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特開2024-45506ジクアホソルおよびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物
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  • 特開-ジクアホソルおよびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045506
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ジクアホソルおよびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7072 20060101AFI20240326BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A61K31/7072
A61P27/04
A61K9/08
A61K47/36
A61K47/32
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019332
(22)【出願日】2024-02-13
(62)【分割の表示】P 2022116528の分割
【原出願日】2019-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2018035578
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100158414
【弁理士】
【氏名又は名称】秦野 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100191710
【弁理士】
【氏名又は名称】馬渡 洋介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 恭平
(72)【発明者】
【氏名】浅田 博之
(72)【発明者】
【氏名】神村 明日香
(72)【発明者】
【氏名】森島 健司
(72)【発明者】
【氏名】桃川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健一
(57)【要約】
【課題】ジクアホソルまたはその塩を含有する新規な眼科用組成物を見出す。
【解決手段】ジクアホソルまたはその塩、およびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物であって、該カチオン性ポリマーが、キトサン、キトサン誘導体、カチオン性(メタ)アクリレート共重合体、カチオン性シリコーン重合体、ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、カチオン性加水分解ケラチン、カチオン性加水分解シルク、カチオン性加水分解コラーゲン、カチオン性加水分解カゼイン、カチオン性加水分解大豆タンパク、カチオン性ビニルピロリドン共重合体、ポリビニルピロリドン、塩化ジメチルジアクリルアンモニウムのホモポリマー、アジピン酸・ジメチルアミノヒドロキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、アジピン酸・エポキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、およびアクリルアミド・β-メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチル硫酸塩共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、眼科用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクアホソルまたはその塩およびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジクアホソルはP,P-ジ(ウリジン-5’)四リン酸またはUp4Uとも呼ばれるプリン受容体アゴニストであり、涙液分泌促進作用を有し、3%(w/v)の濃度のジクアホソル四ナトリウム塩を含有する点眼液(製品名:ジクアス(登録商標)点眼液3%)としてドライアイの治療に使用されている(特許文献1、非特許文献1)。ジクアホソル四ナトリウム塩は、水に極めて溶けやすく、ジクアス(登録商標)点眼液3%は、無色澄明な無菌水性点眼剤である(非特許文献1)。
【0003】
一方、カチオン性ポリマーは、水に溶解したときに陽イオンになる置換基を1個または複数個含有しているポリマーのことをいい、種々の用途で使用されている。例えば、特開2006-321757号公報(特許文献2)には、カチオン性ポリマーは、整髪料洗浄剤をすすぎ流す時からシャンプー処理などを経て毛髪を乾燥するまでの毛髪が濡れている段階において、きしみ感やベタツキ感、絡まりの防止効果を発揮し、乾燥時の毛髪にツヤ、柔らかさ、滑らかさ、しっとり感及びまとまりやすさなどを与える効果にも寄与することが記載されている。
【0004】
また、カチオン性ポリマーの一種である、ポリビニルピロリドンは、眼科用組成物の分野において、例えば、懸濁化剤や難溶性化合物に対する溶解補助剤などとして使用されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3652707号公報
【特許文献2】特開2006-321757号公報
【特許文献3】特開平1-294620号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジクアス(登録商標)点眼液3% 添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ジクアホソルまたはその塩を含有する新規な眼科用組成物を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ジクアホソルまたはその塩、およびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物であって、該カチオン性ポリマーが、キトサン、キトサン誘導体、カチオン性(メタ)アクリレート共重合体、カチオン性シリコーン重合体、ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、カチオン性加水分解ケラチン、カチオン性加水分解シルク、カチオン性加水分解コラーゲン、カチオン性加水分解カゼイン、カチオン性加水分解大豆タンパク、カチオン性ビニルピロリドン共重合体、ポリビニルピロリドン、塩化ジメチルジアクリルアンモニウムのホモポリマー、アジピン酸・ジメチルアミノヒドロキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、アジピン酸・エポキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、およびアクリルアミド・β-メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチル硫酸塩共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、眼科用組成物が、高い涙液量増加作用を有すること、カチオン性ポリマーがジクアホソルまたはその塩の代謝安定性効果を有することを見出した。さらに、本発明者らは、ジクアホソルまたはその塩、およびカチオン性ポリマーの一種であるポリビニルピロリドンを含有する眼科用組成物が神経刺激性を示さず、点眼液の差し心地感を改善し得ること、および高い涙液量増加作用を有することを見出した。以下、これらの眼科用組成物を「本組成物」ともいう。すなわち、本発明は、以下に関する。
