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特開2024-45503電子部品包装用樹脂シート及びそれを用いた電子部品包装容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045503
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】電子部品包装用樹脂シート及びそれを用いた電子部品包装容器
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/14 20060101AFI20240326BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240326BHJP
   C08F 287/00 20060101ALI20240326BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C08L25/14
C08L53/02
C08F287/00
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019300
(22)【出願日】2024-02-13
(62)【分割の表示】P 2023508732の分割
【原出願日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2021047119
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】猪田 育佳
(72)【発明者】
【氏名】谷中 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 岳史
(57)【要約】
【課題】透明性を有し、耐折強度に優れ、かつ低温ヒートシール性にも優れる電子部品包装用樹脂シート、及びそれを用いてなる電子部品包装容器の提供。
【解決手段】連続マトリックス樹脂(X)中に、ゴム状重合体(Y)を分散粒子として含有し、下記(1)~(2)を満たすゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂から構成されている、電子部品包装用樹脂シート;
(1)前記連続マトリックス樹脂(X)が、一種以上の芳香族ビニル系化合物(x1)53~63質量%と、一種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)37~47質量%との共重合体であり、
(2)前記ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂の総質量に対する、前記ゴム状重合体(Y)の割合が、5質量%以上10質量%未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続マトリックス樹脂(X)中に、ゴム状重合体(Y)を分散粒子として含有し、下記(1)~(2)を満たすゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂から構成されている、電子部品包装用樹脂シート;
(1)前記連続マトリックス樹脂(X)が、一種以上の芳香族ビニル系化合物(x1)53~63質量%と、一種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)37~47質量%との共重合体であり、
(2)前記ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂の総質量に対する、前記ゴム状重合体(Y)の割合が、5質量%以上10質量%未満である。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)が、メタクリル酸メチル(x2-1)と、炭素数4~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2-2)とを含む、請求項1に記載の電子部品包装用樹脂シート。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)の総質量に対する、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2-2)の割合が、5~50質量%である、請求項2に記載の電子部品包装用樹脂シート。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2-2)が、アクリル酸ブチルを含む、請求項2または3に記載の電子部品包装用樹脂シート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の電子部品包装用樹脂シートを用いてなる、電子部品包装容器。
【請求項6】
キャリアテープである、請求項5に記載の電子部品包装容器。
【請求項7】
トレイである、請求項5に記載の電子部品包装容器。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項に記載の電子部品包装容器を含む、電子部品包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品包装用樹脂シート及びそれを用いた電子部品包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ICマガジン、又はICキャリアテープ等の電子部品包装容器においては、従来、透明性、耐衝撃性、剛性、表面硬度等の諸物性に優れる観点から、硬質塩化ビニル(PVC)が使用されていた。しかし、廃棄物の焼却時に発生する酸性の腐食性ガス、あるいは有毒物質の発生等の点から、PVC代替材料が求められている。これらの欠点を解決する代替材料として、ポリスチレン及びスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選択される少なくとも1つの樹脂と、スチレン-ブタジエンブロック共重合体とのブレンド系樹脂が知られている(例えば、特許文献1等)。しかしながら、このブレンド系樹脂は電子部品包装容器に求められる剛性及び耐衝撃性の両立が難しい。すなわち、このブレンド系樹脂は、剛性を上げると耐衝撃性が低下し、耐衝撃性を上げると剛性が低下するといった二律背反の関係にあるため、電子部品包装容器に求められる、剛性と耐衝撃性とを同時達成できるバランスの良い材料とは言い難い。またその他のPVC代替材料として、ポリカーボネート樹脂、透明なABS樹脂等が知られているが、コストが高く、低価格のPVC代替材料としての実用性に欠ける。
