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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045492
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20240326BHJP
   F16J 15/3252 20160101ALI20240326BHJP
   F16J 15/3244 20160101ALI20240326BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20240326BHJP
   H02K 5/16 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/3252
F16J15/3244
F16J15/16 B
H02K5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018684
(22)【出願日】2024-02-09
(62)【分割の表示】P 2022578431の分割
【原出願日】2022-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2021011531
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健一
(57)【要約】
【課題】発熱による劣化を防止できる密封装置を提供する。
【解決手段】密封装置1は、軸線周りに環状である金属製の保持環10と、外周側において保持環10に固定され、軸線周りに環状のシールリップ20であって、軸線に対して斜めに延び、内周側の端部を形成し、内周側に、内周側部材に接触する第1内周面22を有するシール部21を有するシールリップ20と、外周側において保持環10に固定され、軸線周りに環状の導電性を有する導電リップ30であって、軸線に対して斜めに延び、内周側の端部を形成し、内周側に、内周側部材に接触する第2内周面32を有する接点部31を有する導電リップ30と、を有し、シールリップ20と導電リップ30は、少なくともシール部21と接点部31において、軸線方向に間隔を空けて配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周側部材と外周側部材との間の環状の空間を密封するための密封装置であって、
軸線周りに環状である金属製の保持環と、
外周側において前記保持環に固定され、前記軸線周りに環状のシールリップであって、
前記軸線に対して斜めに延び、内周側の端部を形成するシール部であって、内周側に、前記内周側部材に接触する第1内周面を有するシール部
を有するシールリップと、
外周側において前記保持環に固定され、前記軸線周りに環状の導電性を有する導電リップであって、
前記軸線に対して斜めに延び、内周側の端部を形成する接点部であって、内周側に、前記内周側部材に接触する第2内周面を有する接点部
を有する導電リップと、
を有し、
前記シールリップと前記導電リップは、少なくとも前記シール部と前記接点部において、前記軸線方向に間隔を空けて配置される、密封装置。
【請求項2】
前記シールリップは、前記軸線方向に前記保持環に押し付けられ、
前記導電リップは、前記シールリップを介して、前記軸線方向に前記保持環に押し付けられる、
請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記シールリップは、径方向に延び、前記シール部の外周側に接続される第1固定部であって、前記保持環に固定される外周側の端部を形成する第1固定部を有し、
前記導電リップは、前記径方向に延び、前記接点部の外周側に接続される第2固定部であって、前記保持環に固定される外周側の端部を形成する第2固定部を有する、
請求項1又は2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記軸線方向において、前記シールリップと前記導電リップとの間に間隔を形成する、前記軸線周りに環状の金属製のスペーサであって、前記保持環に接触するスペーサを更に有する、
請求項1~3のいずれかに記載の密封装置。
【請求項5】
前記シールリップと前記導電リップとの間に設けられる導電性グリースを更に有する、
請求項1~4のいずれかに記載の密封装置。
【請求項6】
前記シール部と前記接点部とは、前記軸線に対して同じ側に傾き、前記軸線方向において互いに対向する、
請求項1~5のいずれかに記載の密封装置。
【請求項7】
前記シール部は、前記第1内周面にネジ溝を有する、
請求項1~6のいずれかに記載の密封装置。
【請求項8】
前記ネジ溝は、前記内周側部材の回転に伴って、前記シールリップの外側から内側に向かう気流を生成する、
