(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045461
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】缶体
(51)【国際特許分類】
B65D 1/16 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B65D1/16 111
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017227
(22)【出願日】2024-02-07
(62)【分割の表示】P 2020045342の分割
【原出願日】2020-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2019149722
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】武井 政幸
(72)【発明者】
【氏名】飯村 友明
(72)【発明者】
【氏名】上神 宏一
(57)【要約】
【課題】缶本体には一定の耐圧荷重を確保しつつ、蓋体のバックリングを抑制する。
【解決手段】缶軸を中心とした有底円筒状の缶本体1を備え、缶本体1の底部3の中央部には缶軸方向上端側に向けて凹む凹曲面状のドーム部4が形成され、ドーム部4の外周側には缶軸方向下端側に突出した後に缶軸に対する径方向外周側に向かうに従い缶軸方向上端側に向かう環状凸部5が缶軸回りの周方向に連続して形成され、ドーム部4から缶軸方向の下端側に突出する環状凸部5の内壁部5aにはボトムリフォーム加工によって缶軸に対する径方向外周側に凹んだ凹部5bが形成され、缶本体1の内部に無負荷の状態から706kPaの内圧を作用させたときの環状凸部5の最も缶軸方向下端側に突出した突端5dの缶軸方向下端側への突出変形量であるボトムグロース量が、1.0mm~2.0mmの範囲内とされる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶軸を中心とした有底円筒状の缶本体を備えた缶体であって、
上記缶本体の底部には、中央部に上記缶軸方向上端側に向けて凹む凹曲面状のドーム部が形成されるとともに、このドーム部の外周側には、上記缶軸方向下端側に突出した後に上記缶軸に対する径方向外周側に向かうに従い上記缶軸方向上端側に向かう環状凸部が上記缶軸回りの周方向に連続して形成されていて、
上記ドーム部から上記缶軸方向の下端側に突出する上記環状凸部の内壁部には、ボトムリフォーム加工によって上記缶軸に対する径方向外周側に凹んだ凹部が形成されており、
上記缶本体の内部に、無負荷の状態から706kPaの内圧を作用させたときの上記環状凸部の突端の上記缶軸方向下端側への突出変形量であるボトムグロース量が、1.0mm~2.0mmの範囲内とされていることを特徴とする缶体。
【請求項2】
上記缶本体の内部に、無負荷の状態から686kPaの内圧を作用させたときの上記環状凸部の突端の上記ボトムグロース量が、0.89mm~1.71mmの範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の缶体。
【請求項3】
上記缶本体の内部に、無負荷の状態から618kPaの内圧を作用させたときの上記環状凸部の突端の上記ボトムグロース量が、0.55mm~1.29mmの範囲内とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の缶体。
【請求項4】
上記缶本体の底部の上記ドーム部における上記缶軸上の厚さが、0.270mm~0.290mmの範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の缶体。
【請求項5】
上記環状凸部の突端部は、上記缶軸に沿った断面において上記突端の周辺が上記缶軸方向下端側に凸となる凸円弧状に形成されており、
