(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004549
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】流体制御部材および流体制御部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/24 20060101AFI20240110BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240110BHJP
F23D 14/18 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
B01J19/24 Z
B28B1/30
F23D14/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104171
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰広
(72)【発明者】
【氏名】大橋 隆行
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 和晃
(72)【発明者】
【氏名】深川 友貴
【テーマコード(参考)】
3K017
4G052
4G075
【Fターム(参考)】
3K017BA01
3K017BC05
3K017BC10
3K017BG03
4G052DA02
4G052DB12
4G052DC06
4G052DC09
4G075AA03
4G075AA13
4G075AA56
4G075BA10
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB21
4G075EC09
4G075EE33
4G075EE34
4G075FA01
4G075FB04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】流体制御部材の内部に流速の速い領域が形成されることを防止し、反応流路における反応効率を改善する。
【解決手段】流体制御部材1は、複数のディスク10、20、30を積層することによって形成されている。この複数のディスクは、第1開口部14と第1隔壁16とを有する第1ディスク10と、第2開口部24と第2隔壁26とを有する第2ディスク20と、第1ディスクと第2ディスクとの間に配置される中間ディスク30とを備えている。そして、この流体制御部材では、第1開口部14と第2隔壁26とが積層方向において重なる位置に配置され、かつ、第2開口部24と第1隔壁16とが積層方向において重なる位置に配置される。かかる構成の流体制御部材は、貫通流路が形成されず、かつ、流体Fを適切に減速できる構造を有しているため反応効率を好適に改善できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する複数のディスクを所定の積層方向に積層することによって形成された流体制御部材であって、
前記複数のディスクは、少なくとも、
複数の第1開口部と、隣接した前記第1開口部を仕切る複数の第1隔壁とを有する第1ディスクと、
複数の第2開口部と、隣接した前記第2開口部を仕切る複数の第2隔壁とを有する第2ディスクと、
前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に配置され、前記第1開口部と前記第2開口部とを連通させて流路を形成する中間開口部を有する中間ディスクと
を備えており、
前記第1開口部と前記第2隔壁とが前記積層方向において重なる位置に配置され、かつ、前記第2開口部と前記第1隔壁とが前記積層方向において重なる位置に配置されている、流体制御部材。
【請求項2】
少なくとも、前記第1ディスク、前記中間ディスク、前記第2ディスク、前記中間ディスクおよび前記第1ディスクがこの順序で積層されている、請求項1に記載の流体制御部材。
【請求項3】
前記第1ディスクは、当該第1ディスクの平面上の第1の方向に沿って線状に延びる複数の前記第1開口部と、隣接した2つの前記第1開口部の間に形成された梁状の第1隔壁とを有し、
前記第2ディスクは、当該第2ディスクの平面上の第1の方向に沿って線状に延びる複数の前記第2開口部と、隣接した2つの前記第2開口部の間に形成された梁状の第2隔壁とを有している、請求項1または2に記載の流体制御部材。
【請求項4】
前記第1ディスク及び前記中間ディスクがこの順序で積層された第1ユニットと、
前記第2ディスク及び前記中間ディスクがこの順序で積層された第2ユニットと
を少なくとも含み、
前記第1ユニットおよび前記第2ユニットの一方における中間ディスクは、前記第1ディスクと同じ構造のディスクを周方向に45°~135°の角度で回転させた第1中間ディスクであり、
前記第1ユニットおよび前記第2ユニットの他方における中間ディスクは、前記第2ディスクと同じ構造のディスクを周方向に45°~135°の角度で回転させた第2中間ディスクである、請求項1または2に記載の流体制御部材。
【請求項5】
前記第1ユニットは、前記第1ディスクと前記中間ディスクとが一体的に成形されることによって形成され、
前記第2ユニットは、前記第2ディスクと前記中間ディスクとが一体的に成形されることによって形成されている、請求項4に記載の流体制御部材。
【請求項6】
前記複数のディスクは、セラミック焼結体である、請求項1または2に記載の流体制御部材。
【請求項7】
前記セラミック焼結体は、Al、Zr、Ti、Zn、Ni、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物、窒化物、炭化物を主体として形成されている、請求項6に記載の流体制御部材。
【請求項8】
前記セラミック焼結体は、隔壁の気孔率が10%以上60%以下の多孔体である、請求項6に記載の流体制御部材。
【請求項9】
開口部を有する複数のディスクを形成するディスク形成工程と、
前記複数のディスクを所定の積層方向に積層することによって流体制御部材を形成する組立工程と
を備えており、
前記ディスク形成工程は、少なくとも、
複数の第1開口部と、隣接した前記第1開口部を仕切る複数の第1隔壁とを有する第1ディスクと、
複数の第2開口部と、隣接した前記第2開口部を仕切る複数の第2隔壁とを有する第2ディスクと、
前記第1開口部と前記第2開口部とを連通させて流路を形成する中間開口部を有する中間ディスクと
を形成し、
前記組立工程は、
前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に前記中間ディスクが配置されるように前記複数のディスクを積層し、
前記第1開口部と前記第2隔壁を前記積層方向において重なる位置に配置し、かつ、前記第2開口部と前記第1隔壁を前記積層方向において重なる位置に配置する、流体制御部材の製造方法。
【請求項10】
前記ディスク形成工程は、
母材粒子と水溶性樹脂粒子を含む造形用粉末の堆積物に、水を含む造形液を供給して粉体固化層を形成する処理を繰り返すことによって積層造形物を造形する工程と、
前記積層造形物を乾燥させ、前記積層造形物に付着した未固化の造形用粉末を除去する工程と、
前記積層造形物を焼成して前記複数のディスクを形成する工程と
を備えている、請求項9に記載の流体制御部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、流体制御部材および流体制御部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラントや実験機器などでは、流体(液体又は気体)を流通させながら所定の化学反応を生じさせる反応流路が設けられることがある。この反応流路における流体の速度が速くなりすぎると、十分な化学反応が生じる前の流体が反応流路を通過してしまうおそれがある。このため、反応流路には、通過する流体の減速制御を行う部材(以下「流体制御部材」という)が設けられることがある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、粒子状の触媒担体を容器内部に充填した触媒ユニット(流体制御部材)が提案されている。この触媒ユニットでは、担体粒子の隙間(流路)を通過する流体に対して触媒反応が発生する。これによって、所望の化学反応を効率的に生じさせることができる。一方、特許文献2に記載のセラミックフィルタ(流体制御部材)は、開口部を有する層状部材(ディスク)を周方向に回転させながら複数枚積層することによって形成される。かかる構成のセラミックフィルタの内部には、複雑な流路が形成される。これによって、セラミックフィルタを流通する溶融金属(流体)の速度を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-58093号公報