【0003】
特許文献2には、強度が高く、透明性、剛性に優れ、表面硬度も高い、透明な電子部品包装用成形体が得られる、ゴム変性スチレン系樹脂組成物が提案されている。特許文献2には、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及びブタジエン系ゴム質重合体からなる混合溶液を重合させて得られるゴム変性スチレン系樹脂と、テルペン系樹脂又はテルペン系水素添加樹脂と、からなるゴム変性スチレン系樹脂組成物から形成された、透明な電子部品包装用成形体が記載されている。しかし、このようなゴム変性スチレン系樹脂組成物から形成された成形体は、強度や透明性等の諸物性、及び表面硬度が不十分である。
【0004】
これに対して、特許文献3には、強度や透明性等の諸物性に優れ、十分に高い表面硬度を有する電子部品包装用成形体が得られる、ゴム変性芳香族ビニル系共重合樹脂が提案されている。特許文献3には、芳香族ビニル系化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物の混合物とグラフト共重合でき、特に前記混合物と強い親和性を有する特定の構造のスチレン-ブタジエンブロック共重合体をゴム状重合体として、前記混合物中に分散させた樹脂組成物を異型押出成形することにより、強度が高く、透明性や剛性に優れ、かつ表面硬度も高い、透明な電子部品包装用成形体が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-12847号公報
【特許文献2】特開平9-301479号公報
【特許文献3】特開2002-193378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電子部品包装容器においては、近年、電子部品の高速充填性の観点から、短いシール時間で高い剥離強度を得ることができる、低温ヒートシール性も求められている。また、内容物である電子部品を外から目視可能な高い透明性を維持しつつ、耐折強度、成形性等の物性をバランスさせることも求められている。
そこで本発明は、透明性を有し、耐折強度に優れ、かつ低温ヒートシール性にも優れる電子部品包装用樹脂シート、及びそれを用いてなる電子部品包装容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に対して、本願発明者らは鋭意検討した結果、驚くべきことに、芳香族ビニル系化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを共重合してなる連続マトリックス樹脂中に、ゴム状重合体を分散粒子として含むゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂から構成された樹脂シートであって、前記芳香族ビニル系化合物を53~63質量%、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを37~47質量%で共重合させ、かつ前記ゴム状重合体をゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂の総質量に対して、5質量%以上10質量%未満とすることにより、透明性、耐衝撃度、及び剛性に優れ、さらには低温ヒートシール性にも優れる樹脂シートが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]連続マトリックス樹脂(X)中に、ゴム状重合体(Y)を分散粒子として含有し、下記(1)~(2)を満たすゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂から構成されている、電子部品包装用樹脂シート;
(1)前記連続マトリックス樹脂(X)が、一種以上の芳香族ビニル系化合物(x1)53~63質量%と、一種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)37~47質量%との共重合体であり、
(2)前記ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂の総質量に対する、前記ゴム状重合体(Y)の割合が、5質量%以上10質量%未満である。
[2]前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)が、メタクリル酸メチル(x2-1)と、炭素数4~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2-2)とを含む、[1]に記載の電子部品包装用樹脂シート。
[3]前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)の総質量に対する、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2-2)の割合が、5~50質量%である、[2]に記載の電子部品包装用樹脂シート。
[4]前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2-2)が、アクリル酸ブチルを含む、[2]または[3]に記載の電子部品包装用樹脂シート。
[5][1]から[4]のいずれか一項に記載の電子部品包装用樹脂シートを用いてなる、電子部品包装容器。
[6]キャリアテープである、[5]に記載の電子部品包装容器。
[7]トレイである、[5]に記載の電子部品包装容器。
[8][5]から[7]のいずれか一項に記載の電子部品包装容器を含む、電子部品包装体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、透明性を有し、耐折強度に優れ、かつ低温ヒートシール性にも優れる電子部品包装用樹脂シート、及びそれを用いてなる電子部品包装容器を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」の記号は、「以上」、「以下」を意味する。例えば、「5~10質量%」とは「5質量%以上10質量%以下」を意味する。
[電子部品包装用樹脂シート]
本発明に係る電子部品包装用樹脂シート(以下、単に「樹脂シート」と記載することもある)は、連続マトリックス樹脂(X)中に、ゴム状重合体(Y)を分散粒子として含有し、下記(1)~(2)を満たすゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂から構成されている。