請求項7に記載の密封装置。
【請求項9】
前記シールリップは、弾性材料で形成される、
請求項1~8のいずれかに記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、密封装置に関し、特に、モータやその近傍に使用される密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電動化が進んでおり、ハイブリッド車や電気自動車及び燃料電池自動車等の電動自動車の開発が進んでいる。ハイブリッド車や電動自動車では、動力源として駆動モータが使用される。駆動モータで発生する誘起電流は、電磁波ノイズとなり、車両の電子機器に影響を及ぼすことがある。
【0003】
そこで、導電性の金属ブラシを介して駆動される軸とハウジングとの間に接地のための導通経路を形成する技術が知られている(例えば、特開2015-207534号公報)。これにより、ノイズの原因となる電動機からのリーク電流は、金属ブラシによる導通経路を介して、ハウジングに放電される。
【0004】
しかし、このような金属ブラシを用いる場合、シール部材の設置スペースに加えて金属ブラシの設置スペースを確保する必要がある。また、追加のコストが掛かる。
【0005】
これに対して、車体に設けられた電動機のハウジングの貫通孔と電動機の回転軸との間を密封するオイルシールのシール部材自体を導電性ゴムで形成する技術が知られている(例えば、特開2015-207534号公報)。これにより、導電性ゴムを介してハウジングと回転軸とが電気的に導通し、回転軸に誘起された電磁ノイズを金属製のハウジングに逃がされる。これにより、省スペース化及びコスト低減を図ることができる。また、静電気に基づくノイズの発生を抑制するために、導電性ゴムからなるシール部材を有する密封装置が知られている(例えば、特開2015-014296号公報)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
導電性ゴムからなるシール部材により、省スペース化やコスト低減は図れる。しかし、シール部材は高速回転する軸に接触しており、これによる発熱(摺動発熱)でシール部材が劣化するおそれがある。すると、シール性能が低下するおそれがあり、また、導電性能が低下するおそれがある。このように、電磁ノイズの抑制のために導電性を有するシール部材に対して、発熱による劣化を防止することが求められる。
【0007】
本開示は、発熱による劣化を防止できる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一つの観点は、
内周側部材と外周側部材との間の環状の空間を密封するための密封装置であって、
軸線周りに環状である金属製の保持環と、
外周側において前記保持環に固定され、前記軸線周りに環状のシールリップであって、
前記軸線に対して斜めに延び、内周側の端部を形成するシール部であって、内周側に、前記内周側部材に接触する第1内周面を有するシール部
を有するシールリップと、
外周側において前記保持環に固定され、前記軸線周りに環状の導電性を有する導電リップであって、
前記軸線に対して斜めに延び、内周側の端部を形成する接点部であって、内周側に、前記内周側部材に接触する第2内周面を有する接点部
を有する導電リップと、
を有し、
前記シールリップと前記導電リップは、少なくとも前記シール部と前記接点部において、前記軸線方向に間隔を空けて配置される、密封装置である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の密封装置によれば、発熱による劣化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の密封装置の概略構成を示す、軸線に沿う断面図
図2図1の断面の上側の部分拡大断面図
図3】実施形態の密封装置のシールリップを部分的に示す断面図
図4】実施形態の密封装置のシールリップの正面図
図5】実施形態の密封装置の使用状態を示す部分拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、実施形態の密封装置1の概略構成を示す、軸線xに沿う断面図である。図2は、図1の密封装置1の断面の上側の部分拡大断面図である。以下、説明の便宜上、軸線xにおいて矢印a方向を外側、矢印b方向を内側とする。具体的には、内側とは、密封装置1が取り付けられる部材の内部空間側であり、潤滑剤等の密封対象物が存在する空間側(密封対象物側)である。外側とは、密封対象物側とは反対側であり、密封対象物が漏洩しないようにする側であり、大気側である。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(図1,2の矢印c方向)側を外周側とし、軸線xに近づく方向(図1,2の矢印d方向)側を内周側とする。
