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特開2024-45478粒子の純化方法、単一粒子分注方法、及び細胞クラスター解析方法、並びそれに用いる装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045478
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】粒子の純化方法、単一粒子分注方法、及び細胞クラスター解析方法、並びそれに用いる装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/149 20240101AFI20240326BHJP
   G01N 15/14 20240101ALI20240326BHJP
   G01N 15/1409 20240101ALI20240326BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240326BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20240326BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G01N15/149
G01N15/14 C
G01N15/1409 100
G01N33/53 Y
G01N35/10 A
G01N37/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017971
(22)【出願日】2024-02-08
(62)【分割の表示】P 2020141895の分割
【原出願日】2020-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】505281023
【氏名又は名称】株式会社オンチップ・バイオテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】武田 一男
(72)【発明者】
【氏名】石毛 真行
(72)【発明者】
【氏名】藤村 祐
(72)【発明者】
【氏名】稲生 崇秀
(72)【発明者】
【氏名】森下 祐至
(72)【発明者】
【氏名】大澤 宏典
(72)【発明者】
【氏名】津田 宗一郎
(57)【要約】
【課題】本発明の1つの目的は、高濃度の粒子から短時間で目的粒子を純化する方法又は装置を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明の目的粒子を純化する方法であって、高濃度の目的外粒子の中から目的粒子をソーティングする工程を含み、前記ソーティング工程を3回以上繰り返すことを特徴とする粒子の純化方法によって、解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的粒子を純化する方法であって、高濃度の目的外粒子の中から目的粒子をソーティングする工程を含み、前記ソーティング工程を3回以上繰り返すことを特徴とする粒子の純化方法。
【請求項2】
目的粒子を純化する方法であって、高濃度の目的外粒子の中から目的粒子をソーティングする工程において、最初の目的外粒子の濃度が10個/mL以上の条件で、繰り返しソーティングを行うことを特徴とする粒子の純化方法。
【請求項3】
最初の目的粒子を含む総粒子数が10個以上である、請求項1又は2に記載の粒子の純化方法。
【請求項4】
前記粒子が細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粒子の純化方法。
【請求項5】
前記目的粒子が蛍光染色されており、1回以上のソーティング工程の後に、目的外の粒子を蛍光染色し、その後のソーティング工程を行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の粒子の純化方法。
【請求項6】
粒子1個の分取のためのソーティング工程を、更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の粒子の純化方法。
【請求項7】
単一粒子の分注方法であって、1個の粒子のソーティングごとに流路に接続した回収リザーバーに分取し、その回収リザーバーから粒子を他の容器に分注する工程を含むことを特徴とする、単一粒子分注方法。
【請求項8】
目的粒子の繰り返しソーティングが可能な、目的粒子を純化する装置であって、
前記装置は、試料液に含まれる粒子を分離するための流路チップを含み、
前記流路チップは、透明基板中に流路が形成され、そして前記流路と流体接続する試料液リザーバー、シース液リザーバー、ソーティングリザーバー、回収リザーバー、及び廃液リザーバーが形成され、そして流路内の液の流れは、各リザーバーの上部の気圧で制御され、
前記流路チップは、前記試料液リザーバーからの導入用流路と、その両側に配置された1対のシース液導入流路とが合流する合流流路を有し、その合流流路の下流には粒子を検出するための光照射領域を有し、さらにその下流には、前記合流流路の側方から接続する対向する一対の分岐流路を備え、前記1対の分岐流路の一方にはソーティングリザーバーが接続しており、分岐流路の他方には回収リザーバーが接続しており、回収リザーバーの上部は大気圧解放可能であり、前記試料液リザーバーは大気圧解放可能であり、そして
前記流路チップは、繰り返しソーティング時に、横移動可能であり、そして各リザーバー間の液移動、各リザーバーから外部への液移動、各リザーバーへの外部からの液追加をリザーバー上部から行うように構成されていることを特徴とする、目的粒子純化装置。
【請求項9】
目的粒子のソーティングが可能な、目的粒子を単一で分注する装置であって、
前記装置は、試料液に含まれる粒子を分離するための流路チップを含み、
前記流路チップは、透明基板中に流路が形成され、そして前記流路と流体接続する試料液リザーバー、シース液リザーバー、ソーティングリザーバー、回収リザーバー、及び廃液リザーバーが形成され、そして流路内の液の流れは、各リザーバーの上部の気圧で制御され、
前記流路チップは、前記試料液リザーバーからの導入用流路と、その両側に配置された1対のシース液導入流路とが合流する合流流路を有し、その合流流路の下流には粒子を検出するための光照射領域を有し、さらにその下流には、前記合流流路の側方から接続する対向する一対の分岐流路を備え、前記1対の分岐流路の一方にはソーティングリザーバーが接続しており、分岐流路の他方には回収リザーバーが接続しており、回収リザーバーの上部は大気圧解放可能であり、
1個の目的粒子の回収リザーバーへのソーティング後にソーティングを停止し、回収リザーバーから1個の目的粒子を他の容器に分注する構成を含む、目的粒子分注装置。
【請求項10】
前記単一粒子の分注方法において、前記粒子がフッ素系オイル中のエマルジョン液滴であり、回収リザーバーにフッ素系オイル及びミネラルオイルが事前に含まれており、目的のエマルジョン液滴を蛍光信号に基づいて分取し、エマルジョン液滴を1個単位で回収リザーバーに取り込み、そして回収リザーバー底面から浮上させ、回収リザーバーのフッ素系オイルとミネラルオイルとのドーム状界面にエマルジョン液滴をトラップし、上部からエマルジョン液滴を吸い上げて、外部の容器に分注する請求項7に記載の単一粒子分注方法。
【請求項11】
フローサイトメーターのデータ解析方法であって、個々の細胞で検出した前方方向の散乱光信号強度と前方以外の散乱光信号強度との比率を求めて、その数値によって、個々の細胞が単一細胞か細胞クラスターかを識別することを特徴とする細胞クラスター解析方法。
【請求項12】
目的細胞が血中循環腫瘍細胞であり、血中循環腫瘍細胞が蛍光染色され、蛍光信号との組み合わせによって、クラスター又は単一細胞の血中循環腫瘍細胞を解析する、請求項11に記載のクラスター解析方法。
【請求項13】