【0009】
本組成物は、ジクアホソルまたはその塩、およびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物であって、該カチオン性ポリマーが、キトサン、キトサン誘導体、カチオン性(メタ)アクリレート共重合体、カチオン性シリコーン重合体、ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、カチオン性加水分解ケラチン、カチオン性加水分解シルク、カチオン性加水分解コラーゲン、カチオン性加水分解カゼイン、カチオン性加水分解大豆タンパク、カチオン性ビニルピロリドン共重合体、ポリビニルピロリドン、塩化ジメチルジアクリルアンモニウムのホモポリマー、アジピン酸・ジメチルアミノヒドロキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、アジピン酸・エポキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、およびアクリルアミド・β-メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチル硫酸塩共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0010】
本組成物において、前記カチオン性ポリマーは、好ましくは、キトサン、キトサン誘導体、ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、およびポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0011】
本組成物において、前記カチオン性ポリマーは、好ましくは、ポリビニルピロリドンである。
【0012】
本組成物は、好ましくは、K値が17以上のポリビニルピロリドンを含む。
【0013】
本組成物は、好ましくは、K値が17~90のポリビニルピロリドンを含む。
【0014】
本組成物は、好ましくは、K値が30のポリビニルピロリドンを含む。
【0015】
本組成物は、好ましくは、K値が90のポリビニルピロリドンを含む。
【0016】
本組成物において、前記カチオン性ポリマーは、より好ましくは、キトサンおよびキトサン誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0017】
本組成物において、前記カチオン性ポリマーの濃度は、好ましくは、0.00001~10%(w/v)である。
【0018】
本組成物において、前記ジクアホソルまたはその塩の濃度は、好ましくは、0.0001~10%(w/v)である。
【0019】
本組成物において、前記ジクアホソルまたはその塩の濃度は、より好ましくは、0.01~5%(w/v)である。
【0020】
本組成物において、前記ジクアホソルまたはその塩の濃度は、さらに好ましくは、1~5%(w/v)である。
【0021】
本組成物において、前記ジクアホソルまたはその塩の濃度は、よりさらに好ましくは、3%(w/v)である。
【0022】
本組成物は、好ましくは点眼剤である。
【0023】
本組成物は、好ましくは水性である。
【0024】
本組成物は、好ましくは懸濁型または溶解型である。
【0025】
本組成物の粘度は、好ましくは、25℃において1~500mPa・sである。
【0026】
本組成物の粘度は、より好ましくは、25℃において1~100mPa・sである。
【0027】
本組成物において、前記ジクアホソルの塩は、好ましくは、ジクアホソルナトリウムである。
【0028】
本組成物は、好ましくは、ドライアイの予防または治療のための組成物である。
【0029】
本組成物は、好ましくは、1回1~5滴、1日1~6回点眼投与される。
【0030】
本組成物は、より好ましくは、1回1~2滴、1日2~4回点眼投与される。
【0031】
本組成物は、さらに好ましくは、1回1~2滴、1日3回または4回点眼投与される。
【0032】
また、本発明は、ジクアホソルまたはその塩、およびポリビニルピロリドンを含有する眼科用組成物についても提供する。
【0033】
本組成物は、好ましくは、K値が17以上のポリビニルピロリドンを含む。
【0034】
本組成物は、好ましくは、K値が17~90のポリビニルピロリドンを含む。
【0035】
本組成物は、好ましくは、K値が30のポリビニルピロリドンを含む。
【0036】
本組成物は、好ましくは、K値が90のポリビニルピロリドンを含む。
【0037】
また、本発明は、ジクアホソルまたはその塩、およびカチオン性ポリマーを含有するドライアイ治療剤についても提供する。ここで、該カチオン性ポリマーは、キトサン、キトサン誘導体、カチオン性(メタ)アクリレート共重合体、カチオン性シリコーン重合体、ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、カチオン性加水分解ケラチン、カチオン性加水分解シルク、カチオン性加水分解コラーゲン、カチオン性加水分解カゼイン、カチオン性加水分解大豆タンパク、カチオン性ビニルピロリドン共重合体、ポリビニルピロリドン、塩化ジメチルジアクリルアンモニウムのホモポリマー、アジピン酸・ジメチルアミノヒドロキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、アジピン酸・エポキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、およびアクリルアミド・β-メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチル硫酸塩共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0038】
また、本発明は、ジクアホソルまたはその塩、およびポリビニルピロリドンを含有するドライアイ治療剤についても提供する。
【0039】
また、本発明は、患者に、ジクアホソルまたはその塩、およびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物を投与することを含む、ドライアイの予防または治療方法についても提供する。ここで、該カチオン性ポリマーは、キトサン、キトサン誘導体、カチオン性(メタ)アクリレート共重合体、カチオン性シリコーン重合体、ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、カチオン性加水分解ケラチン、カチオン性加水分解シルク、カチオン性加水分解コラーゲン、カチオン性加水分解カゼイン、カチオン性加水分解大豆タンパク、カチオン性ビニルピロリドン共重合体、ポリビニルピロリドン、塩化ジメチルジアクリルアンモニウムのホモポリマー、アジピン酸・ジメチルアミノヒドロキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、アジピン酸・エポキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、およびアクリルアミド・β-メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチル硫酸塩共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0040】
