(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045505
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】金属基材の耐食性を改善する方法
(51)【国際特許分類】
C09D 5/44 20060101AFI20240326BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240326BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20240326BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20240326BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20240326BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240326BHJP
【FI】
C09D5/44 A
C09D175/04
C09D163/00
C09D133/04
C09D167/00
C09D7/61
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019319
(22)【出願日】2024-02-13
(62)【分割の表示】P 2020571392の分割
【原出願日】2019-06-14
(31)【優先権主張番号】16/015,861
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】399074983
【氏名又は名称】ピーピージー・インダストリーズ・オハイオ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PPG Industries Ohio,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】シルビア ベゼル
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン アール. ザワッキー
(72)【発明者】
【氏名】イーグル プオジュキナイテ
(57)【要約】
【課題】 耐食性改善方法の提供
【解決手段】 本発明は金属基材耐食性改善方法を提供する。方法は(a)基材上に硬化性電着可能コーティング組成物を電気泳動的に付着させて前記基材の少なくとも一部を覆ってコーティングを形成することと、(b)基材上のコーティングを硬化させるのに十分な温度までおよび時間にわたって基材を加熱することとを含む。電着可能コーティング組成物は水性媒体中に分散された樹脂相を含み、樹脂相は(1)カソード上に電着可能な非ゲル化活性水素含有カチオン性塩の基含有樹脂と、(2)少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート硬化剤と、(3)少なくとも0.2ミクロンの平均球相当径を有する無機板状顔料を含む顔料成分とを含む。電着可能コーティング組成物は少なくとも0.5の顔料対結合剤比を示す。コーティング組成物は8重量%未満の粉砕ビヒクルを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に分散された樹脂相を含む電着可能コーティング組成物であって、前記樹脂相が、
(1)非ゲル化活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂、
(2)少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート硬化剤、および
(3)前記カチオン性塩の基含有樹脂(1)または前記ポリイソシアネート硬化剤(2)のいずれかまたは両方に分散させられた顔料成分であって、ここで、前記電着可能コーティング組成物が少なくとも0.5の顔料対結合剤比を示すような量で前記樹脂相中に存在する無機板状顔料を前記顔料成分が含む、顔料成分
を含み、
ここで、前記電着可能コーティング組成物が、前記電着可能コーティング組成物中の固形物の総重量に基づいて8重量%未満の粉砕ビヒクルを含有する、
電着可能コーティング組成物。
【請求項2】
前記無機板状顔料が、少なくとも0.2ミクロンの平均球相当径を有する、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項3】
前記カチオン性塩の基含有樹脂が、ポリエポキシドポリマー、アクリルポリマー、ポリウレタンポリマー、および/またはポリエステルポリマーを含む、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項4】
前記カチオン性塩の基含有樹脂が、カチオン性アミン塩の基を含有する、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項5】
前記無機板状顔料がクレイおよび/またはタルクを含む、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項6】
前記無機板状顔料が、0.2~5.0ミクロンの平均球相当径を有するカオリンクレイを含む、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項7】
前記電着可能コーティング組成物が、少なくとも1の顔料対結合剤比を示す、請求項6に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項8】
前記カオリンクレイが0.2~3.5ミクロンの平均球相当径を有する、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項9】
前記無機板状顔料が、0.6~1.9ミクロンの平均球相当径を有するタルクを含む、請求項5に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項10】
前記電着可能コーティング組成物が、少なくとも0.5のクレイおよび/またはタルク顔料対結合剤比を示す、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項11】
前記電着可能コーティング組成物が、少なくとも0.5のクレイ顔料対結合剤比を示す、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項12】
前記電着可能コーティング組成物が、少なくとも0.5のタルク顔料対結合剤比を示す、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項13】
前記電着可能コーティング組成物が、粉砕ビヒクルを本質的に含まない、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項14】
前記樹脂相を前記水性媒体中に分散させる前に、前記顔料成分が、前記カチオン性塩の基含有樹脂中に分散される、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物。
【請求項15】
金属基材の耐食性を改善する方法であって、
(a)前記基材上に、請求項1に記載の電着可能コーティング組成物を電気泳動的に付着させて、前記基材の少なくとも一部を覆って電着コーティングを形成すること、および
(b)前記基材上の前記電着コーティングを硬化させるのに十分な温度までおよび時間にわたって前記基材を加熱すること
を含む、方法。
【請求項16】
前記電着可能コーティング組成物が、粉砕ビヒクルを本質的に含まない、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記樹脂相を前記水性媒体中に分散させる前に、前記顔料成分が、前記カチオン性塩の基含有樹脂中に分散される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記金属基材上に前記電着可能コーティング組成物を電気泳動的に付着させる前に、前処理組成物を前記金属基材の少なくとも1部を覆って塗布することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
請求項15に記載の方法によりコーティングされた金属基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材の耐食性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング塗布方法としての電着は、印加電位の影響下での導電性基材上へフィルム形成組成物を付着することを含む。電着は、非電気泳動コーティング手段と比較して、廃棄物を減らし、基材への腐食保護を改善し、環境汚染を最小限に抑えて塗料の利用率を高めるので、電着は、コーティング業界において標準となっている。
【0003】
最初は、被塗装物をアノードとして電着が行われた。これは、よく知られているように、アニオン電着と呼ばれた。しかしながら、1972年にカチオン電着が商業的に導入され、業界標準となった。今日、カチオン電着は、圧倒的に普及している電着方法である。実際、カチオンプライマーコーティングは、世界中で生産されている全ての自動車の80%より多くに電着によって塗布されている。
【0004】
電着可能コーティングは、通常、多くの目的を果たす顔料を含む。通常、顔料は、ミル粉砕工程によって粉砕ビヒクル中に組み込んだ後にコーティング中に導入される。粉砕ビヒクルを使用すると、顔料の凝集が低減し、顔料をコーティングバルク中に均一に分散させることができるが、追加の配合工程が必要になりコストが高くなる。また、高レベルの顔料をコーティングに組み込むことを困難にし、顔料対結合剤(P:B)比およびコーティングの架橋密度を低下させることによってコーティングの腐食バリア特性を弱める。
