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特開2024-45535難燃性結束紡績糸とこれを含む難燃性織物及び難燃性防護衣類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045535
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】難燃性結束紡績糸とこれを含む難燃性織物及び難燃性防護衣類
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/04 20060101AFI20240326BHJP
   D02G 3/38 20060101ALI20240326BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240326BHJP
   D03D 15/41 20210101ALI20240326BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20240326BHJP
   D03D 15/513 20210101ALI20240326BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240326BHJP
   A41D 31/08 20190101ALN20240326BHJP
   A41D 13/00 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
D02G3/04
D02G3/38
D03D15/283
D03D15/41
D03D15/47
D03D15/513
A41D31/00 503F
A41D31/00 503M
A41D31/00 502B
A41D31/08
A41D13/00 102
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020271
(22)【出願日】2024-02-14
(62)【分割の表示】P 2020198827の分割
【原出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岡部 孝之
(72)【発明者】
【氏名】高田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】茂上 英明
(72)【発明者】
【氏名】安田 智則
(57)【要約】
【課題】抗ピル性が高い難燃性結束紡績糸とこれを含む難燃性織物及び難燃性防護衣類を提供する。
【解決手段】アラミド繊維を主成分とする難燃性結束紡績糸1であり、難燃性結束紡績糸1の内部繊維2は表層の巻き付き繊維3に比較して相対的に撚りが少ない状態で糸長方向に配列しており、難燃性結束紡績糸1には間欠的な結束点はなく、表層の巻き付き繊維3は一方向に撚りが掛けられた実撚り状で内部繊維2を束ねており、内部繊維2と表層繊維3はマイグレーションにより、繊維が表面から内部に入り組んでいる構造であり、アラミド繊維と帯電防止繊維と他の繊維を含み、他の繊維は、ポリエステル、ウール、レーヨン、コットン、ビニロン、アクリル、ポリエーテルイミド、これらの混紡品、及びこれらの難燃繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維を主成分とする難燃性結束紡績糸であって、
前記難燃性結束紡績糸の内部繊維は表層の巻き付き繊維に比較して相対的に撚りが少ない状態で糸長方向に配列しており、
表層の巻き付き繊維は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、
前記表層の巻き付き繊維は前記内部繊維を束ねており、
前記難燃性結束紡績糸単糸の糸長10mあたりの毛羽数が、長さ3mm以上が0.1個以上10個以下、長さ5mm以上が0~1個であることを特徴とする難燃性結束紡績糸。
【請求項2】
前記難燃性結束紡績糸は、アラミド繊維と帯電防止繊維を含む難燃性結束紡績糸であり、