(1)前記連続マトリックス樹脂(X)が、一種以上の芳香族ビニル系化合物(x1)53~63質量%と、一種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)37~47質量%との共重合体であり、
(2)前記ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂の総質量に対する、前記ゴム状重合体(Y)の割合が、5質量%以上10質量%未満である。
このような特徴的な組成を有するゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂から構成された本発明に係る電子部品包装用樹脂シートは、透明性を有し、耐折強度に優れ、かつ低温ヒートシール性にも優れている。
【0010】
<ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂>
本発明に係るゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂(以下、単に「共重合体樹脂」と記載する)は、連続マトリックス樹脂(X)中に、ゴム状重合体(Y)を分散粒子として含有し、下記(1)~(2)を満たすことを特徴とする。
(1)前記連続マトリックス樹脂(X)が、一種以上の芳香族ビニル系化合物(x1)53~63質量%と、一種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)37~47質量%との共重合体であり、
(2)前記ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂の総質量に対する、前記ゴム状重合体(Y)の割合が、5質量%以上10質量%未満である。
上記(1)、(2)を満たすことにより、低温ヒートシール性に優れ、かつ透明性、耐折強度に優れる樹脂シートが得られる。
【0011】
(連続マトリックス樹脂(X))
連続マトリックス樹脂(X)は、共重合体樹脂中で連続相を形成する樹脂成分である。連続マトリックス樹脂(X)は、一種以上の芳香族ビニル系化合物(x1)(以下、「(x1)成分」と記載することもある)と、一種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)(以下、「(x2)成分」と記載することもある)との共重合体である。具体的に、連続マトリックス樹脂(X)は、連続マトリックス樹脂(X)の総質量に対して、53~63質量%の(x1)成分と、37~47質量%の(x2)成分とを共重合することで得られる。
【0012】
(芳香族ビニル系化合物(x1))
芳香族ビニル系化合物(x1)としては、例えば、スチレン;α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等のα-アルキル置換スチレン;o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2、4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;o-クロルスチレン、m-クロルスチレン、p-クロルスチレン、p-ブロモスチレン、2-メチル-1、4-クロルスチレン、2、4-ジブロモスチレン等の核ハロゲン化スチレン;ビニルナフタレン等、従来、ゴム変性スチレン系樹脂に用いられているスチレン系化合物を1種単独で、または2種以上を併用して用いることができる。このうち、スチレンが好ましく用いられる。
【0013】
連続マトリックス樹脂(X)中の(x1)成分の割合は、連続マトリックス樹脂(X)の総質量に対して、53~63質量%であり、53.5~62.5質量%が好ましく、54~61質量%がより好ましく、54~60質量%が特に好ましい。(x1)成分の割合を前記範囲内とすることにより、連続マトリックス樹脂(X)中の(x2)成分の割合を37~47質量%に調整することができ、低温ヒートシール性に優れる樹脂シートを得ることができる。特に好ましくは、連続マトリックス樹脂(X)の総質量に対して、(x1)としてスチレンを53~63質量%、好ましくは、53.5~62.5質量%含む共重合体樹脂である。なお、(X)成分中の(x1)成分の割合は、(X)成分を構成する全モノマーの合計量(100質量%)に対する、(x1)成分の占める割合を意味する。(x1)成分の割合を53~63質量%とするには、例えば、モノマーの仕込み比を調整することで達成できる。後述する、(X)成分中の(x2)成分の割合も同様である。
【0014】
共重合体樹脂中の(x1)成分の割合は、共重合体樹脂の総質量に対して、48.0~57.0質量%が好ましく、49.5~55.0質量%がより好ましく、50.5~54.0質量%が特に好ましい。共重合体樹脂中の(x1)成分の割合が前記範囲内であれば、低温ヒートシール性により優れる樹脂シートが得られやすくなる。なお、共重合体樹脂中の(x1)成分の割合は、下記式(1)より算出される値である。
[(x1)/(X+Y)]×100 ・・・(1)
式(1)中、x1は、(x1)成分を構成する全モノマーの仕込み量の合計量であり、Xは、(X)成分を構成する全モノマーの仕込み量の合計量に、重合率(%)を掛けた値であり、Yは、(Y)成分を構成する全ゴム状重合体の仕込み量である。
【0015】
((メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2))
本発明に係る共重合体樹脂において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、メタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルキルエステルのことを意味する。
(x2)成分としては、例えば、炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸パルミチン、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸パルミチン、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
連続マトリックス樹脂(X)中の(x2)成分の割合は、連続マトリックス樹脂(X)の総質量に対して、37~47質量%であり、37.5~46.5質量%が好ましく、39~46質量%がより好ましく、40~45質量%が特に好ましい。(x2)成分の割合を前記範囲内とすることにより、連続マトリックス樹脂(X)中の(x1)成分の割合を53~63質量%に調整することができ、低温ヒートシール性に優れる樹脂シートを得ることができる。
【0017】