【特許文献2】米国特許第10780493号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の流体制御部材の内部では、流速の速い領域が部分的に生じることがあった。この場合、流体の一部が未反応の状態で流体制御部材を通過するため、反応流路における反応効率が低下する原因となる。例えば、特許文献1に記載の流体制御部材では、容器内に充填される担体粒子の密度を均一にすることが難しい。このとき、担体粒子の充填密度が低い領域は、大量の流体が集中するため、流速の上昇による反応不良が生じやすい。一方、特許文献2のような複数のディスクを積層した流体制御部材では、各ディスクの開口部が重なった貫通流路が形成されることがある。この貫通流路に流入した流体は、殆ど減速しないため、大部分が未反応の状態で流体制御部材を通過する。
【0006】
ここに開示される技術は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、流体制御部材の内部に流速の速い領域が形成されることを防止し、反応流路における反応効率を改善できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、ここに開示される技術によって、以下の構成の流体制御部材が提供される。
【0008】
ここに開示される流体制御部材は、開口部を有する複数のディスクを所定の積層方向に積層することによって形成されている。この流体制御部材の複数のディスクは、少なくとも、複数の第1開口部と、隣接した第1開口部を仕切る複数の第1隔壁とを有する第1ディスクと、複数の第2開口部と、隣接した第2開口部を仕切る複数の第2隔壁とを有する第2ディスクと、第1ディスクと第2ディスクとの間に配置され、第1開口部と第2開口部とを連通させて流路を形成する中間開口部を有する中間ディスクとを備えている。そして、ここに開示される流体制御部材では、第1開口部と第2隔壁とが積層方向において重なる位置に配置され、かつ、第2開口部と第1隔壁とが積層方向において重なる位置に配置されている。
【0009】
上記構成の流体制御部材において、第1ディスクの第1開口部は、第2ディスクの第2隔壁と積層方向で重なっている。また、第2ディスクの第2開口部は、第1ディスクの第1隔壁と積層方向で重なっている。すなわち、ここに開示される流体制御部材では、一方のディスクの開口部に他方のディスクの隔壁が重なっているため、流体制御部材を貫通する貫通流路が生じない。そして、上記構成の流体制御部材に供給された流体は、第1ディスクの第1開口部と中間ディスクの中間開口部を通過した後に、第2ディスクの第2隔壁に衝突して減速する。以上の通り、ここに開示される流体制御部材は、局所的な流速上昇の原因となる貫通流路を有しておらず、かつ、供給された流体を適切に減速できる構造を有している。このため、ここに開示される流体制御部材によると、反応流路における反応効率を好適に改善することができる。
【0010】
ここに開示される流体制御部材の一態様では、少なくとも、第1ディスク、中間ディスク、第2ディスク、中間ディスクおよび第1ディスクがこの順序で積層されている。かかる構成の流体制御部材では、第2ディスクのさらに下流側に第1ディスクが配置されている。これによって、第2ディスクを通過した後の流体が中間ディスクを介して第1ディスクに流入するため、第1隔壁への衝突による流体の減速を生じさせることができる。
【0011】
ここに開示される流体制御部材の一態様では、第1ディスクは、当該第1ディスクの平面上の第1の方向に沿って線状に延びる複数の第1開口部と、隣接した2つの第1開口部の間に形成された梁状の第1隔壁とを有している。一方、第2ディスクは、当該第2ディスクの平面上の第1の方向に沿って線状に延びる複数の第2開口部と、隣接した2つの第2開口部の間に形成された梁状の第2隔壁とを有している。かかる構成のディスクは、容易に形成することができ、かつ、隔壁への衝突による流体の減速を適切に生じさせることができる。
【0012】
ここに開示される流体制御部材の一態様では、第1ディスク及び中間ディスクをこの順序で積層した第1ユニットと、第2ディスク及び中間ディスクをこの順序で積層した第2ユニットとを少なくとも含む。そして、第1ユニットおよび第2ユニットの一方における中間ディスクは、第1ディスクと同じ構造のディスクを周方向に45°~135°の角度で回転させた第1中間ディスクである。また、第1ユニットおよび第2ユニットの他方における中間ディスクは、第2ディスクと同じ構造のディスクを周方向に45°~135°の角度で回転させた第2中間ディスクである。かかる構成の流体制御部材では、第1ディスクと第2ディスクの回転体を中間ディスクとして使用している。これによって、中間ディスクにおいても、隔壁への衝突による流体の減速を生じさせることができる。
【0013】
なお、上記第1ユニットと第2ユニットを構成する態様において、第1ユニットは、第1ディスクと中間ディスクとが一体的に成形されることによって形成され、第2ユニットは、第2ディスクと中間ディスクが一体的に成形されることによって形成されていてもよい。これによって、部品点数の減少による製造コストの削減に貢献できる。
【0014】
ここに開示される流体制御部材の一態様では、上記複数のディスクは、セラミック焼結体である。なお、かかるセラミック焼結体は、Al、Zr、Ti、Zn、Ni、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物、窒化物、炭化物を主体として形成されていることが好ましい。これによって、耐久性に優れた流体制御部材を安価に得ることができる。また、上記セラミック焼結体は、隔壁の気孔率が10%以上60%以下の多孔体であることが好ましい。これによって、流体制御部材の内部における表面積が増大するため、反応効率をさらに向上できる。
【0015】
ここに開示される技術の他の側面として、流体制御部材の製造方法が提供される。ここに開示される製造方法は、開口部を有する複数のディスクを形成するディスク形成工程と、複数のディスクを所定の積層方向に積層することによって流体制御部材を形成する組立工程とを備えている。この製造方法におけるディスク形成工程は、少なくとも、複数の第1開口部と、隣接した第1開口部を仕切る複数の第1隔壁とを有する第1ディスクと、複数の第2開口部と、隣接した第2開口部を仕切る複数の第2隔壁とを有する第2ディスクと、第1開口部と第2開口部とを連通させて流路を形成する中間開口部を有する中間ディスクとを形成する。また、組立工程は、第1ディスクと第2ディスクとの間に中間ディスクが配置されるように複数のディスクを積層し、第1開口部と第2隔壁を積層方向において重なる位置に配置し、かつ、第2開口部と第1隔壁を積層方向において重なる位置に配置する。かかる製造方法によって製造された流体制御部材は、流速の速い領域が形成されることを防止し、反応流路における反応効率を改善することができる。
【0016】
ここに開示される流体制御部材の製造方法の一態様では、ディスク形成工程は、母材粒子と水溶性樹脂粒子を含む造形用粉末の堆積物に、水を含む造形液を供給して粉体固化層を形成する処理を繰り返すことによって積層造形物を造形する工程と、積層造形物を乾燥させ、積層造形物に付着した未固化の造形用粉末を除去する工程と、積層造形物を焼成して複数のディスクを形成する工程とを備えている。これによって、精密なディスクを容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る流体制御部材を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す流体制御部材を高さ方向に沿って切断した際の断面図である。
【
図3】
図1に示す流体制御部材を幅方向に沿って切断した際の断面図である。
【
図11】一実施形態に係る流体制御部材の製造方法を説明するフロー図である。
【
図14】サンプル1の流体制御部材を模式的に示す斜視図である。
【
図15】サンプル2の流体制御部材を模式的に示す斜視図である。
【
図16】サンプル1の流通シミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【
図17】サンプル2の流通シミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【
図18】サンプル3の流通シミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【
図19】サンプル4の流通シミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施できる。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」の表記は、「A以上B以下」の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含するものとする。
【0019】
[第1の実施形態]
1.流体制御部材
以下、ここに開示される流体制御部材の第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る流体制御部材を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示す流体制御部材を高さ方向に沿って切断した際の断面図である。
図3は、
図1に示す流体制御部材を幅方向に沿って切断した際の断面図である。
図4は、