フローサイトメーター装置であって、複数の方向の散乱光信号の比率をもとめ、その数値を用いて、単一細胞か細胞クラスターかを識別する細胞クラスター解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子の純化方法、単一粒子分注方法、及び細胞クラスター解析方法、並びそれに用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の夾雑細胞中の特定の細胞を検出し、遺伝子解析などを行うためには、粒子1個ごとに分注が必要となる。本発明は、総細胞数が10個程度から数100個程度の細胞を純化する方法、又は分注する方法に関する。また、応用例として、がん患者の血液中を流れている血中循環腫瘍細胞の分取も含む。従って、異なる患者間の細胞のコンタミネーションフリーを実現する使い捨て交換型チップを利用する粒子の分取および分注技術に関する。なお、本明細書において、粒子には、細胞、又はオイル中液滴を含む粒子などが含まれる。
【0003】
セルソーティング及びその後の分注技術に関する、従来技術及びその課題について記述する。
【0004】
(1)従来型のJet in Air方式セルソーター技術
非特許文献1に記述されるように、ノズルから液滴を形成して、液滴中に含まれる細胞を液滴単位で分取するJet in Air方式である。
【0005】
(2)マイクロ流路中によるセルソーティング技術
マイクロ流路によるソーティングにおけるソーティング速度は、1000個/秒以下程度と遅い。しかし、複数の流路を利用して並列処理でスループットを向上させる技術、及び処理後の細胞を流路に戻して、再度処理し、ソーティング純度を向上する技術が、特許文献1に記載されている。
特許文献2には、流路チップが複数のソーティング部を有し、それぞれの処理を連続して実施することによって、ソーティング純度を向上する技術が記載されている。特許文献3には、リザーバー付きマイクロ流路チップを用いて、細胞群から不要な細胞をソーティングで除去し、残った細胞を再度上流のサンプルリザーバーに戻して、ソーティング処理を行う方法が記載されている。
特許文献3には、リザーバーを有するマイクロ流路チップにおける、パルス流によるソーティング技術が記載されている。さらに、特許文献4には、マイクロ流路チップにおいて、不要な細胞をソーティングで除去し、残った細胞液を廃液リザーバーから回収し、そして上流のサンプルリザーバーに戻し、ネガティブソーティングを繰り返す方法(繰り返しネガティブソーティング法)が記載されている。
【0006】
(3)単一細胞分注技術
必要に応じて、ソーティングされた細胞は、1個単位でマルチウエルプレートに分注されることがある。この技術と課題について記載する。夾雑細胞中に含まれる目的の細胞を選別してマルチウエルプレートに細胞を分注するための方法として、Jet in Air方式セルソーターで分取した液滴を、直接にマルチウエルプレートに分注する方法が、非特許文献2で記載されている。画像認識で目的の細胞を識別して、ピエゾ圧力で、マルチウエルプレートに液滴として分注する方法が、特許文献5に記載されている。この方法の課題は、ピエゾ圧力を用いた場合、吐出可能な液滴のサイズに限界があることである。分注したい細胞を懸濁液からピペットで吸い上げ、ピペット内部を撮影して、細胞が1個入っていると認識した場合に、分注する技術が特許文献6に記載されている。
【0007】
(4)エマルジョン液滴の分注技術
単一細胞の分注技術は、上述の通り複数の技術が存在する。しかし、オイル中のエマルジョン粒子を分注する場合、オイル中で液滴が沈降するエマルジョン粒子は、細胞と同じように分注が可能である。しかし、ドロップレットデジタルPCR又はシングルセル発現解析で利用されるフッ素系オイルは比重が大きい。従って、オイル中でエマルジョン液滴が浮上するため、上から落下させることにより、分注することが困難である。フッ素系オイル中のエマルジョン液滴を分注する方法が、特許文献7に記載されている。
【0008】
(5)フローサイトメトリーによる細胞解析技術
非特許文献3に、従来のフローサイトメトリーの技術と解析方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6976590号明細書
【特許文献2】米国特許第8993311号明細書
【特許文献3】国際公開2012/067259号
【特許文献4】国際公開WO2016/182034号
【特許文献5】国際公開2011/154042号
【特許文献7】国際公開2018/052137号
【特許文献8】英国特許2566002号明細書
【特許文献6】米国特許第07268167号明細書
【特許文献7】米国特許第09,500,664号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】FACS Aria IIIパンフレット
【非特許文献2】SONY SH800Sパンフレット
【非特許文献3】https://ls.beckmancoulter.co.jp/files/appli_note/Couter_Practical_Flow_Cytometry.pdf
【非特許文献4】Szczerba, B.M. et al., Nature volume 566, pages 553-557(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
(1)従来型のJet in Air方式セルソーティング技術の課題
Jet in Air方式セルソーターのソーティング速度は、数10/秒と高速である。しかし、液滴中に含まれる細胞数は、1個以下でなければならない。Jet in Air方式では、大気中に高速で形成された液滴が放出される。液滴の放出直前に、目的細胞を含む液滴は電荷を付加され、電場によって飛び出す方向が変わり、回収される。この方法は、液滴が、高速で大気中から回収チューブの壁面に衝突するため、細胞のダメージが大きい。従って、1回のソーティング処理で、十分な純度で細胞を回収する必要がある。すなわち、1回の処理によって十分な純度を得るためには、細胞の希釈が必要である。従って、細胞数が多くなれば、処理時間が長くなる。ソーティング速度が30000回/秒とした場合において、ソーティング後の純度を98%以上とするための処理時間を、ポアッソン分布解析により求めた結果を図1にまとめた。図1から、総細胞数が10個の場合の処理時間は、30時間であり、非現実的である。このように総細胞数が多い場合は、希釈が必要であり、処理時間が長くなるという課題がある。
【0012】
(2)従来のマイクロ流路によるセルソーティング技術の課題
マイクロ流路によるソーティングは、ソーティング後に、流路チップ内に細胞が残存しやすい。従って、ソーティングを繰り返す場合は、流路チップ内に残存する夾雑細胞が、最終的な純度に大きく影響するという課題がある。
【0013】
(3)単一細胞分注技術の課題
Jet in Air方式セルソーターで分取した液滴を直接にマルチウエルプレートに分注する方法では、大気中において、液滴単位でマルチウエルプレートをステップアンドリピートで移動させて異なるウエルに分注する。しかしながら、目的細胞のソーティングイベント間の時間が、分注先のマルチウエルプレートの移動時間より短い場合は、目的細胞が分注されないという課題がある。さらに、分注可能な細胞のサイズは、ノズルから液滴を形成するため、大きさの制限がある。従って、ソーティング可能な細胞のサイズは、ソーティングされる液滴のサイズ以下に限定される。また、分注したい細胞をふくむ懸濁液から、細胞をピペットで吸い上げ、そして画像認識で細胞が1個だけ存在することを確認してから分注する方式においては、分注時間が長いためスループットが小さいという課題がある。
【0014】
(4)エマルジョン粒子の分注技術の課題
フッ素系オイル中のエマルジョン液滴は、フッ素系オイルが水より比重が大きいため、液滴が浮上する。しかも、樹脂容器においては、フッ素系オイルの上部の容器の壁面側に液滴が移動する性質がある。従って、エマルジョン液滴を、1個単位で、ピペットで吸い上げ、そして吐き出して分注することは不可能である。
【0015】
(5)エマルジョン形成方法の課題
フッ素系オイル中で、エマルジョン液滴を形成する方法において、マイクロ流路チップ上に形成されたリザーバーを利用して、エマルジョン液滴を回収する方法の課題は、以下のとおりである。すなわち、回収リザーバー内のエマルジョン量が多くなり、そしてフッ素系オイルの液面が高くなる場合、オイルの質量に由来するオイルを逆流させる方向の力が発生する。そのため液面が高くなるにつれて流速が遅くなるという課題がある。
【0016】
(6)フローサイトメトリーのクラスター細胞解析の課題