共重合体樹脂中の(x2)成分の割合は、共重合体樹脂の総質量に対して、33~44質量%であることが好ましく、35~44質量%であることがより好ましい。共重合体樹脂中の(x2)成分の割合を前記範囲内とすることにより、より低温でのヒートシール性に優れる樹脂シートが得られやすくなる。なお、(x2)成分として、後述する、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとを含む場合、共重合体樹脂中の(x2)成分の割合は、共重合体樹脂の総質量に対して、37~43質量%の範囲であってもよい。
共重合体樹脂中の(x2)成分の割合は、下記式(2)から算出される。
[(x2)/(X+Y)]×100 ・・・(2)
式(2)中、x2は、(x2)成分を構成する全モノマーの仕込み量の合計量であり、Xは、(X)成分を構成する全モノマーの仕込み量の合計量に重合率(%)を掛けた値であり、Yは、(Y)成分を構成する全ゴム状重合体の仕込み量の合計量である。
【0018】
(x2)成分は、前述の(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、メタクリル酸メチル(x2-1)(以下、「(x2-1)成分」と記載することもある)と、炭素数4~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2-2)(以下、「(x2-2)成分」と記載することもある)とを含むことが好ましい。
(x2-2)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、メタクリル酸メチル(MMA)や、炭素数4~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル等は、Tgが低い傾向にある。このようにTgの低い(メタ)アクリル酸アルキルエステルのモノマー同士を組み合わせることで、低い温度でも樹脂が軟化しやすくなり、低温でのヒートシール性に優れる樹脂シートが得られやすくなる。
【0019】
(x2-2)成分としては、炭素数4~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルがより好ましく、アクリル酸ブチルが特に好ましい。また、(x2)成分は、(x2-1)成分とアクリル酸ブチルとの混合物であることが最も好ましい。(x2-1)成分にアクリル酸ブチルを組み合わせることで、連続マトリックス樹脂(X)のTgを下げて低温ヒートシール性を向上させつつ、透明性や耐折強度等も低下しにくくなる。
【0020】
(x2)成分中の(x2-2)成分の割合は、(x2)成分の総質量に対して、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましく、10~30質量%がさらに好ましく、10~20質量%が特に好ましい。(x2)成分中の(x2-2)成分の割合が前記範囲内であれば、低温でのヒートシール性が良好となりやすく、透明性、耐折強度等のバランスも良好となりやすい。なお、より低温でのヒートシールが良好となりやすい観点から、前記(x2-2)成分の割合は、(x2)成分の総質量に対して、13~18質量%の範囲であってもよい。
本明細書において(x2)成分中の(x2-2)成分の割合とは、(x2)成分を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの合計量(100質量%)に対する、(x2-2)成分の占める割合を意味する。
【0021】
1つの態様において、(x2)成分が(x2-1)成分と(x2-2)成分との混合物であって、(x2-2)成分がアクリル酸ブチルである場合、MMA及びアクリル酸ブチルの比率(MMA/アクリル酸ブチル)は、より低温でヒートシール性が良好となりやすい観点からは、1~7であることが好ましく、3~7であることがより好ましく、4~6であることが特に好ましい。MMA及びアクリル酸ブチルの比率を前記範囲内とすることにより、樹脂シートのTgをより低く維持しつつ、シート強度を両立しやすくなる。それにより、低温でのヒートシール性及び耐折強度等の物性を両立させた樹脂シートが得られやすくなる。
【0022】
連続マトリックス樹脂(X)は、(x1)成分と、(x2)成分以外のモノマー(その他のモノマー)を含んでいてもよい。その他のモノマーは、(x1)成分、(x2)成分と共重合可能な化合物であり、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、マレオニトリル、α-クロロアクリロニトリル等のシアン化ビニル;メタクリル酸;アクリル酸;無水マレイン酸、フェニルマレイミド等のマレイミド;酢酸ビニル;ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、像鮮明度及び耐折強度等の諸物性のバランスを維持し、かつ低温ヒートシール性にも優れる樹脂シートが得られやすくなる観点からは、連続マトリックス樹脂(X)は、(x1)成分、及び(x2)成分のみから構成されていることが特に好ましい。
【0023】
(ゴム状重合体(Y))
本発明に係る共重合体樹脂は、ゴム状重合体(Y)を、共重合体樹脂の総質量に対して、5質量%以上10質量%未満含む。
電子部品包装容器においては、内包された電子部品を外から視認可能な高い透明性が要求される。従来のゴム変性芳香族ビニル系共重合樹脂から構成された樹脂シートにおいては、シート強度(耐衝撃性や剛性)の観点から、ゴム成分の配合量を減らすことが難しく、約12質量%前後のゴム成分を配合する必要がある。そのため、ゴム成分の配合量を少なくして、より高い透明性(像鮮明度)と、高いシート強度とを両立させた樹脂シートを得ることは難しい。本願発明者らは、連続マトリックス樹脂(X)を構成する(x1)成分及び(x2)成分の配合割合を一定の範囲に制御することによって、ゴム状重合体(Y)の配合量を少なくしても、十分なシート強度を有する樹脂シートが得られやすくなることを見出した。また驚くべきことに、(x1)成分と(x2)成分とを前述の特定の範囲内で組み合わせることで樹脂が軟化しやすくなり、より低温でのヒートシール性にも優れる樹脂シートが得られやすくなることも見出した。本発明に係る共重合体樹脂は、上記の通り、ゴム状重合体(Y)の割合が5質量%以上10質量%未満であるため、透明性も良好である。
ゴム状重合体(Y)は、好ましくは、スチレンとブタジエンとの共重合体である。共重合体樹脂中のゴム状重合体(Y)の割合は、共重合体樹脂の総質量に対して、5~9質量%であることが好ましく、5.5~8.5質量%であることがより好ましく、5.5~8.0質量%であることが特に好ましい。