この凸円弧の上記缶本体内部における半径をR(mm)、上記突端が上記缶軸回りになす円の直径をD(mm)、上記凹部の上記缶軸に対する径方向の外周側に最も凹んだ底が上記缶軸回りになす円の直径をd(mm)、この底の部分から環状凸部の突端に至る間で突端部が最も缶軸側に突出した位置における缶軸に対する半径方向の缶本体の底部の肉厚をt(mm)としたときに、(D-2×(R+t)-d)/2の絶対値で表されるボトムリフォーム深さが、0.680mm~1.085mmの範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の缶体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶軸を中心とした有底円筒状の缶本体を備えて、内部に飲料等の内容物が充填された上で上端開口部が蓋体によって密封されるアルミニウム缶等の缶体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような缶体においては、缶本体の底部の中央部に缶本体の上端側に向けて凹む凹曲面状のドーム部が形成されるとともに、このドーム部の外周側には、缶軸に対する径方向外周側に向かうに従い缶軸方向の下端側に突出した後に上端側に向かう環状凸部が缶軸回りの周方向に連続して形成されたものが知られている。
【0003】
このような缶体は、例えば内部に焼酎の炭酸水割り(いわゆる焼酎ハイボール。略して酎ハイ。)やウイスキーの炭酸水割り(いわゆるハイボール。)等の内容物が充填された上で、上端開口部にプルタブが付いた蓋体が巻き締められて取り付けられることによって密封され、いわゆる2ピース缶として市場に流通させられる。
【0004】
ところで、近年では、このような缶体を形成する金属材料の省資源化や材料製造の際の省エネルギー化のために缶本体や蓋体のさらなる薄肉化が強く求められており、例えばアルミニウム合金製の缶体の場合には、板厚が0.230mm~0.300mm程度のアルミニウム合金よりなる板材からカップ状素材を絞り加工によって成形して缶本体を製造するようなことも要求されている。
【0005】
ところが、そのような薄肉の缶体では缶本体の耐圧強度の低下が顕著なものとなり、内部に充填される内容物が上述した炭酸飲料のようなものであると、缶本体に内容物が充填されて蓋体によって密封された充填済缶に内圧が作用することにより、缶本体の底部における環状凸部の突端が缶軸方向の下端側に突出変形するボトムグロースという現象が発生して充填済缶を搬送するためのシュートに詰まりを生じたり、ドーム部が缶本体の下端側に膨らむように突出するバックリングという現象が生じたりするおそれがある。
【0006】
そこで、このような缶本体底部のボトムグロースやバックリングを抑制するため、特許文献1には、このように缶本体の底部にドーム部と環状凸部が形成された缶体において、環状凸部のうち、ドーム部に連なる内周壁には、缶軸方向に沿う縦断面視で、缶軸に直交する径方向の外側へ向けて凹む曲線状をなす第1凹曲面部がボトムリフォーム加工により形成されるとともに、同縦断面視で、ドーム部には、缶軸上に位置するドームトップと、ドームトップの径方向の外側に接続し、ドームトップよりも曲率半径が小さい凹曲線状をなす第2凹曲面部と、ドーム部の外周縁部に配置され、第1凹曲面部と第2凹曲面部とを接続するとともに、第1凹曲面部および第2凹曲面部に接する直線状をなすテーパ部とが形成されたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この特許文献1に記載された缶体では、テーパ部の両端に接続する第1、第2凹曲面部が屈曲するように形成されることとなり、具体的には、缶本体の縦断面視において、直線状のテーパ部に接続させられる第1、第2凹曲面部の曲率半径が小さくなり、曲がり具合いが急になる。
【0009】
このため、これら第1、第2凹曲面部に対して応力が集中し易くなることにより、応力が集中する箇所を安定して複数箇所確保することができるので、缶本体の底部の強度が向上して変形が抑制される。従って、缶本体の内圧が上昇したときに、第1、第2凹曲面部に応力が分散させられることで缶本体の耐圧強度が高められることにより、缶本体の底部のボトムグロースやバックリングを抑制することができる。
【0010】
しかしながら、このように缶本体の耐圧強度を高めることによって缶本体の底部のボトムグロースやバックリングを抑制するようにした場合には、蓋体も省資源化や省エネルギー化のために薄肉化されたものであると、蓋体の耐圧強度が低下するのに伴い、充填済缶において缶本体の内圧が上昇したときに、この蓋体が缶本体の上端側に膨らむように突出する蓋体のバックリングが生じるおそれがある。
【0011】