図1に示す流体制御部材の正面図である。なお、各図における符号Xは「幅方向」を示し、符号Yは「奥行方向」を示し、符号Zは「高さ方向」を示す。
【0020】
図1~
図4に示すように、本実施形態に係る流体制御部材1は、開口部を有する複数のディスク10、20、30を積層することによって形成されている。本実施形態におけるディスク10、20、30は、奥行方向Yに向かって積層される。そして、
図2及び
図3に示すように、流体制御部材1の内部には、各ディスク10、20、30の開口部が連通した流路5が形成される。流体Fは、この流路5の内部をディスク10、20、30の積層方向に沿って通過する。すなわち、本実施形態では、「奥行方向Y」と「ディスクの積層方向」と「流体の流通方向」とが略同一の方向である。また、以下の説明では、
図1~
図3中の左側を「流通方向の上流側」とし、右側を「流通方向の下流側」とする。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る流体制御部材1の外形は、円柱状である。しかし、流体制御部材の外形は、特に限定されず、収容する反応流路に応じた形状を適宜採用することができる。流体制御部材の外形は、断面形状が多角形、楕円形、星型多角形の何れかである柱状部材であってもよい。
【0022】
流体制御部材1を構成するディスク10、20、30は、耐久性(機械的強度、耐化学性、耐熱性など)に優れた無機材料によって形成されていることが好ましい。かかるディスク10、20、30の材料の一例として、セラミック焼結体が挙げられる。セラミック焼結体は、耐化学性や耐熱性に優れており、かつ、安価であるため、ディスク10、20、30の材料として好適である。セラミック焼結体は、例えば、所定の金属の酸化物、窒化物、炭化物、硫化物等を主体とした焼結体である。このセラミック焼結体に含まれる金属元素としては、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)などが挙げられる。また、セラミック焼結体は、複数の細孔が形成された多孔体であることが好ましい。これによって、流体制御部材1の内部における表面積が増大するため、流体Fの反応効率を向上することができる。例えば、セラミック焼結体の気孔率は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。一方、ディスク10、20、30の強度を考慮すると、セラミック焼結体の気孔率は、75%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましく、60%以下が特に好ましい。
【0023】
なお、本実施形態に係る流体制御部材1は、8枚のディスク10、20、30によって構成されている。しかし、流体制御部材を構成するディスクの枚数は、ここに開示される技術を限定するものではない。例えば、ここに開示される流体制御部材は、後述する第1ディスク、中間ディスク及び第2ディスクをこの順序で1枚ずつ積層すれば構築することができる。換言すると、ここに開示される流体制御部材は、少なくとも3枚のディスクを備えていればよい。但し、ここに開示される技術の効果(後述する隔壁への衝突による流体の減速)が生じる頻度は、ディスクの枚数が多くなるにつれて増加する。このため、流体Fをより効率良く減速させるという観点から、ディスクの合計枚数は、3枚以上が好ましく、6枚以上がより好ましく、9枚以上がさらに好ましく、12枚以上が特に好ましい。一方、ディスクの合計枚数は、120枚以下が好ましく、90枚以下がより好ましく、60枚以下がさらに好ましく、30枚以下が特に好ましい。これによって、部品点数を減少して製造コストを削減できる。
【0024】
また、各ディスクの具体的な厚みは、上述したディスクの合計枚数と流体制御部材の全長との関係によって決定される。一例として、各ディスクの厚みは、0.75mm~10mm(好適には1.0mm~3.0mm、より好適には1.0mm~1.5mm)の範囲内で決定され得る。各ディスクが厚くなると、流体制御部材の機械的強度が向上する傾向がある。一方、各ディスクを薄くすると、流体制御部材を構成するディスクの枚数が多くなるため、ここに開示される技術の効果が生じる頻度が増加する。なお、ディスク10、20、30の各々の厚みは、同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
ここで、本実施形態におけるディスク10、20、30は、第1ディスク10と、第2ディスク20と、中間ディスク30を備えている。以下、各々について説明する。
【0026】
(1)第1ディスク
図5は、第1ディスクの正面図である。
図5に示すように、第1ディスク10は、リング状の第1枠体12を有する円板状の部材である。この第1ディスク10は、複数の第1開口部14と、隣接した第1開口部14を仕切る複数の第1隔壁16とを有している。
図5に示す第1ディスク10では、第1開口部14と第1隔壁16がストライプ状に形成されている。具体的には、第1開口部14は、第1ディスク10の平面上の第1の方向(幅方向X)に沿って線状に延びた開口部である。そして、第1隔壁16は、隣接した2つの第1開口部14の間に形成された梁状の部材である。
【0027】
なお、第1開口部14の幅W1の下限値は、0.5mm以上が好ましく、0.75mm以上がより好ましく、1.0mm以上がさらに好ましく、1.5mm以上が特に好ましい。これによって、流体Fの流量を十分に確保できる。一方、第1開口部14の幅W1の上限値は、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましい。これによって、流体Fの過剰な流入による流速の上昇を抑制できる。また、第1開口部14を仕切る第1隔壁16の幅W2の下限値は、0.5mm以上が好ましく、0.75mm以上がより好ましく、1.0mm以上がさらに好ましく、1.5mm以上が特に好ましい。これによって、第1ディスク10の機械的強度を向上できる。一方、第1隔壁16の幅W2の上限値は、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましい。これによって、第1開口部14の幅W1を確保し、十分な流量を得ることができる。
【0028】
(2)第2ディスク
図6は、第2ディスクの正面図である。
図6に示すように、第2ディスク20は、リング状の第2枠体22を有する円板状の部材である。第2ディスク20は、複数の第2開口部24と、隣接した第2開口部24を仕切る複数の第2隔壁26とを有している。また、上記第1ディスク10と同様に、第2ディスク20においても、第2開口部24と第2隔壁26とがストライプ状に形成されている。すなわち、第2開口部24は、第2ディスク20の平面上の第1の方向(幅方向X)に沿って線状に延びている。そして、第2隔壁26は、隣接した2つの第2開口部24の間に形成された梁状の部材である。
【0029】
上述した通り、第1ディスク10と同様に、第2ディスク20においても、第2開口部24と第2隔壁26とがストライプ状に形成されている。しかし、第2ディスク20の第2開口部24と第2隔壁26は、正面視における形成位置が第1ディスク10の第1開口部14と第1隔壁16と異なる。具体的には、
図2及び
図4に示すように、中間ディスク30を介して第1ディスク10と第2ディスク20を積層した場合、第2ディスク20の第2開口部24は、積層方向(奥行方向Y)において第1ディスク10の第1隔壁16と重なる位置に形成される。一方、
図2に示すように、第2ディスク20の第2隔壁26は、積層方向(奥行方向Y)において第1ディスク10の第1開口部14と重なる位置に形成される。詳しくは後述するが、このような第2ディスク20と第1ディスク10を用いることによって、流体Fを適切に減速できる流体制御部材1を構築できる。
【0030】
また、第2開口部24の幅W3(
図6参照)は、第1隔壁16の幅W2(
図5参照)と近似している方が好ましい。これによって、積層方向において第2開口部24と第1隔壁16とが適切に重なるため、流体Fの減速をより適切に生じさせることができる。例えば、第1隔壁16の幅W2を100%としたときの第2開口部24の幅W3の上限値は、120%以下が好ましく、115%以下がより好ましく、110%以下がさらに好ましく、105%以下が特に好ましい。また、第1隔壁16の幅W2に対する第2開口部24の幅W3の下限値は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。同様に、第2隔壁26の幅W4(
図6参照)は、第1開口部14の幅W1(
図5参照)に近似している方が好ましい。これによって、積層方向において第1開口部14と第2隔壁26とが適切に重なるため、流体Fの減速をより適切に生じさせることができる。例えば、第1開口部14の幅W1を100%としたときの第2隔壁26の幅W4の上限値は、120%以下が好ましく、115%以下がより好ましく、110%以下がさらに好ましく、105%以下が特に好ましい。一方、第1開口部14の幅W1に対する第2隔壁26の幅W4の下限値は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