【0013】
実施形態の密封装置1は、内周側部材と外周側部材との間の環状の空間を密封する。後述するように、使用状態において、環状の空間に密封装置1が取り付けられる。内周側部材は、例えば、電動モータの出力軸である。外周側部材は、例えば、電動モータの出力軸が貫通する貫通孔を有する電動モータのハウジングである。なお、内周側部材は、軸線x周りに回転する部材に限られず、軸線xに沿って往復動する部材でもよい。
【0014】
図1に示すように、密封装置1は、保持環10と、シールリップ20と、導電リップ30とを有する。保持環10は、金属製であり、軸線x周りに環状である。シールリップ20は、軸線x周りに環状である。導電リップ30は、導電性を有し、軸線x周りに環状である。シールリップ20及び導電リップ30は、外周側において保持環10に固定される。
【0015】
シールリップ20は、シール部21を有する。シール部21は、軸線xに対して斜めに延び、内周側に端部(内周端部20a)を有する。導電リップ30は、接点部31を有する。接点部31は、軸線xに対して斜めに延び、内周側に端部(内周端部30a)を有する。シールリップ20及び導電リップ30は、少なくともシール部21と接点部31とにおいて、軸線x方向に間隔を空けている。シールリップ20は、シール部21の内周側に面する内周面22を有する。内周面22は、内周側部材に接触する。導電リップ30は、接点部31の内周側に面する内周面32を有する。内周面32は、内周側部材に接触する。
【0016】
保持環10は、図1図2に示すように、軸線x方向においてシールリップ20又は導電リップ30が押し付けられる受け部を有する。シールリップ20及び導電リップ30が軸線x方向に保持環10に押し付けられる。これにより、シールリップ20及び導電リップ30は、保持環10に保持される。
保持環10は、金属製であり、軸線xを中心とする環状である。軸線xに沿う断面(以下、単に「断面」ともいう。)において、保持環10は、L字状である。保持環10は、例えば、円筒部11と、円盤部12とを有する。円筒部11は、軸線x方向に延びる円筒状である。円盤部12は、円筒部11の外側(矢印a方向側)の端部から内周側(矢印d方向)へ延びる中空円盤状である。円盤部12は、受け部となる。後述するように使用状態において、外周側部材に形成された貫通孔の内周面に、円筒部11が嵌合固定可能に形成される。
【0017】
シールリップ20は、図1図2に示すように、軸線xを中心とする環状である。シールリップ20は、弾性材料で形成される。シールリップ20の断面形状は、内周側と外周側との間の延び方向に沿って、同一の厚さを有する。
シールリップ20は、シール部21と、固定部23と、接続部24とを有する。シール部21は、シールリップ20の内周側の部分である。固定部23は、シール部21の外周側に位置する。固定部23は、径方向に延び、外周側に端部(外周端部20b)を有する。固定部23は、接続部24を介してシール部21に接続する。接続部24は、シール部21と固定部23とを接続する。
【0018】
シール部21は、軸線x方向において外側(矢印a方向)に向かうに連れて拡径するように、軸線xに対して斜めに延びる。シール部21は、延び方向に亘って同一の厚さを有する。なお、厚さとは、断面において、延び方向に直交する方向の幅である。
シール部21は、具体的には、軸線xを中心とする円錐台筒状である。固定部23は、径方向に平行に延びる。固定部23は、延び方向に亘って同一の厚さを有する。接続部24は、固定部23に対してシール部21が内側に位置するように、外側に凸に曲がって延びる。接続部24は、延び方向に亘って同一の厚さを有する。
【0019】
使用状態において、シール部21の内周面22は、内周側部材に接触する。例えば、図1図2に示す使用状態における内周側部材の外周面を示す仮想線(l1)よりも内周側の接触部22aが、内周側部材に接触する。接触部22aは、内周端部20aからシール部21の延び方向に幅を有する環状の面となる。
【0020】
固定部23は、軸線x方向において外側に向かう力を受ける。固定部23は、具体的には、軸線xを中心とする中空円盤状である。固定部23は、図1図2に示すように、保持環10の円盤部12に対応する径方向の長さを有する。例えば、固定部23は、保持環10の円盤部12の径方向の長さよりも若干短い径方向の長さを有する。また、固定部23は、図1図2に示すように、後述する導電リップ30の固定部33に対応する径方向の長さを有する。例えば、固定部23は、導電リップ30の固定部33の径方向の長さよりも若干短い径方向の長さを有する。
固定部23は、外周端部20bにおいて円筒部11の内周面11aに接触する。なお、固定部23は、外周端部20bにおいて円筒部11の内周面11aに接触しなくてもよい。