前記アラミド繊維を100質量部としたとき、メタ系アラミド繊維は70~100質量部、パラ系アラミド繊維は0~30質量部、前記帯電防止繊維は0.1~1質量部の範囲である請求項1に記載の難燃性結束紡績糸。
【請求項3】
前記難燃性結束紡績糸はさらに他の繊維を含み、前記難燃性結束紡績糸を100質量部としたとき、他の繊維は5~50質量部の範囲である請求項1又は2に記載の難燃性結束紡績糸。
【請求項4】
前記他の繊維は、ポリエステル、ウール、レーヨン、コットン、ビニロン、アクリル、ポリエーテルイミド、これらの混紡品、及びこれらの難燃繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維である請求項1~3のいずれか1項に記載の難燃性結束紡績糸。
【請求項5】
前記難燃性結束紡績糸単糸のメートル番手は28~76番である請求項1~4のいずれか1項に記載の難燃性結束紡績糸。
【請求項6】
前記難燃性結束紡績糸は2本撚り合わされた双糸であり、前記双糸のメートル番手は14~38番である請求項1~5のいずれか1項に記載の難燃性結束紡績糸。
【請求項7】
前記双糸の撚り係数Kは100~200である請求項6に記載のいずれか1項に記載の難燃性結束紡績糸。
但し、係数Kは次に示す数式(1)によって計算する。
K=T/√C・・・式(1)
T:双糸の撚り数(回/m)
C:双糸番手(m/g)
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の難燃性結束紡績糸の双糸を経糸及び緯糸に使用した難燃性織物。
【請求項9】
前記難燃性織物は、JIS L1076.8.11(A法) に準拠した測定において、ピリング性が10Hrで4級以上である請求項8に記載の難燃性織物。
【請求項10】
請求項8又は9のいずれか1項に記載の難燃性織物を含む難燃性防護衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維を含む難燃性結束紡績糸とこれを含む難燃性織物及び難燃性防護衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
難燃性防護衣類は、消防、救急隊員、救命隊員、海上救護員、軍隊、石油関連施設の作業員、化学工場の作業員などの作業服として使用されている。従来から、これらの難燃性防護衣類にはアラミド繊維が使用されている。
特許文献1には、メタ系アラミド繊維(メタ型全芳香族ポリアミド繊維)95質量%とパラ系アラミド繊維(パラ型全芳香族ポリアミド繊維)5質量%からなる混紡繊維を、互いに逆方向に仮撚りを付与する2つの直列に配置された旋回流ジェット又は旋撚体で紡績した、間欠的に結束点を有する紡績糸が提案されている。
特許文献2には、経方向または緯方向において熱収縮率が大きい糸Aと熱収縮率が小さい糸Bとが、交互に配されている布帛であって、熱収縮率が大きい糸Aがメタ系アラミド繊維を50重量%以上含み、熱収縮率が小さい糸Bがパラ系アラミド繊維を50重量%以上含み、火炎または熱によって曝露された際に凹凸構造が発現する布帛が提案されている。前記糸A,Bはエアジェット紡績機を使用して製造することも提案されている(特許文献2[0043])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-40068号公報
【特許文献2】再表2017‐175632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1の布帛は、ピリング性が3.5級であり(表1)、抗ピル性が低いという問題があった。また、前記特許文献2の布帛は、パラ系アラミド繊維を多量に含む糸が、洗濯などで摩耗する問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、毛羽が少なく、抗ピル性が高い難燃性結束紡績糸とこれを含む難燃性織物及び難燃性防護衣類を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の難燃性結束紡績糸は、アラミド繊維を主成分とする難燃性結束紡績糸であって、前記難燃性結束紡績糸の内部繊維は表層の巻き付き繊維に比較して相対的に撚りが少ない状態で糸長方向に配列しており、表層の巻き付き繊維は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、前記表層の巻き付き繊維は前記内部繊維を束ねており、前記難燃性結束紡績糸単糸の糸長10mあたりの毛羽数が、長さ3mm以上が0.1個以上10個以下、長さ5mm以上が0~1個である。