【0031】
(3)中間ディスク
図1~
図3に示すように、中間ディスク30は、第1ディスク10と第2ディスク20との間に配置される。上述した通り、本実施形態に係る流体制御部材1では、一方のディスクの開口部と他方のディスクの隔壁とが積層方向(奥行方向Y)において重なるように、第1ディスク10と第2ディスク20が形成されている。かかる構成の第1ディスク10と第2ディスク20を直接積層すると、一方のディスクの開口部が他方のディスクの隔壁によって閉塞されるため、流体を通過させる流路が形成されなくなる。このため、本実施形態に係る流体制御部材1では、
図2に示すように、第1開口部14と第2開口部24とを連通させる中間開口部34を有する中間ディスク30が第1ディスク10と第2ディスク20との間に配置されている。これによって、流体Fが流通可能な流路5を流体制御部材1の内部に形成できる。
【0032】
本実施形態では、中間ディスク30として、第1中間ディスク40と第2中間ディスク50の2種類のディスクを使用している。
図7は第1中間ディスクの正面図である。
図8は第2中間ディスクの正面図である。なお、
図7及び
図8に示すように、本実施形態において使用される中間ディスク30は、何れも、リング状の中間枠体32と、中間ディスク30の平面上の所定の方向に沿って線状に延びる複数の中間開口部34と、隣接した2つの中間開口部34を仕切る梁状の中間隔壁36とを有している。以下、第1中間ディスク40と第2中間ディスク50の各々の具体的な形状について説明する。
【0033】
図7に示す第1中間ディスク40は、上記第1ディスク10(
図5参照)と同じ構造のディスクを周方向に90°回転させたものである。すなわち、第1中間ディスク40は、リング状の第1中間枠体42と、上記第1の方向(幅方向X)と直交する第2の方向(高さ方向Z)に沿って延びた線状の第1中間開口部44と、隣接した2つの第1中間開口部44の間に形成された梁状の第1中間隔壁46とを備えている。なお、第1中間ディスク40の寸法(第1中間開口部44や第1中間隔壁46の幅など)は、上述した第1ディスク10と同様の寸法を採用できるため重複した説明を省略する。
【0034】
一方、
図8に示す第2中間ディスク50は、上記第2ディスク20(
図6参照)と同じ構造のディスクを周方向に90°回転させたディスクである。すなわち、第2中間ディスク50は、リング状の第2中間枠体52と、上記第2の方向(高さ方向Z)に沿って延びた線状の第2中間開口部54と、隣接した2つの第2中間開口部54の間に形成された梁状の第2中間隔壁56とを備えている。なお、第2中間ディスク50の寸法も、上述した第2ディスク20と同様の寸法を採用できるため重複した説明を省略する。
【0035】
(4)各ディスクの配列
図1~
図3に示すように、本実施形態に係る流体制御部材1は、第1ディスク10及び中間ディスク30をこの順序で積層した第1ユニットU1と、第2ディスク20及び中間ディスク30をこの順序で積層した第2ユニットU2とを備えている。
【0036】
図9は、第1ユニットの正面図である。
図2及び
図9等に示すように、第1ユニットU1における中間ディスク30は、第1中間ディスク40である。すなわち、第1ユニットU1は、第1ディスク10と、当該第1ディスク10を回転させた第1中間ディスク40とを積層することによって形成されている。
図9に示すように、この第1ユニットU1では、第1隔壁16と第1中間隔壁46とが交差した平面格子状の隔壁と、第1開口部14と第1中間開口部44とが重なった開口部が形成される。かかる構成の第1ユニットU1に供給された流体Fは、第1ディスク10の第1開口部14に沿って幅方向Xに拡散された後に、第1中間ディスク40の第1中間開口部44に沿って高さ方向Zに拡散される。これによって、流通中の流体Fを幅方向Xと高さ方向Zの両方向に拡散することができる。これによって、流体Fの反応効率をさらに向上できる。
【0037】
図10は、第2ユニットの正面図である。
図2及び
図10に示すように、第2ユニットU2における中間ディスク30は、第2中間ディスク50である。すなわち、第2ユニットU2は、第2ディスク20と、当該第2ディスク20を回転させた第2中間ディスク50とを積層することによって形成されている。
図10に示すように、この第2ユニットU2では、第2隔壁26と第2中間隔壁56とが交差した平面格子状の隔壁と、第2開口部24と第2中間開口部54とが重なった開口部が形成される。なお、この第2ユニットU2に供給された流体Fも、第2ディスク20の第2開口部24に沿って幅方向Xに拡散された後に、第2中間ディスク50の第2中間開口部54に沿って高さ方向Zに拡散される。これによって、流体Fの反応効率をさらに向上できる。
【0038】
そして、本実施形態に係る流体制御部材1では、流通方向の上流から下流に向かって、第1ユニットU1と、第2ユニットU2と、第1ユニットU1と、第2ユニットU2との順序で各ユニットが配置される。換言すると、本実施形態に係る流体制御部材1では、流通方向の上流から下流に向かって、第1ディスク10、中間ディスク30、第2ディスク20、中間ディスク30、第1ディスク10、中間ディスク30、第2ディスク20及び中間ディスク30がこの順序で積層されている。
【0039】
(5)従来技術との対比
以下、
図13に示す従来の流体制御部材100と比較しながら、本実施形態に係る流体制御部材1の効果について説明する。
【0040】
図13に示す従来の流体制御部材100は、複数のディスク110を積層することによって形成されたものである。そして、この
図13に示すディスク110は、リング状の枠体112と、ディスク110の平面上の所定の方向に沿って線状に延びる開口部114と、隣接した2つの開口部114の間に形成される梁状の隔壁116とを備えている。そして、この流体制御部材100は、上記構成のディスク110を周方向に回転させながら複数枚積層することによって形成されている。このとき、最上面に配置されたディスク110の開口部114には、回転しながら積層された複数のディスク110の隔壁116の一部が重なる。かかる構成の流体制御部材100に供給された流体は、最上面のディスク110の開口部114に流入した後に、下層側に配置された複数のディスク110の隔壁116の何れかに衝突する。これによって、流体制御部材100に供給された流体を減速できる。
【0041】
しかしながら、
図13に示す流体制御部材100のように、同じ構造を有する複数のディスク110を回転させながら積層させた場合、各ディスク110の開口部114が重なった貫通流路105a(
図13中の黒塗り部分参照)が形成されることがある。この貫通流路105aは、積層方向において流体制御部材100を貫通している。このため、貫通流路105aに供給された流体は、隔壁116との衝突による減速が殆ど生じないため、所望の化学反応が十分に生じない状態で流体制御部材を通過する。以上の通り、
図13に示すような従来の流体制御部材100では、貫通流路105aが形成されることによる反応効率の大幅な低下が生じる可能性がある。
【0042】
これに対して、本実施形態に係る流体制御部材1では、
図2に示すように、開口部の形成位置が異なる2種類のディスク(第1ディスク10と第2ディスク20)を積層している。そして、第1ディスク10の第1開口部14は、第2ディスク20の第2隔壁26と積層方向(奥行方向Y)において重なるように配置される。さらに、第2ディスク20の第2開口部24は、第1ディスク10の第1隔壁16と積層方向(奥行方向Y)において重なるように配置される。すなわち、本実施形態に係る流体制御部材1は、一方のディスクの開口部と他方のディスクの隔壁とが奥行方向Yにおいて重なるように構成される。かかる構成によると、流体制御部材1を貫通する貫通流路の形成を確実に防止できる。そして、本実施形態では、中間ディスク30の中間開口部34を介して第1開口部14と第2開口部24とが連通した流路5が形成されている。かかる流路5に供給された流体Fは、第1ディスク10の第1開口部14を通過し、中間ディスク30の中間開口部34に流入する。そして、中間開口部34を通過した流体Fは、第2ディスク20の第2隔壁26と衝突して流速が低下する。そして、第2隔壁26と衝突した流体Fは、高さ方向Zに拡散した後に、第2ディスク20の第2開口部24に流入する。すなわち、この流体制御部材1の流路5には、隔壁との衝突によって流速を低下させる構造が形成されている。以上の通り、本実施形態に係る流体制御部材1は、局所的な流速上昇の原因となる貫通流路の形成を防止でき、かつ、流体Fを適切に減速できる構造を有している。このため、本実施形態によると、反応流路における反応効率を好適に改善することができる。
【0043】
また、本実施形態に係る流体制御部材1は、第1ディスク10、中間ディスク30、第2ディスク20、中間ディスク30および第1ディスク10の順序で積層された積層構造を含んでいる。かかる積層構造では、第2ディスク20のさらに下流側に第1ディスク10が配置されている。この場合、