また、本発明は、患者に、ジクアホソルまたはその塩、およびポリビニルピロリドンを含有する眼科用組成物を投与することを含む、ドライアイの予防または治療方法についても提供する。
【0041】
また、本発明は、ドライアイの予防または治療に使用するための、ジクアホソルまたはその塩、およびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物についても提供する。ここで、該カチオン性ポリマーは、キトサン、キトサン誘導体、カチオン性(メタ)アクリレート共重合体、カチオン性シリコーン重合体、ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、カチオン性加水分解ケラチン、カチオン性加水分解シルク、カチオン性加水分解コラーゲン、カチオン性加水分解カゼイン、カチオン性加水分解大豆タンパク、カチオン性ビニルピロリドン共重合体、ポリビニルピロリドン、塩化ジメチルジアクリルアンモニウムのホモポリマー、アジピン酸・ジメチルアミノヒドロキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、アジピン酸・エポキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、およびアクリルアミド・β-メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチル硫酸塩共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0042】
また、本発明は、ドライアイの予防または治療に使用するための、ジクアホソルまたはその塩、およびポリビニルピロリドンを含有する眼科用組成物についても提供する。
【0043】
また、本発明は、ドライアイを予防または治療するための医薬を製造するための、ジクアホソルまたはその塩、およびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物の使用についても提供する。ここで、該カチオン性ポリマーは、キトサン、キトサン誘導体、カチオン性(メタ)アクリレート共重合体、カチオン性シリコーン重合体、ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、カチオン性加水分解ケラチン、カチオン性加水分解シルク、カチオン性加水分解コラーゲン、カチオン性加水分解カゼイン、カチオン性加水分解大豆タンパク、カチオン性ビニルピロリドン共重合体、ポリビニルピロリドン、塩化ジメチルジアクリルアンモニウムのホモポリマー、アジピン酸・ジメチルアミノヒドロキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、アジピン酸・エポキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、およびアクリルアミド・β-メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチル硫酸塩共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0044】
また、本発明は、ドライアイを予防または治療するための医薬を製造するための、ジクアホソルまたはその塩、およびポリビニルピロリドンを含有する眼科用組成物の使用についても提供する。
【発明の効果】
【0045】
後述する試験結果からも明らかなように、本組成物は、高い涙液量増加作用を有する。さらに、本組成物に含有されるカチオン性ポリマーがジクアホソルまたはその塩の代謝安定性効果を有する。よって、本組成物は、既存のジクアス(登録商標)点眼液を点眼投与した場合と比較して、より強いドライアイ治療効果が期待される。また、既存のジクアス(登録商標)点眼液は1日6回点眼する必要があり、点眼アドヒアランス不良により期待通りの効果が得られない患者も存在しているが、本組成物はドライアイに対して十分な治療効果を有しつつ点眼回数を低減し、点眼アドヒアランスの改善が期待される。さらには、既存のジクアス(登録商標)点眼液は3%(w/v)の濃度のジクアホソル四ナトリウム塩を含有するが、本組成物はより低濃度で同程度またはそれ以上のドライアイ治療効果を発揮することが期待される。また、ジクアホソルまたはその塩、およびカチオン性ポリマーの一種であるポリビニルピロリドンを含有する眼科用組成物が神経刺激性を示さなかったことから、点眼液の差し心地感を改善し得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】ジクアホソルナトリウム添加後の最大蛍光強度(RFUmax)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明に関してさらに詳しく説明する。
【0048】
本明細書において、「(w/v)%」は、本発明の眼科用組成物100mL中に含まれる対象成分の質量(g)を意味する。
【0049】
「ジクアホソル」は、下記化学構造式で示される化合物である。
【0050】
【化1】
【0051】
「ジクアホソルの塩」としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などとの金属塩;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩;酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩;アンモニアとの塩;トリエチレンジアミン、2-アミノエタノール、2,2-イミノビス(エタノール)、1-デオキシ-1-(メチルアミノ)-2-D-ソルビトール、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、プロカイン、N,N-ビス(フェニルメチル)-1,2-エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0052】
本発明において、「ジクアホソルまたはその塩」には、ジクアホソル(フリー体)またはその塩の水和物および有機溶媒和物も含まれる。
【0053】
「ジクアホソルまたはその塩」に、結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それらの結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0054】
本発明の「ジクアホソルまたはその塩」として好ましいのはジクアホソルのナトリウム塩であり、下記化学構造式で示されるジクアホソル四ナトリウム塩(本明細書中において、単に「ジクアホソルナトリウム」ともいう)が特に好ましい。
【0055】
【化2】
【0056】