なお、共重合体樹脂中のゴム状重合体(Y)の配合量は、下記式(3)から算出される値を用いることもできる。
[(Y)/(X+Y)]×100 ・・・(3)
式(3)中、Yは、全ゴム状重合体(Y)の仕込み量の合計量であり、Xは、(X)成分を構成する全モノマーの仕込み量の合計量に重合率(%)を掛けた値である。
【0024】
本発明に係る共重合体樹脂に含まれるゴム状重合体(Y)は、好ましくは、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)であることが好ましい。また、SBR中のスチレン濃度が、SBRの総質量に対して、10~50質量%であることが好ましく、10~45質量%であることがより好ましく、15~40質量%であることがさらに好ましい。スチレン濃度が前記範囲内であれば、マトリックス樹脂(X)とゴム状重合体(Y)の屈折率の差が小さくなり、透明性が良好となりやすい。
【0025】
<ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂の製造方法>
本発明に係る共重合体樹脂は、例えば、ゴム状重合体(Y)の存在下、(x1)成分と(x2)成分とを含む原料混合物を重合することにより、連続マトリックス樹脂(X)中にゴム状重合体(Y)を分散粒子として含む、共重合体樹脂を得ることができる。
原料混合物中の(x1)成分と(x2)成分の割合は、連続マトリックス樹脂(X)中の(x1)成分が53~63質量%となり、(x2)成分が37~47質量%となるように調整できる。
【0026】
ゴム状重合体(Y)は、市販品を用いてもよく、リビングアニオン重合法等によって製造してもよい。
市販品としては、例えば、旭化成(株)製の商品名「アサプレン(登録商標)」等を用いることができる。
ゴム状重合体(Y)を製造する場合、例えば、炭化水素溶媒中、有機リチウム系触媒の存在下で、スチレンとブタジエンとを含むモノマー混合物をリビングアニオン重合する方法等を採用することができる。具体的には、特開2002-193378号公報等に記載の方法を採用することができる。
【0027】
前記原料混合物には、必要に応じて有機溶剤を含むことができる。有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、アセトン、イソプロピルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、トルエン、エチルベンゼンが好ましい。有機溶剤を用いることにより、重合液中のモノマー濃度やポリマー濃度を制御しやすくなり、重合反応を制御しやすくなる。有機溶剤を用いる場合、共重合体樹脂を製造するための原料混合物の合計量(100質量部)に対して、5~50質量部の範囲で用いることができる。より好ましくは、5~10質量部の範囲である。
さらに、ゴム状重合体(Y)の溶解性を損なわない範囲で、他の溶剤、例えば脂肪族炭化水素類、ジアルキルケトン類を芳香族炭化水素類と併用することもできる。
【0028】
原料混合物は重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。
有機過酸化物としては、例えば、2、2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2、2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、1、1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3、3、5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4、4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バリレート等のパーオキシケタール類;ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-クミルパーオキサイド、α、α’-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2、5-ジメチル-2、5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2、5-ジメチル-2、5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド類;アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3、5、5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2、4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ジ-イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ-メトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート類;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピパレート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ3、5、5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルジパーオキシイソフタレート、2、5-ジメチル-2、5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル類;アセチルアセトンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3、3、5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ-イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、2、5-ジメチルヘキサン2、5-ジハイドロパーオキサイド、1、1、3、3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;2塩基酸のポリアシルパーオキサイド類、2塩基酸とポリオールとのポリパーオキシエステル類等が挙げられる。これら有機過酸化物は重合開始剤として、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。配合量については本発明の効果を有する限り特に制限されないが、前記原料混合物の合計量100質量部に対して、0.001~5.0質量部であることが好ましい。