【0005】
コーティング業界では、金属基材に改善された耐食性を提供するために、より高い顔料充填を可能にする費用効果の高い電着可能プライマー組成物が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属基材の耐食性を改善する方法に関する。方法は
(a)基材上に硬化性電着可能コーティング組成物を電気泳動的に付着させて、基材の少なくとも一部を覆って電着コーティングを形成することと、
(b)基材上の電着コーティングを硬化させるのに十分な温度までおよび時間にわたって基材を加熱することとを含む。硬化性電着可能コーティング組成物は、水性媒体中に分散された樹脂相を含み、樹脂相は
(1)カソード上に電着可能な、非ゲル化活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂と、
(2)少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート硬化剤と、
(3)顔料成分とを含む。顔料成分は、少なくとも0.2ミクロンの平均球相当径を有する無機板状顔料を含み、無機板状顔料は、電着可能コーティング組成物が少なくとも0.5の顔料対結合剤比を示すような量で樹脂相中に存在する。電着可能コーティング組成物は、電着可能コーティング組成物中の固形物の総重量に基づいて、8重量%未満の粉砕ビヒクルを含む。改善とは、硬化性電着可能コーティング組成物でコーティングした後および上記のように硬化させた後、金属基材が、水性媒体中に分散された樹脂相を含む硬化性電着可能コーティング組成物であって、樹脂相が、上記のような(1)カソード上に電着可能な、非ゲル化活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂と、(2)少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート硬化剤とを含有するが、顔料成分(3)を含有しない、硬化性電着可能コーティング組成物でコーティングされた同じ材料の金属基材と
比較して、改善された塩水噴霧耐食性を示すことを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施例以外で、または他に示される場合以外で、本明細書および特許請求の範囲において使用される成分の量、反応条件などを表す全ての数は、全ての場合において用語「約」によって修飾されると理解されるべきである。したがって、特に反対のことが示されない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明によって得られることが求められる所望の特性に応じて変動し得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲への均等論の適用を限定する試みとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の桁数を考慮して、通常の概数技法を適用することによって解釈されるべきである。
【0008】
本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、それぞれの試験測定に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。
【0009】
また、本明細書に列挙される任意の数値範囲は、その中に包含される全ての部分範囲を含むことを意図していることが理解されるべきである。例えば、「1~10」の範囲は、列挙された最小値1と列挙された最大値10との間にあり、それらを含む、即ち、1以上の最小値および10以下の最大値を有する全ての部分範囲を含むことが意図される。
【0010】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、冠詞「a」、「an」、および「the」は、明示的かつ明確に1つの指示対象にされない限り、複数の指示対象を含む。
【0011】
本明細書に提示される本発明の様々な例はそれぞれ、本発明の範囲に関して非限定的であると理解される。
【0012】
本発明の方法において、硬化性電着可能コーティング組成物は、任意の種々の金属基材の少なくとも一部の上に電気泳動的に付着され得る。好適な金属基材としては、鉄金属および非鉄金属を挙げることができる。好適な鉄金属としては、鉄、鋼、およびこれらの合金が挙げられる。有用な鋼材料の非限定的な例としては、冷間圧延鋼、亜鉛めっき(即ち、亜鉛被覆)鋼、電気亜鉛めっき鋼、ステンレス鋼、酸洗い鋼、GALVANNEAL(登録商標)、GALVALUME(登録商標)、およびGALVAN(登録商標)の名称で入手可能なものなど亜鉛-アルミニウム合金被覆された鋼、およびこれらの組み合わせが挙げられる。有用な非鉄金属には、導電性炭素被覆材料、アルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウムおよびそれらの合金が含まれる。冷間圧延鋼はまた、以下に述べるように、金属リン酸塩溶液、少なくとも1つの第IIIB族または第IVB族金属を含有する水溶液、有機リン酸塩溶液、有機ホスホン酸塩溶液、および上記の組合せなどの溶液で前処理される場合に適している。鉄金属と非鉄金属との組み合わせまたは複合材料も使用することができる。
【0013】
硬化性電着可能コーティング組成物は、裸の金属基材または前処理された金属基材のいずれかに塗布され得る。「裸の金属」とは、従来のリン酸塩処理溶液、重金属リンスなどの前処理組成物で処理されていない未処理の金属基材を意味する。さらに、本発明の目的のために、「裸の金属」基材は、基材の非縁部表面を覆って他の方法で処理および/またはコーティングされた基材の切断縁部を含むことができる。
【0014】
任意のコーティング組成物の任意の処理または塗布の前に、基材は、必要に応じて、製
造対象物に形成することができる。同じまたは異なる材料の2つ以上の金属基材の組み合わせを一緒に組み立てて、そのような製造対象物を形成することができる。
【0015】
また、本明細書中で使用される場合、「基材」の少なくとも一部「を覆って」形成された電着可能組成物またはコーティングは、基材表面の少なくとも一部の上に直接形成された組成物、ならびに基材の少なくとも一部に以前に塗布された任意のコーティングまたは前処理材料を覆って形成された組成物またはコーティングを指すことを理解されたい。
【0016】
即ち、コーティング組成物が電着される「基材」は、1つ以上の前処理コーティングおよび/またはプライマーコーティングが以前に塗布された上記のものを含む任意の導電性基材を含み得る。例えば、「基材」は、金属基材と、基材表面の少なくとも一部を覆う溶接可能なプライマーコーティングとを含むことができる。次いで、上記の電着可能コーティング組成物は、その少なくとも一部を覆って電着され、そして硬化される。続いて、以下に詳細に記載されるような1つ以上のトップコーティング組成物が、硬化した電着コーティングの少なくとも一部を覆って塗布される。
【0017】
例えば、基材は、前述の導電性基材のいずれかと、基材の少なくとも一部を覆って塗布された前処理組成物とを含むことができ、前処理組成物は、担体媒体、通常は水性媒体中に可溶化または分散された、1つ以上の第IIIB族または第IVB族元素含有化合物またはそれらの混合物を含有する溶液を含む。第IIIB族または第IVB族元素は、例えば、化学および物理学ハンドブック(Handbook of Chemistry and Physics)(第60版、1980年)に示すように、元素のCAS周期表によって定義されている。遷移金属化合物および希土類金属化合物は、通常は、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、イットリウムおよびセリウムの化合物ならびにそれらの混合物である。代表的なジルコニウム化合物は、ヘキサフルオロジルコン酸、そのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニル、カルボン酸ジルコニウムおよびヒドロキシカルボン酸ジルコニウム、例えば、ヒドロフルオロジルコン酸、酢酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニウム、グリコール酸ジルコニウムアンモニウム、乳酸ジルコニウムアンモニウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム、およびそれらの混合物から選択することができる。
【0018】
前処理組成物担体はまた、フィルム形成樹脂、例えば、1つ以上のアルカノールアミンと、少なくとも2つのエポキシ基を含有するエポキシ官能性材料との反応生成物、例えば、米国特許第5,653,823号に開示されているもの、を含有し得る。他の好適な樹脂には、米国特許第3,912,548号および第5,328,525号に開示されているような水溶性および水分散性ポリアクリル酸、米国特許第5,662,746号に記載されているようなフェノール-ホルムアルデヒド樹脂、国際公開第95/33869号に開示されているような水溶性ポリアミド、カナダ特許出願第2,087,352号に記載されているようなマレイン酸またはアクリル酸とアリルエーテルとの共重合体、および米国特許第5,449,415号に記載されているようなエポキシ樹脂、アミノプラスト、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、タンニン、およびポリビニルフェノールを含む水溶性および分散性樹脂が含まれる。