ジクアホソルまたはその塩については、特表2001-510484号公報に開示された方法などにより製造することができる。
【0057】
本組成物はジクアホソルまたはその塩以外の有効成分を含有することもできるし、ジクアホソルまたはその塩を唯一の有効成分として含有することもできる。
【0058】
本組成物中のジクアホソルまたはその塩の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.0001~10%(w/v)であることが好ましく、0.001~5%(w/v)であることがより好ましく、0.01~5%(w/v)であることがさらに好ましく、0.1~5%(w/v)であることがよりさらに好ましく、1~5%(w/v)であることがもっと好ましく、3%(w/v)であることが特に好ましい。より具体的には、0.001%(w/v)、0.002%(w/v)、0.003%(w/v)、0.004%(w/v)、0.005%(w/v)、0.006%(w/v)、0.007%(w/v)、0.008%(w/v)、0.009%(w/v)、0.01%(w/v)、0.02%(w/v)、0.03%(w/v)、0.04%(w/v)、0.05%(w/v)、0.06%(w/v)、0.07%(w/v)、0.08%(w/v)、0.09%(w/v)、0.1%(w/v)、0.2%(w/v)、0.3%(w/v)、0.4%(w/v)、0.5%(w/v)、0.6%(w/v)、0.7%(w/v)、0.8%(w/v)、0.9%(w/v)、1%(w/v)、1.5%(w/v)、2%(w/v)、2.5%(w/v)、3%(w/v)、3.5%(w/v)、4%(w/v)、4.5%(w/v)または5%(w/v)が好ましい。
【0059】
本発明において、「カチオン性ポリマー」とは、水に溶解したときに陽イオンになる置換基を1個または複数個含有しているポリマーのことをいう。
【0060】
カチオン性ポリマーにおいて、水に溶解したときに陽イオンになる置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、一級、二級、または三級アミノ基、イミノ基、イミド基、アミド基、および四級アンモニウム基が挙げられる。
【0061】
カチオン性ポリマーとしては、特に限定されないが、キトサン、キトサン誘導体、カチオン性(メタ)アクリレート共重合体、カチオン性シリコーン重合体、ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、カチオン性加水分解ケラチン、カチオン性加水分解シルク、カチオン性加水分解コラーゲン、カチオン性加水分解カゼイン、カチオン性加水分解大豆タンパク、カチオン性ビニルピロリドン共重合体、ポリビニルピロリドン、塩化ジメチルジアクリルアンモニウムのホモポリマー、アジピン酸・ジメチルアミノヒドロキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、アジピン酸・エポキシプロピルジエチレントリアミン共重合体、アクリルアミド・β-メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチル硫酸塩共重合体からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。中でも、本組成物におけるカチオン性ポリマーは、キトサン、キトサン誘導体、ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体、およびポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、キトサン、キトサン誘導体およびポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0062】
キトサンは、(A)単量体のβ(1→4)-D-グルコサミン結合単位、および(B)単量体のβ(1→4)-N-アセチル-D-グルコサミン結合単位から実質的に構成される多糖類である。ここで、前記(A)と(B)の数的比率は、(A)が約50~約99%であり、(B)が約1~約50%であることが好ましい。ここで、(A)の数的比率を「脱アセチル化度」ともいう。また、キトサンの1%水溶液の粘度評価値は、約1~約3,000mPa・sであることが好ましい。
【0063】
キトサンには、塩酸塩などのキトサン塩も含まれる。
【0064】
キトサン誘導体としては、例えば、キトサン-N-アセチルシステインなどが挙げられる。
【0065】
カチオン性(メタ)アクリレート共重合体としては、例えば、ビニルピロリドン・アルキルジアルキルアミノ(メタ)アクリレート共重合体、ビニルピロリドン・ジメチルアミノメタクリレート共重合体と硫酸ジメチルによる四級化誘導体、アミノエチルアクリレートホスフェート・(メタ)アクリレート共重合体などが挙げられる。
【0066】
カチオン性シリコーン重合体としては、例えば、カチオン性シロキサン誘導体などが挙げられる。
【0067】
ジアリル第四級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合体としては、例えば、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体などが挙げられる。
【0068】
カチオン性加水分解ケラチンとしては、例えば、塩化N-[2-ヒドロキシ-3(トリメチルアンモニオ)プロピル]加水分解ケラチンなどが挙げられる。
【0069】
カチオン性加水分解シルクとしては、例えば、塩化N-[2-ヒドロキシ-3-(ヤシ油アルキルジメチルアンモニオ)プロピル]加水分解シルクなどが挙げられる。
【0070】
カチオン性加水分解コラーゲンとしては、例えば、塩化N-[2-ヒドロキシ-3-(ヤシ油アルキルジメチルアンモニオ)プロピル]加水分解コラーゲンなどが挙げられる。
【0071】
カチオン性加水分解カゼインとしては、例えば、塩化N-[2-ヒドロキシ-3-(ヤシ油アルキルジメチルアンモニオ)プロピル]加水分解カゼインなどが挙げられる。
【0072】
カチオン性加水分解大豆タンパクとしては、例えば、塩化N-[2-ヒドロキシ-3-(ヤシ油アルキルジメチルアンモニオ)プロピル]加水分解大豆タンパクなどが挙げられる。
【0073】
カチオン性ビニルピロリドン共重合体としては、例えば、ビニルピロリドン・イミダゾールの第四級アンモニウム塩との共重合体などが挙げられる。
【0074】
本組成物は、1種のカチオン性ポリマーを含有してもよく、2種以上のカチオン性ポリマーを含有してもよいが、好ましくは、1種のカチオン性ポリマーのみを含有する。
【0075】
本組成物中のカチオン性ポリマーの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.00001~10%(w/v)であることが好ましく、0.0001~5%(w/v)であることがより好ましく、0.001~5%(w/v)であることがさらに好ましく、0.01~5%(w/v)であることがよりさらに好ましく、0.01~3%(w/v)であることがことさら好ましい。
【0076】
