乾燥物質、より好ましくは少なくとも10mgのECE/g脱脂乾燥物質のフラボノイド濃度を有する。別の好ましい実施形態では、チョコレートは、少なくとも1mgのPCE/g脱脂乾燥物質のプロアントシアニジン濃度を有する。任意選択的なテンパリングおよび/または成形工程の後に、得られたチョコレートを(例えば、粉砕、シェービングなどによって)粉末化する工程に供して、混合工程e6)における水供給源へのチョコレートの溶解および溶融を促進することができる。工程e6)は、好ましくは、50℃~85℃の温度で実施される。
【0046】
第3の実施形態では、本発明は、それぞれ上記の第1および第2の実施形態による方法によって製造されたカカオまたはチョコレート飲料に関する。カカオおよびチョコレート飲料は、従来式に製造されたカカオベースの飲料と比較して、優れた官能特性および高い含有量の栄養的に価値のある成分を特徴とする。
【0047】
本発明の第4の実施形態は、カカオまたはチョコレート飲料の調製のためのカカオ粉末の使用であって、カカオ粉末が、湿式粉砕されたカカオ豆の水性懸濁液から水相(重質相)および固相を分離することと、カカオ粉末を固相から回収することとを含む方法によって得られる、使用によって定義される。本発明による使用は、水による前抽出にもかかわらず、驚くほど豊かな香味および天然のカカオ成分の高い維持含有量を有するカカオまたはチョコレート飲料の製造を可能にする。
【0048】
好ましくは、本発明の第4の実施形態に従って使用されるカカオ粉末は、湿式粉砕されたカカオ豆またはカカオニブの水性懸濁液を、3つの相、すなわち、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離し、該脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、該固相が、カカオ粉末および水を含む、方法によって調製される。実施形態では、該方法は、a)カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、b)該懸濁液を湿式粉砕する工程と、c)該懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、d)懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、該脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、該固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、e)少なくともカカオ粉末を固相から分離する工程とをさらに含み得る。先の第1および第2の実施形態に関して、カカオ粉末の調製の特に好ましい方法が記載される。
【0049】
第5の実施形態では、本発明は、第1の実施形態による方法の工程e)で分離されたカカオ粉末または第2の実施形態による方法の工程e5)の粉末化されたチョコレートをインスタント化してインスタントココア粉末を得ることによって得られる、インスタントココア粉末に関する。
【0050】
本明細書で使用される場合の「インスタント化」という用語は、カカオ/チョコレート粉末の溶解性および/または分散性を高める任意の加工工程を示す。適切な方法は、例えば、蒸気凝集、流動床凝集、凍結乾燥凝集、熱凝集、または噴霧乾燥のような凝集技術を含むが、これらに限定されることはない。好ましい実施形態では、インスタント化は、カカオ/チョコレート粉末、親水性の薬剤(例えば、水溶性単糖類、二糖類、多糖類、およびそれらの混合物から選択される糖;ソルビトール、グリセロール、エリトリトール、マルチトール、イソマルト、マンニトール、ラクチトール、トレイトール、アラビトール、リビトール、およびキシリトールから選択されるポリオール)、および乳化剤(例えば、レシチン)を、任意選択的に、例えば、増量剤、香料、乳固形分、着色剤、ビタミン、ポリフェノール(少なくとも水相から抽出されたポリフェノール粉末を含む)、栄養補助食品、および安定剤(例えば、マルトデキストリン、またはUS4,980,193AもしくはUS4,311,717Aに開示されているものとしてのセルロースベースの安定剤)から選択され得る他の添加剤とブレンドして含む混合物から出発して実施される。そのような混合物を使用する場合、これらの成分をカカオ/チョコレート粉末の調製中に加えないことが好ましいことがある。好ましくは、インスタント化に使用されるカカオ/チョコレート粉末は、2~100μm、より好ましくは5~50μmの平均粒子サイズを有する。
【0051】
上記の開示を考慮すると、他の多くの特徴、修正、および改善が当業者に明らかになるであろう。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-02-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ飲料を製造するための方法であって、
a) カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、
b) 前記懸濁液を湿式粉砕する工程と、
c) 前記懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、