【0029】
また、重合に際して、連鎖移動剤、酸化防止剤等を配合してもよい。
連鎖移動剤としては、例えば、メルカプタン類、α-メチルスチレンリニアダイマー、モノテルペノイド系分子量調節剤(タービノーレン)等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードビスフェノール類、ヒンダードトリスフェノール類等が挙げられる。具体的には、例えば、2、6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、ステアリル-β-(3、5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等を使用してもよい。
【0030】
本発明に係る共重合樹脂には、酸化防止剤、無機安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤、有機ポリシロキサン等の添加剤を必要に応じて含んでいてもよい。
酸化防止剤としては、前述のものと同じ酸化防止剤が挙げられる。
無機安定剤としては、例えば、カルシウム、錫等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、p-tert-ブチルフェニルサリシレート、2、2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノヘン、2-(2’-ヒドロキシ-4’-n-オクトキシフェニル)ベンゾチアゾール等が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、硼酸亜鉛、トリクレジルホスフェート、塩素化パラフィン、テトラブロモブタン、ヘキサブロモブタン、テトラブロモビスフェノールA等が挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、ステアロアミドプロピルジメチル-β-ヒドロキシエチルアンモニウムニトレート等が挙げられる。
着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、その他の無機顔料又は有機顔料が挙げられる。
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ガラス繊維、ガラス球、カーボン繊維、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、スチレンーブタジエンースチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン共重合体(SIS)、又はそれらの水添物等の補強用エラストマーが挙げられる。
前記添加材は1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。また、製造時に添加されてもよい。
【0031】
本発明に係る共重合体樹脂は、必要に応じて、可塑剤及び滑剤を含んでいてもよい。
可塑剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸系;ジ-n-ブチルアジペート、ジ-(2-エチルヘキシルアジペート)等のアジピン酸系;アセチルトリ-n-ブチルシトレート等のクエン酸系;ジ-n-ブチルセバケート、ジ-(2-エチルヘキシル)セバケート等のセバシン酸系;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸エステル等のエポキシ系;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の二塩基酸と、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール等の分子量200以下の2価アルコールとからなるポリエステル系;テルペン系樹脂、水素添加したテルペン系樹脂等が挙げられる。これら可塑剤は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、本発明に係る共重合体樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(x2)のモノマーを含んでいてもよい。(x2)成分のモノマーを可塑剤として含むことにより、本発明に係る樹脂シートが軟化しやすくなり、低温でのヒートシール性がより向上しやすくなる。前記モノマーは、共重合体樹脂中に添加されてもよく、製造時の残留モノマーであってもよい。共重合体樹脂が(x2)成分のモノマーを含む場合、その割合は、共重合体樹脂の総質量に対して、700ppm以下であることが好ましく、10~500ppmであることがより好ましく、20~300ppmであることがさらに好ましい。なお、前記モノマーが製造時の残留モノマーである場合、重合温度や重合時間等を調整することにより、共重合体樹脂中の残留モノマーの割合を前記範囲内に制御してもよい。
【0032】
滑剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、金属石鹸系、炭化水素系の流動パラフィン;ポリエチレンワックス等;脂肪酸系の高級脂肪酸、オキシ脂肪酸等;エステル系のグリセリド、エステルワックス等;脂肪酸アミド系の脂肪酸アミド、ビス脂肪酸アミド等;脂肪酸ケトン系、複合滑剤系等、が挙げられる。具体例としては、パラフィンワックス、ステアリン酸、硬化油、ステアロアミド、エチレンビスステアリルアミド、n-ブチルステアレート、ケトンワックス、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、ポリシロキサン、アルキル燐酸エステル等がある。これら滑剤は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
可塑剤や滑剤を含む場合、その添加量は、樹脂シートの加工性および包装容器のシール性の観点から、共重合体樹脂の総質量に対して、0.05~1.0質量部の範囲内で添加することが好ましい。
【0034】
[樹脂シートの製造方法]
本発明に係る樹脂シートは、前述の共重合体樹脂から構成されている。樹脂シートの製造方法としては、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、共重合体樹脂を押出機に投入して溶融混錬することによって樹脂ペレットを作成する。この樹脂ペレットをさらにTダイ等のシート押出機に投入して、所望の厚さに押出し成形して樹脂シートとする方法等が挙げられる。なお、前記樹脂シートの少なくとも一方の表面に、導電層を形成して、導電性樹脂シートとすることもできる。