本発明において、ポリビニルピロリドンとは、N-ビニル-2-ピロリドンが重合した高分子化合物であり、カチオン性ポリマーの一種である。本発明で使用されるポリビニルピロリドンのK値は、17以上が好ましく、17~90がより好ましく、25~90がさらに好ましく、30~90がよりさらに好ましい。例えば、ポリビニルピロリドンK17、ポリビニルピロリドンK25、ポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドンK40、ポリビニルピロリドンK50、ポリビニルピロリドンK60、ポリビニルピロリドンK70、ポリビニルピロリドンK80、ポリビニルピロリドンK85、ポリビニルピロリドンK90、ポリビニルピロリドンK120などが挙げられる。なお、ポリビニルピロリドンのK値は、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を下記のFikentscherの式(1)に適用して計算される数値である。
【0077】
【数1】
【0078】
式(1)中、ηrelは、ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度、cは、ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%)である。
【0079】
本発明において、ポリビニルピロリドンは1種単独で使用してもよく、またK値の異なる2種以上のポリビニルピロリドンを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0080】
本組成物中のポリビニルピロリドンの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.0001~10%(w/v)であることが好ましく、0.001~5%(w/v)であることがより好ましく、0.01~5%(w/v)であることがさらに好ましく、0.01~3%(w/v)であることがよりさらに好ましく、0.1~3%(w/v)であることが特に好ましい。
【0081】
本組成物には、汎用されている技術を用い、必要に応じて製薬学的に許容される添加剤をさらに添加することができる。例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、イプシロン-アミノカプロン酸などの緩衝化剤;塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;エデト酸ナトリウムなどの安定化剤;ポリソルベートなどの界面活性剤;アスコルビン酸などの抗酸化剤;塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩などの防腐剤;塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調節剤などを必要に応じて選択し、添加することができる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0082】
本組成物のpHは、医薬として許容される範囲であれば特定の値に限定されない。しかしながら、本組成物のpHは、好ましくは8以下、より好ましくは4~8の範囲、さらに好ましくは5~8の範囲、よりさらに好ましくは6~8の範囲、特に好ましくは7の近傍である。
【0083】
本発明において、「眼科用組成物」とは、眼疾患などの予防および/または治療に使用するための組成物のことをいう。その剤型としては、例えば点眼剤、眼軟膏、注射剤、軟膏(例えば、眼瞼皮膚に投与できる)などが挙げられ、好ましくは点眼剤である。ここで点眼剤とは点眼液または点眼薬と同義であり、コンタクトレンズ用点眼剤も点眼剤の定義に含まれる。
【0084】
本組成物は、水を溶媒(基剤)とする水性の眼科用組成物であることが好ましく、水性点眼剤であることがより好ましい。
【0085】
本組成物は、有効成分や添加物の性質、含量などによって、溶解型点眼剤であってもよく、懸濁型点眼剤であってもよい。
【0086】
本組成物の粘度は、好ましくは1~500mPa・sの範囲、より好ましくは1~100mPa・sの範囲、さらに好ましくは1~50mPa・sの範囲、よりさらに好ましくは1~30mPa・sの範囲、特に好ましくは1~20mPa・sの範囲になるように調整され、回転粘度計(25℃;50s-1のせん断速度)で測定される。
【0087】
本組成物の浸透圧は、医薬として許容される範囲であれば特定の値に限定されない。しかしながら、本組成物の浸透圧は、好ましくは2以下、より好ましくは0.5~2の範囲、さらに好ましくは0.7~1.6の範囲、よりさらに好ましくは0.8~1.4の範囲、特に好ましくは0.9~1.2である。
【0088】
本組成物は、種々の素材で製造された容器に収容されて保存することができる。例えば、ポリエチレン製、ポリプロピレン製などの容器を用いることができる。本組成物が点眼剤の場合、点眼容器に収容され、より詳しくは「マルチドーズ型点眼容器」または「ユニットドーズ型点眼容器」に収容される。
【0089】
本発明において、「マルチドーズ型点眼容器」とは、容器本体と当該容器本体に装着可能なキャップを備えた点眼容器であって、キャップの開封、再封を自由に行うことができる点眼容器のことをいう。当該マルチドーズ型点眼容器には、通常一定期間使用するために複数回分の点眼液が収容されている。一方、「ユニットドーズ型点眼容器」とは、瓶口部にキャップが融着封止され、使用時に当該キャップと瓶形本体との融着部を破断開封して使用することを目的とした点眼容器のことをいう。当該ユニットドーズ型点眼容器には、一回または数回使用分の点眼液が収容されている。
【0090】
本組成物の用法は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年齢、体重、医師の判断などに応じて適宜変えることができるが、例えば、剤型として点眼剤を選択した場合には、1回量1~5滴、好ましくは1~3滴、より好ましくは1~2滴、特に好ましくは1滴を、1日1~6回、好ましくは1日1~4回、より好ましくは1日1~2回、毎日~1週間毎に点眼投与することができる。ここで点眼回数は、より具体的には、例えば、1日6回、1日5回、1日4回、1日3回、1日2回または1日1回が好ましく、1日6回、1日4回、1日3回または1日2回がより好ましく、1日4回または1日3回がよりさらに好ましく、1日3回が特に好ましい。
【0091】
また、本組成物中のジクアホソルまたはその塩の濃度が3%(w/v)である場合、1回量1~5滴、好ましくは1~3滴、より好ましくは1~2滴、特に好ましくは1滴を、1日6回、1日5回、1日4回、1日3回、1日2回または1日1回、好ましくは1日6回、1日4回、1日3回または1日2回、より好ましくは1日4回または1日3回、特に好ましくは1日3回点眼投与することができる。
【0092】
また、1滴は、好ましくは約0.1~30μLであり、より好ましくは約0.5~20μLであり、さらに好ましくは約1~15μLである。
【0093】
本組成物は、ドライアイの予防または治療に有効である。ドライアイは「様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視覚異常を伴う疾患」と定義づけられ、乾性角結膜炎(KCS:keratoconjunctivitis sicca)はドライアイに含まれる。本発明においては、ソフトコンタクトレンズ装用を原因とするドライアイ症状の発生もドライアイに含まれるものとする。
【0094】