【0021】
シールリップ20には、図3図4に示すように、ネジ溝25が形成される。ネジ溝25は、使用状態における内周側部材の回転に伴って、シールリップ20の外側から内側に向かう気流を形成する。これにより、シールリップ20の外側から内側へのポンプ作用が発生する。ネジ溝25は、例えば4つの溝25aから形成され、4条ネジを形成する。溝25aは、シールリップ20の表面から内部に凹む。溝25aは、内周側部材の回転方向に対応した方向に延びる。
【0022】
ネジ溝25は、4条ネジを形成するものに限られず、ネジ溝25を形成する溝の個数も4つに限られない。ネジ溝25は、ポンプ作用を発生させればよい。例えば、ネジ溝25は、1条ネジを形成する1つの溝25aから形成されてもよく、他の多条ネジを形成する多数の溝25aから形成されてもよい。
ネジ溝25は、シール部21の内周面22に形成される。各溝25aは、接触部22aよりも外側から接触部22aを交差して、内周端部20aに至る。ネジ溝25の位置はこれに限られない。例えば、各溝25aは、内周端部20aに至らなくてもよい。また、各溝25aは、内周面22の接触部22aよりも外側にのみ形成され、接触部22aに至らなくてもよい。また、シールリップ20は、ネジ溝25を有さなくてもよい。
【0023】
導電リップ30は、図1図2に示すように、軸線xを中心とする環状である。導電リップ30は、導電性を有する材料から形成される。導電リップ30は、シールリップ20と同様の形状を有する。導電リップ30の断面形状は、内周側と外周側との間の延び方向に沿って、同一の厚さを有する。
導電リップ30は、接点部31と、固定部33と、接続部34とを有する。接点部31は、導電リップ30の内周側の部分である。固定部33は、接点部31の外周側に位置する。固定部33は、径方向に延び、外周側に端部(外周端部30b)を有する。固定部33は、接続部34を介して接点部31に接続する。接続部34は、接点部31と固定部33とを接続する。
【0024】
接点部31は、軸線x方向において外側(矢印a方向)に向かうに連れて拡径するように、軸線xに対して斜めに延びる。接点部31は、延び方向に亘って同一の厚さを有する。なお、厚さとは、断面において、延び方向に直交する方向の幅である。
接点部31は、具体的には、軸線xを中心とする円錐台筒状である。固定部33は、径方向に平行に延びる。固定部33は、延び方向に亘って同一の厚さを有する。接続部34は、固定部33に対して接点部31が内側に位置するように、外側に凸に曲がって延びる。接続部34は、延び方向に亘って同一の厚さを有る。
【0025】
使用状態において、接点部31の内周面32は、内周側部材に接触する。例えば、図1図2に示す使用状態における内周側部材の外周面を示す仮想線(l1)よりも内周側の接触部32aが、内周側部材に接触する。接触部32aは、内周端部30aから接点部31の延び方向に幅を有する環状の面となる。
【0026】
固定部33は、軸線x方向において外側に向かう力を受ける。固定部33は、軸線x方向において外側に向かって、保持環10の円盤部12に押し付けられる。固定部33は、具体的には、軸線xを中心とする中空円盤状である。固定部33は、図1図2に示すように、保持環10の円盤部12に対応する径方向の長さを有する。例えば、固定部33は、保持環10の円盤部12の径方向の長さよりも若干長い径方向の長さを有する。
固定部33は、外周端部30bにおいて円筒部11の内周面11aに接触する。なお、固定部33は、外周端部30bにおいて円筒部11の内周面11aに接触しなくてもよい。
【0027】
図1図2に示すように、導電リップ30の形状は、シールリップ20の形状に相似している。また、図1図2では、接点部31の接触部32aの幅の方が、シール部21の接触部22aの幅よりも大きい。導電リップ30の締め代の方が、シールリップ20の締め代よりも大きい。但し、シールリップ20の締め代と導電リップ30の締め代との関係は、これに限られない。
【0028】
シールリップ20及び導電リップ30は、外周側において保持環10に固定される。例えば、密封装置1は、押し環13を有する。押し環13は、保持環10にシールリップ20及び導電リップ30を固定する。押し環13は、軸線x周りに環状である。押し環13は、保持環10に嵌合固定可能である。押し環13は、シールリップ20及び導電リップ30を軸線x方向において外側に押す。
【0029】
押し環13は、図1図2に示すように、例えば、軸線xを中心とする環状である。押し環13は、断面形状がL字状である。押し環13は、円筒部13aと、押し部13bとを有する。円筒部13aは、軸線x方向に延びる円筒状である。押し部13bは、中空円盤状であり、円筒部13aの外側の端部から内周側へ延びる。円筒部13aは、保持環10の円筒部11の内周側に嵌合されて固定される。押し部13bは、シールリップ20の固定部23に軸線x方向において内側から接触する。