現在のフローサイトメトリーによる解析においては、多数の細胞データに由来する分布が前提となっている。従って、1個の細胞のデータにおいて、その細胞が大きな細胞なのか、複数の細胞の塊なのかを判定することが不可能であり、定量的に判断することも不可能である。非特許文献3によると、細胞のデータは、2次元散布図上での相対的な細胞集団位置の解析であって、定量的な数値の閾値に基づく判断基準がないという課題がある。具体的には、前記の繰り返しソーティングにより得られる血液中の数個の循環腫瘍細胞(CTC)が、1個の大きな細胞なのか、それとも複数の細胞のクラスター中のCTCなのかを数値に基づいて迅速に識別計数する技術が必要である。その理由は、好中球クラスター中のCTCは、がん患者の予後を短くすることが報告されているからである(非特許文献4)。
従って、本発明の1つの目的は、高濃度の粒子から短時間で目的粒子を純化する方法又は装置を提供することである。また、本発明の別の目的は、単一粒子の確実な分注方法又は装置を提供することである。更に、本発明の別の目的は、フッ素オイル中のエマルジョン液滴を確実に分注する方法を提供することである。更に、本発明の別の目的は、フローサイトメーターにおいて解析された細胞が単一細胞であるか、細胞クラスターであるかを判断できる方法又は装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、高濃度の粒子から短時間で目的粒子を純化する方法又は装置について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、高濃度の粒子を繰り返しソーティングすることにより、短時間で目的粒子を純化できることを見出した。また、本発明者らは、単一粒子の確実な分注方法又は装置について、意研究した結果、驚くべきことに、1個の粒子のソーティングごとに流路に接続した回収リザーバーに分取し、その回収リザーバーから粒子を他の容器に分注することによって、単一粒子を確実に分注できることを見出した。更に、本発明者らは、フッ素オイル中のエマルジョン液滴を確実に分注する方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、フッ素系オイル及びミネラルオイルを使用することにより、フッ素オイル中のエマルジョン液滴を確実に分注できることを見出した。更に、本発明者らは、フローサイトメーターにおいて解析された細胞が単一細胞であるか、細胞クラスターであるかを判断できる方法又は装置について、意研究した結果、驚くべきことに、前方方向の散乱光信号強度と前方以外の散乱光信号強度との比率を求めることによって、単一細胞と、細胞クラスターとを容易に判別できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]目的粒子を純化する方法であって、高濃度の目的外粒子の中から目的粒子をソーティングする工程を含み、前記ソーティング工程を3回以上繰り返すことを特徴とする粒子の純化方法、
[2]目的粒子を純化する方法であって、高濃度の目的外粒子の中から目的粒子をソーティングする工程において、最初の目的外粒子の濃度が10個/mL以上の条件で、繰り返しソーティングを行うことを特徴とする粒子の純化方法、
[3]最初の目的粒子を含む総粒子数が10個以上である、[1]又は[2]に記載の粒子の純化方法、
[4]前記粒子が細胞である、[1]~[3]のいずれかに記載の粒子の純化方法、
[5]前記目的粒子が蛍光染色されており、1回以上のソーティング工程の後に、目的外の粒子を蛍光染色し、その後のソーティング工程を行う、[1]~[4]のいずれかに記載の粒子の純化方法、
[6]粒子1個の分取のためのソーティング工程を、更に含む、[1]~[5]のいずれかに記載の粒子の純化方法、
[7]単一粒子の分注方法であって、1個の粒子のソーティングごとに流路に接続した回収リザーバーに分取し、その回収リザーバーから粒子を他の容器に分注する工程を含むことを特徴とする、単一粒子分注方法、
[8]目的粒子の繰り返しソーティングが可能な、目的粒子を純化する装置であって、
前記装置は、試料液に含まれる粒子を分離するための流路チップを含み、
前記流路チップは、透明基板中に流路が形成され、そして前記流路と流体接続する試料液リザーバー、シース液リザーバー、ソーティングリザーバー、回収リザーバー、及び廃液リザーバーが形成され、そして流路内の液の流れは、各リザーバーの上部の気圧で制御され、前記流路チップは、前記試料液リザーバーからの導入用流路と、その両側に配置された1対のシース液導入流路とが合流する合流流路を有し、その合流流路の下流には粒子を検出するための光照射領域を有し、さらにその下流には、前記合流流路の側方から接続する対向する一対の分岐流路を備え、前記1対の分岐流路の一方にはソーティングリザーバーが接続しており、分岐流路の他方には回収リザーバーが接続しており、回収リザーバーの上部は大気圧解放可能であり、前記試料液リザーバーは大気圧解放可能であり、そして前記流路チップは、繰り返しソーティング時に、横移動可能であり、そして各リザーバー間の液移動、各リザーバーから外部への液移動、各リザーバーへの外部からの液追加をリザーバー上部から行うように構成されていることを特徴とする、目的粒子純化装置、
[9]目的粒子のソーティングが可能な、目的粒子を単一で分注する装置であって、前記装置は、試料液に含まれる粒子を分離するための流路チップを含み、前記流路チップは、透明基板中に流路が形成され、そして前記流路と流体接続する試料液リザーバー、シース液リザーバー、ソーティングリザーバー、回収リザーバー、及び廃液リザーバーが形成され、そして流路内の液の流れは、各リザーバーの上部の気圧で制御され、前記流路チップは、前記試料液リザーバーからの導入用流路と、その両側に配置された1対のシース液導入流路が合流する合流流路を有し、その合流流路の下流には粒子を検出するための光照射領域を有し、さらにその下流には、前記合流流路の側方から接続する対向する一対の分岐流路を備え、前記1対の分岐流路の一方にはソーティングリザーバーが接続しており、分岐流路の他方には回収リザーバーが接続しており、回収リザーバーの上部は大気圧解放可能であり、1個の目的粒子の回収リザーバーへのソーティング後にソーティングを停止し、回収リザーバーから1個の目的粒子を他の容器に分注する構成を含む、目的粒子分注装置、
[10]前記単一粒子の分注方法において、前記粒子がフッ素系オイル中のエマルジョン液滴であり、回収リザーバーにフッ素系オイル及びミネラルオイルが事前に含まれており、目的のエマルジョン液滴を蛍光信号に基づいて分取し、エマルジョン液滴を1個単位で回収リザーバーに取り込み、そして回収リザーバー底面から浮上させ、回収リザーバーのフッ素系オイルとミネラルオイルとのドーム状界面にエマルジョン液滴をトラップし、上部からエマルジョン液滴を吸い上げて、外部の容器に分注する[7]に記載の単一粒子分注方法、
[11]フローサイトメーターのデータ解析方法であって、個々の細胞で検出した前方方向の散乱光信号強度と前方以外の散乱光信号強度との比率を求めて、その数値によって、個々の細胞が単一細胞か細胞クラスターかを識別することを特徴とする細胞クラスター解析方法、
[12]目的細胞が血中循環腫瘍細胞であり、血中循環腫瘍細胞が蛍光染色され、蛍光信号との組み合わせによって、クラスター又は単一細胞の血中循環腫瘍細胞を解析する、[11]に記載のクラスター解析方法、及び
[13]フローサイトメーター装置であって、複数の方向の散乱光信号の比率をもとめ、その数値を用いて、単一細胞か細胞クラスターかを識別する細胞クラスター解析装置、
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の粒子の純化方法及び装置によれば、従来型のJet in Air方式セルソーティング技術の課題を解決することができる。すなわち、高濃度の粒子から短時間で目的粒子を純化することが可能であり、例えば総細胞数が10個の目的外細胞から、目的細胞を数時間以内に分取することができる。また、別の態様によれば、従来のマイクロ流路におけるセルソーティング技術の課題を解決することができる。すなわち、繰り返しソーティングを行う場合の自動動作において、流路チップ内に残存する細胞の除去洗浄を、何回でも組み込むことができる。