【0035】
本発明に係る樹脂シートの厚みは、包装容器の成形性および強度の観点から、0.1~1mmであることが好ましく、0.15~0.8mmであることがより好ましい。
【0036】
<耐折強度>
本発明に係る樹脂シートは、耐折強度に優れている。すなわち、本発明に係る樹脂シートの、JIS-P-8115に従って測定した耐折強度は、10回以上であることが好ましく、30回以上であることがより好ましく、50回以上であることがさらに好ましい。なお、樹脂シートの耐折強度は以下の条件で測定した値を指す。
(耐折強度の測定方法)
JIS-P-8115(2001年)に従い、樹脂シートの流れ方向を長さ方向として長さ150mm、幅15mm、厚さ0.3mmの試験片を作製する。(株)東洋精機製作所製、MIT耐折疲労試験機を用いてMIT耐折強度を測定する。この時、折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175回/分、測定荷重250gにて試験を行う。
【0037】
<像鮮明度>
本発明に係る樹脂シートの、JIS-K-7324に従って、像鮮明度測定器にて測定した像鮮明度は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。像鮮明度が60%以上であることにより、電子部品包装容器のポケットに収納した電子部品を視認しやすくなる。すなわち、このような像鮮明度を有する樹脂シートは透明性に優れている。
【0038】
[電子部品包装容器]
本発明に係る樹脂シートを、真空成形、圧空成形、プレス成形等公知のシートの成形方法(熱成形)で成形することにより、キャリアテープ、トレイ等の自由な形状の電子部品包装容器を得ることができる。本発明に係る樹脂シートは、透明性を有し、耐折強度に優れ、かつ低温ヒートシール性にも優れるため、これらの物性に優れた電子部品包装容器を提供することができる。
【0039】
<低温ヒートシール性>
本発明に係る電子部品包装容器は低温ヒートシール性に優れる。具体的には、以下の条件で測定したカバーテープの剥離強度が0.2N以上となるシール温度が、165℃未満であることが好ましく、155℃以下であることがより好ましく、145℃以下であることがより好ましい。
(低温ヒートシール性の測定方法)
テーピング機を使用し、シールヘッド幅0.5mm×2、シールヘッド長24mm、シール圧力0.5kgf、送り長12mm、シール時間0.3秒、シールコテ温度140~190℃まで5℃間隔で、キャリアテープに21.5mm幅のカバーテープをヒートシールする。その後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下、毎分300mmの剥離速度にて、剥離角度170°~180°でカバーテープを剥離し、剥離強度が0.2N以上となるシール温度を確認する。
【0040】
[電子部品包装体]
電子部品包装容器は、電子部品を収納して電子部品包装体とし、電子部品の保管及び搬送に用いられる。例えば、キャリアテープは、前記の成形方法で形成されたポケットに電子部品を収納した後に、カバーテープにより蓋をしてリール状に巻き取ったキャリアテープ体として、電子部品の保管及び搬送に用いられる。本発明に係る樹脂シート及び電子部品包装容器は、低温でのヒートシール性に優れている。そのため、電子部品包装体とする際のヒートシール温度は、165℃未満であることが好ましく、155℃以下であることがより好ましく、145℃以下であることがさらに好ましい。
本発明の別の態様は、前記共重合体樹脂から構成された樹脂シートからなる電子部品包装容器を用いた電子部品包装体の製造方法であって、165℃未満のヒートシール温度、好ましくは155℃以下のヒートシール温度で、前記電子部品包装容器に蓋材をヒートシールすることを含む、電子部品包装体の製造方法である。
【0041】
電子部品包装体に包装される電子部品としては特に限定はなく、例えばIC、LED(発光ダイオード)、抵抗、液晶、コンデンサー、トランジスター、圧電素子レジスター、フィルター、水晶発振子、水晶振動子、ダイオード、コネクター、スイッチ、ボリュウム、リレー、インダクタ等がある。また、これら電子部品を使用した中間製品や最終製品であってもよい。
【0042】
本発明に係る樹脂シートのより好ましい態様は以下のとおりである。
<1>連続マトリックス樹脂(X)中に、ゴム状重合体(Y)を分散粒子として含有し、下記(1)~(2)を満たすゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂から構成されている、電子部品包装用樹脂シート;
(1)前記連続マトリックス樹脂(X)が、スチレン53~63質量%と、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ブチルを含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル37~47質量%との共重合体であり、
(2)前記ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂の総質量に対する、前記ゴム状重合体(Y)の割合が、5質量%以上10質量%未満である。
<2>前記アクリル酸ブチルに対する、前記メタクリル酸メチルの値(メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル)が、4~6である、<1>に記載の電子部品包装用樹脂シート。
<3>さらに、下記(3)及び(4)を満たす、<1>または<2>に記載の電子部品包装用樹脂シート。
(3)前記ゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂の総質量に対する、スチレンの割合が、49.5~55.0質量%である。
(4)前記ゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂の総質量に対する、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ブチルの合計量の割合が、35~44質量%である。
<4>前記ゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂に含まれる、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ブチルから選択される少なくとも1つのモノマーの量が、前記ゴム変性芳香族ビニル共重合体樹脂の総質量に対して、700ppm以下である、<1>から<3>のいずれかに記載の電子部品包装用樹脂シート。