【0030】
密封装置1は、スペーサ14を有する。スペーサ14は、シールリップ20及び導電リップ30と保持環10とが固定される部分において、軸線x方向においてシールリップ20と導電リップ30との間に間隔を形成する。スペーサ14は、金属製であり、軸線x周りに環状である。スペーサ14は、例えば、軸線xを中心とする中空円盤状である。スペーサ14の断面形状は、図1図2に示すように、径方向に平行に延びる。スペーサ14は、延び方向に亘って厚さが一定である。
【0031】
スペーサ14は、図1図2に示すように、シールリップ20の固定部23及び導電リップ30の固定部33に対応する径方向の長さを有する。スペーサ14は、例えば、シールリップ20の固定部23の径方向の長さと同等の径方向の長さを有する。このように、スペーサ14は、軸線x方向においてシールリップ20の固定部23と導電リップ30の固定部33との間に挟まれる。また、スペーサ14は、外周端部14aにおいて円筒部11の内周面11aに接触する。なお、スペーサ14は、外周端部14aにおいて円筒部11の内周面11aに接触しなくてもよい。
【0032】
図1図2に示すように、シールリップ20及び導電リップ30は、軸線x方向において保持環10の円盤部12と押し環13の押し部13bとの間に挟まれて、保持環10に固定される。押し環13は、保持環10の円筒部11に圧入されて固定される。
シールリップ20と導電リップ30との間には、スペーサ14が挟まれる。これにより、軸線x方向においてシールリップ20と導電リップ30とは離間し、シールリップ20と導電リップ30との間には空間Sが形成される。具体的には、シールリップ20の固定部23が、押し環13の押し部13bによって軸線x方向において外側に押される。導電リップ30の固定部33が、スペーサ14を介してシールリップ20の固定部23によって軸線x方向において外側に押される。導電リップ30の固定部33が、保持環10の円盤部12に軸線x方向において外側に向かって押し付けられる。これにより、シールリップ20及び導電リップ30が、夫々固定部23,33において、保持環10と押し環13との間に挟持されて保持環10に固定される。このように、接着剤を用いないで、シールリップ20及び導電リップ30が保持環10へ固定される。
【0033】
また、シールリップ20の外周端部20b、導電リップ30の外周端部30b、及びスペーサ14の外周端部14aは、保持環10の円筒部11に接触する。なお、シールリップ20の外周端部20bは、保持環10の円筒部11に接触しなくてもよい。導電リップ30の外周端部30bは、保持環10の円筒部11に接触しなくてもよい。スペーサ14の外周端部14aは、保持環10の円筒部11に接触しなくてもよい。
【0034】
なお、図1図2に示すように、保持環10は、支持部15を有してもよい。押し環13が保持環10の円筒部11に嵌合されて、シールリップ20、導電リップ30、及びスペーサ14を保持環10の円盤部12と挟持している状態で、支持部15は、押し環13を保持環10に固定する。支持部15は、円筒部11の内側の端部から内周側に突出する。支持部15は、環状であり、押し環13の円筒部13aの内側の端部に内側から接触する。例えば、支持部15は、円筒部11の内側の端部が内周側に変形されることにより形成される。
【0035】
上述のように、シールリップ20の固定部23と導電リップ30の固定部33との間にはスペーサ14が挟まれる。また、シールリップ20と導電リップ30とは、互いに相似な形状である。このため、シールリップ20と導電リップ30との間の空間Sは、内周側と外周側との間の延び方向に亘って一定の幅となる。また、空間Sは、使用状態において、シールリップ20のシール部21と導電リップ30の接点部31とが径方向において重ならない間隔を有する。空間Sには、導電性グリースGが設けられてもよい。導電性グリースGは、空間S全体を満たしてもよく、空間Sの一部に設けられてもよい。
【0036】
シールリップ20は、例えば、PTFE及びゴムのいずれかから形成される。導電リップ30は、導電性を有する材料から形成される。例えば、導電リップ30は、導電PTFE、導電ファブリック、及び導電ゴムから形成される。
【0037】
上述のように、取付対象である外周側部材と内周側部材との間の環状の隙間に、保持環10を嵌合可能である。また、シールリップ20は、内周側部材に接触可能である。そのため、密封対象物の外側への漏洩を防止すると共に、大気側からの砂や泥水、ダスト等の異物の侵入を防止できる。
【0038】
導電性の導電リップ30は、内周側部材に接触可能である。また、導電リップ30は、外周側部材に取り付けられる金属製の保持環10に接触する。そのため、密封装置1は、内周側部材と外周側部材との間の導通経路を形成する。