【0019】
さらに、非鉄基材または鉄基材は、米国特許第5,294,265号および第5,306,526号に記載されているような有機リン酸塩または有機ホスホン酸塩の非絶縁層で前処理することができる。このような有機リン酸塩または有機ホスホン酸塩前処理剤は、商品名NUPAL(登録商標)でPPG Industries, Inc.から市販されている。NUPALなどの非導電性コーティングを基材に塗布し、通常は、コーティングを合体させる前に基材を脱イオン水でリンスするステップが続く。これは、非導電性コーティングの層が、非絶縁性であるように十分に薄いこと、即ち、非導電性コーティング
が基材の導電性を妨げないように十分に薄いことを保証し、電着可能コーティング組成物のその後の電着を可能にする。前処理コーティング組成物は、基材の濡れを改善するための補助剤として機能する界面活性剤をさらに含むことができる。一般に、界面活性剤材料は、前処理コーティング組成物の総重量に基づいて約2重量%未満の量で存在する。担体媒体中の他の任意の材料には、消泡剤が含まれる。
【0020】
環境問題のために、前処理コーティング組成物は、クロム含有材料を含まなくてもよい。即ち、組成物は、前処理組成物の総重量に基づいて、約2重量%未満のクロム含有材料(CrO3として表される)、通常、約0.05重量%未満のクロム含有材料を含有する。
【0021】
代表的な前処理プロセスでは、金属基材の表面上に前処理組成物を付着させる前に、表面を完全に洗浄および脱脂することによって金属表面から異物を除去することが通常行われる。金属基材の表面は、表面を機械的に研磨すること、またはメタケイ酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムなどの当業者に周知の市販のアルカリまたは酸性洗浄剤で洗浄/脱脂することなどの、物理的または化学的手段によって洗浄することができる。適切な洗浄剤の非限定的な例は、ミシガン州トロイのPPG Pretreatment and Specialty Productsから市販されているアルカリ系の洗浄剤であるCHEMKLEEN(登録商標)163である。酸性洗浄剤も使用することができる。洗浄工程に続いて、金属基材は通常、残留物を除去するために水でリンスされる。金属基材は、エアナイフを使用して、基材を高温に短時間さらすことによって水を蒸発させることによって、または基材をスキージーロール間に通すことによって空気乾燥することができる。前処理コーティング組成物は、金属基材の外側表面の少なくとも一部の上に付着させることができる。通常、金属基材の外側表面全体が前処理組成物で処理される。前処理フィルムの厚さは変えることができるが、一般に約1マイクロメートル未満であり、通常は約1~約500ナノメートルの範囲であり、より多くの場合は約10~約300ナノメートルの範囲である。
【0022】
前処理コーティング組成物は、任意の従来の塗布技術(例えば、バッチプロセスまたは連続プロセスにおける噴霧、浸漬またはロールコーティング)によって金属基材の表面に塗布される。塗布時の前処理コーティング組成物の温度は、通常約10℃~約85℃であり、多くの場合約15℃~約60℃である。塗布時の前処理コーティング組成物のpHは、一般に2.0~5.5、通常は3.5~5.5の範囲である。媒体のpHは、鉱酸、例えば、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、リン酸、スルファミン酸など(それらの混合物を含む)、有機酸、例えば、乳酸、酢酸、クエン酸、またはそれらの混合物、および水溶性または水分散性塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、アンモニア、またはアミン、例えば、トリエチルアミン、メチルエチルアミン、またはそれらの混合物を用いて調整することができる。
【0023】
連続プロセスは、通常、コイルコーティング業界において使用され、ミル塗布用にも使用される。前処理コーティング組成物は、これらの従来のプロセスのいずれかによって塗布することができる。例えば、コイル業界において、基材は、通常、洗浄され、リンスされ、次いで、化学コーターを用いたロールコーティングによって前処理コーティング組成物と接触される。次いで、処理された細片を加熱により乾燥し、従来のコイルコーティングプロセスにより塗装し、焼成する。
【0024】
前処理組成物のミル塗布は、新しくミル製造された金属片に浸漬、噴霧またはロールコーティングによって塗布することができる。余分な前処理組成物は、通常、絞りロールによって除去される。前処理組成物を金属表面に塗布した後、金属を脱イオン水でリンスし、室温または高温で乾燥させて、処理された基材表面から余分な水分を除去し、任意の硬
化性コーティング成分を硬化させて前処理コーティングを形成することができる。あるいは、処理された基材を65℃~125℃の範囲の温度に2~30秒間加熱して、その上に前処理コーティング組成物の乾燥残留物を有するコーティングされた基材を生成することができる。基材がホットメルト製造プロセスから既に加熱されている場合、乾燥を促進するために、処理された基材を塗布後加熱する必要はない。コーティングを乾燥させるための温度および時間は、コーティング中の固形物の割合、コーティング組成物の成分、および基材の種類などの変数に依存する。
【0025】
前処理組成物の残留物のフィルム被覆量は、一般に1平方メートルあたり1~10,000ミリグラム(mg/m2)、通常10~400mg/m2の範囲である。
【0026】
基材が前処理されているか否かにかかわらず、溶接可能なプライマーの層を基材に塗布することもできる。代表的な溶接可能なプライマーは、亜鉛に富むミル塗布有機フィルム形成組成物であり、これは、BONAZINC(登録商標)としてPPG(ペンシルベニア州、ピッツバーグ)から市販されている。この溶接可能なプライマーは、少なくとも1マイクロメートルの厚さ、通常は3~4マイクロメートルの厚さに塗布できる。リン化鉄に富むプライマーなどの他の溶接可能なプライマーは市販されている。
【0027】
本発明の電着プロセスは、代表的には、導電性基材を水性電着可能組成物の電着浴に浸漬することを包含し、この基材は、通常は金属であり、カソードおよびアノードを備える電気回路においてカソードとして機能する。電極間に十分な電流を印加して、電着可能コーティング組成物の実質的に連続した接着性フィルムを、導電性基材の表面の少なくとも一部の上に付着させる。電着は通常、1ボルト~数千ボルトの範囲、通常50~500ボルトの一定電圧で行われる。電流密度は通常1平方フィートあたり1.0アンペア~15アンペア(1平方メートルあたり10.8~161.5アンペア)であり、電着プロセス中に急速に減少する傾向があり、連続的な自己絶縁膜の形成を示す。
【0028】
本発明の方法で使用される電着可能コーティング組成物は、水性媒体中に分散された樹脂相を含む。樹脂相は、(1)カソード上に電着可能である、1つ以上の非ゲル化活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂(即ち、ポリマー)、通常、活性水素基含有、カチオン性アミン塩の基含有ポリマー、(2)1つ以上の少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート硬化剤、および(3)顔料成分を含む。
【0029】
例えば、硬化性組成物に関連して使用される「硬化性」という用語は、示された組成物が、例えば、熱(周囲硬化を含む)および/または触媒曝露を含むがこれらに限定されない手段によって、官能基を介して重合性または架橋性であることを意味する。
【0030】
硬化したまたは硬化性組成物、例えば、いくつかの具体的な説明の「硬化した組成物」に関連して使用される「硬化する」、「硬化した」という用語または類似の用語は、硬化性組成物を形成する重合性および/または架橋性成分の少なくとも一部が重合および/または架橋されることを意味する。加えて、組成物の硬化は、当該組成物を、熱硬化などであるがこれに限定されない硬化条件に供し、組成物の反応性官能基の反応をもたらし、重合および重合体の形成をもたらすことを指す。重合性組成物が硬化条件に供される場合、重合に続き、そしてほとんどの反応性末端基の反応が生じた後、残りの未反応の反応性末端基の反応速度は、次第に遅くなる。重合性組成物は、少なくとも部分的に硬化するまで硬化条件に供することができる。「少なくとも部分的に硬化した」という用語は、組成物を硬化条件に供した際に、組成物の反応性基の少なくとも一部の反応が起こり、重合体を形成することを意味する。
【0031】
本明細書中で使用される場合、「実質的に未硬化」とは、コーティング組成物が、基材
の表面に塗布された後に、実質的に未架橋であるフィルムを形成する、即ち、有意な架橋を誘導するのに十分な温度まで加熱されず、そしてポリマー成分と硬化剤との間には実質的に化学反応がないことを意味する。
【0032】
「反応性」という用語は、それ自体および/または他の官能基と、自発的に、または熱を加える時に、または触媒の存在下で、または当業者に既知の任意の他の手段によって化学反応を起こすことができる官能基を指す。
【0033】
電着可能コーティング組成物中での使用に適切である非ゲル化活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂(通常、主なフィルム形成ポリマーとして)の例には、ポリマーが「水分散性」である(即ち、水中で可溶化、分散または乳化されるように適応されている)限り、当該分野で周知の任意の多数のカチオン性ポリマーが含まれ得る。このようなポリマーは、正電荷を付与するカチオン性官能基を含む。
【0034】