【0007】
本発明の難燃性織物は、前記の難燃性結束紡績糸の双糸を経糸及び緯糸に使用したものである。
【0008】
本発明の難燃性防護衣類は、前記の難燃性織物を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、アラミド繊維を主成分とする難燃性結束紡績糸であって、前記難燃性結束紡績糸の内部繊維は表層の巻き付き繊維に比較して相対的に撚りが少ない状態で糸長方向に配列しており、表層の巻き付き繊維は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、前記表層の巻き付き繊維は前記内部繊維を束ねており、前記難燃性結束紡績糸単糸の糸長10mあたりの毛羽数が、長さ3mm以上が0.1個以上10個以下、長さ5mm以上が0~1個であることにより、毛羽が少なく、抗ピル性が高い難燃性結束紡績糸とこれを含む難燃性織物及び難燃性防護衣類を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施例の難燃性結束紡績糸単糸の模式的外観図である。
図2図2は同、単糸の外観写真(マイクロスコープ200倍)である。
図3図3は同、単糸の毛羽のある部分の外観写真(マイクロスコープ200倍)である。
図4図4は同、双糸の外観写真(マイクロスコープ200倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の難燃性結束紡績糸はアラミド繊維を主成分とする難燃性結束紡績糸である。アラミド繊維はメタ系アラミド繊維及びパラ系アラミド繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維である。好ましくはメタ系アラミド繊維を主成分繊維としパラ系アラミド繊維を副成分繊維とする。前記において主成分とは50質量%を超えることをいう。アラミド繊維を主成分とすることにより、耐熱性及び難燃性の高い紡績糸、織物及び防護衣類を提供できる。
【0012】
前記難燃性結束紡績糸の構造は、内部繊維は表層の巻き付き繊維に比較して相対的に撚りが少ない状態で糸長方向に配列しており、表層の巻き付き繊維は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、前記表層の巻き付き繊維は前記内部繊維を束ねている。一例として、内部繊維は無撚りか又は無撚りに近い状態で糸長方向に配列し、表層の巻き付き繊維は一方向に巻き付けられて前記内部繊維を束ねている。内部繊維と表層繊維はマイグレーションにより、繊維が表面から内部に入り組んでいる構造である。また、外観上は撚りが掛けられて巻き付けられた実撚り状の紡績糸である。この紡績糸は、特許第2806380号公報に記載されている紡績機によって製造でき、この紡績機は、村田機械社製、商品名"MURATA VORTEX SPINNER"として販売されている。前記特許文献1に記載の紡績機とは異なる。前記特許文献1に記載の紡績糸は結束点が間欠的にあるが、本発明の紡績糸は、間欠的に結束点はなく、実撚り状の紡績糸であり、糸構造も異なる。本発明の難燃性結束紡績糸は毛羽が少なく、織物は抗ピル性が良好である。これは前記した結束紡績糸の糸構造によることと、剛直なアラミド繊維を主成分とすることの相乗的効果によるものである。これにより、毛羽は少なく、摩耗を受けても繊維が脱落せず、強固な糸状態を保つ。前記において一方向とは、S撚りの巻き付け繊維又はZ撚りの巻き付け繊維ことをいい、撚り角が同一ということではない。S撚りの巻き付け繊維又はZ撚りの巻き付け繊維は、前記紡績機のスピナーの圧空旋回流の方向によって決まる。
【0013】
前記難燃性結束紡績糸単糸の糸長10mあたりの毛羽数が、長さ3mm以上が0.1個以上10個以下、長さ5mm以上が0~1個である。好ましくは、糸長10mあたりの毛羽数は、長さ1mm以上が50個以上250個以下、長さ3mm以上が0.5個以上10個以下、長さ5mm以上が0~0.5個である。毛羽が少ない理由は前記のとおりである。