ドライアイ症状には、眼乾燥感、眼不快感、眼疲労感、鈍重感、羞明感、眼痛、霧視(かすみ目)などの自覚症状の他、充血、角結膜上皮障害などの他覚所見も含まれる。
【0095】
ドライアイの病因については不明点も多いが、シェーグレン症候群;先天性無涙腺症;サルコイドーシス;骨髄移植による移植片対宿主病(GVHD:Graft Versus Host Disease);眼類天疱瘡;スティーブンス・ジョンソン症候群;トラコーマなどを原因とする涙器閉塞;糖尿病;角膜屈折矯正手術(LASIK:Laser(-assisted) in Situ Keratomileusis)などを原因とする反射性分泌の低下;マイボーム腺機能不全;眼瞼炎などを原因とする油層減少;眼球突出、兎眼などを原因とする瞬目不全または閉瞼不全;胚細胞からのムチン分泌低下;VDT(Visual Display Terminals)作業などがその原因であると報告されている。
【0096】
また、本組成物は、ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼することができる。ここで、ソフトコンタクトレンズが装用されたドライアイ患者の眼に点眼するとは、ドライアイ患者の角膜上にソフトコンタクトレンズが装用された状態で、点眼液が点眼されることを意味する。
【実施例0097】
以下に、薬理試験の結果および製剤例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0098】
[試験1]
正常雄性白色ウサギを用いて、ジクアホソルナトリウムおよびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物を点眼後の涙液量の経時変化を評価した。
【0099】
(薬物調製方法)
点眼液1:
表1に示す処方表に従い、点眼液1を調製した(表1中、単位はg/100mL)。すなわち、ジクアホソルナトリウム3g、塩化カルシウム(CaCl)1gおよびキトサン(70/200)(HEPPE MEDICAL CHITOSAN GmBH社のProduct Line:ChitoceuticalsのChitosan70/200(Product No.24205))溶液40mLを滅菌精製水に溶解して、pH調節剤を添加し、100mLとして、点眼液1を調製した。なお、キトサン(70/200)溶液については、キトサン(70/200)1.5gを、希塩酸を用いて酸性とした滅菌精製水を加温しながら溶解して、pH調節剤を添加し、100mLとして調製した。ここで、キトサン(70/200)とは、脱アセチル化度が70%、1%水溶液の粘度評価値が約200mPa・sのキトサンであることを示す。
【0100】
点眼液2、3:
表1に示す処方表に従い、点眼液1と同様に点眼液2、3の各点眼液を調製した。
【0101】
【表1】
【0102】
点眼液4:
点眼液4として、ドライアイ治療薬として使用されている「ジクアス(登録商標)点眼液3%」(参天製薬株式会社製)を使用した。点眼液4は、水1mL中、有効成分としてジクアホソルナトリウムを30mg含有し、添加物として塩化カリウム、塩化ナトリウム、クロルヘキシジングルコン酸塩液、リン酸水素ナトリウム水和物、エデト酸ナトリウム水和物、pH調節剤を含有する。
【0103】
点眼液5:
点眼液5として、点眼液4の基剤を使用した。
【0104】
なお、調製した点眼液1~3の粘度は、回転粘度計Kinexus pro+を用いて、温度25℃、せん断速度50s-1で測定した。
【0105】
(試験方法および薬物投与方法)
正常雄性白色ウサギ(計44匹88眼)にベノキシール(登録商標)点眼液0.4%(参天製薬株式会社製)を点眼し、局所麻酔を施した。3分後に下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入し、挿入1分後に抜き取り、濡れた部分の長さ(涙液量)を読み取った。これを前値とした。次に、各点眼液1~5を1回点眼した(一群4匹8眼)。下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入する3分前に、ベノキシール(登録商標)点眼液0.4%(参天製薬株式会社製)を点眼し、局所麻酔を施した。各点眼液点眼30分後に、下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入し、挿入1分後に抜き取り、濡れた部分の長さ(涙液量)を読み取った。
【0106】
(評価方法)
点眼液点眼前後の涙液量の変化をΔ涙液量(mm/分)として算出した。
【0107】
(試験結果)
各測定時間におけるΔ涙液量(mm/分)を表2に示す。なお、各値は8眼の平均値である。
【0108】
【表2】
【0109】
(考察)
添加物としてカチオン性ポリマーであるキトサンを使用した場合(点眼液1、2)、点眼30分後においても高いΔ涙液量を示したことから、ジクアホソルナトリウムおよびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物は、優れた涙液量増加作用を有することが示された。
【0110】
[試験2]
試験1と同様に正常雄性白色ウサギを用いて、ジクアホソルナトリウムおよびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物を点眼後の涙液量を評価した。
【0111】
(薬物調製方法)
点眼液6:
表3に示す処方表に従い、点眼液6を調製した(表3中、単位はg/100mL)。すなわち、ジクアホソルナトリウム3g、キトサン(オリゴマー)(HEPPE MEDICAL CHITOSAN GmBH社のProduct Line:ChitoceuticalsのChitosan Oligomer(Product No.44009))1g、塩化ナトリウム0.51gを滅菌精製水に溶解して、100mLとし、pH調節剤を添加して、点眼液6を調製した。点眼液6で使用したキトサン(オリゴマー)は、脱アセチル化度が75%以上、キトサンの1%水溶液の粘度評価値が約5mPa・s以下である。
【0112】
点眼液7、8:
表3に示す処方表に従い、点眼液6と同様に点眼液7、8の各点眼液を調製した。点眼液7、8で使用したキトサン N-アセチルシステイン(Poly Sci Tech(登録商標)社のKitopure N-Acetyl-Cysteine Conjugated Chitosan(Catalog No. KITO-7))は、脱アセチル化度が75~85%、1%水溶液の粘度評価値が約5mPa・s以下である。
【0113】
【表3】
【0114】
点眼液4および5:
試験1に示す点眼液4および5も使用した。
【0115】
(試験方法および薬物投与方法)
正常雄性白色ウサギ(計18匹36眼)にベノキシール(登録商標)点眼液0.4%(参天製薬株式会社製)を点眼し、局所麻酔を施した。3分後に下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入し、挿入1分後に抜き取り、濡れた部分の長さ(涙液量)を読み取った。これを前値とした。
【0116】