本発明の単一粒子分注方法及び装置によれば、単一細胞分注技術の課題を解決することができる。すなわち、本発明の単一粒子分注方法及び装置によれば、単一粒子を確実に分注することができる。具体的には、目的細胞のソーティングイベント間の時間が分注先のマルチウエルプレートの移動時間より短い場合は、目的細胞が分注されないという課題を解消することができる。
本発明の単一粒子分注方法及び装置によれば、フッ素系オイル中のエマルジョン粒子の分注技術の課題を解決することができる。すわなち、フッ素オイル中のエマルジョン液滴を確実に分注することができる。具体的には、フッ素系オイルが水より比重が大きいので液滴が浮上し、浮上後に樹脂壁面への吸着現象によりピペットで吸い上げることが困難であるという課題を解決することができる。更に、回収リザーバー内のエマルジョン量が多くなり、そしてフッ素系オイルの液面が高くなる場合、オイルの質量に由来するオイルを逆流させる方向の力が発生するという課題を解決できる。
本発明のデータ解析方法によれば、フローサイトメトリーのクラスター細胞解析の課題を解決できる。すなわち、個々の検出した細胞または細胞塊に対して、その細胞が大きな単独の細胞なのか、複数の細胞の塊なのかを定量的数値に戻づいて判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】Jet in Air方式のセルソーターによって、ソーティング速度を30000回/秒とした場合に、目的細胞の純度を98%以上とするための処理時間を、ポアッソン分布解析により求めた結果を示した表である。
図2】Jet in Airソーティング(JS)と、本発明の粒子の純化方法による繰り返しソーティング(RS)とによって、目的細胞の純度を98%以上とするための処理時間を比較した表である。Jet in Airソーティングの速度は30000個/秒であり、本発明の繰り返しソーティングは1000個/秒である。
図3】本発明の粒子の純化方法に用いるチップの構造(A)、繰り返しソーティングの概念図(B)、及び白血球中にPC-9細胞を混在させて繰り返しソーティングを実施した結果を示すグラフ(C)である
図4】白血球中にPC-9細胞を10個添加し、ソーティング後に流路チップを新品に交換する場合と、同じチップを使いつづけた場合の、繰り返しソーティング回数による細胞の純化の程度を示した実験結果グラフ(A)、及びチップ内の白血球残存率(0%、0.3%、0.5%、0.7%、及び1.0%)における繰り返しソーティング回数による細胞の純化のシミュレーションを示したグラフ(B)である。グラフ(B)の白血球残存率が0%の場合が、新品チップ交換の場合の実験結果と一致する。
図5】流路チップの試料液ザーバー、シース液リザーバー、及び廃液リザーバーの内の空気圧制御において、リザーバーと装置内の空気圧制御系との気密接続のための構造(A)と自動的に大気圧開放を行う動作(B)を示した図である。
図6】大気圧開放後に各リザーバーへの分注ピペットのアクセスするための流路チップの横移動動作を示した図である。流路チップの横移動のほかに、分注ピペットの上下移動と平面移動の動作が必要である。
図7】本発明の繰り返しソーティングのための動作であって、流路チップの回収リザーバーから試料液リザーバーへの液体移送を示した図である。
図8】本発明の単一粒子分注方法における回収リザーバーから容器(マルチウエルプレート内の各ウエル)への分注を示した図(A)及び単一粒子分注方法のフローチャート(B)である。
図9】本発明の単一粒子分注方法を、繰り返しソーティングの後に行うフローチャートである。
図10】本発明のエマルジョン液滴の単一粒子分注方法の動作を示した図である。最初に、フッ素系オイルをシース液としてエマルジョン液滴を一個単位で流路チップ内の分岐流路に取り込み、次に分取したエマルジョン液滴を回収リザーバー内のフッ素系オイルとミネラルオイルの2種類のオイルのドーム型界面(図11の写真参照)にエマルジョン液滴をトラップさせて、最後にそれを回収リザーバーから装置外の容器に分注する。
図11】本発明の単一粒子分注方法において、ミネラルオイルがない場合に、エマルジョン液滴がプラスチック樹脂の壁面に吸着することを示した写真(A)、及びミネラルオイルを加えることによって、ミネラルオイルとフッ素系オイルとの界面がドーム状を形成し、エマルジョン液滴がドーム状の上部にトラップされることを示した写真(B)である。
図12】本発明の単一粒子分注方法において、分注前の回収リザーバーの底から、フッ素系オイルとミネラルオイルとのドーム状界面の上部内側にトラップされているエマルジョン液滴(直径40μm)を示した顕微鏡写真(A)、及びエマルジョン液滴を分注ヘッドのピペットで吸い上げ、384ウエルプレート内のウエルに、ミネラルオイルとフッ素系オイルとともに分注されたエマルジョン液滴の顕微鏡写真(B)である。
図13】フッ素系オイル中でエマルジョン液滴を形成する流路チップの構造(回収リザーバーの無い構造)の1つの態様を示した図であり、鉛直下チューブでエマルジョン液滴回収する方式の構造を示した図である。
図14】フッ素系オイル中でエマルジョン液滴を形成する流路チップの構造(回収リザーバーの無い構造)の1つの態様を示した図であり、水平方向チューブでエマルジョン液滴回収する方式の構造を示した図である。
図15】鉛直下チューブによる回収方式のエマルジョン形成流路チップを利用して、エマルジョン液滴を形成した場合の、液滴形成流路領域の写真(A)、及び液滴形成流路領域より下流の幅広流路領域の写真(B)である。
図16】サイトケラチン抗体染色及びヘキストによる核染色された、白血球、白血球クラスター、及びセルラインPC-9細胞との混合液のフローサイトメトリーデータである。
図17】サイトケラチン抗体染色及びヘキストによる核染色された、白血球、白血球クラスター、及びセルラインPC-9細胞との混合液のフローサイトメトリーデータのSSC/FSC値のヒストグラム分布(A)、白血球成分の顆粒球のSSC/FSC値のヒストグラム分布(B)、及び白血球クラスターのSSC/FSC値のヒストグラム分布(C)である。
図18】がん患者の血液から分取したCTCのサイトケラチン蛍光信号強度とSSC/FSC値との2次元散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[1]粒子の純化方法
本発明の粒子の純化方法は、目的粒子を純化する方法である。高濃度の目的外粒子の中から目的粒子をソーティングする工程を含み、前記ソーティング工程を3回以上繰り返すことを特徴とする。
本明細書において、「粒子」は細胞を含む。また、「粒子」はエマルジョン液滴でもよい。エマルジョン液滴が細胞を含んでもよい。また、目的粒子とは、純化される粒子であり、目的外粒子とは、目的粒子とは異なりソーティングによって除去される粒子である。
【0021】
《ソーティング工程》
ソーティング工程は、3回以上実施されれば、回数は限定されるものではない。好ましくは、3回以上であり、より好ましくは4回以上である。上限は、特に限定されるものではないが、6回以下であり、より好ましくは5回以下である。
繰り返しソーティングに必要な回数は、1)初期サンプル液内の目的外の細胞数と2)目的細胞数と3)ソーティング後の目的外細胞の残存率、4)ソーティング後の目的細胞の回収率、5)最終の目的細胞の純度、によって変化する。例えば、目的外の細胞数が10個、目的細胞数が100個、ソーティング後の目的外細胞の残存率が1%、ソーティング後の目的細胞の回収率を95%、目的の最終純度を98%とすると、必要な繰り返しソーティング回数は4回必要と計算される。目的細胞が10個の場合の必要回数は5回となる。
【0022】
本発明の粒子の純化方法における、最初の目的外粒子の濃度(又は合計粒子の濃度)は、特に限定されるものではないが、例えば10個/mL以上であり、好ましくは10個/mL以上であり、より好ましくは2x10個/mL以上であり、更に好ましくは5x10個/mL以上であり、更に好ましくは7x10個/mL以上であり、更に好ましくは1x10個/mL以上であり、更に好ましくは2x10個/mL以上である。
ソーティング工程においては、繰り返すたびに目的外粒子が除去されるために、目的外粒子の濃度(又は合計粒子の濃度)は低下する。
【0023】
本発明の粒子の純化方法における総粒子数は特に限定されるものではないが、例えば10個以上であり、好ましくは10個以上であり、より好ましくは2x10個以上であり、更に好ましくは5x10個以上であり、更に好ましくは7x10個以上であり、更に好ましくは1x10個以上であり、更に好ましくは2x10個以上である。