【0014】
前記難燃性結束紡績糸は、アラミド繊維と帯電防止繊維を含む混紡紡績糸が好ましい。各繊維成分は次のとおりである。
(1)アラミド繊維を100質量部としたとき、メタ系アラミド繊維は70~100質量部が好ましく、より好ましくは75~97質量部、さらに好ましくは80~96質量部である。
(2)アラミド繊維を100質量部としたとき、パラ系アラミド繊維は0~30質量部が好ましく、より好ましくは3~25質量部であり、さらに好ましくは4~20質量部である。
(3)帯電防止繊維は0.1~1質量部であり、好ましくは0.2~0.8質量部である。
前記において、メタ系アラミド繊維を主成分とするのは難燃性を高くするためであり、パラ系アラミド繊維を少量加えるのは強度を高くするためである。帯電防止繊維を混紡するのは静電気による発火を防止するためである。
【0015】
本発明において主成分繊維として使用するメタ系アラミド繊維は、例えば米国Du pont社製、商品名"ノーメッスク"(日本の東レ・デュポン社製も同一商品名)、帝人社製、商品名"コーネックス"、 中国、煙台泰和社製、商品名"ニュースター"などがある。商品名"ノーメッスク"の引張強度は3.6cN/decitex、熱分解開始温度は約400℃、酸素指数(OI)は29~30である。
【0016】
パラ系アラミド繊維は、単独重合系として米国Du pont社製、商品名"ケブラー"(日本の東レ・デュポン社製も同一商品名)、帝人社製、商品名"トワロン"、 煙台泰和製商品名"タパラン"があり、共重合系として帝人社製、商品名"テクノーラ"がある。これらの繊維の引張強度は20.3~24.7cN/decitex、熱分解開始温度は約500℃、酸素指数(OI)値は25~29である。耐熱性及び難燃性は、通常の繊維に比較すると高い。
【0017】
前記難燃性結束紡績糸はさらに他の繊維を混紡してもよい。他の繊維を混紡する場合は、難燃性結束紡績糸を100質量部としたとき、他の繊維は5~50質量部が好ましい。前記他の繊維は、ポリエステル、ウール、レーヨン、コットン、ビニロン、アクリル、ポリエーテルイミド、これらの混紡品、及びこれらの難燃繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維であるのが好ましい。ここでいう他の繊維とは、非改質繊維、または市販のレギュラー繊維を含む。これらの繊維は、着心地の改良、染色のしやすさ、コストの低減など、様々な利点のために加える。
【0018】
前記難燃性繊維としては次のものがある。
(1)難燃性ポリエステル繊維
難燃性ポリエステル繊維としては、例えば帝人フロンティア社製、商品名"スーパーエクスター"、東レ社製、商品名"アンフラ"、 東洋紡社製、商品名"ハイム"、 ユニチカトレーディング社製、商品名"ホノガード"、 セーレン社製、商品名"モエニー"などがある。
(2)難燃ウール
難燃ウールとしては一般的なメリノ種などのウールを使用し、ザプロ加工と言われるチタンとジルコニウム塩により処理した難燃ウールがある。ウールは非改質ウールを使用しても良いし、スケールを除去して防縮加工しても良い。このような非改質ウール又は改質ウールを使用するのは、吸湿性を向上し、輻射熱を遮断し、高温で過酷な環境下における作業で発汗して濡れても着心地を良好に保て、人体保護のための耐熱性を発揮できるからである。酸素指数(OI)は27~33である。
(3)難燃レーヨン
難燃レーヨンとしては、例えばプロバン加工(オルブライト&ウイルソン社が開発したテトラキスヒドロキシメチルホスホニウム塩を用いたアンモニアキュアリング加工)、チバ・ガイギー社が開発したピロパテックスCP加工(N-メチロールジメチルホスノプロピオンアミド加工)、オーストリア国レンチング社の商品名“ビスコースFR”等がある。酸素指数(OI)は26である。
(4)難燃性コットン
プロバン加工(コットンにテトラキスヒドロキシメチルホスホニウム塩をアンモニアキュアリング法により付着させた加工)、ピロパテックスCP加工(N-メチロールジメチルホスノプロピオンアミド加工)等の難燃コットンを使用できる。酸素指数(OI)は26である。