「非ゲル化」とは、樹脂に実質的に架橋がなく、例えばASTM-D1795(2013年発行)またはASTM-D4243(2016年発行)に従って決定した場合に適切な溶媒に溶解したときに測定可能な固有粘度を示すことを意味する。反応生成物の固有粘度は、その分子量の指標である。本明細書で使用される場合、「実質的に架橋がない」反応生成物は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される場合、100万Da未満の重量平均分子量(Mw)を有する反応生成物を指す。
【0035】
また、本明細書で使用される場合、用語「ポリマー」は、オリゴマーと単独重合体および共重合体の両方を指すことを意味し、「樹脂」と交換可能に使用される。特に明記しない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、分子量は、「Mn」として示されるポリマー材料についての数平均分子量であり、当該分野で認識される方法でポリスチレン標準を使用するゲル浸透クロマトグラフィーによって得られる。
【0036】
このようなカチオン性フィルム形成樹脂の適切な例には、ポリエポキシドポリマー、アクリルポリマー、ポリウレタンポリマー、ポリエステルポリマー、これらの混合物、およびこれらの共重合体のうちの1つ以上から誘導される活性水素含有カチオン性ポリマー、例えば、ポリエステル-ポリウレタンポリマー、が含まれ得る。通常、樹脂(1)は、ポリエポキシドポリマーおよび/またはアクリルポリマーから誘導される活性水素含有カチオン性ポリマーを含む。「および/または」という語句は、リスト中で使用される場合、リスト中の各個々の構成要素ならびに構成要素の任意の組合せを含む代替実施形態を包含することを意味することに留意されたい。例えば、リスト「A、B、および/またはC」は、A、またはB、またはC、またはA+B、またはA+C、またはB+C、またはA+B+Cを含む7つの別個の実施形態を包含することを意味する。
【0037】
前述のように、カチオン性樹脂(1)として使用するのに適したポリマーは、硬化反応部位として活性水素を含む。「活性水素」という用語は、アメリカ化学会誌(JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY)第49巻、p.3181(1927年)に記載されているようなZerewitnoff試験によって決定されるようなイソシアネートと反応性のある基を指す。本発明の一例では、活性水素は、ヒドロキシル基、第1級アミン基および/または第2級アミン基から誘導される。
【0038】
活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂として使用する適切なポリエポキシドポリマーとしては、例えば、ポリエポキシドを鎖延長させるかまたはその分子量を増加させるために、ポリエポキシドと、ポリヒドロキシル基含有物質、例えば、アルコール性ヒドロキシル基含有物質およびフェノール性ヒドロキシル基含有物質とを一緒に反応させることに
よって鎖延長されたポリエポキシドが挙げられる。
【0039】
鎖延長ポリエポキシドは、通常、ポリエポキシドとポリヒドロキシル基含有物質とをニートで反応させる、または不活性有機溶媒、例えば、メチルイソブチルケトンおよびメチルアミルケトンを含むケトン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族、およびジエチレングリコールのジメチルエーテルなどのグリコールエーテルの存在下で反応させることによって調製される。反応は、通常、約80℃~160℃の温度で、約30~180分間、エポキシ基含有樹脂反応生成物が得られるまで行われる。
【0040】
反応物、すなわちエポキシ:ポリヒドロキシル基含有材料の当量比は、通常、約1.00:0.75~1.00:2.00である。
【0041】
一般に、ポリエポキシドのエポキシド当量は、鎖延長前に、100~約2000、通常は約180~500の範囲である。エポキシ化合物は、飽和または不飽和、環式または非環式、脂肪族、脂環式、芳香族または複素環式であってよい。それらは、ハロゲン、ヒドロキシル、およびエーテル基などの置換基を含有してもよい。
【0042】
ポリエポキシドの例は、1より大きく、通常は約2の1,2-エポキシ当量を有するもの、即ち、1分子当たり平均2個のエポキシド基を有するポリエポキシドである。最も一般的に使用されるポリエポキシドは、環状ポリオールのポリグリシジルエーテル、例えば、多価フェノール、例えば、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ベンゼンジメタノール、フロログルシノールおよびカテコールのポリグリシジルエーテル、または多価アルコール、例えば、脂環族ポリオール、特に脂環族ポリオール、例えば、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)エタン、2-メチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルシクロヘキシル)プロパン、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンおよび1,2-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンのポリグリシジルエーテルである。脂肪族ポリオールの例としては、とりわけ、トリメチルペンタンジオールおよびネオペンチルグリコールが挙げられる。
【0043】
ポリエポキシドを鎖延長するかまたはその分子量を増加させるために使用されるポリヒドロキシル基含有材料は、さらにポリマーポリオールであってよい。
【0044】
活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂を調整するために使用され得る適切なアクリルポリマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸の1つ以上のアルキルエステルの、必要に応じて1つ以上の他の重合性エチレン性不飽和モノマーとの共重合体が挙げられる。アクリル酸またはメタクリル酸の好適なアルキルエステルには、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、および2-エチルヘキシルアクリレートが含まれる。適切な他の共重合性エチレン性不飽和モノマーには、ニトリル(例えば、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル)、ハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデン(例えば、塩化ビニルおよびフッ化ビニリデン)、ならびにビニルエステル(例えば、酢酸ビニル)が含まれる。アクリル酸、メタクリル酸もしくは無水物、イタコン酸、マレイン酸もしくは無水物、またはフマル酸などの酸および無水物官能性エチレン性不飽和モノマーを使用することができる。アクリルアミド、メタクリルアミド、およびN-アルキル置換(メタ)アクリルアミドを含むアミド官能性モノマーも好適である。スチレンおよびビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物も適している。
【0045】
ヒドロキシアルキルアクリレートおよびメタクリレートまたはアミノアルキルアクリレ
ートおよびメタクリレートなどの官能性モノマーを使用することによって、ヒドロキシルおよびアミノ基などの官能基をアクリルポリマーに組み込むことができる。第3級アミノ基(カチオン塩の基への変換のための)は、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジプロピルアミノエチルメタクリレートなどのようなジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート官能性モノマーを使用することによってアクリルポリマー中に組み込むことができる。
【0046】
エポキシド官能基(カチオン塩の基への変換のための)は、グリシジルアクリレートおよびメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルまたは2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレートなどの官能性モノマーを使用することによってアクリルポリマー中に組み込むことができる。あるいは、エポキシド官能基は、アルカリの存在下で、アクリルポリマー上のヒドロキシル基をエピハロヒドリンまたはジハロヒドリン(例えば、エピクロロヒドリンまたはジクロロヒドリン)と反応させることによって、アクリルポリマー中に組み込むことができる。
【0047】
アクリルポリマーは、従来のフリーラジカル開始重合技術、例えば、有機過酸化物およびアゾ型化合物を含む好適な触媒、ならびに必要に応じてα-メチルスチレンダイマーおよび第3級ドデシルメルカプタンなどの連鎖移動剤を使用する、当技術分野で既知の溶液重合または乳化重合によって調製することができる。
【0048】
活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂は、代替的にまたは追加的に、ポリエステルから調製されてもよい。ポリエステルは既知の方法で多価アルコールとポリカルボン酸との縮合により調製することができる。好適な多価アルコールには、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトールが含まれる。
【0049】