本発明は、このような背景の下になされたもので、缶本体には一定の耐圧荷重を確保しつつ、缶本体に内圧が作用したときに蓋体のバックリングが発生するのを抑制することが可能な缶体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することにより、このような目的を達成するために、本発明は、缶軸を中心とした有底円筒状の缶本体を備えた缶体であって、上記缶本体の底部には、中央部に上記缶軸方向上端側に向けて凹む凹曲面状のドーム部が形成されるとともに、このドーム部の外周側には、上記缶軸方向下端側に突出した後に上記缶軸に対する径方向外周側に向かうに従い上記缶軸方向上端側に向かう環状凸部が上記缶軸回りの周方向に連続して形成されていて、上記ドーム部から上記缶軸方向の下端側に突出する上記環状凸部の内壁部には、ボトムリフォーム加工によって上記缶軸に対する径方向外周側に凹んだ凹部が形成されており、上記缶本体の内部に、無負荷の状態から706kPaの内圧を作用させたときの上記環状凸部の最も上記缶軸方向下端側に突出した突端の上記缶軸方向下端側への突出変形量であるボトムグロース量が、1.0mm~2.0mmの範囲内とされていることを特徴とする。
【0013】
このように構成された缶体においては、缶本体の内部に、無負荷の状態から706kPaの内圧を作用させたときの環状凸部の最も缶軸方向下端側に突出した突端の缶軸方向下端側への突出変形量であるボトムグロース量が、1.0mm~2.0mmの範囲内とされており、すなわち充填済缶を搬送するためのシュートに詰まりを生じさせない範囲で、環状凸部にある程度のボトムグロースが許容されている。
【0014】
従って、上端開口部に蓋体が取り付けられて密封された缶本体に内圧が作用しても、缶本体の底部の環状凸部がボトムグロースすることにより、内圧を吸収することができる。
このため、上記構成の缶体によれば、蓋体に作用する内圧を軽減することができるので、蓋体にバックリングが発生するのを抑制することが可能となる。
【0015】
ここで、缶本体の内部に706kPaの内圧を作用させたときの環状凸部のボトムグロース量が1.0mmを下回ると、蓋体のバックリングを防止することができない。また、これとは逆に、缶本体の内部に706kPaの内圧を作用させたときの環状凸部のボトムグロース量が2.0mmを上回ると、内容物が充填された充填済缶を搬送するためのシュートに詰まりが発生するおそれがある。
【0016】
なお、内圧の増加に対するボトムグロース量の増加の割合は、安定している方が、環状凸部に無理な応力が作用するのを避けることができるので望ましい。このため、上記缶本体の内部に、無負荷の状態から686kPaの内圧を作用させたときの上記環状凸部の突端の上記ボトムグロース量は、0.89mm~1.71mmの範囲内とされているのが望ましく、また上記缶本体の内部に、無負荷の状態から618kPaの内圧を作用させたときの上記環状凸部の突端の上記ボトムグロース量は、0.55mm~1.29mmの範囲内とされていることが望ましい。
【0017】
すなわち、686kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量や、618kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量が上記範囲よりも小さいと、706kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量が1.0mm~2.0mmの範囲内となるには環状凸部の突端が急激に突出変形することになり、応力が集中する。また、686kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量や、618kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量が上記範囲よりも大きいと、無負荷の状態からこれらの内圧に至るまでに環状凸部の突端が急激に突出変形していることになり、やはり応力の集中を招く。
【0018】
なお、このような本発明の缶体は、上述したように省資源化や省エネルギー化のために薄肉化された缶本体を備えた缶体に適用されるのが望ましい。ここで、このような缶体の缶本体においては、缶本体底部のドーム部における缶軸上の厚さが、缶本体に成形される前の板材の厚さ(元板厚)に略等しい。
【0019】