(5)難燃性アクリル繊維
アクリロニトリルに難燃剤として塩化ビニル系モノマーを共重合したアクリル繊維を使用できる。カネカ社製、商品名“プロテックス”などがある。酸素指数(OI)は29~37である。
(6)その他
難燃性ビニロンとしては、クラレ社製、商品名"バイナール"がある。ポリエーテルイミド繊維としては、クラレ社製、商品名"PEI繊維クラキス"がある。混紡品としては、ユニチカトレーディング社製、商品名"プロテクサFR"(難燃性ビニロンと難燃性コットンとの混紡品)がある。
【0019】
本発明の難燃性結束紡績糸に混紡する帯電防止繊維としては、金属繊維、炭素繊維、金属粒子や炭素粒子を練りこんだ繊維などがある。帯電防止繊維は、紡績糸に対して0.1~1質量%の範囲加えることが好ましく、更に好ましくは0.3~0.7質量%の範囲である。帯電防止繊維糸は製織時に加えることもできる。例えばKBセーレン社製“ベルトロン”、クラレ社製“クラカーボ”、炭素繊維、金属繊維等を0.1~1質量%の範囲加えるのが好ましい。
【0020】
前記難燃性結束紡績糸(単糸)は、メートル番手で28~76番(28~76m/g,繊度:357~132decitex)の範囲が好ましい。この範囲であれば、作業性の良い防護服が得られる。
【0021】
本発明の織物は、前記難燃性結束紡績糸(単糸)を2本撚り合わせて双糸にし、これを織物にする。双糸を使う理由は、単糸の2倍以上の強度をもってして製織時の糸切れを防止する抱合力を付与するとともに、単糸の持つ太さムラを相殺させ、織物の目風をきれいにするためである。双糸は一例としてダブルツイスター等の撚り機を使用して製造する。ダブルツイスターはその名前の通り、スピンドル1回転で2回の撚りが得られるので生産性が良い。好ましくはリングツイスター、最も好ましくはアップツイスターを使用して撚り掛けする。
【0022】
前記双糸のメートル番手は、14~38番(14~38m/g,繊度:714~264decitex)の範囲が好ましい。
前記双糸の撚り係数Kは100~200が好ましく、より好ましくは110~190である。双糸の撚り係数Kは、次に示す数式によって計算する。
K=T/√C
但し、Tは双糸の撚り数(回/m)、Cは双糸番手(m/g)を表す。
前記範囲であると撚構造が安定し、糸包合性も高く、さらに目風がきれいでソフトな風合いの織物とすることができる。
【0023】
得られた双糸は、撚り止めし、経糸と緯糸に使用して織物とする。織物組織は、平織(plain weave)、斜文織(twill weave、綾織ともいう)、又は朱子織(satin weave)組織、その他の変化織組織等を使用できる。編物にする場合は、横編、丸編、経編のいずれでも適用できる。編組織はどのようなものであっても良い。編物内に空気を含ませる場合は、二重接結パイル布帛に編成する。織物組織の中でもとくに好ましいのは2/2綾組織である。この組織は耐平面摩擦が良好である。
【0024】
本発明の布帛の単位あたりの重量(目付)は100~340g/m2の範囲が好ましい。前記範囲であれば、さらに軽くて着心地の良い作業服とすることができる。さらに好ましくは140~300g/m2の範囲、とくに好ましくは180~260g/m2の範囲である。
【0025】
本発明の難燃性織物は、前記難燃性結束紡績糸を経糸及び緯糸にした織物である。前記難燃性織物は、JIS L1076.8.11(A法) に準拠した測定において、ピリング性が10Hrで4級以上であるのが好ましく、より好ましくは10Hr,20Hrでいずれも4級以上、さらに好ましくは10Hr,20Hr,30Hrでいずれも4級以上である。これにより、外観不良が起こらず、長期間使用できる難燃性防護衣類を提供できる。
【0026】
本発明の防護服は、消防服のほか、救急隊員、救命隊員、海上救護員、軍隊、石油関連施設の作業員、化学工場の作業員などの作業服として好適である。
【0027】
以下図面により説明する。図1図2のトレース図であり、本発明の一実施態様の難燃性結束紡績糸1の単糸の模式的外観図である。この難燃性結束紡績糸1は、内部繊維2が表層の巻き付き繊維3に比較して相対的に撚りが少ない状態で糸長方向に配列しており、表層の巻き付き繊維3は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、表層の巻き付き繊維3は内部繊維1を束ねている。全体として毛羽が極めて少ない糸である。