また、導電リップ30の固定部33の外側面33aは、保持環10の円盤部12に接触する。導電リップ30の外周端部30bは、保持環10の円筒部11に接触する。そのため、導電リップ30と保持環10との間の接触面積が大きくなり、内周側部材と外周側部材との間の導通経路の導電性が高くなる。
【0039】
金属製のスペーサ14が、導電リップ30の固定部33の内側面33bに接触する。スペーサ14は、保持環10の円筒部11に接触する。そのため、導電リップ30と保持環10との間の接触面積が大きくなり、内周側部材と外周側部材との間の導通経路の導電性が高くなる。
また、接着材を用いずに、導電リップ30、保持環10、及びスペーサ14との間が固定される。そのため、導電リップ30と保持環10との間の接触面積の減少を抑制し、内周側部材と外周側部材との間の導通経路の導電性が高くなる。
【0040】
次いで、密封装置1の作用について説明する。図5は、使用状態における密封装置1の部分拡大断面図である。取付対象としてのハウジング50は、貫通孔である軸孔51を有する。軸孔51には、軸52が挿入される。使用状態において、密封装置1は、軸52に取り付けられる。ハウジング50は、例えば、電動モータのハウジングである。軸52は、例えば、電動モータの出力軸である。
【0041】
図5に示すように、密封装置1の使用状態において、密封装置1は、軸孔51に圧入されて、嵌着される。このように、密封装置1は、ハウジング50に固定される。より具体的には、保持環10は、軸孔51に圧入される。保持環10の円筒部11は、軸孔51の内周面51aに密着する。これにより、密封装置1と軸孔51との間が密封される。また、保持環10が軸孔51に圧入されることで、密封装置1が軸孔51に対して軸心合わせされる。
【0042】
密封装置1の使用状態において、シール部21の内周面22が軸52の外周面52aに接触して弾性的に変形する。そして、内周面22の接触部22aが軸52の外周面52aに接触する。
【0043】
このように、密封装置1の使用状態において、軸52が摺動可能に、シールリップ20は、軸52の外周面52aに接触する。これにより、シールリップ20は、シールリップ20を越えて密封対象物側から外側に潤滑油等の密封対象物が漏れ出ることを防止する。また、シールリップ20は、外部から内部への異物の進入を防止する。
【0044】
シールリップ20は、軸線x方向のある程度の幅を有する接触部22aにおいて、軸52の外周面52aに接触する。そのため、シールリップ20と軸52との間の摺動抵抗が低減する。このため、シールリップ20と軸52との間の摺動発熱が抑制され、発生する熱量が低減する。これにより、摺動発熱によるシールリップ20の劣化を防止し、シール性能の低下を防止できる。
【0045】
また、シールリップ20には、ポンプ作用を奏するネジ溝25が形成される。そのため、たとえシールリップ20を越えてハウジング50の内部から外部に密封対象物が滲み出たとしても、滲み出た密封対象物をハウジング50の外部から内部に戻すことができる。このように、ポンプ作用によっても、密封装置1のシール性能が向上する。また、ポンプ作用によって、シールリップ20の接触部22aと軸52の外周面52aとの間に、密封対象物の層が形成される。これにより、シールリップ20と軸52との間の摺動抵抗が低減し、摺動発熱の発生を抑制できる。密封装置1によれば、ネジ溝25の作用によっても、シールリップ20と軸52との間の摺動発熱を抑制できる。これにより、摺動発熱によるシールリップ20の劣化を防止し、シール性能の低下を防止できる。
【0046】
シールリップ20がPTFEから形成される場合、シールリップ20の耐熱性が高くなる。また、シールリップ20の摩擦係数が低減し、摺動抵抗が低減する。このため、摺動発熱の発生を抑制し、摺動発熱によるシールリップ20の劣化を防止するとともに、シール性能の低下を防止できる。
【0047】
密封装置1の使用状態において、接点部31の内周面32が軸52の外周面52aに接触して弾性的に変形する。そして、内周面32の接触部32aが軸52の外周面52aに接触する。
【0048】
このように、密封装置1の使用状態において、軸52が摺動可能に、導電リップ30は、軸52の外周面52aに接触する。また、保持環10は、ハウジング50に接触する。密封装置1は、軸52とハウジング50との間に、導通経路を形成する。これにより、電動モータにおいて発生するリーク電流を、軸52から導通経路を介してハウジング50へ放電する。これにより、リーク電流に基づくノイズの発生を防止できる。
【0049】