【0024】
本発明の粒子の純化方法においては、限定されるものではないが、前記目的粒子が蛍光染色されており、1回以上のソーティング工程の後に、目的外の粒子を蛍光染色し、その後のソーティング工程を行うことができる。ソーティング工程の前に、目的粒子及び目的外粒子を蛍光染色により、特異的に染色して、ソーティングを行ってもよい。しかし、目的粒子のみを蛍光染色して、ソーティング工程を行うこともできる。本発明の純化方法においては、比較的高濃度の目的外粒子を用いる。従って、最初のソーティング前に目的外粒子の蛍光染色を行う場合は、大量の抗体を使用する必要がある。しかし、1回以上のソーティング工程の後に、目的外の粒子を蛍光染色すると、目的外の粒子数が減少しているので目的外粒子の蛍光染色するための抗体の使用量を減少させることができる。
【0025】
本発明の粒子の純化方法は、限定されるものではないが、粒子1個の分取のためのソーティング工程を、更に含むことができる。「粒子1個の分取」は、後述の「単一粒子分注方法」に従って実施することができる。
【0026】
本発明の粒子の純化方法によって、Jet in Air方式セルソーターにおける課題を解決できることを、数値シミュレーション結果を用いて説明する。
高濃度の細胞を含むサンプル液を、必要な純度までソーティングを繰り返す本発明の方法の処理時間と、高濃度の細胞を含むサンプル液を希釈して、ソーティングされる液滴中に1個の細胞のみが含まれる低濃度にして、1回のソーティング処理で必要な純度とするための処理時間とを、数値シミュレーションで比較した。図2は、Jet in Airソーティング(JS)と、本発明の繰り返しソーティング(RS)との処理時間の比較結果である。図1と同様に純度98%以上を得るまでの処理時間を、ポアッソン分布解析によって求めた。Jet in Airソーティングの速度は30000個/秒であり、一方、本発明の繰り返しソーティングは1000個/秒である。目的外細胞が10個の場合、Jet in Airソーティングの処理時間は、希釈によるサンプル液の体積増加のために30時間となる。一方、繰り返しソーティングの処理時間は、サンプル液を希釈する必要がなく、体積が少ないため、短時間で終了する。目的外細胞数が非常に多い場合の目的細胞を分取するソーティングの処理時間を短縮する方法において、1回のソーティングで単一の目的細胞が分取される必要はなく、複数の目的外細胞も偶然に分取される細胞濃度条件でも、ソーティングを繰り返すことによって必要な純度まで目的細胞を純化することができる。
【0027】
本発明の目的粒子純化装置は、目的粒子の繰り返しソーティングが可能な、目的粒子を純化する装置である。目的粒子純化装置は、試料液に含まれる粒子を分離するための流路チップを含み、前記流路チップは、透明基板中に流路が形成され、そして前記流路と流体接続する試料液リザーバー、シース液リザーバー、ソーティングリザーバー、回収リザーバー、及び廃液リザーバーが形成され、そして流路内の液の流れは、各リザーバーの上部の気圧で制御される。前記流路チップは、前記試料液リザーバーからの導入用流路と、その両側に配置された1対のシース液導入流路とが合流する合流流路を有し、その合流流路の下流には粒子を検出するための光照射領域を有し、さらにその下流には、前記合流流路の側方から接続する対向する一対の分岐流路を備え、前記1対の分岐流路の一方にはソーティングリザーバーが接続しており、分岐流路の他方には回収リザーバーが接続しており、回収リザーバーの上部は大気圧解放可能であり、前記試料液リザーバーは大気圧解放可能である。
前記流路チップは、繰り返しソーティング時に、横移動可能であり、そして各リザーバー間の液移動、各リザーバーから外部への液移動、各リザーバーへの外部からの液追加をリザーバー上部から行うように構成されている。
【0028】
前記繰り返しソーティングの手段について具体的に説明する。平板基板内に流路が形成された交換型流路チップと、前記流路を流れる試料液中の粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記粒子を識別し、目的粒子を検出する検出手段と、前記流路チップの前記流路を流れる前記試料液中の前記粒子に圧力パルスを与える手段として、定圧空気ポンプ(電空レギュレーターやシリンダーポンプなど)およびそれに接続された電磁バルブと、前記検出手段からの信号に基づいて前記電磁バルブの動作を制御する制御部と、を備える微粒子分離装置を用いる。前記流路チップには、試料液リザーバーが形成されており、リザーバーの上部の気体空間には、試料液の流速を制御するための陽圧の定圧空気ポンプが、試料液リザーバー用アダプターを介して気密に接続している。試料液リザーバーの底面には、前記試料液の導入用流路が接続している。交換型流路チップは、導入用流路の両側に配置された1対のシース液導入用流路と、前記試料液の導入用流路に上記1対のシース液導入用流路が合流した合流流路であって、該合流流路内で上記試料液を挟んで両側にシース液が流れる合流流路と、前記合流流路上にある光照射領域と、上記光照射領域より下流で上記合流流路に接続する1対の対向する分岐流路を備えている。前記1対の対向する分岐流路の一方には通常閉状態の電磁バルブ及び陽圧の定圧空気ポンプが、ソーティングリザーバーに、ソーティングリザーバー用アダプターを介して気密に接続している。分岐流路の他方側は、回収リザーバーが接続している。ただし、回収リザーバーの上部の空間は大気圧解放可能である。合流流路の下流には、廃液リザーバーが接続している。廃液リザーバーの上部気体空間には、大気圧より圧力が低い陰圧の定圧空気ポンプに、廃液リザーバーとチューブを接続するアダプターを介してチューブを通して気密に接続している。
【0029】
図3(A)は、試料液リザーバー(1)、回収リザーバー(2)、廃液リザーバー(3)、シース液リザーバー(4)、などのリザーバーを有する流路チップを示している。試料液リザーバーの試料液上部空間への、気体圧の一定時間の印加によって、底に接続する試料液導入流路(7)から試料液を押し出される。同様にシース液リザーバーのシース液の上部空間への気体圧の一定時間の印加によって、シース液を押し出される。合流した流れは、主流路(9)を流れる。主流路の途中で、光照射領域(検出領域)を通過する。粒子が前記光照射領域を通過したときに発生する光信号を検出し、前記制御部は、前記検出手段からの前記光信号に基づいて、前記粒子が分離すべき目的粒子か否かを判断する。分離すべき目的粒子(5)であると判断した場合に、その粒子がさらに主流路の下流の分岐流路と交差する領域に達するまでの遅延時間後に、上記電磁バルブに短時間のみ開状態とする信号を与える。これによって、パルス流を短時間だけ発生させて、目的粒子を、回収流路(10)を通して回収リザーバー(2)に取り込む。目的外粒子は、パルス流が発生しないので主流路(9)を直進して流路下流の廃液リザーバー(3)に流れ込む。廃液リザーバーの上部気体空間には、陰圧の定圧空気ポンプにチューブを介して気密に接続しており、大気圧より低く調整している。
【0030】
ソーティングを繰り返すことが、Jet in Air方式の課題を解決できることを説明する。最初のソーティングでは、試料液リザーバーに試料液をいれてその全量を処理した後は、試料液中の目的粒子のほとんどは回収リザーバーに回収される。しかしながら、回収リザーバー内には、目的粒子とともに偶然にパルス流を受けた目的外粒子も回収されてしまう。従って、純度が不十分であるので、再度ソーティングを行う。そこで、回収リザーバー内の粒子液全体を回収し、上流の試料液リザーバーに戻して、2回目のソーティングを行う。試料液リザーバーに回収リザーバー内の液を戻す前に、必要なことがある。試料液リザーバーの底に残存する粒子は、ソーティング処理前の目的外粒子の割合が非常に多い。従って、残存粒子を洗浄で除去したのちに、回収液を戻すことが重要である。この手順で2回目のソーティングを行う。3回目も試料液リザーバーの底に残存する粒子を洗浄したのちに行うことが重要である。目的の純度に達するまでに繰り返す。図3は、ソーティングを繰り返すことで、目的外細胞から目的細胞が次第に濃縮される様子を図示したものである。図3(C)は、繰り返しソーティング方法により10個の白血球中に意図的に混在させた100個以下のPC-9細胞の濃縮データである。