図2に示すように、第2ディスク20の第2開口部24に流入した後の流体Fは、中間ディスク30の中間開口部34を通過した後に第1ディスク10の第1隔壁16に衝突して減速する。すなわち、中間ディスク30を介して第2ディスク20の下流側に第1ディスク10を配置することによって、第1隔壁16への衝突による流体Fの減速を生じさせることができる。これによって、流体Fの反応効率をさらに改善できる。
【0044】
加えて、本実施形態では、中間ディスク30として、第1ディスク10と同じ構造のディスクを回転させた第1中間ディスク40と、第2ディスク20と同じ構造のディスクを回転させた第2中間ディスク50を使用している。これによって、第1ディスク10(又は第2ディスク20)から中間ディスク30に流体Fが流入する際にも、隔壁との衝突による流体Fの減速を生じさせることができる。具体的には、流体制御部材1の幅方向Xに沿った断面図(
図3)に示すように、第1ディスク10の第1開口部14を通過した流体Fは、第1中間ディスク40に流入する際に第1中間隔壁46に衝突して減速する。さらに、第1中間ディスク40の第1中間開口部44を流入した流体Fは、第2ディスク20の第2開口部24を通過した後に、第2中間ディスク50の第2中間隔壁56に衝突して減速する。このように、本実施形態に係る流体制御部材1では、第1ディスク10、第2ディスク20、第1中間ディスク40及び第2中間ディスク50の各ディスクにおいて流体Fの減速が生じさせることができる。これによって、反応流路における反応効率をさらに改善できる。
【0045】
以上、ここに開示される技術の第1の実施形態に係る流体制御部材1について説明した。なお、この流体制御部材1の減速対象である流体Fは、ここに開示される技術を制限するものではない。すなわち、流体Fは、プラントや実験機器の反応流路内で化学反応処理が行われ得る液体又は気体を特に制限なく選択できる。かかる流体Fの一例として、水を主成分とする水系溶液;ヘリウム、アルゴン等の希ガス;二酸化炭素、酸素、窒素等の大気構成ガス;ジメチルホルムアミド等のアミド化合物;ジメチルスルホキシド等のスルホ化合物;テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル、ジオキサン等のエーテル化合物;酢酸エチル等のエステル化合物;メチルエチルケトン等のケトン化合物;トルエン、1,2,4-トリクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、キシレン等の芳香族化合物;メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどのアルカン;メタノール、エタノール、プロパノール等の第一級アルコール;プロパン-2-オール、ブタン-2-オール、ペンタン-2-オール、ヘキサフルオロイソプロパノール等の第二級アルコール;2-メチル-2-メチルプロパン-2-オール、2-メチルブタン-2-オール、2-メチルペンタン-2-オール(C6)等の第三級アルコール;グリセリン、エチレングリコール等の多価アルコールなどが挙げられる。なお、本実施形態に係る流体制御部材1は、低粘度の流体を減速対象とした場合に特に好適な効果を発揮できる。具体的には、低粘度の流体は、高粘度の流体と比べて、貫通流路に供給された際の速度上昇が顕著に発生する。これに対して、本実施形態に係る流体制御部材1は、貫通流路の形成を確実に防止できるため、低粘度の流体が供給された場合でも流速の顕著な上昇を抑制できる。なお、ここでの「低粘度の流体」とは、気体および粘度が1.5Pa・s以下(典型的には1.0Pa・s以下)の液体を包含する概念である。
【0046】
2.流体制御部材の製造方法
次に、上記構成の流体制御部材1を製造する方法について説明する。
図11は、本実施形態に係る流体制御部材の製造方法を説明するフロー図である。
図11に示すように、本実施形態に係る製造方法は、ディスク形成工程S10と組立工程S20を備えている。以下、各工程について説明する。
【0047】
(1)ディスク形成工程S10
ディスク形成工程S10では、開口部を有する複数のディスクを形成する。本実施形態に係る製造方法では、本工程において、
図5に示す第1ディスク10と、
図6に示す第2ディスク20と、
図7及び
図8に示す中間ディスク30を形成する。各ディスクの材料や構造は既に説明したため、重複する説明を省略する。なお、本実施形態では、ディスク形成工程S10において積層造形法を用いている。以下、積層造形法を用いたディスク形成工程S10について説明する。
図11に示すように、このディスク形成工程S10は、造形工程S12と、粉体除去工程S14と、焼成工程S16を備えている。
【0048】
(a)造形工程S12
造形工程S12では、造形用粉末の堆積物に造形液を供給して粉体固化層を形成する処理を繰り返すことによって積層造形物を造形する。ここでの「積層造形物」とは、所望のディスクに対応した形状となるように造形用粉末を固化させた未焼成の成形体である。
【0049】
(造形用粉末)
造形用粉末は、母材粒子と水溶性樹脂粒子を少なくとも含む粉体材料である。母材粒子は、焼成後のディスクの主成分となる粒子である。例えば、セラミック焼結体を主成分としたディスクを形成する場合には、母材粒子としてセラミック粒子が用いられる。なお、造形用粉末の総重量を100wt%としたときの母材粒子の含有量は、50wt%以上が適当である。なお、焼成後のディスクの機械的強度を考慮すると、母材粒子の含有量は、60wt%以上が好ましく、70wt%以上がより好ましく、80wt%以上がさらに好ましく、90wt%以上が特に好ましい。一方、水溶性樹脂粒子の含有量を確保することを考慮すると、母材粒子の含有量は、97wt%以下が好ましく、95wt%以下がより好ましく、92wt%以下がさらに好ましい。
【0050】
一方、水溶性樹脂粒子は、造形液が供給された造形用粉末を固化させるバインダ粒子である。水溶性樹脂粒子には、水溶性であり、かつ、水に溶解した際に水よりも高い粘性を発現する樹脂材料が用いられる。この水溶性樹脂の一例として、液温90℃の水100質量部に2質量部を添加し4時間攪拌して溶解させた際に、水よりも高い粘性を有する水溶液を実現できる樹脂材料が挙げられる。より好適には、水溶性樹脂粒子の水溶液は、水の粘度の1.2倍以上(好適には1.5倍以上、より好適には2.0倍以上)の粘度を有していることが好ましい。かかる水溶性樹脂の一例として、スルホン酸変性ポリ酢酸ビニル等のビニルアルコール系樹脂、イソブチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。また、造形用粉末の総重量を100wt%としたときの水溶性樹脂粒子の含有量は、1wt%以上が好ましく、5wt%以上がより好ましく、7.5wt%以上がさらに好ましく、10wt%以上が特に好ましい。一方、水溶性樹脂粒子の含有量は、35wt%以下が好ましく、30wt%以下がより好ましく、25wt%以下がさらに好ましく、20wt%以下が特に好ましい。これによって、焼成後のディスクの機械的強度を十分に確保できる。
【0051】
また、造形用粉末は、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限り、積層造形法に使用され得る公知の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、分散剤、増粘剤、印刷助剤、焼結助剤、流動性付与剤、除電剤等が挙げられる。なお、これらの添加剤は、ここに開示される技術を特徴づけるものではないため詳しい説明を省略する。
【0052】
(造形液)
造形液は、少なくとも水を含む液体材料である。造形液に使用され得る水としては、純水、超純水、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水等が挙げられる。また、造形液は、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)を含有していてもよい。また、造形液は、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限り、積層造形法に使用され得る公知の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、染料、有機顔料、無機顔料、湿潤剤、流量増加剤、分散剤等が挙げられる。これらの添加剤は、ここに開示される技術を特徴づけるものではないため詳しい説明を省略する。なお、造形液は、総体積(100体積%)に対して、60体積%以上(好適には70体積%以上、より好適には80体積%以上、典型的には70~100体積%)の水を含んでいるとよい。これによって、造形用粉末中の水溶性樹脂粒子を容易に溶解できるため、造形用粉末を適切に固化できる。
【0053】
(造形工程の手順)
次に、造形工程S12の具体的な手順について説明する。造形工程S12では、最初に、造形用粉末の堆積物(造形用堆積物)を成形する。例えば、平坦な裁置台の上面に造形用粉末を供給した後、ローラ等の圧縮手段で造形用粉末を圧縮する。これによって、造形用粉末の圧縮成形体である造形用堆積物を容易に成形できる。なお、造形用堆積物の厚みは、0.01mm~0.3mmの範囲内が好適である。これによって、粉体固化層の積層位置がずれることによる造形不良を抑制できる。