導電リップ30は、軸線x方向のある程度の幅を有する接触部32aにおいて、軸52の外周面52aに接触する。そのため、導電リップ30と軸52との間の摺動抵抗が低減する。このため、導電リップ30と軸52との間の摺動発熱が抑制され、発生する熱量が低減する。これにより、摺動発熱による導電リップ30の劣化を防止し、導電性能の低下を防止できる。また、導電リップ30は、軸線x方向のある程度の幅を有する接触部32aにおいて、軸52の外周面52aに接触する。そのため、導通経路の断面積が大きくなり、導電リップ30と軸52との間の導電性が高くなる。
【0050】
導電リップ30が導電PTFEから形成される場合、導電リップ30の耐熱性が高くなる。また、導電リップ30の摩擦係数が低減し、摺動抵抗が低減する。このため、摺動発熱の発生を抑制し、摺動発熱による導電リップ30の劣化を防止するとともに、導電性能の低下を防止できる。
【0051】
導電リップ30は、シールリップ20と同様、シールとして機能する。また、導電リップ30は、摺動発熱による劣化を防止するシールとして機能する。そのため、密封装置1のシール性能が高くなる。導電リップ30が導電PTFEから形成される場合、シール性能に関して摺動発熱による導電リップ30の劣化を防止するとともに、導電リップ30のシール性能の低下を防止できる。
【0052】
導電リップ30の外周端部30bは、保持環10の円筒部11に接触する。金属製のスペーサ14は、固定部33の内側面33bに接触する。スペーサ14は、保持環10の円筒部11に接触する。そのため、導電リップ30と保持環10との間の導通経路の断面積が大きくなる。また、接着材を用いずに、導電リップ30、保持環10、及びスペーサ14との間が固定され、導電リップ30と保持環10との間の導通経路の断面積の減少を防止する。これにより、軸52とハウジング50との間の導通経路の導電性が高くなる。
【0053】
軸線x方向において、互いに対向するシールリップ20と導電リップ30との間の空間Sには、導電性グリースGが設けられる。そのため、密封装置1の導通経路の断面積が大きくなり、軸52とハウジング50との間の導通経路の導電性が高くなる。空間Sの一部は、径方向において導電リップ30の接点部31とシールリップ20のシール部21とに挟まれる。そのため、導電性グリースGが空間Sに保持されやすい。このため、導電性グリースGが長く作用する。
【0054】
シールリップ20と導電リップ30とが互いに相似しており、軸線x方向において互いに対向する。このため、密封装置1の大きさが小さくなり、密封装置1の取付スペースを小さくできる。
【0055】
シールリップ20と導電リップ30は、互いに異なる部材である。そのため、シール性及び導電性が向上し、また、シール性及び導電性の低下を防止するための摺動発熱を効果的に抑制できる。また、シールリップ20は、密封対象物側に設けられ、導電リップ30は、大気側に設けられる。これにより、シール性及び導電性が向上する。
【0056】
本実施形態の密封装置1によれば、発熱による劣化を防止できる。これにより、シール性能の低下を防止できる。また、導電性能の低下を防止し、電磁ノイズの抑制作用の低下を防止できる。
【0057】
以上、実施形態の密封装置1について説明したが、本開示の密封装置は上述の密封装置1に限定されるものではなく、本開示の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本開示の具体的使用態様に応じて適宜変更され得る。
【0058】
例えば、実施形態の密封装置1においては、シールリップ20のシール部21と導電リップ30の接点部31とは同じ方向に斜めに延びるが、異なる方向に斜めに延びてもよい。また、シールリップ20を大気側に設け、導電リップ30を密封対象物側に設けてもよい。
【0059】
また、実施形態の密封装置1は、シールリップ20及び導電リップ30とは異なる部材としてスペーサ14を有する。しかし、シールリップ20又は導電リップ30が、夫々固定部23,33において、スペーサ14を一体的に形成してもよい。例えば、導電リップ30の固定部33が、スペーサ14と同様の形状を有する部分を有してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…密封装置
10…保持環
11…円筒部
11a…内周面
12…円盤部
13… 押し環
13a…円筒部
13b…押し部
14…スペーサ
14a…外周端部
15… 支持部
20…シールリップ
20a…内周端部
20b…外周端部
21…シール部
22…内周面(第1内周面)
22a…接触部
23…固定部
24…接続部
25…ネジ溝
25a… 溝
30…導電リップ
30a…内周端部
30b…外周端部
31…接点部
32…内周面(第2内周面)
32a…接触部
33…固定部
33a…外側面
33b…内側面
34…接続部
50…ハウジング
51…軸孔
51a…内周面
52…軸
52a…外周面
G…グリース
S…空間
x…軸線
図1
図2
図3
図4
図5