次に、各点眼液4~8を1回点眼した(一群3匹6眼あるいは4匹8眼)。下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入する3分前に、ベノキシール(登録商標)点眼液0.4%(参天製薬株式会社製)を点眼し、局所麻酔を施した。各点眼液点眼30分後に、下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入し、挿入1分後に抜き取り、濡れた部分の長さ(涙液量)を読み取った。
【0117】
(評価方法)
点眼液点眼前後の涙液量の変化をΔ涙液量(mm/分)として算出した。
【0118】
(試験結果)
各測定時間におけるΔ涙液量(mm/分)を表4に示す。なお、各値は6あるいは8眼の平均値である。
【0119】
【表4】
【0120】
(考察)
添加物としてカチオン性ポリマーであるキトサンやキトサン N-アセチルシステインを使用した場合(点眼液6、7)、点眼30分後においても高いΔ涙液量を示したことから、ジクアホソルナトリウムおよびカチオン性ポリマーを含有する眼科用組成物は、優れた涙液量増加作用を有することが示された。
【0121】
[試験3]
各添加剤がジクアホソルナトリウムの代謝安定性に及ぼす影響を検討した。
【0122】
(試料調製方法)
点眼液9:
表5に示す処方表に従い、点眼液9を調製した(表5中、単位はg/100mL)。すなわち、ジクアホソルナトリウム1g、塩化ナトリウム3.22g、キトサン(SIGMA ALDRICH社のChitosan low molecular weight(Catalog No. 448869))溶液80mLを滅菌精製水に溶解して、pH調節剤を添加し、100mLとして、点眼液9を調製した。なお、キトサン溶液については、キトサン1gを、希塩酸を用いて酸性とした滅菌精製水を加温しながら溶解して、pH調節剤を添加し、100mLとして調製した。点眼液9で使用したキトサンは、脱アセチル化度が75~85%、1%水溶液の粘度評価値が約20~約300mPa・sである。
【0123】
点眼液10~20:
表5に示す処方表に従い、点眼液9と同様に点眼液10~20の各点眼液を調製した。
【0124】
【表5】
【0125】
(試験方法)
ウサギ血漿90μLと精製水90μLをインキュベータで37℃に保った状態で、ウサギ血漿90μLと精製水90μLに点眼液9~20をそれぞれ10μLずつ混合した。6時間反応させた後、10%ギ酸溶液を0.3mL添加してよくボルテックスした。その後反応液を100μLとり、900μLの800mMリン酸カリウム/メタノール溶液と混合し、0.45μmフィルターを用いてろ過した。ろ液をHPLCを用いて分析した。
【0126】
(評価方法)
HPLC分析結果からジクアホソルナトリウムの残存率、分解抑制率を算出した。残存率、分解抑制率はそれぞれ以下の式にて計算した。
【0127】
・残存率(%)=(血漿中ジクアホソルナトリウムの濃度/水中ジクアホソルナトリウムの濃度)×100
・分解抑制率(%)=(点眼液9~19の残存率/点眼液20の残存率)×100
(試験結果)
各点眼液の残存率、および分解抑制率を表6に示す。
【0128】
【表6】
【0129】
(考察)
添加物としてカチオン性ポリマーであるキトサンを使用した場合、ジクアホソルナトリウムの代謝分解が抑制されたことから、カチオン性ポリマーは、ジクアホソルナトリウムの代謝安定性効果を有することが示された。
【0130】
[試験4]
カチオン性ポリマーの一種であるPVP共存下でのジクアホソルナトリウムの末梢神経に対する刺激性を検討した。なお、「PVP」は、ポリビニルピロリドンを意味する。「CMC-Na」は、カルボキシメチルセルロースナトリウムを意味する。「HPMC」は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを意味する。「CVP」は、カルボキシビニルポリマーを意味する。
【0131】
(試料調製方法)
処方液1:
表7に示す処方表に従い、処方液1を調製した(表7中、単位はg/100mL)。すなわち、塩化ナトリウム(8.5g)、リン酸水素ナトリウム水和物(2g)を滅菌精製水に溶解してpH調節剤を添加し、pHを7.5に調整後、全量を100mLに調整し、10倍緩衝液を得た。PVP K30(16g)を滅菌精製水に溶解し、全量を200mLに調整し、8%PVP K30水溶液を得た。10倍緩衝液2mL、8%PVP K30水溶液5mLを量り取り、滅菌精製水で全量を20mLに調整し、pH調整剤を用いてpHを7.5に調整し、処方液1を得た。
【0132】
処方液2:
表7に示す処方表に従い、処方液2を調製した。すなわち、塩化ナトリウム(8.5g)、リン酸水素ナトリウム水和物(2g)を滅菌精製水に溶解してpH調節剤を添加し、pHを7.5に調整後、全量を100mLに調整し、10倍緩衝液を得た。10倍緩衝液2mL、PVP K90(0.4g)を滅菌精製水に溶解し、pH調整剤を用いてpHを7.5に調整し、全量を20mLとして処方液2を得た。
【0133】
処方液3:
表7に示す処方表に従い、処方液3を調製した。すなわち、塩化ナトリウム(8.5g)、リン酸水素ナトリウム水和物(2g)を滅菌精製水に溶解してpH調節剤を添加し、pHを7.5に調整後、全量を100mLに調整し、10倍緩衝液を得た。10倍緩衝液2mL、コンドロイチン硫酸ナトリウム(0.06g)を滅菌精製水に添加し、pH調整剤を用いてpHを7.5に調整し、溶解を確認して全量を20mLに調整し処方液3を得た。
【0134】
処方液4~6:
表7に示す処方表に従い、処方液3と同様に処方液4~6を調製した。
【0135】
【表7】
【0136】
(試験方法)
培養した末梢神経細胞(ラット後根神経節ニューロン、ロンザジャパンより購入)を、細胞内カルシウム指示蛍光色素を含む緩衝液(FLIPR Calcium 6 Assay Kit、Molecular Devices社)中でインキュベーションした。緩衝液全量の40%を上記の各処方液に置換した。なお、無刺激群および刺激対照群には処方液に代えて緩衝液を同様に処置した。室温下で静置した後、蛍光プレートリーダーを用いてカルシウム指示色素の経時的蛍光測定を開始した。開始から60秒後にジクアホソルナトリウム(終濃度:0.3%)を添加し、蛍光強度の測定を継続した。
【0137】
(評価方法)
ジクアホソルナトリウム添加直前の蛍光強度(RFU)を100%として、添加後の最大蛍光強度(RFUmax)を算出した。
【0138】
(試験結果)
結果を図1に示す。刺激対照群および処方液3~6では、ジクアホソルナトリウム添加後にRFUが上昇し、103.5%以上のRFUmaxを記録した。一方、PVPを含有する処方液1および2の各群ではRFUmaxはすべて101%未満であった。
【0139】
(考察)
何らかの刺激を受容した末梢神経細胞は活動電位を発生して興奮状態となり、活動電位に変換された刺激の信号はその後、中枢神経系へと伝達される。活動電位とはカルシウムイオンを含む陽イオンの細胞内流入によって生じた細胞膜電位変化である。そのため、神経細胞内カルシウムイオン濃度の上昇は、神経細胞の興奮状態を表す指標として実験的に広く用いられている。末梢神経細胞にジクアホソルナトリウムを曝露すると速やかに細胞内カルシウムイオンの蛍光強度に上昇がみられ、神経細胞がジクアホソルナトリウムを刺激として受容し、興奮状態になったことが示された。比較例としたPVPを含まないポリマー処方液3~6の各群においても同様の刺激応答が認められ、コンドロイチン硫酸ナトリウム、HPMC、CVPおよびCMC-Naの各ポリマーは、ジクアホソルナトリウムの神経刺激性に対して何ら影響を及ぼさなかった。これに対して、PVPを含む処方液1および2の下では、ジクアホソルナトリウム添加後の神経細胞内カルシウムイオンシグナルの上昇は示されなかった。すなわち、PVPと共存下にあるジクアホソルナトリウムは神経刺激性を示さず、PVPの添加によってジクアホソルナトリウム点眼剤の差し心地感が改善されることが示唆された。