【0054】
次に、造形用堆積物の所定の位置に造形液を供給する。これによって、造形用粉末中の水溶性樹脂粒子が造形液に溶解する。そして、水溶性樹脂の溶液を介して母材粒子同士が結合する。この結果、造形液が供給された部分には、造形用粉末が固化した粉体固化層が形成される。なお、この造形液の供給には、インクジェットヘッドを備えた3Dプリンタを使用することが好ましい。これによって、非常に精密に造形液を供給できるため、所望の形状のディスクを正確に形成することができる。
【0055】
そして、本工程では、粉体固化層が形成された造形用堆積物の上に、新たな造形用堆積物を成形する。そして、新たな造形用堆積物に造形液を供給して粉体固化層を形成する。このように、造形用堆積物の成形と造形液の供給を繰り返すことによって、複数の粉体固化層が積層した立体構造(積層造形物)を造形できる。なお、ここに開示される技術を限定するものではないが、本実施形態では、15層~30層の粉体固化層を積層することが好ましい。これによって、目的とするディスクの形状に対応した積層造形物を正確に造形できる。
【0056】
(b)粉体除去工程S14
粉体除去工程S14では、積層造形物を乾燥させた後に、積層造形物に付着した未固化の造形用粉末を除去する。これによって、造形用粉末が固化した立体構造である積層造形物が露出する。なお、本工程における乾燥手段は、特に限定されず、従来公知の乾燥手段を適宜採用できる。例えば、所定の乾燥機の内部に積層造形物を収容して乾燥処理を行ってもよい。なお、このときの乾燥機内部の温度は、50℃~80℃程度であることが好ましい。これによって、母材粒子を結合している水溶性樹脂が焼失することを防止できる。また、乾燥時間は、1.5時間~5時間程度が好ましい。また、未固化の造形用粉末を除去する手段としては、ブラシやエアブローなどが上げられる。
【0057】
なお、流体制御部材の内部の流路が複雑になると、当該流路の内部における未固化粉末の除去が困難になる。そして、流路内に未固化粉末が残留したまま焼成工程S14を実施すると、残留した未固化粉末が焼結して流路を閉塞させるおそれがある。これに対して、本実施形態に係る製造方法では、比較的に簡単な構造のディスク10、20、30を個別に形成した後に、これらのディスク10、20、30を積層することによって複雑な流路5を有する流体制御部材1を形成している。このため、本実施形態によると、複雑な流路5を有する流体制御部材1を製造しているにも関わらず、粉体除去工程S14における未固化粉末の残留を適切に防止することができる。
【0058】
(c)焼成工程S16
次に、焼成工程S16では、積層造形物を焼成する。これによって、水溶性樹脂が焼失するとともに母材粒子同士が焼結する。この結果、所望の形状のディスク10、20、30を形成できる。なお、本工程における最高焼成温度は、母材粒子の焼結温度を考慮して適宜調節することが好ましい。例えば、母材粒子としてアルミナ(Al2O3)粒子を使用した場合には、焼成工程における最高焼成温度を、1200℃~1800℃(好適には1300℃~1750℃、より好適には1400℃~1600℃)の範囲に設定することが好ましい。なお、焼成時間(最高焼成温度を維持する時間)は、1時間~10時間(好適には2時間~7時間、より好適には3時間~6時間)の範囲に設定することが好ましい。
【0059】
また、焼成工程S16は、上記最高焼成温度に達する本焼成が行われる前に、水溶性樹脂が焼失する温度で積層造形物を加熱する仮焼成を実施することが好ましい。これによって、急激な体積変化に伴うクラックの発生を防止できる。この仮焼成における焼成温度は、使用する水溶性樹脂の焼失温度を考慮して適宜調節することが好ましい。例えば、水溶性樹脂としてスルホン酸変性ポリ酢酸ビニルを使用した場合の仮焼成温度は、400℃~900℃(好適には500℃~800℃)の範囲に設定することが好ましい。また、仮焼成の時間(仮焼成温度を維持する時間)は、12時間~48時間(好適には20時間~30時間)の範囲に設定することが好ましい。
【0060】
なお、ここに開示される製造方法を限定するものではないが、焼成工程S16を実施する前の積層造形物にカップリング液を含浸させてもよい。これによって、焼成後のディスクの機械的強度を向上できる。なお、カップリング液は、所定のカップリング剤を含む液体である。このカップリング剤は、金属元素を含む化合物である。カップリング剤の一例として、シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤などが挙げられる。なお、カップリング液の含浸を行った場合には、焼成工程S16の前に、乾燥処理を再度実施することが好ましい。
【0061】
(2)組立工程S20
組立工程S20では、複数のディスクを所定の積層方向に積層することによって流体制御部材1を形成する。この組立工程S20では、第1ディスク10と第2ディスク20との間に中間ディスク30が配置されるように複数のディスク10、20、30を積層する(
図1参照)。このとき、本実施形態に係る製造方法では、第1ディスク10の第1開口部14と第2ディスク20の第2隔壁26とが積層方向(奥行方向Y)において重なり、かつ、第2ディスク20の第2開口部24と第1ディスク10の第1隔壁16とが積層方向において重なるように各ディスク10、20、30を配置する。これによって、貫通流路を有さず、かつ、流体Fを適切に減速できる構造を有する流体制御部材1を製造できる。
【0062】
なお、本工程では、積層後の各ディスク10、20、30を固定手段で固定することが好ましい。これによって、各ディスク10、20、30の周方向における回転角度を固定できるため、ここに開示される技術の効果を安定的に生じさせることができる。なお、固定手段は、製造後の流体制御部材1に供給される流体Fの種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、流体Fが水系の液体である場合には、固定手段として、非水溶性の接着剤を使用できる。この非水溶性の接着剤としては、弾性接着剤、エポキシ弾性接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、瞬間接着剤、ゴム系溶剤型接着剤、酢酸ビニルエマルション接着剤、セラミック接着剤などが挙げられる。また、固定手段は、上述した接着剤に限定されない。例えば、固定手段は、無機材料(例えばセラミック焼結体)からなる固定治具であってもよい。このような固定治具は、接着剤の使用が困難な流体F(有機溶剤など)を対象とした場合に特に好適に採用できる。
【0063】
[他の実施形態]
以上、ここに開示される技術の第1の実施形態について説明した。しかし、第1の実施形態は、ここに開示される技術の一例を示したものであり、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。以下、ここに開示される技術の他の実施形態について説明する。
【0064】
1.第1ディスクと第2ディスクの構造
第1の実施形態における第1ディスク10では、線状の第1開口部14と、梁状の第1隔壁16とがストライプ状に形成されている。また、第2ディスク20でも、線状の第2開口部24と、梁状の第2隔壁26とがストライプ状に形成されている。しかし、第1ディスクと第2ディスクの開口部のパターンは、ここに開示される技術を限定するものではない。例えば、第1ディスクと第2ディスクは、格子状の隔壁と、当該隔壁に囲まれた開口部が形成されていてもよい。かかる構成を採用した場合には、角型の開口部と格子状の隔壁とが積層方向において重なるように、各ディスクの開口部と隔壁の位置を設定するとよい。これによって、貫通流路の形成を防止し、かつ、隔壁への衝突による流体の減速を適切に生じさせることができる。
【0065】
2.中間ディスクの構造
第1の実施形態では、中間ディスクとして、
図7に示す第1中間ディスク40と、
図8に示す第2中間ディスク50が用いられている。しかし、中間ディスクは、第1開口部と第2開口部とを連通させる中間開口部を有していれば、詳細な構造は特に限定されない。
【0066】
例えば、
図7に示す第1中間ディスク40は、第1ディスク10と同じ構造のディスクを周方向に90°回転させたディスクである。しかし、この第1中間ディスクの回転角度は、特に限定されない。第1ディスクに対する第1中間ディスクの回転角度が0°超180°未満であれば、第1中間開口部と第2隔壁とが完全に重なることによる流路の閉塞を防止できる。なお、第1中間ディスクの回転角度の下限値は、45°以上が好ましく、55°以上がより好ましく、65°以上がさらに好ましく、75°以上が特に好ましい。一方、第1中間ディスクの回転角度の上限値は、135°以下が好ましく、125°以下がより好ましく、115°以下がさらに好ましく、105°以下が特に好ましい。これによって、第1中間開口部と第2隔壁とが重なる面積を少なくし、流体の流量を一定以上確保できる。なお、説明が重複するため詳細を省略するが、第2ディスクに対する第2中間ディスクの回転角度も、45°以上が好ましく、55°以上がより好ましく、65°以上がさらに好ましく、75°以上が特に好ましい。そして、第2中間ディスク50の回転角度の上限値も、135°以下が好ましく、125°以下がより好ましく、115°以下がさらに好ましく、105°以下が特に好ましい。