ソーティング回数とともに白血球が減少するが、目的細胞の数が一定であり、PC9細胞の純度が、ソーティング回数ごとに100倍程度高まる(図3(C))。この処理時間は1時間以内であり、図2の目的細胞が100個であり、目的外細胞が10個の欄の値が実際の値に近いことがわかる。図4(A)のデータは、図3のデータでPC-9のスパイク数が10個の場合の純度(=PC-9数/(PC9数+白血球数)の繰り返しソーティング回数依存性である。流路チップを交換する場合と、同一チップを使いつづけた場合の両方をしめしている。交換した場合はソーティング2回で純度が90%に達するが、同一チップではソーティング3回目でも40%程度である。この原因は、チップ内の白血球残存数が純度を悪化させているためである。図4(B)は、チップ内の白血球残存率を変えた場合の最終純度をシミュレーションで導出した結果であり、残存率がゼロの場合は流路チップを交換した場合に対応して2回目で90%に達することが再現されている。同一チップを使った場合は残存率0.7%の場合がソーティング回数3回目で純度が40%と対応する。この残存率40%は、試料液リザーバーの底を洗浄して得られた結果であり、繰り返しソーティングには洗浄操作が好ましい。また、試料液が患者由来の検体である場合は、患者間のクロスコンタミネーションフリーのためには、流路チップを新品に交換できることが必要である。
【0031】
次に、繰り返しソーティングを自動化する手段について説明する。具体的には、従来のマイクロ流路中におけるセルソーター技術の課題を解決するための必要な技術及びその手段を以下に説明する。図4(B)のデータで示したように、ソーティング処理毎に流路内の残存粒子数を洗浄によって減少させる機構が好ましい。そのため、繰り返しソーティングの自動化においては、マイクロ流路チップ内に洗浄液を導入し、流路内の残存粒子を洗浄する機構が好ましい。特許文献1に記載の技術には、この機構が含まれていない。特許文献2の発明においては、チップの構造上、必要な回数の繰り返しソーティングができない構造である。そこで、必要な回数の洗浄工程を含む手段を以下に説明する。液体の吸い上げ機構、及び吐き出し機構を有する、分注ヘッドを利用して、下記の処理手段を実施する。
1)ソーティング後に流路チップ内の各リザーバー内を大気圧にする。
2)流路チップを横に移動し、リザーバー内に分注ヘッドがアクセス可能にする。
3)試料液リザーバー内の残存粒子を洗浄する。
4)回収リザーバーの粒子を含む液体を、分注ヘッドのピペットで吸い上げる。
5)試料液リザーバー内にピペット内の液体を吐き出す。
6)流路チップの位置を、横方向にもとに戻し、流路チップと外部の空気圧制御系との気密接続を回復させる。
前記工程1)においては、流路チップの内部の液体の流れが、流路チップ外から空気圧で制御されているため、ソーティング処理毎に流路チップ内を大気圧開放しなければならない。自動的に大気圧開放を行う方法を、図5(A)及び(B)に示す。流路チップ内の試料液ザーバー、シース液リザーバー、及び廃液リザーバーの内の空気圧制御においては、流路チップアダプター(14)及び装置側の圧力制御ユニット(15)を介して、変形素材ゴム(12)を利用した気密性接続により、装置側に設置している定圧空気ポンプなどを含む空気圧制御系と接続している。流路チップの内部の大気圧開放は、圧力制御ユニットの上部への移動により行われる。前記工程2)は、図6に示したように、流路チップのリザーバーに分注ヘッドがアクセスできるように、流路チップを横方向に移動させる動作である。工程3)においては、分注ヘッドにより、試料液リザーバー内に洗浄液を追加し、ピペッティング後に洗浄液を廃棄する。洗浄液の追加、ピペッティング、及び廃棄の手順による洗浄を、事前に決めた回数だけ繰り返す。工程4)においては、洗浄後に、回収リザーバーの回収液を吸い上げて、試料液リザーバーに吐き出すことによって、粒子を移送させる。工程6)は、次のソーティングを行う準備のために、試料液リザーバー、廃液リザーバー、及びシース液リザーバーと、装置側の空気圧制御系との気密接続を回復する動作である。
【0032】
[2]単一粒子分注方法
本発明の単一粒子分注方法は、1個の粒子のソーティングごとに流路に接続した回収リザーバーに分取し、その回収リザーバーから粒子を他の容器に分注する工程を含む。具体的には、1個の粒子をソーティングした後にソーティングを一旦停止し、回収リザーバーに回収された1個の粒子を、他の容器(例えば、マルチウエルプレートのウエル)に分注する。そして、ソーティングを開始し、1個の粒子をソーティングし、回収リザーバーに分取する。これらの操作を繰り返すことによって、1つの容器(例えば、1つのウエル)に1個の粒子を確実に分注することができる。
前記工程の繰り返し回数は、特に限定されるものではなく、粒子の個数に応じて調整することができる。
【0033】
本発明の目的粒子分注装置は、目的粒子のソーティングが可能な、目的粒子を単一で分注する装置であって、前記装置は、試料液に含まれる粒子を分離するための流路チップを含む。前記流路チップは、透明基板中に流路が形成され、そして前記流路と流体接続する試料液リザーバー、シース液リザーバー、ソーティングリザーバー、回収リザーバー、及び廃液リザーバーが形成され、そして流路内の液の流れは、各リザーバーの上部の気圧で制御される。前記流路チップは、前記試料液リザーバーからの導入用流路と、その両側に配置された1対のシース液導入流路とが合流する合流流路を有し、その合流流路の下流には粒子を検出するための光照射領域を有し、さらにその下流には、前記合流流路の側方から接続する対向する一対の分岐流路を備え、前記1対の分岐流路の一方にはソーティングリザーバーが接続しており、分岐流路の他方には回収リザーバーが接続しており、回収リザーバーの上部は大気圧解放可能である。本発明の目的粒子分注装置は、1個の目的粒子の回収リザーバーへのソーティング後にソーティングを停止し、回収リザーバーから1個の目的粒子を他の容器に分注する構成を含む。
【0034】
本発明の単一粒子分注方法は、例えば、単一細胞のソーティング毎に分注を行う手段である。
目的外細胞10個程度中に、数100個程度の特定の目的細胞が含まれている場合に、例えばマルチウエルプレートに目的細胞を分注する手段を説明する。限定されるものではないが、例えば前記粒子の純化方法における繰り返しソーティングにより、目的細胞を純度98%程度に純化した細胞懸濁液が回収リザーバーに蓄えられている場合に、目的細胞を分注する方法を説明する。図7に示すように、回収リザーバーの細胞懸濁液を試料液リザーバーに戻し、細胞をソーティングする。分注は、図8(A)に示したように、常時大気圧解放となっている回収リザーバーから、マルチウエルプレート内の各ウエルへ、分注ヘッドを利用して液を移動する。例えば、細胞1個を分注する場合、パルス流1回の1個の細胞のソーティング後に、試料液リザーバーの圧力を低下させて試料液の流れを停止する。そして、分注ヘッドのピペットによって、回収リザーバーからマルチウエルプレートの各ウエルに1個の細胞を分注する。これらの操作によって、目的細胞の1個単位の分注が可能になり、そして目的細胞が分注操作中にソーティング領域を通過してしまうという分注のロスの防止が可能となる。例えば、細胞を10個ずつ、ウエルに分注する場合は、細胞10個に相当する10回分のソーティング後に、流れを停止する。そして、分注ヘッドのピペットによって、回収リザーバーからマルチウエルプレートの各ウエルに10個の細胞を分注する。そして、分注ヘッドが回収リザーバーに戻る前に、ソーティングを再開する。合計10回のソーティング後の回収リザーバー内の全細胞を分注することによって、10個単位の細胞の分注を行うことができる。各ウエルへの分注細胞数は、適宜設定可能であり、図8(B)に示したフローチャートで分注を実施することができる。このフローチャートには分注回数毎の試料液の流出ロスを防止する動作を図示していない。しかし、目的細胞の検出の時間間隔が分注動作より短い場合は、試料液の流出ロスが発生する。すなわち、たとえばこの分注動作に必要な時間は約5秒なので、この時間より短い間隔で目的細胞が検出される場合にロスが生じる。そのため目的細胞濃度を少なくとも5秒あたりに1個以下が流れる程度の濃度にする事が望ましい。図9はこの様な場合の動作のフローチャートである。
【0035】
《エマルジョン液滴の分注》