図2は本発明の一実施態様の単糸の外観写真(マイクロスコープ200倍)である。図3は同、単糸の毛羽のある部分の外観写真(マイクロスコープ200倍)である。図4は同、双糸の外観写真(マイクロスコープ200倍)である。
【実施例0028】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例、比較例における測定方法は次のとおりとした。
<紡績糸の毛羽数>
JIS L1095 9.22 B法に準じ、毛羽測定試験機(敷島紡績社製 F-インデックス テスター)を用いて10m間の1mm、3mm、5mmの毛羽を測定した。
<紡績糸のむら>
JIS L1095(2010) 9.20 A法に準じてウースタむら試験機でU%を測定した。
<ピリング性試験>
JIS L1076.8.11(A法)に準じ、10時間、20時間、30時間経過後のピリング性を測定した。評価は1級から5級まであり、高いほど高ピル性に優れる。4級と5級の中間は「4-5級」と表示する。
<その他の物性>
JIS又は業界規格にしたがって測定した。
【0029】
(実施例1)
1.使用繊維
(i)メタ系アラミド繊維
メタ系アラミド繊維(品名 煙台泰和製 ニュースター BL3 繊度1.7 decitex 繊維長51mmスクエアカット)を79.5質量%使用した。
(ii)パラ系アラミド繊維
煙台泰和製商品名"タパラン BK-2"(繊維長51mmスクエアカット、繊度1.7decitex)を5質量%使用した。
(iii)市販品レギュラーポリエステル繊維
帝人社製、商品名”テトロン”、(繊維長51mmスクエアカット、繊度3.3decitex)を15質量%使用した。
(iv)帯電防止繊維
KBセーレン社製商品名“ベルトロン”、単繊維繊度3.0decitex、繊維長:51mmスクエアカット、黒原着品を0.5質量%使用した。
前記4成分を混打綿工程で混紡した。
2.紡績糸
(1)結束紡績糸単糸の作製
村田機械社製、商品名”No.870,MURATA VORTEX SPINNER”を使用し、420m/分の速度で結束紡績糸単糸を製造した。得られた糸のメートル番手は60番であった。図2に、この難燃性結束紡績糸単糸の外観写真(マイクロスコープ200倍)を示す。
(2)双糸の作製
ダブルツイスターを使用して結束紡績糸単糸2本を実撚りし、双糸とした。撚り数は770回/m、撚り係数K=141とした。図3に、この難燃性結束紡績糸双糸の外観写真(マイクロスコープ200倍)を示す。
3.織物の作製
前記双糸を経糸と緯糸に使用し、レピア織機を使用して2/2綾組織の織物を作製した。
【0030】
(実施例2)
1.使用繊維
(i)メタ系アラミド繊維
メタ系アラミド繊維(品名 煙台泰和製 ニュースター BL3 繊度1.7 decitex 繊維長51mmスクエアカット)を59.5質量%使用した。
(ii)難燃レーヨン
レンチング社製 商品名"ビスコースFR"(繊維長51mmスクエアカット、繊度2.2 decitex)を25質量%使用した。
(iii)市販品レギュラーポリエステル繊維
帝人社製、商品名”テトロン”、(繊維長51mmスクエアカット、繊度3.3decitex)を15質量%使用した。
(iv)帯電防止繊維
KBセーレン社製商品名“ベルトロン”、単繊維繊度3.0decitex、繊維長:51mmスクエアカット、黒原着品を0.5質量%使用した。
前記4成分を混打綿工程で混紡した。
2.紡績糸
(1)結束紡績糸単糸の作製
村田機械社製、商品名”No.870,MURATA VORTEX SPINNER”を使用し、420m/分の速度で結束紡績糸単糸を製造した。得られた糸のメートル番手は60番であった。
(2)双糸の作製
ダブルツイスターを使用して結束紡績糸単糸2本を実撚りし、双糸とした。撚り数は770回/m、撚り係数K=141とした。
3.織物の作製
前記双糸を経糸と緯糸に使用し、レピア織機を使用して2/2綾組織の織物を作製した。
【0031】
(実施例3)