ポリエステルを調製するために使用される適切なポリカルボン酸の例には、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、およびトリメリット酸が含まれる。上述のポリカルボン酸の他に、酸の機能的等価物、例えば、それらが存在する場合には無水物または酸の低級アルキルエステル、例えば、メチルエステルを使用することができる。
【0050】
ポリエステルは、架橋反応に利用可能な遊離ヒドロキシル基の一部を含有する(ポリエステルの調製中に過剰の多価アルコールおよび/または高級ポリオールを使用することによって行われる)。
【0051】
エポキシド官能基は、アルカリの存在下で、ポリエステル上のヒドロキシル基をエピハロヒドリンまたはジハロヒドリン(例えば、エピクロロヒドリンまたはジクロロヒドリン)と反応させることによって、ポリエステル中に組み込むことができる。
【0052】
アルカノールアミンおよびジアルカノールアミンは、ポリエステルの調製においてポリオールと組み合わせて使用することができ、アミン基は、後にアルキル化されて、カチオン性塩の基への変換のための第3級アミノ基を形成することができる。同様に、N,N-ジアルキルアルカノールアミンおよびN-アルキルジアルカノールアミンのような第3級アミンをポリエステルを調製するのに使用することができる。好適な第3級アミンの例には、米国特許第5,483,012号、第3欄、第49~63行に開示されているN-アルキルジアルカノールアミンが含まれる。本発明のプロセスで使用するのに好適なポリエステルには、米国特許第3,928,157号に開示されているものが含まれる。
【0053】
ポリウレタンも活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂として使用できる。使用することができるポリウレタンの中には、上述したようなポリエステルポリオールまたはアクリルポリオールとポリイソシアネートとを、OH/NCO当量比が1:1より大きくなるように、遊離ヒドロキシ基が生成物中に存在するように反応させることによって調製されるポリマーポリオールがある。ポリエステルの調製に使用するための上記で開示したより小さい多価アルコールもまた、ポリマーポリオールの代わりにまたはポリマーポリオールと組み合わせて使用することができる。
【0054】
ポリウレタンポリマーを調製するために使用される有機ポリイソシアネートは、多くの場合、脂肪族ポリイソシアネートである。ジイソシアネートおよび/またはより高次のポリイソシアネートが好適である。
【0055】
好適な脂肪族ジイソシアネートの例は、1,4-テトラメチレンジイソシアネートおよび1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートなどの直鎖脂肪族ジイソシアネートである。また、脂環式ジイソシアネートも使用できる。例としては、イソホロンジイソシアネートおよび4,4’-メチレン-ビス-(シクロヘキシルイソシアネート)が挙げられる。適切なアラルキルジイソシアネートの例は、メタ-キシリレンジイソシアネートおよびα,α,α’,α’-テトラメチルメタ-キシリレンジイソシアネートである。
【0056】
イソシアネートプレポリマー、例えば、ポリイソシアネートと、ポリオール(例えば、ネオペンチルグリコールおよびトリメチロールプロパン)またはポリマーポリオール(例えば、ポリカプロラクトンジオールおよびトリオール)との反応生成物(1より大きいNCO/OH当量比)もまた、ポリウレタンを調製するのに使用することができる。
【0057】
N,N-ジアルキルアルカノールアミンおよびN-アルキルジアルカノールアミンなどのヒドロキシル官能性第3級アミンを、ポリウレタンの調製において他のポリオールと組み合わせて使用してもよい。好適な第3級アミンの例には、米国特許第5,483,012号、第3欄、第49~63行に開示されているN-アルキルジアルカノールアミンが含まれる。
【0058】
エポキシド官能基は、ポリウレタン上のヒドロキシル基を、アルカリの存在下で、エピハロヒドリンまたはジハロヒドリン(例えば、エピクロロヒドリンまたはジクロロヒドリン)と反応させることによって、ポリウレタン中に組み込むことができる。
【0059】
電着可能組成物において使用されるカチオン性樹脂は、カチオン性塩の基を含有する。カチオン性塩の基は、樹脂および/または活性水素基の種類に依存して、当該分野で既知の任意の手段によって、例えば、以下に記載されるように樹脂中の第3級アミン基を酸性化することによって、または樹脂中のエポキシド基をカチオン性塩の基形成剤と反応させることによって、樹脂中に組み込むことができる。「カチオン性塩の基形成剤」とは、エポキシ基と反応性があり、エポキシ基との反応前、反応中または反応後に酸性化してカチオン性塩の基を形成することができる物質を意味する。好適な物質の例には、アミン塩の基を形成するためにエポキシ基との反応後に酸性化することができる第1級もしくは第2級アミン、またはエポキシ基との反応前に酸性化することができ、エポキシ基との反応後に第4級アンモニウム塩の基を形成する第3級アミンなどのアミンが含まれる。他のカチオン性塩の基形成剤の例は、エポキシ基との反応前に酸と混合することができ、その後のエポキシ基との反応時に三元スルホニウム塩の基を形成することができる硫化物である。
【0060】
アミンがカチオン性塩の形成剤として使用される場合、モノアミンがよく使用され、ヒドロキシル含有アミンが特に好適である。ポリアミンを使用してもよいが、樹脂をゲル化
する傾向があるため推奨されない。
【0061】
本発明の典型的な例では、カチオン性塩の基含有樹脂は、その窒素原子に対してβ-位にヘテロ原子を有する少なくとも1つ、通常は2つのアルキル基が結合している窒素原子を含有するアミンから誘導されるアミン塩の基を含有する。ヘテロ原子は、非炭素原子または非水素原子、通常は酸素、窒素または硫黄である。
【0062】
ヒドロキシル含有アミンは、カチオン性塩の基形成剤として使用される場合、樹脂にアミン基を付与し得、このアミン基は、窒素原子を含み、この窒素原子に対してβ-位にヘテロ原子を有する少なくとも1つのアルキルがこの窒素原子に結合している。ヒドロキシル含有アミンの例は、アルカノールアミン、ジアルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン、およびアラルキルアルカノールアミンであり、これらは、アルカノール基、アルキル基およびアリール基の各々において1~18個の炭素原子、通常、1~6個の炭素原子を含有する。具体例には、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-フェニルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、およびN-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジンが含まれる。
【0063】
ヒドロキシル基を含まない少量のアミン、例えば、モノ、ジおよびトリアルキルアミンおよび混合アリール-アルキルアミン、またはアミンとエポキシとの間の反応に悪影響を及ぼさないヒドロキシル以外の基で置換されたアミンも使用できるが、それらの使用は好ましくない。具体例には、エチルアミン、メチルエチルアミン、トリエチルアミン、N-ベンジルジメチルアミン、ジココアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンが含まれる。
【0064】
第1級および/または第2級アミンとポリマー上のエポキシド基との反応は、アミンとポリマーとの混合時に起こる。アミンはポリマーに添加されてもよく、または逆であってもよい。反応は、ニートで、またはメチルイソブチルケトン、キシレンまたは1-メトキシ-2-プロパノールなどの適切な溶媒の存在下で行うことができる。反応は一般に発熱性であり、冷却が望まれる場合がある。しかし、反応を促進するために、約50~150℃の中程度の温度に加熱してもよい。
【0065】
第3級アミン官能性ポリマー(または第1級アミンおよび/または第2級アミンとエポキシド官能性ポリマーとの反応生成物)は、酸による少なくとも部分的な中和によってカ
チオン性および水分散性にされる。好適な酸には、ギ酸、酢酸、乳酸、リン酸、ジメチロールプロピオン酸、およびスルファミン酸などの有機および無機酸が含まれる。乳酸が最も頻繁に使用される。中和の程度は、関与する特定の反応生成物によって変化する。しかしながら、電着可能組成物を水中に分散させるためには十分な酸を使用するべきである。通常は、使用される酸の量は、全中和の少なくとも20%を提供する。100%の全中和に必要な量を超えて過剰な酸を使用してもよい。
【0066】
第3級アミンとエポキシド官能性ポリマーとの反応において、第3級アミンを中和酸と予備反応させてアミン塩を形成し、次いでアミン塩をポリマーと反応させて第4級塩の基含有樹脂を形成することができる。反応は、アミン塩をポリマーと水中で混合することによって行われる。通常は、水は、全反応混合物固形物に基づいて約1.75~約20重量%の範囲の量で存在する。
【0067】
第4級アンモニウム塩の基含有樹脂を形成する際に、反応温度は、反応が進行する最低温度(一般に、室温またはそれよりわずかに高い温度)から約100℃の最高温度(大気圧で)まで変動し得る。より高い圧力では、より高い反応温度を使用することができる。
通常、反応温度は約60~100℃の範囲である。立体障害のあるエステル、エーテル、または立体障害のあるケトンなどの溶媒を使用することができるが、それらの使用は必須ではない。
【0068】
上記で開示した第1級、第2級、および/または第3級アミンに加えて、またはその代わりに、ポリマーと反応するアミンの一部は、米国特許第4,104,147号、第6欄、第23行から第7欄、第23行に記載されているようなポリアミンのケチミンであり得る。ケチミン基は、アミン-エポキシ反応生成物を水中に分散させると分解する。