本発明の単一粒子の分注方法の1つの実施態様においては、前記粒子がフッ素系オイル中のエマルジョン液滴であり、回収リザーバーにフッ素系オイル及びミネラルオイルが事前に含まれており、目的のエマルジョン液滴を蛍光信号に基づいて分取し、エマルジョン液滴を1個単位で回収リザーバーに取り込み、そして回収リザーバー底面から浮上させ、回収リザーバーのフッ素系オイルとミネラルオイルとのドーム状界面にエマルジョン液滴をトラップし、上部からエマルジョン液滴を吸い上げて、外部の容器に分注する。
【0036】
本発明の分注方法に用いるフッ素系オイルは、特に限定されるものではないが、例えば市販品では、3M社製フロリナートオイルのNovec7500が挙げられる。本発明の分注方法に用いるミネラルオイルの市販品は、特に限定されるものではないが、シグマアルドリッチ社製のミネラルオイルが挙げられる。
回収リザーバーに含まれる、フッ素系オイルの量は、特に限定されないが、10μL~1mLである。回収リザーバーに含まれる、ミネラルオイルの量は、特に限定されないが、10μL~1mLである。
【0037】
フッ素系オイル中におけるエマルジョン液滴に関しては、フッ素オイルの比重が水の比重より大きいため、フッ素系オイル中でエマルジョン液滴が浮上する。そして、フッ素系オイルの表面において、図11(A)の写真に示した様に、プラスチック樹脂の壁面に吸着する。従って、フッ素オイルの上から、ピペットでエマルジョン液滴を1個単位で吸い上げることが困難である。この問題を解決する方法として、図11(B)で示したように、ミネラルオイルをフッ素オイルのカバーとして用いる。この場合、ミネラルオイルとフッ素系オイルとの界面がドーム状を形成し、フッ素系オイル中のエマルジョン液滴がドーム状の上部にトラップされる。図11(B)の写真では、エマルジョン液滴に色素を含ませているため、エマルジョン液滴がドーム状に分布していることがわかる。
従って、回収リザーバーに、フッ素系オイル及びミネラルオイルを、事前に入れておくことによって、ソーティングされたエマルジョン液滴がリザーバーの中心位置にトラップされる。従って、回収リザーバーからエマルジョン液滴をピペットで吸い上げることが容易になる。以下、図10を用いて説明する。
【0038】
オイル中におけるエマルジョン液滴形成時において、形成された液滴中に、必ず細胞が含まれるとは限らない。すなわち、細胞1個以下のエマルジョン液滴は、ポアッソン分布より、エマルジョン数全体の1/10程度である。従って、細胞を含むエマルジョン液滴を選別するために、エマルジョン液滴のソーティングが必要である。細胞を含むエマルジョンの選別は、レーザー光照射領域(20)を通過時に発生する側方散乱光信号及び細胞の自家蛍光信号などの信号に基づいて行う。
このソーティングにおいては、シース流としてフッ素系オイルを用いる。細胞を含むエマルジョン液滴がソーティング領域に達したときに、パルス流を発生させる。そして、エマルジョン液滴を回収流路に取り込み、そして回収リザーバー内に細胞を含むエマルジョン液滴のみを蓄積する。前記の通り、細胞を含む割合が1/10程度なので、1回のソーティングにより純度が98%程度になる。そして、1個単位のエマルジョン液滴のソーティング後に、回収リザーバーの上部のドーム状界面の上部中心部にエマルジョン液滴がトラップされる。従って、エマルジョン液滴を、ピペットで吸い上げてマルチウエルプレートへの分注が容易になる。
【0039】
次に、前記のエマルジョン液滴の一個単位の分注が可能であることを実証するために、以下の操作を行った。エマルジョン液滴を形成する液体に水溶性の蛍光試薬(FITC)をいれて、形成後の液滴を蛍光で識別可能とした。蛍光を有する1個のエマルジョン液滴をソーティングした後に、回収リザーバー内の分注前の1個のエマルジョン液滴を観察した。また、前記エマルジョン液滴を、ピペットにより384ウエルプレートのウエルに分注後の観察を行った。結果を図12に示す。図12(A)は、分注前の回収リザーバーの底から、フッ素系オイルとミネラルオイルとのドーム状界面の上部内側にトラップされているエマルジョン液滴(直径40μm)を示した顕微鏡写真である。図12(B)はエマルジョン液滴を分注ヘッドのピペットで吸い上げ、384ウエルプレート内のウエルに、ミネラルオイルとフッ素系オイルとともに分注されたエマルジョン液滴の顕微鏡写真である。ミネラルオイル中では、少量のフッ素系オイルは球体になる。その球体の中にエマルジョン液滴が観察され、一個単位で分注できていることがわかる。
【0040】
フッ素系オイル中でエマルジョン液滴を形成する流路チップの構造を以下に説明する。以下の構造によって、課題を解決することができる。具体的には、回収リザーバーの無い構造であればよい。図13に示したように、流路チップにはオイルリザーバー及び試料液リザーバーが形成され、オイルの流路と試料液の流路の交差領域において、エマルジョン液滴が形成される。さらに、その流路の下流において、下方向に接続したチューブでエマルジョンを回収する。図14に示した構造においては、流路チップに、オイルリザーバー及び試料液リザーバーが形成されている。オイルの流路と試料液の流路の交差領域でエマルジョン液滴が形成され、そして水平方向に接続したチューブでエマルジョンを回収する。図15(A)は、図13の鉛直下チューブによる回収方式のエマルジョン形成流路チップを利用して、エマルジョン液滴を形成した場合の、液滴形成流路領域の写真である。図15(B)は、この液滴形成流路領域より下流の幅広流路領域の写真である。
【0041】
[3]細胞クラスター解析方法
本発明の細胞クラスター解析方法は、フローサイトメーターのデータ解析方法であって、個々の細胞で検出した前方方向の散乱光信号強度と前方以外の散乱光信号強度との比率を求めて、その数値によって、個々の細胞が単一細胞か細胞クラスターかを識別する。前記前方以外の散乱光信号強度は、特に限定されるものではないが、好ましくは側方散乱信号強度や後方散乱信号強度である。
【0042】
本発明の細胞クラスター解析装置は、フローサイトメーター装置であって、複数の方向の散乱光信号の比率をもとめ、その数値を用いて、単一細胞か細胞クラスターかを識別する。
【0043】
本発明の細胞クラスター解析方法は、1個単位の細胞クラスターを定量的に解析する手段である。
前方散乱光信号(FSC)は、光照射方向への低角度の散乱光成分の強度であり、主に散乱体サイズを反映する。これに対して、側方散乱信号成分(SSC)は、光照射方向から高角度の散乱光成分の強度であり、主に散乱体の中の微細構造を反映するといわれている。これはMie光散乱理論に基づく結果と同じである。そこで、単一細胞と細胞クラスターとの識別を、FSCとSSCとの信号強度の比率の数値に基づいて行う方法を実際のデータを用いて以下に説明する。図17(A)は、PC-9というセルラインのSSC/FSC値のヒストグラム分布である。図17(B)は白血球成分の顆粒球、そして図17(C)は、白血球クラスターのSSC/FSC値のヒストグラム分布である。PC-9は単一細胞であり、顆粒球は細胞内に微細構造を有する単一細胞である。白血球クラスターは、核染色量によって、複数の細胞からなるクラスターであると確認された成分である。上記3種類の細胞状態は、図16の白血球、白血球クラスター、及びセルラインPC-9細胞との混合液のフローサイトメトリーデータで区別される。
図16の横軸はヘキスト染色であり、縦軸はサイトケラチン染色である、上皮性細胞であるPC9はP25と記したゲートで囲った部分に分布しており、サイトケラチン発現量が多い。これに対して、顆粒球はP23と記したゲートで囲んだ分布であり、核染色量が白血球成分では大きく、サイトケラチンが弱陽性である特徴がある。これに対して、白血球クラスターは、P26と記したゲートで囲んだ分布であり、その特徴は核染色量とサイトケラチン染色量とが相関している分布となっている。これは顆粒球クラスターと考えられるが、好中球も顆粒球成分の一つなので、このP26の白血球クラスターの計数が重要となる。CTC分取後に、この白血球クラスターと判定されるものがあるか否かの判断が重要である。図17(A)、(B)、及び(C)のヒストグラム分布によると、白血球クラスターの識別は、0.2から1程度までの分布であるが、0.2から0.3までは顆粒球と重なるため、顕微鏡観察で確認することが望ましいといえる。CTC分取の場合は、他の蛍光染色との条件の組み合わせにより識別が容易といえるが、汎用的には散乱光信号のみで識別する技術が重要である。図18は、がん患者の血液から実際にサイトケラチン陽性細胞を分取して濃縮したサンプルのフローサイトメトリーデータを、サイトケラチン蛍光信号強度とSSC/FSC値との2次元散布図で示したものである。このグラフにより、クラスター形成したサイトケラチン陽性細胞を識別することができる。すなわち、SSC/FSC値と、サイトケラチン信号値との定量的な数値範囲のデータ数によって、CTCクラスターを計数することができる。