【0067】
また、第1の実施形態では、第1中間ディスク40と第2中間ディスク50の2種類の中間ディスク30を使用している。しかし、ここに開示される技術では、中間ディスクとして、中間開口部のパターンが同じ単一種類のディスクを使用してもよい。例えば、
図7に示す第1中間ディスク40と、
図8に示す第2中間ディスク50の何れか一方のみを中間ディスク30として使用することもできる。この場合でも、中間開口部を介して第1開口部と第2開口部とが連通した流路を形成できる。そして、かかる構成の流路を形成した場合でも、中間ディスクから第1ディスク(又は第2ディスク)に流入する際に、隔壁への衝突による流体の減速を適切に生じさせることができる。但し、流体の流速をさらに遅くするという観点では、第1の実施形態のように、第1中間ディスク40と第2中間ディスク50の2種類の中間ディスク30を使用した方が好ましい。これによって、中間ディスクに流入した流体に隔壁への衝突による減速を生じさせることができる。
【0068】
また、中間ディスクは、第1ディスクや第2ディスクの回転体でなくてもよい。換言すると、中間ディスクは、第1ディスクや第2ディスクとは全く異なる形状の中間開口部を有していてもよい。例えば、
図12に示す第3中間ディスク60を中間ディスク30として使用することもできる。この第3中間ディスク60は、リング状の第3中間枠体62と、当該第3中間枠体62に囲まれた第3中間開口部64を有している。この第3中間ディスク60は、第1中間ディスク40や第2中間ディスク50のような隔壁を有していない。このため、第1ディスクの第1開口部と第2ディスクの第2開口部とを確実に連通することができる。そして、かかる構成の第3中間ディスク60を使用した場合でも、中間ディスク30から第1ディスク10(又は第2ディスク20)に流入する際に、隔壁への衝突による流体Fの減速が生じる。
【0069】
3.各ディスクの配列
次に、第1の実施形態では、第1ユニットU1と第2ユニットU2を交互に配置することによって流体制御部材1を構築している。しかしながら、各ユニットの配列順序も、上述した第1の実施形態に限定されない。例えば、複数個の第1ユニットU1を連続的に配列した後に、複数個の第2ユニットU2を連続的に配列してもよい。この場合には、第1ユニットU1から第2ユニットU2に切り替わる部分において、隔壁の衝突による流体の減速が生じる。
【0070】
また、第1の実施形態における第1ユニットU1は、第1ディスク10と第1中間ディスク40を備えている。また、第2ユニットU2は、第2ディスク20と第2中間ディスク50を備えている。しかし、これらのユニットの構成も、ここに開示される技術を限定するものではない。例えば、第1ユニットU1は、第1ディスク10と第2中間ディスク50を備えていてもよい。また、第2ユニットU2は、第2ディスク20と第1中間ディスク40を備えていてもよい。かかる構成の第1ユニットU1と第2ユニットU2を積層した場合でも、上記第1の実施形態と同様に、第1ディスク10、第2ディスク20、第1中間ディスク40及び第2中間ディスク50の各々において流体Fの減速が生じさせることができる。すなわち、第1ユニットおよび第2ユニットの一方における中間ディスクを第1中間ディスク40とし、他方のユニットにおける中間ディスクを第2中間ディスク50とすれば、中間ディスクにおける流体の減速を生じさせることができる。
【0071】
また、上述した実施形態では、第1ディスク10、第2ディスク20、第1中間ディスク40及び第2中間ディスク50の各々を個別のディスクとして成形している。しかし、ここに開示される流体制御部材を構築するに際して、各々のディスクが別体である必要はない。すなわち、積層造形法などを利用して、流体制御部材を構築する複数のディスクの一部を一体的に成形してもよい。例えば、
図9に示す第1ユニットU1は、第1ディスク10と第1中間ディスク40とを一体成形することによって形成されていてもよい。また、
図10に示す第2ユニットU2は、第2ディスク20と第2中間ディスク50を一体成形することによって形成されていてもよい。これによって、部品点数の削減による製造効率の向上に貢献できる。
【0072】
また、第1の実施形態における第1ユニットU1と第2ユニットU2は、ここに開示される流体制御部材を構成する必須の要素ではない。上述した通り、ここに開示される流体制御部材は、第1ディスク、中間ディスク及び第2ディスクをこの順序で1枚ずつ積層すれば構築することができる。また、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない限り、流体制御部材は、第1ユニットU1と第2ユニットU2の何れにも属さないディスクを備えていてもよい。例えば、
図1に示す流体制御部材1の第1ユニットU1と第2ユニットU2との間に、
図12に示す第3中間ディスク60を介在させてもよい。この第3中間ディスク60は、隔壁を有さないため、任意の位置に配置しても流路を閉塞させることがない。また、第3中間ディスク60は、幅方向Xおよび高さ方向Zにおける流体Fの拡散性に優れている。このため、第3中間ディスク60を任意の位置に適宜配置することによって流体Fの反応効率をさらに改善できる。
【0073】
4.製造方法について
上記第1の実施形態では、積層造形法を用いて各ディスクを形成している。しかしながら、ここに開示される流体制御部材におけるディスク形成工程は、積層造形法を利用する形態に限定されない。ディスク形成工程は、上記構成の第1ディスクと第2ディスクと中間ディスクを形成することができればよく、特定の手段に限定されるものではない。ディスク形成工程は、例えば、切削加工、鋳型成形、プレス成形、流し込み成形、押出成形などを用いて各ディスクを形成してもよい。これらの手段で形成したディスクを用いた場合でも、ここに開示される技術の効果を適切に発揮することができる。
【0074】
[ここに開示される技術に包含される形態]
また、ここに開示される技術は、以下の項目1~項目10に記載の形態を包含する。
【0075】
[項目1]
開口部を有する複数のディスクを所定の積層方向に積層することによって形成された流体制御部材であって、
前記複数のディスクは、少なくとも、
複数の第1開口部と、隣接した前記第1開口部を仕切る複数の第1隔壁とを有する第1ディスクと、
複数の第2開口部と、隣接した前記第2開口部を仕切る複数の第2隔壁とを有する第2ディスクと、
前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に配置され、前記第1開口部と前記第2開口部とを連通させて流路を形成する中間開口部を有する中間ディスクと
を備えており、
前記第1開口部と前記第2隔壁とが前記積層方向において重なる位置に配置され、かつ、前記第2開口部と前記第1隔壁とが前記積層方向において重なる位置に配置されている、流体制御部材。
【0076】
[項目2]
少なくとも、前記第1ディスク、前記中間ディスク、前記第2ディスク、前記中間ディスクおよび前記第1ディスクがこの順序で積層されている、項目1に記載の流体制御部材。
【0077】
[項目3]
前記第1ディスクは、当該第1ディスクの平面上の第1の方向に沿って線状に延びる複数の前記第1開口部と、隣接した2つの前記第1開口部の間に形成された梁状の第1隔壁とを有し、
前記第2ディスクは、当該第2ディスクの平面上の第1の方向に沿って線状に延びる複数の前記第2開口部と、隣接した2つの前記第2開口部の間に形成された梁状の第2隔壁とを有している、項目1または2に記載の流体制御部材。
【0078】
[項目4]
前記第1ディスク及び前記中間ディスクがこの順序で積層された第1ユニットと、
前記第2ディスク及び前記中間ディスクがこの順序で積層された第2ユニットと
を少なくとも含み、
前記第1ユニットおよび前記第2ユニットの一方における中間ディスクは、前記第1ディスクと同じ構造のディスクを周方向に45°~135°の角度で回転させた第1中間ディスクであり、
前記第1ユニットおよび前記第2ユニットの他方における中間ディスクは、前記第2ディスクと同じ構造のディスクを周方向に45°~135°の角度で回転させた第2中間ディスクである、項目1~3のいずれか一項に記載の流体制御部材。
【0079】
[項目5]
前記第1ユニットは、前記第1ディスクと前記中間ディスクとが一体的に成形されることによって形成され、
前記第2ユニットは、前記第2ディスクと前記中間ディスクとが一体的に成形されることによって形成されている、項目4に記載の流体制御部材。
【0080】
[項目6]
前記複数のディスクは、セラミック焼結体である、項目1~5のいずれか一項に記載の流体制御部材。
【0081】
[項目7]
前記セラミック焼結体は、Al、Zr、Ti、Zn、Ni、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物、窒化物、炭化物を主体として形成されている、項目6に記載の流体制御部材。
【0082】
[項目8]