そこで、上記缶本体の底部の上記ドーム部における上記缶軸上の厚さは、0.270mm~0.290mmの範囲内とされていることが望ましい。このドーム部における缶軸上の厚さが0.270mmを下回ると、缶本体に必要な耐圧強度を確保することができなくなるおそれがあり、逆に0.290mmを上回ると、十分な省資源化や省エネルギー化を図ることができなくなるおそれがある。
【0020】
また、上記環状凸部の突端部が、上記缶軸に沿った断面において上記突端の周辺が上記缶軸方向下端側に凸となる凸円弧状に形成されている場合には、この凸円弧の上記缶本体内部における半径(後述するパンチR)をR(mm)、上記突端が上記缶軸回りになす円の直径(接地径)をD(mm)、上記凹部の上記缶軸に対する径方向の外周側に最も凹んだ底が上記缶軸回りになす円の直径(ボトムリフォーム内径)をd(mm)、この底の部分から環状凸部の突端に至る間で突端部が最も缶軸側に突出した位置における缶軸に対する半径方向の缶本体の底部の肉厚をt(mm)としたときに、(D-2×(R+t)-d)/2の絶対値で表されるボトムリフォーム深さが、0.680mm~1.085mmの範囲内とされていることが望ましい。
【0021】
このボトムリフォーム深さが1.085mmを上回ると、缶本体底部の環状凸部の延伸性が損なわれて、上記ボトムグロース量を1.0mm以上の1.0mm~2.0mmの範囲内とすることができなくなるおそれがある。一方、逆にボトムリフォーム深さが0.680mmを下回ると、環状凸部における耐圧強度が低下するおそれがある。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、缶本体の上端開口部に蓋体が取り付けられて密封された状態で缶本体に内圧が作用しても、缶本体底部の環状凸部がある程度ボトムグロースすることによって内圧を吸収することが可能となり、省資源化や省エネルギー化のために蓋体が薄肉化されていても、このような内圧によって蓋体にバックリングが発生するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態を示す缶本体の缶軸に沿った断面図である。
【
図2】
図1に示す実施形態の缶本体の底部の拡大断面図である。
【
図3】
図1に示す実施形態において、上端開口部側にネッキング加工が施される前の缶本体のボトムグロース量を測定する際の缶軸に沿った断面図である。
【
図4】
図1に示す実施形態における缶本体の内圧とボトムグロース量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1および
図2は本発明の一実施形態を示すものであり、
図3はこの一実施形態において、上端開口部側にネッキング加工が施される前の缶本体のボトムグロース量を測定する状態を示すものである。また、
図4は、
図1に示す実施形態における缶本体の内圧とボトムグロース量との関係を示す図である。
【0025】
本実施形態の缶体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属材料によって形成された
図1に示すような缶軸Cを中心とする有底円筒状の缶本体1を備えている。すなわち、この缶本体1は、缶軸Cを中心とする概略円筒状の胴部2と、この胴部2の下端側(
図1および
図2において下側。
図3においては上側)の開口部を閉塞する概略円盤状の底部3とが一体に形成されて構成されている。
【0026】
この缶本体1の底部3には、該底部3の中央部に、缶軸C方向の上端側(
図1および
図2において下側。
図3においては上側)に向けて凹む凹曲面状のドーム部4が形成されるとともに、このドーム部4の外周側には、缶軸C方向の下端側に突出した後に缶軸Cに対する径方向外周側に向かうに従い缶軸C方向の上端側に向かう環状凸部5が缶軸C回りの周方向に連続して形成されている。ここで、本実施形態では、この缶本体1の底部3のドーム部4における上記缶軸C上の厚さは、0.270mm~0.290mmの範囲内とされている。
【0027】
この環状凸部5の缶軸C側を向く内壁部5aの上記ドーム部4側には、底部3にボトムリフォーム加工が施されることにより、缶軸Cに沿った断面において
図2に示すように、缶軸Cに対する径方向外周側に凹曲線状に凹んだ凹部5bが形成されている。さらに、環状凸部5の突端部(下端部)5cは、同じく缶軸Cに沿った断面において