【実施例0044】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
《実施例1》
本実施例においては、がん患者の血中循環腫瘍細胞(CTC)を、繰り返しソーティングにより分取した。
がん患者から8mLの血液を採血し、血液保存管に入れた。2日以内に下記の前処理を行った。血液8mL中には、白血球数が約10個程度含まれている。以下の前処理で使用する容器類は、事前に0.5%BSA/On-chip T-bufferで、洗浄及びコーティングした。これは樹脂容器への細胞吸着による細胞ロスを防止するためである。前処理で使用するバッファー試薬類は、赤血球溶血バッファー、固定用試薬、細胞透過性試薬、FCRブロッカー剤などの市販されている試薬を用いた。これらのプロトコールは、試薬の添付文書に従った。
【0046】
前処理(I)
採血した血液を、溶血、遠心分離による赤血球破片の除去及び洗浄、固定、透過処理、蛍光染色(サイトケラチン抗体ラベルのみ)の順に処理した。これらの処理によって、試料液から、赤血球が除去され、10個の白血球中に、数個以上のCTCが含まれていると考えらえる。処理前の試料液は0.3mLに調整したので、細胞濃度は、3.3x10個/mL程度である。
【0047】
CTC分取処理(I)
上皮細胞であるがん細胞由来のCTCのみがサイトケラチン陽性であり、そして白血球成分の顆粒球が、サイトケラチンが弱陽性であると考えらえる。したがって、CTCを識別し、分取する条件としては、サイトケラチン陽性信号レベルを、顆粒球のサイトケラチン蛍光信号レベル以上に設定して、サイトケラチン陽性細胞を分取した。この条件でソーティングを2回繰り返したところ、白血球は10個程度に減少した。繰り返しソーティングによる白血球数の減少量を、図3に示した。このデータは血液4mL中に肺がん由来のセルライン細胞PC-9をスパイクしたサンプルで、繰り返しソーティング回数ごとの白血球数とPC-9数をグラフ化したものである。
【0048】
前処理(II)
白血球を減少させた段階で、ヘキスト核染色、追加染色用サイトケラチン蛍光ラベル、CD45蛍光抗体ラベル、ビメンチン蛍光抗体ラベル、PD-L1蛍光抗体ラベル、(あるいはHER2蛍光抗体ラベル、EGFR蛍光抗体ラベル、AXL蛍光抗体ラベル)を行った。染色後に、0.5%BSA/On-chip T-bufferバッファーで遠心分離による洗浄を行った。
【0049】
CTC分取処理(II)
CTC識別は、ヘキスト陽性、CD45陰性、サイトケラチン陽性の条件で、CTCを分取するソーティングを2回繰り返えした。CTC濃縮法によれば、セルラインのPC-9細胞の既知数を血液へ添加した実験において、回収率>70%、及び純度>80%であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の粒子の純化方法による、総細胞数が10程度、又はそれ以上の細胞群から少数の目的細胞を分取する方法は、実施例で説明したように、がん患者の血液からCTCを分取して解析する用途に用いることができる。それに加えて、抗体医薬開発における多数の抗体産生細胞から目的の抗原に特異的に結合する抗体を産生する細胞を選別する抗体スクリーニングに用いることができる。さらに、本発明の単一粒子の分注方法は、粒子がエマルジョン液滴の場合、エマルジョン液滴に細胞の分泌物が拡散しないで蓄積されるため、特定物質を分泌する細胞を分取する用途に用いることができる。更に、エマルジョン液滴内で細胞を溶解しても溶解物が拡散しないことから、細胞の発現解析に利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1・・・流路チップ上に形成された試料液リザーバー;
2・・・流路チップ上に形成された回収リザーバー;
3・・・流路チップ上に形成された廃液リザーバー;
4・・・流路チップ上に形成されたシース液リザーバー;
5・・・目的細胞または目的粒子;
6・・・目的外細胞または目的外粒子;
7・・・試料液導入流路;
8・・・シース流路;
9・・・主流路;
10・・・回収流路;
11・・・流路チップ;
12・・・気密保持用弾性変形部品(ゴム);
13・・・流路チップに形成されたリザーバー;
14・・・流路チップアダプター;
15・・・圧力制御ユニット(装置側の気密接続用アダプター);
16・・・空気配管チューブ;
17・・・分注ヘッドのピペット;
18・・・電空レギュレーターやシリンダーポンプなどの定圧空気ポンプ;
19・・・分注ヘッド先のピペット;
20・・・光照射領域(検出領域);
21・・・フッ素系オイル;
22・・・ミネラルオイル;
23・・・フッ素系オイル中液滴;
24・・・マルチウエルプレート;
25・・・試料液リザーバー;
26・・・オイルリザーバー;
27・・・エマルジョン液滴形成領域(オイル流路と試料液流路の交差領域);
28・・・エマルジョン液滴回収用チューブ;
29・・・樹脂製容器;
30・・・384ウエルプレート中のウエル;
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【手続補正書】
【提出日】2024-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一粒子の分注方法であって、1個の粒子のソーティングごとに流路に接続した回収リザーバーに分取し、その回収リザーバーから粒子を他の容器に分注する工程を含むことを特徴とする、単一粒子分注方法。
【請求項2】
前記粒子がフッ素系オイル中のエマルジョン液滴であり、回収リザーバーに液滴より比重の大きいフッ素系オイルが事前に含まれており、目的のエマルジョン液滴を蛍光信号に基づいて分取し、エマルジョン液滴を1個単位で回収リザーバーに取り込み、そして回収リザーバー底面からオイル中で液滴を浮上させた後に他の容器に分注する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の単一粒子分注方法
【請求項3】
前記粒子がフッ素系オイル中のエマルジョン液滴であり、回収リザーバーにフッ素系オイル及びミネラルオイルが事前に含まれており、目的のエマルジョン液滴を蛍光信号に基づいて分取し、エマルジョン液滴を1個単位で回収リザーバーに取り込み、そして回収リザーバー底面から浮上させ、回収リザーバーのフッ素系オイルとミネラルオイルとのドーム状界面にエマルジョン液滴をトラップし、上部からエマルジョン液滴を吸い上げて、外部の容器に分注する請求項1に記載の単一粒子分注方法。
【請求項4】
1個の粒子のソーティングごとに流路に接続した回収リザーバーに分取する工程の開始を、回収リザーバーから粒子を他の容器に分注する工程の完了を確認した後に行い、分注の順番がソーティングの順番に従う請求項1に記載の単一粒子分注方法。
【請求項5】
目的粒子のソーティングが可能な、目的粒子を単一で分注する装置であって、
前記装置は、試料液に含まれる粒子を分離するための流路チップを含み、
前記流路チップは、透明基板中に流路が形成され、そして前記流路と流体接続する試料液リザーバー、シース液リザーバー、ソーティングリザーバー、回収リザーバー、及び廃液リザーバーが形成され、そして流路内の液の流れは、各リザーバーの上部の気圧で制御され、
前記流路チップは、前記試料液リザーバーからの導入用流路と、その両側に配置された1対のシース液導入流路とが合流する合流流路を有し、その合流流路の下流には粒子を検出するための光照射領域を有し、さらにその下流には、前記合流流路の側方から接続する対向する一対の分岐流路を備え、前記1対の分岐流路の一方にはソーティングリザーバーが接続しており、分岐流路の他方には回収リザーバーが接続しており、回収リザーバーの上部は大気圧解放可能であり、
1個の目的粒子の回収リザーバーへのソーティング後にソーティングを停止し、回収リザーバーから1個の目的粒子を他の容器に分注する構成を含む、目的粒子分注装置。