前記セラミック焼結体は、隔壁の気孔率が10%以上60%以下の多孔体である、項目6または7に記載の流体制御部材。
【0083】
[項目9]
開口部を有する複数のディスクを形成するディスク形成工程と、
前記複数のディスクを所定の積層方向に積層することによって流体制御部材を形成する組立工程と
を備えており、
前記ディスク形成工程は、少なくとも、
複数の第1開口部と、隣接した前記第1開口部を仕切る複数の第1隔壁とを有する第1ディスクと、
複数の第2開口部と、隣接した前記第2開口部を仕切る複数の第2隔壁とを有する第2ディスクと、
前記第1開口部と前記第2開口部とを連通させて流路を形成する中間開口部を有する中間ディスクと
を形成し、
前記組立工程は、
前記第1ディスクと前記第2ディスクとの間に前記中間ディスクが配置されるように前記複数のディスクを積層し、
前記第1開口部と前記第2隔壁を前記積層方向において重なる位置に配置し、かつ、前記第2開口部と前記第1隔壁を前記積層方向において重なる位置に配置する、流体制御部材の製造方法。
【0084】
[項目10]
前記ディスク形成工程は、
母材粒子と水溶性樹脂粒子を含む造形用粉末の堆積物に、水を含む造形液を供給して粉体固化層を形成する処理を繰り返すことによって積層造形物を造形する工程と、
前記積層造形物を乾燥させ、前記積層造形物に付着した未固化の造形用粉末を除去する工程と、
前記積層造形物を焼成して前記複数のディスクを形成する工程と
を備えている、項目9に記載の流体制御部材の製造方法。
【0085】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関するいくつかの試験例を説明する。なお、以下の説明は、ここに開示される技術を試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0086】
本試験では、アンシス・ジャパン株式会社製の3次元流体シミュレーションソフト(型式:Ansys 2021 R2 SpaceClaim 2021R)を使用し、構造が異なる4種類の流体制御部材(サンプル1~4)の仮想モデルを構築した。そして、各サンプルに流体を供給した際の流通シミュレーションを実施した。
【0087】
1.サンプルの構築
(1)サンプル1
サンプル1では、
図14に示すように、複数の流路205を有する流体制御部材200を構築した。サンプル1における流路205は、奥行方向Yに沿って延びた円柱状の開口部である。そして、この流路205は、奥行方向Yにおいて流体制御部材200を貫通している。なお、流体制御部材200の直径は27mmに設定し、全長は180mmに設定した。また、各々の流路205の直径は2mmに設定した。また、流体制御部材200の素材は、アルミナ焼結体に設定した。
【0088】
(2)サンプル2
サンプル2では、
図15に示すように、配管310内に複数の流体制御粒子320が充填された流体制御部材300を構築した。このサンプル2の流体制御部材300では、充填された流体制御粒子320の隙間に流路305が形成される。なお、サンプル2の流体制御部材300の寸法は、サンプル1と同じ条件に設定した。また、流体制御粒子320の平均粒子径は5mmに設定した。
【0089】
(3)サンプル3
サンプル3では、
図13に示す流体制御部材100を構築した。上述した通り、この流体制御部材100は、複数枚のディスク110を周方向に回転しながら積層することによって構築されている。なお、サンプル3の流体制御部材100におけるディスク110の積層数は36枚である。また、各ディスク110は、周方向に15°ずつ回転しながら積層されている。なお、サンプル3の流体制御部材100の寸法は、サンプル1と同じ条件に設定した。また、各々のディスク110の厚みは5mmに設定した。そして、各ディスクの開口部114の幅は1.5mmに設定し、隔壁116の幅は1.5mmに設定した。
【0090】
(4)サンプル4
サンプル4では、
図1~
図4に示す第1の実施形態に係る流体制御部材1と同様の構造の流体制御部材を構築した。すなわち、サンプル4では、
図4に示す第1ディスク10と、
図6に示す第1中間ディスク40と、
図5に示す第2ディスク20と、
図7に示す第2中間ディスク50を、この順序で積層した。但し、サンプル4では、ディスクの合計積層数を、
図1~
図2に示す8枚から上記サンプル3と同じ36枚に増加させた。なお、サンプル4の流体制御部材1の寸法は、サンプル1と同じ条件に設定した。また、各々のディスクの厚みは5mmに設定した。そして、各ディスクの開口部の幅は1.5mmに設定し、隔壁の幅は1.5mmに設定した。
【0091】
2.評価試験
上述した通り、本試験では、アンシス・ジャパン株式会社製の3次元流体シミュレーションソフトにおいて、上記各サンプルに流体を供給した際の流通シミュレーションを実施した。なお、流通シミュレーションにおける流体は水に設定し、供給速度は0.5m/sに設定した。
【0092】
そして、本試験では、各サンプルの奥行方向Yに沿った測定領域を任意に6つ選択し、各々の測定領域における「流通時間(sec)」と「壁からの距離(mm)」を測定した。なお、ここでの「流通時間(sec)」とは、流体制御部材に侵入した流体が外部に排出されるまでの時間を示している。また、「壁からの距離(mm)」とは、選択した領域を通過する流体が壁(隔壁又は流体制御粒子)からどの程度離れているかを示している。この「壁からの距離(mm)」が小さい場合には、流路内の部材(隔壁や粒子)と流体との衝突による減速が生じていると解釈することができる。サンプル1の測定結果を
図16に示し、サンプル2の測定結果を
図17に示す。また、サンプル3の測定結果を
図18に示し、サンプル4の測定結果を
図19に示す。
【0093】
先ず、
図16に示すように、サンプル1の流体制御部材200では、壁からの距離が0mm近傍であり、流通時間が0.2秒前後である測定領域と、壁からの距離が0.5mm~1.0mmの間であり、流通時間が0.1秒強である測定領域が確認された。このことから、サンプル1のように、流体制御部材200の流路205を貫通流路にすると、流体の減速が殆ど生じない(壁からの距離が大きい状態で維持された)領域が生じ、流通領域によって流通時間にばらつきが生じること分かった。このような流体制御部材200では、効率のよい化学反応を安定的に生じさせることが難しいと予想される。
【0094】
次に、
図17に示すように、サンプル2の流体制御部材300の内部では、流体の減速(壁からの距離の低下)が不規則に発生していた。この不規則な減速は、流路305を通過する流体が流体制御粒子320に衝突した際に生じると推測される。一方で、サンプル2では、流通時間が極端に短い測定領域も確認された。この測定領域では、流体制御粒子320の充填密度が低く、十分な減速が生じなかった(壁からの距離が大きくなる頻度が多かった)ためと解される。このため、サンプル2の流体制御部材300でも、効率のよい化学反応を安定的に生じさせることが難しいと予想される。
【0095】
次に、
図18に示すように、サンプル3の流体制御部材100の内部では、流体の減速(壁からの距離の低下)が規則的に発生していた。この規則的な減速は、回転しながら積層されたディスク110の隔壁116に流体が衝突した際に生じていると推測される。しかしながら、サンプル3では、流速が速くなり(壁からの距離が0.5mm付近になる頻度が多くなり)、流通時間が極端に短い測定領域が確認された。この測定領域では、全てのディスク110の開口部114が重なった貫通流路105aが形成されていると解される。このことから、サンプル3の流体制御部材100を使用した場合も、効率のよい化学反応を安定的に生じさせることが難しいと予想される。
【0096】
そして、
図19に示すように、サンプル4の流体制御部材1の内部では、流体の減速(壁からの距離の低下)と流体の加速(壁からの距離の増加)とが規則的に発生していた。この規則的な減速は、第1ディスク、第2ディスク、第1中間ディスク及び第2中間ディスクの各々に流体が流入する際の隔壁への衝突によって生じると推測される。加えて、サンプル4では、流体の減速時間(壁からの距離が低下している時間)が、流体の加速時間(壁からの距離の増加している時間)よりも長くなっており、各々の測定領域における流通時間が0.2秒前後で安定していた。このことから、サンプル4の流体制御部材1を使用すると、流体の減速が適切に生じるため、効率の良い化学反応が安定的に生じると予想される。
【0097】
以上、ここに開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1 流体制御部材
5 流路
10 第1ディスク(ディスク)
12 第1枠体
14 第1開口部
16 第1隔壁
20 第2ディスク(ディスク)
22 第2枠体
24 第2開口部
26 第2隔壁
30 中間ディスク(ディスク)
32 中間枠体
34 中間開口部
36 中間隔壁
40 第1中間ディスク
42 第1中間枠体
44 第1中間開口部
46 第1中間隔壁
50 第2中間ディスク
52 第2中間枠体
54 第2中間開口部
56 第2中間隔壁
60 第3中間ディスク
62 第3中間枠体
64 第3中間開口部
U1 第1ユニット
U2 第2ユニット
F 流体