【0069】
アミン塩および第4級アンモニウム塩の基を含有する樹脂に加えて、第3級スルホニウム基を含有するカチオン性樹脂が、カチオン性塩の基含有樹脂を形成する際に使用され得る。これらの樹脂の例と、その調製方法の例は、米国特許第3,793,278号、デボナ(DeBona)、および米国特許第3,959,106号、ボッソ他(Bosso et al.)に記載されている。
【0070】
イオン性塩の基形成の程度は、樹脂が水性媒体および他の成分と混合される場合、電着可能組成物の安定な分散体が形成されるような程度であるべきである。「安定な分散体」とは、沈降しないか、またはいくらかの沈降が生じた場合に容易に再分散可能であるものを意味する。さらに、分散体は、水性分散体中に浸漬されたアノードとカソードとの間に電位が設定されたときに、分散された粒子がカソードまたはアノードに向かって移動し、適宜アノードまたはカソード上に電着するのに十分なイオン特性を有するべきである。
【0071】
一般に、カチオン性樹脂は、上で定義したようにゲル化しておらず、樹脂固形物1グラム当たり約0.1~3.0、多くの場合約0.1~0.7ミリ当量のカチオン性塩の基を含有する。
【0072】
カチオン性ポリマーに関連する活性水素としては、約93℃~204℃、通常は約121℃~177℃の温度範囲内でイソシアネートと反応性のある任意の活性水素が挙げられる。通常、活性水素は、ヒドロキシルおよび第1級および第2級アミノからなる群から選択され、ヒドロキシルと第1級アミノなどの混合基を含む。多くの場合、ポリマーの活性水素含有量は、ポリマー固形物1グラム当たり約1.7~10ミリ当量であり、より多くの場合約2.0~5ミリ当量の活性水素である。
【0073】
カチオン性塩の基含有樹脂(1)は、本発明のプロセスにおいて使用される電着可能組成物中に、カチオン性塩の基含有樹脂と硬化剤を合わせた総重量に基づいて、20~80%、多くの場合30~75重量%、代表的には50~70重量%の範囲の量で存在し得る
。
【0074】
硬化性電着可能コーティング組成物において使用されるポリイソシアネート硬化剤(2)は、少なくとも部分的にブロックされる。多くの場合、ポリイソシアネート硬化剤は、遊離イソシアネート基を実質的に含有しない完全にブロックされたポリイソシアネートである。ポリイソシアネートは、脂肪族または芳香族ポリイソシアネートまたはその2つの混合物であることができる。ジイソシアネートが最も頻繁に使用されるが、より高次のポリイソシアネートがジイソシアネートの代わりにまたはジイソシアネートと組み合わせて使用され得る。
【0075】
硬化剤として使用するのに好適なポリイソシアネートの例には、ポリウレタンの調製に使用するのに好適なものとして上に開示した全てのものが含まれる。特定の例では、ポリイソシアネートは、トリメチロールプロパンおよび/またはメチルエチルケトオキシムでブロックされたイソホロンジイソシアネートである。
【0076】
例えば、メタノール、エタノールおよびn-ブタノールのような低級脂肪族アルコール、シクロヘキサノールのような脂環式アルコール、フェニルカルビノールおよびメチルフェニルカルビノールのような芳香族アルキルアルコール、ならびにフェノール自体および置換フェノール(ここで、置換基はコーティング操作に影響を及ぼさない)のようなフェノール化合物(例えば、クレゾールおよびニトロフェノール)を含む、任意の適切な脂肪族、脂環式または芳香族アルキルモノアルコールまたはフェノール化合物が、ポリイソシアネートのためのキャッピング(ブロッキング)剤として使用され得る。グリコールエーテルもキャッピング剤として使用することができる。好適なグリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0077】
他の適切なキャッピング剤としては、メチルエチルケトオキシム、アセトンオキシムおよびシクロヘキサノンオキシムのようなオキシム、ε-カプロラクタムのようなラクタム、およびジブチルアミンのようなアミンが挙げられる。
【0078】
ポリイソシアネートは、米国特許第3,984,299号、第1欄第1行~第68行、第2欄第および第3欄第1行~第15行に記載されているように完全にブロックされ、または米国特許第3,947,338号、第2欄第65行~第68行、第3欄および第4欄、第1~第30行に記載されているように部分的にブロックされてポリマー骨格と反応し得る。「ブロックされた」とは、得られたブロックされたイソシアネート基が周囲温度で活性水素に対して安定であるが、通常90℃と200℃との間の高温でフィルム形成ポリマー中の活性水素と反応するように、イソシアネート基が化合物と反応したことを意味する。本発明の一例では、ポリイソシアネート硬化剤は、遊離イソシアネート基を実質的に含有しない完全にブロックされたポリイソシアネートである。「周囲」温度または条件とは、熱または他のエネルギーを加えないことを意味する。例えば、硬化性組成物が、反応を促進するためにオーブンで焼いたり、強制空気、照射などを使用したりせずに熱硬化性反応を起こす場合、反応は、周囲条件下で起こると言われる。通常、周囲温度は華氏60度~90度(摂氏15.6度~32.2度)の範囲であり、例えば、代表的な室温である華氏72度(摂氏22.2度)である。
【0079】
少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート硬化剤(2)は、個々の成分として電着可能組成物に添加され得るか、または非ゲル化活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂(1)の調製の間に反応物の反応混合物に添加され得る。少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート硬化剤(2)は、本発明のプロセスにおいて使用される電着可能組成物中に、カチオン性塩の基含有樹脂と硬化剤を合わせた総重量に基づいて、80~20重量%、多くの場合70~25重量%、代表的には50~30重量%の範囲の量で存在し得る。電着可能コーティング組成物は、通常、ポリブタジエングリコールポリマーを本質的に含まない。
【0080】
電着可能コーティング組成物の樹脂相は、(3)顔料成分をさらに含む。顔料成分は、少なくとも0.2ミクロンから5.0ミクロンまでの平均球相当径を有する無機板状顔料を含む。平均球相当径は、マイクロメリティックスインスツルメント社(Micromeritics Instrument Corp.)から入手可能なSEDIGRAPH
III PLUS粒径分析器などによる動的光散乱を使用して決定することができる。板状粒子として、顔料は多くの場合、実質的に対向する表面を有し、粒子は通常4:1~10:1のアスペクト比を示す。通常、無機板状顔料は、クレイおよび/またはタルクを含む。有用なクレイの例には、少なくとも0.2ミクロン、例えば、少なくとも0.4ミクロンまたは少なくとも0.6ミクロン、最大5.0ミクロン、または最大3.5ミクロ
ン、または最大2.5ミクロン、または最大1.5ミクロンの平均球相当径を有するカオリンクレイが含まれる。好適なタルク顔料は、多くの場合、少なくとも0.6ミクロン、最大1.9ミクロン、または最大1.5ミクロン、または最大1.0ミクロンの平均球相当径を有する。電着可能コーティング組成物は、通常、アンチモンを含む顔料(例えば、酸化アンチモンまたは硫化アンチモン)を本質的に含まない。
【0081】
通常は、無機板状顔料は、電着可能コーティング組成物中のP:B比が、顔料の組成およびサイズに依存して、少なくとも0.5および3.1までであるような量で樹脂相中に存在する。「顔料対結合剤(またはP:B)比」という語句において、「結合剤」という用語は、コーティング組成物中の全樹脂(1)および硬化剤(2)を指す。換言すれば、無機板状顔料は、樹脂相中に、樹脂相の全重量に基づいて少なくとも33重量%、多くの場合少なくとも50重量%から75重量%までの量で存在する。特定の例において、0.6~1.5ミクロンの平均球相当径を有するタルク顔料は、通常、P:B比が少なくとも0.5であるような量で使用される。0.2~3.5ミクロンの平均球相当径を有するカオリンクレイは、通常、P:B比が少なくとも0.5、例えば、少なくとも1であるような量で使用される。硬化性電着可能コーティング組成物中で使用される無機板状顔料のサイズ(平均球相当径)、板状形状、および量(P:B)は全て、金属基材上の電着コーティング組成物の改善された腐食バリア特性に寄与する。
【0082】
無機板状顔料を含む顔料成分は、従来の粉砕技術を使用して、カチオン性塩の基含有樹脂(1)またはポリイソシアネート硬化剤(2)のいずれかまたは両方に分散させることによって、樹脂相に添加され得る。このようにして顔料成分を分散させることは、いくつかの利点を提供する。(i)硬化性電着可能コーティング組成物が粉砕ビヒクルを本質的に含まなくてもよいように、従来の粉砕ビヒクルの必要性を排除すること、および(ii)電着可能コーティング組成物においてより高いP:B比を可能にすること。電着可能コーティング組成物は、代表的には、電着可能コーティング組成物中の固形物の総重量に基づいて、8重量%未満、多くの場合5重量%未満、そしてより多くの場合3重量%未満の粉砕ビヒクルを含む。通常、電着可能コーティング組成物は、粉砕ビヒクルを本質的に含まない。物質を「本質的に含まない」とは、存在するにしても、所与の物質が微量または付随的な量でしか組成物に存在せず、その物質が、組成物の任意の特性に影響を及ぼすのに十分な量で存在しないことを意味する。これらの物質は、組成物に必須ではなく、即ち、組成物は、任意のかなりの量または必須の量でこれらの物質を含まない。それらが存在する場合、それは付随的な量のみであり、通常、組成物中の固形物の総重量に基づいて0.1重量%未満である。さらに、最終硬化コーティング組成物においてより高い架橋密度が達成されるので、コーティング組成物の腐食バリア特性が改善され、コストが低減される。通常、顔料成分は、樹脂相を水性媒体中に分散させる前に、カチオン性塩の基含有樹脂(1)中に分散される。