図2に示すように、この突端部5cが最も缶軸C方向の下端側に突出した突端5dの周辺で缶軸C方向の下端側に凸となる凸円弧状に形成されている。
【0028】
ここで、環状凸部5の缶軸C側を向く上記内壁部5aにはボトムリフォーム加工が施されており、これにより該内壁部5aは、ドーム部4から凹部5bにおいて缶軸Cに対する径方向外周側に凹んだ後、突端部5cにおいて缶軸Cに対する径方向内周側に断面凸曲線状に突出して断面凸円弧状の突端部5cの上記突端5dに至る。また、環状凸部5は、この突端5dから缶軸Cに対する径方向外周側に向かうに従い缶軸C方向上端側に傾斜しつつ延びて胴部2の下端に連なる。
【0029】
さらにまた、環状凸部5の上記内壁部5aの缶軸Cに対する径方向内周側に最も突出した位置から、上記ボトムリフォーム加工によって形成された上記凹部5bの缶軸Cに対する径方向外周側に最も凹んだ底5eまでの凹み量、すなわちボトムリフォーム深さeは、缶軸Cに沿った断面において環状凸部5の上記突端5d周辺がなす凸円弧の缶本体1内部における半径をR(mm)、上記突端5dが缶軸C回りになす円の直径(接地径)をD(mm)、上記凹部5bの底5eが缶軸C回りになす円の直径(ボトムリフォーム内径)をd(mm)、この底5eの部分から環状凸部5の突端5dに至る間で突端部5cが最も缶軸C側に突出した位置における缶軸Cに対する半径方向の缶本体1の底部3の肉厚をt(mm)としたときに、(D-2×(R+t)-d)/2の絶対値で表される。このボトムリフォーム深さeは、本実施形態では0.680mm~1.085mmの範囲内とされている。
【0030】
そして、この缶本体1の底部3は、缶本体1の内部に内圧を作用させたときに上記環状凸部5が缶軸C方向下端側に突出するように変形してボトムグロースするように形成されており、缶本体1の内部に無負荷の状態から706kPaの内圧を作用させたとき、環状凸部5の突端5dの缶軸C方向下端側への突出変形量であるボトムグロース量が、1.0mm~2.0mmの範囲内となるようにされている。
【0031】
また、本実施形態では、缶本体1の内部に無負荷の状態から686kPaの内圧を作用させたときの環状凸部5の突端5dのボトムグロース量は、0.89mm~1.71mmの範囲内となるようにされている。さらに、本実施形態では、缶本体1の内部に無負荷の状態から618kPaの内圧を作用させたときの環状凸部5の突端5dのボトムグロース量は、0.55mm~1.29の範囲内となるようにされている。
【0032】
なお、缶本体1の胴部2は、本実施形態では、底部3の外周部に連なる下端側の部分が肉厚の薄いウォール部2aとされるとともに、上端側の部分は、このウォール部2aよりも肉厚の厚いフランジ部2bとされている。また、この肉厚の厚いフランジ部2bとされた上端部は、
図1に示すように上端側に向けて段階的に縮径するように肩部2cが形成され、さらにこの肩部2cの最上端には、図示されないプルタブ付きの蓋体が巻き締められて取り付けられる蓋体取付部2dが缶軸Cに対する径方向外周側に張り出すように形成されている。
【0033】
このような缶体の缶本体1は、まずカッピングプレス機によるカッピングプレス工程において、金属板を円板状に打ち抜いて絞り加工を施すことにより深さの浅いカップ状素材を成形することから製造する。このカッピングプレス工程においてカップ状素材に成形される金属板は、本実施形態では元板厚が缶本体1の底部3のドーム部4における上記缶軸C上の厚さと略等しい0.270mm~0.290mmの範囲内とされたアルミニウム板またはJIS H 19におけるA3004あるいはA3104のアルミニウム合金板であって、205℃×20分ベーキング後の0.2%耐力が255N/mm2~295N/mm2の範囲のものが用いられ、より好ましくは265N/mm2~284N/mm2の範囲のものが用いられる。
【0034】
次に、このカップ状素材にDIプレス機によるDIプレス工程においてパンチによって再絞りおよびしごき加工を施して缶軸C方向に延伸することにより、外周部に上記缶軸Cを中心とした円筒部12が形成されるとともに、底部3には缶本体1と同様のドーム部4と環状凸部5が形成された、
図3に示すような有底円筒体11を成形する。
【0035】