1.使用繊維
(i)メタ系アラミド繊維
メタ系アラミド繊維(品名 煙台泰和製 ニュースター RW 繊度1.7 decitex 繊維長51mmスクエアカット)を84.5質量%使用した。
(ii)パラ系アラミド繊維
煙台泰和製商品名"タパラン BK-2"(繊維長51mmスクエアカット、繊度1.7decitex)を15質量%使用した。
(iii)帯電防止繊維
KBセーレン社製商品名“ベルトロン”、単繊維繊度3.0decitex、繊維長:51mmスクエアカット、黒原着品を0.5質量%使用した。
前記4成分を混打綿工程で混紡した。
2.紡績糸
(1)結束紡績糸単糸の作製
村田機械社製、商品名”No.870,MURATA VORTEX SPINNER”を使用し、420m/分の速度で結束紡績糸単糸を製造した。得られた糸のメートル番手は48番であった。
(2)双糸の作製
ダブルツイスターを使用して結束紡績糸単糸2本を実撚りし、双糸とした。撚り数は690回/m、撚り係数K=141とした。
3.織物の作製
前記双糸を経糸と緯糸に使用し、レピア織機を使用して2/1綾組織の織物を作製した。
【0032】
(比較例1)
リング紡績機を使用して紡績糸とし、1mあたりの撚り数を640回/mとし、表1及び2に示す以外は実施例1と同様に実施した。
紡績糸の条件と結果は表1-3に示し、織物の条件と結果は表4‐6に示す。
【0033】
(比較例2)
リング紡績機を使用して紡績糸とし、1mあたりの撚り数を640回/mとし、表1及び2に示す以外は実施例2と同様に実施した。
紡績糸の条件と結果は表1に示し、織物の条件と結果は表2に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
表1-3から明らかなとおり、実施例1の結束紡績糸単糸はリング紡績糸単糸に比較して毛羽が少なかった。これは、本実施例の結束紡績糸の糸構造によることと、剛直なアラミド繊維を主成分とすることによるものと思われ、結束紡績糸を構成する繊維のマイグレーション(構成繊維が表面から内部に入り組んでいる構造)により、毛羽が減少していることが確認できた。
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
表4‐6から次のことがわかる。
(1)実施例1-3の結束紡績糸で構成される織物は、抗ピル性が良好である。これは前記したように結束紡績糸の糸構造と剛直なアラミド繊維を主成分とすることによるものとに由来すると思わる。すなわち、結束紡績糸を構成する繊維の実撚り状のマイグレーション(構成繊維が表面から内部に入り組んでいる構造)により、摩耗を受けても繊維が脱落せず、強固な糸状態を保つからである。
(2)実施例1の結束紡績糸で構成される織物は、燃焼性試験の炭化長が経及び緯とも比較例1に比べて優れている。これも強固な糸構造に起因すると思われる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の織物を使用した防護服は、消防服のほか、救急隊員、救命隊員、海上救護員、軍隊、石油関連施設の作業員、化学工場の作業員などの作業服として好適である。
【符号の説明】
【0043】
1 難燃性結束紡績糸
2 内部繊維
3 表層の巻き付き繊維
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-02-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維を主成分とする難燃性結束紡績糸であって、
前記難燃性結束紡績糸の内部繊維は表層の巻き付き繊維に比較して相対的に撚りが少ない状態で糸長方向に配列しており、
前記難燃性結束紡績糸には間欠的な結束点はなく、表層の巻き付き繊維は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、
前記表層の巻き付き繊維は前記内部繊維を束ねており、前記内部繊維と前記表層繊維はマイグレーションにより、繊維が表面から内部に入り組んでいる構造であり、