【0083】
樹脂相を水性媒体中に分散させて、電着浴の形態の硬化性電着可能コーティング組成物を調製する。硬化性電着可能コーティング組成物は、このような組成物において一般に使用される任意の成分をさらに含み得る。例えば、組成物は、耐UV劣化性のためにヒンダードアミン光安定剤をさらに含んでもよい。このようなヒンダードアミン光安定剤としては、米国特許第5,260,135号に開示されているものが挙げられる。それらが使用される場合、それらは、電着可能組成物中の樹脂固形物の総重量に基づいて、0.1~2重量%の量で電着可能組成物中に存在する。追加の着色剤、界面活性剤、さらなる湿潤剤または触媒などの他の任意の添加剤を組成物中に含むことができる。硬化性電着可能組成物における使用に適切な触媒としては、イソシアネートと活性水素との反応に有効であることが既知である触媒が挙げられる。
【0084】
水に加えて、電着浴の水性媒体は、凝集溶媒、界面活性剤、および水に溶解され得る他
の添加剤を含み得る。有用な凝集溶媒としては、炭化水素、アルコール、エステル、エーテルおよびケトンが挙げられる。最も適切な凝集溶媒としては、アルコール、ポリオールおよびケトンが挙げられる。具体的な凝集溶媒としては、イソプロパノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール、イソホロン、2-メトキシペンタノン、エチレングリコールおよびプロピレングリコール、ならびにエチレングリコールのモノエチルエーテル、モノブチルエーテルおよびモノヘキシルエーテルが挙げられる。凝集溶媒の量は、一般に、水性媒体の全重量に基づいて約0.01~25重量%であり、使用する場合には、多くの場合約0.05~約5重量%である。シランなどの非イオン性分散剤を使用して、水性媒体中への成分の分散を補助することができる。特に好適な分散剤は、エボニックインダストリーズ(Evonik Industries)から入手可能なDYNASYLAN 4148である。
【0085】
水性媒体中の顔料を含む樹脂相の濃度は、水性分散体の全重量に基づいて、少なくとも1重量%、通常2~30重量%、より多くの場合には10~30重量%である。電着可能コーティング組成物のpHは、通常7未満、多くの場合6未満、より多くの場合には4.5~5.8である。
【0086】
一般に、電着のプロセスにおいて、コーティングされる金属基材(カソードとして機能する)および導電性アノードは、カチオン性電着可能組成物と接触して配置される。カソードとアノードとが電着可能組成物と接触している間に、カソードとアノードとの間に電流を通すと、電着可能組成物の接着フィルムが、実質的に連続的な様式で、そして一貫した厚さで、導電性基材上に付着する。
【0087】
本発明の方法において、上記の水性硬化性電着可能コーティング組成物のいずれかは、基材上に電気泳動的に付着されて、基材の少なくとも一部を覆って電着コーティングを形成する。基材は、カソードおよびアノードを含む電気回路においてカソードとして機能し、カソードおよびアノードは、水性電着可能コーティング組成物中に浸漬される。電着は、通常、約1ボルト~数千ボルトの範囲、代表的には50から500ボルトの間の一定電圧で行われる。電流密度は、通常、1平方フィート当たり約1.0アンペア~15アンペア(1平方メートル当たり10.8~161.5アンペア)であり、電着プロセス中に急速に減少する傾向があり、連続的な自己絶縁膜の形成を示す。「自己絶縁」とは、形成されるフィルムが非導電性であり、したがって厚さが自己制限的であることを意味する。追加のコーティングは、硬化表面上に電気泳動的に付着させることができない。
【0088】
電着後、コーティングされた基材を加熱して、付着した組成物を硬化させる。加熱または硬化操作は、通常、華氏250度(摂氏121.1度)未満、多くの場合、華氏225度(摂氏107.2度)未満の温度で、組成物の硬化をもたらすのに十分な時間、典型的には10~60分の範囲で行われる。得られるフィルムの厚さは通常約10~50ミクロンである。
【0089】
ほとんどの従来のカチオン電着浴システムにおいて、アノードは、例えば、ステンレス鋼などの鉄材料で構成されている。通常のカチオン浴は、4.0~7.0の範囲、多くの場合5.0~6.0の範囲の酸性pHを有する。しかしながら、通常の電着浴システムでは、アノード液(即ち、アノードのすぐ近くの領域の浴溶液)は、アノードでのまたはアノード付近の酸の濃度のために、3.0以下という低いpHを有し得る。これらの強酸性pH範囲では、鉄アノードは分解し、それによって可溶性鉄を浴中に放出することができる。「可溶性鉄」とは、少なくとも部分的に水溶性である鉄塩に由来するFe+2またはFe+3イオンを意味する。電着プロセスの間、可溶性鉄は樹脂結合剤と共に電着され、硬化した電着コーティング中に存在する。可溶性形態の鉄の存在は、風化作用にさらされた際の、硬化した電着コーティング層からの、その後に塗布されるトップコート層の層間
剥離に寄与し得ることが見出された。上記を考慮して、本発明の電着可能コーティング組成物は、電着浴の形態である場合、10ppm未満、代表的には1ppm未満の可溶性鉄を含むことが望ましい。これは、非鉄アノードを回路に含めることによって達成することができる。
【0090】
本発明の特定の例において、特に基材が自動車の車体部品である場合、コーティングされた基材は、電着可能コーティング組成物の塗布および硬化の後に基材の表面上に塗布されたプライマーコーティング層、続いて1つ以上のトップコートをさらに含み得る。プライマーコーティング層およびトップコート層は、当技術分野で既知の任意のコーティング組成物を含んでもよく、自動車用途では、コーティングは通常は硬化性組成物である。コーティングは、樹脂結合剤および顔料および/または他の着色剤、ならびにコーティング組成物の技術分野で周知の任意の添加剤を含むことができる。樹脂結合剤の非限定的な例は、アクリルポリマー、ポリエステル、アルキド、およびポリウレタンである。
【0091】
好適なベースコート組成物の非限定的な例には、米国特許第4,403,003号、第4,147,679号および第5,071,904号に開示されている水性ベースコートが含まれる。好適なクリアコート組成物としては、米国特許第4,650,718号、第5,814,410号、第5,891,981号、および国際公開第98/14379号に開示されているものが含まれる。
【0092】
トップコート組成物は、はけ塗り、浸漬、フローコーティング、噴霧などを含む従来の手段によって塗布することができるが、噴霧によって塗布されることが最も多い。空気噴霧および静電噴霧のための通常の噴霧技術および装置ならびに手動または自動のいずれかの方法を使用することができる。
【0093】
各トップコートを基材に塗布した後、加熱または空気乾燥期間によってフィルムから水を追い出すことによって、基材の表面上にフィルムが形成される。通常は、着色ベースコートの厚さは、約0.1~約5ミル(約2.54~約127ミクロン)、多くの場合約0.4~約1.5ミル(約10.16~約38.1ミクロン)の範囲である。クリアコート
の厚さは、通常、約0.5~約5ミル(約12.7~約127ミクロン)、多くの場合約1.0~約3ミル(約25.4~約76.2ミクロン)の範囲である。
【0094】
加熱は、通常は短時間のみであり、コーティング界面で溶解を生じることなく、任意の後に塗布されるトップコーティングを塗布し得ることを確実にするのに十分である。適切な乾燥条件は、特定のトップコート組成物および周囲湿度(トップコート組成物が水性である場合)に依存するが、一般に、華氏約80度~250度(摂氏20度~121度)の温度で約1~5分間の乾燥時間が使用される。通常、コートの間では、先に塗布されたコートがフラッシュされる、即ち、約1~20分間周囲条件に曝露される。
【0095】
トップコート組成物を塗布した後、コーティングされた基材を、コーティング層を硬化させるのに十分な温度までおよび時間にわたって加熱する。硬化操作において、溶媒が追い出され、トップコートのフィルム形成材料がそれぞれ架橋される。加熱または硬化操作は、通常、華氏160度~350度(摂氏71度~177度)の範囲の温度で行われるが、必要であれば、架橋メカニズムを活性化するために必要に応じてより低いまたはより高い温度を使用してもよい。硬化は上記で定義した通りである。
【0096】
本発明の方法に従ってコーティングされた金属基材は、塩水噴霧および/または他の周期的耐食性試験によって決定した場合優れた耐食性を示す。
【0097】
上記の各々の特徴および例、ならびにそれらの組み合わせは、本発明に包含されると言
うことができる。従って、本発明は、以下の非限定的な態様を対象とする。
1.金属基材の耐食性を改善する方法であって、
(a)基材上に硬化性電着可能コーティング組成物を電気泳動的に付着させて、基材の少なくとも一部を覆って電着コーティングを形成することであって、電着可能コーティング組成物が、水性媒体中に分散された樹脂相を含み、当該樹脂相が
(1)カソード上に電着可能な、非ゲル化活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂と、
(2)少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート硬化剤と、