この有底円筒体11および缶本体1の底部3のドーム部4における上記缶軸C上の厚さは、カッピングプレス工程においてカップ状素材に成形される金属板の元板厚と略等しく、また環状凸部5の突端5d周辺が缶軸Cに沿った断面においてなす凸円弧の缶本体1内部における半径R(mm)は、上記パンチの先端が缶軸Cに沿った断面においてなす凸円弧の半径(パンチR)と略等しい。
【0036】
また、この有底円筒体11の上記円筒部12は、その外径(直径)が缶本体1の胴部2の外径と略等しい一定外径とされる。さらに、この円筒部12の底部3側の部分は上述のように肉厚が薄くされた薄肉部であるウォール部13とされるとともに、底部3とは反対の上端側(
図3において下側)の部分は、同じく上述のようにウォール部13よりも肉厚とされたフランジ部14とされている。
【0037】
ここで、このような厚さの異なるウォール部13とフランジ部14とを円筒部12に形成するには、上述のようにDIプレス機において複数のしごきダイスとの間でしごき加工を行うパンチの外表面のフランジ部14と対応する位置に、肉厚の差を考慮した深さの凹部を形成しておけばよい。また、缶本体1の底部3の内壁部5aにはボトムリフォーム加工が施されて上述のような凹部5bが形成される。
【0038】
このように成形された有底円筒体11は、トリマーによるトリミング工程において円筒部12の上端縁が所定のトリム代で切断されて高さが揃えられてから、第1の洗浄工程において洗浄、乾燥され、次に塗装工程において内外面に塗装が施されて焼き付けられる。
さらに、塗装が施された有底円筒体11は、ボトルネッカーによるボトルネック成形工程において、円筒部12のうちフランジ部14の範囲が縮径されて上記肩部2cが形成されるとともに、エキスパンディング工程において上記蓋体取付部2dが形成され、炭酸飲料等の内容物が充填された後に蓋体が巻き締めされて取り付けられる。
【0039】
このようにして成形されて製造される上記構成の缶体においては、上述のように缶本体1の内部に、無負荷の状態から706kPaの内圧を作用させたときの環状凸部5の最も缶軸C方向下端側に突出した突端5dの缶軸C方向下端側への突出変形量であるボトムグロース量が、
図4に示すように1.0mm~2.0mmの範囲内とされている。つまり、内容物が充填された充填済缶を搬送するためのシュートに詰まりを生じさせない範囲で、環状凸部5にある程度のボトムグロースが許容されている。
【0040】
このため、缶本体1の上端開口部の蓋体取付部2dに蓋体が取り付けられて密封された缶本体1に内圧が作用しても、缶本体1の底部3の環状凸部5がボトムグロースすることにより、この内圧を吸収することができるので、蓋体に作用する内圧を軽減することができる。従って、上記構成の缶体によれば、このような内圧によって蓋体にバックリングが発生するのを抑制することが可能となる。
【0041】
ここで、このような缶本体1の底部3における環状凸部5のボトムグロース量を測定するには、
図3に示すように底部3を上向きにして有底円筒体11の上端開口部を気密に密封し、内部に圧縮空気等を供給して706kPaに内圧を上昇させながら、底部3の環状凸部5における突端5dのボトムグロース量(突出変形量)を変位計21によって測定すればよい。なお、有底円筒体11の底部を下向きや横向きにして測定してもよく、また肩部2cと蓋体取付部2dが成形された缶本体1において突端5dのボトムグロース量を測定してもよい。
【0042】
ここで、缶本体1の内部に706kPaの内圧を作用させたときの環状凸部5のボトムグロース量が1.0mmを下回ると、缶本体1による内圧の吸収が不十分となるため、蓋体のバックリングを防止することができない。また、これとは逆に、缶本体1の内部に706kPaの内圧を作用させたときの環状凸部5のボトムグロース量が2.0mmを上回ると、缶本体1に内容物が充填されて蓋体が取り付けられた充填済缶を搬送するためのシュートに詰まりが発生するおそれがある。なお、706kPaは、
図1に示すような206口径の缶体の耐圧保証値である。
【0043】
また、本実施形態では、缶本体1の内部に、無負荷の状態から686kPaの内圧を作用させたときの環状凸部5のボトムグロース量が、0.89mm~1.71mmの範囲内とされるとともに、缶本体1の内部に、無負荷の状態から618kPaの内圧を作用させたときの環状凸部5のボトムグロース量は、0.55mm~1.29mmの範囲内とされており、内圧の増加に対するボトムグロース量の増加の割合が安定している方ので、環状凸部5に無理な応力が作用するのを避けることができる。