<5><1>から<4>のいずれかに記載の電子部品包装用樹脂シートを用いてなる、電子部品包装容器。
<6><5>に記載の電子部品包装容器を含む、電子部品包装体。
<7><6>に記載の電子部品包装体の製造方法であって、165℃未満のヒートシール温度で前記電子部品包装容器に蓋材をシールすることを含む、電子部品包装体の製造方法。
【実施例0043】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0044】
[電子部品包装用樹脂シートの作成]
(実施例1)
スチレン-ブタジエンブロック共重合体ゴム(旭化成(株)製、商品名「アサプレン670A」、スチレン濃度:39質量%)7.5質量部を、スチレンモノマー45.0質量部、メタクリル酸メチル34.0質量部、アクリル酸ブチル5.0質量部、及びエチルベンゼン8.5質量部に溶解させた溶液100質量部に、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.005質量部、及びt-ドデシルメルカプタン0.08質量部を配合した溶液を第1重合機に連続的に送入し、重合温度125℃で、3時間攪拌重合させた。その後、プラグフロー型反応器に、滞留時間が5時間になるように前記反応溶液を連続的に全量装入してさらに重合を行った。重合率が85%に達するまで重合した後、反応液をベント式押出機に供給して、230℃、減圧下で揮発成分を除去した。さらに、ダイスから溶融ストランドを引き出して水冷した後、カッターで切断してペレット状のゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂を得た。
次いで、得られた共重合体樹脂をTダイのシート押出機に投入し、厚さ0.3mm、幅600mmに成形して樹脂シートを得た。なお、得られた樹脂シート中の(x2)成分のモノマー残量は、280ppmであった。
得られた樹脂シートを24mm幅にスリットし、ヒーター温度210℃の条件で、圧空成形機により成形を行い、24mm幅のキャリアテープを作成した。キャリアテープのポケットサイズは、流れ方向15mm、幅方向11mm、深さ方向5mmである。得られた樹脂シート及びキャリアテープを用いて、以下の条件で、耐折強度、像鮮明度、及び低温ヒートシール性を評価した。結果を表1に示す。なお、表1中の(Y)成分の配合割合(質量%)は、下記式(3)より算出した値である。
[(Y)/(X+Y)]×100 ・・・(3)
式(3)中、Yは、全ゴム状重合体(Y)の仕込み量の合計量であり、Xは、(X)成分を構成する全モノマーの仕込み量の合計量に重合率(%)を掛けた値である。
【0045】
(耐折強度)
JIS-P-8115(2001年)に従って、樹脂シートの流れ方向を長さ方向として、長さ150mm、幅15mm、厚さ0.3mmの試験片を作製した。次に、(株)東洋精機製作所製、MIT耐折疲労試験機(製品名「MIT―D」)を用いてMIT耐折強度の測定を行った。この時、折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175回/分、測定荷重250gにて試験を行った。また、以下の評価基準に従って耐折強度を評価し、「B評価」以上を合格とした。
(評価基準)
A:耐折強度が30回以上のもの。
B:耐折強度が10回以上30回未満のもの。
C:耐折強度が10回未満のもの。
【0046】
(像鮮明度)
JIS-K-7374に従って、像鮮明度測定器を用いて、樹脂シートの像鮮明度を測定した。また、以下の評価基準に従って像鮮明度を評価し、「B評価」以上を合格(透明性に優れる)とした。
(評価基準)
A:像鮮明度が70%以上100%以下のもの。
B:像鮮明度が60%以上70%未満のもの。
C:像鮮明度が60%未満のもの。
【0047】
(低温ヒートシール性)
テーピング機(永田精機(株)製、製品名「NK-600」)を使用し、シールヘッド幅0.5mm×2、シールヘッド長24mm、シール圧力0.5kgf、送り長12mm、シール時間0.3秒、シールコテ温度140℃~190℃まで5℃間隔で、キャリアテープに21.5mm幅のカバーテープ(デンカ(株)製、製品名「ALS-S」)をヒートシールした。その後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下、毎分300mmの剥離速度にて、剥離角度170°~180°でカバーテープを剥離し、低温シール性を評価した。以下の評価基準に従って評価し、「B評価以上」を合格(低温ヒートシール性に優れる)とした。
(評価基準)
A:剥離強度が0.2N以上となる温度が155℃未満のもの。
B:剥離強度が0.2N以上となる温度が155℃以上165℃未満のもの。
C:剥離強度が0.2N以上となる温度が165℃以上のもの。
【0048】
(実施例2~10、及び比較例1~3)
各成分の配合割合を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂シート及びキャリアテープを得た。得られた樹脂シート及びキャリアテープについて、実施例1と同様の方法で、耐折強度、像鮮明度、及び低温ヒートシール性を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
表1に示す原料の詳細は以下のとおりである。
ゴム1:スチレン-ブタジエンブロック共重合体ゴム(旭化成(株)製、製品名「アサプレン670A」、スチレン濃度:39質量%)。
ゴム2:スチレン-ブタジエンブロック共重合体ゴム(旭化成(株)製、製品名「アサプレン625A」、スチレン濃度:35質量%)。
ゴム3:スチレン-ブタジエンブロック共重合体ゴム(旭化成(株)製、製品名「アサプレン610A」、スチレン濃度:15質量%)。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示す通り、本発明の構成を満たす実施例1~10の電子部品包装用樹脂シートは、透明性を有し、耐折強度に優れ、かつ低温ヒートシール性にも優れていた。一方、(X)成分中の(x1)及び(x2)成分の割合が本発明の構成を満たさない比較例1の樹脂シートは、ヒートシール温度が165℃と高かった。ゴム状重合体(Y)の配合量が5質量%未満の比較例2の樹脂シートは、耐折強度が低かった。また、ゴム状重合体(Y)の配合量が10質量%超の比較例3の樹脂シートは、ヒートシール温度が165℃と高かった。また、比較例3の樹脂シートは像鮮明度もやや劣っていた。以上の結果から、本発明に係る電子部品包装用樹脂シートは、透明性を有し、耐折強度に優れ、かつ低温ヒートシール性にも優れることが確認された。