前記難燃性結束紡績糸は、アラミド繊維と帯電防止繊維と他の繊維を含み、前記他の繊維は、ポリエステル、ウール、レーヨン、コットン、ビニロン、アクリル、ポリエーテルイミド、これらの混紡品、及びこれらの難燃繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維であることを特徴とする難燃性結束紡績糸。
【請求項2】
前記難燃性結束紡績糸100質量部に対して、前記他の繊維は5~50質量部の範囲である請求項1又は2に記載の難燃性結束紡績糸。
【請求項3】
前記難燃性結束紡績糸単糸のメートル番手は28~76番である請求項1又は2に記載の難燃性結束紡績糸。
【請求項4】
前記難燃性結束紡績糸は2本撚り合わされた双糸であり、前記双糸のメートル番手は14~38番である請求項1~のいずれか1項に記載の難燃性結束紡績糸。
【請求項5】
前記双糸の撚り係数Kは100~200である請求項に記載のいずれか1項に記載の難燃性結束紡績糸。
但し、係数Kは次に示す数式(1)によって計算する。
K=T/√C・・・式(1)
T:双糸の撚り数(回/m)
C:双糸番手(m/g)
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の難燃性結束紡績糸の双糸を経糸及び緯糸に配置した難燃性織物。
【請求項7】
前記難燃性織物は、JIS L1076.8.11(A法) に準拠した測定において、ピリング性が10Hrで4級以上である請求項に記載の難燃性織物。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の難燃性織物を含む難燃性防護衣類。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明の難燃性結束紡績糸は、アラミド繊維を主成分とする難燃性結束紡績糸であって、
前記難燃性結束紡績糸の内部繊維は表層の巻き付き繊維に比較して相対的に撚りが少ない状態で糸長方向に配列しており、
前記難燃性結束紡績糸には間欠的な結束点はなく、表層の巻き付き繊維は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、
前記表層の巻き付き繊維は前記内部繊維を束ねており、前記内部繊維と前記表層繊維はマイグレーションにより、繊維が表面から内部に入り組んでいる構造であり、
前記難燃性結束紡績糸は、アラミド繊維と帯電防止繊維と他の繊維を含み、前記他の繊維は、ポリエステル、ウール、レーヨン、コットン、ビニロン、アクリル、ポリエーテルイミド、これらの混紡品、及びこれらの難燃繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維であることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
(実施例1)
1.使用繊維
(i)メタ系アラミド繊維
メタ系アラミド繊維(品名 煙台泰和製 ニュースター BL3 繊度1.7 decitex 繊維長51mmスクエアカット)を79.5質量%使用した。
(ii)パラ系アラミド繊維
煙台泰和製商品名"タパラン BK-2"(繊維長51mmスクエアカット、繊度1.7decitex)を5質量%使用した。
(iii)市販品レギュラーポリエステル繊維
帝人社製、商品名”テトロン”、(繊維長51mmスクエアカット、繊度3.3decitex)を15質量%使用した。
(iv)帯電防止繊維
KBセーレン社製商品名“ベルトロン”、単繊維繊度3.0decitex、繊維長:51mmスクエアカット、黒原着品を0.5質量%使用した。
前記4成分を混打綿工程で混紡した。
2.紡績糸
(1)結束紡績糸単糸の作製
村田機械社製、商品名”No.870,MURATA VORTEX SPINNER”を使用し、420m/分の速度で結束紡績糸単糸を製造した。得られた糸のメートル番手は60番であった。図2に、この難燃性結束紡績糸単糸の外観写真(マイクロスコープ200倍)を示す。
(2)双糸の作製
ダブルツイスターを使用して結束紡績糸単糸2本を実撚りし、双糸とした。撚り数は770回/m、撚り係数K=141とした。図4に、この難燃性結束紡績糸双糸の外観写真(マイクロスコープ200倍)を示す。
3.織物の作製
前記双糸を経糸と緯糸に使用し、レピア織機を使用して2/2綾組織の織物を作製した。