d) 前記懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、前記脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、前記固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、
e) 少なくともカカオ粉末を前記固相から分離する工程と、
f) 分離されたカカオ粉末を水供給源と混合して前記カカオ飲料を提供する工程と
を含み、
前記カカオ粉末をアルカリ処理しない、方法。
【請求項2】
工程e)が、3つの相への分離後に乾燥機内で前記固相を乾燥および任意選択的に焙焼して、カカオ香料および乾燥したカカオ粉末を得る工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分離されたカカオ粉末を工程e)の直後に少なくとも水および/またはミルクと混合する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
チョコレート飲料を製造するための方法であって、
a) カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、
b) 前記懸濁液を湿式粉砕する工程と、
c) 前記懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、
d) 前記懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、前記脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、前記固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、
e1) 3つの相を別々に処理する工程であって、
1) 前記カカオ豆中に形成された酸性成分を前記水相を介して中和および/または除去すること、
2) カカオバターを前記脂肪相から分離すること、
3) カカオ粉末を前記固相から分離すること、および
4) カカオ香料およびポリフェノール粉末を少なくとも前記水相から分離すること
を含む、処理する工程、
e2) カカオ香料抽出物をカカオバター抽出物と再び組み合わせる工程、
e3) 再び組み合わされた抽出物を少なくとも前記カカオ粉末抽出物と混合し、任意選択的に前記ポリフェノール粉末抽出物および/または粉乳と混合する工程、
e4) 前記混合物をコンチングしてチョコレートを調製する工程、
e5) 任意選択的に前記チョコレートを粉末化する工程、ならびに
e6) 前記チョコレートを水供給源と混合してチョコレート飲料を提供する工程と
を含み、
前記カカオ粉末をアルカリ処理しない、方法。
【請求項5】
工程3)が、3つの相への分離後に乾燥機内で前記固相を乾燥および任意選択的に焙焼して、カカオ香料および乾燥したカカオ粉末を得る工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程b)が、
b1) 第1の粗粉砕工程において第1のミル内で前記カカオ豆水懸濁液を湿式粉砕することと、
b2) 40マイクロメートル以下の平均粒子サイズを有するカカオ豆粒子が得られるように、第2の微粉砕工程において第2のミル内で前記カカオ豆水懸濁液を湿式粉砕することと
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水供給源が水またはミルクであり、および/または工程a)~e)が非水溶媒を使用することなく実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ポリフェノール粉末を少なくとも前記水相から分離する工程と、前記ポリフェノール粉末を前記水供給源と混合する前に前記カカオ粉末と再び組み合わせる工程とを含む、請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水供給源との前記混合前の前記工程を70℃以下の温度で実施し、および/または前記水供給源との前記混合を40℃~85℃の温度で実施する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程a)~e)を、前記水供給源は別として、非カカオ果実構成要素を加えることなく実施する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
カカオまたはチョコレート飲料の調製のためのカカオ粉末の使用であって、
前記カカオ粉末が、湿式粉砕されたカカオ豆の水性懸濁液から水相(重質相)および固相を分離することと、前記カカオ粉末を前記固相から回収することとを含む方法によって得られ、
前記カカオ粉末をアルカリ処理しない、使用。
【請求項12】
請求項11に記載のカカオまたはチョコレート飲料の調製のためのカカオ粉末の使用であって、前記方法が、
a) カカオ豆またはカカオニブに水を加えて懸濁液を形成する工程と、
b) 前記懸濁液を湿式粉砕する工程と、
c) 前記懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、
d) 前記懸濁液を、水相(重質相)、脂肪相(軽質相)、および固相に分離する工程であって、前記脂肪相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、前記固相が、カカオ粉末および水を含む、分離する工程と、
e) 少なくともカカオ粉末を前記固相から分離する工程と
を含む、使用。