【0044】
すなわち、686kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量や、618kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量が上記範囲よりも小さいと、706kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量が1.0mm~2.0mmの範囲内となるには環状凸部5の突端5dが急激に突出変形することになり、応力が集中する。また、686kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量や、618kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量が上記範囲よりも大きいと、無負荷の状態からこれらの内圧に至るまでに環状凸部5の突端5dが急激に突出変形することになるので、やはり応力の集中を招く。
【0045】
また、上記実施形態の缶体は、缶本体1の底部3のドーム部4における缶軸C上の厚さが0.270mm~0.290mmの範囲内とされている。このような缶体の缶本体1においては、この缶本体1の底部3のドーム部4における缶軸C上の厚さが、缶本体1に成形される前の板材の厚さに略等しくなり、このような薄肉の板材から成形される缶本体1において、上述のように環状凸部5のボトムグロース量を制御することによって蓋体のバックリングを抑制することで、缶本体1に成形される金属材料の省資源化や省エネルギー化を図るのに有効である。
【0046】
さらに、本実施形態では、上記環状凸部5の突端部5cが、缶軸Cに沿った断面において上記突端5dの周辺が缶軸C方向下端側に凸となる凸円弧状に形成されており、この凸円弧の缶本体1内部における半径(パンチR)をR(mm)、突端5dが缶軸C回りになす円の直径(接地径)をD(mm)、ボトムリフォーム加工によって環状凸部5の内壁部5aに形成された凹部5bの缶軸Cに対する径方向の外周側に最も凹んだ底5eが缶軸C回りになす円の直径(ボトムリフォーム内径)をd(mm)、この底5eの部分から環状凸部5の突端5dに至る間で突端部5cが最も缶軸C側に突出した位置における缶軸Cに対する半径方向の缶本体1の底部3の肉厚をt(mm)としたときに、(D-2×(R+t)-d)/2の絶対値で表されるボトムリフォーム深さeが、0.680mm~1.085mmの範囲内とされている。
【0047】
このため、環状凸部5における座屈強度や耐圧強度を損なうことなく、確実にボトムグロース量を1.0mm以上の1.0mm~2.0mmの範囲内として、蓋体のバックリングを抑えることができる。すなわち、このボトムリフォーム深さeが1.085mmを上回ると、缶本体1の底部3における環状凸部5の延伸性が損なわれて、ボトムグロース量を1.0mm以上の1.0mm~2.0mmの範囲内とすることができなくなるおそれがある一方、逆にボトムリフォーム深さeが0.680mmを下回ると、環状凸部5における耐圧強度が損なわれるおそれがある。
【実施例0048】
次に、本発明の実施例を挙げて、本発明の効果について説明する。本実施例では、
図1に示したような缶本体1の底部3の環状凸部5における上記突端5dから蓋体取付部2dの上端開口部までの缶高さH1が122.2mm、突端5dから肩部2cの下端までの高さH2が102.2mm、肩部2cの上端までの高さH3が118mm、胴部2の内径Aが66.3mm、蓋体取付部2dの内径Bが57.3mm、蓋体取付部2dの缶軸Cに対する径方向外周側への張り出し量Eが2.25mm、この蓋体取付部2dが張り出した部分の缶軸Cに沿った断面における半径rが1.8mm、突端5dが缶軸C回りになす円の直径(接地径)Dが48mmの缶体を元板厚0.285mmのアルミニウム合金材から成形した。
【0049】
本実施例では、このような缶本体1の底部3における環状凸部5の内壁部5aに、異なる大きさの凹部5bが形成されるようにボトムリフォーム加工を施し、凹部5bの缶軸Cに対する径方向の外周側に最も凹んだ底5eが缶軸C回りになす円の直径(ボトムリフォーム内径)dとボトムリフォーム深さeが異なる6種の缶体を100缶ずつ製造し、
図3に示したような測定方法によりボトムグロース量を測定した。これらを実施例1~6とする。