【0140】
[試験5]
正常雄性白色ウサギを用いて、本組成物の点眼後における涙液量の経時変化を評価した。
【0141】
(薬物調製方法)
点眼液A:
表8に示す処方表に従い、点眼液Aを調製した(表8中、単位はg/100mL)。すなわち、ジクアホソルナトリウム(9g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.6g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.03g)および塩化ナトリウム(1.35g)を滅菌精製水に溶解して50mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液10mLと滅菌精製水5mLを混合後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて20mLとし、3倍濃厚液を得た。PVP K90(4g)を滅菌精製水に溶解し、全量を100gとした後に高圧蒸気滅菌(121℃、20分)し、4.00%(w/w)PVP
K90溶液とした。4.00%(w/w)PVP K90溶液6.0gに3倍濃厚液4mLを添加し、滅菌精製水を加え全量12mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液Aを調製した。
【0142】
点眼液B:
表8に示す処方表に従い、点眼液Bを調製した。すなわち、ジクアホソルナトリウム(9g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.6g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.03g)および塩化ナトリウム(1.35g)を滅菌精製水に溶解して50mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液10mLと滅菌精製水5mLを混合後、PVP K30(1.2g)を溶解後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて20mLとし、3倍濃厚液を得た。3倍濃厚液4mLに、滅菌精製水を加え全量12mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液Bを調製した。
【0143】
点眼液C:
表8に示す処方表に従い、点眼液Cを調製した。すなわち、ジクアホソルナトリウム(9g)、リン酸水素ナトリウム水和物(0.6g)、エデト酸ナトリウム水和物(0.03g)および塩化ナトリウム(1.35g)を滅菌精製水に溶解して50mLとして6倍濃厚液を得た。また、6倍濃厚液10mLと滅菌精製水5mLを混合後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整し、滅菌精製水を加えて20mLとし、3倍濃厚液を得た。3倍濃厚液4mLに、滅菌精製水を加え全量12mLに調整後、pH調節剤を適宜添加してpHを7に調整することにより、点眼液Cを調製した。
【0144】
なお、調製した点眼液A~Cの粘度は、回転粘度計Kinexus pro+を用いて、温度25℃、せん断速度50s-1で測定した。
【0145】
(試験方法および薬物投与方法)
正常雄性白色ウサギ(計12匹24眼)にベノキシール(登録商標)点眼液0.4%(参天製薬株式会社製)を点眼し、局所麻酔を施した。3分後に下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入し、挿入1分後に抜き取り、濡れた部分の長さ(涙液量)を読み取った。これを前値とした。次に、各点眼液A~Cを1回点眼した(一群4匹8眼。但し、点眼液Cのみ12匹24眼)。下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入する3分前に、ベノキシール(登録商標)点眼液0.4%(参天製薬株式会社製)を点眼し、局所麻酔を施した。各点眼液点眼60分後に、下眼瞼にシルメル試験紙(あゆみ製薬株式会社製)を挿入し、挿入1分後に抜き取り、濡れた部分の長さ(涙液量)を読み取った。
【0146】
(評価方法)
点眼液点眼前後の涙液量の変化をΔ涙液量(mm/分)として算出した。
【0147】
(試験結果)
点眼後60分におけるΔ涙液量(mm/分)を表8に示す(各値は8眼の平均値、但し、点眼液Cのみ24眼の平均値)。また、本組成物の涙液量増加作用を以下の基準に従って評価した。
【0148】
+++:点眼後60分におけるΔ涙液量(mm/分)が4mm/分以上
++:点眼後60分におけるΔ涙液量(mm/分)が1mm/分以上、4mm/分未満
+:点眼後60分におけるΔ涙液量(mm/分)が0mm/分超乃至1mm/分未満
-:点眼後60分におけるΔ涙液量(mm/分)が0mm/分以下
【0149】
【表8】
【0150】
上記表8の結果に示す通り、カチオン性ポリマーの一種であるPVP、特にPVP K90を含有する点眼液(点眼液A)は、高い涙液量増加作用を有した。
【0151】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0152】
(処方例1:点眼剤(3%(w/v))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
キトサン 0.6g
塩化カルシウム 1.0g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0153】
(処方例2:点眼剤(3%(w/v))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドン 0.0001~10g
塩化ナトリウム 0.01~1g
pH調節剤 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本組成物は、高い涙液量増加作用を有する。さらに、本組成物に含有されるカチオン性ポリマーがジクアホソルまたはその塩の代謝安定性効果を有する。よって、本組成物は、既存のジクアス(登録商標)点眼液を点眼投与した場合と比較して、より強いドライアイ治療効果が期待される。また、既存のジクアス(登録商標)点眼液は1日6回点眼する必要があり、点眼アドヒアランス不良により期待通りの効果が得られない患者も存在しているが、本組成物はドライアイに対して十分な治療効果を有しつつ点眼回数を低減し、点眼アドヒアランスの改善が期待される。さらには、既存のジクアス(登録商標)点眼液は3%(w/v)の濃度のジクアホソル四ナトリウム塩を含有するが、本組成物はより低濃度で同程度またはそれ以上のドライアイ治療効果を発揮することが期待される。また、ジクアホソルまたはその塩、およびカチオン性ポリマーの一種であるポリビニルピロリドンを含有する眼科用組成物が神経刺激性を示さなかったことから、点眼液の差し心地感を改善し得る。
図1