(3)顔料成分であって、顔料成分が、少なくとも0.2ミクロンの平均球相当径を有する無機板状顔料を含み、無機板状顔料が、電着可能コーティング組成物が少なくとも0.5の顔料対結合剤比を示すような量で樹脂相中に存在する、顔料成分とを含み、電着可能コーティング組成物が、電着可能コーティング組成物中の固形物の総重量に基づいて8重量%未満の粉砕ビヒクルを含有する、形成することと、
(b)基材上の電着コーティングを硬化させるのに十分な温度までおよび時間にわたって基材を加熱することとを含む、方法。
2.カチオン性塩の基含有樹脂(1)が、ポリエポキシドポリマー、アクリルポリマー、ポリウレタンポリマー、および/またはポリエステルポリマーから調製される、態様1に記載の方法。
3.カチオン性塩の基含有樹脂(1)が、カチオン性アミン塩の基を含有する態様1または2に記載の方法。
4.無機板状顔料がクレイおよび/またはタルクを含む、態様1から4のいずれかに記載の方法。
5.無機板状顔料が、0.2~5.0ミクロンの平均球相当径を有するカオリンクレイを含む、態様1から4のいずれかに記載の方法。
6.電着可能コーティング組成物が、少なくとも1の顔料対結合剤比を示す、態様1から5のいずれかに記載の方法。
7.カオリンクレイが0.2~3.5ミクロンの平均球相当径を有する、態様5に記載の方法。
8.無機板状顔料が、0.6~1.9ミクロンの平均球相当径を有するタルクを含む、態様4に記載の方法。
9.硬化性電着可能コーティング組成物が、粉砕ビヒクルを本質的に含まない、態様1~8のいずれかに記載の方法。
10.樹脂相を水性媒体中に分散させる前に、顔料成分をカチオン性塩の基含有樹脂(1)中に分散させる、態様1~9のいずれかに記載の方法。
【0098】
本発明を例示するのは以下の実施例であるが、これらは本発明をそれらの詳細に限定するものと考えるべきではない。実施例および明細書全体における全ての部およびパーセンテージは、特記しない限り重量によるものである。実施例1は対照であり、顔料を含有しないフィルムを有するパネルの評価を表す。実施例2は比較例であり、0.25の顔料対結合剤比を有する電着可能コーティング組成物から調製されたフィルムを有するパネルの評価を表す。実施例3は、0.5の顔料対結合剤比を有する電着可能コーティング組成物から調製されたフィルムを有するパネルの評価を示す。実施例4は比較例であり、0.5の顔料対結合剤比を有する電着可能コーティング組成物から調製されたフィルムを有するパネルの評価を示し、顔料は、約8重量%の量で存在する粉砕ビヒクルを使用してペース
トとして主なフィルム形成樹脂に添加される(米国特許第7,842,762B2号、第37欄、第1~37行)(実施例24(a))。実施例5は、0.75の顔料対結合剤比を有する電着可能コーティング組成物から調製されたフィルムを有するパネルの評価を示す。実施例6は、1の顔料対結合剤比を有する電着可能コーティング組成物から調製されたフィルムを有するパネルの評価を示す。実施例7は、1.1の顔料対結合剤比を有する電着可能コーティング組成物から調製されたフィルムを有するパネルの評価を示す。
【0099】
樹脂合成
実施例R1:電着可能コーティング組成物のためのブロックされたポリイソシアネート架橋剤(架橋剤I)の調製
電着可能コーティング樹脂での使用に適したブロックされたポリイソシアネート架橋剤(架橋剤I)は以下の方法で調製された。以下の表1に列挙される成分2~5を、全還流するように設定されたフラスコ中で、窒素下で撹拌しながら混合した。混合物を35℃の温度に加熱し、成分1を、反応発熱により温度が上昇するように滴下し、100℃未満に維持した。成分1の添加が完了した後、反応混合物中に110℃の温度を確立し、IR分光法によって残留イソシアネートが検出されなくなるまで、反応混合物をその温度に保持した。次いで、成分6を添加し、反応混合物を30分間撹拌し、周囲温度に冷却した。
【0100】
【表1】
1Rubinate M、Huntsman Corporationから入手可能。
【0101】
実施例R2:カチオン性アミン官能化ポリエポキシド系樹脂(樹脂RSP1)の調製
電着可能コーティング組成物の配合に使用するのに適したカチオン性、アミン官能化、ポリエポキシド系のポリマー樹脂を以下の方法で調製した。以下の表2に列挙される成分1~5を、窒素下で撹拌しながら全還流するように設定したフラスコ中で合わせた。混合物を130℃の温度に加熱し、発熱させた(最大175℃)。反応混合物中に145℃の温度を確立し、次いで反応混合物を2時間保持した。次いで、成分6~8を反応混合物中に導入し、110℃の温度を反応混合物中で確立した。次いで、成分9および10を反応混合物に迅速に添加し、反応混合物を発熱させた。反応混合物中に121℃の温度を確立し、反応混合物を1時間保持した。保持後、熱源を反応混合物から除去し、成分11をゆっくりと導入した。フラスコの内容物を室温に冷却しながら撹拌した。得られた樹脂合成生成物1(RSP1)は65重量%の固形物含有量であった。
【0102】
【表2】
1EPON 828、Hexion Corporationから入手可能
2上記実施例R1参照。
31当量のジエチレントリアミンと2当量のMIBKとのジケチミン反応生成物72.7
重量%(MIBK中)。
【0103】
配合例
配合:顔料(ASP-900、1.5ミクロンの平均球相当径を有するBASFから入手可能なカオリン)を樹脂(RSP1)に添加し、高剪断下で10分間混合し、続いて触
媒ペースト(二酸化ジブチルスズ、DBTO)、分散剤(DYNASYLAN4148、エボニックインダストリーズ(Evonik Industries)から入手可能)およびジエチレングリコールモノブチルエーテル-ホルムアルデヒド付加物を添加した。高剪断混合をさらに50分間続けた。得られたペーストを100gの水性スルファミン酸中に分散させ、20分間混合し、次いで残りの水で希釈した。
【0104】
電着:3”X2” ACT CRS C700 DIWパネルを華氏90度0.5Aで
電着し、電圧(120~400V)を調整して0.6~0.9ミルフィルムを達成した。
【0105】
硬化:電着したパネルを華氏350度で30分間焼成した。
【0106】
塩水噴霧:ASTM B117-73(1979年発行)に従って、パネルの中央に1.5インチの垂直線でパネルに刻み目を付け、塩水噴霧キャビネット内に1000時間置いた。腐食クリープサイズは、ASTM D1654-08(2016年発行)に従って測定した。
【0107】
【表3】
*DBTOは、分散体として添加した;米国特許第7,070,683B2号、第16欄、第10~30行に記載されるように調製した
**パネルは、850時間の塩水噴霧曝露後に試験した実施例1(対照)を除いて、1000時間の塩水噴霧曝露後に試験した。
【0108】
本発明の特定の実施例を例示の目的で上述したが、添付の特許請求の範囲に定義される本発明から逸脱することなく、本発明の詳細の多数の変更が行われ得ることは当業者には明らかであろう。したがって、本発明は開示された特定の実施例に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義されるように、本発明の精神および範囲内にある修正を包含することを意図していることが理解される。
【0109】
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
金属基材の耐食性を改善する方法であって、
(a)前記基材上に硬化性電着可能コーティング組成物を電気泳動的に付着させて、前記基材の少なくとも一部を覆って電着コーティングを形成することであって、前記電着可能コーティング組成物が、水性媒体中に分散された樹脂相を含み、前記樹脂相が
(1)カソード上に電着可能な、非ゲル化活性水素含有、カチオン性塩の基含有樹脂と、
(2)少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート硬化剤と、
(3)顔料成分であって、前記顔料成分が、少なくとも0.2ミクロンの平均球相当径を有する無機板状顔料を含み、前記無機板状顔料が、前記電着可能コーティング組成物が少なくとも0.5の顔料対結合剤比を示すような量で前記樹脂相中に存在する、顔料成分と、を含み、前記電着可能コーティング組成物が、前記電着可能コーティング組成物中の固形物の総重量に基づいて8重量%未満の粉砕ビヒクルを含有する、
形成することと、
(b)前記基材上の前記電着コーティングを硬化させるのに十分な温度までおよび時間にわたって前記基材を加熱することと、を含む方法。
(項2)
前記カチオン性塩の基含有樹脂(1)が、ポリエポキシドポリマー、アクリルポリマー、ポリウレタンポリマー、および/またはポリエステルポリマーから調製される、上記項1に記載の方法。
(項3)
前記カチオン性塩の基含有樹脂(1)が、カチオン性アミン塩の基を含有する、上記項1に記載の方法。
(項4)
前記無機板状顔料がクレイおよび/またはタルクを含む、上記項1に記載の方法。
(項5)
前記無機板状顔料が、0.2~5.0ミクロンの平均球相当径を有するカオリンクレイを含む、上記項4に記載の方法。
(項6)
前記電着可能コーティング組成物が、少なくとも1の顔料対結合剤比を示す、上記項5に記載の方法。
(項7)
前記カオリンクレイが0.2~3.5ミクロンの平均球相当径を有する、上記項5に記載の方法。
(項8)
前記電着可能コーティング組成物が、少なくとも1の顔料対結合剤比を示す、上記項7に記載の方法。
(項9)
前記無機板状顔料が、0.6~1.9ミクロンの平均球相当径を有するタルクを含む、上記項4に記載の方法。
(項10)
前記硬化性電着可能コーティング組成物が、粉砕ビヒクルを本質的に含まない、上記項1に記載の方法。
(項11)
前記樹脂相を前記水性媒体中に分散させる前に、前記顔料成分を前記カチオン性塩の基含有樹脂(1)中に分散させる、上記項10に記載の方法。