【0050】
なお、これら実施例1~6において、胴部2のウォール部2aの厚さ(ウォール厚)は0.101mmであり、フランジ部2bの厚さ(フランジ厚)は0.161mm、缶本体1の質量は11.7gであって、突端部5cの突端5d周辺が缶軸Cに沿った断面においてなす凸円弧の缶本体1内部における半径は、パンチの先端半径(パンチR)と等しく1.2mmであった。
【0051】
実施例1~6では、このような缶体の内部に内容物を充填した後に蓋体を取り付けて充填済缶を製造し、60℃で10分~40分の滞留試験で蓋体のバックリングの有無を確認すするとともに、充填済缶を搬送するためのシュートにおける詰まりを確認した。なお、内容物はガスボリューム(GV)3.0のウイスキーの炭酸水割り(ハイボール)であり、蓋体の耐圧強度は740kPaであった。これら実施例1~3の諸元を、缶本体1の耐圧強度、座屈強度、ボトムグロース量、蓋体の耐圧強度とともに表1に示す。
【0052】
また、これら実施例1~6に対する比較例として、実施例1~6と等しい0.285mmの元板厚のアルミニウム合金から実施例1~6と略等しい外形寸法の缶体を100缶成形してボトムグロース量を測定した。これを比較例1とする。ただし、この比較例1のボトムリフォーム内径dとボトムリフォーム深さeは、実施例1~6よりも大きい。
【0053】
さらに、実施例1~6および比較例1よりも厚い0.335mmの元板厚のアルミニウム合金から実施例1~6および比較例1と略等しい外形寸法の缶体を100缶成形してボトムグロース量を測定した。これを比較例2とする。ただし、この比較例2には、ボトムリフォーム加工は施されていない。
【0054】
さらにまた、実施例1~6および比較例1と等しい0.285mmの元板厚のアルミニウム合金から実施例1~6と略等しい大きさの缶体を100缶成形してボトムグロース量を測定した。これを比較例3とする。ただし、この比較例3においても、ボトムリフォーム加工は施されていない。
【0055】
そして、これら比較例1~3においても、実施例1~6と同様の内容物を充填して蓋体を取り付けて充填済缶を製造し、同一の条件により蓋体のバックリングの有無と内容物が充填された充填済缶を搬送するシュートにおける詰まりを確認した。これら比較例1~3についても、その諸元を、缶本体の耐圧強度、座屈強度、ボトムグロース量、蓋体の耐圧強度とともに表1に示す。なお、表1に示した諸元等は、実施例1~6および比較例1~3ともに、各100缶の缶体および充填済缶の平均値である。
【0056】
【0057】
この表1において、缶本体1に706kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量が1.0mm~2.0mmの範囲内とされるとともに、686kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量が0.89mm~1.71mmの範囲内とされ、さらに618kPaの内圧を作用させたときのボトムグロース量が0.55mm~1.29mmの範囲内とされた実施例1~6の缶体では、元板厚0.285mmと薄肉化されていても、100缶の缶体から製造された充填済缶のうち蓋体のバックリングが生じたものはなく、また内容物が充填された充填済缶を搬送するシュートでの詰まりもなかった。
【0058】
これに対して、ボトムグロース量が1.0mmよりも小さい0.92mmである比較例1では、100缶の缶体のうち10缶に蓋体のバックリングが認められた。また、元板厚が0.335mmと厚い比較例2では、蓋体のバックリングは認められなかったものの、缶本体の質量が13.3gと実施例1よりも1g以上重く、缶本体に成形される金属材料(アルミニウム合金材)の省資源化や省エネルギー化を図ることはできない。なお、これら比較例1、2では、シュートにおける詰まりはなかった。
【0059】
一方、比較例3では、蓋体のバックリングは認められなかったものの、ボトムグロース量が3mm以上と大きかったため、缶体に内容物を充填して蓋体を取り付けた充填済缶を搬送するシュートにおいて詰まりが頻発した。
上記缶本体の底部の上記ドーム部における上記缶軸上の厚さが、0.270mm~0.290mmの範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の缶体。